(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591457
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】3−クロロ−2−ビニルフェノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 37/06 20060101AFI20191007BHJP
C07C 39/373 20060101ALI20191007BHJP
C07C 309/66 20060101ALI20191007BHJP
C07C 303/28 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
C07C37/06
C07C39/373
C07C309/66
C07C303/28
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-572233(P2016-572233)
(86)(22)【出願日】2015年6月8日
(65)【公表番号】特表2017-521385(P2017-521385A)
(43)【公表日】2017年8月3日
(86)【国際出願番号】EP2015062648
(87)【国際公開番号】WO2015189114
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2018年6月4日
(31)【優先権主張番号】14172039.1
(32)【優先日】2014年6月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507203353
【氏名又は名称】バイエル・クロップサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】エルバー,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】フォード,マルク・ジェイムズ
【審査官】
伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−515028(JP,A)
【文献】
特開平05−140137(JP,A)
【文献】
米国特許第02725404(US,A)
【文献】
米国特許第02742508(US,A)
【文献】
特開2007−045744(JP,A)
【文献】
GREENE, T. W.,PROTECTION FOR PHENOLS AND CATECHOLS,PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS THIRD EDITION,1999年,pp. 276-287,URL,http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/0471220574.ch3/summary
【文献】
GREENE, T. W.,PROTECTION FOR THE HYDROXYL GROUP, INCLUDING 1,2- AND 1,3-DIOLS,PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS THIRD EDITION,1999年,pp. 150-151
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 309/66
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)の3−クロロ−2−ビニルフェノール:
【化1】
の製造方法であって、
下記式(II)の1,5,5−トリクロロ−6−ビニル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン:
【化2】
を、塩基、双極性非プロトン性添加剤および適宜に溶媒の存在下、反応させて、式(I)の化合物を得ることを特徴とする製造方法であって、
前記塩基が、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、トリエチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、ピコリン、ルチジン及びコリジンから選択され、
前記双極性非プロトン性添加剤がN,N−ジメチルアセトアミドであり、
前記溶媒がメチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピルまたは酢酸n−ブチルである、前記製造方法。
【請求項2】
前記塩基がトリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、炭酸カルシウムまたは炭酸リチウムである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩基が炭酸リチウムである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記塩基および前記添加剤に加えて溶媒を用いる、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒が酢酸n−ブチルである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記式(I)の化合物を単離せずに、塩基および試薬Q−A(Qはクロライドおよびブロミドから選択される。)を用いて、直接、下記式(III)の化合物:
