特許第6591907号(P6591907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591907
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】内燃機関用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 163/00 20060101AFI20191007BHJP
   C10M 159/22 20060101ALN20191007BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20191007BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20191007BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20191007BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20191007BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20191007BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20191007BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20191007BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20191007BHJP
【FI】
   C10M163/00
   !C10M159/22
   !C10M139/00 Z
   C10N10:02
   C10N10:04
   C10N10:12
   C10N20:00 Z
   C10N30:00 Z
   C10N30:12
   C10N40:25
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-28257(P2016-28257)
(22)【出願日】2016年2月17日
(65)【公開番号】特開2017-145322(P2017-145322A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悟
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−106199(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/021350(WO,A1)
【文献】 特表2009−516061(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/136973(WO,A1)
【文献】 特開2015−160951(JP,A)
【文献】 特開2010−100707(JP,A)
【文献】 特開2004−143273(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/126651(WO,A1)
【文献】 特開2004−155891(JP,A)
【文献】 特開2005−060416(JP,A)
【文献】 特開2005−068171(JP,A)
【文献】 特開2003−238982(JP,A)
【文献】 特開2005−162968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油と、
潤滑油組成物全量を基準として、
(A)成分として、モリブデン元素換算で0.03質量%以上の有機モリブデン系摩擦調整剤と、
(B)成分として、金属元素換算で0.05質量%以上0.1質量%以下の、アルカリ金属フェネート及びアルカリ土類金属フェネートからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属系清浄剤と、
B)成分以外の成分として、アルカリ金属サリシレート及びアルカリ土類金属サリシレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属系清浄剤と、を含有
潤滑油組成物におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属元素の合計含有量が、潤滑油組成物全量を基準として、1500質量ppm以上2600質量ppm以下である、
内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記金属系清浄剤の塩基価が200mgKOH/g以上である、請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
ディーゼルエンジン油として用いられる、請求項1又は2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のエンジン等の内燃機関に用いられる潤滑油(エンジン油)には、自動車からのCO排出低減のため、省燃費性を向上させることが求められている。エンジン油の省燃費性を向上させる方法として、油の低粘度化が挙げられるが、過度に低粘度化させるとエンジンを摩耗させてしまう可能性がある。そのため、摩擦調整剤を添加することによって省燃費性を向上させる方法が代わりに検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、摩擦低減による燃費向上等を目的として、所定の鉱油系基油と、モリブデンジチオカーバメイト系摩擦調整剤等の各種添加剤とを含有するディーゼルエンジン油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−220597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、省燃費性及び銅に対する腐食防止性に優れる内燃機関用潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、潤滑油基油と、潤滑油組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で0.03質量%以上の有機モリブデン系摩擦調整剤と、金属元素換算で0.03質量%以上の、アルカリ金属フェネート及びアルカリ土類金属フェネートからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属系清浄剤と、を含有する、内燃機関用潤滑油組成物を提供する。
