【実施例】
【0019】
以下に、実施例とともに本発明についてさらに詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されない。
<サンプル1−1>
(1)未化成正極板の作製
正極活物質として、鉛粉、酸化鉛、即ち、リサージ(PbO)、鉛丹(Pb
3O
4)などの各種酸化鉛、イオン交換水、続いて比重1.27の希硫酸を加えながら混練して正極用ペーストを作製した。このペーストを鉛−カルシウム合金からなる鋳造基板に充填し、40℃、湿度95%の雰囲気で24時間の熟成・乾燥を行い、未化成正極板を作製した。
【0020】
(2)未化成負極板の作製
負極活物質として、鉛粉、酸化鉛、即ち、リサージ(PbO)、などの各種酸化鉛、プラスチック短繊維(アスペクト比100)、導電性カーボン、硫酸バリウムの粉末を添加し乾式混合した。次にこれにリグニンを水溶液として加え、続いてイオン交換水、希硫酸を添加、混練して負極活物質合剤ペーストを調製した。負極活物質合剤ペーストは、鉛−カルシウム系合金から成る鋳造格子基板に充填した後、40℃、湿度95%の雰囲気で24時間の熟成・乾燥を行い、未化成負極板を作製した。
【0021】
(3)電池組立、電解液の調製と化成
これらの未化成正極板と未化成負極とを多孔性ポリエチレンセパレータを介して積層した後、同極性極板の耳群をCOS方式で溶接して極板群とした。これをポリプロピレン製の電槽に収納し、ヒートシールによって蓋を取り付けた。この時の極板群の圧迫度は15kPaになるようにスペーサーを入れて調整した。そして、硫酸アルミニウムを添加した希硫酸電解液を注入して電槽化成を行い、12V、61Ahの電池工業会規格(SBA規格)Q−85相当の液式鉛蓄電池を作製した。なお、本実施例における負極活物質の平均細孔直径は1.0μm、負極活物質密度は4.1g/cm
3、負極板の厚みは0.9mm、化成後の負極活物質の吸水量は0.08g−水/g−活物質、電解液中のアルミニウムイオン濃度は20mmol/Lであった。
【0022】
(4)充放電試験
作製した上記鉛蓄電池の活物質利用率および充電受入性能を評価するため、下記充放電試験を行った。活物質利用率は、容量測定の形で、SBA S 0101に準拠し測定を行った。すなわち、25℃の水槽にて満充電後5時間静置し、20時間率電流に相当する3.05(A)の電流値にて10.5Vとなるまで放電を実施し、60.0(Ah)の容量を得て、このときの負極活物質利用率は50.3%となった。また、充電受入性能もSBA S 0101に準拠し試験を行った。すなわち、25℃の水槽にて満充電後24時間静置し、20時間率電流の3.42倍に相当する10.43Aで30分間放電を実施した。24時間経過後、200A、14.5Vにて10秒間の充電を実施し、700A・sの充電受入容量を得た。さらにSBA S 0101記載の寿命試験を実施し、36000サイクルにて寿命となった。
【0023】
なお、ハイブリッド車用途の鉛蓄電池において、充電受入性能、活物質利用率および寿命性能の三性能は必須であり、どの性能も欠けることはあってはならない。以後に記載する各表に総合評価として、上記三性能を全て満たした水準を○、その中で特に優れた性能となった水準を◎、満足しない性能が1つある水準を△、満足しない性能が2つ以上、または極端に満足しない性能が1つある水準を×とした。
【0024】
<サンプル1−2>
平均細孔直径が2.5μmである負極活物質を用いた以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率51.3%、充電受入容量703A・s、36000サイクルにて寿命となった。
<サンプル1−3>
平均細孔直径が4.0μmである負極活物質を用いた以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率51.8%、充電受入容量705A・s、36000サイクルにて寿命となった。
<サンプル1−4>
活物質密度が4.2g/cm
3である負極活物質を用いた以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率49.5%、充電受入容量697A・s、38400サイクルにて寿命となった。
<サンプル1−5>
活物質密度が4.3g/cm
3である負極活物質を用いた以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率48.5%、充電受入容量692A・s、40800サイクルにて寿命となった。
【0025】
<サンプル1−6>
負極板の厚みが1.0mmである極板を用いた以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率49.9%、充電受入容量710A・s、38400サイクルにて寿命となった。
<サンプル1−7>
負極板の厚みが1.1mmである極板を用いた以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率49.2%、充電受入容量715A・s、40800サイクルにて寿命となった。
<サンプル1−8>
電解液中のアルミニウムイオン濃度が100mmol/Lである意外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、正極活物質利用率48.0%、充電受入容量721A・s、36000サイクルにて寿命となった。
