(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記補正値取得工程は、前記検体水の溶存酸素濃度を前記第1溶存酸素濃度測定手段と前記第2溶存酸素濃度測定手段とで測定する、請求項1に記載の過酸化水素濃度測定方法。
前記過酸化水素分解手段は、白金族金属を担体に担持させた白金族金属触媒を充填したカラムである、請求項4から7のいずれか一項に記載の過酸化水素濃度測定システム。
前記第1溶存酸素濃度測定手段と前記第2溶存酸素濃度測定手段の下流に、それぞれ流量安定化手段を備える、請求項4から9のいずれか一項に記載の過酸化水素濃度測定システム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。ただし、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態にかかる過酸化水素濃度測定システム10Aの構成を表すブロック図である。
図1に示すように、過酸化水素濃度測定システム10Aは、純水や超純水の製造設備、排水処理設備等の水処理プロセス1で処理する前、又は処理された後の水の一部を所定位置から、検体水採取用配管(検体水採取手段)31により分析対象となる検体水を採取し測定システム内に導入する。
【0016】
検体水は、第1配管32を経由して第1溶存酸素濃度計(第1溶存酸素濃度測定手段)12に導入され検体水の溶存酸素濃度を測定する経路と、検体水を過酸化水素分解装置(過酸化水素分解手段)11に導入し過酸化水素を分解処理した処理水を第2配管38を経由し第2溶存酸素濃度計(第2溶存酸素濃度測定手段)13に導入して溶存酸素濃度を測定する経路につながる配管36とに分岐される。
【0017】
即ち、第1溶存酸素濃度計12は、検体水をそのまま受け入れて検体水中の溶存酸素濃度を測定する。過酸化水素分解装置11は、検体水を受け入れて検体水中の過酸化水素を分解し、処理水として排出する。第2溶存酸素濃度計は、排出された処理水を受け入れて処理水中の溶存酸素濃度を測定する。
【0018】
図1に示すように、検体水採取用配管31は分岐して2つの測定系統(経路)に分かれる。分岐の一方の第1配管32に流入した検体水は、第1開閉弁15を経由して第1溶存酸素濃度計12へ送られる。また、他方の配管36に流入した検体水は、過酸化水素分解装置11を通過して過酸化水素の分解処理を受け、処理された処理水は第2開閉弁16を有する第2配管38を経由して第2溶存酸素濃度計13に送られる。また配管32の第1開閉弁15の下流側と配管38の第2開閉弁16の下流側とを連通する連通配管41が設けられている。連通配管41には、連通弁17が設けられている。検体水採取用配管31には、検体水を採取しない場合に用いる仕切り弁を設けていてもよい。なお、採取した検体水は水処理プロセス1からの背圧を受けて流れるため、ポンプ等の送液装置は不要であるが、必要に応じて送液装置を備えてもよい。
【0019】
第1開閉弁15、第2開閉弁16、連通弁17はいずれも電気又は圧空等で作動する自動開閉弁であり、弁制御装置(弁制御手段)25によって開閉のタイミングも含めて開閉制御される。第1溶存酸素濃度計12および第2溶存酸素濃度計13で測定された溶存酸素濃度値は演算部(演算手段)14に送信されて、検体水中の過酸化水素濃度が算出される。なお、測定された溶存酸素濃度値や計算された過酸化水素濃度値をリアルタイムでモニター画面等に表示する表示装置や、適宜プリンタ等に印刷する出力装置を設けてもよい(図示せず)。
【0020】
過酸化水素分解装置11に導入された検体水中に含まれる過酸化水素は、以下のように分解される。なお、生成した酸素は水中に溶け込み、溶存酸素となる。
2H
2O
2 → 2H
2O + O
2 ・・・(1)
【0021】
過酸化水素分解装置11は、過酸化水素分解能力を有する材料を充填した容器またはカラムにより構成してもよい。過酸化水素分解能力を有する材料は、水中の過酸化水素を水と酸素に分解する能力を有するものであればよく、特に限定されるものではないが、水で溶解されず、過酸化水素分解能力が高く、且つ耐久性に優れたものが好ましい。また、過酸化水素との接触効率を上げるために、粒状、繊維状、多孔質状など表面積の大きいものが好ましい。このような材料の例としては、例えば活性炭、合成炭素系吸着材、イオン交換樹脂、金属触媒(Pd、Pt等)、酵素(カタラーゼ等)、酵素担持体などをあげることができる。
【0022】
過酸化水素分解触媒としては、白金族金属が担持された触媒金属担持体(白金族金属触媒)を用いることが好ましい。被処理水中の過酸化水素を白金族金属触媒と接触させ、触媒分解によって過酸化水素を分解できる。白金族金属触媒は、例えば、アニオン交換体に担持されている。アニオン交換体は、粒状のアニオン交換樹脂であってもよい。またさらには、アニオン交換樹脂が一体のものとして成形されたモノリス状有機多孔質アニオン交換体に白金族金属を担持した白金族金属触媒を用いることが以下の理由により好ましい。
【0023】
モノリス状有機多孔質アニオン交換体に白金族金属が担持された触媒金属担持体は2000h
−1を超えるSV(空間速度)で通水しても過酸化水素の分解が可能である。このため、過酸化水素分解装置11の小型化が容易である。しかもSVの増大と過酸化水素分解手段の小型化との相乗効果により、高速での通水が可能である。このため、触媒自身や充填カラムに残存していた酸素が抜けやすく、システムの立ち上がり速度が向上し、迅速な測定が可能となる。継手を通して酸素が混入する場合も、SVが増加することで酸素が排除されやすくなるため、測定精度への悪影響も抑えられる。
【0024】
