(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591856
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】新規なゲル化剤
(51)【国際特許分類】
A23L 29/20 20160101AFI20191007BHJP
A23C 9/154 20060101ALI20191007BHJP
A23C 11/10 20060101ALN20191007BHJP
【FI】
A23L29/20
A23C9/154
!A23C11/10
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-206398(P2015-206398)
(22)【出願日】2015年10月20日
(65)【公開番号】特開2017-77201(P2017-77201A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2018年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】306007864
【氏名又は名称】ユニテックフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】種市 和也
(72)【発明者】
【氏名】前島 敏一
【審査官】
西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−217383(JP,A)
【文献】
特開2005−168459(JP,A)
【文献】
特開2008−194613(JP,A)
【文献】
米国特許第06423359(US,B1)
【文献】
米国特許第04430349(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/
A23L 21/
A23C 9/154
A23C 11/10
CAplus/WPIDS/FSTA(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DEが3〜12の低メトキシルペクチンを含み、低メトキシルペクチンおよび高メトキシルペクチン、および酸より構成され、その溶液のpHが4以下に調整された見掛けDEが34〜54であるデザートベース。
【請求項2】
前記酸がクエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸の少なくとも一種類以上である請求項1に記載のデザートベース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は牛乳のみならず豆乳をも瞬時にゲル化させるのに好適なゲル化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱や冷却処理を要することなく牛乳などをゲル化させる商品として「デザートベース」が市販されている。これは二価金属イオンでゲル化する低メトキシルペクチンやアルギン酸ナトリウムなどの多糖類がカルシウムなど二価金属イオンによりゲル化するという機構に基づいている。ゲル化速度はカルシウムイオンなど二価金属イオンの濃度に依存しているのでゲル化速度の調整にはカルシウムイオンの濃度を調整する必要がある。しかし、このゲル化剤と混合する溶液としては牛乳に限定されている。
【0003】
一方、豆乳が健康に良い飲み物の一つとして人気を集めている。牛乳は動物性食品であるのに対して、豆乳は植物性の食品であり、どちらもアミノ酸バランスの優れた食品である。大きな違いはエネルギーで、豆乳のエネルギーは、脂質と炭水化物が多く含まれている牛乳の70%である。良質のタンパク質は十分に摂りたいけれどカロリーはひかえたい場合には豆乳が飲まれている。
【0004】
市販されている豆乳は大きくわけて三種類ある。すなわち大豆を絞ったままの豆乳である「成分無調整豆乳(大豆固形分8%以上)」、豆乳に砂糖などの甘み、油脂、カルシウムなどを加えて飲みやすくした「調製豆乳(大豆固形分6%以上)」、および「豆乳飲料」であり、「豆乳飲料」は、さらに調整豆乳にコーヒーや紅茶、フルーツ・野菜等で風味をつけた「豆乳飲料(大豆固形分4%以上)」、および果汁入りの豆乳飲料(大豆固形分2%以上)に細分されている。
【0005】
豆乳は牛乳と比較するとカルシウムなどの二価金属イオンの量が大幅に少ない。牛乳にはカルシウムが約114mg/100gが含まれているが、豆乳(成分無調整豆乳)ではカルシウム量が約6mg/100gから17mg/100gとなっている。また、調製豆乳では約20mg/100g〜60mg/100gとなっている。このようにカルシウムが少ない系では、LMペクチンやアルギン酸ナトリウムなどの牛乳用のデザートベースでは、ゲル化反応が早すぎるため均質なゲルを調製できない。
【0006】
そこで、豆乳のみ対象としたゲル化剤、つまり豆乳用デザートベースが提案されている(特許文献1)。特許文献1で開示されるゲル化剤は、LMペクチンのDE(エステル化度)とガラクツロン酸含量が規定されている。すなわちゲル化させる豆乳中のカルシウム量の制限があり、また対象とする豆乳はカルシウム濃度範囲を指定した調製豆乳である。
