特許第6591728号(P6591728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6591728屈曲配位子を含有する高分子錯体、これを用いたガス吸着材ならびにガス分離装置およびガス貯蔵装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591728
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】屈曲配位子を含有する高分子錯体、これを用いたガス吸着材ならびにガス分離装置およびガス貯蔵装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 63/331 20060101AFI20191007BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20191007BHJP
   C08G 79/14 20060101ALI20191007BHJP
   F17C 11/00 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   C07C63/331
   B01J20/26 A
   C08G79/14
   F17C11/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-58264(P2013-58264)
(22)【出願日】2013年3月21日
(65)【公開番号】特開2014-181325(P2014-181325A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2016年1月25日
【審判番号】不服2018-5694(P2018-5694/J1)
【審判請求日】2018年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(72)【発明者】
【氏名】上代 洋
(72)【発明者】
【氏名】玉井 宏和
(72)【発明者】
【氏名】能勢 幸一
(72)【発明者】
【氏名】北川 進
(72)【発明者】
【氏名】松田 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘志
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 近野 光知
【審判官】 井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−87077(JP,A)
【文献】 特開平10−316684(JP,A)
【文献】 特開2010−180202(JP,A)
【文献】 特開2011−93894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07F
CAPlus/REG(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
[MX]n (1)
(式中、Mは2価の遷移金属イオン、Xはベンゼン環を3または4個を含む屈曲型の2座配位子である。nは、[MX]から成る構成単位が多数集合しているという特性を示すもので、nの大きさは特に限定されない。)
で表され、2価の遷移金属イオンMとXとにより構成される四角格子のネットワーク構造を有しており、
前記四角格子のネットワーク構造は
記2価の遷移金属イオンMが4個のカルボキシル基と配位結合したユニットが上下に二つ配位したパドルホイール状結合がXにより連結されることにより形成されており、そし
記2価の遷移金属イオンが銅イオンまたは亜鉛イオンであり、
前記Xが4,4’−(1,3−フェニレン)ジベンゾイックアシッドまたは4,4’−(ナフタレンー2,7−ジイル)ジベンゾイックアシッド、またはその誘導体である
多孔性高分子錯体。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔性高分子錯体を含むガス吸着材。
【請求項3】
請求項2に記載のガス吸着材を用いるガス分離装置。
【請求項4】
請求項2に記載のガス吸着材を用いるガス貯蔵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔性高分子錯体及びガス吸着材としての利用ならびにこれを用いたガス分離装置およびガス貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス吸着材は、加圧貯蔵や液化貯蔵に比べて、低圧で大量のガスを貯蔵しうる特性を有する。このため、近年、ガス吸着材を用いたガス貯蔵装置やガス分離装置の開発が盛んである。ガス吸着材としては、活性炭やゼオライトなどが知られている。また最近は多孔性高分子錯体にガスを吸蔵させる方法も提案されている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
多孔性高分子錯体は、金属イオンと有機配位子から得られる結晶性固体で、種々の金属イオン、有機配位子の組み合わせおよび骨格構造の多様性から、様々なガス吸着特性を発現する可能性を秘めている。しかしながら、これらの従来提案されてきたガス吸着材は、ガス吸着量や作業性などの点で充分に満足できるものとはいえず、より優れた特性を有するガス吸着材の開発が所望されている。
【0004】
多孔性高分子錯体の特徴の一つが、そのネットワーク構造である。一次元の鎖状物集合体、二次元の四角格子の積層体、ジャングルジム状の三次元構造など様々な構造の多孔性高分子錯体が知られている(非特許文献2)。これら多様な多孔性高分子錯体は、ネットワーク構造及び、それを構成している金属イオン、配位子の化学的性質、物理的な形状に由来して、様々な物性を発現する。
【0005】
中でも二次元四角格子の積層型のネットワーク構造を有している多孔性高分子錯体の一部は、ガスを吸着しうる細孔を有しており、優れたガス吸着・分離材料としての提案が成されている(特許文献2)。しかし、ほぼ同一の二次元四角格子の積層型のネットワーク構造を有している多孔性高分子錯体であっても、ガス吸着性を示すのはそのごく一部に過ぎない(非特許文献3)。これは、直線分子により構成される二次元四角格子は平面に近く、一つ一つの四角格子の中にはガス分子を収容しうる細孔が存在しうるが、この四角格子が積層した材料は、四角格子の細孔が別の格子でふさがれてしまう結果、材料としてはガスを吸わなくなってしまうと言う問題が生じるためである。
【0006】
前記の二次元四角格子のネットワーク構造は、直線構造の4,4’−ビピリジン4分子が、四角格子の各1辺を形成することで形作られている。直線構造の分子4個の代わりに、L字型に屈曲した分子を使用する事で、理屈上は、平面からはずれた四角格子が形成され、ガス分子を収容しうる空隙が形成される事が推定される。しかし実際に種々の屈曲分子を使用したネットワーク形性が試みられてはいるものの、結果としては四角格子ではない様々な構造体が形成されており、どのような屈曲分子を使用すれば平面からはずれた四角格子ネットワークが形成され、さらに当該材料がガスを吸着、貯蔵できるようになるかは判っていない(非特許文献4−8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-109493号公報
【特許文献2】特許第4427236号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】北川進、集積型金属錯体、講談社サイエンティフィク、2001年214-218頁
【非特許文献2】Robsonら、Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 1460 ± 1494
【非特許文献3】上代ら、Int. J. Mol. Sci. 2010, 11, 3803-3845
【非特許文献4】Blakeら、Chem. Commun.2003、312.
