特許第6591497号(P6591497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591497
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】時計ムーブメント用コンポーネント
(51)【国際特許分類】
   G04B 13/02 20060101AFI20191007BHJP
   G04B 15/14 20060101ALI20191007BHJP
   G04B 17/06 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   G04B13/02 Z
   G04B15/14 Z
   G04B17/06 Z
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-138777(P2017-138777)
(22)【出願日】2017年7月18日
(65)【公開番号】特開2018-13483(P2018-13483A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2017年8月1日
(31)【優先権主張番号】16180226.9
(32)【優先日】2016年7月19日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】16190278.8
(32)【優先日】2016年9月23日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】17157065.8
(32)【優先日】2017年2月21日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル・フッシンガー
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・シャルボン
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・ヴェラルド
【審査官】 菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第3683616(US,A)
【文献】 スイス国特許発明第681370(CH,A5)
【文献】 特開2002−266078(JP,A)
【文献】 特開2016−33523(JP,A)
【文献】 特開2013−40934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 13/02
G04B 15/14
G04B 17/06
G04B 31/08
G04B 43/00
G04C 3/00
C23C 14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計ムーブメント用のピボット軸(1)であって、磁場に対する感受性を限定するために、第1の非磁性の金属素材(4)からなる少なくとも1つのピボット(3)を少なくとも1つの端部に備え、前記ピボット軸(1)は2mm未満の直径を持つ本体と、0.2mm未満の直径を持つ前記ピボット(3)とを有し、少なくとも前記ピボット(3)の外面は、NiおよびNiP、および好ましくは化学NiPを含む群から選択される第2の素材の層(5)によって被膜されることを特徴とする、ピボット軸(1)。
【請求項2】
請求項1に記載のピボット軸(1)であって、前記ピボット軸(1)は磁場に対する感受性を限定するために、第1の非磁性の金属素材からなり、前記外面はNiおよびNiP、および好ましくは化学NiPを含む群から選択される第2の素材の層によって被膜されることを特徴とする、ピボット軸(1)。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載のピボット軸(1)であって、前記第1の非磁性の金属素材(4)は、オーステナイト鋼、オーステナイトコバルト合金、オーステナイトニッケル合金、チタニウム合金、アルミニウム合金、銅および亜鉛系真ちゅう、ベリリウム銅、ニッケル銀、青銅、アルミニウム青銅、銅−アルミニウム、銅−ニッケル、銅−ニッケル−スズ、銅−ニッケル−ケイ素、銅−ニッケル−リン、銅−チタニウムを含む群から選択されることを特徴とする、ピボット軸(1)。
【請求項4】
