(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリエステル系ブロック共重合体A1であるブロック共重合体Aと、該ブロック共重合体A 100質量部に対して1〜100質量部のコルクである木質フィラーBを含有し、A硬度が20〜95であり、前記ポリエステル系ブロック共重合体A1が、芳香族ポリエステルブロックと脂肪族ポリエーテルブロックとを有するポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体である、熱可塑性エラストマー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ポリエステル系ブロック共重合体A1及びウレタン系ブロック共重合体A2の少なくともいずれかを含むブロック共重合体Aと木質フィラーBを含有するものであり、柔軟性と防滑性と耐油性に優れ、極性樹脂との融着性にも優れるという効果を奏するものであるが、さらに、表面に油分が付着しても良好な防滑性を維持することができるという画期的な効果を奏するものである。
【0012】
接触する2つの物体の間に油分が挟まると2物体間の摩擦力が著しく減少することは潤滑油の原理であり、技術常識でもある。従って、皮脂や油が付着した物体でも摩擦力を保つためには接触界面の一部だけでも油分を排除する必要がある。比較的極性が高いエラストマーは、油分とはなじみにくいため、部分的に強い力で押しつけることにより、その部分の油が排除されて摩擦力が回復する可能性がある。本発明においては、柔らかいエラストマーの中に芯となる適度な硬さを有する木質フィラーを分散させることにより、表面付近に微小な高弾性の部分ができ、部分的に強い荷重がかかって油分が排除されるために高い摩擦力が発生し、表面に油分が付着しても防滑性の低下が抑制されるのではないかと考えられる。
【0013】
ポリエステル系ブロック共重合体A1は、柔軟性と成形性の観点から、硬い部分(ハードセグメント)と柔らかい部分(ソフトセグメント)とから構成されていることが好ましく、ハードセグメントとして芳香族ポリエステルブロックと、ソフトセグメントとして脂肪族ポリエーテルブロックとを有するポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体であることがより好ましい。
【0014】
ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体のハードセグメントである芳香族ポリエステルブロックは、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-又は2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルの1種又は2種以上と、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4,4’-ジヒドロキシジビフェニル、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシジフェニル)プロパン等のジオールの1種又は2種以上との重縮合体であることが好ましい。市販品としては、例えば、「Keyflex」(LGケミカル社製、商品名)、「ペルプレン」(東洋紡績株式会社製、商品名)、「ハイトレル」(東レ・デュポン株式会社製、商品名)、「フレクマー」(日本合成化学工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0015】
ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体のソフトセグメントである脂肪族ポリエーテルブロックは主としてポリアルキレンエーテルグリコールからなることが好ましい。
【0016】
ウレタン系ブロック共重合体A2としては、各種基材樹脂との接着性、成形加工性、及びゴム的感触を良好に確保する観点から、式(I):
【0018】
(式中、Aはジイソシアネート化合物とグリコールとからなるハードセグメントを表し、Bはジイソシアネート化合物と長鎖グリコールからなるソフトセグメントを表し、Yはウレタン結合のジイソシアネート化合物の残基を表す)
で表される、ジイソシアネート化合物と分子量約50〜500のグリコールとからなるハードセグメントと、ジイソシアネート化合物と長鎖グリコールからなるソフトセグメントとを有するブロック共重合体が好ましい。該長鎖グリコールとしては、分子量約500〜10,000のポリアルキレングリコール等のポリエーテル系のもの、ポリアルキレンアジペート、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート等のポリエステル系のもの等が挙げられる。また、ジイソシアネート化合物としては、フェニレンジイソシアネート、トリゲンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の公知慣用のものが好ましく使用される。なお、これらのジイソシアネート化合物は、ソフトセグメントとハードセグメントとのそれぞれにおいて、同一のものであっても、異なるものであってもよい。
