特許第6591551号(P6591551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6591551キャビティ壁を被覆するための方法および被覆システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591551
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】キャビティ壁を被覆するための方法および被覆システム
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/00 20060101AFI20191007BHJP
   G01B 11/12 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   F02F1/00 C
   G01B11/12 Z
   F02F1/00 G
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-537398(P2017-537398)
(86)(22)【出願日】2016年1月15日
(65)【公表番号】特表2018-510282(P2018-510282A)
(43)【公表日】2018年4月12日
(86)【国際出願番号】EP2016050777
(87)【国際公開番号】WO2016116367
(87)【国際公開日】20160728
【審査請求日】2018年6月29日
(31)【優先権主張番号】15151724.0
(32)【優先日】2015年1月20日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】15155746.9
(32)【優先日】2015年2月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516381459
【氏名又は名称】シュトゥルム マシーネン ウント アラゲンバウ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Sturm Maschinen− & Anlagenbau GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ヴィンマー
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ベルンヴィンクラー
(72)【発明者】
【氏名】マルク ケスティング
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ フェリンガー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング シュッツ
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0004255(US,A1)
【文献】 特開2010−209454(JP,A)
【文献】 特開2009−120941(JP,A)
【文献】 特開2008−240560(JP,A)
【文献】 特開2002−286137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00
G01B 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティ壁(2)、特にエンジンブロックのシリンダボア、を被覆するための方法であって、
− 被覆ランス(20)によって被覆(5)がキャビティ壁(2)に施され、
− 測定デバイス(10)によってキャビティ直径(D)が測定され、
− 第1のキャビティ(1)の少なくともいくつかの直径値(D1、D2)が前記第1のキャビティ(1)の複数の異なる高さにおいて前記測定デバイス(10)によって測定される、
方法において、
− 求められた前記直径値(D1、D2)に応じた厚さ(6)である可変厚の被覆(5)が同じ第1のキャビティ(1)の壁(2)に前記被覆ランス(20)によって施され、
− 前記いくつかの直径値(D1、D2)は、前記可変厚の被覆(5)が施される前の前記第1のキャビティ(1)において測定され、
− 前記第1のキャビティ(1)の特定の高さにおける前記可変厚の被覆(5)の厚さ(6)は、この高さにおいて事前に測定された直径値が大きいほど、厚くなるように選択されること、
