(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに離隔させて配置した一対の側壁体と、同側壁体間に立設した1又は複数の中間壁体と、各側壁体又は中間壁体の間にそれぞれ架設したスラブ体とを備える門型が左右方向に連続する構造を有し、この連続門型構造を前後方向に密に複数連設してなるプレキャストコンクリート製のコンクリート構造物において、
前記スラブ体はその左右両端面に、上下方向に跨ってアーチ状に突出するループ筋を備え、また、前記中間壁体はその上面に、左右方向へ跨ってアーチ状に突出するループ筋を備えるものであり、
前記中間壁体の上部は、左右二方向から突出する前記スラブ体のループ筋と、下方から突出する前記中間壁体のループ筋との3つのループ筋を前後方向に重畳させつつねじれの位置関係に配置してループ筋トンネル部を形成し、同ループ筋トンネル部の伸延方向に沿って内周に鉄筋を複数配設すると共に、前記ループ筋トンネル部を包埋するようコンクリートを打設してなることを特徴とするプレキャストコンクリート製構造物。
【背景技術】
【0002】
従来、土木工事などの建設現場において構築されるコンクリート構造物は、現場に型枠を設置してコンクリートを打設する現場打ち工法や、工場にて予め製造したコンクリート製品(以下、プレキャストコンクリートという。)を現場へ運搬して設置するプレキャスト工法などにより構築されている。
【0003】
なかでも、プレキャスト工法は、現場の天候等に左右される現場打ち工法に比して、均質なプレキャストコンクリートにより品質の高いコンクリート構造物を構築することができ、また、工期を短縮できることもあって実に様々な場面で実施されている。
【0004】
建設現場へのプレキャストコンクリートの搬入は、トラックやトレーラ等の運搬車両により行われるのが一般的である。
【0005】
しかしながら、構築されるコンクリート構造物が大きい場合、運搬車両の積載限界や、公道の通行制限等もあって、構築するコンクリート構造物を細分化した状態、すなわち、プレキャストセグメントとして搬入が行われる。
【0006】
このように分割された状態で建設現場に次々と搬入されたプレキャストセグメントは、互いに結合させつつ組み立てることで、所望するプレキャストコンクリート製構造物が構築される。
【0007】
ところで、数多くの土木建設現場の中には、例えば、地下駐車場や大量に降った雨を一時的に溜めておく地下貯留槽等のように、内部空間を備えた箱型のコンクリート製の構造物(以下、箱型構造物ともいう。)を構築する場合がある。
【0008】
このような箱型構造物は、まさにプレキャスト工法に適した構造物であり、外枠をなす壁体や支持体としての中間壁体、天井部分として機能するスラブ体などのプレキャストセグメントを用いて構築が行われる(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
より詳細には、互いに離隔させて配置した一対の側壁体の間に、1又は複数の中間壁体を立設し、各側壁体又は中間壁体の間にそれぞれスラブ体を架設して門型が左右方向に連続する構造を形成し、この連続門型構造を前後方向に密に複数連設させることで内部に空間を有する箱型のプレキャストコンクリート製構造物が構築される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、上記従来のプレキャストコンクリート製構造物は、スラブに十分な重量があり、また、地下埋設されるものにあっては土圧もあることから、中間壁とスラブとの結合強度は、主に施工容易性を優先させる観点からあまり着目されていない。
【0012】
この点において本発明者らは、地震の多い本邦において、より強固な構造を備えた箱型のプレキャストコンクリート製構造物を提供すべく、鋭意検討を行った。
【0013】
