(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591702
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】従来の非水性変換剤を用いないカルシウムマグネシウムスルホネートグリースの組成物及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 177/00 20060101AFI20191007BHJP
C10M 121/04 20060101ALI20191007BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20191007BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20191007BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20191007BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20191007BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20191007BHJP
C10N 70/00 20060101ALN20191007BHJP
【FI】
C10M177/00
C10M121/04
C10N10:02
C10N10:04
C10N30:00 Z
C10N30:08
C10N50:10
C10N70:00
【請求項の数】35
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2018-560572(P2018-560572)
(86)(22)【出願日】2017年5月15日
(65)【公表番号】特表2019-516838(P2019-516838A)
(43)【公表日】2019年6月20日
(86)【国際出願番号】US2017032684
(87)【国際公開番号】WO2017200928
(87)【国際公開日】20171123
【審査請求日】2019年2月14日
(31)【優先権主張番号】62/338,193
(32)【優先日】2016年5月18日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15/593,912
(32)【優先日】2017年5月12日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506041682
【氏名又は名称】エヌシーエイチ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】NCH CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェイニック,ジェイ.,アンドリュー
【審査官】
松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−160356(JP,A)
【文献】
特表2014−532785(JP,A)
【文献】
特表2014−532786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホネート系グリースの製造方法において、
非晶質炭酸カルシウムが分散した過塩基性カルシウムスルホネートと、過塩基性マグネシウムスルホネートと、任意選択的な基油と、水とを加えて混合して、変換前混合物を作る工程と、
非晶質炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウムへの変換が起こるまで加熱することによって、変換前混合物を変換混合物に変換させる工程と、
を含んでおり、
従来の非水性変換剤が変換前混合物に添加されない、方法。
【請求項2】
過塩基性カルシウムスルホネートの量は、最終グリースの重量に基づいて10乃至45重量%であり、過塩基性マグネシウムスルホネートの量は、最終グリースの重量に基づいて0.1乃至30重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
過塩基性カルシウムスルホネートの量は、最終グリースの重量に基づいて10乃至36重量%であり、過塩基性マグネシウムスルホネートの量は、最終グリースの重量に基づいて1乃至24重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
過塩基性マグネシウムスルホネートの第1の部分が変換前混合物に加えられ、過塩基性マグネシウムスルホネートの第2の部分が変換混合物に加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
マグネシウムスルホネートの総量の0.25乃至95重量%が第1の部分として加えられる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
マグネシウムスルホネートの総量の1乃至75重量%が第1の部分として加えられる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
マグネシウムスルホネートの第1及び第2の部分は合わせて、最終グリースの0.2乃至30重量%であり、マグネシウムスルホネートの第1の部分は最終グリースの0.1乃至20重量%である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
マグネシウムスルホネートの第1及び第2の部分は合わせて、最終グリースの0.1乃至30重量%であり、マグネシウムスルホネートの第1の部分は最終グリースの0.5乃至15重量%である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
変換混合物は、300°F(148.9℃)を超える温度に加熱され、次に、250°F未満の温度に冷却され、変換混合物が250°F(121.1℃)未満の温度に冷却された後に、マグネシウムスルホネートの第2の部分が加えられる、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
変換前混合物、変換混合物、又はそれら両方に、1又は複数種のカルシウム含有塩基を加えて混合する工程と、
変換前混合物、変換混合物、又はそれら両方に、1又は複数種の酸を加えて混合する工程と、
を更に含んでおり、
水、1又は複数種のカルシウム含有塩基の1つ、1又は複数種の酸の1つ、或いは、それらの任意の部分の添加と、過塩基性マグネシウムスルホネートの少なくとも一部の添加との間に、1又は複数のマグネシウムスルホネート遅延期間が存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
1又は複数のマグネシウムスルホネート遅延期間の少なくとも1つが保持遅延期間であって、当該保持遅延期間では、マグネシウムスルホネートの少なくとも一部を加える前の期間、水と、1又は複数種のカルシウム含有塩基の1つ以上と、1又は複数種の酸の1つ以上と、或いはそれらの部分とを含む混合物が、ある温度又はある温度範囲内に維持され、
或いは、 1又は複数のマグネシウムスルホネート遅延期間の少なくとも1つが温度調節遅延期間であって、当該温度調節遅延期間では、水と、1又は複数種のカルシウム含有塩基の1つ以上と、1又は複数種の酸の1つ以上と、或いはそれらの部分とを含む混合物が、マグネシウムスルホネートの少なくとも一部を加える前に加熱又は冷却される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1又は複数種の酸の1つは、変換前混合物に加えられる促進酸であり、その促進酸の添加とマグネシウムスルホネートの少なくとも一部の添加との間に少なくとも1つのマグネシウムスルホネート遅延期間が存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
マグネシウムスルホネートの第1の部分が変換前混合物に加えられ、マグネシウムスルホネートの第2の部分が変換混合物に加えられ、
マグネシウムスルホネートの第1の部分、マグネシウムスルホネートの第2の部分、又はそれら両方の添加の前に、マグネシウムスルホネート遅延期間が存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
カルシウム含有塩基が、カルシウムヒドロキシアパタイト、付加炭酸カルシウム、付加水酸化カルシウム、付加酸化カルシウム、又はそれらの組合せである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
変換前混合物、変換混合物、又はそれら両方にアルカリ金属水酸化物を加えて混合する工程を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
カルシウムヒドロキシアパタイト、付加炭酸カルシウム、付加水酸化カルシウム、付加酸化カルシウム、又はそれらの組合せを、変換前混合物、変換混合物、又はそれら両方に加える工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
カルシウムヒドロキシアパタイト、付加炭酸カルシウム、付加水酸化カルシウム、付加酸化カルシウム、又はそれらの組合せの合計量が、最終グリースの重量に基づいて2.7乃至41.2重量%である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
1又は複数種のコンプレックス化酸を、最終グリースの重量に基づいて1.25乃至18重量%の総量で加え、混合する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
過塩基性カルシウムスルホネートが、低品質過塩基性カルシウムスルホネートである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
過塩基性カルシウムスルホネートと、過塩基性マグネシウムスルホネートと、水と、任意選択的に基油とを成分として含んでおり、
水が唯一の従来の変換剤である、スルホネート系グリース組成物。
【請求項21】
1又は複数種のカルシウム含有塩基と、1又は複数種のコンプレックス化酸と、1又は複数種の促進酸と、或いは、アルカリ金属水酸化物とを更に含む、請求項20に記載のスルホネート系グリース組成物。
【請求項22】
過塩基性カルシウムスルホネートの量が、過塩基性マグネシウムスルホネートの量の1.5乃至100倍である、請求項21に記載のスルホネート系グリース組成物。
【請求項23】
過塩基性カルシウムスルホネートの量は、最終グリースの重量に基づいて0乃至45重量%であり、過塩基性マグネシウムスルホネートの量は、最終グリースの重量に基づいて0.1乃至30重量%である、請求項20に記載のスルホネート系グリース組成物。
【請求項24】
過塩基性カルシウムスルホネートの量は、最終グリースの重量に基づいて10乃至36重量%であり、過塩基性マグネシウムスルホネートの量は、最終グリースの重量に基づいて1乃至24重量%である、請求項20に記載のスルホネート系グリース組成物。
【請求項25】
カルシウム含有塩基が、カルシウムヒドロキシアパタイト、付加炭酸カルシウム、付加酸化カルシウム、付加水酸化カルシウム、或いは、これらの組合せであり、カルシウム含有塩基の総量が、最終グリースの重量に基づいて2.7乃至41.2重量%である、請求項21に記載のスルホネート系グリース組成物。
【請求項26】
アルカリ金属水酸化物の量が、最終グリースの重量に基づいて0.005乃至0.5重量%である、請求項25に記載のスルホネート系グリース組成物。
【請求項27】
1又は複数種のコンプレックス化酸の総量が、最終グリースの重量に基づいて1.25乃至18重量%である、請求項25に記載のスルホネート系グリース組成物。
【請求項28】
過塩基性カルシウムスルホネートと、過塩基性マグネシウムスルホネートと、水と、と任意選択的に基油とを含んでおり、水が唯一の従来の変換剤である、変換前スルホネート系グリース組成物。
【請求項29】
過塩基性カルシウムスルホネート対過塩基性マグネシウムスルホネートの比は、重量基準で100:1乃至60:40である、請求項28に記載の変換前スルホネート系グリース組成物。
【請求項30】
過塩基性カルシウムスルホネート対過塩基性マグネシウムスルホネートの比は、重量基準で90:10乃至70:30である、請求項28に記載の変換前スルホネート系グリース組成物。
【請求項31】
促進酸を変換前混合物に加えて混ぜる工程を更に含んでおり、
促進酸の添加と、その次に加えられる成分の少なくとも一部の添加との間には、1又は複数の促進酸遅延期間があり、当該1又は複数の促進酸遅延期間は、
促進酸の添加と他の成分の少なくとも一部の次の添加との間に、初期混合物が20分以上の期間にわたってある温度又はある温度範囲に保持される促進酸保持遅延期間を、
促進酸を添加した後、他の成分の少なくとも一部を次に添加する前、初期混合物をある温度又はある温度範囲に加熱又は冷却する促進酸温度調節遅延期間を、
又は、それらの組合せを、
含む、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1つの促進酸温度調節遅延期間があって、当該促進酸温度調節遅延期間では、促進酸を添加した後、他の成分の少なくとも一部が次に添加される前に、変換前混合物が190乃至200°F(87.8乃至93.3℃)の温度範囲に加熱される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
少なくとも1つの促進酸保持遅延期間があって、当該促進酸保持遅延期間では、他の成分の少なくとも一部が次に添加される前に、変換前混合物が、20乃至30分間、190乃至200°F(87.8乃至93.3℃)の温度範囲に保持される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
次に添加される成分が促進酸と反応する場合、促進酸保持遅延期間は20分以上である、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
促進酸保持遅延期間が30分以上である、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]
本出願は、2016年5月18日に出願された米国仮特許出願第62/338,193号について利益及び優先権を主張している。
【背景技術】
【0002】
[1.技術分野]
本発明は、滴点が高く、増ちょう剤収率(thickener yield)が良好なスルホネート系グリースを作製するために、従来の非水性変換剤を使用せずに作製される過塩基性カルシウムマグネシウムスルホネートグリースに関している。本発明はまた、以下の方法又は成分の1つ又は複数と組み合わせて、従来の非水性変換剤を用いずに作製されたそのようなグリースに関する:(1)コンプレックス化酸(complexing acid)と反応するためのカルシウム含有塩基として、カルシウムヒドロキシアパタイト及び/又は付加結晶性炭酸カルシウムを加えること;(2)アルカリ金属水酸化物の添加;(3)マグネシウムスルホネートの遅延添加;(4)マグネシウムスルホネートの分割添加;又は(5)促進酸の添加と次に続く成分の添加との間の遅延。
【0003】
[2.関連技術の説明]
過塩基性カルシウムスルホネートグリースは、長年にわたって確立されているグリースのカテゴリである。そのようなグリースを作製する1つの公知の方法は、「プロモーション(promotion)」及び「変換(conversion)」の工程を含む二工程処理である。一般に、第1の工程(「プロモーション」)は、塩基源としての酸化カルシウム(CaO)又は水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)の化学量論過剰量を、アルキルベンゼンスルホン酸、二酸化炭素(CO
2)、及び他の成分と反応させて、非晶質炭酸カルシウムが分散した油溶性過塩基性カルシウムスルホネートを生成するものである。これらの過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、一般に、澄明で輝いており、ニュートンレオロジーを有している。それらは、僅かに濁っている場合もあるが、そのようなばらつきは、過塩基性カルシウムスルホネートグリースの調製における使用を妨げるものではない。本開示の目的に関して、「過塩基性油溶性カルシウムスルホネート」及び「油溶性過塩基性カルシウムスルホネート」並びに「過塩基性カルシウムスルホネート」の用語は、カルシウムスルホネートグリースを作製するのに好適な任意の過塩基性カルシウムスルホネートを指す。
