特許第6591471号(P6591471)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6591471モータ駆動制御装置、モータ駆動制御装置の制御方法、モータ駆動制御装置の制御プログラム、および基本ステップ角の分割数の決定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591471
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置、モータ駆動制御装置の制御方法、モータ駆動制御装置の制御プログラム、および基本ステップ角の分割数の決定方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 8/22 20060101AFI20191007BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   H02P8/22
   H02P27/08
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-43987(P2017-43987)
(22)【出願日】2017年3月8日
(65)【公開番号】特開2018-148749(P2018-148749A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2018年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【弁理士】
【氏名又は名称】椿 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100124589
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 竜郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166811
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 剛
(72)【発明者】
【氏名】関 徹也
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 圭
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−136694(JP,A)
【文献】 特開昭64−051867(JP,A)
【文献】 米国特許第06414460(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 8/22
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステッピングモータをマイクロステップ駆動させるモータ駆動制御装置であって、
1マイクロステップ周期に含まれるPWM(Pulse Width Modulation)周期の回数を、モータの固有振動数に対するPWM基本周波数の割合に基づき決定することを特徴とする、モータ駆動制御装置。
【請求項2】
PWM基本周波数をf1、モータの固有振動数をf0、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数をm、固有振動数に対するマージンを示す係数をkとしたとき、
m≧k×f1/f0
の関係を満たす、請求項1に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項3】
前記ステッピングモータの回転数に応じて、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数が上記m以上となるよう制御する、請求項2に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項4】
前記1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数によって決まる電流波形に含まれる振動が、前記ステッピングモータの固有振動数に近似しないように、前記1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数が制御される、請求項1から3のいずれかに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項5】
前記ステッピングモータの回転数に応じて、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数を変化させる機能を有する、請求項1から4のいずれかに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項6】
マイクロステップは、前記ステッピングモータの基本ステップ角を分割するものであり、その分割数を調整することで、前記1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数を制御する、請求項1から5のいずれかに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項7】
ステッピングモータをマイクロステップ駆動させるモータ駆動制御装置の制御方法であって、
1マイクロステップ周期に含まれるPWM(Pulse Width Modulation)周期の回数を、モータの固有振動数に対するPWM基本周波数の割合に基づき決定することを特徴とする、モータ駆動制御装置の制御方法。