白金族金属として特にPdをモノリス状有機多孔質アニオン交換体に担持させたPdモノリスは、高速で被測定水を通水させることができるため、装置の小型化が容易である。また、SVが大きいため、例えば過酸化水素分解装置の上流側の配管から空気が混入した場合にも、その影響を抑えることができる。例えば空気が間欠的に混入する場合、高SVのため空気は直ちに下流側へ押し流され、過酸化水素分解装置に長く滞留することがない。空気が連続的に混入する場合でも、SVが大きいために空気が希釈されて、測定値に及ぼす影響が緩和される。このような理由によって分析精度の向上が可能となる。また、システムの立ち上げ時に触媒自身や充填カラムに空気が残留している場合、空気が抜けて計測値が安定するまで待っている必要があるが、高SVのため残留している空気は速やかに排除され、システムの立ち上げ時間が短縮される。
【0025】
モノリスアニオン交換体として特に好ましいのは、以下に述べるAタイプ及びBタイプである。これらのモノリスアニオン交換体に白金族金属が担持された触媒金属担持体は、過酸化水素分解装置11に好適に適用できる。
【0026】
(Aタイプのモノリスアニオン交換体)
Aタイプのモノリスアニオン交換体は、モノリスにアニオン交換基を導入することで得られるものであり、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径30〜300μm、好ましくは30〜200μm、特に好ましくは40〜100μmの開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体である。Aタイプのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、モノリスにアニオン交換基を導入する際、モノリス全体が膨潤するため、モノリスの開口の平均直径よりも大となる。水湿潤状態での開口の平均直径が30μm未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、水湿潤状態での開口の平均直径が大き過ぎると、被処理水とAタイプのモノリスアニオン交換体および担持された白金族金属ナノ粒子との接触が不十分となり、その結果、過酸化水素分解特性が低下してしまうため好ましくない。なお、乾燥状態のモノリス中間体の開口の平均直径、乾燥状態のモノリスの開口の平均直径及び乾燥状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、水銀圧入法により測定される値を意味する。また、水湿潤状態のAタイプのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、乾燥状態のAタイプのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径に、膨潤率を乗じて算出される値である。また、アニオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの開口の平均直径、及びその乾燥状態のモノリスにアニオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のAタイプのモノリスアニオン交換体の膨潤率がわかる場合は、乾燥状態のモノリスの開口の平均直径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のAタイプのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径を算出することもできる。
【0027】
Aタイプのモノリスアニオン交換体において、連続マクロポア構造体の切断面のSEM画像において、断面に表れる骨格部面積が、画像領域中、25〜50%、好ましくは25〜45%である。断面に表れる骨格部面積が、画像領域中、25%未満であると、細い骨格となり、機械的強度が低下して、特に高流速で通水した際にモノリスアニオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、被処理水とAタイプのモノリスアニオン交換体およびそれに担持された白金族金属ナノ粒子との接触効率が低下し、触媒効果が低下するため好ましくなく、50%を超えると、骨格が太くなり過ぎ、通水時の圧力損失が増大するため好ましくない。
【0028】
また、Aタイプのモノリスアニオン交換体の全細孔容積は、0.5〜5ml/g、好ましくは0.8〜4ml/gである。全細孔容積が0.5ml/g未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過流体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が5ml/gを超えると、機械的強度が低下して、特に高流速で通水した際にAタイプのモノリスアニオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、被処理水とAタイプのモノリスアニオン交換体およびそれに担持された白金族金属ナノ粒子との接触効率が低下し、触媒効果も低下してしまうため好ましくない。なお、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリスアニオン交換体)の全細孔容積は、水銀圧入法により測定される値を意味する。また、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリスアニオン交換体)の全細孔容積は、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
【0029】
なお、Aタイプのモノリスアニオン交換体に水を透過させた際の圧力損失は、これを1m充填したカラムに通水線速度(LV)1m/hで通水した際の圧力損失(以下、「差圧係数」と言う。)で示すと、0.001〜0.1MPa/m・LVの範囲、特に0.005〜0.05MPa/m・LVであることが好ましい。
【0030】
