特許第6590951号(P6590951)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シーメンス アクチエンゲゼルシヤフトの特許一覧

特許6590951二酸化炭素の電気化学的有効利用のためのプロトン供与体ユニットを有する電解システム及び還元方法
<>
  • 特許6590951-二酸化炭素の電気化学的有効利用のためのプロトン供与体ユニットを有する電解システム及び還元方法 図000005
  • 特許6590951-二酸化炭素の電気化学的有効利用のためのプロトン供与体ユニットを有する電解システム及び還元方法 図000006
  • 特許6590951-二酸化炭素の電気化学的有効利用のためのプロトン供与体ユニットを有する電解システム及び還元方法 図000007
  • 特許6590951-二酸化炭素の電気化学的有効利用のためのプロトン供与体ユニットを有する電解システム及び還元方法 図000008
  • 特許6590951-二酸化炭素の電気化学的有効利用のためのプロトン供与体ユニットを有する電解システム及び還元方法 図000009
  • 特許6590951-二酸化炭素の電気化学的有効利用のためのプロトン供与体ユニットを有する電解システム及び還元方法 図000010
  • 特許6590951-二酸化炭素の電気化学的有効利用のためのプロトン供与体ユニットを有する電解システム及び還元方法 図000011
  • 特許6590951-二酸化炭素の電気化学的有効利用のためのプロトン供与体ユニットを有する電解システム及び還元方法 図000012
  • 特許6590951-二酸化炭素の電気化学的有効利用のためのプロトン供与体ユニットを有する電解システム及び還元方法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6590951
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】二酸化炭素の電気化学的有効利用のためのプロトン供与体ユニットを有する電解システム及び還元方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20060101AFI20191007BHJP
   C25B 1/00 20060101ALI20191007BHJP
   C25B 3/04 20060101ALI20191007BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20191007BHJP
   C25B 15/02 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   C25B9/00 Z
   C25B1/00 A
   C25B3/04
   C25B13/08 302
   C25B15/02 302
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-560988(P2017-560988)
(86)(22)【出願日】2016年5月19日
(65)【公表番号】特表2018-519418(P2018-519418A)
(43)【公表日】2018年7月19日
(86)【国際出願番号】EP2016061177
(87)【国際公開番号】WO2016188829
(87)【国際公開日】20161201
【審査請求日】2018年6月28日
(31)【優先権主張番号】102015209509.6
(32)【優先日】2015年5月22日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517291346
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】クラウゼ、ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ノイバウアー、セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】レラー、クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】シュミット、ギュンター
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルコヴァ、エレーナ
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−544957(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/011209(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101250711(CN,A)
【文献】 特開2014−227563(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/128148(WO,A1)
【文献】 特開平04−314881(JP,A)
【文献】 特開2001−192875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00−19/12
C01B 32/40
C07B 31/00−63/04
C07C 1/00−409/44
C25B 1/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極室(AR)内の陽極(A)及び陰極室(KR)内の陰極(K)並びに第1の膜(M)及び第2の膜(Mを備えた電解セル(6〜9)を含有し、前記陰極室(KR)が二酸化炭素(CO)のための第1の供給口を有し、供給された二酸化炭素(CO)が前記陰極(K)と接触するように構成されている二酸化炭素の有効利用のための電解システムであって、前記電解システムがプロトン供与体ユニットを含有し、前記陰極室(KR)がプロトン(H)のための第2の供給口を介して前記プロトン供与体ユニットに接続され、前記陰極室(KR)に供給されたプロトン(H)が前記陰極(K)と接触するように構成され
