(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、薄く柔軟なプラスチック製ウエブの基材に電子回路を直接印刷する、いわゆるプリンテッドエレクトロニクスが注目されている。プリンテッドエレクトロニクスの進歩により、例えば、リチウムイオン2次電池や太陽電池、有機ELパネル、電子ペーパー等において、高機能なフレキシブル電子デバイスが実用化されており、これら工業製品の市場の拡大にともなってフレキシブル電子デバイスの需要も高まりつつある。
【0003】
大量生産に適した印刷方式に、原反からウエブを連続的に巻き出しながら印刷を行い、印刷したウエブをロール状に巻き取る、いわゆるロールツーロール方式がある。ロールツーロール方式を用いて印刷を繰り返せば、複雑な電子回路を有するフレキシブル電子デバイスであっても大量生産が可能になる。そこで、ロールツーロール方式による印刷プロセスに、プリンテッドエレクトロニクスの技術を適用して、フレキシブル電子デバイスを量産する試みが検討されている。
【0004】
しかし、ロールツーロール方式の印刷プロセスでは、ウエブの巻取時に、印刷や加工の精度に悪影響を及ぼし得る様々な不具合が発生する場合があり、これら不具合の抑制が、フレキシブル電子デバイスの大量生産を実現するうえで重要な課題となっている。その主な不具合を
図1〜
図3に示す。
【0005】
図1は、ロール内部で巻き付け方向に生じるウエブの変形であり、ロールの端面に周方方向に波打つようなシワが形成される不具合である(シワ:スターディフェクトとも呼ばれる)。
図2は、ロールの巻き崩れであり、ロールの端面に軸方向にウエブのずれが形成される不具合である(スリップ:テレスコープとも呼ばれる)。
【0006】
そして、
図3は、ウエブの表面に環状の線状突起が形成される不具合である(ゲージバンド)。ゲージバンドは、ウエブの幅方向の厚みムラ(不均等)に起因して発生する。すなわち、ウエブの厚みは一様ではなく、規格で定められた公差を満たしていても、その幅方向には、数μmやnmレベルの僅かな厚み分布が存在している。ゲージバンドは、そのような厚みの大きい部位どうし、厚みの小さい部位どうしが多層に重なることによって発生する。幅方向の厚みムラは、ゲージバンドだけでなく、ロール内部の応力分布のばらつきを大きくするという問題もある。
【0007】
これら不具合を抑制するためには、ウエブの状態に合わせて適切な巻取張力でウエブを巻き付けていく必要があるが、その巻取張力の設定は容易でない。巻き付けられるウエブは、その内層のウエブを圧迫するだけでなく、その外層のウエブから圧迫されるので、巻数や巻取張力が変化すると、それに伴って巻き付けたウエブに加わる応力が変化する。つまり、巻き終わらないとその内部応力の分布は確定しないので、巻取張力を適切に予測して設定することは非常に難しい。
【0008】
従来より、巻取張力の設定方法の一つとして、巻取半径に応じて巻取張力を低減させる方法(いわゆるテーパテンション)が知られている。しかし、テーパテンションは、専ら経験に基づいているため、適切とは言えず、設定にばらつきがあるうえに時間と手間を要し、拡張性に欠ける難点がある。
【0009】
そこで、ウエブを巻き取る理論モデルを用いて巻取ロールの内部応力を解析し、その解析結果に基づいて最適な巻取張力を設定する方法が検討されている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。特に、非特許文献1には、理論モデルに基づいて巻取ロールの内部応力を解析する手法の基本的な技術が開示されており、その技術は本発明においても用いている。
【0010】
理論モデルによる解析により、シワ及びスリップは、
図4に示すように、ロール内部の各層のウエブに作用する半径方向応力σr及び接線方向応力σtと密接な関連があることが解明されている。例えば、シワは、巻取張力が高過ぎることによって、ロール内部のウエブで接線方向応力σtが負の値となり、円周方向に圧縮力が作用した場合などに発生する。また、スリップは、巻取張力が低く過ぎることによって、ウエブ間での適切な摩擦力を得るだけの半径方向応力σrが生じない場合などに発生する。
【0011】
特許文献1には、理論モデルとして、Hakielモデルや、Hakielモデルを拡張した拡張Hakielモデルを用いて巻取張力を設定する方法が開示されている。特許文献1では、ウエブの幅方向の厚みは一様であるとの仮定の下で、これら理論モデルを用いて内部応力を解析し、ニップローラの荷重とともに巻取張力を最適化することによってシワ及びスリップの発生を抑制している。
【0012】
一方、ゲージバンドは、ウエブの幅方向の厚みムラに起因して発生するため、ゲージバンドの発生を抑制するには、ウエブの幅方向の厚みムラを考慮する必要がある。従って、この厚みムラが考慮されていない特許文献1の方法では、ゲージバンドの発生は抑制できない。
【0013】
それに対し、特許文献2では、幅方向の厚みが不均等なウエブを仮定した理論モデルを用いて内部応力の解析が行われている。具体的には、特許文献2では、ウエブロールを幅方向に輪切りして複数の分割モデルを作成し、分割モデルごとに解析が行われる。そして、製造するウエブロールと同じウエブを実際に巻き取って評価用のダミーロールを作製し、各分割モデルで算出される径ごとの応力と、ダミーロールで不良が発生した径とから、不良が発生しうる不良発生応力範囲を求め、各径での応力が不良発生応力範囲に含まれなくなるまで応力計算をやり直すことで、最適な巻取張力を設定している。
【0014】
しかし、
特許文献2では、幅方向の両端部に厚みの大きいローレットを有する特定のウエブが対象となっており、そのウエブ形状を前提に各分割モデルの張力を算出しているため、ウエブの幅方向の全域に分布する厚みムラに起因して発生するゲージバンドの抑制には適していない。
【0015】
