特許第6592025号(P6592025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6592025
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】被加熱物の加熱方法及び加熱装置
(51)【国際特許分類】
   F23L 7/00 20060101AFI20191007BHJP
   F23N 5/00 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   F23L7/00 B
   F23N5/00 D
   F23N5/00 Y
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-47839(P2017-47839)
(22)【出願日】2017年3月13日
(65)【公開番号】特開2018-151131(P2018-151131A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2018年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231235
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 義之
(72)【発明者】
【氏名】松村 孝之
(72)【発明者】
【氏名】清野 尚樹
【審査官】 柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−023017(JP,A)
【文献】 特開2005−016854(JP,A)
【文献】 特開2012−078032(JP,A)
【文献】 特表2009−532661(JP,A)
【文献】 特開平04−143047(JP,A)
【文献】 特開平03−297554(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0292833(US,A1)
【文献】 特開2005−035826(JP,A)
【文献】 国際公開第03/083372(WO,A1)
【文献】 特開2012−154561(JP,A)
【文献】 特開2011−179751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23L 7/00
B22D 41/015
F23N 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナに燃料流体及び支燃性ガスを供給し、これらを燃焼させた火炎を熱源として被加熱物を加熱する方法であって、
前記バーナに供給する前記支燃性ガス中の酸素濃度を漸次増加させることにより、前記被加熱物の昇温速度を増加させ、且つ、前記支燃性ガス中の酸素濃度の増加速度を、前記被加熱物の温度上昇と同期させることを特徴とする被加熱物の加熱方法。
【請求項2】
前記バーナに供給する前記支燃性ガス中の酸素濃度を、周期的変化をもたせながら漸次増加させつつ、前記燃料流体の流量、もしくは前記支燃性ガスの流量の少なくとも一方を周期的に変化させるとともに、前記バーナに供給する総酸素量を、前記燃料流体を完全燃焼させるのに必要な理論酸素量で除した当量比を周期的に変化させ、前記酸素濃度の周期的変化と、前記当量比の周期的変化とに位相差を設けることにより、前記バーナの燃焼状態を周期的な振動状態とすることを特徴とする請求項1に記載の被加熱物の加熱方法。
【請求項3】
前記燃料流体の流量の周期的変化と、前記酸素濃度及び前記酸素比の周期的変化とに位相差を設けることを特徴とする請求項2に記載の被加熱物の加熱方法。
【請求項4】
前記被加熱物が、製鋼製造工程において用いられる取鍋又はタンディッシュであることを特徴とする請求項1〜請求項の何れか一項に記載の被加熱物の加熱方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項の何れか一項に記載の被加熱物の加熱方法において用いられる加熱装置であって、
少なくとも、燃料流体及び支燃性ガスを燃焼させて被加熱物を加熱するバーナと、前記バーナに供給する前記燃料流体及び前記支燃性ガスの流量を制御する流量制御部と、前記バーナの燃焼状態に基づいて演算処理を行い、燃焼情報を前記流量制御部に送信する演算部と、を備え、
前記バーナは、少なくとも、該バーナの中心軸に沿って配置され、前記燃料流体及び一次酸素ガスを供給する中心供給管と、該中心供給管の周囲に少なくとも一以上で同心状に配置され、前記支燃性ガスを供給する支燃性ガス供給管とを備え、且つ、前記中心供給管が、前記バーナの中心軸上に配置される一次燃料供給管と、該一次燃料供給管の周囲を取り囲むように配置される二次燃料供給管と、該二次燃料供給管の周囲を取り囲むように配置される一次酸素ガス供給管とを有してなり、
前記流量制御部は、前記演算部から入力される前記燃焼情報に基づき、前記バーナに供給する前記燃料流体及び前記支燃性ガスの流量をそれぞれ増加もしくは減少させることで、前記バーナに供給する前記支燃性ガス中の酸素濃度を漸次増加させ、前記被加熱物の昇温速度を増加させることを特徴とする被加熱物の加熱装置。
【請求項6】
前記流量制御部は、さらに、前記バーナに供給する前記支燃性ガス中の酸素濃度を、周期的変化をもたせながら漸次増加させつつ、前記燃料流体の流量、もしくは前記支燃性ガスの流量の少なくとも一方を周期的に変化させるように制御するとともに、前記バーナに供給する総酸素量を、前記燃料流体を完全燃焼させるのに必要な理論酸素量で除した当量比を周期的に変化させ、前記酸素濃度の周期的変化と、前記当量比の周期的変化とに位相差を設けることにより、前記バーナの燃焼状態を周期的な振動状態とするように制御することを特徴とする請求項に記載の被加熱物の加熱装置。
【請求項7】
前記流量制御部は、前記燃料流体を一次燃料及び二次燃料として前記バーナに供給するとき、前記一次燃料供給管に供給する前記一次燃料を一定の流量で供給するとともに、前記二次燃料供給管に供給する前記二次燃料の流量を増減させるように制御することを特徴とする請求項又は請求項に記載の被加熱物の加熱装置。
【請求項8】