【0004】
一般に、第2の工程(「プロモーション」)は、必要であれば、初期グリースが非常に硬くなるのを避けるために適切な基油(鉱油など)と共に変換剤をプロモーション工程での産物に加えて、非常に微粉である結晶性炭酸カルシウムの分散物(カルサイト)へと、過塩基性カルシウムスルホネートに含まれる非晶質炭酸カルシウムを変換するものである。従来技術の変換剤には、水と、プロピレングリコール、イソプロピルアルコール、ギ酸や酢酸などの非水性変換剤とが挙げられる。酢酸又は他の酸が変換剤として使用される場合、典型的には、水と別の非水性変換剤(アルコールのような第3の変換剤)とが更に使用される。或いは、水のみが(第3の変換剤を用いずに)加えられる場合には、変換は、典型的には、加圧容器内で起こる。過塩基性とするために、過剰な水酸化カルシウム又は酸化カルシウムが使用されるので、残存する少量の酸化カルシウム又は水酸化カルシウムも、油溶性過塩基性カルシウムスルホネートに含まれる一部として存在しているかも知れず、それらは、初期グリース構造中に分散するであろう。変換によって形成された、極めて微粉の炭酸カルシウムは、コロイド分散としても知られ、カルシウムスルホネートと相互作用してグリース様粘ちょう性(grease-like consistency)を成す。二工程処理を通じて生成されるそのような過塩基性カルシウムスルホネートグリースは、「単純カルシウムスルホネートグリース(simple calcium sulfonate greases)」として知られており、例えば、米国特許第3,242,079号、米国特許第3,372,115号、米国特許第3,376,222号、米国特許第3,377,283号及び米国特許第3,492,231号に開示されている。
【0005】
反応を注意深く制御することにより、これら2つの工程を組み合わせて単一の工程とすることも、従来技術において知られている。この一工程処理において、単純カルシウムスルホネートグリースは、二酸化炭素、並びに、促進剤(二酸化炭素と過剰量の酸化カルシウム又は水酸化カルシウムとの反応によって非晶質炭酸カルシウム過塩基化が生じる)、及び、変換剤(非晶質炭酸カルシウムを非常に微粉の結晶性炭酸カルシウムへと変換する)の双方として同時に作用する反応物系の存在下で、適当なスルホン酸が水酸化カルシウム又は酸化カルシウムの何れかと反応することによって調製される。従って、グリース様粘ちょう性は、過塩基性油溶性カルシウムスルホネート(二工程処理における第1の工程の産物)が、実際に形成されて別産物として分離することのないような単一の工程で生じる。この一工程処理は、例えば、米国特許第3,661,622号、米国特許第3,671,012号、米国特許第3,746,643号及び米国特許第3,816,310号に開示されている。
【0006】
単純カルシウムスルホネートグリースの他に、カルシウムスルホネートコンプレックスグリースも、従来技術において知られている。これらのコンプレックスグリースは、一般に、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムなどのカルシウム含有強塩基を、二工程処理又は一工程処理の何れかで作製される単純カルシウムスルホネートグリースに加えて、化学量論等量まで、12−ヒドロキシステアリン酸、ホウ酸、酢酸又はリン酸などのコンプレックス化酸(変換前に加えられる場合には、変換剤であってもよい)と反応させることによって作製される。単純グリースに対して主張されているカルシウムスルホネートコンプレックスグリースの利点には、粘着性が低下すること、圧送性(pumpability)が改善されること、及び高温実用性が改善されることが含まれる。カルシウムスルホネートコンプレックスグリースは、米国特許第4,560,489号、米国特許第5,126,062号、米国特許第5,308,514号及び米国特許第5,338,467号に開示されている。
【0007】
更に、(最終グリース中の過塩基性カルシウムスルホネートの割合をより少なくすることによって)改善された増ちょう剤収率及び滴点の両方をもたらす、カルシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物とその製造方法とがあることが望ましい。本明細書では、用語「増ちょう剤収率」は、 潤滑グリース製造において一般的に使用される標準的な浸透試験ASTM D217又はD1403によって測定されるような、グリースに特定の所望の粘ちょう性を与えるために必要とされる高過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの濃度である。用語「滴点」は、潤滑グリース製造に一般的に使用される標準滴点試験ASTM D2265を用いて得られた値を指す。公知の従来技術の組成物及び方法論の多くは、少なくとも575°Fの滴点を有し、NLGI No.2カテゴリに適したグリースを達成するために、(最終グリース生成物の重量比で)最低でも36%という量の過塩基性カルシウムスルホネートを必要とする。過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、カルシウムスルホネートグリースの製造において最も高価な成分の一つであり、従って、最終のグリースにおけて所望のレベルの硬度をなお維持しながら、この成分の量を低減する(それによって、増ちょう剤収率を高める)ことが望ましい。
【0008】
十分に高い滴点を維持しながら増ちょう剤の収率を向上させる既知の幾つかの組成物及び方法がある。例えば、使用する過塩基性カルシウムスルホネートの量を実質的に減少させるために、多くの先行技術文献は高圧反応器を利用している。具体的には、過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合が36%未満で、ちょう度がNLGI No.2グレード内にある(又は、グリースの60往復混和ちょう度が265乃至295である)場合に、高圧反応器を要することなく、滴点が常に575°F以上である過塩基性カルシウムスルホネートグリースを得ることが望ましい。滴点は、潤滑グリースの高温実用限界についての、第一の且つ最も容易に定められる指針なので、より高い滴点が望ましいと考えられる。
【0009】
また、必要とする過塩基性カルシウムスルホネートが36%未満である過塩基性カルシウムスルホネートグリースは、米国特許第9,273,265号及び第9,458,406号に記載された組成物及び方法を用いて達成される。‘265特許及び‘406特許は、コンプレックス過塩基性カルシウムスルホネートグリースを作製する際のコンプレックス化酸との反応のためのカルシウム含有塩基として、付加結晶性炭酸カルシウム及び/又は付加カルシウムヒドロキシアパタイト(付加水酸化カルシウム又は酸化カルシウムがあってもなくともよい)を使用することを教示している。これらの特許の以前に、公知の先行技術は、カルシウムスルホネートグリースの製造のための塩基性カルシウムの供給源として、或いは、カルシウムスルホネートコンプレックスグリースを形成するためのコンプレックス化酸との反応に必要な成分として、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムの使用を決まって教示していた。公知の先行技術は、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムの添加が、コンプレックス化酸と完全に反応するのに十分な水酸化カルシウム又は酸化カルシウムの全レベルを提供するのに十分な量(過塩基性油溶性カルシウムスルホネートに存在する量の水酸化カルシウム又は酸化カルシウムに足される場合)である必要があることを教示していた。また、公知の先行技術は一般に、炭酸カルシウムの存在(炭酸塩化後にカルシウムスルホネート中に分散された非晶質炭酸カルシウムの存在ではなく、別個の成分として、或いは、水酸化カルシウム又は酸化カルシウム中の「不純物」として)は、少なくとも2つの理由で避けられるべきであると教示していた。第1の理由は、炭酸カルシウムは一般に弱塩基であると考えられており、コンプレックス化酸と反応して最適なグリース構造を形成するのには不適切である。第2の理由は、未反応固体カルシウム化合物(炭酸カルシウム、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムを含む)の存在が変換プロセスを妨害し、その結果、未反応固体が変換前又は変換前に除去されない場合にはグリースが粗悪になることである。しかしながら、‘265特許及び‘406特許に記載されているように、本出願人は、別個の成分として(過塩基性カルシウムスルホネート中に含有する炭酸カルシウムの量に加えて)炭酸カルシウム、カルシウムヒドロキシアパタイト、又はそれらの組合せを、付加水酸化カルシウム又は酸化カルシウムの有無に拘わらず、コンプレックス化酸と反応する成分として加えることで、優れたグリースを作製することを明らかにした。
【0010】
‘265特許及び‘406特許に加えて、(過塩基性カルシウムスルホネートに含まれる量の炭酸カルシウムに加えて)別個の成分として結晶性炭酸カルシウムの添加を開示する2つの先行技術文献があるが、(従来技術が教示するように)それらのグリースの増ちょう剤収率は低く、又は、ナノサイズの炭酸カルシウム粒子を必要とする。例えば、米国特許第5,126,062号は、コンプレックスグリースを形成する際に別個の成分として5乃至15%の炭酸カルシウムを加えることを開示しているが、コンプレックス化酸と反応させるために水酸化カルシウムの添加も必要とする。その付加炭酸カルシウムは、‘062特許において、コンプレックス化酸と反応する塩基を有する唯一の付加カルシウムではない。実際には、付加炭酸カルシウムは、コンプレックス化酸との反応のための塩基性反応物として明確に加えられていない。代わりに、付加水酸化カルシウムが、全てのコンプレックス化酸との反応のための特定のカルシウム含有塩基として必要とされている。更に、得られたNLGI No.2グリースは、36%乃至47.4%の過塩基性カルシウムスルホネートを含んでおり、この高価な成分は、かなりの量である。別の例では、中国公報CN101993767は、炭酸カルシウムのナノサイズ粒子(5乃至300nmの大きさ)を、過塩基性カルシウムスルホネートに加えることを開示しているが、コンプレックス化酸と反応させるために、炭酸カルシウムのナノサイズ粒子が反応物として加えられること、又は、カルシウム含有塩基のみが別個に加えられることを示していない。グリースの増ちょうにナノサイズの粒子を加えると、グリースが硬いままになり、これは、過塩基性カルシウムスルホネート中に含まれる非晶質炭酸カルシウムを変換することによって形成された結晶性炭酸カルシウムの微細分散とよく似ているが(‘467特許によれば、約20Å乃至5000Å又は約2nm乃至500nmであり得る)、付加炭酸カルシウムがより大きなサイズの粒子である場合よりも大幅にコストを増加させるであろう。この中国特許出願は、正しいナノ粒径を有する付加炭酸カルシウムの絶対的な必要性を非常に強調している。米国特許第9,273,265号に記載されている発明に基づく実施例のグリースで示されているように、コンプレックス化酸と反応するための唯一の付加カルシウム含有塩基として付加炭酸カルシウムを用いる場合に、非常に高価なナノサイズの粒子の使用を必要とすることなく、ミクロンサイズの炭酸カルシウムを加えることによって優れたグリースを形成することができる。
【0011】
潤滑グリースの添加剤としてリン酸三カルシウムを使用する先行技術文献も存在している。例えば、米国特許第4,787,992号、米国特許第4,830,767号、米国特許第4,902,435号、米国特許第4,904,399号、及び米国特許第4,929,371号は全て、潤滑グリースの添加剤としてリン酸三カルシウムを使用することを教示している。しかしながら、‘406特許よりも前に、カルシウムスルホネート系グリースを含む潤滑グリースを作るために、酸と反応するカルシウム含有塩基として、約1100℃の融点を有しており、式Ca
5(PO
4)
3OH又は数学的に等価な式を有するカルシウムヒドロキシアパタイトの使用を教示する先行技術文献は存在していなかったと思われる。米国特許出願公開第2009/0305920号を含む、日本の昭和シェル石油に帰属する幾つかの先行技術文献があり、リン酸三カルシウム及びCa
3(PO
4)
2を含むグリースを記載しており、リン酸三カルシウムの源として、式[Ca
3(PO
4)
2]
3.Ca(OH)
2を有する「ヒドロキシアパタイト」に言及している。この「ヒドロキシアパタイト」への言及は、リン酸三カルシウムと水酸化カルシウムとの混合物として開示されていることから、‘406特許で開示されて特許請求の範囲に記載されており、式Ca
5(PO
4)
3OH又は数学的に等価な式を有しており、約1100℃の融点を有しているカルシウムヒドロキシアパタイトとは異なる。誤解を招く用語法ではあるが、カルシウムヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、及び水酸化カルシウムは、夫々異なる化学式、構造及び融点を有する異なる化学化合物である。一緒に混ぜると、2つの異なる結晶化合物であるリン酸三カルシウム(Ca
3(PO
4)
2)と水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)は互いに反応しないか、異なる結晶化合物カルシウムヒドロキシアパタイト(Ca
5(PO
4)
3OH)を生成する。リン酸三カルシウム(式Ca
3(PO
4)
2)の融点は1670℃である。水酸化カルシウムは融点を持たず、代わりに水分子を失って580℃で酸化カルシウムを形成する。このようにして形成された酸化カルシウムは、2580℃の融点を有する。カルシウムヒドロキシアパタイト(式Ca
5(PO
4)
3OH又は数学的に等価な式を有する)は、約1100℃の融点を有する。従って、用語法が如何にずさんであろうと、カルシウムヒドロキシアパタイトは、リン酸三カルシウムと同じ化合物ではなく、リン酸三カルシウムと水酸化カルシウムの単なる混合物ではない。
【0012】
無水カルシウム−石鹸増粘グリースのような単純カルシウム石鹸グリースにアルカリ金属水酸化物を加えることも知られている。しかしながら、米国特許出願第15/130,422の開示の以前に、カルシウムスルホネートグリースにアルカリ金属水酸化物を加えることで、増ちょう剤収率の改善と高い滴点とがもたらされることは知られていない。何故ならば、この添加は、当業者には不要と考えられるからであろう。水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物を単純カルシウム石鹸グリースに加える理由は、一般的に使用される水酸化カルシウムは水溶性が低く、水溶性がより高い水酸化ナトリウムよりも弱い塩基であるからである。このために、付加した水に溶解した少量の水酸化ナトリウムは、石鹸形成脂肪酸(通常は、12−ヒドロキシステアリン酸又は12−ヒドロキシステアリン酸とオレイン酸などの非ヒドロキシル化脂肪酸との混合物)と素早く反応して、ナトリウム石鹸を形成すると言われている。この素早い反応は、「口火を切る(get the ball rolling)」と考えられている。しかしながら、水酸化カルシウムのようなカルシウム含有塩基と脂肪酸との直接反応は、カルシウムスルホネートコンプレックスグリースを作製する際に何も問題になっていない。この反応は、存在する大量のカルシウムスルホネートの界面活性/分散性が高いことから、非常に容易に起こる。このように、先行技術では、コンプレックス化酸を水酸化カルシウムと反応させるために、カルシウムスルホネートグリースにアルカリ金属水酸化物を使用することは知られていない。
【0013】
