特許第6591661号(P6591661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591661
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/12 20060101AFI20191007BHJP
   B29C 43/32 20060101ALI20191007BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20191007BHJP
   B29C 70/44 20060101ALI20191007BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20191007BHJP
【FI】
   B29C43/12
   B29C43/32
   B29C70/16
   B29C70/44
   B29K105:08
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-510647(P2018-510647)
(86)(22)【出願日】2017年4月5日
(86)【国際出願番号】JP2017014293
(87)【国際公開番号】WO2017175809
(87)【国際公開日】20171012
【審査請求日】2018年7月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-77126(P2016-77126)
(32)【優先日】2016年4月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】武野 和馬
(72)【発明者】
【氏名】前田 光敏
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼冨 寛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲也
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−214042(JP,A)
【文献】 特開平9−1681(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/071422(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/00−41/52
B29C 70/00−70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型の上に配置された強化繊維基材の上に樹脂組成物が透過する網状シートを載せる配置工程と、
前記成形型の上に配置された前記強化繊維基材及び前記網状シートをバッグフィルムで覆い、前記バッグフィルムと前記成形型の間に密閉された成形空間を形成させる被覆工程と、
前記成形空間の内部に前記樹脂組成物を注入して前記強化繊維基材に含浸させる注入・含浸工程と、
前記強化繊維基材に含浸した前記樹脂組成物を硬化させる樹脂硬化工程と、を備え、
前記網状シートは、
複数の縦糸と緯糸が格子状に配置されており、
前記配置工程において、
前記網状シートを、前記強化繊維基材の角部に対して前記縦糸と前記緯糸が鋭角をなすように、前記網状シートを前記強化繊維基材に載せてから、前記強化繊維基材から張り出す前記網状シートを折り曲げる、
ことを特徴とする複合材の製造方法。
【請求項2】
前記鋭角が40度〜50度である、
請求項1に記載の複合材の製造方法。
【請求項3】
前記網状シートは、
平面視して四角形の形状をなしており、前記四角形を区画する周縁に対して、前記縦糸と前記緯糸が鋭角をなし、
前記配置工程において、
前記網状シートを、前記網状シートの前記周縁と前記強化繊維基材の角部とが平行をなすように前記強化繊維基材に載せてから、前記強化繊維基材から張り出す前記網状シートを折り曲げる、
請求項1に記載の複合材の製造方法。
【請求項4】
前記網状シートは、
平面視して四角形の形状をなしており、前記四角形を区画する周縁に対して、前記縦糸と前記緯糸が鋭角をなし、
前記配置工程において、
前記網状シートを、前記網状シートの前記周縁と前記強化繊維基材の角部とが平行をなすように前記強化繊維基材に載せてから、前記強化繊維基材から張り出す前記網状シートを折り曲げる、
請求項2に記載の複合材の製造方法。
【請求項5】
前記網状シートは、