前記流量制御部は、前記燃料流体を一次燃料及び二次燃料として前記バーナに供給するとき、前記二次燃料供給管に供給する前記二次燃料を一定の流量で供給するとともに、前記一次燃料供給管に供給する前記一次燃料の流量を増減させるように制御することを特徴とする請求項又は請求項に記載の被加熱物の加熱装置。
【請求項9】
前記バーナは、前記一次酸素ガス供給管の噴出口が、前記中心供給管における前記一次燃料供給管及び前記二次燃料供給管の噴出口よりも、火炎噴出方向に向けて突出した位置に配置されていることを特徴とする請求項〜請求項の何れか一項に記載の被加熱物の加熱装置。
【請求項10】
前記バーナは、前記支燃性ガス供給管に、前記支燃性ガスとして空気及び二次酸素が供給されることを特徴とする請求項〜請求項の何れか一項に記載の被加熱物の加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱物の加熱方法及び加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製銑や製鋼工場において、溶銑や溶鋼を運搬するための溶銑鍋及び溶鋼鍋(以下、取鍋又は溶湯取鍋と称する場合がある)は、一般的に、その内面に耐熱煉瓦(耐火煉瓦)等からなる耐火物を張りつけた構成とすることで、内部に収容した溶銑・溶鋼の温度を保持できる構造とされている。
【0003】
取鍋に溶銑や溶鋼を注入する際には、まず、耐火物内面の水分を除去したうえで、溶銑・溶鋼の温度低下防止のために、予め1000〜1400℃程度に乾燥・加熱(予熱)しておく必要がある。このような取鍋の乾燥・加熱方法としては、例えば、バーナを用いて乾燥・加熱する方法がある(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、取鍋の乾燥・加熱に用いるバーナとしては、支燃性ガスとして空気を用いる空気バーナの他、より効果的に取鍋を乾燥・加熱することを目的として蓄熱式バーナを用いる場合がある(例えば、特許文献2,3を参照)。
【0005】
一方、地球環境問題が大きくクローズアップされる現在にあっては、バーナによって火炎を発生させる際に燃焼状態を制御することで、燃焼ガス中の窒素酸化物(NOx)を削減する方法が注目されるようになっている(例えば、特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−154215号公報
【特許文献2】特開2009−160640号公報
【特許文献3】特開2015−100823号公報
【特許文献4】特開2011−179751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、取鍋を所定の温度まで予熱する場合には、取鍋の溶湯容器内に張り付けられた耐火煉瓦の破損等も考慮する必要がある。例えば、加熱前の溶湯容器が室温に近い場合には、容器内を所定の温度にするために急激に加熱すると、耐火煉瓦が部分的に熱膨張することで破損する可能性がある。このため、溶湯容器内の耐火煉瓦を加熱する際は、内部をゆっくりと均一に加熱するように、長時間をかけてバーナを燃焼させる必要があった。
【0008】
しかしながら、溶湯容器の予熱に時間がかかり過ぎると、工程時間が長大化して製造効率の低下を招くことから、より短い時間で予熱を行うことが求められていた。
また、バーナで火炎を生成させた際には、二酸化炭素や微量の窒素酸化物等が不可避的に生成されてしまうことから、これらを可能な限り削減できるような燃焼方法が求められていた。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、取鍋の溶湯容器等のような被加熱物を、従来に比べて短い時間で均一に加熱することができるとともに、二酸化炭素や窒素酸化物(NOx)等の発生を大幅に削減でき、効率的で環境に配慮した乾燥・加熱を行うことが可能な被加熱物の加熱方法及び加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者等が鋭意検討したところ、バーナの火炎を熱源として被加熱物を加熱する際、バーナに供給する支燃性ガス中の酸素濃度を徐々に増加させてゆくことが、従来に比べて短時間で均一に被加熱物を加熱できることを知見した。例えば、支燃性ガスとして空気を用い、これに酸素ガスを徐々に加えることで支燃性ガス中の酸素濃度を増加させてゆく場合、支燃性ガス中の酸素濃度は21体積%(空気中の酸素濃度)から100体積%まで漸次増加する。本発明者等は、このような方法を採用することにより、二酸化炭素や窒素酸化物等の発生を大幅に削減でき、効率的で環境に配慮した被加熱物の乾燥・加熱を行うことが可能になることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、すなわち、請求項1に係る発明は、バーナに燃料流体及び支燃性ガスを供給し、これらを燃焼させた火炎を熱源として被加熱物を加熱する方法であって、前記バーナに供給する前記支燃性ガス中の酸素濃度を漸次増加させることにより、前記被加熱物の昇温速度を増加させ、且つ、前記支燃性ガス中の酸素濃度の増加速度を、前記被加熱物の温度上昇と同期させることを特徴とする被加熱物の加熱方法である。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の被加熱物の加熱方法であって、前記バーナに供給する前記支燃性ガス中の酸素濃度を、周期的変化をもたせながら漸次増加させつつ、前記燃料流体の流量、もしくは前記支燃性ガスの流量の少なくとも一方を周期的に変化させるとともに、前記バーナに供給する総酸素量を、前記燃料流体を完全燃焼させるのに必要な理論酸素量で除した当量比を周期的に変化させ、前記酸素濃度の周期的変化と、前記当量比の周期的変化とに位相差を設けることにより、前記バーナの燃焼状態を周期的な振動状態とすることを特徴とする被加熱物の加熱方法である。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の被加熱物の加熱方法であって、前記燃料流体の流量の周期的変化と、前記酸素濃度及び前記酸素比の周期的変化とに位相差を設けることを特徴とする被加熱物の加熱方法である
請求項に係る発明は、請求項1〜請求項の何れか一項に記載の被加熱物の加熱方法であって、前記被加熱物が、製鋼製造工程において用いられる取鍋又はタンディッシュであることを特徴とする被加熱物の加熱方法である。