すなわち、本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、施工が比較的容易でありながら、中間壁体とスラブとが強固に一体化されたプレキャストコンクリート製構造物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係るプレキャストコンクリート製構造物では、(1)互いに離隔させて配置した一対の側壁体と、同側壁体間に立設した1又は複数の中間壁体と、各側壁体又は中間壁体の間にそれぞれ架設したスラブ体とを備える門型が左右方向に連続する構造を有し、この連続門型構造を前後方向に密に複数連設してなるプレキャストコンクリート製のコンクリート構造物において、前記スラブ体はその左右両端面に、上下方向に跨ってアーチ状に突出するループ筋を備え、また、前記中間壁体はその上面に、左右方向へ跨ってアーチ状に突出するループ筋を備えるものであり、前記中間壁体の上部は、左右二方向から突出する前記スラブ体のループ筋と、下方から突出する前記中間壁体のループ筋との3つのループ筋を前後方向に重畳させつつねじれの位置関係に配置してループ筋トンネル部を形成し、同ループ筋トンネル部の伸延方向に沿って内周に鉄筋を複数配設すると共に、前記ループ筋トンネル部を包埋するようコンクリートを打設してなることとした。
【0015】
また、本発明に係るプレキャストコンクリート製構造物では、(2)前記側壁体はその上面に、左右方向へ跨ってアーチ状に突出するループ筋を備えるものであり、前記側壁体の上部は、左右いずれか一方から突出するスラブ体のループ筋と、下方から突出する前記側壁体のループ筋との2つのループ筋を前後方向に重畳させつつねじれの位置関係に配置してループ筋トンネル部を形成し、同ループ筋トンネル部の伸延方向に沿って内周に鉄筋を複数配設すると共に、前記ループ筋トンネル部を包埋するようコンクリートを打設してなることにも特徴を有する。
【0016】
また、本発明に係る貯留槽では、(3)上記(1)又は(2)に記載のプレキャス
トコンクリート
製構造物を地中に埋設してなる貯留部と、前記貯留部の内部空間に地上の雨水を導く流入管が接続される導水孔と、前記貯留部の内部空間に貯留された雨水を排出する流出管が接続される排水孔と、を備えることとした。
【0017】
また、本発明に係る貯留槽では、前後方向に隣接する中間壁体の胴部間に、幅60cm以上の間隙を形成したことにも特徴を有している。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るプレキャストコンクリート製構造物では、互いに離隔させて配置した一対の側壁体と、同側壁体間に立設した1又は複数の中間壁体と、各側壁体又は中間壁体の間にそれぞれ架設したスラブ体とを備える門型が左右方向に連続する構造を有し、この連続門型構造を前後方向に密に複数連設してなるプレキャストコンクリート製のコンクリート構造物において、前記スラブ体はその左右両端面に、上下方向に跨ってアーチ状に突出するループ筋を備え、また、前記中間壁体はその上面に、左右方向へ跨ってアーチ状に突出するループ筋を備えるものであり、前記中間壁体の上部は、左右二方向から突出する前記スラブ体のループ筋と、下方から突出する前記中間壁体のループ筋との3つのループ筋を前後方向に重畳させつつねじれの位置関係に配置してループ筋トンネル部を形成し、同ループ筋トンネル部の伸延方向に沿って内周に鉄筋を複数配設すると共に、前記ループ筋トンネル部を包埋するようコンクリートを打設してなることとしたため、施工が比較的容易でありながら、中間壁体とスラブとが強固に一体化されたプレキャストコンクリート製構造物を提供することができる。
【0019】
また、前記側壁体はその上面に、左右方向へ跨ってアーチ状に突出するループ筋を備えるものであり、前記側壁体の上部は、左右いずれか一方から突出するスラブ体のループ筋と、下方から突出する前記側壁体のループ筋との2つのループ筋を前後方向に重畳させつつねじれの位置関係に配置してループ筋トンネル部を形成し、同ループ筋トンネル部の伸延方向に沿って内周に鉄筋を複数配設すると共に、前記ループ筋トンネル部を包埋するようコンクリートを打設してなることとすれば、構造物の略全体が極めて強固に一体化されたプレキャストコンクリート製構造物とすることができる。
【0020】
また、上記プレキャス