従来の非水性変換剤を使用せずにカルシウムマグネシウムスルホネートグリースを作製することは、以前から知られていなかった。向上した増ちょう剤収率と高い滴量とを有するスルホネート系グリースを作製する際に、種々の成分と手法を組み合わせることも知られていない。例えば、従来の非水性変換剤の添加を省くことと、(1)マグネシウムスルホネートの分割添加法、マグネシウムスルホネートの遅延添加法、又は分割添加法と遅延添加法の組合せ;(2)コンプレックス化酸と反応するカルシウム含有塩基(塩基性カルシウム化合物とも呼ばれる)としての、カルシウムヒドロキシアパタイト、付加結晶性炭酸カルシウム、又はそれらの組合せの使用(付加水酸化カルシウム又は酸化カルシウムの有無に拘らない)、(3)アルカリ金属水酸化物の添加、(4)促進酸遅延、又は(5)これらの方法及び成分の組合せ、と組み合わせることは知られていない。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、カルシウムマグネシウムスルホネートグリースと、変換前に従来の非水性変換剤を加えることなくそのようなグリースを作製する方法とに関しており、増ちょう剤収率(許容される粘ちょう性測定値を維持しながら、必要とされる過塩基性カルシウムスルホネートが少ない)と、滴点によって示されるような、予想される高温有用性の両方の改善をもたらすものである。本明細書では、過塩基性マグネシウムスルホネートを含有するカルシウムスルホネートグリース(又は過塩基性カルシウムスルホネートグリース)は、カルシウムマグネシウムスルホネートグリース、過塩基性カルシウムマグネシウムスルホネートグリース、又はスルホネート系グリースと呼ばれることがある。本明細書では、「従来の非水性変換剤」は、(二役のコンプレックス化酸変換剤ではなく)変換剤としてのみ機能する(水以外の)変換剤を指し、変換前に組成物に加えられる。このような従来の非水性変換剤は、希釈剤又は不純物として多少の水を含んでいることがある。従来の非水性変換剤の例には、変換前に加えられるアルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールポリエーテル、その他の多価アルコール及びそれらの誘導体が挙げられる。このような成分は、必要に応じて、本発明の種々の実施形態の範囲内で変換後に加えられてよい。なぜならば、それらは、変換が完了した後では、変換剤として作用しないからであり、その場合には「従来の非水性変換剤」とは考えられない。
【0015】
好ましい一実施形態によれば、スルホネート系グリースは、過塩基性カルシウムスルホネートと、過塩基性マグネシウムスルホネートと、任意選択的に基油と、変換剤としての水とを混合することによって、従来の非水性変換剤(例えば、ヘキシレングリコール)の変換前の添加なしに作製することができる。マグネシウムスルホネートは、(引用により本明細書に組み込まれる、同時係属中の米国特許出願第15/593,792号に更に記載されているように)全てを一度に、分割添加法で、マグネシウムスルホネート遅延添加で法、又は分割添加法と遅延添加法を組み合わせて、加えられてもよい。理論に拘束されることはないが、マグネシウムスルホネートが変換剤として作用すると思われる。マグネシウムスルホネートは、変換剤として使用することはこれまで知られていないので、本明細書では「従来にはない」変換剤と呼ばれることがある。
【0016】
好ましい別の実施形態によれば、コンプレックスグリースが所望される場合、1又は複数種のコンプレックス化酸もまた、変換前、変換後、又はそれら両方で加えられる。幾つかのコンプレックス化酸は、変換に先立って変換剤として作用することも知られている。二役変換剤−コンプレックス化酸は、本明細書における従来の非水性変換剤であるとは考えられず、マグネシウムスルホネートも加えられ、従来の非水性変換剤は加えられないとの条件で、本発明の様々な実施形態に基づいて変換前に加えられてよい。
【0017】
好ましい別の実施形態によれば、過塩基性カルシウムスルホネートが‘406特許に記載及び定義されているような「低」品質であると考えられる場合でさえも、従来の非水性変換剤が省かれる場合において、改善された増ちょう剤収率と十分に高い滴点とが達成される。他の好ましい実施形態によれば、スルホネート系グリースは、以下の成分又は方法の1又は複数と組み合わせて、変換する前に従来の非水性変換剤を加えることなく作製される:(1)カルシウム含有塩基として付加水酸化カルシウム及び/又は付加酸化カルシウムを別々に加え、又は加えることなく、コンプレックス化酸と反応させるためのカルシウム含有塩基としてカルシウムヒドロキシアパタイト及び/又は付加炭酸カルシウムを加えること;(2)アルカリ金属水酸化物(最も好ましくは水酸化リチウム)の添加;又は(3)促進酸遅延。これらの追加の方法及び成分は、米国特許出願第13/664,768号(現在米国特許第9,458,406号)、第13/664,574号(現在は米国特許第9,273,265号)、第15/130,422号、第15/593,792号及び第15/593,839号に記載されており、これらは参照により、本明細書に組み込まれる。参照を容易にするために、‘792出願に記載されている過塩基性マグネシウムスルホネートの添加に関する遅延は、マグネシウムスルホネート遅延期間又はマグネシウムスルホネート遅延法(又は類似の用語)と呼ばれる。‘839出願に記載されているような促進酸に対する遅延は、促進酸遅延期間又は促進酸遅延法(又は類似の用語)と呼ばれる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい一実施形態によれば、過塩基性カルシウムスルホネートと、過塩基性マグネシウムスルホネートと、変換剤としての水とを含んでいるカルシウムマグネシウムスルホネートグリース組成物が提供されて、従来の非水性変換剤は成分として組成物に加えられない。言い換えると、水と、マグネシウムスルホネートと、任意選択的な二役のコンプレックス化酸−変換剤とだけが、組成物に加えられる変換剤成分である。好ましい別の実施形態によれば、カルシウムマグネシウムスルホネート単純又はコンプレックスグリース組成物は、基油と、1又は複数種の付加カルシウム含有塩基と、任意選択的な促進酸とを更に含んでいる。好ましい別の実施形態によれば、カルシウムマグネシウムスルホネートコンプレックスグリース組成物は、1又は複数種のコンプレックス化酸を更に含む。
【0020】
幾つかの好ましい実施形態によれば、カルシウムスルホネートグリース組成物又はカルシウムマグネシウムスルホネートグリース組成物は、最終グリース生成物の重量%で以下の成分を含む(しかしながら、水、酸及びカルシウム含有塩基のような幾つかの成分は、最終グリース生成物に存在しないこと、又は、添加で示された濃度にないことがある)。
【0022】
変換剤及び付加カルシウム含有塩基を含む、特定の成分の幾つか又は全ては、製造中における蒸発、揮発、又は他の成分との反応のために最終的な完成品に含まれないことがある。これらの量は、グリースが開放容器内で作られた場合のものである。カルシウムマグネシウムスルホネートグリースが圧力容器で作製される場合、より少量の過塩基性カルシウムスルホネートが使用されてよい。
【0023】
好ましい別の実施形態によれば、カルシウムマグネシウムスルホネートグリースは、100:0.1乃至60:40の範囲の比で、より好ましくは99:1乃至70/30の範囲の比で、最も好ましくは90:10乃至80:20の範囲の比で、過塩基性カルシウムスルホネート及び過塩基性マグネシウムスルホネートを成分として含んでいる。好ましい別の実施形態によれば、変換前のスルホネート系グリース組成物は、過塩基性カルシウムスルホネートと、過塩基性マグネシウムスルホネートと、水と、任意選択的な基油とを含んでおり、水は、変換前組成物中の唯一の従来の変換剤である。好ましい別の実施形態によれば、変換前のスルホネート系グリース組成物は、100:0.1乃至60:40の範囲の比で、より好ましくは99:1乃至70/30の範囲の比で、最も好ましくは90:10乃至80:20の範囲の比で、過塩基性カルシウムスルホネート及び過塩基性マグネシウムスルホネートを成分として含んでいる。
【0024】
本発明のこれらの実施形態において使用する高過塩基性油溶性カルシウムスルホネート(本明細書では、簡略化のために単に「カルシウムスルホネート」又は「過塩基性カルシウムスルホネート」とも呼ばれる)は、米国特許第4,560,489号、米国特許第5,126,062号、米国特許第5,308,514号及び米国特許第5,338,467号などの、従来技術に記載されている一般的なものであってよい。高過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、そのような公知の方法に従って現場で作製されてよく、市販の製品として購入されてもよい。そのような高過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、200以上、好ましくは300以上、最も好ましくは約400以上の全塩基価(TBN)値を有するであろう。市販のこの種の過塩基性カルシウムスルホネートには、Chemtura USA Corporationによって供給されるHybase C401;Kimes Technologies International Corporationによって供給されるSyncal OB 400及びSyncal OB 405−WO;Lubrizol Corporationによって供給されるLubrizol 75GR、Lubrizol 75NS,Lubrizol 75P、及びLubrizol 75WOが含まれるが、これらに限られるわけではない。過塩基性カルシウムスルホネートは、過塩基性カルシウムスルホネートの重量比で約28%乃至40%の分散非晶質炭酸カルシウムを含有しており、これは、カルシウムスルホネートグリースを作製するプロセスにおいて結晶性炭酸カルシウムに変換される。過塩基性カルシウムスルホネートはまた、過塩基性カルシウムスルホネートの重量比で約0%乃至8%の残留酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを含有する。市販の過塩基性カルシウムスルホネートの大半はまた、過塩基性カルシウムスルホネートを取扱い及び処理するのが困難なほどに濃くならないように、希釈剤として約40%の基油を含有するであろう。過塩基性カルシウムスルホネート中の基油の量は、許容されるグリースを達成するために、変換前に追加の基油を(別個の成分として)加えることを不必要にすることがある。
【0025】
使用される過塩基性カルシウムスルホネートは、本明細書と‘406特許で定義されるように高品質又は低品質であってよい。カルシウムスルホネート系グリースの製造のために市販されている幾つかの過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、従来技術のカルシウムスルホネート技術が使用される場合に、許容できないほど低い滴点を有する製品をもたらす。このような過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、本願を通して「低品質」の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートと称される。過塩基性カルシウムスルホネートの市販のバッチが使用されることを除いて全ての成分及び方法が同じである場合、より高い滴点(575°F以上)を有するグリースを生成する過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、本発明の目的に関して、「高」品質のカルシウムスルホネートであり、より低い滴点を有するグリースを生成するものは、本発明の目的において、「低」品質であると考えられる。これに関する幾つかの例が、‘406特許にて提供されており、当該出願は引用により本明細書の一部となる。高品質と低品質の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの比較化学分析が行われているが、この低い滴点の問題の正確な理由は証明されていないと思われる。市販の過塩基性カルシウムスルホネートの多くは高品質であると考えられるが、高品質又は低品質のカルシウムスルホネートを使用するか否かに拘わらず、増ちょう剤収率の向上とより高い滴点の両方を達成することが望ましい。改善された増ちょう剤収率及びより高い滴点の両方は、アルカリ金属水酸化物が使用される場合、特に本発明による変換剤の遅延添加法、マグネシウムスルホネート分割添加法、及びマグネシウムスルホネートの遅延添加法と組み合わせることで、高品質又は低品質のカルシウムスルホネートの何れを用いても達成できることがわかった。
【0026】
グリース製造において一般に使用されており且つ広く知られている、石油系の任意のナフテン鉱油又はパラフィン鉱油を、本発明の基油として使用してよい。市販の過塩基性カルシウムスルホネートの大半は、過塩基性スルホネートが濃くなって容易に取り扱うことができないことを避けるために、希釈剤として約40%の基油を既に含むであろうということから、基油は、必要に応じて加えられる。同様に、過塩基性マグネシウムスルホネートは、希釈剤として基油を含む可能性が高いであろう。過塩基性カルシウムスルホネート及び過塩基性マグネシウムスルホネート中の基油の量によっては、変換直後の所望のグリースのちょう度及び最終グリースの所望のちょう度次第で、追加の基油を加える必要はない。合成基油も本発明のグリースに使用することができる。そのような合成基油には、ポリアルファオレフィン(PAO)、ジエステル、ポリオールエステル、ポリエーテル、アルキル化ベンゼン、アルキル化ナフタレン、及びシリコーン油が含まれる。当業者には理解できるように、合成基油は、変換処理の間に存在すると、悪影響を及ぼすことがある。そのような場合、それらの合成基油は、最初は加えず、変換後などの、悪影響が排除され又は最小化される工程にてグリース製造処理に加えられる。ナフテン鉱基油又はパラフィン鉱基油が、その低コスト及び入手容易性の点から好ましい。加える基油(最初に加えるものと、所望のちょう度を達成するためにグリース処理で後に加えるものを含む)の総量は、グリースの最終重量に基づき、前記の表1の範囲内であることが好ましい。典型的には、別個の成分として加えられる基油の量は、過塩基性カルシウムスルホネートの量が減少するにつれて増加する。当業者に理解されるように、上記のような異なる基油の組合せもまた、本発明において使用されてよい。
【0027】
本発明のこれらの実施形態に従ってカルシウムマグネシウムスルホネートグリースに使用される過塩基性マグネシウムスルホネート(本明細書では、簡潔にするために単に「マグネシウムスルホネート」とも呼ばれる)は、先行技術において記載されている又は知られている典型的なものであってよい。過塩基性マグネシウムスルホネートはその場で作製されてよく、市販の過塩基性マグネシウムスルホネートが使用されてもよい。塩基性マグネシウムスルホネートは、典型的には、中性のマグネシウムアルキルベンゼンスルホネートと、相当量の過塩基化が炭酸マグネシウムの形態であるような塩基化とを含んでよい。炭酸マグネシウムは、通常、非晶質(非結晶)形態であると考えられる。酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、又は酸化物と水酸化物の混合物の形態で、過塩基化の一部が存在してもよい。過塩基性マグネシウムスルホネートの全塩基価(TBN)は、好ましくは少なくとも400mg KOH/gであるが、より低いTBN値と、上記の過塩基性カルシウムスルホネートのTBN値について示されたものと同じ範囲の値も許容され得る。
【0028】
必須ではないが、本発明の他の実施形態に従って、変換に先だって、少量の促進酸が任意選択的に混合物に加えられてよい。一般に、炭素が8乃至16個のアルキル鎖長を有する、アルキルベンゼンスルホン酸などの好適な促進酸が、効率のよいグリース構造形成を促進するのに役立つかも知れない。最も好ましくは、このアルキルベンゼンスルホン酸は、ほとんどが炭素約12個の長さである混合のアルキル鎖長を含む。このようなベンゼンスルホン酸は、一般に、ドデシルベンゼンスルホン酸(DDBSA)と呼ばれる。この種の市販のベンゼンスルホン酸には、JemPak GK Inc.によって供給されるJemPak 1298 Sulfonic Acid、Pilot Chemical Companyによって供給されるCalsoft LAS−99、及び、Stepan Chemical Companyによって供給されるBiosoft S−101が含まれる。本発明においてアルキルベンゼンスルホン酸を使用する場合、アルキルベンゼンスルホン酸は、表1に示された範囲の量で変換前に加えられる。アルキルベンゼンスルホン酸を用いてカルシウムスルホネートを現場で作製する場合、この実施形態に基づいて加えられる促進酸は、カルシウムスルホネートを作製するのに必要なものに加えられる。
【0029】
