(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成分(b)の電解質が、無機酸または有機酸のカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載のノーシアン電解金めっき液。
成分(c)の金属から選ばれる結晶調整剤の金属が、タリウム、アンチモン、ヒ素、ビスマス、スズ、鉛、インジウム、ゲルマニウム、ガリウム、テルル、セリウム、セレン、コバルトおよびニッケルからなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載のノーシアン電解金めっき液。
成分(d)のpH緩衝剤が、無機酸、有機カルボン酸、有機リン酸、ピリジンスルホン酸およびこれらのカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項5記載のノーシアン電解金めっき液。
成分(e)の硫黄含有化合物から選ばれる結晶調整剤の硫黄含有化合物が、チオ硫酸ならびにチオリン酸およびこれらのカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩、メルカプト基とカルボキシ基の両方を有する有機化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項5記載のノーシアン電解金めっき液。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、ノーシアン電解金めっき液とは、従来の金めっき液に用いられていたシアン化金カリウム等のシアン系化合物を含有しないものである。
【0016】
本発明のノーシアン電解金めっき液に用いられる成分(a)の下記一般式(I)
【化2】
で示される1価金錯体であって、R
1は、水素またはメルカプト基を有していてもよく分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、好ましくは水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、メルカプトメチル基(−CH
2−SH)、より好ましくは水素、メチル基を示す。また、R
2は、水素または分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、好ましくは水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、より好ましくは水素、メチル基を示す。更に、R
3は、水素、分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシアルキル基、またはメルカプト基を有していてもよく分岐していてもよい炭素数1〜4のカルボキシアルキル基、好ましくは水素、メチル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、ヒドロキシエチル基、イソカルボキシエチル基(−CH(CH
3)−COOH)、メルカプトカルボキシメチル基(−CH(SH)−COOH)、2−メルカプト−イソカルボキシエチル基(−CH(CH
2SH)−COOH)、より好ましくはカルボキシメチル基、水素を示す。また更に、nは1〜10の整数、好ましくは3〜6の整数、より好ましくは4を示す。なお、ここでnは1価金錯体が何量体で形成されているかを示す。
【0017】
上記した一般式(I)で示される1価金錯体は、例えば、テトラクロリド金(III)酸イオンを含有する3価金の水溶液または亜硫酸金ナトリウムの1価の金塩水溶液に、下記一般式(II)
【化3】
で示される化合物(ただし、Xは水素、アンモニウムイオン、金属を示し、好ましくはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、アンモニウムイオン、銀、スズ、アンチモン、ゲルマニウム、鉛、ビスマス、コバルト、インジウム、水銀、ニッケル、亜鉛、より好ましくは水素、ナトリウム、カリウムを示す。また、R
1〜R
2は上記と同じものを示し、R
3’は、上記R
3と同じものか、上記R
3のアルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基の水素が、上記X(ただし、水素を除く)に置換されたものを示す。)を金塩の1〜5倍モル好ましくは3〜3.5倍モルとなるように添加し、必要により酸性物質を添加してpHを3以下に調整した後、十分攪拌することにより調製することができる。