【0007】
金属系清浄剤の塩基価は、好ましくは200mgKOH/g以上である。この場合、潤滑油組成物は、鉛に対する腐食防止性の点でも優れる。
【0008】
潤滑油組成物は、ディーゼルエンジン油として好適に用いられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、省燃費性及び銅に対する腐食防止性に優れる内燃機関用潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、潤滑油基油と、有機モリブデン系摩擦調整剤(以下「(A)成分」ともいう)と、アルカリ金属フェネート及びアルカリ土類金属フェネートからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属系清浄剤(以下「(B)成分」ともいう)と、を含有する。本実施形態に係る潤滑油組成物は、内燃機関用潤滑油組成物として好適である。
【0011】
潤滑油基油は、特に制限されず、通常の潤滑油に使用される基油であってよい。具体的には、潤滑油基油としては、鉱油系基油、合成系基油、又は両者の混合物が挙げられる。
【0012】
鉱油系基油としては、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を単独又は2つ以上適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の鉱油系基油、ノルマルパラフィン、イソパラフィン等が挙げられる。これらの鉱油系基油は、1種単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0013】
好ましい鉱油系基油としては、以下の基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留による留出油
(2)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留出油(WVGO)
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス及び/又はGTLプロセス等により製造されるフィッシャートロプシュワックス
(4)上記(1)〜(3)の中から選ばれる1種又は2種以上の混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(5)上記(1)〜(4)の中から選ばれる2種以上の油の混合油
(6)上記(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)の脱れき油(DAO)
(7)上記(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(8)上記(1)〜(7)の中から選ばれる2種以上の油の混合油等を原料油とし、この原料油及び/又はこの原料油から回収された潤滑油留分を、通常の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる潤滑油
【0014】
ここで、通常の精製方法としては、特に制限されるものではなく、基油製造の際に用いられる精製方法を任意に採用することができる。通常の精製方法としては、例えば、以下の精製方法が挙げられる。
(a)水素化分解、水素化仕上げ等の水素化精製
(b)フルフラール溶剤抽出等の溶剤精製
(c)溶剤脱ろう、接触脱ろう等の脱ろう
(d)酸性白土、活性白土等による白土精製
(e)硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄等の薬品(酸又はアルカリ)精製
これらの精製方法は、1種単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び任意の順序で採用することができる。
【0015】
合成系基油としては、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、例えば、炭素数2以上32以下、好ましくは6以上16以下のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。これらの合成系基油は、1種単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0016】
潤滑油基油の40℃における動粘度は、油膜形成が充分となり、潤滑性により優れ、高温条件下での蒸発損失がより小さくなる観点から、好ましくは6.0mm/s以上、より好ましくは12.0mm/s以上、更に好ましくは15.0mm/s以上である。潤滑油基油の100℃における動粘度は、低温粘度特性を向上させ、省燃費性に更に優れる観点から、好ましくは60.0mm/s以下、より好ましくは50.0mm/s以下、更に好ましくは40.0mm/s以下である。
【0017】
潤滑油基油の100℃における動粘度は、油膜形成が充分となり、潤滑性により優れ、高温条件下での蒸発損失がより小さくなる観点から、好ましくは2.0mm/s以上、より好ましくは3.0mm/s以上、更に好ましくは3.5mm/s以上である。潤滑油基油の100℃における動粘度は、低温粘度特性を向上させ、省燃費性に更に優れる観点から、好ましくは8.0mm/s以下、より好ましくは7.0mm/s以下、更に好ましくは6.0mm/s以下である。
【0018】
潤滑油基油の粘度指数は、粘度−温度特性、熱・酸化安定性、及び揮発防止性が良好となり、摩擦係数を更に低減させられる観点から、好ましくは100以上、より好ましくは110以上、更に好ましくは120以上である。潤滑油基油の粘度指数は、低温粘度特性に優れる観点から、好ましくは180以下、より好ましくは170以下、更に好ましくは160以下である。
【0019】
本発明における動粘度及び粘度指数は、それぞれJIS K2283:2000に準拠して測定された動粘度及び粘度指数を意味する。
【0020】
潤滑油基油の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、例えば50質量%以上、70質量%以上、又は90質量%以上であってよい。