【請求項8】
ステッピングモータをマイクロステップ駆動させるモータ駆動制御装置の制御プログラムであって、
1マイクロステップ周期に含まれるPWM(Pulse Width Modulation)周期の回数を、モータの固有振動数に対するPWM基本周波数の割合に基づき決定するステップをコンピュータに実行させる、モータ駆動制御装置の制御プログラム。
【請求項9】
ステッピングモータをマイクロステップ駆動させるモータ駆動制御装置における、基本ステップ角の分割数の決定方法であって、
1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数を、モータの固有振動数に対するPWM基本周波数の割合に基づき決定し、前記PWM周期の回数によって決まる電流波形に含まれる振動が、前記ステッピングモータの固有振動数に近似しないように、前記基本ステップ角の分割数を決定する、基本ステップ角の分割数の決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はモータ駆動制御装置、モータ駆動制御装置の制御方法、モータ駆動制御装置の制御プログラム、および基本ステップ角の分割数の決定方法に関し、特に、モータの振動または騒音への対策を図ることができるモータ駆動制御装置、モータ駆動制御装置の制御方法、モータ駆動制御装置の制御プログラム、および基本ステップ角の分割数の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロステップ駆動は、駆動回路であるドライバの電流制御により、ステッピングモータの基本ステップ角度をさらに細かく制御する駆動方式である。より詳しくは、マイクロステップ駆動は、モータに含まれるそれぞれのコイルに流す電流配分を細かく分割することで、基本ステップ角度よりも小さなステップ角度での運転を実現するものである。
【0003】
図7は、マイクロステップ駆動について説明するためのタイミングチャートである。
【0004】
図7において、横軸は時間の経過を示し、(a)はモータ駆動パルス(モータ駆動の基本ステップ)、(b)はマイクロステップ、(c)はPWM(Pulse Width Modulation)周期(PWM制御のパルス)の波形例が、それぞれ、示されている。
【0005】
図7(a)に示されるように、ステッピングモータの駆動パルス(基本ステップ)の数は、モータの回転速度に応じて、1秒(sec)間に360パルス、480パルス、640パルス、800パルスなど(360pps(pulse/sec)、480pps、640pps、800ppsなど)に制御される。パルス数が多いほど、モータは高速で回転する。
【0006】
図7(b)に示されるように、ステッピングモータの駆動パルスの1周期が例えば32に分割され、その1つが1マイクロステップの周期とされる。
【0007】
図7(c)に示されるように、PWM制御の基本周波数は、本例では25kHzに固定されている。PWM制御の基本周波数は、20kHz以下ではモータ音が悪化し、30kHz以上ではCPUの演算負荷が大きくなるので、20kHzから30kHzの範囲内で設定されることが望ましい。
【0008】
例えばモータの回転が1秒に360パルスで制御され、1パルスが32マイクロステップに分割されるのであれば、理論的には、1秒には、360×32=11,520マイクロステップが含まれることになり、マイクロステップの周波数は、11,520Hz=11.52kHzとなる。PWM制御の基本周波数が25kHzとされているので、マイクロステップの1周期内にPWM制御のパルスは、理論的には、25/11.52=2.17周期(2.17個)含まれることとなる。
【0009】
モータの回転がより早く、1秒に480パルスで制御されるときも、1パルスは32マイクロステップに分割されるので、理論的には、1秒には、480×32=15,360マイクロステップが含まれることになり、マイクロステップの周波数は、15,360Hz=15.36kHzとなる。PWM制御の基本周波数が25kHzとされているので、マイクロステップの1周期内にPWM制御のパルスは、理論的には、25/15.36=1.63周期(1.63個)含まれることとなる。
【0010】
下記特許文献1は、ステッピングモータをマイクロステップ駆動する技術を開示している。特許文献1はさらに、モータ駆動による騒音の発生を抑制するとともに、マイクロコンピュータによる制御処理の負担を軽減させることができるステッピングモータの駆動装置を開示している。
【0011】
特許文献1のステッピングモータの駆動装置は、ステッピングモータの駆動信号の周波数と、該信号の1周期内の分割数との積が、モータの駆動速度全域にわたって一定周波数となるように1周期内の分割数を制御する制御手段と、一定周波数信号の音レベルを減衰させるフィルタとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−309999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
1マイクロステップ周期に含まれるPWM基本周波数(クロック周波数)の逓倍成分がモータの固有振動数と近似すると、共振現象が発生する。共振現象が発生すると、モータの振動や騒音につながる。特許文献1の技術では、このような現象により発生するモータの振動や騒音を解決することはできない。
【0014】
