(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シミュレーションの対象となるシステムの構成要素の一部をシミュレータで構成し、その他の部分をハードウエアで構成して、前記シミュレータと前記ハードウエアとの間で信号の送受信を行ってシミュレーションを行うシミュレーションシステムであって、
前記シミュレータに所定の調整ブロックを追加してシミュレーションを行い、
前記調整ブロックのパラメータは、
前記シミュレータで構成される部分のモデルである第1モデルに、パラメータの初期値が設定された前記調整ブロックを追加したフィーバックシステムである追加モデルに、参照信号の入力を行って、
前記調整ブロックから前記第1モデルに入力される入力データと、前記第1モデルから出力される出力データとを取得し、
取得された入力データと出力データとに基づく疑似参照信号を入力したときの前記追加モデルの出力と、前記追加モデルを近似させたい所望のモデルの出力との差が最小化するように、設定されている、
ことを特徴とするシミュレーションシステム。
シミュレーションの対象となるシステムの構成要素の一部をシミュレータで構成し、その他の部分をハードウエアで構成して、前記シミュレータと前記ハードウエアとの間で信号の送受信を行ってシミュレーションを行うシミュレーションシステムであって、
前記シミュレータに所定の調整ブロックを追加してシミュレーションを行い、
前記調整ブロックのパラメータは、前記シミュレータで構成される部分のモデルに前記調整ブロックを追加したフィーバックシステムである追加モデルに参照信号を入力したときの出力と、前記追加モデルを近似させたい所望のモデルに前記参照信号を入力したときの出力との差が最小化するように、設定されている、
ことを特徴とするシミュレーションシステム。
前記追加モデルの出力と前記所望のモデルの出力とに基づき、所定の評価関数によって算出された評価値が小さくなるように、前記パラメータを変化させて、前記評価値を最小にする最適解を前記調整ブロックのパラメータとして設定する、
請求項1または2に記載のシミュレーションシステム。
シミュレーションの対象となるシステムの構成要素の一部をハードウエアで構成したシミュレーションシステムにおいて、前記ハードウエアとの間で信号の送受信を行って、その他の部分を模擬するシミュレータであって、
所定の調整ブロックが追加されており、
前記調整ブロックのパラメータは、
前記シミュレータで構成される部分のモデルである第1モデルに、パラメータの初期値が設定された前記調整ブロックを追加したフィーバックシステムである追加モデルに、参照信号の入力を行って、
前記調整ブロックから前記第1モデルに入力される入力データと、前記第1モデルから出力される出力データとを取得し、
取得された入力データと出力データとに基づく疑似参照信号を入力したときの前記追加モデルの出力と、前記追加モデルを近似させたい所望のモデルの出力との差が最小化するように、設定されている、
ことを特徴とするシミュレータ。
シミュレーションの対象となるシステムの構成要素の一部をシミュレータで構成し、その他の部分をハードウエアで構成して、前記シミュレータと前記ハードウエアとの間で信号の送受信を行ってシミュレーションを行うためのシミュレーションシステムにおいて、コンピュータを前記シミュレータとして機能させるためのプログラムであって、
前記システムの構成要素の一部に所定の調整ブロックを追加してシミュレーションを行うプログラムと、
前記調整ブロックのパラメータを、
前記シミュレータで構成される部分のモデルである第1モデルに、パラメータの初期値が設定された前記調整ブロックを追加したフィーバックシステムである追加モデルに、参照信号の入力を行って、
前記調整ブロックから前記第1モデルに入力される入力データと、前記第1モデルから出力される出力データとを取得し、
取得された入力データと出力データとに基づく疑似参照信号を入力したときの前記追加モデルの出力と、前記追加モデルを近似させたい所望のモデルの出力との差が最小化するように、設定するプログラムと、
を備えている、