【0018】
前記一般式(II)で示される化合物としては、例えば、チオプロニン、2−メルカプトアセトアミド、N−(2−メルカプトエチオニル)グリシン、N−(2−メルカプトアセチル)グリシン、N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メルカプトアセトアミド、または、N−(2−メルカプト−1−オキソプロピル)グリシンおよびこれらのナトリウム塩、カリウム塩、スズ塩等が挙げられる。
【0019】
上記したテトラクロリド金(III)酸イオンを含有する3価金の水溶液は、例えば、王水に金を溶解させたり、塩化金酸ナトリウムソーダを純水に溶解させたりすることにより調製することができる。また、亜硫酸金ナトリウムの1価の金塩水溶液は、例えば、王水に金を溶解して、pHを8以上にして、分離する水酸化金と亜硫酸ナトリウムを反応させることにより調製することができる。
【0020】
また、pHの調整に用いられる酸性物質は特に限定されないが、例えば、酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸等のカルボン酸、炭酸、リン酸等が挙げられる。
【0021】
上記のようにして調製される1価金錯体は、pHが3以下の条件で調製されているため溶解せずに沈殿物となる。そのため、1価金錯体は、メンブレンフィルター等を用いたろ過、遠心分離等の公知の精製手段で精製することができる。また、これらの精製手段は2回以上行うことで、精製度を高めることができる。
【0022】
1価金錯体の精製度を高めるには、例えば、1回ろ過、遠心分離を行って得られた1価金錯体を水に投入し、この水溶液のpHを水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ性物質を添加して5程度に調整して1価金錯体を溶解する。次に、この水溶液に上記酸性物質を添加してpHを3以下に調整して1価金錯体を再沈殿させる。これを1回以上繰り返すことにより1価金錯体の精製度を高くすることができる。
【0023】
上記のようにして調製される1価金錯体は、そのままでも良いし、例えば、精製した1価金錯体を金イオンが50〜100g/Lとなる量で水に投入し、この水溶液のpHを水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ性物質を添加してpH5程度に調整して1価金錯体を溶解させたシロップとしておいてもよい。
【0024】
本発明のノーシアン電解金めっき液における、成分(a)の1価金錯体の含有量は、特に限定されないが、例えば、金イオンとして2〜30g/L、好ましく4〜16g/Lの範囲である。金が2g/Lより少ない場合、金の析出速度が遅く実際の操業に適さないことがあり、30g/Lを超えた場合、コストが高くなって、工業実用性がなくなることがある。
【0025】
また、本発明のノーシアン電解金めっき液に用いられる成分(b)の電解質は、特に限定されないが、例えば、無機酸または有機酸のカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。前記無機酸または有機酸としては、例えば、硫酸、ギ酸、炭酸、硝酸、リン酸、クエン酸、酢酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、酒石酸等が挙げられ、好ましくは硫酸またはギ酸である。これら電解質は1種または2種以上を用いることができる。
【0026】
本発明のノーシアン電解金めっき液における、成分(b)の電解質の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01〜10mol/L、好ましくは0.1〜1mol/Lである。電解質が0.01mol/Lより少ない場合、めっき液として十分な導電性を確保することが困難であることがあり、10mol/Lを超えた場合、電解質としての効果は増大しないことがある。
【0027】
更に、本発明のノーシアン電解金めっき液に用いられる成分(c)の金属から選ばれる結晶調整剤は、結晶調整作用を有する金属であれば特に限定されないが、例えば、タリウム、アンチモン、ヒ素、ビスマス、スズ、鉛、インジウム、テルル、セリウム、セレン、コバルト、ニッケル等の金属が挙げられる。これらの中でも、好ましくはタリウム、アンチモン、ビスマス、スズである。これら金属から選ばれる結晶調整剤は1種または2種以上を用いることができる。また、金属から選ばれる結晶調整剤は、本発明のノーシアン電解金めっき液に、ギ酸、硫酸、酒石酸、メタンスルホン酸等の金属塩として添加することが好ましい。