トコンクリート
製構造物を地中に埋設してなる貯留部と、前記貯留部の内部空間に地上の雨水を導く流入管が接続される導水孔と、前記貯留部の内部空間に貯留された雨水を排出する流出管が接続される排水孔と、を備えた貯留槽とすれば、施工が比較的容易でありながら、中間壁体とスラブとが強固に一体化され、しかも地震等に対してより頑丈な貯留槽を提供することができる。
【0021】
また、前後方向に隣接する中間壁体の胴部間に、幅60cm以上の間隙を形成すれば、貯留した雨水等を排出した後で内部空間床面に残留するゴミ等を、所定の建機等を用いて容易に清掃することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、施工が比較的容易でありながら、中間壁体とスラブとが強固に一体化されたプレキャストコンクリート製構造物を提供するものであり、具体的には、互いに離隔させて配置した一対の側壁体と、同側壁体間に立設した1又は複数の中間壁体と、各側壁体又は中間壁体の間にそれぞれ架設したスラブ体とを備える門型が左右方向に連続する構造を有し、この連続門型構造を前後方向に密に複数連設してなるプレキャストコンクリート製のコンクリート構造物に関するものである。
【0024】
ここでコンクリート製構造物は、側壁体や中間壁体、スラブ等により構築された連続門型構造が前後方向に密に連設されてなる構造、例えば箱型構造体であれば、その用途等は特に限定されるものではなく、例えば、駐車設備や雨水貯留設備、倉庫設備や避難設備として使用されるものであっても良い。
【0025】
また、コンクリート製構造物は、地上に構築されるものであっても良く、また、地下に構築されたり埋設されるものであっても良い。地下に埋設されるケースについて前述の例に照らし合わせてみれば、例えば地下駐車場や貯留槽、地下倉庫や地下シェルター等と理解することができる。
【0026】
このようなコンクリート製構造物において、本実施形態に係るプレキャストコンクリート製構造物の特徴としては、スラブ体はその左右両端面に、上下方向に跨ってアーチ状に突出するループ筋を備え、また、前記中間壁体はその上面に、左右方向へ跨ってアーチ状に突出するループ筋を備えるものであり、前記中間壁体の上部は、左右二方向から突出する前記スラブ体のループ筋と、下方から突出する前記中間壁体のループ筋との3つのループ筋を前後方向に重畳させつつねじれの位置関係に配置してループ筋トンネル部を形成し、同ループ筋トンネル部の伸延方向に沿って内周に鉄筋を複数配設すると共に、前記ループ筋トンネル部を包埋するようコンクリートを打設してなることとしている。
【0027】
したがって、立設した側壁体や中間壁体(以下、総称して各壁体ともいう。)上に単にスラブを載置した場合や、ピン結合により連結させた場合に比して、より強固に各壁体とスラブとを一体的に結合させることができる。
【0028】
なお、例えば特許第3854964号に示されるように、中間壁体とスラブ体との結合にPC鋼材を採用し剛結構造とすることが従来より提案されているが、ジャッキの如き特殊な施工機械を用いてPC鋼材を緊張する必要があるため施工に手間を要し、また、PC鋼材の緊張作業の管理を行う必要もある。
【0029】
しかも、このような作業を剛結構造部分全てにおいて行う必要があり、工期が長引き施工費用が嵩んだり、場合によっては事故の可能性も高くなる。
【0030】
一方、本願発明によれば、上述のような構成としたため、特殊な施工機械を必要とせず、非剛結構造部分と同様に結合部に生コンを打設することで剛結構造が実現でき、PC鋼材を用いた場合に比して施工の手間や時間を飛躍的に軽減することができると共に、緊張作業に伴う事故の可能性も回避しながら、PC鋼材による一体化と略同等の結合効果を得ることができる。
【0031】
また、前記側壁体はその上面に、左右方向へ跨ってアーチ状に突出するループ筋を備えるものであり、前記側壁体の上部は、左右いずれか一方から突出するスラブ体のループ筋と、下方から突出する前記側壁体のループ筋との2つのループ筋を前後方向に重畳させつつねじれの位置関係に配置してループ筋トンネル部を形成し、同ループ筋トンネル部の伸延方向に沿って内周に鉄筋を複数配設すると共に、前記ループ筋トンネル部を包埋するようコンクリートを打設してなることとしても良い。