【0019】
ウレタン系ブロック共重合体A2の市販品としては、「エラストラン(登録商標)」(BASF社製)、「パンデックス(登録商標)」(DICバイエル社製)、「レザミン(登録商標)」(大日精化工業社製)等が挙げられる。
【0020】
ポリエステル系ブロック共重合体A1及びウレタン系ブロック共重合体A2は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
ブロック共重合体AのA硬度は、好ましくは50〜98、より好ましくは60〜95、さらに好ましくは70〜90である。なお、本発明において、A硬度はデュロメータタイプA硬度である。
【0022】
熱可塑性エラストマー組成物中のブロック共重合体Aの含有量は、好ましくは40〜85質量%、より好ましくは50〜75質量%である。
【0023】
木質フィラーBは、草木類等の植物由来の粉粒体を意味し、例えばコルク、木材、竹、籾殻、ケナフ等の粉粒体が挙げられる。適度な硬さを有するフィラーを含有させると、熱可塑性エラストマー組成物の摩擦係数が大きくなる。前記木質フィラーBのなかでは、適度な硬さと柔軟性を併せ持ち、組成物を溶融混合しても細胞壁構造の中空性が保たれるコルクが好ましい。
【0024】
木質フィラーBの粒径は、成形体表面の平滑性を保つ観点からは小さい方が好ましく、また、木質フィラー独特の風合いが感じられる観点からは、ある程度の大きさのある方が好ましい。これらの観点から、木質フィラーBの平均粒径は、好ましくは0.01〜5mm、より好ましくは0.5〜1mmである。なお、木質フィラーBの粒径は、コールターカウンターやレーザー回折式粒度分布計、顕微鏡による画像からの測長解析等の粒度測定方法により測定することができるが、本発明では、粗大粒子や不定形粒子も含めて精確な測長が可能である顕微鏡画像解析法により測定した体積基準のメジアン径を木質フィラーBの平均粒径とする。
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に好適な粒径の木質フィラーを得る方法としては、木材チップクラッシャーやハンマークラッシャー等の公知の粉砕方法で粉砕した木質材料を、振動篩や、気流分級機等の分級方法によって分級する方法を挙げることができる。粉砕方法の排出口にスクリーンメッシュを設置して粗大粒子を除く方法も分級方法の一種として機能するが、さらに好ましいのは、2種類の篩を用いて、上限の目開きを有する篩を通過したもので、下限の目開きを有する篩は通過せず篩上に残ったものを用いる分級方法であり、粗大粒子が除かれると共に、小さすぎて組成物の溶融粘度を上昇させる微粒子をカットできる点が好ましい。
【0025】
木質フィラーBの含有量は、ブロック共重合体A 100質量部に対して、摩擦係数の観点から、1質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、溶融流動性を高める観点から、100質量部以下、好ましくは70質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。
【0026】
また、木質フィラーBの含有量は、熱可塑性エラストマー組成物中、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは3〜30質量%、さらに好ましくは5〜20質量%である。
【0027】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性及び成形性の観点から、さらに、スチレン系ブロック共重合体Cを含むことが好ましく、より柔軟性を向上させる観点から、スチレン系ブロック共重合体Cとともに軟化剤Dを含むことがより好ましい。
【0028】
親油性の傾向があるスチレン系ブロック共重合体C、又はスチレン系ブロック共重合体C及び軟化剤Dを配合すると、本来は成形品の耐油防滑性を損ねる可能性があるが、実際にはある程度含有しても熱可塑性エラストマー組成物全体の耐油防滑性には悪影響がなく、柔軟性や成形性は向上する。この理由は、スチレン系ブロック共重合体C、又はスチレン系ブロック共重合体C及び軟化剤Dと、ブロック共重合体Aとが、極性の違いから相分離するため、ブロック共重合体Aが海相となる海島構造をとる限りは熱可塑性エラストマー組成物からなる成形品の表面は非親油性を保ち、一方で、スチレン系ブロック共重合体C及び軟化剤Dが、島相として熱可塑性エラストマー組成物中に存在するため、組成物全体の柔軟性や成形性が良好になる効果が現れるものと考えられる。
【0029】
本発明におけるスチレン系ブロック共重合体Cは、柔軟性と成形性の観点から、硬い部分(ハードセグメント)と柔らかい部分(ソフトセグメント)とから構成されていることが好ましく、ハードセグメントとしてスチレン系単量体からなる重合体のブロック単位(s1)と、ソフトセグメントとして共役ジエン化合物からなる重合体のブロック単位(b1)とを有するブロック共重合体(Z1)であることがより好ましい。