【化3】
[式中、Aはメシル、トシル、アシル、ホスホニル、ホスホリルから選択される。]にさらに変換する、請求項4または5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
Qがクロライドであり、Aがメシルである請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−クロロ−2−ビニルフェノールおよびその塩の新規な製造方法、ならびに医薬活性および農薬活性化合物の製造におけるこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
3−クロロ−2−ビニルフェノール誘導体は、医薬活性および農薬活性化合物の重要な前駆体である(例えば、特許出願WO2008/013622、WO2009/094407、US2010/0240619、US2011/224257およびWO2012/025557参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2008/013622
【特許文献2】WO2009/094407
【特許文献3】US2010/0240619
【特許文献4】US2011/224257
【特許文献5】WO2012/025557
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
3−クロロ−2−ビニルフェノールの合成は、特許US1995/5424460に記載されている。1,5,5−トリクロロ−6−ビニル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中で還流させて、2当量の塩化水素の脱離によって3−クロロ−2−ビニルフェノールを生成する。シクロヘキサノンの塩基性塩素化によって2,2,6,6−テトラクロロシクロヘキサノンを得て、次にビニルマグネシウムブロミドを加え、「イン・サイツ」環化によってエポキシドを形成することで、1,5,5−トリクロロ−6−ビニル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを得る。この方法には、いくつか重大な欠点がある。第1に、繁殖毒性のあるDMFを溶媒として用いる。Org. Process. Res. Dev. 2013, 17, 1517−1525中の発表によれば、これは将来において、工業的合成に使用できなくなる可能性がある。経済的な観点からも、この溶媒は、生成物から分離するのが困難であり、特に、通常はそのまま焼却処分しなければならない水系廃液からの分離が困難であることから好ましくないものである。さらに、その反応は、反応に153℃という反応温度が必要であることから比較的エネルギー集約的な条件下で行われる。遊離する塩化水素も中和されず、一定の反応温度では、溶媒の部分的分解および化学的選択性の低下を引き起こすことが不可避である。その芳香族化反応では、75.5%という中等度の収率にしかならない。これは、反応選択性が中等度でしかないこと、または一般的な酸性条件下での生成物安定性が不十分であることを裏付けるものである。この状況のため、この方法では粗生成物の精製が必須となる。さらに、この特許に記載のカラムクロマトグラフィーによる精製は、農薬に関する工業的反応ではあり得ないものである。
【0005】
しかしながら、置換されたシクロヘキサンからのハロゲン化水素を脱離して、不飽和シクロヘキサン類を形成するか、または完全な芳香族化によりベンゼン誘導体を形成する、文献から公知の他の方法と比較して、上記の方法は、これまでのところ、経済的に最も有利な方法で選択的に2,3−置換されたフェノール類を製造する最新技術を代表するものである。特許DE1911/254473およびUS1939/2183574からわかるように、クロロシクロヘキサンをシクロヘキセンに変換するのに、酸化カルシウムまたは塩化バリウム(II)などの無機触媒が、300から500℃の温度で必要である。特許US1940/2204565およびDE1949/824045によれば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水またはN−エチルカルバゾールもしくはジベンゾピロールなどの有機塩基を触媒として用いる場合、同じ変換を、200から300℃のより低温(しかしまだ高い)で行うことができる。特許US1940/2210563によれば、1,2−ジハロシクロヘキサンからの臭化水素または塩化水素の二重脱離も同様に、約300℃の温度で酸化アルミニウムおよびメタノールなどの無機触媒の存在が必要である。3当量の塩化水素を脱離して相当する異性体化合物1,2,3−、1,2,4−または1,3,5−トリクロロベンゼンを形成することにより、1,2,3,4,5,6−ヘキサクロロシクロヘキサン(リンデン)の芳香族化も、珪藻土、鉄(US1956/2729686)または活性炭(US1956/2773105)を用いる場合、300から350℃の範囲の温度が必要である。塩化アルミニウム(III)(US1949/2559441;US1956/2742508)または塩化鉄(III)(US1955/2725404)などの金属塩の使用によって、160から300℃の範囲の比較的低温で反応を行うことができるが、水酸化ナトリウムまたはアリールスルホン酸ナトリウムなどの有機もしくは無機塩基を用いても(US1956/2745883;Chemicke Zvesti 1956, 436−437)、100から200℃まで温度をさらに下げることが可能である。