平面視して四角形の形状をなしており、前記四角形を区画する周縁に対して、前記縦糸と前記緯糸が直交し、
前記配置工程において、
前記網状シートを、前記網状シートの前記周縁と前記強化繊維基材の角部と鋭角をなすように前記強化繊維基材に載せてから、前記強化繊維基材から張り出す前記網状シートを折り曲げる、
請求項1に記載の複合材の製造方法。
【請求項6】
前記網状シートは、
平面視して四角形の形状をなしており、前記四角形を区画する周縁に対して、前記縦糸と前記緯糸が直交し、
前記配置工程において、
前記網状シートを、前記網状シートの前記周縁と前記強化繊維基材の角部と鋭角をなすように前記強化繊維基材に載せてから、前記強化繊維基材から張り出す前記網状シートを折り曲げる、
請求項2に記載の複合材の製造方法。
【請求項7】
前記被覆工程の後に、前記成形空間内も真空引きする真空吸引工程を有し、
前記注入・含浸工程が、真空とされた前記成形空間の内部で行われることを特徴とする、
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材の製造方法に関するものであり、特に、航空機部品等の大型の複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP;Fiber Reinforced Plastics)は、軽量かつ、機械的強度に優れているため、航空機、風車ブレード、自動車、船舶、鉄道車両等の構造部材に使用されている。
繊維強化プラスチックを成形する方法の一つとして、例えば特許文献1に示される真空補助樹脂注入成形法(VaRTM;Vacuum assisted Resin Transfer Molding)が知られている。
【0003】
VaRTM法は、成形型に複数枚の強化繊維基材を積層して配置し、樹脂含浸効率を上げるために強化繊維基材を樹脂拡散用の網状シートであるパスメディアで覆い、さらに強化繊維基材とパスメディアを被覆材であるバッグフィルムで覆う。そして、バッグフィルム内を所定の真空度にまで減圧させることでバッグフィルムの内側に樹脂組成物を注入して、強化繊維基材に含浸させ、次いで含浸させた樹脂を硬化させる。
このVaRTM法は、オートクレーブ成形法で用いるオートクレーブ等の大掛かりな設備が不要であることから、航空機部品のように大型の複合材を製造する方法として、広く普及している。
【0004】
そして、VaRTM法は、日々改良が行われており、例えば特許文献1には、VaRTM法を用いた複合材製品の製造方法であって、強化繊維基材を封入するバッグフィルムの内部に強化繊維が配置されたシリコンバッグを用いることにより、作業効率及び品質を向上させることができる複合材の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5138553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、航空機用の複合材では、良好な、つまり滑らかな、表面性状を有することが要求される。
しかし、強化繊維基材が強化繊維の織物からなり、繊維のある部分とない部分で谷・山が存在するので、樹脂含浸工程において、含浸された樹脂組成物がそのまま硬化すると、谷の部分と山の部分が凹凸となって残る。この凹凸は、バッグフィルムに対向する面側に生ずるが、強化繊維基材のバッグフィルムに対向する面側を適度な剛性を有するフィルム、網等のシート材で覆い、シート材と強化繊維基材の隙間を樹脂組成物が埋めることで、解消できる。
【0007】
一方で、強化繊維基材をシート材で覆うには、積層された強化繊維基材の周縁をなす角部でシート材を折り曲げる必要がある。ところが、剛性の高いシート材を用いると、角部に倣ってシート材を折り曲げることが難しくなる。このように形状追従性の劣るシート材を、その一部に荷重を付加して強引に折り曲げると、折り曲げられた領域の中で局所的にシート材の当たりの強い位置と弱い位置が生じ、成形品の角部及び角部の近傍において、FRP成形後の強化繊維の含有率にばらつきが生じる。
【0008】
