【実施例】
【0017】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施例に係るガスケット11の半裁断面を示している。当該実施例に係るガスケット11は、自動車等車両におけるオートマチックトランスミッション(AT)内の継ぎ手シールなど、圧力(油圧)の経路を備えるハウジング21の内部に設けたガスケット装着溝23に装着されて圧力(圧力流体)Pをシールするものであって、以下のように構成されている。
【0019】
すなわち、所定のゴム状弾性体よりなる環状体(ゴム環状体)13の内部に金属等剛材製の補強環14が埋設されることにより当該ガスケット11におけるガスケット本体12が設けられており、このガスケット本体12の軸方向一方(図では上方)の端部に、装着時に装着溝23の一方の側面23aに密接する第1シールリップ15が一体成形されるとともに、ガスケット本体12の軸方向他方(図では下方)の端部に、装着時に装着溝23の他方の側面23bに密接する第2シールリップ16が一体成形されている。
【0020】
装着溝23は矩形断面の環状溝であって、径方向内方へ向けて開口し、ガスケット11の中心軸線0に対し直交する一対の平面状の側面23a,23bと、中心軸線0に対し平行な円筒面状の底面23cとを有している。ハウジング21は、軸方向に並設された複数のハウジング部材21A,21Bの組み合わせよりなり、複数のハウジング部材21A,21Bの対向部22における内周部に装着溝23が二つ割り形式で設けられている。したがって装着溝23の一方の側面23aは複数のハウジング部材21A,21Bのうちの一方のハウジング部材21Aによって形成され、装着溝23の他方の側面23bおよび底面23cは複数のハウジング部材21A,21Bのうちの他方のハウジング部材21Bによって形成されている。複数のハウジング部材21A,21Bの対向部22にスキマが存在すると、ハウジング21内部の圧力経路の圧力Pがこのスキマから漏れるので、これをシールすべくガスケット11が装着されている。
【0021】
第1および第2シールリップ15,16はそれぞれ、装着時、装着溝23の側面23a,23bに密接したとき、締め代によって径方向内方へ倒れ込むように構成されている。
【0022】
このため、第1シールリップ15は、全体としてガスケット本体12から径方向斜め内方へ向けて突出するように形成され、これによりガスケット本体12の内径面よりも径方向内方へ突出する内径突出部15aと、ガスケット本体12の一方の端面よりも軸方向一方へ突出する端面突出部15bとを一体に備えている。
【0023】
一方、第2シールリップ16は、これも全体としてガスケット本体12から径方向斜め内方へ向けて突出するように形成され、これによりガスケット本体12の内径面よりも径方向内方へ突出する内径突出部16aと、ガスケット本体12の他方の端面よりも軸方向他方へ突出する端面突出部16bとを備えている。
【0024】
第1および第2シールリップ15,16は、軸方向(図では上下方向)に非対称な断面形状とされ、第1シールリップ15よりも第2シールリップ16のほうが剛性が高く(ゴムボリュームが大きく)軸方向に潰れにくい形状とされている。また、補強環14は図示するようにガスケット本体12内で軸方向一方に片寄って配置されている。したがってガスケット11に対しその径方向内方から高圧の圧力が作用すると、ガスケット本体12が装着溝23内で軸方向一方へ変位しやすく、このようにガスケット本体12が装着溝23内で軸方向一方へ変位すると、装着溝23の他方の側面23bに対する第2シールリップ16の締め代が低下し、これにより第2シールリップ16によるシール性が低下することがある。
【0025】
そこで、これを防止すべく当該ガスケット11では、ガスケット本体12の外周面であって軸方向他方の端部位置近傍に、装着時に装着溝23の底面23cに密接する環状のシールビード17が設けられ、このシールビード17が装着溝23の底面23cに密接することにより、第2シールリップ16によるシール性の低下分ないし不足分を補うように構成されている。
【0026】
また、ガスケット本体12の軸方向他方の端部に第2シールリップ16が設けられるとともにガスケット本体12の外周面であって軸方向他方の端部位置近傍にシールビード17が設けられているため、ガスケット11を装着溝23に装着すると、第2シールリップ16の外周側に、第2シールリップ16およびシールビード17ならびに装着溝23の底面23cおよび他方の側面23bによって囲まれる環状の空間部18が設けられる。
【0027】
また、第2シールリップ16の外周面16cおよびシールビード17の軸方向他方の立ち上がり面17cは、断面直線状のテーパー面19によって連続的に形成されている。
【0028】
上記構成を備えるガスケット11においては、第2シールリップ16の剛性が第1シールリップ15の剛性よりも高く設定されていること、および補強環14がガスケット本体12内で軸方向一方へ片寄って配置されていることにより、圧力が当該ガスケット11に作用したときにガスケット本体12が装着溝23内で軸方向一方へ変位する構造が設けられているため、ガスケット本体12が内周側から圧力を受けたときに変位する方向が予め軸方向一方に特定されており、しかもそのうえで、ガスケット本体12の外周面に、装着時に装着溝23の底面23cに密接するシールビード17が設けられているため、ガスケット本体12の軸方向一方への変位に伴う第2シールリップ16の締め代低下によるシール性低下をシールビード17によるシールによって補うことが可能とされている。
【0029】
