(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
シグマ受容体(σ)は、統合失調症、運動行動の調節、痙攣、不安、及び濫用薬物(コカイン、メタンフェタミン及び3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)を含む)の精神刺激作用における関与の可能性のために、薬剤発見分野から大きな注目を浴びている
1,2。対象となる多数の神経科及び精神科領域の他に、シグマ受容体は、腫瘍学的、免疫学的、心脈管系、眼科学的、発生系、胃腸管系及び代謝系疾患とともに内分泌系に影響を与える障害に対する薬剤の有望な開発標的である。それらは構造的に類のないタンパク質であり、古典的なGタンパク質結合受容体、イオンチャンネル型受容体又は受容体チロシンキナーゼとは全く異なっている。これまでに知られている2つのサブタイプに関して、それらは細胞の生存及び興奮性を調整し、身体の多くの重大な機能を補助する。これらの受容体の内因性リガンドは不明であるが、これまでの手掛かりは神経ステロイドを指し示している
3。
2つのサブタイプ(σ-1及びσ-2)は、それらの対応する分子量、組織内分布、及び薬剤選択性プロフィールを調べた研究によって輪郭が明らかにされた。2つのトランスメンブレン横断領域を含む223アミノ酸のσ-1タンパク質が、マウス、ラット、モルモット及びヒトを含むいくつかの動物種から精製及びクローン化された
4-8。当該受容体の配列情報及び選択的σ-1リガンドが利用可能であることにより、σ-1受容体は今日まで詳しく研究され良く知られている。しかし、σ-2部位に対応するタンパク質は未だにクローン化されていない。さらにまた、シグマ受容体選択的リガンドも一般的ではなく、三重水素標識DTG(1,3-ジ(2-トリル)グアニジン)が(+)-ペンタゾシン(σ-1部位との結合を遮断する)の存在下で放射性リガンドとして受け入れられている。タンパク質の詳細な構造情報及び真に選択的なσ-2リガンドを入手できないので、σ-2サブタイプの薬理学的特徴は非常に限定的である。未知の生化学的メカニズムを探るプローブとして機能するだけでなくシグマ受容体結合アッセイで放射性リガンドとして用いることができる選択的σ-2リガンドが明らかに必要とされている。
【0004】
薬物濫用は、重大な社会的、経済的及び健康上の世界的な問題である。アヘン剤のいくつか、コカイン、アンフェタミン及びフェンサイクリジン(PCP)は、σ受容体に対して顕著な親和性を有する濫用薬物である。濫用薬物に対する従来の治療は限定的で、この問題に対処する新規で効果的な薬剤の開発が必要とされている。
コカインの使用及び濫用は1500年代後期から報告されている
9。この歴史的使用は、労働者が疲労を取り除くためにエリスロキシロン・コカ(Erythroxylon coca)の低木(前記からコカインが1860年に単離された
10)の葉を噛むことと密接に関係している。実際、コカインは強力で常習性の精神刺激剤である。コカイン濫用は広範囲に広まり、他のいずれの非合法薬物よりも重篤な中毒及び死亡をもたらす。しかしながら、コカインの高揚作用のために、コカインは世界中で濫用される主要なレクリエーショナルドラッグとなり、概算して1300万人が当該薬物を使用する。2004年には、12歳以上の3420万のアメリカ人が生涯にわたるコカインの使用を報告し、ほぼ560万人が1年間使用したことを報告し、概算して200万人が現在当該薬物を使用していることを報告した。2004年だけで、概算して100万人が新たにコカインを使用しはじめ、これは1日当たり約2,700人に相当する。2002年から2003年の間の減少にもかかわらず(おそらく他の刺激剤(例えばメタンフェタミン)の使用の増加によると考えられる)、薬物使用と健康に関する国民調査のデータは、コカイン中毒の治療を受けた人数が、2003年の276,000人から2004年の466,000人に70%近く増加したことを示した
11。
【0005】
従来コカイン濫用又は中毒の治療に承認された医薬は存在しない。抗コカイン薬を開発するために用いられる有効な戦略は、コカインとその標的タンパク質に対して競合するアンタゴニストを開発することであった。長年にわたって、治療アプローチはドーパミン作動系を標的としてきた(ドーパミン作動系はコカイン使用の作用及び報酬に必要とされることが知られている)。ドーパミン輸送体(コカインの一次作用部位と同定された)を標的とする多くの化合物が生成及び試験された。これらの化合物は、その多くがコカインの単なる代用であったので極めて限定的な成功を示しただけであった
12。ドーパミン輸送体だけでなくドーパミン受容体で何年も精査した後で、研究者らは、コカイン中毒のための新規な治療的介入となりうる新規なメカニズムの推定に取り組んだ。
多くの他のメカニズムが研究中であるが、σ受容体系が、コカインの作用を弱める適法な標的として示され検証された。コカインのシグマ受容体との結合能力が発見され1988年に初めて文書で報告された
13。コカインはシグマ受容体に対してマイクロモル濃度の親和性を有し、この相互作用は体内でコカインによって達成されるマイクロモル濃度レベルと一致することが報告された
14。さらに追加の実験は、アンチセンスオリゴヌクレオチドによる脳シグマ受容体レベルの低下がコカインの痙攣性及び歩行刺激作用を弱めることを示した。シグマ受容体の合成小分子アンタゴニストはまた動物モデルでコカインの作用を緩和することを示した。以前の実験から、σ-1サブタイプの役割はコカインの作用と明瞭に連携されていた。しかしながら、σ-2受容体の役割は提唱されたが、このサブタイプに対する真の選択的リガンドを欠いているためになお明瞭ではない。
σ-1受容体に選択的な放射性リガンドは、多様な病態(神経変性疾患及び癌を含む)の非侵襲的検出及びモニタリングのために潜在的能力を有する。
【0006】
本明細書で出願人は、新規な
18Fフッ素化σ-1受容体リガンドの合成、放射性フッ素化及び評価を報告する(前記リガンドは6-(3-フルオロプロピル)-3-(2-(アザパン-1-イル)エチル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-オン(18, [
18F] FTC-146)を含む)。[
18F] FTC-146は、他の報告されたσ-1受容体化合物と比較して優れたin vitro親和性及び選択性を示す。この新規な
18Fフッ素化σ-1受容体リガンド([
18F] FTC-146を含む)は、自動化モジュールを用いて求核フッ素化により合成できる。[
18F] FTC-146は、99%を超える放射化学的純度(RPC)及び3.9±1.9Ci/μmolの比放射能(SA)を有する生成物を生じる(n=13)。細胞の取り込み試験は、[
18F] FTC-146蓄積とσ-1受容体タンパク質レベルとの相関性を示した。さらにまた、[
18F] FTC-146の結合プロフィールは、同じ細胞取り込みアッセイで既知の高親和性σ-1受容体リガンド(+)-[
3H]ペンタゾシンの結合プロフィールに匹敵した。正常マウスにおける[
18F] FTC-146のPET画像は、脳内への放射性リガンドの高い取り込みを示した(脳は高レベルのシグマ受容体を含むことが知られている)。時間放射能曲線(TAC)はマウス脳における[
18F] FTC-146の急速で高い初期取り込みを示した。非放射性CM304(1mg/kg)による前処理は脳内[
18F] FTC-146結合を60分で83%低下させ、マウス脳の[
18F] FTC-146蓄積はσ-1受容体との特異的結合であることを示した。これらの結果は、[
18F] FTC-146は生きている対象動物でσ-1受容体を研究するための良好な放射性トレーサーの候補物質であることを示している。
【0007】
最初、シグマ受容体はオピオイドクラスの受容体に属すると考えられたが
15、更なる研究によって、オピオイドは別個の分子物質として分類され、別の受容体ファミリーと認識された
16。少なくとも2つのσ受容体サブタイプ(σ-1及びσ-2受容体)が存在する
17。σ-1受容体は現時点でこの2つのうち最もよく特徴付けられている
18,19。
初期の矛盾及び相反する考えにもかかわらず、σ受容体に関する最近の重要な発見は、この分子シャペロン及びその推定される機能的役割について多様な生物学的特徴を明らかにするために役立った
20,21。主として細胞の小胞体に位置し、σ-1受容体は、以下を含む多数の生化学的プロセス及び病的状態に関与している:神経変性疾患、精神障害、薬物中毒、消化機能、平滑筋収縮の調節及び虚血
20,22-24。σ-1受容体はまたもっともよく知られているヒトの癌で強く発現される(例えば乳房、肺臓、結腸、卵巣、前立腺、脳)
24,25。σ-1受容体のアゴニストは細胞内及び細胞外Ca2+レベルに影響を与え、したがって広範囲の神経調節作用を有する
26,27。ある種のσ-1受容体アゴニストは、内皮細胞増殖を調節し
28、認識力を改善し
29,30、抗うつ剤として機能する
18,32ことが示されたが、一方、アンタゴニストはコカイン誘発痙攣を抑制/軽減し
33、診断及び治療の両方の標的としてのσ-1受容体の潜在能力を際立たせた。
σ受容体を標的とする数多くの化合物が存在し、以下の特異的な3つの化合物クラスが含まれる:1)ベンゾモルファン、例えば(+)-ペンタゾシン(
図1)及び(+)-N-アリルノルメタゾシン(NANM)、前記はそれらの(-)-エナンチオマーと比較してもっぱらσ-1受容体と結合する;2)内因性神経ステロイド、例えばプロジェステロン(σ-1受容体のアンタゴニスト);3)ブチロフェノン、例えば抗精神病薬ハロペリドール(σ受容体の両サブタイプに高い親和性を示す)
19,34。ここ20年にわたって、多くのグループが高親和性σ-1受容体リガンドの開発を報告し
34-42、それらのうちでいくつかは、陽電子放射断層撮影法(PET)試験で用いるために放射性同位元素で標識されている(
図1)。
【0008】
生きている対象動物でPETを用いてσ-1受容体を調べることは、当該受容体の機能的役割及び疾患との関わりを理解するうえで重要な一歩である。σ-1受容体に特異的なPET放射性リガンドは、以下のために非侵襲的手段を提供する潜在能力を有していよう:これらの部位の機構を可視化及び精査する、2)受容体占有率を査定する(治療薬の最適用量の決定に役立てる)、3)σ-1受容体関連疾患の早期検出及び病期判定、及び4)治療薬応答をモニターする。いくつかの既存σ-1受容体放射性リガンドには以下が含まれる:[
11C]SA4503、
43[
18F]FM-SA4503、
44[
18F]FPS、
45[
18F]SFE、
46,47[
18F]FBFPA、
48[
18F]フルスピジン
49及び[
11C]13
39(
図1)。高親和性σ-1受容体放射性リガンド[
11C]SA4503は、げっ歯類
43、ネコ科動物
50及び非ヒト霊長類
51で有望な結果を示し、これまでのところ日常的に臨床研究で用いられている唯一のσ-1受容体放射性リガンドである
52,53。しかしながら、前記は、いくつかの理由(その高い非特異的結合、他の部位(例えばエモパミル結合タンパク質(EBP))に対する親和性
54、及び最適に達しない薬物消長プロフィール(不可逆的結合を示唆する)を含む)により理想からはほど遠い。[
11C]SA4503のフッ素化誘導体([
18F]FM-SA4503として知られている)はげっ歯類及び非ヒト霊長類で同様な欠点を示し、ヒトではまだ評価されていない。Waterhouseと共同研究者が報告したピペリジン[
18F]FPSは2003年にヒトで評価されたが
46,55,56、好ましくない薬物消長を示した(注射後4時間で一過性平衡に達することができなかった)。これらの結果の後、不可逆性結合の問題を修正しようとして親和性が低い[
18F]FPSのフルオロメチル誘導体([
18F]SFEとして知られている)が開発された
46。[
18F]SFEは優れた薬物消長プロフィール(90分経過でピーク取り込みの40%減少を示してラットの脳から除去される)を示したが、選択比が低いことが判明し、実際に選択的σ-2受容体化合物を用いたラットでの遮断実験では、小さいが明瞭な[
18F]SFEの取り込み低下をもたらした
46。2005年にMachと共同研究者は別のピペリジン誘導体[
18F]FBEPAの直接標識法を報告し(σ-2受容体/σ-1受容体に対する親和性=44)、げっ歯類及びアカゲザルの脳でσ-1受容体と結合するその能力を示した
48。2010年に、スピロ環式ピペリジンσ-1受容体放射性リガンド([
18F]フルスピリジン)の合成及びマウスでのその評価が報告された
37,49。生体分布の結果は、脳に取り込まれた[
18F]フルスピジンは2時間経過で40%減少することを示し、可逆的な結合を示しうることを示唆したが、前記はなお評価の初期段階にある。Moussa及び共同研究者は、炭素-11標識N-ベンジルピペラジンσ-1受容体リガンド([
11C]13)の直接標識法及びPET画像化を用いた前記のマントヒヒ(Papio hamadryas)でのin vivo評価を発表した。[
11C]13は脳及び抹消器官のσ-1濃縮領域に蓄積されたが、低い選択比(σ-2受容体/σ-1受容体に対する親和性=38)及び5-HT2B受容体に対するナノモル濃度の親和性を示すことが見出された
39。
本特許出願まで、臨床研究で利用可能なフッ素-18又は炭素-11で標識された高度に選択的なシグマ受容体放射性リガンドは存在しない。
【0009】
アルツハイマー病(AD)は進行性の脳変性疾患であり、前記疾患は脳細胞を破壊して記憶低下並びに仕事、生活様式又は社会的生活に影響を与える十分に重篤な思考及び行動に関する問題を引き起こす。シグマ-1受容体(S1R)は、記憶障害及び認知異常(ADを含む)の治療で決め手となる標的であることが示された。S1Rは、細胞の分化(37,40)、神経可塑性(145,149)、神経保護(71,89)及び脳の認識機能(85)に関係する(Waarde参考文献)。サルのオートラジオグラフィー(例えば[
3H]DTG)及びヒトの陽電子放射断層撮影法(PET)(例えば[
11C]SA4503)による以前の研究で、加齢及び神経変性疾患ではシグマ受容体密度が低下することが示された。
S1RのPET画像化は、前記受容体が役割を果たす多数の病態を非侵襲的に検出しモニターする潜在能力を有する(前記潜在能力は、脳内の特異的なリガンド-受容体結合を定量するPETの確立された能力を足場にする)。いくつかのS1R結合化合物が作出されているが
3-10、[
11C]SA4503は、他の標的(σ-2受容体を含む)に対するあまり高くはない選択性にもかかわらずこれまでのところ臨床でS1R画像化のために用いられる唯一の放射性トレーサーである。したがって、本提案の目標は、アルツハイマーの治療薬発見及びその病態生理学的研究のためのバイオマーカーとしてより選択的なPET画像化S1R選択性リガンドを開発し利用することである。
本発明の目的は、高選択性で新規なリガンド又は放射性リガンドを開発してこれらのタンパク質の作用をin vivoで画像化し、この分子シャペロンについての多様な生物学的特徴及びその推定される機能的役割の理解を容易にし、さらにADに対する新規な分子標的誘導療法の設計並びに評価を加速することである。
したがって、本提案の目標は、アルツハイマーの治療薬発見及びその病態生理学的研究のためのバイオマーカーとしてより選択的なPET画像化S1R選択性リガンドを開発し利用することである。
【0010】
外傷、外科手術、炎症、変性性変化、糖尿病及び多様な他の原因の結果としての末梢神経損傷は、重大な病態、例えば慢性痛、脆弱及び他の知覚運動性障害をもたらす主要な臨床的問題である。結果として、末梢神経損傷及び神経炎症は過大な公衆衛生的問題であり、慢性痛、神経再生及び他の関連症状を有する患者の診断及び治療にはしばしば多大な資源が要求される。
神経損傷を診断する従来の方法は、コンピュータ支援断層撮影(CT)、超音波画像化(US)、磁気共鳴画像化(MRI)及び電気生理学的(EP)(すなわち電気診断又は神経電気記録)検査、すなわち筋電図法、定量的神経感覚検査法、及び神経伝導試験を含む。特に、EP検査は審問領域の伝導異常の認定及び神経損傷程度の等級付けに役立つが、これらの試験の結果は多様な制限の影響を受ける。例えば、EP検査は侵襲的で、診断を引き出すために問題の領域に何度も針を通すことを要する。さらにまた、これらの検査の結果は、損傷の原因及び位置について限定的な情報しか提供せず、神経損傷のタイミング及び程度に関しては時間的に左右される。EPの結果はまた技術的及び実施者依存的誤謬を避けられない(前記誤謬には、潜在的に不正確な結論に至りうる相対的に主観的な経験である波形の結果の解釈が含まれる(77))。
比較すれば、これまで利用されてきた、末梢神経損傷の診断に用いられる臨床画像化方法(例えばMRI)は、神経損傷それ自体の原因及び位置並びに筋肉の脱神経の二次的な結果に関してはより良好な洞察を提供することができる(78)。しかしながら、そのような病巣検出におけるMRIとEP検査の相関性は最適に達してはいない。例えば、正中神経の電気生理学的異常が確認された手根管症候群を示す個体の半分しかMRIでは異常を示さないということに検査者は気付いている(79)。別の検査者は末梢神経のEP試験とMR所見との間に相関性がないことに気付いており(80)、いくつかの症例では、ある種の患者で特異的なEP所見又は画像化所見が存在しない(80,81)。
【0011】
従来の臨床方法としては困難な課題であるとしても、神経損傷又は神経炎症の分子マーカーを利用する(したがって神経損傷の位置及び程度を際立たせる)分子画像化手法の認定は、神経損傷、神経炎症、及びそれら実体のその後に続く臨床症状の管理の進歩にとって特に重要である。MRIは比べるもののない軟組織コントラスト及び極めて高い空間解像度を有するが、感度が低いのが難点であり、MRIが現在利用可能な臨床的分子画像化の適用に関しては制限がある。陽電子放射断層撮影法(PET)は分子画像化技術であり、その高い感度、無制限の貫通深度、非侵襲的性質、及び定量的性能のために疾患過程初期の細胞事象及び生化学事象をモニターするために理想的である。PET及びMRIの併用は、それぞれの画像化技術の利点(すなわち高い感度及び空間解像度)を活用して生化学的及び解剖学的変化を同時に可視化できるので、極めて有望な展望を提供する。慢性痛及び/又は神経損傷の臨床画像化のためのPET-MRIの使用はまだ報告されていないが、前記は、神経損傷及び痛みの発生領域を認定する方法を改善するために極めて有望である。
神経損傷及び神経炎症に関連する潜在的バイオマーカーはシグマ-1受容体(S1R)であり、前記は最初オピオイド受容体のサブタイプと考えられていたが(15)、今では固有の生物学的機能を有する別個のクラスの受容体であることが判明している(20,18,83)。例えばS1Rアンタゴニストはオピオイド痛覚脱失を調整することが知られ(84)、例えばハロペリドール(S1Rと結合する)のような薬剤はオピオイドの抗侵害受容作用を増大させることができる(85)。加えて、S1Rは多様なイオンチャンネル及び受容体(カリウムチャンネル、カルシウムチャンネル、ドーパミン及びガンマ-アミノ酪酸(GABA)受容体を含む)を調整し(86-88)、それによりセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、グルタメート及びGABAを含むいくつかの神経伝達物質の放出に影響を与えることによって神経興奮性及び伝達に顕著な影響を及ぼすことができる。