水は、1つの変換剤として本発明の好ましい実施形態に加えられる。グリースの最終重量に基づいて、変換剤として加えられる水の総量は、表1に示された範囲内であるのが好ましい。変換後に水が更に加えられてよい。また、変換中にかなりの量の水を蒸発させるように十分に高い温度で開放容器内で変換が行われる場合、失われた水を置き換わる追加の水が加えられてよい。典型的にカルシウムスルホネートグリースに加えられる従来の非水性変換剤は、本発明の好ましい実施形態によれば成分として使用されない。そのような従来の非水性変換剤には、アルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールポリエーテル、他の多価アルコール及びそれらの誘導体が挙げられる。これらの成分は、変換後に加えられた場合、変換剤として作用しないので、必要に応じて、本発明の範囲内で変換が完了した後に加えることができる。しかしながら、それらを完全に省くことが好ましい。
【0030】
本発明によるカルシウムマグネシウムスルホネートグリース組成物の好ましい実施形態において、1又は複数種のカルシウム含有塩基も成分として加えられる。これらのカルシウム含有塩基は、コンプレックス化酸と反応して、コンプレックスカルシウムマグネシウムスルホネートグリースを形成する。カルシウム含有塩基は、カルシウムヒドロキシアパタイト、付加炭酸カルシウム、付加水酸化カルシウム、付加酸化カルシウム、或いは、これらの1又は複数の組合せを含んでよい。付加カルシウムヒドロキシアパタイト及び付加炭酸カルシウムは、少量の付加水酸化カルシウムと共に一緒に使用されるのが最も好ましい。この好ましい実施態様に基づく、最終グリース生成物の重量%でのこれらの3種の付加カルシウム含有塩基の成分としての好ましい量は(これらの塩基は、酸と反応して最終グリース生成物中に存在しないが)、以下の通りである。
【0032】
好ましい実施形態では、コンプレックス化酸と反応するためのカルシウム含有塩基として使用されるカルシウムヒドロキシアパタイトは、変換前、変換後に加えられてよく、一部が変換前に加えられて、一部が変換後に加えられてよい。最も好ましくは、カルシウムヒドロキシアパタイトは、約1乃至20ミクロン、好ましくは約1乃至10ミクロン、最も好ましくは約1乃至5ミクロンの平均粒径で細かく分割されている。更に、カルシウムヒドロキシアパタイトは、十分な純度であって、得られるグリースの耐磨耗特性に顕著な影響を与えない程度の低いレベルでシリカやアルミナのような研磨汚染物を有するであろう。理想的には、最良の結果を得るためには、カルシウムヒドロキシアパタイトは、食品グレード又は米国薬局方グレードの何れかであるべきである。加えられるカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、グリースの総重量を基準にして、表1(全カルシウム含有塩基)又は表2に示される範囲内であるのが好ましいが、必要ならば、変換とコンプレックス化酸との全ての反応とが完了した後に、更に加えられてよい。
【0033】
本発明の別の実施形態によれば、カルシウムヒドロキシアパタイトは、コンプレックス化酸と完全に反応するには化学量論的に不十分な量で加えられてよい。この実施形態では、油不溶性固体付加カルシウム含有塩基として、微粉炭酸カルシウムが、好ましくは変換の前に、その後に加えられる任意のコンプレックス化酸におけるカルシウムヒドロキシアパタイトによって中和されない部分と完全に反応して中和するのに十分な量で加えられてよい。
【0034】
好ましい実施形態によれば、カルシウムヒドロキシアパタイトは、コンプレックス化酸と完全に反応するには化学量論的に不十分な量で加えられてもよい。この実施形態では、油不溶性固体カルシウム含有塩基として、微粉炭酸カルシウム及び/又は酸化カルシウムが、好ましくは変換の前に、その後に加えられる任意のコンプレックス化酸における共添加(co-added)カルシウムヒドロキシアパタイトによって中和されない部分と完全に反応して中和するのに十分な量で加えられてよい。更に好ましい別の実施形態によれば、コンプレックス化酸と反応してカルシウムマグネシウムスルホネートグリースを作製するためのカルシウム含有塩基として、付加水酸化カルシウムと共にカルシウムヒドロキシアパタイトを組み合わせて使用する場合、‘406特許に記載されているグリースと比較して、必要とされるカルシウムヒドロキシアパタイトは少量である。‘406特許において、付加水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムは、付加水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムとカルシウムヒドロキシアパタイトとの総量によって与えられる水酸化物等価塩基度(hydroxide equivalent basicity)の75%以下の量で存在するのが好ましい。言い換えると、特に低品質過塩基性カルシウムスルホネートが使用される場合には、カルシウムヒドロキシアパタイトは、‘406特許に記載されたグリースの(ヒドロキシアパタイトカルシウムと付加水酸化カルシウム及び/又は付加酸化カルシウムの両方からの)付加水酸化物当量の全量の少なくとも25%に寄与することが好ましい。その量よりも少ないカルシウムヒドロキシアパタイトが使用される場合、最終グリースの滴点が損なわれることがある。しかしながら、本発明の種々の実施形態に基づいて、組成物に過塩基性マグネシウムスルホネートを加えると、十分に高い滴点をなお維持しながら、より少ないカルシウムヒドロキシアパタイトを使用することができる。本発明の好ましい実施形態に基づいて使用されるカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、低品質過塩基性カルシウムスルホネートが使用される場合でも、水酸化物等価塩基度の25%未満、更には10%未満であってよい。これは、完成グリース中の過塩基性マグネシウムスルホネートの存在が、先行技術では予期されていない予想外の変化と化学構造の改善をもたらす1つの示唆である。カルシウムヒドロキシアパタイトは、典型的には、付加水酸化カルシウムと比較してはるかに高価であるので、これにより、滴点を有意に顕著にさせることなく、最終グリースの更なるコスト削減が可能となる。
【0035】
別の実施形態では、炭酸カルシウムは、カルシウムヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと共に加えられてよく、炭酸カルシウムは、コンプレックス化酸との反応前又は後に加えられてよく、或いは、コンプレックス化酸との反応前及び後の両方にて加えられてよい。カルシウムヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムの量が、加えられたコンプレックス化酸を中和するのに十分でない場合、炭酸カルシウムが、残存するコンプレックス化酸を中和するのに十分以上の量で加えられるのが好ましい。
【0036】
本発明のこれらの実施形態では、カルシウム含有塩基として、単独で又は他のカルシウム含有塩基と組み合わせて使用される付加炭酸カルシウムは、約1乃至20ミクロン、好ましくは約1乃至10ミクロン、最も好ましくは約1乃至5ミクロンの平均粒径で細かく分割されている。更に、付加炭酸カルシウムは、十分な純度の結晶性炭酸カルシウム(最も好ましくはカルサイト)であるのが好ましく、得られるグリースの耐摩耗性に著しく影響を与えない程度に低いレベルのシリカ及びアルミナのような研磨汚染物を有している。理想的には、最良の結果を得るために、炭酸カルシウムは食品グレード又は米国薬局方グレードの何れかであるべきである。付加炭酸カルシウムの添加量は、グリースの最終重量に基づいて、表1(全カルシウム含有塩基)又は表2に示される範囲内であるのが好ましい。これらの量は、過塩基性カルシウムスルホネート中に含まれる分散炭酸カルシウムの量に加えて別個の成分として加えられる。本発明の好ましい別の実施形態によれば、付加炭酸カルシウムは、コンプレックス化酸と反応するための唯一の付加カルシウム含有塩基成分として、変換前に加えられる。追加の炭酸カルシウムが、変換後に、本発明の単純又はコンプレックスグリースの実施形態の何れかに加えられてよく、コンプレックスグリースの場合には全てのコンプレックス化酸との反応が完了した後に加えられてよい。しかしながら、本明細書では、付加炭酸カルシウムとは、本発明のコンプレックスグリースを作製する場合に、変換前に加えられ、コンプレックス化酸と反応するカルシウム含有塩基の1つ又は唯一のものである炭酸カルシウムを称している。
【0037】
変換前又変換後に加えられた付加水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムは、別の実施形態によれば、約1乃至20ミクロン、好ましくは約1乃至10ミクロン、最も好ましくは約1乃至5ミクロンの平均粒径で細かく分割されている。更に、水酸化カルシウム及び酸化カルシウムは十分な純度であって、得られるグリースの耐磨耗特性に著しく影響を与えない程度に低いレベルでシリカ及びアルミナのような研磨汚染物を有する。理想的には、最良の結果を得るために、水酸化カルシウムと酸化カルシウムは、食品グレード又は米国薬局方グレードの何れかであるべきである。水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムの総量は、グリースの全重量に基づいて、表1(全カルシウム含有塩基)又は表2に示される範囲内であるのが好ましい。これらの量は、過塩基性カルシウムスルホネートに含まれる残留水酸化カルシウム又は酸化カルシウムの量に加えて別個の成分として加えられる。最も好ましくは、使用されるコンプレックス化酸の総量に対する過剰量の水酸化カルシウムは、変換前に加えられない。更に別の実施形態によれば、コンプレックス化酸と反応させるために水酸化カルシウム又は酸化カルシウムを加える必要はなく、付加炭酸カルシウム又はカルシウムヒドロキシアパタイトの何れかが、このような反応のために加えられた唯一のカルシウム含有塩基として使用されてよく、そのような反応のために併用されてよい。
【0038】
1又は複数種のアルカリ金属水酸化物もまた、本発明のカルシウムマグネシウムスルホネートグリース組成物の好ましい実施形態における成分として、任意選択的に加えられる。任意選択的な付加アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、又はそれらの組合せを含んでいる。水酸化リチウムが、本発明の一実施形態に基づく過塩基性カルシウムマグネシウムスルホネートグリースと共に使用されるアルカリ水酸化物であるのが最も好ましい。付加過塩基性マグネシウムスルホネートと組み合わせると、水酸化リチウムは、水酸化ナトリウムと同様に、又はそれよりも良好に作用し得る。これは予想外である。‘422出願に開示されているように、過塩基性カルシウムスルホネートのみが使用される場合、水酸化リチウムは水酸化ナトリウムと同様に作用するようには見えなかったからである。 これは、最終グリース中の過塩基性マグネシウムスルホネートの存在が、先行技術では予期されない予想外の特性をもたらすという更に別の示唆である。付加アルカリ金属水酸化物の総量は、好ましくは表1に示す範囲内である。カルシウム含有塩基と同様に、アルカリ金属水酸化物は、コンプレックス化酸と反応して、最終グリース生成物に存在するコンプレックス化酸のアルカリ金属塩を生じる。上記の好ましい量は、最終グリース中にアルカリ金属水酸化物が存在しなくても、最終グリース生成物の重量に対して原料成分として加えられる量である。
【0039】
過塩基性カルシウムマグネシウムスルホネートグリースの製造方法の好ましい一実施形態によれば、アルカリ金属水酸化物は、他の成分に加えられる前に水に溶解される。アルカリ金属水酸化物を溶解させるために使用される水は、変換剤として使用される水又は変換後に加えられる水であってよい。他の成分に加える前にアルカリ金属水酸化物を水に溶解させることが最も好ましいが、水に最初に溶解させることなく他の成分に直接加えてもよい。
【0040】
長鎖カルボン酸、短鎖カルボン酸、ホウ酸、リン酸のような1又は複数種のコンプレックス化酸も、コンプレックスカルシウムマグネシウムスルホネートグリースが所望される場合に加えられる。コンプレックス化酸総量の好ましい範囲は、約1.25%乃至18%であり、最終グリース生成物の重量%の成分としての特定の種類のコンプレックス化酸の好ましい量は、以下の通りである (これらの酸は塩基と反応し、最終グリース生成物中には存在しない)。
【0042】
本発明での使用に適する長鎖カルボン酸は、少なくとも12個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸を含む。好ましくは、長鎖カルボン酸は、少なくとも16個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸を含む。最も好ましくは、長鎖カルボン酸は、12−ヒドロキシステアリン酸である。長鎖カルボン酸の総量は、グリースの最終重量に基づき、表3に示す範囲内にあるのが好ましい。
【0043】
本発明に従った使用に適する短鎖カルボン酸は、8個以下、好ましくは4個以下の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸を含む。最も好ましくは、短鎖カルボン酸は酢酸である。短鎖カルボン酸の総量は、表3に示す範囲内にあるのが好ましい。本発明に従うグリースの製造に使用する水又は他の成分と反応して、長鎖カルボン酸又は短鎖カルボン酸を生成すると期待することができる任意の化合物も、使用に適する。例えば、無水酢酸を使用することは、混合物に存在する水との反応で、コンプレックス化酸として使用する酢酸を生成するであろう。同様に、12−ヒドロキシステアリン酸メチルを使用することは、混合物に存在する水との反応で、コンプレックス化酸として使用する12−ヒドロキシステアリン酸を生成するであろう。これに代えて、混合物に十分な水が存在しない場合には、追加の水を混合物に加えてそれら成分と反応させて、必要なコンプレックス化酸を形成してよい。更に、酢酸及び他のカルボン酸は、それが加えられる時に応じて、変換剤又はコンプレックス化酸又はその両方として使用できる。 同様に、幾つかのコンプレックス化酸(‘514特許及び‘467特許の12−ヒドロキシステアリン酸など)も、変換剤として使用できる。
【0044】
本実施形態においてコンプレックス化酸としてホウ酸を使用する場合、その量は、表3に示す範囲内にあるのが好ましい。ホウ酸は、まず水に溶解若しくは懸濁させて、或いは水なしで、加えられてよい。好ましくは、ホウ酸は、製造処理において水が残存している間に加えることになるであろう。これに代えて、公知の無機ホウ酸塩の何れかを、ホウ酸の代わりに使用してもよい。同様に、ホウ酸化アミン、ホウ酸化アミド、ホウ酸化エステル、ホウ酸化アルコール、ホウ酸化グリコール、ホウ酸化エーテル、ホウ酸化エポキシド、ホウ酸化尿素、ホウ酸化カルボン酸、ホウ酸化スルホン酸、ホウ酸化エポキシド、ホウ酸化過酸化物などの、既存のホウ酸化有機化合物を、ホウ酸の代わりに使用してもよい。コンプレックス化酸としてリン酸を使用する場合、表3に示す範囲内にある量が加えられることが好ましい。本明細書に記載の種々のコンプレックス化酸の割合は、純粋な活性化合物に関している。これらのコンプレックス化酸の何れかが希釈された形態で入手可能な場合、それらは、それでも本発明における使用に適するかも知れない。しかしながら、そのような希釈されたコンプレックス化酸の割合は、希釈率を考慮して、実際の活性成分が指定の割合になるように、調整することが必要であろう。
【0045】
グリース製造分野において一般に認められている他の添加剤もまた、本発明の単純グリースの実施形態又はコンプレックスグリースの実施形態の何れかに加えることができる。このような添加剤には、錆防止剤及び腐食防止剤、金属不活性化剤、金属不動態化剤、酸化防止剤、極圧添加剤、耐摩耗性添加剤、キレート剤、ポリマー、粘着付与剤、染料、化学マーカー、香り付加剤、及び蒸発性溶媒が含まれる。後のカテゴリは、オープンギア用潤滑剤及び編組ワイヤーロープ用潤滑剤を作製する場合に特に有用であり得る。そのような任意の添加剤を含むことは、依然として本発明の範囲内であると理解されるべきである。成分の割合は、特に示されていない限り、完成したグリースの最終重量に基づくものであるが、その量の成分は、反応又は揮発により最終グリース生成物に存在しなくてもよい。
【0046】
これらの好ましい実施形態によるカルシウムスルホネートコンプレックスグリースは、少なくとも575°F、より好ましくは650°F以上の滴点を有するNLGI No.2グレードのグリースであるが、No.000乃至No.3の他のNLGIグレードのグリースもまた、当業者に理解されるように、これらの実施形態に従って改変されてよい。本発明に基づく好ましい方法及び成分の使用は、(100%カルシウムに基づく)大抵のカルシウムスルホネート系グリースと比較して、高温せん断安定度を改善するようである。
