(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、風力発電や太陽光発電、太陽熱発電などの再生可能エネルギーの普及が促進されている。より大電力を再生可能エネルギーでまかなうために、洋上風力発電や、砂漠地帯での太陽光、太陽熱発電が検討され始めている。
【0003】
洋上風力発電においては、発電された電力を消費地である都市まで海底ケーブルで大電力送電する必要があり、また太陽光発電、太陽熱発電では、アフリカや中国奥部の砂漠地帯から、ヨーロッパや沿岸地帯の大都市まで大電力を長距離にわたって高効率に送電することが必要になる。
【0004】
このような長距離送電の要求には、従来の3相交流による電力送電よりも、直流送電のほうが高効率で、コストを抑えながら設置することが可能になるため、直流送電網の構築が検討され始めている。
【0005】
直流送電においては、発電された交流電力を直流送電用の直流に変換するコンバータや、送電されてきた直流を都市内の交流に変換するインバータなどの電力変換装置が必要になる。交流系統にコンバータ、インバータのスイッチングに伴う高調波が流出しないように、正弦波に近い電圧波形を出力することができるモジュラーマルチレベル変換器回路などの検討や実用化が進められている。
【0006】
直流送電システムは、従来の交流送電システムに比べて、長距離大電力送電に適用した場合に、低コストで設置が可能で、送電損失が少ない高効率システムを構築することが可能であるが、その反面、落雷などに起因した系統事故が発生した個所を遮断することが難しい。
【0007】
交流システムにおいては、交流電流が交流周波数50[Hz]または60[Hz]の半サイクル毎にゼロ電流を横切るタイミングで、機械接点式の遮断器により高速に電流遮断ができるのに対して、直流電流では電流がゼロを横切るタイミングがないので、機械式接点では電流を容易に遮断できない。半導体素子を介して電流を遮断する方法もあるが、送電線には常に大電流が流れるため、当該半導体素子での大きな導通損失が定常的に消費されることになる。
【0008】
電力送電網を構築する場合、事故発生点を短時間のうちに送電網から切り離して健全な送電網だけで運転を継続することが求められており、そのために
図6に示すような直流電流遮断装置が提案されている。(特許文献1)
図6(A)は直流電流遮断装置4の回路構成を示す図、
図6(B)は
図6(A)中の転流回路(H)31の具体的な回路素子構成を示す図である。
【0009】
この
図6においては直流送電線路の正極線のみを図示しており、負極線は省略している。以後、図においては正極線のみを示し、負極線は省略するものとする。
【0010】
この直流電流遮断装置4は、2つの機械接点式電流断路器21による直列回路2を、2つ並列に接続し、その中点同士を転流回路31による結線回路3で接続した回路構成である。
【0011】
さらに転流回路31は、コンデンサを直流電圧源とした単相フルブリッジ構成である。直流電流遮断装置4は直流送電網の送電線11中の所要個所に直列に挿入される。
【0012】
この直流電流遮断装置4によれば、定常動作時には、全ての機械接点式電流断路器21は前記
図6(A)の状態とは反対にオンにする。この定常動作時において、通常の直流電流は機械接点式電流断路器21を通って流れる。
【0013】
系統事故発生時には、対角上の2つの機械接点式電流断路器21をオフにし、電流は2つのオンを維持する機械接点式電流断路器21を用いて、機械接点式電流断路器21、転流回路31、機械接点式電流断路器21と流れるようにする。そして転流回路31が流れる電流をゼロに制御し、機械接点式電流断路器21に流れる電流がゼロとなった瞬間に残る2つの機械接点式電流断路器21をオフにする。これにより事故電流は遮断される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る直流電流遮断装置の構成を示す図である。
図1(A)に示すように直流電流遮断装置は、3本の直流送電線11,12,13が電気的に結合する結合点に設けられる。直流送電線11,12,13それぞれの線路を互いに、2つの機械接点式電流断路器21からなる直列回路2で接続する。これら3つの直流送電線11,12,13の結合点において、直列回路2は線路上の点a,b,cをデルタ結線する構成となる。
