(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記誘電体組成物におけるTiの含有量を100モル部として、前記La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb、Ba、Ca、MgおよびZnの中から選ばれる少なくとも1種以上の含有量が、0.2モル部以上、14.3モル部以下である請求項1に記載の誘電体組成物。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の高密度化に伴う誘電体素子の小型化と高信頼性に対する要求は高く、積層セラミックコンデンサ等の電子部品の小型・大容量化・高信頼性化が急速に進むとともに、その用途も拡大している。それに伴い、様々な特性が要求されるようになっている。このような誘電体組成物としては、チタン酸バリウム(BaTiO
3)を主成分としたものが一般的に良く使用されている。
【0003】
例えば、自動車用のDC−DCコンバータ、AC−DCインバータ等のスナバコンデンサや平滑コンデンサは、数百ボルトの高いDCバイアスが印加される箇所で使用されることが多い。そのために、これらの電子部品に用いられる誘電体素子は、高いDCバイアス印加時に、高い比誘電率を有することが要求される。さらに、誘電体素地の機械的強度が低い場合には、製造時や基板実装時に割れや欠けなどが発生し、製品として不良となる恐れがあるため、高い機械的強度を有することも同時に要求される。
【0004】
従来のBaTiO
3を主成分とした誘電体組成物からなる誘電体層を有する電子部品は高いDCバイアスが印加された場合に比誘電率が低下するという問題がある。この問題は、BaTiO
3が強誘電体であることに起因するため、BaTiO
3を主成分として用いる限り回避することは困難である。そのため、BaTiO
3を主成分とした誘電体組成物からなる誘電体層を有する電子部品を高いDCバイアスが印加される用途で使用する場合には、当該電子部品の使用方法を工夫する必要がある。例えば、あらかじめ比誘電率の低下分を見込んで、当該電子部品を複数個並列に接続して、必要な静電容量または比誘電率を確保して使用するといった方法が知られている。
【0005】
また、従来のBaTiO
3を主成分とした誘電体組成物を、数ボルト以下の低いDCバイアス下で使用する場合には、誘電体層に印加される電界強度が小さいため、絶縁破壊しない程度に誘電体層の厚みを薄く、かつ、電極面積を小さく設計できる。すなわち、誘電体素地の小型化および軽量化が可能となる。そして、誘電体素地が小型かつ軽量であれば、必要な機械的強度も小さくなる。例えば、製造時に誘電体素地を落下させても、誘電体素地の大きさおよび重さに見合った十分な機械的強度を確保できているために、割れや欠けが発生することはほとんどない。しかし、従来のBaTiO
3を主成分とした誘電体組成物を、数百ボルト以上の高いDCバイアス下で使用する場合には、絶縁破壊に対する安全性を確保するために誘電体層の厚みを十分にとる必要がある。その結果、必要な静電容量を確保するために電極面積を大きくとる必要がある。すなわち、誘電体素地が大きくなり、重量が重くなる傾向がある。その結果、必要な機械的強度も大きくなる。そして、製造時に誘電体素地を落下させた場合に、誘電体素地の大きさおよび重さに見合った十分な機械的強度を確保できていないために、場合によっては割れや欠けが発生してしまう。
【0006】
このような課題を解決するべく、下記の特許文献1では、チタン酸バリウムを主成分とし、CaとSrとMgとMnと希土類元素を含有し、Ca濃度が粒子中心よりも粒子表面側において大きく、SrとMgとMn及び希土類元素が粒子表面側に偏在したコアシェル型構造であることを特徴とする誘電体磁器が開示されている。
【0007】