【非特許文献5】Champnessら、Angew. Chem. Int. Ed.、2009,2274
【非特許文献6】北川ら、Inorg. Chem. 2004, 1287
【非特許文献7】北川ら、Chem. Commun.2008,4436
【非特許文献8】Matzgerら、J. Am. Chem. Soc, 2010, 13941
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、屈曲分子により形成される二次元四角格子のネットワーク構造を有している新規な多孔性高分子錯体及びこれを用いた優れた特性を有するガス吸着材を提供することである。また本発明は、前記特性を有するガス吸着材を内部に収容してなるガス貯蔵装置およびガス分離装置を併せて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前述のような問題点を解決すべく、鋭意研究を積み重ねた結果、ベンゼン環を3または4個含有する屈曲型の二座配位子と2価遷移金属イオンの反応で得られる多孔性高分子錯体は、四角格子ネットワーク構造を有し、本多孔性高分子錯体はガスを多量に吸着する事を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、四角格子のネットワーク構造を有し、ベンゼン環を3または4個含有する屈曲型の二座配位子と2価遷移金属イオンからなる多孔性高分子錯体であり、本材料のガス吸蔵材料としての利用及び本ガス吸着材を内部に収容してなるガス貯蔵装置およびガス分離装置に関する発明である。
【0012】
すなわち本発明は下記にある。
(1)下記式(1)
[MXYq]n (1)
(式中、Mは2価の遷移金属イオン、Xはベンゼン環を3または4個を含む屈曲型の2座配位子である。Yはピリジル型の2座補助配位子でqは0または1である。nは、[MXYq]から成る構成単位が多数集合しているという特性を示すもので、nの大きさは特に限定されない。)
で表され、2価の遷移金属イオンMとXとにより構成される四角格子のネットワーク構造を有しており、
前記四角格子のネットワーク構造は、
qが0の場合、前記2価の遷移金属イオンが4個のカルボキシル基と配位結合したユニットが上下に二つ配位したパドルホイール状結合がXにより連結されることにより形成されており、そして
qが1の場合、前記2価の遷移金属イオンMが、4個のカルボキシル基および前記2座補助配位子Yのピリジル基の窒素1個と配位結合した5配位状態の金属イオンが、Xにより連結されることにより形成され、前記2座補助配位子Yによってさらに連結されていることにより形成されている、
孔性高分子錯体。
【0013】
(2)前記Xは下記式のいずれかで表される屈曲型の2座配位子である、上記(1)に記載の多孔性高分子錯体。
【化1】
(式中、Rは、ハロゲン原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアルコキシ基、置換又は非置換のアリール基、アラルキル基、置換又は非置換のアミノ基、ニトロ基、アミド基、ホルミル基、カルボニル基、エステル基、アジド基、カルボキシル基、スルホ基、水酸基から選ばれる基である。nは0〜4の整数であり、nが2〜4の整数の場合、Rはそれぞれ同一又は異なり上記の置換基を意味する。)
【0014】
(3)前記Yは下記式のいずれかで表されるピリジル型の2座補助配位子である、上記(1)または(2)に記載の多孔性高分子錯体。
【化2】
【0015】
(4)Xが4,4’−(1,3−フェニレン)ジベンゾイックアシッドまたは4,4’−(ナフタレンー2,7−ジイル)ジベンゾイックアシッド、及びその誘導体である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の多孔性高分子錯体。
【0017】
)X4個、パドルホイール状結合4個で四角格子が形成されている、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の多孔性高分子錯体。
【0018】
)X2個、パドルホイール状結合2個で四角格子が形成されている、上記(5)に記載の多孔性高分子錯体。
【0020】
)2価の遷移金属イオンが銅イオンまたは亜鉛イオンである、上記(1)〜()のいずれかに記載の多孔性高分子錯体。
【0021】
)Yが4,4’−ビピリジンである、上記()に記載の多孔性高分子錯体。
【0022】
)上記(1)〜()のいずれかに記載の多孔性高分子錯体を含むガス吸着材。
【0023】
10)上記()に記載のガス吸着材を用いるガス分離装置。
【0024】
11)上記()に記載のガス吸着材を用いるガス貯蔵装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明の多孔性高分子錯体は多量のガスを吸蔵、放出し、かつ、ガスの選択的吸着を行うことが可能である。また本発明の多孔性高分子錯体からなるガス吸蔵材料を内部に収容してなるガス貯蔵装置およびガス分離装置を製造することが可能になる。
【0026】