【0047】
[従来の非水性変換剤を変換前に加えないスルホネート系グリースの製造方法]
【0048】
カルシウムマグネシウムスルホネートグリース組成物は、好ましくは、本明細書に記載の本発明の方法に従って作製される。好ましい一実施形態では、この方法は、(1)過塩基性カルシウムスルホネートと基油とを混ぜる工程;(2)過塩基性マグネシウムスルホネートを加えて混ぜる工程であって、過塩基性マグネシウムスルホネートは、変換前に一度に加えられてよく、分割添加法を用いて加えられてよく、マグネシウムスルホネート遅延期間、又は、分割添加及びマグネシウムスルホネート遅延期間の組合せを用いて加えられてよい、工程;(3)任意選択的に、他の成分を加える前に、好ましくは水に予め溶解させたアルカリ金属水酸化物を加えて混ぜる工程;(4)1又は複数種のカルシウム含有塩基を加えて混ぜる工程;(5)変換剤として水を加えて混ぜる工程であって、変換前に加えられた場合には工程3からの水を含んでいてもよい工程であって、従来の非水性変換剤の如何なる変換前添加も省かれている、工程;(6)任意選択的に、1又は複数種の促進酸を加えて混ぜる工程;(7)コンプレックスカルシウムマグネシウムグリースが所望される場合には、1又は複数種のコンプレックス化酸を加えて混ぜる工程、(8)変換が起こるまで、これらの成分の幾つかの組合せを加熱する工程と、を含んでいる。任意選択的な追加の工程は、(9)任意選択的に、変換後に必要に応じて更なる基油を混ぜる工程;(10)混ぜて、最終生成物の品質を最適化するのに十分高い温度まで加熱して、水及び揮発性反応副産物の除去を確実にする工程;(11)必要に応じて、追加の基油を加えながらグリースを冷却する工程;(12)必要であれば、当該分野で周知である残りの所望の添加剤を加える工程;(13)必要であれば、最終グリースをミリングして、最終的に滑らかな均一な製品を得る工程と、を含んでいる。
【0049】
付加マグネシウムスルホネートは、変換前に、好ましくは過塩基性カルシウムスルホネートと、加えられる基油とを混合した直後に一度に加えられてよい。好ましい別の実施形態によれば、‘792出願及び以下で更に記載されるように、水又は他の反応成分と、変換前に加えられたマグネシウムスルホネートの少なくとも一部との添加の間に、マグネシウムスルホネート遅延期間が存在してよい。好ましい別の実施形態では、マグネシウムスルホネートの一部は、変換前に(好ましくは、過塩基性カルシウムスルホネートと加えられる任意の基油とを混合した直後に、又は変換開始前に)加えられて、別の一部が、(変換が完了した直後、或いは、混合物の変換後の加熱及び/又は冷却後の何れかにおいて)変換後に加えられてよい。
【0050】
工程(3)、(4)及び(7)の各成分は、変換前又は変換後に加えられてよく、或いは、一部が変換前に、別の一部が変換後に加えられてよい。工程(6)で加えられる促進酸は、変換前に加えられるのが好ましい。促進酸及びアルカリ金属水酸化物が使用される場合、促進酸は、アルカリ金属水酸化物が加えられる前に混合物に加えられることが好ましい。最も好ましくは、本発明の方法において使用される特定の成分及び量は、本明細書に記載の組成物の好ましい実施形態に従う。幾つかの成分は他の成分の前に加えられることが好ましいが、本発明の好ましい実施形態では、他の成分に対する成分の添加の順序は重要ではない。
【0051】
これらの最終工程9乃至13の順序とタイミングは重要ではないが、変換後に水を素早く除去することが好ましい。通常、グリースは、250°F乃至300°F、好ましくは300°F乃至380°F、最も好ましくは380°F乃至400°Fに加熱されて(加圧下ではなく開放条件下が好ましいが、加圧されてもよい)、変換剤として最初に加えられた水が除去され、グリースの形成中の化学反応で生じる水も除去される。製造中においてグリースバッチ中に長時間水があると、増ちょう剤収率、滴点又はその両方が低下し、そのような悪影響は、水を迅速に除去することで回避できる。ポリマー添加剤がグリースに加えられる場合、グリース温度が300°Fに達するまで ポリマー添加剤を加えないことが好ましい。ポリマー添加剤は、十分な濃度で加えると水の効果的な揮発を妨げる。故に、ポリマー添加剤は、好ましくは、全ての水が除去された後にのみグリースに加えられるべきである。製造中に、グリースの温度が好ましい300°Fに達する前に全ての水が除去されたと判断できる場合には、その後にポリマー添加剤を加えることが好ましい。
【0052】
[過塩基性マグネシウムスルホネートの遅延添加法]
【0053】
好ましい一実施形態によれば、水又は他の反応成分(例えば、酸、塩基、又は非水性変換剤)の添加と、その後の過塩基性マグネシウムスルホネートの少なくとも一部の添加との間に、1又は複数の遅延期間が存在する。このマグネシウムスルホネート遅延添加法では、1又は複数の遅延が、全てのマグネシウムスルホネートの添加の前に先行してよく、分割添加法も使用される場合には、1又は複数の遅延は、マグネシウムスルホネートの任意の部分の添加に先行してよく、各部分の添加に先行してもよい。1又は複数のマグネシウムスルホネート遅延期間は、温度調節遅延期間又は保持遅延期間又はその両方であってもよい。
【0054】
例えば、第1のマグネシウムスルホネート温度調節遅延期間は、水又は他の反応成分の一部が加えられた後、マグネシウムスルホネートの添加前であって、混合物をある温度又は温度範囲(第1のマグネシウムスルホネート温度)に加熱するに要する時間量である。第1のマグネシウムスルホネート保持遅延期間は、混合物が第1のマグネシウムスルホネート温度で保持されてから、別の温度に加熱又は冷却されるまで、又は少なくともマグネシウムスルホネートの一部を加えるまでの時間量である。第2のマグネシウムスルホネート温度調節遅延期間は、混合物を別の温度又は温度範囲(第2のマグネシウムスルホネート温度)に加熱又は冷却するのに要する第1の保持遅延期間後の時間量である。第2のマグネシウムスルホネート保持遅延期間は、混合物が第2のマグネシウムスルホネート温度で保持されてから、別の温度に加熱又は冷却されるまで、又は、マグネシウムスルホネートの少なくとも別の一部を加えるまでの時間である。更なるマグネシウムスルホネート温度調節遅延期間又はマグネシウムスルホネート保持遅延期間(即ち、第3のマグネシウムスルホネート温度調節遅延期間)は、同じパターンに従う。典型的には、各マグネシウムスルホネートの温度調節遅延期間は、約30分乃至24時間、より典型的には約30分乃至5時間である。しかしながら、マグネシウムスルホネートの温度調節遅延期間の持続時間は、グリースバッチの大きさと、バッチの混合及び加熱に使用される装置と、開始温度と最終温度の間の温度差とに依存して変化することは当業者には理解できるであろう。
【0055】
通常、マグネシウムスルホネート保持遅延期間には、温度調節遅延期間が前後し、又はその逆が行われるであろうが、2つの保持遅延期間が連続してよく又は2つの温度調節期間が連続してもよい。例えば、マグネシウムスルホネートの一部を加える前であって、水又は反応成分を加えた後に、混合物は、周囲温度で30分間保持されてよく(第1のマグネシウムスルホネート保持遅延期間)、そして、混合物は、マグネシウムスルホネートを更に加える前に周囲温度で更に1時間保持し続けられてもよい(第2のマグネシウムスルホネート保持遅延期間)。加えて、混合物は、マグネシウムスルホネートの少なくとも一部を加える前であって、水又は他の反応成分を加えた後に、第1の温度に加熱又は冷却されてよく(第1のマグネシウムスルホネートの温度調節期間)、その後、混合物は、第2の温度に加熱又は冷却されて、そして、更なるマグネシウムスルホネートが加えられる(第2のマグネシウムスルホネート温度調節期間、中間の保持期間なし)。更に、マグネシウムスルホネートの一部を各遅延期間後に加える必要はないが、添加前又は添加間の遅延期間が省略されてもよい。例えば、マグネシウムスルホネートの一部を加える前に、混合物をある温度に加熱し(第1のマグネシウムスルホネート温度調節遅延期間)、その温度である期間、保持して(第1のマグネシウムスルホネート保持遅延期間)、その後、マグネシウムスルホネートが加えられる。
【0056】
好ましい一実施形態によれば、第1のマグネシウムスルホネートの温度は、周囲温度又は別の温度であってよい。その後のマグネシウムスルホネートの温度は、従前の温度よりも高く、又は低くてよい。混合物がある温度又は温度範囲に到達した直後に、マグネシウムスルホネートの一部が、水又は他の反応成分を含む混合物に加えられると、その後、その特定の温度と、マグネシウムスルホネートのその部分とについて、マグネシウムスルホネート保持遅延期間は存在しない。しかしながら、その温度又は温度範囲である期間保持した後に、マグネシウムスルホネートの別の部分が加えられると、その後、その温度及びその部分について、マグネシウムスルホネートのマグネシウムスルホネート保持期間が存在する。マグネシウムスルホネートの一部は、任意のマグネシウムスルホネート温度調節遅延期間又はマグネシウムスルホネート保持遅延期間の後に加えられてよく、マグネシウムスルホネートの別の一部は、別のマグネシウムスルホネート温度調節遅延期間又はマグネシウムスルホネート保持遅延期間の後に追加されてよい。更に、水、1つの反応成分又はその一部の添加が、ある1つのマグネシウムスルホネート遅延期間の出発点であってよく、その後の水、同じ反応成分、異なる反応成分又はその一部の添加が、別のマグネシウムスルホネート遅延期間の出発点であってよい。
【0057】
[過塩基性マグネシウムスルホネート分割添加法]
【0058】
好ましい別の実施形態では、過塩基性マグネシウムスルホネートの全量は、二段階で加えられる(分割添加法)。最初の部分は、プロセスの開始時又はその近くに(変換が完了する前、好ましくは変換が開始される前)に加えられ、2番目の部分は、グリース構造が形成された後に(変換が完了した後、又は変換後の加熱及び/又は混合物の冷却後に)加えられる。分割添加法が使用される場合、変換前に加えられる最初の部分として(グリースの最終重量を基準として)約0.1乃至20%のマグネシウムスルホネートを加えることが好ましく、約0.5乃至15%がより好ましく、更に好ましくは約1.0乃至10%である。表1に示される範囲の総量を与えるように、マグネシウムスルホネートの残部を変換後に加えるのが好ましい。全マグネシウムスルホネートの約0.25乃至95%が最初の部分で加えられるのが好ましく、全マグネシウムスルホネートの約1.0乃至75%がより好ましく、全マグネシウムスルホネートの約10乃至50%が最初の部分で加えられるのが最も好ましい。
【0059】
過塩基性マグネシウムスルホネート分割添加法はまた、マグネシウムスルホネート遅延添加法と組み合わせられてよい。好ましい組合せ手法では、過塩基性マグネシウムスルホネートの最初の部分は、冒頭から加えられないが、水又は1又は複数種の反応成分の添加後であって、そして変換が開始する前に加えられて、水又は他の反応成分の添加とマグネシウムスルホネートの最初の部分の添加との間に、1又は複数のマグネシウムスルホネート温度調節遅延期間及び/又はマグネシウムスルホネート保持期間がある。変換が完了した後、水又は更なる反応成分の添加前(更なるマグネシウムスルホネート遅延期間なし)、或いは、更なる水又は他の反応成分の添加後(更なるマグネシウムスルホネート遅延期間、1又は複数のマグネシウムスルホネート温度調節遅延期間及び/又はマグネシウムスルホネート保持遅延期間を含んでよい)に、2番目の部分が加えられる。
【0060】
これらのマグネシウムスルホネート添加法の何れも、以下に記載するような任意の促進酸遅延法、任意のカルシウム含有塩基添加法、任意のアルカリ金属水酸化物添加法、又はそれらの任意の組合せと組み合わせられてよい。
【0062】
好ましい別の実施形態によれば、スルホネート系グリース組成物は、‘839出願に記載されているように、促進酸遅延期間を用いて作製されることが好ましい。好ましい工程は、工程(6)における促進酸の添加が任意選択的ではなく、促進酸の添加と、他の成分(続いて次に加えられる成分)の少なくとも一部の添加との間に1又は複数の促進酸遅延期間が存在することを除いて、上記工程(1)〜(13)と同じである。工程(6)で加えられる促進酸は、変換前に加えられる。アルカリ金属水酸化物が使用される場合、アルカリ金属水酸化物が加えられる前に、促進酸が混合物に加えられることが好ましい。
【0063】
促進酸遅延期間は、促進酸温度調節遅延期間又は促進酸保持遅延期間であってよい。例えば、第1の促進酸温度調節遅延期間は、1又は複数種の促進酸が加えられた後、且つ次の成分(又はその一部)の添加前であって、混合物をある温度又は範囲(第1の促進酸温度)に加熱するのに要する時間量である第1の促進酸保持遅延期間は、他の温度に加熱又は冷却される前に、或いは、次の成分又は促進酸の次の部分を加える前に、混合物が第1の促進酸温度(周囲温度であってよい)で保持される時間量である。第2の促進酸温度調節遅延期間は、第1の促進酸保持遅延期間後における混合物を他の温度又は温度範囲(第2の促進酸温度)に加熱又は冷却するのに要する時間量である。第2の促進酸保持遅延期間は、他の温度に加熱又は冷却されるまで、又は次の成分を加えるまで混合物が第2の促進酸温度で保持される時間量である。更なる促進酸温度調節遅延期間又は促進酸保持遅延期間(即ち、第3の促進酸温度調節遅延期間)は、同じパターンに従う。通常、各促進酸温度調節遅延期間の持続時間は、約30分乃至24時間、又はより典型的には約30分乃至5時間である。しかしながら、任意の促進酸温度調節遅延期間の持続時間は、グリースバッチのサイズと、バッチの混合及び加熱に使用される装置と、開始温度と最終温度の間の温度差とによって変化することは当業者には理解できるであろう。
【0064】
促進酸の添加と、(続いて次に加えられる成分として)マグネシウムスルホネート、カルシウムヒドロキシアパタイト又は炭酸カルシウムの添加との間に促進酸遅延期間が起こることが最も好ましい。他の成分もまた、促進酸遅延後に次に加えられる成分に使用されてよい。好ましい別の実施形態によれば、変換剤としての水は、促進酸遅延期間中に他の成分の混合物には存在しない。水は促進酸遅延期間の後に次に続く成分として加えられず、次に続く成分後のある時点で加えられるのが最も好ましい。
【0065】
好ましい別の実施形態によれば、促進酸遅延及びマグネシウムスルホネート遅延が同時に用いられる。この実施形態では、過塩基性カルシウムスルホネートと基油の初期混合物に促進酸が加えられる場合に、マグネシウムスルホネートは存在しない。基油、過塩基性カルシウムスルホネート及び促進酸の初期混合物は十分に混ぜられて、マグネシウムスルホネートを加える前に、促進酸が過塩基性カルシウムスルホネートと反応することを可能にする。促進遅延期間及びマグネシウムスルホネート遅延期間の両方であるこの遅延期間の後、マグネシウムスルホネートの少なくとも一部が加えられる。遅延に関する前述の種々の種類と組合せとは、促進酸の添加とマグネシウムスルホネートの添加の間の遅延に関して、この実施形態において、同様に適用可能である。加えられるマグネシウムスルホネートが、加えられるべきマグネシウムスルホネートの2つの部分のうちの最初の部分だけであり、2番目の部分が後で加えられる場合には、上述のように、マグネシウムスルホネート分割添加法も使用されるであろう。促進酸遅延とマグネシウムスルホネート遅延が同時に行われる場合、少なくともスルホネートの最初の部分(又は全て)が加えられるまで、水は変換剤として加えられないことが最も好ましい。遅延促進酸法及び遅延マグネシウムスルホネート法のこの特定の混合使用の重要性は、これらの方法のこのような混合使用によって、促進酸がカルシウムスルホネートと反応するが、マグネシウムスルホネートと反応しないことを可能にする点にある。促進酸の添加とマグネシウムスルホネートの最初の部分との間の遅延は、20乃至30分又はそれ以上であってよい。20分のようなより短い遅延であっても、温度調節が無くとも、本明細書での真の遅延期間として適正であろう。これは、酸をカルシウムスルホネート(好ましい別の実施形態による促進酸の前にマグネシウムスルホネートの一部が加えられる場合は、マグネシウムスルホネート)と反応させる反応は通常、非常に容易であって、通常の周囲温度でさえ、混合すると急速に起こると予想されるからである。本明細書に記載されたような、促進酸の添加とマグネシウムスルホネートの最初の部分(又は全て)との間の任意の意図的な遅延は、促進酸と既に存在するカルシウムスルホネートとの反応を十分に可能にし、促進酸遅延期間及びマグネシウムスルホネート遅延期間として適切である。
