(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、蒸気タービンを極低負荷域で長時間運転するニーズが増えている。極低負荷運転の例は、発電所の所内電力のみを発電するための所内負荷運転である。
【0003】
極低負荷域では、蒸気タービン内の低圧下流段落は仕事をせず、逆にブレーキとして作用する。そのため、極低負荷域での運転では、低圧下流段落に熱が発生し、蒸気タービンの排気室や最終段落の羽根の温度が上昇する。この温度上昇を抑えるために、従来の蒸気タービン発電施設は、
図3に示すような方法で、蒸気タービンの排気室スプレー水を作動させる。
【0004】
図3は、従来の排気室スプレー水の作動範囲を示すグラフである。
【0005】
図3の横軸は、蒸気タービンの負荷(タービン負荷)を示す。
図3の縦軸は、蒸気タービンの排気室内の温度(排気室温度)を示す。領域R
1は、排気室スプレー水を作動させる領域を示す。領域R
2は、排気室スプレー水を作動させない領域を示す。
【0006】
図3では、タービン負荷がL
1よりも大きい場合、排気室温度がT
1よりも高ければ排気室スプレー水を作動させ、排気室温度がT
1よりも低ければ排気室スプレー水を作動させない。一方、タービン負荷がL
1よりも小さい場合には、排気室温度によらず常に排気室スプレー水を作動させる。これにより、極低負荷域では常に排気室スプレー水を作動させ、蒸気タービンの排気室や最終段落の羽根の温度上昇を抑えることができる。
【0007】
図4は、従来の蒸気タービン発電設備の構成を示す概略図である。
【0008】
図4の蒸気タービン発電設備は、蒸気タービン1と、発電機2と、主蒸気弁3と、復水器4と、作動弁5と、排気室スプレー6と、排気室冷却装置7とを備えている。
【0009】
図4では、主蒸気弁3を有する配管からの主蒸気が蒸気タービン1に導入される。その結果、蒸気タービン1のロータが蒸気により回転し、ロータの回転により発電機2が駆動され、発電機2が発電を行う。蒸気タービン1の排気室Rから排出された蒸気は、復水器4により凝縮されて水に戻る。この水は、復水器4の下流の冷却システムにより冷却される。冷却システムにより冷却された水の一部は、ポンプで昇圧され、作動弁5を有する配管から排気室R内の排気室スプレー6に供給され、排気室R内にスプレーとして放出される。
【0010】
図4の排気室冷却装置7は、出力測定部11と、出力下限制限部12と、出力設定値入力部13と、論理否定(NOT)部14と、作動弁制御部15と、温度測定部21と、温度上限制限部22と、温度設定値入力部23と、論理和(AND)部24とを備えている。
【0011】
出力測定部11は、発電機2の出力(発電端出力)を測定し、発電端出力の測定値Wを出力する。出力下限制限部12は、発電端出力の測定値Wと、出力設定値入力部13に設定された出力設定値W
Lとを比較し、その比較結果を含む信号S
1を出力する。信号S
1は、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも大きい場合にローとなり(W>W
L)、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも小さい場合にハイとなる(W<W
L)。
【0012】
温度測定部21は、蒸気タービン1の排気室R内の温度(排気室温度)を測定し、排気室温度の測定値Tを出力する。温度上限制限部22は、排気室温度の測定値Tと、温度設定値入力部23に設定された温度設定値T
Uとを比較し、その比較結果を含む信号S
2を出力する。信号S
2は、排気室温度の測定値Tが温度設定値T
Uよりも小さい場合にローとなり(T<T
U)、排気室温度の測定値Tが温度設定値T
Uよりも大きい場合にハイとなる(T>T
U)。
【0013】
NOT部14は、信号S
1のNOT値を信号S
3として出力する。よって、信号S
3は、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも小さい場合にローとなり(W<W
L)、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも大きい場合にハイとなる(W>W
L)。
【0014】
AND部24は、信号S
2と信号S
3とのAND値を信号S
4として出力する。よって、信号S
4は、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも大きく、かつ排気室温度の測定値Tが温度設定値T
Uよりも大きい場合にハイとなる(W>W
LかつT>T
U)。また、信号S
4は、その他の場合にはローとなる。
【0015】
作動弁制御部15は、信号S