以上より本発明は、剛性の高いシート材を用いても、角部におけるシート材の折り曲げが容易な、複合材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の複合材の製造方法は、成形型の上に配置された強化繊維基材の上に樹脂組成物が透過する網状シートを載せる配置工程と、成形型の上に配置された強化繊維基材及び網状シートをバッグフィルムで覆い、バッグフィルムと成形型の間に密閉された成形空間を形成させる被覆工程と、成形空間の内部に樹脂組成物を注入して強化繊維基材に含浸させる注入・含浸工程と、強化繊維基材に含浸した樹脂組成物を硬化させる樹脂硬化工程と、を備え、網状シートは、複数の縦糸と緯糸が格子状に配置されており、配置工程において、網状シートを、強化繊維基材の角部に対して縦糸と緯糸が鋭角をなすように、網状シートを強化繊維基材に載せてから、強化繊維基材から張り出す網状シートを折り曲げる、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の複合材の製造方法において、網状シートの縦糸及び緯糸と強化繊維基材の角部のなす鋭角が40度〜50度である、ことが好ましい。
【0011】
本発明の複合材の製造方法において、網状シートは、平面視して四角形の形状をなしており、四角形を区画する周縁に対して、縦糸と緯糸が鋭角をなし、配置工程において、網状シートを、網状シートの周縁と強化繊維基材の角部とが平行をなすように強化繊維基材に載せてから、強化繊維基材から張り出す網状シートを折り曲げる、ことが好ましい。
【0012】
本発明の複合材の製造方法において、網状シートは、平面視して四角形の形状をなしており、四角形を区画する周縁に対して、縦糸と緯糸が直交し、配置工程において、網状シートを、網状シートの周縁と強化繊維基材の角部と鋭角をなすように強化繊維基材に載せてから、強化繊維基材から張り出す網状シートを折り曲げる、ことが好ましい。
【0013】
本発明の複合材の製造方法において、被覆工程の後に、成形空間内も真空引きする真空吸引工程を有し、注入・含浸工程が、真空とされた成形空間の内部で行われる、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合材の製造方法によれば、剛性の高い網状シートを用いたとしても、角部における網状シートの折り曲げが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は、VaRTM法を適用した本実施形態の成形方法において、被覆工程までを示す断面図であり、(b)は、樹脂硬化工程までを示す断面図であり、(c)は成形された複合材を示す部分断面図である。
図2】バッグ面平滑シートを強化繊維基材の上に載せた状態を示す斜視図である。
図3】(a)は、縦糸と緯糸が辺に対して鋭角をなすバッグ面平滑シートを示す平面図であり、(b)は、縦糸と緯糸が辺に対して直交するバッグ面平滑シートを示す平面図である。
図4図3(a)における縦糸と緯糸の一部を拡大して示す図である。
図5】バッグ面平滑シートにおける強化繊維の配置角度と、バッグ面平滑シートのX方向とY方向の弾性率の差を示すグラフである。
図6図2の一部拡大図である。
図7】バッグ面平滑シートを強化繊維基材の角部で折り曲げたときの当たりの強さを示し、(a)は本実施形態を示す図であり、(b)は比較例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態を、添付図面を参照しながら説明する。
本実施形態は、図1(c)に示すように、複数の強化繊維基材2からなる積層体110と、積層体110に含浸された樹脂組成物Cが硬化してなるマトリックス樹脂120とを有する、複合材100の製造方法に関する。
なお、本実施形態は、本発明にVaRTM法を適用した例に関するものである。また、本明細書及び特許請求の範囲において、「樹脂組成物」との表現は、未だ硬化されていない状態を特定する際に用い、すでに硬化されている場合の「樹脂」と区別されるものである。
【0017】
以下に、複合材100の製造方法について説明する。
[配置工程]
先ず、図2に示すように、成形型1の上に矩形のシート状の強化繊維基材2を所定の枚数だけ重ねる。強化繊維基材2が積層された積層体110が外観状は直方体をなしている。積層体110の上面と4つの側面は、各々角部111を介して繋がっている。そして、図1(a)に示すように、積層体110の上にピールプライ3(離型シート)、ピールプライ3の上にバッグ面平滑シート4を配置する。さらに、バッグ面平滑シート4の上にパスメディア5を配置する。
バッグ面平滑シート4とパスメディア5は、ともに樹脂組成物Cが透過する網状シート材であるが、バッグ面平滑シート4は複合材100のバッグフィルム6に対向する面を平滑にすることを主目的にするのに対して、パスメディア5は積層体110に樹脂組成物Cを一様に迅速に浸透させることを主目的とする。
【0018】