ことを特徴とするプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、電力システムをシミュレーションする場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0026】
図1は、第1実施形態に係るシミュレーションシステムを説明するための図である。
【0027】
シミュレーションシステムAは、パワーコンディショナ1、センサ2、アンプ3、シミュレータ4、および、パラメータ演算装置6を備えている。シミュレーションシステムAは、パワーコンディショナ1を電力系統に接続した電力システムをシミュレーションするものであり、PHILシミュレーションを行う。シミュレーションシステムAは、電力系統をシミュレータ4で模擬し、ハードウエアであるパワーコンディショナ1との間で信号を送受信して、電力システムのシミュレーションを行う。例えば、電力系統で事故が発生した状態をシミュレータ4で再現して、その時のパワーコンディショナ1の状態を観察するなどの実験が行われる。
【0028】
パワーコンディショナ1は、太陽電池などが出力する直流電力を交流電力に変換し、負荷や電力系統に供給するものである。パワーコンディショナ1は、図示しないインバータ回路、フィルタ回路、および制御回路などを備えている。インバータ回路は、図示しないスイッチング素子を備えており、制御回路から入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで直流電力を交流電力に変換する。フィルタ回路は、スイッチングによる高周波成分を除去するものであり、リアクトルとキャパシタとを有するローパスフィルタを備えている。また、パワーコンディショナ1には、過電流や過電圧、単独運転などを検出する保護機能も備えられている。
【0029】
センサ2は、パワーコンディショナ1の出力電流を検出するものである。センサ2は、検出した出力電流信号をシミュレータ4に出力する。なお、センサ2として、パワーコンディショナ1が備えている出力電流センサを用いてもよい。
【0030】
アンプ3は、シミュレータ4より入力される系統電圧信号を、実際の系統電圧のレベルに増幅して、パワーコンディショナ1に出力する。
【0031】
シミュレータ4は、電力系統を模擬するものである。シミュレータ4は、センサ2より入力される出力電流信号と、設定された伝達関数とに基づいて、電力系統の系統電圧信号を演算し、アンプ3を介してパワーコンディショナ1に出力する。なお、本実施形態では電気回路をシミュレーションするので、電流を入力とし電圧を出力とする伝達関数として、インピーダンスが設定される。
【0032】
シミュレータ4は、アナログ/デジタル変換回路41、デジタル/アナログ変換回路42、データ設定部43、および、演算部44を備えている。
【0033】
アナログ/デジタル変換回路41は、アナログ信号をデジタル信号に変換するものであり、センサ2より入力される出力電流信号をデジタル信号に変換して演算部44に出力する。デジタル/アナログ変換回路42は、デジタル信号をアナログ信号に変換するものであり、演算部44より入力される系統電圧信号をアナログ信号に変換してアンプ3に出力する。
【0034】
データ設定部43は、各種データを演算部44に入力するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。データ設定部43は、図示しない入力手段によって操作者が直接入力した情報や、操作者がCADを用いて作成した回路図や制御系のブロック線図から各種データを抽出して、演算部44に出力する。本実施形態では、データ設定部43は、操作者が作成した電力系統の回路図から当該電力系統のインピーダンスZ
1(s)を算出し、演算部44に出力する。また、データ設定部43は、後述するパラメータ演算装置6によって演算されたパラメータρの最適解ρ’を入力され、これに基づいて、調整ブロックの伝達関数C(ρ’、s)を算出して演算部44に出力する。本実施形態においては、調整ブロックを一次のローパスフィルタとしており、その伝達関数C(ρ、s)は、下記(1)式で表される。この場合、パラメータρは時定数である。パラメータρの最適解ρ’の導出方法については後述する。
【数1】
【0035】
