(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591703
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】フィルター媒体、そのフィルター媒体のコーティングのためのコーティング溶液、及びそのフィルター媒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/14 20060101AFI20191007BHJP
A61L 9/16 20060101ALI20191007BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20191007BHJP
B60H 3/06 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
B01D39/14 G
A61L9/16 F
A61L9/01 H
B01D39/14 P
A61L9/01 P
B60H3/06 A
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-568730(P2018-568730)
(86)(22)【出願日】2017年6月27日
(65)【公表番号】特表2019-525830(P2019-525830A)
(43)【公表日】2019年9月12日
(86)【国際出願番号】EP2017065874
(87)【国際公開番号】WO2018002062
(87)【国際公開日】20180104
【審査請求日】2019年2月26日
(31)【優先権主張番号】102016212056.5
(32)【優先日】2016年7月1日
(33)【優先権主張国】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボンデル エファ
(72)【発明者】
【氏名】ハイン マルティン
【審査官】
菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−508245(JP,A)
【文献】
特表2006−524569(JP,A)
【文献】
特開平11−244632(JP,A)
【文献】
特開2013−121556(JP,A)
【文献】
特表2009−543632(JP,A)
【文献】
特表2011−527954(JP,A)
【文献】
特開2005−028269(JP,A)
【文献】
特開2009−039718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00
A61L 9/01
A61L 9/16
C09D 201/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員室内における空気の濾過のためのフィルター材(13)を備えたフィルター媒体(12)の製造方法であって、
上記フィルター材(13)を抗病原性物質(28)、イオン交換体(29)及びポリマー架橋剤(30)に接触させ、
上記フィルター材(13)を上記抗病原性物質(28)、上記イオン交換体(29)及び上記ポリマー架橋剤(30)に接触させるために、溶媒(32)中に上記抗病原性物質(28)と上記イオン交換体(29)と上記ポリマー架橋剤(30)とを含有するコーティング溶液(25)を用い上記フィルター材(13)に接触させ、
上記コーティング溶液(25)は、上記フィルター媒体(12)の生物機能性を有する表面コーティング(19)及び/又は深さコーティング(20)を形成するためのものであり、
上記溶媒(32)を蒸発させることによって、上記抗病原性物質(28)、上記イオン交換体(29)及び上記ポリマー架橋剤(30)を上記フィルター材(13)の上及び/又は内部に確実に配置させ、
上記抗病原性物質(28)及び上記イオン交換体(29)を、上記フィルター材(13)に固定するために、上記イオン交換体(29)が上記ポリマー架橋剤(30)を活性化するように、上記ポリマー架橋剤(30)及び上記イオン交換体(29)を互いに配置させ、
上記イオン交換体(29)は、吸湿性で、スルホン酸基を有する機能性の陽イオン交換基を有しており、
上記フィルター媒体(12)において、上記抗病原性物質(28)及び上記イオン交換体(29)のための上記ポリマー架橋剤(30)は、遅延マトリックスとして及び/又はマトリックス材として機能し、それに結合した上記抗病原性物質(28)及び上記イオン交換体(29)を、所定の時間で放出する