また、下記の特許文献2では、Bサイトの一部がZrで置換されたペロブスカイト型チタン酸バリウム系結晶粒子(BTZ型系結晶粒子)と、Aサイトの一部がSrで置換されたペロブスカイト型チタン酸ビスマスナトリウム系結晶粒子(BNST型結晶粒子)が共存することを特徴とし、Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が、前記BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子の粒子間の粒界相に存在し、BTZ型結晶粒子およびBNST型結晶粒子のいずれも平均粒径が0.3〜1.0μmのコアシェル構造であることを特徴とする誘電体磁器が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に示すようなコアシェル構造を有するBaTiO
3を主成分とした誘電体磁器は、DCバイアスが印加されていない時の20℃での比誘電率が2500以上と比較的高い値が得られているが、5V/μmのDCバイアスが印加された場合の比誘電率変化率または静電容量変化率(DCバイアス特性)が−70%以内の値であるため、高電圧下で使用されるコンデンサとしては変化率が大きく十分な値とは言えない。また、機械的強度に関する記述はない。
【0009】
一方、特許文献2に示すようなコアシェル構造を有するBTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子が共存するセラミック組成物であることが大きな特徴である。また、BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子は、いずれも、粒子中心部よりも粒子表面側にMg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上が偏在したコアシェル型構造を形成していることで、DCバイアスが印加されていない時の20℃での比誘電率は2750以上の比較的高い値が得られ、3V/μmのDCバイアスが印加された場合のDCバイアス特性は−20%以内の値が得られているが、自動車用のDC−DCコンバータ、AC−DCインバータ等のスナバコンデンサや平滑コンデンサ等の高電圧下で使用するためには十分な値とは言えない。また、機械的強度に関する記述はない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は、便宜組み合わせることができる。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る単層型のセラミックコンデンサの概略図である。
【0022】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る単層型のセラミックコンデンサ100は、円板状の誘電体1と一対の電極2,3とを有する。誘電体1の両面に電極2,3を形成することで単層型のセラミックコンデンサ100が得られる。誘電体1および電極2,3の形状に特に制限はない。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0023】
誘電体1は、本実施形態に係る誘電体組成物からなる。電極2,3の材質に特に制限はない。例えば、Ag、Au、Cu、Pt、Ni等が用いられるが、その他の金属を用いることも可能である。
【0024】
図2は、本発明の別の実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図の模式図である。
【0025】
図2に示すように、本発明の別の実施形態に係る積層セラミックコンデンサ200は、誘電体層7と、内部電極層6A,6Bと、が交互に積層された構成のコンデンサ素子本体5を有する。この素子本体5の両端部には、素子本体5の内部で交互に配置された内部電極層6A,6Bと各々導通する一対の端子電極11A,11Bが形成してある。素子本体5の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0026】
内部電極層6A,6Bはそれぞれ平行となるように設けられている。内部電極層6Aは、一方の端部が積層体5における端子電極11Aが形成された端面に露出するように形成されている。また、内部電極層6Bは、一方の端部が積層体5における端子電極11Bが形成された端面に露出するように形成されている。さらに、内部電極層6Aと内部電極層6Bとは、これらの大部分が積層方向に重なり合うように配置されている。
【0027】