演算部44は、電力系統を模擬したシミュレーションを行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。演算部44は、あらかじめ設定されている電力系統のモデルと、データ設定部43より入力された各種データと、アナログ/デジタル変換回路41より入力される出力電流信号(デジタル)とに基づいて、系統電圧信号(デジタル)を生成し、デジタル/アナログ変換回路42に出力する。
【0036】
本実施形態では、演算部44は、電力系統のインピーダンスZ
1(s)と調整ブロックの伝達関数C(ρ’、s)とを用いて下記(2)式に基づいて算出したインピーダンスZ
1’(s)を用いている。インピーダンスZ
1’(s)は、電力系統を模擬したシステムに調整ブロックを追加したシステムのインピーダンスである。
【数2】
【0037】
以下に、電力系統のインピーダンスZ
1(s)をそのまま用いた場合の問題について、非特許文献1を参照して、説明する。
【0038】
図2は、インダクタ結合型システムをPHILシミュレーションでシミュレーションする場合について説明するための図である。同図(a)は、インダクタ結合型システムの回路図を示しており、同図(b)は、当該システムをPHILシミュレーションでシミュレーションした場合を、回路図で示している。
【0039】
同図(a)に示すインダクタ結合型システムは、内部電圧Vsの電源に、抵抗R
2、インダクタンスL
2、キャパシタンスC
2からなる負荷を直列接続したものである。電源の内部抵抗はR
1であり、内部インダクタンスはL
1である。このインダクタ結合型システムを、同図(b)に示すように、電源の部分をシミュレータ4で模擬し、負荷の部分をそのまま実機でハードウエア5として、PHILシミュレーションでシミュレーションする。同図(b)では、シミュレータ4が模擬する電源の回路図を記載している。
【0040】
シミュレータ4は、電源の出力電圧信号V
1をアナログ信号に変換してアンプに出力する。アンプは、入力されたアナログ信号を実際の電圧V
2として再生し、ハードウエア5に出力する。そして、ハードウエア5の制御電圧源が、電圧V
2を負荷に供給する。一方、負荷に流れる実際の電流がセンサによって電流信号I
2として検出され、シミュレータ4に出力される。シミュレータ4は、入力される電流信号I
2をデジタル信号に変換し、制御電流源に電流I
1として再現させる。
【0041】
PHILシミュレーションでは、実機での応答とは異なり、信号変換や演算処理による遅延が発生する。シミュレータ4での演算、デジタル/アナログ変換、およびアンプでの処理などによる遅延時間をL
d1とし、アナログ/デジタル変換などによる遅延時間をL
d2とすると、V
1とV
2の関係は下記(3)式で表され、I
1とI
2との関係は下記(4)式で表される。なお、関数「exp()」は、ネイピア数「e」のべき乗を表している。
【数3】
【0042】
また、シミュレータ4のインピーダンスZ
1(s)は下記(5)式で表され、ハードウエア5のインピーダンスZ
2(s)は下記(6)式で表される。
【数4】
【0043】
したがって、
図2(b)に示す回路をブロック線図で表すと、
図3(a)に示すものになる。ここで、PHILシミュレーション全体での遅延時間をL
d(=L
d1+L
d2)とすると、
図3(a)から
図3(b)に書き換えることができる。
図3(b)に示すシステムの特性方程式は、下記(7)式となる。
【数5】
【0044】
上記(7)式において、遅延時間L
dに基づく要素(以下では、「むだ時間要素」とする。)exp(−L
d・s)について下記(7)式の一次パデ近似を行い、上記(5)および(6)式を代入すると、下記(9)式になる。なお、a=2/L
dである。
【数6】
【0045】
上記(8)式の特性方程式において、ラウスの安定判別法を用いると、安定条件は下記(10)〜(12)式を満たすことである。
【数7】
【0046】
つまり、PHILシミュレーションが安定であるためには、上記(10)式に示すように、ハードウエア5のインダクタンスL
2がシミュレータ4のインダクタンスL
1より大きい必要がある。したがって、従来のPHILシミュレーションでは、ハードウエア5のインダクタンスL
2がシミュレータ4のインダクタンスL
1より小さい状態でシミュレーションを行うことができなかった。
