(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6592004
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】採取生体組織凍結保存用具および採取組織片凍結方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20191007BHJP
A01N 1/02 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
C12M1/00 A
A01N1/02
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-562620(P2016-562620)
(86)(22)【出願日】2015年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2015083634
(87)【国際公開番号】WO2016088723
(87)【国際公開日】20160609
【審査請求日】2018年10月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-244413(P2014-244413)
(32)【優先日】2014年12月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509038108
【氏名又は名称】株式会社北里コーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】596165589
【氏名又は名称】学校法人 聖マリアンナ医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100089060
【弁理士】
【氏名又は名称】向山 正一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直
(72)【発明者】
【氏名】杉下 陽堂
(72)【発明者】
【氏名】井上 太
【審査官】
松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−219017(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/051521(WO,A1)
【文献】
国際公開第2006/101238(WO,A1)
【文献】
特表2013−529217(JP,A)
【文献】
米国特許第5964096(US,A)
【文献】
国際公開第2006/101237(WO,A1)
【文献】
国際公開第2016/031916(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
A01N 1/00−65/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取した生体組織片を密閉状態にて、凍結保存するための採取生体組織凍結保存用具であって、
前記採取生体組織凍結保存用具は、生体組織片を保持可能な組織片保持具と、前記組織片保持具を収納可能であり、収納後にヒートシールすることにより封止可能な液体窒素耐性を有する樹脂製収納袋とからなり、
前記組織片保持具は、熱伝導性板状底部部材と、前記熱伝導性板状底部部材の上面に固定された板状上部部材とからなる板状本体部と、前記板状本体部に保持された被覆シートとからなり、前記組織片保持具は、前記板状上部部材に設けられた切欠部と前記切欠部に位置する前記熱伝導性板状底部部材の上面とにより形成された組織片載置部を備え、前記被覆シートは、前記組織片載置部の全体および前記組織片載置部の周縁部を被覆可能なものとなっていることを特徴とする採取生体組織凍結保存用具。
【請求項2】
前記被覆シートは、透明性と前記組織片との密着性を有している請求項1に記載の採取生体組織凍結保存用具。
【請求項3】
前記被覆シートは、一端側部分が、前記組織片載置部の全体および前記組織片載置部の周縁部を被覆可能な被覆可能部となっており、他端部が、前記熱伝導性板状底部部材と前記板状上部部材間に挟持されており、かつ、前記板状上部部材の一端にて折り返し可能なものとなっている請求項1または2に記載の採取生体組織凍結保存用具。
【請求項4】
前記被覆シートは、前記組織片載置部を越え、前記板状上部部材の端部と前記組織片載置部間の上面の一部もしくはほぼ全体の上面を被覆可能である請求項1ないし3のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
【請求項5】
前記熱伝導性板状底部部材は、両角部が丸みを帯びた一端部と、前記一端部より他端部に延びる略矩形状部を有している請求項1ないし4のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
【請求項6】
前記板状上部部材は、一端側より他端側に延びる前記切欠部を備えている請求項1ないし5のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
【請求項7】
前記板状上部部材は、前記切欠部を有する一端が、前記熱伝導性板状底部部材の前記略矩形状部の一端付近となるように、配置されている請求項6に記載の採取生体組織凍結保存用具。
【請求項8】
前記組織片載置部において、前記熱伝導性板状底部部材の上面が露出している請求項1ないし7のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
【請求項9】
