(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
静止側部材又は回転側部材の何れか一方が、可撓性を有する金属薄板で形成されたトップフォイルと、トップフォイルを弾性的に支持する弾性支持部とを備え、回転側部材の回転に伴ってトップフォイルに設けた第1軸受面とこれに対向する他方の部材の第2軸受面との間の軸受隙間に空気膜が形成され、その圧力で回転側部材が支持されるフォイル軸受において、
第1軸受面と第2軸受面との間に潤滑性を有する粉体が介在しており、前記粉体は、第1軸受面と第2軸受面の摺動接触に伴ってトップフォイルおよび前記他方の部材の母材の少なくとも一方が摩耗することにより生じた摩耗粉の酸化物を含んでおり、
第1軸受面と第2軸受面の少なくとも一方に、他方の軸受面側に突出した突起部が設けられており、
トップフォイルは、少なくともその一部が空気膜の圧力に応じて軸受隙間の幅方向に弾性変形することにより、前記粉体を保持可能な保持部が形成される第1状態と、前記保持部が実質的に消滅し、前記粉体が両軸受面間で分散・浮遊可能な第2状態との間を相互に移行し、かつ、空気膜の圧力上昇に伴って前記第2状態から前記第1状態に移行することを特徴とするフォイル軸受。
【背景技術】
【0002】
ターボ機械(例えばガスタービンやターボチャージャ)の主軸は高温環境下で高速回転する。また、ターボ機械では、エネルギー効率の観点から油循環用の補機を別途設けることが困難な場合がある他、潤滑油のせん断抵抗が主軸の高速回転化の阻害要因となる場合がある。そのため、ターボ機械の主軸の支持用軸受としては、油潤滑の転がり軸受や動圧軸受ではなく空気動圧軸受を使用する場合が多い。
【0003】
空気動圧軸受としては、回転側の軸受面と静止側の軸受面の双方を剛体で構成したものが一般的である。しかしながら、この種の空気動圧軸受では、両軸受面間に形成される軸受隙間の隙間幅管理が不十分であると、安定限界を超えた際にホワールと称される自励的な主軸の振れ回りが生じ易くなる。従って、一般的な空気動圧軸受において、所望の軸受性能を安定的に発揮するには、軸受隙間の隙間幅を高精度に管理する必要があるが、ターボ機械のように温度変化の大きい環境では、熱膨張の影響で軸受隙間の隙間幅が変動し易いため、所望の軸受性能を安定的に発揮するのが困難である。
【0004】
ホワールが生じ難く、かつ温度変化の大きい環境下でも軸受隙間の隙間幅管理を容易にできる軸受としてフォイル軸受が知られている。フォイル軸受は、曲げに対して剛性の低い可撓性を有する金属薄板(フォイル)で軸受面を構成し、この軸受面のたわみを許容することで荷重を支持するものである。例えば下記の特許文献1に、ラジアル荷重を支持するタイプのフォイル軸受が開示されている。
【0005】
特許文献1のフォイル軸受では、回転軸が回転すると、静止側を構成するトップフォイル(軸受フォイル)の内径面とこれに対向する回転軸の外周面との間のラジアル軸受隙間に空気膜が形成され、その圧力で回転軸がラジアル方向に支持される。そして、このフォイル軸受では、トップフォイルに作用する荷重や周囲温度などといった運転条件に応じてトップフォイル、およびトップフォイルを弾性的に支持する弾性支持部(弾性体)が弾性変形することにより、ラジアル軸受隙間の隙間幅が自動調整される。そのため、フォイル軸受は、一般的な動圧軸受と比較して安定性に優れるという特徴があり、ターボ機械のロータのように、高温環境下で高速回転する回転体の支持用軸受として好適に用い得る。
【0006】
また、一般的な動圧軸受では、ラジアル軸受隙間の隙間幅を軸径の1/1000のオーダーで管理する必要があることから、例えば直径が数mm程度の回転軸の支持用途に一般的な動圧軸受を用いた場合、ラジアル軸受隙間の隙間幅を数μm程度に管理する必要がある。しかしながら、製造時の公差や熱膨張量を考慮すると、上記オーダーでの隙間幅管理を行うことは容易ではない。これに対してフォイル軸受では、トップフォイル(軸受面)自体が弾性変形することによってラジアル軸受隙間の隙間幅が自動調整されるため、ラジアル軸受隙間の隙間幅を数十μm程度に管理すれば足りる。従って、フォイル軸受は、一般的な動圧軸受に比べ、製造や軸受隙間の隙間幅管理を容易化できるという利点も有する。
【0007】
なお、以上で述べたフォイル軸受の利点は、スラスト荷重を支持するタイプのフォイル軸受においても同様に享受される。
【0008】
ところで、特に回転軸の低速回転時には、軸受隙間に形成される空気膜の剛性(圧力)が十分に高まっていないため、両軸受面が繰り返し摺動接触する。このような摺動接触に伴う軸受面の摩耗や回転トルクの上昇を可及的に防止するため、両軸受面の少なくとも一方に、ニッケルめっきやクロムめっき等の耐摩耗性に優れた被膜、あるいは、二硫化モリブデン、黒鉛、フッ素樹脂等の固体潤滑剤を分散しためっき被膜や樹脂コーティング等の潤滑性の良い被膜を設けることも検討されている(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のフォイル軸受をはじめとする各種のフォイル軸受は、一層の低トルク化や長寿命化を実現することが求められている。しかしながら、両軸受面の少なくとも一方に上記のような被膜を形成しても、このような要請への対応策としては不十分であることが判明した。