前記プロトン供与体ユニットが、プロトン貯留槽(PR)と、プロトン(H)のための陰極室(KR)への第2の供給口として機能するプロトン透過性膜(M)とを、含有し、
前記第1の膜(M)が前記陽極(A)と前記陰極(K)との間に配置され、前記第2の膜(M)が前記陰極(K)と前記プロトン貯留槽(PR)の間に配置され、少なくとも前記第2の膜(M)がプロトン透過性であることを特徴とする電解システム。
【請求項2】
前記プロトン貯留槽(PR)が酸貯留槽である請求項1に記載の電解システム。
【請求項3】
前記プロトン透過性膜(M)がスルホン化ポリテトラフルオロエチレンを含有する請求項又はに記載の電解システム。
【請求項4】
前記陰極室(KR)が陰極液/二酸化炭素混合物を含有し、前記陰極液が炭酸アニオン(CO2−)、炭酸水素アニオン(HCO)又は炭酸(HCO)を含有する請求項1〜のいずれか1項に記載の電解システム。
【請求項5】
前記陽極室(AR)が追加のプロトン貯留槽(PR)として機能する請求項1〜のいずれか1項に記載の電解システム。
【請求項6】
前記陰極室(KR)が、前記陰極(K)の長手方向に沿って延びており前記長手方向対して垂直方向の寸法が最大5mmである陰極液間隙(KS)として形成されている請求項1〜のいずれか1項に記載の電解システム。
【請求項7】
前記陰極室(KR)が前記陰極(K)と前記膜(M、M)とを分離する陰極間隙(KS)として形成され、前記陰極及び前記膜(M)が最大5mmの間隔で配置される請求項1〜のいずれか1項に記載の電解システム。
【請求項8】
前記陰極室(KR)が、前記陰極(K)の両側に配置され膜(M、M)によってそれぞれ境界付けられた2つの陰極液間隙(KS)を有し、前記陰極(K)及び膜(M、M)が、それぞれ、最大5mmの間隔で配置されている請求項1〜のいずれか1項に記載の電解システム。
【請求項9】
プロトン供与体ユニット及びその中に組み込まれたプロトン透過性陰極(KP)を含有するプロトン供与体陰極(PSK)を有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の電解システム。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電解システムによる二酸化炭素の有効利用のための還元方法であって、
陰極液/二酸化炭素混合物が陰極室(KR)に導入されて陰極(K)と接触させられ、前記陰極室(KR)内で追加のプロトン(H)が提供されることにより陰極液/二酸化炭素混合物の局所的なpH値の低下が行なわれる還元方法。
【請求項11】
前記陰極液/二酸化炭素混合物の局所的なpH値の低下が前記陰極液/二酸化炭素混合物から前記陰極(K)への液相/固相界面で行なわれ、前記追加的なプロトン(H)が前記プロトン透過性の膜(M)又は前記プロトン透過性の陰極(K)を介して前記陰極液/二酸化炭素混合物から前記陰極(K)への前記液相/固相界面に提供される請求項10に記載の還元方法。
【請求項12】
前記プロトン(H)がプロトン貯留槽(PR)から獲得される請求項10又は11に記載の還元方法。
【請求項13】
前記陰極液が炭酸アニオン(CO−)又は炭酸水素アニオン(HCO)を含有する請求項1012のいずれか1項に記載の還元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の電気化学的有効利用のための還元方法及び電解システムに関する。二酸化炭素は、電解セルに導入され陰極で還元される。
【背景技術】
【0002】
現在世界中のエネルギー需要の約80%は、化石燃料の燃焼によって賄われているが、その燃焼プロセスは、世界中で1年に約340億トンの二酸化炭素を環境へ排出する原因になっている。このような環境への放出により二酸化炭素の大部分が処理されているが、これは、例えば石炭発電所では、1日当たり5万トンに達している。二酸化炭素は、いわゆる温室効果ガスに属しており、その環境及び気候への悪影響が問題になっている。二酸化炭素は熱力学的に極めて低いレベルにあるので、再利用可能な生成物への還元は極めて困難であり、二酸化炭素の事実上の再利用は、現在まで、理論上又は学問上の問題であるに過ぎなかった。
【0003】
二酸化炭素の自然界での分解は、例えば光合成により行なわれる。この場合、二酸化炭素は、時間的に及び分子レベルで空間的に多くの部分工程に区分されるプロセスで、炭水化物に変換される。従って、このプロセスは、それほど簡単には工業的規模で適用することができない。自然の光合成プロセスの工業的光触媒作用による模倣は、現在まで十分には効率的には達成されていない。
【0004】
これに代わるものとして二酸化炭素の電気化学的還元がある。二酸化炭素の電気化学的還元の体系的な研究は、比較的最近の開発分野である。ここ数年になって初めて十分な量の二酸化炭素を還元することのできる電気化学的システムを開発する努力がなされている。実験室規模の研究では、金属を二酸化炭素の電解の触媒として有利に使用できることが示されている。非特許文献1によれば、種々の金属陰極におけるファラデー効率が得られている(表1参照)。二酸化炭素は、例えば、銀、金、亜鉛、パラジウム及びガリウム陰極では、ほぼ専ら一酸化炭素に還元されるのに対し、銅陰極では、大量の炭化水素が反応生成物として生じる。
【0005】
例えば銀陰極では、優勢的な一酸化炭素と少量の水素が生じるであろう。陽極及び陰極における可能な反応は、以下の反応式で示すことができる。
陰極:
2CO+4e+2HO→2CO+4OH
2CO+12e+8HO→C+12OH
CO+8e+6HO→CH+8OH
陽極:
2HO→O+4H+4e
或いは、塩化物含有電解質が存在するときは
2Cl→Cl+2e
【0006】
特に経済的関心があるのは、例えば一酸化炭素、メタン又はエテンの電気化学的生産である。この場合、問題となるのは二酸化炭素よりエネルギー的に高い生成物である。
【0007】
【表1】
【0008】