【0028】
本発明のノーシアン電解金めっき液における、成分(c)の金属から選ばれる結晶調整剤の含有量は特に限定されないが、例えば、1〜1000ppm、好ましくは5ppm〜100ppmである。
【0029】
本発明のノーシアン電解金めっき液は、上記成分(a)〜(c)に加えて更に、成分(d)および(e)
(d)pH緩衝剤
(e)硫黄含有化合物から選ばれる結晶調整剤
からなる群から選ばれる1種または2種を含有させることが好ましい。
【0030】
上記成分(d)のpH緩衝剤は、pH緩衝作用を有するものであれば特に限定されないが、例えば、無機酸、有機カルボン酸、有機リン酸、ピリジンスルホン酸およびこれらのカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。前記pH緩衝剤としては、例えば、リン酸、炭酸、ホウ酸等の無機酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトロソ三酢酸(NTA)、クエン酸、酒石酸等の有機カルボン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、1,1,1−ニトロトリス(メチルホスホン酸)(ATMP)、エチレンジアミン四メチレンホスホン酸(EDTMP)等の有機リン酸、3−ピリジンスルホン酸、2−ピリジンスルホン酸、5−メチル−3−ピリジンスルホン酸、4−ヒドロキシピリジン−3−スルホン酸等のピリジンスルホン酸、およびこれらのカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられ、好ましくはEDTAである。これらpH緩衝剤は1種または2種以上を用いることができる。
【0031】
本発明のノーシアン電解金めっき液における、成分(d)のpH緩衝剤の含有量は特に限定されないが、例えば、金めっき液中の金イオン1molに対して0.5〜10mol、好ましくは1〜2mmolである。なお、この成分(d)のpH緩衝剤を添加することにより、液のpHが安定になるため金錯体が安定し、めっきの析出均一性が改善される。そして、得られる金めっきの外観はより明るく、析出は均一になる。更に、長時間めっきを行う場合であっても液の安定性を確保することができる。
【0032】
上記成分(e)の硫黄含有化合物から選ばれる結晶調整剤は、結晶調整作用を有する硫黄含有化合物であれば特に限定されないが、例えば、チオ硫酸ならびにチオリン酸およびこれらのカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩、メルカプト基とカルボキシ基の両方を有する有機化合物等が挙げられる。これら硫黄含有化合物から選ばれる結晶調整剤の中でも、チオ硫酸、チオサリチル酸、チオグリコール酸、4−メルカプト安息香酸、3−メルカプトプロピオン酸が好ましく、チオ硫酸、チオサリチル酸が好ましい。これら硫黄含有化合物から選ばれる結晶調整剤は1種または2種以上を用いることができる。
【0033】
本発明のノーシアン電解金めっき液における、成分(e)の硫黄含有化合物から選ばれる結晶調整剤の含有量は特に限定されないが、例えば、0.0001〜0.025mol/L、好ましくは0.001〜0.01mol/Lである。なお、この成分(e)の硫黄含有化合物から選ばれる結晶調整剤を添加することにより、金めっきのSEM観察においてもナノホールが認められなくなる。
【0034】
更に、本発明のノーシアン電解金めっき液には、本発明の効果を損なわない範囲で、界面活性剤、光沢剤、他の添加剤等の成分を添加してもよい。
【0035】
また更に、本発明のノーシアン電解金めっき液は、成分(c)の金属から選ばれる結晶調整剤として添加される金属の種類や添加量、ノーシアン電解金めっき液のpHを調整することによって、ノーシアン電解合金めっき液とすることもできる。
【0036】
具体的に、本発明のノーシアン電解金めっき液に、例えば、成分(c)としてタリウムを添加する場合、殆ど純金の軟質金となる。一方、成分(c)としてアンチモンを添加する場合、10ppmおよびpH7以下で純金形成しやすく、軟質金となり、20ppm及びpH7以上で金/アンチモン合金が形成しやすく、硬度も高くなる。スズを添加する場合、金/スズ合金となる。
【0037】
上記した本発明のノーシアン電解金めっき液のpHは特に限定されないが、例えば、3〜14、好ましくは5〜8である。pHの調整には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等のアルカリ性物質、硫酸、クエン酸、酢酸等の酸性物質を適宜用いればよい。