内部電極層6A,6Bの材質としては、特に制限はない。例えば、Au、Pt、Ag、Ag−Pd合金、Cu若しくはNi等の金属が用いられるが、その他の金属を用いることも可能である。
【0028】
端子電極11A,11Bは、これらが設けられている積層体5の端面において、当該端面に露出している内部電極層6A,6Bの端部とそれぞれ接している。前記の構造により、端子電極11A,11Bは、内部電極層6A,6Bとそれぞれ電気的に接続される。この端子電極11A,11Bは、Ag,Au,Cu等を主成分とする導電材料から構成することができる。端子電極11A,11Bの厚さには特に制限はない。用途や積層型誘電素子のサイズ等によって適宜設定される。端子電極11A,11Bの厚さは、例えば10〜50μmにすることができる。
【0029】
誘電体層7は、本実施形態に係る誘電体組成物からなる。誘電体層7の1層当たりの厚さは、任意に設定することができ、特に制限はない。例えば1〜100μmとすることができる。
【0030】
ここで、本実施形態に係る誘電体組成物とは、少なくともBi、Na、SrおよびTiを含有するペロブスカイト型の結晶構造を含む誘電体組成物であり、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb、Ba、Ca、MgおよびZnの中から選ばれる少なくとも1種以上(以下、副成分と呼ぶ場合がある)を含む誘電体組成物である。
【0031】
前記ペロブスカイト型の結晶構造を含む誘電体組成物とは、一般式ABO
3で表され、AはBi、Na、Srから選ばれる少なくとも1種を含み、Bは少なくともTiを含むペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体である。
【0032】
前記A全体を100原子%とする場合に、前記Aに占めるBi、Na、Srの割合は合計80原子%以上であることが好ましい。また、前記B全体を100原子%とする場合に、前記Bに占めるTiの割合は80原子%以上であることが好ましい。
【0033】
図3は本実施形態に係る誘電体組成物300の粒子の模式図である。本実施形態に係る誘電体組成物300は、コアシェル構造を有さない単一相粒子20と、コアシェル構造を有するコアシェル粒子30とから構成される。
【0034】
また、前記単一相粒子20および前記コアシェル粒子30の平均粒径に特に制限はない。焼結体の緻密性を向上させる観点から、0.3μm〜3.0μmとすることが好ましい。
【0035】
粒子と粒子との間には粒界10が存在する。前記コアシェル粒子はコア部8の周囲にシェル部9が存在し、コア部8が完全にシェル部9に内包されている形態、または、コア部8の一部が粒界10に接し、コア部8のその他の部分がシェル部9に内包されている形態を有する。
【0036】
さらに、本実施形態に係る誘電体組成物300において、前記コアシェル粒子30の大部分は、SrTiO
3を含むコア部を持つコアシェル構造を有する特定粒子である。
【0037】
前記SrTiO
3を含むコア部とは、SrTiO
3型の結晶構造を有し、かつ、前記コア部に含まれる金属原子全体を100原子%とする場合に、Sr原子およびTi原子をそれぞれ40原子%以上含有しているコア部である。
【0038】
また、前記SrTiO
3を含むコア部の大きさや形状に制限はない。前記SrTiO
3を含むコア部の径の長さは、誘電体組成物300に含まれる粒子の平均粒径に対して1/2以下であることが好ましい。SrTiO
3を含むコア部の大きさを上記の範囲内とすることで、比誘電率とDCバイアス特性とを同時に向上させやすくなる。SrTiO
3には、DCバイアス特性および機械的強度を向上させる傾向があるが、比誘電率を低下させる傾向もあるためである。
【0039】
さらに、前記SrTiO
3を含むコア部は、通常、粒子中に1個存在しているが、2個以上存在していても良い。
【0040】
ここで、前記特定粒子のシェル部9は、少なくともNa、BiおよびTiを含有していることが好ましい。
【0041】
以下、本実施形態に係る誘電体組成物300に含まれる粒子が前記特定粒子か否かを判断する方法、および前記誘電体組成物300に含まれる全粒子数に対する前記特定粒子数の比率αの計算方法について説明する。
【0042】