4またはS
1に基づいて作動弁5を制御して、蒸気タービン1の排気室R内へのスプレー水の供給を制御する。排気室Rは、このスプレー水により冷却される。例えば、作動弁制御部15は、信号S
4またはS
1がハイの場合にオンになり、作動弁5を全開にし、これにより排気室スプレー水を作動させる。また、作動弁制御部15は、その他の場合にはオフになり、作動弁5を全閉にし、これにより排気室スプレー水が作動されなくなる。
【0016】
よって、作動弁制御部15は、信号S
4がハイの場合、すなわち、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも大きく、かつ排気室温度の測定値Tが温度設定値T
Uよりも大きい場合に、排気室スプレー水を作動させる(W>W
LかつT>T
U)。これは、
図3のタービン負荷がL
1よりも大きい場合に相当する。
【0017】
また、作動弁制御部15は、信号S
1がハイの場合、すなわち、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも小さい場合に、排気室スプレー水を作動させる(W<W
L)。これは、
図3のタービン負荷がL
1よりも小さい場合に相当する。なお、信号S
1は、符号Pで示すように、出力下限制限部12から作動弁制御部15に供給される。
【0018】
このように、
図3に示す排気室スプレー水の作動範囲は、
図4の蒸気タービン発電設備により実現可能である。
【0019】
図5は、従来の別の蒸気タービン発電設備で行われた無負荷運転の例を示すグラフである。ただし、以下の説明では、説明の便宜上、
図4の蒸気タービン発電設備と同じ参照符号を使用する。
【0020】
図5の横軸は時刻を示す。曲線C
1は、蒸気タービン1のロータの回転数(ロータ回転数)を示す。曲線C
2は、復水器4内の圧力(復水器圧力)を示す。符号Sは、蒸気タービン1の排気室R内の排気室スプレー水の作動状態を示す。曲線C
3は、蒸気タービン1の排気室R内の温度(排気室温度)を示す。曲線C
4は、蒸気タービン1の最終段落のノズル(ノズル先端部)の温度を示す。曲線C
5は、蒸気タービン1の最終段落のノズルダイアフラム(ノズル先端部)の温度を示す。
【0021】
図6は、
図5に示す温度の測定位置を説明するための断面図である。
【0022】
符号L−0は、蒸気タービン1の最終段落のノズルを示す。符号A
1は、曲線C
4の温度の測定位置を示す。符号A
2は、曲線C
5の温度の測定位置を示す。
【0023】
一般に、排気室R内の蒸気が湿り蒸気ならば、蒸気内の水分の潜熱により、排気室温度は飽和温度に抑えられる。しかしながら、無負荷時には、排気室R内の条件は乾き条件となっている。そのため、無負荷時には、排気室R内に排気室スプレー水を投入しないと、排気室温度が急激に上昇する。
【0024】
このことを、
図5を参照して説明する。なお、
図5に示す期間における蒸気タービン1の状態は無負荷運転状態であり、排気室スプレー6は試験的に手動でオン/オフ操作されている。
【0025】
蒸気タービン1は10:30に起動され、ロータ回転数C
1は10:30から上昇している。復水器圧力C
2は、10:30において約7inHgaである。
【0026】
ロータ回転数C
1が13:20に2500rpmで安定するまでに、排気室温度C
3は、華氏270度(約130℃)まで上昇する。排気室スプレー水の作動状態Sは、13:20に部分手動オンに切り替えられる。これにより、排気室温度C
3は、華氏160度(約70℃)まで低下する。
【0027】
その後、ロータ回転数C
1を2500rpmから上昇させ、同時に復水器圧力C
2を低下させる。ロータ回転数C
1は、14:00に定格回転数3600rpmに到達する。このとき、復水器圧力C
2は約6.5inHgaである。
【0028】
排気室スプレー水の作動状態Sは、14:00から数分間、オフに切り替えられる。これにより、排気室温度C
3は、再び華氏270度(約130℃)まで急激に上昇する。
【0029】
また、排気室スプレー水の作動状態Sが再びオンに切り替えられると、排気室温度C
3は、華氏160度(約70℃)まで急激に低下する。
【0030】
その後、ロータ回転数C
1を定格回転数3600rpmに維持したまま、復水器圧力C
2を徐々に低下させる。復水器圧力C
2が定格圧力5.5inHgaに到達した後は、復水器圧力C
2としてこの圧力を維持する。
【0031】
この状態で、排気室スプレー水の作動状態Sが、再び16:15から数分間、オフに切り替えられる。これにより、排気室温度C
3は、再び華氏250度(約120℃)まで急激に上昇する。
【0032】
また、排気室スプレー水の作動状態Sが再びオンに切り替えられると、排気室温度C