また、第2シールリップ16の外周側に、装着時に第2シールリップ16およびシールビード17ならびに装着溝23の底面23cおよび他方の側面23bによって囲まれる空間部18が設けられるため、第2シールリップ16はこの空間部18の容積を狭める方向へ弾性変形することが可能とされている。したがって第2シールリップ16に内周側から圧力が作用したときに第2シールリップ16が空間部18の容積を狭める方向へ弾性変形することにより(矢印A)、ガスケット中心軸線0に対する第2シールリップ16のリップ傾斜角度θが小さくなってこの分リップ軸方向長さLが長くなるため、このとき発生する反力によって、第2シールリップ16がガスケット本体12を軸方向一方へ向けて押圧し移動させ、さらにガスケット本体12を介して軸方向反対側の第1シールリップ15を軸方向一方へ向けて押圧し移動させる(矢印B)。したがって装着溝23の溝幅wに係る寸法公差が大きくて溝幅wが広い場合であっても第1シールリップ15が装着溝23の一方の側面23aから離れることなく接触し続けるため、第1シールリップ15によるシール性を維持することが可能とされている。
【0030】
したがって以上により、本発明所期の目的どおり、補強環14を埋設したガスケット本体12の軸方向両端にシールリップ15,16を設けたガスケット11において、圧力が当該ガスケット11に作用したときにガスケット本体12が装着溝23内で軸方向一方へ変位しても、締め代が低下する側のシール性を維持することができ、しかもそのうえで、装着溝23の溝幅wに係る寸法公差が大きくてもシール性を維持することができるガスケットを提供することができる。
【0031】
また、近年、一部のハウジング(例えば一方のハウジング部材23A)を軽量化すべくこのハウジングを樹脂化することが行なわれているが、樹脂には雰囲気状況によりクリープが発生することがあるので、ガスケット11には、クリープの発生によるハウジングの変形に追随可能なことが求められる。この点、上記ガスケット11によれば、樹脂製ハウジングにクリープが発生して装着溝23の溝幅wが拡大することがあっても第1シールリップ15が装着溝23の一方の側面23aから離れずに接触し続けるため、第1シールリップ15によるシール性を維持することができる。また、装着溝23の底面23cにクリープが発生してもシール性を維持することができる。
【0032】
なお、上記実施例では、補強環14の形状が断面略L字形とされ、すなわち筒状部14aの一端に径方向外方へ向けてフランジ部14bを一体に設けたものとされているが、補強環14の形状はとくに限定されず、例えばフランジ部14bが省略されて筒状部14aのみよりなるものであっても良い。
また、上記実施例では、補強環14におけるフランジ部14bの軸方向他方の端面(
図1における下面)がゴム状弾性体よりなるガスケット本内12の厚み内に埋設されているが、
図2に示すように、このフランジ部14bの軸方向他方の端面14hはこの端面14hの一部もしくは全部(
図2では略全部)が直接、表面露出する状態とされても良い。
また、上記実施例では、補強環14におけるフランジ部14bの軸方向一方の端面(
図1における上面)がゴム状弾性体よりなるガスケット本内12の厚み内に埋設されているが、
図2に示すように、このフランジ部14bの軸方向一方の端面14iはこの端面14iの一部もしくは全部(
図2では外径側の半分ほど)が直接、表面露出する状態とされても良い。
【0033】
また、この補強環14について、以下の構成を採用することにより、第1シールリップ15の耐圧性を一層向上させることができる。
【0034】
すなわち上記実施例では
図1に示したように、補強環14の全体がゴム状弾性体よりなるガスケット本内12の厚み内に埋設されているが、これに代えて
図3に示すように、補強環14の軸方向一方の端面14cがガスケット本体12の軸方向一方の端面12cに表面露出した状態で補強環14をガスケット本体12に埋設する。
【0035】
この構成によると、装着時、圧力がガスケット11に作用してガスケット本体12が装着溝23内で軸方向一方へ変位したときに補強環14の軸方向一方の端面14cがハウジング21Aの端面であって装着溝23の一方の側面23aに直接接触する。したがって補強環14が外壁となって第1シールリップ15の外径側への変形を抑制するため、第1シールリップ15が変形しにくくなる。したがって第1シールリップ15の耐圧性を向上させることが可能とされる。
【0036】
また、上記実施例では
図1に示したように、補強環14における筒状部14aの内周面とフランジ部14bの軸方向一方の端面が交差する角部(内周角部)が断面円弧形のアール形状とされているが、これに代えて
図3に示すように、この補強環14における筒状部14aの内周面とフランジ部14bの軸方向一方の端面が交差する角部(内周角部)14dを断面直線状のテーパー形状とする。
【0037】
この構成によると、上記埋設の構造と同様に、第1シールリップ15が外径側へ変形しにくくなるため、第1シールリップ15の耐圧性を向上させることが可能とされる。
【0038】
また、補強環14について、以下の構成を採用することにより、ガスケット11の径方向厚み寸法を縮小し、径方向の省スペース化を実現することができる。
【0039】
すなわち上記実施例では
図1に示したように、補強環14における筒状部14aの軸方向他方の端部が内径側へ曲げられた曲げ形状とされているが、これに代えて
図3に示すように、この補強環14における筒状部14aの軸方向他方の端部14eを軸方向に直線状のストレート形状とする。
【0040】
この構成によると、補強環14の内径寸法が拡大されることにより補強環14の径方向厚み寸法が縮小されるため、ガスケット11の径方向厚み寸法を縮小し、径方向の省スペース化を実現することができる。
【0041】
なお、ストレート形状による直角の先端角部がゴム状弾性体よりなるガスケット本体12を傷付けるおそれがある場合には、端部14eの先端角部にそれぞれ面取り部14f,14gを設けても良い。
【0042】
上記実施例では、ガスケット11がその内周側に存する圧力Pをシールするもの(内周シール)とされ、ガスケット11を装着する装着溝23が径方向内方へ向けて開口するものとされているが、その径方向の向きについては反対であっても良い。すなわち本発明は、ガスケット11がその外周側に存する圧力Pをシールするもの(外周シール)とされ、ガスケット11を装着する装着溝23が径方向外方へ向けて開口するものとされる場合にも適用される。