前記第1の非磁性の金属素材(4)は600HV未満の硬度を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載のピボット軸(1)。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のピボット軸(1)であって、前記第2の素材の層(5)は、0.5μmから10μm、好ましくは1μmから5μm、およびより好ましくは1μmから2μmの厚さを有することを特徴とする、ピボット軸(1)。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のピボット軸(1)であって、前記第2の素材の層(5)は、400HVを超える硬度、好ましくは500HVを超える硬度を有することを特徴とする、ピボット軸(1)。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載のピボット軸(1)であって、前記第1の非磁性の金属素材(4)はベリリウム銅合金であり、前記第2の素材の層(5)は化学NiP層であることを特徴とする、ピボット軸(1)。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1つに記載のピボット軸(1)であって、前記第1の非磁性の金属素材(4)は銅−ニッケル−スズ合金であり、前記第2の素材の層(5)は化学NiP層であることを特徴とする、ピボット軸(1)。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1つに記載のピボット軸(1)であって、前記第1の非磁性の金属素材(4)はステンレス鋼であり、前記第2の素材の層(5)は化学NiP層であることを特徴とする、ピボット軸(1)。
【請求項10】
時計ムーブメントであって、前記ムーブメントは、請求項1〜9のいずれか1つに記載のピボット軸(1)を備えることを特徴とする、時計ムーブメント。
【請求項11】
時計ムーブメントであって、前記ムーブメントは、請求項1〜9のいずれか1つに記載のピボット軸(1)を備えるテン真、アンクル真および/またはガンギかなを備えることを特徴とする、時計ムーブメント。
【請求項12】
時計ムーブメント用のピボット軸(1)を製造する方法であって、
a)第1の非磁性の金属素材(4)からなる少なくとも1つのピボット(3)を1つの端部に備えるピボット軸(1)を形成するステップであって、前記ピボット軸(1)は2mm未満の直径を持つ本体と、0.2mm未満の直径を持つ前記ピボット(3)とを有する、前記ステップと、
b)第2の素材の層(5)を少なくとも前記ピボット(3)の外面に蒸着するステップであって、前記第2の素材はNiおよびNiPを含む群から選択されるステップと、
を含む、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、前記第2の素材の層(5)は、0.5μmから10μm、好ましくは1μmから5μm、より好ましくは1μmから2μmの厚さを示すように蒸着されることを特徴とする、方法。
【請求項14】
請求項12または13のいずれか1つに記載の方法であって、前記第2の素材の層(5)を蒸着するステップb)は、PVD、CVD、ALD、電気メッキおよび化学蒸着を含む群から選択される方法によって実現されることを特徴とする、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、前記第2の素材はNiPであり、前記NiP層(5)を蒸着する前記ステップは、次亜リン酸塩からの化学ニッケル蒸着プロセスによって生成されることを特徴とする、方法。
【請求項16】
請求項12〜15のいずれか1つに記載の方法であって、前記第2の素材はNiPであり、前記方法はさらに、ステップb)の後に、前記第2の素材の層(5)への熱処理ステップc)を含むことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は時計ムーブメント用コンポーネントに関し、具体的には機械式時計ムーブメント用の非磁性のピボット軸と、より具体的には非磁性のテン真、アンクル真およびガンギかなに関する。
【背景技術】
【0002】
時計用ピボット軸の製造は、棒材旋削作業を硬化可能な鋼製の棒材に実施して、様々な作用面(軸受面、肩部、ピボットなど)を画定することと、次に、棒材旋削加工した軸に熱処理作業を実施することを含む。熱処理作業には、軸の硬度を改善するための少なくとも1回の硬化作業と、強靭性を改善するための1または複数の焼き戻し作業を含む。熱処理作業の次に軸のピボットに圧延作業を実施する。この圧延作業はピボットを必要な寸法に研磨することからなる。ピボットの硬度および粗度は圧延作業中にさらに改善される。
【0003】
機械式時計ムーブメントにおいて従来用いられるピボット軸、たとえばテン真は、一般にはマルテンサイト炭素鋼である棒材旋削可能な鋼種からなり、加工性を高めるために硫化鉛および硫化マンガンを含む。20APと呼ばれるこの種類で既知の鋼が、このような用途のために一般に用いられる。