ことを特徴とするフィルター媒体の製造方法。
【請求項2】
上記溶媒(32)は、水、アルコール、ジオール、ポリオール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、エチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノエチルエーテル、及びエチレングリコールモノブチルエーテルのうち少なくとも1種類の物質を含有し、又は、これらの物質の任意の混合物から構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項3】
上記溶媒(32)がカチオン性及び/又はアニオン性及び/又は非イオン性及び/又は両性の界面活性剤(33)を含有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項4】
上記溶媒(32)が50重量%より多くの水を含有する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項5】
上記コーティング溶液(25)中の上記イオン交換体(29)の濃度が1重量%〜25重量%である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項6】
上記コーティング溶液(25)中の上記ポリマー架橋剤(30)の濃度が0.1重量%〜30重量%である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項7】
非架橋状態の上記ポリマー架橋剤(30)が水溶性の架橋剤(30)であり、その活性化により水不溶性の架橋剤(30)に変換される
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項8】
水溶性の上記ポリマー架橋剤(30)の活性化が酸触媒による脱水によって行われる
ことを特徴とする請求項7に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項9】
上記抗病原性物質(28)及び上記イオン交換体(29)は、上記フィルター材(13)の単一のコーティング(34)及び/又は単一のプライ若しくは層に設けられている
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項10】
上記イオン交換体(29)は、イオン交換容量を有する水溶性のスルホン化脂肪族及び芳香族有機化合物からなるか又は少なくともそれらを含む
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項11】
上記抗病原性物質(28)は、抗菌性及び抗アレルギー性の作用がある
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項12】
上記抗病原性物質(28)は、抗酸化物質及び/又は酵素及び/又は適当なリガンドから構成されている
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項13】
上記抗病原性物質(28)は、ポリフェノールを含み、又はポリフェノールよりなる
ことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項14】
フィルター部材(4)が複数のフィルタープライ(16)を備え、該複数のフィルタープライ(16)のそれぞれが上記フィルター媒体(12)を備える
ことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項15】
フィルター部材(4)は、上記フィルター媒体(12)を備えた、車両の空調システム(1)の乗員室エアフィルター(3)である
ことを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載のフィルター媒体の製造方法。
【請求項16】
車両の乗員室内における空気の濾過のためのフィルター材(13)を備えたフィルター媒体(12)であって、
上記フィルター材(13)の表面に形成された表面コーティング及び/又は該フィルター材の内部まで及ぶ深さコーティングを有し、
上記表面コーティング及び上記深さコーティングは、抗病原性物質(28)とイオン交換体(29)とポリマー架橋剤(30)とを含有し、
上記イオン交換体(29)は、吸湿性で、スルホン酸基を有する機能性の陽イオン交換基を有しており、