【0038】
本発明のノーシアン電解金めっき液は、上記した成分を水に添加して撹拌し、必要によりpHを調整することにより製造することができる。
【0039】
以上説明した本発明のノーシアン電解金めっき液は、電解金めっきに用いることができる。具体的に電解金めっきは、被めっき部材を、本発明のノーシアン電解金めっき液中で電解することにより行うことができる。この電解金めっきに用いられる被めっき部材は特に限定されないが、例えば、ウェハー、プリント配線板、電子部品デバイスのコネクタ、リードフレーム等である。これら被めっき部材の素材は特に限定されないが、例えば、ニッケル、銅、金等が挙げられる。
【0040】
また、本発明のノーシアン電解金めっき液を用いた電解金めっきの条件は特に限定されず、例えば、液温20〜80℃で、電流密度0.1〜6A/dm
2である。
【0041】
上記のようにして電解金めっきが施された被めっき部材は、外観が美しく、耐腐食性が向上されて、はんだ接合性とワイヤボンディング性も優れている。また、金めっき液の組成やめっき条件により、皮膜の金純度の調整ができるため、軟質、硬質等の制御も可能となる。
【0042】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
参 考 例 1
1価金錯体シロップの調製:
チオプロニン0.15M、酢酸0.50Mおよび塩化金酸ナトリウム0.05Mを含む水溶液を20℃で10時間攪拌し、1価金錯体を生成させた。なお、この水溶液のpHは3以下であるため、生成した1価金錯体は溶解せず微粒子となっている。次に、この水溶液を0.4μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、1価金錯体を単離した。この操作における金の回収率は99.9%であった。なお、この1価金錯体の構造は下記式(III)のような4量体構造であることは既に知られている(Carrie A. Simpson et al., Inorganic Chemistry 2010, 49(23), 10858-10866)。
【0045】
上記で得られた1価金錯体を水に投入し、水酸化カリウムを添加して、pH5に調整することにより1価金錯体を溶解した。次いで、再び前記の操作でpH3以下に調整して沈殿を生成させ、更にろ過することにより精製した。この操作を2回繰り返し、最終的に純度が98%以上(NMRにて確認)まで精製された1価金錯体が得られた。
【0046】
上記のように精製された1価金錯体を水に投入して、水酸化カリウムでpH5に調整して、金イオンを100g/L含む1価金錯体シロップを調製した。
【0047】
参 考 例 2
1価金錯体の調製:
チオプロニン0.05Mおよび亜硫酸金ナトリウム0.05Mを含む水溶液を20℃で10時間攪拌し、1価金錯体を生成させた。この水溶液のpHを酢酸で3以下にすることにより、生成した1価金錯体は沈殿した。次に、水溶液を0.4μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、1価金錯体を単離した。この操作における金の回収率は99.9%であった。
【0048】
参 考 例 3
電解金めっき液の調製:
参考例1で調製した1価金錯体シロップ50ml/L(金イオンとして5g/L)、クエン酸三カリウム一水和物65g/Lを含有する水溶液を調製し、この水溶液のpHを水酸化カリウムで7.2に調整したものを電解金めっき液とした。
【0049】
参 考 例 4
電解金めっき:
銅試験片に、電解脱脂、ソフトエッチング、酸処理等の一般的に公知な前処理を行ってから、電解ニッケルめっきを行った。その直後に参考例3で調製した電解金めっき液を用いて、銅上ニッケルめっきされた試験片に金めっきを行った。試験片のめっきされる部分のサイズは2cm×2cmで、陽極の面積はめっき面積の1.5〜2.0倍であった。陽極は酸化イリジウムをコーティング層としたチタンの不溶性アノードであり、試験片(陰極として)との距離は約6cmであった。容量100mlの耐熱塩化ビニール製のめっき槽に、液温60℃を維持し、電流密度0.4A/dm
2で、撹拌しながら、2分間電解金めっきを行った。
【0050】
金めっき後の外観は金色であった。また、金めっきをSEM観察したところ、規則形状を有する平滑の表面であった。しかし、電解金めっきにおける陰極電流効率(以下電流効率と言う)を「実際の析出量/理論の析出量×100%」から算出したところ30%であった。また、長時間めっきを行った場合、外観は赤くなりやすく、めっき液のpHは段々下っていくことがわかった。