【0011】
そこで、本発明は、一層の低トルク化、さらには長寿命化を図ることのできるフォイル軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、静止側部材又は回転側部材の何れか一方が、可撓性を有する金属薄板で形成されたトップフォイルと、トップフォイルを弾性的に支持する弾性支持部とを備え、回転側部材の回転に伴ってトップフォイルに設けた第1軸受面とこれに対向する他方の部材の第2軸受面との間の軸受隙間に空気膜が形成され、その圧力で回転側部材が支持されるフォイル軸受において、第1軸受面と第2軸受面との間に潤滑性を有する粉体が介在しており、トップフォイルは、少なくともその一部が空気膜の圧力に応じて軸受隙間の幅方向に弾性変形することにより、上記粉体を保持可能な保持部が形成される第1状態と、上記保持部が実質的に消滅する第2状態との間を相互に移行し、かつ、空気膜の圧力上昇に伴って上記第2状態から上記第1状態に移行することを特徴とする。
【0013】
なお、本発明でいう軸受隙間とは、ラジアル軸受隙間あるいはスラスト軸受隙間の別を問わない。すなわち、本発明は、ラジアル荷重を支持するタイプのフォイル軸受、あるいはスラスト荷重を支持するタイプのフォイル軸受の何れにも適用可能である。
【0014】
上記構成によれば、フォイル軸受の起動直後や停止直前時等、軸受隙間に形成される空気膜の圧力が低い状態(混合潤滑域や境界潤滑域)においては、第1軸受面を、第2軸受面ではなく、両軸受面間に介在させた潤滑性を有する粉体(以下「潤滑性粉体」ともいう)と優先的に接触させることができる。これにより、両軸受面間の摩擦力を低減して低トルク化を達成することができ、軸受面同士の摺動接触による軸受面の局所的な温度上昇、およびこれに伴う軸受面の変形や焼付きを効果的に防止することができる。また、一般的なフォイル軸受の停止時、両軸受面は、通常、少なくとも一部が接触状態にあることから、軸受の運転開始後、定常回転状態(流体潤滑域)に至るまでに大きなエネルギーが必要となる。これに対し、本発明に係るフォイル軸受の停止時には、トップフォイルが、上記保持部が実質的に消滅した第2状態にある関係上、両軸受面間に介在させた潤滑性粉体がスペーサとして機能し、両軸受面間の摩擦力を減じるだけでなく、両軸受面間に空間を作ることで軸受面間に空気を引き込み易くなる。そのため、軸受の運転開始後、大きなエネルギーを必要とすることなく、迅速に定常回転状態を実現することができる。従って、始動トルクを大幅に減じることができる他、回転側の部材を非接触支持するのに必要となる回転速度が下がるので、両軸受面への負荷が減じられて耐久性が向上する。
【0015】
両軸受面間に介在する潤滑性粉体は、回転側部材の定常回転時、すなわちトップフォイルが第1状態にあるときにおいてもその全てが保持部で保持されるわけではなく、少なくとも一部が潤滑流体(空気)と共に軸受隙間内を流動するか、もしくは両軸受面の何れか一方に付着した状態にあると考えられる。そのため、定常回転時に何らかの拍子に軸受面同士が摺動接触した場合でも、軸受面の局所的な温度上昇、およびこれに伴う軸受面の変形や焼付きを効果的に防止することができる。また、本発明に係るフォイル軸受の起動・停止が繰り返されると、潤滑性粉体と軸受面との摺動接触や両軸受面による潤滑性粉体の加圧等が繰り返され、その結果、潤滑性粉体は両軸受面の何れか一方又は双方に付着・堆積して潤滑性に優れた被膜を形成すると考えられる。これにより、全ての潤滑域(回転速度域)において低トルク化を実現することができる。以上より、一層低トルクで長寿命のフォイル軸受を実現することができる。
【0016】
ここで、本発明のように潤滑性粉体の保持/非保持の切り替え機能をトップフォイルに付与することなく、単に両軸受面間に潤滑性粉体を介在させておくだけでもフォイル軸受の低トルク化等を実現できると考えられる。しかしながら、両軸受面間に過剰に潤滑性粉体が介在していると、軸受隙間内の潤滑流体(空気)に占める潤滑性粉体の体積比率が増大する分、特に定常回転時に軸受隙間に形成される空気膜の剛性低下、すなわち支持能力低下を招来する可能性がある。また、多量の粉体が一度に軸受隙間に入り込むことで、軸受面に噛みこみ、軸受機能そのものに悪影響を及ぼすことが考えられる。そのため、本発明のように、定常回転時(流体潤滑域)においては潤滑性粉体を保持して軸受隙間への潤滑性粉体の供給量を制限できる一方で、主に、軸受の停止〜低速回転状態(混合潤滑域・境界潤滑域)においては十分量の潤滑性粉体を両軸受面間に介在させ得るような機能をトップフォイルに付与しておけば、定常回転時における支持能力低下を招来することなく、低速回転時等における十分な低摩擦化・低トルク化を実現することができる。そして、トップフォイルは可撓性を有する金属薄板で形成され、空気膜の圧力に応じて任意に弾性変形させ得ることから、例えば弾性支持部の形状等を適宜調整するだけで上述の作用効果を容易かつ有効に享受することができる。