3は、華氏150度(約65℃)まで急激に低下する。
【0033】
なお、16:15から数分間のオフ期間において、最終段落のノズルの温度C
4は、華氏430度(約220℃)に到達し、最終段落のノズルダイアフラムの温度C
4は、華氏445度(約230℃)に到達している。
【0034】
以上の説明から、以下の事柄が明らかになる。
1)上述のように、排気室Rが湿り状態ならば、排気室温度は飽和温度に抑えられる。しかしながら、無負荷時の排気室Rは乾き条件となっており、排気室R内に排気室スプレー水を投入しないと、排気室温度が急激に温度が上昇する。これは、14:00のオフ期間の排気室温度の上昇や、16:15のオフ期間の排気室温度の上昇から明らかである。
2)排気室スプレーを作動させた場合には、排気室温度は、復水器圧力での飽和温度になる。そのため、復水器圧力が低いほど排気室温度は低い。これは、14:00のオフ期間後の排気室温度が70℃であることと、16:15のオフ期間後の排気室温度が65℃であることから明らかである。
3)最終段落のノズル先端部の温度は、排気室温度に比べ非常に高温になる。これは、曲線C
3、C
4、C
5から明らかである。この現象は、最終段落の羽根先端部でも同様に起こる。以下、このメカニズムについて説明する。
【0035】
図7は、従来の蒸気タービン1の低負荷運転時に発生する逆流および偏流を示す断面図である。
【0036】
図7は、蒸気タービン1の最終段落の羽根1aとノズル1bとを示している。符号P
1は羽根1aの先端部を示し、符号P
2は羽根1aのルート部を示す。蒸気タービン1の極低負荷運転の際に、最終段落の蒸気の出口流れは、出口側からの逆流と、半径方向先端への偏流とを含んでいる。符号H
1は、逆流域の半径方向の高さを表す。符号H
2は、羽根1aの半径方向の高さを表す。
【0037】
図8は、従来の蒸気タービン1のタービン負荷と逆流域との関係を示すグラフである。
【0038】
図8の横軸は、蒸気タービン1のタービン負荷を示す。
図8の縦軸は、ルート部P
2からの半径方向の位置を示す。
図8は、タービン負荷が低下するほど、逆流域が広くなることを示している。そのため、蒸気タービン1の極低負荷運転の際には、広い逆流域が発生する。
【0039】
図9は、従来の蒸気タービン1のタービン負荷と羽根先端温度および排気室温度との関係を示すグラフである。羽根先端温度は、羽根先端部P
1の温度である。
【0040】
蒸気タービン1の最終段落に広い逆流域が発生すると、羽根1aから発生する熱が羽根先端部P
1に集まり、羽根先端温度が羽根1aの他の部位の温度よりも高くなる。よって、蒸気タービン1の極低負荷運転の際には、
図9に示すように、羽根先端温度は排気室温度よりも150℃以上高いこともある。
【0041】
このように、極低負荷運転の際には、排気室温度は低くても、羽根先端温度は高い。また、羽根先端温度は、温度の測定位置により大きくばらつくため、制御用の値として使用することは不適切である。そのため、従来の極低負荷運転の際には、排気室温度や羽根先端温度に基づいて排気室スプレー水の作動を制御せずに、排気室スプレー水が常に作動するように設計されている。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0053】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の蒸気タービン発電設備の構成を示す概略図である。
図1の蒸気タービン発電設備の例は、地熱発電設備である。
【0054】
図1の蒸気タービン発電設備は、蒸気タービン1と、発電機2と、主蒸気弁3と、復水器4と、作動弁5と、排気室スプレー6と、排気室冷却装置7とを備えている。
【0055】
図1では、主蒸気弁3を有する配管からの主蒸気が蒸気タービン1に導入される。その結果、蒸気タービン1のロータが蒸気により回転し、ロータの回転により発電機2が駆動され、発電機2が発電を行う。蒸気タービン1の排気室Rから排出された蒸気は、復水器4により凝縮されて水に戻る。この水は、復水器4の下流の冷却システムにより冷却される。冷却システムにより冷却された水の一部は、ポンプで昇圧され、作動弁5を有する配管から排気室R内の排気室スプレー6に供給され、排気室R内にスプレーとして放出される。
【0056】
なお、本実施形態の作動弁5は、どのような種類の弁でもよい。本実施形態の作動弁5の例は、流量調整弁または開閉弁である。
【0057】
図1の排気室冷却装置7は、出力測定部11と、出力下限制限部12と、出力設定値入力部13と、論理否定(NOT)部14と、作動弁制御部15と、温度測定部21と、温度上限制限部22と、温度設定値入力部23と、論理和(AND)部24と、圧力測定部31と、圧力上限制限部32と、圧力設定値入力部33と、論理和(AND)部34とを備えている。