上記抗病原性物質(28)及び上記イオン交換体(29)のための上記ポリマー架橋剤(30)は、遅延マトリックスとして及び/又はマトリックス材として機能し、それに結合した上記抗病原性物質(28)及び上記イオン交換体(29)を、所定の時間で放出する
ことを特徴とするフィルター媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の序文に記載の
フィルター媒体の生物機能性を有する表面コーティング及び深さコーティングを形成するためのコーティング溶液に関する。本発明は更に、そのようなフィルター媒体の製造方法に関する。本発明は、従って、フィルター媒体を製造するためのコーティング溶液の使用に関する。更に、本発明は、その製造方法によって製造される、車両の乗員室内の空気を濾過するためのフィルター材を備えたフィルター媒体に関する。
最後に、本発明は、そのようなフィルター媒体を用いて製造される、車両の空調システムにおける乗員室用エアフィルターのためのフィルター部材に関する。
【背景技術】
【0002】
乗員室内の空気を清浄化するためのフィルター媒体は、従来技術から多くの態様で一般的に知られている。現代の空調システムでは、外部から取り込みそして濾過した空気を用いること、及び乗員室内に存在する空気又は両者を混合した空気を再循環させて用いることによる乗員室内の換気の両方が可能である。フィルター媒体は、外部から取り込んだ空気が近年では人体に有害な多くの粒子を含むので、これを濾過し又は清浄化するという課題がある。空気中の望ましくない、部分的に有害な物質とは、一般に、病原菌、花粉、埃又はガスである。空気中には非常に多く異なる種類の不純物があることから、フィルターは、一般的に、空気からのできるだけ多くの不純物と結合し、それらが乗員室に流れ込むのを防ぐことが必要である。ここで頻繁に発生する課題は、例えばアンモニア、トリメチルアミン又はトリエチルアミンなどの、主に塩基性分子を含む「リアルガス(real gas)」とも呼ばれる臭気物質の吸着である。
【0003】
独国特許出願公開第102013021071号明細書により、特に車両の乗員室内の空気を濾過するためのフィルター媒体が知られている。このフィルター媒体は、粒子を保持するためのフィルター層と、抗菌物質と抗アレルギー物質とを備えている。その抗菌物質及び抗アレルギー物質は、粒子を保持するためのフィルター層と任意の配置で隣接する追加の層に含まれている。ここで使用される抗菌物質は、特に亜鉛ピリチオン及びオクタイソチアゾロンを含む。
【0004】
欧州特許出願公開第1882511号明細書により、特に車両の乗員室内の空気を濾過するための殺菌効果を有するフィルター媒体が知られている。このフィルター媒体は、粒子状不純物を保持することができる少なくとも1つのフィルター層と、このフィルター層の下流の殺菌層とからなる。この殺菌層は、少なくとも1つのフィルター層の清浄空気側に配置され、スペーサー層によって上記少なくとも1つのフィルター層から離間している。
【0005】
独国特許出願公開第102011104628号明細書により、特に車両の乗員室内の空気を濾過するための抗菌効果を有するフィルター媒体が知られている。このフィルター媒体は、少なくとも、不純物を保持することができる第1のフィルター層と、この第1のフィルター層に隣接する第二のフィルター層とを備えている。第2のフィルター層は、第1のフィルター層の空気流出側に設けられ、抗菌物質を含んでいる。
【0006】
国際公開第2003/039713号パンフレットにより、
フィルター媒体の生物機能性を有する表面コーティング又は深さコーティングを形成するための一般的なコーティング溶液が知られている。これにより、特に建物内の空調システム用の抗病原性空気フィルター媒体が
提供される。既知の空気フィルター媒体は、ポリマーでコーティング
された混ざり合った複数の繊維を含む繊維基材を備えている。このコーティングは、抗病原性物質を含み得る環境をもたらす。
【0007】