【0030】
ブロック単位(s1)を構成するスチレン系単量体としては、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。
【0031】
ブロック共重合体(Z1)におけるスチレン系単量体単位の含有量は、極性樹脂への融着性の観点から、好ましくは10〜70質量%、より好ましくは50〜70質量%である。
【0032】
ブロック単位(b1)を構成する共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。
【0033】
ブロック共重合体(Z1)は、水素添加することにより不飽和結合が減少し、耐熱性、耐候性及び機械的特性が向上することから、その一部又は全部が水素添加されていることが好ましい。水素添加率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。本発明において、水素添加率は、ブロック共重合体中の共役ジエン化合物に由来する炭素−炭素二重結合の含有量を、水素添加の前後において、
1H-NMRスペクトルによって測定し、該測定値から求めることができる。
【0034】
ブロック共重合体(Z1)の水素添加物の具体例としては、スチレン−エチレン・ブチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン・プロピレンブロック共重合体、スチレン−(エチレン−エチレン・プロピレン)−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−エチレン・ブチレン(スチレン制御分布)−スチレンブロック共重合体(SEB(S)S)、スチレン−イソブチレンブロック共重合体、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体、(α-メチルスチレン)−エチレン・ブチレンブロック共重合体、(α-メチルスチレン)−エチレン・ブチレン−(α-メチルスチレン)ブロック共重合体等が挙げられる。これらは、単独であっても、2種以上の混合物であってもよいが、原料調製及び作業性の観点から、SEBS、SEB(S)S、SEPS、及びSEEPSが好ましく、SEBS、SEB(S)S、及びSEEPSがより好ましい。
【0035】
本発明において、スチレン系ブロック共重合体Cは、耐熱性の観点から、〔ブロック単位(s1)−ブロック単位(b1)〕型のジブロック共重合体よりも〔ブロック単位(s1)−ブロック単位(b1)−ブロック単位(s1)〕型のトリブロック共重合体が好ましい。前記水素添加物のなかで、トリブロック共重合体としては、SEBS、SEPS、SEEPS、SEB(S)S、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体、(α-メチルスチレン)−エチレン・ブチレン−(α-メチルスチレン)ブロック共重合体等が挙げられる。
【0036】
トリブロック共重合体の含有量は、スチレン系ブロック共重合体C中、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0037】
スチレン系ブロック共重合体Cの重量平均分子量は、耐オイルブリード性の観点から、好ましくは50,000以上、より好ましくは100,000以上であり、成形性の観点から、好ましくは500,000以下、より好ましくは300,000以下である。スチレン系ブロック共重合体Cが複数のブロック共重合体からなる場合は、各ブロック共重合体の重量平均分子量の加重平均値が上記範囲内に入ることが好ましい。
【0038】
スチレン系ブロック共重合体Cの含有量は、ブロック共重合体A 100質量部に対して、柔軟性及び成形性の観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、ブロック共重合体Aと海島構造を形成する観点から、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下である。
【0039】
また、スチレン系ブロック共重合体Cの含有量は、熱可塑性エラストマー組成物中、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%、さらに好ましくは10〜25質量%である。
【0040】
軟化剤Dとしては、例えば、パラフィンオイル、ナフテンオイル、芳香族系オイル等のゴム用軟化剤等が挙げられるが、これらのなかでは、スチレン系ブロック共重合体Cとの親和性が良好で、ブリードが起きにくいという観点から、パラフィンオイルが好ましい。
【0041】
軟化剤Dの40℃での動粘度は、高い方が、加熱溶融時の揮発を防ぎ、耐ブリード性も良くなることから、好ましくは30mm
2/s以上、より好ましくは60mm
2/s以上、さらに好ましくは80mm
2/s以上であり、極性樹脂への融着性向上の観点から、さらに好ましくは150mm
2/s以上であり、低い方が取扱いが容易であることから、好ましくは500mm
2/s以下、より好ましくは450mm