【0047】
従来のPHILシミュレーションの安定性を検証するために、
図2(b)に示すシステムでシミュレーションを行った。
図4は、当該シミュレーション結果を示す図である。
【0048】
図4(a)は、回路定数として、R
1=1[Ω]、L
1=1[mH]、R
2=10[Ω]、L
2=1.1[mH]、C
2=25[μF]を設定した場合のアンプの出力電圧V
2の時間応答を示している。同図(a)に示すように、電圧V
2の波形は正弦波になっており、L
1<L
2なので、安定してシミュレーションが行われていることが確認できる。
【0049】
同図(b)は、回路定数としてL
1=1.8[mH]を設定し、他の回路定数を同図(a)の場合と同じにしたときの電圧V
2の時間応答を示している。同図(b)に示すように、電圧V
2の波形は発散しており、L
1>L
2なので、シミュレーションが安定して行われないことが確認できる。
【0050】
本実施形態では、上記(10)式を満たすか否かに関係なく、PHILシミュレーションを安定して行えるようにするために、電力系統のインピーダンスZ
1(s)の代わりに、上記(2)式に示すインピーダンスZ
1’(s)を用いている。
【0051】
上記(2)式に示すように、インピーダンスZ
1’(s)は、電力系統のインピーダンスZ
1(s)に調整ブロックの伝達関数C(ρ’、s)を追加したものである。調整ブロックは、PHILシミュレーションを安定して行うために追加したものである。本来、PHILシミュレーションにおいて、シミュレーションの対象となるシステムに含まれないブロックを追加すると、シミュレーションの対象となるシステムが変化してしまうので、正しくシミュレーションを行えなくなる場合がある。本実施形態では、シミュレーションの対象となるシステムに調整ブロックを追加したモデル(以下では、「追加モデル」とする)が、所望のモデルT
d(s)に近似するように、調整ブロックの伝達関数C(ρ、s)のパラメータρを設定する。また、本実施形態においては、パラメータρの導出のための実験回数を低減するために、FRIT(Fictitious Reference Iterative Tuning)を利用している。FRITは、一組の実験データのみを直接用いることで目標を達成する制御器パラメータのチューニング方法である(例えば非特許文献2参照)。
【0052】
図5は、未知のシステムG(s)を制御する制御器C(ρ、s)のパラメータρのチューニングを行うためのブロック線図を示している。FRITでは、閉ループを安定化できるパラメータρを初期値として与えた制御器C(ρ、s)および未知のシステムG(s)のフィードバックシステムに参照信号rを入力する実験を行って、未知のシステムG(s)の入力u
0および出力y
0を入手し、これに基づいて疑似参照信号r’(後述する下記(13)式参照)を求める。疑似参照信号r’を制御器C(ρ、s)および未知のシステムG(s)のフィードバックシステムに入力した場合、未知のシステムG(s)の入力はu
0になり、出力はy
0になる。したがって、パラメータρのチューニングにおいて、パラメータρの値を変更しても、出力が常にy
0になる。そして、当該疑似参照信号r’を所望のモデルT
d(s)に入力したときの出力y
dと、制御器C(ρ、s)および未知のシステムG(s)のフィードバックシステムに入力したときの出力である出力y
0とが近づくように、パラメータρを最適化する。
【0053】
本実施形態においては、
図1に示すシミュレーションシステムAにおいて、伝達関数C(ρ’、s)を追加する前のシステム(すなわち、シミュレータ4の演算部44で、電力系統のインピーダンスをZ
1(s)としたシステム)を、未知のシステムとしている。また、本実施形態では、制御器の代わりに、調整ブロックとしてローパスフィルタを用いている(上記(1)式参照)。
【0054】
パラメータ演算装置6は、FRITの手法を用いて、パラメータρの最適解ρ’を探索するものであり、例えば、汎用コンピュータなどによって実現されている。パラメータ演算装置6は、シミュレータ4による1度の実験で検出された値を入力されて、オフラインで最適解ρ’を探索し、最適解ρ’をシミュレータ4に出力する。なお、シミュレータ4での実験で検出された値を操作者がパラメータ演算装置6に入力し、パラメータ演算装置6で算出された最適解ρ’を操作者がシミュレータ4に入力するようにしてもよい。また、パラメータ演算装置6の機能を、シミュレータ4のデータ設定部43が備えるようにしてもよい。
