特許第6591876号(P6591876)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6591876液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置および液体噴射ヘッドの電圧印加方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591876
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置および液体噴射ヘッドの電圧印加方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20191007BHJP
【FI】
   B41J2/14 611
   B41J2/14 303
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-229066(P2015-229066)
(22)【出願日】2015年11月24日
(65)【公開番号】特開2017-94602(P2017-94602A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】関谷 寧人
(72)【発明者】
【氏名】西川 大地
【審査官】 中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−017516(JP,A)
【文献】 特開2013−132810(JP,A)
【文献】 特開2002−067339(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0315930(US,A1)
【文献】 韓国登録特許第10−0515609(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向および該第1方向に直交する第2方向に表面が面しているアクチュエータプレートと、
前記アクチュエータプレートの前記表面上に前記第1方向に沿って延設されていると共に、前記第2方向に間隔をあけて並設され、液体が充填される複数のチャネルと、
前記複数のチャネル間に形成される駆動壁の側面に形成され、電圧を印加可能な駆動電極と、
前記アクチュエータプレートの前記表面とは反対側で、かつ該表面と対向する裏面に形成され、前記電圧を印加可能なガード電極と、
を備え、
前記ガード電極は、前記裏面のうち、少なくとも前記駆動電極が形成されている範囲に対応する箇所に形成されており、
2つの前記アクチュエータプレートの前記裏面同士を重ね合わせて成り、
各前記アクチュエータプレートの前記ガード電極の間に、絶縁層を設けたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記ガード電極は、前記裏面のうち、少なくとも前記駆動電極が形成されている範囲に対応する箇所に、前記第2方向全体にわたって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記ガード電極は、前記裏面の全体に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記絶縁層は、空気層であることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドを走査させる走査手段と、
前記液体を収容する液体収容体と、
前記液体噴射ヘッドと前記液体収容体との間に敷設され、前記液体を流通させる液体供給管と、
を備えたことを特徴とする液体噴射記録装置。
【請求項6】
第1方向および該第1方向に直交する第2方向に表面が面しているアクチュエータプレートと、
前記アクチュエータプレートの前記表面上に前記第1方向に沿って延設されていると共に、前記第2方向に間隔をあけて並設され、液体が充填される複数のチャネルと、
前記複数のチャネル間に形成される駆動壁の側面に形成され、電圧を印加可能な駆動電極と、
前記アクチュエータプレートの前記表面とは反対側で、かつ該表面と対向する裏面に形成され、前記電圧を印加可能なガード電極と、
を備え、
前記ガード電極は、前記裏面のうち、少なくとも前記駆動電極が形成されている範囲に対応する箇所に形成されている液体噴射ヘッドの電圧印加方法において、
前記駆動電極に印加される前記電圧は、
前記駆動壁の両側面に電位差を与えて対応する前記チャネルの容積を膨張させる膨張波形と、
前記駆動壁の両側面に電位差を与えて対応する前記チャネルの容積を収縮させる第1収縮波形と、
であり、
前記ガード電極に印加される前記電圧は、前記第1収縮波形と同じタイミングで印加される第2収縮波形である
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの電圧印加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置および液体噴射ヘッドの電圧印加方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被記録媒体に液体(インク)を噴射する装置として、インク室の複数のノズル孔から被記録媒体に向かってインク滴を噴射する液体噴射記録装置が知られている。このような液体噴射記録装置の中には、いわゆるインクジェット方式が採用された液体噴射ヘッド(インクジェットヘッド)を備えたものがある。
【0003】
液体噴射ヘッドには、ヘッドチップが設けられている。ヘッドチップは、インクが充填される複数のチャネル(長溝)が形成されているアクチュエータプレート(圧電アクチュエータ)を備えている。各チャネルは、一列に並んで配置されている。また、ヘッドチップの端面には、ノズルプレートが設けられている。ノズルプレートには、各チャネルに対応するように、複数のノズル孔が一列に並んで形成されている。さらに、各チャネルの両駆動壁(側壁)には、それぞれ駆動電極が設けられている。これら駆動電極に所定の電圧を印加すると駆動壁が変形し、チャネル内の容積が変化する。これにより、ノズル孔からインク滴が被記録媒体に向かって吐出される。
【0004】
ここで、被記録媒体に記録される文字や画像の品質を向上させるために、さまざまな技術が提案されている。
例えば、アクチュエータプレートのチャネルが形成されている側とは反対側の裏面に、アクチュエータプレートの線膨張係数とほぼ同等の部材で形成されたスペーサを設けた技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1では、アクチュエータプレートの熱膨張や収縮による変形に起因した応力をスペーサによって吸収することで、アクチュエータプレートの液体吐出性能を向上しようとしている。
