(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1及び第2の領域における前記積層強化ガラス基板の温度は、前記ガラスコア層の歪み点未満、かつ前記少なくとも1層のガラスクラッド層の歪み点未満である、請求項1または2に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
これより、積層強化ガラス基板を切断する方法の実施形態を詳細に説明し、その例を添付の図面に示す。可能である場合は常に、同じ又は類似の部分を指すために図面全体を通して同じ参照番号を使用する。以下により詳細に説明するように、実施形態は、レーザ又は他の高速かつ局部の加熱源を用いて、所望の分離線に沿って中央張力及び圧縮応力を操作し、亀裂を誘導できる最小抵抗の経路を提供することにより、積層強化ガラス基板を切断する方法を提供する。融合積層ガラス基板内のガラスコア層の中央張力及びクラッド圧縮の両方は、コアガラス層及びガラスクラッド層の設定点のうちの低い方の間で温度差に対して瞬時に反比例するため、中央張力及び圧縮応力の大きさ及びプロファイルを管理することで、誘導していない亀裂伝播を回避し、制御された断裂及び安定した誘導亀裂成長を提供できる。積層強化ガラス基板を切断するための様々な方法について、添付の図面を特に参照しながら本明細書で更に詳細に説明する。
【0011】
ガラス物品は、熱焼戻しによって及び/又はイオン交換処理によって強化してよい。このような場合では、ガラス物品の形成後にガラス物品を更なる処理ステップに供する場合があり、これらの更なる処理ステップによりガラス物品の全体的なコストが上昇し得る。更に、これらの処理ステップを実行するために必要な更なる取り扱いによって、ガラス物品に対する損傷の危険性が高まる場合があり、これにより製造歩留まりが低下し得、更にガラス物品の製造コスト及び最終的なコストが上昇し得る。
【0012】
ダブル・フュージョン・ドローは強化ガラス基板を製造するための別の方法である。ダブル・フュージョン・ドローは、2層のクラッド層の間に位置するコア層を有する3層の積層強化ガラス基板を作製する。コアガラスがクラッドガラスよりも高い熱膨張係数を有する場合、圧縮応力がクラッド層内に存在し、積層強化ガラス基板が焼鈍し点及び歪み点から低い温度に冷却されるにつれてコア層内で自然に発生する中央張力によって均衡する。圧縮応力を受けたクラッド層による強化は更なる損傷抵抗をもたらす。高い中央張力のコアを有する損傷抵抗性のクラッド層の存在により、積層強化ガラス基板を、機械的スクライブ及び分離法、レーザスクライブ及び分離法といった従来の方法で切断することが困難となり得る。
【0013】
次に
図1を参照すると、積層強化ガラス基板100の断面が模式的に示されている。以下でより詳細に説明するように、積層強化ガラス基板をドロープロセスの最後及びドロープロセスの後で切断して、複数の積層強化ガラス物品に分離してよい。積層強化ガラス基板100は一般に、ガラスコア層102及び1対のガラスクラッド層104a、104bを備える。他の実施形態では、積層強化ガラス基板は1層のガラスクラッド層のみを含むため、2層基板が提供され得ることに留意されたい。
【0014】
更に
図1を参照すると、第1の表面105及び第2の表面107を有するガラスコア層102は一般に、第1の表面部分103aと、第1の表面部分103aの反対側にある第2の表面部分103bとを含む。第1のガラスクラッド層104aはガラスコア層102の第1の表面部分103aと融合し、第2のガラスクラッド層104bはガラスコア層102の第2の表面部分103bと融合する。ガラスクラッド層104a、104bは、ガラスコア層102とガラスクラッド層104a、104bとの間に接着剤、コーティング層等の任意の追加の材料を配置することなく、ガラスコア層102と融合する。
【0015】
本明細書に記載の積層強化ガラス基板100の実施形態では、ガラスコア層102は平均コア熱膨張係数CTE
coreを有する第1のガラス組成物から形成され、ガラスクラッド層104a、104bは平均クラッド熱膨張係数CTE