2/s以下、さらに好ましくは400mm
2/s以下である。
【0042】
軟化剤Dの含有量は、スチレン系ブロック共重合体C100質量部に対して、柔軟性及び成形性の観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、耐ブリード性の観点から、好ましくは200質量部以下、より好ましくは160質量部以下、さらに好ましくは120質量部以下である。
【0043】
また、熱可塑性エラストマー組成物中の軟化剤Dの含有量は、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは5〜35質量%である。
【0044】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、さらに、増粘剤Eを含有していてもよい。増粘剤Eを配合することで、熱可塑性エラストマー組成物を溶融成形後、金型内での冷却時に樹脂のコシが向上するため、短い冷却時間でも成形品を金型から取り出すことができるようになり、成形サイクル時間を短縮することができる。
【0045】
増粘剤Eとしては、熱可塑性樹脂の成型加工の際に溶融張力を増大させる効果のあるものであればいずれでも用いることができるが、なかでもエポキシ系増粘剤、アクリル系増粘剤等が好ましい。
【0046】
エポキシ系増粘剤としては、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物が好ましい。
【0047】
エポキシ系増粘剤の市販品としては、東亞合成(株)製のアルフォンUGシリーズ、日油(株)製のマープルーフGシリーズ、BASF社製のジョンクリルADRシリーズ等が挙げられる。
【0048】
アクリル系増粘剤としては、アクリル高分子性加工助剤や、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン等が知られているが、本発明においては、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンは、アクリル変性によって熱可塑性樹脂との相溶性を向上させたポリテトラフルオロエチレンが、溶融混練で繊維化(フィブリル化)して繊維状のネットワークを形成するため、熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度を増大させて成形性を向上させることができる。
【0049】
増粘剤Eを含む場合、熱可塑性エラストマー組成物中の増粘剤Eの含有量は、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜20質量%である。
【0050】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを含有していてもよい。なかでも極性エラストマーは、組成物の極性樹脂への融着性を向上させることができる。極性エラストマーとしては、特に制限されないが、例えばNBR(ニトリルゴム)、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0051】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、カーボンブラック、シリカ、炭素繊維、ガラス繊維等の補強剤、無機充填剤、絶縁性熱伝導性フィラー、顔料、水和金属化合物、赤燐、ポリリン酸アンモニウム、アンチモン、シリコーン等の難燃剤、帯電防止剤、粘着付与剤、架橋剤、架橋助剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、香料等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0052】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、ブロック共重合体A及び木質フィラーB、さらに必要に応じて、スチレン系ブロック共重合体C、軟化剤D、その他添加剤等を含む原料を混合し、冷却により固化させて得られる。
【0053】
本発明でいう「混合」とは、各種成分が良好に混合される方法であれば特に限定されず、各種成分を溶解可能な有機溶媒中に溶解させて混合してもよいし、溶融混練によって混合してもよい。
【0054】
溶融混合する場合には、ニーダーや一般的な溶融押出機を用いることができ、混練状態の向上のため、単軸の押出機を使用することが好ましい。押出機への供給は、各種成分を直接押出機に供給しても良く、予めヘンシェルミキサー等の混合装置を用いて各種成分を混合したものを一つのホッパーから供してもよいし、二つのホッパーにそれぞれの成分を仕込みホッパー下のスクリュー等で定量しながら供してもよい。
【0055】