【0005】
また、アクチュエータプレートと、このアクチュエータプレートの各チャネルに液体を供給する流路部材との間に緩衝部材を介在させる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特許文献2によれば、アクチュエータプレートが液体を吐出する際に生じる衝撃波を、流路部材や流路部材に接続する他の部材に伝達されてしまうことを抑制できる。そして、液体吐出速度のばらつきを減少させ、アクチュエータプレートの液体吐出性能を向上しようとしている。
【0006】
さらに、アクチュエータプレートの駆動壁に、拘束層を積層した技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
拘束層には、駆動壁に設けられた駆動電極と平行に設けられた電極層が設けられている。この電極層は接地されており、駆動壁の変形に寄与しないので、駆動壁と拘束層とを積層した厚み方向における収縮率の差が均一化される。このため、駆動壁と拘束層の収縮率の差から生じる歪みを防止し、高い平面性が維持される。すなわち、駆動壁が変形する方向を、拘束層とは反対側(液体の吐出側)だけになるように規制している。そして、駆動壁による液体の圧縮効率を高め、アクチュエータプレートの液体吐出性能を向上しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−182080号公報
【特許文献2】特開2011−126254号公報
【特許文献3】特開2001−162796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、駆動電極に電圧を印加することにより発生する電界は、電位差が生じている駆動壁以外の壁面に漏れてしまう(以下、漏れ電界という)。このため、アクチュエータプレートに意図しない歪みが生じてしまう。
しかしながら、上述の特許文献1にあっては、漏れ電界を除去できない。このため、この漏れ電界に起因するアクチュエータプレートの歪みをスペーサによって吸収しようとすると、このスペーサは、剛性を十分確保できるだけの厚みが必要になり、ヘッドチップが大型化してしまう可能性があった。
【0009】
また、上述の特許文献2についても漏れ電界を除去できないので、この漏れ電界に起因するアクチュエータプレートの歪みを抑制できない。このため、アクチュエータプレートの液体吐出性能を向上しにくい可能性があった。
さらに、上述の特許文献3にあっては、拘束層に設けられた電極層が接地されているので、駆動電極に起因する拘束層自体の歪みは防止できても、漏れ電界によるアクチュエータプレートの歪みは防止できない可能性があった。
【0010】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、漏れ電界の発生を抑制し、この漏れ電界に起因するアクチュエータプレートの歪みを防止することにより、液体吐出性能を向上できる液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置および液体噴射ヘッドの電圧印加方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明に係る液体噴射ヘッドは、第1方向および該第1方向に直交する第2方向に表面が面しているアクチュエータプレートと、前記アクチュエータプレートの前記表面上に前記第1方向に沿って延設されていると共に、前記第2方向に間隔をあけて並設され、液体が充填される複数のチャネルと、前記複数のチャネル間に形成される駆動壁の側面に形成され、電圧を印加可能な駆動電極と、前記アクチュエータプレートの前記表面とは反対側で、かつ該表面と対向する裏面に形成され、前記電圧を印加可能なガード電極と、を備え、前記ガード電極は、前記裏面のうち、少なくとも前記駆動電極が形成されている範囲に対応する箇所に形成されており、2つの前記アクチュエータプレートの前記裏面同士を重ね合わせて成り、各前記アクチュエータプレートの前記ガード電極の間に、絶縁層を設けたことを特徴とする。
【0012】
このように構成することで、駆動電極に所定の電圧を印加するのと同じタイミングで前記ガード電極に電圧を印加することができる。これにより、漏れ電界を発生させる原因となるアクチュエータプレートの内での所定の壁面間での電位差を極力無くすことができる。このため、漏れ電界に起因するアクチュエータプレートの歪みを防止でき、液体噴射ヘッドの液体吐出性能を向上できる。更に、2つのアクチュエータプレートを重ね合わせることにより、液体噴射ヘッドから吐出される液滴の数が増大し、被記録媒体に記録される文字や画像の密度を向上できる。また、各アクチュエータプレートのガード電極の間に絶縁層を設けることにより、一方のアクチュエータプレートと他方のアクチュエータプレートとの間で漏れ電界が生じてしまうことを防止できる。
【0013】
本発明に係る液体噴射ヘッドにおいて、前記ガード電極は、前記裏面のうち、少なくとも前記駆動電極が形成されている範囲に対応する箇所に、前記第2方向全体にわたって形成されていることを特徴とする。
【0014】
このように構成することで、アクチュエータプレートの駆動電極が形成されている範囲に対応する箇所全体に、漏れ電界が発生し得る磁路が形成されてしまうことを防止できる。このため、漏れ電界に起因するアクチュエータプレートの歪みを確実に防止でき、液体噴射ヘッドの液体吐出性能を向上できる。
【0015】
本発明に係る液体噴射ヘッドにおいて、前記ガード電極は、前記裏面の全体に形成されていることを特徴とする。
【0016】
このように構成することで、ガード電極を容易に形成することができる。このため、液体噴射ヘッドの製造コストを極力抑えつつ、液体吐出性能を向上できる。
【0019】
本発明に係る液体噴射ヘッドにおいて、前記絶縁層は、空気層であることを特徴とする。
【0020】
このように構成することで、絶縁層を容易に形成することができる。また、絶縁層の形状が変化した場合であっても柔軟に対応することができるので、製造コストを抑えることが可能になる。
【0021】
本発明に係る液体噴射記録装置は、上記に記載の液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドを走査させる走査手段と、前記液体を収容する液体収容体と、前記液体噴射ヘッドと前記液体収容体との間に敷設され、前記液体を流通させる液体供給管と、を備えたことを特徴とする。
【0022】
このように構成することで、漏れ電界の発生を抑制し、この漏れ電界に起因するアクチュエータプレートの歪みを防止することにより、液体吐出性能を向上可能な液体噴射記録装置を提供できる。
【0023】