【0051】
実 施 例 1
電解金めっき:
参考例1で調製した1価金錯体シロップ40ml/L(金イオンとして4g/L)、硫酸カリウム44g/L、ギ酸タリウム24.4ppm(タリウムイオンとして20ppm)を含有する水溶液を調製し、この水溶液のpHを水酸化カリウムで6.2に調整したものを電解金めっき液とした。
【0052】
この電解金めっき液について、参考例4と同様なめっき条件に電解金めっきを行ったところ、金めっき後の外観は金色であった。電解金めっきにおける電流効率を参考例4と同様に算出したところ90%以上であった。しかし、長時間めっきを行った場合、参考例4ほどではないが、外観は赤くなりやすく、めっき液のpHは段々下っていくことがわかった。
【0053】
試 験 例 1
電気化学測定:
実施例1で得られた電解金めっき液(タリウム20ppm添加)と、参考例3で調製した電解金めっき液(タリウム未添加)の電気化学測定で得た分極曲線を
図1に示した。結晶調整剤として金属であるタリウムの添加により、分極曲線は右にシフトして、分極はかなりしやすくなることが分かった。そして、タリウムを添加した電解金めっき液の電流効率はタリウム未添加の電解金めっき液の約2倍となって、ほぼ100%となった。
【0054】
実 施 例 2
電解金めっき:
参考例1で調製した1価金錯体シロップ50ml/L(金イオンとして5g/L)、ギ酸カリウム42g/L、ギ酸タリウム24.4ppm(タリウムイオンとして20ppm)、EDTA7.31g/Lを含有する水溶液を調製し、この水溶液のpHを水酸化カリウムで7.4に調整したものを電解金めっき液とした。
【0055】
この電解金めっき液について、参考例4と同様に電解金めっきを行ったところ、金めっき後の外観は参考例4および実施例1で得られたものよりも明るい金色であった。電解金めっきにおける電流効率を参考例4と同様に算出したところ90%以上であった。更に、長時間めっきしてもめっき液のpHは安定であった。しかし、金めっき皮膜をSEM観察したところ、参考例4ほどではないが、ナノホールが若干認められた(
図2)。
【0056】
実 施 例 3
電解金めっき:
参考例1で調製した1価金錯体シロップ50ml/L(金イオンとして5g/L)、ギ酸カリウム42g/L、ギ酸タリウム24.4ppm(タリウムイオンとして20ppm)、EDTA7.31g/L、チオサリチル酸1.54g/Lを含有する水溶液を調製し、この水溶液のpHを水酸化カリウムで7.4に調整したものを電解金めっき液とした。
【0057】
この電解金めっき液について、参考例4と同様に電解金めっきを行ったところ、金めっき後の外観は参考例4および実施例2で得られたものより明るい金色であった。電解金めっきにおける電流効率を参考例4と同様に算出したところ95%以上であった。また、金めっき皮膜をSEM観察したところ、実施例2で得られた金めっき皮膜に見られたナノホールは認められなくなった(
図3)。
【0058】
実施例1、2、3で得られた金めっき皮膜の純度を、金めっき皮膜を金剥離剤で溶かして、ICPの分析で確認したところ、何れも99.9%以上であった。そのため実施例1、2、3で得られた金めっき皮膜は純金であることがわかった。また、金皮膜の硬度を確認するところ、MVK−G3ビッカース硬度計(AKASHI製)を用いた荷重5gで金めっき皮膜の硬度を測定した。実施例1、2、3で得られた金めっき皮膜のビッカース硬度は何れも110HV以下であり、300℃で30分間のアニール処理後は60〜70HVとなって、電子製品の純金めっき皮膜に要求される良好な性能を有することが示された。
【0059】
実 施 例 4
電解金めっき:
参考例1で調製した1価金錯体シロップ40ml/L(金イオンとして4g/L)、硫酸カリウム44g/L、酒石酸アンチモンカリウム(アンチモンイオンとして10ppm)、EDTA7.31g/L、クエン酸三ナトリウム10g/L、チオサリチル酸0.77g/Lを含有する水溶液を調製し、この水溶液のpHを水酸化カリウムで6.2に調整したものを電解金めっき液とした。
【0060】
この電解金めっき液について、参考例4と同様に電解金めっきを行ったところ、金めっき皮膜の外観は参考例4で得られたものよりも明るい金色であって、実施例3で得られた金めっき皮膜より光沢の外観であった。電解金めっきにおける電流効率を参考例4と同様に算出したところ95%以上であった。また、金めっき皮膜をSEM観察したところ、結晶は緻密で、平滑の表面であることがわかった(