【0014】
また、請求項に係る発明は、請求項1〜請求項の何れか一項に記載の被加熱物の加熱方法において用いられる加熱装置であって、少なくとも、燃料流体及び支燃性ガスを燃焼させて被加熱物を加熱するバーナと、前記バーナに供給する前記燃料流体及び前記支燃性ガスの流量を制御する流量制御部と、前記バーナの燃焼状態に基づいて演算処理を行い、燃焼情報を前記流量制御部に送信する演算部と、を備え、前記バーナは、少なくとも、該バーナの中心軸に沿って配置され、前記燃料流体及び一次酸素ガスを供給する中心供給管と、該中心供給管の周囲に少なくとも一以上で同心状に配置され、前記支燃性ガスを供給する支燃性ガス供給管とを備え、且つ、前記中心供給管が、前記バーナの中心軸上に配置される一次燃料供給管と、該一次燃料供給管の周囲を取り囲むように配置される二次燃料供給管と、該二次燃料供給管の周囲を取り囲むように配置される一次酸素ガス供給管とを有してなり、前記流量制御部は、前記演算部から入力される前記燃焼情報に基づき、前記バーナに供給する前記燃料流体及び前記支燃性ガスの流量をそれぞれ増加もしくは減少させることで、前記バーナに供給する前記支燃性ガス中の酸素濃度を漸次増加させ、前記被加熱物の昇温速度を増加させることを特徴とする被加熱物の加熱装置である。
【0015】
請求項に係る発明は、請求項に記載の被加熱物の加熱装置であって、前記流量制御部は、さらに、前記バーナに供給する前記支燃性ガス中の酸素濃度を、周期的変化をもたせながら漸次増加させつつ、前記燃料流体の流量、もしくは前記支燃性ガスの流量の少なくとも一方を周期的に変化させるように制御するとともに、前記バーナに供給する総酸素量を、前記燃料流体を完全燃焼させるのに必要な理論酸素量で除した当量比を周期的に変化させ、前記酸素濃度の周期的変化と、前記当量比の周期的変化とに位相差を設けることにより、前記バーナの燃焼状態を周期的な振動状態とするように制御することを特徴とする被加熱物の加熱装置である。
【0016】
請求項に係る発明は、請求項又は請求項に記載の被加熱物の加熱装置であって、前記流量制御部は、前記燃料流体を一次燃料及び二次燃料として前記バーナに供給するとき、前記一次燃料供給管に供給する前記一次燃料を一定の流量で供給するとともに、前記二次燃料供給管に供給する前記二次燃料の流量を増減させるように制御することを特徴とする被加熱物の加熱装置である。
請求項に係る発明は、請求項又は請求項に記載の被加熱物の加熱装置であって、前記流量制御部は、前記燃料流体を一次燃料及び二次燃料として前記バーナに供給するとき、前記二次燃料供給管に供給する前記二次燃料を一定の流量で供給するとともに、前記一次燃料供給管に供給する前記一次燃料の流量を増減させるように制御することを特徴とする被加熱物の加熱装置である。
【0017】
請求項に記載の発明は、請求項〜請求項の何れか一項に記載の被加熱物の加熱装置であって、前記バーナは、前記一次酸素ガス供給管の噴出口が、前記中心供給管における前記一次燃料供給管及び前記二次燃料供給管の噴出口よりも、火炎噴出方向に向けて突出した位置に配置されていることを特徴とする被加熱物の加熱装置である。
請求項10に記載の発明は、請求項〜請求項の何れか一項に記載の被加熱物の加熱装置であって、前記バーナは、前記支燃性ガス供給管に、前記支燃性ガスとして空気及び二次酸素が供給されることを特徴とする被加熱物の加熱装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る被加熱物の加熱方法によれば、バーナに供給する前記支燃性ガス中の酸素濃度を漸次増加させることによって、被加熱物の昇温速度を増加させる方法を採用することにより、短時間で均一に被加熱物を加熱できる。これにより、二酸化炭素や窒素酸化物(NOx)等の発生を大幅に削減でき、効率的で環境に配慮した被加熱物の乾燥・加熱を行うことが可能になる。
【0019】
また、本発明に係る被加熱物の加熱装置によれば、バーナの燃焼状態を演算処理する演算処理部と、バーナに供給する支燃性ガス中の酸素濃度を漸次増加させ、被加熱物の昇温速度を増加させる流量制御部を備えることで、上記同様、短時間で均一に被加熱物を加熱できる。これにより、二酸化炭素や窒素酸化物等の発生を大幅に削減でき、効率的で環境に配慮した被加熱物の乾燥・加熱を行うことが可能な加熱装置が実現できる。
【0020】
従って、本発明に係る被加熱物の加熱方法及び加熱装置を、例えば、製銑や製鋼工場における、溶銑や溶鋼を運搬するための溶銑鍋及び溶鋼鍋(取鍋)を予備加熱する用途に適用した場合には、取鍋内面に設けられた耐火煉瓦の破損等が生じること無く、効率的で環境に配慮した乾燥・加熱を行うことができる観点から、非常に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態である被加熱物の加熱方法及び加熱装置について模式的に説明する図であり、被加熱物として溶湯取鍋を加熱する場合の加熱装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態である被加熱物の加熱方法及び加熱装置について模式的に説明する図であり、燃料流体及び支燃性ガスの流量、並びに支燃性ガス中の酸素濃度を変化させた場合の、炉内温度と昇温時間との関係を示すグラフである。
図3】本発明の一実施形態である被加熱物の加熱方法及び加熱装置について模式的に説明する図であり、図1に示した加熱装置に備えられるバーナの一例を示す平面図である。
図4】本発明の一実施形態である被加熱物の加熱方法及び加熱装置について模式的に説明する図であり、図3に示したバーナのA−A断面図である。
図5】本発明の一実施形態である被加熱物の加熱方法及び加熱装置について模式的に説明する図であり、図3に示したバーナのB−B断面図である。
図6】本発明の一実施形態である被加熱物の加熱方法及び加熱装置について模式的に説明する図であり、支燃性ガス中の酸素濃度と、断熱理論火炎温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した一実施形態である被加熱物の加熱方法及び加熱装置について、図1図6を適宜参照しながら説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