本発明の多孔性高分子錯体は、また例えば、圧力スイング吸着方式(以下「PSA方式」と略記)のガス分離装置として使用すれば、非常に効率良いガス分離が可能である。また、圧力変化に要する時間を短縮でき、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与しうるため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0027】
本発明の多孔性高分子錯体の他の用途としては、ガス貯蔵装置が挙げられる。本発明のガス吸着材をガス貯蔵装置(業務用ガスタンク、民生用ガスタンク、車両用燃料タンクなど)に適用した場合には、搬送中や保存中の圧力を劇的に低減させることが可能である。搬送時や保存中のガス圧力を減少させ得ることに起因する効果としては、形状自由度の向上がまず挙げられる。従来のガス貯蔵装置においては、保存中の圧力を維持しなくてはガス吸着量を高く維持できない。しかしながら、本発明のガス貯蔵装置においては、圧力を低下させても充分なガス吸着量を維持できる。
【0028】
ガス分離装置やガス貯蔵装置に適用する場合における、容器形状や容器材質、ガスバルブの種類などに関しては、特に特別の装置を用いなくてもよく、ガス分離装置やガス貯蔵装置に用いられているものを用いることが可能である。ただし、各種装置の改良を排除するものではなく、いかなる装置を用いたとしても、本発明の多孔性高分子錯体を用いている限りにおいて、本発明の技術的範囲に包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例1により製造された、屈曲分子により形成される四角格子のネットワーク構造を説明する図である。
図2】実施例1により製造された、屈曲分子により形成される四角格子のネットワーク構造を説明する図である。
図3】実施例1により製造された、屈曲分子により形成される四角格子のネットワーク構造を説明する図である。
図4】実施例2により製造された、屈曲分子により形成される四角格子の積層型のネットワーク構造を説明する図である。
図5】実施例2により製造された、屈曲分子により形成される四角格子の積層型のネットワーク構造を説明する図である。
図6】実施例3により製造された、屈曲分子により形成される四角格子の積層型のネットワーク構造を説明する図である。
図7】実施例3により製造された、屈曲分子により形成される四角格子の積層型のネットワーク構造を説明する図である。
図8】実施例3により製造された、屈曲分子により形成される四角格子の積層型のネットワーク構造を説明する図である。
図9】実施例4により製造された、屈曲分子により形成される四角格子のネットワーク構造を説明する図である。
図10】実施例4により製造された、屈曲分子により形成される四角格子のネットワーク構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の多孔性高分子錯体は、下記式(1)で表され、かつ図1から図4で模式的にしめされる四角格子のネットワーク構造を有している多孔性高分子錯体である。
[MXY]n (1)
(式中、Mは2価の遷移金属イオン、Xはベンゼン環3または4個を含む屈曲型の2座配位子である。Yはピリジル型の2座補助配位子でqは0または1である。nは、[MXYq]から成る構成単位が多数集合しているという特性を示すもので、nの大きさは特に限定されない。)
【0031】
以下、実施例で製造した多孔性高分子錯体の分析結果を用いて、本発明の屈曲分子により形成される四角格子のネットワーク構造を図面を用いて示す。以下の説明において、図面を参照するときは、簡便のため、図番ではなく、各図の枝番号のみを表記する。たとえば、図1(1a)および図2(1f)を参照するときは、それぞれ単に図(1a)および図(1f)と表記する。
【0032】
図1〜3に実施例1により製造された、屈曲分子により形成される四角格子のネットワーク構造を示す。見やすさの為に、水素原子及び銅イオンに配位したジメチルホルムアミド分子は省略し、キャップドスティックモデルにて表示している。結晶学のa、b、cの各軸から見た図をそれぞれ図(1a), (1b), (1c)に示す。屈曲分子により形成される四角格子の2*2格子分のみの書き抜きを図(1d)に示す。屈曲分子により四角格子が形成されているのが判る。屈曲分子により形成される四角格子1枚分を側面から見た図を図(1e)に示す。屈曲分子によりジグザグ構造が形成され、非平面構造を有しているのがわかる。屈曲分子により形成される四角格子の2枚分を上面から見た図を図(1f)に示す。1枚を黒、別の1枚を灰色で示す。ジグザグの四角格子2枚が互い違いの入れ子構造、所謂相互貫入構造を形成し、1つの層を形成している事がわかる。隣接する2層のみを側面から見た図を図(1g)に示す。1層を黒、別の層を灰色で示す。各層はジグザグ構造を有しており、層の間が離れている事がわかる。図(1h)には使用した屈曲分子を示す。図(1i)には、金属イオン2個から成るパドルホイール状結合を示す。金属イオンは、カルボキシル基の酸素4個から配位を受け4配位状態にある。この金属イオン2個が、カルボキシル基により架橋されることで、最終的には金属イオン2個、カルボキシル基4個から形成される、所謂パドルホイール状結合を形成している。これらの図から、屈曲分子がジグザグの四角格子を形成し、最終的には層間が広い構造体を形成している様子がわかる。