【0017】
潤滑性粉体としては、例えば、両軸受面の摺動接触に伴ってトップフォイルおよび他方の部材(例えば軸)の母材の少なくとも一方が摩耗することにより生じた摩耗粉の酸化物を使用することができる。但し、この場合、フォイル軸受の使用開始段階(新品のフォイル軸受の使用初期)においては、両軸受面間に潤滑性粉体が介在せず、無潤滑の状態で両軸受面が摺動接触するので、始動トルクや低速回転時における回転トルクが高くなる他、軸受隙間を形成する二部材(例えば、トップフォイルおよび軸)の母材が激しく摩耗する可能性がある。このような問題を可及的速やかに解消する、あるいは上記問題の発生を回避するための技術手段としては、以下の(1)〜(3)の少なくとも一つを採用することが考えられる。
(1)両軸受面の少なくとも一方に、他方の軸受面側に突出した突起部を設ける。
(2)潤滑性粉体に、トップフォイルおよび他方の部材の母材の摩耗粉とは異なる固体潤滑剤を含める。
(3)第1軸受面と第2軸受面の少なくとも一方を母材上に形成した潤滑被膜に設ける。
【0018】
すなわち、上記(1)の構成を採用すれば、軸受面同士の接触面積が減じられて低トルク化を達成できる他、両軸受面の摺動接触時においては突起部に高面圧が作用して早々に微小な摩耗粉が発生するため、両軸受面間に潤滑性粉体を迅速に介在させることが可能となる。また、上記(2)の構成を採用すれば、フォイル軸受の使用開始段階から両軸受面間に潤滑性粉体を介在させることができるので、フォイル軸受の使用開始段階における始動トルクや低速回転時における回転トルクを減じることができる他、母材の摩耗もマイルド摩耗となり、発生する摩耗粉の酸化物も潤滑性粉体として機能する。また、上記(3)の構成を採用すれば、潤滑被膜が摩耗することによって潤滑性粉体を生成することができるので、フォイル軸受の使用開始段階における始動トルクや低速回転時における回転トルクを減じることができる他、母材の摩耗もマイルド摩耗となり、発生する摩耗粉の酸化物も潤滑性粉体として機能する。
【0019】
本発明に係るフォイル軸受は、以上のような特徴を有することから、ターボ機械(例えば、ガスタービンやターボチャージャ)のロータ等、高速回転する回転側部材の支持用軸受として好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上より、本発明によれば、一層の低トルク化、さらには長寿命化を達成することのできるフォイル軸受を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1に、ターボ機械の一例として、マイクロガスタービンと称されるガスタービン装置の構成を概念的に示す。このガスタービン装置は、主要な構成として、翼列を形成したタービン1と、圧縮機2と、発電機3と、燃焼器4と、再生器5とを備え、タービン1および圧縮機2は、水平方向に延びる軸6に取り付けられて軸6と共に回転側のロータを構成する。軸6の軸方向一端は発電機3に連結されている。このマイクロガスタービンが運転されると、吸気口7から空気が吸入され、吸入された空気は、圧縮機2で圧縮されると共に再生器5で加熱された上で燃焼器4に送り込まれる。燃焼器4は、圧縮・加熱された空気に燃料を混合してこれを燃焼させることにより高温・高圧のガスを発生させ、このガスによりタービン1を回転させる。タービン1が回転すると、その回転力が軸6を介して発電機3に伝達され、発電機3が回転駆動される。発電機3が回転駆動することにより生じた電力は、インバータ8を介して出力される。タービン1を回転させた後のガスは比較的高温であるため、このガスを再生器5に送り込んで燃焼前の圧縮空気との間で熱交換を行うことで、燃焼後のガスの熱を再利用する。再生器5で熱交換を終えたガスは、排熱回収装置9を通ってから排ガスとして排出される。
【0024】
図2に、
図1に示したマイクロガスタービンにおけるロータの支持構造の一例を概念的に示す。この支持構造では、軸6の軸方向に離間した二箇所にラジアル軸受10が配置され、軸6に設けたフランジ部6bの軸方向両側にスラスト軸受30,30が配置される。これらラジアル軸受10およびスラスト軸受30により、軸6がラジアル方向およびスラスト両方向に回転自在に支持される。この支持構造において、タービン1と圧縮機2の間の領域は、高温・高圧のガスで回転されるタービン1に隣接している関係上高温雰囲気となる。加えて、軸6は、数万rpm以上の回転速度で回転する。そのため、この支持構造で使用する軸受10,30としては、空気動圧軸受、特にフォイル軸受が適合する。