成形型1は、鉄系の金属材料、例えばJIS SS400などの構造用鋼、JIS SUS304などのステンレス鋼、36質量%Ni−Feの典型組成を有するインバー合金から構成される。もっとも、その機能を発揮する限り、成形型1を構成する材質は任意であり、石こう、繊維強化プラスチックなどを用いることができる。成形型1は、本実施形態では強化繊維基材2を載せる面が平坦な直方体状をなしているが、製造したい複合材100の形状に応じて、その形状が特定される。
【0019】
強化繊維基材2は、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等の公知の任意の繊維から構成される。
【0020】
ピールプライ3は、バッグ面平滑シート4及びそれよりも上層のパスメディア5、バッグフィルム6を、図1(c)に示す成形された複合材100から剥離するために設けられる。
ピールプライ3は、後述する成形空間Sの内部に注入される樹脂組成物Cが透過可能で、かつ離形性を有する化学繊維からなる織物で構成される。
【0021】
バッグ面平滑シート4は、注入口8から注入された樹脂組成物Cが透過することを前提とし、適度な剛性を備え、複合材100のバッグフィルム6に対向する面を平滑にする平滑性を備える。
バッグ面平滑シート4は、図3(a)に示すように、表裏を貫通する複数の網目46が形成される網状のシートからなる。注入された樹脂組成物Cは、バッグ面平滑シート4の網目46を通って強化繊維基材2に含浸する(図1(b)参照)。
バッグ面平滑シート4は、平滑性を備えるために網目46の開口寸法(メッシュ)がパスメディア5よりも小さく設定される。
【0022】
バッグ面平滑シート4は、図3(a)に示すように、平面視で四角形をなしているが、本実施形態においては、直方体状の積層体110の上に配置することを考慮して、図2に示すように、積層体110の上面に載せられる本体41と、本体41を区画する四つの周縁45のそれぞれから張り出す四つの折り曲げ部42を有している。なお、図2は、理解を容易にするため、ピールプライ3の記載を省略している。
【0023】
バッグ面平滑シート4は、積層体110に載せてから、積層体110の角部111に対応する、それぞれの折り曲げ部42を本体41との境界部分(周縁45)から下向きに折り曲げることにより、折り曲げ部42を積層体110の側面に接触させる。
【0024】
さらに、バッグ面平滑シート4には、図3(a)に示すように、表面に、縦糸43と緯糸44が格子状に設けられている。この縦糸43と緯糸44は、バッグ面平滑シート4に剛性を付与するための手段である。縦糸43及び緯糸44は、バッグ面平滑シート4に付け加えられた強度付与材である。
【0025】
縦糸43及び緯糸44は、図3(a)に示すように、それぞれが平行に引き揃えられている。縦糸43と緯糸44は交差しており、ここでは直交して格子状に配置される例を示している。
そして、それぞれの縦糸43は、バッグ面平滑シート4の周縁45との角θ1が鋭角を形成するように配置されると、それぞれの緯糸44も、縦糸43と同様に周縁45との角θ2が鋭角を形成するように配置されている。本実施形態では、角θ1と角θ2が45度で一致する例を示している。
このように、角θ1と角θ2の一方が鋭角の場合には、他方も鋭角である。本明細書および特許請求の範囲において、鋭角とは、角θ1と角θ2の両方が鋭角であることをいう。本明細書において角θ1と角θ2のどちらか一方を指して鋭角であるとしている場合も同様である。
【0026】
角θ1及び角θ2は、40度〜50度であることが好ましい。図5に示すように、角θ1が40度〜50度(角θ2が50度〜40度)の範囲内の場合は、バッグ面平滑シート4は、図6に示すX方向、Y方向の両方に、所望の伸縮性を有することになる。それにより、図6に示すように、折り曲げ部42を下向きに折り曲げる際に、角部111と接している箇所が、適度に伸び、積層体110に不均一な強さで当たるのを防ぎ、折り曲げ部42を均一に折り曲げることができる。
特に、角θ1及び角θ2が45度である場合は、X方向、Y方向に略均等に伸びるので、X方向、Y方向の伸縮性の違いを考慮することなく、より容易に折り曲げ部42を折り曲げることができる。
【0027】
さらに、縦糸43と緯糸44が上述した構成を備えることにより、バッグ面平滑シート4は、図6に示すように、周縁45が角部111と略一致するように配置される。そうすると、折り曲げ部42を積層体110の側面に当接させる際に、高い形状追従性が得られるなっている。