【0033】
図4〜5は実施例2により製造された、屈曲分子により形成される四角格子の積層型のネットワーク構造を示す。結晶学のa、b、cの各軸から見た図をそれぞれ図(2a), (2b), (2c)に示す。屈曲分子により形成される四角格子の2*2格子分のみの書き抜きを(2d)に示す。屈曲分子により二次元四角格子が形成されているのが判る。また本例では、図1〜2の実施例1で得られた高分子錯体の様に、四角格子2枚が入れ子構造になってはいない。屈曲分子により形成される四角格子1枚分を側面から見た図を図2eに示す。屈曲分子によりジグザグ構造が形成され、非平面構造を有しているのがわかる。屈曲分子により形成される四角格子の2枚分を側面からみた図を図(2f)に示す。ジグザグの四角格子2枚が積層構造を形成している事がわかる。図(2g)には使用した屈曲分子を示す。これらの図から、屈曲分子がジグザグの四角格子を形成し、最終的には層間が広い構造体を形成している様子がわかる。図(2g)には使用した屈曲分子を示す。金属イオンはパドルホイール状結合を形成している。本分子は、図1〜2の高分子錯体に用いられた配位子と同一である。同じ屈曲構造であっても異なる四角格子を形成しうるが、いずれもジグザグ構造の四角格子を形成し、最終的には積層体を形成しているのがわかる。
【0034】
図6〜8は実施例3により製造された、屈曲分子により形成される四角格子の積層型のネットワーク構造を示す。見やすさの為に、水素原子及び銅イオンに配位したピリジン分子は省略し、キャップドスティックモデルにて表示している。結晶学のa、b、cの各軸から見た図をそれぞれ図(3a), (3b),( 3c)に示す。屈曲分子により形成される四角格子の書き抜きを図(1d)に示す。屈曲分子によりゆがんだ四角格子が形成されているのが判る。屈曲分子により形成される四角格子1枚分を側面から見た図を図(3e)に示す。屈曲分子によりジグザグ構造が形成され、非平面構造を有しているのがわかる。屈曲分子により形成される四角格子の2枚分を上面から見た図を図(3f)に示す。1枚を黒、別の1枚を灰色で示す。ジグザグの四角格子2枚が互い違いの入れ子構造、所謂相互貫入構造を形成し、1つの層を形成している事がわかる。隣接する2層のみを側面から見た図を図(3g)に示す。1層を黒、別の層を灰色で示す。各層はジグザグ構造を有しており、二つの層が近接しているが、独立した層として積層構造を形成している事がわかる。図(3h)には使用した屈曲分子を示す。金属イオンはパドルホイール状結合を形成している。これらの図から、屈曲分子がジグザグの四角格子を形成し、最終的には積層構造体を形成している様子がわかる。
【0035】
図9〜10は実施例4により製造された、屈曲分子により形成される四角格子のネットワーク構造を示す。見やすさの為に、水素原子は省略し、キャップドスティックモデルにて表示している。結晶学のa、b、cの各軸から見た図をそれぞれ図(4a),( 4b),(4c)に示す。屈曲分子により形成される四角格子ネットワークの書き抜きを(4d)に示す。本図では見やすさの為に4,4’−ビピリジン分子を省略している。屈曲分子によりゆがんだ四角格子のネットワーク構造が形成されているのが判る。4,4’−ビピリジン分子を省略しない図を図(4e)に示す。図(4d)の四角格子ネットワークが4,4’−ビピリジン分子により連結されることで2次元格子が形成される事が判る。図(4f)には使用した屈曲分子を示す。図(4g)には、格子の交点となる、配位子と金属イオンから形成される金属イオンクラスターを示す。二個の金属イオンは、それぞれカルボキシル基の酸素4個、ピリジル型配位子の窒素原子1個の配位を受け5配位状態にある。この2個の金属イオンは、カルボキシル基の酸素原子で架橋されることで、金属イオン2個から形成される金属イオンクラスターを形成している。すなわち、この金属イオンクラスターが配位子により架橋されることでネットワーク構造が形成される。これらの図から、屈曲分子が2分子で四角格子を形成している様子がわかる。
【0036】
本発明の化合物の基本構造は、屈曲分子により形成される四角格子のネットワーク構造にある。ここで重要なのは四角格子ネットワークが屈曲分子により形成されていることであり、本ネットワーク構造が補助配位子によりさらに架橋された構造を有していても、屈曲分子により形成される四角格子のネットワーク構造が本来有している特性は失われない。また重要なのは四角格子のネットワークのトポロジーであり、個々の結合角は、本化合物が柔軟性を有するが故に、必ずしも常に図と同一の結合角を有するとは限らない。たとえば図7では積層がジグザグ構造を有しているが、トポロジー的には図6などの平面型の積層構造と同一と見なすことができる。
【0037】
本発明の多孔性高分子錯体は多孔体であるため、水やアルコールやエーテルなどの有機分子に触れると孔内に水や有機溶媒を含有し、たとえば式(2)
[MXY]n(G)m (2)
(式中、Mは2価の遷移金属イオン、Xはベンゼン環3または4個を含む屈曲型の2座配位子である。Yはピリジル型の2座補助配位子でqは0または1である。Gは後述のような合成に使用した溶媒分子や空気中の水分子であり、通常ゲスト分子と呼ばれる。nは、[MXY]から成る構成単位が多数集合しているという特性を示すもので、nの大きさは特に限定されない。mは金属イオン1に対して0.2から6である。)であるような複合錯体に変化する場合がある。