当該粒子がコアシェル粒子30であるか否かを区別する方法に特に制限はない。さらに、前記コアシェル粒子30のコア部8がSrTiO
3を含むか否かを判断する方法にも特に制限はない。例えば、前記誘電体組成物300を任意の面で切断した断面に対して走査透過型電子顕微鏡(STEM)およびエネルギー分散型X線分析(EDS)を行い、元素分布を確認することで、当該粒子が単一相粒子20であるかコアシェル粒子30であるかを区別できる。さらに、当該コアシェル粒子30のコア部8がSrTiO
3を含むか否かも判断できる。
【0043】
STEMおよびEDSにおける観察視野の設定方法には特に制限はないが、観察視野の大きさは2μm以上×2μm以上、観察視野の倍率は10000倍〜100000倍とすることが好ましい。
【0044】
前記観察視野から、周囲全体が粒界10に囲まれていることが確認できる粒子を複数個選択し、その中でSrTiO
3を含むコア部を有するコアシェル粒子(特定粒子)の個数を数える。前記特定粒子の個数を、選択した粒子の個数で割ることにより、前記αを計算することができる。なお、前記選択した粒子の個数は、少なくとも20個以上、好ましくは100個以上である。また、前記観察視野を複数設定して前記選択した粒子の個数を増やしてもよい。
【0045】
コアシェル粒子30の生成量は、誘電体組成物の組成、誘電体組成物の作製方法、および、誘電体組成物を焼成する際の焼成条件を変化させることで適宜制御することができる。例えば、原料粉末に粒径の大きなものを用いるとコアシェル粒子30は生成しやすい傾向にある。また、焼成温度を高くするとコアシェル粒子30は生成しにくい傾向にある。
【0046】
本実施形態に係る誘電体組成物300は前記特定粒子および前記単一相粒子20以外の粒子、すなわち、前記特定粒子以外のコアシェル粒子を含んでいてもよい。ここで、本発明に係る誘電体組成物300に含まれる粒子全体の数に対する前記特定粒子および前記単一相粒子20の合計の数の割合は、80%以上であることが好ましい。
【0047】
本実施形態において、前記誘電体組成物300に含まれる全粒子数に対する前記特定粒子数の比率αは、0.20≦α≦0.70を満たす。
【0048】
本実施形態に係る誘電体組成物300は、0.20≦α≦0.70であることにより、DCバイアス印加時の比誘電率、DCバイアス特性および機械的強度を向上させることができる。
【0049】
一方、全粒子数に対する前記特定粒子数の比率αが0.20≦α≦0.70を満たさない場合には、DCバイアス印加時の比誘電率、DCバイアス特性および機械的強度のうち、いずれか一つ以上の特性が悪化してしまう。
【0050】
α≧0.20を満たす場合にDCバイアス印加時の比誘電率およびDCバイアス特性が向上する理由は不明であるが、本発明者らは以下のように考えている。まず、SrTiO
3は室温で常誘電体である。そして、一般的に、常誘電体はDCバイアスの影響を受けるという特徴がある。コア部に室温で常誘電体であるSrTiO
3を含むコアシェル粒子を一定の割合で存在させることで、当該コアシェル粒子のDCバイアス印加時の比誘電率の低下を抑制し、ひいては誘電体全体のDCバイアス特性を良好にしている。
【0051】
また、α≧0.20を満たす場合に機械的強度が向上する理由は不明であるが、本発明者らは以下のように考えている。まず、一般的にSrTiO
3結晶は機械的強度が高いという特徴がある。そして、機械的強度が高いSrTiO
3結晶をコア部に含むコアシェル粒子を一定の割合で存在させることで、コアシェル粒子の機械的強度が向上し、ひいては誘電体全体の機械的強度が向上している。
【0052】
なお、α>0.70の場合には、DCバイアスを印加しない場合の比誘電率が低下し、DCバイアス印加時の比誘電率も同時に低下してしまう。
【0053】
本実施形態に係る誘電体組成物300は、前記αが0.25≦α≦0.66を満たすことが好ましい。
【0054】
本実施形態に係る誘電体組成物300は、前記誘電体組成物におけるNaに対するSrのモル比率をβとした場合に、0.92≦β≦3.00であることが好ましい。0.92≦β≦3.00である場合には、DCバイアス印加時の比誘電率、DCバイアス特性および機械的強度をさらに向上させることができる。
【0055】