具体的には、周縁45が角部111と略一致するように配置されると、縦糸43は、角部111との角θ3が鋭角になるように配置される。そのため、縦糸43を本体41の周縁45と直交するように配置された場合(図6 一点鎖線)と比べて、縦糸43及び緯糸44の本体41の周縁45との角度や、本体41と積層体110の上面が当接している所から出ている長さ等が異なる。そのため、X方向とY方向に伸縮しやすく、縦糸43及び緯糸44は、たわみやすくなっているので、高い形状追従性が得られる。
【0028】
上述した伸縮性と形状追従性により、バッグ面平滑シート4を、周縁45を角部111に一致させて、積層体110の上に載せ、折り曲げ部42を積層体110の側面と接するように下向きに折り曲げると、角部111に対応するバッグ面平滑シート4の部分が、角部111に強く当たることがない。このように本実施形態に従って折り曲げ部42を折り曲げたときの、角部111に対応する領域の当たりの強さを計測した。その結果、図7(a)に示すように、周縁45に沿う角部111に対応する折り曲げ部分が概ね同じ強さで当たる。
図3(b)に示す、縦糸43及び緯糸44が周縁75に直交するバッグ面平滑シート70を、周縁75を角部111に平行になるように複合材100に載せて折り曲げると、図7(b)に示すように、当たりの強い位置と弱い位置が表れる。
【0029】
縦糸43及び緯糸44は、バッグ面平滑シート4に所望する剛性を付与できるものであれば材質は問われないが、例えば、ポリエステル樹脂等の公知の任意の繊維樹脂で構成できる。縦糸43及び緯糸44は、図4に示すように、交互に、一方が上に位置し、他方が下方に位置する。つまり、剛性付与材としての縦糸43,43…と緯糸44,44…が平織されることで形成されている。そして、隣接する、縦糸43同士の間隔Aは、太さDの2倍程度となっている。緯糸44も同様である。
【0030】
バッグ面平滑シート4の上に載せられるパスメディア5は、バッグ面平滑シート4と同様に網状のシートからなるが、注入口8から注入された樹脂組成物Cが積層体110に一様に浸透されるのを促進するために設けられる(図1(b)参照)。
【0031】
パスメディア5は、図示を省略するが、バッグ面平滑シート4と同じ平面形状をなしているが、剛性付与材を有しない。そのため、バッグ面平滑シート4よりも剛性が低い。パスメディア5は、樹脂組成物Cが一様に浸透されるのを促進することを目的とするので、バッグ面平滑シート4よりも剛性が低くてもよい。
【0032】
パスメディア5には、バッグ面平滑シート4と同様に、表裏を貫通する複数の網目が形成されているが、バッグ面平滑シート4よりも、網目の開口寸法(メッシュ)が大きく空隙率が高い。
ここで一般に、VaRTM法に用いるパスメディアは、空隙率が高いほど、樹脂の拡散性が高いと言える。パスメディアの網目を通って流入した樹脂組成物Cは、積層体110との間の空間を流路として拡散し、積層体110に含浸される。
【0033】
[被覆工程]
その後、図1(a)に示すように、上述したように成形型1に設置した、強化繊維基材2、ピールプライ3、バッグ面平滑シート4およびパスメディア5をバッグフィルム6で覆う。バッグフィルム6の周縁と成形型1の上面の間にシール部材11を設けることにより、密閉された成形空間Sがバッグフィルム6と成形型1の間に形成される。強化繊維基材2、ピールプライ3、バッグ面平滑シート4及びパスメディア5は、この成形空間Sに配置される。バッグフィルム6は、吸引口7及び注入口8を備えており、図1(b)に示すように、吸引口7は真空ポンプ9に接続され、注入口8は液状の樹脂組成物Cが貯留される貯留槽10に接続されている。
【0034】
[真空吸引工程]
バッグフィルム6と成形型1の間に成形空間Sを形成したのち、図1(b)に示すように、真空ポンプ9を駆動させて吸引口7から吸引し、成形空間Sを減圧する(真空引き)。成形空間Sの内部に配置される強化繊維基材2には、成形空間S内の圧力とバッグフィルム6の外部の大気圧との差分の圧力からなる成形負荷がバッグ面平滑シート4及びパスメディア5を介して作用する。
したがって、バッグ面平滑シート4が、ピールプライ3を介して積層体110に向かって押し付けられる。バッグ面平滑シート4は、剛性付与材により剛性が高くされている。したがって、後述する樹脂含浸工程において、樹脂組成物Cが自由に流動することにより発生する、複合材100の表面への凹凸の形成を防ぐことができる。
【0035】
[樹脂含浸工程]