【0022】
そして、各直列回路2の2つの機械接点式電流断路器21の中点には、それぞれ転流回路(H)31を含んだ結線回路3の一端が接続され、これら各結線回路3の他端が全て接点jにて互いに接続される。これら結線回路3はスター結線に相当する。
【0023】
図1(B)に示すように、転流回路31はコンデンサを電圧源とした単相フルブリッジ構成である。
前記直列回路2の機械接点式電流断路器21の全てが、ここでは図示しない制御回路により定常動作時及びいずれかの送電線での実行発生時に応じてオン/オフ動作が制御される。
また前記結線回路3の転流回路31も、前記制御回路により出力電圧が制御される。
【0024】
次に、本実施形態に係る直流電流遮断装置の電流遮断時の動作を説明する。
定常動作時は、前記制御回路により全ての直列回路2で機械接点式電流断路器21をオンとさせ、電流が機械接点式電流断路器21を通じて伝送されるようにする。
【0025】
図2(A)に示すように、1本の直流送電線、例えば直流送電線13で事故が発生すると、その直流送電線13に向かって事故電流ifが流れる。事故を検出すると制御回路では、
図2(B)に示すように節点jを挟んだ一対の機械接点式電流断路器2aをオフさせ、事故電流ifが機械接点式電流断路器21、転流回路31、機械接点式電流断路器2bを通じて流れるようにする。
【0026】
ここで制御回路は、転流回路31での事故電流ifがゼロになるよう出力電圧を制御し、電流量を制御させる。そして、ゼロ電流となった時点で、
図2(C)に示すように、前記事故電流ifが流れていた機械接点式電流断路器2bをオフにさせることで、事故が発生した直流送電線13が遮断される。
【0027】
事故が直流送電線13以外の他の系統の直流送電線11または12,13で発生した場合でも、同様に処理を行なうことで、直流送電線11または12で事故が起きた場合でも、事故が起きた直流送電線を切り離すことが可能となる。
【0028】
以上に述べた如く本実施形態によれば、直流送電線11,12,13それぞれに個別に、前記
図6で示した従来の直流電流遮断装置を接続した場合と比較して、直列回路2の構成規模を半分に削減することができ、ひいては全体の部品点数を低減して、低コスト化と小型化とが可能な直流電流遮断装置を実現できる。
【0029】
なお本実施形態及び以下第2の実施形態以下において共通する事項についても述べておく。
【0030】
前記機械接点式電流断路器21に代えて、半導体遮断器でも同様の動作が可能である。
【0031】
前記
図1では、直列回路2において中点を挟んで機械接点式電流断路器21はそれぞれ1つずつ配置されているが、それら直列回路2は機械接点式電流断路器21を中点を挟んでそれぞれ複数直列接続した構成であっても良い。
【0032】
また前記転流回路31は、複数直列接続して結線回路3を構成しても良い。また転流回路31の電流制御方向を限定するのであれば、ハーフブリッジ回路による構成でも構わない。
【0033】
例えば線路a,b,cには、リアクトルが直列に存在していても構わない。このリアクトルにより、事故時に流れる交流電流のピークを抑制すると共に、交流電流の周波数を低くし、ひいては交流電流の傾きを低くすることで、機械接点式電流断路器21での電流遮断を容易にすることもできる。
【0034】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態に係る直流電流遮断装置の構成を示す図である。なお、以下において、前記
図1に示した構成と基本的な考え方は同様であるため、
図1に示す直流電流遮断装置の構成要素と同一または相当する構成要素には、
図1で使用した符号と同一の符号を付して説明するものとする。
【0035】
本実施形態は、4つの直流送電線11〜14の結合点における直流電流遮断装置の構成例である。前記結合点において、直流送電線11〜14それぞれの線路で互いに隣り合う2本の間を、2つの機械接点式電流断路器21からなる直列回路2で接続する。
【0036】