を特徴とする方法。
【請求項2】
− 初めに、被覆(5)が施される前の前記第1のキャビティ(1)において、複数の異なる高さにおけるいくつかの直径値(D1、D2)が測定されることと、
− 前記被覆(5)が施される前の前記直径値(D1、D2)に応じて選択された高さ依存の厚さ(6)である前記可変厚の被覆(5)が同じ第1のキャビティ(1)に施されることと、
− その壁(2)に前記被覆(5)が施された後の前記第1のキャビティ(1)において、前記いくつかの直径値(D1、D2)が測定された複数の異なる高さと同一の高さにおけるいくつかの直径値(D3、D4)が測定されることと、
− 前記被覆(5)が施される前および施された後の前記直径値(D1、D2;D3、D4)間の差から高さ依存の被覆厚(6)が求められることと、
められた前記高さ依存の被覆厚(6)と所望の高さ依存の被覆厚との差が算出されることと、
前記第1のキャビティ(1)の壁(2)の被覆後に被覆される前記第1のキャビティ(1)とは別の第2のキャビティ(1A)の壁(2A)に被覆(5A)を施す際に、前記所望の高さ依存の被覆厚を有する可変厚の被覆が形成されるように、前記求められた前記高さ依存の被覆厚(6)に対して、算出された前記求められた前記高さ依存の被覆厚(6)と前記所望の高さ依存の被覆厚との差が考慮されることと、
を特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記可変厚の被覆(5)は、その可変厚(6)が前記複数の異なる高さにおける前記被覆(5)が施される前および施された後の前記直径値(D1、D2;D3、D4)の差を少なくとも部分的に補正するように、前記第2のキャビティ(1A)の壁(2A)に施されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記可変厚の被覆(5)は、被覆後のキャビティ(1)がほぼ一定のキャビティ直径(D)を有するように、前記キャビティ壁(2)に施されることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
複数の可変厚の被覆(5)がいくつかのキャビティ(1)のキャビティ壁(2)に施され、前記複数の可変厚の被覆(5)は、前記被覆後のいくつかのキャビティ(1)のキャビティ直径(D)が互いにほぼ一致するように、設計されることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記被覆ランス(20)の移動速度または粒子射出能力を変化させることで可変厚の被覆(5)が形成されることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
キャビティ壁(2)、特にエンジンブロックのシリンダボア、を被覆するための被覆システムであって、
− 被覆(5)をキャビティ壁(2)に施すための被覆ランス(20)と、
− キャビティ直径(D)を測定するための測定デバイス(10)と、
を有し、
電子制御手段が設けられ、前記電子制御手段は、
− 第1のキャビティ(1)の複数の異なる高さにおいて前記第1のキャビティ(1)の少なくともいくつかの直径値(D1、D2)を前記測定デバイス(10)によって記録すべく適合化された、
被覆システムにおいて、
前記電子制御手段が設けられ、前記電子制御手段は、
− 求められた前記直径値(D1、D2)に応じた厚さ(6)である可変厚の被覆(5)を同じ第1のキャビティ(1)の壁(2)に前記被覆ランス(20)によって施すべく、
適合化され、
− したがって、前記いくつかの直径値(D1、D2)は、前記可変厚の被覆(5)が施される前の前記第1のキャビティ(1)において測定され、
− したがって、前記可変厚の被覆(5)の厚さ(6)は、前記第1のキャビティ(1)の特定の高さにおいて事前に測定された直径値が大きいほど、その高さにおける厚さが厚くなるように選択される、
ことを特徴とする被覆システム。
【請求項8】
前記電子制御手段は請求項1〜の何れか一項に記載の方法を実施するべく適合化されることを特徴とする、請求項に記載の被覆システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の態様において、キャビティ壁、特にエンジンブロックのシリンダボア、を被覆するための方法に関する。
【0002】