【0012】
痛みに関しては、S1Rアゴニストはオピオイド痛覚脱失を阻害するがアンタゴニストは無痛作用を強化することはずっと以前から知られていた(84,90)。さらにまた、S1Rノックアウトマウスは多様な痛みモデルで痛みへの応答の低下を示した(31,60,92)。S1Rアンタゴニスト(例えばハロペリドール及びその代謝物I及びII)による治療はまた同様な結果をもたらす(93,94)。さらに、脊椎S1R活性化は機械的過敏及び熱過敏をもたらし(95)、N-メチル-D-アスパルテート(NMDA)受容体誘発痛を増加させたが(96,97)、一方、脊椎S1R抑制は疼痛行動を緩和する(60,94,98)。S1Rは、シナプス可塑性及び中枢性過敏化(痛みを慢性及び自己永続性にするために要求される痛みの“記憶化”に関係する)に関与する(60,92)。S1Rアンタゴニストが次世代鎮痛剤の潜在的候補物質として急速に周知されつつあることは驚くことではない(99)。BD1047は高い親和性を有する選択的S1Rアンタゴニストであり、前記は動物の神経障害痛モデルで鎮痛剤として試験され成功している(100)。
S1Rは侵害受容に密接に関係しているので、痛み/神経損傷におけるこれらの受容体のin vivoでの役割を我々がより良く理解するために役立ち、潜在的に痛みの診断及び治療のより良いアプローチをもたらすツールをもつことは極めて有益であろう。出願人は最近、PETを用いてS1Rを画像化するために高度に選択的な放射性トレーサー、[
18F]FTC-146を開発し、マウス、ラット及びサルでその特異性を示した(模式
図1)[参考文献:James et al., JNMに投稿]。本明細書で、出願人は、神経損傷時のS1Rレベル及びS1Rが神経損傷の有用なin vivo画像化バイオマーカーでありうるか否かについての情報を得ることができるように、神経損傷のラットモデルでS1Rを可視化するツールとして[
18F]FTC-146の利用に照準をあてる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
式I、II、III、IV及びVの一般構造は様々な複素環を包含する。この部類に入る具体的なものには、例えば2(3H)-ベンゾキサゾロン(Y=0、Z=0)及び2(3H)-ベンゾチアゾロンY=0、Z=0)化合物が含まれ、シグマ受容体親和性がこれらの複素環によって示される。2(3H)-ベンゾキサゾロン(BOA)及びその生物学的等価代用物2(3H)-ベンゾチアゾロン(BTA)複素環は二環式環系であり、前記環系は、N-置換(N-アルキル化又はN-アシル化のいずれか)及び芳香環求電子置換反応を含む有機合成で高い万能性を促進する。以下はBOA及びBTAの化学構造である:
【0049】
本発明は、下記一般式Iを有する化合物に関し、
【0051】
式中、R
1は、置換されていてもよいC4からC7のN-含有複素環のラジカル、又は置換されていてもよい環式若しくは非環式第三アミン又はイソインドリン-1,3-ジオンのラジカルであり得;R
2,3,4,5,6は、それぞれ別個に以下の部分のいずれか1つ又は組合せであり得、前記部分は、水素、シアノ、ニトロ、アシル、アルキル、アミド、アジド、イソチオシアネート、イソシアネート、置換されていてもよいアニリノ、ハロゲン、エーテル、スルホンアミド、チオアシル、ニトロ、芳香族、複素環、オレフィン、アセチレン、重水素、又は三重水素であり;YはCH、CH
2、O、S、OCH
2、N-R、N-Ar、C-R、C-Arのいずれかであり得;ZはH、O、S、S-R又はNRのいずれかであり得る。R基はH、アリール、アルキル、又はシクロアルキルのいずれかであり得;“n”は長さが1つから5つの炭素並びにその立体異性体、機能的アナローグ及び医薬的に許容できる塩であり得、さらにR
1とNを架橋する部分は、置換されていてもよいアルキレン、置換されていてもよいアルケニレン又は置換されていてもよいアルキニレンであり得、さらにここで該アルキレン基は、挿入されたC
3-C
5シクロアルキル基、芳香族及び複素環基を含むことができる。
置換されていてもよいN-含有複素環ラジカルは、例えば、置換されていてもよいピペリジン、置換されていてもよいテトラヒドロピペリジン、置換されていてもよいピペラジン、置換されていてもよいテトラヒドロピリジン、置換されていてもよいアゼパン、又は置換されていてもよいテトラヒドロイソキノリンであって、上記任意存在の置換基は芳香族部分にある。
【0052】
本発明はさらに、下記式IIのシグマ受容体として有用な化合物に関し、
【0054】
式中、R
1は置換されていてもよい窒素含有複素環ラジカル、例えば、置換されていてもよいピペリジン、置換されていてもよいピペラジン、置換されていてもよいテトラヒドロピリジン、置換されていてもよいアゼパン、第三アミン(環式又は非環式)、イソインドリン-1,3-ジオン、又は置換されていてもよいテトラヒドロイソキノロン(芳香族的に置換される)のラジカルであり得;R
2,4,5,6は、それぞれ別個に以下の部分のいずれか1つ又は組合せであり得、前記部分は例えば、水素、シアノ、ニトロ、アシル、アルキル、アミド、アジド、イソチオシアネート、イソシアネートアニリノ(非置換又は置換)、ハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素及びヨウ素)、エーテル、スルホンアミド、チオアシル、ニトロ、芳香族、複素環、オレフィン、アセチレン、重水素、又は三重水素であり;YはCH、CH
2、O、S、OCH
2、N-R、N-Ar、C-R、C-Arのいずれかであり得、ここでArは置換されていてもよいアリールである。ZはH、O、S、S-R又はNRのいずれかでありうる。R基はH、アリール、アルキル、又はシクロアルキルのいずれかでありうる。“n”は長さが1つから5つの炭素並びにその立体異性体、アナローグ及び医薬的に許容できる塩の他に前記化合物を含む組成物でありうる。式IIでR
1とNを架橋する部分は置換されたC
1-C
6アルキレン、C
1-C
6アルケニレンであり得、ここで該アルキレン基は、その鎖にC
3-C
5シクロアルキル基、芳香族及び複素環基を挿入してあってもよい。
式I及びIIは、R1とNを架橋する部分の定義においてのみ互に相違する。
【0055】
本発明はさらにまた下記式IIIのシグマ受容体として有用な化合物に関し:
【0057】
式中、R
1、R
2,4,5,6及び“n”は上記式IIのために提供された選択肢であり得、ここでX
1はハロゲン又はC
1-C
4ハロアルキルである。
【0058】
本発明はさらにまた、下記式IVのシグマ受容体として有用な一連の化合物に関し:
【0060】
式中、R
1は置換されていてもよい窒素含有複素環ラジカル、例えば、置換されていてもよいピペリジン、置換されていてもよいピペラジン、置換されていてもよいテトラヒドロピリジン、置換されていてもよいアゼパン、第三アミン(環式又は非環式)、イソインドリン-1,3-ジオン、又は置換されていてもよいテトラヒドロイソキノロン(芳香族的に置換される)のラジカルであり得;R
2,4,6は、それぞれ別個に以下の部分のいずれか1つ又は組合せであり得、前記部分は例えば、水素、シアノ、ニトロ、アシル、アルキル、アミド、アジド、イソチオシアネート、イソシアネートアニリノ(非置換又は置換)、ハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素及びヨウ素)、エーテル、スルホンアミド、チオアシル、ニトロ、芳香族、複素環、オレフィン、アセチレン、重水素、又は三重水素であり;YはCH、CH
2、O、S、OCH
2、N-R、N-Ar、C-R、C-Arのいずれかであり得、ここでArは置換されていてもよいアリールである。ZはH、O、S、S-R又はNRのいずれかでありうる。R基はH、アリール、アルキル、又はシクロアルキルのいずれかでありうる。“n”は長さが1つから5つの炭素並びにその立体異性体、アナローグ及び医薬的に許容できる塩の他に前記化合物を含む組成物でありうる。式IVでR
1とNを架橋する部分は、式-(CHR
x-(CH
2)-CH
2)-を有する置換されたC
1-C
6アルキレンであり得、式中、-CHRx-部分はR
1に結合され、該アルキレン基はその鎖にC
3-C
5シクロアルキル基、芳香族及び複素環基を挿入してあってもよく、さらにR
xはC
1-C
4直鎖若しくは分枝鎖アルキル又はC
1-C
4直鎖若しくは分枝鎖ハロアルキルである。
【0061】
本発明はさらに下記式Vのシグマ受容体として有用な化合物に関し:
【0063】
R
2,3,4,5,6は、それぞれ別個に以下の部分のいずれか1つ又は組合せであり得、前記部分は例えば、水素、シアノ、ニトロ、アシル、アルキル、アミド、アジド、イソチオシアネート、イソシアネートアニリノ(非置換又は置換)、ハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素及びヨウ素)、エーテル、スルホンアミド、チオアシル、ニトロ、芳香族、複素環、オレフィン、アセチレン、重水素、又は三重水素であり;YはCH、CH
2、O、S、OCH
2、N-R、N-Ar、C-R、C-Arのいずれかであり得、ここでArは置換されていてもよいアリールである。ZはH、O、S、S-R又はNRのいずれかでありうる。R基はH、アリール、アルキル、又はシクロアルキルのいずれかでありうる。“n”は長さが1つから5つの炭素並びにその立体異性体、アナローグ及び医薬的に許容できる塩の他に前記化合物を含む組成物でありうる。式VのR
1架橋部分は、置換されていてもよいC
1-C
6アルキレン、C
1-C
6アルケニレン又はC
1-C
6アルキニレン基であり得、ここで該アルキレン基はその鎖にC
3-C
5シクロアルキル基、芳香族及び複素環基を挿入してあってもよい。
【0064】
本発明の例示的化合物は下記の一般式(n=1-5)でありうる:
【0066】
本発明のさらに別の例示的化合物は下記の一般式(n=1-5)でありうる:
【0069】
本発明の他の例示的化合物は、Y=O及びZ=O、又はY=S及びZ=Sである化合物、或いはY=CH
2又はY=CHである化合物である。
例えばR1は置換されていてもよい:
【0071】
用語の定義
本明細書で用いられる、“低級”という用語は1つから6つの炭素を有するグループを指す。
本明細書で用いられる、“アルキル”という用語は、1から10の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖炭化水素を指し、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アジド、イソチオシアネート、イソシアネート、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、シリルオキシ(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、シリル(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。そのような“アルキル”基は1つ以上のO、S、S(O)又はS(O)
2原子を含むことができる。本明細書で用いられる“アルキル”の例にはメチル、n-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソブチル、及びイソプロピルなどが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
本明細書で用いられる、ハロアルキルという用語は、1つから4つの炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキルであって、該アルキルの少なくとも1つのHから全部までのHがハロ部分で置換されるものを指し、ここでハロはフルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨードを含む。
【0072】
本明細書で用いられる、“アルキレン”という用語は、1から10の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖の二価炭化水素ラジカルを指し、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、シリルオキシ(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、シリル(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。そのような“アルキレン”基は1つ以上のO、S、S(O)又はS(O)
2原子を含むことができる。本明細書で用いられる“アルキレン”の例にはメチレン、エチレンなどが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
本明細書で用いられる、“アルケニル”という用語は、2から10の炭素及び少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する炭化水素ラジカルを指し、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、シリルオキシ(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、シリル(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。そのような“アルケニル”基は1つ以上のO、S、S(O)又はS(O)
2原子を含むことができる。
【0073】
本明細書で用いられる、“アルケニレン”という用語は、2から10の炭素原子及び1つ以上の炭素-炭素二重結合を有する直鎖又は分枝鎖の二価炭化水素を指し、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、シリルオキシ(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、シリル(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。そのような“アルケニレン”基は1つ以上のO、S、S(O)又はS(O)
2原子を含むことができる。本明細書で用いられる“アルケニレン”の例にはエテン-1,2-ジイル、プロペン-1,3-ジイル、メチレン-1,1-ジイルなどが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
本明細書で用いられる、“アルキニル”という用語は、2から10の炭素及び少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する炭化水素ラジカルを指し、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、シリルオキシ(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、シリル(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。そのような“アルキニル”基は1つ以上のO、S、S(O)又はS(O)
2原子を含むことができる。
【0074】
本明細書で用いられる、“アルキニレン”という用語は、2から10の炭素原子及び1つ以上の炭素-炭素三重結合を有する直鎖又は分枝鎖の5つの二価炭化水素ラジカルを指し、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、シリルオキシ(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、シリル(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。そのような“アルキニレン”基は1つ以上のO、S、S(O)又はS(O)
2原子を含むことができる。本明細書で用いられる“アルキニレン”の例にはエチン-1,2-ジイル、プロピン-1,3-ジイルなどが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
本明細書で用いられる、“シクロアルキル”は、場合によって1以上の不飽和度を保有し、3から12の炭素原子を有する脂環式炭化水素基を指し、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。例示すれば“シクロアルキル”にはシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル又はシクロオクチルなどが含まれる。
【0075】
本明細書で用いられる、“シクロアルキレン”という用語は、3から12の炭素原子を有し場合によって1以上の不飽和度を保有する、非芳香族脂環式二価炭化水素ラジカルを指し、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。“シクロアルキレン”の例には、シクロプロピル-1,1-ジイル、シクロプロピル-1,2-ジイル、シクロブチル-1,2-ジイル、シクロペンチル-1,3-ジイル、シクロヘキシル-1,4-ジイル、シクロヘプチル-1,4-ジイル、又はシクロオクチル-1,5-ジイルなどが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
本明細書で用いられる、“複素環”という用語又は“ヘテロシクリル”という用語は、3から12員複素環式環で場合によって1以上の不飽和度を保有し、S、SO、SO
2、O又はNから選択される1つ以上のヘテロ原子置換を含むものを指し、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。そのような環は、場合によって1つ以上の別の“複素環式”環又はシクロアルキル環と縮合できる。“複素環”の例には、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、ピペリジン、ピロリジン、モルホリン、ピペラジン、テトラヒドロピリジン、ヘキサヒドロアゼピンなどが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
【0076】
本明細書で用いられる、“少なくとも1つの塩基性窒素原子を含むヘテロシクリル”という用語は、上記に定義した“複素環”又は“ヘテロシクリル”基であって、前記ヘテロシクリル基が、20水素、アルキル、アルキレン又はアルキリン基によってフランキングされた少なくとも1つの窒素原子を含み、前記アルキル及び/又はアルキレン基がオキソによって置換されていないものを指す。“少なくとも1つの塩基性窒素原子を含むヘテロシクリル”の例には、以下のようなピペラジン-2-イル、ピロリジン-2-イル、アゼピン-4-イルが含まれるが、ただしこれらに限定されない:
【0078】
本明細書で用いられる、“ヘテロシクリレン”という用語は、3から12員の複素環式環ジラジカルであって、場合によって1以上の不飽和度を有し、S、SO、SO