claddingを有する第2の異なるガラス組成物から形成される。本明細書で使用する用語「CTE」は、約20℃〜約300℃の温度範囲にわたって平均したガラス組成物の熱膨張係数を指す。CTE
coreはCTE
claddingよりも大きく、そのためガラスクラッド層104a、104bは、イオン交換又は熱焼戻しを実施することなく、圧縮応力を受けることになる。
【0016】
具体的には、本明細書に記載の積層強化ガラス基板100は、米国特許第4214886号明細書に記載されたプロセス等の溶融積層プロセスによって形成してよく、該特許は参照により本出願に援用される。例として
図2を参照すると、積層ガラス物品を形成するための積層フュージョンドロー装置200は、下側アイソパイプ204上に位置決めされた上側アイソパイプ202を備える。上側アイソパイプ202は、溶融ガラスクラッド組成物206が溶融装置(図示せず)から供給されるトラフ210を備える。同様に下側アイソパイプ204は、溶融ガラスコア組成物208が溶融装置(図示せず)から供給されるトラフ212を備える。本明細書に記載の実施形態では、溶融ガラスコア組成物208は平均熱膨張係数CTE
coreを有し、これは溶融ガラスクラッド組成物206の平均熱膨張係数CTE
claddingよりも大きい。
【0017】
溶融ガラスコア組成物208がトラフ212を満たすと、溶融ガラスコア組成物208はトラフ212から溢れ、下側アイソパイプ204の外側成形面216、218上を流れる。下側アイソパイプ204の外側成形面216、218は基部220で収束する。従って外側成形面216、218上を流れる溶融ガラスコア組成物208は、下側アイソパイプ204の基部220で再結合し、これにより積層ガラス物品のガラスコア層102が形成される。
【0018】
同時に、溶融ガラスクラッド組成物206は上側アイソパイプ202内に形成されたトラフ210から溢れ、上側アイソパイプ202の外側成形面222、224上を流れる。溶融ガラスクラッド組成物206は上側アイソパイプ202によって外側に偏向され、これにより溶融ガラスクラッド組成物206は下側アイソパイプ204の周囲を流れ、かつ下側アイソパイプの外側成形面216、218上を流れる溶融ガラスコア組成物208と接触し、溶融ガラスコア組成物と融合して、ガラスコア層102の周囲にガラスクラッド層104a、104bが形成される。
【0019】
上述のように、溶融ガラスコア組成物208は一般に平均熱膨張係数CTE
coreを有し、これは溶融ガラスクラッド組成物206の平均クラッド熱膨張係数CTE
claddingよりも大きい。従って、ガラスコア層102及びガラスクラッド層104a、104bが冷却されるにつれて、ガラスコア層102とガラスクラッド層104a、104bとの熱膨張係数の差により、ガラスクラッド層104a、104b内に圧縮応力が発生する。圧縮応力は、イオン交換処理又は熱焼戻し処理を実施することなく、得られる積層ガラス物品の強度を増大させる。ガラスコア層102及びガラスクラッド層104a、104bのガラス組成物は、限定されるものではないが、「高CTEホウケイ酸カリウムコアガラス及びそれを含むガラス物品(High CTE Potassium Borosilicate Core Glasses and Glass Articles Comprising the Same)」と題された米国特許出願第61/604869号明細書、及び「低CTE無アルカリボロアルミノシリケートガラス組成物及びそれを含むガラス物品(Low CTE Alkali−Free BoroAluminosilcate Glass Compositions and Glass Articles Comprising the Same)」と題された米国特許出願第61/604839号明細書に記載のガラス組成物を含んでよい。これらの特許出願の両方はコーニング社に譲渡され、かつその全体が参照により本出願に援用される。
【0020】
以下の表1は、利用されるガラス組成物を例として列挙したものである。
【0021】