この表には、種々の金属電極における二酸化炭素還元で生じた生成物のファラデー効率[%]が示されている。示された値は、電解質としての0.1モル炭酸水素カリウム溶液、10mA/cm未満の電流密度に対するものである。
【0009】
二酸化炭素からエネルギー的により高い生成物への電気化学的物質変換に際しては、電流密度の増大、従って物質変換の増大、が重要である。従来知られている方法及び使用された電解システムでは、例えば電解質から電極への固液界面の直近における物質輸送限界のようなマクロキネティック効果を考慮しなければならないので、高い電流密度を保証するか又はこれを更に高めることは簡単ではない。二酸化炭素還元は、触媒的に活性な陰極表面で行なわれる。
【0010】
これまでは物質輸送限界の問題に対しては、ガス拡散電極の使用により対処してきたが、この方法は、プロセス強化効果を可能にし、現存の電気化学的方法を経済的で競争力のあるものにしてきた。これ以上に物質交換の増大を図ることは、これまで不可能であった。
【0011】
二酸化炭素の電気化学的還元に好適な電解セルは、典型的には、陽極室及び陰極室から成る。図2図4には、セル配置の例を概略図で示している。ガス拡散電極の構造は、例えば図3に示されている。電解セルのこの実施例では、二酸化炭素は、多孔性の陰極を通して直接的に陰極表面から陰極室にもたらされる。
【0012】
二酸化炭素還元の従来の方法は、単に、反応室における物理的に溶解した又はガス状の二酸化炭素の変換を考慮するのみである。二酸化炭素還元の既知の解決策で、電解システムにおける化学的に結合された二酸化炭素量を考慮したものはない。電解システムに存在する二酸化炭素の全物質量は、化学的成分及び物理的成分から構成されている。二酸化炭素が化学的に結合されているか又は物理的に電解質中に溶解しているかどうかは、例えばpH値、温度、電解質濃度又は二酸化炭素の分圧などの種々の要因に依存している。両二酸化炭素成分は、平衡関係にある。炭酸塩又は炭酸水素塩の水溶液における二酸化炭素系では、この平衡関係は、以下の化学式により示される。
【化1】
(式1)
炭酸(HCO)又は炭酸塩(CO2−)として、例えば苛性カリ洗浄液の系に生じるような炭酸カリウム又は炭酸水素カリウムとして、二酸化炭素は化学的に結合されて存在する。二酸化炭素は、しかし、ガス状で又は物理的に溶解した状態でも存在し得る。物理的な溶解プロセスも、ヘンリーの法則の仮定のもとに、同様に温度、濃度及び圧力に依存する溶液の平衡が成立するまで進行する。
χ・Hij=P (式2)
この式において、χは物質量であり0.01より小さい。Pは、圧力を表わし、2バールより小さい。Hijは、ヘンリー定数である。
【0013】
例えば非特許文献2に示されているように、専ら物理的に溶解した二酸化炭素は電気化学的変換に適している。この物理的に溶解した二酸化炭素を、ヘンリーの法則により、例えば二酸化炭素分圧Pを高めることによって増加させようとすると、大半が式1の化学平衡反応に従って反応して炭酸塩又は炭酸水素塩を生じ、溶液中の実際の二酸化炭素濃度が再び減少する結果を生じるおそれがある。
【0014】
溶解二酸化炭素量の増大にも拘わらず、まさに電極表面では、物質変換が増大するにつれて陰極室から陰極界面への物質輸送による制限が生じる。このような場合、反応表面では、二酸化炭素還元の競合プロセスとして、望ましくない水素の生産が増大する恐れがある。陰極表面における水素の形成は、必然的に生産効率の極めて不利な減少に繋がる。
【0015】
図1には、濃度パラメータとpH値パラメータとの関係を明瞭にするために、二酸化炭素の0.05モル溶液のヘグダイアグラム(Hagg−Diagramm)の一例を示す。中庸のpH値範囲では、二酸化炭素及びその塩が並んでいる。二酸化炭素(CO)は、強塩基性範囲では主として炭酸塩(CO3−)として、中庸のpH値範囲では主として炭酸水素塩(HCO3−)として存在するのに対して、酸性環境における低いpH値範囲では、炭酸水素イオンは二酸化炭素の形で溶液から駆逐される。ヘグダイアグラム並びに式1及び2によれば、二酸化炭素濃度は、炭酸水素塩含有電解質中では、0.1モル/Lから1モル/L以上、更に対応する塩の溶解限度までの範囲の高い炭酸水素塩濃度にも拘わらず、極めて僅かである。
【0016】
即ち、このダイアグラムから再度明らかなことは、pH値及び濃度に応じて大量の二酸化炭素成分が化学的に結合しているので、電気化学的有効利用には向かないことである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】”Electrochemical CO2 reduction on metal electrodes”Y.Hori,C.Vayenas,ら(Eds.),Modern Aspects of Electrochemistry,Springer,New York,2008,p.89−189
【非特許文献2】”CO2−reduction,catalyzed by metal electrodes”Y.Hori,Handbook of Fuel Cells−Fundamentals,Technology and Applications,W.Vielstichら(Eds.),John Wiley&Sons,Ltd.,2010,p.2,Fig.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、従来技術の欠点を回避する二酸化炭素の電気化学的有効利用のための改良された解決方法を提案することが技術的に必要である。特に提案すべき解決方法は、特に二酸化炭素の効果的な変換を可能にする必要がある。本発明の課題は、二酸化炭素有効利用のための改良された還元方法及び電解システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の根元にあるこれらの課題は,請求項1による電解システム並びに請求項12による還元方法により解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項の対象である。
【0020】