そして、さらに成形空間Sの減圧を続けると、図1(b)に示すように、注入口8には貯留槽10が接続されているので、注入口8を介して減圧下の成形空間Sの内部に貯留槽10内の液状の樹脂組成物Cが注入される。成形空間Sに注入された樹脂組成物Cは、パスメディア5、バッグ面平滑シート4及びピールプライ3を順に通過して、強化繊維基材2に含浸される。
【0036】
樹脂組成物Cとしては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂等の加熱することで硬化される熱硬化性樹脂であってもよいし、ナイロン,ポリエチレン,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル,ポリブチレンテレフタレート等に代表される熱可塑性樹脂であってもよい。
【0037】
本実施形態においては、バッグ面平滑シート4の上に、空隙率がバッグ面平滑シート4より高いパスメディア5が配置されている。そのため、樹脂組成物Cの含浸量は、パスメディア5の表面の全域において、ほぼ等しくなる。これにより、バッグ面平滑シート4の網目46がパスメディア5の網目よりも開口寸法が小さく、パスメディア5よりも拡散効率は低くなっていても、積層体110への樹脂組成物Cの均等な拡散が確保できる。
【0038】
このように、バッグ面平滑シート4のみでも樹脂組成物Cの積層体110への供給ができることを前提とし、樹脂組成物Cの拡散速度向上のためにパスメディア5の網目が粗いことによる、複合材100の表面への凹凸の形成を防ぐことができる。
【0039】
[樹脂硬化工程]
必要な量の樹脂組成物Cが強化繊維基材2に含浸された後、含浸された樹脂組成物Cを硬化させる。具体的に、樹脂組成物Cが熱硬化性樹脂である場合には、成形空間Sを加熱することで硬化させる。樹脂組成物Cを加熱するために、任意の加熱装置を用いることができる。一方、樹脂組成物Cが熱可塑性樹脂である場合には、溶融した樹脂を冷却硬化させる。なお、樹脂組成物Cの硬化工程においても、成形空間Sを減圧に維持することが好ましい。
【0040】
[取出し工程]
樹脂組成物Cが硬化した後、減圧及び加熱(または冷却)を解除する。そして、吸引口7と真空ポンプ9の接続及び注入口8と貯留槽10の接続を各々解除したのち、ピールプライ3を硬化した複合材100から剥離し、バッグ面平滑シート4、パスメディア5及びバッグフィルム6を取り外す。その後、成形を終えた複合材100を成形型1から取り外す。
以上で、複合材100の一連の成形工程が終了する。
【0041】
次に、上述した本実施形態に係る複合材100の製造方法により製造される複合材100について説明する。
【0042】
複合材100は、図1(c)に示すように、マトリックス樹脂120と積層体110とを有するものである。積層体110は、マトリックス樹脂120中に、以下説明するように、強化繊維が所定の範囲で含まれることが好ましい。
すなわち、複合材100に含まれる強化繊維の量が少ないと、複合材100の強度を十分に確保できず、逆に、複合材100に含まれる強化繊維の量が多いと、縦糸43と緯糸44の交差箇所が増えて、[樹脂含浸工程]の際に、ボイドが発生するおそれがある。複合材100に含まれる強化繊維の量は、複合材100の用途等により適宜設定することができる。
本実施形態のバッグ面平滑シート4を用いれば、以下説明する角部111のコーナRであっても、角部111及びその近傍における強化繊維の量を、所望の範囲にすることができる。
【0043】
複合材100の形状は、樹脂組成物Cを含浸させる前の積層体110と同様に概ね直方体をなしている。その角部130の寸法は、複合材100の仕様により設定されるべきであるが、図1(c)に示す断面形状で、コーナRを10.0mm以下にすることができ、さらに5.0mm以下にすることができる。この範囲の寸法の角部130であっても、強化繊維の量を所望の範囲内とすることができる。
【0044】
以下、本実施形態の複合材の製造方法、及び複合材が奏する効果を説明する。
本発明によれば、バッグ面平滑シート4を配置させる際に、縦糸43(緯糸44)を、積層体110の角部111との角θ3が鋭角をなすように配置させることにより、折り曲げ部42を折り曲げるときに、上述した[配置工程]において縦糸43(緯糸44)をせん断変形させる。したがって、縦糸43(緯糸44)がコーナRになじみやすい。そのため、図7に示すように、従来と比べて、複合材100の角部130の近傍のFRP成形後の強化繊維の含有率(VF)を均一にすることができる。さらに、上述した[真空吸引工程]においてバッグ面平滑シート4が必要な剛性を有しているので、樹脂組成物Cが自由に流動することにより発生する、複合材100の表面への凹凸の形成を防ぐことができる。その結果、複合材100の表面を、所定の表面粗さにすることができる。