【0038】
しかし、これらの複合錯体中の上記Gで表されるゲスト分子は、多孔性高分子錯体に弱く結合しているだけであり、ガス吸着材として利用する際の減圧乾燥などの前処理によって除かれ、元の式(1)で表される錯体に戻る。そのため、式(2)で表されるような錯体であっても、本質的には本発明の多孔性高分子錯体と同一物と見なすことができる。
【0039】
また本発明の多孔性高分子錯体は、金属イオンに後述のような合成に使用した溶媒分子や空気中の水分子が配位し、たとえば式(3)
[MXYLz]n (3)
(式中、Mは2価の遷移金属イオン、Xはベンゼン環3または4個を含む屈曲型の2座配位子である。Yはピリジル型の2座補助配位子でqは0または1である。Lは後述のような合成に使用した溶媒分子や空気中の水分子である。nは、[MXYLz]から成る構成単位が多数集合しているという特性を示すもので、nの大きさは特に限定されない。zは金属イオン1に対して1または2である。)であるような複合錯体に変化する場合がある。
【0040】
しかし、これらの複合錯体中の上記Lで表される配位性の分子は、金属イオンに弱く結合しているだけであり、ガス吸着材として利用する際の減圧乾燥などの前処理によって除かれ、元の式(1)で表される錯体に戻る。そのため、式(3)で表されるような錯体であっても、本質的には本発明の多孔性高分子錯体と同一物と見なすことができる。
【0041】
本発明の方法では、式(1)で表される化合物は、亜鉛塩や銅塩などの金属塩、屈曲型の配位子、ピリジル型の補助配位子などを溶媒に溶かして溶液状態で混合することで製造できる。
【0042】
溶媒としては、アルコールなどのプロトン系溶媒とジメチルホルムアミドなどのホルムアミドルの混合溶媒を利用すると良好な結果が得られる。アルコールなどのプロトン系溶媒及びジメチルアミドなどのホルムアミド類は亜鉛塩をよく溶解し、さらに亜鉛イオンや対イオンに配位結合や水素結合することで亜鉛塩を安定化し、配位子との急速な反応を抑制することで、副反応を抑制する。アルコールの例としてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールなどの脂肪族系1価アルコール及びエチレングリコールなどの脂肪族系2価アルコール類を例示できる。安価でかつニ亜鉛塩の溶解性が高いという点でメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコールが好ましい。またこれらのアルコールは単独で用いてもよいし、複数を混合使用してもよい。ホルムアミド類の例としては、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジブチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが例示出来る。亜鉛塩の溶解性が高いという点で、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミドが好ましい。
【0043】
アルコール類とジメチルホルムアミド類の混合比率は1:100〜100:0(体積比)で任意である。配位子、金属塩の両方の溶解性が高まり、副生成物の発生を抑制出来るという点で、混合比率は90:10〜10:90(体積比)、反応を加速できるという観点から80:20〜20:80(体積比)が好ましい。
【0044】
溶媒として前記のアルコール類やホルムアミド類の混合溶媒に別種の有機溶媒を混合して使用することも好ましい。混合比率は1:100〜100:0(体積比)で任意である。アルコール類とジメチルホルムアミド類、他の有機溶媒に対する混合比率を30%以上にすることが、金属塩および配位子の溶解性を向上させる観点から好ましい。
【0045】
本発明の四角格子ネットワーク構造を有している新規な多孔性高分子錯体を形成するのに必要な金属イオンとしては、2価の遷移金属イオンが挙げられる。これらは、2価の遷移金属イオンの具体例としてはコバルト、ニッケル、銅、亜鉛イオンが挙げられる。得られた多孔性高分子錯体の化学的安定性の観点から、銅、亜鉛イオンが特に好ましい。
【0046】
本発明の方法で使用する亜鉛塩としては、2価の亜鉛イオンを含有している塩類であればよく、溶媒への溶解性が高いという点で、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、ぎ酸亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛が好ましく、反応性が高いという点で、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛が特に好ましい。
【0047】
本発明の方法で使用する銅鉛塩としては、2価の銅イオンを含有している塩類であればよく、溶媒への溶解性が高いという点で、硝酸銅、酢酸銅、硫酸銅、ぎ酸銅、塩化銅、臭化銅、ほうふっ化銅が好ましく、反応性が高いという点で、硝酸銅、硫酸銅、ほうふっ化銅が特に好ましい。
【0048】