前記採取生体組織凍結保存用具は、前記被覆シートを前記板状上部部材に被覆したとき、前記板状上部部材の他端部が露出するものとなっている請求項1ないし8のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
【請求項10】
採取した生体組織片を密閉状態にて、凍結保存するための採取生体組織凍結保存用具であって、
前記採取生体組織凍結保存用具は、生体組織片を保持可能な組織片保持具と、前記組織片保持具を収納可能であり、収納後にヒートシールすることにより封止可能な液体窒素耐性を有する樹脂製収納袋とからなり、
前記組織片保持具は、熱伝導性の板状本体部と、前記板状本体部に保持された被覆シートとからなり、前記組織片保持具は、前記板状本体部に設けられた組織片載置部を備え、前記被覆シートは、前記組織片載置部の全体および前記組織片載置部の周縁部を被覆可能なものとなっていることを特徴とする採取生体組織凍結保存用具。
【請求項11】
前記樹脂製収納袋は、液体窒素耐性を有する樹脂製外層と、ヒートシール用内層を備えている請求項1ないし10のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
【請求項12】
前記採取生体組織凍結保存用具は、卵巣組織片凍結保存用具または肝臓組織片凍結保存用具である請求項1ないし11のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
【請求項13】
前記被覆シートは、透明性と前記組織片との密着性を有している請求項10ないし12のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具を用いる採取組織片凍結方法であって、
採取した組織片をガラス化液に浸漬する組織片ガラス化液浸漬工程と、ガラス化液より前記組織片を取り出し、前記組織片保持具の前記組織片載置部に載置する組織片載置工程と、前記被覆シートを前記組織片載置部に載置された組織片に被覆し、かつ密着させる組織片被覆工程と、組織片を保持した前記組織片保持具を冷却媒体に接触させることなく、前記収納袋に収納し、開口部をヒートシールする収納封止工程と、前記組織片保持具を収納し、かつ封止された前記採取生体組織凍結保存用具を冷却媒体と接触させ、前記組織片を凍結させる凍結工程とを行うことを特徴とする採取組織片凍結方法。
【請求項15】
前記採取組織片凍結方法は、卵巣組織片凍結方法もしくは肝臓組織片凍結方法である請求項14に記載の採取組織片凍結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物の卵巣などの生体組織を凍結保存する際に使用する採取生体組織凍結保存用具および採取組織片凍結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の生体細胞(例えば、精子、卵子など)の凍結保存が行われている。このような凍結保存は、特定の系統や品種の遺伝資源の保存を可能とする。また、絶滅の危機に瀕している動物種の維持にも有効である。さらに、ヒトの不妊治療においても有用である。
また、特開2003−284546号公報(特許文献1)には、卵巣凍結法が開示されている。この卵巣凍結法は、非ヒト哺乳動物の雌個体から少なくとも卵巣を含む生殖組織を摘出し、これを15〜0℃で保持した後にガラス化法により凍結することを特徴とするものである。
【0003】
また、哺乳動物胚の凍結方法としては、特開2000−189155公報(特許文献2)において、哺乳動物胚または卵子を滅菌処理した凍結ストロー、凍結バイアルまたは凍結チューブ等の凍結保存用容器の内面に、これらの胚または卵子を被包するに充分な最少量のガラス化液で貼り付け、この凍結保存用容器を密封し、そしてこの容器を液体窒素に接触させて急速に冷却することが提案されている。そして、融解方法では、前記の方法で保存した凍結保存用容器を液体窒素から取り出し、容器の一端部を開口し、この容器内に33〜39℃の希釈液を直接注入し、胚または卵子の凍結を融解希釈するものである。この方法によれば、哺乳動物胚または卵子をウイルスや細菌による感染のおそれがなく高い生存率で保存および融解希釈することのできるという優れた効果を備えている。
【0004】
また、特開2008−222640号公報(特許文献3)に示す組織片凍結保存用プレートを本件出願人は提案している。凍結保存用プレートは、切取部特定用開口部の所定幅と同じもしくは若干広い幅を有し、かつ所定長延び組織切取位置特定具を用いて切り取られた組織片を載置可能な金属性板状部材であり、多数の孔を備えている。
【0005】
また、本願発明者は、特開2012−219017号公報(特許文献4)に示す凍結保存用具を提案している。特許文献4の凍結保存用具は、組織片や細胞などの生体試料をガラス化凍結法(急速ガラス化凍結法および超急速ガラス化凍結法を含む)で凍結させるための凍結保存用具である。この凍結保存用具は、ステンレスシートを含む試料載置部と、試料載置部の基端部に固定された保持部とを有する。さらに、凍結保存用具は、試料載置部の生体試料が載置される領域に貫通孔を持たず、試料載置部としてステンレスシートを用いることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−284546公報
【特許文献2】特開2000−189155公報
【特許文献3】特開2008−222640公報
【特許文献4】特開2012−219017公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3および4のものは、ガラス化凍結に有効である。しかし、いずれも採取組織片を直接冷却媒体である液体窒素に接触させることを、また、冷凍保存時において、採取組織片を収納した容器も直接冷却媒体(液体窒素)に接触させることを前提としている。しかし、容器が冷却媒体(液体窒素)に長期的に接触すると、容器の劣化が生じ、内部に冷却媒体が流入する可能性がある。また、採取組織片の冷却媒体への直接接触は、ガラス化凍結としては有効であるが、できれば、そのような物質を細胞に直接接触させることは避けるべきである。