Aタイプのモノリスアニオン交換体は、水湿潤状態での体積当りのアニオン交換容量が0.4〜1.0mg当量/mlである。体積当りのアニオン交換容量が0.4mg当量/ml未満であると、体積当りの白金族金属のナノ粒子担持量が低下してしまうため好ましくない。一方、体積当りのアニオン交換容量が1.0mg当量/mlを超えると、通水時の圧力損失が増大してしまうため好ましくない。なお、Aタイプのモノリスアニオン交換体の重量当りのアニオン交換容量は特に限定されないが、アニオン交換基が多孔質体の表面及び骨格内部にまで均一に導入しているため、3.5〜4.5mg当量/gである。
【0031】
Aタイプのモノリスアニオン交換体において、連続マクロポア構造体の骨格を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3〜10モル%、好適には0.3〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、10モル%を越えると、アニオン交換基の導入が困難になる場合があるため好ましくない。該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン等の芳香族ビニルポリマーが挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、連続マクロポア構造形成の容易さ、アニオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸又はアルカリに対する安定性の高さから、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0032】
Aタイプのモノリスアニオン交換体のアニオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基等が挙げられる。
【0033】
導入されたアニオン交換基は、多孔質体の表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。ここで言う「アニオン交換基が均一に分布している」とは、アニオン交換基の分布が少なくともμmオーダーで表面および骨格内部に均一に分布していることを指す。アニオン交換基の分布状況は、対アニオンを塩化物イオン、臭化物イオンなどにイオン交換した後、EPMAを用いることで、比較的簡単に確認することができる。また、アニオン交換基が、モノリスの表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布していると、表面と内部の物理的性質及び化学的性質を均一にできるため、膨潤及び収縮に対する耐久性が向上する。
【0034】
Aタイプのモノリスアニオン交換体は、骨太のモノリスにアニオン交換基が導入されるため、例えば骨太モノリスの1.4〜1.9倍のように大きく膨潤する。このため、骨太モノリスの開口径が小さいものであっても、モノリスイオン交換体の開口径は概ね、上記倍率で大きくなる。また、開口径が膨潤で大きくなっても全細孔容積は変化しない。従って、Aタイプのモノリスイオン交換体は、開口径が格段に大きいにもかかわらず、骨太骨格を有するため機械的強度が高い。
【0035】
(Bタイプのモノリスアニオン交換体)
Bタイプのモノリスアニオン交換体は、アニオン交換基が導入された全構成単位中、架橋構造単位を0.3〜5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが水湿潤状態で1〜60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が水湿潤状態で10〜100μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、全細孔容積が0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.3〜1.0mg当量/mlであり、アニオン交換基が該多孔質イオン交換体中に均一に分布している。
【0036】
Bタイプのモノリスアニオン交換体は、アニオン交換基が導入された平均太さが水湿潤状態で1〜60μm、好ましくは3〜58μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が水湿潤状態で10〜100μm、好ましくは15〜90μm、特に好ましくは20〜80μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体である。すなわち、共連続構造は、連続する骨格相と連続する空孔相とが絡み合ってそれぞれが共に3次元的に連続する構造である。この連続した空孔は、従来の連続気泡型モノリスや粒子凝集型モノリスに比べて空孔の連続性が高くてその大きさに偏りがないため、極めて均一なイオンの吸着挙動を達成できる。また、骨格が太いため機械的強度が高い。
【0037】
Bタイプのモノリスアニオン交換体の骨格の太さ及び空孔の直径は、モノリスにアニオン交換基を導入する際、モノリス全体が膨潤するため、モノリスの骨格の太さ及び空孔の直径よりも大となる。この連続した空孔は、従来の連続気泡型モノリス状有機多孔質アニオン交換体や粒子凝集型モノリス状有機多孔質アニオン交換体に比べて空孔の連続性が高くてその大きさに偏りがないため、極めて均一なアニオンの吸着挙動を達成できる。三次元的に連続した空孔の平均直径が水湿潤状態で10μm未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、100μmを超えると、被処理水と有機多孔質アニオン交換体との接触が不十分となり、その結果、被処理水中の溶存酸素の除去が不十分となるため好ましくない。また、骨格の平均太さが水湿潤状態で1μm未満であると、体積当りのアニオン交換容量が低下するといった欠点のほか、機械的強度が低下して、特に高流速で通水した際にBタイプのモノリスアニオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、被処理水とBタイプのモノリスアニオン交換体との接触効率が低下し、触媒効果が低下するため好ましくない。一方、骨格の太さが60μmを越えると、骨格が太くなり過ぎ、通水時の圧力損失が増大するため好ましくない。