国際公開第2008/009651号パンフレットにより、イオン交換体および抗病原性物質を備えるフィルター媒体を備えたリスピレーターマスクが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特に車両の空調システムでの使用において、フィルター媒体に更に頻繁に発生する問題は、そのようなフィルター材の中で、例えば細菌、病原菌、菌類、藻類及びその他の微生物が蓄積しそして増殖し得るということである。これらの部分的に人体に有害な微生物は、空気流から乗員室内に到達することがある。このことによって、乗員がこれらの部分的に有害な有機物に保護なしでさらされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の技術背景で言及したフィルター媒体の改良された態様、又はそのようなフィルター媒体が設けられて製造される車両における空調システムの乗員室用エアフィルターのフィルター部材の改良された態様に関する。この改良された態様は、特に有利には、フィルター媒体中の微生物の成長及び増殖の問題の観点で際立っている。本発明は更に、フィルター材の生物機能性を有するコーティングの場合における、抗アレルギー性及び抗菌性の活性物質の連続的かつ一定の放出の問題に関する。
【0010】
この問題は、本発明に従って独立請求項によって解決される。有利な実施形態は、従属請求項の発明である。
【0011】
本発明は、フィルター材を備えたフィルター媒体の場合、抗病原性物質と、水と組み合わさって酸性の環境をもたらすイオン交換体と、を提供するための一般的な考えに基づいている。そのようなイオン交換体は、抗病原性物質と関連して、多くの微生物にとって有害であることがわかった。更に、フィルター媒体は、そのような微生物に適した栄養素とならないことが目的にかなっている。上記の酸性の環境によって、微生物の生物学的活性は無くなるか、又は少なくとも低下し、これは最終的に車両の乗員への影響が少なくなることを意味する。更に、上記の抗病原性物質は、フィルター材によって完全には保持され得ない(例えば)花粉粒子及び他のアレルゲンなどを少なくとも部分的に無害にすることができる。
【0012】
ここで、抗病原性物質及びイオン交換体がフィルター材の単一のコーティング及び/又は単一のプライ(ply)若しくは層(layer)に設けられている実施形態が特に有利である。これにより、フィルター材に高密度の機能性が与えられる。ここでのコーティングは、好ましくはフィルター材の純粋な表面コーティングではなく、フィルター材の内部まで及ぶ深さコーティングである。繊維のフィルター材の場合、コーティングは繊維の表面上にすることができ、従ってフィルター材の外側及び内側のいずれの位置にもコーティング可能である。
【0013】
有利な実施形態では、イオン交換体は、イオン交換プライ又はイオン交換層として構成されており、このプライ又は層は、その一部が吸湿性を有するように構成され、水と組み合わさって毒性環境を形成するイオン交換粒子を含む。好ましくは、機能性のスルホン酸基を有する陽イオン交換体がイオン交換体として使用され、ここで陽イオン交換体は完全に(マトリックス及び官能基が)水溶性である。上記の吸湿性の陽イオン交換体は空気流から水を吸着し、その際に酸性プロトンを放出する。この酸性プロトンは、細菌、病原菌、菌類、藻類及びその他の微生物の生物学的活性を低下させるか又は停止させる。好ましくはスルホン化脂肪族及び芳香族有機化合物からなるか又は少なくともそのような化合物を含む陽イオン交換体は、抗病原性物質と同様にアレルゲンを変性させるように作用する。更に、酸性スルホン酸基と、アンモニア、トリメチルアミン及びトリエチルアミンのような主に塩基性のリアルガスの分子との間で相互作用が起こるので、形成された酸性の環境にリアルガス(臭気物質)を吸着させることができる。
【0014】
陽イオン交換体は、水と組み合わさって酸性の環境を形成し、例えば最大3.0のpH値を有するように、高度のスルホン化を伴う更なる発展が有利である。
【0015】
更なる有利な実施形態では、抗病原性物質は、抗酸化物質、特にポリフェノール、例えばカテキン、タンニン又はフラボノイドなどの抗アレルギー物質を含む。抗酸化物質はアレルゲンに変性作用を及ぼす。抗酸化物質は、アレルゲン(タンパク質)の二次、三次及び四次構造を変化させることによって機能を喪失させ、従ってアレルゲン不活性化及び殺菌作用の両方で作用する。更に、抗病原性物質は、失活させるアレルゲンのエピトープに結合させることができる酵素及び/又は任意のリガンドも含んでいてもよい。このリガンドは、有利には、それによってアレルゲンを不可逆的に失活させるために共有結合を形成する。
【0016】