【0066】
促進酸の添加とカルシウムヒドロキシアパタイト(又は炭酸カルシウム)の添加の間で、加熱することなく混ぜるための短い遅延(20分以下)は、促進酸保持遅延期間とは考えられない。カルシウムヒドロキシアパタイト(次の添加成分)は促進酸と反応しないと考えられるからである。次の添加成分が反応性(例えば、マグネシウムスルホネート)であるならば、その後の加熱なしの短い混合時間は、促進酸保持遅延期間であろう。加えて、20分間の短い混合時間が、加熱工程を含む、又はより長い混合時間であるならば、次の添加成分が如何なる成分であるかに拘わらず促進酸遅延期間と考えられるであろう。
【0068】
好ましい幾つかの実施形態では、1又は複数種のカルシウム含有塩基を加える工程は、以下の工程のうちの1つを含んでいる:(a)加えられる唯一のカルシウム含有塩基として、微粉カルシウムヒドロキシアパタイトを変換前に混ぜる工程;(b)ある一つの実施形態に基づいて、微粉カルシウムヒドロキシアパタイトと炭酸カルシウムとを、その後に加えられるコンプレックス化酸と完全に反応して中和するのに十分な量で混ぜる工程;
(c)微粉カルシウムヒドロキシアパタイト及び水酸化カルシウムと、及び/又は、酸化カルシウムとを、後で加えられるコンプレックス化酸と完全に反応して中和するのに十分な量で混ぜる工程であって、付加水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムは、好ましくは、付加水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムとカルシウムヒドロキシアパタイトとの総量によって与えられる水酸化物等価塩基度(hydroxide equivalent basicity)の90%以下の量で存在する、工程;(d)本発明の別の実施形態に基づいて、付加炭酸カルシウムを変換後に混ぜる工程;(e)本発明の更に別の実施形態に基づいて、変換後のカルシウムヒドロキシアパタイトを、変換後に加えられた任意のコンプレックス化酸と完全に反応して中和するのに十分な量で混ぜる工程;(f)不油溶性固体カルシウム含有塩基として微粉炭酸カルシウムを変換前に混合し、その後に加えられたコンプレックス化酸と十分に反応して中和するには不十分な量で微粉水酸化カルシウムアパタイト及び水酸化カルシウムと及び/又は酸化カルシウムとを混ぜる工程であって、付加水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムは、好ましくは、付加水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムとカルシウムヒドロキシアパタイトとの合計との総量で与えられる水酸化物等価塩基度の90%以下の量で存在しており、予め加えられた炭酸カルシウムは、その後に加えられる任意のコンプレックス化酸における、カルシウムヒドロキシアパタイト及び水酸化カルシウムと及び/又は酸化カルシウムとによって中和されていない部分と完全に反応して中和するのに十分な量で加えられる、工程。
【0070】
更に好ましい別の実施形態によれば、カルシウムマグネシウムスルホネートグリースは、付加アルカリ金属水酸化物を用いて作製される。アルカリ金属水酸化物は、好ましくは水に溶解し、溶液は他の成分に加えられる。他の好ましい実施形態によれば、アルカリ金属水酸化物が加えられる場合、以下の工程の1又は複数が含まれる:(a)アルカリ金属水酸化物を、変換剤として加えられる水に溶解して、溶解したアルカリ金属水酸化物を含む水を、変換前に一度に加える(必要であれば、プロセス中に水を更に加えて蒸発損失を補う);(b)(i)水の第1の部分が変換剤として変換前に加えられ、水の第2の部分が変換剤として変換後に加えられ、且つ(ii)アルカリ金属水酸化物が水の第1の部分、第2の部分、又は両方に溶解している;(c)変換剤として、水が少なくとも2つの別々の変換前段階で加えられ、変換剤としての水の最初の添加と変換剤としての水の第2の添加との間に、1又は複数の温度調節工程追加成分の添加工程、又はそれらの組合せがなされて、アルカリ金属水酸化物は、変換剤としての水の最初又は1回目の添加、変換剤としての水の2回目又はそれ以後の添加、或いはそれら両方において溶解している。;(d)加熱前にコンプレックス化酸の少なくとも一部を加える;(e)加熱前に全てのコンプレックス化酸を加える;(f)付加炭酸カルシウムが、コンプレックス化酸と反応するために加えられるカルシウム含有塩基として使用される場合、コンプレックス化酸の前に加えられる;(g)ヒドロキシアパタイトカルシウム、付加水酸化カルシウム、及び付加炭酸カルシウムが全て、コンプレックス化酸と反応するカルシウム含有塩基として使用される;(h)カルシウム含有塩基が加えられた後及び/又は変換前コンプレックス化酸の一部が加えられた後に、溶解したアルカリ金属水酸化物を含む水が加えられる;及び/又は(i)アルカリ金属水酸化物(又は別々に加えられたアルカリ金属水酸化物)溶解した水が加えられてから、少なくとも1つのコンプレックス化酸の一部が加えられる。これらの実施形態は、カルシウム塩基添加法、変換剤遅延法、マグネシウムスルホネートの添加(一度に添加、マグネシウムスルホネート分割添加法、マグネシウムスルホネート遅延法、又はそれらの任意の組合せを使用)、又はそれらの任意の組合せと組み合わされてよい。
【0071】
本明細書に記載の方法の好ましい実施形態は、グリース製造に一般的に使用されているような開放ケトル又は密閉ケトルの何れかで行われてよい。変換プロセスは、通常の大気圧下で又は密閉ケトルの加圧下で達成できる。開放ケトル(加圧下でない容器)での製造は、このようなグリース製造装置が一般的に入手可能である点で好ましい。本発明の目的のためには、開放容器は、上蓋又はハッチを有する又は有さない任意の容器であるが、そのような上蓋又はハッチは、蒸気気密ではなく、加熱中に顕著な圧力は発生しない。変換プロセス中に上蓋又はハッチが閉じた状態でこのような開放容器を使用することは、変換剤として必要なレベルの水を保持する一方で、水の沸点又はそれ以上の変換温度を概ね可能にするのに役立つ。このようなより高い変換温度は、当業者に理解されるように、単純及びコンプレックスカルシウムマグネシウムスルホネートグリースの両方の増ちょう剤収率を更に改善することができる。加圧ケトルでの製造もまた利用されてよく、増ちょう剤収率の更に大きな改善をもたらし得るが、加圧プロセスは、より複雑で制御が困難であり得る。更に、加圧ケトルでカルシウムマグネシウムスルホネートグリースを作製すると、生産性の問題が生じる可能性がある。加圧反応を利用することは、特定の種類のグリース(ポリ尿素グリースなど)にとっては重要であり、グリースプラントの大半では、限られた数の加圧容器しか利用できないであろう。加圧ケトルを使用して、加圧反応がそれほど重要ではないカルシウムマグネシウムスルホネートグリースを作製することは、これらの反応が重要な他のグリースを作製するプラントの能力を制限し得る。これらの問題は、開放容器では避けられる。
【実施例】
【0072】
本発明の様々な実施形態に基づいた、従来の非水性変換剤を含まない過塩基性カルシウムマグネシウムスルホネートグリース組成物とこのような組成物の製造方法とは、以下の実施例に関連して更に記載及び説明される。実施例1,3及び6乃至13で使用された過塩基性カルシウムスルホネートは、高品質過塩基性カルシウムスルホネートであった。他の全ての実施例において使用された過塩基性カルシウムスルホネートは、‘406特許の実施例10及び11に使用されたものと同様な低品質カルシウムスルホネートであった。
【0073】
[実施例1(基準実施例−非水性変換剤使用)]
‘265特許の炭酸カルシウムベースのカルシウムスルホネートグリース技術と‘792出願のカルシウムマグネシウムスルホネートグリース技術とに基づいて、カルシウムマグネシウムスルホネートコンプレックスグリースを製造した。過塩基性カルシウムスルホネート対過塩基性マグネシウムスルホネートの比は、約90/10であった。変換剤としての水の添加と非水性変換剤の添加との間に遅延があった場合、米国特許出願第14/990,473号(参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されているように、変換剤遅延法が使用された。全ての過塩基性マグネシウムスルホネートは最初に加えられた。
【0074】
グリースを以下のように作製した。310.14gの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約600SUSの粘度を有する345.89gの溶剤ニュートラルグループ1(solvent neutral group 1)パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、高品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに、遊星撹拌パドル(planetary mixing paddle)を用いて混合を開始した。次に、31.60gの過塩基性マグネシウムスルホネートAを加え、15分間混ぜた。次に、31.20gの主(primarily)C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する75.12gの微粉炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜた。次に、0.84gの氷酢酸と、8.18gの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。混合物を10分間攪拌した。40.08gの水を加えて、混合物を混ぜ続けながら190°Fと200°Fの間の温度へと加熱した。これは温度調節遅延に相当する。この温度範囲で混合物を30分間混ぜた。これは保持遅延に相当する。その間、著しい増ちょうが起こって、グリース構造が形成された。
【0075】
フーリエ変換赤外(FTIR)分光法は、蒸発によって水が失われていることを示した。70mlの水を更に加えた。FTIR分光法はまた、ヘキシレングリコール(非水性変換剤)がまだ加えられていないにも拘わらず、変換が部分的に起こっていることを示した。190乃至200°Fでの30分間の保持遅延の後、15.76gのヘキシレングリコール(従来の非水性変換剤)を加えた。この直後、FTIR分光法により、非晶質炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が起こったことが示された。しかしながら、このバッチは、そのグリコールが加えられた後、幾分軟化したようであった。20mlの水を更に加えた後、2.57gの氷酢酸と16.36gの12−ヒドロキシステアリン酸とを加えた。これらの2つのコンプレックス化酸を10分間反応させた。次に、16.60gの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜて反応させた。
【0076】
その後、グリースを390乃至400°Fに加熱した。混合物が加熱されるにつれて、グリースはますます低粘ちょう化して流動的になり続けた。加熱マントルをミキサーから取り外して、混ぜ続けながらグリースを冷却した。混合物は非常に低粘ちょうであって、有意なグリースの質感は、あったとしても非常に僅かであった。温度が170°Fよりも下がると、サンプルをミキサーから取り出し、3本ロールミルに通した。ミリングされたグリースの未混和ちょう度は、189であった。この結果は非常に驚くべきものであり、非常に珍しい高レオペクティック構造が形成されていることを示していた。合計116.02gの同じ基油の3つの部を追加した。その後、グリースをミキサーから取り出し、3本ロールミルを3回通過させて、最終的に滑らかで均一な質感を達成した。このグリースの60往復混和ちょう度は、290であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、31.96%であった。滴点は617°Fであった。ミリングする前に、この実施例1のグリースは、非常に流動的な質感を有していた。この非常に珍しい特性には、潤滑される機器に供給されるまで、非常に流動的で圧送可能な潤滑剤が必要とされる多数の用途があるだろう。潤滑剤をその装置に供給する装置又はその装置自体(或いは、それらの両方)が潤滑剤を適切にせん断してミリングをシミュレートできる場合には、硬いグリースが生成されるだろう。このような潤滑剤の利点は、潤滑剤が、流体の圧送性及び流動性だけでなく、潤滑される機器内でグリースの質感を有することである。
【0077】
[実施例2(基準実施例−非水性変換剤使用)]
別のグリースを、先の実施例1のグリースと同様に作製した。しかしながら、幾つかの違いがあった。第1に、このグリースは、‘406特許に記載されているような低品質過塩基性カルシウムスルホネートを使用した。第2に、最初の基油、過塩基性カルシウムスルホネート、及び促進酸を加えて、加熱することなく20分間混ぜるまで、過塩基性マグネシウムスルホネートを意図的に加えなかった(同時に起こる促進酸遅延期間及びマグネシウムスルホネート遅延期間)。第3に、このグリースでは、実施例1のグリースと同様な75%リン酸水溶液を16.52g加えた。最終的なミリングされた実施例2のグリースの60往復混和ちょう度は、293であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、26.78%であった。しかしながら、滴点は520°Fであった。このグリース
は、‘406特許の実施例6乃至9のグリースと基本的に同じ組成を有することに留意すべきである。これらの4つのグリースはまた、同じ低品質過塩基性カルシウムスルホネートを使用した。これら4つのグリースの滴点は、496,483,490、及び509であった。平均値は495°Fであった。この実施例2のグリースの滴点は低かったが、‘406特許の4つのグリースよりも幾分高かった。
【0078】
[実施例3]
グリースを、先の実施例1のグリースと同様に作製した。実施例1のグリースと同様に、このグリースの過塩基性カルシウムスルホネート対過塩基性マグネシウムスルホネートの比は、約90/10であった。全ての過塩基性マグネシウムスルホネートは、促進酸が加えられる前に過塩基性カルシウムスルホネートと共に最初に加えられた。この実施例3のグリースは、実施例1のグリースと同様な高品質過塩基性カルシウムスルホネートを使用した。このグリースと実施例1のグリースとの間での唯一の有意な違いは、このグリースに従来の非水性変換剤を加えていないことであった。唯一の従来の変換剤として水を加え、必要に応じて水を追加して、変換プロセス中の蒸発により失われた水と置き換えた。変換は、FTIRスペクトルでモニターされて、完了まで2時間を要した。変換は、水と、過塩基性マグネシウムスルホネートと、加えられた変換前コンプレックス化酸の初期量による影響とにのみ起因して起こった。グリースはその最高温度まで加熱されると、実施例1のグリースと同様に著しく軟化した。実施例1のグリースで観察されたように、ミリングするとグリースの質感が回復した。この極端なレオペクティック特性は、実施例1で述べたものと同じ潜在的有用性を有する。
【0079】
[実施例4]
先の実施例3のグリースと同様にして別のグリースを作製した。唯一の有意な違いは、低品質過塩基性カルシウムスルホネートを使用したことであった。変換は、FTIRスペクトルによってモニターされ、完了するまでに7時間要した。
【0080】
[実施例5]
先の実施例4のグリースと同様にして別のグリースを作製した。唯一の有意な違いは、約半分の量の過塩基性マグネシウムスルホネートが使用されたことであった。このグリースは、本明細書の先の実施例で使用したのと同じ低品質過塩基性カルシウムスルホネートを使用した。変換は、FTIRスペクトルによってモニターされ、完了まで10.5時間要した。実施例3乃至5のグリースの概要を、以下の表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