ゲージバンドの抑制を目的としたウエブ巻き取り装置も提案されている(特許文献3)。特許文献3では、幅方向の複数の箇所で、押圧ロール(ニップロールに相当)の外径及び外周面の硬度を調整できるように、押圧ロールの内部が圧力調整可能な複数の室に区画されている。そして、事前に測定されるウエブの厚さ分布に基づいて、巻き取られるウエブの形状に沿うように押圧ロールの各箇所の外形及び外周面の硬度を変化させることでゲージバンドを抑制している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ゲージバンドの発生箇所や発生数は一様でない。そのため、ゲージバンドを精度高く抑制するには、ウエブを幅方向に細分化して対処する必要があるが、特許文献3の方法では、押圧ロールの室の細分化に限度があり、ゲージバンドの抑制精度は低くならざるを得ない。押圧ロールの室を細分化すればそれだけ押圧ロールの構造が複雑になり、その制御も困難になるため、実用化も難しい。
【0019】
そこで本発明の目的は、実用化が比較的容易なうえに、特にゲージバンドの発生の抑制に有効な
ウエブ巻取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、巻径に応じて巻取張力を変化させならウエブを巻芯に巻き取るウエブ巻取方法である。前記ウエブの幅方向における厚みの分布を計測する第1ステップと、前記ウエブの幅方向のうち、最も厚みの大きい最厚部位を抽出する第2ステップと、前記最厚部位に基づいて前記巻取張力を設定する第3ステップと、を含むことを特徴とする。
【0021】
すなわち、本発明のウエブ巻取方法によれば、ウエブの幅方向の厚みの分布を計測し、その中で最も厚みの大きい最厚部位に基づいて巻取張力が設定される。
【0022】
ゲージバンドは、ウエブの幅方向の厚みの大きい部位で発生する傾向があることから、ウエブを巻き取る前に、厚みの大きい最厚部位を特定し、その最厚部位を基準に巻取張力を変化させることで、シワやスリップだけでなく、ゲージバンドも抑制できるようになる。
【0023】
更に、前記第2ステップで、前記ウエブを幅方向に複数のウエブ要素に区分けし、当該ウエブ要素ごとに厚みの平均値を求め、当該厚みの平均値が最も大きい最厚ウエブ要素を抽出する処理が行われ、前記第3ステップで、前記最厚ウエブ要素の厚みの平均値から、巻き取り後に前記最厚ウエブ要素に作用する巻径ごとの接線方向応力を理論モデルに基づいて解析し、当該接線方向応力が、負の値にならないように前記巻取張力を設定する処理が行われるようにするのが好ましい。
【0024】
そうすれば、最厚ウエブ要素を、従来の理論モデルのロールとして取り扱うことができるようになるので、処理負担を大幅に軽減できる。経験則ではなく、理論に基づいて巻取張力を設定することができるため、精度や拡張性の向上が図れる。
【0025】
この場合、更に、前記第3ステップで、前記最厚ウエブ要素の巻き取り後の弾性収縮量を理論モデルに基づいて解析し、当該弾性収縮量に基づいて前記巻取張力を補正する処理が行われるようにするのがより好ましい。
【0026】
そうすれば、巻取後のウエブの弾性収縮量が考慮された、より高精度な巻取張力の設定が可能になるので、設定される巻取張力の精度が向上し、より安定したシワ、スリップ、ゲージバンドの抑制が実現できる。
【0027】
このようなウエブ巻取方法を用いてウエブを巻き取るウエブ巻取装置としては、例えば、前記巻芯を回転駆動するモータと、前記巻取張力を調整する張力調整装置と、前記張力調整装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置が、前記第2ステップ及び前記第3ステップの処理を実行する張力設定部を有しているようにすればよい。
【0028】
このウエブ巻取装置によれば、既存のシステムにソフトウエアを増設するだけで実現できるため、汎用性に優れる。
【0029】
更に、前記制御装置が、前記最厚ウエブ要素の巻き取り後の弾性収縮量を理論モデルに基づいて解析し、当該弾性収縮量に基づいて前記巻取張力を補正する張力補正部を有しているようにするのが好ましい。
【0030】
そうすれば、より高精度な巻取張力の設定が可能になるため、より安定してシワやスリップ、ゲージバンドを抑制できるようになる。
【0031】
上述したウエブ巻取方法は、巻芯にウエブを巻き取って形成されるロールの内部の半径方向応力の分布を理論モデルを用いて解析する応力解析を行い、その解析結果に基づいて巻取張力を変化させながらウエブを巻き取るウエブ巻取方法
としてもよい。
【0032】
具体的には、前記ロールの半径方向位置に対する前記巻取張力を表す張力関数を設定する張力関数設定ステップと、前記ロールの内部における前記ウエブの層間摩擦力を、スリップが発生し得る臨界摩擦力に漸近させる関係式を含む目的関数を定義する目的関数定義ステップと、前記層間摩擦力は前記臨界摩擦力以上とする第1制約条件を定義する第1制約条件定義ステップと、前記半径方向応力の最大値はゲージバンドが発生し得る臨界半径方向応力以下とする第2制約条件を定義する第2制約条件定義ステップと、前記第1制約条件及び前記第2制約条件による制約の下で、所定の初期張力から、前記目的関数が最小となるまで、前記張力関数の演算を繰り返すことにより、当該張力関数を最適化する張力関数最適化ステップと、を備える。
【0033】
このウエブ巻取方法によれば、まず、層間摩擦力が臨界摩擦力以上とする第1制約条件の制約下で、ウエブの層間摩擦力を臨界摩擦力に漸近させる関係式を含む目的関数が最小となるまで、演算を繰り返して張力関数を最適化するので、スリップが発生し得ない半径方向応力の適切な下限が特定でき、スリップの発生を抑制できる張力関数の最適化が精度高く行える。
【0034】
更に、半径方向応力の最大値はゲージバンドが発生し得る臨界半径方向応力以下とする第2制約条件の下で、張力関数の最適化が行われるので、ゲージバンドが発生し得ない半径方向応力の上限が特定でき、ゲージバンドの発生を抑制できる張力関数の最適化が行える。従って、このような応力解析によって最適化された張力関数に基づいて巻取張力を変化させながらウエブを巻き取ることで、ゲージバンドやスリップの発生を効果的に抑制しながらウエブを巻き取ることが可能になる。
【0035】