本発明に係る液体噴射ヘッドの電圧印加方法は、上記に記載の液体噴射ヘッドの電圧印加方法において、前記駆動電極に印加される前記電圧は、前記駆動壁の両側面に電位差を与えて対応する前記チャネルの容積を膨張させる膨張波形と、前記駆動壁の両側面に電位差を与えて対応する前記チャネルの容積を収縮させる第1収縮波形と、であり、前記ガード電極に印加される前記電圧は、前記第1収縮波形と同じタイミングで印加される第2収縮波形であることを特徴とする。
【0024】
このように構成することで、漏れ電界を発生させる原因となるアクチュエータプレートの内での所定の壁面間での電位差を極力無くすことができる。このため、漏れ電界に起因するアクチュエータプレートの歪みを防止でき、液体噴射ヘッドの液体吐出性能を向上できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、駆動電極に所定の電圧を印加するのと同じタイミングで前記ガード電極に電圧を印加することができる。これにより、漏れ電界を発生させる原因となるアクチュエータプレートの内での所定の壁面間での電位差を極力無くすことができる。このため、漏れ電界に起因するアクチュエータプレートの歪みを防止でき、液体噴射ヘッドの液体吐出性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態における液体噴射記録装置の斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態における液体噴射ヘッドの斜視図である。
図3】本発明の第1実施形態における吐出部の斜視図である。
図4】本発明の第1実施形態における吐出部の分解斜視図である。
図5】本発明の第1実施形態における吐出部のX−Z平面に沿う断面に相当する図である。
図6】本発明の第1実施形態における吐出部と駆動制御部とが接続された状態を示す斜視図である。
図7】本発明の第1実施形態における第1ヘッドチップおよび第2ヘッドチップを模式的に示した図である。
図8】本発明の第1実施形態における駆動電極、第1ガード電極、および第2ガード電極への電圧の印加タイミングを示すタイムチャートである。
図9】本発明の第1実施形態における駆動電極に、膨張波形の駆動電圧を印加した状態を示す説明図である。
図10】本発明の第1実施形態における駆動電極に、収縮波形の駆動電圧を印加した状態を示す説明図である。
図11】本発明の第1実施形態における駆動電極への非吐出波形の印加タイミングを示すタイムチャートである。
図12】本発明の第1実施形態における駆動電極に、非吐出波形の駆動電圧を印加した状態を示す説明図である。
図13】本発明の第1実施形態の変形例における吐出部のX−Z平面に沿う断面に相当する図である。
図14】本発明の第2実施形態における吐出部のX−Z平面に沿う断面に相当する図である。
図15】本発明の第2実施形態の変形例における吐出部のX−Z平面に沿う断面に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
(液体噴射記録装置)
図1は、液体噴射記録装置1の斜視図である。
液体噴射記録装置1は、いわゆるインクジェットプリンタであって、紙等の被記録媒体Sを搬送する一対の搬送機構2,3と、被記録媒体Sにインク滴を噴射する液体噴射ヘッド4と、液体噴射ヘッド4にインクを供給する液体供給手段5と、液体噴射ヘッド4を被記録媒体Sの搬送方向(主走査方向)と略直交する方向(副走査方向)に走査させる走査手段6と、を備えている。
【0029】
なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
また、以下の説明において、副走査方向をX方向、主走査方向をY方向、そしてX方向、およびY方向に共に直交する方向をZ方向として説明する。ここで、液体噴射記録装置1は、X方向、Y方向が水平方向となるように、かつZ方向が重力方向上下方向となるように載置して使用されるようになっている。
すなわち、液体噴射記録装置1を載置した状態では、被記録媒体S上を液体噴射ヘッド4が水平方向(X方向、Y方向)に沿って走査するように構成されている。また、この液体噴射ヘッド4から重力方向下方(Z方向下方)に向かってインク滴が噴射され、このインク滴が被記録媒体Sに着弾するように構成されている。
【0030】
一対の搬送機構2,3は、それぞれX方向に延びて設けられたグリッドローラ20,21と、グリッドローラ20,21のそれぞれに平行に延びるピンチローラ22,23と、詳細は図示しないがグリッドローラ20,21を軸回りに回転動作させるモータ等の駆動機構と、を備えている。
【0031】
液体供給手段5は、インクが収容された液体収容体25と、液体収容体25と液体噴射ヘッド4とを接続する液体供給管26と、を備えている。液体収容体25は、複数設けられており、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類のインクが収容されたインクタンク25Y,25M,25C,25Bが並べて設けられている。インクタンク25Y,25M,25C,25BのそれぞれにはポンプモータMが設けられており、インクを、液体供給管26を通じて液体噴射ヘッド4へ押圧移動できる。液体供給管26は、液体噴射ヘッド4を支持するキャリッジユニット62の動作に対応可能な可撓性を有するフレキシブルホースから成る。
【0032】
なお、液体収容体25は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類のインクが収容されたインクタンク25Y,25M,25C,25Bに限られるものではなく、さらに多色のインクを収容したインクタンクを備えていてもよい。
【0033】
走査手段6は、X方向に延びて設けられた一対のガイドレール60,61と、一対のガイドレール60,61に沿って摺動可能なキャリッジユニット62と、キャリッジユニット62をX方向に移動させる駆動機構63と、を備えている。駆動機構63は、一対のガイドレール60,61の間に配設された一対のプーリ64,65と、一対のプーリ64,65間に巻回された無端ベルト66と、一方のプーリ64を回転駆動させる駆動モータ67と、を備えている。
【0034】
一対のプーリ64,65は、一対のガイドレール60,61の両端部間にそれぞれ配設されており、X方向に間隔をあけて配置されている。無端ベルト66は、一対のガイドレール60,61間に配設されており、この無端ベルト66に、キャリッジユニット62が連結されている。キャリッジユニット62の基端部62aには、複数の液体噴射ヘッド4が搭載されている。具体的には、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類のインクに個別に対応する液体噴射ヘッド4Y,4M,4C,4BがX方向に並んで搭載されている。