【0004】
この種類の素材は加工しやすいという有利点を有し、特に、棒材旋削に適しているという有利点を有し、硬化および焼き戻し後は、時計のピボット軸を作製するのに非常に有利な優れた機械的性質を有する。これらの鋼は、特に熱処理後に、高硬度を示し、非常に優れた衝撃抵抗を得ることができる。一般に、20AP鋼製の軸ピボットの硬度は、熱処理および圧延後に700HVを超えることもある。
【0005】
この種類の素材は、前述の時計としての用途に十分な機械的性質を提供するが、この素材は磁性であり、特に強磁性素材製のヒゲゼンマイと協働するテン真を作製するためにこの素材を使用すると、磁場にさらされた後で腕時計の動作が中断され得るという欠点を有する。この現象は当業者には周知である。これらのマルテンサイト鋼はまた、腐食しやすいことにも留意されたい。
【0006】
これらの欠点を克服するために、非磁性、つまり常磁性または反磁性または反強磁性であるという特性を有するオーステナイトステンレス鋼を用いる試みが行われてきた。ただし、これらのオーステナイト鋼は結晶構造を有するため、オーステナイト鋼を硬化することはできず、時計のピボット軸を作製するために必要な要件を満たすレベルの硬度ひいては衝撃抵抗レベルを実現することができない。得られた軸は、衝撃を受けると傷やひどい損傷を示すが、これらはムーブメントの時間測定に悪影響を与えることになる。これらの鋼の硬度を上げる1つの手段は冷間加工であるが、この硬化作業では500HVを超える硬度を実現することはできない。その結果として、高い衝撃抵抗を示すピボットを必要とする部品では、この種の鋼の使用は依然として限定されている。
【0007】
前述の欠点を克服しようとする別の手法は、特許文献1に記載されている。同手法によれば、ピボット軸はオーステナイトコバルトまたはニッケル合金からなり、一定の深さまで外面硬化されている。ただし、これらの合金はピボット軸を製造するための加工が困難であると証明されることもある。さらに、ニッケルおよびコバルトが高価であるため、このような合金は比較的高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願第2757423号
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、磁場に対する感受性を限定することと、時計産業で必要とされる摩耗衝撃抵抗の要求を満たすことが可能な機械的特性を得ることとを両立するピボット軸を提供することによって、前述の欠点を克服することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、簡単および経済的に製造可能な非磁性のピボット軸を提供することである。
【0011】
そのために、本発明は、第1の非磁性の金属素材からなる少なくとも1つのピボットを少なくとも1つの端部に備え、磁場に対する感受性を限定する時計ムーブメント用ピボット軸に関する。
【0012】
本発明によれば、少なくともピボットの外面はNi(ニッケル)およびNiP(ニッケル−リン)を含む群から選択される第2の素材の層で被膜される。
【0013】
その結果として、本発明によるピボット軸によって、磁場に対する低感受性と、少なくとも主要応力領域における優れた衝撃抵抗の有利点を組み合わせることが可能となる。そのため、衝撃を受けた際にも、本発明によるピボット軸は、ムーブメントの時間測定を損なう原因となる跡やひどい損傷を示さない。
【0014】
本発明の別の有利な特徴によれば、
−第2の素材の層は0.5μmから10μm、好ましくは1μmから5μm、より好ましくは1μmから2μmの厚さを有し、
−第2の素材の層は好ましくは、400HVを超える硬度、より好ましくは500HVを超える硬度を有し、
−第2の素材の層は好ましくは、化学NiP層、つまり化学蒸着によって得られる層である。
【0015】
さらに、本発明は、上記で画定したピボット軸を備える時計ムーブメントに関し、特に上記で画定した軸を備えるテン真、アンクル真および/またはガンギかなに関する。
【0016】
最後に、本発明は、以下のステップを備える上記で画定したピボット軸を製造する方法に関する。
a)第1の非磁性の金属素材からなる少なくとも1つのピボットを少なくとも1つの端部に備えるピボット軸を形成し、磁場に対する感受性を限定するステップと、
b)第2の素材の層をピボットの少なくとも外面に蒸着し、第2の素材はNiおよびNiPを含む群から選択されるステップ。
【0017】
本発明の別の有利な特徴によれば、
−第2の素材の層は、0.5μmから10μm、好ましくは1μmから5μm、より好ましくは1μmから2μmの厚さを示すようにステップb)で蒸着され、