しかしながら、125から150℃での水中のリンデンの反応は化学選択的ではないことが認められており(Environ. Sci. Technol. 2002, 1337−1343)、化合物1,4−ジクロロベンゼン、2,5−ジクロロフェノールおよびフェノールが得られる。従って、若干アルカリ性条件下での水の存在によっても、塩素原子の部分置換が生じる。さらに、参考文献Helv. Chim. Act. 1954, 1343−1345によれば、リンデン誘導体1,1,2,3,4,5,6−ヘプタクロロ−4−フルオロシクロヘキサンからの1,3,4,5−テトラクロロ−2−フルオロベンゼンの選択的製造は、やはり210℃でメタノール中ナトリウムメトキシドを用いることで可能である。
【0006】
上記の例でカルボニル基を持たないシクロヘキサン類とは対照的にハロゲン化または非ハロゲン化フェノール類は、エノール化性に応じて比較的温和な条件下で飽和もしくは部分不飽和シクロヘキサノン類またはシクロヘキサンジオン類から製造することができる。例えば、2,6−ジクロロ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサ−2−エン−1−オンの反応による異性体化合物2−クロロ−3,4,5−トリメチルフェノールおよび2−クロロ−3,5,6−トリメチルフェノールの生成は、溶媒としてのDMAおよび塩基トリエチルアミンを105℃で用い、各場合で35%の収率で良好に行うことができる(Bull. Soc. Chim. Belg. 1987, 663−674)。しかしながら、生成物生成には共鳴安定化カチオン上のジェミナルメチル基の一つのメーヤワイン転位が必要とされることから、これは、反応が塩化水素の脱離によってのみでは進行しない比較的特異なケースである。さらなる反応においては、塩化水素の脱離による相当するフェノール類の生成には、ジクロロ化シクロヘキサ−1,3−ジオンおよびテトラヒドロフラン中66℃の温度の場合(Tetrahedron 1982, 1221−1225)またはジクロロ化シクロヘキサノンおよびトルエン中110℃の温度の場合(Tetrahedron Lett. 2007, 8930−8934)の1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)などの有機塩基の使用が好ましい。良好な収率は達成されるが、入手および廃棄の両方に費用のかかる原子的に不経済な有機塩基は工業的合成には不適であり、そのためのこれらの方法は除外される。そのため、0℃でテトラヒドロフラン中の1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノン−5−エン(DBN)を用いることにより51%収率でハロゲン化エポキシシクロヘキサン3,4−ジブロモ−6−クロロ−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを2−クロロフェノールに変換する方法(J. Chem. Soc. 1984, 2659−2664)は、実施可能な代替法ではない。塩素化エポキシステロイドからの塩化水素の熱脱離(熱分解)による縮合1,2−ジヒドロキシベンゼンの生成によっても、165℃の非常に高い反応温度でわずか22%の収率が得られるだけである(J. Chem. Soc. 1998, 1967−1972)。
【0007】
ハロゲン化キノン誘導体類の芳香族化によるヒドロキノン類またはさらなるシクロヘキサンジオン類およびシクロヘキサントリオン類の生成、さらには芳香族系に縮合したシクロヘキサン(ヘキサノン)類の芳香族化などとのさらなる比較は、当該系がさらに容易に芳香族化を受けることから、そして、達成される生成物構造はここで記載する系に匹敵するものではないことから、現時点では除外される。
【0008】
このように考え、上記の欠点を考慮すると、Rhone Poulenc Chimieの特許US1995/5424460のみが、原料が比較的容易に入手でき、化学選択性が達成できることから、関連する先行技術および3−クロロ−2−ビニルフェノールの工業的合成の開発への唯一の利用可能なアプローチを代表するものである。
【0009】
上記先行技術を考慮すると、本発明の目的は、上記の欠点を持たないことから、高収率での3−クロロ−2−ビニルフェノール(I)取得を可能とする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、下記式(I)の3−クロロ−2−ビニルフェノール
【化1】
【0011】
の製造方法において、
下記式(II)の1,5,5−トリクロロ−6−ビニル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン:
【化2】
【0012】
を、塩基、双極性非プロトン性添加剤および適宜に溶媒の存在下、反応させて、式(I)の化合物を得ることを特徴とする方法によって達成された。
【0013】
驚くべきことに、式(I)の3−クロロ−2−ビニルフェノールを高純度で製造可能であることから、本発明の方法は先行技術で既報の製造方法の上記欠点を克服するものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