本発明は、第2の態様において、キャビティ壁、特にエンジンブロックのシリンダボア、を被覆するための被覆システムに関する。
【背景技術】
【0003】
このような種類のエンジンブロックは、例えば、自動車の燃焼機関に使用可能である。エンジンブロックはいくつかのシリンダボアを備える。これらの寸法および壁性状は、燃焼機関のできる限り可能な効率を保証するために、精密な要件を満たす必要がある。この場合、シリンダボアは、一般に、丸い、特に円形の、横断面を有する円筒状キャビティと理解され得る。シリンダボアの内壁には、被覆が施される。この被覆は、その層厚に関する要件をできる限り可能な精度で満たす必要がある。
【0004】
このような被覆されたキャビティの性状は、一般的な方法で検査される。キャビティ壁、特にエンジンブロックのシリンダボア、を被覆するためのこのような方法では、被覆ランスによって被覆がキャビティ壁に施され、測定デバイスによってキャビティ直径が測定されるようになっている。
【0005】
したがって、キャビティ壁、特にエンジンブロックのシリンダボア、を被覆するための一般的な被覆システムは、被覆をキャビティ壁に施すための被覆ランスと、キャビティ直径を測定するための測定デバイスとを備えている。
【0006】
施された被覆がその後の検査にかけられる被覆システムが特許文献1から公知である。
特許文献2に被覆方法が記載されている。この方法においては、被覆された表面が測定され、対応する被覆データが標準被覆データと比較される。
特許文献3にも被覆方法が記載されている。シリンダボアの被覆前に、荒加工された表面と荒加工の品質管理のための表面とがボア内に形成されている。
特許文献4は、層厚測定が行われる被覆装置および被覆方法に関する。
特許文献5からは、エンジンシリンダの直径を求めるための測定装置および測定方法が公知である。
【0007】
公知の被覆システムの欠点は、被覆後のキャビティの実際の寸法が、多くの場合、目標値から不所望に大きなずれを示すことである。これらずれはせいぜい試験において確認できるが、防止はできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第199 34 991(A1)号
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2013 211 873(A1)号
【特許文献3】米国特許出願公開第2011/002377号
【特許文献4】独国特許出願公開第10 2010 025 277(A1)号
【特許文献5】国際公開第2009/152851(A1)号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一目的は、キャビティ壁をできる限り精確に被覆できる、キャビティ壁を被覆するための被覆システムおよび方法を提供することにあると考えることができる。
【0010】
この目的は、各独立請求項の主題によって、達成される。
【0011】
本発明による方法および本発明による被覆システムの有利な変形例は、従属請求項の主題であり、以下の説明に更に示されている。
【0012】
上記種類の方法においては、本発明によると、第1のキャビティの複数の異なる高さにおいて第1のキャビティの少なくともいくつかの直径値が測定デバイスによって測定される。その後、求められた直径値に応じた可変厚の被覆が第1または第2のキャビティの壁に被覆ランスによって施される。
【0013】
したがって、上記の被覆システムには、本発明によると、電子制御手段が設けられる。この電子制御手段は、
−第1のキャビティの複数の異なる高さにおいて第1のキャビティの少なくともいくつかの直径値を測定デバイスによって記録すべく、および
−求められた各直径値に応じた厚さである可変厚の被覆を第1または第2のキャビティの壁に被覆ランスによって施すべく、
適合化される。
【0014】
本発明の中心概念は、キャビティの直径測定が以降の被覆に影響を及ぼして以降の被覆を所望の結果により近づけるために使用されるという事実にあると見做し得る。これに対し、公知の被覆システムにおいては、被覆後のキャビティ壁の測定値は、通常、以降の被覆プロセスの改善のためというより、品質評価のためにのみ使用されている。
【0015】