しかも、いったん応力解析によって最適化した張力関数を取得すれば、その後は、同一品種のウエブであれば、その張力関数を用いることで適切に巻き取ることができる。従って、拡張性、利便性に優れる。大掛かりな機械的変更を行わずに、対応するソフトウエアを実装等するだけで実現できるので、既存のウエブ巻取装置が利用でき、実用化も比較的容易にできる。
【0036】
特に、前記ロールの内部の接線方向応力が負の値とならないようにするのが好ましい。
【0037】
そうすれば、シワの発生も防止でき、巻取時に発生する主立った不具合を抑制することができる。
【0038】
具体的には、前記ロールを幅方向に複数のロール要素に区分けし、前記ウエブの幅方向における厚みムラによって巻取時に発生する張力分布を、前記複数のロール要素を用いて取得する張力分布取得ステップを、更に備え、
上述した発明と同様に、前記ロール要素の各々に前記理論モデルを適用して前記応力解析が行われるようにするとよい。
【0039】
上述したように、ゲージバンドは、ウエブの幅方向の厚みムラに起因して発生するため、この幅方向の厚みムラを考慮して応力解析を行うことで、ゲージバンドの発生をより精度高く抑制することが可能になる。そして、ロールを複数のロール要素に区分けし、厚みムラによって巻取時に発生する張力分布を取得する際に、これらロール要素の各々に理論モデルを適用して応力解析が行われるので、従来の理論モデルを利用した1次元問題として扱うことができ、解析負担を軽減できる。
【0040】
また、前記目的関数定義ステップで、前記ロール要素ごとに得られる前記半径方向応力の各々の最大値と最小値との差を最小化させる関係式を更に含んで前記目的関数が定義されているようにしてもよい。
【0041】
そうすれば、ゲージバンドが発生し得ない半径方向応力の上限の特定が、より適切に行えるので、張力関数の最適化がよりいっそう精度高く行える。
【0042】
更に、
上述した発明と同様に、前記巻芯に巻き取られる前記ウエブの弾性収縮量を考慮して前記応力解析が行われるようにしてもよい。
【0043】
ウエブが弾性を有する場合には、ロール内部のウエブは締め付けによって弾性変形し、収縮が生じる。従って、そのような場合に、弾性収縮量を考慮して応力解析を行えば、より高精度な応力解析が行えるので、張力関数の最適化が更にいっそう精度高く行える。
【0044】
特に、前記ウエブの厚みの平均値は140μm以下であるのが好ましい。
【0045】
ゲージバンドは、ウエブの厚みが薄く、柔軟なほど発生し易い傾向があるが、後述する検証試験結果から、平均値が140μmの厚みの大きなウエブにおいても良好な結果が認められたことから、少なくともそれ以下の厚みの、ゲージバンドが発生し易いウエブであれば、ゲージバンド等の発生をより効果的に抑制できる。
【0046】
このウエブ巻取方法は、例えば、巻取張力を変化させながら巻芯にウエブを巻き取るウエブ巻取装置であって、前記巻芯を回転駆動するモータと、前記モータの回転速度を制御して前記巻取張力を変化させる張力調整装置とを備えたウエブ巻取装置に適用し、前記張力調整装置の制御が、上述したようなウエブ巻取方法を用いて最適化した前記張力関数に基づいて行われるようにすればよい。
【0047】
このウエブ巻取方法によれば、特殊な機械的構造は不要であるため、このような簡素な構造のウエブ巻取装置にも適用可能である。従って、高額なコストを要さず比較的容易に実現できる。
【発明の効果】
【0048】
本発明のウエブ巻取方法及びウエブ巻取装置によれば、実現が比較的容易なうえに、巻取時に発生するゲージバンド等の不具合を効果的に抑制できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0051】
<第1実施形態>
(ウエブ巻取装置)
図5に、本実施形態のウエブ巻取装置1Aの概要を示す。
【0052】
ウエブ巻取装置1Aは、図外の巻出装置に装着したロールから巻き出され、ガイドローラ等で案内されながら搬送されるウエブWを、ロール状に巻き取る装置である。
【0053】
ウエブ巻取装置1Aは、支持軸2、モータ3、ニップローラ4、荷重調整装置5、張力調整装置6、制御装置7などで構成されている。
【0054】
支持軸2は、ウエブWを巻き取る巻芯8を脱着可能に支持する。モータ3は、支持軸2に連結されており、支持軸2を介して巻芯8を回転駆動する。モータ3には、張力調整装置6が付設されている。張力調整装置6により、モータ3の回転速度が制御され、巻芯8に巻き取られるウエブWの巻取張力Twが調整される。すなわち、張力調整装置6によってモータ3の回転速度が連続的に増減されることで、巻芯8に巻き取られるウエブWの巻取張力Twが変化する。
【0055】
ニップローラ4は、巻芯8に向かって進退し、巻芯8に巻き取られたウエブWのロール(単にロールRともいう)の外周面に圧接するように構成されている。ニップローラ4には、ロールRに押し付ける荷重を調整する荷重調整装置5が付設されている。荷重調整装置5により、ニップローラ4とロールRとの間に作用する荷重が調整される。
【0056】
制御装置7は、張力調整装置6、荷重調整装置5、モータ3を総合的に制御する、いわゆるコンピュータシステムである。制御装置7には、CPUやメモリ、モニター、キーボード等のハードウエアが備えられ、制御プログラム、各種データ等のソフトウエアが実装されている。
【0057】
制御装置7には、張力調整装置6を制御する張力制御部7a、荷重調整装置5を制御する荷重制御部7b、演算に用いられる数式等の各種データを記憶する記憶部7cなどが備えられている。
【0058】
(ウエブ)
ウエブWは、PEやPP、PET等の、弾性を有するプラスチックシートからなる。ウエブWは、単一のシートでもよいし、複数のシートを貼り合わせて形成されるラミネートシートであってもよい。このようなウエブWは、所定の規格基準(例えば、JISK7130等)を満たしている場合でも、成形時の金型の癖やシートの積層状態の偏りなどにより、巻取方向に連続した、幅方向の厚みムラが生じ易い傾向がある。
【0059】
ウエブWは、例えば、数100回の巻数で巻芯8に巻き付けられるため、このような厚みムラがあると、厚みの大きい部位とそうでない部位とで、巻き終わり後の総厚の差が大きくなる。そのため、