図4)。また、金の純度は若干下るものの、ビッカース硬度は上がって、170HVになり、300℃で30分間のアニール処理後も80〜90HVであった。
【0061】
実 施 例 5
マイクロバンプの形成:
実施例4で調製した電解金めっき液を用いて、半導体ウェハーのバンプめっきを行った。レジストによるパターン化されたウェハー上(めっき下地素材はスパッタリング金)に、電流密度0.4A/dm
2、液温60℃、40分間で金めっきを行った。めっき後レジストを剥離し、表面を観察したところ、
図5に示すような微細な金バンプ(幅10μm、高さ約10μm)が形成されていた。金バンプは真っ直ぐ上に成長していたことから、この電解金めっき液は、レジストをアタックしないことがわかった。
【0062】
比 較 例 1
電解金めっき:
シアン金めっきの市販品として電解純金めっき液SKYGOLD S−10(JCU製)を用いて、液温60℃、電流密度0.3A/dm
2で、撹拌しながら、2分間(膜厚0.35μm)電解金めっきを行った。
【0063】
比 較 例 2
電解金めっき:
亜硫酸金ナトリウム(金イオンとして10g/L)、亜硫酸ナトリウム80g/L、硫酸タリウム(タリウムイオンとして20ppm)、エチレンジアミン10g/L、EDTA4g/L、リン酸水素2ナトリウム20g/L、3,5−ジニトロ安息香酸1g/Lを含有する水溶液を調製し、この水溶液のpHを水酸化カリウムで8.0に調整したものを電解金めっき液とした。この液を用いて、液温60℃、電流密度0.5A/dm
2で、撹拌しながら、70秒間(膜厚0.35μm)電解金めっきを行った。
【0064】
試 験 例 2
物性測定:
(1)はんだボール接合シェア強度と破壊モード
実施例3、4と比較例1、2の液で得た金めっき皮膜のはんだボール接合シェア強度と破壊モードを比較した(
図6)。
はんだボール接合性の評価はM705(Sn−3.0Ag−0.5Cu)の0.76mmφのソルダーボール(千住金属工業製)、フラックスは529D(ペースト状:千住金属工業製)、リフローはRF−430−M2(パルス製)を使用し、トップ温度が260℃、融点以上の保持時間約32秒ではんだ実装後、ボンドテスター4000HS(ARCTEK製)を使用して、シェア速度が40mm/sでシェアテストを行った。なお、評価された金めっきの膜厚は全部(Ni5.0μm/Au0.35μm)であった。
破壊モードは、破壊面にはんだボールの残り面積比率で評価した。界面破壊がなく、はんだボールの残りが多い場合に接合性が強いと評価し、はんだボールの残りがなくなって、界面破壊されている場合に接合性が弱いと評価した。
図6に示すように、サンプル数20個で、本発明の実施例3と実施例4のはんだ接合強度は比較例1と比較例2と同等であって、破壊モードは界面破壊がほぼなかった。一方、比較例1のシアン金めっき液と比較例2の亜硫酸金めっき液ははんだ残りが少ないケースがやや多くて、界面破壊のケースもあって、実施例3と実施例4のように優れていないことがあった。
【0065】
(2)ワイヤボンディング強度
実施例3、4と比較例1、2の液で得た金めっき皮膜のワイヤボンディング強度を比較した。
ワイヤボンディング強度の測定は、金ワイヤφ18μm(GMH製)を用い、ボンダーHW27U−HF(パナソニック製)でワイヤを打って実装して、プルテスターBT−14(DAGE製)を用いてプル強度を測定した(プル強度測定における破壊モード(A〜Eの5段階)を
図7に示した。AとEは不合格)。なお、評価された金めっきの膜厚は全部(Ni5.0μm/Au0.35μm)であった。実施例3、4と比較例1、2の測定結果は全部B(合格)となった。ワイヤボンディング強度として、
図8に示すように本発明の実施例3と実施例4の金めっき液は、比較例1のシアン金めっき液と比較例2の亜硫酸金めっき液と比べて、有意差なく、同じく優れていた。
【0066】
以上の測定結果から、実施例3、4の金めっき液で得られる金めっき皮膜は、従来使用されていた比較例1のシアン浴と比較例2の亜硫酸浴で得られる金めっき皮膜と同程度かそれ以上で電気部品に要求される特性を有している。そのため、本発明はシアン系化合物を含む電解金めっき液に代えて使用できることがわかった。
【0067】
実 施 例 6
電解金めっき:
参考例1で調製した1価金錯体シロップ50ml/L(金イオンとして5g/L)、ギ酸カリウム42g/L、メタンスルホン酸ビスマス(ビスマスとして20ppm)、EDTA7.31g/L、チオグリコール酸0.46g/Lを含有する水溶液を調製し、この水溶液のpHを水酸化カリウムで7.4に調整したものを電解金めっき液とした。