【0008】
また、上記特許文献3および4のものでは、収納されている生体組織および生体組織載置部に液体窒素が付着状態にて容器に密閉される。そして、冷凍保存後、使用時には常温環境にて容器が開封される。開封する際に、徐々に開封操作を行わず、開封すると容器内にて気化した液体窒素による内圧により、載置部上の生体組織片が飛散する可能性がある。よって、開封操作を慎重に行う必要がある。
【0009】
本発明の目的は、採取した生体組織片を冷却媒体に接触させることなく、かつ迅速に凍結することができ、かつ長期的に凍結保存しても、生体組織片が冷却媒体接触することがなく、また凍結保存後の生体組織片の取り出し時おける生体組織片の飛散もない採取生体組織凍結保存用具および採取組織片凍結方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
採取した生体組織片を密閉状態にて、凍結保存するための採取生体組織凍結保存用具であって、前記採取生体組織凍結保存用具は、生体組織片を保持可能な組織片保持具と、前記組織片保持具を収納可能であり、収納後にヒートシールすることにより封止可能な液体窒素耐性を有する樹脂製収納袋とからなり、前記組織片保持具は、熱伝導性板状底部部材と、前記熱伝導性板状底部部材の上面に固定された板状上部部材とからなる板状本体部と、前記板状本体部に保持された被覆シートとからなり、前記組織片保持具は、前記板状上部部材に設けられた切欠部と前記切欠部に位置する前記熱伝導性板状底部部材の上面とにより形成された組織片載置部を備え、前記被覆シートは、前記組織片載置部の全体および前記組織片載置部の周縁部を被覆可能なものとなっている採取生体組織凍結保存用具。
【0011】
また、上記目的を達成するものは、以下のものである。
採取した生体組織片を密閉状態にて、凍結保存するための採取生体組織凍結保存用具であって、前記採取生体組織凍結保存用具は、生体組織片を保持可能な組織片保持具と、前記組織片保持具を収納可能であり、収納後にヒートシールすることにより封止可能な液体窒素耐性を有する樹脂製収納袋とからなり、前記組織片保持具は、熱伝導性の板状本体部と、前記板状本体部に保持された被覆シートとからなり、前記組織片保持具は、前記板状本体部に設けられた組織片載置部を備え、前記被覆シートは、前記組織片載置部の全体および前記組織片載置部の周縁部を被覆可能なものとなっている採取生体組織凍結保存用具。
【0012】
また、上記目的を達成するものは、以下のものである。
上記のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具を用いる採取組織片凍結方法であって、
採取した組織片をガラス化液に浸漬する組織片ガラス化液浸漬工程と、ガラス化液より前記組織片を取り出し、前記組織片保持具の前記組織片載置部に載置する組織片載置工程と、前記被覆シートを前記組織片載置部に載置された組織片に被覆し、かつ密着させる組織片被覆工程と、組織片を保持した前記組織片保持具を冷却媒体に接触させることなく、前記収納袋に収納し、開口部をヒートシールする収納封止工程と、前記組織片保持具を収納し、かつ封止された前記採取生体組織凍結保存用具を冷却媒体と接触させ、前記組織片を凍結させる凍結工程とを行う採取組織片凍結方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の採取生体組織凍結保存用具の一実施例の正面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した採取生体組織凍結保存用具に用いられている組織片保持具の正面図である。
【
図4】
図4は、
図2に示した組織片保持具の被覆シートを開いた状態の正面図である。
【
図7】
図7は、
図2に示した組織片保持具の構成部材を説明するための説明図である。
【
図8】
図8は、
図2に示した組織片保持具の内部構造を説明するための説明図である。
【
図9】
図9は、本発明の採取生体組織凍結保存用具の作用を説明するための説明図である。
【
図10】
図10は、本発明の採取生体組織凍結保存用具の作用を説明するための説明図である。
【
図11】
図11は、本発明の採取生体組織凍結保存用具の作用を説明するための説明図である。
【
図12】
図12は、本発明の採取生体組織凍結保存用具の作用を説明するための説明図である。
【
図13】
図13は、本発明の他の実施例の採取生体組織凍結保存用具に用いられている組織片保持具の被覆シートを開いた状態の正面図である。
【
図14】
図14は、本発明の採取生体組織凍結保存用具の他の実施例の正面図である。
【
図15】
図15は、本発明の他の実施例の採取生体組織凍結保存用具に用いられる組織片保持具の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の採取生体組織凍結保存用具および採取組織片凍結方法を図面に示した実施例を用いて説明する。
本発明の採取生体組織凍結保存用具10は、採取した生体組織片を密閉状態にて、凍結保存するためのものである。採取生体組織凍結保存用具10は、生体組織片を保持可能な組織片保持具1と、組織片保持具1を収納可能であり、収納後にヒートシールすることにより封止可能な液体窒素耐性を有する樹脂製収納袋11とからなる。組織片保持具1は、熱伝導性の板状本体部と、板状本体部に保持された被覆シート4とからなる。組織片保持具1は、板状本体部に設けられた組織片載置部5を備え、被覆シート4は、組織片載置部5の全体および組織片載置部の周縁部を被覆可能なものとなっている。