この発明は、モータの振動または騒音への対策を図ることができるモータ駆動制御装置、モータ駆動制御装置の制御方法、モータ駆動制御装置の制御プログラム、および基本ステップ角の分割数の決定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、この発明のある局面に従うと、モータ駆動制御装置は、ステッピングモータをマイクロステップ駆動させるモータ駆動制御装置であって、1マイクロステップ周期に含まれるPWM(Pulse Width Modulation)周期の回数を制御することを特徴とする。
【0016】
好ましくは、モータ駆動制御装置は、PWM基本周波数をf1、モータの固有振動数をf0、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数をm、固有振動数に対するマージンを示す係数をkとしたとき、
m≧k×f1/f0
の関係を満たす。
【0017】
好ましくは、モータ駆動制御装置は、前記ステッピングモータの回転数に応じて、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数が上記m以上となるよう制御する。
【0018】
好ましくは、モータ駆動制御装置においては、前記1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数によって決まる電流波形に含まれる振動が、前記ステッピングモータの固有振動数に近似しないように、前記1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数が制御される。
【0019】
好ましくは、モータ駆動制御装置は、前記ステッピングモータの回転数に応じて、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数を変化させる機能を有する。
【0020】
好ましくは、モータ駆動制御装置において、マイクロステップは、前記ステッピングモータの基本ステップ角を分割するものであり、モータ駆動制御装置は、その分割数を調整することで、前記1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数を制御する。
【0021】
この発明の他の局面に従うと、ステッピングモータをマイクロステップ駆動させるモータ駆動制御装置の制御方法は、1マイクロステップ周期に含まれるPWM(Pulse Width Modulation)周期の回数を制御することを特徴とする。
【0022】
この発明のさらに他の局面に従うと、ステッピングモータをマイクロステップ駆動させるモータ駆動制御装置の制御プログラムは、1マイクロステップ周期に含まれるPWM(Pulse Width Modulation)周期の回数を制御するステップをコンピュータに実行させる。
【0023】
この発明のさらに他の局面に従うと、ステッピングモータをマイクロステップ駆動させるモータ駆動制御装置における、基本ステップ角の分割数の決定方法は、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数によって決まる電流波形に含まれる振動が、前記ステッピングモータの固有振動数に近似しないように、前記基本ステップ角の分割数を決定する。
【発明の効果】
【0024】
この発明によると、モータの振動または騒音への対策を図ることができるモータ駆動制御装置、モータ駆動制御装置の制御方法、モータ駆動制御装置の制御プログラム、および基本ステップ角の分割数の決定方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態の1つにおけるモータとモータ制御装置のブロック図である。
図2】ステッピングモータの回路構成を模式的に示す図である。
図3】モータ制御装置が行うステッピングモータの駆動処理を大まかに説明するフローチャートである。
図4】モータ制御装置が行うステッピングモータの駆動処理を従来技術と比較して説明する図である。
図5】従来技術におけるモータ制御装置が行うステッピングモータの駆動処理を説明するタイミングチャートである。
図6】本発明の実施の形態の1つにおけるモータ制御装置が行うステッピングモータの駆動処理を説明するタイミングチャートである。
図7】マイクロステップ駆動について説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明の実施の形態の1つにおけるモータとモータ制御装置のブロック図である。
【0027】
図1に示されるように、装置1は、モータ制御装置10と、ステッピングモータ20と、図示していないギアボックスと、これらを収納するケースとを有している。ステッピングモータ20は、例えば、A相及びB相の2相励磁で駆動される。ステッピングモータ20は、A相のコイル及びB相のコイル(図2に示す。)を有している。ステッピングモータ20は、モータ制御装置10から各相のコイルに駆動電力が供給されて駆動される。ステッピングモータ20は、例えば、車両に搭載される空調装置用のアクチュエータとして利用されることができる。ただし、ステッピングモータ20の用途はこれに限られるものではない。
【0028】
このように、ステッピングモータ20は、複数相のコイルを有する。モータ制御装置10は、各相のコイルの通電状態を制御する。また、モータ制御装置10は、基本ステップ角を細分化するマイクロステップ機能を有する。
【0029】
モータ制御装置10は、制御回路12と、駆動回路14とを有している。
【0030】
駆動回路14は、モータ駆動部142と、電流センサ144とを有している。駆動回路14は、ステッピングモータ20に駆動電力を供給し、ステッピングモータ20を駆動する。