熱可塑性エラストマー組成物は、溶融混合して得たものを直接成形体に成形して利用する他に、用途に応じて、最終製品として利用される成形体にする前に、いったんペレット、粉体、シート等の中間製品とすることができる。例えば、押出機によって溶融混合してストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって円柱状や米粒状等のペレットに切断される。得られたペレットは、通常、射出成形、押出成形、プレス成形等の成形方法によって所定のシート状成形品や金型成形品とすることができる。
【0056】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物のA硬度は、柔軟性の観点から、95以下、好ましくは90以下、より好ましくは85以下、さらに好ましくは80以下であり、ベタツキ抑制の観点から、20以上、好ましくは25以上、より好ましくは30以上である。
【0057】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の190℃、荷重21.2Nでのメルトマスフローレイトは、成形性の観点から、好ましくは0.01g/10min以上、より好ましくは0.1g/10min以上であり、溶融混合時の分散性の観点から、好ましくは10g/10min以下、より好ましくは5g/10min以下である。
【0058】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、常法に従って、適宜加熱成形することにより、成形体が得られる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形体の用途は、特に限定されるものではなく一般的なスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマーやポリエステル系エラストマー等が用いられる分野に用いることができる。
【0059】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体の製造に用いられる装置は、成形材料を溶融できる任意の成形機を用いることができる。例えば、ニーダー、押出成形機、射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【0060】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、複合成形用材料としても用いることができ、様々な材料に融着するため、異種材料からなる部材の張り合わせにも好適に用いることができ、なかでも極性樹脂に対して良好な融着性を示す。
【0061】
極性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、ポリプロピレンオキサイド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)等のポリスチレン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、LCP(液晶ポリマー)、アイオノマー等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0062】
従って、本発明はさらに、本発明の熱可塑性エラストマー組成物と部材、好ましくは極性樹脂とが融着し、一体となった複合成形体を提供する。これにより、複雑な接合面を有する部材や、互いに異なる形状の接合面を有する部材の複合化も可能となる。
【0063】
本発明において、融着は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の融点以上の熱を加えて、融液にした後、融点以下の温度にして固化することで、融着対象の界面に固着する現象をいう。熱を加えるには、熱プレス機、加熱ロール機、熱風発生機、加熱蒸気、超音波ウェルダー、高周波ウェルダー、レーザー等を用いることができる。従って、融着部の界面が複雑な立体形状であっても、複雑な立体形状にうまくなじみ成形一体化することができる。熱可塑性エラストマー組成物と部材との融着は、全体にわたっていても、一部であってもよい。
【0064】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、極性樹脂に融着させた場合、該極性樹脂からの剥離強度は、接着特性の観点から、90N/25mm以上が好ましい。
【0065】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が部材に融着した複合成形体は、射出成形、射出圧縮成形、インサート成形、多色成形、真空成形、圧空成形、ブロー成形、熱プレス成形、発泡成形、レーザー融着成形、押出成形等の方法により、成形加工して得ることができるが、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、接着剤のように自身が粘着性を有するものではなく、取り扱いが容易であるため、射出成形にも適用することができる。
【0066】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が部材に融着した複合成形体としては、熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体に極性樹脂がインサートされたインサート成形体、熱可塑性エラストマー組成物と、極性樹脂とを多色成形して得られる複合成形体等が挙げられる。