【0058】
出力下限制限部12、出力設定値入力部13、NOT部14、温度上限制限部22、温度設定値入力部23、およびAND部24は、第1信号出力部の例である。また、出力下限制限部12、出力設定値入力部13、圧力上限制限部32、圧力設定値入力部33、およびAND部34は、第2信号出力部の例である。また、作動弁制御部15は、制御部の例である。
【0059】
出力測定部11は、発電機2の出力(発電端出力)を測定し、発電端出力の測定値Wを出力する。出力下限制限部12は、発電端出力の測定値Wと、出力設定値入力部13に設定された出力設定値W
Lとを比較し、その比較結果を含む信号S
1を出力する。出力設定値W
Lは、第1設定値の例である。信号S
1は、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも大きい場合にローとなり(W>W
L)、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも小さい場合にハイとなる(W<W
L)。
【0060】
なお、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lと等しい場合、本実施形態の信号S
1の値は、ハイとなる(W=W
L)。ただし、この場合の信号S
1の値は、ローとしてもよい。
【0061】
温度測定部21は、蒸気タービン1の排気室R内の温度(排気室温度)を測定し、排気室温度の測定値Tを出力する。温度上限制限部22は、排気室温度の測定値Tと、温度設定値入力部23に設定された温度設定値T
Uとを比較し、その比較結果を含む信号S
2を出力する。温度設定値T
Uは、第2設定値の例である。信号S
2は、排気室温度の測定値Tが温度設定値T
Uよりも小さい場合にローとなり(T<T
U)、排気室温度の測定値Tが温度設定値T
Uよりも大きい場合にハイとなる(T>T
U)。
【0062】
なお、排気室温度の測定値Tが温度設定値T
Uと等しい場合、本実施形態の信号S
2の値は、ハイとなる(T=T
U)。ただし、この場合の信号S
2の値は、ローとしてもよい。
【0063】
圧力測定部31は、復水器4内の圧力(復水器圧力)を測定し、復水器圧力の測定値Pを出力する。圧力上限制限部32は、復水器圧力の測定値Pと、圧力設定値入力部33に設定された圧力設定値P
Uとを比較し、その比較結果を含む信号S
5を出力する。圧力設定値P
Uは、第3設定値の例である。信号S
5は、復水器圧力の測定値Pが圧力設定値P
Uよりも小さい場合にローとなり(P<P
U)、復水器圧力の測定値Pが圧力設定値P
Uよりも大きい場合にハイとなる(P>P
U)。
【0064】
なお、復水器圧力の測定値Pが圧力設定値P
Uと等しい場合、本実施形態の信号S
5の値は、ハイとなる(P=P
U)。ただし、この場合の信号S
5の値は、ローとしてもよい。
【0065】
NOT部14は、信号S
1のNOT値を信号S
3として出力する。よって、信号S
3は、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも小さい場合にローとなり(W<W
L)、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも大きい場合にハイとなる(W>W
L)。
【0066】
AND部24は、信号S
2と信号S
3とのAND値を信号S
4として出力する。よって、信号S
4は、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも大きく、かつ排気室温度の測定値Wが温度設定値W
Lよりも大きい場合にハイとなる(W>W
LかつT>T
U)。また、信号S
4は、その他の場合にはローとなる。このように、AND部24は、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも大きく、かつ排気室温度の測定値Tが温度設定値T
Uよりも大きいことを検出した場合に、ハイの値を有する信号S
4を出力する。ハイの値を有する信号S
4は、第1信号の例である。
【0067】
AND部34は、信号S
1と信号S
5とのAND値を信号S
6として出力する。よって、信号S
6は、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも小さく、かつ復水器圧力の測定値Pが圧力設定値P
Uよりも大きい場合にハイとなる(W<W
LかつP>P
U)。また、信号S