従来の非水性変換剤の省略と、過塩基性マグネシウムスルホネートの添加とを除いて、実施例3乃至5のグリースは、‘406特許の実施例6乃至9のグリース(従来の変換剤としてヘキシレングリコール及び水を使用した)と本質的に同じ組成を有していた。‘406特許の実施例6乃至9のグリースは、本明細書の実施例4及び5と同じ低品質過塩基性カルシウムスルホネートを使用した。組成上の唯一の違いは、実施例4及び5が過塩基性マグネシウムスルホネートを含んでおおり、且つヘキシレングリコールを含まないことであった。実施例4及び5のグリース(低品質過塩基性カルシウムスルホネートを含む)の滴点はやや低かったが、‘406特許の実施例6乃至9のグリース(これらは、同じ低品質過塩基性カルシウムスルホネートを含んでおり、483°F乃至509°Fの範囲の滴点を有していた)よりもかなり改善された。マグネシウムスルホネートの添加が変換剤として作用するので、従来の非水性変換剤の添加は必要ではないと思われる。高品質過塩基性カルシウムスルホネートの代わりに低品質なものが使用された場合、変換プロセスにより長い時間を要した。しかしながら、過塩基性マグネシウムスルホネートの変換に対する有益な効果は、実施例4及び5で要した変換時間を比較することによって明らかであった。過塩基性マグネシウムスルホネートの濃度を有意に低下させると、変換時間が有意に増加した。これは、過塩基性マグネシウムスルホネートが、変換について良い効果を有することを示している。また、ロール安定性試験データによって示されるように、実施例4及び5のグリースの滴点は、150℃でせん断された後に改善された。これは、高温で使用される場合に高温構造安定性を改善するという過塩基性マグネシウムスルホネートの有益な効果の可能性を再び示している。
【0083】
別の重要な観察は、実施例2のグリースの滴点を実施例4及び5のグリースと比較することによって行われる。 3つのグリースは全て、組成が類似していた。 それらは全て、同じ低品質過塩基性カルシウムスルホネートと同じ過塩基性マグネシウムスルホネートとを含んでいた。それらはまた、同様な方法で加えられた同じコンプレックス化酸を含んでいた。重要な組成の違いは1つだけであった。実施例2のグリースは従来の非水性変換剤(ヘキシレングリコール)を含んでいたのに対し、実施例4及び5のグリースは含んでいなかった。しかしながら、実施例4及び5のグリースの滴点は、実施例2のグリースの滴点よりも有意に高かった。これは、従来の非水性変換剤を用いずにカルシウムマグネシウムスルホネートコンプレックスグリースを作製する場合、従来の非水性変換剤を用いて作製された類似のグリースと比較してより滴点をより高くすることが可能であることを実証している。 この結果は、これらのグリースに過塩基性マグネシウムスルホネートを使用することの驚くべき且つ予想外の利点であり、先行技術の教示に基づいては予想されなかった。
【0084】
[実施例6]
先の実施例3のグリースと同様にして別のグリースを作製した。しかしながら、有意な違いとして、促進酸遅延法を用いた。具体的には、基油の最初の部分と過塩基性マグネシウムスルホネートを加えた後に促進酸を加えた。これらの成分と促進酸を周囲温度で30分間混ぜた後、次の反応成分−過塩基性マグネシウムスルホネートを加えた(これは、‘839出願に記載されている同時の促進酸遅延期間及びマグネシウムスルホネート遅延期間である)。また、第2の量の粉末炭酸カルシウムを変換後に加え、その後、より多量の12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。最後に、この実施例を、NLGI No.1グレードのグリースとなるように完成させた。
【0085】
グリースを以下のように作製した。310.35gの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約600SUSの粘度を有する345.38gの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、最近発行された米国特許第9,458,406号で規定されたような高品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに混合を、遊星撹拌パドルを用いて開始した。次に、31.03gの主C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。30分間混ぜた後、31.18gの過塩基性マグネシウムスルホネートAを加え、15分間混ぜた(促進酸遅延期間及びマグネシウムスルホネート遅延期間)。次に、5ミクロン未満の平均粒径を有する75.25gの微粉炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜた。次に、0.87gの氷酢酸と、8.09gの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。混合物を10分間攪拌した。40.0gの水を加えて、混合物を混ぜ続けながら190°Fと200°Fの間の温度へと加熱した。混合物は、181°Fに至ると、目に見える増ちょうの徴候を示していた。1時間30分後、FTIR分光法は、非晶質炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウムへの変換が起こったことを示した。その間、蒸発により失われた水の代わりに、40mlの水を2回加えた。25.05gの同じ粉末炭酸カルシウムを更に加え、20分間混ぜた。
【0086】
次に、 1.53gの氷酢酸と41.97gの12−ヒドロキシステアリン酸とを加えた。これらの2つのコンプレックス化酸を30分間反応させた。次に、16.90gの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜて反応させた。その後、グリースを340°Fに加熱した。グリースは、最高温度までの加熱の間、そのグリース粘ちょう性を維持した。加熱マントルをミキサーから取り外して、混ぜ続けながらグリースを冷却した。温度が170°Fよりも下がると、サンプルをミキサーから取り出し、3本ロールミルに通した。ミリングされたグリースの未混和ちょう度は、192であった。合計125.29gの同じパラフィン系基油の3つの部を追加した。その後、グリースをミキサーから取り出し、3本ロールミルを3回通過させて、最終的に滑らかで均一な質感を達成した。このグリースの60往復混和ちょう度は、326であって、NLGI No.1グレード製品であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、30.64%であった。滴点は、617°Fであった。
【0087】
[実施例7]
先の実施例6のグリースと同様にして、別のグリースを作製した。先の実施例と同様に、このカルシウムスルホネートコンプレックスグリースは、‘265特許の炭酸カルシウムベースのカルシウムスルホネートグリース技術に基づいて作製された。先の実施例6のグリースと同様に、過塩基性カルシウムスルホネートに対する過塩基性カルシウムスルホネートの比は、約90/10であった。また、促進酸遅延法を用いた。具体的には、基油の最初の部分と、過塩基性カルシウムスルホネートとを加えた後に促進酸を加えた。これらの成分と促進酸を周囲温度で30分間混ぜた後、次の反応成分−過塩基性マグネシウムスルホネートを加えた。全ての過塩基性マグネシウムスルホネートが、その時点で加えられた。このグリースと先の実施例6のグリースとの間の有意な違いは、以下のみである:このグリースでは、変換前後に同じ量が加えられた粉末炭酸カルシウムの総量がより多くなった;変換後に多量の12−ヒドロキシステアリン酸を加えた;グリースが最高温度に加熱された後に、粉末状の無水硫酸カルシウムを加えた;バッチの初期パート中に良好な混合を可能にするためにバッチサイズを増加した。
【0088】
グリースを以下のように作製した。372.10gの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約600SUSの粘度を有する316.03gの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、‘406特許で規定されたような高品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに混合を、遊星撹拌パドルを用いて開始した。次に、37.47gの主C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。30分間混ぜた後、37.29gの過塩基性マグネシウムスルホネートA(‘792出願に記載されている幾つかの実施例で使用した同じ商業的供給源)を加え、15分間混ぜた。これは、促進酸遅延期間及びマグネシウムスルホネート遅延期間に相当した。次に、5ミクロン未満の平均粒径を有する90.11gの微粉炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜた。次に、1.01gの氷酢酸と9.25gの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。混合物を10分間攪拌した。48.14gの水を加えて、混合物を190°Fと200°Fの間の温度へと混ぜ続けながら加熱した。混合物は、170°Fに至ると、目に見える増ちょうの徴候を示していた。1時間30分後、FTIR分光法は、非晶質炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウムへの変換が起こったことを示した。その間、蒸発により失われた水の代わりに、30mlの水を2回加えた。また、グリースのとろみ(thickness)が増加したので、19.70gの同じパラフィン系基油を更に加えた。
【0089】
変換が完了したと判断された後、90.17gの同じ粉末炭酸カルシウムを更に加え、20分間混ぜた。次に、1.88gの氷酢酸と86.75gの12−ヒドロキシステアリン酸とを加えた。これらの2つのコンプレックス化酸を30分間反応させた。39.87gの同じパラフィン系基油を加えた。次に、19.89gの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜて反応させた。その後、グリースを340°Fに加熱した。グリースは、最高温度までの加熱の間、そのグリース粘ちょう性を維持した。加熱マントルをミキサーから取り外して、混ぜ続けながらグリースを冷却した。グリースが300°F未満に冷却されると、5ミクロン未満の平均粒径を有する60.14gの食品グレード無水硫酸カルシウムを加えた。温度が170°Fよりも下がると、サンプルをミキサーから取り出し、3本ロールミルに通した。ミリングされたグリースの未混和ちょう度は、189であった。合計244.17gの同じパラフィン系基油の6つの部を追加した。その後、グリースをミキサーから取り出し、3本ロールミルを3回通過させて、最終的に滑らかで均一な質感を達成した。このグリースの60往復混和ちょう度は、256であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、26.10%であった。混和ちょう度と過塩基性カルシウムスルホネート濃度の割合との間の通例の逆線形関係を用いると、この例のグリースは、基油が更に加えられて、混和ちょう度が280の値(NLGI No.2グレード範囲の中心)になっていた場合、23.9%の濃度で過塩基性カルシウムスルホネートを有していただろう。滴点は646°Fであった。この実施例7のグリースは、従来の非水性変換剤が使用された、‘792出願に記載されている他の何れの炭酸カルシウムベースのカルシウムマグネシウムスルホネートコンプレックスグリースよりも優れた増ちょう剤収率を有していた。更に、この実施例7のグリースは、‘265特許に記載されたグリースよりも優れた増ちょう剤収率を有していた。この優れた増ちょう剤収率は、非常に高い滴点を維持しつつ得られたものである。これは、カルシウムマグネシウムスルホネートコンプレックスグリースを作製する際に、従来の非水性変換剤を使用せずに過塩基性マグネシウムスルホネートを使用することによる驚くべき予想外の利点を示している。
【0090】
一連の6つのグリースの実施例を調製して、付加カルシウムヒドロキシアパタイトをカルシウム含有塩基としてカルシウムマグネシウムスルホネートグリースを作製する場合に、過塩基性マグネシウムスルホネートが、従来の非水性変換剤の代わりに新しく、従来にない変換剤として作用する能力を調べた。
【0091】
[実施例8]
実施例3のグリースに類似したグリースを作った。唯一の有意な違いは、基油の初期部、過塩基性カルシウムマグネシウムスルホネート、マグネシウムスルホネート及び促進酸の後に、カルシウムヒドロキシアパタイトの一部が加えられたことである。このグリースの作製には、好ましい遅延法の何れも使用されなかった。また、過塩基性カルシウムスルホネートと過塩基性マグネシウムカルシウムスルホネートの重量/重量比は、約90/10であった。
【0092】
グリースを以下のように作製した。310.06gの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートと、31.16gの過塩基性マグネシウムスルホネートAとを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約600SUSの粘度を有する345.96gの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、‘406特許における高品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに混合を、遊星撹拌パドルを用いて開始した。次に、31.14gの主C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する10.02gのカルシウムヒドロキシアパタイトを加えて、5分間混ぜた。次に、5ミクロン未満の平均粒径を有する微粉75.08gの炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜた。次に、0.91gの氷酢酸と8.12gの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。混合物を10分間攪拌した。40.15gの水(加えられた唯一の従来の変換剤)を加えて、混合物を190°Fと200°Fの間の温度へと混ぜ続けながら加熱した。混合物は、190°Fに至ると、目に見える増ちょうの徴候を示していた。1時間40分後、FTIR分光法は、非晶質炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウムへの変換が起こったことを示した。その間、蒸発により失われた水の代わりに、20mlの水を2回加えた。
【0093】
次に、1.42gの氷酢酸と17.40gの12−ヒドロキシステアリン酸とを加えた。これらの2つのコンプレックス化酸を30分間反応させた。次に、17.07gの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜて反応させた。その後、グリースを390〜400°Fに加熱した。最高温度に加熱され始めると、グリースは、グリース粘ちょう性をほとんど失ってしまった。この低粘ちょうの質感は、グリースがミリングされるまで保持された。これは、実施例1のグリース(従来の非水性変換剤を使用している)と、実施例3のグリース(従来の非水性変換剤を使用していない)の両方で観察された挙動と同じである。加熱マントルをミキサーから取り外して、混ぜ続けながらグリースを冷却した。温度が170°Fよりも下がると、サンプルをミキサーから取り出し、3本ロールミルに通した。ミリングされたグリースの未混和ちょう度は、189であった。合計100.54gの同じパラフィン系基油の2つの部を追加した。その後、グリースをミキサーから取り出し、3本ロールミルを3回通過させて、最終的に滑らかで均一な質感を達成した。このグリースの60往復混和ちょう度は、273であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、32.68%であった。滴点は、614°Fであった。このグリースでは、実施例1及び3のグリースと同様に、促進酸を加える前に最初にマグネシウムスルホネートが加えられたことに留意すべきである。これにより、促進酸が、カルシウムスルホネート及びマグネシウムスルホネートの両方と混合して、反応することが可能になった。興味深いことに、これらのグリースは全て、最高温度に加熱されるにつれて顕著な低粘ちょう化を示し、ミリングされた場合にのみグリース粘ちょう性を回復した。
【0094】
[実施例9]