【0067】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物、該組成物を用いた成形体及び複合成形体は、防滑性に優れているため、すべり防止材として用いることができる。すべり防止材としては、グリップテープ、グリップ材、マット、靴底や中敷き、手袋のあたり部、床、グレーチング、足場板、スロープ、階段等のすべり防止部材等が挙げられるが、油分が付着しても良好な防滑性を維持できることから、工具や機械装置の手で握る部品等としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した原料等の各種物性は、以下の方法により測定した。
【0069】
<成分A(ブロック共重合体)>
〔A硬度〕
JIS K 6253 タイプAにて測定をする。
【0070】
<成分B(木質フィラー)>
〔平均粒径〕
キーエンス社製のレーザーマイクロスコープVK-9700を用い、ガラス板上に分散した木質フィラーの拡大像を撮影し、任意に選んだ100個の粒子の画像解析により、一定方向に測長した粒径を球形近似して、体積基準のメジアン径を算出し、平均粒径とする。この方法はフェレー法として従来から知られている粒径の解析方法である。
【0071】
<成分C(スチレン系ブロック共重合体)>
〔スチレン系単量体単位の含有量〕
核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX-400)によって、プロトンNMR測定を行い、スチレンの特性基の定量を行うことによってスチレン及び/又はスチレン誘導体の含有量を決定する。
【0072】
〔重量平均分子量(Mw)〕
以下の測定条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
【0073】
測定装置
・ポンプ:JASCO(日本分光株式会社)製、PU-980
・カラムオーブン:昭和電工株式会社製、AO-50
・検出器:日立製、RI(示差屈折計)検出器 L-3300
・カラム種類:昭和電工株式会社製「K-805L(8.0×300mm)」及び「K-804L(8.0×300mm)」各1本を直列使用
・カラム温度:40℃
・ガードカラム:K-G(4.6×10mm)
・溶離液:クロロホルム
・溶離液流量:1.0ml/min
・試料濃度:約1mg/ml
・試料溶液ろ過:ポリテトラフルオロエチレン製0.45μm孔径ディスポーザブルフィルタ
・検量線用標準試料:昭和電工株式会社製ポリスチレン
【0074】
<成分D(軟化剤)>
〔動粘度〕
JIS Z 8803に従って、40℃の温度で測定する。
【0075】
実施例1〜6及び比較例2〜5
(実施例6は参考例である)
(1) 熱可塑性エラストマー組成物の作製
軟化剤以外の表6、7に示す材料をドライブレンドし、これに軟化剤を含浸させて混合物を作製した。その後、混合物を下記の条件で、押出機で溶融混合して、ストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって、直径3mm程度、長さ3mm程度に切断し、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。
【0076】
〔溶融混合条件〕
押出機:B-40mm ベントタイプ単軸押出機(商品名、石中製作所製)
L/D:37
回転速度:100r/min
【0077】
実施例及び比較例で使用した表6、7に記載の原料の詳細は以下の通り。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
(2) 熱可塑性エラストマー組成物の成形体の作製
ペレットを、下記の条件でプレス成形し、厚さ2mm×幅125mm×長さ125mmのプレート状のプレス成形体を作製した。
【0084】
〔プレス成形条件〕
プレス成形機:42ton加熱冷却二段油圧成形機100MSIII-10E(商品名、東邦マシナリー(株)製)
加熱圧力:5MPa
加熱時間:2分
冷却圧力:5MPa
冷却時間:2分
【0085】
比較例1
尿素系樹脂(アイカ工業社製、UN-830J)100質量部、小麦粉27質量部、水16質量部、及び硬化剤(アイカ工業社製、UH-10)1質量部を混合し、接着剤混合物を得た。
得られた接着剤混合物80質量部と、コルク粒(体積基準メジアン径:0.8mm)100質量部とをよく混合した後、厚さ10mm、125mm角の金型に詰めて90℃、5MPaで2分間プレス成形し、その後2分間冷却して取り出したものを、カッターでスライスして、中心部から、厚さ2mm、125mm角のコルクシートを切り出した。
【0086】
実施例1〜6及び比較例2〜5で得られた組成物と、比較例1のコルクシートについて、下記の測定を行った。結果を表6、7に示す。
【0087】
(1) A硬度(柔軟性)