本発明に係る被加熱物の加熱方法及び加熱装置は、例えば、製銑や製鋼工場において溶銑や溶鋼を運搬するために用いられる溶湯取鍋又はタンディッシュを予備加熱する用途に適用することが可能である。本実施形態においては、図1中に示すような溶湯取鍋10を被加熱物とし、この溶湯取鍋10を予備乾燥する場合を例に挙げて説明する。
【0024】
<被加熱物(溶湯取鍋)>
本実施形態における被加熱物である溶湯取鍋10は、溶銑や溶鋼を運搬するために用いられる容器であり、容器本体11の上部が開口11aとされている。また、容器本体11の内面11bには、溶銑や溶鋼の温度を保持するための、図示略の耐熱煉瓦が貼り付けられている。また、図示例の溶湯取鍋1は、容器本体11上部の開口11aが、後述の加熱装置1に備えられるバーナ3及び温度測定部6が取り付けられる炉蓋12で覆われている。
【0025】
<被加熱物の加熱装置>
図1に示すように、本実施形態の被加熱物の加熱装置1は、燃料流体(一次燃料M1及び二次燃料M2)及び支燃性ガスG3を燃焼させて上記の溶湯取鍋10中に火炎2を形成し、被加熱物である溶湯取鍋10を加熱するバーナ3と、バーナ3に供給される一次燃料M1、二次燃料M2、支燃性ガスG3、及び酸素ガス(一次酸素ガスG1及び二次酸素ガスG2)の各々の流量を制御する流量制御部4と、温度測定部6で測定した温度に基づいて演算処理を行い、この結果を燃焼情報として流量制御部4に向けて送信する演算部5と、を備えて概略構成されている。
【0026】
バーナ3は、火炎2を形成することで溶湯取鍋10の内面11bを加熱するものである。図示例のバーナ3は、溶湯取鍋10を構成する炉蓋12に対して、火炎2の噴出方向が鉛直下方となるように、即ち、火炎2が容器本体11で形成されるように取り付けられている。バーナ3は、流量制御部4から、配管71,72,73,74,75の各々を介して、それぞれ流量が制御された一次燃料M1、二次燃料M2、支燃性ガスG3、一次酸素G1及び二次酸素G2が供給されることで、火炎2を形成する。
【0027】
本実施形態のバーナ3は、より具体的には、図3の平面図、図4図3中に示すA−A断面)及び図5図3中に示すB−B断面)の断面図に示すように、バーナ3の中心軸に沿って配置され、一次燃料M1、二次燃料M2及び一次酸素ガスG1を供給する中心供給管30と、この中心供給管30の周囲に少なくとも一以上、図示例では4箇所で同心状に配置され、支燃性ガスG3を供給する支燃性ガス供給管35とを有してなる。
【0028】
また、図示例のバーナ3は、さらに、中心供給管30及び支燃性ガス供給管35の火炎噴出方向に延びるように形成され、火炎及び各ガスを外部に導出するための各流路が設けられたバーナブロック3Aが備えられている。即ち、バーナブロック3Aには、上記の中心供給管30が収容される流路3aが、バーナ3の中心軸に沿って形成されているとともに、上記の支燃性ガス供給管35(及び後述の二次酸素ガス供給管34)が収容される計4箇所の流路3bが同心状で配置されている。そして、中心供給管30及び支燃性ガス供給管とバーナブロック3Aとは、バーナブロック固定治具3Bによって一体に固定されている。
【0029】
中心供給管30は、内部に、一次燃料供給管31、二次燃料供給管32、及び一次酸素ガス供給管33が、順次、中心軸から外側方向に向けて同心状に配置された三重管構成とされている。これにより、中心供給管30は、一次燃料供給管31の内部が一次燃料M1の流路とされ、一次燃料供給管31と二次燃料供給管32との間が二次燃料M2の流路とされるとともに、二次燃料供給管32と一次酸素ガス供給管33との間が一次酸素ガスG1流路とされる。
【0030】
一次燃料供給管31の供給口31bには、図1中に示した配管71が接続されることで一次燃料M1が供給され、また、二次燃料供給管32の供給口32bには、配管72が接続されることで二次燃料M2が供給される。また、一次酸素ガス供給管33の供給口33bには、配管73が接続されることで一次酸素ガスG1が供給される。
そして、一次燃料供給管31の流路先端となる噴出口31aからは一次燃料M1が、また、二次燃料供給管32の噴出口32aからは二次燃料M2が、それぞれ中心供給管30が収容された流路3a内に向けて噴出するように構成される。また、一次酸素ガス供給管33の流路先端となる噴出口33aからは、一次酸素ガスG1が流路3a内に向けて噴出するように構成される。
【0031】
また、図示例の中心供給管30は、一次燃料供給管31の噴出口31aと二次燃料供給管32の噴出口32aとが同一面になるように配置されている。一方、一次酸素ガス供給管33の噴出口33aは、噴出口31a,32aよりも、火炎噴出方向で突出した位置に配置された構成とされている。
【0032】
また、図3図5においては詳細な図示を省略しているが、バーナ3を平面視したとき、中心供給管30は、一次燃料供給管31の噴出口31a、二次燃料供給管32の噴出口32a及び一次酸素ガス供給管33の噴出口33aが、それぞれ環状に形成されている。
【0033】
本実施形態においては、上記のように、中心供給管30に設けられる燃料供給管を二重に構成することで、仮に燃料の流速が大きく変化した場合であっても、燃料の流速を一定範囲内に収束させ、ばらつきが生じるのを抑制できる。一方、燃料供給管を1本として構成した場合には、例えば、燃料流体の流量を少なくした状態で流速が極端に遅くなった場合に、火炎長が短くなるか、あるいは燃焼が不安定になるおそれがある。
【0034】
また、本実施形態では、上記のように、一次酸素ガスG1が噴出する噴出口33aが、一次燃料M1及び二次燃料M2が各々噴出する噴出口31a,32aよりも火炎噴出方向で突出した位置に配置されていることで、各燃料流体M1,M2及び一次酸素ガスG1によって形成される火炎2を燃焼効率よく形成することができる。
【0035】
支燃性ガス供給管35は、バーナ3の中心軸に対して平行とされ、中心供給管30の周囲に少なくとも一以上、図4等に示す例では4箇所で同心状に配置されることで、中心供給管30の周囲に支燃性ガスG3のガス流路を形成する。本実施形態においては、支燃性ガス供給管35の吸入口35bに配管75が接続されることで支燃性ガスG3が供給される。そして、支燃性ガス供給管35は、流路先端となる平面視円形状の噴出口35aから、バーナブロック3Aに形成された流路3b内に向けて支燃性ガスG3が噴出するように構成される。また、図示例においては、バーナ3を平面視したとき、支燃性ガス供給管35の4箇所の噴出口35aは、それぞれ円周状に均等に配置して形成されている。