現在のところ、ガラス組成A、C、D、E、F、G、H及びIを有するガラスはそれぞれ、2317、0317、Eagle 2000(登録商標)、2318、7761、2319、2816及び2916というガラスの名称又は番号でコーニング社から入手可能であり、ガラス組成B及びJを有するガラスもまたコーニング社で製造されている。
【0022】
図1に示す積層強化ガラス基板100を再度参照すると、積層ガラス物品のガラスコア層102は、例えば75×10
−7/℃以上の熱膨張係数を有する本明細書に記載のガラス組成物等の、比較的高い平均熱膨張係数を有するガラス組成物から形成される。積層強化ガラス基板100のガラスクラッド層104a、104bはガラス組成物から形成され、これは融合形成後の積層ガラス物品の冷却の際にクラッド層における圧縮応力の発生を促進できるよう、より低い平均熱膨張係数を有する。
【0023】
より具体的には、所定のクラッド及びコアの厚さ比、ガラスクラッド層104a、104b組成物とガラスコア層102組成物との間のCTEの差、及び設定点(例えばガラス歪み点より約5℃上)付近からより低い温度(例えば室温)までのガラスクラッド層104a、104b及びガラスコア層102のその後の冷却について。ガラスコア層102組成物がガラスクラッド層104a、104b組成物よりも高いCTEを有する場合、圧縮応力(CS)がガラスクラッド層104a、104b内に存在し、積層強化ガラス基板100が冷却されるにつれてガラスコア層102内で自然に発生する中央張力(CT)によって均衡する。ガラスクラッド層104a、104bの圧縮応力CSは式(1):
【0025】
によって表すことができる。
ガラスコア層102内の中央張力(CT)は式(2):
【0028】
式中、E
core及びE
cladはそれぞれコア及びクラッドのガラスの弾性係数であり;v
core及びv
cladはそれぞれコア及びクラッドのガラスのポアソン比であり;T
*は摂氏でのコア及びクラッドのガラスの設定点のうちの低い方であり(設定点はガラス歪み点より5℃上と定義される);α
core及びα
cladは設定点T
*から室温までの平均熱膨張係数であり、上記の式ではコア及びクラッドのガラスそれぞれにおいて室温として25℃が使用され;h
coreはコアの半分の厚さであり;及びh
cladはクラッドの厚さである。
【0029】
式(1)及び(2)は、室温(即ち25℃)において所定のガラス組成物のペアによって達成可能な応力レベルの特性を決定するために提供される。ガラス組成物を室温とT
*との間の別の温度Tに設定すると、CS及びCTの両方は比例して減少することに留意されたい。従って式(1)及び(2)は以下のように一般化できる。
【0032】
CS及びCTは互いにバランスをとる必要があるので、式(5)は
【0035】
式(3)及び(4)から、CS及びCTは局所的な温度変化によって瞬時に変化し得、これを
図3のグラフに示す。
図3は、ガラスコア層組成物330及びガラスクラッド層組成物332に関する熱膨張対温度をプロットしている。曲線330のデータはガラスAに対応し、曲線332のデータはガラスBに対応している。これらのガラス組成物は単に例として使用され、その他のガラス組成物を利用してよいことを理解されたい。
【0036】
図3に示すように、温度がT
*(例示的なA−Bガラス組成物ペアでは513℃)に上昇すると、応力は斜線部334に比例する。従って、CS及びCTの大きさ及びプロファイルは、線の周辺に適用される選択かつ制御された温度パターンを介して、所望の分離線に沿って、かつその周辺で操作され得る。この手法は、ガラス組成物のペアを均一に加熱する、又は最大電力が切断線に完全に沿って配置される所望の分離線上で直接加熱される既存の方法とは異なる。
【0037】
例示的な温度プロファイル160、並びにこれに対応する中央張力プロファイル170及び圧縮応力プロファイル180をそれぞれ
図4A−4Cに示す。
図4Aは所望の分離線を横切る温度プロファイル160を示しており、横軸は所望の分離線(x=0)からの距離であり、縦軸は温度である。図示された例では、クラッドガラス層の表面の第1の領域162a及び第2の領域162bは最高温度T