プレス成形体又はコルクシートを雰囲気温度23℃で24時間静置したものを用い、JIS K 6253で規定される方法に準拠してデュロメータA硬度を測定した。
【0088】
(2) メルトマスフローレイト(MFR)
プレス成形体又はコルクシートを用い、ASTM D1238に準拠して、190℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0089】
(3) 摩擦係数
JIS K7125に規定のフェルト面を有するSUS製の錘すべり片(200g)を使用し、プレス成形体及びコルクシートの摩擦係数を測定した。
(3-1) 通常試験
図1に示すように、フェルト面1ではない金属面を接触面として接触面積40cm
2の錘すべり片2を、100mm/minの速度で、シート試料3上で矢印方向に移動させ、金属面とシート試料3の表面との間の静摩擦係数と動摩擦係数を測定した。
(3-2) 油付着試験
錘すべり片2の金属面に皮脂のモデル物質として、油性ハンドクリーム(ニベア花王株式会社製、ニベアクリーム)を全面に塗布した以外は、通常試験と同様にして、
図2に示すように、ハンドクリーム塗布面4とシート試料3の表面との間の静摩擦係数と動摩擦係数を測定した。
なお、摩擦係数の測定方法として一般的なJIS K7125の規定では、
図3に示すように、接触面積40cm
2の錘すべり片2の63mm四方のフェルト面1を厚さ0.5mm以下のシート試料3にあてて、相手材5上で、錘すべり片2とシート試料3とを同時に矢印方向に100mm/minの速度で移動させ、シート試料3と相手材5との間の摩擦係数を測定する。従って、本実施例での測定方法とJIS K7125の規定の測定方法では、摩擦係数の測定部が異なる。
両者の測定方法の相違点を明確にするために、
図1では、フェルト面1とシート試料3との間に、
図2では、ハンドクリーム塗布面4とシート試料3との間に、
図3では、シート試料と相手材との間に、それぞれ間隙を設けているが、実際には、上記説明の通り、互いに接触している。
【0090】
(4) 極性樹脂に対する融着力(PC融着力・ABS融着力)
極性樹脂としてポリカーボネート(PC)樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック社製、ユーピロンH-3000)又はABS樹脂(ダイセルポリマー社製、セビアンV-500SF)の射出成型プレート(厚さ2mm×幅25mm×長さ125mm)に、長さの一端から40mmまでの間にPTFEテープを巻いたものを金型内にインサートしておき、実施例1〜6及び比較例2〜5で得られたペレットを、インサート体を含む全体で厚さ6mm×幅25mm×長さ125mmのサイズとなる金型に230℃で射出成形して、融着試験片(複合成形体)を作製した。
また、比較例1のコルクシートについては、厚さ2mm、125mm角のコルクシートから厚さ2mm×幅25mm×長さ125mmの短冊状のシートを切り出し、長さの一端から40mmまでの間にPTFEテープを巻いたものを金型内にインサートしておき、ポリカーボネート樹脂又はABS樹脂を、インサート体を含む全体で厚さ6mm×幅25mm×長さ125mmのサイズとなる金型に230℃で射出成型して、融着試験片を作製した。
得られた融着試験片において、容易に剥離可能なPTFEテープ部分をつかみしろとして用い、下記の引張試験を行った。
厚さ2mmのインサート部材(基材層)とその上に成形された厚さ4mmの表皮材層とをそれぞれつかみ具でつかみ、JIS K 6854に準拠した方法により、雰囲気温度23℃で表皮材層と基材層とを180°方向に50mm/minで引張試験を行い、表皮材層と基材層の剥離強度(N/25mm)を測定した。
【0091】
【表6】
【0092】
【表7】
【0093】
実施例1〜6の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性と防滑性及び耐油性に優れており、極性樹脂との融着性も良好であることが分かる。
比較例1のコルクシートは摩擦係数が小さく、防滑性が低いのに対し、実施例1〜6のように、ブロック共重合体と混合することで、摩擦係数が高くなっている。
一方、実施例1と比較例2、実施例2、3と比較例3、実施例4、5と比較例4、実施例6と比較例5との対比により、熱可塑性エラストマー組成物にコルクを配合することにより、摩擦係数が大きくなっており、また油付着状態でも摩擦係数の低下も小さいことが分かる。
実施例1、2は、スチレン系ブロック共重合体とパラフィンオイルを配合した組成であり、実施例4と対比して、より摩擦係数が高くなっており、特に油付着状態での動摩擦係数の低下が小さいことが分かる。
実施例3、5は、コルクを増量した組成であり、対応する実施例2、4と対比すると、通常状態での摩擦係数は若干小さくなるが、油の付着による摩擦係数の低下は抑制されていることが分かる。
実施例6は、ウレタン系ブロック共重合体を配合した組成であり、比較例5との対比から、ポリエステル系ブロック共重合体を配合した組成と同様に、コルクの配合により摩擦係数が大きくなり、油付着状態でも摩擦係数の低下も小さいことが分かる。