<サンプル1−9>
電解液中のアルミニウムイオン濃度が200mmol/Lである以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、正極活物質利用率47.1%、充電受入容量699A・s、33600サイクルにて寿命となった。
【0026】
<サンプル1−10>
平均細孔直径が0.5μmである負極活物質を用いた以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率42.3%、充電受入容量620A・s、31200サイクルにて寿命となった。
<サンプル1−11>
平均細孔直径が5.0μmである負極活物質を用いた以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率48.3%、充電受入容量650A・s、28800サイクルにて寿命となった。
<サンプル1−12>
活物質密度が4.0g/cm
3である負極活物質を用いた以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率50.5%、充電受入容量680A・s、28800サイクルにて寿命となった。
<サンプル1−13>
活物質密度が4.4g/cm
3である負極活物質を用いた以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率41.0%、充電受入容量640A・s、40800サイクルにて寿命となった。
【0027】
<サンプル1−14>
負極板の厚みが0.8mmである極板を用いた以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率52.0%、充電受入容量601A・s、28800サイクルにて寿命となった。
<サンプル1−15>
負極板の厚みが1.2mmである極板を用いた以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率44.1%、充電受入容量654A・s、43200サイクルにて寿命となった。
<サンプル1−16>
電解液中のアルミニウムイオン濃度が10mmol/Lである意外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、正極活物質利用率52.4%、充電受入容量555A・s、40800サイクルにて寿命となった。
<サンプル1−17>
電解液中のアルミニウムイオン濃度が300mmol/Lである以外、サンプル1−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、正極活物質利用率41.1%、充電受入容量580A・s、33600サイクルにて寿命となった。
【0028】
【表1】
【0029】
試験結果は、上記表1に示されるように、サンプル1−1から1−9は、活物質利用率、充電受入容量、および寿命特性の全てが高いレベルで実現できているのに対し、サンプル1−10から1−17では、活物質利用率、充電受入容量、寿命特性の3つの性能の少なくとも一つが欠けている結果となった。より詳細には、平均細孔直径が小さ過ぎると利用率の低下および充電受入性能の低下を引き起こし、逆に大き過ぎる場合、寿命性能の低下を招く。活物質密度は、低過ぎると容量低下に起因する寿命性能低下、高過ぎると利用率の低下を引き起こす。極板の厚みは、薄過ぎると寿命性能低下、厚過ぎると利用率の低下を招く。なお、電解液添加剤は、低濃度では充電受入効果が出ないが、逆に濃度が高過ぎても充電受入性能の低下を引き起こす。詳細は定かではないが、アルミニウムイオンの鉛イオントラップ機能の効果よりも、電解液抵抗の増加による早期充電上限電圧の到達の影響が相対的に大きくなることが理由として考えられる。
【0030】
<サンプル2−1(1−1)>
本サンプルはサンプル1−1であり、比較のために示したものである。本実施例における負極活物質の平均細孔直径は1.0μm、負極活物質密度は4.1g/cm
3、負極板の厚みは0.9mm、化成後の負極活物質の吸水量は0.08g−水/g−活物質、電解液中のアルミニウムイオン濃度は20mmol/Lであり、先の評価の結果、負極活物質利用率50.3%、充電受入容量700A・s、36000サイクルにて寿命であった。
<サンプル2−2>
化成後の負極活物質の吸水量が0.10g−水/g−活物質である以外、サンプル2−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率51.3%、充電受入容量703A・s、36000サイクルにて寿命となった。
【0031】
<サンプル2−3>
化成後の負極活物質の吸水量が0.12g−水/g−活物質である以外、サンプル2−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率51.8%、充電受入容量705A・s、36000サイクルにて寿命となった。
<サンプル2−4>
化成後の負極活物質の吸水量が0.07g−水/g−活物質である以外、サンプル2−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率45.3%、充電受入容量670A・s、31200サイクルにて寿命となった。
<サンプル2−5>