【0015】
また、本発明の採取生体組織凍結保存用具10は、生体組織片を保持可能な組織片保持具1と、組織片保持具1を収納可能であり、収納後にヒートシールすることにより封止可能な液体窒素耐性を有する樹脂製収納袋11とからなる。組織片保持具1は、熱伝導性板状底部部材2と、熱伝導性板状底部部材2の上面に固定された板状上部部材3とからなる板状本体部と、板状本体部に保持された被覆シート4とからなる。組織片保持具1は、板状上部部材3に設けられた切欠部32と切欠部32に位置する熱伝導性板状底部部材2の上面とにより形成された組織片載置部5を備える。被覆シート4は、組織片載置部5の全体および組織片載置部5の周縁部を被覆可能なものとなっている。
【0016】
この実施例の採取生体組織凍結保存用具1は、
図1に示すように、組織片保持具1と、組織片保持具1を収納するための樹脂製収納袋11とからなる。
組織片保持具1は、
図2ないし
図10に示すように、板状本体部と、板状本体部に保持された被覆シート4とからなる。
板状本体部は、熱伝導性板状底部部材2と、熱伝導性板状底部部材2の上面に固定された板状上部部材3とからなる。
【0017】
熱伝導性板状底部部材2は、
図2ないし
図10(特に、
図7)に示すように、略矩形状をした金属板からなり、この実施例のものでは、両角部が丸みを帯びた一端部21と、一端部21より他端部に延びる略矩形状部20を有している。特に、この実施例のものでは、熱伝導性板状底部部材2は、一端部21が略半円状となっている。このような一端部を有することにより、組織片保持具1の収納袋11への挿入を容易なものとしている。
【0018】
熱伝導性板状底部部材2としては、金属性板状部材、グラファイトシートなどの熱伝導性が高いものを用いることが好ましい。金属性板状部材の形成金属としては、銅、銅合金、アルミ、アルミ合金、金、金合金、銀、銀合金、ステンレス合金、チタン、チタン合金から選択されたものが好ましい。熱伝導性板状底部部材2の厚さとしては、0.1〜3mm程度が好ましく、特に、0.5〜2mmが好ましい。また、熱伝導性板状底部部材2の幅は、8〜25mm程度が好ましく、特に、10〜20mmが好ましい。また、熱伝導性板状底部部材2の全長は、30〜50mmが好ましく、特に、35〜45mmが好ましい。また、矩形状部の長さは、25〜35mmが好ましく、両角部が丸みを帯びた一端部の長さは、5〜15mmが好ましい。
【0019】
板状上部部材3は、
図2ないし
図10(特に、
図7)に示すように、上述の熱伝導性板状底部部材2の上面に配置されている。具体的には、板状上部部材3は、熱伝導性板状底部部材2の矩形状部20の上面に載置され、固定されている。また、板状上部部材3は、熱伝導性板状底部部材2の矩形状部21とほぼ同じ形状を有するものとなっている。
【0020】
そして、板状上部部材3は、一端側より他端側に延びる切欠部32を備えている。そして、この実施例のものでは、板状上部部材3は、切欠部32を有する一端が、熱伝導性板状底部部材2の略矩形状部の一端付近となるように、配置されている。この実施例では、切欠部32は、板状上部部材3の一端(熱伝導性板状底部部材2の矩形状部20の一端付近)より、他端側に所定長延びるものとなっている。このため、板状上部部材3は、
図7に示すように、平板部30の一端より、突出する2つの延出部31a、31bを有するものとなっている。
【0021】
また、切欠部32は、一端が開放するとともに、他の縁部が、2つの延出部31a、31bと平板部30により囲まれた状態となっている。切欠部32の大きさとしては、30〜250mm
2程度であることが好ましく、特に、40〜230mm
2であり、特に好ましくは、50〜200mm
2である。また、切欠部32の幅は、6〜20mm程度が好ましく、特に、8〜17mmが好ましい。また、この実施例では、切欠部32は、矩形状であるが、これに限定されるものではなく、円状、半円状、多角形状、半多角形状などであってもよい。また、板状上部部材3の全長は、15〜45mmが好ましく、特に、20〜40mmが好ましい。また、板状上部部材3の幅は、熱伝導性板状底部部材2の幅とほぼ同じもしくは若干小さいものであることが好ましい。具体的には、板状上部部材3の幅は、8〜25mm程度が好ましく、特に、10〜20mmが好ましい。
【0022】
板状上部部材3としては、金属性板状部材、グラファイトシートなどの熱伝導性が高いものを用いることが好ましいが、合成樹脂板を用いてもよい。金属性板状部材の形成金属としては、銅、銅合金、アルミ、アルミ合金、金、金合金、銀、銀合金、ステンレス合金、チタン、チタン合金から選択されたものが好ましい。
【0023】
そして、組織片保持具1は、板状上部部材3に設けられた切欠部32と切欠部32に位置する熱伝導性板状底部部材2の上面とにより形成された組織片載置部5を備える。組織片載置部5の大きさとしては、30〜250mm
2程度であることが好ましく、特に、40〜230mm
2であり、特に好ましくは、50〜200mm
2である。組織片載置部5には、5×5mm〜10×10mm程度の大きさの組織片が載置される。
【0024】
被覆シート4は、
図2ないし
図10(特に、
図7)に示すように、組織片載置部5の全体および組織片載置部5の周縁部を被覆可能である。この実施例のものでは、被覆シート4は、一端側部分が、組織片載置部を被覆可能な被覆可能部40となっており、他端側部分42が、熱伝導性板状底部部材2と板状上部部材3間に挟持されている。そして、被覆シート4は、板状上部部材3の一端にて折り返し可能なものとなっている。
【0025】