1に加熱される。第1の領域162a及び第2の領域162bの両方は、所望の分離線からオフセット距離R
1だけずれている。R
1が小さいと亀裂伝播はより安定であり、切断線に沿って留まる。いくつかの実施形態ではR
1は3mm未満である。他の実施形態ではR
1は1.5mm未満である。また他の実施形態ではR
1は0.75mm未満である。従って、ガラスクラッド層のちょうど所望の分離線上の領域は最高温度T
1に加熱されず、最高温度T
1未満の温度T
2に加熱される。第1の領域162a、第2の領域162b及び所望の分離線の外側領域は、T
2<T
1及びT
1>T
0となるような周囲温度T
0付近となり得る。
【0038】
図3並びに式(3)及び(4)に関連して上述したように、局部温度の変化によりガラスコア層内のCTが瞬時に変化する。
図4Bは、
図4Aに示す積層強化ガラス基板に適用される温度プロファイルに応じた中央張力プロファイル170を示している。横軸は所望の分離線(x=0)からの距離であり、縦軸はCTである。
図4Bに示すように、第1の領域162aに対応する第1の中央張力減少ゾーン172a及び第2の領域162bに対応する第2の中央張力減少ゾーン172bは中央張力(CT
1)を有し、これは第1及び第2の領域162a、162bでの局部加熱により、所望の分離線における中央張力(CT
2)よりも低い。積層強化ガラス基板の残りの領域は、CT
2>CT
1及びCT
1<CT
0となるような本来の中央張力(CT
0)を有する。
【0039】
図4Cは、
図4Bに示す中央張力プロファイル170に応じた圧縮応力プロファイル180を示している。横軸は所望の分離線(x=0)からの距離であり、縦軸はCSである。
図4Cに示されるように、第1の領域162aに対応する第1の圧縮応力減少ゾーン182a及び第2の領域162bに対応する第2の圧縮応力減少ゾーン182aは圧縮応力(CS
1)を有し、これは第1の領域162a及び第2の領域162bでの局部加熱により、所望の分離線における圧縮応力(CS
2)よりも大きさが小さい。積層強化ガラス基板の残りの領域は、CS
2>CS
1及びCS
1<CS
0となるような本来の圧縮応力(CS
0)を有する。
【0040】
上述のように積層強化ガラス基板の表面を加熱することによって、CT
1を有する第1の中央張力減少ゾーン172a及び第2の中央張力減少ゾーン172bが形成され、所望の分離線に沿って、又はその近傍で伝播する亀裂のための境界を提供する。なぜなら、CT
2を有する積層強化ガラス基板の領域は、亀裂伝播のための好ましい最小抵抗の経路となるからである。換言すると、第1の中央張力減少ゾーン172a及び第2の中央張力減少ゾーン172bのより低いCT
1は、所望の分離線に沿って伝播する亀裂を誘導する。従って、CT
1及びCT
2(同様にこれに対応する第1及び第2の領域での圧縮応力(CS
1)及び所望の分離線での圧縮応力(CS
2))を最適化して、特定の閾値未満にCT
2を低下させることで、不安定な亀裂伝播を回避できる。CT
1は、所望の分離線以外のいずれの方向への亀裂のずれを回避するために、所望の分離線の周辺に有意に低い中央張力バンドを有するように制御され得る。いくつかの実施形態では、局部温度がコア及びクラッドのガラスの設定点のうちの低い方に概ね達した場合、CT
1はゼロにまで低下し得る。CT
2は、欠陥のない縁部品質のために特定の閾値を下回る(例えば25MPa)ものの自己亀裂伝播に十分であるように制御され得る。温度に関して、T
2の下限は、最初の割れ目の伝播を維持してベントを形成するために必要な応力によって定義してよく;上限はコア及びクラッドのガラスの歪み点のうちの低い方以下であってよい。
【0041】
対象のオフセットR
1及び中央張力CT
1、CT
2は、最適化された加熱源パラメータによって達成できる。上述のように局部加熱を適用できる任意のデバイスを用いて、本明細書に記載の実施形態に従って積層強化ガラス基板を切断してよい。加熱源はレーザとして説明されているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えばいくつかの実施形態では、局部加熱は、積層強化ガラス基板の表面に適用される薄型の発熱体によって提供してもよい。