二酸化炭素有効利用のための本発明による電解システムは、陽極室内の陽極、陰極室内の陰極及び少なくとも1つの膜を備えた電解セルを有し、陰極室は、二酸化炭素用の第1の供給口を有し、供給された二酸化炭素を陰極と接触させるように構成されている。この場合、膜とは、機械的に分離する層、例えばダイアフラム、を意味し、陽極室に生じる電解生成物及び陰極室内に生じる電解生成物を互いに分離する。これはセパレータ膜又は分離層と称することもできる。電解生成物はガス状物質でもあり得るので、有利には10ミリバール以上の高いバブルポイントを有する膜が使用される。いわゆるバブルポイントとは、使用される膜を定義するパラメータであって、ガス流がそれを通して入る膜の2つの側面間の圧力差ΔPを示す。
【0021】
二酸化炭素は、化学的に結合した形で、例えば電解質における炭酸塩又は炭酸水素塩として、二酸化炭素用の第1の供給口を介して陰極室に導入されるが、また、電解質から分離した炭酸ガス又は電解質に物理的に溶解した二酸化炭素も、第1の供給口を介して陰極室に導入される。特に問題となるのは、電解質及び反応物の導入である。二酸化炭素がガス状で又は溶解して陰極室に入る場合でも、その一部は、上述の平衡反応に従って、特に塩基性のpH値では、電解質中に含まれる物質と化学的に結合する。
【0022】
電解システムは、更に、プロトン供与体ユニットを有し、陰極室は、プロトン用の第2の供給口を介してプロトン供与体ユニットと接続される。プロトン用の第2の供給口は、プロトンが陰極室において陰極表面と接触させられるように構成されている。この場合、プロトン供与体ユニットは、遊離したプロトン、即ち、水素カチオン、が実際に供給されることにより定義づけられる。水素(H)又は他の水素化合物は、本発明によるプロトン供与体ユニットの意味でのプロトンではない。
【0023】
プロトン供与体ユニットにより、電解システム内に局所的なpH値の低下が生じ、これにより、陰極の反応界面における物理的に溶解した二酸化炭素の形成が促進され、物質変換が著しく高められる。
【0024】
典型的には、電解システムには、プロトン貯留槽及びプロトン透過性膜を有するプロトン供与体ユニットが設けられる。この場合、プロトン透過性膜は、陰極室へのプロトンの第2の供給口として機能する。プロトン貯留槽がプロトンの連続的な補給の利点を供するのに対し、プロトン透過性膜は、陰極室への純粋なイオン供給又はプロトン供給を保証し、同時に、ほかの分子、液体又はガスを抑留するのに役立つ。プロトン透過性膜は、好適には、スルホン化ポリテトラフルオロエチレンを含有する。或いは、カチオン交換膜をプロトン透過性膜として使用することもできる。
【0025】
本発明の一実施形態では、電解システムは、プロトン貯留槽として、特にブレンステッド酸を含む酸貯留槽を有する。ブレンステッド酸は、例えば硫酸、燐酸、硝酸、塩酸又は種々の有機酸、例えば酢酸若しくは蟻酸、である。ブレンステッドによる酸の定義は、酸を、いわゆるプロトンドナーとして、即ちプロトン、即ち正に荷電された水素イオン、を放出できる粒子として、規定する。pKa値の定義、即ち式1、によれば、pKa値が炭酸塩、炭酸水素塩又は炭酸の水溶液のpKa値よりも相応して小さいブレンステッド酸を使用するのが有利である。小さいとは、この場合、酸がより強いことを意味する。
【0026】
酸貯留槽の一つの利点は、これにより付加的な外部エネルギー入力を必要としない比較的連続的なプロトン源が作られることにある。
【0027】
本発明の別の実施形態では、電解システムは、スルホン化ポリテトラフルオロエチレンを含有する第2のプロトン透過性膜を有する。有利には、プロトン透過性膜としてはナフィオン(Nafion)(商品名)製の膜が使用される。この膜は、例えば多層に又は多孔状に、形成される。第1の膜としては、即ちセパレータ膜としては、他のプロトン供与体ユニットと同様に、プロトン透過性膜を使用することができる。
【0028】
典型的には、電解システムの陰極室は、陰極液/二酸化炭素混合物を含有し、陰極液は、炭酸アニオン及び/又は炭酸水素アニオンを含有する。更に、電解システムの陰極室の陰極液は、特にアルカリ金属イオン及び/又はアンモニウムイオン(NH)を含有する。アルカリ金属としては、周期表の第1主族からの化学元素であるリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウムが挙げられる。炭酸塩及び/又は炭酸水素塩を含有する電解質は、化学的に結合された二酸化炭素を含有するという利点を持つ。その代わりに又はそれに加えて、二酸化炭素は、溶解された形態又はガス状で陰極室に導入される。陰極室内の陰極液のpH値は、4〜14の値が有利である。
【0029】
本発明の別の有利な実施形態では、電解システムは、プロトン貯留槽として機能する陽極室を含む。この場合、例えば単一のプロトン透過性膜が同時に陰極室と陽極室との分離機能及び陰極室へのプロトン供給機能を果たす電解システムを使用することができる。或いは、プロトン貯留槽として機能する陽極室は、膜及び多孔形状の陽極を介して陰極室に接続される。別の代替例は、2つの、例えば結合された、プロトン貯留槽を備えた以下の実施形態から生じる。この場合、プロトン貯留槽の結合は、必ずしも必要ではない。何故なら、陽極では同様にプロトンも生じるからであり、これは電解質濃度に掛かっている。二酸化炭素の放出には、濃度が相応して高くなければならない。
【0030】
本発明の有利な実施形態では、電解システムは第1及び第2の膜を有し、第1の膜は陽極と陰極との間にセパレータ膜として配置され、第2の膜は陰極とプロトン貯留槽との間に配置され、少なくとも第2の膜はプロトン透過性である。このような電解システムの配置は、プロトン透過性膜を介したプロトン貯留槽と陰極との接続によりプロトンを直接的に陰極の反応表面に供給することが保証されるので、有利である。このため、陰極は、有利には、多孔性に形成され、プロトン貯留槽に隣接するプロトン透過性膜と、直接、面状に接触する。この構成では、例えば、陽極液、陰極液及びプロトン源、例えば酸又は酸混合物、が互いに別々に選択され、好適に適合させることができる。
【0031】