基本的に、被覆付き中空体の製作においては、2種類の誤差が発生する。これら誤差の一方または両方は、本発明によって好都合に低減可能である。一方では、被覆前のキャビティ直径が所望の直径からずれていることがある。特に、キャビティ直径は、キャビティの全高にわたって不所望に変動していることがある。この望ましくないずれは、施された被覆がその厚さに如何なる誤差も示さず、キャビティの全高にわたって精確に一定の厚さを有する場合でも、そのまま残る。
【0016】
また、被覆付き中空体の製作において発生する第2の誤差は、施された被覆の厚さが所望の厚さからのずれを全体的に示すことである。特に、被覆厚の望ましくない変動がキャビティの全高にわたって生じることがある。これは、特に、被覆を施している際の空気の渦に起因し得る。このような空気の渦は、例えば、被覆プロセス中の排気によって引き起こされ得る。
【0017】
好都合なことに、上記誤差の両方または少なくとも一方は、本発明によって低減可能である。例えば、高さ依存のキャビティ直径を被覆前に検出でき、所望のキャビティ直径からのずれを算出できる。その後に施される被覆は、このずれが少なくとも部分的に、好ましくは完全に、補正されるように、形成される。
【0018】
代わりに、または加えて、被覆が施された後にも、高さ依存の直径の測定を行うことができる。これにより、施された被覆の所望の被覆からのずれを求めることができる。その後、次のキャビティ壁の被覆においては、上記ずれが少なくとも部分的に、好ましくは完全に、補正されるように、施される被覆を形成できる。
【0019】
したがって、本発明による被覆プロセスの制御は、調整ともなり得る。この調整において、被覆が施された後のキャビティ直径は調整変数、すなわち修正変更対象の変数、である。このキャビティ直径は測定され、所望値との差が算出される。次に、この差に基づき、修正変数が算出される。この場合の修正変数は、(以降のキャビティ壁に)施される被覆の高さに依存する厚さである。
【0020】
被覆が施される前にのみ第1のキャビティの直径値が複数の異なる高さで測定される場合は、これら直径値は、同じ(第1の)キャビティの壁に施される可変厚の被覆に影響を及ぼすために使用される。ただし、被覆が施された後、または施される前および施された後の両方に、複数の直径値が測定される場合は、これら直径値は、以降の(第2の)キャビティの壁に施される可変厚の被覆に影響を及ぼすために使用され得る。
【0021】
被覆ランスとは、この場合、被覆対象のキャビティ内に移動させることができ、その後に被覆粒子をキャビティ壁の方向に放出できる任意の手段と理解され得る。被覆ランスは、特に、被覆ランスの長手方向に対して横方向に、特に垂直方向に、向いた吐出口を有する細長い形状を有し得る。射出される被覆粒子は、特に、プラズマジェットで移送される金属粒子を含む。被覆中、被覆ランスが回転し、高さが調整されるようにすることができる。
【0022】
測定デバイスは、原則として、キャビティ直径を求めるための任意の種類のセンサを1つまたはいくつか有し得る。測定デバイスは、高さに応じて、すなわち、キャビティの長手方向軸線に沿って複数の異なる高さにおいて、キャビティ直径を測定可能であることが必須である。基本的には、キャビティ壁までの距離を測定する単一の距離測定センサで十分であり得る。その後、この距離から直径を算出できる。ただし、このアプローチは、測定デバイスがキャビティ内の中心に移動されず、中心軸線から逸れた場合は、相対的に不正確である。このような場合でも直径を精確に求められるようにするために、少なくとも3つの距離測定センサが設けられることが好ましい。特に、これら距離測定センサは、例えば三角測量の原理に従って、距離を光学的に測定できる。これらセンサは、それぞれの測定方向が測定デバイスの長手方向軸線に対して横または垂直方向に、且つ長手方向軸線周りにそれぞれ異なる角度で、延びるように、測定デバイス上に配置させることができる。これらセンサは、キャビティ壁までの距離をそれぞれの測定方向に測定する。測定デバイスがキャビティの中心軸線から逸れている場合、これらセンサのうちの1つは他より短い距離を測定し、これらセンサのうちの別のセンサは他より長い距離を測定する。これにより、ずれを算出でき、キャビティ直径を精確に求めることができる。
【0023】
可変厚の被覆とは、この場合、被覆が施されるキャビティの壁の特に全高にわたって、被覆の厚さが一定ではなく、変化することと理解され得る。
【0024】