【0036】
さらに、バーナ3には、図5の断面図(図3中に示すB−B断面)に示すように、4箇所に設けられた支燃性ガス供給管35のうち、バーナ3の中心軸を介して対向する2箇所の支燃性ガス供給管35内に挿入されるように、二次酸素ガスG2を供給するための二次酸素ガス供給管34が備えられている。また、二次酸素ガス供給管34は、支燃性ガス供給管35と同様、バーナ3の中心軸に対して平行とされ、同心状に設けられている。この二次酸素ガス供給管34の供給口34bには、配管74が接続されることで二次酸素ガスG2が供給される。そして、二次酸素ガス供給管34の流路先端となる噴出口34aから、二次酸素ガスG2が、支燃性ガス供給管35及び二次酸素ガス供給管34が収容された流路3b内に向けて噴出するように構成されている。また、図5中では詳細な図示を省略しているが、バーナ3を平面視したとき、二次酸素ガス供給管34の計2箇所の噴出口34aは、支燃性ガス供給管35と同様、それぞれ円周上に均等に配置して形成されている。
【0037】
なお、図4,5(図3も参照)においては、計4箇所に設けられた支燃性ガス供給管35のうちの2箇所にのみ、内部に二次酸素ガス供給管34が備えられた例を示しているが、これには限定されない。例えば、4箇所に設けられた支燃性ガス供給管35の全ての内部に、二次酸素ガス供給管34が備えられていてもよい。
さらに、支燃性ガス供給管35及び二次酸素ガス供給管34の設置数は、例えば、6箇所あるいは8箇所程度としてもよく、その設置数や設置位置は、バーナブロック3Aの強度が維持できること等を勘案しながら適宜決定することが可能である。
【0038】
上記のような二次酸素ガス供給管34を備えた構成を採用することで、支燃性ガス供給管35の内部において、支燃性ガスG3に二次酸素ガスG2を加えることが可能になる。これにより、支燃性ガスG3中の酸素濃度を適宜調整することができ、例えば、21体積%〜100体積%の範囲で酸素濃度を調整しながら、支燃性ガスG3を供給することが可能になる。
【0039】
上記のように、支燃性ガスG3中の酸素濃度を調整する方法については後述するが、図示例のような、一部の支燃性ガス供給管35の内部に二次酸素ガス供給管34が配置されていない構成を採用した場合には、例えば、当該支燃性ガス供給管35からの支燃性ガスG3の供給を必要に応じて停止させる制御を行う。即ち、図4中に示すような、内部に二次酸素ガス供給管34が配置されていない支燃性ガス供給管35においては、適宜、支燃性ガスG3の供給を減らすか、あるいは停止することにより、酸素濃度を100体積%まで高めることが可能になる。
【0040】
図3図5に示すように、バーナ3は、一次酸素ガス供給管33の噴出口33aが、バーナブロック3Aを介して、一次燃料供給管31の噴出口31a及び二次燃料供給管32の噴出口32aの周囲を取り囲むように配置されている。また、4箇所の支燃性ガス供給管35の噴出口35aが、二次燃料供給管32の噴出口32aの周囲に同心状で配置されている。
【0041】
上記構成により、バーナ3を燃焼させる際は、まず、噴出口31a,32aから噴出される燃料流体(一次燃料M1及び二次燃料M2)と、噴出口33aから噴出される一次酸素ガスG1とが混合され、流路3aから噴出するように火炎2が形成される。
そして、バーナ3においては、空気からなる支燃性ガスG3が4箇所の噴出口35aから噴出され、さらに、支燃性ガスG3が流路3bから噴出して火炎2に作用することで、安定した火炎2を形成することができる。
【0042】
なお、上記の各構成のうち、バーナのノズル配列や、各噴出口の配置、形状、角度及び数等については、本発明を逸脱しない範囲で、適宜設定したものを採用してもよい。
【0043】
本実施形態の加熱装置1に備えられるバーナ3は、上記のように、二次燃料供給管32の周囲に一次酸素ガス供給管33が配置されている。これにより、一次燃料M1及び二次燃料M2が各々噴出する噴出口31a,32aの近傍における着火性が向上することから、安定した火炎2の形成に寄与できる。
【0044】
また、バーナ3は、上記のように、一次燃料M1及び二次燃料M2が噴出する噴出口32a,32a、並びに一次酸素ガスG1が噴出する噴出口33aの周囲に、バーナブロック3Aを介して、支燃性ガスG3が噴出する噴出口35aが4箇所で円周状に配置されている。これにより、噴出口35aから噴出される支燃性ガスG3が火炎に対して良好に作用し、安定した火炎2が形成できる。さらに、支燃性ガスG3として、二次酸素ガスG2を加えて酸素濃度を高めたガスを供給した場合には、酸素分子に富んだ支燃性ガスG3が火炎に対してより良好に作用し、さらに安定した火炎2が形成できるとともに、被加熱物(溶湯取鍋1)を高温域まで均一に加熱することが可能になる。
【0045】
流量制御部4は、上記のように、バーナ3に供給される一次燃料M1、二次燃料M2、支燃性ガスG3、一次酸素ガスG1及び二次酸素ガスG2の各々の流量を制御しながら、バーナ3の各管に向けて燃料及び各ガスを供給する。
本実施形態の加熱装置1に備えられる流量制御部4は、後述の演算部5から入力される燃焼情報に基づき、バーナ3に供給する燃料流体M1,M2及び支燃性ガスG3の流量をそれぞれ増加もしくは減少させるように制御する。これにより、流量制御部4は、バーナ3に供給する支燃性ガスG3中の酸素濃度を漸次増加させ、被加熱物である溶湯取鍋10の昇温速度を増加させる等の制御を行う。
【0046】
また、流量制御部4は、内部に、複数の開閉弁41,42,43,44,45を備えている。
開閉弁41は、配管71を介してバーナ3の一次燃料供給管31に供給される、一次燃料M1の流量を制御する。また、開閉弁42は、配管72を介してバーナ3の二次燃料供給管32に供給される、二次燃料M2の流量を制御する。
開閉弁43は、配管73を介してバーナ3の一次酸素ガス供給管33に供給される、一次酸素ガスG1の流量を制御する。また、開閉弁44は、配管74を介してバーナ3の二次酸素ガス供給管34に供給される、二次酸素ガスG2の流量を制御する。
