特許第6591649号(P6591649)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6591649
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/14 20060101AFI20191007BHJP
   B25B 23/147 20060101ALI20191007BHJP
   B25B 21/00 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   B25B23/14 620A
   B25B23/147
   B25B21/00 F
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-216920(P2018-216920)
(22)【出願日】2018年11月20日
【審査請求日】2018年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227386
【氏名又は名称】日東工器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 翔太
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−233637(JP,A)
【文献】 特開2009−107108(JP,A)
【文献】 特開昭58−094977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/00 − 23/18
B25F 5/00
B25D 17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動部を有する工具本体であって、該回転駆動部によって生じる反動を受けて該工具本体から該反動を逃がすための補助具が取り付け可能である工具本体と、
該工具本体に対する補助具の取り付け状態を検出する検出手段と、
該回転駆動部の出力トルクをトルク目標値に基づいて制御するトルク制御手段と、
を備え、
該トルク制御手段は、補助具が取り付けられてないことを該検出手段が検出した場合、該トルク目標値を補助具使用時上限値よりも低い単独使用時上限値以下に制限するようになっており、
補助具の取り付け状態を通知する通知手段を備え、
補助具が取り付けられてないことを該検出手段が検出したときには該通知手段により通知された後に該回転駆動部の駆動が停止され、該回転駆動部の駆動停止後に、該単独使用時上限値又は該補助具使用時上限値のどちらを該トルク目標値として設定するか選択可能とされている電動工具。
【請求項2】
該単独使用時上限値が0Nmである請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
該電動工具は螺子の締め付けを行うための電動ドライバであり、該トルク制御手段には当該電動ドライバの螺子の締め付けトルクを設定するための締付トルク設定値が設定可能であり、該トルク制御手段は、補助具が取り付けられていることを該検出手段が検出した場合、該トルク目標値をあらかじめ設定されている締付トルク設定値とする請求項1又は2に記載の電動工具。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の電動工具と、該工具本体に取り付けられ、該工具本体からの反動を受けて該電動工具から該反動を逃がす補助具と、を備える電動工具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補助具を有する電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電動ドライバ等の回転工具においては、作業内容に合わせて出力トルクを可変できるようになっているものがある。そのような回転工具では、出力が高トルクに設定している時には作業者に大きな反力がかかり危険である。そのため、比較的に大きなトルクが発生する場合に作業者に対して事前に通知を行って注意を促す電動工具や(特許文献1)、工具使用時に発生する瞬間的な反力が作業者に伝達されることを抑制できるショックレススタンドが取り付けられた電動工具がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/088443号
【特許文献2】特開2013−71202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高トルクに設定された回転工具をショックレススタンドに取り付けて作業を行った後に回転工具からショックレススタンドを取り外した場合、回転工具は高トルクに設定されたままとなる。ショックレススタンドを使用せずにこの状態の回転工具で作業を行うと、ショックレススタンドによって抑制されていた反動が作業者に伝わってしまい、作業者が回転工具を正しく保持できず出力トルクにばらつきが生じ、適切な締め付けトルクで作業ができなかったり、場合によっては回転工具が作業者の手から離れて落下してしまったりする問題がある。