本発明の意味の範囲内においては、キャビティの直径がこれら測定値からずれ得る場合でも、これら測定値はキャビティの直径に相当すると見做されるものとする。これら測定値は、検査された高さにおけるキャビティの、特に、半径、円周、または断面を含む。高さは、常態で円筒形状または少なくとも規則正しい形状を有するキャビティの長手方向軸線に沿っていると理解されるものとする。記載のように、円筒形状には望ましくないずれが存在し得る。その結果、例えば、円錐状シリンダ、または一定の円形断面を有するが、その直径が全高にわたって変化する、特に不規則性を有する、シリンダ、になり得る。
【0025】
好適な一方法変形例においては、第1のキャビティの壁に被覆が施される前に、第1のキャビティのいくつかの直径値が測定される。その後、同じ第1のキャビティ、すなわち、いくつかの直径値が測定されたキャビティ、に可変厚の被覆が施される。
【0026】
代わりに、または加えて、第1のキャビティの壁に被覆が施された後で、第1のキャビティのいくつかの直径値が測定されるようにすることもできる。第1のキャビティの壁の被覆後に被覆される第2のキャビティの壁に可変厚の被覆を施すことができる。この場合、原則として、第1のキャビティの壁の被覆を一定厚で行うこともできるが、上記のように、被覆前のキャビティの直径に応じた厚さで行えることが好ましい。
【0027】
特定の高さにおいて予め測定された直径値が大きいほど、その高さにおける可変厚の被覆の厚さとしてより大きい値が選択されると好都合であり得る。したがって、被覆が他より厚くなる部分は、被覆前のキャビティの、または(後でより詳細に説明する)既に被覆された別のキャビティの、直径、すなわち内径、が他より大きい部分である。好都合なことに、これにより、被覆後、キャビティの全高にわたってできる限り一定の直径の実現が保証される。
【0028】
この可変厚の被覆は、その可変の厚さが直径値の差を少なくとも部分的に、好ましくは完全に、補正するように、施されることが好ましい。部分的な補正とは、被覆後のキャビティの全高にわたる直径差が、同じキャビティに一定厚の被覆が施された場合に比べ、小さくなることと理解されるものとする。完全な補正とは、被覆前のキャビティの直径値とこの高さにおける被覆厚との合計が全ての高さにおいて同じ値になることと理解され得る。換言すると、この場合、被覆後のキャビティはその全高にわたって同じ直径を有する。すなわち、被覆後のキャビティがほぼ一定のキャビティ直径を有するように、可変厚の被覆がキャビティ壁に施される。連続して被覆された複数のキャビティは、被覆前のそれぞれ異なる直径が補正され、被覆後のこれら複数のキャビティがほぼ等しいキャビティ直径を有するように、それぞれの被覆厚が異なり得る。
【0029】
測定された複数の直径値への可変厚の被覆の依存性とは、測定された複数の直径値から導出された複数の値への依存性と見做すこともできる。特に、これら値は、第1のキャビティにおける高さ依存の複数の被覆厚とすることができる。これら高さ依存の被覆厚は、同じキャビティにおいて被覆を施す前および施した後に複数の直径値を測定し、被覆を施す前および施した後の直径値間の差を求めることによって、求めることができる。
【0030】
これらの特徴を実現するために、
−被覆が施される前および施された後の第1のキャビティの複数の異なる高さにおいて第1のキャビティのいくつかの直径値が測定デバイスによって記録され、
−被覆が施される前および施された後のこれら直径値から、高さ依存の被覆厚が求められ、
−この求められた高さ依存の被覆厚に応じた厚さである可変厚の被覆が第2のキャビティの壁に被覆ランスによって施されるように、被覆ランスが作動される、
ようにすることができる。
【0031】
この実施形態では、実際の被覆厚が意図された、または所望の、被覆厚から通常はずれるという問題に対応する。このずれを確認して考慮に入れることができる。例えば、特定の高さにおける実際の被覆厚がその高さにおける意図された被覆厚より小さいことを測定値が示す場合は、以降の(特に第2の)キャビティのためにより大きな被覆厚が選択される。この手順を繰り返すことができる。すなわち、この高さにおける被覆厚が依然として十分な厚さでない場合は、次のキャビティのためにこの高さにおける被覆厚が再び増加されることになる。
【0032】
本発明の好適な一変形例においては、上記実施形態のいくつかが組み合わされる。特に、被覆前のキャビティの複数の直径値に応じて、更には直前に検査された被覆済みキャビティの複数の直径値に応じて、高さ依存の被覆を選択することも考えられる。好適な一変形例は、以下のステップを含む。