【0035】
(第1実施形態)
(液体噴射ヘッド)
図2は、液体噴射ヘッド4の斜視図である。なお、液体噴射ヘッド4Y,4M,4C,4Bは、供給されるインクの色以外は何れも同一の構成からなるため、以下の説明では、まとめて液体噴射ヘッド4として説明する。
同図に示すように、液体噴射ヘッド4は、下部ベース72上に固定され、被記録媒体S(図1参照)に対してインク滴を噴射する吐出部70と、吐出部70に電気的に接続され、この吐出部70の駆動を制御する駆動制御部80と、駆動制御部80を固定する縦ベース73と、吐出部70と液体供給管26との間に、それぞれ接続部13,14を介して介在された液体流通部12とを有している。
【0036】
そして、液体供給管26から流入されるインクが、液体流通部12を通って吐出部70に供給される。液体流通部12は、圧力緩衝器として機能しており、液体供給管26を介してインクが供給されると、インクを内部の貯留室内に一旦貯留した後、所定量のインクを吐出部70に供給する。なお、下部ベース72と縦ベース73は、一体成形としてもよい。
【0037】
(吐出部)
吐出部70は、下部ベース72に固定されており、液体流通部12に接続部14を介して接続された流路部材71と、駆動電圧が印加されることによりインクを液滴として被記録媒体Sへと噴射させる第1ヘッドチップ31および第2ヘッドチップ32と、第1ヘッドチップ31および第2ヘッドチップ32のZ方向の下端面(最下面)に設けられたノズルプレート35(図3図4参照)と、を有している。
【0038】
図3は、吐出部70の斜視図、図4は、吐出部70の分解斜視図、図5は、吐出部70のX−Z平面に沿う断面に相当する図である。
図3図5に示すように、吐出部70は、ノズルプレート35に、複数のノズル孔(第1ノズル孔33aおよび第2ノズル孔34a)からなるノズル列(第1ノズル列33および第2ノズル列34)が2列に亘って形成されるように、2つのヘッドチップ31,32(第1ヘッドチップ31および第2ヘッドチップ32)が積層されている。そして、各ヘッドチップ31,32とノズルプレート35とがノズルキャップ36によって支持されている。
【0039】
第1ヘッドチップ31は、後述するチャネル43の長手方向(Z方向)端部に臨む第1ノズル孔33aからインクを吐出する、いわゆるエッジシュートタイプとされている。第1ヘッドチップ31は、第1アクチュエータプレート41および第1カバープレート42がX方向に積層されて構成されている。
【0040】
第1アクチュエータプレート41は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料で形成されたプレートであり、その分極方向が厚さ方向(X方向)に沿って設定されている。この第1アクチュエータプレート41のX方向における一方の主面41a(第1カバープレート42側に位置する面)には、Y方向に間隔をあけて複数のチャネル43が並設されている。これら複数のチャネル43は、一方の主面41a側に開口した状態でZ方向に沿って直線状に延びる溝部であり、Z方向の一端部が第1アクチュエータプレート41の下端面で開口している。各チャネル43には、インクが充填されるようになっている。
【0041】
また、複数のチャネル43の間には、断面矩形状でZ方向に延びる駆動壁44が形成され、この駆動壁44によって各チャネル43がそれぞれ区分けされている。したがって、各駆動壁44の内側面44a(チャネル43の内面)は、X−Z平面に面している。各駆動壁44の内側面44aには、それぞれ蒸着等により駆動電極44bが形成されている。駆動電極44bは、チャネル43および駆動壁44の形状に対応するように、Z方向に長くなるように略長方形状に形成されている。
【0042】
さらに、第1アクチュエータプレート41のX方向における一方の主面41aは、Z方向の上部が第1電極引出部45とされている。そして、各チャネル43内で対向する2つの駆動電極44bがそれぞれ1つに繋がっており(以下、この繋がった2つの駆動電極44bを駆動電極対44b,44bという)、各駆動電極対44b,44bがそれぞれ第1電極引出部45に接続されている。
第1電極引出部45には、後述の第1フレキシブル基板93が接続されている。そして、駆動電極対44bは、第1フレキシブル基板93を介して駆動電圧が印加されることにより、圧電滑り効果により駆動壁44を変形させ、チャネル43内の容積を変化させる(詳細は後述する)。
【0043】
第1カバープレート42は、一方の主面42aが第1アクチュエータプレート41の一方の主面41a上のうち、第1電極引出部45を避けた位置に接合されている。第1カバープレート42には、チャネル43のZ方向における他端部側に共通インク室46が形成されている。
共通インク室46は、Y方向に沿って長くなるように、かつ第1カバープレート42の厚さ方向に貫通するように形成された開口である。共通インク室46は、流路部材71内に連通していると共に、各チャネル43に連通している。これにより、共通インク室46に導入されたインクが各チャネル43に流通される。
【0044】
一方、第2ヘッドチップ32は、第2アクチュエータプレート51および第2カバープレート52がX方向に積層されて構成されている。なお、第2ヘッドチップ32と第1ヘッドチップ31の基本的構成は同一である。このため、第2ヘッドチップ32のうち、上述した第1ヘッドチップ31と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0045】
第2アクチュエータプレート51の一方の主面51aには、上述した第1アクチュエータプレート41のチャネル43と同ピッチでY方向に間隔をあけて複数のチャネル43が配設されている。
【0046】
ここで、本実施形態の吐出部70では、第1アクチュエータプレート41のチャネル43と、第2アクチュエータプレート51のチャネル43とが千鳥状に配置されている。
すなわち、第1アクチュエータプレート41および第2アクチュエータプレート51は、第1アクチュエータプレート41の駆動壁44と第2アクチュエータプレート51のチャネル43とがX方向で対向するように形成されている。また、第1アクチュエータプレート41および第2アクチュエータプレート51は、第1アクチュエータプレート41のチャネル43と第2アクチュエータプレート51の駆動壁44とがX方向で対向するように形成されている。
【0047】
なお、図5では、第1アクチュエータプレート41のチャネル43と、第2アクチュエータプレート51のチャネル43とが同一平面上に図示されているが、これは、説明を分かり易くするためである。実際は、吐出部70のX−Z平面に沿う断面図では、第1アクチュエータプレート41または第2アクチュエータプレート51の一方のアクチュエータプレートのチャネル43が図示されている状態では、他方のアクチュエータプレートの駆動壁44が図示される(例えば、図3参照)。