2、O又はNから選択される1つ以上のヘテロ原子を含むものを指し、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。そのような環は、場合によって1つ以上のベンゼン環又は1つ以上の別の“複素環式”環又はシクロアルキル環と縮合できる。“ヘテロシクリレン”の例には、テトラヒドロフラン-2,5-ジイル、モルホリン-2,3-ジイル、ピラン-2,4-ジイル、1,4-ジオキサン-2,3-ジイル、1,3-ジオキサン-2,4-ジイル、ピペリジン-2,4-ジイル、ピペリジン-1,4-ジイル、ピロリジン-1,3-ジイル、モルホリン-2,4-ジイル、ピペラジン-1,4-ジイルなどが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
【0079】
本明細書で用いられる、“アリール”という用語は、ベンゼン環、又は1つ以上の置換されていてもよいベンゼン環と縮合した置換されていてもよいベンゼン環系を指し、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ(場合によってアシルにより置換される)、メルカプト、アジド、イソチオシアネート、イソシアネート、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、テトラゾリル、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、アシル、アロイル、ヘテロアロイル、アシルオキシ、アロイルオキシ、ヘテロアロイルオキシ、アルコキシカルボニル、シリルオキシ(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、シリル(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。アリールの例には、フェニル、2-ナフチル、1-ナフチル、1-アントラセニルなどが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
本明細書で用いられる、“アリーレン”という用語は、ベンゼン環ジラジカル、又は1つ以上の置換されていてもよいベンゼン環と縮合したベンゼン環系ジラジカルを指し、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、テトラゾリル、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、アシル、アロイル、ヘテロアロイル、アシルオキシ、アロイルオキシ、ヘテロアロイルオキシ、アルコキシカルボニル、シリルオキシ(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、シリル(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。“アリーレン”の例には、ベンゼン-1,4-ジイル、ナフタレン-1,8-ジイルなどが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
【0080】
本明細書で用いられる、“ヘテロアリール”という用語は、1つ以上の窒素、酸素又は硫黄のヘテロ原子を含む、5から7員の芳香環又は多環式複素環式芳香環を指し(ここでN-オキシド及び一酸化硫黄及び二酸化硫黄が許容可能なヘテロ芳香族置換である)、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、テトラゾリル、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、アシル、アロイル、ヘテロアロイル、アシルオキシ、アロイルオキシ、ヘテロアロイルオキシ、アルコキシカルボニル、シリルオキシ(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、シリル(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。多環式芳香環系については、当該環の1つ以上が1つ以上のヘテロ原子を含むことができる。本明細書で用いられる“ヘテロアリール”の例は、フラン、チオフェン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、チアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピラジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール、インダゾールなどである。
【0081】
本明細書で用いられる“ヘテロアリーレン”という用語は、1つ以上の窒素、酸素又は硫黄のヘテロ原子を含む、5から7員の芳香環ジラジカル又は多環式複素環式芳香環ジラジカルを指し(ここでN-オキシド及び一酸化硫黄及び二酸化硫黄が許容可能なヘテロ芳香族置換である)、前記は、場合によって低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルスルファニル、低級アルキルスルフェニル、低級アルキルスルホニル、オキソ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ(場合によってアルキルにより置換される)、カルボキシ、テトラゾリル、カルバモイル(場合によってアルキルにより置換される)、アミノスルホニル(場合によってアルキルにより置換される)、アシル、アロイル、ヘテロアロイル、アシルオキシ、アロイルオキシ、ヘテロアロイルオキシ、アルコキシカルボニル、シリルオキシ(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、シリル(場合によってアルコキシ、アルキル又はアリールにより置換される)、ニトロ、シアノ、ハロゲン、又は低級パーフルオロアルキルから成る群から選択される置換基で置換され、多置換度も許容される。多環式芳香環系ジラジカルについては、当該環の1つ以上が1つ以上のヘテロ原子を含むことができる。本明細書で用いられる“ヘテロアリーレン”の例は、フラン-2,5-ジイル、チオフェン-2,4-ジイル、1,3,4-オキサジアゾール-2,5-ジイル、1,3,4-チアジアゾール-2,5-ジイル、1,3-チアゾール-2,4-ジイル、1,3-チアゾール-2,5-ジイル、ピリジン-2,4-ジイル、ピリジン-2,3-ジイル、ピリジン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,4-ジイル、キノリン-2,3-ジイルなどである。
本明細書で用いられるハロにはフルオロ、ブロモ及びヨードが含まれる。
【0082】
初期の試みは、通常の単純な合成方法を用いて固定鋳型上に側鎖を加えることによって良好な指向性を取り込むことに焦点が当てられた。シグマ受容体親和性に対する、2つの疎水性領域の間のリンカーの長さの影響の探索によって、2(3H)-ベンゾキサゾロンリガンド及び2(3H)-ベンゾチアゾロン化合物の2から6炭素リンカーの合成に至った。
ラット脳ホモジネートの精査による式II及びIII化合物の初期シリーズのσ-1及びσ-2サブタイプにおけるin vitro結合親和性は表1及び2にまとめられている。
【0084】
表1:シグマ受容体親和性におけるリンカーの長さの影響を探索するための2(3H)-ベンゾキサゾロン初期シリーズ
【0086】
表2:シグマ受容体親和性におけるリンカーの長さの影響を探索するための2(3H)-ベンゾチアゾロン初期シリーズ
【0087】
CM121はσ-2サブタイプに対して6倍の性能を示し、ピペラジン環と複素環との間の4メチレンスペーサーはσ-2親和性に有利に働きうることを示唆した(表1、模式
図1)。さらに別のSAR実験で、化合物CM170はσ-2サブタイプに対して11倍の優先性を有することが見出され、4-フルオロピペラジン部分はσ-2親和性に有利に働きうることを示唆した(模式
図1)。さらにまた、2(3H)-ベンゾキサゾロン複素環に6-アセチル基を有するCM142は、σ-2受容体に対し7倍優先性を高めた(模式
図1)。
模式図1:σ-2選択的リガンド
【0089】
興味深いことに、SN79(模式
図2)はσ-2サブタイプに対して高い選択性を示し(>16,500倍)、2(3H)-ベンゾキサゾロン複素環の4メチレンリンカー、6-アセチル基及び4-フルオロピペラジン部分はσ-1サブタイプよりもσ-2親和性に有利に働くことを示唆した。
模式図2:化合物SN79
【0091】
ラットの脳ホモジネートで選別非シグマ結合部位で試験したとき、化合物SN79は弱い相互作用を示し、シグマ受容体に対する優先的親和性が確認された。
表3:SN79の非シグマ結合親和性
コカイン処理マウスで化合物SN79をin vivo拮抗作用について精査した。マウスのSN79による前処理は、
図2-5で分かるようにコカイン誘発痙攣、歩行活動及び行動過敏化の有意な減弱をもたらした。これらのデータはさらに、化合物SN79は、σ-2受容体を介して機能しコカインの急性作用及びその慢性作用の両方を顕著に弱めることができることを示す。
σ-2受容体に対する選択性を示す化合物に加えて、この同じシリーズの化合物は両サブタイプに対して高い親和性を示した。化合物CM156(模式
図3)(2-オキソが硫黄で置き換えられる)は両サブタイプに対して最高の親和性を示し、したがって、前記を表4に示すようにいくつかの非シグマ結合アッセイで調べた。CM156は対象となった他のタンパク質に対してはるかに弱い親和性を示し、シグマ受容体に対する優先的親和性が確認された。
模式図3:化合物CM156
【0093】
表4:CM156の非シグマ結合親和性
化合物CM156をさらにコカイン処理マウスで拮抗作用についてin vivoで精査した。CM156によるマウスの前処理は、
図6-8で分かるようにコカイン誘発痙攣、歩行活動及び行動過敏化の有意な減弱をもたらした。化合物CM156をさらにメタンフェタミン誘発歩行刺激及び神経毒性の減弱についてマウスで精査した。
図9及び10で分かるように、CM156は、メタンフェタミンの歩行刺激作用の他にメタンフェタミン暴露から生じる神経毒性作用を減弱させた。総合すれば、これらのデータは、両σサブタイプに対して高い親和性を有するCM156は、コカイン及びメタンフェタミンの両方に由来する多様な薬物誘発作用をin vivoで緩和できることを示している。
【0094】
ラット肝ミクロソームにおけるAZ_66の代謝安定性
目的:ラット肝ミクロソームにおけるAZ_66の代謝安定性を調べること。
分析方法の設定
AZ_66の代謝試験のために、均一溶媒方法をUPLC/MS/MSを用いて開発した。
クロマトグラフィー条件
移動相A:水に0.3%ギ酸、10mMギ酸アンモニウム(50%)
移動相B:メタノール(50%)に0.1%ギ酸
カラム:Atlantis dC18(2.1x50mm、5μm)
流速:0.2mL/分
注入体積:10μL
質量パラメーター
分析物の検出は、ESI+veモードを用いて実施した。MS条件は以下のとおりであった:キャピラリー電圧は4.88V、コーン電圧は46V、エキストラクター電圧は3V、RFレンズ電圧は0.5V。供給源温度及び脱溶媒和温度はそれぞれ120℃及び250℃であり、脱溶媒和及びコーン気体流はそれぞれ500及び60L/時間である。単一イオン反応(SIR)で用いたAZ-66イオン[M+H]
+の選択した質量対荷電比(m/z)推移はm/z:406.2であった。
【0095】
方法
AZ_66(1μM)の代謝安定性は、酢酸アンモニウム緩衝液(50mM、pH7.4)中で、37℃でラット肝ミクロソーム(0.5mg)を用い0.5mLのインキュベーション混合物で実施した。インキュベーション混合物は、酢酸アンモニウム緩衝液(50mM、pH7.4)、塩化マグネシウム(3mM)、NADPH再生系(以下から成る:NADP(1mM)、グルコース-6-リン酸(5mM)及びグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(1単位/mL))を含んでいた。反応の開始前に、基質及びミクロソームを37℃で5分間予めインキュベートした。再生系の添加によって反応を開始し、振盪水浴で37℃にて60分間実施した。予め定めた時点(0、5、15、30、60分)で等体積の氷冷アセトニトリルを添加することによってインキュベーションを停止した。サンプルを4℃で10分間遠心分離し、上清をUPLC/MS/MSに注入した。NADPHを含まないコントロールインキュベーションもまた実施し、これらを100%値として供した。同一ロットのミクロソームを用いて、全てのミクロソームインキュベーションを実施した。
【0096】
追加コントロール
同じ実験条件でラット肝ミクロソームを用い、CM_156(10μM)で追加のインキュベーションを実施した。これを陽性コントロールとして供し、この実験で用いた試験系が代謝的に適合であるか否かを決定した。
In vivo半減期及びCLint:親化合物の残留パーセントを時間に対してプロットした。この直線の勾配は親化合物消失の速度定数kを提供し、前記からin vitro t
1/2を計算できる。CLintは以下の式を用いて計算できる:
Clint=k(分
-1)x
[V](L)=(L/mgx分)
[P](mg)
[V]はインキュベーション体積(μL)であり、[P]はインキュベーションにおけるミクロソームの量である。
【0097】
結果
ラット肝ミクロソームを用いてAZ_66の代謝を60分in vitroで精査した。ラット肝ミクロソームにおけるAZ_66の消失の概算半減期は115.56±15分であった。濃度対時間のグラフの直線部分(すなわち0-30分)を半減期の計算に選択した。ミクロソームにより得られた概算CLintは0.006mL/分/mgであった。AZ_66 1μMのCLint全肝は0.002434L/分であった。コファクターの非存在下では基質の低下はなく、AZ_66の低下はNADPH依存酵素による代謝を介することを示した。
AZ_66は60分のインキュベーション後でもラット肝ミクロソームで安定であることが見出された。ミクロソームは添加基質の約25%を60分で代謝した。結果は、代謝がゆっくりと直線的速度で30分間続き、見かけ上30分後に直線性から外れることを示した。直線性からの逸脱は、基質の限界量又は既知の有機及び無機コファクターのためであるかもしれない。
化合物の実質的な安定性はチアゾール環のC-F結合及び酸素に帰することができる。高い安定性の他の可能な理由は、N-脱アルキル化を防ぐメチル基の存在の可能性がある。
代謝速度は、適切な置換基を代謝の主要部位に取り込むことによって低下させることができると結論できる(
図11、12、13及び14参照)。
本発明の化合物は、薬物濫用(コカイン及びメタンフェタミン誘発濫用及び毒性を含む)の治療のための新規な放射性リガンド及び薬剤として使用される。
【0098】
実験
新規なσアンタゴニストの化学合成
化合物のいくつかの位置を修正して、σ-1及びσ-2親和性及び活性に対する影響をコア構造周辺で精査することができる。いくつかの合成ルートにより鋳型分子を置換できることが示された。並列合成法を利用して容易に実施できるこれらのルートを簡単に変更して多数の新規なリガンドを得ることができる。初期の研究では、並列法による以下の分子変更の探索に照準が当てられた:1)第三アミンと複素環との間のメチレンスペーサーを変化させる;2)鋳型を凌ぐピペラジン窒素の置換基の修正;3)ピペラジン環を修正してピペリジン、テトラヒドロピリジン、アゼパン及びジアゼパンを置換する;4)分子の複素環部分のヘテロ原子の順序とともに結合性パターンを修正する;及び5)複素環のベンゾ部分を置換してσ受容体の空間的及び物理化学的要求を探る。
標準的技術(NMR、IR、LC/MS、HPLC)を用いて精製した後で化合物を分析し、水溶性のために塩酸塩に変換した。融点及び成分分析により化合物の最終純度を得た。必要な場合には、X線結晶学を実施した。
2(3H)-ベンゾキサゾロン及び2(3H)-ベンゾチアゾロンの合成は、模式
図4に示す多段液相合成によって実施した。合成は、単純塩基媒介アルキル化及びフリーデル-クラフトアルキル化反応を含む。
【0100】
模式
図4:試薬及び条件
a)ジブロモアルカン、K
2CO
3、DMF、60℃、2時間;b)1-シクロヘキシルピペラジン、K
2CO
3、DMF、60℃、3時間;c)(CH
3CO)
2O、AlCl
3、75℃、4時間;d)1,4-ジブロモブタン、K
2CO
3、DMF、60℃、2時間;e)1-(4-フルオロフェニル)ピペラジン、K
2CO
3、DMF、60℃、4時間。
シグマ化合物−合成模式図
【0102】
模式
図5:試薬及び条件
(a)NH
4SCN、H
2O、還流、4時間;(b)Br
2、CHCl
3、0℃で1時間、還流、2時間;(c)KOH;(d)氷酢酸;(e)カルボニル1,1ジイミダゾール、THF、還流、3時間;(f)1,4ジブロモアルカン、K
2CO
3、DMF、60℃、3時間;(g)シクロヘキシルピペラジン、K
2CO
3、TBAI、ACN、還流、6時間。
【0103】
σ受容体アッセイ
ラット脳ホモジネートで化合物をσ-1及びσ-2結合について評価した。各試験リガンドの12の濃度(0.001−1,000nM)を50mMのトリス-HCl(pH8.0)中で25℃、120分間インキュベートした。前記トリス-HClは500μgの膜タンパク質、及び5nM [
3H](+)-ペンタゾシン(σ-1アッセイのため)又は3nM [
3H]DTGプラス300nM (+)-ペンタゾシン(σ-2アッセイのため)を含む。非特異的結合は10μMハロペリドールの存在下で決定した。アッセイは氷冷10mMトリス-HCl(pH8.0)とその後の2回のガラスファイバーフィルター通過による洗浄を用いて停止した(前記フィルターは0.5%ポリエチレンイミンに少なくとも30分間前浸漬した)。
【0104】
非σアッセイ
化合物を多様な非σ標的部位で試験して選択性を評価した。なぜならば、コカインはこれらの部位(ドーパミン、セロトニン及びノルエピネフリン輸送体)と相互作用するか、又は歴史的な“シグマ”リガンドはそれらと相互作用するからである(オピオイド、NMDA、ドーパミンD
2、5-TH
2受容体)。以前に発表されたように、ラット脳ホモジネートを用い競合的結合アッセイで化合物を試験した。簡単に記せば、問題の部位を標識する放射性リガンド及び非特異的結合を示す化合物は以下のとおりであった:ドーパミン輸送体(0.5nM [
3H]WIN35,428、50 □Mコカイン)、セロトニン輸送体(0.2nM [
3H]パロキセチン、1.5μMイミプラミン)、ノルエピネフリン輸送体(0.5nM [
3H]ニソキセチン、4μMデシプラミン)、オピオイド受容体(2nM [
3H]ブレマゾシン、10μMレボロルファン)、NMDA受容体(5nM [
3H]TCP、10μMシクラゾシン)、ドーパミンD
2受容体(5nM [
3H](-)-スルピリド、1μMハロペリドール)、及び5-HT
2受容体(2nM [
3H]ケタンセリン、1μMミアンセリン)。結果はnMのK
iとして報告した。独立した3組のアッセイの後で、10,000nMの濃度の化合物が放射性リガンドの少なくとも30%の阻害を示さなかったら、当該化合物の親和性は>10,000nMと報告した。
【0105】
コカイン誘発痙攣
雄のスイスウェブスターマウスを食塩水又は化合物(0.1−10mg/kg)で前処理し(i.p.)、続いて15分後に痙攣用量のコカイン(70mg/kg、i.p.)でチャレンジした。その後の30分間マウスを痙攣について観察した(前記は、間代性四肢運動又はポップコーン跳躍を伴う少なくとも5秒間の立ち直り反射の消失と定義された)。フィッシャーの正確検定を用いて、特定の薬物用量の前処理によって生じた作用が食塩水コントロールによる前処理と有意に相違するか否かを決定した。