【0005】
そこで本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、回転工具からショックレススタンドが取り外されたことを検出し、出力トルクの変更をできるようにした電動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、
回転駆動部を有する工具本体であって、該回転駆動部によって生じる反動を受けて該工具本体から該反動を逃がすための補助具が取り付け可能である工具本体と、
該工具本体に対する補助具の取り付け状態を検出する検出手段と、
該回転駆動部の出力トルクをトルク目標値に基づいて制御するトルク制御手段と、
を備え、
該トルク制御手段は、補助具が取り付けられてないことを該検出手段が検出した場合、該トルク目標値を補助具使用時上限値よりも低い単独使用時上限値以下に制限するようになっている電動工具を提供する。
【0007】
当該電動工具は、補助具が取り付けられていない単独使用時に出力可能なトルクの上限値を設け、単独使用時には設定した上限値以下にトルク目標値を制限するため、工具本体から補助具を取り外した場合に作業者へ大きな反力が伝達することを防ぎ、作業者が電動工具を正しく保持できず出力トルクにばらつきが生じたり、場合によっては電動工具が作業者の手から離れて落下してしまったりすることを防止することが可能となる。
【0008】
具体的には、該単独使用時上限値が0Nmに設定することができる。
【0009】
このようにすることで、定められた仕様から外れた作業が行われることを防止することが可能となる。
【0010】
好ましくは、該電動工具は螺子の締付を行うための電動ドライバであり、該トルク制御手段には当該電動ドライバの螺子の締め付けトルクを設定するための締付トルク設定値が設定可能であり、該トルク制御手段は、補助具が取り付けられていることを該検出手段が検出した場合、該トルク目標値をあらかじめ設定されている締付トルク設定値とすることができる。
【0011】
好ましくは、補助具の取り付け状態を通知する通知手段を備えるようにすることができる。
【0012】
また本発明は、上述した機能を備える電動工具と、該工具本体に取り付けられ、該工具本体からの反動を受けて該電動工具から該反動を逃がす補助具と、を備える電動工具システムを提供することを目的とする。
【0013】
以下、本発明に係る電動工具の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電動ドライバの外観図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る電動ドライバのブロック図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る電動ドライバの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1の実施形態に係る電動工具システム1は、図1に示すように、電動ドライバ(電動工具)100と、補助具150としてのショックレススタンドとからなる。電動ドライバ100は、図1及び図2に示すように、内蔵された電動モータ140によって回転駆動されるビットホルダ144を有する電動ドライバ本体(工具本体)102と、電動ドライバ本体102内に配置された制御回路120とを備える。ビットホルダ144には、締め付け対象となる螺子に合わせて適宜選択されたドライバビット146が取り外し可能に取り付けられている。電動ドライバ本体102にはさらに、LED表示部132と複数の操作ボタン134とを有するインターフェース部130が設けられている。電動ドライバ100は、電動モータ140を起動させるための起動スイッチを電動ドライバ本体102に備えている。この起動スイッチはビットホルダ144に取り付けられたドライバビット146を螺子に押し付けることでON状態となり、それによって電動モータ140の駆動を開始するようになっている。
【0016】
電動ドライバ100はさらに、電動モータ140の出力トルクを検知するためのトルクセンサ142を備える。また、制御回路120は、各種演算処理を行う為の演算部124と、設定パラメータなどのデータを保存しておく為のメモリ126とを有する。設定パラメータは、インターフェース部130の操作ボタン134や、電動ドライバ本体102に有線通信接続されるシーケンサ(図示しない)によって変更することができる。通信接続は無線接続でも有線接続でも可能であり、シーケンサではなくリモコンやコンピューターを接続して設定パラメータを変更することも可能である。設定パラメータには、螺子の締め付けトルクの値である締付トルク設定値や回転速度や回転時間等の項目が必要に応じて含まれていても良い。
【0017】