【0048】
また、第2アクチュエータプレート51の一方の主面51aのうち、第1アクチュエータプレート41の第1電極引出部45と対向する位置は、第2電極引出部55とされている。この第2電極引出部55に、後述の第2フレキシブル基板94が接続されている。そして、第2アクチュエータプレート51の駆動電極44bは、第2フレキシブル基板94を介して駆動電圧が印加されることにより、圧電滑り効果により駆動壁44を変形させ、チャネル43内の容積を変化させる(詳細は後述する)。
【0049】
このように構成された第1アクチュエータプレート41および第2アクチュエータプレート51は、それぞれの他方の主面(裏面)41b,51b同士が重ね合わさるように接合されている。
ここで、図5に詳示するように、第1アクチュエータプレート41の他方の主面41bには、蒸着等により第1ガード電極101が形成されている。また、第2アクチュエータプレート51の他方の主面51bには、蒸着等により第2ガード電極102が形成されている。これらガード電極101,102は、各他方の主面41b,51bの全体に形成されている。各他方の主面41b,51bは、Z−Y平面に面しているので、駆動壁44の内側面44aに対して略直交している。このため、駆動電極44bと各ガード電極101,102も略直交している。
【0050】
第1ガード電極101は、第1アクチュエータプレート41のZ方向の上端で、かつY方向の両側に形成された不図示の引出電極を介して第1フレキシブル基板93に接続されている。第1ガード電極101は、第1フレキシブル基板93を介して制御電圧が印加されることにより、第1アクチュエータプレート41の駆動電極44bに駆動電圧を印加した際の漏れ電界を抑制する。
【0051】
一方、第2ガード電極102は、第2アクチュエータプレート51のZ方向の上端で、かつY方向の両側に形成された不図示の引出電極を介して第2フレキシブル基板94に接続されている。第2ガード電極102は、第2フレキシブル基板94を介して制御電圧が印加されることにより、第2アクチュエータプレート51の駆動電極44bに駆動電圧を印加した際の漏れ電界を抑制する。なお、これら漏れ電界の抑制方法の詳細については後述する。
【0052】
また、第1ガード電極101と第2ガード電極102との間には、絶縁層103が形成されている。これにより、第1ガード電極101と第2ガード電極102との間が絶縁される。絶縁層103としては、石英(二酸化ケイ素:SiO2)、セラミック、接着剤、ポリイミド等が挙げられる。接着剤を用いる場合、第1ガード電極101と第2ガード電極102との間の絶縁距離を確保するために、接着剤にフィラー等を混合することが望ましい。
【0053】
図3図4に示すように、ノズルキャップ36は、Z方向から見た平面視外形が長方形状に形成されており、その上面が下部ベース72(図2参照)の下面に突き当たった状態で固定される。
また、ノズルキャップ36には、Z方向に貫通する嵌合孔36aが形成されており、第1ヘッドチップ31および第2ヘッドチップ32が嵌合孔36a内にまとめて嵌合されている。この際、ノズルキャップ36の下端面は、各ヘッドチップ31,32の下端面と面一となるように組み合わされている。
【0054】
ノズルプレート35は、厚みが約50μm程度のポリイミド等のフィルム材からなるシート状とされ、ノズルキャップ36および各ヘッドチップ31,32の下端面に接着等により固定されている。なお、本実施形態のノズルプレート35は、ノズルキャップ36のほぼ全面に亘って設けられており、その外周部分が下部ベース72とZ方向で重なる。
【0055】
また、ノズルプレート35には、Y方向に間隔をあけて並設された複数のノズル孔(第1ノズル孔33aおよび第2ノズル孔34a)からなるノズル列(第1ノズル列33および第2ノズル列34)が2列配設されている。
【0056】
第1ノズル列33は、ノズルプレート35をZ方向に貫通する複数の第1ノズル孔33aを有し、これら第1ノズル孔33aがY方向に間隔をあけて一直線上に並んで構成されている。第1ノズル孔33aは、第1アクチュエータプレート41のチャネル43内に連通している。
第2ノズル列34は、ノズルプレート35をZ方向に貫通する複数の第2ノズル孔34aを有し、第1ノズル列33と平行に配設されている。各第2ノズル孔34aは、第2アクチュエータプレート51のチャネル43内に連通している。
【0057】
(駆動制御部)
図6は、吐出部70と駆動制御部80とが接続された状態を示す斜視図である。
なお、図6に図示する吐出部70は、図3図5に示す吐出部70と同一構造であるが、図6における説明を分かりやすくするために、簡略化している。
【0058】
図2図6に示すように、駆動制御部80は、回路基板81と、回路基板81と吐出部70とを電気的に接続するための接続基板82と、を備えている。
回路基板81は、いわゆるガラスエポキシ基板であって、Z方向に長くなるようにX方向からみて略長方形状に形成されている。回路基板81の外周部には、複数のビス孔83が形成されている。ビス孔83に不図示のビスを挿入し、このビスを縦ベース73に固定することにより、縦ベース73に回路基板81が固定される。
【0059】
回路基板81には、複数の素子86が実装されている。素子86としては、例えば、第1ヘッドチップ31および第2ヘッドチップ32を駆動するための駆動信号を生成するドライバIC等がある。
また、回路基板81の一面81aには、長手方向上端部に外部機器接続用コネクタ91が実装されている。外部機器接続用コネクタ91は、不図示の外部制御機器と電気的に接続され、この外部制御機器の制御信号が入力される。外部機器接続用コネクタ91と、各素子86は、回路基板81上に敷設されている複数の配線(不図示)により電気的に接続されている。
【0060】
このように構成された回路基板81と吐出部70とを電気的に接続するための接続基板82は、第1フレキシブル基板93と第2フレキシブル基板94とにより構成されている。第1フレキシブル基板93は、回路基板81に設けられた第1接続部84と第1ヘッドチップ31とを電気的に接続するためのものであって、僅かに撓んだ状態で配置されている。そして、第1フレキシブル基板93の一端が回路基板81に接続され、他端が第1ヘッドチップ31の第1電極引出部45に接続されている。
第2フレキシブル基板94は、回路基板81に設けられた第2接続部85と第2ヘッドチップ32とを電気的に接続するためのものであって、僅かに撓んだ状態で配置されている。そして、第2フレキシブル基板94の一端が回路基板81に接続され、他端が第2ヘッドチップ32の第2電極引出部55に接続されている。