【0021】
(A)有機モリブデン系摩擦調整剤としては、モリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)、モリブデン−アミン錯体などが挙げられる。これらの中では、モリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)が好ましい。
【0022】
モリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)としては、例えば下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0023】
【化1】
【0024】
式(1)中、R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれ炭素数4〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基、又は直鎖若しくは分岐のアルケニル基を表し、X〜Xは、それぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表す。ただし、X〜Xにおける酸素原子と硫黄原子との比は1/3〜3/1である(すなわち、X〜Xの少なくとも1つは酸素原子であり、かつX〜Xの少なくとも1つは硫黄原子である)。
【0025】
〜Rは、好ましくは炭素数4〜18の直鎖又は分岐のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数8〜14の分岐のアルキル基である。このような基としては、具体的には、ブチル基、2−エチルヘキシル基、イソトリデシル基、ステアリル基等が挙げられる。
【0026】
(A)成分は、上記の有機モリブデン系摩擦調整剤の1種であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0027】
(A)成分の含有量は、省燃費性に更に優れる観点から、潤滑油組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.035質量%以上、更に好ましくは0.04質量%以上である。(A)成分の含有量は、銅に対する腐食防止性及び長期保存安定性に更に優れる観点から、潤滑油組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.08質量%以下、より好ましくは0.06質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下、特に好ましくは0.045質量%以下である。(A)成分の含有量は、省燃費性、銅に対する腐食防止性、及び長期保存安定性のすべてに優れる観点から、好ましくは、潤滑油組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、0.03〜0.08質量%、0.03〜0.06質量%、0.03〜0.05質量%、0.03〜0.045質量%、0.035〜0.08質量%、0.035〜0.06質量%、0.035〜0.05質量%、0.035〜0.045質量%、0.04〜0.08質量%、0.04〜0.06質量%、0.04〜0.05質量%、又は0.04〜0.045質量%である。(A)成分の含有量(モリブデン元素換算値)は、ICP元素分析法によって測定することができる。
【0028】
(B)アルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネートとしては、炭素数4〜30の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノール、このアルキルフェノールに硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイド、又はこのアルキルフェノールにホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を挙げることができる。上記直鎖状又は分岐状のアルキル基の炭素数は、好ましくは6〜18である。アルカリ金属は、ナトリウム、カリウム等であってよい。アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、バリウム等であってよく、好ましくはマグネシウム又はカルシウムであり、より好ましくはカルシウムである。(B)成分は、これらのアルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネートの1種であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0029】
(B)成分の含有量は、銅に対する腐食防止性に更に優れる観点から、潤滑油組成物全量を基準として、金属元素換算で、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.04質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上である。(B)成分の含有量は、省燃費性に更に優れる観点から、潤滑油組成物全量を基準として、金属元素換算で、好ましくは0.25質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.15質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下である。(B)成分の含有量は、銅に対する腐食防止性と省燃費性とを更に高水準で両立させる観点から、潤滑油組成物全量を基準として、金属元素換算で、好ましくは、0.03〜0.25質量%、0.03〜0.2質量%、0.03〜0.15質量%、0.03〜0.1質量%、0.04〜0.25質量%、0.04〜0.2質量%、0.04〜0.15質量%、0.04〜0.1質量%、0.05〜0.25質量%、0.05〜0.2質量%、0.05〜0.15質量%、又は0.05〜0.1質量%である。(B)成分の含有量(金属元素換算値)は、ICP元素分析法によって測定することができる。
【0030】