制御回路120は、螺子の締め付けトルクの大きさを設定変更するためのトルク制御手段122を備える。具体的には、トルク制御手段122は、トルクセンサ142によって検出されるトルクの大きさに基づいて電動モータ140に供給する電力を適宜制御して電動モータ140のトルクを制御する。制御回路120は、あらかじめ設定されていた締付トルク設定値に基づいてトルク目標値を決定し、トルク制御手段122は、螺子に加わる締め付けトルクがトルク目標値となるように制御する。ただし、螺子に加わる締め付けトルクは電動モータ140の慣性力等の影響でトルク目標値よりも一時的に高くなる場合がある。このような影響を考慮してトルク目標値を設定することが好ましい。
【0018】
電動ドライバ100は、締め付けトルクの大きさを変更する必要が生じたときに自動的にその設定値を変更できるようにすることもできる。メモリ126には複数の締め付け工程が含まれる一連の作業における各工程で使用される設定パラメータが事前に保存可能であり、演算部124は各工程が終了して次の工程に移るときに当該次の工程で使用される設定パラメータをメモリ126から読み込み、電動ドライバ100の設定を自動的に変更する。たとえば、第1工程が同一な4本の螺子の締め付け作業であり、第2工程が第1工程における螺子とは異なる2本の螺子の締め付け作業であるとすると、第1工程の4本の螺子の締め付け時には第1設定パラメータのもとで電動ドライバ100は駆動され、第1工程が終了すると、演算部124が第2工程のための第2設定パラメータに設定を変更する。第2工程では、2本の螺子の締め付けが終了するまでその設定(第2設定パラメータ)に基づいて電動ドライバ100が駆動される。それ以降は同様に、各工程が終了する毎に設定パラメータが次の工程のための設定パラメータに自動的に変更されていく。
【0019】
電動ドライバ100はさらに、電動モータ140、ビットホルダ144及びドライバビット146などからなる回転駆動部によって生じる反動を受けて電動ドライバ本体102から反動を逃がす補助具150の取り付け状態を検出するホールセンサ(検出手段)110を備える。ホールセンサ110は補助具150が取り付いていることを検出し制御回路120へ検出信号を送信する。制御回路120は、検出信号を監視し補助具150の取り付け状態を判断する。
【0020】
制御回路120のトルク制御手段122は、補助具150の検出状態に合わせてトルク目標値を変更するようになっている。たとえば、ホールセンサ110が電動ドライバ本体102に補助具150が取り付いている状態を検出している場合は、制御回路120は補助具150が電動ドライバ本体102に取り付いていると判断し、トルク制御手段122は、設定パラメータに保存されている補助具使用時のトルク設定値をトルク目標値に設定する。補助具使用時のトルク設定値はあらかじめ決められた補助具使用時上限値以下の値でしか設定できないようになっている。ホールセンサ110が工具本体102に補助具150の取り付いている状態を検出できない場合は、制御回路120は補助具150が電動ドライバ本体102に取り付いていないと判断し、トルク制御手段122は、設定パラメータに保存されている単独使用時のトルク設定値をトルク目標値に設定する。単独使用時のトルク設定値はあらかじめ決められた単独使用時上限値以下の値でしか設定できない。補助具使用時上限値は本発明における電動ドライバ100の最大出力設定値であり、単独使用時上限値は補助具使用時上限値より小さい値である。単独使用時上限値は、補助具150が取り付いていなくても作業に影響のある反動が発生しない程度の値を設定する。
【0021】
補助具使用時のトルク設定値の設定可能範囲の下限値は0Nmとなっている。この値は任意に変更することができ、単独使用時上限値以下であることが好ましい。
【0022】
単独使用時のトルク設定値は、上述のとおり、単独使用時上限値以下の値とされている。補助具使用時のトルク設定値が単独使用時上限値以下の場合は、単独使用時のトルク設定値は、補助具使用時のトルク設定値と同じ値とされることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0023】
補助具150が検出できていない状態から補助具150が取り付いている状態をホールセンサ110が検出した場合、制御回路120のトルク設定手段122は、トルク目標値をあらかじめ設定されている補助具使用時のトルク設定値(締付トルク設定値)とする。
【0024】
トルク目標値を0Nmとすることで電動ドライバ100の駆動を停止することが可能となる。たとえば、設定パラメータに保存されている単独使用時のトルク設定値を0Nmとあらかじめ設定しておくことで、補助具150を使用して螺子の締め付け作業を行っている際に途中で補助具150が外れた場合、トルク制御手段122がトルク目標値として設定する締付トルク設定値を補助具使用時のトルク設定値から単独使用時のトルク設定値に切り替えることにより、補助具150が外れた場合に電動ドライバ本体102の回転駆動部の駆動が停止される。このようにすることで、工程毎に定められた仕様から外れた作業を行わないようにできる。