【0033】
初めに、被覆が施される前の第1のキャビティにおいていくつかの直径値が測定される。その後、この同じ第1のキャビティに可変厚の被覆が施される。その際、その高さ依存の厚さは、被覆が施される前の第1のキャビティの複数の直径値に応じて選択される。次に、上記被覆がその壁に施された後の第1のキャビティにおいていくつかの直径値が測定される。被覆が施される前および施された後の複数の直径値から、高さ依存の被覆厚が求められる。求められた高さ依存の被覆厚と所望される高さ依存の被覆厚との差が算出される。この差は、以降のキャビティ壁に被覆を施す際に考慮される。特に、以降のキャビティ壁における被覆の厚さは、これら方法ステップが繰り返し実施されるたびに上記の差が減るように、選択される。
【0034】
原則として、可変厚の被覆は、任意に選択された方法で形成され得る。周知の被覆ランスを本発明のために簡単に使用できるようにするために、被覆ランスの移動速度または粒子射出能力を変化させることが好ましい。
【0035】
追加の装置特徴として記載されている本発明の特徴は、本発明による方法の変形例として見做される。また、この逆も成り立つ。より具体的には、本発明による被覆システムの複数の好適な実施形態において、電子制御手段は、上記ステップのうちの1つまたはいくつかを実施するべく、すなわち、特に、被覆ランスおよび測定デバイスを相応に作動させるべく、適合化される。
【0036】
本明細書の範囲内において、「キャビティ壁」および「キャビティの壁」などの用語は同意語と見做されるものとする。同じことは、「キャビティ直径」および「キャビティの直径」などの用語対にも当てはまる。
【0037】
以下においては、添付の図面を参照して、本発明の更なる利点および特徴を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】被覆前のキャビティ内の本発明による被覆システムの測定デバイスの図である。
図2】本発明の方法により被覆されたキャビティ内の本発明による被覆システムの被覆ランスの図である。
図3】被覆後のキャビティ内の本発明による被覆システムの測定デバイスの図である。
図4】本発明の方法により被覆されたキャビティの図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
同一の構成要素および同じ作用を有する構成要素は、各図において一般に同じ参照符号で示されている。
【0040】
図1は、本発明による被覆システムの一実施形態の測定デバイス10を模式的に示す。測定デバイス10は、キャビティ1内に移動されている。キャビティ1は、特にエンジンブロックのシリンダボア1とすることができる。
【0041】
このキャビティの側壁2は、例えばエンジン効率を向上させ得る所望の壁性状を実現できるように、被覆されるべきである。
【0042】
側壁2は、キャビティ1の側面によって形成される。この場合、側壁2は「壁2」とも略称される。
【0043】
壁2の被覆前、測定デバイス10を用いてキャビティ1の直径Dが求められる。この目的のために、測定デバイス10は、特にセンサ11および12を備える。例えば粗さに関する、壁性状の追加試験のために更なる測定手段13を存在させることもできる。
【0044】
測定デバイス10は、検査対象のキャビティ1内に移動可能であるように、細長い本体を有する。センサ11および12は、距離測定センサとして形成されることが好ましい。センサ11および12は、壁2までのそれぞれの距離を求める。これら距離から直径Dを導出できる。好ましくは3つの距離測定センサが存在するが、そのうちの2つのセンサ11および12のみが図示されている。したがって、直径Dを高精度で求めるために、測定デバイス10をキャビティ1内の中心に移動させる必要がない。
【0045】
より高い測定精度のために、細長い測定デバイス10の長手方向軸線に垂直な平面においてセンサ11および12を調整できると都合がよい。これにより、センサ11および12を壁2に更に近づけることができる。
【0046】
その結果、高精度センサ11および12の使用が可能になる。ただし、センサ11および12の測定範囲は相対的に小さい。したがって、距離測定のために、センサ11および12を壁2に近づける必要がある。
【0047】
一般に、キャビティ1の実際の直径Dは、目標直径値からのずれを示す。更に、直径Dは、望ましくない高さ依存性を示し得る。すなわち、この直径は、キャビティ1の全高にわたって複数の異なる値を有する。より良い視認性のために、これは図1に一定比例の縮尺で表されていない。