本発明の別の有利な実施形態では、電解システムの陰極室は、陰極液間隙として形成され、陰極に沿って延び、その幅、即ち陰極面の広がりに垂直なその大きさ、が最大で5mmを超えないようにされる。従って、陰極液間隙とは、陰極と膜との間に薄く面状に広がる中空室のことを指す。膜は、この場合、陰極液と、例えばプロトン貯留槽との又は陽極室若しくは陽極との、間隙を制限する。間隙幅が5mmより大きい場合には、陰極室における上述のpH値の勾配が再び無視できない役割を果たすことになる。
【0032】
有利には、電解システムにおける陰極室は、陰極とプロトン透過性膜とを又は陰極と第1の膜とを分離する陰極液間隙として形成され、これらは互いから最大5mmの間隔で配置される。
【0033】
上述の電解システムを発展させた実施形態では、陰極室に2つの陰極液間隙を設けることもでき、これらは陰極の両側に配置され、それぞれ膜により区画され、陰極及び膜は、それぞれ互いに最大5mmの間隔で配置される。これにより陰極の両側で電解生成物を生産することができる。この実施形態の利点は、固体陰極、即ち例えば陰極シート、を使用することができ、従って、陰極を多孔性にしなくてもよいことである。このような固体陰極は、ナノ構造化した表面を有すると好適である。固体陰極を有する実施形態では、両膜がプロトン透過性とされ、相応してプロトンの通過が保証される。
【0034】
従って、本発明の特に好適な実施形態は、プロトン伝導性の膜と陰極との間又は、プロトン供与体陰極を組み込んだ場合には、セパレータ膜と陰極との間の間隔が小さいことを特徴としている。この間隔は、典型的には、0〜5mm、有利には0.1〜2mm、である。0mmの間隔は、高分子電解質膜(ハーフ)セルに相当するであろう。
【0035】
本発明の代替的な実施形態では、電解システムは、プロトン供与体ユニットとその中に組み込まれたプロトン透過性陰極とを含有するプロトン供与体陰極を含有する。この場合、陰極は多孔性に、即ち例えば穿孔シート電極、ふるい電極、格子電極、網電極又は布地電極の形状に、又は、圧縮したナノ〜ミクロン粒子からなり場合によっては付加的な膜層を有するガス拡散電極のように、形成される。この場合、プロトン透過性陰極は、有利には直接的に、プロトン透過性膜に接続され、例えばこれに貼り付けるか又は貼り付けられ、従って、プロトンに対する陰極室への第2の供給口の一部を形成する。この実施形態では、プロトンは、プロトン貯留槽から全陰極面を通って陰極室に、即ち陰極表面と陰極液との間の相界面である陰極室の箇所に、入り、そこで陰極液から二酸化炭素を放出する。その機能及び配置により、この実施形態はプロトン供与体陰極と呼ばれる。
【0036】
一方では、プロトン供与体ユニットのプロトン供与膜は、陰極の直近に配置することができ、他方では、陰極は、プロトン供与膜を備えたプロトン供与体ユニットに組み込むことができる。
【0037】
上述の実施形態のいずれかによる電解システムによる二酸化炭素の有効利用のための本発明による還元方法では、陰極液/二酸化炭素混合物が陰極室にもたらされ、陰極と接触させられ、陰極室では、追加的なプロトンが用意されることにより、陰極液/二酸化炭素混合物の局所的なpH値の低下が生じるようにされる。この追加的なプロトンは、物理的に溶解されているかガス状であり、しかしもはや化学的に結合されていない還元可能な二酸化炭素の生産に役立つが、この二酸化炭素の生産又は放出は、直接的に陰極反応界面で行なわれる。二酸化炭素のこの局所的な濃度上昇により、その変換が著しく高められる。
【0038】
本発明の還元方法の有利な実施形態では、追加的なプロトンが、プロトン透過性膜又はプロトン透過性陰極を介して、陰極液/二酸化炭素混合物から陰極までの液体/固体相界面に提供されることにより、陰極液/二酸化炭素混合物から陰極までの液体/固体相界面における陰極液/二酸化炭素混合物の局所的なpH値の低下が生じる。これにより、電解質中に存在する炭酸水素アニオン又は炭酸アニオンから層界面領域におけるその場での(インサイチュ)二酸化炭素の生産が行なわれる。
【0039】
本発明の還元方法の別の有利な実施形態では、プロトンは、プロトン貯留槽、特に酸貯留槽、から得られ、この貯留槽は、特にブレンステッド酸、例えば硫酸、燐酸、硝酸、塩酸又は酢酸や蟻酸などの有機酸を含有する。
【0040】
還元方法の別の有利な変形例では、陰極液は、炭酸アニオン及び/又は炭酸水素アニオン及び/又は炭酸を含有する。更に、陰極液は、有利にはアルカリ金属イオン及び/又はアンモニウムイオンを含有する。これに代えて又は追加して、陰極液は、硫酸イオン及び/又は硫酸水素イオン、燐酸イオン、燐酸水素イオン及び/又は燐酸二水素イオンを有する。
【0041】
好適には陰極液のpH値は4〜14の間の範囲にある。
【0042】
導電性の多孔性触媒陰極がプロトン供与体ユニットに組み込まれ、プロトンがプロトン導電性膜を介してそして直後に陰極自体を通して陰極室に導かれる実施例では、プロトン伝導性膜は、例えば酸により、逆洗することができる。この場合、酸の強さは、好適には、陰極において所定の電流密度で還元できる限り大量の二酸化炭素が陰極液から駆逐されるように、調整される。これは、これによって生成された生産物又は生産物混合物の二酸化炭素量が極めて低いことが保証されるという特別な利点を有する。
【0043】
陰極自体は、大きな表面を有すると有利である。高分子電解質膜(PEM)構造の場合には、陰極自体は多孔性に形成されるが、これは、同様に反応表面の拡大又は最大化を意味する。好適には、陰極としてRVC電極(Reticulated Vitreous Carbon Electrode)(網状化ガラス質電極)が使用される。これは、電解質自体に対しても透過性でありガス拡散電極とは異なり疎水性成分を持たないという利点を有する。これは、いわば図4に示すような電解セルを使用する本発明の有利な実施形態の一例となるであろう。別の有利な実施形態では、陰極として銀ガス拡散電極が使用される。この場合重要なことは、これが炭素含有量ゼロでも形成できることである。使用される銀ガス拡散電極は、例えば銀(Ag)、酸化銀(AgO)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE、例えば商品名テフロン(登録商標))を含有する。