【0007】
また、特許文献1では、ゲル化の対象として牛乳は含まれないが、牛乳のカルシウム量では反応が早すぎてしまい、いわゆるプレゲルと呼ばれる部分的に粒状のゲルができる状態になり、良好な均一な食感のゲルは調製できないものと考えられる。
【0008】
一方、牛乳及び豆乳を対象とするデザートベースとして、イオタカラギンナンとナトリウムやカリウムなどの無機イオンの量を規定しているゲル化剤が提案されている(特許文献2)。このゲル化剤は、牛乳や豆乳と混合してもすぐに固まらず、冷却することでゲル状となるデザート調製用の中性液状デザートベースである。しかし、このゲル化剤ではゲル化に冷蔵庫で2時間以上の時間がかかり、即時の喫食はできないという欠点がある。また、イオタカラギンナンのゲルの食感は、ペクチンとは異なり、やや硬い食感となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4931155号公報
【特許文献2】特開2015−8688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、牛乳および豆乳を瞬時にゲル化させるのに好適な一液からなるゲル化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、牛乳および豆乳を瞬時にゲル化させるゲル化剤を鋭意検討した結果、LMペクチンとHMペクチンから成る溶液を調製し、そのpHを4.0とすることで、ゲル化が瞬時に達成されることを見出し本発明に至った。
すなわち、上記本発明の目的は、LMペクチンおよびHMペクチンを含む溶液でそのpHを4.0以下とする一液からなるゲル化剤で達成される。
【0012】
本発明の実施の態様は以下のとおり。
(1)低メトキシルペクチンおよび高メトキシルペクチン、および酸より構成され、その溶液のpHが4以下に調整されたデザートベース。
(2)見掛けDEが34〜54である(1)のデザートベース。
(3)前記酸がクエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸の少なくとも一種類以上である(1)または(2)のデザートベース。
【発明の効果】
【0013】
本発明のゲル化剤は液状で一液であるため非常に使いやすく、牛乳あるいは豆乳に、添加混合するだけで、均質にゲル化させることができ、簡単に手作りして喫食することができる。また、嚥下に適当なゲルに調整することができるので、嚥下困難者が喫食できなかった豆乳飲料を、手軽に喫食できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】HMペクチンおよびLMペクチン混合系のキャピラリー電気泳動の測定結果
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施態様を詳しく説明する。
【0016】
<ペクチンについて>
ペクチンは、リンゴの搾り滓や、レモンやライム等の柑橘類の皮から抽出される多糖類である。ペクチンはカルボキシル基を持つガラクツロン酸と、カルボキシル基がメチルエステル化されたガラクツロン酸メチルエステルが直鎖状に結合した構造をとっている。ペクチンは、ガラクツロン酸含量、鎖の長さ、および糖以外の置換基の数によって特徴づけられる。メチルエステル化されたガラクツロン酸の割合(%)を示すエステル化度(DE)は、ペクチンの品質を定義する指標として最もよく使われている。一般的にペクチンはエステル化度が50%以上の高メトキシルペクチン(HMペクチン)と50%未満の低メトキシルペクチン(LMペクチン)の二種類あり、それぞれゲル化の条件やゲルの物性が大きく異なる。
【0017】
LMペクチンは、カルシウムなどの二価金属イオンと反応してゲル化するという性質を持っている。LMペクチンは、一般にDEによりカルシウムとの反応性が異なる。DEが低くなるほどカルシウムなどの二価金属イオンとの反応性は高くなりゲル形成能が高くなる。一方、HMペクチンはDEが50%以上のペクチンで、酸性下(pH3.5以下)で、かつ高糖度(可溶性固形分55%以上)でゲル化するという性質がある。本発明で使用するペクチンは、LMペクチンおよびHMペクチンであれば、いずれも好適に使うことができる。本発明ではLMペクチンとして、DEが3〜38、さらに好適にはDEが3〜12のものを、高メトキシルペクチンではDEが60〜70を用いることが望ましい。また、LMペクチンとHMペクチンの混合比率は、2:3から6:4までの幅広い比率で、牛乳および豆乳の均質で好ましい食感のゲルを調製することができる。
【0018】
本発明の「見掛けのDE」とは、HMペクチンとLMペクチンを混合したときの混合割合の指標値であり、次式で定義する。
見掛けのDE=Σ(ペクチンのDE×ペクチン含量)/(ペクチンの全含量)
【0019】
また、アルギン酸ナトリウムは褐藻類に含まれる多糖類の一種であり、食品添加物として増粘剤、ゲル化剤、医薬品として胃粘膜保護用剤、歯科印象剤、染料の捺染用の糊、紙のコーティング剤など、広い用途で利用されている。アルギン酸ナトリウムは、低メトキシルペクチンと同様に、マグネシウムイオンやカルシウムイオンなど二価金属イオンを添加するとゲル化することから、本発明でもLMペクチンとの併用で好適に使うことができる。