【0025】
ホールセンサ110の検出状態にあわせて、制御回路120が通知手段としてのインターフェース部130のLED表示部132やブザー136を駆動させることで、作業者に補助具150の取り付け状態を通知することができる。通知手段は制御回路120の種類や有無等により種々の形態のものが適宜選択される。
【0026】
本発明の第2の実施形態にかかる電動工具システム2は、図3に示すように、電動ドライバ(電動工具)200と、補助具250としてのピストルグリップとからなる。第2の実施形態おける電動工具200は第1の実施形態における電動工具100と同一であるため説明を省略する。
【0027】
本発明の第3の実施形態にかかる電動工具システムは、検出手段が電動ドライバ本体に補助具が取りついていることを検出した状態から補助具が取り付いている状態を検出できなくなり、制御回路が電動ドライバ本体に補助具が取り付いていないと判断した場合に、トルク制御手段がトルク目標値の設定を変更する際に作業者の操作を必要とするようになっている。具体的には、制御回路が電動ドライバ本体に補助具が取り付いていないと判断した場合に、通知手段が作業者に補助具の取り付け状態を通知し、併せて制御回路が電動ドライバを待機状態にし、電動ドライバの電動モータが回転駆動できない状態となる。作業者が待機状態とされた電動ドライバのインターフェース部を操作して補助具が取り外されてトルク目標値が単独使用時のトルク設定値となることを許可した場合には、トルク制御手段は、設定パラメータに保存されている単独使用時のトルク設定値をトルク目標値に設定する。作業者がトルク目標値が単独使用時のトルク設定となることを拒否した、すなわち、補助具が取り外されているにも関わらず補助具使用時のトルク設定値で使用することを許可した場合には、トルク制御手段は、設定パラメータに保存されている補助具使用時のトルク設定値をトルク目標値に設定する。
【0028】
以上、本発明の電動工具の一実施形態として電動ドライバについて述べたが、本発明はこれに限定されるものではなく、以下に述べるような種々の変更が可能である。
【0029】
上記実施形態においては、補助具150の検出はホールセンサ110によりなされていたが、光電センサや電気的接点によっても実現可能である。ホールセンサと同様に補助具の検出ができるように光電センサや電気的接点を設け、検出信号を制御回路へ送り検出を行う。
【0030】
上記実施形態においては、トルク制御手段122が実施する締め付けトルクの制御は電動モータ140に供給する電力を制御することによる電気的制御によりなされているが、機械的なクラッチ機構におけるクラッチ動作開始トルクを設定変更することによる機械的制御により実現するようにしてもよい。機械的なクラッチ機構は、通常、2つのクラッチ板の内一方のクラッチ板をスプリングによって他方のクラッチ板に向かって付勢するようにし、螺子の締め付け作業によってクラッチ板間の動力伝達が解除されるようになっている。従って、スプリングの付勢力を調整することによりクラッチ動作開始トルクの大きさ、すなわちトルク目標値の変更をすることができる。このようなクラッチ機構を採用した場合、トルク制御手段はスプリングの付勢力を直接的に又は間接的に検知するセンサからの信号に基づいて現在のトルク目標値を取得するようにするか、またはクラッチ機構が外部信号に基づいてスプリングの付勢力を変更する機構を備えるようにしてトルク制御手段はクラッチ機構に対してトルク目標値に関する信号を送信してクラッチ機構のクラッチ動作開始トルクを変更することによりトルク目標値を変更するようにすることができる。
【0031】
本発明は電動ドライバにのみ適用できるのではなく、電動ドリル等の電動工具に適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
電動ドライバ(電動工具)100;電動ドライバ本体(工具本体)102;ホールセンサ110;制御回路120;トルク制御手段122;演算部124;メモリ126;インタ−フェース部130;LED表示部132;操作ボタン134;ブザー136;電動モータ140;トルクセンサ142;ビットホルダ144;ドライバビット146;補助具150;電動ドライバ(電動工具)200;補助具250;

【要約】      (修正有)
【課題】工具本体からの大きな反動が作業者に伝わらない電動工具を提供する。
【解決手段】電動ドライバ(電動工具)100は、電動ドライバ本体(工具本体)102の回転駆動部からの反動を逃がすための補助具150が取り付け可能とされている。検出手段110によって補助具150が取り付けられているか否かを検出し、その結果に応じてトルク制御手段がトルク目標値に基づいて回転駆動部の出力トルクを制御する。補助具150が取り付けられていないときは、トルク目標値が単独使用時上限値以下に制限される。
【選択図】図1
図1
図2
図3