【0038】
上記連続構造体の空孔の水湿潤状態での平均直径は、水銀圧入法で測定した乾燥状態のモノリスアニオン交換体の空孔の平均直径に、膨潤率を乗じて算出される値である。また、アニオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの空孔の平均直径、及びその乾燥状態のモノリスにアニオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のBタイプのモノリスアニオン交換体の膨潤率がわかる場合は、乾燥状態のモノリスの空孔の平均直径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のBタイプのモノリスアニオン交換体の空孔の平均直径を算出することもできる。また、上記連続構造体の骨格の水湿潤状態での平均太さは、乾燥状態のBタイプのモノリスアニオン交換体のSEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の骨格の太さを測定し、その平均値に、膨潤率を乗じて算出される値である。また、アニオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの骨格の平均太さ、及びその乾燥状態のモノリスにアニオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のBタイプのモノリスアニオン交換体の膨潤率がわかる場合は、乾燥状態のモノリスの骨格の平均太さに、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のBタイプのモノリスアニオン交換体の骨格の平均太さを算出することもできる。なお、骨格は棒状であり円形断面形状であるが、楕円断面形状等異径断面のものが含まれていてもよい。この場合の太さは短径と長径の平均である。
【0039】
また、Bタイプのモノリスアニオン交換体の全細孔容積は、0.5〜5ml/gである。全細孔容積が0.5ml/g未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過水量が小さくなり、処理水量が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が5ml/gを超えると、体積当りのアニオン交換容量が低下し、白金族金属ナノ粒子の担持量も低下し触媒効果が低下するため好ましくない。また、機械的強度が低下して、特に高流速で通水した際にBタイプのモノリスアニオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、被処理水とBタイプのモノリスアニオン交換体との接触効率が低下して、過酸化水素分解効果も低下してしまうため好ましくない。三次元的に連続した空孔の大きさ及び全細孔容積が上記範囲にあれば、被処理水との接触が極めて均一で接触面積も大きく、かつ低圧力損失下での通水が可能となる。なお、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリスアニオン交換体)の全細孔容積は、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
【0040】
なお、Bタイプのモノリスアニオン交換体に水を透過させた際の圧力損失は、多孔質体を1m充填したカラムに通水線速度(LV)1m/hで通水した際の圧力損失(以下、「差圧係数」と言う。)で示すと、0.001〜0.5MPa/m・LVの範囲、特に0.005〜0.1MPa/m・LVである。
【0041】
Bタイプのモノリスアニオン交換体において、共連続構造体の骨格を構成する材料は、全構成単位中、0.3〜5モル%、好ましくは0.5〜3.0モル%の架橋構造単位を含んでいる芳香族ビニルポリマーであり疎水性である。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、5モル%を越えると、多孔質体の構造が共連続構造から逸脱しやすくなる。該芳香族ビニルポリマーの種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレンが挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、共連続構造形成の容易さ、アニオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸又はアルカリに対する安定性の高さから、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。
【0042】
Bタイプのモノリスアニオン交換体は、水湿潤状態での体積当りのアニオン交換容量が0.3〜1.0mg当量/mlのイオン交換容量を有する。Bタイプのモノリスアニオン交換体は、三次元的に連続した空孔の連続性や均一性が高いため、全細孔容積を低下させても圧力損失はさほど増加しない。そのため、圧力損失を低く押さえたままで体積当りのアニオン交換容量を飛躍的に大きくすることができる。体積当りのアニオン交換容量が0.3mg当量/ml未満であると、体積当りの白金族金属のナノ粒子担持量が低下してしまうため好ましくない。一方、体積当りのアニオン交換容量が1.0mg当量/mlを超えると、通水時の圧力損失が増大してしまうため好ましくない。なお、Bタイプのモノリスアニオン交換体の乾燥状態における重量当りのアニオン交換容量は特に限定されないが、イオン交換基が多孔質体の骨格表面及び骨格内部にまで均一に導入しているため、3.5〜4.5mg当量/gである。
【0043】