そして、各直列回路2の2つの機械接点式電流断路器21の中点に、それぞれ転流回路(H)31を含んだ結線回路3の一端を接続し、これら各結線回路3の他端を全て接点jにて互いに接続する。
【0037】
転流回路31は、前記
図1(B)で示したようにコンデンサを電圧源とした単相フルブリッジ構成である。
前記直列回路2の機械接点式電流断路器21の全てが、ここでは図示しない制御回路により定常動作時及びいずれかの送電線での実行発生時に応じてオン/オフ動作が制御される。
また前記結線回路3の転流回路31も、前記制御回路により出力電圧が制御される。
【0038】
本直流電流遮断装置の電流遮断動作は、前記第1の実施形態と同様であり、直流送電線11〜14のいずれかで事故が起きた場合でも、事故が起きた直流送電線を短時間で切り離すことが可能である。
【0039】
本実施形態によれば、直流送電線11〜14それぞれに個別に、前記
図6に示した従来の直流電流遮断装置を接続する場合と比較して、直列回路2の構成数を半減させることができ、ひいては部品点数を低減し、低コスト化、小型化が可能な直流電流遮断装置を実現できる。
【0040】
直流送電線がn本であるとき、前記
図6で示した従来の直流電流遮断装置を接続する場合は、機械接点式電流断路器21の直列回路2が2n個必要となる。これに対し、本実施形態では直列回路2はその半分のn個で実現することが可能となる。
【0041】
さらに5本以上の直流送電線の接合点においても、本実施形態と同様に構成することで、従来より部品点数を半減することができる。
【0042】
なお前記
図3では、例えば直流送電線11が直流送電線13,14とそれぞれ直列回路2で接続した構成としているが、直流送電線11〜14は全て等価であるので、直列回路2を介して直流送電線11と接続されるのは、直流送電線12と13、または直流送電線12と14であっても構わない。また他の直流送電線についても同様である。
【0043】
(第3の実施形態)
図4は、第3の実施形態に係る直流電流遮断装置の構成を示す図である。なお、以下において、前記
図1に示した構成と基本的な考え方は同様であるため、
図1に示す直流電流遮断装置の構成要素と同一または相当する構成要素には、
図1で使用した符号と同一の符号を付して説明するものとする。
【0044】
図4(A)に示すように本実施形態における直流電流遮断装置は、3本の直流送電線11,12,13が電気的に結合する結合点において、直流送電線11,12,13それぞれの線路を互いに、リアクトル22と半導体遮断器23からなる直列回路2で接続する。
【0045】
図4(B)に示すように各半導体遮断器23は、2つの半導体スイッチング素子231を逆方向に直列接続して、それと並列にアレスタ232を接続した構成である。
【0046】
3つの直流送電線11,12,13の結合点において、直列回路2は線路a,b,cをデルタ結線する構成となる。そして、直列回路2のリアクトル22と半導体遮断器23との中点には、それぞれ機械接点式電流断路器32を備えた結線回路3の一端が接続され、それら結線回路3の他端は全て接点jにて互いに接続されている。これはスター結線に相当する。
【0047】
前記直列回路2の半導体遮断器23の全てが、ここでは図示しない制御回路により定常動作時及びいずれかの送電線での実行発生時に応じてオン/オフ動作が制御される。
また結線回路3の機械接点式電流断路器32も、前記制御回路によりオン/オフ動作が制御される。
【0048】
次に、本実施形態に係る直流電流遮断装置の電流遮断時の動作を説明する。
定常動作時は、前記制御回路により全ての機械接点式電流断路器32をオンとする一方で、全ての半導体遮断器23はオフとし、電流が機械接点式電流断路器32とリアクトル22を通じて伝送されるものとする。
【0049】
直流送電線で事故が発生すると、事故が発生した直流送電線に向かって事故電流ifが流れる。制御回路は事故を検出すると、事故が起きた直流送電線につながる半導体遮断器23をオンにする。すると事故電流ifは、事故が起きた直流送電線につながるリアクトル22と機械接点式電流断路器32から、オンにした半導体遮断器23に転流する。その時、当該機械接点式電流断路器32がゼロ電流となるタイミングが生じるので、その瞬間に制御回路により当該機械接点式電流断路器32をオフにする。次に、事故電流が転流した半導体遮断器23をオフにする。これにより、事故が起きた直流送電線は遮断される。