本発明によれば、フィルター媒体は、抗病原性物質及びイオン交換体に加えて、ポリマー架橋剤を含む。ポリマー架橋剤の役割は、抗病原性物質及びイオン交換体のフィルター材への固定又はそれぞれの架橋である。可溶性の抗病原性物質及び可溶性のイオン交換体は、ポリマー架橋剤によって、考えられるすべての担体材料と確実に結合することができる。抗病原性物質及びイオン交換体とフィルター担体材料との架橋は、抗菌性及び抗アレルギー性を有する生成物をもたらす。ポリマー架橋剤は、抗病原性物質及びイオン交換体を埋め込むためのマトリックス材として機能することができる。使用されるポリマーのマトリックスは、炭化水素を含む繰り返し単位からなる任意の既知のポリマー基本構造であってもよい。使用するのに好ましい高度にスルホン化された水溶性のポリマーは、特に好ましくは主鎖及び側鎖の両方にスルホン酸基を有するものでもよく、ここでスルホン化された原子団は好ましくは共有単結合によって基本構造に結合される。水溶性ポリマーの好ましい典型的な代表例は、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリメチルスチレン、スルホン化ポリエチルスチレン、及びその他のスルホン化スチレン誘導体、スルホン化ポリアクリル酸、スルホン化ポリメタクリル酸、スルホン化ポリエタクリル酸誘導体、ポリビニルスルホン酸、及びその他のスルホン化ポリビニル誘導体であってもよい。特に好ましくは、ポリマー架橋剤はポリビニルアルコールから構成され、加水分解性及び重合度はポリマーの所望の水溶性に対応していなければならない。高度の加水分解性を有するポリビニルアルコールは、水中での溶解度が低い。水溶性のポリビニルアルコールは、酸触媒による脱水によって架橋した水不溶性の二次生成物に変換することができる。好ましくは、ポリマー架橋剤の架橋のための濃度及び反応条件を通して、時間的に遅延した、好ましくはほぼ一定の又は均一な抗菌物質の放出及び抗アレルギー物質の放出が保証されるように架橋密度を制御することができる。従って、抗菌性及び抗アレルギー性の活性物質の放出は、特定の時間制御することができる。更に、より高度な架橋によってデポー効果が達成され、それによって一定濃度でより長時間にわたって活性物質のゆっくりとした遅延放出を可能にする。活性物質のポリマー架橋及び固定は、更に、活性物質のいわゆるブリーディング又は揮発を防止する。
【0017】
車両の空調システムの乗員室用エアフィルターのための本発明に係るフィルター部材は、フィルター本体を備え、フィルター本体のフィルター材は、上記の種類のフィルター媒体によって形成されている。好ましくは、そのフィルター材は、フィルター本体内でヒダが付けられ折り畳まれている。ここで、フィルター本体は、平らに又は環状になるように構成することができる。それに関連するフィルター部材は、平面状のフィルター部材又はリング状のフィルター部材として構成される。しかしながら、基本的に、フィルター本体又はフィルター部材の他の任意の所望の幾何学的形状もまた可能であり、例えば、馬蹄形のフィルター部材も既知である。
【0018】
更なる有利な実施形態では、本発明に係るフィルター部材は、いくつかのフィルタープライを備えていてもよく、それらは互いに直接接触しているか、又は互いに離間して配置されているかのいずれかである。互いに隣接するフィルタープライを互いに接着してもよく、又は、例えば可塑化することによって、互いに熱的に結合することができる。
【0019】
フィルター媒体の生物機能性を有する表面コーティング及び/又は深さコーティングを形成するための本発明に係るコーティング溶液は、溶媒中に抗病原性物質、イオン交換体及びポリマー架橋剤を含有する。このコーティング溶液はフィルター材の上又はフィルター材の内部の両方に及ぶようにしてもよい。フィルター材は、基材として、例えば繊維材料から形成してもよく、特にレイド布、織布、フリース又はフェルトから形成することができ、ここで特に化学繊維、例えばポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリル繊維、ポリプロピレン繊維など、又は天然繊維などを使用することができる。上記の繊維材料のそれぞれ個々の繊維は、全体的に又は少なくとも部分的に周囲をコーティング溶液に囲まれ又はコーティングされてもよい。コーティング溶液は基本的に任意の媒体上に塗布することができる。例えば、車両での使用では、フィルター材それ自体に加えて、流入する空気と接触するあらゆる表面にもそのようなコーティング溶液を塗布してもよい。特に、例えば、空気が通過するフィルターハウジングの内側の面及び空気ダクトの内側の面が考えられる。
【0020】