【0055】
まず、シミュレータ4において、調整ブロックC(ρ、s)および未知のシステムG(s)のフィードバックシステムに参照信号を入力する実験を行って、未知のシステムG(s)の入力u
0および出力y
0を入手する。参照信号としては、例えばステップ信号を用いる、なお、参照信号はこれに限定されない。参照信号は、具体的には、演算部44がシミュレーションする電源の内部電圧Vs(
図2(b)参照)として入力される。また、未知のシステムG(s)の入力u
0としては、具体的には、演算部44で算出された出力電圧信号V
1(
図2(b)参照)を調整ブロックC(ρ
0、s)(ρ
0はパラメータρの初期値)で処理した信号が検出され、出力y
0としては、具体的には、センサ2で検出されデジタル化されて演算部44に入力された電流信号I
1(
図2(b)参照)をZ
1(s)で処理した電圧信号V
3が検出される。パラメータρの初期値ρ
0は、ローパスフィルタの影響が大きくなって、調整ブロックが追加された追加モデルが安定するように、ある程度大きな値を仮に設定する。非線形最適化によってパラメータρが最適化されるので、初期値ρ
0はどのような値であっても構わない。
【0056】
パラメータ演算装置6は、シミュレータ4より入力されたu
0およびy
0に基づいて疑似参照信号r’を生成する。疑似参照信号r’は、下記(13)式となる。
【数8】
【0057】
パラメータ演算装置6は、疑似参照信号r’を入力した所望のモデルT
d(s)の出力y
dと、調整ブロックC(ρ、s)および未知のシステムG(s)のフィードバックシステムに入力したときの出力y
0とに基づいて、下記(14)式に示す評価関数J
F(ρ)が最小になるように、パラメータρの最適解ρ’を非線形最適化の手法によって探索する。なお、評価関数は、これに限定されず、適宜設計すればよい。本実施形態では、非線形最適化の手法として、ガウス・ニュートン法を用いている。ガウス・ニュートン法は、誤差を含む測定データなど非線形なものから、最適解を求めるのに特化した手法である。例えばニュートン法の場合、最適解を求める過程で2階微分が必要であるが、ガウス・ニュートン法の場合、2階微分を行う必要がないので、計算が簡易になる。また、収束の速さが2次であるという長所がある。なお、用いる非線形最適化の手法は、これに限られず、例えば、ニュートン法、準ニュートン法、レーベンバーグ・マーカート法、共役勾配法、最急降下法、最小二乗法など他の手法であってもよい。計算量と精度との兼ね合いに応じて、適宜設定すればよい。
【数9】
【0058】
本実施形態では、所望のモデルT
d(s)として、下記(15)式に示すT
d(s)を用いている。
図3(c)に示すブロック線図は、
図3(b)に示すブロック線図を、伝達関数を算出するために書き換えたものであり、同じ制御ループを示すものである。電圧信号V
3は、電流信号I
1をインピーダンスZ
1(s)で処理した信号であり、インピーダンスZ
1(s)による電圧降下を示している。下記(15)式に示すT
d(s)は、
図3(c)に示すブロック線図において、遅延時間L
d=0としたものから導き出される。つまり、遅延のないシステムを所望のモデルとしている。なお、インピーダンスZ
2(s)は、ハードウエア5(パワーコンディショナ1)の理想的なインピーダンスを設定すればよく、実際のインピーダンスが既知である必要はない。
【数10】
【0059】
パラメータρが最適解ρ’のとき、評価関数J
F(ρ)が最小になり、所望のモデルT
d(s)の出力y
dと出力y
0とが近似する。同じ入力に対して近似した出力になるので、調整ブロックC(ρ、s)および未知のシステムG(s)のフィードバックシステムが、所望のモデルT
d(s)に近似したシステムになっている。つまり、電力系統のインピーダンスZ
1(s)に、パラメータρを最適解ρ’とした調整ブロックC(ρ’、s)を追加したインピーダンスZ
1’(s)(上記(2)式参照)を用いていることで、シミュレーションシステムAの遅延時間を無視できるシステムとすることができる。これは、