【0031】
制御回路12は、CPU(中央演算処理装置;コンピュータの一例)122と、電流測定部124と、逆起電圧測定部126とを有している。制御回路12は、駆動回路14の制御を行うことで、ステッピングモータ20の駆動を制御する。本実施の形態において、制御回路12は、IC(集積回路)としてパッケージ化されている。
【0032】
モータ駆動部142は、ステッピングモータ20の各相のコイルに電圧を印加するモジュールである。モータ駆動部142には、CPU122から制御信号が送られる。モータ駆動部142は、制御信号に基づいて、電圧を印加する。本実施の形態では、駆動回路14とステッピングモータ20とは、A相の正極(+)、A相の負極(−)、B相の正極(+)、B相の負極(−)の4つのラインで接続されている。モータ駆動部142は、制御信号に応じて、これらの各ラインを介して、ステッピングモータ20に駆動電力を供給する。
【0033】
電流センサ144は、ステッピングモータ20の各相のコイルに流れる電流(コイル電流)をセンシングするモジュールである。電流センサ144は、コイル電流のセンシング結果を、電流測定部124に出力する。
【0034】
電流測定部124は、ステッピングモータ20のコイル電流を測定するモジュールである。電流測定部124には、電流センサ144から出力されたコイル電流のセンシング結果が入力される。電流測定部124は、入力されたセンシング結果に基づいて、コイル電流を測定する。電流測定部124は、コイル電流の測定結果を、CPU122に出力する。
【0035】
逆起電圧測定部126は、ステッピングモータ20の各相のコイルに誘起される逆起電圧を測定するモジュールである。本実施の形態において、逆起電圧測定部126は、駆動回路14とステッピングモータ20とを接続する4つのラインのそれぞれに接続されている。逆起電圧測定部126は、逆起電圧の測定結果を、CPU122に出力する。
【0036】
CPU122には、電流測定部124から出力されたコイル電流の測定結果と、逆起電圧測定部126から出力された逆起電圧の測定結果とが入力される。CPU122は、ステッピングモータ20に印加する電圧を制御するための制御信号を生成する。CPU122は、ステッピングモータ20を駆動するとき、コイル電流の測定結果に基づいて、制御信号を生成する。CPU122は、生成した制御信号を、モータ駆動部142に出力する。
【0037】
図2は、ステッピングモータ20の回路構成を模式的に示す図である。
【0038】
図2に示されるように、ステッピングモータ20は、2つのコイル21a,21bと、ロータ22と、複数のステータヨーク(図示せず)とを有している。
【0039】
コイル21a,21bは、それぞれ、ステータヨークを励磁するコイルである。コイル21a,21bは、それぞれ、駆動回路14に接続されている。コイル21aは、A相のコイルである。コイル21bは、B相のコイルである。コイル21a,21bには、それぞれ異なる位相のコイル電流が流される。
【0040】
ロータ22は、円周方向に沿って、S極22sとN極22nとが交互に反転するように多極着磁された永久磁石を備える。なお、図2においては、ロータ22は、S極22sとN極22nとが1つずつ設けられているように簡略化されて示されている。ステータヨークは、ロータ22の周囲に、ロータ22の外周部に接近して配置されている。ロータ22は、コイル21a,21bのそれぞれに流れるコイル電流の位相が周期的に切り替えられることで回転する。
【0041】
本実施の形態において、ステッピングモータ20が駆動されるとき、モータ駆動部142は、コイル21a,21bのそれぞれに、パルス幅変調されたパルス電圧を印加する。
【0042】
ステッピングモータ20は、以下のようにして駆動される。すなわち、コイル21aには、所定の周期でコイル電流Iaの極性(すなわち、コイル電流Iaの方向)が変わるように、パルス電圧が印加される(コイル電圧Va)。他方、コイル21bには、コイル21aと同一の周期で、パルス電圧が印加される(コイル電圧Vb)。コイル21bには、コイル電流Iaに対して所定の位相だけ遅れてコイル電流Ibの極性(すなわち、コイル電流Ibの方向)が変わるように、パルス電圧が印加される。
【0043】
コイル21a,21bにそれぞれコイル電流Ia,Ibが流れると、コイル電流Ia,Ibの極性に応じて、コイル21a,21bのステータヨークが励磁される。これにより、ロータ22が所定のステップ単位で回転する。
【0044】
図3は、モータ制御装置10が行うステッピングモータ20の駆動処理を大まかに説明するフローチャートである。
【0045】
このフローチャートでの処理は、CPU122によって実行される。CPU122は、その内部にCPUが実行するプログラムを記憶する不揮発記憶装置や、メモリを内蔵するマイクロコンピュータである。
【0046】
ステップS101において、CPU122は、PWMの周期(PWM基本周波数のPWM周期)を計算する。PWMの周期は、予め定数としてメモリしておいてもよい。ステップS103において、CPU122は、ステッピングモータ20の回転速度を計算する。例えば、360pps(pulse/sec)、480pps、640pps、800ppsなど、モータ回転速度が計算される。
【0047】