また、被覆シート4は、折り返すことにより、組織片載置部5の全体および組織片載置部5の周縁部を被覆可能なものとなっている。さらに、この実施例の被覆シート4は、組織片載置部5を越え、板状上部部材3の端部と組織片載置部5間の上面の一部もしくはほぼ全体の上面を被覆可能なものとなっている。さらに、この実施例の組織片保持具1では、
図2に示すように、被覆シート4を板状上部部材3に被覆したとき、板状上部部材3の他端部33が露出するものとなっている。
【0026】
そして、被覆シート4は、透明性、組織片との密着性、可撓性およびある程度の強度を有していることが好ましい。被覆シート4の形成材料としては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体)、軟質ポリ塩化ビニル(例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリアミドなどのシートに形成したときに可撓性を有するものが好適に使用できる。被覆シート4の厚さとしては、0.5〜3mm程度のものが好ましく、特に、0.7〜2mm程度のものが好ましい。
【0027】
この実施例の被覆シート4は、
図7,
図8に示すように、一端側に所定長延びる被覆可能部40を持ち、折返部41より他端側部分42が、熱伝導性板状底部部材2と板状上部部材3間に挟持される部分となっている。他端側部分(被挟持部)42は、開口部44を備えている。このため、他端側部分(被挟持部)は、他端部42aと、他端部42aより、一端側に延びる2つの連結部43a,43bを有するものとなっている。
【0028】
そして、他端側部分42(言い換えれば、折返部41より他端側部分)が、熱伝導性板状底部部材2と板状上部部材3間に挟持され、かつそれらに固着されている。そして、被覆シート4は、板状上部部材3の一端、言い換えれば、折返部41にて折り返し可能となっている。また、被覆シート4を挟持しない部分では、熱伝導性板状底部部材2と板状上部部材3は、直接接触し、固着されている。また、この実施例では、被覆シート4は、連結部43a,43bのそれぞれの外側に凹部を備えている。
【0029】
そして、被覆シート4は、他端側部分42を、
図8に示すように、熱伝導性板状底部部材2の矩形部の一端部上に位置するように配置される。これにより、開口部44が、熱伝導性板状底部部材2の矩形部の一端部上に位置するものとなる。そして、
図3ないし
図6に示すように、被覆シート4の他端側部分42の上に、板状上部部材3の一端部を切欠部32が、開口部44上となるように配置され、固定されている。このため、この実施例の組織片保持具1では、組織片載置部5において、熱伝導性板状底部部材2の上面が露出している。このため、組織片載置部5に載置された組織片は、熱伝導性板状底部部材2に接触するため、良好に冷却可能となっている。
【0030】
具体的には、組織片載置部5は、板状上部部材3の切欠部の内縁により取り囲まれた部分の熱伝導性板状底部部材2の上面により形成されており、
図3および
図5に示すように、板状上部部材3と被覆シート4の厚さ分の深さを有する凹部となっている。なお、上記のようなものが好ましいが、被覆シート4が開口部を持たず、組織片載置部5において、熱伝導性板状底部部材2の上面が、被覆シート4により被覆されているものであってもよい。
【0031】
また、被覆シート4は、折り返すことにより、組織片載置部5の全体および組織片載置部5の周縁部を被覆可能かつ、さらに、板状上部部材の3の他端部の全体もしくは一部を被覆可能なものとなっている。特に、この実施例では、
図2に示すように、被覆シート4は、折り返し時(言い換えれば、組織片載置部被覆時)に、その一端が、板状上部部材3の他端に到達しないものとなっており、このため、被覆時に、板状上部部材3の他端部33が露出するものとなっている。このようにすることにより、被覆シート4の剥離が容易なものとなる。
【0032】
また、本発明の組織片保持具としては、
図13に示す実施例の組織片保持具1aのように、板状上部部材3aは、周縁部のすべてが、板状上部部材3aにより囲まれた切欠部32aおよび組織片載置部5aを備えるものであってもよい。この実施例の切欠部32aは、平板部30,延出部31a,31b、延出部接続部31cにより、全周が囲まれた状態となっており、このため、組織片載置部5aは、全体が凹部となっている。延出部31a,31bとしては、上述した組織片保持具1と同様であり、延出部接続部31cとしては、幅が、延出部31a,31bと同等もしくは細いものが好ましい。
【0033】
また、本発明の組織片保持具としては、
図15ないし
図17に示す実施例の組織片保持具1bのようなものであってもよい。
この実施例の採取生体組織凍結保存用具において用いられている組織片保持具1bは、上述した実施例の組織片保持具と同様に、樹脂製収納袋11内に収納可能なものであり、かつ、熱伝導性の板状本体部と、板状本体部に保持された被覆シート
4aとからなる。組織片保持具
1bは、板状本体部に設けられた組織片載置部5を備え、被覆シート4aは、組織片載置部5の全体および組織片載置部の周縁部を被覆可能なものとなっている。
【0034】
この組織片保持具
1bは、
図15ないし
図17に示すように、板状本体部と、板状本体部に保持された被覆シート4aとからなる。また、板状本体部は、熱伝導性板状底部部材2と、熱伝導性板状底部部材2の上面に固定された板状上部部材3とからなる。熱伝導性板状底部部材2および板状上部部材3は、上述した組織片保持具1と同じものとなっている。なお、熱伝導性板状底部部材2と板状上部部材3を一体物により形成してもよい。
【0035】