【0106】
コカイン誘発歩行活動
雄のスイスウェブスターマウスを処置部屋に慣らし、続いて自動化活動監視系チャンバー(San Diego Instruments, San Diego, CA)に慣らした。それらに食塩水又は化合物(0.1−10mg/kg)を注射し(i.p.)、続いて15分後にコカイン(20mg/kg、i.p.)又は食塩水(i.p.)でチャレンジした。その後の30分間、マウスの全歩行活動(移動、微動及び立ち上がり行動)を、当該マウスの試験チャンバーの16x16フォトビームグリッドにおけるそれら動物によってもたらされる中断回数として記録した。
【0107】
過敏化の進展
雄のスイスウェブスターマウスを上記に詳述したように慣らした。連続して5日間(1−5日)、前記マウスを食塩水又は化合物(0.1−20mg/kg)で前処理し(i.p.)、続いて15分後にコカイン(10mg/kg、i.p.)又は食塩水(i.p.)でチャレンジした。その後の30分間、マウスの全歩行活動(移動、微動及び立ち上がり行動)を、当該マウスの試験チャンバーの16x16フォトビームグリッドにおけるそれら動物によってもたらされる中断回数として前記5日間に毎日記録した。その後10日間の無薬物期間が続いた。15日目に、全マウスに食塩水を前投与し(i.p.)、続いてコカインを投与し(10mg/kg、i.p.)、その後の30分間に歩行活動を定量した。
【0108】
過敏化の発現
雄のスイスウェブスターマウスを上記に詳述したように慣らした。連続して5日間(1−5日)、前記マウスを食塩水で前処理し(i.p.)、続いて15分後にコカイン(10mg/kg、i.p.)でチャレンジした。その後の30分間、マウスの全歩行活動(移動、微動及び立ち上がり行動)を記録した。その後10日間の無薬物期間が続き、15日目に、マウスに食塩水(i.p.)又は化合物(0.1−20mg/kg)を投与し、15分後に続いてコカイン(10mg/kg、i.p.)を投与した。続いてその後の30分間、歩行活動を記録した。
【0109】
メタンフェタミン誘発歩行活動
雄のスイスウェブスターマウスを上記に詳述したように慣らした。それらに食塩水又は化合物(0.1−20mg/kg)を注射し(i.p.)、続いて15分後にメタンフェタミン(1mg/kg、i.p.)又は食塩水(i.p.)でチャレンジした。その後の30分間、マウスの全歩行活動(移動、微動及び立ち上がり行動)を、当該マウスの試験チャンバーの周囲の16x16フォトビームグリッドにおけるそれら動物によってもたらされる中断回数として記録した。
【0110】
メタンフェタミン誘発ドーパミン枯渇
雄のスイスウェブスターマウスに食塩水又は化合物(0−20mg/kg)を注射し(i.p.)、続いて15分後に2時間間隔で合計4回、食塩水(-METH)又はメタンフェタミン(5mg/kg)を注射した。線条体ドーパミンレベルを1週間後に測定した。
以下は、調製して活性について試験した本発明の範囲内の化合物を示す。さらにまた、調製したが試験は行わなかった化合物も含まれる(それら化合物は調製して試験した化合物と類似の活性を有すると予測される)。さらにまた、調製及び試験を実施した化合物と類似の活性を有すると思われない調製可能な化合物も本リストに含まれている。
【0170】
本発明は、対象動物による薬物摂取又は薬物濫用から生じる当該対象動物に対する影響を緩和するために対象動物を治療する方法を含み、前記方法は、本発明の少なくとも1つの化合物の治療的に有効な量を当該対象動物に投与する工程を含む。
該薬物濫用又は薬物摂取は、対象動物によるメタンフェタミンの摂取若しくはメタンフェタミンの濫用、又は対象動物によるコカインの摂取若しくはコカインの濫用から生じうる。
本発明はさらに、シグマ受容体と密接に関係する治療法を必要とする対象動物を治療する方法を含み、前記方法は、本発明の少なくとも1つの化合物の有効量を当該対象動物に投与する工程を含み、加えて本発明は、対象動物による薬物濫用又は薬物摂取から生じる神経毒性作用を予防するために当該対象動物を治療することを含み、前記は本発明の少なくとも1つの化合物の治療的に有効な量を当該対象動物に投与する工程を含む。
【0171】
本発明はさらに、本発明の少なくとも1つの化合物を含む放射性リガンド組成物を含み、ここで少なくとも1つの化合物は放射性成分を含む。
本発明の医薬組成物は、温血動物(特にヒト)への経腸(例えば経口)投与及び非経口(例えば皮下)投与に適切であるもの、及び薬理学的に活性な物質をその物自体に又は医薬的に許容可能な担体と一緒に含むものである。活性物質の投薬量は、温血動物の種並びに年齢及び個体の条件、治療されるべき異常及び投与態様にもまた左右される。そのような投薬量は関連技術分野の熟練者が容易に決定できる。
新規な医薬調製物は、約10%から約95%、好ましくは約20%から約90%の活性物質を含む。本発明の医薬組成物は、例えば単位剤形(例えば糖衣錠、錠剤、カプセル、座薬又はアンプル)でありうる。
【0172】
本発明の医薬組成物は、それ自体公知の態様で、例えば通常的な混合、粒状化、糖剤化、可溶化又は凍結乾燥プロセスの手段によって製造できる。経口使用のための医薬組成物は、活性物質を1つ以上の固形担体と結合させ、所望の場合には得られた混合物を粒状化して混合物又は顆粒に加工し、適切な付加物の添加後に所望の場合又は必要な場合には錠剤又は糖衣錠コアを形成することによって入手できる。そのようにするときに、それらはまた、当該活性物質を放出するか又はそれらを制御量で拡散させることができるプラスチック担体に取り入れることができる。
適切な担体は、特に充填剤(例えばラクトース、サッカロース、マンニトール又はソルビトール、セルロース調製物及び/又はリン酸カルシウム、例えばリン酸三カルシウム又はリン酸水素カルシウム)、さらに結合剤(例えばデンプン(例えばトウモロコシ、コムギ、コメ若しくはジャガイモデンプン)、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/又はポリビニルピロリドン)、及び/又は所望の場合には崩壊剤、例えば上記に記載のデンプン、さらにカルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸若しくはその塩(例えばアルギン酸ナトリウム)である。付加物は、特に流動調整剤及び滑沢剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸若しくはその塩(例えばステアリン酸マグネシウム又はカルシウム)、及び/又はポリエチレングリコールである。糖衣錠コアは適切なコーティグとともに提供され、前記コーティングは所望の場合には胃酸耐性であり、とりわけ濃縮糖溶液が用いられ、前記は場合によって、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール及び/又は二酸化チタニウム、適切な有機溶媒又は有機溶媒混合物中のラッカー溶液、又は、胃酸耐性コーティングの製造のためには適切なセルロース調製物溶液(例えばフタル酸アセチルセルロース又はフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース)を含む。着色物質又は色素を、例えば識別の目的又は活性物質の用量が異なることを示すために錠剤又は糖衣錠コアに添加できる。
【0173】
他の経口的に投与できる医薬組成物は、ゼラチンで成形された乾燥充填カプセル、さらにゼラチン及び可塑剤(例えばグリセロール又はソルビトール)で成形された封入軟カプセルである。乾燥充填カプセルは、活性成分を粒状物の形態で、例えば充填剤(例えばトウモロコシデンプン)、結合剤及び/又は滑剤(例えばタルク又はステアリン酸マグネシウム)及び場合によって安定化剤との混合物状態で含むことができる。軟カプセルでは、活性成分は、好ましくは適切な液体又はロウ様物質(例えば脂肪油、パラフィン油又はポリエチレングリコール)に溶解又は懸濁され、安定化剤を添加することもまた可能である。
経口投与の他の形態は、例えば通常的態様で調製されるシロップであり、前記は、投与したとき適切な単一用量を提供する濃度で、例えば懸濁形態の活性成分を含む。
非経口投与のためのさらに別の適切な投薬形は、水溶形(例えば水溶性塩)の活性成分の無菌的水溶液又は無菌的注射水懸濁物であり、前記は、粘度を高める物質(例えばナトリウムセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール及び/又はデキストラン)、さらに場合によって安定化剤を含む。加えて、活性成分はまた、アジュバントとともに又はアジュバントを含まないで凍結乾燥形であり得、非経口的投与の前に適切な溶媒の添加によって溶液にできる。
本発明はまた、上記で述べた哺乳動物(特にヒト)の病的状態を治療する方法に関し、前記方法は、式Iの化合物又はその医薬的に許容できる塩の治療的に有効な量を投与する工程を含む。
【0174】
本発明の放射性リガンドの詳細な説明
本発明は、下記式III’のシグマ受容体として有用な化合物、シグマ-1受容体(σ-1受容体)選択的放射性リガンドに関する:
【0176】
R
1は置換されていてもよい窒素含有複素環ラジカル、例えば、置換されていてもよいピペリジン、置換されていてもよいピペラジン、置換されていてもよいテトラヒドロピリジン、置換されていてもよいアゼパン、第三アミン(環式又は非環式)、イソインドリン-1,3-ジオン、又は置換されていてもよいテトラヒドロイソキノロン(芳香族的に置換される)のラジカルであり得;R
2,4,5,6は、それぞれ別個に以下の部分のいずれか1つ又は組合せであり得、前記部分は例えば、水素、シアノ、ニトロ、アシル、アルキル、アミド、アジド、イソチオシアネート、イソシアネートアニリノ(非置換又は置換)、ハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素及びヨウ素)、エーテル、スルホンアミド、チオアシル、ニトロ、芳香族、複素環、オレフィン、アセチレン、重水素、又は三重水素であり;YはSであり得;ZはH、O、S、S-R又はNRのいずれかでありうる。R基はH、アリール、アルキル、又はシクロアルキルのいずれかであり得、“n”は長さが1つから5つの炭素並びにその立体異性体、アナローグ及び医薬的に許容できる塩の他に前記化合物を含む組成物でありうる。式IIでR
1とNを架橋する部分は置換されたC
1-C
6アルキレン、C
1-C
6アルケニレンであり得、ここで該アルキレン基は、その鎖にC
3-C
5シクロアルキル基、芳香族及び複素環基を挿入してあってもよく、ここでXはC
1-C
4放射性ハロアルキルである。
【0177】
本発明はさらにまた、下記式IV’のシグマ受容体として有用なさらに別の一連の化合物に関する:
【0179】
R
1は置換されていてもよい窒素含有複素環ラジカル、例えば、置換されていてもよいピペリジン、置換されていてもよいピペラジン、置換されていてもよいテトラヒドロピリジン、置換されていてもよいアゼパン、第三アミン(環式又は非環式)、イソインドリン-1,3-ジオン、又は置換されていてもよいテトラヒドロイソキノロン(芳香族的に置換される)のラジカルであり得;R
2,4,6は、それぞれ別個に以下の部分のいずれか1つ又は組合せであり得、前記部分は例えば、水素、シアノ、ニトロ、アシル、アルキル、アミド、アジド、イソチオシアネート、イソシアネートアニリノ(非置換又は置換)、ハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素及びヨウ素)、エーテル、スルホンアミド、チオアシル、ニトロ、芳香族、複素環、オレフィン、アセチレン、重水素、又は三重水素であり;YはSである。ZはH、O、S、S-R又はNRのいずれかでありうる。R基はH、アリール、アルキル、又はシクロアルキルのいずれかでありうる。“n”は長さが1つから5つの炭素並びにその立体異性体、アナローグ及び医薬的に許容できる塩の他に前記化合物を含む組成物でありうる。式IVでR
1とNを架橋する部分は、式-(CHR
x-(CH
2)-CH
2)-を有する置換されたC
1-C
6アルキレンであり得、式中、-CHRx-部分はR
1に結合され、該アルキレン基はその鎖にC
3-C
5シクロアルキル基、芳香族及び複素環基を挿入してあってもよく、さらにR
xはC
1-C
5直鎖若しくは分枝鎖アルキル又はC
1-C
4直鎖若しくは分枝鎖ハロアルキルであり、XはC
1-C
4放射性ハロアルキルである。
【0180】
加えて、本発明はさらにまた、式III’、IV’、V’、VI’、VII’、XII’又はXIII’に記載の化合物を調製する方法を含み、前記方法は、式III’、IV’、V’、VI’、VII’、XII’又はXIII’(式中Xはトシル酸アルキル)に記載の化合物を極性非プロトン性溶媒の存在下で放射性ハロゲン化する工程を含む。
本発明はさらにまた下記式V’のシグマ受容体として有用な化合物に関する:
【0182】
R
2,4,5,6は、それぞれ別個に以下の部分のいずれか1つ又は組合せであり得、前記部分は例えば、水素、シアノ、ニトロ、アシル、アルキル、アミド、アジド、イソチオシアネート、イソシアネートアニリノ(非置換又は置換)、ハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素及びヨウ素)、エーテル、スルホンアミド、チオアシル、ニトロ、芳香族、複素環、オレフィン、アセチレン、重水素、又は三重水素であり;YはSである。ZはH、O、S、S-R又はNRのいずれかでありうる。R基はH、アリール、アルキル、又はシクロアルキルのいずれかでありうる。“n”は長さが1つから5つの炭素並びにその立体異性体、アナローグ及び医薬的に許容できる塩の他に前記化合物を含む組成物でありうる。式VのR
1架橋部分は、置換されていてもよいC
1-C
6アルキレン、C
1-C
6アルケニレン又はC
1-C
6アルキニレン基であり得、ここで該アルキレン基はその鎖にC
3-C
5シクロアルキル基、芳香族及び複素環基を挿入してあってもよい。XはR
2又はC
1-C
4放射性ハロアルキルである。
【0183】
詳細な説明
CM304の合成及びin vitro結合
非放射性リガンドを模式
図6にしたがって調製した。化合物10及び11を公知の手順を用いて合成した
90。続いて、フッ化t-ブチルアンモニウム及びフッ化カリウムを用いるハロゲン交換により、11からフルオロ化合物を首尾よく調製した。最後に、フッ化中間体12をDMF中の炭酸カリウムの存在下で2-(ヘキサメチレンイミノ)エチルクロリドを用いてアルキル化し、3-(2-(アゼパン-1-イル)エチル)-6-(3-フルオロプロピル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-オン(13、CM304)を得た。
【0185】
模式
図6:試薬及び条件
(a)3-クロロプロピオニルクロリド、AlCl
3、DMF、85℃;(b)Et
3SiH、CF
3COOH、RT;(c)KF、TBAF、還流;(d)2-(ヘキサメチレンイミノ)エチルクロリド、K
2CO
3、DMF、55℃
【0186】
CM304の実験pKa(10.4)を決定し、計算pKa値(9.36)よりわずかに高かったが、実験Log P O/W±SD -0.15±0.05は計算Log P値(5.02)よりも有意に低かった。実験Log D PBS, pH7.4±SDは0.145±0.04(n=6)と測定された。以前に記載されたように
50、CM304を放射性リガンド結合アッセイに付し、高い親和性(Ki=2.5pM)及びσ-1受容体に対して優れた選択性(σ-2受容体と比較してσ-1に対し145,000倍を超える選択性)を示すことが見出された。さらにまた、NovaScreen及び59標的の所内プロフィールで、CM304は、10,000nMのスクリーニング濃度で50%を超える放射性リガンド置換及び100nMのスクリーニング濃度で20%未満の置換を9つの標的(α2-アドレノセプター、ヒスタミンH2受容体、ムスカリンM2受容体、末梢ムスカリン受容体、ニューロン(α-ブンガロトキシン非感受性)ニコチン受容体、ノルエピネフリン輸送体、カルシウムL型チャンネル、ナトリウムサイト2チャンネル、アセチルコリンエステラーゼを含む)に対して示し、これらの標的と比較して前記がσ-1受容体に対し10,000倍高い選択性を有することを示唆した。
【0187】
放射化学
[
18F]FTC-146を作製する設計戦略はトシレート前駆体17の調製及びその後のフッ素-18による放射能標識を必要とした(模式
図2)。化合物11を安息香酸と反応させて14を生成し、前記を続いて2-(ヘキサメチレンイミノ)エチルクロリドでアルキル化した。中間体15の加水分解により対応するアルコール16を得た。続いて、当該アルコールをp-トルエンスルホニルクロリドとトリエチルアミンの存在下で反応させて、トシレート前駆体を調製した。[
18F]FTC-146は、自動化GE TRACERlab FX-FN直接標識モジュールを用いて求核置換により首尾よく合成された。フッ素-18(半減期=109.8分)放射能標識は、ジメチルスルホキシド中の
18F-標識Kryptofix-222/K+/[
18F]F-複合体としてサイクロトロン生成
18F-フッ化物と15分間150℃でトシレート前駆体(17)を反応させることによって達成された。粗反応混合物の半調製逆相HPLCによって、[
18F]FTC-146が、ボンバードメント終了時(EOB)に3.7±1.9%の収量(n=13)で、99%を超える放射化学的純度(RCP)、3.9±1.9Ci/μmolの比放射能(SA)で全合成時間75分の間に得られた。食塩水/エタノール(9:1、合計10mL)中の[
18F]FTC-146処方型は、分析逆相HPLCにより少なくとも5.5時間安定であることが示された。
【0188】
細胞取り込み試験
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の[
18F]FTC-146の取り込みを、公知のσ-1受容体リガンド(+)-[
3H]ペンタゾシンの取り込みと比較した。コントロールCHO細胞(σ-1受容体遺伝子を含まないベクターをトランスフェクト(陰性コントロールとして供される))及びσ-1受容体cDNAを含むベクターをトランスフェクトしたCHO細胞(細胞でσ-1受容体発現の陽性コントロールとして供される)を取り込みアッセイに用いた。細胞を[
18F]FTC-146又は(+)-[
3H]ペンタゾシンに30分及び120分暴露した(各時点について3組)。インキュベートした細胞を続いて洗浄、溶解及び放射能活性について計測した。全収集データを各ウェルに存在するタンパク質量について標準化した。両取り込みアッセイのデータ(
図15)は、コントロールCHO細胞では両放射性リガンドの取り込みに30分と120分との間で小さな増加があることを示した。この増加は、σ-1受容体cDNAをトランスフェクトしたCHO細胞ではより明白で、陰性コントロールCHO細胞と比較して30分及び120分の両方で数値的により高かった。σ-1受容体cDNAをトランスフェクトした細胞の[
18F]FTC-146の取り込みは、コントロールCHO細胞の120分の取り込みよりも4倍高かった。この相違は(+)-[3H]ペンタゾシン取り込み試験では3.6倍であった(
図16)。
【0189】
ウェスタンブロット