【0042】
次に
図5を参照すると、第1のレーザビームスポット154a及び第2のレーザビームスポット154bを有する積層強化ガラス基板100の表面105が示されている。上述したように、積層強化ガラス基板100の表面105は、レーザビームスポット154a、154b以外の熱源によって加熱してもよい。角欠け112を積層強化ガラス基板100の第1の縁部108に適用することにより、亀裂の開始位置が提供される。角欠け112は、筋付刃を用いて、レーザアブレーションによって、又は他の方法によって、機械的に形成してよい。第1のレーザビームスポット154a及び第2のレーザビームスポット154bはそれぞれ、所望の分離線110に隣接する第1の領域162a及び第2の領域162bを加熱するために使用される。
【0043】
次に
図6を参照すると、第1のレーザビームスポット154a及び第2のレーザビームスポット154bは、1個以上のレーザ光源150によって生成された1つ以上のレーザビーム152によって形成できる。いくつかの実施形態では、レーザ光源150はCO
2レーザ光源である。積層強化ガラス基板100及び/又は1個以上のレーザ光源150は、第1のレーザビームスポット154a及び第2のレーザビームスポット154bが積層強化ガラス基板100の表面105を横断するように並進移動させてよい。いくつかの実施形態では、ビームスプリッタを用いて単一レーザビーム152を分割して、第1のレーザビームスポット154a及び第2のレーザビームスポット154bを形成する。他の実施形態では、単一レーザビーム152は、第1の領域162a及び第2の領域162bにおいて連続的に走査される。レーザビーム152の操作パラメータとしては、限定されるものではないが、電力レベル、ビーム形状、波長、パルス周波数及び走査速度が挙げられる。レーザビーム152のパラメータは、所望の温度プロファイルを達成できるように設定してよい。
【0044】
いくつかの実施形態では、個別の第1のレーザビームスポット154a及び第2のレーザビームスポット154bは、積層強化ガラス基板100の表面105を横切って前進する。第1のレーザビームスポット154a及び第2のレーザビームスポット154bは、レーザビーム152を局所的に急速に走査して楕円状のビームスポットを形成することによって形成できる。他の実施形態では、第1のレーザビームスポット154a及び第2のレーザビームスポット154bの所望の形状及びサイズを形成するために、1つ以上の集束光学系(図示せず)を使用する。他の実施形態では、以下に説明しかつ
図8に示すように、第1のレーザビームスポット154a’及び第2のレーザビームスポット154b’は、積層強化ガラス基板100の全表面105を横断する伸長ビームスポットであってよい。
【0045】
いくつかの実施形態では、冷却ノズル140からの冷却噴流142を角欠け112に適用して、角欠け112におけるベント形成を促進してよい。冷却噴流142は液体又は気体であってよい。一実施形態では、冷却噴流142は脱イオン水である。冷却噴流142を第1の領域162a及び第2の領域162bの加熱中又は加熱直後に適用することにより、対応する第1の中央張力減少ゾーン172a及び第2の中央張力減少ゾーン172bを形成してよい。他の実施形態では、冷却噴流は利用されない。
【0046】
次に
図7を参照すると、2つのレーザビームスポット154a、154b(又は他の熱源)を用いて加熱された積層強化ガラス基板100の表面105は、対応する温度プロファイル160、中央張力プロファイル170及び圧縮応力プロファイル180を重ねた状態で示されている。温度プロファイル160、中央張力プロファイル170及び圧縮応力プロファイル180の配置は、表面105上のいずれの特定の位置に対応していないこと、並びにこれらは例示の目的のためにのみ提供されていることに留意されたい。温度プロファイル160、中央張力プロファイル170及び圧縮応力プロファイル180は、積層強化ガラス基板100の第1の縁部108から第2の縁部109へと広がる。