水又は有機溶媒は、コーティングのための溶剤(溶媒)として用いることができる。好ましい溶媒は、水、アルコール、ジオール又は炭素数の少ないポリオール、そして好ましくはエタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、エチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル又はこれらの物質の任意の混合物である。加えて、コーティング溶液は、例えば界面活性剤又は溶液中に存在するいくつかの物質のフィルター担体材料上への配置若しくはそれぞれの分布を改善しそしてフィルター材の表面張力を低下させるその他の成分の界面活性物質を含有していてもよい。フィルター材の表面特性に応じて、カチオン性及び/又はアニオン性及び/又は非イオン性及び/又は両性界面活性剤を添加することができる。好ましくは、アニオン性界面活性剤を使用することができ、それによって疎水性フィルター担体材料、抗病原性物質、イオン交換体及びポリマー架橋剤の間での架橋が著しく改善される。
【0021】
好ましくは、溶媒は水をベースとすることができ、50重量%から少なくとも75重量%の水を含んでいてもよい。これにより、コーティング溶液は、ひいてはコーティングも、特に安価に実現することができる。
【0022】
本発明に係るコーティング溶液の有利な実施形態において、コーティング溶液中の、例えばポリスチレンの酸によって形成されるイオン交換体の濃度は、1重量%〜25重量%とすることができ、好ましくは5重量%〜10重量%である。
【0023】
コーティング溶液の更なる有利な実施形態において、コーティング溶液の、例えばポリビニルアルコールから形成されるポリマー架橋剤の濃度は、0.1重量%〜30重量%とすることができ、好ましくは0.3重量%〜10重量%である。
【0024】
本発明に係るフィルター材のコーティングによるフィルター媒体の製造方法では、そのようなフィルター材を上記のコーティング溶液と接触させる。これは、例えば、噴霧、挿入、浸漬又は塗布によって行われる。コーティング溶液を蒸発させることによって、抗病原性物質、イオン交換体及びポリマー架橋剤をフィルター材の上及び/又は内部に及ぶようにすることができる。更に、酸触媒による脱水によっても同様の効果が得られる。フィルター材は、架橋された水不溶性の二次生成物といえる。これは、一方では、固定されたタンニン酸による可溶性の反応相手から不溶性のネットワークが形成され、他方では、相互作用及びポリマーネットワークのフィルター材への埋め込みの両方を通して、このような不溶性のネットワークによりフィルター材への結合が強くなることを意味する。コーティング溶液中のポリマー架橋剤は、溶媒が蒸発する間、スルホン酸基の酸触媒の作用下で架橋剤の重合をもたらし、それによってスルホン酸のポリマー架橋剤への埋め込み及び架橋の両方をもたらす。これによって、酸触媒及び温度で促進された架橋の後に不溶性の二重及び三重架橋ネットワークが形成される。従って、この方法は、可溶性のコーティング溶液から、フィルター材の上及び/又は内部に確実に固定された、抗菌性及び抗アレルギー性を有する不溶性のコーティングをもたらす。上記の化学プロセスにおける主な反応は、架橋であり、本発明では望ましく、これは脂肪族及び芳香族の求核置換並びに共役二重結合の構造を通しての競合するβ脱離による、いわゆるエーテル架橋によるものである。
【0025】
本発明の更なる重要な特徴及び利点は、従属請求項、図面、及び図面を用いた関連する説明から明らかになるであろう。
【0026】
本発明の範囲から逸脱することなく、上記の特徴及び以下で更に説明する特徴は、それぞれ示した組み合わせだけでなく、他の組み合わせにおいて又は単独でも使用できることを理解されたい。
【0027】
本発明に係る好ましい実施形態は、図面に示され、以下で説明される。以下では、同じ参照番号は、同一又は類似又は機能的に同一の構成要素を指す。
【0028】
それぞれの図面について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】空調システムをかなり簡略化した回路図である。
【
図2】フィルター本体を有するフィルター部材を備えた乗員室用エアフィルターをかなり簡略化した断面図である。
【
図3】3プライ構成フィルター材のヒダ付き形態のフィルター媒体をかなり簡略化した図である。
【