【0025】
以下、本発明の実施の形態であって、上記のマイクロガスタービン用のラジアル軸受10に適合するフォイル軸受を図面に基づいて説明する。なお、以下では、ラジアル軸受10に適合するフォイル軸受を「フォイル軸受10」という。
【0026】
図3に、本発明の一実施形態に係るフォイル軸受10の軸直交断面図を示す。同図に示すフォイル軸受10は、バンプ型とも称されるものであり、図示しないケーシングの内周に固定される円筒状の外方部材11と、鉄系の金属材料で形成され、外方部材11の内周に挿入された軸6と、外方部材11の内周に保持(固定)されたトップフォイル12およびバックフォイル13とを備える。本実施形態では、外方部材11と、外方部材11に保持されたトップフォイル12およびバックフォイル13とが静止側部材10Aを構成し、軸6が回転側部材10Bを構成する。トップフォイル12の内周面12aには第1軸受面Aが設けられ、軸6の外周面6aには、軸6の回転時に、第1軸受面Aとの間にくさび状のラジアル軸受隙間Cを形成する第2軸受面Bが設けられる。本実施形態において、両軸受面A,Bは、何れも、微小な凹凸のない平滑面に形成されている。
【0027】
トップフォイル12は、例えば、厚さ20〜200μm程度の可撓性を有する鉄系金属の帯板を丸めることによって周方向で有端の円筒状に形成され、その周方向一端部に形成した折り曲げ部12bを外方部材11の溝部11aに嵌合することで外方部材11に保持されている。また、バックフォイル13は、トップフォイル12と同様に、厚さ20〜200μm程度の可撓性を有する鉄系金属の帯板を丸めることによって周方向で有端の円筒状に形成され、その周方向一端部に形成した折り曲げ部13aを外方部材11の溝部11aに嵌合することで外方部材11に固定されている。バックフォイル13は、トップフォイル12を弾性的に支持する弾性支持部14を有し、図示例の弾性支持部14は円弧状の凸部14aおよび凹部14bを周方向で交互に配して構成されている。
【0028】
図示は省略するが、トップフォイル12およびバックフォイル13には、外方部材11からの抜けを防止するため抜け止め手段を設けても良い。抜け止め手段としては、例えば、外方部材11の端面と軸方向で係合するフランジ部を採用できる。また、フォイル部材としては、トップフォイル12とバックフォイル13が一体的に設けられたものを用いることもできる。
【0029】
軸6の回転方向は、トップフォイル12およびバックフォイル13の周方向一端部と周方向他端部との間の周方向隙間の隙間幅が拡大する方向とされる。すなわち、
図3に示すフォイル軸受10は、同図中に黒塗り矢印で示すように、時計回りに回転する軸6を支持する。
【0030】
以上の構成からなるフォイル軸受10において、軸6が回転すると、トップフォイル12の内周面12aに設けた第1軸受面Aと軸6の外周面6aに設けた第2軸受面Bとの間にくさび状のラジアル軸受隙間Cが形成される。そして、軸6の回転速度が上がり、ラジアル軸受隙間Cに生じる空気膜の圧力が十分に高まると、軸6が外方部材11に対してラジアル方向に回転自在に非接触支持される。
【0031】
軸6の回転中には、可撓性を有するトップフォイル12が、第1軸受面Aに作用する荷重(空気膜の圧力)や周辺温度等が変化するのに応じて適宜弾性変形するため、ラジアル軸受隙間Cの隙間幅が運転条件に応じた適正幅に自動調整される。このような隙間幅の自動調整機能により、軸6の回転が安定的に支持される。なお、
図3においては理解の容易化のためラジアル軸受隙間Cの隙間幅を誇張して描いている。
【0032】
また、トップフォイル12がバックフォイル13に設けた弾性支持部14によって弾性的に支持されていること、トップフォイル12とバックフォイル13(弾性支持部14)、さらにはバックフォイル13と外方部材11が互いに摺動可能であること、などの理由から、ラジアル軸受隙間Cの隙間幅の自動調整機能が強化されると共に、軸6の回転に伴って発生する振動を効果的に減衰することができる。そのため、高温・高速回転といった過酷な運転条件でもラジアル軸受隙間Cの隙間幅を適正範囲内に管理することができ、軸6の回転が一層安定的に支持される。
【0033】
このフォイル軸受10では、
図4,5に拡大して示すように、第1軸受面Aと第2軸受面Bとの間(ラジアル軸受隙間C)に潤滑性を有する粉体16(以下、「潤滑性粉体16」という)が介在している。潤滑性粉体16は、軸6およびトップフォイル12の母材とは異なる材料からなり、かつフォイル軸受10が使用される高温雰囲気下で溶融・分解等しないものが使用され、本実施形態では酸化鉄粉末が使用される。潤滑性粉体16としての酸化鉄粉末は、フォイル軸受10の運転開始後、軸6が定常回転状態に至るまでの間に、両軸受面A,Bが繰り返し摺動接触するのに伴ってトップフォイル12および軸6の少なくとも一方の母材が摩耗することで生じた金属の摩耗粉(鉄系粉末)がラジアル軸受隙間C内の空気に触れて酸化したものである。