開閉弁45は、配管75を介してバーナ3の支燃性ガス供給管35に供給される、支燃性ガスG3の流量を制御する。
【0047】
流量制御部4からバーナ3に向けて、燃料流体として供給する一次燃料M1及び二次燃料M2としては、バーナ3の燃料として適したものであれば特に限定されず、例えば、液化天然ガス(LNG)の他、液化石油ガス(LPG)、ブタンガス等を挙げることができる。
【0048】
また、流量制御部4からバーナ3に向けて供給される一次酸素ガスG1及び二次酸素ガスG2としては、純酸素を用いることが好ましい。しかしながら、工業生産的には、純度が100体積%の純酸素を用いることはコスト面で不利となるため、必ずしも100体積%の純酸素である必要はなく、適宜、所望の酸素濃度、例えば、酸素濃度が概ね90体積%以上の酸素富化ガスを用いてもよい。
【0049】
また、流量制御部4からバーナ3に向けて供給される支燃性ガスG3としては、例えば、大気中から取り込んだ空気を用いることができ、これに、さらに二次酸素ガスG2を加えたものを用いることができる。なお、本実施形態で説明する支燃性ガスG3としては、酸素分子を含むガス、即ち、典型的には空気を用い、さらに、上述のような、二次酸素ガスG2を加えることで酸素濃度が調整されたガスを用いる。
【0050】
なお、本実施形態の加熱装置1においては、流量制御部4が、さらに、以下のような機能を備えていることが好ましい。
例えば、流量制御部4は、バーナ3に供給する支燃性ガスG3中の酸素濃度を、周期的変化をもたせながら漸次増加させつつ、一次燃料M1及び二次燃料M2の流量、もしくは支燃性ガスG3の流量の少なくとも一方を周期的に変化させるように制御してもよい。これとともに、流量制御部4は、バーナ3に供給する総酸素量を、一次燃料M1及び二次燃料M2を完全燃焼させるのに必要な理論酸素量で除した当量比を周期的に変化させ、酸素濃度の周期的変化と、当量比の周期的変化とに位相差を設けることにより、バーナ3の燃焼状態を周期的な振動状態とするように制御してもよい。
また、一次燃料M1及び二次燃料M2の流量、並びに支燃性ガスG3の流量を、それぞれ独立して変化させるように流量制御部4を構成してもよい。
【0051】
上記のように、燃料流体、もしくは支燃性ガスG3の流量を周期的に変化させたり、バーナ3に供給する総酸素量を周期的に変化させたりすることで、バーナ3の燃焼状態を周期的な振動状態とする方法としては、例えば、流量制御部4に備えられる各開閉弁41,42,43,44,45の開閉により、各々の流量を変化させる方法等が挙げられる。
【0052】
また、流量制御部4は、一次燃料M1及び二次燃料M2をバーナ3に供給するとき、一次燃料供給管31に供給する一次燃料M1を一定の流量で供給するとともに、二次燃料供給管32に供給する二次燃料M2の流量を増減させるように制御してもよい。
あるいは、流量制御部4は、一次燃料M1及び二次燃料M2をバーナ3に供給するとき、二次燃料供給管32に供給する二次燃料M2を一定の流量で供給するとともに、一次燃料供給管31に供給する一次燃料M1の流量を増減させるように制御してもよい。
【0053】
演算部5は、溶湯取鍋10に設置された後述の温度測定部6で測定した、溶湯取鍋10内の温度測定値に基づいて演算処理を行い、この結果を、溶湯取鍋10の内部(炉内)における火炎2の燃焼状態の情報として流量制御部4に向けて出力する。
【0054】
温度測定部6は、上述のように溶湯取鍋10内に設置され、炉内温度を測定して、その値を演算部5に送信する。温度測定部6としては、例えば、熱電対等の温度検出手段を何ら制限無く用いることができる。
【0055】
なお、本実施形態では、溶湯取鍋10の炉内状況に適時に対応するため、例えば、溶湯取鍋10内に、温度測定部6以外の検知器(図示略)が配置されていてもよい。また、当該検知器によって検出されたデータを基に溶湯取鍋10内の状況を把握し、自動で燃料流体または酸素ガスや支燃性ガスの流量等を適宜変更するシーケンスプログラムを備えていてもよい。
【0056】
本実施形態においては、酸素濃度が低めの状態から溶湯取鍋10の加熱を開始し、溶湯取鍋10の内壁の温度上昇に合わせて酸素濃度を徐々に高めてゆくことで、温度上昇率を徐々に上げてゆき、効率的に溶湯取鍋10を加熱することができる。
また、酸素濃度及び酸素比を周期的に変化させ、さらに、それらの周期的変化に位相差を設けることで、燃焼排ガス中の窒素酸化物(NOx)の発生を抑制することが可能になる。
【0057】
<被加熱物の加熱方法>
本実施形態の被加熱物の加熱方法について、図1に示すような加熱装置1(図3図5に示すバーナ3も参照)を用いて、溶銑や溶鋼を運搬するために用いられる溶湯取鍋10を予備乾燥する例を挙げて以下に詳述する。
【0058】
本実施形態の加熱方法は、バーナ3に、一次燃料M1及び二次燃料M2(燃料流体)、並びに支燃性ガスG3を供給し、これらの火炎2を熱源として被加熱物である溶湯取鍋10を加熱する方法である。そして、本実施形態においては、バーナ3に供給する支燃性ガスG3中の酸素濃度を漸次増加させることにより、被加熱物である溶湯取鍋10の昇温速度を増加させる。以下に示す例では、溶湯取鍋10が室温まで冷却されている場合に、支燃性ガスG3として空気を用い、これに二次酸素ガスG2を加えて酸素濃度を漸次増加させながら、溶湯取鍋10を加熱する方法について説明する。
【0059】
[被加熱物の加熱手順]
図1に示すように、本実施形態の加熱方法で被加熱物である溶湯取鍋1を加熱する際は、炉蓋12に取り付けられたバーナ3で形成される火炎2により、溶湯取鍋1の容器本体11の内面11bを加熱する。この際、バーナ3で形成される火炎2は鉛直下方に向けて延出し、内面11b全体を均一に加熱する。
バーナ3は、上述した流量制御部4から、以下に説明するような方法で流量が制御された一次燃料M1、二次燃料M2、支燃性ガスG3、一次酸素G1及び二次酸素G2がそれぞれ供給されることで、溶湯取鍋1の加熱に最適な火炎2を形成できるように構成されている。
【0060】
[流体燃料、酸素ガス及び支燃性ガスの供給量の制御]
上述したように、本発明者等は、バーナ3の火炎を熱源として被加熱物を加熱するにあたり、バーナ3に供給する支燃性ガスG3中の酸素濃度を徐々に増加させてゆくことが、短時間で均一に被加熱物を加熱できることを突き止め、本発明を完成させた。