また、副成分の含有量に特に制限はないが、副成分を含有することは必要である。副成分を含有しない場合には、DCバイアス印加時の比誘電率、DCバイアス特性および機械的強度のうち、いずれか一つ以上が悪化する。
【0056】
また、副成分の含有量は、前記誘電体組成物におけるTiの含有量を100モル部とする場合に、合計で0.2モル部以上、14.3モル部以下であることが好ましい。副成分の含有量を前記範囲内とすることで、DCバイアス印加時の比誘電率およびDCバイアス特性をさらに高めることができる。なお、副成分は粒子および粒界のどの場所に存在していても良い。
【0057】
以上、本実施形態に係る誘電体組成物は、DCバイアス印加時の比誘電率、DCバイアス特性、および、機械的強度が全て優れた誘電体組成物である。
【0058】
次に、
図1に示すセラミックコンデンサ100の製造方法の一例について説明する。
【0059】
まず、誘電体1の出発原料としては、上記した誘電体組成物を構成する金属元素の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0060】
例えば、酸化ビスマス(Bi
2O
3)、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3)、炭酸バリウム(BaCO
3)、炭酸カルシウム(CaCO
3)、水酸化ランタン(La(OH)
3)、炭酸マグネシウム(MgCO
3)、酸化チタン(TiO
2)等の粉末が誘電体1の出発原料として挙げられる。
【0061】
また、前記出発原料の粉末(以下、原料粉末という)の粒径には特に制限はないが、0.1μm〜1.0μmとすることが好ましい。また、前記出発原料の平均粒径は、前記出発原料の混合時間を適宜変化させることにより調整することができる。
【0062】
ここで、前記原料粉末の細かさが前記αの大きさに影響する。前記原料粉末の粒径が小さいほど前記αが低くなる傾向にある。
【0063】
そして、本焼成後の誘電体組成物(焼結体)が、本実施形態に係る誘電体組成物の組成を満たすものとなるように、上記粉末原料を秤量する。
【0064】
次に、秤量した各原料粉末を、ボールミル等により湿式混合する。そして、湿式混合により得られた混合物を仮焼することにより仮焼物を得る。ここで、仮焼は、通常空気中で施される。また、仮焼温度は700〜900℃であることが好ましく、仮焼時間は1〜10時間が好ましい。
【0065】
得られた仮焼物を、ボールミル等で湿式粉砕した後、これを乾燥させることにより、仮焼物粉体を得る。次いで、得られた仮焼物粉体に結合剤を添加し、プレス成形することにより、成形体を得る。結合剤は本技術分野で一般的に用いられるものであれば特に制限なく使用できる。結合剤の具体例として、ポリビニルアルコール(PVA)などが挙げられる。結合剤の添加量についても特に制限はないが、前記仮焼物紛体を100重量%とした場合に1〜5重量%添加することが好ましい。プレス成形時の成形圧力には特に制限はないが、300MPa程度であることが好ましい。成形体の形状に特に制限はない。本実施形態においては、円板状としたが、角板状など他の形状とすることもできる。
【0066】
そして、得られた成形体を本焼成することにより誘電体1を得る。本焼成は、通常、空気中で施される。また、焼成温度は950〜1400℃であることが好ましく、焼成時間は2〜10時間であることが好ましい。
【0067】
ここで、本焼成の条件を適宜選択することにより、前記αの値を変化させることができる。焼成温度が高いほど前記αの値が低くなる傾向にある。また、焼成時間が長いほど前記αの値が低くなる傾向にある。
【0068】
次いで、得られた誘電体1の両面に、電極2,3を形成する。電極の材質に特に制限はなく、Ag、Au、Cu、Pt、Ni等が用いられる。電極の形成方法は蒸着、スパッタリング、焼付け、無電解めっき等の方法によるが、これら以外の方法を用いることも可能であり、電極の形成方法に特に制限はない。以上の方法で
図1に示すセラミックコンデンサ100を製造できる。
【0069】
また、
図2に示す積層セラミックコンデンサ200は、積層セラミックコンデンサの通常の製造方法により製造することができる。
【0070】