【0034】
また、このフォイル軸受10において、トップフォイル12は、少なくともその一部がラジアル軸受隙間Cに生じる空気膜の圧力に応じて軸受隙間の幅方向(本実施形態では径方向)に弾性変形することにより、両軸受面A,B間に介在する潤滑性粉体16を保持可能な保持部17が形成される第1状態(
図5参照)と、保持部17が実質的に消滅する第2状態(
図4参照)との間を相互に移行し、かつ、空気膜の圧力上昇に伴って第2状態から第1状態に移行する(空気膜の圧力低下に伴って第1状態から第2状態に移行する)ように構成されている。
【0035】
より詳細に述べると、軸6の定常回転時のように、ラジアル軸受隙間Cに生じる空気膜の圧力が十分に高まった状態では、空気膜の圧力を受けてトップフォイル12(第1軸受面A)の少なくとも一部(ここでは、弾性支持部14を構成する凹部14bの内径側に配置される部分)が径方向外向きに弾性変形することによって凹状の保持部17が形成され、この保持部17にて両軸受面A,B間に介在させた潤滑性粉体16が保持される(
図5参照)。一方、軸6の停止状態や、軸6の起動直後・停止直前時のように軸6の回転速度が十分に上がらず、ラジアル軸受隙間Cに生じる空気膜の圧力が十分に高まっていない状態では、トップフォイル12の第1軸受面Aが平滑な円筒面状をなし(保持部17が実質的に消滅し)、潤滑性粉体16が両軸受面A,B間で自由に分散・浮遊するように構成されている(
図4参照)。
【0036】
従って、以上の構成によれば、ラジアル軸受隙間C内の空気膜の圧力が十分に高まっていない、いわゆる混合潤滑域や境界潤滑域においては、第1軸受面Aを、第2軸受面Bではなく、両軸受面A,B間に介在させた潤滑性粉体16と優先的に接触させることができる。これにより、両軸受面A,B間の摩擦力を低減して低トルク化を達成することができる。また、軸受面A,B同士の摺動接触による両軸受面A,Bの局所的な温度上昇、およびこれに伴う両軸受面A,Bの変形や焼付きも効果的に防止することができる。なお、両軸受面A,B間に介在させる潤滑性粉体16の平均粒径は、両軸受面A,Bの表面粗さ(JIS B 0601に規定の算術平均粗さ)以上で、かつ軸6の定常回転時(流体潤滑域)にラジアル軸受隙間Cに形成される空気膜の厚さ以下とするのが好ましい。
【0037】
また、一般的なフォイル軸受の停止時、静止側部材と回転側部材(両軸受面A,B)は、通常、少なくとも一部が接触状態にあることから、軸受の運転開始後、定常回転状態に至るまでに大きなエネルギーが必要となる。これに対し、本発明に係るフォイル軸受10の停止時には、トップフォイル12が両軸受面A,B間で潤滑性粉体16を自由に分散・浮遊させ得る第2状態(
図4参照)にある関係上、両軸受面A,B間に介在させた潤滑性粉体16がスペーサとして機能するため、両軸受面間の摩擦力を減じるだけでなく、両軸受面A,B間に空間を作ることで軸受面A,B間に空気を引き込み易くなる。そのため、フォイル軸受10の運転開始後、大きなエネルギーを必要とすることなく、迅速に定常回転状態を実現することができる。従って、始動トルクを大幅に減じることができる他、軸6を非接触支持するのに必要となる回転速度が下がるので、両軸受面A,Bへの負荷が減じられて耐久性が向上する。
【0038】
潤滑性粉体16は、軸6の定常回転時、すなわちトップフォイル12が第1状態(
図5参照)にあるときにもその全てが保持部17で保持されるわけではなく、少なくとも一部が両軸受面A,Bの何れか一方又は双方に付着し、あるいはラジアル軸受隙間C内で浮遊・流動していると考えられる。特に、このフォイル軸受10では、潤滑流体として、潤滑油等の液体に比べて粘性が小さい空気を採用しているので、軸受面A,Bに付着した潤滑性粉体16が潤滑流体の流動力を受けたとしても、潤滑性粉体16が軸受面A,Bから剥離等し難い。そのため、軸6の定常回転時に何らかの拍子で軸受面A,B同士が摺動接触した場合でも、両軸受面A,Bの局所的な温度上昇、およびこれに伴う両軸受面A,Bの変形や焼付きを効果的に防止することができる。また、本発明に係るフォイル軸受10では、その起動・停止が繰り返されると、潤滑性粉体16と両軸受面A,Bとの摺動接触や、両軸受面A,Bによる潤滑性粉体16の加圧等が繰り返されるため、潤滑性粉体16は両軸受面A,Bの何れか一方又は双方に付着・堆積して潤滑被膜を形成すると考えられる。これにより、全ての潤滑域(回転速度域)において低トルク化を実現することができる。従って、一層低トルクで長寿命のフォイル軸受10を実現することができる。
【0039】