3−クロロ−2−ビニルフェノール(I)は、塩基、双極性非プロトン性添加剤および適宜に溶媒の存在下、1,5,5−トリクロロ−6−ビニル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン(II)を反応させることで製造される。
【0016】
好適な双極性非プロトン性添加剤は、例えば、アミド類(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン)、炭酸エステル(炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)、スルホキシド/スルホン類(例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン)、尿素類(N,N−ジメチルプロピレン尿素、N,N−ジメチルエチレン尿素)およびカーバメート類(例えば、メチルN,N−ジメチルカーバメート、エチルN,N−ジメチルカーバメート)である。好ましい添加剤は、N,N−ジメチルアセトアミド、炭酸プロピレンおよびスルホランであり、特に好ましいものはN,N−ジメチルアセトアミドである。
【0017】
好適な溶媒は、エーテル類(例えば、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン)、脂肪族類および芳香族類(例えば、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、クロロベンゼン、キシレン、メシチレン、1,2−ジクロロベンゼン)、エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール)または挙げたこれら溶媒の混合物である。好ましい溶媒はエーテル類およびエステル類である。非常に特に好ましいものは、酢酸n−ブチルである。
【0018】
本発明による反応は、塩基および双極性非プロトン性添加剤の存在下、または塩基、双極性非プロトン性添加剤および溶媒の存在下、行う。
【0019】
好ましくは、塩基および添加剤としてのN,N−ジメチルアセトアミドを用いる。
【0020】
やはり好ましくは、塩基、添加剤としてのN,N−ジメチルアセトアミドおよびさらに溶媒を用いる。
【0021】
やはり好ましくは、塩基、添加剤としてのN,N−ジメチルアセトアミドおよびさらに溶媒としての酢酸n−ブチルを用いる。
【0022】
好適な塩基は、炭酸塩(例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび炭酸カルシウム)、リン酸塩(例えば、リン酸カリウム、リン酸ナトリウムおよびリン酸リチウム)、カルボン酸塩(例えば、酢酸カリウム、酢酸ナトリウムおよび酢酸リチウム、さらにはギ酸カリウム、ギ酸ナトリウムおよびギ酸リチウム)、水酸化物(例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化リチウム)、さらには有機塩基(例えば、トリエチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、ピコリン、ルチジンおよびコリジン)である。それらの塩基は好ましくは、生成する塩化水素2当量の量を正確に取り、常にpHを中性に維持するために化学量論量で用いる。炭酸塩および有機塩基の使用が好ましい。特に好ましくは、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、トリエチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、ピコリン、ルチジンおよびコリジンを用いる。非常に特に好ましくは、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、炭酸カルシウムおよび炭酸リチウムを用いる。炭酸リチウムの使用が非常に特に好ましい。
【0023】
本発明の方法の好ましい実施形態は次の通りである。反応容器中、式(II)の化合物を有機溶媒中の添加剤および塩基とともに入れ、反応容器を密閉する。次に、反応混合物を加熱しながら、反応が完了するまで2から24時間の期間にわたって十分に撹拌する。
【0024】
本発明の方法の非常に特に好ましい実施形態は次の通りである。反応容器中、式(II)の化合物を、酢酸n−ブチル中のN,N−ジメチルアセトアミドおよび炭酸リチウムとともに入れ、反応容器を密閉する。次に、反応混合物を加熱しながら、反応が完了するまで2から24時間の期間にわたって十分に撹拌する。
【0025】
本発明の方法は通常、50℃から150℃の範囲、好ましくは110℃から130℃の範囲の温度で行う。
【0026】
本発明の方法は、溶媒に応じて、大気圧下または5バール以下の圧力下で行う。それは好ましくは、大気圧で行う。
【0027】
次に、式(I)の化合物の後処理および単離は、反応混合物を冷却して15から35℃とし、次に塩を濾去するか、脱イオン水での洗浄によって行う。有機相を、必要に応じて、好ましくは共沸脱水し、生成物を、溶液中でさらに反応させてヒドロキシ基のその後の官能化を行うか、減圧下、溶媒を除去した後に油状物として単離する。
【0028】
反応時間は、溶媒、濃度および適用される外部温度に応じて、数分から数時間の範囲で大きく変動し得る。
【0029】