図3(c)に示すブロック線図を、
図6に示すブロック線図に変更することを意味している。なお、Δ(s)は、遅延時間やシステムの不明な部分を示している。したがって、シミュレーションの対象となるシステムの特性や遅延時間が不明であっても、安定してシミュレーションを行うことができる。
【0060】
図7は、調整ブロックC(ρ、s)の最適化を行った時の評価関数J
F(ρ)の推移(
図7(a)参照)と、調整ブロックC(ρ、s)のボード線図(
図7(b)参照)を示している。調整ブロックC(ρ、s)として上記(1)式に示す伝達関数を用い、パラメータρの初期値をρ
0=5.00×10
-3とした。約200回のステップで評価関数J
F(ρ)が最小になり、パラメータρの最適解はρ’=3.03×10
-3となった(
図7(a)参照)。
図7(b)は、パラメータρが初期値ρ
0のときの調整ブロックC(ρ
0、s)のボード線図(図に示すa参照)、および、パラメータρが最適解ρ’のときの調整ブロックC(ρ’、s)のボード線図(図に示すb参照)を示している。上段が振幅特性を示しており、下段が位相特性を示している。初期値ρ
0のとき(図に示すa参照)より、最適解ρ’のとき(図に示すb参照)の方が、振幅特性、位相特性とも改善されている。最適解ρ’のとき(図に示すb参照)が、追加モデルが安定し、かつ、振幅特性(位相特性)の改善が最大となる。例えば、最適解ρ’(図に示すb参照)のときの調整ブロックC(ρ’、s)は、10
3[rad/s]以下の周波数領域においては、振幅特性、位相特性とも「0」なので、ないのと同様である。
【0061】
インピーダンスZ
1(s)の代わりにインピーダンスZ
1’(s)を用いた場合のPHILシミュレーションの安定性を検証するために、
図2(b)に示すシステムでシミュレーションを行った。シミュレータ4のインピーダンスとしてZ
1’(s)を設定している。
図8は、当該シミュレーション結果を示す図である。
【0062】
図8(a)は、
図4(a)の場合と同じ回路定数を設定したときの電圧V
2の時間応答を示している。
図8(a)に示すように、電圧V
2の波形は正弦波になっており、安定してシミュレーションが行われていることが確認できる。つまり、調整ブロックを追加しても、シミュレーションの安定性に影響を与えていない。
【0063】
図8(b)は、
図4(b)の場合と同じ回路定数を設定(すなわち、L
1>L
2となるように設定)したときの電圧V
2の時間応答を示している。
図8(b)に示すように、この場合でも、電圧V
2の波形は正弦波になっており、安定してシミュレーションが行われていることが確認できる。以上のように、上記(10)式を満たすか否かに関係なく、PHILシミュレーションを安定して行うことができる。
【0064】
次に、パラメータρ’が最適値であるかどうかを確認するために、パラメータρ’を0.9倍して、時定数を最適値より良くした調整ブロックを追加してシミュレーションを行った。その結果、
図4(a)の場合と同じ回路定数を設定したときも、
図4(b)の場合と同じ回路定数を設定したときも、シミュレーションは不安定になった。このことと、
図7(b)に示すボード線図とから、FRITは、安定領域でシステムが元のシステムに最も近い特性を持つように、調整ブロックを1回の実験で最適設計できることが解る。
【0065】
演算部44は、データ設定部43より入力される電力系統のインピーダンスZ
1(s)および調整ブロックの伝達関数C(ρ’、s)から、上記(2)式に基づいて、インピーダンスZ
1’(s)を算出して、あらかじめ設定しておく。そして、設定されたインピーダンスZ
1’(s)と、アナログ/デジタル変換回路41より入力される出力電流信号(デジタル)とに基づいて、系統電圧信号(デジタル)を生成し、デジタル/アナログ変換回路42に出力する。
【0066】
図9は、シミュレータ4の演算部44が行う演算処理と、パラメータ演算装置6が行うパラメータの探索処理とを説明するためのフローチャートである。
【0067】
まず、演算部44は、パラメータρの初期値ρ
0を設定し(S1)、調整ブロックC(ρ
0、s)を用いて、参照信号を入力する実験を行い(S2)、入力u