図5】溶媒を除去した後の表面コーティング及び深さコーティングされたフィルター材を備えたフィルター媒体のかなり簡略化された図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
車両(図示しない)の乗員室2の空調のための空調システム1は、
図1に示すように、フィルター媒体12を有する少なくとも1つの乗員室エアフィルター部材4を備えた乗員室エアフィルター3が設けられている。以下、乗員室エアフィルター3は、エアフィルター3と省略して示す場合がある。また、乗員室エアフィルター部材4は、フィルター部材4と省略して示す場合がある。空調システム1は、空気流6を生成するためのファン5を更に備え、この空気流6は乗員室2に送られる。その際、空気流6はエアフィルター3又はフィルター部材4を通過するように向けられ、それによって、空気流6はそれぞれ濾過され又は清浄化される。その際、ファン5は、乗員室2から再循環空気7を吸い込むことができる。更に、ファン5は、車両の周囲8から外部の新鮮な空気9を吸い込むことができる。フラップ部材10は、再循環空気7のみが吸い込まれて乗員室2に供給される再循環エアオペレーションと、新鮮な空気9のみが吸い込まれて乗員室2に供給されるフレッシュエアオペレーションと、再循環空気7及び新鮮な空気9の両方が吸い込まれて乗員室2に供給される混合エアオペレーションとを切換えることができる。加熱装置及び冷却装置など、空調システム1が当然備える部品は、説明を明確にするためにここでは図示しない。
【0031】
フィルターハウジング36内に配置されているフィルター部材4は、フィルター本体11を備えており、このフィルター本体11は、フィルター材13を備えるフィルター媒体12によって構成されている。フィルター材13は、好適には、表面積をできるだけ大きくするためにヒダが付けられ又はフィルター本体11内で折り畳まれている。
図1の例では、フィルター本体11は板状で平らであるように示されている。基本的には、環状のフィルター本体11を設けてもよい。空調システム1の作動中、空気流6は、貫流方向24に沿って、フィルター部材4又はフィルター本体11、従ってフィルター媒体12を通って流れる。その結果、構造によって、フィルター媒体12は、正しい設置状態又は使用状態に対応した貫流方向24を有することができ、その方向は、フィルター材13又はそれを備えたフィルター部材4が意図された濾過の効果を発揮できるように維持されなければならない。
【0032】
図2は、フィルターハウジング36、フィルター本体11及びフィルター部材4から構成されたエアフィルター3を図示している。流入側14において、フィルターハウジング36は空気流6の入口開口部26を有する。好適には、フィルターハウジング36の流出側15には、空気流6を乗員室2に向けるための出口開口部27が更に設けられている。フィルター部材4は、フィルター材13を備えるフィルター媒体12から構成されている。基材としてのフィルター材13は、例えば繊維材料、特にレイド布、織布、フリース又はフェルトから形成することができ、特にポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリル繊維、ポリプロピレン繊維などの化学繊維又は天然繊維を使用できる。
【0033】
フィルター媒体12は、少なくとも1種類の抗病原性物質28と、空気流6から吸着された水と結合して酸性の環境31を形成するイオン交換体29とを含む。イオン交換体29は吸湿性で、陽イオン交換粒子、特にスルホン酸基を有するものを含む。好ましくは、イオン交換体29は水溶性であり、ポリスチレンスルホン酸から構成されている。抗病原性物質28は、抗酸化物質及び/又は酵素、特にポリフェノールから構成されている。抗病原性物質28及びイオン交換体29は、ポリマー架橋剤30によってフィルター材13上に保持されている。
【0034】
フィルター材13は、好ましくは、抗病原性物質28、イオン交換体29、ポリマー架橋剤30及び溶媒32を含有するコーティング溶液25でコーティングされる。従って、フィルター媒体12は、コーティングされたフィルター材13を構成する。生物機能性を有するコーティング34は、以下で正確に説明される。コーティング溶液25は、フィルターハウジング36の内面35と、流入側14及び流出側15の開口部26,27に好適に配置されている空気通路の内面(図示しない)とに任意で塗布されコーティングされてもよい。
【0035】