【0032】
このような構成とすることにより、上記中間壁体とスラブとの結合のみならず、側壁体とスラブとの結合についても極めて強固な結合とすることができ、構築される構造物略全体を一体的に頑丈なものとすることができる。
【0033】
また、これらのような構成を備えたプレキャストコンクリート製構造物は、箱型構造体を利用する前述した各種用途のいずれにおいても有用な構造物として利用可能であるが、特に、貯留槽の一部とすれば極めて高い有用性を発揮する。
【0034】
ここで貯留槽は、例えば都市部などにおいて短時間に相当量の降雨があった場合、雨水を一時的に貯留して、河川への急激な流入等を回避するための地下設備である。
【0035】
すなわち、本実施形態に係る貯留槽では、上述した本実施形態に係るプレキャス
トコンクリート
製構造物を地中に埋設してなる貯留部と、前記貯留部の内部空間に地上の雨水を導く流入管が接続される導水孔と、前記貯留部の内部空間に貯留された雨水を排出する流出管が接続される排水孔と、を備えることとしている。
【0036】
したがって、本実施形態に係る貯留槽によれば、地震に際して極めて高い耐性を備えた貯留槽を提供することができる。
【0037】
また、本実施形態に係る貯留槽では、前後方向に隣接する中間壁体の胴部間に、幅60cm以上の間隙、より好ましくは80cm以上の間隙を形成しても良い。
【0038】
このような間隙を設けておくことにより、排水後の貯留槽内部に蓄積されたゴミ等を排除するにあたり、排土板等を装着させた狭幅の建設重機を用いて、効率的に清掃を行うことができる。特に、間隙を80cm以上とした場合には、建設重機の左右両側に余裕を持たせた状態で通過可能としたり、建設重機に装着する排土板の横幅をより拡張することができる。
【0039】
以下、本実施形態に係るプレキャストコンクリート製構造物及び貯留槽に関し、図面を参照しながらより詳細に説明する。
【0040】
図1は、本実施形態に係る貯留槽Aを備えた地下貯留設備10の構造を示す説明図である。
図1に示すように、地下貯留設備10は、都市部に整備された公園Pの地下に設置されており、地上部に降った大量の雨水を一時的に貯留して、地上部の洪水状態や河川の急激な増水を回避可能としている。
【0041】
地下貯留設備10は、貯留槽Aと、流入管12と、流出管13とを備えている。
【0042】
貯留槽Aは、基礎コンクリート20上に構築された本実施形態に係るプレキャストコンクリート製構造物としての箱型構造物であり、側壁21と、中間壁22と、天壁23と、流入孔15と、排水孔16とを備えている。
【0043】
基礎コンクリート20は、貯留槽Aの基礎として機能する部位であり、建設時に地面を掘り下げて形成した穴の底部にコンクリートを紙面の手前−奥行き方向に向けて所定幅、すなわち、少なくとも貯留槽Aの幅よりも広幅に打設して形成している。
【0044】
側壁21は、貯留槽Aの左右端面を構成する壁であり、紙面左側に配設された左側壁21Lと紙面右側に配設された右側壁21Rとの一対の側壁21にて構成される。
【0045】
また、左側壁21Lの上部には、流入孔15が穿設されている。この流入孔15は、雨水を貯留槽Aの内部空間に流入させるための孔であり、流入管12が接続される。流入管12は、例えば地上部に配設された雨水マスや、
図1に示すように地中に埋設された雨水管14に接続されており、これら雨水マスや雨水管14から流入孔15を介して貯留槽Aへ雨水を通水させる役割を有している。
【0046】
また、対向する右側壁21Rの下部には、排水孔16が穿設されている。この排水孔16は貯留槽Aの内部空間に貯留された雨水を流出させるための孔であり、流出管13が接続される。流出管13は、例えば河川へ通じる排水管路等に接続されており、貯留槽A内の雨水を排出することができる。なお、本実施形態では流入孔15を左側壁21Lに、排水孔16を右側壁21Rに設けることとしたが、これらの形成位置は特に限定されるものではなく、それぞれの役割を阻害しない範囲で適宜位置を変更することができる、その他の位置について例を挙げるならば、例えば、貯留槽Aの前壁や後壁25b部分とすることも可能である。