(B)成分の塩基価は、鉛に対する腐食防止性に優れる観点から、好ましくは50mgKOH/g以上、より好ましくは100mgKOH/g以上、更に好ましくは150mgKOH/g以上、特に好ましくは200mgKOH/g以上である。(B)成分の塩基価は、有機モリブデン系摩擦調整剤による摩擦低減効果がより好適に発揮される観点から、好ましくは500mgKOH/g以下、より好ましくは400mgKOH/g以下、更に好ましくは300mgKOH/g以下である。本発明における塩基価は、JIS K2501:2003の9.の過塩素酸法により測定された塩基価を意味する。
【0031】
潤滑油組成物は、その他の添加剤を更に含有していてもよい。その他の添加剤としては、(B)成分以外の金属系清浄剤、無灰分散剤、粘度指数向上剤、摩耗防止剤、酸化防止剤、消泡剤、流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤等が挙げられる。
【0032】
(B)成分以外の金属系清浄剤としては、アルカリ金属サリシレート、アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ金属スルホネート及びアルカリ土類金属スルホネートを挙げることができる。アルカリ金属は、ナトリウム、カリウム等であってよい。アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、バリウム等であってよく、好ましくはマグネシウム又はカルシウムであり、より好ましくはカルシウムである。潤滑油組成物は、これらの金属系清浄剤を、1種単独で又は2種以上の任意に組合せで含有していてよい。
【0033】
無灰分散剤としては、炭素数40〜400の直鎖若しくは分岐状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体を挙げることができる。無灰分散剤が有するアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは40〜400、より好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40以上であると、無灰分散剤の潤滑油基油に対する溶解性が向上する傾向にあり、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400以下であると、潤滑油組成物の低温流動性が向上する傾向にある。好ましいアルキル基又はアルケニル基としては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマー、又はエチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分岐状アルキル基や分岐状アルケニル基等が挙げられる。
【0034】
無灰分散剤としては、具体的には、コハク酸イミド、アルケニルコハク酸イミド、ベンジルアミン及びポリアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の含窒素化合物あるいはこの含窒素化合物をカルボン酸、リン酸、ホウ素化合物等で変性した変性品が挙げられる。
【0035】
コハク酸イミドとしては、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した、いわゆるモノタイプのコハク酸イミド、又はポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドを例示できる。
【0036】
ベンジルアミンとしては、具体的には、下記式(2)で表される化合物等を例示できる。
−Ph−CHNH−(CHCHNH)−H (2)
式(2)中、Rは、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を表し、好ましくは炭素数60〜350のアルキル基又はアルケニル基を表す。Phはフェニレン基を表し、pは1〜5の整数を表し、好ましくは2〜4の整数を表す。
【0037】
ポリアミンとしては、具体的には、下記式(3)で表される化合物等を例示できる。
‐NH−(CHCHNH)−H (3)
式(3)中、Rは、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を表し、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を表す。qは1〜5の整数を表し、好ましくは2〜4の整数を表す。
【0038】
上記変性品としては、上記含窒素化合物に炭素数1〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸又は若しくはヒドロキシ(ポリ)アルキレンカーボネート等の含酸素化合物を作用させて、残存するアミノ基及びイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した変性化合物、上記含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物、又は上記含窒素化合物をホウ素化合物で変性したホウ酸変性化合物が挙げられる。
【0039】
例えば、上記ホウ酸変性化合物の1種であるホウ素化コハク酸イミドの製造方法としては、特開昭42−8013号公報、特開昭42-8014号公報、特開昭51-52381号公報、特開昭51-130408号公報等に開示されている公知の方法等が挙げられる。ホウ素化コハク酸イミドは、具体的には、アルコール類、ヘキサン及びキシレン等の有機溶媒と、軽質潤滑油基油と、ポリアミンと、ポリアルケニルコハク酸(無水物)と、ホウ酸、ホウ酸エステル又はホウ酸塩等のホウ素化合物とを混合し、適当な条件で加熱処理することにより得ることができる。なお、このようにして得られるホウ素化コハク酸イミド中のホウ素含有量は、0.1〜4.0質量%であってよい。
【0040】
無灰分散剤は、上記の化合物の1種であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0041】