ウェスタンブロット分析を、コンピュータプログラムイメージJ(Java(登録商標)の画像処理及び分析ソフト)を用いて実施し、σ-1受容体cDNAをトランスフェクトしたCHO細胞のσ-1受容体発現レベルは、空ベクターをトランスフェクトしたコントロールCHO細胞で見いだされたレベルよりも約4.3倍高いことが示された(
図3)。
【0190】
マウス血清におけるin vitro代謝試験
マウス血清中の完全な[
18F]FTC-146のパーセンテージをHPLCにより時間の経過にしたがって査定した。完全な[
18F]FTC-146のパーセンテージは、全試験時間経過(5−120分)にわたって100%のままであることが判明した。
【0191】
マウスにおけるPET画像化
正常マウスにおける[
18F]FTC-146のin vivo消長を、小動物PETを用いて査定した。動的脳PETスキャンニングを[
18F]FTC-146投与1分前に開始し、62分後に終了した。
図17は、0−5分、20−25分及び52−62分間を集約した、ベースラインマウス試験の1つの同じPET冠状及び矢状スライスを示す。これらの画像は、[
18F]FTC-146が血液脳関門を迅速に通過し、画像化試験経過中にゆっくりと洗い流しが開始されるという視覚的証拠を提供する。さらにまた、時間とともに増加する鼻及び脊椎における蓄積があった。
ベースライン試験及び遮断試験のために時間の関数としてマウス全脳の[
18F]FTC-146の取り込みを示すグラフは
図5に提示される。ベースライン時間放射能曲線(TAC)(
図18)は、[
18F]FTC-146は迅速に脳に入り、最初の数分以内にピークに達し、続いてスキャンの残存時間にわたってゆっくりと減少することを示したが、しかしながら[
18F]FTC-146は、スキャン中に脳から完全には洗い流されなかった。放射線リガンド投与10分前のCM304(1mg/kg)による前処理は、脳内の[
18F]FTC-146の結合を60分で83%減少させた(
図18)。
【0192】
マウス及びラット肝ミクロソームにおけるin vitro半減期試験
CM304の代謝安定性をマウス及びラット肝ミクロソームで判定した。最初に、CM304をNADPH発生系の存在下で37℃60分間、試験管でインキュベートした。コファクターの添加により反応を開始させ、さらに等体積の氷冷アセトニトリル(ACN)の添加により指定時点(0、5、10、15、30、45、60分)で反応を停止させた。CM304は、マウスで4.2分の半減期とともに0.55mL/分/gのクリアランスを有し、ラットで12.6分の半減期とともに0.18mL/分/gのクリアランスを有することが判明した。
【0193】
マウスの薬理学的チャレンジ
正常マウスを食塩水又はCM304(0.001、0.01、0.1、1.0又は10mg/kg、i.p.)でコカイン投与(70mg/kg、i.p.)15分前に前処理することによって、コカイン誘発痙攣を阻害/減弱させる能力についてCM304を評価した。コカイン投与後30分間、対象動物を継続的にモニターした。フィッシャーの正確検定は、以下の用量のCM304はコカイン誘発痙攣を有意に減弱させることを示した:0.001mg/kg(p<0.005)、0.01mg/kg(p<0.005)、0.1mg/kg(p<0.05)、1mg/kg(p<0.05)、10mg/kg(p<0.005)。
【0194】
本発明はさらに、対象動物でシグマ-1受容体とシグマ-2受容体を弁別する方法を含み、前記方法は、PET及び画像化剤を用いる工程を含み、ここで前記画像化剤は、式III’、IV’、V’、VI’、VII’、XII’又はXIII’の少なくとも1つのシグマ-1受容体リガンドを含む。
σ-1受容体は、多数のヒト癌、神経変性疾患、及び精神的症状と極めて密接に関係するので、σ-1受容体に特異的な10の放射性リガンドが新規な診断ツールとして役立つ潜在性を有し、治療有効性の査定に有用でありうる。本試験では、マウスの細胞取り込み試験、代謝安定性検査及びPET画像化を用いて、新規なσ-1受容体PET放射性リガンドの合成及び放射能標識が、その予備的in vitro及びin vivo特徴付けとともに記載される。
CM304(13)が首尾よく合成され、その親のSN56と比べたとき、σ-1受容体に対する高い親和性(Ki=2.5pM)及び優れた選択性(σ-2受容体と比較してσ-1受容体に対しては145,000倍を超える選択性)が見出された。これらの結果は、CM304を形成するためにSN56に加えられた小さな構造的修正が、σ-1受容体に対する親和性及び選択性の改善をもたらしたことを示した。実際、CM304の親和性及び選択性は、ここで報告した他の公知のσ-1受容体リガンドについて報告された値よりも高い。NovaScreenプロフィールの結果によって、さらにまたCM304の超選択性特性が確認された。
[
18F]FTC-146の直接標識は、化合物7の求核性脂肪族放射性フッ化反応によって達成された(模式
図7)。このタイプの反応では、
18F陰イオンの求核性を利用するために、極性非プロトン性溶媒の使用が必須である。加えて、例えば前駆体の濃度、反応温度及び時間のような要件は、最終的な放射化学的収量(RCY)への影響で極めて重要であり、したがって熟慮の必要がある。本試験では、DMSO(このタイプの標識反応では一般的に用いられる溶媒である)が、極性非プロトン性溶媒として選択された。反応を150℃15分間加熱することによって、予備的なin vitro及びin vivo精査のために十分な収量/量で高純度生成物(2−5%、1−5mCi/mL)を得ることができるので、更なる最適化はこの段階では求めなかった。
【0196】
模式
図7:試薬及び条件
(a)安息香酸、、K
2CO
3、DMF、110℃;(b)2-(ヘキサメチレンイミノ)エチルクロリド、K
2CO
3、DMF、65℃;NaOH、H
2O、MeOH、還流;(d)p-トルエンスルホニルクロリド、Et3N、DCM、RT;(e)Kryptofix-222/K
+/[
18F]F
-、DMSO、150℃。
【0197】
シグマ-1及びシグマ-2受容体の識別にベンゾモルファン型アヘン剤(例えば周知の選択的σ-1受容体リガンド[
3H](+)-ペンタゾシン)を使用することは典型的である
51。前記の理由から、出願人は、σ-1受容体リガンド“金字塔”として[
3H](+)-ペンタゾシンを選択し、トランスフェクトしたCHO細胞を用いる細胞取り込み試験で我々の新規なσ-1受容体リガンド[
18F]FTC-146と比較した。我々の細胞取り込み試験から得られた結果は、CHO細胞のσ-1受容体と結合する[
18F]FTC-146の能力は、[
3H](+)-ペンタゾシンの能力に匹敵する態様にあることを示した。コントロールCHO細胞の[
18F]FTC-146及び[
3H](+)-ペンタゾシン取り込みにおける30分と120分との間の小さな増加(
図15)は、ウェスタンブロットの結果(
図16)によって支持された(σ-1受容体cDNAの導入前にCHO細胞で低レベルのσ-1受容体の存在が確認されている)。120分のコントロールCHO細胞と比較した、σ-1受容体cDNAトランスフェクトCHO細胞の[
18F]FTC-146の取り込みは4倍高かった(
図15)。これは、120分のコントロールCHO細胞と比較して、σ-1受容体cDNAトランスフェクトCHO細胞における[
3H](+)-ペンタゾシンの3.6倍高い取り込みに匹敵し、[
18F]FTC-146は[
3H](+)-ペンタゾシンと同様に機能すること、及び[
18F]FTC-146はσ-1受容体レベルに対してより鋭敏なマーカーでありうることを示している。ウェスタンブロットの結果は、細胞アッセイにおける[
18F]FTC-146取り込み(120分)のレベルがσ-1受容体タンパク質レベルと相関することを立証し、したがってσ-1受容体を正確に同定しかつ可視化する放射性リガンドとしてのその潜在能力を際立たせてみせた。
【0198】
マウス血清での安定性試験を通して、出願人は、[
18F]FTC-146が120分間を通して100%完全なままであることを見出した。前記は、[
18F]FTC-146がin vitroのマウス血清で安定であることを示し(ただし肝の代謝の可能性は説明しなかったが)、マウスでin vivoでも安定であるはずであることを示唆した。
これらの有望なin vitro細胞取り込み及び血清安定性の結果に続いて、この放射性フッ素化リガンドのin vivo消長及び結合を、生きている正常なマウスで小動物PETを用いて評価した。σ-1受容体は脳の多様な部分(もっぱら皮質領域、視床、線条体及び小脳
43)に豊富に存在することが知られており
7、したがって脳は、我々の新規な放射性リガンドの消長及び結合プロフィールを評価するために対象となる適切な領域であると考えられるので、各マウスの脳を各試験のために中心視野(FOV)に配置した。
麻酔マウスの[
18F]FTC-146のPET画像は放射性リガンドの高い脳及び脊椎内取り込みを示している(
図17)。ベースラインTAC(
図18)は、[
18F]FTC-146は迅速に血液脳関門(BBB)を通過し、最初の数分以内に約17%のID/gの最大取り込みに達し、その後、と取り込みレベルは残りのスキャンを通してゆっくりと6%ID/gレベルに60分で低下した。放射性リガンド投与の10分前のCM304(1mg/kg)による前処理は、脳における[
18F]FTC-146結合の著しい低下をもたらした(60分で83%低下)(
図5)。これらの結果は、マウスの脳の[
18F]FTC-146の蓄積はおそらく特異的なσ-1受容体結合を表している。遮断TACデータで示される放射性リガンドの取り込みの最初のスパイクは遮断試験に特有であり非標識化合物(この場合はCM304)による。前記非標識化合物は、末梢σ-1受容体部位を占有し、したがって、周辺から短期間に大量に追加される放射性リガンドはBBB通過に利用可能であるが結局は放射性リガンドが結合可能な遊離受容体を発見できない状況を作り出し、当該放射性リガンドはその後迅速に脳から洗い流される。
【0199】
[
18F]FTC-146はさらに他のフッ素化σ-1受容体放射性リガンドと一緒に評価されるが、その初期消長(すなわち最初の数分以内の迅速なマウス脳内取り込み)は、正常なマウスで[
18F]FM-SA4503及び[
18F]フルスピジンについて報告されたものと類似しているように思われる
44,49。しかしながら、後の時点の [
18F]FTC-146のマウス脳結合プロフィールは、他の公知のσ-1受容体放射性リガンドの対応する時点における報告された取り込みレベルとは全く異なっている。例えば、[
18F]FTC-146は、画像化の最初の数分以内にマウス脳で最大取り込みに達し、続いて徐々に脳から洗い流され始めて、注射後60分でその最大の65%レベルになるが、一方、[
18F]FM-SA4503は注射後30分で脳におけるその最大取り込みに達し、残りの試験の間で(注射後120分)顕著な洗い流しは示さなかった。[
18F]フルスピジンによる生体分布試験は、前記はマウス脳において注射後30分で最大取り込みに達し、続いて注射後60分でその最大の81%のレベルに洗い流される。生きているマウスの[
18F]SFE及び[
18F]FPSの取り込みレベルはこれまで文献に報告されてなく、したがって、出願人は現時点では[
18F]FTC-146の消長をそれらと視覚的に比較できなかったが、しかしながら[
18F]FTC-146がin vivo結合で相対的に速い消長を示すという事実は、[
18F]FTC-146は[
18F]FM-SA4503及び[
18F]SFEと同じ不可逆結合問題をもたない可能性があることを提唱する。
【0200】
マウスの[
18F]CM304 PET試験ではある程度の骨取り込みが観察されたが(おそらく脱フッ素化による)、骨取り込みはまた[
18F]FM-SA4503
44及び[
18F]フルスピジン
49を用いた試験でも報告された。そのうち前者は高度に増殖性組織(例えば骨髄)における高レベルのσ-1受容体によると説明され、そのうち後者は生体分布を通してマウスの骨と骨髄の両方に存在することが示された。
これまでのところ、コカイン過剰摂取に対する適切な治療はなく、日常的に用いられる抗痙攣剤のいずれもコカイン誘発発作を減弱させることができない。σ-1受容体アンタゴニストはコカインの影響を遮断できることが示されたので
33、出願人は、我々の非放射性化合物(CM304)を、コカイン誘発痙攣を予防するその能力について評価した。in vivoコカイン試験はオスのスイスウェブスターマウスで実施した。食塩水又はCM304(0.001mg/kg−10mg/kg)の腹腔内投与の15分後に、前処理動物をコカインでチャレンジした(70mg/kg、i.p.)。その後30分間対象動物を痙攣の開始について継続的にモニターした。他の仮説的σ-1受容体アンタゴニストと同様に、CM304はコカイン誘発痙攣を全ての被験用量で有意に減弱させた(P<0.05、データは示されていない)。このデータは報告された他のシグマ-1アンタゴニストと一致した。
結論すれば、出願人は、新規な超選択性
18F-標識σ-1受容体リガンド、[
18F]FTC-146を首尾よく調製した。[
18F]FTC-146は、細胞及びマウスでσ-1受容体と特異的に結合して、前記を生きている対象動物でσ-1受容体を可視化するために有望な新規候補物質とすることを示した。非標識化合物、CM304はまたコカイン過剰摂取の治療に有用であるかもしれない。
【0201】
実験セクション
全般
放射化学の報告のために、半調製的HPLC分離は、KANUR UV検出装置K-2001([
18F]FTC-146のため)の付いたDionex 680ポンプで実施した。分析的HPLCは、モデル500 UV検出装置付きLab Allianceで実施した。HPLC溶出液の放射能はモデル105S単一チャンネル放射線検出器(Carroll & Ramsey Associates)で検出した。(+)-[
3H]ペンタゾシンはNEN Life Science Products(Boston, MA)から購入した。特段の記載がなければ、化学品は市場の業者から購入し、さらに精製することなく使用した。全てのPET画像化は、microPET R4モデルスキャナー(Siemens)(前記にはコンピュータ制御ベッド、10.8cm長軸断視野(FOV)と8cm長軸視野が備え付けられていたが隔壁はない)で実施し、もっぱら三次元リストモードで操作した。microPET画像は二次元OSEM(Ordered Subsets Expectation Maximization)を用いて再構成し、AMIDE(A Medical Image Data Examiner)ソフト
52を用いて分析した。代謝試験のために、自動サンプル採取装置及びGabi放射能検出器(Raytest)付きのAgilent 1200 HPLC系を用いた。
UPLC系はWater’s Acquity UPLC(Milford, MA, USA)から成り、二元性溶媒管理装置、真空脱気体装置、サーモスタット付きカラムコンパートメント及び自動サンプル採取装置が搭載されていた。クロマトグラフィー分離は、Waters Acquity UPLCTM BEH C18カラム(1.7μm、2.1x50mm)で実施した。代謝試験のために、水に0.1%ギ酸、メタノール(50:50、v/v)に0.1%ギ酸から成る移動相を用いて均一溶媒方法を開発した。代謝物分離のために、水に0.1%ギ酸(A)及びACNに0.1%ギ酸(B)を含む移動相を用いて直線勾配方法を開発した。直線勾配溶離プログラムは以下のとおりであった:6分かけて0-80%のB、その後さらに4分間80%のBで同一溶媒維持。10分でBを2分かけて0%に復帰させ、次の注入の前にカラムを3分間平衡させた。各注入について全泳動時間は15分であった。流速は0.2mL/分であった。カラム温度を25℃に維持し注入体積は10μLであった。
質量分光分析計はWaters Micromass Quattro MicroTMトリプルクワドラポール系(Manchester, UK)から成っていた。前記系は、MassLynxソフトバージョン4.0によって制御されていた。イオン化はポジティブエレクトロスプレーモードで実施した。分析のためのMS/MSパラメーターは以下のとおりであった:キャピラリー電圧は4.95kV、コーン電圧は31V、エキストラクター電圧は5V、RFレンズ電圧は0.5V。供給源温度及び脱溶媒和温度はそれぞれ110℃及び400℃であり、脱溶媒和及びコーン気体流はそれぞれ252及び76L/時間であった。単一イオン記録(SIR)で用いたCM304イオン[M+H]
+の選択した質量対荷電比(m/z)推移はm/z 337.03であった。滞留時間は500msに設定した。
【0202】
動物
動物を必要とする全ての手順は、スタンフォード大学又はミシシッピ大学動物実験内部審査会の承認にしたがい人道的条件下で実施された。動物は飼料及び水を随意に摂取でき、12時間の点灯/消灯サイクルの下で維持された。
材料、試薬及び出発物質は、市場の供給業者から入手して精製することなく用いた。Analtechの前被覆シリカゲルGFユニプレートを薄層クロマトグラフィー(TLC)に用いた。カラムクロマトグラフィーはシリカゲル60(Sorbent Technologies)で実施した。
1H及び
13C NMRスペクトルはBruker APX400でそれぞれ400及び100MHzで得た。高解像マススペクトル(HRMS)は、ロックスプレー供給源を有するWaters Micromass Q-Tof Micro質量分析計で記録した。質量スペクトル(MS)は、ZQ検出装置の付いたWATERS ACQUITY Ultra Performance LCによりESIモードで記録した。化学物質の名称はChemDraw Ultra(CambridgeSoft, version 10.0)で作成した。計算pKa及びlogPは、PALLAS 3.1.2.4ソフト(CompuDrug Chemistry, Ltd,Sedona, AZ USA)を用いて決定した。
【0203】
6-(3-クロロプロパノイル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-オン(10)。ジメチルホルムアミド(8.6mL、115mmol)をゆっくりと塩化アルミニウム(53.3g、400mmol)に激しく撹拌しながら添加した。15分撹拌した後、2-ヒドロキシベンゾチアゾール(6.04g、40mmol)を添加し、混合物を45℃にした。15分後、3-クロロプロピオニルクロリド(5.8mL、60mmol)を添加し、反応混合物を85℃で3時間加熱した。続いて前記熱混合物を注意深く氷に注ぎ、ろ過によって粗生成物を収集した。固体を酢酸エチルに溶解し、水を添加した。続いて層を分離させ、有機層をブラインで洗浄し乾燥させた。溶媒を真空で除去し、残留物をトルエン/ジオキサンから再結晶化させて、5.15g(54%)の6-(3-クロロプロパノイル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-オンをオレンジ色の個体として得た。
1H NMR (DMSO-d6):δ 12.26 (br s, 1H), 8.24 (d, J = 1.4 Hz, 1H), 7.90 (dd, J = 8.4, 1.7 Hz, 1H), 7.19 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 3.91 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 3.50 (d, J = 6.3 Hz, 2H).