ここで、本発明のように潤滑性粉体16の保持/非保持の切り替え機能をトップフォイル12に付与することなく、単に両軸受面A,B間に潤滑性粉体16を介在させておくだけでもフォイル軸受10の低トルク化等を実現することができる。しかしながら、両軸受面A,B間に過剰に潤滑性粉体16が介在していると、ラジアル軸受隙間C内の空気に占める潤滑性粉体16の体積比率が増大する分、特に定常回転時にラジアル軸受隙間Cに形成される空気膜の剛性低下、すなわち支持能力低下を招来する可能性がある。また、多量の潤滑性粉体16が一度にラジアル軸受隙間Cに入り込むと、軸受面A,Bが潤滑性粉体16を噛み込んでしまい、軸受機能そのものに悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、
図5に示すように、定常回転時(流体潤滑域)においては潤滑性粉体16を保持部17で保持し、ラジアル軸受隙間Cへの潤滑性粉体16の供給量(分散量)を制限できる一方で、
図4に示す軸受の停止〜低速回転状態(混合潤滑域・境界潤滑域)においては十分量の潤滑性粉体16を両軸受面A,B間に介在させ得るような機能をトップフォイル12に付与するのが好ましい。このような構成であれば、定常回転時における支持能力低下を招来することなく、低速回転時等における十分な低摩擦化・低トルク化を実現することができるからである。そして、トップフォイル12は可撓性を有する金属薄板で形成され、空気膜の圧力等に応じて任意に弾性変形可能であることから、弾性支持部14の形状等を適宜調整するだけで上述の作用効果を容易かつ有効に享受することができる。
【0040】
以上、本発明に係るフォイル軸受10の一実施形態について説明を行ったが、フォイル軸受10には、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更を施すことが可能である。
【0041】
例えば、以上で説明した実施形態のように、潤滑性粉体16として、トップフォイル12や軸6の母材である鉄系金属の摩耗粉の酸化物粉末のみを使用する場合、新品のフォイル軸受10の使用開始段階では、両軸受面A,B間に潤滑性粉体16が介在しないことになるので、始動トルクや低速回転時における回転トルクはどうしても高くなる。このような問題を可及的速やかに解消するため、両軸受面A,Bの少なくとも一方に、他方の軸受面側に突出した微小な突起部を設けても良い。
図6(a)は、その一例であり、トップフォイル12の第1軸受面Aに微小な突起部18を複数設けている。
【0042】
このようにすれば、軸受面A,B同士の接触面積が減じられて低トルク化を達成することができる他、両軸受面A,B間に空間が形成される分、両軸受面A,B間に空気を引き込み易くなるので、始動トルクを減じることが可能となる。また、両軸受面A,Bの摺動接触時においては、突起部18に高面圧が作用するので、迅速に摩耗粉、ひいては潤滑性粉体16を両軸受面A,B間に介在させることが可能となる[
図6(b)を参照]。なお、突起部18の高さや設置数を調整すれば、両軸受面A,B間に介在させるべき潤滑性粉体16(摩耗粉の酸化物からなる潤滑性粉体16)の粒径や量をコントロールすることができる。
【0043】
また、図示は省略するが、第1軸受面Aと第2軸受面Bの少なくとも一方を、母材上(母材表面)に形成した潤滑被膜に設けても良い。すなわち、トップフォイル12の内周面12aおよび軸6の外周面6aのうち、少なくとも一方のラジアル軸受隙間Cと対峙する部分に潤滑被膜を設け、この潤滑被膜で軸受面を構成しても良い。このようにすれば、特に、軸6およびトップフォイル12が同種材料で形成され、かつ両軸受面A,B間に潤滑性粉体16が介在していないフォイル軸受10の使用開始段階で両軸受面A,Bが繰り返し摺動接触した場合でも、両軸受面A,Bが激しく摩耗し、両者の摺動接触部で凝着等の致命的な不具合が生じるのを効果的に防止することができる。なお、上記の潤滑被膜には特段の耐摩耗性は必要とされず、早期に摩耗するものであっても構わない。潤滑被膜の摩耗粉が潤滑作用を示すことから、軸6およびトップフォイル12の母材が摩耗したとしても、その摩耗はマイルド摩耗となって凝着に至るような事態は回避され、マイルド摩耗により発生した母材の微小な摩耗粉は直ちに酸化し、潤滑性粉体16として機能する。
【0044】
従って、潤滑被膜としては、種々のものを採用でき、例えば、摩耗粉が生じたときにこの摩耗粉が潤滑性粉体16として機能するような粉体(例えば、二硫化モリブデン粉、二硫化タングステン粉等に代表される一般的に入手可能な固体潤滑剤粉、酸化鉄粉末など)を一種又は複数種分散させた比較的軟質のコーティング被膜の他、DLC被膜等の耐摩耗性に優れた被膜を採用することができる。但し、DLC被膜を形成する場合には、金属薄板で形成されるトップフォイル12の内周面12aではなく、軸6の外周面6aに形成するのが好ましい。被膜形成時における母材の熱変形を防止するためである。このように、両軸受面A,Bの何れか一方を母材表面に形成した潤滑被膜に設ける場合においても、両軸受面A,Bの少なくとも一方に、他方の軸受面側に突出した微小な突起部18[