−第2の素材はNiPであり、ステップb)は、次亜リン酸塩による化学ニッケル蒸着プロセスにおいてNiP蒸着からなる。
【0018】
その他の特徴および有利点は、非限定的例示として示される以下の説明から、添付図を参照して明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明によるピボット軸の描写である。
図2】本発明によるテン真ピボットの部分断面図である。
図3】衝撃プログラムを受けた未処理の高格子間鋼鉄(HIS)ピボット軸の写真である。
図4】本発明によるNiP層で被膜され、図3のピボット軸と同じ衝撃プログラムを受けたHISピボット軸の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において、「非磁性」という用語は、透磁率が1.01以下である常磁性または反磁性または反強磁性素材を意味する。
【0021】
ある元素の合金とは、少なくとも50重量%の当該元素を含有する合金である。
【0022】
本発明は時計ムーブメント用コンポーネントに関し、具体的には機械式時計ムーブメントの非磁性のピボット軸に関する。
【0023】
本発明を非磁性のテン真1に対する適用を参照して以下に説明する。もちろん、たとえば、時計のホイールセットの軸、一般にガンギかなまたはアンクル真などのその他の種類の時計のピボット軸を考察してもよい。この種類のコンポーネントは、数ミクロンの精度で、好ましくは2mm未満の直径を持つ本体と、好ましくは0.2mm未満の直径を有するピボットとを有する。
【0024】
図1を参照すると、本発明によるテン真1が示される。テン真1は異なる直径の複数の区分2を備える。区分2は、好ましくは棒材旋削または任意の別のチップ除去加工技法によって形成され、従来の方法で、2つのピボット3を画定する2つの端部部分の間に配置される、軸受面2aおよび肩部2bを画定する。これらのピボットはそれぞれ、一般に石またはルビーの穴内の軸受内で旋回することを目的とする。
【0025】
日常的に接触する物品が誘発する磁気に関して、テン真1の感受性を限定し、テン真1が組み込まれる時計の動作に悪影響を与えることを回避することが重要である。
【0026】
したがって、ピボット3は第1の非磁性の金属素材4からなり、それによって、有利には磁場に対する感受性を限定する。
【0027】
好ましくは、第1の非磁性の金属素材4は、オーステナイト、好ましくはステンレス鋼、オーステナイトコバルト合金、オーステナイトニッケル合金、非磁性のチタニウム合金、非磁性のアルミニウム合金、真ちゅう(Cu(銅)−Zn(亜鉛))または特殊真ちゅう(Al(アルミニウム)および/またはSi(シリカ)および/またはMn(マンガン)を含むCu−Zn)、ベリリウム銅、青銅(Cu−Sn(すず))、アルミニウム青銅、銅−アルミニウム(任意にNiおよび/またはFe(鉄)を含む)、銅−ニッケル、ニッケル銀(Cu−Ni−Zn)、銅−ニッケル−スズ、銅−ニッケル−ケイ素、銅−ニッケル−リン、銅−チタニウムを含む群から選択される。合金が非磁性の特性および優れた加工性の両方を持つように、様々な合金元素の比率を選択する。
【0028】
たとえば、オーステナイト鋼は、Energietechnik Essen GmbH製のCr−Mn−N P2000鋼などの高格子間ステンレスオーステナイト鋼である。
【0029】
オーステナイトコバルト合金は、少なくとも39%のコバルトを含有していてもよく、一般に「Phynox」という名称または参照番号DIN K13C20N16Fe15D7で既知の合金であり、一般に39%のCo(コバルト)、19%のCr(クロム)、15%のNiおよび6%のMo(モリブデン)、1.5%のMn(マンガン)、18%のFeを有し、残部は添加物である。
【0030】
オーステナイトニッケル合金は、少なくとも33%のニッケルを含有していてもよく、一般に参照番号MP35N(登録商標)として既知の合金であり、一般に35%のNi、20%のCr、10%のMo、33%のCoを有し、残部は添加物である。
【0031】
チタニウム合金は、好ましくは少なくとも85%のチタニウムを含有する。
【0032】
真ちゅうは合金CuZn39Pb3、CuZn37Pb2またはCuZn37を備えていてもよい。
【0033】
特殊真ちゅうは、合金CuZn37Mn3Al2PbSi、CuZn23Al3CoまたはCuZn23Al6Mn4Fe3Pbを備えていてもよい。
【0034】
ニッケル銀は、合金CuNi25Zn11Pb1Mn、CuNi7Zn39Pb3Mn2またはCuNi18Zn19Pb1を備えていてもよい。
【0035】
青銅は合金CuSn9またはCuSn6を備えていてもよい。