【0048】
直径Dの高さ依存性を検出するために、測定デバイス10はその高さが調整され、複数の異なる高さについていくつかの直径値D1およびD2を記録する。
【0049】
高さ依存の直径Dについての情報は、次に、壁2に対する以降の被覆において使用できる。
【0050】
これについて、図2を参照して説明する。図2は、図1のキャビティ1を示す。この場合、模式的に示されている被覆ランス20によって被覆5が壁2に施されている。
【0051】
被覆ランス20は吐出口21を有し、ここから被覆粒子が壁2の方向に射出される。特に、金属粒子をプラズマジェットで放出できる。
【0052】
従来、目標の被覆厚は、キャビティの全高にわたって一定の値を有するものであった。ただし、このような被覆では、被覆後のキャビティの内径の望ましくない高さ依存性が依然として存在することになる。これに対し、本発明によると、キャビティ1の全高にわたって厚さ6が変化する可変厚の被覆5が形成される。この厚さの変化は、被覆前のキャビティ1の事前に求められた直径値D1およびD2に応じて選択される。特に、図2に示されているように直径D1およびD2間の差が補正されるように、厚さの変化を精確にもたらすことができる。その結果、キャビティ1の全高にわたって一定の直径D3およびD4が実現される。
【0053】
したがって、キャビティ1の内径Dの高さ依存性を減らす、更には完全に排除する、ために、直径測定を好都合に使用できる。
【0054】
高さ依存性に加え、被覆後のキャビティの目標直径値からのずれを求めることもできる。このために、被覆前のキャビティ1の直径値D1およびD2の各々について目標値との差がそれぞれ算出される。次に、複数の異なる高さにおいて上記のそれぞれの差に精確に等しくなるように、被覆の厚さ6が選択される。
【0055】
被覆後のキャビティ1の内径Dに影響を及ぼす誤差は、被覆プロセスに起因することもある。一般に、実際の被覆厚6は、予め定められた所望の被覆厚からずれる。これは、例えばキャビティ1内の空気流に起因し得る。
【0056】
この問題は、図3に示されている。この図は、被覆後のキャビティ1を示している。この被覆後のキャビティ1の直径Dは、望ましくない高さ依存性を示す。記載のように、これは、被覆前のキャビティ1の直径が(図3の場合のように)一定値であるか、または(図1および図2の場合のように)高さ依存性を示しているかに拘らず、発生し得る。
【0057】
そこで、被覆後のキャビティ1の高さ依存の直径D(すなわち、被覆5によって包囲された自由空間の直径)が測定デバイス10によって複数の異なる高さで測定される。一例として、直径D3およびD4は、それぞれ異なる高さに示されている。
【0058】
これら値についての情報は、実際の被覆厚6が所望の被覆厚からどれだけずれているかに関する情報をもたらす。この目的のために、同じキャビティ1の被覆前の直径値D1およびD2と被覆後の直径値D3およびD4とを測定でき、その差を求めることによって実際の被覆厚6を算出できる。
【0059】
実際の被覆厚6と所望の被覆厚との比較は、後続キャビティに対する以降の被覆プロセスを制御するために使用できる。
【0060】
図3は、第1の被覆5を有する第1のキャビティ1を示す。図4には、第2の被覆5Aがその壁2Aに施された以降の(第2の)キャビティ1Aが示されている。被覆5Aを施す際、第1のキャビティ1の実際の被覆厚6と所望の被覆厚との上記の比較が考慮される。特に、第1のキャビティ1への実際の被覆厚6が薄すぎた高さにおいては、より厚い被覆5Aが第2のキャビティ1Aに形成されるように、被覆ランス20を作動させることができる。
【0061】
これにより、所望の被覆厚からの実際の被覆厚の望ましくないずれを回避できるので好都合である。
【0062】
特に精確な結果の実現が可能になるのは、一方では上で概説した(図3および図4を参照して説明した)先行キャビティの実際の被覆厚と所望の被覆厚との比較に応じて、他方では(図1および図2を参照して説明した)現在の被覆対象であるキャビティの被覆前の高さ依存の直径値に応じて、可変厚の被覆が選択される場合である。これにより、被覆後のキャビティの直径が前記キャビティの全高にわたって所定の、特に一定の、値を精確に取るという成果をもたらすことができる。
図1
図2
図3
図4