13C NMR (DMSO-d6):δ195.07, 170.37, 140.49, 130.94, 126.89, 123.77, 123.25, 111.19, 40.38, 39.52.MS (EI) m/z 242 (M+-1)。
【0204】
6-(3-クロロプロピル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-オン(11)。トリエチルシラン(4.2mL、26mmol)を、トリフルオロ酢酸(15mL)中の10(2.73 g, 11.3 mmol)の撹拌溶液に添加し、反応混合物を4時間室温で撹拌した。真空中で溶媒を除去し、溶離液として石油エーテル/エーテルの勾配(7:3から5:5)を用いシリカゲルカラムでクロマトグラフィーによって残留物を精製し、トルエン/ヘキサンから再結晶化させて、3g(72%)の6-(3-クロロプロピル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-オンを白色個体として得た。
1H NMR (DMSO-d6):δ 11.76 (br s, 1H), 7.38 (s, 1H), 7.10 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.03 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 3.59 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 2.68 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 1.99 (qu, J = 7.2 Hz, 2H).
13C NMR (DMSO-d6):δ169.89, 135.12, 134.45, 126.53, 123.40, 122.13, 111.31, 44.52, 33.75, 31.79.MS (EI) m/z 226 (M+-1)。
【0205】
6-(3-フルオロプロピル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-オン(12)。THF(10mL)中の11(0.3g、1.32mmole)、KF(0.23g、3.95mmol)及びTBAF(THF中で1M、3.95mL、3.95mmole)の混合物を還流で4時間加熱した。反応完了後に、反応混合物を酢酸エチルと水で分配し、有機層をブラインで洗浄して乾燥させた。真空中で溶媒を除去し、溶離液として石油エーテル/エーテル(8:2)を用いシリカゲルカラムでクロマトグラフィーによって残留物を精製し、0.096g(35%)の6-(3-フルオロプロピル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-オンを白色個体として得た。
1H NMR (CDCl
3):δ10.33 (br s, 1H), 7.23 (s, 1H), 7.10 (s, 2H), 4.45 (dt, J = 47.2, 5.8 Hz, 2H), 2.76 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.00 (dquint, J = 25.2, 6.8 Hz, 2H).
13C NMR (CDCl
3):δ173.26, 136.39, 133.69, 126.83, 124.09, 122.13, 111.79, 82.77 (d, J = 164.2 Hz), 32.13 (d, J = 19.7 Hz), 31.01 (d, J = 5.2 Hz).MS (EI) m/z 210 (M+-1)。
【0206】
3-(2-(アゼパン-1-イル)エチル)-6-(3-フルオロプロピル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-オンヒドロクロリド(13、CM304)。K
2CO
3(0.18g、1.28mmol)及び2-(ヘキサメチレンイニノ)エチルクロリドヒドロクロチド(0.08g、0.40mmol)を、無水DMF(2mL)中の12(0.09g、0.42mmol)の溶液に機械的撹拌下で加えた。反応混合物を55℃で3時間加熱した。冷却後、前記混合物を10mLの水に注ぎ入れ、酢酸エチルで抽出し(3x20mL)、NaCl飽和水溶液で洗浄し乾燥させた。真空中で溶媒を除去し、溶離液としてメチレンクロリド/メタノール(9.5:0.5)を用い残留物をシリカゲルカラムでクロマトグラフィーによって精製した。HCl/ジオキサンを添加して、3-(2-(アゼパン-1-イル)エチル)-6-(3-フルオロプロピル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-オンを塩酸塩として単離した。
1H NMR (D2O):δ7.34 (br s, 1H), 7.26-7.24 (m, 1H), 7.16-7.14 (m, 1H), 4.46 (dt, J = 47.2, 4.5 Hz, 1H), 4.28 (t, J = 4.8 Hz, 2H), 3.49-3.37 (m, 6H), 2.70-2.66 (m, 2H), 1.97-1.66 (m, 11H).
13C NMR (D
2O):δ173.02 (C=O), 137.92 (Cq), 133.68 (Cq), 127.31 (CHar), 122.67 (CHar), 122.09 (Cq), 110.90 (CHar), 84.33 (d, J = 157.6 Hz, CH2), 55.23 (CH2), 53.46 (CH2), 37.47 (CH2), 31.34 (d, J = 18.8 Hz, CH2), 30.30 (d, J = 5.5 Hz, CH2), 25.61 (CH2), 23.37 (CH2)。C
18H
26N
2OFS [M+H]+の計算によるHRMS (EI)は337.1750、測定値は337.1764。
【0207】
3-(2-オキソ-2,3-ジヒドロベンゾ[d]チアゾール-6-イル)プロピルベンゾエート(14)。K
2CO
3(5.31g、38.4mmol)及び安息香酸(9.38g、76.8mmol)を、無水DMF(250mL)中の11(3.5g、15.4mmol)の溶液に機械的撹拌下で加えた。反応混合物を110℃で6時間加熱した。冷却後、前記混合物を100mLの2.5N HCl溶液に注ぎ入れ、酢酸エチルで抽出し(3x70mL)、有機層をブラインで洗浄した。真空中で溶媒を乾燥及び除去し、溶離液として石油エーテル/エチルエーテルの勾配(4:6から6:4)を用い残留物をシリカゲルカラムでクロマトグラフィーに付した。生成物をトルエン中で再結晶化して、2.97g(62%)の3-(2-オキソ-2,3-ジヒドロベンゾ[d]チアゾール-6-イル)プロピルベンゾエートを白色個体として得た。
1H NMR (DMSO-d6):δ11.70 (br s, 1H), 7.91 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 7.63 (t, J = 7.5 Hz, 1H), 7.49 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 7.41 (s, 1H), 7.12 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.02 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 4.25 (t, J = 6.3 Hz, 2H), 2.71 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 2.03-1.97 (m, 2H).
13C NMR (DMSO-d6):δ170.00, 165.70, 135.77, 134.42, 133.22, 129.76, 129.10, 128.64, 126.58, 123.44, 122.18, 111.34, 64.02, 31.34, 29.93.MS (EI) m/z 312 (M+-1)。
【0208】
3-(3-(2-(アゼパン-1-イル)エチル)-2-オキソ-2,3-ジヒドロベンゾ[d]チアゾール-6-イル)プロピルベンゾエート(15)。K
2CO
3(0.75g、5.47mmol)及び2-(ヘキサメチレンイミノ)エチルクロリドヒドロクロリド(0.47g、2.37mmol)を、無水DMF(10mL)中の14(0.57g、1.82mmol)の溶液に機械的撹拌下で加えた。反応混合物を65℃で2時間加熱した。冷却後、前記混合物を80mLの水に注ぎ入れ、酢酸エチルで抽出し(3x60mL)、一緒にした有機層をブラインで洗浄し乾燥させた。真空中で溶媒を除去し、溶離液としてジエチルエーテルを用い残留物をシリカゲルカラムでクロマトグラフィーに付し、0.72g(90%)の3-(3-(2-(アゼパン-1-イル)エチル)-2-オキソ-2,3-ジヒドロベンゾ[d]チアゾール-6-イル)プロピルベンゾエートを無色の油として得た。サンプルは分析のために塩酸塩として単離した。
1H NMR (DMSO-d6):δ11.29 (br s, 1H), 7.92 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.66-7.57 (m, 3H), 7.50 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 7.28 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 4.43-4.40 (m, 2H), 4.27 (t, J = 6.0 Hz, 2H), 3.44-3.18 (m, 6H), 2.77 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.06-1.56 (m, 10H).
13C NMR (DMSO-d6):δ168.74 (CO), 165.52 (CO), 136.68 (Cq), 134.23 (Cq), 133.07 (CHar), 129.59 (Cq), 128.92 (CHar), 128.50 (CHar), 126.78 (CHar), 122.45 (CHar), 121.44 (Cq), 111.36 (CHar), 63.83 (CH2), 53.62 (CH2), 52.05 (CH2), 37.02 (CH2), 31.10 (CH2), 29.72 (CH2), 25.58 (CH2), 22.88 (CH2). C
25H
31N2O
3S [M+H]+の計算によるHRMS (EI)は439.2055、測定値は439.2056。
【0209】
3-(2-(アゼパン-1-イル)エチル)-6-(3-ヒドロキシプロピル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-オン(16)。メタノール(10mL)中の15(0.67g、1.53mmol)の溶液に、水(10mL)に水酸化ナトリウム(0.15g、3.84mmol)の溶液を添加した。前記混合物を90℃で1時間加熱し、真空中で濃縮し、1N HCl(20mL)に注ぎ入れ、酢酸エチル(10mL)で抽出した。水層のpHを炭酸カリウムで10に調整し、混合物を酢酸エチルで抽出した(3x20mL)。一緒にした有機層をブラインで洗浄し、乾燥及び蒸発させた。溶離液として塩化メチレン/メタノール(9.7:0.3)を用いシリカゲルカラムでクロマトグラフィーに付し、0.47g(92%)の3-(2-(アゼパン-1-イル)エチル)-6-(3-ヒドロキシプロピル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-オンを白色個体として得た。サンプルは分析のために塩酸塩として単離した。
1H NMR (DMSO-d6):δ11.35 (br s, 1H), 7.46 (d, J = 1.2 Hz, 1H), 7.36 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.50 (dd, J = 8.0, 1.2 Hz, 1H), 4.31 (t, J = 6.8 Hz, 2H), 3.80 (br s, 2H), 3.53 (s, 1H), 3.39-3.29 (m, 6H), 2.60 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 1.79 (br s, 4H), 1.68 (qu, J = 8.0 Hz, 2H), 1.58 (br s, 4H).
13C NMR (DMSO-d6):δ170.04 (CO), 138.34 (Cq), 134.45 (Cq), 127.41 (CHar), 122.92 (CHar), 121.91 (Cq), 111.58 (CHar), 60.26 (CH2), 54.60 (CH2), 53.07 (CH2), 37.70 (CH2), 34.50 (CH2), 31.47 (CH2), 25.99 (CH2), 23.58 (CH2). C28H27N2O2S [M+H]+の計算によるHRMS (EI)は335.1793、測定値は335.1786。
【0210】
3-(3-(2-(アゼパン-1-イル)エチル)-2-オキソ-2,3-ジヒドロベンゾ[d]チアゾール-6-イル)プロピル4-メチルベンゼンスルホネート(17)。塩化メチレン(10mL)中のp-トルエンスルホニルクロリド(0.24g、1.26mmol)の溶液を、塩化メチレン(20mL)中の16(0.38g、1.15mmol)及びトリエチルアミン(0.16mL、2.42mmol)の溶液にゆっくり添加した。前記混合物を室温で3日間撹拌し、さらに溶媒を蒸発させた。溶離液として塩化メチレン/メタノールの勾配(10:0から9.7:0.3)を用いシリカゲルカラムでクロマトグラフィーによって精製し、0.5g(89%)の3-(3-(2-(アゼパン-1-イル)エチル)-2-オキソ-2,3-ジヒドロベンゾ[d]チアゾール-6-イル)プロピル4-メチルベンゼンスルホネートを青白黄色の油として得た。
1H NMR (DMSO-d6):δ7.78 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.46 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.30 (s, 1H), 7.20 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.08 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 4.00-3.93 (m, 4H), 2.71 (t, J = 6.8 Hz, 2H), 2.59-2.55 (m, 6H), 2.41 (s, 3H), 1.88-1.85 (m, 2H), 1.45 (br s, 8H).
13C NMR (DMSO-d6):δ168.36, 144.68, 135.24, 135.11, 132.32, 129.98, 127.41, 126.45, 122.10, 121.25, 111.11, 69.77, 54.84, 54.21, 40.64, 30.13, 29.80, 27.93, 26.27, 20.95.MS (EI) m/z 489 (M++1)。
【0211】
[
18F]FTC-146(18)の直接標識法。[
18O(p,n)18F]核反応によって95%濃縮[
18O]H
2Oへの16 MeV陽子ビームを用いて1.6mLの水の標的に照射することによって、PETtraceサイクロトロン(GE Healthcare, Sweden)で担体無添加水性[
18F]フッ化物イオンを生成した。[
18O]H
2O中の[
18F]フッ化物をGE TRACERlab FX-FNシンセサイザーに移し、真空下で陰イオン交換樹脂(カーボネート型のQMAカートリッジ、1mLのEtOH及び1mLの水で洗浄して調製)に通した。トラップされた[
18F]フッ化物イオンを続いてQMAカートリッジから溶出させ、溶離液を用いてリアクターへ移した。溶離液は、アセトニトリル(0.9mL)及び水(0.1mL)の混合物中に3.5mgのK
2CO
3及び15mgのKryptofix 222(K222;4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン)を含んでいた。続いて、前記溶液をヘリウム流及び真空下で65℃にて蒸発させ、その後真空下で88℃に加熱した。トシレート前駆体8、3-(2-オキシ-3-(2-(ピペリジン-1-イル)エチル)-2,3-ジヒドロベンゾ[d]チアゾール-6-イル)プロピル4-メチルベンゼンスルホネート(1mg)をジメチルスルホキシド(0.5mL)に溶解し、乾燥Kryptofix-222/K
+[
18F]F
-複合体に添加した。前記混合物を150℃で15分間反応させた。完了時に、反応混合物を滅菌水(8mL)で希釈し、C18 Sep-Pakカートリッジに通した。続いて、C18トラップ放射能標識生成物をC18 Sep-PakからCAN(1.5mL)及び滅菌水(1.5mL)で溶出させた。得られた粗混合物を続いて2つの連続HPLC Phenomenex Gemini C-18(5μm(10x250mm))半調製用逆相カラムに注入した。以下の移動相(H
2O(0.1%TEA):CAN(0.1%TEA)、pH8、20/80(v:v))を用い、さらに5.0mL/分の流速で、[
18F]FTC-146の保持時間(tR)は13分であった。滅菌水(15mL)を含む丸底フラスコに[
18F]FTC-146に対応する放射性分画を収集し、続いてC18 Sep-Pakに通した。さらに別の滅菌水10mLを前記C18 Sep-Pakに通した。トラップされた精製放射能標識生成物を、エタノール(1mL)及び食塩水(9mL)を用いてC18 Sep-Pakから溶出させた。続いて、前記処方溶液を無菌的ミリポアGV0.22μmフィルターから無菌的な発熱性物質除去真空30mLバイアルにろ過した。本論文記載のこの試験では、体積で10%を超えないエタノールを含む食塩水中の溶液を用いた。
【0212】
[18F]FTC-146の品質管理
比放射能並びに放射化学及び化学的純度の決定のために、既知体積及び既知放射能をもつ最終溶液のアリコットを、分析用逆相HPLCカラム(Phenomenex Gemini C18 5μm(4.6x250mm))に注入した。以下の移動相(H
2O(0.1%TEA):CAN(0.1%TEA)、20/80(v:v))を1.0mL/分の流速で用いて、保持時間(tR)8.33分で[
18F]FTC-146を溶出させた。担体生成物に一致する254nmで測定したUV吸収ピークの面積を、HPLCクロマトグラフィー図で測定し(統合し)、UV吸収対応標準曲線質量と比較した。
【0213】
CM304のpKaの決定
電位差滴定を用いてCM304のpKaを決定した。0.01Mの水酸化ナトリウムの溶液を調製しpHを11.9と測定した。同様に、0.01Mの塩酸溶液を調製し、pHを2.07と測定した。1mMのCM304溶液の50mLに、0.1mLの体積の水酸化ナトリウムを加え、溶液のpHが一定になるまでpHを記録した(Mettler Toledo SevenEasyTM pHメーターS20)。同じサンプルに塩酸の0.1mL分を添加し、pHが一定になるまでpHを記録した。続いて、pH対添加塩基/酸体積として滴定曲線を作図した。この2つの曲線の交点をCM304のpKa値として記録した。