図6に強調して示すような厚みムラのあるウエブWでは、ウエブWの幅方向の厚みの大きい部位で、ゲージバンドが発生する。
【0060】
そこで、本実施形態のウエブ巻取装置1Aでは、ウエブWを巻き取る前に、ウエブWの幅方向の厚み分布を計測することにより、厚みの大きい部位を特定し、その特定部位を基準に巻取張力Twを変化させることで、シワやスリップだけでなく、ゲージバンドも抑制できるようにしている。
【0061】
(ウエブ巻取方法)
本方法では、まず、ウエブWの幅方向における厚み分布を計測する(第1ステップ)。通常、ウエブWの厚みは数100μm程度であり、その厚みムラは1μm以下である。従って、ミクロン単位の厚みを精度高く計測できる測定器を用いて、ウエブWの幅方向の厚み分布を連続的又は断続的に計測する。
【0062】
厚み分布の計測は、手動で行ってもよいが、自動計測器を用いて自動的に行うのが好ましい。例えば、ウエブWの幅方向に走査して、その厚みを計測する自動計測器を、制御装置7に電気的に接続する。そうして、その自動計測器で計測した計測値を、自動的に制御装置7に入力することなどが考えられる。
【0063】
そうして、ウエブWの幅方向のうち、最も厚みの大きい最厚部位を抽出する(第2ステップ)。手動で厚み分布を計測した場合には、制御装置7に抽出した最厚部位の厚みを入力する。自動計測器を用いて自動的に行った場合には、制御装置7で、計測値を比較することにより、最厚部位を自動的に抽出すればよい。
【0064】
制御装置7は、入力された最厚部位の厚みに基づいて巻取張力Twを設定する(第3ステップ)。
【0065】
記憶部7cには、経験則に基づいて設定された巻取張力Twの低減率などのデータが記憶されている。張力制御部7aや荷重制御部7bは、これらデータに基づいて張力調整装置6及び荷重調整装置5を制御する。
【0066】
張力制御部7a及び荷重制御部7bが張力調整装置6及び荷重調整装置5を制御することにより、ウエブWは、巻径に応じて最適な巻取張力Twに調整された状態で巻芯8に巻き取られるように設定されている。
【0067】
このウエブ巻取装置1Aでは、入力された最厚部位の厚みに基づいて巻取張力Twが設定される。従って、ゲージバンドが最も発生し易い最厚部位の巻取張力Twが最適化されるため、最厚部位でのシワ、スリップ、ゲージバンドを抑制できる。
【0068】
最厚部位だけでなく、それ以外の厚みの大きい部位についても、最厚部位以上に巻取張力Twが小さくなるため、シワ、スリップ、ゲージバンドを抑制できる。従って、極めて簡単に、ウエブWの全体についてシワ、スリップ、ゲージバンドの発生を抑制しながら、適切に巻き取ることができる。
【0069】
<第2実施形態>
第1実施形態では、経験則に基づいて巻取張力Twの調整が行われるため、精度や拡張性の面で不足する場合がある。そこで、本実施形態では、精度や拡張性を向上できるように、理論モデルに基づく応力解析により、巻取張力Twが調整されるように構成されている。
【0070】
図7に、本実施形態のウエブ巻取装置1Bを示す。制御装置7には、第1実施形態の構成に加え、更に、理論モデルに基づいて巻取張力Twを設定する張力設定部7dが備えられている。その他の構成については、第1実施形態と同様であるため、同じ符号を用いてその説明は省略する(後述する第3実施形態も同様)。
【0071】
張力設定部7dには、従来の理論モデルに基づいて導出された制御プログラムが実装されており、記憶部7cには、その制御プログラムで用いられる数式やデータ等が記憶されている。
【0072】
ここで用いられる従来の理論モデルとしては、特許文献1に開示されているHakielモデルや拡張Hakielモデルが挙げられる。本実施形態の場合、ニップローラ4が備えられているため、ニップローラ4の加重や空気の巻き込みが考慮されている拡張Hakielモデルを用いるのが好ましい。なお、これら理論モデルについては公知であるため、その具体的な説明は省略する。
【0073】
本実施形態では、第2ステップにおいて、応力解析を容易にする前処理が行われる。
【0074】
具体的には、
図8に示すように、ウエブWを幅方向に複数のウエブ要素Waに区分けする。そうして、ウエブ要素Waごとに厚みの平均値を求め、厚みの平均値が最も大きい最厚ウエブ要素Wa’を抽出する。
【0075】
このように、ウエブWを幅方向に細分化し、幅方向の厚みが一様な最厚ウエブ要素Wa’を抽出することで、最厚ウエブ要素Wa’を、従来の理論モデルのロールRとして取り扱うことができるようになる。それにより、最厚ウエブ要素Wa’の内部応力の解析において、従来の理論モデルがそのまま適用できる。
【0076】
そうして、第3ステップにおいて、最厚ウエブ要素Wa’の厚みの平均値から、巻き取り後に最厚ウエブ要素Wa’に作用する巻径ごとの接線方向応力を、従来の理論モデルに基づいて解析し、接線方向応力が、巻始めてから巻き終わるまで、負の値にならないように巻取張力Twを設定する。
【0077】
本実施形態の場合、複雑な処理を要する内部応力の解析に際しては、従来の理論モデルがそのまま適用できるうえに、ウエブWの全体ではなく、最厚ウエブ要素Wa’だけについて解析を行えばよいため、処理負担を大幅に軽減できる。
【0078】
そして、経験則ではなく、理論に基づいて巻取張力Twを設定することができるため、精度や拡張性の向上が図れる。
【0079】
<第3実施形態>
プラスチックシートなどからなるウエブWは弾性を有するため、ロールR状に巻き取られた内層のウエブWは、外層のウエブWの締め付け作用によって弾性変形し、収縮が生じる。それに対し、第2実施形態の理論モデルでは、ウエブWの弾性変形は考慮されていないため、高度な巻取品質が求められると精度が不足する場合が考えられる。
【0080】
そこで、そのような場合に、より高精度な調整ができるように、本実施形態では、巻取張力Twの補正ができるように構成されている。
【0081】
図9に、本実施形態のウエブ巻取装置1Cを示す。制御装置7には、第2実施形態の構成に加え、更に、張力補正部7eが備えられている。張力補正部7eは、記憶部7cと協働し、第3ステップにおいて、ウエブWの巻き取り後の弾性収縮量を理論モデルに基づいて解析し、この弾性収縮量に基づいて、最厚ウエブ要素Wa’の巻取張力Twを補正する処理を実行する。