【0047】
中間壁22は、一対の側壁21間に立設した壁であり、本実施形態に係る貯留槽Aでは、2つの中間壁22a及び中間壁22bを備えることで内部に3つの区画空間18を形成している。
【0048】
天壁23は、貯留槽Aの天井部分を構成する部位であり、スラブ体33を複数連結して構成している。なお、
図1中において符号24は、貯留槽A内部の床面を面一とするために打設された充填コンクリート部である。また、貯留槽Aの紙面奥行き方向端部及び紙面手前方向端部は、コンクリートを打設して後壁25b(
図2参照)及び前壁(図示せず)を構築し、貯留した雨水が貯留槽Aの前後端面より地中へ漏出しないように構成している。
【0049】
図2は、貯留槽Aの構造を立体的に示した説明図である。
図2に示すように側壁21(左側壁21L及び右側壁21R)は、所定の長さの前後幅(以下、単位前後幅と称する。)に形成したプレキャストセグメントとしての側壁体30を前後方向(
図2にて立体的に示した貯留槽Aの手前−奥行方向)に密に複数連設して構成している。
【0050】
側壁体30は、上下方向に伸延する平板状の壁本体部30aと、壁本体部30aの上部に形成した上フランジ部30bと、壁本体部30aの下部に形成した下フランジ部30cとを備えている。
【0051】
壁本体部30aは、貯留槽A内に雨水を貯留した際、雨水が外部に漏出するのを防止するための壁として機能する部位である。なお、前述の流入孔15は、
図2において記載を省略しているが、前後方向に複数連設する壁本体部30aの所定部位に形成される。
【0052】
上フランジ部30bは、貯留槽Aの内方へ向けて突出状に形成した上部平面を備えるフランジであり、その上部平面上は、側壁体30と同じ単位前後幅に形成したプレキャストセグメントとしてのスラブ体33の左右端部近傍を載置し、側壁体30とスラブ体33とを連結するL字接合部40を形成する部位として機能する。
【0053】
下フランジ部30cは、貯留槽Aの内方へ向けて突出状に形成した下部平面を備えるフランジであり、側壁体30自体を基礎コンクリート20上で安定的に自立させるための部位である。
【0054】
また、中間壁22(中間壁22a及び中間壁22b)は、最大前後幅を前述の側壁体30と同じ単位前後幅に形成したプレキャストセグメントとしての中間壁体31を前後方向に密に複数連設して構成しており、また、所定間隔毎に隣り合う区画空間18を空間的に接続する間隙部34が形成されている。
【0055】
中間壁体31は、上下方向に伸延する平板状の壁胴体部31aと、壁胴体部31aの上部に形成した上フランジ部31bと、壁胴体部31aの下部に形成した下フランジ部31cとを備えている。
【0056】
壁胴体部31aは、上方に架設されるスラブ体33を支持するための支柱として機能する部位である。また、壁胴体部31aには、切欠部31dを備えている。この切欠部31dは、壁胴体部31aの前後いずれか一方の端面を上フランジ部31b近傍から下フランジ部31cの上面に至るまで、単位前後幅よりも30cm以上狭幅となるよう切り欠いて形成している。この切欠部31dは、連設した前後いずれかの他の中間壁体31の切欠部31dと突き合わせることで間隙部34を形成するためのものである。すなわち、間隙部34の間隙幅(前後方向の幅)は60cm以上となるよう構成している。そして、このような構成を備えることにより、貯留槽A内に排土板等を備える幅が60cm以下の建設重機等を搬入することで、例えば雨水と共に流入し排水後に貯留槽A内に残留したゴミ等の除去作業を効率良く行うことができる。
【0057】
上フランジ部31bは、貯留槽Aの左右両側方へ向けて突出状に形成した上部平面を備えるフランジであり、スラブ体33の左右端部近傍を載置し、中間壁体31と二つのスラブ体33とを連結するT字接合部41を形成する部位として機能する。
【0058】