【0020】
<酸について>
本発明で使用する酸とは、食品の製造または加工の過程で、酸味および酸度の付与・増強、若しくは味質の調和・調整等、主として酸味による味覚の向上改善のために使用される食品添加物及びその製剤を言う。クエン酸(結晶)、クエン酸(無水)、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、DL−リンゴ酸などのほか、化学合成品以外の添加物としてイタコン酸、α−ケトグルタル酸、フィチン酸などが挙げられる。このうち、本発明では、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸の少なくとも一種類以上の酸を好適に使用することができる。
【0021】
<HMペクチンとLMペクチンとの混合系の定量方法>
キャピラリー電気泳動により、本発明のゲル化剤中にどのようなHMおよびLMペクチンが混合されているかを簡便に測定することができる。キャピラリー電気泳動とは毛細管(フューズトシリカ製)内で電気泳動を行う方法である。毛細管内に泳動液を満たし、試料溶液を注入した後、両端に電圧(−30〜+30kV)を掛けて電気泳動を行うことにより、成分を荷電・大きさ・形などに基づく移動度の差異で分離する手法である。溶液に電圧を掛けた場合、陽イオン成分は負極側に、陰イオン成分は陽極側に移動し、中性成分は移動しない。しかし、シリカ製キャピラリーを用いると、表面の負荷電によって電気浸透流が生じ、この電気浸透流は荷電した成分が正・負極に移動する速度より早いため、陽イオン→中性イオン→陰イオンの順番で負極側に泳動する。
図1にキャピラリー電気泳動装置を示す。
図2にHMペクチンとLMペクチンとを含む溶液のキャピラリー電気泳動の典型的な測定結果を示す。横軸が泳動時間、縦軸が吸光度である。負電荷の少ないHMペクチンが先に移動して、負電荷を多く持つLMペクチンがその後に移動する。Sample 1−1:6.8分付近のピークがHMペクチン、9.3分付近のピークがLMペクチンである。明確にピークが二つ検出され、HMペクチン、LMペクチンの定量が可能である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【0023】
《回転粘度計でのテクスチャー測定(テクスチャーの定量化)》
〔測定方法〕
(1)100mlビーカーにデザートベース溶液50gと牛乳あるいは豆乳50gを注ぎ、スパチュラで30秒間撹拌する。
なおデザートベースの温度を20℃、牛乳あるいは豆乳の温度を10℃とする。
(2)一分間静置後、このデザートベースと牛乳あるいは豆乳を混合した100mlビーカーに6枚羽根のセンサーを挿入して回転数4.78rpmで一定回転したときにセンサーにかかるトルク(応力)を測定する。
〔測定結果〕
本測定方法で使用した測定装置を
図3に、その結果を
図4に示す。縦軸は粘度(mPa・s)で値が大きいほど硬い食感を示す。横軸はセンサーの回転時間(秒)である。もしゲル状であれば、センサーを挿入して回転を始めると、ゲルが破壊するまで応力が上昇し、ゲルが破壊した点で応力が減少する。その結果、応力がピークとなって現れる。ピークの高さをゲル強度とした。
【0024】
《HMペクチンあるいはLMペクチン単独系でのゲル調製》
表1に示すゲル化剤配合で、表2に示す各種HMペクチンあるいはLMペクチンを単独で用いたときゲル化剤を調製した。なお、ゲル化剤配合は全て重量%である。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
これらのゲル化剤を牛乳及び調製豆乳と混合した結果を表3に示す。牛乳の場合、LMペクチンでは良好な食感のゲルを形成するが、HMペクチンではゲルは形成しなかった。調製豆乳の場合、DEの非常に低いLMペクチンで、やや不均質なゲルを形成することができたが、ほとんどのペクチンはゲル形成できなかった。
【0028】
【表3】
【0029】
《LMペクチンおよびHMペクチン混合系》
表4にHMペクチン:LMペクチンを2:8から2:8で混合した各種ゲル化剤を調製して、牛乳、調製豆乳、あるいは無調整豆乳と混合したときのゲルの性状を示す。表中の配合は重量%で、ゲル強度の単位は見掛けの粘度(mPa・s)である。また、HMペクチンとLMペクチンの混合の重量比率で決まる「見掛けのDE」も表中に示す。牛乳の系では、配合(g)および配合(h)以外は、いずれのゲル化剤も非常に強度の高いゲルを調製することができた。配合(g)および配合(h)では均質なゲルを調製することができなかった。調製豆乳では、牛乳の系と同様に配合(g)および配合(h)で均質なゲルが調製できなかったが、その他のゲル化剤では良好な食感のゲルを調製することができた。無調整豆乳の系では、配合(g)以外で良好な食感のゲルを調製することができた。つまり、見掛けのDEが34から54のゲル化剤で、牛乳、調製豆乳、無調整豆乳を調製できることがわかった。
【0030】
【表4】
【0031】
以上の結果から、本発明のゲル化剤は、HMペクチンとLMペクチンの両者を併用することで、牛乳、調製豆乳、無調整豆乳をゲル化させることができる。