そして、板状上部部材3は、一端側より他端側に延びる切欠部32を備えている。そして、この実施例のものでは、板状上部部材3は、切欠部32を有する一端が、熱伝導性板状底部部材2の略矩形状部の一端付近となるように、配置されている。この実施例では、切欠部32は、板状上部部材3の一端(熱伝導性板状底部部材2の矩形状部20の一端付近)より、他端側に所定長延びるものとなっている。このため、板状上部部材3は、
図7に示すように、平板部30の一端より、突出する2つの延出部31a、31bを有するものとなっている。
【0036】
そして、この組織片保持具
1bにおいても、板状本体部の上面に設けられた組織片載置部5を備えている。上述した組織片保持具1と同様に、組織片載置部5は、板状上部部材3に設けられた切欠部32と切欠部32に位置する熱伝導性板状底部部材2の上面とにより形成されている。組織片載置部5の大きさとしては、上述した通りである。
【0037】
被覆シート4aは、
図15に示すように、組織片載置部5の全体および組織片載置部5の周縁部を被覆可能である。この実施例では、
図15および
図17に示すように、被覆シート4aは、一端側部分が、組織片載置部5を被覆可能な被覆可能部40となっており、他端側部分45が、板状本体部の一端部の上面、具体的には、熱伝導性板状底部部材2の一端部の上面に固着されている。このため、被覆シート4aは、通常、組織片載置部5の全体および組織片載置部5の周縁部を被覆しており、折り返すことにより、組織片載置部5の全体および組織片載置部5の周縁部を露出可能なものとなっている。
【0038】
さらに、この実施例の被覆シート4aは、組織片載置部5を越え、板状上部部材3の端部と組織片載置部5間の上面の一部もしくはほぼ全体の上面を被覆可能なものとなっている。また、この実施例の組織片保持具1bでも、
図15に示すように、被覆シート4aを板状上部部材3に被覆したとき、板状上部部材3の他端部33が露出するものとなっている。そして、被覆シート4aとしては、上述したものが好適に使用できる。
【0039】
次に、組織片保持具1を収納するための樹脂製収納袋11について説明する。
樹脂製透明収納袋11は、組織片保持具1を収納可能な形態を有している。また、樹脂製透明収納袋11は、周縁部の一部が開口し、組織片保持具1を挿入可能なものとなっている。
【0040】
具体的には、樹脂製透明収納袋11は、矩形状の2枚の透明性樹脂フィルムを積層し、3つの辺16がヒートシールされたものとなっている。そして、ヒートシールされていない辺により、開口部
12が形成されている、そして、その開口部も組織片保持具1の収納した状態にて、ヒートシール可能であり、
図12に示すように、樹脂製透明収納袋11の開口部
12は、シール部17となる。
【0041】
また、樹脂製透明収納袋としては、
図14に示す実施例の採取生体組織凍結保存用具10aにおいて用いられている樹脂製透明収納袋11aのように、両角部が丸みを帯びた一端部18を有するものであってもよい。この実施例では、一端部および一端部のヒートシール部ともに、両角部が丸みを帯びた形態となっている。そして、このような形態とすることにより、両角部が丸みを帯びた一端部を有する組織片保持具1を用いた場合に、組織片保持具1の一端部側からの挿入を促すことができる。これにより、組織片保持具1の樹脂製透明収納袋11aへの挿入時における被覆シートの剥離が少ないものとなる。また、樹脂製透明収納袋11a内に収納された組織片保持具1の動きも小さいものとすることができる。
【0042】
樹脂製透明収納袋11は、液体窒素耐性を有する樹脂製であり、
図1、
図11,
図12に示すように、透明性を有するものとなっている。樹脂製透明収納袋11としては、例えば、液体窒素耐性を有する樹脂製外層(例えば、高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート)と、ヒートシール用内層(低融点ポリエチレン)を備えるフィルムを、ヒートシール用内層が向かい合うように積層し、コの字型に周縁部をヒートシールすることにより形成されたものが好ましい。特に、外層としては、二軸延伸フィルムであることが好ましく、例えば、二軸延伸ポリエステルフィルム(二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム)、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ポリスチレンフィルム、二軸延伸ポリアミドフィルム、高密度二軸延伸ポリエチレンフィルムなどが好適である。特に、それらの透明フィルムが好ましい。
そして、本発明の採取生体組織凍結保存用具は、卵巣組織片凍結保存用具として特に有効である。また、肝臓組織片凍結保存用具としても有効に利用できる。
【0043】
次に、採取生体組織凍結保存用具10を用いた採取組織片凍結方法(採取組織片ガラス化凍結方法)について、
図9ないし
図12を用いて説明する。
本発明の採取組織片凍結方法は、上記の採取生体組織凍結保存用具を用いるものであり、採取した組織片をガラス化液に浸漬する組織片ガラス化液浸漬工程と、ガラス化液より組織片を取り出し、組織片保持具の組織片載置部に載置する組織片載置工程と、被覆シートを組織片載置部に載置された組織片に被覆し、かつ密着させる組織片被覆工程と、組織片を保持した組織片保持具を冷却媒体に接触させることなく、収納袋に収納し、開口部をヒートシールする収納封止工程と、組織片保持具を収納し、かつ封止された採取生体組織凍結保存用具を冷却媒体と接触させ、組織片を凍結させる凍結工程とを行うものである。
【0044】
本発明の採取組織片凍結方法では、最初に、対象生体組織より組織片7を採取する組織片採取工程が行われる。