図3は、いくつかのフィルタープライ16から構成されたフィルター部材4を図示している。機能性プライ21,22,23は、異なるフィルター媒体12から構成され、従って異なるフィルター特性を有するように構成されていてもよい。例えば、その3つの機能性プライ21,22,23のうちの1つのみが、本発明に係るコーティング溶液25の抗菌活性物質及び抗アレルギー活性物質を含んでいてもよく、他の2つのプライは、例えばより粗い粒子を事前に濾過するための粒子フィルターとして設計することができる。更に、個々の機能性プライ21,22,23は、フィルター部材4の内部で好ましい配置又は順序とされ、有利には、コーティング溶液25で処理された機能性プライ21,22,23が、流入側14の第1番目の機能性プライ21,22,23として配置されていない。例示的な実施形態では、機能性プライ21,22,23は、イオン交換体29及びポリマー架橋剤30のみを含有するフィルター媒体12から構成されていてもよい。機能性プライ21,22,23は、互いに直接接触しているか、又は互いに離間して配置されている。互いに隣接する機能性プライ21,22,23は互いに接着することができ、又は互いに熱的に、例えば可塑化によって結合させることができる。フィルタープライ16それ自体は、生物機能性を有するコーティング34がフィルター材13内に部分的にのみ配置されることによって、一体に形成することもできる。
【0036】
図4は、繊維材料17から構成されたレイド布を備えるフィルター材13を図示している。レイド布は、不規則に散乱して互いに結合された複数の個々の繊維18を有する。フィルター材13は、空気流6が中を通過できるという点において際立っている。ここで、空気中にある粒子状不純物は部分的に捕捉され、従って空気流6によって乗員室2内に流れ込むのが防止される。
【0037】
図5は、コーティング溶液25から溶媒32を除去した後のフィルター材13を備えるフィルター媒体12の概略を示す。コーティング溶液25は、フィルター材13の生物機能性を有する表面コーティング19及び/又は深さコーティング20を製造するために使用される。酸性触媒下での溶媒32の蒸発後におけるコーティングされたフィルター材13をフィルター媒体12と称する。コーティング溶液25は溶媒32中に抗病原性物質28、イオン交換体29及びポリマー架橋剤30を含有する。抗アレルギー性物質の抗病原性物質28及びイオン交換体29は抗アレルギー性及び抗菌性の両方の特性を有し、そして好ましくは強酸の官能基であるスルホン酸基を有するか又は少なくともそれによって構成されている。フィルター材13の個々の繊維18は、生物機能性を有するコーティング34によって完全に又は少なくとも部分的に周りを囲まれているか、又はコーティングされている。コーティング溶液25からの溶媒32の除去及び陽イオン交換体のスルホン酸基との酸触媒反応により、水溶性のポリマー架橋剤30から水不溶性のポリマー架橋剤30が得られる。これにより、抗病原性物質28及びイオン交換体29の両方が繊維材料17に確実に結合される。可溶性の抗病原性物質28及び可溶性のイオン交換体29は、ポリマー架橋剤30によって、考えられるすべての担体材料と確実に結合することができる。抗病原性物質28及びイオン交換体29とフィルター材13との架橋によって、抗菌性及び抗アレルギー性を有するフィルター媒体12が得られる。ポリマー架橋剤30は、抗病原性物質28及びイオン交換体29を埋め込むためのマトリックス材料として機能することができる。コーティング溶液25中のポリマー架橋剤30のそれぞれの濃度によって、架橋密度を制御することができ、その結果、抗菌物質及び抗アレルギー物質の時間的に一定で均一な放出が保証され得る。
【0038】
コーティング溶液25中の溶媒32は、好ましくはアニオン性界面活性剤33を含有し、これにより、フィルター材13上に、抗病原性物質28、イオン交換体29及びポリマー架橋剤30の配置又は分布が改善される。更に、コーティング溶液25中のイオン交換体29の濃度は、1重量%〜25重量%、好ましくは5重量%〜10重量%である。コーティング溶液25中のポリマー架橋剤30の濃度は、0.1重量%〜30重量%、好ましくは0.3重量%〜10重量%である。
【0039】
図6は、
図5のフィルター媒体12の断面を図示している。この断面図によって、生物機能性を有するコーティング34は表面コーティング19としてだけでなく、深さコーティング20としても大いに機能することがわかる。従って、抗病原性物質28及びイオン交換体29はまた、フィルター材13の内部のポリマー架橋剤30に埋め込まれている。