【0214】
CM304の分配係数(LogP)の決定
振盪フラスコ法を用い、47n-オクタノール及び水/PBS(pH7.4、等量)をガラスバイアル(25mL)に加えた。内容物を密閉し、持続的に24時間25℃で撹拌し、相の相互飽和を達成した。水/PBS(pH7.4)相をテフロン(登録商標)被覆撹拌棒と一緒に容器に入れた。試験物質の既知量を含むn-オクタノール相を非常に注意して水相の最上部に注ぎ、可能な限りエマルジョン形成を回避した。容器を振盪せず、その代わり時間を延長して(少なくとも36時間)当該系を撹拌し平衡達成を可能にした。静置して内容物を分離させ、続いて遠心分離した。水相のアリコットを採取し、UPLC/MS/MSによる定量的分析のために希釈(1000倍)した。
【0215】
in vitro放射性リガンド結合アッセイ
以前に記載されたように、競合結合アッセイを実施した。簡単に記せば、放射性リガンドを用い、標準的条件下で標的部位にタグを付した。CM304は10,000nMのスクリーニング濃度で評価した。50%未満の置換が観察されたら、結果はKi>10,000nMと報告される。NovaScreenによるアッセイ実施のため、CM304のただ1つの付加スクリーニング濃度を100nMで試験した。社内で実施する完全な競合結合アッセイのために、10濃度のCM304を試験し、IC50値を得た(前記値は、Cheng Prusoff等式を用いてKi値に変換された)。
【0216】
トランスフェクト細胞を用いた細胞の取り込み試験
CHO細胞をハム(Ham)のF-12培養液で増殖させた。取り込み試験のために、リポフェクタミン2000(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を製造業者の指示にしたがって用い、pcDNA(空ベクター、陰性コントロール)又はσ-1受容体遺伝子(OPRS1、アクセッション番号NM_005866.2、オリジン、Rockville, MD, USA)のどちらかをCHO細胞にトランスフェクトした。細胞を採集し、24ウェルプレートの各ウェルに付き2x105細胞を播種した。24時間後、CHO細胞に0.8μgのpcDNA(空ベクター、コントロール)又は0.8μgのシグマ-1 DNAをトランスフェクトした。12時間後に培養液を新しくした。最初の処理から24時間後に、各ウェルに付き2μCiのために十分な[
18F]FTC-146を含むハムF-12培養液を調製した。30及び120分の取り込み後、3組ずつのウェルの各々の培養液を吸引し、さらに細胞を非放射性PBS(500μL)で2回洗浄した。この後、細胞を1NのNaOH(500μL)で溶解した。各溶解物の一部(250μL)をガラス管に移し、Cobra IIガンマカウンター(Packard-Perkin Elmer, Waltham, MA, USA)で放射能を測定した。各ウェルのタンパク質含量は、Bradfordアッセイで測定した。(+)-[
3H]ペンタゾシンのために、同じプロトコルにしたがったが、ただし放射能は液体シンチレーションカウンター(Beckman Coulter LS 6500, Brea, CA, USA)で測定した。
【0217】
ウェスタンブロット
細胞を氷冷採集緩衝液(溶解緩衝液)中に削り落とすことによって、1x10
6細胞の細胞溶解物を調製した。前記溶解物を5分間煮沸し、エッペンドルフ(Eppendorf)マイクロ遠心分離機(14,000rpm、5分)により4℃で遠心分離した後で上清を収集した。上清のタンパク質濃度をBradfordアッセイで決定した。等量のタンパク質(50μg)を10%SDS-ポリアクリルアミドミニゲルにロードし、ゲル電気泳動後に、タンパク質をニトロセルロース膜に移し、5%脱脂乳遮断緩衝液(15mL 1xTBST、0.01% Tween 20及び0.75g粉乳)を用いて室温で遮断した。その後、膜を一晩4℃でヤギポリクローナル抗σ-1受容体((S-18):sc-22948, Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)一次抗体とともにインキュベートした。TBST(0.01% Tween 20を含むTBS)で3回洗浄した後、ウシ抗ヤギIgGセイヨウワサビペルオキシダーゼ結合抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)(TBSTで1:5000に希釈)を添加して室温で1時間インキュベートした。TBSTで3回洗浄した後、σ-1受容体タンパク質をECL試薬(Pierce, Rockford, IL, USA)を用いて可視化し、フィルムを用いて画像を得た。ブロットはまた、タンパク質ローディングコントロールとしてのアルファ-チューブリンのために染色した。イメージJ(Javaの画像処理及び分析ソフト)をウェスタンブロット分析のために用いた。
【0218】
マウス血清におけるin vitro代謝物質試験
マウス血清における[
18F]FTC-146の安定性を、Kronauge及び共同研究者らが1992年に記載した技術
53と類似の技術を用いて査定した。1mLのマウス血清(37℃の水浴中で先に平衡化されている)に、出願人は100μLの[
18F]FTC-146(3−5mCi/mLの処方溶液から)を添加し、この混合物をボルテックスし、続いて37℃でインキュベートした。前記放射性血清混合物のアリコット(100μL)を5、15、30、60及び120分で取り出し、氷冷ACN(200μL)で処理して酵素による加水分解を停止させた。サンプルを氷上で冷却し、続いて2,500gで10分間遠心分離した。各サンプルの上清を細胞ペレットから分離し、100μLを分析用HPLCにより査定した。HPLCクロマトグラフィー図上の全放射能(崩壊について修正)に対する[
18F]FTC-146(tR=6.7分)のパーセント比を以下のように計算した:%=([
18F]FTC-146のピーク面積/全ピーク面積)x100。ガンマカウンターでの放射能測定のために、各上清から少量体積(50μL)を取り出した。細胞ペレットを0.5mLのCANで1回洗浄し、続いて計測し、上清の放射能をペレットの放射能と比較し、血清蛋白質と結合したトレーサーのパーセンテージが与えられる。
【0219】
マウスにおける小動物PET画像化
正常なBalb Cマウス(25−35g)をイソフルランガス(誘発に3%、維持に2%)で麻酔した。リストモードでのPETデータの取得は、[
18F]FTC-146(0.9%食塩水100μL中に95−125μCi)の尾静脈経由i.v.投与の直前に開始し、62分間の間継続した。動態スキャンに続いて、2回の後続5分静態スキャンを実施した。遮断試験は、トレーサーの投与10分前における種々の用量のCM304(0.1mg/kg、1mg/kg、2mg/kg)によるマウスの前処理を含んでいた。
【0220】
マウス及びラット肝ミクロソームにおけるin vitro半減期試験
CM304をNADPH発生系の存在下で37℃、60分間試験管でインキュベートした。前記基本インキュベーション混合物は以下から成っていた:1mLの最終体積中に、5mMの基質、1mg/mLのミクロソームタンパク質、3mM MgCl
2、1mM NADP、5mMグルコース-6-ホスフェート、1IU/mLグルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ、100mMトリス-HCl緩衝液(pH 7.4)。反応をコファクターの添加によって開始し、さらに指定の時点(0、5、10、15、30、45、60分)に等体積の氷冷ACNを添加することによって停止した。混合物を3000rpmで10分間遠心分離し、上清をUPLC/MS/MSで分析した。
【0221】
in vivoコカイン試験
雄のスイスウェブスターマウスを食塩水又はCM304(0.001、0.01、0.1、1.0又は10mg/kg)で前処理(i.v.)し、15分後に痙攣用量のコカイン(70mg/kg、i.p.)でチャレンジした。その後の30分間マウスを痙攣の開始について持続的にモニターした(前記痙攣の開始は、動作的に間代性又は強直性四肢運動の存在を伴う少なくとも5秒間の立ち直り反射の消失と定義した)。フィッシャーの正確検定を用いて、各試験用量で痙攣を示すマウスとそうでないマウスの比に有意な相違が存在するか否かを決定した。
本出願で提供した実施例は本発明の説明のために供され、その制限と解されるべきではない。
【0222】
本放射性リガンドは放射性リガンド結合アッセイ及びPET画像化に用いることができる。本シグマ-1受容体及び放射性リガンドは、シグマ-1受容体に関連する以下の領域で画像化と治療の両方に適用できる:
1)薬物中毒(例えばコカイン及びメタンフェタミン)及び療法
54,55、
2)シグマ-1R関連薬物療法を特定するための分子シャペロンとしてのシグマ-1R
56、
3)慢性痛
57,58,59,60、
4)癌
61,62、
5)神経炎症(特にコカイン-HIV関連CNS炎症又は痛み)、
6)アルツハイマー
63,64、
7)パーキンソン病
65、
8)統合失調症
66,67,68,69、
9)大うつ病及び不安
70,71,72、
10)多発性硬化症
73、及び
11)強迫性障害
74,75,76。
【0223】
放射性リガンドは注射形で用いることができ、無菌的な注射可能処方媒体、例えば食塩水又はエタノール食塩水を用いて処方できる。画像化のために使用される処方及び投薬量は、当業者が容易に決定できる。本発明では、末梢神経損傷(末梢神経障害)を可視化するために利用できるシグマ-1受容体選択的PET画像化剤が開発された。前記は神経損傷の位置を正確に示し、より良好な治療へ導くことができる。
侵害受容処理でS1Rが関与する役割を調べ、S1Rを標的とする新規な鎮痛療法へ導くために、画像化プローブを調製してS1Rの局在化及び定量を試験した。ここでは、PET-MRI画像化及びオートラジオグラフィー(ARG)のための[
18F]FTC-146(高度にS1R選択的な放射性リガンド)の使用について記載する。画像化データをS1Rレベルと相関させるために、免疫組織化学(IHC)もまた実施した。
【0224】
方法:本出願で開示したように[
18F]FTC-146を生成した。成獣雄ラットの左神経部分損傷(SNI)によって、坐骨神経障害痛モデルを作成した。疼痛行動は、術後4週間でフォンフレーフィラメント試験を実施することによって確認した(p<0.03)。各ラットのPET-MRIスキャンは[
18F]FTC-146(約500Ci)の投与に続いて得られた。遮断試験は、トレーサー投与20分前のハルドール(16mg/kg静注)による前遮断を含んでいた。PET-MRIの後で、坐骨神経をARG及びIHC分析のために採集した。
【0225】
結果:[
18F]FTC-146は、6.73.8Ci/mol(n=27)で5±2%(dc-RCY対EOB)で生成された。より高いPETシグナル(左対右神経)がSNIグループでは得られたが(4.40.9対1.70.1)、偽手術(2.00.3対1.70.3)又はコントロールグループ(2.004対1.90.5)では得られなかった。ハルドール前遮断はSNIグループで認められる高シグナルを消失させる。ARGは、SNI部位で形成される神経腫で右非損傷神経よりも50%高い取り込みを示す。PET-MRI及びARGの結果(
図19A及び19B)は、IHC試験で示されたS1R局在と良好な相関性を示す。遮断試験は、SNIにおける取り込み増加はS1R特異的結合によることを提唱している。半定量的分析はまた、右非損傷神経と比較して免疫染色の増加を示している(
図19C)。
【0226】
結論:PET-MRI及びARG試験は、偽及びコントロールグループと比較して、SNIにおける[
18F]FTC-146の蓄積増加を示した。これらの結果は、IHC試験により示されたS1Rのレベル及び局在と良好に相関した。したがって、[
18F]FTC-146は、痛みと関連するS1Rメカニズムの理解のためのin vivo試験のために有望なPETプローブである。
【0227】
本発明のさらに別の特徴は、外傷、手術、炎症及び多様な他の原因の結果としての末梢神経損傷に関する。末梢神経損傷は、重大な病的状態(例えば慢性痛、脆弱、及び知覚運動性機能不全)をもたらす主要な臨床的問題である。神経損傷及びそれに続く神経炎症の部位の正確な認定は、神経損傷及び再生の管理で絶大な臨床価値を有する。シグマ-1受容体(S1R)(シグナリング及び神経伝達系で重要な役割を果たすことが知られている分子シャペロン)は、神経炎症の潜在的バイオマーカーである。この試験では、出願人は、陽電子放射断層撮影-磁気共鳴画像化(PET-MRI)及びex vivoオートラジオグラフィーにより、神経損傷のラットモデルでS1R密度増加を検出するS1R選択的放射性リガンド[
18F]FTC-146の利用を評価することを目的とする。PET-MRIは、非損傷コントロール神経(1.44±0.33;n=4;p<0.001)と比較して、損傷神経で[
18F]FTC-146の蓄積上昇を示した(標準化放射性リガンド取り込み:3.64±1.38;n=4)。同様に、切り出した神経及び神経切片の高解像デジタルオートラジオグラフィーの結果は、非損傷神経(17.37x10
3±3.08x10
3;n=2;p<0.01)と比較して、神経腫におけるS1R特異的[
18F]FTC-146の取り込み増加(ピクセル強度値:36.21x10
3±3.36x10
3;n=2)を示している。PET-MRI及びex vivoオートラジオグラフィーの結果はともに、ラット神経/筋接合部の免疫染色で相関性を示した(神経/筋接合部の免疫染色は神経腫ではS1R免疫反応の上昇を示したが、非損傷神経及び隣接筋では単に低レベルであった)。これらの結果は、S1Rは神経損傷の検出のバイオマーカーとして機能できること、及び[
18F]FTC-146によるPET-MIRは神経S1Rの非侵襲的画像化及び定量を可能にすることを提唱している。出願人の知る限りでは、これは、生きている対象動物で神経損傷におけるS1Rレベルの可視化を可能にする技術の最初の報告である。S1R-PET-MRIのこの新規な応用は、神経損傷部位の正確な検出手段を提供でき、したがって最終的には、多数の神経損傷関連症状を管理し治療する方法を改善できよう。
【0228】
末梢神経損傷は、知覚運動性機能不全及び罹患身体領域における自律神経制御の欠如をもたらし、前記は慢性痛に至りうる。損傷の後、損傷神経のミクロ環境は、当該神経内の変化に迅速に応答し、かつそれらを統合するシュワン細胞によって強く規制される(102)。シュワン細胞は表現型の調整を受けて、増殖、移動及び可溶性の制御仲介物質(ワーラー変性及び再生を制御する)を分泌する能力を獲得する(103)。SNIラットモデルでは、出願人は、神経腫部位でシュワン細胞増殖及びS1R密度の増加を可視化することができた。S1R及びシュワン細胞の同時局在が二重免疫蛍光染色を用いて観察され、S1Rの発現増加は末梢神経損傷と密接に関係し、シュワン細胞の応答で重要な役割を果たす可能性があるという結論を支持した。他の研究者が坐骨神経損傷の中枢過敏化におけるS1R発現の重要性を示したが(60)、本研究の結果は、末梢神経損傷部位におけるS1R発現強の化を示す最初の研究である。
新規な陽電子放射断層撮影(PET)放射性リガンド[
18F]FTC-146の化学構造及びシグマ-2受容体(S2R)に対するシグマ-1受容体(S1R)の親和性(ラット脳でin vitroで測定)は以下の示されている:
【0230】
さらにまた、出願人は、ラット神経損傷モデルで[
18F]FTC-146を用いてin vivoにおけるS1R密度の増加変化を示すことができた。以前に記載したように、[
18F]FTC-146は高い親和性でS1Rと結合し(in vitroラット脳でKi=2.5x10
-3nM)、さらにシグマ2受容体(S2R)と比較してS1Rに対して高い選択性を示す(>145,000倍)。さらにまた、この放射性リガンドはまたベースラインS1R密度をマッピングするために種々の種(ラットを含む)で評価された(James et al, J Nucl Med(投稿中))。[
18F]FTC-146蓄積が、神経切片のオートラジオグラフィー画像で示されたように、S1Rレベル及び分布と一致するか否かを精査するために、S1R-IHC染色を実施した。IHCの結果は、S1R免疫反応性はオートラジオグラフィー画像の放射性リガンド取り込みと一致した。損傷神経における[
18F]FTC-146取り込みは、SNI動物をS1Rアンタゴニスト(ハルドペリドール)で前処理したときに非損傷神経で観察された取り込みレベルにまで遮断でき、この疾患モデルにおける当該放射性トレーサーの特異性を確認した。加えて、PET-MRIで検出された放射性トレーサーの取り込みは、切り出した全神経のオートラジオグラフィーで観察された取り込みレベルと相関性を示した。損傷部位のオートラジオグラフィー及びPET-MRI画像における取り込み増加はまた、フォンフレー試験によって観察された疼痛感受性の上昇と直接関係するように思われた。
これらを総合した結果は、神経損傷モデルにおけるS1Rとの[
18F]FTC-146の特異的な結合を示し、S1Rの発現の増加は痛みの発生装置と密接に関係することを提唱している。
【0231】
S1R拮抗作用と痛覚脱失との結びつきと同様に神経損傷と痛みとの間の関係が与えられるならば、S1Rと痛みとの間の役割をさらに明らかにすることが可能である。したがって、[
18F]FTC-146 PET-MRIは、S1Rが特に痛み及び侵害受容を調整することが知られているので、神経損傷とS1R発現との間の役割及び時間的空間的結びつきのより深い理解を可能にする潜在能力を有する(92)。機能的S1Rの不在又は拮抗作用は、S1Rノックアウト又は神経障害若しくは炎症痛の動物モデルにおける疼痛行動の著名な減弱をもたらす(94、96、98)。本試験の結果は、出願人が、痛みの発生の原因となりうる神経損傷及び神経炎症の部位を認定することを可能にした。1年に5,600億ドルから6,350億ドルの規模の社会的経費を必要とする疼痛を有する約116,000,000のアメリカ人が存在するという事実(104)を考えれば、信頼できる査定及び慢性痛の発生装置の局在化を可能にする、より正確で情報に富む医学的画像化方法の明白な臨床的ニーズが存在する。加えて、PETの感度と同じ組織のMRI画像同時記録で得られる解剖学的局在化とを合体させることによって、この相乗的画像化戦略は、以前のようにどちらかの様式を別個に使用した場合には理解できなかった分子標的における捉えがたい変化を検出することができるかもしれない。
結論すれば、出願人は、例えば新規なS1R放射性リガンド([
18F]FTC-146)及び小動物PET-MRIの使用により、神経障害痛モデルで神経損傷部位におけるS1R密度の増加を検出できることを示した。この研究は、出願人の知る限りでは、以下を報告した最初のものである:1)損傷末梢神経におけるS1Rレベルの上昇、2)神経損傷動物モデルにおけるS1R画像化の実現性の明示、及び3)神経損傷及び炎症の非侵襲性バイオマーカーとしてのS1R-PET画像化の潜在能力の強調。S1R特異的[
18F]FTC-146を用いる高感度PETとMRIの優れた組織コントラストとの強力な相乗作用は、末梢の痛みの発生装置を非侵襲的に局在化させるためにより情報に富む手段を提供することができよう。本発明はさらに、例えば本明細書に開示するS1特異的化合物、例えば[
18F]FTC-146の使用を含み、臨床的使用のために動物モデルで神経再生及び神経障害痛の抹消治療のガイドとして前記S1R特異的化合物が使用される。
【0232】