組織片の採取は、例えば、特開2008−222640に開示されているような組織片切取位置特定具を用いて、対象生体組織(例えば、摘出された生体器官、具体的には、卵巣)より採取することができる。なお、組織片7は、通常のメス等を用いて採取してもよい。採取される組織片7は、組織片保持具1の組織片載置部5の表面に載置可能な大きさにて採取する。
【0045】
次に、採取した組織片7をガラス化液に浸漬する組織片液浸漬工程を行う。
組織片ガラス化液浸漬工程は、採取した組織片をガラス化液に浸漬することにより行われる。ガラス化液としては、従来より用いられているものを使用することができる。具体的には、グリセロール、プロピレングリコール、ジメチルスルホサイド(DMSO)、エチレングリコール、ブタンジオールなどから選択される1種または2種以上の細胞膜透過性凍結保護物質と、シュークロース、トレハロース、パーコール、ポリエチレングリコール、ポリヴィニルピロリドン、ウシ血清アルブミン、フィコールなどから選択される1種または2種以上の細胞膜非透過性凍結保護物質を含有するものが好適である。
【0046】
また、ガラス化液に浸漬する前に、採取した組織片の平衡液浸漬処理を行うことが好ましい。平衡液としては、細胞膜透過性凍結保護物質の低濃度溶液が好ましい。細胞膜透過性凍結保護物質としては、上述したものが使用できる。
【0047】
そして、組織片ガラス化液浸漬工程が終了した後、ガラス化液より組織片7を取り出し、組織片保持具1の組織片載置部5上に載置する組織片載置工程を行う。
この工程では、
図9に示すように、組織片保持具1の被覆シート4を展開し、組織片載置部5が露出した状態とし、ガラス化液より取り出した組織片7を、液体窒素などの冷却媒体に接触させることなく、組織片載置部5上に載置する。組織片載置部5への組織片の載置では、組織片は、ガラス化凍結されない。
【0048】
続いて、
図10に示すように、被覆シート4を組織片載置部5に載置された組織片7に被覆し、かつ密着させる組織片被覆工程を行う。この工程は、被覆シート4を折り返して、折り返された被覆シート4の被覆可能部40の内面を組織片7に密着させることにより行うことができる。この工程により、組織片7の上面は、被覆シートにより覆われ、組織片全体が、組織片保持具1により被包された状態となる。また、組織片保持具1は、組織片7を保持する状態となる。
【0049】
続いて、組織片を保持した組織片保持具1を樹脂製透明収納袋11に収納し、開口部をヒートシールする収納袋封止工程を行う。
この工程では、
図11に示すように、上記のように組織片7を保持する組織片保持具1を樹脂製透明収納袋11の開口部より、その両角部が丸みを帯びたものとなっている一端側より、内部に収納する。そして、
図12に示すように、樹脂製透明収納袋11の開口部をヒートシーラーにより、シールすることにより、開口部は、シール部17となる。これにより、組織片保持具1は、樹脂製透明収納袋11内に密閉される。これにより、密閉された採取生体組織凍結保存用具10が準備される。
【0050】
そして、密閉された採取生体組織凍結保存用具10を冷却媒体冷却媒体と接触させ、組織片を凍結させる凍結工程とを行うものである。
この工程は、密閉された採取生体組織凍結保存用具10を冷却媒体(一般的には、液体窒素)が充填されている容器内に投入することに行われる。そして、この冷却媒体との接触により、樹脂製透明収納袋11、組織片保持具1および組織片7は、冷却される。組織片7は、ガラス化液を保有している(具体的には、細胞内液がある程度ガラス化液と置換されている)ため、凍結すると、結晶化せず、ガラス化凍結状態となる。そして、この状態において、使用時まで保管される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の採取生体組織凍結保存用具は、以下のものである。
(1) 採取した生体組織片を密閉状態にて、凍結保存するための採取生体組織凍結保存用具であって、前記採取生体組織凍結保存用具は、生体組織片を保持可能な組織片保持具と、前記組織片保持具を収納可能であり、収納後にヒートシールすることにより封止可能な液体窒素耐性を有する樹脂製収納袋とからなり、前記組織片保持具は、熱伝導性板状底部部材と、前記熱伝導性板状底部部材の上面に固定された板状上部部材とからなる板状本体部と、前記板状本体部に保持された被覆シートとからなり、前記組織片保持具は、前記板状上部部材に設けられた切欠部と前記切欠部に位置する前記熱伝導性板状底部部材の上面とにより形成された組織片載置部を備え、前記被覆シートは、前記組織片載置部の全体および前記組織片載置部の周縁部を被覆可能なものとなっている採取生体組織凍結保存用具。
【0052】
採取した生体組織片をガラス化のための処理を行った後、上記の組織片保持具の組織片載置部に載置し、被覆シートにより、生体組織片を被覆することにより、組織片は、組織片保持具に保持され、かつ、露出しないものとなる。そして、組織片を保持する組織片保持具を樹脂製収納袋に収納し、開口部を封止することにより、組織片保持具自体を密封することができる。そして、収納袋に密封された組織片保持具を冷却媒体に接触させることにより、組織片は、良好に冷却され、密封された生体組織片を迅速に凍結物とすることができる。また、この採取生体組織凍結保存用具では、収納袋により密閉可能なため、冷凍保存時に、収納袋内に冷却媒体が侵入することがなく、組織片保持具は冷却媒体に接触しない。このため、冷却媒体との接触に起因する組織片保持具の劣化が生じにくく、また、採取組織片も冷却媒体に接触しない。さらに、収納袋体内には、液体窒素が実質的に存在していないため、保存後、収納袋の開封時、被覆シートの剥離時における冷却媒体の気化に起因する採取組織片の飛散もない。
【0053】
本発明のの実施態様は、以下のものであってもよい。