下フランジ部31cは、貯留槽Aの左右両側方へ向けて突出状に形成した下部平面を備えるフランジであり、中間壁体31自体を基礎コンクリート20上で安定的に自立させるための部位である。
【0059】
次に、本実施形態に係るプレキャストコンクリート製構造物である貯留槽Aに特徴的なT字接合部41の構成について
図3〜
図6を参照しつつ説明する。
【0060】
図3に示すように、T字接合部41は、2つのスラブ体33と、中間壁体31とにより、中間壁体31の上フランジ部31b上に形成される。
【0061】
スラブ体33の左右端部には、上下方向に跨るアーチ状のスラブ体ループ筋33aをそれぞれ左右側方に突出させて設けており、このスラブ体ループ筋33aを前後方向に複数(本実施形態では6つ)形成している。
【0062】
また、スラブ体33の左右端部近傍には、スラブ体33を上下方向に貫通するピン挿通孔33bが、スラブ体33の左右端縁と平行に前後方向に向けて複数(本実施形態では4つ)穿設されている。
【0063】
また、中間壁体31の上フランジ部31bの上面左右略中央には、左右方向に跨るアーチ状の中間壁体ループ筋31eを上方に突出させて設けており、この中間壁体ループ筋31eを前後方向に複数(本実施形態では6つ)形成している。
【0064】
また、上フランジ部31bの上面左右端部近傍には、鉄筋にて形成した位置決めピン31fを上方へ向けて突出させており、この位置決めピン31fを上フランジ部31bの左右端縁と平行に前後方向に向けて複数(本実施形態では4つ)形成している。
【0065】
前述のスラブ体33のピン挿通孔33bは、この位置決めピン31fに対応する位置に穿設されており、ピン挿通孔33bに位置決めピン31fが挿通されるよう、上フランジ部31bの左右それぞれにスラブ体33の端部を配置することで、スラブ体33の前後端縁と上フランジ部31bの前後端縁とが揃った規定位置に容易に配置可能としている。
【0066】
ここで、
図3において上フランジ部31bの上面左端部側に配置されるスラブ体33(説明の便宜上、第1のスラブ体S1と称する。)のスラブ体ループ筋33aと、上フランジ部31bの上面右端部側に配置されるスラブ体33(説明の便宜上、第2のスラブ体S2と称する。)のスラブ体ループ筋33aと、中間壁体ループ筋31eとは、前述の規定位置に配置した際に、それぞれのループ筋同士が干渉しないよう配置されている。
【0067】
すなわち、
図4に示すように、第1のスラブ体S1のスラブ体ループ筋33aと、第2のスラブ体S2のスラブ体ループ筋33aと、中間壁体31の中間壁体ループ筋31eとがそれぞれねじれの位置関係に配置され、3つのループ筋のループ部分が前後方向へ向けて重畳するようにしている。
【0068】
また、このように配置された3つのループ筋により、
図5に示すように、前後方向に伸延するループ筋トンネル部42が形成される。
【0069】
このループ筋トンネル部42の内部には、
図5及び
図6に示すように、同ループ筋トンネル部42の伸延方向、すなわち前後方向へ向けて内周に鉄筋35を複数(本実施形態では6本)配設している。
【0070】
そして、このように形成されたループ筋トンネル部42を包埋するように、上フランジ部31b上に配置された2つのスラブ体33の端部間(
図5及び
図6において破線で示す部分)にコンクリートを打設してT字接合部41を形成している。
【0071】
したがって、施工が比較的容易でありながら、中間壁体とスラブとが強固に一体化された剛結合構造が実現される。
【0072】
次に、L字接合部40の構成について
図7〜
図9を参照しつつ説明する。
【0073】
図7に示すように、L字接合部40は、スラブ体33と、側壁体30とにより、側壁体30の上フランジ部30b上に形成される。なお、ここでは左側壁21Lを構成する側壁体30上に形成されたL字接合部40を例に説明するが、右側壁21R上のL字接合部40は左右対称であり実質的に同様の構成であるため、説明を省略する。
【0074】