【0044】
従って上述の本発明は、炭酸塩及び炭酸水素塩中に化学的に結合されている二酸化炭素成分を、二酸化炭素の電気化学的還元の所望の出発成分である物理的に溶解した二酸化炭素又は炭酸ガスに変換することを可能にする。これにより、100mA/cmを遥かに超える電流密度での高い二酸化炭素変換率を可能にし、陰極として別個のガス供給を伴う電極を必要としない方法及びシステムが得られる。従来使用されたガス拡散電極は、本発明による実施形態では、付加的な要素として導入可能であろう。プロトン供与体ユニットのプロトン伝導性膜と陰極液との間の相界面層又は陰極表面と陰極液との間の相界面層は、それ自体が二酸化炭素源として作用する。この相界面層では、局所的なpH値の変化は、移動するプロトンによって生じる。平衡反応式1は、微細に分割された二酸化炭素の気泡が酸性媒体における炭酸塩の分解により生じるように、影響を受ける。実施形態によっては、局所的に酸性のpH値は、プロトン伝導性膜のブレンステッド酸表面によって又は陰極表面に存在する酸性スルホン酸基によって規定される。スルホン酸基は膜のスルホン化ポリテトラフルオロエチレンに由来する。これは例えばナフィオン(商品名)を含有し、これは直接結合されたスルホン酸基を追加的に有するテフロン(商品名)である。水中では、このポリマーは、膨張して一種の「固体」硫酸になる。次いで、カチオン伝導が、スルホン酸基からスルホン酸基へ、一種のホッピング輸送により、行なわれる。プロトンは、ナフィオン(商品名)を通して特に良好に導かれ、トンネル又はホッピングする。2価のカチオンはむしろ固く留まり、もはや輸送されない。それ故、高分子イオン交換器とも呼ばれる。
【0045】
スルホン化ポリテトラフルオロエチレンの構造式の例は以下のとおりである。
【0046】
【化2】
【0047】
ガス状二酸化炭素の形成の原因は、通過するヒドロニウムイオンが、存在する炭酸イオン又は炭酸水素イオンによって、中性化されることに帰せられる。強酸性の電解質、例えば強酸性の陽極液、はこの効果を更に強めることができる。陽極室がプロトン貯留槽として機能する例では、陽極側から膜へのプロトン圧力が高められ、陰極室における濃度勾配を強める。この例の場合には、陽極液は、上述のように、ブレンステッド酸、例えば硫酸、燐酸又は硝酸、を含むことができる。
【0048】
陰極液では、好適には、アルカリ金属イオン若しくはアンモニウムイオン又は炭酸水素塩若しくは炭酸塩が使用される。二酸化炭素還元の過程では、陰極液の出発組成は、特にその炭酸水素塩濃度又は炭酸塩濃度は、二酸化炭素の導入又は溶解により回復することができる。このような過程は、例えば上述のように、ガス拡散電極の追加的な使用により実現可能である。
【0049】
プロトン供与陰極は、電解質中に存在する炭酸水素イオン及び炭酸イオンを二酸化炭素に変換することを可能にする二酸化炭素還元装置において提案されてきた。この方法により、ガス状の二酸化炭素の溶解性の制限は反応中心の直近では回避することができる。中性の二酸化炭素のみが電気化学的に還元可能であり、その化学的平衡種である炭酸塩及び炭酸水素塩は、そうではないので、これは物質変換の向上及び高い電流密度の達成のための極めて有利な根拠となる。それに加えて、これまで、例えば二酸化炭素の飽和の上昇のために行なわれてきた設備の加圧を回避し又は追加的に補助することが可能である。
【0050】
二酸化炭素の電気化学的還元のために提案されてきたプロセス強化方法は、単位電極面積当たりの又は単位電流密度当たりの物質変換を改良する。同時に、二酸化炭素の物理的溶解度にマイナス効果を及ぼす電解質、特に陰極液、における望ましくない高炭酸塩濃度及び高炭酸水素塩濃度が避けられる。技術的に確立されているガス拡散電極の原理は、上述の方法によって置換することができる。しかし、ガス拡散電極は、この新しい原理の付加装置(アドオン)として、例えば電解質循環回路において二酸化炭素を補給するために、更に使用することができる。特に好適なのは、外部の二酸化炭素飽和状態を有する電解セルに応用する方法である。
【0051】
上述の方法の特に好適な応用は、二酸化炭素の苛性カリ洗浄で生じる塩基性の炭酸水素カリウム溶液の処理において、吸着剤をその場で(インサイチュ)電気化学的に再生する処理にある。従来の熱的再生に比較して、この方法は、莫大なエネルギー節約ポテンシャルを供する。
【0052】
本発明の例及び実施形態を、更に添付図面の図1〜9を参照して、具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1図1は、0.05モル二酸化炭素溶液についてのヘグダイアグラムを示す。
図2図2は、電解セルの二室構造の概略図を示す。
図3図3は、電解セルの三室構造の概略図を示す。
図4図4は、電解セルのPEM構造の概略図を示す。
図5図5は、二室構造の電解セル及び陰極方向への特徴的なpH値上昇を示す。
図6図6は、付加的な酸貯留槽と多孔性の陰極とを有するセル配置の概略図を示す。
図7図7は、付加的な酸貯留槽と2つの陰極液空隙とを有するセル配置を示す。
図8図8は、付加的な酸貯留槽と多孔性の陰極とを有するセル配置の別の例の概略図を示す。
図9図9は、付加的な酸貯留槽と電解質間隙とを有するセル配置の別の実施形態の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1に示したヘグダイアグラムは、水中の二酸化炭素0.05モル溶液についての値を含んでいる。濃度C(単位:モル/L)が、pH値に対してプロットされている。プロトン濃度(H)が、pH値>0の1から始まって、pH値10の10−10モル/Lの値に低下しているのに対し、OHイオン濃度は、pH値に従って上昇している。酸性環境では、即ち約4のpH値までは、なおもほぼpH値とは無関係に0.05モル/Lの二酸化炭素(CO)濃度が存在するが、この濃度は、8〜9のpH値範囲にその最高濃度を有する炭酸水素イオン(HCO)の上昇により、pH値5から、著しく低下する。12を超える極めて高いpH値の塩基性環境では、二酸化炭素は、溶液中に主として炭酸イオン(CO2−)の形で存在する。