潤滑油組成物が無灰分散剤を含有する場合、無灰分散剤の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは2.5質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上である。無灰分散剤の含有量が0.1質量%以上であると、摩擦低減性が向上する傾向にある。無灰分散剤の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。無灰分散剤の含有量が20質量%以下であると、潤滑油組成物の低温流動性が十分となる傾向にある。無灰分散剤の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、好ましくは0.1〜20質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
【0042】
上記ホウ素化コハク酸イミド等のホウ素化無灰分散剤を用いる場合、潤滑油組成物におけるホウ素化無灰分散剤の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、ホウ素元素換算で、0.01質量%以上であってよく、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上である。潤滑油組成物におけるホウ素化無灰分散剤の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、ホウ素元素換算で、0.15質量%以下であってよく、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。ホウ素化無灰分散剤の含有量(ホウ素元素換算値)は、ICP元素分析法によって測定することができる。
【0043】
潤滑油組成物においては、無灰分散剤としてホウ素化コハク酸イミド及び非ホウ素化コハク酸イミドを併用することが好ましい。非ホウ素化コハク酸イミドの含有量に対するホウ素化コハク酸イミドの含有量の比は、ホウ素化コハク酸イミドによる耐熱性及び耐摩耗性の効果が十分となる観点から、好ましくは0.1、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上である。非ホウ素化コハク酸イミドの含有量に対するホウ素化コハク酸イミドの含有量の比は、清浄性に優れる観点から、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.4以下である。
【0044】
粘度指数向上剤としては、ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤、オレフィンコポリマー系粘度指数向上剤、スチレン−ジエン共重合体系粘度指数向上剤等が挙げられる。これらの粘度指数向上剤は、非分散型及び分散型のいずれであってもよく、好ましくは非分散型である。粘度指数向上剤は、粘度指数向上効果が高く、粘度−温度特性及び低温粘度特性に優れる観点から、好ましくはポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤であり、より好ましくは非分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤である。
【0045】
流動点降下剤は、例えばポリ(メタ)アクリレートであってよく、好ましくは重量平均分子量が1万〜30万、より好ましくは重量平均分子量が5万〜20万のポリ(メタ)アクリレートである。
【0046】
摩耗防止剤としては、亜リン酸エステル(ホスファイト)、リン酸エステル、並びに、これらのアミン塩、金属塩、及び誘導体等のリン系摩耗防止剤、ジサルファイド、ポリサルファイド、硫化オレフィン、硫化油脂等の硫黄系摩耗防止剤が挙げられる。
【0047】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)等が挙げられ、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、ジフェニルアミン等が挙げられる。
【0048】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000mm/s以上100000mm/s以下のシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸とのエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコールとのエステル等が挙げられる。
【0049】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0050】
防錆剤としては、例えば、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート等が挙げられる。
【0051】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0052】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、ベンゾトリアゾール又はその誘導体等が挙げられる。
【0053】
その他の添加剤の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として0.01〜20質量%であってよい。
【0054】
潤滑油基油の40℃における動粘度は、油膜形成が充分となり、潤滑性により優れ、高温条件下での蒸発損失がより小さくなる観点から、好ましくは6.0mm/s以上、より好ましくは12.0mm/s以上、更に好ましくは15.0mm/s以上である。潤滑油基油の100℃における動粘度は、低温粘度特性を向上させ、省燃費性に更に優れる観点から、好ましくは60.0mm/s以下、より好ましくは50.0mm/s以下、更に好ましくは40.0mm/s以下である。
【0055】
潤滑油組成物の100℃における動粘度は、潤滑性に優れる観点から、好ましくは5.0mm/s以上、より好ましくは7.0mm/s以上、更に好ましくは8.0mm/s以上である。潤滑油組成物の100℃における動粘度は、必要な低温粘度を確保し、省燃費性を更に向上させる観点から、好ましくは14.0mm/s以下、より好ましくは13.0mm/s以下、更に好ましくは12.0mm/s以下である。
【0056】
潤滑油組成物の粘度指数は、粘度−温度特性、熱・酸化安定性、及び揮発防止性が良好となり、摩擦係数を更に低減させられる観点から、好ましくは120以上、より好ましくは140以上、更に好ましくは150以上である。潤滑油基油の粘度指数は、低温粘度特性に優れる観点から、好ましくは270以下、より好ましくは260以下、更に好ましくは250以下である。