前述したように、スラブ体33は、その右端部に上下方向に跨る複数のアーチ状のスラブ体ループ筋33aを備え、また、右端部近傍には、スラブ体33コンクリート成型部分を上下方向に貫通するピン挿通孔33bが複数穿設されている。
【0075】
また、側壁体30の上フランジ部30bの上面右寄りには、左右方向に跨るアーチ状の側壁体ループ筋30dを上方に突出させて設けており、この側壁体ループ筋30dを前後方向に複数(本実施形態では6つ)形成している。
【0076】
また、上フランジ部30bの上面左端部近傍には、鉄筋にて形成した位置決めピン30eを上方へ向けて突出させており、この位置決めピン30eを上フランジ部30bの左右端縁と平行に前後方向に向けて複数(本実施形態では4つ)形成している。
【0077】
前述のスラブ体33のピン挿通孔33bは、この位置決めピン30eに対応する位置に穿設されており、ピン挿通孔33bに位置決めピン30eが挿通されるよう、上フランジ部30bの左側にスラブ体33の端部を配置することで、スラブ体33の前後端縁と上フランジ部30bの前後端縁とが揃った規定位置に容易に配置可能としている。
【0078】
また、上フランジ部30bの上面に配置されるスラブ体33のスラブ体ループ筋33aと、側壁体ループ筋30dとは、前述の規定位置に配置した際に、それぞれのループ筋同士が干渉しないよう配置されている。
【0079】
すなわち、
図9に示すように、スラブ体33のスラブ体ループ筋33aと、側壁体30の側壁体ループ筋30dとがそれぞれねじれの位置関係に配置され、2つのループ筋のループ部分が前後方向へ向けて交互に重畳するようにしている。
【0080】
また、このように配置された2つのループ筋により、
図8に示すように、前後方向に伸延するループ筋トンネル部43が形成される。
【0081】
このループ筋トンネル部43の内部には、
図8及び
図9に示すように、同ループ筋トンネル部43の伸延方向、すなわち前後方向へ向けて内周に鉄筋35を複数(本実施形態では6本)配設している。
【0082】
そして、このように形成されたループ筋トンネル部43を包埋するように、
図8及び
図9において破線で示す部分をコンクリートで打設してL字接合部40を形成している。
【0083】
したがって、施工が比較的容易でありながら、側壁体30とスラブ体33とが強固に一体化された剛結合構造が実現される。
【0084】
特に、本実施形態に係るプレキャストコンクリート製構造物である貯留槽Aでは、L字接合部40とT字接合部41との両方を備えているため、構造物の略全体が極めて強固に一体化されたプレキャストコンクリート製構造物が実現される。
【0085】
上述してきたように、本実施形態に係るプレキャストコンクリート製構造物によれば、互いに離隔させて配置した一対の側壁体(例えば、側壁体30)と、同側壁体間に立設した1又は複数の中間壁体(例えば、中間壁体31)と、各側壁体又は中間壁体の間にそれぞれ架設したスラブ体(例えば、スラブ体33)とを備える門型が左右方向に連続する構造を有し、この連続門型構造を前後方向に密に複数連設してなるプレキャストコンクリート製のコンクリート構造物において、前記スラブ体はその左右両端面に、上下方向に跨ってアーチ状に突出するループ筋(例えば、スラブ体ループ筋33a)を備え、また、前記中間壁体はその上面に、左右方向へ跨ってアーチ状に突出するループ筋(例えば、中間壁体ループ筋31e)を備えるものであり、前記中間壁体の上部は、左右二方向から突出する前記スラブ体のループ筋と、下方から突出する前記中間壁体のループ筋との3つのループ筋を前後方向に重畳させつつねじれの位置関係に配置してループ筋トンネル部(例えば、ループ筋トンネル部42)を形成し、同ループ筋トンネル部の伸延方向に沿って内周に鉄筋(例えば、鉄筋35)を複数配設すると共に、前記ループ筋トンネル部を包埋するようコンクリートを打設してなる(例えば、T字接合部41)こととしたため、施工が比較的容易でありながら、中間壁体とスラブとが強固に一体化されたプレキャストコンクリート製構造物を提供することができる。
【0086】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。