【0036】
アルミニウム青銅は、合金CuAl9またはCuAl9Fe5Ni5を備えていてもよい。
【0037】
銅−ニッケル合金は、合金CuNi30を備えていてもよい。
【0038】
銅−ニッケル−スズ合金は、合金CuNi15Sn8、CuNi9Sn6またはCuNi7.5Sn5(たとえばDeclaforの名称で市販)を備えていてもよい。
【0039】
銅−チタニウム合金は、合金CuTi3Feを備えていてもよい。
【0040】
銅−ニッケル−ケイ素合金は、合金CuNi3Siを備えていてもよい。
【0041】
銅−ニッケル−リン合金は、合金CuNi1Pを備えていてもよい。
【0042】
ベリリウム銅合金は、合金CuBe2PbまたはCuBe2を備えていてもよい。
【0043】
組成値は重量パーセントで与えられる。組成値の表示がない元素は、残部(大部分)であるか、または組成における割合が1重量%未満の元素である。
【0044】
非磁性の銅合金はまた、14.5%から15.5%のNi、7.5%から8.5%のSn、最大でも0.02%のPb(鉛)の重量成分パーセントを有し、残部がCuである合金であってもよい。このような合金はMaterion社からToughMet(登録商標)という商標で市販されている。
【0045】
もちろん、構成物質の割合が非磁性の特性および優れた加工性の両方をもたらすことを条件として、別の非磁性の銅合金を考案してもよい。
【0046】
第1の非磁性の金属素材は、一般には600HV未満の硬度を有する。
【0047】
本発明によれば、ピボット3の少なくとも外面はNiおよびNiPを含む群から選択される第2の素材の層5で被膜され、有利には、必要な衝撃抵抗を得られるような機械的性質を外面に提供する。
【0048】
第2の素材において、リン含有量は好ましくは、0%(この場合には、純Niが存在する)から15%からなっていてもよい。好ましくは、第2のNiP素材内のリンのレベルは、6%から9%の中間レベルであってもよく、または9%から12%の高レベルであってもよい。ただし、第2のNiP素材のリン含有量が低いことは極めて明らかである。
【0049】
さらに、第2の素材が中間レベルまたは高レベルのリンを含むNiPの場合は、第2のNiP素材の層は熱処理によって硬化されてもよい。
【0050】
第2の素材の層は、好ましくは、400HVを超える硬度、より好ましくは500HVを超える硬度を有する。
【0051】
特に有利な方法において、第2の非硬化NiまたはNiP素材の層は、好ましくは500HVを超えるが、600HVより低い硬度を有する。つまり、好ましくは500HVから550HVの硬度を備える。意外かつ予想外の方法で、第2の素材の層の硬度(HV)が第1の素材よりも低いことがあるにもかかわらず、本発明によるピボット軸は優れた衝撃抵抗を有する。
【0052】
熱処理によって硬化される場合は、第2のNiP素材の層は900HVから1000HVの硬度を有していてもよい。
【0053】
有利には、第2の素材の層は0.5μmから10μm、好ましくは1μmから5μm、より好ましくは1μmから2μmの厚さを有していてもよい。
【0054】
好ましくは、第2の素材の層はNiP層であり、より具体的には化学NiP層であり、つまり化学蒸着によって蒸着される。
【0055】
以下に関する組み合わせは特に好ましい。
−第1の非磁性の金属素材としてベリリウム銅合金、より具体的にはCuBe2Pb、と、第2の素材層5として化学NiP層。
−第1の非磁性の金属素材として銅−ニッケル−スズ合金、より具体的にはDeclaforまたはToughMet(登録商標)と、第2の素材層5として化学NiP層。
−第1の非磁性の金属素材としてステンレス鋼、より具体的には高格子間ステンレス鋼と、第2の素材層5として化学NiP層。
【0056】
その結果として、少なくともピボットの外面領域は硬化される。つまり、テン真1の機械的性質を大幅に変えずに、軸の残りの部分はほとんど変化されないか、まったく変化されないままである。このようなテン真1のピボット3の選択的硬化によって、磁場に対する低感受性、主要応力領域における非常に優れた衝撃抵抗が得られる機械的性質などの有利点を組み合わせることが可能となる。
【0057】
第2の素材の層の抵抗を改善するために、ピボット軸は、第1の素材と第2の素材の層との間に蒸着される少なくとも1つの接着副層を備えていてもよい。たとえば、具体的には、高格子間ステンレス鋼からなるピボット軸の場合は、金の副層および/または電気メッキされたニッケルの副層が第2の素材の層の下部に提供されていてもよい。
【0058】
本発明はまた、前述のテン真を製造する方法に関する。本発明の方法は有利には、以下のステップを備える。