6は、その他の場合にはローとなる。このように、AND部34は、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも小さく、かつ復水器圧力の測定値Pが圧力設定値P
Uよりも大きいことを検出した場合に、ハイの値を有する信号S
6を出力する。ハイの値を有する信号S
6は、第2信号の例である。
【0068】
作動弁制御部15は、信号S
4またはS
6に基づいて作動弁5を制御して、蒸気タービン1の排気室R内へのスプレー水の供給を制御する。排気室Rは、このスプレー水により冷却される。スプレー水は、冷却流体の例である。例えば、作動弁制御部15は、信号S
4またはS
6がハイの場合にオンになり、作動弁5を全開にし、これにより排気室スプレー水を作動させる。また、作動弁制御部15は、その他の場合にはオフになり、作動弁5を全閉にし、これにより排気室スプレー水が作動されなくなる。
【0069】
よって、作動弁制御部15は、信号S
4がハイの場合、すなわち、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも大きく、かつ排気室温度の測定値Tが温度設定値T
Uよりも大きい場合に、排気室スプレー水を作動させる(W>W
LかつT>T
U)。これは、蒸気タービン1が高負荷で運転されており、かつ排気室温度が高い場合に相当する。
【0070】
また、作動弁制御部15は、信号S
6がハイの場合、すなわち、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも小さく、かつ復水器圧力の測定値Pが圧力設定値P
Uよりも大きい場合に、排気室スプレー水を作動させる(W<W
LかつP>P
U)。これは、蒸気タービン1が低負荷で運転されており、かつ復水器圧力が高い場合に相当する。
【0071】
ここで、本実施形態の排気室スプレー水の作動範囲について説明する。符号L
1、T
1については、
図3を参照されたい。
【0072】
タービン負荷がL
1よりも大きい場合には、排気室温度がT
1よりも高ければ排気室スプレー水を作動させ、排気室温度がT
1よりも低ければ排気室スプレー水を作動させない。この動作は、作動弁制御部15に信号S
4を出力することで実現可能である。
【0073】
タービン負荷がL
1よりも小さい場合には、復水器圧力がP
1(不図示)よりも高ければ排気室スプレー水を作動させ、復水器圧力がP
1よりも低ければ排気室スプレー水を作動させない。この動作は、作動弁制御部15に信号S
6を出力することで実現可能である。
【0074】
温度T
1は温度設定値T
Uに相当する。温度T
1は、例えば80℃未満である。温度T
1の例は、66℃である。圧力P
1は圧力設定値P
Uに相当する。圧力P
1は、例えば0.05bara未満である。圧力P
1の例は、0.04baraである。タービン負荷L
1は、出力設定値W
Lをタービン負荷に換算した値に相当する。タービン負荷L
1は、例えば30%未満である。タービン負荷L
1の例は、約10%または約20%である。
【0075】
蒸気タービン1を低負荷域で運転する際、排気室スプレー水を常時作動させる場合がある。この場合、排気室温度の上昇を確実に抑えることができるが、蒸気タービン1の羽根1aのエロージョンにより羽根1aの寿命が短くなってしまう。よって、排気室スプレー水の作動条件を限定して、排気室スプレー水の作動時間をできるだけ短くすることが望ましい。
【0076】
一方、羽根先端温度は、
図10の説明箇所で説明した通り、制御用の値として使用することは不適切である。
図10に示すように、低負荷運転時に羽根先端温度は排気室温度に比べて著しく高くなる。よって、排気室スプレー水の作動条件は、羽根先端温度が例えば100℃を超えないように設定することが望ましい。
【0077】
そこで、本実施形態では、タービン負荷がL
1よりも小さくかつゼロよりも大きい場合に、復水器圧力がP
1よりも高ければ排気室スプレー水を作動させ、復水器圧力がP
1よりも低ければ排気室スプレー水を作動させない。
【0078】
よって、本実施形態によれば、排気室スプレー水を使用することが望ましいとき(復水器圧力が高いとき)にスプレー水を作動させることができ、排気室スプレー水を使用しなくてもよいとき(復水器圧力が低いとき)にスプレー水を不作動にすることができる。
【0079】
よって、本実施形態によれば、スプレー水の作動により羽根1aの先端部の温度を低く抑えつつ、スプレー水の作動時間の短縮により羽根1aの寿命を延ばすことができる。
【0080】
以上のように、本実施形態の蒸気タービン発電設備は、タービン負荷、排気室温度、および復水器圧力の測定値に基づいて、蒸気タービン1の排気室R内へのスプレー水の供給を制御する。よって、本実施形態によれば、低負荷運転時のスプレー水の作動時間を短縮することが可能となる。
