(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
磁場によって電気抵抗が変化する磁気抵抗効果素子として、TMR(Tunnel Magneto Resistance)効果を利用して情報の記憶や磁気の検出を行うTMR素子(MTJ素子ともいう)が知られている。近年、MRAM(Magnetic Random Access Memory)等へのMTJ素子の利用が期待されている。
【0003】
特許文献1には、MTJ素子およびその製造方法が開示されている。MTJ素子は、フリー層(磁化自由層)、トンネルバリア層、およびリファレンス層(磁化固定層)が積層された構造を含み、フリー層およびリファレンス層の磁化方向はそれぞれ積層方向と平行になっている。
【0004】
MTJ素子を用いたMRAMデバイスの特性の向上のためには、MR比(磁気抵抗比)を高くすることが重要である。特許文献1に記載のCoFeB/MgO/CoFeBからなる積層構造は100%を超える高いMR比を示すことが知られている。
【0005】
特許文献1に記載された技術を用いたMTJ素子は、ボトムピン構造のMTJ素子である。特許文献1のMTJ素子は、リファレンス層(磁化固定層)としてのCoFeB層、フリー層(磁化自由層)としてのCoFeB層、およびリファレンス層とフリー層との間に挟まれたトンネルバリア層としてのMgO層を備えている。MgO層(トンネルバリア層)は、Mg成膜を行った後に該Mg膜を酸化処理することで形成されている。また、MgO層のフリー層(磁化自由層)側には、MgO層からフリー層への酸素の拡散を防ぐために、Mg層がMgO層の上にさらに成膜されている。MgO層のフリー層(磁化自由層)側に形成された該Mg層をMgキャップという。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同じ機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0014】
図1は、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の成膜処理を行う基板処理システム10の概略構成図である。基板処理システム10は、クラスタ型の真空処理装置であり、搬送チャンバ11と、複数の処理チャンバA〜Fと、ロードロックチャンバ15、16と、搬送装置12、13とを備えている。搬送チャンバ11には、複数の処理チャンバA〜F、ロードロックチャンバ15、16がゲートバルブを介して接続されている。成膜処理が行われる基板は、搬送チャンバ11内に設けられた搬送装置12、13によって、ロードロックチャンバ15、16および各処理チャンバA〜Fの間で所定の処理順に従って搬送される。ロードロックチャンバ15、16の外側(搬送チャンバ11に接続されていない側)には、基板処理システム10に対して基板を供給・排出するためのオートローダ(不図示)が設けられている。
【0015】
処理チャンバAは、スパッタリング成膜を行うチャンバであり、成膜に用いるターゲット電極、成膜の際に基板を載置する基板ホルダを備えている。処理チャンバAは、Mgキャップとフリー層(磁化自由層)の成膜を行うことが可能である。ターゲット電極には、MgターゲットとCoFeBターゲット、もしくはMgターゲットとCoFeターゲットが備えられている。処理チャンバAについては
図2に基づいてさらに説明する。
【0016】
処理チャンバBは、プラズマエッチングチャンバであり、放電ガス(Arガス)の導入装置、放電ガスをプラズマ化する放電電極、エッチングの際に基板を載置する基板ホルダを備えている。処理チャンバBは、プラズマエッチングで基板のクリーニングを行うことが可能である。
【0017】
処理チャンバCは、熱処理チャンバであり、基板の加熱に用いる加熱装置、基板の冷却に用いる冷却装置、加熱および冷却の際に基板を載置する基板ホルダを備えている。処理チャンバCは、MgO層の熱処理を行うことが可能である。
【0018】
処理チャンバDは、スパッタリング成膜を行うチャンバであり、成膜に用いるターゲット電極、成膜の際に基板を載置する基板ホルダを備えている。処理チャンバDは、ピンド層(Pinned Layer)、リファレンス層(Reference Layer)、中間層(Inter Layer)の成膜を行うことが可能である。ターゲット電極には、ピンド層の成膜用としてCoFeターゲット、中間層の成膜用としてRuターゲット、リファレンス層の成膜用としてCoFeBターゲットが備えられている。