ステップS105において、CPU122は、電気角1周期(モータ駆動パルスの1周期)の1/(2^n)の期間(「2^n」は、2のn乗を示す。)に、PWMの1周期が3回入るかを判定する。nは、5、4、3、2、1の値が順に代入され、YESとなった時点で、ステップS107に移行する。これは、電気角1周期(モータ駆動パルスの1周期)をマイクロステップで分割するときに、電気角1周期中のマイクロステップの数(電気角1周期のマイクロステップによる分割数)を決定する処理である。ステップS105での処理は、電気角1周期中の1つのマイクロステップの周期にPWMの1周期を3回以上含め、かつ可能な限りマイクロステップの数を増やすものである。(2^n)は、電気角1周期の分割数である。nは、5、4、3、2、1の値が順に代入されるため、分割数は、32、16、8、4、2の順に選択されることとなる。CPUの演算が可能であれば、nは6以上から順に代入してもよい。また、分割数2での分割ができないときは、分割数を1としてもよい。
【0048】
また、図3のステップS105aに示されるように、n=6−iとし、iに1、2、3、4、5、6の数値を順に代入することで、ステップS105と同様の処理としてもよい。
【0049】
ステップS107において、電気角1周期(モータ駆動パルスの1周期)中に、(2^n)個のマイクロステップが入るように(電気角1周期の分割数が(2^n)となるように)、1マイクロステップの時間長さが設定され、モータの駆動が行われる。
【0050】
図4は、モータ制御装置10が行うステッピングモータ20の駆動処理を従来技術と比較して説明する図である。
【0051】
図4においては、モータの回転数が360pps(pulse/sec)、480pps、640pps、800ppsのそれぞれである場合における、電気角1周期(モータ駆動パルスの1周期)中に含まれるマイクロステップの数が示されている。「1マイクロステップにPWMが2回の場合」の列は、従来技術の制御を示している。従来技術においては、電気角1周期(モータ駆動パルスの1周期)中に含まれるマイクロステップの数は32であり、この数は、回転数が変わっても不変である。1マイクロステップ周期は2PWM周期程度にされているため、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期は、2回程度(またはそれ以下)となる。
【0052】
従来技術におけるマイクロステップを周波数で表すと、
・360ppsの場合:360×32=11.52kHz
・480ppsの場合:480×32=15.36kHz
・640ppsの場合:640×32=20.48kHz
・800ppsの場合:800×32=25.60kHz
となる。
【0053】
先ず、従来技術の問題点について説明する。
【0054】
図5は、従来技術におけるモータ制御装置が行うステッピングモータの駆動処理を説明するタイミングチャートである。
【0055】
図5において、横軸が時間を示し、上段から順に、モータコイルに流す電流の値、マイクロステップ周期、およびPWMのパルスの波形が示されている。従来技術においては、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期は、3回未満(図では約2.5回)となっている。
【0056】
PWM基本周波数は、前述のとおり25kHz(固定)とされている。また、特に小型のモータでは、使用されるヨークのサイズが小さくなる。このため、モータの固有振動数が高くなり、10kHz前後(例えば12.5kHzなど)に共振を持っている。従来技術では、1マイクロステップ周期にPWM周期が2回程度含まれることとなる。その結果、PWM周波数25kHzの倍成分である12.5kHzが電流に含まれることとなる。電流波形にモータの固有振動数に近似する高周波成分が含まれるため、共振現象が発生し、モータの振動、騒音が発生する。PWM基本周波数が25kHz以外であっても、特定の半波長が発生する場合は、同様の問題が発生する。
【0057】
図4の「1マイクロステップにPWMが3回の場合」の列は、本実施の形態の制御を示している。
【0058】
図3のフローチャートで示したように、本実施の形態におけるモータ制御装置は、モータの回転速度(1秒間に含まれる駆動パルス数)が変化しても、1マイクロステップ(電気角1周期(モータ駆動パルスの1周期)の1/(2^n))にPWMの1周期が3回入るように制御が行われる。これにより、モータの回転速度が早くなると、マイクロステップの分割数(2^n)が少なくされ、1マイクロステップの周期が長くなるよう制御が行われる。
【0059】
図4の本実施の形態におけるマイクロステップを周波数で表すと、
・360ppsの場合:360×16=5.76kHz
・480ppsの場合:480×16=7.68kHz
・640ppsの場合:640×8=5.12kHz
・800ppsの場合:800×8=6.40kHz
となる。いずれの速度の場合においても、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期は、3回以上となる。
【0060】
図6は、本発明の実施の形態の1つにおけるモータ制御装置10が行うステッピングモータ20の駆動処理を説明するタイミングチャートである。
【0061】
図6において、横軸が時間を示し、上段から順に、モータコイルに流す電流の値、マイクロステップ周期、およびPWMのパルスの波形が示されている。本実施の形態においては、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期は、3回以上(図では約3.5回)となっている。
【0062】
なお、PWM基本周波数f1と、モータの固有振動数f0と、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数(PWM基本周波数のパルス信号の個数)mとの関係は、以下の数式を満足するようにすることが好ましい。