以上、本実施形態に係る単層型のセラミックコンデンサ100および積層セラミックコンデンサ200について説明した。本実施形態に係る誘電体組成物は、高いDCバイアス印加時において高い比誘電率を有し、さらにDCバイアス特性および機械的強度も優れている。そのため、例えば、比較的に定格電圧が高い中高圧コンデンサに好適に用いることができる。
【0071】
本発明に係る誘電体素子、電子部品および積層電子部品は、比較的に高い定格電圧が印加される箇所に好適に用いられる。例えば、高いDCバイアス印加時に高い比誘電率を必要とする箇所、すなわち、回路保護用のスナバコンデンサ、平滑コンデンサ、DC−DCコンバータ、AC−DCインバータ等の高電圧が印加される箇所に好適に用いられる。
【0072】
さらに、本発明に係る誘電体組成物は鉛を含有していない。したがって、本発明に係る誘電体組成物、誘電体素子、電子部品および積層電子部品は環境面においても優れている。
【実施例】
【0073】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本発明において、誘電体組成物、誘電体素子、電子部品および積層電子部品に印加される直流電界をDC(直流)バイアスと呼ぶ。また、DCバイアスの印加前後での静電容量の変化率をDCバイアス特性と呼ぶ。前記静電容量の変化率が小さいほどDCバイアス特性が優れている。
【0074】
(実施例1〜23、比較例1〜10)
酸化ビスマス(Bi
2O
3)、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3)、炭酸バリウム(BaCO
3)、炭酸カルシウム(CaCO
3)、炭酸マグネシウム(MgCO
3)、酸化亜鉛(ZnO)、水酸化ランタン(La(OH)
3)、酸化ネオジウム(Nd
2O
3)、酸化サマリウム(Sm
2O
3)、酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)、酸化チタン(TiO
2)の原料粉末を準備した。ここで、各原料粉末の平均粒径を0.1μm〜1.0μmの範囲で適宜調整し、前記誘電体組成物試料のαが表1に示す値となるようにした。
【0075】
本焼成後の誘電体組成物がSr、Na、BiおよびTiを含有し、Naに対するSrのモル比率βが表1に示す値となり、表1に示す種類および含有量の副成分を有し、さらに、ペロブスカイト型の結晶構造を有するように、上記粉末原料を秤量した。
【0076】
次に、秤量した各原料粉末を、ボールミルにより湿式混合して混合物を得た。前記混合物を、空気中において850℃で2時間仮焼して仮焼物を得た。そして、前記仮焼物をボールミルで湿式粉砕して、仮焼物粉体を得た。次いで、前記仮焼物粉体100重量%に対して、ポリビニルアルコール(PVA)を1重量%添加した。次いで、PVAを添加した仮焼物紛体について、196〜490MPaの圧力で成形し、平面寸法長さ20mm、幅20mm、厚さ1mm程度の角板状成形体を得た。
【0077】
次に、前記角板状成形体を本焼成して誘電体組成物試料を得た。本焼成の焼成条件は、空気中、焼成温度950〜1400℃、焼成時間2〜10時間の範囲で適宜調整し、前記誘電体組成物試料のαが表1に示す値となり、さらに、前記誘電体組成物試料の相対密度が95%以上となるようにした。
【0078】
前記誘電体組成物試料について密度測定を行ったところ、全ての実施例および比較例で、誘電体組成物試料の密度が、理論密度に対し95%以上であった。すなわち、全ての実施例および比較例で、誘電体組成物試料の相対密度が95%以上であった。
【0079】
前記誘電体組成物試料の組成を蛍光X線分析法により分析した。その結果、各試料のβ、およびTiの含有量を100モル部とした場合の副成分の含有率が表1の値となっていることを確認した。
【0080】
前記誘電体組成物試料を研磨により薄板化し、最終的に観察箇所をガリウムイオンビームにより薄片化した。そして、走査透過型電子顕微鏡(STEM)により前記観察箇所を観察した。さらに、同一観察視野でエネルギー分散型X線分析(EDS)を行い、元素分布を確認した。STEMおよびEDSにおける観察視野の大きさは5μm×5μm、観察視野の倍率は40000倍とした。また、前記観察視野は複数設定した。
【0081】