【0082】
(弾性収縮量の解析)
次に、ウエブWの巻き取り後の弾性収縮量を解析する手法について詳しく説明する。
【0083】
図10に示すように、巻芯8に巻き付けられる第1層目から最外層の第n層まで、緩和半径の特定処理(ステップS100)、半径方向応力の算出処理(ステップS200)、弾性収縮後の半径の算出処理(ステップS300)の各処理が、巻層ごとに行われる。
【0084】
従来の理論モデルでは、ロールRは無限幅で薄肉円筒が積み重ったものとして取り扱われており、ロールRの幅方向における半径分布は考慮されていない。従って、解析では、ロールRの幅方向における半径分布を考慮するために、ロールRを幅方向に複数のロール要素Reに区分けして、ロール要素Reごとに半径方向応力σrの解析が行われる。その際、ウエブWの厚みムラは、巻取方向には変化せず、ロールRの幅方向に分布するものとする。また、各ロール要素Reの幅方向の半径は一定であると仮定する。
【0085】
ロールRの内部の幅方向における半径方向応力σrの分布を解析するためには、ウエブWの幅方向の厚みムラによって発生する巻取張力Twの分布を把握する必要がある。そこで、本ウエブ巻取方法では、ロールRの幅方向における巻取張力Twの分布を、区分けしたロール要素Reを用いて取得する処理が行われる。具体的には、張力分布のつり合い方程式に緩和半径の概念を導入することにより、ロールRの幅方向におけるロール要素Re別での巻取張力Twの分布を取得する。
【0086】
(緩和半径の特定)
図11に、厚みムラが存在するウエブWが巻芯8に巻き取られてロールRが形成された状態を例示する。ロールRは、幅方向に区分けされ、1列〜M列からなるM個のロール要素Reに分割されている。厚みムラがあるため、i層目のウエブW(Lapi)が巻き取られる際には、その直下のウエブW(Lapi-1)に接触する領域と、接触しない領域とが発生する。
【0087】
そこで、ロール要素Reごとに、i−1層目のウエブWに接触するウエブWと接触しないウエブWとを設定する。
図12に示すように、直下のウエブWに接触するウエブWの形状は、i−1層目のウエブWの形状に追従するものとし、直下のウエブWに接触しないウエブWは、巻径が一定の円筒として取り扱う。そして、新たに緩和半径という概念を導入し、その円筒の半径を緩和半径Roと定義する。
【0088】
そうした場合、ウエブWをi層目まで巻き取った時のj列目のロール要素Reの半径をr(i,j)とすると、j列目のロール要素Reにおけるi層目のウエブWに作用する張力Tw(i,j)は、次の式(1)で表される。
【0090】
式(1)におけるEθは、対象とするウエブWのヤング率を表している。同様に、WはロールRの幅を、t
w.avgはウエブWの厚みの平均値を、Mはロール要素Reの数を、νはポアソン比を、それぞれ表している。
【0091】
張力Tw(i,j)の合計値Tw(i)は、i層目のウエブWを巻き取る巻取張力Taと等しいため、次の張力分布のつり合い方程定式(2)が成立する。
【0093】
式(2)におけるTaは、仮の巻取張力であり、ロールRの半径方向の位置ごとに予め計算条件として設定される。この式(2)を充足する緩和半径Roを求める。例えば、緩和半径Roの値を変えて演算を繰り返し行い、式(2)が所定の誤差範囲で成立する緩和半径Ro(i)を特定する。そうして特定した緩和半径Ro(i)を式(1)に適用することで、張力Tw(i,j)を算出することが可能になり、ロールRの幅方向におけるロール要素Re別での巻取張力Twの分布が取得できる。その結果、最厚ウエブ要素Wa’の巻取張力Twの補正が可能になる。
【0094】
(半径方向応力の算出)
次に、
図13に示す従来の理論モデルに基づき、最厚ウエブ要素Wa’におけるi層目の半径方向応力σr(i,j)を算出する。半径方向応力σrの算出方法については、特許文献1や非特許文献1に開示されているため、ここではその要点だけを示し、その具体的な説明は省略する。
【0095】
例えば、次の、最内層境界条件を表す式(3)及び最外層境界条件を表す式(4)を式(5)に適用し、逐次近似解法により、i層目の径方向応力の増分dσ
r(i,j)を算出する。
【0097】
i層目の径方向応力σr(i,j)は、次の式(6)を用いて、i+1層目〜n層(最外層)までの増分dσ
r(i,j)を加算することによって求められる。
【0099】
(弾性収縮後の半径の算出)
ヘルツの接触理論を用いることにより、最厚ウエブ要素Wa’の弾性収縮量を算出する。
【0100】
図14に示すように、1層目のウエブWと巻芯8との接触は、平面と円筒の接触と仮定し、
図15に示すように、2層目以上のウエブWどうしの接触は、円筒どうしの接触と仮定する。なお、ウエブWは幅方向には変形しないと仮定する。
【0101】
そうした場合、接触半幅b(i,j)は次の式(7)、式(8)で表される。
【0103】
式(7)は、1層目の接触半幅b(i,j)を表す式であり、式(8)は、2層目以上の接触半幅b(i,j)を表す式である。これら式において、P(i,j)は径方向の荷重、つまり径方向応力σrを表し、EはウエブWの径方向のヤング率を表している。
【0104】
半径方向の弾性収縮量をΔr(i,j)とした場合、Δr(i,j)は次の式(9)で表される。
【0106】
これら式を用いて径方向の弾性収縮量Δr(i,j)を求める。
【0107】
得られた弾性収縮量Δr(i,j)を次の式(10)に適用することにより、弾性収縮後の仮半径r(i,j)を求める。
【0109】
すなわち、最初に用いたロールRより、弾性収縮量Δr(i,j)の分だけ、ウエブ要素Waは収縮し、その分、解析に誤差が生じていることになる。
【0110】
そこで、得られた仮半径r(i,j)を用いて、新たに緩和半径R
0(i)を特定し、その緩和半径R
0(i)に基づいて、径方向応力の算出、弾性収縮量の算出を行う。そして、緩和半径R
0(i)が、直前に特定された緩和半径R