【0050】
事故が他の系統で発生した場合でも、同様に処理を行なうことで、いずれの直流送電線で事故が起きた場合でも、事故が起きた直流送電線を短時間に切り離すことが可能となる。
【0051】
以上に述べた如く本実施形態によれば、直流送電線11,12,13それぞれに個別に、前記
図6で示した従来の直流電流遮断装置を接続した場合と比較して、直列回路2の構成規模を半分に削減することができ、ひいては全体の部品点数を低減して、低コスト化と小型化とが可能な直流電流遮断装置を実現できる。
【0052】
また、半導体遮断器23の半導体スイッチング素子231は、4個以上の直列であっても良い。また電流制御方向を限定するのであれば、1方向のみに構成されていても良い。
またアレスタ232は、個々の半導体スイッチング素子231に対して並列、あるいは複数の半導体スイッチング素子231に対して並列に接続しても良いし、半導体遮断器23自体が複数直列に接続しても良い。
【0053】
なお前記
図4では説明しなかったが、同様の構成を4本以上の直流送電線の結合点における直流電流遮断装置にも適用することが可能である。
【0054】
(第4の実施形態)
図5は、第4の実施形態に係る直流電流遮断装置の構成を示す図である。なお、以下において、前記
図1に示した構成と基本的な考え方は同様であるため、
図1に示す直流電流遮断装置の構成要素と同一または相当する構成要素には、
図1で使用した符号と同一の符号を付して説明するものとする。
【0055】
この直流電流遮断装置は、各直列回路2がそれぞれ2つのリアクトル22と2つの半導体遮断器23を交互接続して構成されている。各直列回路2の中点e,f,gには、それぞれ機械接点式電流断路器32の一端が接続され、同機械接点式電流断路器32の他端は全て接点jにて互いに接続されている。
【0056】
直列回路2の中点e,f,gに接続されていないリアクトル22と半導体遮断器23の接合点には、それぞれ機械接点式電流断路器33の片端が接続され、同機械接点式電流断路器33の他端は隣接する直列回路2のリアクトル22と半導体遮断器23の接合点に接続される。このとき、機械接点式電流断路器33は、同じ直流送電線から2分岐した各直列回路2に属するリアクトル22と半導体遮断器23の接合点同士を接続する。
【0057】
前記直列回路2の半導体遮断器23の全てが、ここでは図示しない制御回路により定常動作時及びいずれかの送電線での実行発生時に応じてオン/オフ動作が制御される。
また結線回路3の機械接点式電流断路器32,33も、前記制御回路によりオン/オフ動作が制御される。
【0058】
本実施形態に係る直流電流遮断装置の電流遮断時の動作は、前記第3の実施形態と同様であり、いずれの直流送電線で事故が起きた場合でも、事故が起きた直流送電線を切り離すことが可能である
本実施形態によれば、前記第3の実施形態の構成と比較して、機械接点式電流断路器32,33にかかる電圧が低いため、必要な絶縁耐性が低下する。すると、絶縁距離を短くして、開閉速度が遅く安価な機械接点式電流断路器32,33を用いることができるため、さらに低コスト化が可能な直流電流遮断装置を構築することができる。
【0059】
また、直列回路2と結線回路3によるブリッジ回路は、さらに多段とすることもできる。その場合の直流電流遮断装置の電流遮断動作も前記第4の実施形態と同様であり、いずれの直流送電線で事故が起きた場合でも、事故が起きた直流送電線を短時間に切り離すことが可能である。
【0060】
また、こうしたさらなる多段化により、機械接点式電流断路器にかかる電圧がさらに低くできるため、より開閉速度が遅く、より安価な機械接点式電流断路器を用いて、より一層コストの低い直流電流遮断装置を構築することも可能となる。
【0061】
また、前記直列回路2と結線回路3を第1の実施形態の構成要素に置き換えても、同様に直流電流遮断装置を構成できる。
【0062】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。