ここで、図2のグラフには、燃料流体(一次燃料M1及び二次燃料M2)及び支燃性ガスG3の流量、並びに支燃性ガス中3の酸素濃度を変化させた場合の、溶湯取鍋10の炉内温度(T)と昇温時間(t)との関係を示している。
【0061】
本実施形態の加熱方法では、支燃性ガスG3として酸素分子を含んだ空気を用い、これに二次酸素ガスG2を徐々に加え、支燃性ガスG3中の酸素濃度を増加させてゆくことで、バーナ3に供給する支燃性ガスG3中の酸素濃度を徐々に増加させることができる。即ち、図2のグラフ中に示すように、支燃性ガスG3として空気を用いた場合、この支燃性ガスG3中の酸素濃度は約21体積%(空気中の酸素濃度)である。そして、支燃性ガスG3に二次酸素ガスG2を徐々に加えてゆくことで、支燃性ガスG3中の酸素濃度は、燃焼開始時の約21体積%から、最終的には約100体積%にまで漸次増加する。ここで、支燃性ガスG3中の酸素濃度が21体積%の状態で燃焼させたときは、二次酸素ガスG2の供給量は0(ゼロ)である。一方、二次酸素ガスG2の供給量を徐々に増加させてゆき、酸素100体積%とした場合には、支燃性ガスG3に当初から含まれていた酸素以外のガスの供給量は0(ゼロ)となる。
【0062】
本実施形態の加熱方法においては、まず、バーナ3に、一次燃料M1及び二次燃料M2と、これら各燃料流体を燃焼させるのに必要な量の支燃性ガスG3を供給し、火炎2を形成する。このときの支燃性ガスG3中の酸素濃度は、図2のグラフ中に示すように約21体積%である。
【0063】
ここで、火炎2から溶湯取鍋10への伝熱効率は、これら火炎2と被加熱物である溶湯取鍋10の温度差に大きく依存する。このため、バーナ3の燃焼条件、即ち、支燃性ガスG3中の酸素濃度や燃料流体の供給量が一定の場合、溶湯取鍋10の炉内温度は、室温からTに上昇する(図2のグラフ中における昇温時間t=0〜tの範囲)。一方、溶湯取鍋10の炉内温度が高くなるにつれて、上記の伝熱効率は低下してゆく。
【0064】
そこで、本実施形態においては、バーナ3で形成した火炎2での加熱による溶湯取鍋10内の温度上昇に伴い、支燃性ガスG3中に二次酸素ガスG2を加えるとともに、その供給量を徐々に増加させてゆく。支燃性ガスG3中の酸素濃度が増加することにより、バーナ3で形成される火炎2の燃焼温度も徐々に高くなってゆく(図2のグラフ中に示す昇温時間t=t〜tの範囲)。これに伴い、溶湯取鍋10の炉内温度も、図2のグラフ中に示す炉内温度T〜Tの範囲で上昇してゆく。
【0065】
このような方法を採用することで、溶湯取鍋10が冷えている場合にはバーナ3による火炎2の温度を低くし、その後、火炎温度を徐々に高くしてゆくことができるので、溶湯取鍋10内において局所的且つ急激な温度上昇が生じるのを防止できる。
そして、溶湯取鍋10内の温度が所定の温度、例えば、1200℃近くまで上昇した場合には、火炎温度をさらに高くすることが好ましい(図2のグラフ中に示す昇温時間t=t〜tの範囲)。この場合、支燃性ガスG3に加える二次酸素ガスG2を増量し、最終的に、支燃性ガスとしてバーナ3に供給するガスの全量を酸素に置き換える(図2のグラフ中における昇温時間t=t〜tの範囲)。このときの溶湯取鍋10の炉内温度は、図2のグラフ中に示す炉内温度Tまで上昇する。
【0066】
上記のように、支燃性ガスG3に二次酸素ガスG2を加えてゆくことで、バーナ3の支燃性ガス供給管35に供給されるガスが徐々に酸素に置き換えられてゆくと、空気中に含まれる燃焼に寄与しない窒素やアルゴンが減少してゆくため、溶湯取鍋10の外部に熱量を持ち出してしまうような燃焼排ガス量も減少してゆく。これにより、単位熱量を得るための燃料流体の供給量を低減する効果が得られる。図2のグラフに示す例においては、燃焼開始時の燃料流体(一次燃料M1及び二次燃料M2)の流量を100としたとき、支燃性ガスG3の酸素濃度を100体積%まで増加させたときの燃料流体の流量は、半分の50にまで低減できることがわかる。
【0067】
一方、一般的なバーナを用いた場合には、燃料の流量を減少させてゆくとバーナの火炎長が短くなる傾向がある。火炎がこのような状態だと、溶湯取鍋内におけるバーナから遠く離れた部位が十分に加熱できなくなることのみならず、溶湯取鍋全体を均一に加熱することが困難になるという問題が生じる。
【0068】
そこで、本実施形態においては、バーナ3に供給する支燃性ガスG3中の酸素濃度を漸次増加させる際、バーナ3に供給する燃料流体(一次燃料M1及び二次燃料M2)全体の流量、もしくは支燃性ガスG3の流量の少なくとも一方を、経時的にみて周期的に変化させることが好ましい。これとともに、バーナ3に供給する支燃性ガスG3中に含まれる酸素濃度に周期的な変化を与えることで、酸素比を周期的に変化させ、酸素濃度の周期的変化と、酸素比の周期的変化とに位相差を設けることにより、バーナ3の燃焼状態を周期的な振動状態(振動燃焼)とすることが好ましい。このように、バーナ3を周期的な振動状態で燃焼させることにより、溶湯取鍋10内にバーナ3による燃焼ガスの対流を生じさせることで、溶湯取鍋10の内面11bを均一に加熱することが可能になる。
【0069】
バーナ3の燃焼状態を周期的な振動状態とする際には、上記のような、流量制御部4に備えられる各開閉弁41,42,43,44,45の開閉により、一次燃料M1、二次燃料M2、一次酸素ガスG1、二次酸素ガスG2及び支燃性ガスG3の各々の流量を適宜変化させる方法を採用できる。
【0070】
ここで、本実施形態で説明する酸素濃度の周期的変化とは、バーナ3に供給される総酸素量(一次酸素ガスG1、二次酸素ガスG2及び支燃性ガスG3に用いる空気中に含まれる酸素の総量)中における酸素濃度が変化することをいう。
【0071】
また、本実施形態で説明する酸素比とは、バーナ3に供給される総酸素量と燃料流体(二次酸素ガスG2及び支燃性ガスG3)の供給量との関係で決まるものであり、バーナ3に供給される総酸素量を、一次燃料M1及び二次燃料M2を完全燃焼させるのに必要な理論酸素量で除した当量比のことをいう。従って、理論的には、酸素比1.0の状態が、酸素を過不足なく用いて完全燃焼することが可能な状態ということができる。
なお、燃料流体にLNGを用いた場合に必要な理論酸素量は、LNGの組成にもよるが、モル比にして、おおよそLNGの2.3倍程度である。
【0072】