図6(a)参照]を設けることができる。
【0045】
また、図示は省略するが、両軸受面A,B間に介在させる潤滑性粉体16は、トップフォイル12および軸6の母材の摩耗粉とは異なる固体潤滑剤粉を含むものとしても良い。すなわち、使用開始前のフォイル軸受10(新品のフォイル軸受10)の両軸受面A,B間に、予め固体潤滑剤粉を介在させておいても良い。このようにすれば、新品のフォイル軸受10の使用開始段階から両軸受面A,B間に潤滑性粉体16を介在させることができるので、前述の作用効果を有効に享受することができる。この場合に使用する固体潤滑剤粉に特段の制約はないが、その平均粒径が、両軸受面A,Bの表面粗さ(JIS B 0601に規定の算術平均粗さ)以上で、かつ定常回転時にラジアル軸受隙間Cに形成される空気膜の厚さ以下のものを使用するのが好ましい。
【0046】
上記のように、両軸受面A,B間に予め固体潤滑剤粉を介在させる場合、その硬度がトップフォイル12や軸6の母材硬度よりも高ければ、固体潤滑剤粉が砥粒として機能し、母材の摩耗粉、ひいてはその酸化物粉末(潤滑性粉体16)の生成が促進される。一方、固体潤滑剤粉の硬度がトップフォイル12や軸6の母材と同程度、あるいは母材よりも低ければ、フォイル軸受10の使用開始段階から低トルク化を実現できるという利点がある。以上から、この場合に使用する固体潤滑剤粉に特段の制約はなく、例えば、酸化鉄(Fe
2O
3)やアルミナ(Al
2O
3)等の金属酸化物の粉末、二硫化モリブデン(MoS
2)や二硫化タングステン(WS
2)等の硫化物の粉末、銅(Cu)、銀(Ag)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)等の軟質金属の粉末、黒鉛粉に代表される炭素系粉末を使用することができる。以上で例示した固体潤滑剤粉は、一種のみを用いても良いし、複数種混合して使用しても良い。
【0047】
以上では、バンプ型と称されるフォイル軸受10に本発明を適用したが、本発明は、いわゆるリーフ型のフォイル軸受にも好ましく適用することができる。
図7は、ラジアル荷重を支持するリーフ型のフォイル軸受10の一例を示すものであり、外方部材11と、外方部材11に固定された複数(図示例では8枚)のリーフ20とで静止側部材10Aが構成される。各リーフ20は、外方部材11の溝部11aに固定される折り曲げ部23を備えた後端22と、後端22から周方向に離間し、自由端となった前端21とを有し、各リーフ20の前端21を含む領域がトップフォイル12として機能すると共に、各リーフ20の後端22を含む領域が弾性支持部14として機能する。そして、軸6が回転すると、各リーフ20の前端20a側の内径面に設けられた第1軸受面Aと、これに対向する軸6の外周面6a(第2軸受面B)との間にくさび状のラジアル軸受隙間Cがそれぞれ形成され、各ラジアル軸受隙間Cに生じる空気膜の圧力で軸6がラジアル方向に支持される。
【0048】
図7に示すリーフ型のフォイル軸受10では、ラジアル軸受隙間Cに生じる空気膜の圧力が高まると、リーフ20の前端21側(トップフォイル12)が、軸6の回転方向前方側に隣接したリーフ20の後端22側に押し付けられるようにして径方向外側に弾性変形し、両軸受面A,B間に介在させた潤滑性粉体16(図示せず)を保持可能な保持部17が形成される第1状態となる[
図8(b)参照]。一方、ラジアル軸受隙間Cに生じる空気膜の圧力が低くなると、リーフ20の前端21側が径方向内向きに弾性変形して保持部17が実質的に消滅する第2状態へと移行する[
図8(a)参照]。すなわち、このリーフ型のフォイル軸受10においても、主に
図3〜
図5に示したバンプ型のフォイル軸受10と同様に、トップフォイル12として機能する各リーフ20の前端21は、ラジアル軸受隙間Cに生じる空気膜の圧力に応じてラジアル軸受隙間Cの幅方向(径方向)に弾性変形することにより、潤滑性粉体16を保持可能な保持部17を形成する第1状態と、保持部17が実質的に消滅する第2状態との間を相互に移行し、かつ、空気膜の圧力上昇に伴って第2状態から第1状態へと移行する。
【0049】
従って、両軸受面A,B間に潤滑性粉体16を介在させておけば、
図3等に示したバンプ型のフォイル軸受10と同様に、低トルク化および長寿命化を同時に達成することができる。詳細な図示および説明は省略するが、
図7に示すフォイル軸受10においても、潤滑性粉体16としては、両軸受面A,Bの摺動接触に伴ってトップフォイル12(リーフ20)および軸6の母材の少なくとも一方が摩耗することにより生じた摩耗粉の酸化物(のみ)を用いても良いし、リーフ20および軸6の母材の摩耗粉とは異なる固体潤滑剤粉を含むものを使用しても良い。また、両軸受面A,Bの少なくとも一方に、他方の軸受面側に突出した微小な突起部18[