0(i)と比較して、例えば1%等、一定の範囲内に収束するまで繰り返し演算を実行する。
【0111】
そうして、緩和半径R
0(i)が収束した場合、その仮半径r(i,j)を、収縮後の半径r(i,j)として特定する。
【0112】
続いて、特定した収縮後の半径r(i,j)を、式(1)、式(2)に適用することによって張力を算出し、式(3)、式(4)、式(5)に適用することによってi層目の半径方向応力の増分dσ
r(i,j)を算出し、式(6)に適用することによってi層目の半径方向応力σr(i,j)を算出する。
【0113】
このような一連の処理を1層目からn層まで繰り返し行うことにより、巻層ごとの半径方向応力σr(i,j)を算出する。なお、巻層ごとの接線方向応力σt(i,j)は、これら半径方向応力σr(i,j)から算出できる。
【0114】
このような応力解析を行うことにより、巻取後のウエブWの弾性収縮量が考慮された、より高精度な巻取張力Twの設定が可能になる。
【0115】
本実施形態のウエブ巻取装置1Cでは、補正制御部7eにおいてこのような演算処理が実行され、張力設定部7dで設定される巻取張力Twの補正が行われる。その結果、設定される巻取張力Twの精度が向上し、より安定したシワ、スリップ、ゲージバンドの抑制が実現できる。
【0116】
(検証試験結果)
図16及び
図17に、これら応力解析について検証した試験結果を示す。
【0117】
図16は、ロール半径(最外径)を比較したグラフであり、実線は補正処理を行った解析結果を、二点鎖線は実測値を、破線はウエブの厚みを巻層分加算して得られるロール半径をそれぞれ表している。
【0118】
図16から明らかなように、解析結果は実測値に近似しており、高度な予測が実現できていることがわかる。
【0119】
図17は、半径方向応力の分布を比較したグラフであり、プロットは実測値(測定3回の平均値)を、破線は、弾性収縮を考慮していない場合の解析結果(第2実施形態に相当)を、実線は、弾性収縮を考慮した場合の解析結果(第3実施形態に相当)を、それぞれ表している。
【0120】
弾性収縮を考慮していない場合に比べて、弾性収縮を考慮した場合に、それだけ半径方向応力の予測精度が向上していることがわかる。
【0121】
従って、弾性収縮を考慮して巻取張力Twを設定すれば、高精度な巻き取りが可能になり、シワ、スリップ、ゲージバンドをより効果的に抑制できることがわかる。
【0122】
<第4実施形態>
本実施形態のウエブ巻取方法は、第3実施形態のウエブ巻取方法を更に進化させたものである。そのウエブ巻取方法には、最適な張力関数を理論モデルを用いて解析する応力解析処理と、それによって得られる最適化された張力関数に基づいて、巻取張力Twを変化させながらウエブWを巻き取るウエブ巻取処理とが備えられている。
【0123】
(ウエブ巻取装置)
図4に、そのウエブ巻取方法の実現を可能にするウエブ巻取装置1Dを示す。第2実施形態及び第3実施形態のウエブ巻取装置と同様の構成については、同じ符号を用いてその説明は省略する。
【0124】
制御装置7には、張力制御部7a、荷重制御部7b、記憶部7cのほか、張力設定部7d及び張力補正部7eに代えて最適張力設定部7fが備えられている。最適張力設定部7fは、張力設定部7d及び張力補正部7eを更に進化させたものであり、応力解析処理を行う重要な部位であることからその詳細は後述する。
【0125】
記憶部7cは、最適張力設定部7fでウエブWごとに設定される張力関数を記憶する。張力制御部7aは、記憶部7cに記憶されている張力関数の中から、巻き取るウエブWに対応した張力関数を用いて張力調整装置6を制御する。荷重制御部7bは、張力制御部7aの制御に連動して、ニップローラ4の押し付け荷重が最適になるように調整荷重調整装置5を制御する。それにより、張力調整装置6は、最適な状態で巻取張力Twを巻径に応じて変化させながらウエブWを巻芯8に巻き取っていく。
【0126】
なお、このウエブ巻取装置1では、制御装置7に最適張力設定部7fが設けられているが、最適張力設定部7fは、制御装置7とは別のコンピュータシステムに設けてもよい。そうすれば、高性能な別のコンピュータシステムを用いて高度な応力解析処理を迅速に行うことができ、そこで得られる各ウエブWの張力関数だけを制御装置7に導入できるので、制御装置7に高度な処理能力が不要になって制御装置7の簡素化が図れる。
【0127】
ゲージバンドの発生部位では、厚みが相対的に大きくなるため、そこでの半径方向応力σrは、他の部位に比べて相対的に大きくなっている。そして、規格基準を満たし、厚みの平均値や素材構成も同じ同一品種のウエブW(同品種ウエブW)であれば、その厚みムラの程度は所定の公差以下であることから、ゲージバンドの発生箇所や発生数はウエブWごとに多様であっても、ゲージバンドの発生部位の半径方向応力σrは、同品種ウエブWであればその差はほとんどないと考えられる。
【0128】
そこで、本ウエブ巻取方法では、巻取試験を行うことにより、ウエブWごとに、ゲージバンドが発生し得る半径方向応力σr(臨界半径方向応力σcr)を求め、それを応力解析処理のデータとして使用している。
【0129】
その巻取試験の具体例としては、シート状の接触式の圧力センサを準備し、その圧力センサをウエブWの間に挟み込んだ状態でロールR状に巻き取る。そのような巻取試験を、巻取張力Tw等の条件を変更しながら繰り返す。そして、ゲージバンドが発生した時に、圧力センサにより、ゲージバンドが発生した部位の半径方向応力σrを計測する。そうして得られる半径方向応力σrに基づいて臨界半径方向応力σcrを設定する。
【0130】
なお、臨界半径方向応力σcrは、必ずしも巻取試験によって設定する必要はなく、任意に設定可能である。例えば、経験則に基づいて臨界半径方向応力σcrを設定してもよいし、圧縮降伏応力等、そのウエブ固有の物性値に基づいて臨界半径方向応力σcrを設定してもよい。
【0131】
また、応力解析処理では、スリップの発生を抑制するために、臨界摩擦力Fcrもデータとして使用している。臨界摩擦力Fcrは、スリップが発生し得る最小の摩擦力であり、臨界半径方向応力σcrと同様に、同品種ウエブWごとに実験によって設定される。臨界摩擦力Fcrも任意に設定可能であり、経験則に基づいて設定してもよいし、そのウエブ固有の物性値に基づいて設定してもよい。