【0063】
f0÷k≧f1/m
ここに、kは、モータの固有周波数に対するマージン係数であり、例えば、√2が使われる。kを1として演算してもよい。
【0064】
上式を変形すると、mの個数は、
m≧k×f1/f0
となるよう設定される。すなわち、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数がm以上となるよう制御する。本実施の形態では、PWM基本周波数f1=25kHz、モータの固有振動数f0=12.5kHzであるため、上式の右辺は、
1.4×25/12.5=2.8
となる。よって、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数(PWM基本周波数のパルス信号の個数)mは、2.8以上に設定されることが望ましいことがわかる。
【0065】
以上のように、本実施の形態では、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数が制御される。
【0066】
本実施の形態においては、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数によって決まる電流波形に含まれる振動が、ステッピングモータ20の固有振動数に近似しないように、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数が制御される。具体的には、PWM基本周波数÷(1マイクロステップ周期に含まれる)PWM周期の回数の高周波数成分がモータの固有振動数に近似しないように、PWM周期の回数が制御される(上述の実施の形態では、1マイクロステップ周期をPWM周期の回数3回分相当になるように変更することで、モータの固有振動数12.5kHzからピークをずらしている。理想的に1マイクロステップ周期がPWM周期の回数3回分となったとき、マイクロステップの周波数は、約8kHz=25kHz/3となる)。
【0067】
本実施の形態では、ステッピングモータ20の回転数に応じて、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数を変化させる機能を有する。具体的には、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数が、少なくとも上記の回数となるように、ステッピングモータ20の回転数に応じて、マイクロステップの分割数が調整される。すなわち、マイクロステップの分割数を調整することで、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数を制御する。
【0068】
なお、本実施の形態におけるステッピングモータ20をマイクロステップ駆動させるモータ駆動制御装置10の制御方法では、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数を制御する。
【0069】
また、本実施の形態におけるモータ駆動制御装置10の制御プログラムは、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数を制御するステップをコンピュータに実行させる。
【0070】
さらに、本実施の形態では、ステッピングモータ20をマイクロステップ駆動させるモータ駆動制御装置10における、基本ステップ角の分割数の決定方法として、1マイクロステップ周期に含まれるPWM周期の回数によって決まる電流波形に含まれる振動が、ステッピングモータ20の固有振動数に近似しないように、基本ステップ角の分割数を決定する。
【0071】
[本実施の形態における効果]
本実施の形態における効果は、以下の通りである。
【0072】
(1)電流波形にモータの固有振動数に近似する高周波成分が含まれないように制御を行うことができる。このため、電流波形に発生する周波数を共振周波数から遠ざけることができ、モータの共振現象の発生を防ぐことができる。その結果、モータの振動、騒音が低減する。
【0073】
(2)どの回転数においても(回転数が大きくなっても)、PWM周期の回数の調整を容易に実現することができる。
【0074】
(3)狙いの電流波形をPWMで実現するために、高周波のPWM信号を使用することが考えられる。本実施の形態のように、マイクロステップ数を制御し、1マイクロステップ周期に含まれるパルス信号の個数を変更することで、高周波のPWM信号を扱うための処理速度の速い高価なCPUは必要とせず、安価なCPUで実現可能である。
【0075】
[変形例]
モータの固有振動数は、上記のものに限定されるものではない。
【0076】
PWM周期の最低回数は、上述の実施の形態では3回であるが、これは、PWM基本周波数、モータ固有振動数などに応じて、変わるものである。
【0077】
PWM基本周波数は、上記のものに限定されない。また、回転数とマイクロステップ数との関係は、図4のものに限定されない。
【0078】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
10 モータ制御装置
12 制御回路
14 駆動回路
20 ステッピングモータ
21a,21b コイル
22 ロータ
22n N極
22s S極
122 CPU(中央演算処理装置;コンピュータの一例)
124 電流測定部
126 逆起電圧測定部
142 モータ駆動部
144 電流センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7