0および出力y
0を取得して、パラメータ演算装置6に出力する(S3)。
【0068】
パラメータ演算装置6は、シミュレータ4の演算部44より、入力u
0および出力y
0を入力されて(S11)、疑似参照信号r’を生成する(S12)。そして、疑似参照信号r’を入力された所望のモデルT
d(s)の出力y
dと、出力y
0とに基づいて、評価関数J
F(ρ)が最小になるように、パラメータρの最適解ρ’を非線形最適化の手法によって探索する(S13)。そして、最適解ρ’を取得して、シミュレータ4に出力する(S14)。
【0069】
データ設定部43は、パラメータ演算装置6より最適解ρ’を入力され、調整ブロックの伝達関数C(ρ’、s)を算出して、演算部44に入力する(S4)。演算部44は、インピーダンスZ
1’(s)を演算して設定する(S5)。そして、演算部44は、アナログ/デジタル変換回路41より出力電流信号(デジタル)を入力され(S6)、インピーダンスZ
1’(s)に基づいて演算を行って、系統電圧信号(デジタル)を生成する(S7)。そして、系統電圧信号(デジタル)をデジタル/アナログ変換回路42に出力して(S8)、ステップS6に戻り、ステップS6〜S8を繰り返すことで、シミュレーションを行う。なお、シミュレータ4の演算部44が行う演算処理と、パラメータ演算装置6が行うパラメータの探索処理は、上述したものに限定されない。
【0070】
本実施形態では、シミュレータ4内部のマイクロコンピュータが、演算部44およびデータ設定部43を実現する場合について説明したが、これに限られない。演算部44およびデータ設定部43を汎用コンピュータで実現するようにしてもよい。すなわち、各部が行う処理をプログラムで設計し、当該プログラムを実行させることで汎用コンピュータを演算部44およびデータ設定部43として機能させてもよい。また、当該プログラムを記録媒体に記録しておき、コンピュータに読み取らせるようにしてもよい。また、データ設定部43のみを汎用コンピュータで実現して、汎用コンピュータで作成された回路図やブロック線図から各種データを抽出して、シミュレータ4の演算部44に入力するようにしてもよい。
【0071】
本実施形態によると、演算部44は、シミュレーションでの演算に電力系統のインピーダンスZ
1(s)に代えて、インピーダンスZ
1’(s)を用いている。インピーダンスZ
1’(s)は、調整ブロックが追加されたシステムのインピーダンスであり、調整ブロックが追加された追加モデルが所望のモデルに近似するように、調整ブロックのパラメータが設定されている。したがって、シミュレーションの対象となるシステムの特性や遅延時間が不明のものであっても、条件を限定することなく、安定してシミュレーションを行うことができる。例えば、パワーコンディショナ1のインダクタンスがシミュレータ4のインダクタンスより小さい状態でも、安定してシミュレーションを行うことができる。
【0072】
また、本実施形態によると、パラメータ演算装置6は、1回の実験結果に基づいて、パラメータρの最適解ρ’を探索することができる。したがって、実験を繰り返す必要がなく、シミュレーションシステムAの設計に係る時間を短縮することができる。また、本実施形態によると、調整ブロックをローパスフィルタとしている。したがって、システムを安定化させることができ、また、簡単に実装することができる。さらに、1次のローパスフィルタとすることで、調整するパラメータを1つとすることができるので、チューニングに必要な計算量を削減することができる。また、本実施形態によると、シミュレータ4が電力系統を模擬してシミュレーションできるので、実際の電力系統を用いて実験をする必要がない。
【0073】
なお、本実施形態においては、調整ブロックを一次のローパスフィルタとした場合について説明したが、これに限られない。例えば、下記(16)式に示す伝達関数となる2次のローパスフィルタなど他のローパスフィルタであってもよい。下記(16)式の場合、3つのパラメータρ
1,ρ
2,ρ
3の最適解を探索する必要がある。ローパスフィルタの次数が高くなるほどきめ細かい調整を行うことができる。一方、次数が低いほど、計算処理にかかる時間を短縮することができる。また、ローパスフィルタ以外の他のフィルタであってもよい。例えば、下記(17)式に示す伝達関数となるフィルタとしてもよい。