Bタイプのモノリスアニオン交換体のアニオン交換基としては、Aタイプのモノリスアニオン交換体の説明で挙げたものと同様のものを挙げることができる。また、アニオン交換基の分布状態や、「アニオン交換基が均一に分布している」ことの意味内容や、アニオン交換基分布状態の確認方法や、アニオン交換基がモノリスの表面のみならず多孔質体の骨格内部にまで均一に分布することの効果もAタイプのモノリスアニオン交換体と同様である。
【0044】
モノリス中間体のポリマー材料の種類は、Aタイプのモノリスアニオン交換体のモノリス中間体のポリマー材料の種類と同様であり、その説明を省略する。
【0045】
モノリス中間体の全細孔容積は、16ml/gを超え、30ml/g以下、好適には16ml/gを超え、25ml/g以下である。すなわち、このモノリス中間体は、基本的には連続マクロポア構造ではあるが、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)が格段に大きいため、モノリス構造を構成する骨格が二次元の壁面から一次元の棒状骨格に限りなく近い構造を有している。これを重合系に共存させると、モノリス中間体の構造を型として共連続構造の多孔質体が形成される。全細孔容積が小さ過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの構造が共連続構造から連続マクロポア構造に変化してしまうため好ましくなく、一方、全細孔容積が大き過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの機械的強度が低下したり、体積当たりのアニオン交換容量が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体の全細孔容積をBタイプのモノリスアニオン交換体の特定の範囲とするには、モノマーと水の比を、概ね1:20〜1:40とすればよい。
【0046】
また、モノリス中間体は、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)の平均直径が乾燥状態で5〜100μmである。開口の平均直径が乾燥状態で5μm未満であると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が小さくなり、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。一方、100μmを超えると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が大きくなりすぎ、被処理水とモノリスアニオン交換体との接触が不十分となり、その結果、過酸化水素分解特性が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
【0047】
Bタイプのモノリスアニオン交換体は、共連続構造のモノリスにアニオン交換基が導入されるため、例えばモノリスの1.4〜1.9倍に大きく膨潤する。また、空孔径が膨潤で大きくなっても全細孔容積は変化しない。従って、Bタイプのモノリスアニオン交換体は、3次元的に連続する空孔の大きさが格段に大きいにもかかわらず、骨太骨格を有するため機械的強度が高い。また、骨格が太いため、水湿潤状態での体積当りのアニオン交換容量を大きくでき、更に、被処理水を低圧、大流量で長期間通水することが可能である。
【0048】
図1に戻り、検体水の溶存酸素濃度を測定する分析ライン(以下、検体水ラインという)と処理水の溶存酸素濃度を測定する分析ライン(以下、処理水ラインという)とでは、処理水ラインの方が過酸化水素分解装置11を搭載している分、圧力損失が大きく、継手も増えるなどの条件が異なっている。このことにより、後段に設置された第1溶存酸素濃度計12および第2溶存酸素濃度計13の測定値に変動を与える恐れがある。そこで、
図2に示す過酸化水素濃度測定システム10Bのように、検体水ラインの配管32の第1開閉弁15より上流側に条件調整部20を備えてもよい。条件調整部20は、過酸化水素分解装置11と同程度の圧力損失を生じさせるなど、検体水ラインと処理水ラインの通水条件を揃えるような材料(以下、条件調整材料という)を充填したカラム(容器)として構成できる。条件調整部20は、過酸化水素分解反応など酸素を生じさせるような機能を有さないものであればよく、特に限定されるものではないが、水で溶解されず、且つ耐久性に優れたものが好ましい。例えば、過酸化水素分解装置11が白金族金属を担体に担持させた白金族金属触媒を充填したカラムであれば、条件調整部20は条件調整材料としてその担体のみを充填したカラムとすることができる。なお、このような条件調整部20は後述の
図3〜
図5の構成にも適用可能である。
【0049】
過酸化水素分解装置11として過酸化水素分解能力を有する材料を充填したカラムを使用する場合、カラム通水流速は、充填材の種類や分析する検体水の過酸化水素濃度などの諸条件によって適宜決定される。流速を下げると、過酸化水素と充填材との接触時間が増えて過酸化水素の分解率が上がり、酸素の生成率が増加する傾向にあるが、カラムや配管系を介する大気中の酸素の透過により溶存酸素濃度上昇の影響が生じやすくなる。一方、流速を上げると、大気中の酸素の透過による溶存酸素濃度上昇の影響は生じ難くなるが、過酸化水素と充填材との接触時間が減少し、過酸化水素が十分に分解されず、酸素の生成率が減少して分析精度が低下する可能性がある。
【0050】
過酸化水素分解能力を有する材料を充填するカラムの材質は、特に制限されるものではないが、酸素の透過率が低いものが好ましい。また、システムの立ち上げ時にカラム内の気泡の有無を確認できるように透明なものであり、耐久性に優れたものが好ましい。このような材質の例としては、例えばアクリル、塩化ビニル、ポリカーボネートなどをあげることができる。
【0051】