【0057】
潤滑油組成物におけるモリブデン元素含有量は、省燃費性に更に優れる観点から、潤滑油組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.04質量%以上である。潤滑油組成物におけるモリブデン元素含有量は、銅に対する腐食防止性及び長期保存安定性に優れる観点から、潤滑油組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で好ましくは0.08質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、更に好ましくは0.045質量%以下である。
【0058】
潤滑油組成物におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属元素の合計含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、好ましくは500質量ppm以上、より好ましくは1000質量ppm以上、更に好ましくは1500質量ppm以上である。潤滑油組成物におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属元素の合計含有量は、好ましくは3500質量ppm以下、より好ましくは3000質量ppm以下、更に好ましくは2600質量ppm以下である。潤滑油組成物におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属元素の合計含有量が500質量ppm以上であると、塩基価維持性、高温清浄性などのロングドレイン性能が向上する傾向にある。一方、潤滑油組成物におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属元素の合計含有量が3500質量ppm以下であると、生成する硫酸灰分量が減少し、排気ガス浄化触媒のフィルター詰まりが起こりにくく、排気ガス後処理装置の浄化性能を維持できる傾向にある。アルカリ金属及びアルカリ土類金属元素含有量は、ICP元素分析法によって測定することができる。
【0059】
潤滑油組成物における硫酸灰分量は、排気ガス後処理装置の浄化性能を維持する観点から、潤滑油組成物全量を基準として、好ましくは1.6質量%以下、より好ましくは1.3質量%、更に好ましくは1.1質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以下である。潤滑油組成物における硫酸灰分量が1.6質量%以下であると、排気ガス浄化触媒のフィルター詰まりが起こりにくい傾向にある。本発明における硫酸灰分は、JIS K2272:1998の「5.硫酸灰分試験方法」により測定された硫酸灰分量を意味する。
【0060】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、内燃機関用潤滑油組成物として好適に用いられる。内燃機関としては、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、含酸素化合物含有燃料対応エンジン、ガスエンジン等が挙げられる。本実施形態に係る潤滑油組成物は、ディーゼルエンジン油として特に好適に用いられる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0062】
以下に示す基油及び添加剤を用いて、表1,2に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。
(基油)
水素化精製鉱油(100℃における動粘度:4.2mm/s、粘度指数:124)
(添加剤)
A−1:モリブデンジチオカーバメイト(モリブデン元素含有量:10質量%)
B−1:カルシウムフェネート(塩基価:286mgKOH/g、カルシウム元素含有量:10.2質量%)
B−2:カルシウムフェネート(塩基価:255mgKOH/g、カルシウム元素含有量:9.25質量%)
B−3:カルシウムフェネート(塩基価:147mgKOH/g、カルシウム元素含有量:5.3質量%)
b−1:カルシウムサリシレート(塩基価:173mgKOH/g、カルシウム元素含有量:6.2質量%)
b−2:カルシウムスルフォネート(塩基価:425mgKOH/g、カルシウム元素含有量:16.1質量%)
C−1:窒素含有基を有する(分散型)ポリメタクリレート(重量平均分子量:260000、SSI:50)
C−2:スチレンジエンコポリマー(重量平均分子量:430000、SSI:25)
D−1:無灰分散剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛等を含有する添加剤パッケージ(リン元素含有量:0.9質量%)
【0063】
(省燃費性)
実施例、参考例及び比較例の各潤滑油組成物について、SRV試験による摩擦係数により省燃費性を評価した。ディスク温度100℃、荷重200N、振幅1.5mm、周波数50Hzの条件でのSRV試験の摩擦係数が0.10以下の場合を「A」、摩擦係数が0.10を超え0.150以下の場合を「B」、摩擦係数が0.150を超える場合を「C」として評価した。結果を表1,2に示す。摩擦係数の評価がAであれば、省燃費性に優れているといえる。
【0064】
(銅に対する腐食防止性)
実施例、参考例及び比較例の各潤滑油組成物について、腐食酸化安定度試験(JIS K2503:2010)に準拠して銅に対する腐食防止性を評価した。ただし、サンプル量100ml、試験温度135℃、試験時間168時間、空気流量5L/hとし、触媒は銅、鉛、スズとした。結果を表1,2に示す。銅の溶出量が少ないほど(例えば50質量ppm以下)、銅に対する腐食防止性に優れているといえる。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
(鉛に対する腐食防止性)
実施例及び参考例の各潤滑油組成物について、腐食酸化安定度試験(JIS K2503:2010)に準拠して鉛に対する腐食防止性を評価した。ただし、サンプル量100ml、試験温度135℃、試験時間168時間、空気流量5L/hとし、触媒は銅、鉛、スズとした。結果を表3に示す。鉛の溶出量が少ないほど、鉛に対する腐食防止性に優れているといえる。
【0068】
【表3】