式(I)の化合物の後処理および単離を、−20℃から25℃の温度範囲まで反応混合物を冷却することで行う。塩および双極性非プロトン性添加剤の水系除去後、溶媒または抽出剤を減圧下、除去した後に、式(I)の化合物を有機相から油状物として単離する。
【0030】
このようにして得られる式(I)の化合物に塩基を加える場合、相当する塩、すなわちフェノキシドが生成する。
【0031】
その方法のさらなる利点は、事前に精製することなく直後の反応ができるだけの純度で式(I)の化合物が製造されるという点である。例えば、特許US2011/224257に記載のアルキル化反応(例えば、アリル化、プロパルギル化または2−メトキシエチル化)またはスルホン化反応もしくはアシル化反応での有機相の水系スクラビングおよび脱水後に、3−クロロ−2−ビニルフェノール(I)を溶媒もしくは抽出剤中でさらに反応させることができる。
【化4】
【0032】
式中、Aはメシル、トシル、アシル、ホスホニル、ホスホリルから選択される。
【0033】
好ましい実施形態では、式(I)の化合物を、物質式(III−I)の(3−クロロ−2−ビニルフェニル)メタンスルホネートに直接変換する。
【化5】
【0034】
式(II)の化合物は、US1995/5424460から公知である。
【0035】
以下の実施例は、本発明の方法を説明するものである。
【0036】
3−クロロ−2−ビニルフェノールの製造
反応容器中、1,5,5−トリクロロ−6−ビニル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン15.00g(純度80%、52.7mmol、1.0当量)および炭酸リチウム4.70g(52.7mmol、1.0当量)およびN,N−ジメチルアセトアミド19.2g(220.5mmol、4.18当量)を酢酸n−ブチル28.8g(247.9mmol、4.7当量)中に入れ、撹拌しながら加熱して内部温度125℃(外部温度135℃)とした。8時間後、原料の3−クロロ−2−ビニルフェノールへの完全な変換をGC分析によって検出した。次に、加熱浴を外すことで、懸濁液を冷却して内部温度25℃とし、脱イオン水25mLと混合した。次に、相を分離し、有機相を、半濃縮塩化ナトリウム溶液20mLで2回および脱イオン水20mLで2回洗浄した。有機相から減圧下、水および溶媒を除去し、生成物を黄色油状物として単離した。収量6.93g(理論値の85%)。
1H−NMR(CDCl
3、400MHz)δ(ppm)=7.08(dd、J=8.0、8.0Hz、1H、H
5−Ar)、6.96(d、J=8.0Hz、1H、H
4−Ar)、6.84(d、J=8.0Hz、1H、H
6−Ar)、6.79(dd、J=12.0、12.0Hz、1H、H
c−Vin)、5.74(d、J=12.0Hz、1H、H
b−Vin)、5.73(s、1H、OH)、5.68(d、J=12.0Hz、1H、H
a−Vin)。
【0037】
化学選択性に対する各種塩基の効果、従って他の方法で同一条件下で行った反応の収率を、下記の表中のいくつかの例によって示すことができる。
【表1】
【0038】
3−クロロ−2−ビニルフェノールを介した(3−クロロ−2−ビニルフェニル)メタンスルホネートの直接的製造
反応容器中、1,5,5−トリクロロ−6−ビニル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン15.00g(純度80%、52.7mmol、1.0当量)および炭酸リチウム4.70g(52.7mmol、1.0当量)およびN,N−ジメチルアセトアミド19.2g(220.5mmol、4.18当量)を、酢酸n−ブチル28.8g(247.9mmol、4.7当量)に入れ、撹拌しながら加熱して内部温度125℃(外部温度135℃)とした。8時間後、原料の3−クロロ−2−ビニルフェノールへの完全な変換がGC分析によって検出された。次に、加熱浴を外すことで、懸濁液を内部温度25℃まで冷却し、脱イオン水25mLを加えた。次に、相を分離し、有機相を半濃縮塩化ナトリウム溶液20mLで2回および脱イオン水20mLで2回洗浄した。次に、有機相を減圧下で共沸脱水し、少量の溶媒を留去した。次に、蒸留残留物をトリエチルアミン5.90g(58.28mmol、1.3当量)と混合し、冷却して0℃とし、メタンスルホニルクロライド6.67g(58.28mmol、1.3当量)を、15分間の期間をかけて反応溶液に導入した。添加完了後、混合物を加熱して22℃とし、懸濁液を脱イオン水50mLと混合した。次に、相を分離し、水相を酢酸n−ブチル25mLで抽出し、合わせた有機相を脱イオン水50mLで洗浄した。次に、残った水および大部分の溶媒を有機相から留去した。n−ヘプタンによる温浸およびその後の−20℃までの冷却によって、結晶化、濾過および乾燥によって標的化合物を明黄色固体として得ることができた。収量8.71g(2段階で理論値の71%)、
1H−NMR(CDCl
3、400MHz)δ(ppm)=7.36(dd、J=8.0、1.2Hz、1H、H
4−Ar)、7.34(dd、J=8.0、1.2Hz、1H、H
2−Ar)、7.23(dd、J=8.0、1.2Hz、1H、H
3−Ar)、6.80(dd、J=18.0、12.0Hz、1H、H
c−Vin)、5.92(dd、J=18.0、1.6Hz、1H、H
b−Vin)、5.74(dd、J=12.0、1.6Hz、1H、H
a−Vin)、3.12(s、3H、OSO
2C
H3)。