【0047】
破線は所望の分離線110を表している。第1のレーザビームスポット154a及び第2のレーザビームスポット154bは、矢印Aで示すように、表面105にわたって同時に又は連続的に前進し、所望の分離線の近傍で積層強化ガラス基板100の温度を上昇させる。加熱は所望の分離線110からある短いが有限の距離において目標を定めるため、温度は所望の分離線110からある短い距離において、両側で対称に最大に達する。こうして温度プロファイル160が得られる。対応するCTプロファイル170及びCSプロファイル180も得られる。積層強化ガラス基板100の中央張力は実際の切断線において極大(CT
2)を有し、温度が最高であるところで極小(CT
1)へと減少し、次に加熱ゾーンから離れて加熱前の元のレベル(CT
0)に増加する。
【0048】
内部弾性エネルギ及び応力拡大係数の両方はCTに比例するため、これらも同様に所望の分離線において極大を有する。上述のように、所望の分離線110は、第1の中央張力減少ゾーン172a及び第2の中央張力減少ゾーン172bによって境界を定められるため、亀裂伝播のための好ましい最小抵抗の経路となる。貫通ベント角欠け112は、一方の縁部108から他の縁部109へ亀裂伝播を開始するように設けてよい。いくつかの実施形態では、冷却噴流142を角欠け112に適用して、亀裂伝播を更に促進してよい。
図8は、1つ以上の走査レーザビームによって形成された、第1の伸長レーザビームスポット154a’及び第2の伸長ビームスポット154b’を示している。第1の伸長レーザビームスポット154a’及び第2の伸長ビームスポット154b’は、著しく楕円状のレーザビームによって、又は複数の走査の通過を数秒等の短い時間枠内で実行することによる高速走査速度を有する1つ以上のレーザビームによって形成してよい。第1の伸長レーザビームスポット154a’及び第2の伸長レーザビームスポット154b’は、積層強化ガラス基板100の表面105上で第1及び第2のレーザ線を画定できる。
【0049】
亀裂は角欠け112で開始し、その後、第1の中央張力減少ゾーン172aと第2の中央張力減少ゾーン172bとの間に伝播する。このように、第1の中央張力減少ゾーン172a及び第2の中央張力減少ゾーン172bは、亀裂が積層強化ガラス基板100内で伝播するように亀裂を誘導する。
【0050】
いくつかの実施形態では、シールド部材(図示せず)を所望の分離線110上に適用してよい。シールド部材は、レーザ放射(又は加熱源に応じて他のエネルギ)が所望の分離線110において積層強化ガラス基板100の表面105に入射することを防止できる。シールド部材は、加熱源によって供給されるエネルギから表面105を遮蔽する材料の薄片として構成してよい。
【0051】
本明細書に記載の切断方法を利用して、積層強化ガラス基板シートを、湾曲した縁部等の任意の縁部を有する物品を含む積層強化ガラス物品へと切断できる。
図9A及び9Bは積層強化ガラス基板シートから切断された積層強化ガラス物品の2つの非限定的な例の模式図である。積層強化ガラス物品は例えば、電子デバイスのカバーガラスとして提供できる。
【0052】
本明細書に記載の方法は、積層強化ガラス基板シートの切断に限定されない。
図9Cを参照すると、積層ガラス管194として構成された積層強化ガラス基板が示されている。積層ガラス管194は、ガラスコア層102’を取り囲む外側ガラスクラッド層104a’及び内側ガラスクラッド層104b’を備える。積層ガラス管194は、外側ガラスクラッド層104a’の表面周辺で所望の分離線110’に沿って切断してよい。上述の第1及び第2の中央張力減少ゾーンは、熱エネルギの印加によって所望の分離線110’に隣接して適用してよい。一例では、積層ガラス管194は、2つのレーザビームが外側ガラスクラッド層104a’に入射して所望の分離線110’からずれるように回転する。その後、亀裂は所望の分離線110’に沿って伝播し得る。
【0053】