検体水および処理水に含まれる溶存酸素は、第1溶存酸素濃度計12および第2溶存酸素濃度計13で測定される(測定値取得工程)。2台の溶存酸素濃度計12、13は、公知の溶存酸素計により構成することができる。
【0052】
また、2台の溶存酸素濃度計12、13は、特に制限されるものではないが、できるだけ個体差を小さくするため、同一の型式およびロットのものが好ましい。
【0053】
2台の溶存酸素濃度計12、13の測定値は演算部14に送信され、演算部14は所定の演算式に基づき検体水中の過酸化水素濃度を算出する。
【0054】
溶存酸素濃度から過酸化水素濃度を求めるには、次の計算により求めることができる。すなわち、処理水と検体水中の溶存酸素濃度の差分(第2溶存酸素濃度計13の測定値から第1溶存酸素濃度計12の測定値を引いた数値)は式(1)のように水中の過酸化水素に由来するものである。したがって、測定された溶存酸素濃度の差分より、検体水中に含まれている過酸化水素濃度は、以下の式から算出できる。
【0055】
溶存酸素濃度値をDOとすると、処理水と検体水中の溶存酸素濃度値の差分Δ1(測定値取得工程で得られるこの差分Δ1を「測定値」ともいう。)は(処理水DO−検体水DO)なので、
検体水中の過酸化水素濃度 =Δ1(処理水DO−検体水DO)×(68/32)・・・(2)
ここで68は式(1)左辺の過酸化水素の分子量(2分子なので2倍)、 32は式(1)右辺の酸素分子量である。左辺の単位は右辺のDOの単位と同じである。
【0056】
溶存酸素濃度計は所定の流量範囲で最も誤差が少ないように調整されているため、その範囲に流量を調節することが好ましい。そのため、溶存酸素濃度計の後段には、それぞれ流量計を設けるのが好適である。これにより、過酸化水素分解触媒および溶存酸素濃度計に適切な流量で検体水、処理水を供給することができる。
【0057】
さらには、流量を示し、その流量を適切な値で安定させるような機構(以下、流量安定化手段という。)を設けるのが好適である。
図1では、第1溶存酸素濃度計12の下流配管34に流量安定化装置(流量安定化手段)18を、第2溶存酸素濃度計13の下流配管39に流量安定化装置(流量安定化手段)19をそれぞれ設けている。流量安定化手段18、19は、特に制限されるものではないが、例として流量計と流量調節のできる弁の組合せ(流量指示制御計)などがあげられる。流量安定化装置18、19は、継ぎ目から酸素が侵入するおそれがあるため、溶存酸素濃度計の下流に設けることが好ましい。その他、警報装置などのプロセス制御系に周知の構成は任意に追加することができる。溶存酸素濃度を測定した検体水と処理水は、流量測定後に排液される。測定試薬等を添加していないため、排水処理も容易である。
【0058】
溶存酸素濃度計は、校正をして用いることが望ましい。溶存酸素濃度計の校正は通常、センサを大気に晒した場合での大気校正および/または亜硫酸ナトリウム等の還元剤を過剰に溶解せしめ溶存酸素濃度を除去した水溶液でのゼロ点校正が一般に行われる。しかしこのような校正を行った場合でも、μg/Lレベルの測定においては、溶存酸素濃度計に微量な個体差が生じることは避けられない。特に本実施形態のように、2台の溶存酸素濃度計を用い、μg/Lレベルの溶存酸素濃度を測定する場合、その微量な個体差がより問題となる。
【0059】
そこで、本実施形態では、2台の溶存酸素濃度計12、13の両方に、検体水または処理水のいずれか一方を同時に通水し、両者の測定値の差分を得て(補正値取得工程)、溶存酸素濃度計12、13の個体差を補正する補正値とする。2台の溶存酸素濃度計12、13の測定値は演算部14に送信され、演算部14は所定の演算式に基づき2台の溶存酸素濃度計12、13の個体差を算出し、個体差を補正した過酸化水素濃度を算出する(演算工程)。すなわち、検体水または処理水を通水した時の、第1溶存酸素濃度計12(検体水測定側)の測定値をA、第2溶存酸素濃度計13(処理水測定側)の測定値をBとした時の補正値(差分)をΔ2とすると、
Δ2=B−A
であり、個体差を補正した過酸化水素濃度は
過酸化水素濃度=(Δ1−Δ2)×(68/32)・・・(3)
で算出される。これにより、2台の溶存酸素濃度計の個体差を補正した高精度な数値を算出することができる。
【0060】
補正値を算出するために、2台の溶存酸素濃度計の両方に、検体水または処理水のいずれか一方を同時に通水する場合において、2台の溶存酸素濃度計には同じ流量で流すことが好ましい。そのためにも、溶存酸素濃度計の下流に流量を適切な値で安定させる流量安定化手段を設けるのが好適である。
【0061】
次に、弁の開閉制御について説明する。
図1の構成では、通常の過酸化水素濃度測定時(「測定値取得モード」という。)は、第1開閉弁15を開、第2開閉弁16を開、連通弁17を閉と制御する。補正値を算出する際は、検体水を両方の溶存酸素濃度計へ同時に導入する場合は第1開閉弁15を開、第2開閉弁16を閉、連通弁17を開とすればよい(「第1補正値取得モード」という)。また、処理水を両方の溶存酸素濃度計へ同時に導入する場合は第1開閉弁15を閉、第2開閉弁16を開、連通弁17を開とすればよい(「第2補正値取得モード」という。)。第1補正値取得モードと第2補正値取得モードはいずれも「補正値取得モード」である。
図1では各弁の開閉制御は弁制御装置25を用いて行うように構成したが、弁制御装置25を用いずに手動で各弁を開閉してもよい。これは他の実施形態でも同様である。
【0062】
検体水を両方の溶存酸素濃度計へ導入する場合と、処理水を両方の溶存酸素濃度計へ導入する場合とでは、連通弁17を流れる方向が異なる。そのため、連通弁17は、特に制限されるものではないが、ボール弁のような流れ方向に制限のないものが好ましい。
【0063】
検体水または処理水のどちらか一方を用いることが予め決められている場合には、
図3や
図4の構成を用いても良い。
図3は、補正値を算出する際に、検体水を2台の溶存酸素濃度計を用いて測定する場合の過酸化水素濃度測定システム10Cである。このシステム10Cは、