【0068】
この電解金めっき液について、参考例4と同様に電解金めっきを行ったところ、金めっき後の外観は参考例4より明るい金色であった。電解金めっきにおける電流効率を参考例4と同様に算出したところ90%以上であった。
【0069】
実 施 例 7
電解金めっき:
参考例1で調製した1価金錯体シロップ50ml/L(金イオンとして5g/L)、ギ酸カリウム42g/L、硫酸スズ(スズとして100ppm)、EDTA5.8g/Lを含有する水溶液を調製し、この水溶液のpHを水酸化カリウムで7.4に調整したものを電解金めっき液とした。
【0070】
この電解金めっき液に、銅上ニッケルめっきされた試験片を入れ、液温60℃、電流密度1A/dm
2で軽く撹拌して、3分間電解金めっきを行った。めっき後の外観は光沢の明るい金色となった。SEMで観察したところ、表面形態は結構平滑であり、実施例3、4と比べて、結晶粒子の界面が全然見えない状態であった(
図9)。電解金めっきにおける電流効率を参考例4と同様に算出したところ40%となった。皮膜の金の純度を確認したところ、組成は金99.4%、スズ0.6%の金合金となっていた。
【0071】
実 施 例 8
電解金めっき:
参考例1で調製した1価金錯体シロップ80ml/L(金イオンとして8g/L)、硫酸カリウム44g/L、硫酸スズ(スズとして100ppm)、EDTA7.31g/L、チオサリチル酸1.54g/Lを含有する水溶液を調製し、この水溶液のpHを水酸化カリウムで7.4に調整したものを電解金めっき液とした。
【0072】
この電解金めっき液について、参考例4と同様に電解金めっきを行ったところ、金めっき後の外観は参考例4および実施例1で得られたものよりも明るい金色であった。電解金めっきにおける電流効率を参考例4と同様に算出したところ90%であった。皮膜の金の純度を確認したところ、組成は金99.2%、スズ0.8%の金合金となっていた。
【0073】
実 施 例 9
電解金めっき液の調製:
2,4‐チアゾリジンジオンの加水分解から生成した2−メルカプトアセトアミド0.15Mおよび塩化金酸0.05Mを含む水溶液を20℃で10時間攪拌し、1価金錯体を生成させた。なお、この水溶液のpHは3以下であるため、生成した1価金錯体は溶解せず沈殿物となっている。次に、この水溶液を0.4μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、1価金錯体を単離した。この操作における金の回収率は99.9%であった。なお、この1価金錯体の構造は式(IV)のような構造(nは1〜10)であることをNMRで確認した。この1価金錯体は上記実施例と同様に電解金めっき液に使用し得る。
【0075】
実 施 例 10
電解金めっき:
ロダニン−3−酢酸の加水分解から生成したN−(2−メルカプトエチオニル)グリシン0.15Mおよび塩化金酸0.05Mを含む水溶液を20℃で10時間攪拌し、1価金錯体を生成させた。なお、この水溶液のpHは3以下であるため、生成した1価金錯体は溶解せず沈殿物となっている。次に、この水溶液を0.4μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、1価金錯体を単離した。この操作における金の回収率は99.9%であった。なお、この1価金錯体の構造は式(V)のような構造(nは1〜10)であることをNMRで確認した。
【0077】
上記式(V)の1価金錯体を参考例1と同様にしてシロップとし、これを実施例1で用いた1価金錯体シロップに代えて電解金めっき液を調製した。この電解金めっき液で、電解金めっきを行うと、同様の金めっき皮膜を得る。
【0078】
実 施 例 11
電解金めっき液の調製::
2,4‐チアゾリジンジオン及び2−アミノエタノールの加水分解から生成したN−(2−ヒドロキシエチル)−2−メルカプトアセトアミド0.15Mおよび塩化金酸0.05Mを含む水溶液を20℃で10時間攪拌し、1価金錯体を生成させた。なお、この水溶液のpHは3以下であるため、生成した1価金錯体は溶解せず沈殿物となっている。次に、この水溶液を0.4μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、1価金錯体を単離した。この操作における金の回収率は99.9%であった。なお、この1価金錯体の構造は式(VI)のような構造(nは1〜10)であることをNMRで確認した。この1価金錯体は上記実施例と同様に電解金めっき液に使用し得る。