【数11】
【0074】
第1実施形態においては、パラメータ演算装置6がFRITの手法を用いて調整ブロックのパラメータを設定する場合について説明したが、これに限られない。例えば、IFT(Iterative Feedback Tuning)の手法を用いるようにしてもよい。パラメータ演算装置6がIFTの手法を用いる場合を、第2実施形態として、以下に説明する。
【0075】
第2実施形態に係るシミュレーションシステムAは、パラメータ演算装置6’(第1実施形態に係るパラメータ演算装置6と区別するために、「パラメータ演算装置6’」としている)が行う処理が、IFTの手法を用いる点で、第1実施形態に係るシミュレーションシステムAと異なる。第2実施形態に係るシミュレーションシステムAの構成は、
図1に示す第1実施形態に係るシミュレーションシステムAと同様なので、図示を省略する。
【0076】
パラメータ演算装置6’は、IFTの手法を用いて調整ブロックのパラメータを設定する。IFTは、
図5に示すブロック線図において、疑似参照信号r’を入力するのではなく、参照信号rを入力して、制御器C(ρ、s)および未知のシステムG(s)のフィードバックシステムの出力yと、所望のモデルT
d(s)の出力y
dとが近づくように、パラメータρを最適化する。つまり、出力yと出力y
dとの差に基づく評価関数が最小になるように、パラメータρの最適解ρ’を非線形最適化の手法によって探索する。IFTの場合、パラメータρによって出力yが変化するので、パラメータρを変更するたびに、参照信号rを入力して出力yを検出する実験を行う必要がある。したがって、パラメータρの最適解ρ’を探索するために多くの実験を繰り返す必要がある。
【0077】
第2実施形態においても、演算部44は、シミュレーションでの演算に電力系統のインピーダンスZ
1(s)に代えて、インピーダンスZ
1’(s)を用いている。したがって、シミュレーションの対象となるシステムの特性や遅延時間が不明のものであっても、条件を限定することなく、安定してシミュレーションを行うことができる。
【0078】
なお、上記第1および第2実施形態においては、シミュレータ4が電力系統を模擬し、ハードウエアをパワーコンディショナ1とした場合について説明したが、これに限られない。例えば、シミュレータ4が発電機を模擬するようにしてもよいし、ハードウエアをインバータやコンバータ、マトリクスコンバータなどとしてもよい。
【0079】
上記第1および第2実施形態態においては、電力システムをシミュレーションする場合について説明したが、これに限られない。他のシステムをシミュレーションする場合にも、本発明を用いることができる。シミュレーションの対象となるシステムの構成要素の一部をシミュレータで構成し、その他の部分をハードウエアで構成して、シミュレータとハードウエアとの間で信号の送受信を行ってシミュレーションを行う場合に、本発明を適用することができる。例えば、モータの駆動システムのシミュレーションにおいて、電源をシミュレータ4で構成し、モータをハードウエアで構成する場合(
図10(a)参照)などにも、本発明を適用することができる。
【0080】
また、モータやインバータ等をシミュレータ4で実現させて、ハードウエアとしての制御装置に接続するようにしてもよい(
図10(b)参照)。この場合、シミュレータ4で実現されたモータやインバータ等の伝達関数Z
1(s)に代えて、伝達関数Z
1(s)および調整ブロックの伝達関数C(ρ’、s)に基づいて、上記(1)式により算出された伝達関数Z
1’(s)が、シミュレータ4に設定される。また、制御装置をシミュレータ4で実現させて、ハードウエアとしてのモータやインバータ等に接続するようにしてもよい(
図10(c)参照)。
【0081】
本発明に係るシミュレータ、シミュレーションシステム、シミュレーション方法、および、プログラムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るシミュレータ、シミュレーションシステム、シミュレーション方法、および、プログラムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。