a)好ましくは棒材旋削または任意の別のチップ除去加工技法によって、第1の非磁性の金属素材からなる少なくとも1つのピボット3をそれぞれの端部に備え、磁場に対する感受性を限定するテン真1を形成するステップと、
b)第2の素材の層5を少なくともピボット3の外面に蒸着するステップであって、第2の素材はNiおよびNiPを含む群から選択され、ピボットの機械的性質を改善して、少なくとも主要応力領域において適切な衝撃抵抗を得るステップ。
【0059】
好ましくは、第2の素材の層5は、0.5μmから10μm、好ましくは1μmから5μm、およびより好ましくは1μmから2μmの厚さを示すようにステップb)で蒸着される。
【0060】
有利には、第2の素材の層5を蒸着するステップb)は、PVD(物理蒸着法)、CVD(化学気相蒸着)、ALD(原子層蒸着)、電気メッキおよび化学蒸着を含む群から選択される方法によって、好ましくは化学蒸着によって実現されてもよい。
【0061】
特に好ましい実施形態では、第2の素材はNiPであり、NiP層5を蒸着するステップは次亜リン酸塩からの化学ニッケル蒸着プロセスによって製造される。
【0062】
次亜リン酸塩からの化学ニッケル蒸着に際して考慮すべき様々なパラメータは、たとえば堆積物内のリンのレベル、pH、温度、またはニッケル槽組成であり、当業者には既知である。たとえば、Y.Ben Amorらによる、Depot chimique de Nickel、 synthese bibliographique、Materiaux&Techniques102、101(2014)の刊行物を参照することができる。ただし、中間(6−9%)または高(9−12%)レベルのリンを含む市販の槽が好ましくは用いられることも留意されたい。ただし、リン含有量が低い、または純ニッケル槽も使用可能である。
【0063】
第2の素材が、好ましくは中間または高リン含有量を持つNiPである場合、本発明による方法はまた、蒸着ステップb)の後に、第2の素材の層5に対する熱処理ステップc)を備えていてもよい。このような熱処理によって、第2の素材の層5は、好ましくは900HVから1000HVの硬度を得ることが可能となる。
【0064】
化学ニッケル蒸着方法は、適切な蒸着をピーク効果なしで得ることができるため特に有利である。したがって、棒材旋削したピボット軸の寸法を予測し、第2の素材の層で被膜後に所望の形状を得ることが可能となる。
【0065】
化学ニッケル蒸着方法はまた、大量に適用できるという有利点を有する。
【0066】
第2の素材の層の抵抗を改善するために、本発明による方法はまた、蒸着ステップb)の前に、少なくとも1つの接着副層を第1の素材に適用するステップd)を備えていてもよい。たとえば、特に高格子間ステンレス鋼からなるピボット軸の場合は、金の副層および/または電気メッキされたニッケル副層を化学ニッケル蒸着の前に適用可能である。
【0067】
本発明によるピボット軸は、本発明にしたがって、ステップb)のみをピボットに適用して処理されたピボットを備えていてもよい。またはピボット軸は完全に第1の非磁性の金属素材からなっていてもよく、その外面は、ステップb)をピボット軸の全表面に適用することによって、第2の素材の層によって完全に被膜されていてもよい。
【0068】
既知の方法で、ピボット3は蒸着ステップb)の前後に圧延または研磨されて、ピボット3に必要な寸法および最終的な表面の仕上がりを実現してもよい。
【0069】
本発明によるピボット軸は、磁場に対する低感受性と、少なくとも主要応力領域における優れた衝撃抵抗の有利点を組み合わせる。そのため、衝撃を受けた際にも、本発明によるピボット軸は、ムーブメントの時間測定を損なう原因となる跡やひどい損傷を示さない。
【0070】
以下の実施例は範囲を限定せずに本発明を例示する。
【0071】
HISからなるピボット軸は既知の方法で作製される。未処理の軸は600HVの硬度を有する。
【0072】
これらのピボット軸のバッチは本発明の方法にしたがって処理され、ピボット軸は、市販の次亜リン酸塩からの化学ニッケルメッキ槽から得られる厚さ1.5μmのNiP層によって被膜される。
【0073】
本発明によるこれらのピボット軸は500HVの硬度を有する。
【0074】
すべてのピボット軸は、時計製作用の同一の標準衝撃プログラムを受ける。NiP層のない未処理の軸には、図3で示すように傷がついている。本発明によるNiP層で被膜した軸は、図4で示すように無傷である。本発明によるピボット軸は、磁場に対する低感受性と衝撃に対する優れた抵抗という有利点を組み合わせる。
【符号の説明】
【0075】
1 :テン真
2 :区分
2a :軸受面
2b :肩部
3 :ピボット
4 :金属素材
5 :第2の素材層
図1
図2
図3
図4