さらに、本実施形態においては、一次燃料M1及び二次燃料M2の流量の周期的変化と、上記の酸素濃度及び酸素比の周期的変化とに差を設けた場合には、バーナ3の燃焼時に生成する窒素酸化物(NOx)の発生を抑制する効果も得られる。
【0073】
上述のように、バーナ3に供給される支燃性ガスG3中の酸素ガスの増加速度を、被加熱物である溶湯取鍋10の温度上昇に同期させて高めてゆく方法とした場合には、バーナ3から被加熱物(溶湯取鍋10)への伝熱効率(放射伝熱又は対流伝熱の効率)が低下するのを防止できる。これにより、効率的に被加熱物を加熱することが可能になる。
【0074】
なお、上記の放射伝熱は、例えば、下記式(1)によって表される。
【0075】
【数1】
【0076】
ここで、上記式(1)中における各記号は、以下に示す各々の値である。
Q:伝熱量、
ε:放射率、
σ:ステファン・ボルツマン定数、
:火炎温度、
:被加熱物温度。
【0077】
また、上記の対流伝熱は、例えば、下記式(2)によって表される。
【0078】
【数2】
【0079】
ここで、上記式(2)中における各記号は、以下に示す各々の値である。
Q:伝熱量、
h:熱伝達率、
:火炎温度、
:被加熱物温度。
【0080】
また、支燃性ガスG3中の酸素濃度と火炎2の温度との関係は、例えば、図6のグラフに示すような関係となる。図6は、支燃性ガスG3中の酸素濃度と、断熱理論火炎温度との関係を示すグラフである。
図6中に示すグラフ曲線では、支燃性ガスG3中の酸素濃度が上昇するのに伴い、火炎2の温度も緩やかな曲線を描くように上昇し、酸素濃度が100体積%の場合には、断熱理論火炎温度は約2780℃になる。
【0081】
上記のような加熱方法で被加熱物を加熱することで、被加熱物の温度が高温になるのに従って、バーナ3に供給される支燃性ガスG3中の酸素濃度が高くなるため、伝熱効率が向上し、結果としてバーナ3の燃料供給量が低減される。従って、本実施形態で用いられるバーナ3は、燃料流体(一次燃料M1及び二次燃料M2)の流量の調整幅を大きく確保できる構成とすることが望まれる。このように、燃料流体の流量の調整幅を大きく確保するためには、その流量の大小に関わらず、バーナ3における燃焼状態がより安定性を保つことができるように、バーナ3を構成することが求められる。
【0082】
このため、本実施形態で用いるバーナ3においては、上述したように、バーナ3の中心軸上に二次燃料M2及び一次酸素ガスG1を供給する一次燃料供給管31を配置し、その周囲を取り囲むように二次燃料供給管32を配置している。これにより、例えば、燃料流体(一次燃料M1及び二次燃料M2)の流量が小さい場合には、一次燃料供給管31のみを用いて燃料流体を供給し、燃料流体の流量が大きな場合には、一次燃料供給管31に加えて二次燃料供給管32も用いて燃料流体を供給するように制御することが可能になる。バーナ3を上記のように構成することで、火炎2の形成状態、即ち燃焼状態の安定性をより高めることが可能になる。この場合の一次燃料供給管31及び二次燃料供給管32への燃料流体の供給の有無は、流量制御部4によって制御することができる。
【0083】
ここで、上述したように、燃料流体供給管が1本のみの構成である場合には、燃料流体供給管の断面積は一定であるため、バーナへの燃料流体の供給量が少なくなった際に、燃料流体の流速が小さくなってしまうことから、火炎が安定して形成されないおそれがある。本実施形態においては、上記構成の中心供給管30を備えたバーナ3を用いることで、燃料流体の流量並びに流速が如何なる状態であっても、安定した火炎2を形成することが可能になる。
【0084】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の被加熱物の加熱方法によれば、バーナ3に供給する支燃性ガスG3中の酸素濃度を漸次増加させることによって、被加熱物である溶湯取鍋10の昇温速度を増加させる方法を採用することで、短時間で均一に溶湯取鍋10を加熱できる。これにより、二酸化炭素や窒素酸化物(NOx)等の発生を大幅に削減でき、効率的で環境に配慮した溶湯取鍋10の乾燥・加熱を行うことが可能になる。
【0085】
また、本実施形態の被加熱物の加熱装置1によれば、バーナ3の燃焼状態を演算処理する演算処理部5と、バーナ3に供給する支燃性ガスG3中の酸素濃度を漸次増加させ、溶湯取鍋10の昇温速度を増加させる流量制御部4を備えることで、上記同様、短時間で均一に溶湯取鍋10を加熱できる。これにより、二酸化炭素や窒素酸化物等の発生を大幅に削減でき、効率的で環境に配慮した溶湯取鍋10の乾燥・加熱を行うことが可能な加熱装置1が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の被加熱物の加熱方法及び加熱装置は、被加熱物を、従来に比べて短い時間で均一に加熱することができるとともに、二酸化炭素や窒素酸化物等の発生を大幅に削減できる。従って、本発明を、例えば、製銑や製鋼工場における、溶銑や溶鋼を運搬するための溶銑鍋及び溶鋼鍋(取鍋)を予備加熱する用途に適用した場合には、取鍋内面に設けられた耐火煉瓦の破損等が生じること無く、効率的で環境に配慮した乾燥・加熱を行うことができる観点から、非常に好適である。
【符号の説明】
【0087】
1…被加熱物の加熱装置、
2…火炎、
3…バーナ、
3A…バーナブロック、
3B…バーナブロック固定治具、
30…中心供給管、
31…一次燃料供給管、
31a…噴出口、
31b…供給口、
32…二次燃料供給管、
32a…噴出口、
32b…供給口、
33…一次酸素ガス供給管、
33a…噴出口、
33b…供給口、
34…二次酸素ガス供給管、
34a…噴出口、
34b…供給口、
35…支燃性ガス供給管、
35a…噴出口、
35b…供給口、
4…流量制御部、
41,42,43,44,45…開閉弁、
5…演算部、
6…温度測定部、
61…検出体、
62…温度計、
71,72,73,74,75…配管、
10…溶湯取鍋(被加熱物)、
11…容器本体、
11a…開口、
11b…内面、
12…炉蓋、
M1…一次燃料(燃料流体)、
M2…二次燃料(燃料流体)、
G1…一次酸素ガス、
G2…二次酸素ガス、
G3…支燃性ガス(二次酸素ガスG2も含む)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6