図1に比べると第1開閉弁15がなく、弁16が第1開閉弁となる。
図4は、補正値を算出する際に、処理水を2台の溶存酸素濃度計を用いて測定する場合の過酸化水素濃度測定システム10Dである。このシステム10Dは、
図1に比べると第2開閉弁16がなく、第1開閉弁15だけである。それ以外は
図1と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0064】
図3の構成では、測定値取得モードでは連通弁17が閉であり、第1開閉弁16が開となる。補正値取得モードでは連通弁17が開であり、第1開閉弁16が閉となる。
図4の構成では、測定値取得モードでは連通弁17が閉であり、第1開閉弁15が開となる。補正値取得モードでは連通弁17が開であり、第1開閉弁15が閉となる。
図3又は
図4の構成では、
図1の構成と比べて弁の数を減らすことができる。これにより、弁から水中に侵入する酸素量を低減でき、また弁のメンテナンスも減らすことができる。
【0065】
図1に戻り、通常の過酸化水素濃度測定時の第1開閉弁15を開、第2開閉弁16を開、連通弁17を閉としている状態(測定値取得モード)と、検体水を両方の溶存酸素濃度計へ導入し補正値を算出する際の第1開閉弁15を開、第2開閉弁16を閉、連通弁17を開とする状態(補正値取得モード)との間の各弁の切り替えのタイミングについて述べる。
【0066】
まず、通常の過酸化水素濃度測定状態(測定値取得モード)から検体水を両方の溶存酸素濃度計へ導入し補正値を算出する状態(第1補正値取得モード)への切り替えの際、第2開閉弁16を開から閉への切り替えと、連通弁17を閉から開への切り替えのタイミングは、任意で設定可能であり、全く同時にすることも可能であるが、連通弁17を閉から開への切り替えが完了してから第2開閉弁16を開から閉へ切り替えることが好ましい。これは、第2開閉弁16を開から閉へ切り替え後に連通弁17を閉から開とすると、第2溶存酸素濃度計13への流量がいったん途絶えることとなり、測定値が安定するまでに時間を有するなどの問題が生じるためである。
【0067】
次に、検体水を両方の溶存酸素濃度計へ導入し補正値を算出する状態(第1補正値取得モード)から通常の過酸化水素濃度測定状態(測定値取得モード)への切り替えの場合では、上記と同じ理由により、第2開閉弁16を閉から開への切り替えが完了してから連通弁17を開から閉へ切り替えることが好ましい。
【0068】
また、通常の過酸化水素濃度測定状態(測定値取得モード)と、処理水を両方の溶存酸素濃度計へ導入し補正値を算出する状態(第2補正値取得モード)との間での切り替えの際の第1開閉弁15と連通弁17の切り替えについても上記と同様のタイミングとすることが好ましい。
【0069】
補正値Δ2の算出には、弁切り替え後、測定値が安定するまで一定時間放置した後、ある一定時間の測定値の平均値を得ることが好ましい。
【0070】
補正値Δ2を得るタイミング(補正値取得工程を行うタイミング)は任意(定期的又は不定期)で設定可能であるが、1日毎から半年毎の間であることが好ましい。1日毎より短い頻度では、頻繁に補正値を得るモードに切り替わるため、過酸化水素濃度を出力できない時間が長くなる。また半年毎より長い頻度では、センサの校正頻度としては長過ぎ、測定値の信頼性が乏しくなる。補正値取得工程を行う期間以外の期間は、測定値取得工程を継続的に行うことが好ましい。
【0071】
補正値Δ2を得る際の測定対象水として検体水を用いることがより好ましい。その場合、検体水中の溶存酸素濃度は常に出力されるためである。つまり、補正値Δ2の取得中であっても、溶存酸素濃度をモニターすることができる。
【0072】
また、適宜、溶存酸素濃度計の通常の校正(大気校正および/またはゼロ点校正など)を行うことにより、より信頼性の高い測定値が得られる。
【0073】
通常の過酸化水素濃度測定時は式(3)より過酸化水素濃度を算出するが、値を一定時間の移動平均を取ることでばらつきを抑えることが可能である。
【0074】
図5に示す過酸化水素濃度測定システム10Eのように、検体水を採取する配管31に脱気装置(脱気手段)21を設けて、検体水中に溶存している酸素を脱気処理してもよい。脱気装置21としては、例えば膜式脱気装置等が使用される。膜式脱気装置は、気体分離膜で仕切られた一方の室に被処理水を流すとともに、他方の室を減圧することにより、被処理水中に含まれるガスが気体分離膜を通して他方の室に移行し除去する装置である。気体分離膜としては、通常、テトラフルオロエチレン系、シリコーンゴム系等の疎水性の高分子膜を中空糸膜状等の適宜形状に形成したものが使用される。このような脱気装置は、検体水中の溶存酸素濃度が高い場合や、大きく変動する場合に、高精度で過酸化水素濃度を測定するために有効である。なお脱気装置21は
図2〜
図4の構成にも適用可能である。
【0075】
検体水中の過酸化水素濃度(測定レンジ)にもよるが、例えば純水、超純水系の過酸化水素濃度は数10μg/L以下なので、ブランク値を下げるため溶存酸素濃度を100μg/L以下、特に好ましくは10μg/L以下まで脱気(脱酸素)するのが好適である。また、脱気(脱酸素)の方法は特に限定しないが、コンパクトに高度な脱気処理ができる点で、上記膜式脱気装置による処理が好ましい。なお、検体水中の過酸化水素濃度が高い場合あるいは高精度での分析が必要でない場合、また元々検体水中の溶存酸素濃度が低い場合には、必ずしも脱気装置を設置する必要はない。
【0076】
以上に述べた過酸化水素濃度測定システムに用いられる配管、特に、検体水を導入するサンプル採取点から溶存酸素濃度計までの配管には、ガス透過性の低いステンレス鋼あるいはナイロン等の材料を用いることが好ましい。これらは酸素透過率が小さく、また不純物の溶出が少なく好ましい。
【0077】