【0045】
また、図3(a)に示すように、縦糸43をバッグ面平滑シート4の周縁45との角θ1が鋭角になるように配置させていることにより、バッグ面平滑シート4を従来と同様に積層体110に載せれば、縦糸43と角部111の角θ3が鋭角になるように配置させることができる。
【0046】
さらに、従来の製造方法において、使用する部材としてバッグ面平滑シート4を追加するだけなので、容易に本発明の実施をすることができる。
【0047】
さらにまた、バッグ面平滑シート4を使用することにより、図3(b)に示すように、周縁45に対して縦糸43が直交しているバッグ面平滑シート70を、鋭角な角θ3が形成されるように周方向に回転させた状態で配置させようとする場合のように、使用前にバッグ面平滑シート4を裁断する工程を必要とせず作業効率を向上させることができる。
【0048】
そして、成形される複合材100が角部130を有していても、角部130近傍のVFを所望の値にすることができ、さらに、角部130が断面形状でR5.0mm以下と小さくても、角部130近傍のVFを所望の値にすることができる。さらに、それらの複合材100を、歩留り良く得ることができる。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0050】
本実施形態に係る複合材100の製造方法は、VaRTM法を例にして説明したが、これに限定されるものではなく、強化繊維基材が配置された成形空間内を減圧しながら、成形空間内に樹脂を注入する樹脂成形法の全般に適用される。例えば、樹脂含浸成形法(RTM:Resin Transfer Molding)や減圧式樹脂含浸成形法(Light-RTM)等のVaRTM法以外の成形法にも適用できる。
【0051】
また、本発明は、図3(b)に示すように、バッグ面平滑シート70を用いてもよい。この場合は、このバッグ面平滑シート70の縦糸43及び緯糸44が、積層体110の角部111と、鋭角な角θ3をなすように、バッグ面平滑シート70を積層体110に載せる位置を調節する。
【0052】
さらに、本実施形態においては、バッグ面平滑シート4に剛性付与材としての縦糸43及び緯糸44を設けたが、本発明はこれに限定されない。バッグ面平滑シート4を構成する縦糸及び緯糸自体をポリエステル、ナイロンなどの剛性の高い材料で構成するとともに、その線径を設定することにより、剛性を付与することもできる。
パスメディア5についても同様であり、縦糸43及び緯糸44のような剛性付与材を設けることができるし、パスメディア5を構成する縦糸及び緯糸自体をポリエステル、ナイロンなどの剛性の高い材料で構成するとともに、その線径を設定することにより、剛性を付与することもできる。これにより、[真空吸引工程]において、樹脂組成物Cが自由に流動することにより発生する、複合材100の表面への凹凸の形成をより確実に防ぐことができる。
【0053】
また、本実施形態の製造方法では、バッグ面平滑シート4とパスメディア5という二つの網状シートを用いているが、本発明は一つの網状シートだけを用いることを許容する。これにより、製造方法に用いる部材の点数を少なくできる。
【0054】
バッグ面平滑シート4及びパスメディア5は、網目が設けられ樹脂組成物Cが流入する空隙が形成されていたが、製造する複合材100に応じてバッグ面平滑シート4及びパスメディア5の材質を変えることができる。これにより、複合材100の表面性状が良好になったり、作業効率が向上したりすることがある。
【0055】
複合材100の形状は、直方体だけでなく、その用途に応じて様々な形状から適宜選択できる。その場合は、選択した形状と略等しい、積層体110を用意する必要がある。
【符号の説明】
【0056】
1 成形型
2 強化繊維基材
3 ピールプライ
4 バッグ面平滑シート
41 本体
42 折り曲げ部
43 縦糸
44 緯糸
45 周縁
46 網目
5 パスメディア
6 バッグフィルム
7 吸引口
8 注入口
9 真空ポンプ
10 貯留槽
70 バッグ面平滑シート
75 周縁
100 複合材
110 積層体
111 角部
120 マトリックス樹脂
130 角部
A 間隔
D 太さ
S 成形空間
C 樹脂組成物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7