【0055】
図2〜4に概略表示した電解セル2、3、4の一般的な構造は、陽極室AR内の少なくとも1つの陽極A及び陰極室KR内の陰極Kを含有している。いずれの場合も、陽極室AR及び陰極室KRは、少なくとも1つの膜Mにより分離されている。この膜Mは、とりわけガス状生成物G1と生成物P1との分離に用いられるか又はそれらの混合を防いでいる。この場合、膜Mの大きさを規定するパラメータは、いわゆるバブルポイントである。これは、膜Mの2つの側面間の圧力差ΔPがいくらになれば膜Mを通るガス流が生じるかを示すものである。即ち、好適には、10ミリバール以上の高いバブルポイントを有する膜Mが使用される。この場合、膜Mは、イオン伝導性の膜、例えばアニオン伝導性の膜又はカチオン伝導性の膜、とすることができる。膜は、多孔性層又はダイアフラムとすることができる。結論として、膜Mとは、電解質を陽極室ARと陰極室KRとに分離するイオン伝導性の空間的セパレータとも云える。使用される電解液Eによっては、膜Mのない構造も考えられる。陽極A及び陰極Kは、それぞれ電圧供給源と導電接続されている。図示の各電解セル2、3、4の陽極室ARは、それぞれ電解質入口21、31、41を備えている。同様に、図示の各陽極室ARは、電解質出口23、33、43を有しており、これらを介して電解質E及び陽極Aに形成された電解質生成物G1、例えば酸素ガスO、が陽極室ARから流出できる。各陰極室KRは、それぞれ少なくとも1つの電解質及び生成物出口24、34、44を有している。この場合、全電解質生成物P1は、多数の電解質生成物からなっていてよい。
【0056】
二室構造2では陽極Aと陰極Kとが陽極室ARと陰極室KRとを介して膜Mにより分離されて配置されているのに対し、多孔性電極を有するいわゆる高分子電解質膜構造(PEM)4におけるこれらの電極は、直接膜Mに接している。図4に示すように、これらは多孔性陽極A及び多孔性陰極Kである。二室構造2及びPEM構造4では、電解質及び二酸化炭素COは、有利には共通の反応物入口22、42を介して陰極室KRにもたらされる。
【0057】
これとは異なり、図3に示すように、陰極室KRが電解質入口32を有するいわゆる三室構造3では、二酸化炭素COは、この入口とは別に陰極Kを介して陰極室KRに流入する。この場合、陰極室Kは、必然的に多孔性である。多孔性の陰極Kは、ガス拡散電極GDEとして形成されると有利である。ガス拡散電極GDEは、液状成分、例えば電解質、及びガス状成分、例えば電解質遊離体、が電極、例えば陰極K、の多孔システムにおいて互いに接触させられ得ることを、特徴としている。この場合、電極の多孔システムは、液相及び気相が多孔システムに侵入しそこで同時に存在できるように構成される。典型的には、このために、反応触媒が多孔質に形成されて電極機能を引き受けるか又は多孔性電極が触媒作用をする成分を有するようにされる。二酸化炭素COを陰極液循環系にもたらすために、ガス拡散電極GDEは二酸化炭素入口320を有している。
【0058】
本発明は、例えば図2及び図3に示すような従来公知の電解セル構造の一つにおいて、この構造が相応するプロトン供与ユニットを有するようにすることもできるであろう。図4に示す構造は、本発明の実施のため、より具体的な修正、例えば膜/電解質接触を達成するために、陰極を通る電解質のための搬送チャネルを必要とするであろう。好適にはこの搬送チャネルにおいて、二酸化炭素の生成又は放出が行なわれるであろう。同様に、陽極側には、プロトンを供与するために、膜への陽極液の搬送チャネルが必要となろう。このような搬送チャネルを有する多孔質電極を備えた高分子電解質構造により、極めて有利なトラップが実現でき、その中でほぼ正確に多くの二酸化炭素が作られ、陰極で還元される。これにより、従来技術で記述されたガス拡散電極とは異なり、特に濃縮された生成物が得られることになる。従来技術から公知の電解セルは、本発明に使用するために、混合形の変種になるように修正することができる。例えば陽極室は、高分子電解質膜ハーフセルとして形成されるのに対し、陰極室は、図2及び図3に示すように、膜と陰極との間に陰極室を有するハーフセルから構成される。
【0059】
図5は、陽極Aと膜Mとの間の陽極室AR及び膜Mと陰極Kとの間の陰極室KRを有する電解セル5を、概略的に示す。陽極A及び陰極Kは、電圧供給源を介して互いに接続されている。陽極室ARから膜Mを通って陰極室KRに至る矢印により、この膜が或る種の電荷担体に対して、有利には少なくともカチオンX(このものは、使用される陽極液によって種々の金属カチオンXであり得る。)及びプロトンHに対し、イオン伝導性であることが示されている。陰極室KRは、幅dMK、即ち膜Mと陰極Kとの間の間隔を有する。膜M及び陰極Kは、電解セル5において陰極室KRに向いた表面が互いに面平行になるように配置されている。勾配三角形により、陰極室KRにおけるpH値の勾配が示されている。pH値は、膜M近くの局所的に酸性の環境から陰極表面近くの局所的に塩基性の環境に上昇する。局所的に酸性の範囲は、Iで示され、破線によりMに平行に示されており、同様に、II及び陰極Kの前の破線により、陰極室KR内の局所的に塩基性の範囲が示されている。陽極室ARは、陰極室KRが塩基性になるのと同程度に、酸性になる。
【0060】