複数の前記観察視野から、周囲全体が粒界に囲まれていることが確認できる粒子を100個選択した。その中でSrTiO
3を含むコア部を少なくとも一つ有するコアシェル粒子(特定粒子)の数をカウントし、前記特定粒子の比率αを以下の式(1)により計算し、各試料のαが表1の値となっていることを確認した。
【0082】
α=(特定粒子の数)/100 ・・・ 式(1)
【0083】
前記誘電体組成物試料に対して、両面ラップ盤およびダイシングソーで加工し、長さ6mm、幅6mm、厚さ0.2mmの加工試料を得た。
【0084】
得られた加工試料の両面にAg電極を蒸着し、評価用試料を作製した。そして、前記評価用試料に対して、以下に示す比誘電率ε1、比誘電率ε2を測定した。さらに、前記ε1、ε2よりDCバイアス特性を算出した。
【0085】
比誘電率ε1は、デジタルLCRメータ(Hewlett−Packard社,4284A)を使用し、室温25℃、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件から測定された静電容量から算出した(単位なし)。
【0086】
比誘電率ε2は、DCバイアス発生装置(GLASSMAN HIGH VOLTAGE社,WX10P90)をデジタルLCRメータ(Hewlett−Packard社,4284A)に接続して、評価用試料に5V/μmのDCバイアスを印加しながら、室温25℃、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件から測定された静電容量、対向電極面積および層間距離から算出した(単位なし)。本実施例では比誘電率ε2は1300以上を良好とした。
【0087】
DCバイアス特性は、比誘電率ε1と比誘電率ε2を用い、下の式(2)より算出した。本実施例では、DCバイアス特性が±20%以内の場合を良好とした。
【0088】
DCバイアス特性(%)=100×(ε2−ε1)/ε1 ・・・ 式(2)
【0089】
さらに、前記誘電体組成物試料に対して両面ラップ盤とダイシングソーにより、長さ7.2mm、幅2.5mm、厚さ0.32mmに加工することで抗折強度測定用試料を作製した。前記抗折強度測定用試料は、一つの実施例(比較例)あたり20個ずつ作製した。
【0090】
前記抗折強度測定用試料から抗折強度を算出した。
【0091】
具体的には、INSTRON社製5543により、支点間距離5mmの3点曲げによって前記抗折強度測定用試料を破壊した時の最大荷重を測定した。一つの実施例(比較例)あたり20回、前記最大荷重を測定し、当該測定結果から抗折強度を算出した。本実施例では抗折強度180MPa以上を良好とした。
【0092】
【表1】
【0093】
表1より、前記特定結晶粒子の比率αが、0.20≦α≦0.70を満たす実施例1〜23の誘電体組成物は、比誘電率ε2が1300以上、かつ、DCバイアス特性が±20%以内、かつ、抗折強度が180MPa以上であった。
【0094】
また、副成分の含有量が、誘電体組成物におけるTiの含有量を100モル部として、0.2モル部以上、14.3モル部以下であり、β≦3.00である実施例1〜6、8〜23の誘電体組成物は、比誘電率ε2が1500以上、DCバイアス特性が±15%以内、かつ、抗折強度が180MPa以上であった。
【0095】
なお、副成分の含有量が、誘電体組成物におけるTiの含有量を100モル部として、0.2モル部以上14.3モル部以下であるが、β>3.00である実施例7は、実施例1〜6、8〜23と比較して比誘電率ε1、ε2が低下し、ε2が1500未満となった。
【0096】
さらに、副成分の含有量が、誘電体組成物1モル部に対して0.2モル部以上14.3モル部以下であり、かつ、Naに対するSrのモル比率βが0.92≦β≦3.00を満たす実施例2〜6、8〜23の誘電体組成物は、5kV/mmのDCバイアス印加時の比誘電率ε2が1500以上、かつ、DCバイアス特性が±15%以内、かつ、抗折強度が200MPa以上であった。
【0097】
それに対し、前記特定結晶粒子の比率αが、0.20≦α≦0.70を満たさない比較例1〜10の誘電体組成物は、比誘電率ε2、DCバイアス特性、抗折強度のうちいずれか一つ以上が好ましくない結果となった。