また、過酸化水素濃度測定システムの配管にステンレス鋼の材料を用いる場合、配管の分岐部や屈曲部には、エルボやチーズなどの継手類は極力使わずに、溶接や曲げ加工とすることが好ましい。その理由は、大気中の酸素が継手類のつなぎ目や配管を透過して大量に検体水に溶け込むと、溶存酸素濃度が上昇し、正確な測定ができなくなるからである。
【0078】
上述の実施形態では、配管31で採取した検体水を検体水ラインと処理水ラインに分けて測定した。しかし検体水ライン用と処理水ライン用の検体水を独立して採取してもよい(図示せず)。ただし、採取位置が大きく離れると溶存酸素濃度等の条件が異なるおそれがあるため、1箇所で採取した検体水を分岐させて測定するほうが好ましい。
【0079】
以上の過酸化水素濃度の測定方法を
図7を参照して説明する。まず検体水を採取する(
図7のステップS11)。次に、検体水又は検体水を過酸化水素分解手段で処理した処理水の溶存酸素濃度を第1溶存酸素濃度測定手段と第2溶存酸素濃度測定手段とで測定して、2つの溶存酸素濃度値の差分である補正値を取得する(ステップS12)。次に検体水中の溶存酸素濃度を第1溶存酸素濃度測定手段で測定し、処理水中の溶存酸素濃度を第2溶存酸素濃度測定手段で測定して、2つの溶存酸素濃度値の差分である測定値を取得する(ステップS13)。最後に得られた測定値と補正値とから補正した過酸化水素濃度を算出する(ステップS14)。ステップ12は適宜行い、それ以外の通常時はステップS13とステップS14は同時に行う。つまり、通常時は連続的に得られる測定値をすぐに補正値で補正して過酸化水素濃度を算出する。
【0080】
以上の実施形態によれば、検体水中の過酸化水素を連続的かつ高精度で定量することができる。また、検体水中の過酸化水素濃度の測定を自動化できるので、人間の介在を極力回避すべき純水または超純水製造設備に特に適した過酸化水素分析システムおよび過酸化水素分析方法が実現できる。また、検体水に含まれる溶存酸素濃度に揺らぎ(急な変化)が生じた場合でも、その揺らぎが過酸化水素濃度の測定値に影響せず、正確な過酸化水素濃度を測定することができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の具体例を実施例として説明する。
(実施例1)
過酸化水素濃度が異なる4条件の検体水を、
図5に示された過酸化水素濃度測定システム10Eに導入し、過酸化水素濃度を測定した。
【0082】
それぞれの条件での過酸化水素濃度を測定する直前に、第1溶存酸素濃度計12および第2溶存酸素濃度計13の両方に検体水を同時に1時間通水し、そのうちの後半30分間の両者の測定値の差の平均値を用い、過酸化水素濃度算出の補正値Δ2を算出した。その後、過酸化水素濃度を式(3)により算出した。
【0083】
補正値Δ2の算出後、検体水および処理水に含まれる溶存酸素濃度を、2台の溶存酸素濃度計で同時に測定を始め、測定値が安定してからの3分間の平均値を検体水の過酸化水素濃度の測定値とした。また、参考値として上記検体水中の過酸化水素濃度を、特許文献3に記載されたフェノールフタレイン比色法で分析した。
【0084】
以上から、本発明による検体水の過酸化水素濃度測定結果(実施例1)とフェノールフタレイン比色法による検体水の過酸化水素濃度測定結果(参考値)を得た。結果を表1に示す。実施例1と参考値の測定結果を比較すると、検体水の過酸化水素濃度が異なる4条件のすべてにおいて、0.5μg/L以下の差であった。
【0085】
【表1】
【0086】
(比較例1)
過酸化水素濃度が異なる4条件の検体水を、
図5に示された過酸化水素濃度測定システム10Eに導入し、過酸化水素濃度を測定した。
【0087】
それぞれの条件での過酸化水素濃度を測定する直前に、第1溶存酸素濃度計12および第2溶存酸素濃度計13の両方のセンサを大気に晒した場合での大気校正と亜硫酸ナトリウム等の還元剤を過剰に溶解せしめ溶存酸素濃度を除去した水溶液でのゼロ点校正との2点校正を行った。
【0088】
そして、検体水および処理水に含まれる溶存酸素濃度を、校正した第1溶存酸素濃度計12および第2溶存酸素濃度計13でそれぞれ同時に測定し、測定した溶存酸素濃度から式(2)を用いて、過酸化水素濃度を算出した。
【0089】
検体水および処理水に含まれる溶存酸素濃度を、第1溶存酸素濃度計12および第2溶存酸素濃度計13でそれぞれ同時に測定を始め、測定値が安定してからの3分間の平均値を検体水の過酸化水素濃度の測定値とした。また、上記検体水中の過酸化水素濃度を、特許文献3に記載されたフェノールフタレイン比色法で分析した。
【0090】
以上から、本発明を適用せず、2台の溶存酸素濃度計を通常の2点校正のみを行い検体水の過酸化水素濃度を測定した結果(比較例1)と特許文献3に記載されたフェノールフタレイン比色法による検体水の過酸化水素濃度測定結果(参考値)を得た。結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
比較例1と参考値の測定結果を比較すると、検体水の過酸化水素濃度が異なる4条件のすべてにおいて、0.5μg/L以上の差を確認した。また、補正値Δ2を考慮していないため、条件1において、比較例1の測定結果が負の値を示す不良も確認された。
【0093】
(実施例2)
図5に示された過酸化水素濃度測定システム10Eに過酸化水素を含有している超純水を検体水として導入し、過酸化水素濃度を測定した。過酸化水素濃度を測定する直前に、第1溶存酸素濃度計12および第2溶存酸素濃度計13の両方に検体水を同時に1時間通水し、そのうちの後半30分間の両者の測定値の差の平均値を用い、過酸化水素濃度算出の補正値Δ2を算出した。その後、過酸化水素濃度を式(3)により算出した。以上の結果を
図6に示す。
【0094】
図6から明らかなように、第1溶存酸素濃度計12には常に検体水の溶存酸素濃度を測定しているため、検体水の溶存酸素濃度(
図6の破線)は途切れることなく、連続的に測定(モニター)することができた。