【0061】
(液体噴射記録装置の印刷動作)
次に、図1に基づいて、液体噴射記録装置1の印刷動作について説明する。
図1に示すように、液体噴射記録装置1の印刷動作は、一対の搬送機構2,3によって被記録媒体Sを搬送させながら走査手段6によって液体噴射ヘッド4を走査させながら行う。このとき、液体噴射ヘッド4から所定のインク滴を吐出させ、このインク滴を被記録媒体Sに着弾させることにより、被記録媒体Sに文字や画像が記録される。
【0062】
液体噴射ヘッド4からインク滴を吐出させるために、各ヘッドチップ31,32に駆動電圧(制御電圧)が印加される。すなわち、駆動電極44b、第1ガード電極101、および第2ガード電極102にそれぞれ所定の電圧が印加されることにより、液体噴射ヘッド4からインク滴が吐出される。
【0063】
(駆動電極、第1ガード電極、および第2ガード電極への駆動電圧の印加方法)
次に、図7図12に基づいて、駆動電極44b、第1ガード電極101、および第2ガード電極102への電圧の印加方法について説明する。
図7は、第1ヘッドチップ31および第2ヘッドチップ32を模式的に示した図である。図8は、駆動電極44b、第1ガード電極101、および第2ガード電極102への電圧の印加タイミングを示すタイムチャートである。
【0064】
ここで、液体噴射ヘッド4は、第1アクチュエータプレート41に形成されている各チャネル43、および第2アクチュエータプレート51に形成されている各チャネル43の全てにインクが充填され、全てのチャネル43から順次インクが吐出される。また、液体噴射ヘッド4は、Y方向で隣り合う各チャネル43をそれぞれ3つに振り分け、各チャネル43から順次インクを吐出する、いわゆる3サイクル方式とされている。つまり、例えば、図7に示すように、Y方向で隣り合う各チャネル43をAサイクル、Bサイクル、Cサイクルの3つのサイクルに順に振り分け、各サイクル別に駆動電圧を印加する。
なお、3つのサイクルの振り分け順は、第1アクチュエータプレート41と第2アクチュエータプレート51とで対応させる必要は無いが、以下の説明では、説明を分かり易くするために、各アクチュエータプレート41,51の3つのサイクルが対応するように振り分けて説明する。
【0065】
図8に示すように、各アクチュエータプレート41,51の駆動電極44bに印加される駆動電圧には、2つの波形の電圧がある。すなわち、所望のチャネル43の容積を膨張させる膨張波形(On波形)W1と、所望のチャネル43の容積を収縮させる収縮波形(Inactive波形)W2と、がある。以下、これら膨張波形W1と収縮波形W2について、具体的に説明する。
【0066】
図9は、駆動電極44bに、膨張波形W1の駆動電圧を印加した状態を示す説明図、図10は、駆動電極44bに、収縮波形W2の駆動電圧を印加した状態を示す説明図である。
なお、第1アクチュエータプレート41と第2アクチュエータプレート51の基本的動作原理は同一である。このため、以下の説明では、第1アクチュエータプレート41についてのみ説明し、第2アクチュエータプレート51については必要に応じて説明する。
【0067】
図8図9に示すように、例えば、Aサイクルのチャネル43を介して第1ノズル孔33aからインク滴を吐出する場合、Aサイクルのチャネル43に、膨張波形W1の駆動電圧を印加する(図8におけるF1参照)。この場合、Aサイクルのチャネル43の駆動電極44bがプラス(+)、Aサイクルの両隣りに存在するBサイクルおよびCサイクルのチャネル43の駆動電極44bがマイナス(−、接地)になる。すると、Aサイクルのチャネル43の容積が膨張し、この分、Aサイクルのチャネル43にインクが充填される。
【0068】
続いて、図8図10に示すように、BサイクルおよびCサイクルのチャネルに、収縮波形W2の駆動電圧を印加する(図8におけるF2参照)。この場合、BサイクルおよびCサイクルのチャネル43の駆動電極44bがプラス(+)、Aサイクルのチャネル43の駆動電極44bがマイナス(−、接地)になる。すると、Aサイクルのチャネル43の容積が収縮し、Aサイクルのチャネル43内のインクの圧力が高まる。このため、Aサイクルのチャネル43内のインクが第1ノズル孔33aを介して吐出される。
そしてこれを、各サイクルのチャネル43について順次行うことにより(図8参照)、各チャネル43から順次インクが吐出される。
【0069】
この他に、所望のチャネル43だけインクを吐出させない場合もある。例えば、Aサイクルの複数のチャネル43のうち、同じAサイクルであっても1つのチャネル43だけインクを吐出させないような場合である。このようなチャネル43に印加される駆動電圧を、非吐出波形(off波形)W3とする(図11参照)。
【0070】
図11は、駆動電極44bへの非吐出波形W3の印加タイミングを示すタイムチャートである。図12は、駆動電極44bに、非吐出波形W3の駆動電圧を印加した状態を示す説明図である。
図11図12に示すように、非吐出波形W3の駆動電圧は、所望のチャネル43以外のチャネルに収縮波形W2の駆動電圧が印加されるタイミングと同じタイミングで印加される。この場合、例えば、所望のAサイクルのチャネル43と、BサイクルおよびCサイクルのチャネル43のそれぞれの駆動電極44bがプラス(+)になる。このため、駆動壁44間で電位差が生じず、所望のAサイクルのチャネル43の容積が変化しない。つまり、所望のAサイクルのチャネル43を構成する駆動壁44が駆動しない。このため、所望のAサイクルのチャネル43からインクが吐出されない。
【0071】
ここで、図9に示すように、例えば、Aサイクルのチャネル43に膨張波形W1の駆動電圧が印加されている際、Aサイクルのチャネル43を構成する駆動壁44の内側面44aと、BサイクルおよびCサイクルのチャネル43を構成する駆動壁44の内側面44aとの間に電位差が生じる。このため、駆動壁44を介してAサイクルのチャネル43からBサイクルおよびCサイクルのチャネル43に向かって流れる電界E1が発生する。この電界E1は、駆動壁44を通過するので、各アクチュエータプレート41,51が意図しない変形をしてしまうような影響を及ぼさない。
【0072】
一方、図10に示すように、例えば、BサイクルおよびCサイクルのチャネル43に、収縮波形W2の駆動電圧が印加される際、Aサイクルのチャネル43を構成する駆動壁44の内側面44aと、BサイクルおよびCサイクルのチャネル43を構成する駆動壁44の内側面44aとの間に電位差が生じる。このため、駆動壁44を介してBサイクルおよびCサイクルのチャネル43からAサイクルのチャネル43に向かって流れる電界E2が発生する。
【0073】