以下、屈曲型の配位子に関して説明する。一般には、テレフタル酸や4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの様な直線型配位子が多孔性高分子錯体の合成に好適に用いられる。本願発明の配位子は、これらとは異なり屈曲構造を有している必要がある。イソフタル酸は屈曲構造を有しているが分子サイズが小さく、多孔性高分子錯体を合成した際には、配位子の屈曲構造が反映されにくい。このため、本願発明の屈曲分子は、ベンゼン環を3または4個含有していることが必要である。ベンゼン環3個の具体的な構造としては1,3−フェニレン構造、ベンゼン環4個の具体的な構造としては2,7−ジフェニルナフタレン構造が挙げられる。1,3−フェニレン構造を有する配位子としては4,4’−(1,3−フェニレン)ジベンゾイックアシッドが、2,7−ジフェニルナフタレン構造を有する配位子としては4,4’−(ナフタレンー2,7−ジイル)ジベンゾイックアシッドが、四角格子を安定的に形成できるという点で好ましい。これらの配位子には、配位点となるカルボキシル基以外に、ベンゼン環1個あたり、1ー3個の置換基を含有してもよい。置換基としては、炭素数1−8のアルキル基、炭素数1−8のアルコキシ基、ニトロ基、ジアルキルメチル基が挙げられる。
【0049】
屈曲型の配位子として下記式で表される化合物が好ましい。
【化3】
式中、Rは、ハロゲン原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアルコキシ基、置換又は非置換のアリール基、アラルキル基、置換又は非置換のアミノ基、ニトロ基、アミド基、ホルミル基、カルボニル基、エステル基、アジド基、カルボキシル基、スルホ基、水酸基などから選ばれる基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基など炭素原子1〜12個、特に1〜6個のアルキル基が好ましい。置換アルキル基の置換基としては、ヒドロキシ基、アミノ基などが挙げられる。アルコキシ基としては、炭素原子1〜12個、特に1〜6個のアルコキシ基、特にメトキシ基、エトキシ基、ベンジルオキシ基が好ましい。置換アルコキシ基の置換基としては、ヒドロキシ基、アミノ基、ジメチルアミノ基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、パラヒドロキシフェニル基が好ましい。置換アリール基としては、パラヒドロキシフェニル基、パラジメチルアミノフェニル基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、o, m, p-のいずれかまたは複数にメチル基およびまたはエチル基が置換したフェニル基が好ましい。非置換又は置換アミノ基としてはアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基が好ましい。
n=0〜4個であり、は0〜4の整数であり、nが2〜4の整数の場合、置換基Rはそれぞれ同一又は異なり、同一の芳香環上に置換してもよく、異なる芳香環上に置換してもよいが、非置換(n=0)のものが最も好ましい。
【0050】
以下、ピリジル型の補助配位子に関して説明する。本補助配位子は、直線状の分子であって、その両端に、配位点となるピリジル基を有している2座配位子である。具体的には芳香環を1個含むピラジン、芳香環を二個含む4,4’−ビピリジル、3,4’−ビピリジル、3,3’−ビピリジル、芳香環を3個含む3,6-ジ(4-ピリジル)-1,2,4,5-テトラジン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼンなどが挙げられる。これらの内、化学的に安定的な構造が得られるという点で、ピラジン、4,4’−ビピリジル、3,6-ジ(4-ピリジル)-1,2,4,5-テトラジン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼンが好ましい。熱的な安定性の観点から、特に4,4’−ビピリジルが好ましい。
【0051】
本発明において好ましいピリジル型の補助配位子は下記式のいずれかで表される配位子である。
【化4】
式中、Rは、ハロゲン原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアルコキシ基、置換又は非置換のアリール基、アラルキル基、置換又は非置換のアミノ基、ニトロ基、アミド基、ホルミル基、カルボニル基、エステル基、アジド基、カルボキシル基、スルホ基、水酸基などから選ばれる基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基など炭素原子1〜12個、特に1〜6個のアルキル基が好ましい。置換アルキル基の置換基としては、ヒドロキシ基、アミノ基などが挙げられる。アルコキシ基としては、炭素原子1〜12個、特に1〜6個のアルコキシ基、特にメトキシ基、エトキシ基、ベンジルオキシ基が好ましい。置換アルコキシ基の置換基としては、ヒドロキシ基、アミノ基、ジメチルアミノ基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、パラヒドロキシフェニル基が好ましい。置換アリール基としては、パラヒドロキシフェニル基、パラジメチルアミノフェニル基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、o, m, p-のいずれかまたは複数にメチル基およびまたはエチル基が置換したフェニル基が好ましい。非置換又は置換アミノ基としてはアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基が好ましい。m=0〜4個であり、置換は、同一の芳香環上に置換してもよく、異なる芳香環上に置換してもよいが、非置換(m=0)のものが最も好ましい。