本明細書に記載の切断方法を使用して、ガラス物品(例えば
図9A及び9Bに示すガラス物品190、192)を分離してサイズ調節できるだけでなく、該切断方法はまた、ドロー底部(BOD)でのガラス分離、延伸積層強化ガラス基板の縦ビード分離(VBS)等、上流での積層強化ガラス基板の製造に使用できる。
【0054】
コア−クラッド組成物の実施例
以下は、
図4Aに示すような温度プロファイル(並びに結果として生じる中央張力及び圧縮応力のプロファイル)を達成するために、局部温度がCT及びCSに与える影響を示す、コア−クラッドガラス組成物の3つのペアである。
【0055】
コア−クラッド組成物の実施例1
第1の非限定的な実施例では、ガラスコア層は10.4×10
6psi(約71700MPa)の弾性係数、0.22のポアソン比、98×10
−7/℃の平均CTE及びT
*=581℃を有するガラスCであった。ガラスクラッド層は10.3×10
6psi(約71000MPa)の弾性係数、0.23のポアソン比、36.1×10
−7/℃の平均CTE及びT
*=671℃を有するガラスDであった。ガラスコア層の厚さは0.526mmであり、ガラスクラッド層の厚さは0.0478mmであった。以下の表1は、この第1のコア−クラッドのペアに関して、CS及びCTに対する温度Tの変化の影響を示す。
【0057】
表1に示すように、実施例1のコア−クラッド組成物のペアにおいて、温度Tの上昇はCS及びCTを減少させる。
【0058】
コア−クラッド組成物の実施例2
第2の非限定的な実施例では、ガラスコア層は10.4×10
6psi(約71700MPa)の弾性係数、0.21のポアソン比、83.6×10
−7/℃の平均CTE及びT
*=564℃を有するガラスEであった。ガラスクラッド層は10.0×10
6psi(約69000MPa)の弾性係数、0.23のポアソン比、28.0×10
−7/℃の平均CTE及びT
*=463℃を有するガラスFであった。ガラスコア層の厚さは0.38mmであり、ガラスクラッド層の厚さは0.076mmであった。以下の表2は、このコア−クラッドのペアの第2の例に関して、CS及びCTに対する温度Tの変化の影響を示す。
【0060】
表2に示すように、実施例2のコア−クラッド組成物のペアにおいて、温度Tの上昇はCS及びCTを減少させる。
【0061】
コア−クラッド組成物の実施例3
第3の非限定的な実施例では、ガラスコア層は10.4×10
6psi(約71700MPa)の弾性係数、0.21のポアソン比、81.4×10
−7/℃の平均CTE及びT
*=604℃を有するガラスGであった。ガラスクラッド層は10.9×10
6psi(約75200MPa)の弾性係数、0.23のポアソン比、43.5×10
−7/℃の平均CTE及びT
*=635℃を有するガラスHであった。ガラスコア層の厚さは0.38mmであり、ガラスクラッド層の厚さは0.076mmであった。以下の表3は、このコア−クラッドのペアの第3の例に関して、CS及びCTに対する温度Tの変化の影響を示す。
【0063】
表3に示すように、実施例3のコア−クラッド組成物のペアにおいて、温度Tの上昇はCS及びCTを減少させる。
【0064】
積層強化ガラス基板の切断例
本明細書に記載の実施形態による積層強化ガラス基板の切断の2つの非限定的な例を以下に提供する。
【0065】
切断例1
第1の非限定的な切断例では、積層強化ガラス基板シートは、リドロー法によって形成されたガラスAのガラスコア層及びガラスEの2層のガラスクラッド層を有していた。ガラスAは10.6×10
6psi(約73100MPa)の弾性係数、0.21のポアソン比、91.1×10
−7/℃の平均CTE及びT
*=556℃を有していた。ガラスEは10.4×10
6psi(約71700MPa)の弾性係数、0.206のポアソン比、80.9×10
−7/℃の平均CTE及びT
*=565℃を有していた。ガラスコア層の厚さは0.38mmであり、ガラスクラッド層の厚さは0.076mmであった。以下の表4は、この実施例に関して、CS及びCTに対する温度Tの変化の影響を示す。
【0067】
CO