これに対し、Bサイクルのチャネル43を構成する駆動壁44の内側面44aと、Cサイクルのチャネル43を構成する駆動壁44の内側面44aとの間は、それぞれの駆動電極44bが同じプラス(+)になるので、電位差が生じない。一方、Bサイクルのチャネル43を構成する駆動壁44の内側面44a、およびCサイクルのチャネル43を構成する駆動壁44の内側面44aと、第1アクチュエータプレート41の他方の主面41bとの間に電位差が生じ、駆動壁44から第1アクチュエータプレート41の他方の主面41bに向かって流れる電界E3が発生しようとする。この電界E3は、第1アクチュエータプレート41の駆動壁44以外を流れる電界であり、第1アクチュエータプレート41を意図せず変形させてしまう、いわゆる漏れ電界である。
【0074】
そこで、図8に示すように、BサイクルおよびCサイクルのチャネル43に収縮波形W2の駆動電圧が印加されるタイミングと同じタイミングで、第1ガード電極101に収縮波形W2と同じサブ収縮波形W4の制御電圧を印加する。これにより、Bサイクルのチャネル43を構成する駆動壁44の内側面44a、およびCサイクルのチャネル43を構成する駆動壁44の内側面44aと、第1アクチュエータプレート41の他方の主面41bとの間にも電位差が生じず、漏れ電界(電界E3)の発生を抑制できる。
【0075】
また、図11図12に示すようにAサイクルのチャネル43に、非吐出波形W3の駆動電圧が印加され、BサイクルおよびCサイクルのチャネル43に、収縮波形W2の駆動電圧が印加される際、各駆動壁44の内側面44aの間は、それぞれの駆動電極44bが同じプラス(+)になるので、電位差が生じない。この場合も、各駆動壁44の内側面44aと、第1アクチュエータプレート41の他方の主面41bとの間に電位差が生じ、駆動壁44から第1アクチュエータプレート41の他方の主面41bに向かって流れる電界E3が発生しようとする。
【0076】
このため、非吐出波形W3および収縮波形W2の駆動電圧が印加されるタイミングとほぼ同じタイミングで、第1ガード電極101にサブ収縮波形W4の制御電圧を印加する。これにより、各駆動壁44の内側面44aと、第1アクチュエータプレート41の他方の主面41bとの間に電位差が生じず、漏れ電界(電界E3)の発生を抑制できる。
なお、サブ収縮波形W4の制御電圧の印加タイミングは、非吐出波形W3および収縮波形W2の駆動電圧が印加されるタイミングと多少のずれがあってもよい。
【0077】
ここで、第1アクチュエータプレート41に設けられている第1ガード電極101と、第2アクチュエータプレート51に設けられている第2ガード電極102との間には、絶縁層103が形成されている。このため、各ガード電極101,102の何れか一方にサブ収縮波形W4の制御電圧を印加した場合であっても、他方のガード電極101,102が設けられているアクチュエータプレート41,51に影響を及ぼすことがない。
なお、駆動電圧の各波形W2〜W4の波高H2〜H4を、同一に設定することが望ましい。このように設定することで、インク吐出性能を向上でき、被記録媒体Sに記録される文字や画像の品質を向上できる。しかしながら、各波高H1〜H4は、完全同一でなくてもよく、多少のばらつきがあってもよい。また、駆動電圧の各波形W1〜W4は、波高に限らず、波幅(パルス幅)に多少のばらつきがあってもよい。
【0078】
このように、上述の第1実施形態では、各アクチュエータプレート41,51の他方の主面41b,51bに、それぞれガード電極101,102を設けている。これらガード電極101,102は、各チャネル43を構成する駆動壁44の内側面44aに形成されている駆動電極44bとはほぼ直交する平面(他方の主面41b,51b)に存在している。換言すれば、ガード電極101,102は、駆動壁44が膨張、収縮変形する向き(駆動壁44を駆動させる電界の向き)に対して平行な平面(他方の主面41b,51b)に存在している。
【0079】
そして、第1アクチュエータプレート41の所望のチャネル43に収縮波形W2の駆動電圧を印加した際、この収縮波形W2とほぼ同じタイミングで、第1ガード電極101にサブ収縮波形W4の制御電圧を印加している。同様に、第2アクチュエータプレート51の所望のチャネル43に収縮波形W2の駆動電圧を印加した際、この収縮波形W2と同じタイミングで、第2ガード電極102にサブ収縮波形W4の制御電圧を印加している。
このため、各アクチュエータプレート41,51内での所定の壁面間(駆動壁44の内側面44aと他方の主面41b,51bとの間)での電位差を極力無くすことができ、漏れ電界(電界E3)の発生を抑制できる。よって、漏れ電界(電界E3)に起因する各アクチュエータプレート41,51の歪みを防止でき、液体噴射ヘッド4の液体吐出性能を向上できる。
【0080】
また、各ガード電極101,102は、それぞれ対応するアクチュエータプレート41,51の他方の主面41b,51bの全体に形成されている。このため、余計なマスク等を形成したり、各ガード電極101,102の形状を加工したりする手間が省ける。よって、各ガード電極101,102を容易に形成することができ、液体噴射ヘッド4の製造コストを極力抑えつつ、液体吐出性能を向上できる。
【0081】
さらに、吐出部70を、2つのヘッドチップ31,32を積層することにより構成しているので、液体噴射ヘッド4から吐出されるインクの数が増大し、被記録媒体Sに記録される文字や画像の密度を向上できる。
しかも、第1ガード電極101と第2ガード電極102との間に、絶縁層103が形成されている。このため、各ガード電極101,102の何れか一方にサブ収縮波形W4の制御電圧を印加した場合であっても、他方のガード電極101,102が設けられているアクチュエータプレート41,51に影響を及ぼすことがない。
【0082】
(第1実施形態の変形例)
なお、上述の第1実施形態では、各ガード電極101,102は、それぞれ対応するアクチュエータプレート41,51の他方の主面41b,51bの全体に形成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、図13に示すように、少なくとも各アクチュエータプレート41,51の他方の主面41b,51bのうち、駆動電極44bが形成されている範囲に対応する箇所に、Y方向全体にわたってガード電極101,102が形成されていればよい。
【0083】
この場合、各アクチュエータプレート41,51の他方の主面41b,51b同士が確実に重なり合うように、各他方の主面41b,51bの各ガード電極101,102を形成する箇所に、凹部104,105を形成する。そして、各凹部104,105の底面に、それぞれガード電極101,102を形成する。