【0132】
(ウエブ巻取処理)
このウエブ巻取装置1Dを用いてウエブWを巻き取る際には、キーボード等を用いて巻き取るウエブWを特定するデータを制御装置7に入力する。それにより、張力制御部7aが、そのウエブWに対応した張力関数を読み出し、その張力関数を用いて張力調整装置6の制御が行われるように、ウエブ巻取装置1Dが構成される。
【0133】
そうして、そのウエブWをウエブ巻取装置1Dにセットし、巻き取りを開始する。そうすれば、制御装置7が、その張力関数に基づいて張力調整装置6や荷重調整装置5を制御して、最適な状態で巻取張力Twを変化させながらウエブWを巻芯8に巻き取っていくので、スリップやゲージバンドの発生を効果的に抑制しながらウエブWを巻き取ることができる。
【0134】
(応力解析処理)
応力解析処理は、開示するウエブ巻取方法において最も重要なプロセスであり、最適張力設定部7fにおいて実行される。具体的には、ウエブWの巻き取り時にスリップ及びゲージバンドの発生が効果的に抑制できるように、巻芯8にウエブWを巻き取って形成されるロールRの内部の半径方向応力σrの分布を、理論モデルを用いて解析し、そのロールRにとって最適な張力関数を設定する処理が、最適張力設定部7fで実行される。
【0135】
次に、この応力解析処理の詳細について説明する。応力解析処理は、
図19に示すように、張力分布取得ステップS1、半径方向応力解析ステップS2、弾性収縮量算出ステップS3、巻取張力設定ステップS4などで構成されている。応力解析処理では、理論モデルを用いた解析が行われる。
【0136】
具体的には、本実施形態のウエブ巻取方法では、第3実施形態と同じように、張力分布のつり合い方程式に緩和半径の概念を導入することにより、ロールRの幅方向におけるロール要素Re別での巻取張力Twの分布を取得する処理が行われる(張力分布取得ステップS1)。
【0137】
(緩和半径の特定)
緩和半径の特定方法は、第3実施形態と同じである。すなわち、
図11に示すように、ロール要素Reごとに、直下のウエブWに接触するウエブWと接触しないウエブWとを設定し、直下のウエブWに接触しないウエブWは、巻径が一定の円筒として取り扱い、その円筒の半径を緩和半径Roと定義する。
【0138】
そうして、張力分布のつり合い方程式(2)を充足する緩和半径Ro(i)を特定し、特定した緩和半径Ro(i)を式(1)に適用する。その結果、張力Tw(i,j)を算出することが可能になり、ロールRの幅方向におけるロール要素Re別での巻取張力Twの分布が取得できる。
【0139】
(半径方向応力解析ステップ)
半径方向応力解析ステップS2では、
図13に示した従来の理論モデルをロール要素Reの各々に適用し、取得した巻取張力Twの分布を用いることにより、j列目のロール要素Reにおけるi層目の半径方向応力σr(i,j)を算出する。その算出方法は、第3実施形態での半径方向応力の算出と同様であるため、その具体的な説明は省略する。
【0140】
(弾性収縮量算出ステップ)
ウエブWが、プラスチックシートなどからなる場合には、弾性収縮量算出ステップS3を適用することにより、ウエブWの弾性収縮量を考慮した応力解析処理が行えるように構成されている。弾性収縮量算出ステップS3で行われる弾性収縮量の算出方法は、第3実施形態での弾性収縮後の半径の算出と同様であるため、その具体的な説明は省略する。
【0141】
(巻取張力設定ステップ)
巻取張力設定ステップS4では、上述した一連の処理によって得られる張力分布や半径方向応力σrの分布を用いて、最適な巻取張力Twの設定が行われる。巻取張力設定ステップS4は、
図20に示すように、張力関数設定ステップS11、目的関数定義ステップS12、第1制約条件定義ステップS13、第2制約条件定義ステップS14、張力関数最適化ステップS15などで構成されている。なお、張力関数設定ステップS11、目的関数定義ステップS12、第1制約条件定義ステップS13、及び第2制約条件定義ステップS14は、張力関数最適化ステップS15の前に行われていればよく、その順序は任意に設定できる。
【0142】
張力関数設定ステップS11では、巻取張力Twの制御に用いられる張力関数が設定される。
図21に、その張力関数の一例を示す。同図において、縦軸は巻取張力Twであり、横軸はロールRの半径方向位置を示す無次元半径位置(r/rc、rは任意の半径位置、rcは巻芯の半径)である。張力関数は、ロールRの半径方向位置に対する巻取張力Twを表す関数であり、3次スプライン関数を用いて設定される。張力関数は、張力関数最適化ステップS15で最適化が行われ、最適化された張力関数がそのウエブWを特定する情報と関連付けした状態で記憶部7cに記憶される。
【0143】
図22に、張力関数最適化ステップS15の説明図を示す。張力関数の最適化の設計条件として、この説明では、ロールRを半径方向に等分し、9箇所の無次元半径位置r1〜r9)が特定されている。そして、初期張力(張力関数を最適化する演算の初期値として仮に設定される一定の張力)からの変化量として、特定した無次元半径位置ごとに設計変数ΔTw1〜ΔTw9が設定される。
【0144】
初期張力にこれら設計変数の変化量を加えた各無次元半径位置での張力に対し、3次スプライン補間処理を行うことにより、滑らかに連続した張力関数が設定される。張力関数の最適化は、第1制約条件及び第2制約条件による制約の下で、初期張力から目的関数が最小となる所定の範囲内に収束するまで張力関数の演算を繰り返し、目的関数をそのように収束させる各設計変数を特定することによって行われる。
【0145】
第1制約条件は、スリップの発生を抑制するための制約条件であり、層間摩擦力(ウエブWの各層間での摩擦力)は臨界摩擦力Fcr以上と定義される(第1制約条件定義ステップS13)。ここで、i層目のウエブWの層間摩擦力F(i)は次のように定義されている。
【数11】
μ:ウエブ層間の有効摩擦係数
【0146】