2レーザビームを約1.5mmの直径に集束させた。第1及び第2のレーザビームスポットを形成する2本の平行線上でレーザビームを連続的に走査した。2つのレーザビームスポットは、長さが約230mmである約1.5mmのオフセットR
1によって隔てられていた。CO
2レーザは40kHzの周波数及び230Wの電力で作動させた。レーザビームはガルボスキャナを用いて30m/秒の速度で積層強化ガラス基板の表面上を走査した。
【0068】
ダイヤモンドスクライブを用いて、積層強化ガラス基板シートの縁部に、切断経路に沿って角欠けを作製した。積層強化ガラス基板シートを切断テーブル上に置き、急速に走査するレーザビームによって形成された2つの平行なレーザビームスポット間に角欠けを配置した。レーザを表面に約1秒間入射させた後、これを止めた。レーザを止めた直後、角欠けにおいて約0.5秒未満の間水の冷却噴射のスイッチを入れて作動させた。全体の亀裂が角欠けの部分で生成され、所望の分離線に沿って制御された様式で伝播した。
【0069】
切断例2
第2の非限定的な切断例では、積層強化ガラス基材シートは、ガラスIのガラスコア層及びガラスJの2層のガラスクラッド層を有していた。ガラスIは10.9×10
6psi(約75200MPa)の弾性係数、0.24のポアソン比、42.0×10
−7/℃の平均CTE及びT
*=632℃を有していた。ガラスJは10.0×10
6psi(約68900MPa)の弾性係数、0.206のポアソン比、35.0×10
−7/℃の平均CTE及びT
*=629℃を有していた。ガラスコア層の厚さは0.375mmであり、ガラスクラッド層の厚さは0.275mmであった。以下の表5は、この実施例に関して、CS及びCTに対する温度Tの変化の影響を示す。
【0071】
CO
2レーザビームを約1.5mmの直径に集束させた。第1及び第2のレーザビームスポットを形成する2本の平行線上でレーザビームを連続的に走査した。2つのレーザビームスポットは、長さが約230mmである約1.0mmのオフセットR
1によって隔てられていた。CO
2レーザは40kHzの周波数並びに約230W及び約260Wの電力で作動させた。レーザビームはガルボスキャナを用いて30m/秒の速度で積層強化ガラス基板の表面上を走査した。
【0072】
ダイヤモンドスクライブを用いて、積層強化ガラス基板シートの縁部に、切断経路に沿って角欠けを作製した。積層強化ガラス基板シートを切断テーブル上に置き、急速に走査するレーザビームによって形成された2つの平行なレーザビームスポット間に角欠けを配置した。レーザを表面に約1.5秒間入射させた後、これを止めた。レーザを止めた直後、角欠けにおいて約0.2秒未満の間水の冷却噴射のスイッチを入れて作動させた。全体の亀裂が角欠けの部分で生成され、所望の分離線に沿って制御された様式で伝播した。
【0073】
ここで、本明細書に記載の方法を使用して、ガラスクラッド層の表面に温度プロファイルを適用して所望の分離線に隣接する第1及び第2の中央張力減少ゾーンを形成することにより、積層強化ガラス基板を切断できることを理解されたい。第1及び第2の中央張力減少ゾーンは最小抵抗の経路を提供することにより、積層強化ガラス基板の縁部で開始する伝播亀裂を誘導する。本明細書に記載の切断方法は、成形されたガラス物品を積層強化ガラス基板シートから制御された様式で切断するために、並びに例えばドロー底部での分離及び縦ビード分離等、製造中に積層強化ガラス基板を切断するために利用できる。従って、積層強化ガラス基板を切断するための本明細書に開示の方法及び装置は、既知の方法及び装置の代替として使用可能である。
【0074】
特許請求される主題の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の実施形態に対して様々な修正及び変更を施すことができることは、当業者に明らかであろう。従って、本明細書に記載の様々な実施形態の修正及び変更が添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内にある場合、本明細書はそのような修正及び変更を包含することが意図される。