先の実施例8のグリースと同様にして別のグリースを作製した。有意な違いは2つのみであった;第1に、カルシウムヒドロキシアパタイトの量を基本的に2倍とし、10.02gから20.62に増加させた。第2に、390〜400°Fの代わりに340°Fの最高温度にグリースを加熱した。このグリースは、実施例8のグリースよりもかなり素早くグリースに変換されたことが観察された。また、このグリースは、330°Fに達するまでは低粘ちょう化を始めておらず、そして、実施例8のグリースと比較すると、残りのプロセスではそれほど低粘ちょうにならなかった。最終的にミリングされたグリースは、60往復混和ちょう度が291であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は29.65%であった。滴点は622°Fであった。
【0095】
[実施例10]
先の実施例9のグリースと同様にして別のグリースを作製した。唯一の有意な違いは、カルシウムヒドロキシアパタイトの量が再びほぼ倍増し、20.62gから40.12gに増加したことである。このグリースは、190°Fに達するとほぼ同時にグリースに変換されたことが観察された。また、このグリースは、340°Fに加熱すると、先の2つのグリースほどは低粘ちょうになっていなかった。それは、多少軟化していたが、明確なグリース構造を保持していた。最終的にミリングされたグリースの60往復混和ちょう度は、285であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、30.43%であった。滴点は621°Fであった。
【0096】
[実施例11]
先の実施例10のグリースと同様にして別のグリースを作製した。唯一の有意な違いは、過塩基性マグネシウムスルホネートの量が半減したことであった。過塩基性カルシウムスルホネート対過塩基性マグネシウムスルホネートの重量/重量の比は約95/5であった。この実施例では、前の実施例と比較して、グリースへの変換にはるかに長い時間を要することが観察された。このグリースは、目に見えるようにグリースに変換するためには、190〜200°Fで約30分間混ぜる必要があった。しかしながら、このグリースは、その製造プロセスを通じてグリース構造を保持していた。最終的にミリングされたグリースの60往復混和ちょう度は、289であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、29.69%であった。滴点は635°Fであった。実施例8乃至11のグリースの結果を比較すると、ここでも、過塩基性のマグネシウムスルホネートが新たな従来にない変換剤として作用し、従来の非水性変換剤の使用は必要ないと思われる。マグネシウムスルホネート濃度が顕著に低下した場合(実施例10と比較した実施例11)、変換にはかなりの時間を要した。また、変換前に加えられたカルシウムヒドロキシアパタイトの存在は、このようなカルシウム−マグネシウムスルホネートグリースが作製される場合に生じる低粘ちょう化作用を低減させる効果を有すると思われる。
【0097】
次の2つの実施例のグリースは、カルシウムヒドロキシアパタイトも用いており、従来の非水性変換剤が省かれたグリースに、マグネシウムスルホネート遅延添加法を使用した場合に何が起こるかを調べるものである。
【0098】
[実施例12]
先の実施例11のグリースと同様にしてグリースを作製した。唯一の有意な違いは、未変換混合物が190〜200°Fに加熱され(マグネシウムスルホネート温度調節遅延期間)、その温度で30分間保持されるまで(マグネシウムスルホネート保持遅延期間)、過塩基性マグネシウムスルホネートが加えられなかったことである。
【0099】
グリースを以下のように作製した。310.09gの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約600SUSの粘度を有する340.03gの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、‘406特許に規定される高品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに混合を、遊星撹拌パドルを用いて開始した。次に、31.10gの主C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する40.16gのカルシウムヒドロキシアパタイトを加えて、5分間混ぜた。この実施例及び実施例8乃至11における促進酸の添加との次の成分の添加との間で加熱しないこの20分間の混合遅延は、‘839出願に記載されているような促進酸遅延法を構成しないことに留意すべきである。これは、促進酸の後に加えられる次の成分が、カルシウムヒドロキシアパタイトであるからであって、‘406特許に示されているように、促進酸に対して有意な反応性がないからである。次に、5ミクロン未満の平均粒径を有する75.23gの炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜた。次に、0.89gの氷酢酸と、8.11gの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。混合物を10分間攪拌した。40.45gの水(加えられた唯一の従来の変換剤)を加えて、混合物を190°Fと200°Fの間の温度へと混ぜ続けながら加熱した。その温度範囲で30分間混合物を保持すると、その間にグリースが増ちょうし始めた。その30分の間に、蒸発により失われた水の代わりに40.2gの水を加えた。30分後、16.21gの過塩基性マグネシウムスルホネートAを加えた。
【0100】
1時間後、FTIR分光法は、非晶質炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウムへの変換が起こったことを示した。その間、蒸発により失われた水の代わりに40mlの水を2回加えた。次に、 1.53gの氷酢酸と16.41gの12−ヒドロキシステアリン酸とを加えた。これらの2つのコンプレックス化酸を30分間反応させた。その間、グリースが増ちょうし続けたので、49.50gの同じパラフィン系基油を追加した。30分間の混和の終了前に、グリースの温度は約240°Fまで上昇した。加熱マントルを取り外し、バッチを200°Fに冷却した。次に、75%リン酸水溶液17.28gをゆっくり加え、混ぜて反応させた。次に、グリースを340°Fに加熱した。グリースは、全加熱プロセス中においてそのグリース粘ちょう性を保持した。加熱マントルをミキサーから取り外して、混ぜ続けながらグリースを冷却した。温度が160°Fよりも下がると、合計137.07gの同じパラフィン系基油の3つの部を追加した。その後グリースをミキサーから取り出し、3本ロールミルを3回通過させて、最終的に滑らかで均一な質感を達成した。このグリースの60往復混和ちょう度は、287であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、29.86%であった。滴点は、>650°Fであった。
【0101】
[実施例13]
先の実施例12のグリースと同様にして別のグリースを作製した。しかしながら、幾つかの重要な違いがあった。最初の基油、過塩基性カルシウムスルホネート、及び促進酸を加えて、混ぜた後、190乃至200°Fへの加熱を開始した(混合物が加熱されたので、これは、促進酸温度調節遅延である)。この温度範囲に達したときにのみ、カルシウムヒドロキシアパタイト及び粉末炭酸カルシウムを加え、30分間混ぜた。次に、12−ヒドロキシステアリン酸及び酢酸の最初の部を加え、水を加える前に30分間、通常予期される方法で反応させた。水を加えた後、過塩基性マグネシウムスルホネートを加える前まで、更に3時間40分遅延させた(マグネシウムスルホネート遅延期間)。(先に‘406特許で開示されているものを踏まえると)カルシウムヒドロキシアパタイト及び粉末炭酸カルシウムは、促進酸とあまり反応しないので、(促進酸と反応する次の添加成分として)過塩基性マグネシウムスルホネートが加えられるまで、促進酸温度調節遅延後に更に促進酸遅延保持期間が存在するであろう。この実施例13のグリースはまた、変換が完了した後に、幾らかの粉末状水酸化カルシウムを加えた点で、先の実施例12のグリースとは異なっていた。12−ヒドロキシステアリン酸の変換後の量は増加し、変換後のコンプレックス化酸としてホウ酸が加えられた。最後に、グリースをその最高温度から冷却した際も、無水硫酸カルシウムと少量の酸化防止剤とを加えた。
【0102】
グリースを以下のように作製した。310.02gの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約600SUSの粘度を有する345.83gの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、‘406特許に規定される高品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに混合を、遊星撹拌パドルを用いて開始した。次に、31.04gの主C12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。次に、混合物を190乃至200°Fに加熱した(促進酸温度調節遅延期間)。この温度範囲に達すると、5ミクロン未満の平均粒径を有する40.23gのカルシウムヒドロキシアパタイトを加え、続いて5ミクロン未満の平均粒径を有する75.04gの微粉炭酸カルシウムを加え、30分間混ぜた。次に、0.88gの氷酢酸と8.10gの12−ヒドロキシステアリン酸を加えた。混合物を30分間攪拌して、2つのコンプレックス化酸を反応させた。40.26gの水を加えて、混合物を190°F〜200°Fの温度範囲で混ぜ続けながら加熱した。1時間混ぜた後、バッチは目に見えてグリースに変化し始めた。この混合物を更に2時間40分間攪拌し、その間に40mlの水を4つの部で加えて蒸発によって失われた水と置き換えた。この時間中、FTIR分光法は、非晶質炭酸カルシウムの部分的変換が起こったことを示した。次に、16.12グラムの過塩基性マグネシウムスルホネートAを加えた。これは、水の最初の添加に対して、3時間40分のマグネシウムスルホネート遅延添加法に相当する。また、それは促進酸遅延に相当する。促進酸温度調節遅延期間と、マグネシウムスルホネート(促進酸と反応する次の添加成分)の添加との間に、促進酸温度調節遅延と幾つかの保持遅延があったからである。
【0103】
過塩基性マグネシウムスルホネートを加えると、FTIR分光法は、非晶質炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウムへの変換が、30分以内に完了したことを示した。次に、5ミクロン未満の平均粒径を有する11.02gの食品グレード純度水酸化カルシウムを加え、15分間混ぜた。次に、1.54gの氷酢酸と31.30gの12−ヒドロキシステアリン酸とを加えた。これらの2つのコンプレックス化酸を30分間反応させた。その間、グリースは増ちょうし続けたので、46.92gの同じパラフィン系基油を追加した。 次に、50mlの熱水に混合させた16.00gのホウ酸を加えて、15分間混ぜた。次に、17.50gの75%リン酸水溶液をゆっくり加え、混ぜて反応させた。次に、グリースを340°Fに加熱した。グリースは、全加熱プロセス中においてそのグリース粘ちょう性を保持した。加熱マントルをミキサーから取り外して、混ぜ続けながらグリースを冷却した。グリースが300°F未満に冷却されると、5ミクロン未満の平均粒径を有する40.06gの食品グレード無水硫酸カルシウムを加えた。グリースを250°Fに冷却すると、2.21gのアリールアミン酸化防止剤を加えた。グリースを170°Fに冷却した後、合計131.86gの同じパラフィン系基油を更に4回加えた。更に混ぜた後、グリースをミキサーから取り出し、3本ロールミルを3回通過させて、最終的に滑らかで均一な質感を達成した。このグリースの60往復混和ちょう度は、283であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、27.36%であった。滴点は、>650°Fであった。
【0104】
本明細書で提供される実施例は、NLGI No.1、No.2、又はNo.3グレードに分類され、No.2グレードが最も好ましいが、本発明の範囲は、No.2グレードよりも硬い又は柔らかい全てのNLGI粘ちょう性グレードを含むことが更に理解されるべきである。しかしながら、当業者に理解されるように、本発明に基づくグリースがNLGI No.2グレードでない場合についても、それらの特性は、より多い又は少ない基油を使用してNo.2グレード製品をもたらす場合に得られていたであろうものと一致しているはずである。
【0105】
本発明は、開放容器で作製されるグリースを主として扱っており、実施例は全て開放容器であるが、コンプレックスカルシウムマグネシウムスルホネートグリース組成物及び方法は、加圧下で加熱できる密閉容器において使用されてもよい。そのような加圧容器の使用は、本明細書の実施例に記載されたものよりも、より良好な増ちょう剤収率をもたらし得る。本発明の目的においては、開放容器は、上蓋又はハッチを有するか又は有しない任意の容器であって、そのような上蓋又はハッチが気密でない限りは、加熱中に大きな圧力を発生させない。変換プロセス中に閉じられる上蓋又はハッチを備えたそのような開放容器を使用することは、必要なレベルの水を変換剤として保持するのに役立つ一方で、通常、水の沸点又はそれを超える変換温度を可能にする。このようなより高い変換温度は、当業者に理解されるように、単純及びコンプレックスカルシウムスルホネートグリースの増ちょう剤収率を更に改善することができる。
【0106】
本明細書で使用されているように、(1)過塩基性カルシウムスルホネートに含まれる分散炭酸カルシウム(若しくは非晶質炭酸カルシウム)又は残留カルシウム、或いは水酸化カルシウムの量は、過塩基性カルシウムスルホネートの重量比に基づいており、(2)幾つかの成分が2つ以上の別々の部として加えられ、各部は、その成分の総量の割合として、最終グリースの重量パーセントとして記載でき、(3)割合又は部によって特定される成分の他の全ての量(全量を含む)は、特定の成分(例えば、他の成分と反応する水、カルシウム含有塩基又はアルカリ金属水酸化物)が最終グリース中に存在しなくてよく、又は、成分として加えるために特定された量で最終グリース中に存在しなくてよくても、最終グリース生成物の重量比による成分としての添加量である。本明細書において、「付加炭酸カルシウム」は、過塩基性カルシウムスルホネートに含まれる分散炭酸カルシウムの量に加えて別個の成分として加えられる結晶性炭酸カルシウムを意味する。本明細書で使用されるように、「付加水酸化カルシウム」及び「付加酸化カルシウム」は夫々、過塩基性カルシウムスルホネート中に含まれ得る残りの水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムの量に加えて別個の成分として加えられる水酸化カルシウム及び酸化カルシウムを意味する。(幾つかの先行技術文献でその用語がどのように使用されるかとは別として)本発明を説明するために本明細書で使用されるように、カルシウムヒドロキシアパタイトは、(1)式Ca
5(PO4)
3OHを有する化合物、又は(2)(a)約1100℃の融点を有する数学的に等価な化学式、若しくは(b)前記数学的に等価な化学式の中でリン酸三カルシウムと水酸化カルシウムとの混合物を具体的に除外したもの、を意味する。
【0107】
本明細書で使用されるように、本発明に適用される「増ちょう剤収率」という用語は、通常の意味、即ち、 潤滑グリース製造において一般的に使用される標準的な浸透試験ASTM D217又はD1403によって測定されるような、グリースに特定の所望の粘ちょう性を与えるために必要とされる高過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの濃度である。同様に、グリースの「滴点」は、潤滑グリース製造に一般的に使用される標準滴点試験ASTM D2265を用いて得られた値を指す。本明細書に記載の四球EP試験は、ASTM D2596を参照するものとする。本明細書に記載の四球摩耗試験は、ASTM D2266を参照するものとする。本明細書に記載のコーンオイル分離試験は、ASTM D6184を参照するものとする。本明細書に記載のロール安定性試験は、ASTM D1831を参照するものとする。当業者であれば、本明細書を読む際に、本明細書に含まれる例を含めて、組成物を作製するための組成物及び方法の変更及び代替は、本発明の範囲内で行われてよく、本明細書に開示された本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲の最も広い解釈によってのみ制限されることを意図することを理解するであろう。