化成後の負極活物質の吸水量が0.13g−水/g−活物質である以外、サンプル2−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率52.3%、充電受入容量650A・s、28800サイクルにて寿命となった。
【0032】
【表2】
【0033】
試験結果は、上記表2に示されるように、サンプル2−1(1−1)から2−3は、活物質利用率、充電受入容量、軽負荷寿命特性の全てが高いレベルで実現できているのに対し、サンプル2−4および2−5では、活物質吸水量が0.08g−水/g−活物質未満、または0.12g−水/g−活物質超過であり、発明の効果は見られるものの、顕著な効果はなく、改善の余地がある結果となった。
より詳細には、活物質吸水量が小さ過ぎると利用率の低下および充電受入性能の低下を引き起こし、逆に大き過ぎる場合、寿命性能の低下を招く。活物質密度は、低過ぎると寿命性能低下、高過ぎると利用率の低下を引き起こす。極板の厚みは、薄過ぎると寿命性能低下、厚過ぎると利用率の低下を招く。なお、電解液添加剤は、低濃度では充電受入効果が出ないが、逆に濃度が高過ぎても充電受入性能の低下を引き起こす。詳細は定かではないが、アルミニウムイオンの鉛イオントラップ機能の効果よりも、電解液抵抗の増加による早期充電上限電圧への到達の影響が相対的に大きくなることが理由として考えられる。
【0034】
<サンプル3−1(1−1)>
本サンプルはサンプル1−1と同じであり、比較のために示したものである。本実施例における負極活物質の平均細孔直径は1.0μm、負極活物質密度は4.1g/cm
3、負極板の厚みは0.9mm、化成後の負極活物質の吸水量は0.08g−水/g−活物質、電解液中のアルミニウムイオン濃度は20mmol/L、負極活物質中のプラスチック短繊維のアスペクト比が100であり、先の評価結果、負極活物質利用率50.3%、充電受入容量700A・s、36000サイクルにて寿命であった。
【0035】
<サンプル3−2>
負極活物質中のプラスチック短繊維のアスペクト比が150である以外、サンプル3−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率51.3%、充電受入容量703A・s、36000サイクルにて寿命となった。
<サンプル3−3>
負極活物質中のプラスチック短繊維のアスペクト比が200である以外、サンプル3−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率51.8%、充電受入容量705A・s、36000サイクルにて寿命となった。
<サンプル3−4>
負極活物質中のプラスチック短繊維のアスペクト比が300である以外、サンプル3−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率45.3%、充電受入容量670A・s、31200サイクルにて寿命となった。
<サンプル3−5>
負極活物質中のプラスチック短繊維のアスペクト比が50である以外、サンプル3−1と同様の方法で鉛蓄電池の作製・評価を行い、負極活物質利用率52.3%、充電受入容量680A・s、28800サイクルにて寿命となった。
【0036】
【表3】
【0037】
試験結果は、上記表3に示されるように、サンプル3−1から3−3は、活物質利用率、充電受入容量、軽負荷寿命特性の全てが高いレベルで実現できているのに対し、サンプル3−4および3−5では、負極活物質中のプラスチック短繊維のアスペクト比が200超過、または100未満であり、発明の効果は見られるものの、顕著な効果はなく、改善の余地がある結果となった。
より詳細には、負極活物質中のプラスチック短繊維のアスペクト比が小さ過ぎると利用率の低下および充電受入性能の低下を引き起こし、逆に大き過ぎる場合、寿命性能の低下を招く。活物質密度は、低過ぎると寿命性能低下、高過ぎると利用率の低下を引き起こす。極板の厚みは、薄過ぎると寿命性能低下、厚過ぎると利用率の低下を招く。なお、電解液添加剤は、低濃度では充電受入効果が出ないが、逆に濃度が高過ぎても充電受入性能の低下を引き起こす。詳細は定かではないが、アルミニウムイオンの鉛イオントラップ機能の効果よりも、電解液抵抗の増加による早期充電上限電圧への到達の影響が相対的に大きくなることが理由として考えられる。
【0038】
現在の自動車用鉛蓄電池の主流であるハイブリッド車用途では、充電受入性能、活物質利用率および寿命性能の3つの性能は必須であり、どの性能も欠けることはあってはならない。特に、電解液中にアルミニウムイオンが20mmol/L以上200mmol/L以下含まれた鉛蓄電池においては、負極板に関するパラメータを最適値の範囲内に設定することが重要であることが示された。
【0039】
以上より、電解液中にアルミニウムイオンが20mmol/L以上200mmol/L以下含まれた鉛蓄電池において、負極活物質の平均細孔直径、吸水量、負極活物質中の短繊維のアスペクト比、活物質密度、および負極板の厚みを最適値の範囲内に設定することにより、回生受入性能と活物質利用率、さらには寿命性能を兼ね備えた鉛蓄電池の提供が可能であることが示され、ハイブリッド車をはじめとした自動車のさらなる性能改善への効果が期待される。
本実施形態によれば、充電受入性能、活物質利用率およびPSOC寿命性能に優れた鉛蓄電池の提供が可能となり、自動車業界をはじめとする産業界に多大な効果をもたらすものと考えられる。