【0052】
本発明の方法では、反応促進剤として塩基を添加することも可能である。塩基は、配位子のカルボキシル基を陰イオンに変換する事で、反応を加速すると推定される。塩基としてはたとえば無機塩基として水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが例示できる。有機塩基としては、トリエチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、ピリジン、2,6−ルチジンなどが例示出来る。反応加速性が高いという点で、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、およびピリジンが好ましい。添加量としては、使用するイソフタル酸の総モルに対し、反応の加速効果が顕著であるという点で好ましくは0.1〜6.0モル、副反応少ないという点でさらに好ましくは0.5から4.0モルである。
【0053】
金属塩の溶液および配位子を反応させるに当たり、金属塩および配位子を容器に装填した後、溶媒を添加する方法以外に、金属塩、配位子をそれぞれ別個に溶液として調製した後、これらの溶液を混合してもよい。溶液の混合方法は、金属塩溶液に配位子溶液を添加しても、その逆でもよい。また、金属塩溶液と配位子溶液を、積層した後に自然拡散による方法で混合してもよい。混合法としては、必ずしも溶液で行う必要はなく、例えば、金属塩溶液に固体の配位子を投入し、同時に溶媒を入れる方法や、反応容器に金属塩を装填した後に、配位子の固体または溶液を注入し、さらに金属塩を溶かすための溶液を注入するなど、最終的に反応が実質的に溶媒中で起こる方法であれば、種々の方法が可能である。ただし、金属塩の溶液と配位子の溶液を滴下混合する方法が、工業的には最も操作が簡便であり、好ましい。
【0054】
溶液の濃度は、金属塩溶液は80mmol/L〜2mol/L、好ましくは40mmol/L〜4mol/Lであり、配位子の有機溶液は80mmol/L〜2mol/L、好ましくは60mmol/L〜3mol/Lである。これより低い濃度で反応を行っても目的物は得られるが、製造効率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では、吸着能が低下するため好ましくない。
【0055】
反応温度は−20〜180℃、好ましくは25〜150℃である。これ以下の低温で行うと、原料の溶解度が下がるため好ましくない。オートクレーブなどを用いて、より高温で反応を行うことも可能であるが、加熱などのエネルギーコストの割には、収率は向上しないため実質的な意味はない。
【0056】
本発明の反応で用いられる金属塩と屈曲型配位子の混合比率は、金属:配位子の比が1:5〜5:1のモル比、好ましくは1:3〜3:3のモル比の範囲内である。これ以外の範囲では、目的物の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して、目的物の取り出しが困難となる。
【0057】
本発明の反応で用いられる金属塩と屈曲型配位子とピリジル型の補助配位子の混合比率は、金属:2種配位子の合計の比が1:5〜5:1のモル比、好ましくは1:3〜3:3のモル比の範囲内である。さらに、屈曲型配位子とピリジル型の補助配位子の比が1:3〜3:1のモル比、好ましくは1:2〜2:1のモル比の範囲内である。これ以外の範囲では、目的物の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して、目的物の取り出しが困難となる。
【0058】
反応は通常のガラスライニングのSUS製の反応容器および機械式攪拌機を使用して行うことができる。反応終了後は濾過、乾燥を行うことで目的物質と原料の分離を行い、純度の高い目的物質を製造することが可能である。
【0059】
上記の反応により得られた多孔性高分子錯体が目的とする四角格子のネットワーク構造を有しているかどうかは、単結晶X線結晶解析により得られた反射を解析することで確認することが出来る。上記の反応により得られた多孔性高分子錯体のガス吸着能は、市販のガス吸着装置を用いて測定が可能である。
【0060】
本発明の多孔性高分子錯体は、四角格子ネットワーク構造を有している。四角格子は、物理的に格子内にガス分子を内包しうるため、このような格子を有する高分子錯体は、多孔体になる可能性があるが、実際には多くの場合で、格子の重なり具合によって四角格子が形成する細孔が隣接する格子によりふさがれることで、ガス分子の出入りが不能になってしまい、ガス分離吸着特性を有さない現象が生じる。本願発明の高分子錯体は、屈曲分子を配位子として使用しており、本屈曲型配位子により形成された四角格子は、格子内の細孔が隣接する格子によりふさがれにくい構造を有するため、優れたガス吸着分離特性を発現しうると考えられる。しかし、本発明は理論に拘束されるものではなく、本発明の多孔性高分子錯体の特性もこの理論によって制限されるものではない。