【0081】
(第2実施形態)
図2は、第2実施形態の蒸気タービン発電設備の構成を示す概略図である。
図2に示す構成要素に関し、
図1と同一または類似の構成要素には同一の符号を付し、第1実施形態と重複する説明は省略する。
【0082】
本実施形態の排気室冷却装置7は、圧力上限制限部32と圧力設定値入力部33の代わりに、関数発生部35と、温度上限制限部36と、温度設定値入力部37とを備えている。出力下限制限部12、出力設定値入力部13、AND部34、関数発生部35、温度上限制限部36、および温度設定値入力部37は、第2信号出力部の例である。
【0083】
関数発生部35は、復水器圧力の測定値Pを圧力測定部31から受信し、発電端出力の測定値Wを出力測定部11から受信する。関数発生部35は、蒸気タービン1の最終段落の羽根1aの先端部の温度の予測値T’を算出するための関数を保持している。この羽根先端温度は、蒸気タービン1内の部位の温度の例である。羽根先端温度は、
図5に示すノズル先端部の温度C
4、C
5と同様の特性を有する。
【0084】
関数発生部35の関数は、変数として復水器圧力と発電端出力を含んでいる。よって、関数発生部35は、復水器圧力の測定値Pと発電端出力の測定値Wを関数に代入して、羽根先端温度の予測値T’を算出する。この予測値T’は、復水器圧力の測定値Pから得られた算出値の例である。なお、関数発生部35の関数の例は、
図10の温度−負荷曲線である。
【0085】
温度上限制限部36は、羽根先端温度の予測値T’と、温度設定値入力部37に設定された温度設定値T
U’とを比較し、その比較結果を含む信号S
5を出力する。この温度設定値T
U’は、第
4設定値の例である。信号S
5は、羽根先端温度の予測値T’が温度設定値T
U’よりも小さい場合にローとなり(T’<T
U’)、羽根先端温度の予測値T’が温度設定値T
U’よりも大きい場合にハイとなる(T’<T
U’)。
【0086】
なお、羽根先端温度の予測値T’が温度設定値T
U’と等しい場合、本実施形態の信号S
5の値は、ハイとなる(T’=T
U’)。ただし、この場合の信号S
5の値は、ローとしてもよい。
【0087】
AND部34は、信号S
1と信号S
5とのAND値を信号S
6として出力する。よって、信号S
6は、発電端出力Wが出力設定値W
Lよりも小さく、かつ羽根先端温度の予測値T’が温度設定値T
U’よりも大きい場合にハイとなる(W<W
LかつT’>T
U’)。また、信号S
6は、その他の場合にはローとなる。このように、AND部34は、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも小さく、かつ羽根先端温度の予測値T’が温度設定値T
U’よりも大きいことを検出した場合に、ハイの値を有する信号S
6を出力する。ハイの値を有する信号S
6は、第2信号の例である。
【0088】
作動弁制御部15は、第1実施形態と同様に、信号S
4またはS
6に基づいて作動弁5を制御して、蒸気タービン1の排気室R内へのスプレー水の供給を制御する。よって、作動弁制御部15は、信号S
6がハイの場合、すなわち、発電端出力の測定値Wが出力設定値W
Lよりも小さく、かつ羽根先端温度の予測値T’が温度設定値T
U’よりも大きい場合に、排気室スプレー水を作動させる(W<W
LかつT’>T
U’)。
【0089】
本実施形態の蒸気タービン発電設備は、第1実施形態の発電設備と同様に、
図2に示す排気室スプレー水の作動範囲を実現可能である。
【0090】
以上のように、本実施形態の蒸気タービン発電設備は、タービン負荷、排気室温度、および復水器圧力の測定値に基づいて、蒸気タービン1の排気室R内へのスプレー水の供給を制御する。よって、本実施形態によれば、低負荷運転時のスプレー水の作動時間を短縮することが可能となる。
【0091】
また、蒸気タービン1を低負荷域で運転する際には、一般に羽根先端温度の上昇が問題となる。これに対し、本実施形態の蒸気タービン発電設備は、羽根先端温度の予測値に基づいて、蒸気タービン1の排気室R内へのスプレー水の供給を制御する。よって、本実施形態によれば、羽根先端温度の上昇を効果的に抑制しつつ、低負荷運転時のスプレー水の作動時間を短縮することが可能となる。
【0092】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置および設備は、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置および設備の形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。