材料と方法
放射化学
[
18F]FTC-146は脂肪族求核置換(
18F/トシレート交換)により合成し、以前に記載されたように(101)、TRACERlab FX FN(GE Healthcare)を用いた。簡単に記せば、トシレート前駆体溶液(1mLの無水DMSOに2mg)を共沸乾燥させた
18F/K
222/K
2CO
3複合物に添加し、前記を150℃に15分間加熱し、続いて、粗生成物を半調製用HPLCで精製した。[
18F]FTC-146 HPLC分画を10%未満のエタノールを含む食塩水で処方した。
【0233】
神経障害痛の動物モデル
動物実験はスタンフォードIACUCによって承認された。動物は飼料及び水を随意に摂取でき、12時間の点灯/消灯サイクル下で維持された。実験は成獣オスのスプラーグ-ドーリーラット(体重200−250g)を用いて実施した。3グループの動物(各群でn=7)を用いた。
1.神経部分損傷(SNI):SNIモデルはよく特徴付けられた神経損傷モデルであるの、出願人は前記モデルを用いた。神経損傷の程度及び持続期間は標準的な行動試験を用いて測定した。動物は左SNI処置を受けた。前記処置は、よく特徴付けられたラットの神経損傷及び神経障害痛モデルを作り出し、前記モデルは、術後24時間に発生し数カ月続く慢性の機械的過敏及び熱過敏を示す(105)。略記すれば、動物を2−3%のイソフルラン吸入で麻酔し、温めたベッドに置いた。左大腿の後外側面から毛を除去した。皮膚を縦軸方向に切開した後、左坐骨神経を同定し、露出させ、脛骨神経、総腓骨神経、腓腹神経に三分岐するまで遠位方向に進む。腓腹神経を傷めないように注意しながら、脛骨神経及び総腓骨神経の軸索切断及び結紮を実施した。筋層を吸収性断続縫合(4−0、プレーンガット(Ethicon))で閉じ、皮膚はホチキスでくっ付けた。麻酔から回復した後、動物をケージに戻し、飼料と水を自由に摂取させた。ホチキスは術後5日で除去した。右後肢はコントロールとして用いた。動物は術後4週間治癒させた。
2.偽手術:動物は、坐骨神経の三分岐の認定までSNI動物と同様な手術を受け、続いて軸索切断又は結紮を実施することなく傷は閉じられた。術後の処置はSNI動物と同様であった。
3.コントロール:動物は画像化前に全く外科的手順を受けなかった。動物は齢及び体重がSNI及び偽手術実施グループの動物と同様であった。
【0234】
痛み(異痛)の査定
動物における異痛の発生は、フォンフレーのヘアーフィラメントを用いて機械的異痛を査定することによって判定した。手術前ベースライン試験を実施し、続いて画像化前日に実施した。連続的に増加するフィラメントの硬さに対する足退避応答を記録することによって、機械的刺激に対する感受性を測定した。この試験のために、金網の付いた高い台に動物を置いた。試験の前の4日間に毎回2時間ずつ、さらに試験直前に1時間、動物をこの台に慣らした。網の床から両後ろ足の足底面の側面部分にフィラメントを適用し、フィラメントが曲がるまで押しつけ、8秒間所定の位置で維持した。動物が当該適用に応答して床から足を活発に引っ込めた場合、陽性応答と記録した。前記は、60秒の最小間隔で同じフィラメントを用いて試験を繰り返すことによって確認した。同じフィラメントに対し3回連続して陽性応答を示すか、又はフィラメントが床から足をもち上げた場合、この足の試験を終了した。収集したデータを標準化S字状曲線に適合させ、Psychofitプログラムを用いて50%退避閾値(logフィラメント硬さ単位)を計算した(http://psych.colorado.edu/~lharvey/html/software.html)。閾値は、その時50%の退避が検出される刺激強度と定義される(106)。
【0235】
PET-MRI
PET-MRIのために、加湿酸素濃縮2−3%イソフルラン(吸入(IH))で全ての動物を麻酔した。動物を固定された硬い詰め物を含む輸送可能容器に保定し、PET及びMRIスキャン中に動かないようにしたが、一方、前記動物容器に固定したノーズコーンから2−3%のイソフルランを呼吸できるようにした。動物容器の底を横断するように配置した縦長のプラスチックチューブ中の希釈[
18F]FTC-146溶液(30μCi/mL)で作成した基準マーカーを、PET及びMRI画像の同時記載の補助に用いた。小動物専用画像化装置を用いて、動物に連続してPET(microPET R4;Siemens Medical Solutions)及びMRI(9cmのボアグラディエント挿入物(Resonance Research Inc.)を有するセルフシールド30cmボア7Tマグネット(Varian)、EXCITE2電子装置及びLX11支持台(GE Healthcare)を使用)を実施した。PETスキャンのために、1000μCi(37MBq)[
18F]FTC-146を尾静脈から注射し、注射30分後に大腿の10分静止スキャンを入手した。MRIのために、T1 Fast Spin Echo画像(TR 800ms;TE 7.7ms;スライスの厚さ、1mm;平面内解像度234μm
2)をラット大腿から入手した。遮断試験+のために、ハロペリドール(1.6mg/kg)(広く用いられるS1Rブロッカー)をトレーサーの投与30分前に静脈内投与した。
【0236】
画像分析
Inveon Research Workplace(IRW)画像分析ソフト(Siemens Healthcare)を用いて、PET及びMRI画像を同時記載した。MR画像を用いて坐骨神経の解剖学的位置を明らかにし、問題の領域(ROI)は、神経腫をカバーする長軸断5連続スライス上で、損傷部位に対して近位の損傷神経周辺でその位置が決定された。非損傷神経については、ROIは同様に5スライスの対応する位置の周辺でその位置が決定された。続いて放射能カウントを融合PET-MRI画像内のROIから記録した。各神経のROIの最大シグナルを平均し、続いて隣接筋肉の平均シグナルで標準化した。
【0237】
オートラジオグラフィー(切り出した全神経)
PET-MR画像化直後に、SNI、偽手術、コントロールグループのラット(遮断、n=2、非遮断、n=2)を注射後60分でサクリファイスし、坐骨神経を採集した。神経をリンスクリーン(中型MultiSensitive Phosphor Screen; PerkinElmer)上で12時間露光した。Typhoon 9410 Variable Mode Imager(Amersham Biosciences)を用いて前記スクリーンで画像を生成し、Image J(Javaの画像処理及び分析ソフト、バージョン1.46;http://imagej.nih.gov/ij/index.html)で画像を分析した。各損傷神経内の神経腫上でROIを線描し、無傷の神経の同じ領域で同様なサイズのROIと比較した。
オートラジオグラフィー(神経/筋切片)
PET-MRI画像化の後で、各グループのラット(すなわちSNI、偽手術及びコントロール;各グループについてn=2)の両後肢から、坐骨神経及び隣接筋肉を含む組織を迅速に切り出した。組織塊を最適カット温度(O.C.T.)化合物(Tissue-Tek, Sakura, USA)中で迅速凍結した。続いてクリオスタットミクロトームHM500(Microm)を用いて6μmの厚さの切片を切り出し、顕微鏡スライド(Fisherbrand Superfrost Plus Microscope Slides)にマウントした。前記マウント切片を10分間風乾し、続いて
18F-感受性ストアレージリンスクリーン(Perkin Elmer)に12時間露光した。Typhoon 9410 Variable Mode Imager(Amersham Biosciences)を用いて前記画像プレートをスキャンし、Image Jソフトを用いて画像を分析した。
【0238】
免疫組織化学(ラット坐骨神経)
染色はラット坐骨神経及び隣接筋組織の切片で実施した。OCTに包埋した坐骨神経/筋組織塊から得た凍結長軸断連続切片(6μm厚さ)をクリオスタット(Leica CM1950)で切り出し、プラス-プラススライド(Fisherbrand Superfrost Plus Microscope Slide)上に収集した。続いて切片をトリス緩衝食塩水(TBS)の溶液で洗浄した(3x5分)。洗浄後、切片を0.1% H
2O
2、50% TBS/MeOH溶液で30分インキュベートし、内因性パーオキシダーゼ活性を停止させた。引き続きTBSで洗浄した後(3x5分)、切片を10%正常ヤギ血清(NGS, Vector Laboratories)、TBS(1%トリトンX-100)に1時間置き、非特異的染色を遮断し、かつ細胞を透過性にした。
最後に、前記切片を更なる洗浄無しに、5% NGS及びTBST(0.1%トリトンX-100)を含む1:200のS1R特異的一次抗体(35)とともに24時間室温でインキュベートした。続いて、前記切片をTBST(0.1%トリトンX-100)で洗浄し(3x5分)、5% NGS及びTBST(0.1%トリトンX-100)中の1:400ビオチニル化抗ウサギ二次抗体(Vector Laboratories)とともに室温で1時間インキュベートした。切片をトリトン-TBS溶液で再度洗浄し(3x5分)、さらにTBSで1:1000に希釈したアビジン-ビオチン複合体(Vector Laboratorie)を室温で90分適用した。3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)との15分のインキュベーション前に、前記切片をTBSで再度洗浄した。最後に、氷冷TBSで切片を洗浄し(3x5分)、反応を停止させた。この免疫組織化学染色切片を脱水し、顕微鏡観察のためにパーマウント(Sigma Aldrich)を用いてカバースリップで覆った。
一次抗体の省略は染色を生じなかった。一次抗体の特異性を確認するために、S1Rノックアウトマウスの50μmスライスを免疫組織化学のために処理した。染色は認められなかった。
【0239】
二重蛍光染色
S1R抗体及びDABで染色した切片と隣接するラット坐骨神経/筋肉切片を用いて、S1R及びS100の二重免疫蛍光染色を実施した。簡単に記せば、6μmの凍結切片を30分間風乾し、TBSで1回洗浄し、氷冷アセトンに5分間置き、続いて室温で1時間風乾した。切片をさらにもう1回TBSで洗浄し、10%の正常ヤギ血清を含むTBST(1%トリトンX-100)でそれら切片を室温で1時間インキュベートして、組織を透過性にしかつ非特異的結合を遮断した。更なる洗浄を実施することなく、切片をTBST(1%トリトンX-100)及び10%正常ヤギ血清中の一次抗体(1:200のウサギ抗S1R 19Ab;1:100のマウス抗S100抗体(Sigma Aldrich))とともに4℃で20時間インキュベートした。つづいて、切片をTBST(0.1%トリトンX-100)で洗浄し、10%正常ヤギ血清含有TBST(1%トリトンX-100)中の二次抗体(1:1000、Alexa 488-結合ヤギ抗マウスIgG及びAlexa 594-結合ヤギ抗ウサギIgG(ともにJackson ImmunoResearch))とともに暗所にて室温で1時間インキュベートし、続いてTBST(0.1%トリトンX-100)で再度洗浄した。Vectashield+DAPIマウンティングメジウム(Vector Laboratories)を用いて切片をカバースリップで覆った。10X、20X及び40Xの対物レンズを用い、Zeiss AxioImager M1蛍光顕微鏡で切片を可視化した。両一次抗体に特異的なシグナルを決定するために二次単独染色を実施した。
【0240】
統計
統計分析は、多数の平均を比較するためにIBM SPSS統計分析ソフト(バージョン19)を用い対象間の一元配置分散分析(ANOVA)により実施し、有意であるならば続いてチューキーポストホック分析を実施した。α=0.05は有意と考えた。本文中の全ての値は平均±標準偏差を表し、損傷神経の平均値とのチューキーポストホック比較を表すp値を含む。図のエラーバーは平均の標準誤差を表す。平均PET及びオートラジオグラフィーシグナルは線形相関について試験した。
【0241】
放射化学
[
18F]FTC-146を以前に報告(29)されたように合成し、5.06±1.91%の放射化学収量及び6.90±3.73Ci/μmol(255.30±138.01 GBq/μmol)の比放射能を有するものが得られた(模式
図1)。放射化学純度及び化学純度はともに>99%であった。全ての放射化学収量及び比放射能は衝撃の最後に修正された崩壊であった(n=45)。
【0242】
神経部分損傷(SNI)を有する動物は異痛を示す
フォンフレーフィラメント試験は、SNI動物の左後ろ足で観察される異痛の発生を示した。SNIグループはまた、同じ動物の反対側の損傷していない側のレベル(logフィラメントの硬さ単位で5.85±0.15;p<0.001)、偽手術グループのレベル(5.72±0.27;p<0.001)、及びコントロールグループのレベル(5.77±0.17;p<0.001)と比較して損傷後肢(4.92±0.007)で足退避閾値の低下を示した(
図20)。
【0243】
損傷坐骨神経はPET-MRIで[18F]FTC-146の取り込み増加を示す
PET-MRI画像は、SNIグループの非損傷右坐骨神経(1.44±0.33;n=4;p<0.001)と比較して損傷左坐骨神経(3.64±1.38;n=4)で[
18F]FTC-146の取り込み(隣接筋肉に対して標準化された)増加を示し、これは、偽手術グループ(1.25±0.19;n=4;p<0.001)及びコントロールグループ(1.40±0.12;n=4;p、0.001)に対しても同様であった(
図21C)。ハロペリドールで遮断したとき、損傷左坐骨神経は、ベースラインと比較して遮断試験で[
18F]FTC-146取り込みの有意な低下(1.53±0.25;n=2;p<0.01)を示した。ハロペリドールによる前遮断は、偽手術又はコントロールグループについてはどちらの側の坐骨神経においても同様な[
18F]FTC-146取り込み低下を引き起こすようには見えなかった(
図21A−C)。
【0244】
損傷坐骨神経はオートラジオグラフィーで[18F]FTC-146の取り込み増加を示す
オートラジオグラフィーは、右非損傷神経(17.37x10
3±3.08x10
3;n=2;p<0.01)と比較してSNI動物の左損傷神経で(特に横断部位の神経腫で)より高い最大シグナルを示し(ピクセル強度:36.22x10
3±3.36x10
3;n=2)、偽手術グループ(16.94x10
3±1.4x10
3;n=2;p<0.01)及びコントロールグループ(14.22x10
3±2.63x10
3;n=2;p<0.01)でも同様であった(
図2D)。PET-MRIデータと一致して、ハロペリドールによる前遮断は、損傷神経における[
18F]FTC-146の蓄積を有意に低下させた(15.78x10
3±0.5x10
3;n=2;p<0.01)。オートラジオグラフィーにおける平均最大ピクセル強度はPET画像の平均最大ボクセルトレーサー取り込みと相関性を示す(r(10)=0.75;p<0.01)。神経切片のオートラジオグラフィーもまた、非損傷神経と比較して損傷坐骨神経の横断部位の神経腫でシグナル増加を示した(
図22)。
【0245】
損傷神経のS1R発現増加は免疫染色で確認される
オートラジオグラフィーで用いた切片(上記)に隣接する切片の免疫組織化学的(IHC)染色(特異的S1R抗体を用いる)は、非損傷コントロール神経と比較して損傷神経のS1Rのレベル上昇を示した(SNIの非損傷右神経、n=2;偽手術実施ラット神経、n=2;コントロールラット神経、n=2)(
図3)。各損傷神経内では、神経腫そのものは最高レベルのS1R染色を含むことが示された(
図22)。S1R及びS100(シュワン細胞)による二重免疫蛍光染色は、非損傷神経と比較して損傷神経で高レベルのS1R及びS100の両免疫反応を示し(
図23A、B、E、F)、最高レベルのS1R/S100染色は神経腫で見いだされた。加えて、二重免疫蛍光染色は、S1R染色がS100染色と同時局在すること(
図23D、H)、及び非損傷神経と比較して損傷神経ではより高レベルのDAPI染色が存在することを明らかにした(
図23C、G)。
【0246】
本発明のさらに別の特徴はアルツハイマー病(AD)に関する。ADは、毎年数百万人のアメリカ人とその家族に大きな影響を与える主要な公衆衛生問題である。早期検出及び早期治療のための有望な標的(ベータアミロイド及びタウタンパク質を含む)は精査が続けられているが、認知低下が始まる前のADの初期開始及び進行を理解するためには、新規な標的が決定的に重要であることに変わりはない。シグマ-1受容体は最近ADで示唆されているが、初期の研究ではその生物学的役割を明確に理解することができなかった。2005年に、シグマ-1受容体リガンドがアミロイド毒性に対してなんらかの神経保護活性を示すこと、及びシグマ-1アンタゴニストがこの神経保護を遮断できることが報告された。[
11C]SA4503を用いる陽電子放射断層撮影法(PET)を利用してADのシグマ-1受容体を調べる初期の試みは、年齢合致コントロールと比較してより低い受容体密度と初期AD患者との間の連関を明らかにした。いくつかの他のPET化合物がS1Rを画像化するために生成されたが、[
11C]SA4503が、シグマ-2受容体、小胞アセチルコリントランスポーター(VAChT)及びエモパミル結合タンパク質(EBP)に対するその軽度の選択性にもかかわらず、今のところ臨床でS1Rの画像化に用いられる唯一の放射性トレーサーである。本発明の目的は、新規で高度にS1R特異的リガンドとして本明細書に開示した1Rリガンドを精査し、他の脳標的物と一切有意に結合せずにADにおいて信頼できるS1Rの画像化を達成しその機能を説明することであった。
【0247】
マウス脳の後期時点における[
18F]FTC-146の結合プロフィールは、対応する時点における他の公知のS1R放射性リガンドの報告された取り込みレベルとはきわめて相違する。例えば、[
18F]FTC-146は画像化の最初の5分以内にマウス脳でその最大取り込みに達し、続いて徐々に脳から洗い流されて注射後60分でその最大の65%レベルになるが、一方、[
18F]FM-SA4503は注射後30分で脳において最大取り込みに達し、残りの試験の間で(注射後120分)顕著な洗い流しを示さなかった。生きているマウスの[
18F]SFE及び[
18F]FPSの取り込みレベルは文献に報告されてなく、したがって出願人は現時点では[
18F]FTC-146の消長をそれらと実際に比較することができなかったが、[
18F]FTC-146が迅速なin vivo結合動態を示すという事実は、[
18F]FM-SA4503及び[
18F]SFEと同じ不可逆的結合問題をもたない可能性があることを提唱している。[
18F]FTC-146は、生きている対象動物のS1R画像化のために、公知の最も良好な薬物消長動態(例えば迅速な取り込み及び不可逆的結合)を示すことができるので、これら新規なリード候補物質([
18F]FTC-146を含む)は将来の臨床解釈のためのより良好な画像化剤となりえる。
確立されたAD非トランスジェニックモデルの特徴付けは、アミロイドβ1-40タンパク質を輸液したげっ歯類又は中枢にアミロイドβ25-35ペプチド(Aβ25-35)を注射したマウスで実施された。非トランスジェニックADマウスモデルは、我々の最良の放射性リガンドの有効性を試験し、AD療法をモニターするために選択することができる。以前の結果は、シグマ-1受容体アゴニストは、それらがAD患者で観察される認知欠如を緩和するだけでなく神経細胞損傷もまた減少させうるので、AD治療の有用な薬剤でありうることを提唱している。