臨界摩擦力Fcrは、上述したようにスリップが発生し得る摩擦力であり、それ以上であるとする第1制約条件を充足させることで、スリップの発生を抑制することができる。例えば、臨界摩擦力Fcrが3.5kNであれば、第1制約条件は、F(i)≧3.5(kN)と定義できる。
【0147】
第2制約条件は、ゲージバンドの発生を抑制するための制約条件であり、半径方向応力σrの最大値は臨界半径方向応力σcr以下と定義される(第2制約条件定義ステップS14)。例えば、
図23は、ある無次元半径位置におけるウエブWの幅方向での半径方向応力σrの分布と臨界半径方向応力σcrとを示している。図例のように、半径方向応力σrの最大値σr
maxが臨界半径方向応力σcrを超える場合には、矢印で示すようにその値が臨界半径方向応力σcr以下となるように、応力解析の再計算等によって半径方向応力σrの分布が下方修正される。
【0148】
これら制約条件は、次の不等式(12)によって表現される。
【数12】
なお、制約関数g(X)は次の式(13)で与えられ、これら制約の下、巻取張力Twの最適化の問題は、次の定式(14)によって表現される。
【数13】
【数14】
【0149】
本実施形態の目的関数f(X)は、次の式(15)に示すように、第1関係式(前側の項)と、第2関係式(後側の項)とを用いて定義されている(目的関数定義ステップS12)。
【数15】
【0150】
第1関係式は、
図24に矢印で示すように、ロールRの内部における各無次元半径位置でのウエブWの層間摩擦力F(i)を、スリップが発生し得る臨界摩擦力Fcrに漸近させる関係式である。ただし、ロールRの最外層付近では、十分な摩擦力が維持できないため、第1関係式は、ロールR径の88%以下の範囲で演算が行われる。
【0151】
第1制約条件の制約下で、ウエブWの層間摩擦力を臨界摩擦力Fcrに漸近させることにより、スリップが発生し得ない半径方向応力σrの適切な下限が特定されるので、張力関数の最適化を精度高く行える。
【0152】
第2関係式は、
図25に矢印で示すように、各ロール要素Reの各無次元半径位置で得られるウエブWの幅方向における半径方向応力σrの各々の最大値と最小値との差を最小化させる関係式である(σ
rave:半径方向応力σrの平均値)。
【0153】
第2制約条件の制約下で、各ロール要素Reの各無次元半径位置で得られるウエブWの幅方向における半径方向応力σrの各々の最大値と最小値との差を最小化させることにより、ゲージバンドが発生し得ない半径方向応力σrの適切な上限が特定されるので、張力関数の最適化をより精度高く行える。
【0154】
このように、このウエブ巻取装置1Dでは、ウエブWの幅方向の厚みムラによって発生する巻取張力Twの分布や半径方向応力σrの分布を的確に把握したうえで、スリップやゲージバンドの発生メカニズムを考慮した目的関数及び制約条件を用いた演算によって張力関数を最適化し、その最適化した張力関数を用いて巻取張力Twを変化させながらウエブWを巻き取るように構成されているので、スリップやゲージバンドの発生を効果的に抑制しながらウエブWを巻き取ることができる。
【0155】
しかも、巻き取るウエブWの応力解析処理を行って、最適化した張力関数を取得すれば、その後は、同品種ウエブWであれば、設定されている張力関数を選択するだけでウエブ巻取処理を行うことができるので、拡張性、利便性に優れる。大掛かりな機械的変更を行わずに、対応するソフトウエアを実装等するだけで実現できるので、既存のウエブ巻取装置が利用でき、実用化も比較的容易である。
【0156】
<検証試験>
最適化した張力関数の効果を検証する試験を行った。試験では、厚みの平均値が3μmのウエブ(薄膜ウエブ)と厚みの平均値が140μmのウエブ(厚膜ウエブ)とを試験に用い、一定の張力で巻き取った場合と、最適化した張力関数で巻き取った場合とで、半径方向応力σrの分布について解析した。
【0157】
薄膜ウエブでは、全幅70mmのウエブを半径が7mmの巻芯に巻き付けて外径が12.6mmのロールを形成した。厚膜ウエブでは、全幅が350mmのウエブを半径が45mmの巻芯に巻き付けて外径が80mmのロールを形成した。
【0158】
図26〜
図30に、その試験結果を示す。
図26は薄膜ウエブの最適化された張力であり、
図27は厚膜ウエブの最適化された張力である。それぞれ、実線が最適化した張力を、破線が一定の張力を示している。そして、
図28の上段は薄膜ウエブの厚み分布であり、同図の下段は薄膜ウエブにおける巻芯近傍での半径方向応力σrの分布の解析結果を表している。同様に、
図29は厚膜ウエブの厚み分布及び半径方向応力σrの分布の解析結果を表している。それぞれの下段において、実線が最適化された張力での解析結果を、破線が一定の張力での解析結果を示している。
【0159】
図28や
図29に示すように、半径方向応力σrが大きく、ゲージバンドの発生し易い最大厚み部位は、薄膜ウエブではウエブ幅方向位置の7mm付近にあり、厚膜ウエブではウエブ幅方向位置の50mm付近に認められた。これら最大厚み部位において、一定の張力に対する最適化した張力の半径方向応力σrの低下割合は、他の部位に比べて大きくなる傾向が認められた。従って、これら検証試験結果からも、ゲージバンドの抑制に対する最適化した張力関数の有効性が示唆される。
【0160】
また、
図30は、厚膜ウエブの接線方向応力σtの解析結果を示している。実線は最適化した張力での解析結果であり、破線は一定の張力での解析結果である。接線方向応力σtは正の値を保持していることから、最適化した張力関数を用いることでシワの発生も抑制可能なことが示唆される。
【0161】
なお、本発明にかかるウエブ巻取方法及びウエブ巻取装置は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、上述した実施形態では、ニップローラが設置されている場合を例示したが、ニップローラは必須では無い。応力解析処理では、厚みムラを考慮せずに従来の基本モデルを用いて解析を行ってもよい。また、巻き取るウエブによっては弾性収縮量は考慮しなくてもよい。張力調整装置や荷重調整装置は制御装置と一体的に構成されていてもよい。