図6(a)参照]を設けても良いし、両軸受面A,Bの少なくとも一方を母材上に形成した潤滑被膜に設けても良い。要するに、
図7に示すようなリーフ型のフォイル軸受10においても、
図3等に示すバンプ型のフォイル軸受10で採用し得る任意の構成を採用することができる。
【0050】
また、各リーフ20には、
図8(a)(b)に示すように、ラジアル軸受隙間Cに生じる空気膜の圧力上昇に伴って(リーフ20の前端21側が径方向外側に弾性変形するのに伴って)隣接する2つのリーフ20,20間に形成される保持部17に、両軸受面A,B間に介在する潤滑性粉体16を積極的に引き込み得るような引き込み部24を設けても良い(引き込み力が作用する様子を
図8(b)中に黒塗り矢印で示す)。図示例では、リーフ20の後端22側に形成したV字状の切欠き(より詳細には、軸6の回転方向前方側に向けて幅寸法が徐々に縮小したV字状の切欠き)で引き込み部24を構成している。
【0051】
以上では、トップフォイル12および弾性支持部14を、静止側部材10Aを構成する外方部材11に設けたフォイル軸受10に本発明を適用したが、本発明は、トップフォイル12および弾性支持部14が回転側部材10Bを構成する軸6に設けられるフォイル軸受10にも好ましく適用することができる(図示省略)。また、本発明は、外方部材11が回転側部材10Bを構成すると共に、軸6が静止側部材10Aを構成するフォイル軸受10に適用することもできる(図示省略)。
【0052】
また、図示は省略するが、本発明は、以上で説明したようなラジアル荷重を支持するタイプのフォイル軸受10のみならず、スラスト荷重を支持するタイプのフォイル軸受(例えば、
図2に示すスラスト軸受30)にも適用可能である。
【0053】
さらに、本発明に係るフォイル軸受は、マイクロガスタービン等のターボ機械のロータ支持用途のみならず、他の回転体を支持する用途にも好ましく使用できる。
【実施例】
【0054】
新品のフォイル軸受を試験体として準備し、トップフォイルの内周面と軸の外周面との間(両軸受面間)に固体潤滑剤粉を予め介在させてから当該フォイル軸受を所定時間運転することにより、両軸受面間に介在させる固体潤滑剤粉の種類によって軸受面(母材)の摩耗量にどの程度の差が生じるのかを確認・調査した。その調査結果を
図9に示す。なお、この確認試験では、フォイル軸受を構成するトップフォイル、およびその内周に挿入される軸として、何れも鉄系金属材料で形成されたものを使用した。また、固体潤滑剤粉としては、アルミナ、酸化鉄、銅、銀、二硫化モリブデンの粉末を準備した。
【0055】
まず、上記した何れの固体潤滑剤粉を用いた場合でも、トップフォイルは軸との摺動接触によって破損等の致命的な欠陥が生じることはなく、母材の摩耗量(摩耗粉の総重量)を、フォイル軸受の軸受性能に悪影響を及ぼさない範囲に抑えることができた。
【0056】
次に、上記した5種類の固体潤滑剤粉のうち、銅粉末を使用した場合には、アルミナ粉末を用いた試験体の一部で生じた不安定挙動(回転トルクの変動等)がほとんど生じなかった。その理由は、第1に、銅がアルミナよりも摺動特性に優れる分、軸とトップフォイルの摺動接触部(軸受面同士の摺動接触部)における摩擦力の低減に有効に寄与した結果、軸の回転精度が迅速に安定したためと考えられる。また、第2に、軸とトップフォイルの摺動接触部における摩擦力が減じられる分、トップフォイルや軸の母材の摩耗はいわゆるマイルド摩耗となって、トップフォイルや軸から発生する摩耗粉の粒径が相対的に小さくなったこと、を挙げることができる。すなわち、摩耗粉の粒径が小さくなるほど、潤滑性粉体として機能する摩耗粉の酸化物粉末の生成速度が速まるため、軸の回転精度が迅速に安定すると考えられる。従って、フォイル軸受の両軸受面間に固体潤滑剤粉を予め介在させる場合、軟質金属の粉末(特に銅粉末)は、フォイル軸受の低トルク化および長寿命化を図る上で有効と言える。
【0057】
なお、
図9からも明らかなように、母材の摩耗量は、固体潤滑剤粉として酸化鉄粉末を使用した場合が最も少なくなった。この試験では、トップフォイルおよび軸として、鉄系金属材料で形成したものを用いているので、固体潤滑剤粉として両軸受面間に予め介在させた酸化鉄粉末は、トップフォイルや軸の母材の摩耗粉が酸化することで生成される潤滑性粉体と同種の粉末である。従って、両軸受面の低摩擦化、すなわちフォイル軸受の低トルク化および長寿命化を図る上では、トップフォイルや軸の母材の酸化物が特に有効に寄与すると言える。
【0058】
本確認試験では、固体潤滑剤粉を両軸受面間に介在させたが、例えば、両軸受面の少なくとも一方を、固体潤滑剤粉を分散させた潤滑被膜で構成した場合も、上記同様の作用効果を享受し得ると考えられる。