平衡反応式1への新たな観点により、pH値の勾配は、以下のように解釈される。即ち、膜Mの異なる側に存在し及び生成するアニオン及びカチオンは、電解質E内で及び膜Mを通して移動可能である。陽極Aで生じる電子により、例えば水性電解質Eにおいて、水は、Hイオン及び酸素ガスOに変換される。例えば二酸化炭素COが陽極液及び/又は陰極液において化学的に結合されて炭酸水素イオンHCOとなると、これはプロトンHと更に反応して二酸化炭素ガスCO及び水HOを生じ得る。陰極液は、好適にはアルカリ金属イオン及び/又はアンモニウムイオン又はその炭酸水素イオン又は炭酸イオンを含有する。炭酸水素イオンHCOから二酸化炭素COへの反応は、炭酸水素イオンHCOの酸分解と云われる。塩基性環境、即ちpH値が6〜9の間、では炭酸水素イオンHCOが形成されるが、これは、平衡反応式1が別の側に向かって進行することを意味する。即ち、例えば電解セル5内で陽極液及び陰極液として炭酸水素カリウム溶液が使用されると、図5に示した局所的酸性環境IからのpH値勾配がMと陰極液の間の相境界層で形成され、その中で二酸化炭素の放出が優先的に生じる。しかしながら、陰極表面又は陰極表面と陰極液との間では、pH値がイオンの移動により再び高く、例えば6〜9の間に、なるので、炭酸水素カリウムの形成反応が優勢となり、従って物理的に弱く結合しているにすぎない二酸化炭素COが電解液E内で陰極Kでの還元に供されることになる。
【0061】
間隔dmkは、従って、二酸化炭素源として作用する膜Mと陰極液との間の相界面層Iが陰極表面Kと陰極液との間の相界面層IIに接し又はこれと重畳するか又は一致し、十分に放出された二酸化炭素COが陰極Kの反応界面に用意され又は補給されるように、最小に選ばれなければならない。
【0062】
図6〜9には、本発明による有利な実施形態が示されている。これらは、基本的には、高分子電解質膜構造(PEM)又は高分子電解質膜ハーフセル構造として構想されている。一方では、プロトン供与体ユニットのプロトン供与膜は、図7、9に示すように陰極の直近に配置することができるが、他方では、陰極は、プロトン供与膜を有するプロトン供与体ユニットに、図6、8に示すように、組み込むことができる。
【0063】
高分子電解質膜(PEM)は、しばしばプロトン交換膜(Proton Exchange Membrane)とも呼ばれ、半透膜である。この膜は、プロトンH、リチウムカチオンLi、ナトリウムカチオンNa又はカリウムカチオンKなどのカチオンを透過するが、例えば酸素O又は水素Hなどのガスの搬送を妨げる。このような目的を、膜Mは、例えば陽極反応及び陰極反応の生成物P1、G1の分離の際に満たす。大抵の場合、水性液体は、毛細管力によって妨げられるとしても、PEMを通過することができる。高分子電解質膜は、例えばアイオノマー、純粋な高分子膜又は他の材料が高分子マトリックスに埋め込まれた複合膜から作ることができる。市販されている高分子電解質膜の一例は、デュポン社のナフィオン(商品名)である。
【0064】
全ての構造において同一であるのは陽極室ARの左側の順序であり、この陽極室は、陽極Aと陽極室ARとは反対側の陽極の面に接する膜Mにより、陰極室KRから分離されている。陰極室KRには、陰極K及びプロトン供与体ユニットが種々の実施形態で続いている。矢印により、陽極室AR及び陰極室KRへの反応物及び電解質の入口E並びに電解質混合物E及び生成物混合物P1、G1の出口が示されている。膜Mは、主として分離膜として作用するが、例えば陽極側に追加の酸貯留槽PRを有する実施形態で必要とされるようなプロトン透過性であってもよい。陰極側の酸又はプロトン貯留槽PRは、いずれの場合でもプロトン伝導性の膜Mによって陰極Kから分離されている。陰極Kは、図7、9では、2つの陰極液間隙KSの間に存在するか又はプロトン供与体陰極PSKとしてプロトン供与体ユニットに組み込まれている。図6、8に示すセル配置の場合には、多孔性陰極Kはプロトン透過性であるだけでなく好適には電解質透過性でもあり、従って、二酸化炭素の放出は、極めて大きな陰極表面で、例えば陰極K内の電解質チャネル内で起こり得る。固体陰極K及びむしろ陰極液間隙KSと呼ぶべき極めて狭い陰極室を有する例では、反応表面と好ましくはプロトンHが提供される膜表面Mとの間の極めて狭い間隔のおかげで、陰極Kは固体金属シートから形成できるが、表面積の拡大のため有利なナノ構造を有することもできる。図7、9に示すように、陰極室KRを2つの陰極液間隙KSに分割する場合には、陰極Kを流れ過ぎる酸は陽極液を形成できる。何故なら、陽極側では、例えば水の酸化によりプロトンHが作られるからである。図8、9では、陽極室ARは、付加的なプロトン貯留槽PRとして形成され、陽極液として酸が使用される。これらの場合には、プロトン又は酸の両貯留槽PR、PR1は、循環系を介して互いに接続される。図7、9に示された陰極液間隙KSの幅は、例えば0〜5mm、有利には0.1〜1mm、好適には0.1〜0.5mmである。図8、9に示された例では、分離膜Mはプロトン伝導性であってもよく、少なくとも電荷平衡を保証する膜Mが使用される。
【0065】
しかし、図6、9に示すプロトン供与体陰極PSKと陰極室KRとを有する例で重要なことは、陰極室KRを任意に狭めて陰極間隙KSにしないことである。これらの場合には、むしろ分離膜Mとプロトン供与体陰極PSKとの間に最小間隔bKRが必要である。何故なら、分離膜Mと陰極Kとの間の電解質容積があまりに狭いと、通過するヒドロニウムイオンは、触媒界面では、むしろ水素Hに優先的に変換され、従って、二酸化炭素の還元が行なわれないおそれがあるからである。陰極室KRに侵入するプロトンHは差し当たり二酸化炭素の形成に用いられなければならず、直接、水素Hに変換されてはならない。プロトン供給体陰極PSKを有するセル配置6、8の陰極室KRの最小間隔bKRは、1mmである。セパレータ膜Mの表面と触媒Kの表面との間の間隔bKRは、1〜10mm、好適には5mm以下、有利には2mm以下である。
【0066】
従って、本発明により、液相の絶対的な二酸化炭素濃度、特に電極表面の直近における物理的に溶解した二酸化炭素の局所的提供を達成することができる。マクロキネティック的物質搬送現象は、本発明装置では下位の役割しか果たさない。何故なら、電気化学的還元に必要な二酸化炭素は、電解質のアニオンから、反応表面におけるインサイチュプロトン化により効果的に提供されるからである。
【符号の説明】
【0067】
A:陽極
AR:陽極室
K:陰極
KR:陰極室
KS:陰極液間隙
:膜
:プロトン透過性膜
PR:プロトン貯留槽
PSK:プロトン供与体陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9