(2) 前記被覆シートは、透明性と前記組織片との密着性を有している上記(1)に記載の採取生体組織凍結保存用具。
(3) 前記被覆シートは、一端側部分が、前記組織片載置部の全体および前記組織片載置部の周縁部を被覆可能な被覆可能部となっており、他端部が、前記熱伝導性板状底部部材と前記板状上部部材間に挟持されており、かつ、前記板状上部部材の一端にて折り返し可能なものとなっている上記(1)または(2)に記載の採取生体組織凍結保存用具。
(4) 前記被覆シートは、前記組織片載置部を越え、前記板状上部部材の端部と前記組織片載置部間の上面の一部もしくはほぼ全体の上面を被覆可能である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
(5) 前記熱伝導性板状底部部材は、両角部が丸みを帯びた一端部と、前記一端部より他端部に延びる略矩形状部を有している上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
(6) 前記板状上部部材は、一端側より他端側に延びる前記切欠部を備えている上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
(7) 前記板状上部部材は、前記切欠部を有する一端が、前記熱伝導性板状底部部材の前記略矩形状部の一端付近となるように、配置されている上記(6)に記載の採取生体組織凍結保存用具。
(8) 前記組織片載置部において、前記熱伝導性板状底部部材の上面が露出している上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
(9) 前記採取生体組織凍結保存用具は、前記被覆シートを前記板状上部部材に被覆したとき、前記板状上部部材の他端部が露出するものとなっている上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
【0054】
また、本発明の採取生体組織凍結保存用具は、以下のものである。
(10) 採取した生体組織片を密閉状態にて、凍結保存するための採取生体組織凍結保存用具であって、前記採取生体組織凍結保存用具は、生体組織片を保持可能な組織片保持具と、前記組織片保持具を収納可能であり、収納後にヒートシールすることにより封止可能な液体窒素耐性を有する樹脂製収納袋とからなり、
前記組織片保持具は、熱伝導性の板状本体部と、前記板状本体部に保持された被覆シートとからなり、前記組織片保持具は、前記板状本体部に設けられた組織片載置部を備え、前記被覆シートは、前記組織片載置部の全体および前記組織片載置部の周縁部を被覆可能なものとなっている採取生体組織凍結保存用具。
採取した生体組織片をガラス化のための処理を行った後、上記の組織片保持具の組織片載置部に載置し、被覆シートにより、生体組織片を被覆することにより、組織片は、組織片保持具に保持され、かつ、露出しないものとなる。そして、組織片を保持する組織片保持具を樹脂製収納袋に収納し、開口部を封止することにより、組織片保持具自体を密封することができる。そして、収納袋に密封された組織片保持具を冷却媒体に接触させることにより、組織片は、良好に冷却され、密封された生体組織片を迅速に凍結物とすることができる。また、この採取生体組織凍結保存用具では、収納袋により密閉可能なため、冷凍保存時に、収納袋内に冷却媒体が侵入することがなく、組織片保持具は冷却媒体に接触しない。このため、冷却媒体との接触に起因する組織片保持具の劣化が生じにくく、また、採取組織片も冷却媒体に接触しない。さらに、収納袋体内には、液体窒素が実質的に存在していないため、保存後、収納袋の開封時、被覆シートの剥離時における冷却媒体の気化に起因する採取組織片の飛散もない。
【0055】
また、本発明の実施態様は、以下のものであってもよい。
(11) 前記樹脂製収納袋は、液体窒素耐性を有する樹脂製外層と、ヒートシール用内層を備えている上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
(12) 前記採取生体組織凍結保存用具は、卵巣組織片凍結保存用具または肝臓組織片凍結保存用具である上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
(13) 前記被覆シートは、透明性と前記組織片との密着性を有している上記(10)ないし(12)のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具。
【0056】
また、本発明の採取組織片凍結方法は、以下のものである。
(14) 上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の採取生体組織凍結保存用具を用いる採取組織片凍結方法であって、
採取した組織片をガラス化液に浸漬する組織片ガラス化液浸漬工程と、ガラス化液より前記組織片を取り出し、前記組織片保持具の前記組織片載置部に載置する組織片載置工程と、前記被覆シートを前記組織片載置部に載置された組織片に被覆し、かつ密着させる組織片被覆工程と、組織片を保持した前記組織片保持具を冷却媒体に接触させることなく、前記収納袋に収納し、開口部をヒートシールする収納封止工程と、前記組織片保持具を収納し、かつ封止された前記採取生体組織凍結保存用具を冷却媒体と接触させ、前記組織片を凍結させる凍結工程とを行う採取組織片凍結方法。
【0057】
この採取組織片凍結方法によれば、採取した生体組織片の凍結作業を容易、かつ確実に行うことができる。
【0058】
また、本発明の実施態様は、以下のものであってもよい。
(15) 前記採取組織片凍結方法は、卵巣組織片凍結方法もしくは肝臓組織片凍結方法である上記(14)に記載の採取組織片凍結方法。