【0019】
処理チャンバEは、スパッタリング成膜と酸化処理を行うチャンバであり、成膜に用いるターゲット電極、成膜の際に基板を載置する基板ホルダ、酸化処理に用いる酸素導入装置を備えている。ターゲット電極には、Mgターゲットが備えられている。処理チャンバEは、MgO層を成膜することが可能である。
【0020】
処理チャンバFは、スパッタリング成膜を行うチャンバであり、成膜に用いるターゲット電極、成膜の際に基板を載置する基板ホルダを備えている。ターゲット電極には、Ta、Ru、IrMn、CoFeB、NiFeターゲットが備えられている。処理チャンバFは、バッファー層(Buffer layer)としてTa/Ru、反強磁性層(Pinning layer)としてIrMn、フリー層(Free Layer)としてCoFeB/NiFe、キャップ層(Cap Layer)としてRu/Taの成膜を行うことが可能である。
【0021】
図2は、本実施形態に係る処理チャンバAの概略構成図である。処理チャンバAは、真空排気できる容器30内に、ターゲット電極(カソード電極)41、42、ターゲット44、45、基板ホルダ31、基板Wを抑えるリング37を備えている。例えば、ターゲット44はMgターゲットであり、ターゲット45はCoFeB、CoFe等の磁性材料ターゲットである。基板ホルダ31の上面(基板載置面)は、基板Wを載置した状態で、基板Wの裏側との間に隙間35が形成されるような形状になっている。
【0022】
基板ホルダ31の内部には、冷却ガスを隙間35に導入するガス導入ライン33が設けられている。冷却ガスには、ArまたはHeを用いることができる。容器30は、ゲートバルブ51を介して搬送チャンバ11に接続されている。搬送装置12は、ゲートバルブ51を介して基板Wを基板ホルダ31上に載置できるように構成されている。
【0023】
基板ホルダ31の隙間35に面した部分(冷却面31a)は、不図示の冷却装置によって冷却されている。冷却装置には、液体窒素などの冷媒循環、GM(Gifford-McMahon)クーラーなどの公知の冷却手段を採用することができる。基板ホルダ31は、隙間35に冷却ガスを導入することで、冷却ガスの熱交換作用によって基板Wを冷却することができる。また、基板ホルダ31は、隙間35から冷却ガスを排出することもできる。隙間35に冷却ガスを導入しない状態では、冷却面31aを冷却しても冷却面31aと基板Wとの間で熱交換する冷却ガスがないため基板Wの冷却が行われない。すなわち、隙間35に冷却ガスを導入しないで行う処理では、基板Wの温度は室温のままである。以降の説明において、冷却面31aを冷却し、隙間35に冷却ガスを導入する状態を冷却モードといい、冷却面31aを冷却するしないに関わらず、隙間35に冷却ガスを導入しない状態を非冷却モードという。基板ホルダ31は、冷却モードと非冷却モードのうちの何れかのモードを選択することができる。
【0024】
図3は、本実施形態に係る成膜処理を行う例示的なMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子100の構成を示す模式図である。MTJ素子100は、例えばMRAM、磁気センサ等に用いられる。
【0025】
MTJ素子100は、ボトムピン構造のMTJ素子である。MTJ素子100は、基板101上に下部電極102と、Ta/Ru層からなるバッファー層103を備える。さらに、MTJ素子100は、バッファー層103の上に、反強磁性材料であるIrMnからなるピンニング層104、強磁性材料であるCoFeからなるピンド層105を備える。
【0026】
MTJ素子100は、ピンド層105の上に、Ruからなる中間層106、強磁性材料であるCoFeBからなるリファレンス層107を備える。ピンド層105は、中間層106を介してリファレンス層107と磁気的な結合をしているシンセティック反平行ピンド層である。さらに、MTJ素子100は、リファレンス層107の上に、トンネルバリア層108、CoFeB、CoFe、NiFeを含む多層膜からなるフリー層109、キャップ層110、上部電極111を備える。