【実施例】
【0061】
多孔性高分子錯体の調製方法は種々の条件があり、一義的に決定できるものではないが、ここでは実施例に基づき説明する。
【0062】
下記実施例1−4で使用するジカルボン酸類は、芳香族ジブロミド及びカルボキシル基(またはカルボン酸エステル)及びホウ酸またはホウ酸エステルを有する化合物のカップリング反応(たとえばパラジウムを使用した鈴木カップリング)により合成する事が出来る。カップリング反応は以下の文献を参照出来る。
Wheelhouseら、Chem. Commun.,(2003)1160−1161、およびBuchwaldら、Nature Protocols (2007)3115
【0063】
実施例1
4,4’−(1,3−フェニレン)ジベンゾイックアシッド0.01ミリモルをジメチルホルムアミド1mLに溶かし、直径5ミリメートルのガラス試験管に入れた。硝酸銅3水和物0.01ミリモルをメタノール1mLに溶解し、上記の溶液の上に静かに注入して層を形成させた。室温で4週間静置し、得られた針状の単結晶を大気に暴露させないようにパラトンにてコーティングした後、(株)リガク社製単結晶測定装置(極微小結晶用単結晶構造解析装置VariMax、MoK・線(λ=0.71069Å))にて測定し(照射時間32秒、d=45ミリ、2θ=−20,温度=−103℃)、得られた回折像を解析ソフトウエア、リガク(株)製解析ソフトウエア「CrystalStructure」を使用して解析し、図1〜3に示すように、いわゆる四角格子構造を有していることを確認した(a=27.821(9), b=9.358(3) c=18.281(6); α=90、β=108.450(5), γ=90; 空間群=C2/c))。解析により、銅イオン1個に対して1分子配位したジメチルホルムアミド分子の存在が明らかになったが、図の見やすさの為に図1〜3からは削除した。
【0064】
実施例2
4,4’−(1,3−フェニレン)ジベンゾイックアシッド0.01ミリモルをジメチルホルムアミド0.5mL及びメタノール0.5mLの混合溶媒に溶かし、直径5ミリメートルのガラス試験管に入れた。硝酸銅3水和物0.01ミリモル及びピリジン0.2ミリモルをメタノール1mLに溶解し、上記の溶液の上に静かに注入して層を形成させた。室温で3週間静置し、得られた青色の単結晶を実施例1と同様に測定、解析を行い、図4〜5に示すように、いわゆる四角格子積層構造を有していることを確認した(a=27.275(9), b=10.328(3), c=26.875(9); α=90.00、β=110, γ=90.00; 空間群=C2/c))。
【0065】
実施例3
4,4’−(ナフタレンー2,7−ジイル)ジベンゾイックアシッド0.01ミリモルをジメチルホルムアミド0.5mL及びメタノール0.5mLの混合溶媒に溶かし、直径5ミリメートルのガラス試験管に入れた。硝酸銅3水和物0.01ミリモル及びピリジン0.2ミリモルをメタノール1mLに溶解し、上記の溶液の上に静かに注入して層を形成させた。室温で3週間静置し、得られた青色の結晶を実施例1と同様に測定、解析を行い、図6〜8に示すように、いわゆる四角格子構造を有していることを確認した(a=32.948(5), b=9.7049(14), c=17.494(3); α=90.00、β=105.819(2), γ=90.00; 空間群=C2))。解析により、細孔内に存在するジメチルホルムアミド分子の存在が明らかになったが、図の見やすさの為に図5〜6からは削除した。本ジメチルホルムアミド分子は、後述の吸着のための前処理により細孔から除かれる。
【0066】
実施例4
硝酸亜鉛3水和物0.01ミリモル、4,4’−(1,3−フェニレン)ジベンゾイックアシッド0.01ミリモル、4,4’−ビピリジン0.01ミリモルをジメチルホルムアミド1mLおよびエタノール1mLの混合溶媒に溶解し、直径5ミリメートルのガラス試験管にいれ、蓋をして80℃で3日間加熱した。得られた無色の結晶を実施例1と同様に測定、解析を行い、図9〜10に示すように、いわゆる四角格子構造を有していることを確認した(a=8.129(7), b=9.747(6), c=16.361(13); α=76.73(3)、β=75.94(2), γ=79.20(3); 空間群=P1))。
【0067】
表1に、実施例1ー4で得られた多孔性高分子錯体の二酸化炭素と窒素の吸着量を示す。
【0068】
【表1】
いずれも二酸化炭素の吸着量が窒素と比較して多く、ガス吸着材、ガス分離材料としての利用可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の多孔性高分子錯体は、配位子の整列によって形成される多数の微細孔が物質内部に存在する。この多孔性を生かしてガスの分離、貯蔵に好適に使用出来る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10