また、各凹部104,105の深さは、各ガード電極101,102間の絶縁距離を確保可能な深さに設定する。そして、各ガード電極101,102の間に、絶縁層として空気層106形成する。
【0084】
したがって、上述の第1実施形態の変形例によれば、前述の第1実施形態と同様の効果を奏することができる。つまり、アクチュエータプレート41,51の駆動電極44bが形成されている範囲に対応する箇所全体に、漏れ電界が発生し得る磁路が形成されてしまうことを防止できる。このため、前述の第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0085】
これに加え、各ガード電極101,102間の絶縁を確保するために空気層106を形成している。このように、絶縁層として空気層106を採用することにより、絶縁層を容易に形成することができる。
また、絶縁層の形状が変化した場合であっても柔軟に対応することができる。つまり、絶縁素材を用いる必要がないので、絶縁層の形状が変化した場合であっても何ら製造コストに影響を及ぼさない。このため液体噴射ヘッド4の製造コストを抑えることが可能になる。
【0086】
なお、上述の第1実施形態の変形例では、絶縁層として空気層106を形成した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、空気層106に、石英(二酸化ケイ素:SiO2)、セラミック、接着剤、ポリイミド等を配置し、これらを絶縁層としてもよい。
また、上述の第1実施形態の構成と第1実施形態の変形例の構成とを組み合わせてもよい。例えば、第1実施形態の変形例における空気層106を、第1実施形態の絶縁層103に採用してもよい。この場合、各アクチュエータプレート41,51の他方の主面41b,51bの周縁部を除く大部分に凹部を形成し、この凹部に各ガード電極101,102を形成すると共に、空気層を形成する。
【0087】
さらに、上述の実施形態では、駆動電圧の各波形W1〜W4が、1つのパルスで構成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、駆動電圧の各波形W1〜W4を、2つ以上のパルスで構成してもよい。
【0088】
(第2実施形態)
(液体噴射ヘッド)(吐出部)
次に、図14に基づいて、第2実施形態について説明する。
図14は、第2実施形態における吐出部270のX−Z平面に沿う断面図であって、前述の図5に相当している。なお、第1実施形態と同一態様には、同一符号を付して説明を省略する。
同図に示すように、第1実施形態と第2実施形態との相違点は、前述の第1実施形態の吐出部70は、2つのヘッドチップ31,32を積層することにより構成しているのに対し、第2実施形態の吐出部270は、ヘッドチップが1つのみ(第1ヘッドチップ31)で構成されている点にある。
【0089】
このため、吐出部270と駆動制御部80の回路基板81と接続する接続基板82は、第1フレキシブル基板93(何れも図2参照、第2実施形態では不図示)のみである。
また、ノズルプレート235に形成されるノズル列およびノズル孔も、第1ノズル列33および第1ノズル孔33aのみである。さらに、ノズルキャップ236に形成された嵌合孔236aに、第1ヘッドチップ31が嵌合されている。
【0090】
ここで、第1ヘッドチップ31を構成する第1アクチュエータプレート41の他方の主面41bには、この他方の主面41bに重ね合わさるように縦ベース73(図2参照)が取り付けられる。このように、第1ヘッドチップ31は、縦ベース73と下部ベース72(本第2実施形態では不図示)とに支持される。
第1アクチュエータプレート41の他方の主面41bの全体には、蒸着等により第1ガード電極101が形成されている。また、第1ガード電極101と、縦ベース73およびノズルキャップ236の嵌合孔236aとの間には、絶縁層103が形成されている。
【0091】
したがって、上述の第2実施形態によれば、前述の第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0092】
(第2実施形態の変形例)
なお、上述の第2実施形態では、第1アクチュエータプレート41の他方の主面41bの全体に第1ガード電極101を形成した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、図15に示すように、少なくとも第1アクチュエータプレート41の他方の主面41bのうち、駆動電極44bが形成されている範囲に対応する箇所に、Y方向全体にわたって第1ガード電極101が形成されていればよい。
【0093】
この場合、第1アクチュエータプレート41の他方の主面41bと縦ベース73とが確実に重なり合うように、他方の主面41bの第1ガード電極101を形成する箇所に、凹部204を形成する。そして、凹部204の底面に、第1ガード電極101を形成する。
また、各凹部204の深さは、第1ガード電極101と縦ベース73との間の絶縁距離を確保可能な深さに設定する。そして、第1ガード電極101と縦ベース73との間に、絶縁層として空気層206形成する。
【0094】
なお、上述の第2実施形態の変形例では、絶縁層として空気層206を形成した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、空気層206に、石英(二酸化ケイ素:SiO2)、セラミック、接着剤、ポリイミド等を配置し、これらを絶縁層としてもよい。
また、上述の第2実施形態の構成と第2実施形態の変形例の構成とを組み合わせてもよい。例えば、第2実施形態の変形例における空気層206を、第2実施形態の絶縁層103に採用してもよい。この場合、第1アクチュエータプレート41の他方の主面41bの周縁部を除く大部分に凹部を形成し、この凹部に第1ガード電極101を形成すると共に、空気層206を形成する。
【0095】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【符号の説明】
【0096】
1…液体噴射記録装置、4…液体噴射ヘッド、6…走査手段、25…液体収容体、26…液体供給管、41…第1アクチュエータプレート(アクチュエータプレート)、41a,51a…一方の主面(表面)、41b,51b…他方の主面(裏面)、43…チャネル、44…駆動壁、44a…内側面(側面)、44b…駆動電極、51…第2アクチュエータプレート(アクチュエータプレート)、101…第1ガード電極(ガード電極)、102…第2ガード電極(ガード電極)、103…絶縁層、106…空気層、W1…膨張波形、W2…収縮波形(第1収縮波形)、W4…サブ収縮波形(第2収縮波形)
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