【0027】
トンネルバリア層108は、MgO層108aとMgキャップ108bとで構成される。Mgキャップ108bは、MgO層108aのフリー層109側に形成されている。MgO層108aは、Mg成膜と酸化処理を繰り返すことで形成される。Mgキャップ108bは、MgO層108aからフリー層109への酸素の拡散を防ぐ効果を有している。
【0028】
フリー層109は、第1のフリー層109aと第2のフリー層109bとで構成されている。第1のフリー層109aと第2のフリー層109bは、同じ成分または同じ機能を有しているが、後に述べるように、第1のフリー層109aを成膜する温度と第2のフリー層109bを成膜する際の温度は、異なっている。
【0029】
なお、MTJ素子100としては本実施形態に示した構成に限られず、MgO層にMgキャップを有する構成であれば、MTJ素子の機能を損なわない範囲で層の増減、各層の構成材料の変更、上下の積層順の逆転等の任意の変更を行った構成であっても良い。
【0030】
図4Aは、本実施形態に係るMTJ素子100の製造方法を示すプロセスチャートである。MTJ素子100は、
図1に示すクラスタ型の基板処理システム10を用いて製造され、Mgキャップ108bは、
図2に示す処理チャンバA内で形成される。
【0031】
まず、基板処理システム10は、ロードロックチャンバ15または16に搬入された基板Wを処理チャンバBに移動する。基板処理システム10は、処理チャンバB内で、エッチング処理を行う(エッチング工程)。エッチング処理では、エッチング法によって基板Wの表面に付着した不純物等を除去する。
【0032】
次に、基板処理システム10は、処理チャンバFに基板Wを移動する。基板処理システム10は、処理チャンバF内で、バッファー層103を成膜し、続いて、ピンニング層104を成膜する(ピンド層成膜工程)。
【0033】
次に、基板処理システム10は、処理チャンバDに基板Wを移動する。基板処理システム10は、処理チャンバD内で、ピンド層105、中間層106を成膜し、さらにリファレンス層107としてのCoFeB層を成膜する(リファレンス層成膜工程)。
【0034】
次に、基板処理システム10は、処理チャンバEに基板Wを移動する。基板処理システム10は、処理チャンバE内で、MgO層108aを成膜する(MgO層成膜工程)。MgO層108aは、スパッタリングによるMgの成膜と酸素導入によるMg層の酸化処理を繰り返すことで形成する。Mg成膜と酸化処理の繰り返し数は任意であるが、本実施形態では2回とする。また、本実施形態ではMgO層108aの最初のMg成膜を行う前に酸素導入(前酸化処理)を行っている。前酸化処理により、MgO層108aのMg酸化をより均一にできる。
【0035】
MgO層成膜工程を行った後、基板処理システム10は、処理チャンバCに基板Wを移動する。基板処理システム10は、処理チャンバC内で、基板Wを熱処理する(熱処理工程)。熱処理は、MgO層108aの結晶性を改善させる目的で行っており、基板が300℃から400℃の温度になるように加熱される。後に行われる冷却工程では、基板Wが−100℃以下に冷却されるため、急激な温度変化により基板Wが割れる可能性がある。これを防ぐため、熱処理が終わった後、処理チャンバC内で室温まで基板Wを冷却する工程を行う。室温までの基板冷却は、水冷した基板ホルダに基板Wを置いて冷却ガスによる熱交換によって行われる。
【0036】
熱処理工程を行った後、基板処理システム10は、処理チャンバAに基板Wを移動する。基板処理システム10は、処理チャンバA内で、MgO層108aの上にMgキャップ108bを成膜する(Mgキャップ成膜工程)。Mgキャップ成膜工程は、酸化によって形成されたMgO層108aの表面にある余剰酸素を吸引し、Mgキャップの後に成膜されるフリー層109の酸化を防ぐ効果がある。Mgキャップ成膜工程は、その性質上から室温以上の基板温度での成膜が必要となる。
【0037】
処理チャンバA内に設けられた基板ホルダ31の冷却面31aは、−100℃以下の極低温に冷却されている。しかし、隙間35に熱交換用の媒体(冷却ガス)を導入しない状態であれば、基板ホルダ31に基板Wを置いても冷却されず、基板温度が室温の状態で成膜できる。ここで室温とは、冷却しない状態(非冷却モード)における温度をいうものとする。Mgキャップ108bの成膜は、非冷却モードで行われる。
【0038】
次に、基板処理システム10は、同じ処理チャンバA内で、基板Wを−100℃以下の極低温に冷却する(冷却工程)。基板Wの冷却は、基板ホルダ31の隙間35に媒体(冷却ガス)を導入することで行われる(冷却モード)。
【0039】
次に、基板処理システム10は、同じ処理チャンバA内で、基板Wを冷却した状態(冷却モード)で、第1のフリー層109aを成膜する(フリー層冷却成膜工程)。第1のフリー層109aはフリー層109の一部である。
【0040】
次に、基板処理システム10は、処理チャンバFに基板Wを移動する。基板処理システム10は、処理チャンバF内で、第2のフリー層109bを室温で成膜する(フリー層室温成膜工程)。第2のフリー層109bはフリー層109の一部であり、第1のフリー層109aと第2のフリー層109bでフリー層109を構成する。
【0041】
フリー層109を成膜する際には、フリー層109のMgキャップ108b側の部分が冷却されていれば良く、基板Wを冷却した状態で第1のフリー層109aと第2のフリー層109bの両方を成膜しても良い(フリー層成膜工程)。フリー層冷却成膜工程とフリー層室温成膜工程を併せてフリー層成膜工程という。
最後に、基板処理システム10は、同じ処理チャンバF内で、キャップ層110を成膜する(キャップ層成膜工程)。
【0042】
図4Bは、比較例のMTJ素子の製造方法を示すプロセスチャートである。比較例では、Mgキャップ成膜工程は、冷却工程およびフリー層冷却成膜工程が行われる処理チャンバAではなく、MgO製膜工程が行われる処理チャンバEで行われる。すなわち、基板処理システムは、処理チャンバC内で熱処理工程を行った後、基板Wを再度処理チャンバEに移動する。そして、基板処理システムは、処理チャンバE内でMgキャップ成膜工程を行った後、基板Wを処理チャンバAに移動する。そのため、処理チャンバ間における基板Wの搬送回数が増え(戻り搬送)、生産のスループットが低下する。それに対して、本実施形態の製造方法(
図4A)では、冷却工程を行う処理チャンバAでMgキャップ成膜工程を行うため、比較例に比べて処理チャンバ間における基板Wの搬送回数を減らすことができる。
【0043】
図5Aは、本実施形態に係るMTJ素子100の製造方法を示すタイムチャートである。
図5Aは、5枚の基板(番号1〜5)が滞在する(搬送時間も含む)処理チャンバA〜Fにおける処理工程のタイムチャートを示している。各処理工程は四角で示されており、付された符号は、
図4Aの処理工程(10)〜(19)に対応している。
【0044】
本実施形態(
図5A)では、冷却工程(16)を行う処理チャンバAでMgキャップ成膜工程(15)を行うため、Mgキャップ成膜工程(15)を行っている間に、処理チャンバEでは他の番号の基板Wに成膜処理ができる。例えば、処理チャンバAで番号1の基板のMgキャップ成膜工程(15)が終了する前に、処理チャンバEで番号2の基板のMgO成膜工程(13)を開始することができる。本実施形態では、比較例に比べて基板1枚当たりの処理時間を20%程度短縮することができる。
【0045】
図5Bは、比較例のMTJ素子の製造方法を示すタイムチャートである。
図5Bは、
図5Aと同様に、5枚の基板(番号1〜5)が滞在する(搬送時間も含む)処理チャンバA〜Fにおける処理工程のタイムチャートを示している。各処理工程は四角で示されており、付された符号は、
図4Bの処理工程(10)〜(19)に対応している。
【0046】
比較例では、MgO成膜工程(13)とMgキャップ成膜工程(15)が同じ処理チャンバEで行われるため、本実施形態(
図5A)のように、MgO成膜工程(13)とMgキャップ成膜工程(15)を2つの基板に対して平行して行うことができない。例えば、少なくとも番号1の基板に対するMgキャップ成膜工程(15)が終了するまで、番号2の基板に対するMgO成膜工程(13)の開始を遅らせる必要がある。
【0047】
このように、本実施形態の製造方法によれば、磁気抵抗効果素子を製造する際の搬送工程を簡素化し、磁気抵抗効果素子の生産のスループットを向上することが可能である。