(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくともコンクリート路盤と、軌道スラブとの間に、充填層が挟まれるようにして設けられ、さらに前記軌道スラブ上に軌道レールが配設されて成るスラブ式軌道の補修構造であって、
前記スラブ式軌道の補修構造は、
前記スラブ式軌道の外周縁部の少なくとも一部に、前記充填層を覆って貼着されてなる粘着シートを備え、
さらに、前記粘着シートと充填層との間に補修用充填材が内包されてなることを特徴とするスラブ式軌道の補修構造。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリート路盤上に軌道スラブを設け、さらにこの軌道スラブ上に軌道レールを固定して成るスラブ式軌道が知られている。
このようなスラブ式軌道10は、
図1に示したように、コンクリート路盤20の上面に、充填層22を介して軌道スラブ24が設けられ、さらに軌道スラブ24の上面には、一対の軌道レール30,30が配設されている。なお軌道スラブ24は両端部に切欠き部26,26を備え、コンクリート路盤20上に所定間隔置きに設けられた突起部28と突起部28に対し、軌道スラブ24の切欠き部26と切欠き部26が位置合わせされている。
【0003】
充填層22は、軌道スラブ24をコンクリート路盤20上の所定位置に持ち上げておき、この軌道スラブ24とコンクリート路盤20との間に生じた隙間内に、軌道スラブ24に予め形成しておいた充填孔(図示せず)を介して充填材(例えばセメントアスファルトモルタル:セメントとアスファルト乳剤と細骨材とを混合させて成るもの(CAモルタルともいう))を充填し、これを硬化させることで形成されている。充填孔(図示せず)は、その後上端まで充填材または別途封止材が注入されることで塞がれている。さらに突起部28と切欠き部26の間にも充填材が注入されている。
【0004】
また充填層22は、軌道スラブ24をコンクリート路盤20上の所定位置に持ち上げておき、この軌道スラブ24とコンクリート路盤20との間に生じた隙間内に、予めCAモルタルを注入した不織布などの袋状の袋体を配置させ、隙間内で固化させることにより形成される場合もある。
【0005】
ところでこのようなスラブ式軌道10の充填層22は、例えば軌道レール30の温度変化による伸縮や、軌道レール30上を走行する車両によって加えられる力、充填層22に滲み込んだ水により充填層22のアルカリ成分が溶出し、充填層22がポーラス化(多孔質化)することなどによって次第に劣化する。特に、充填層22に滲み込んだ水は、凍結融解を繰り返すことで充填層22の劣化を進行させ、寒冷地ではその影響が顕著である。
【0006】
このように充填層22が劣化すると、劣化した充填層22の露出部分から割れ,剥離,脱落などの不具合が生ずるため、劣化部分が確認された場合には早期の補修が求められる。
【0007】
従来よりこのようなスラブ式軌道の補修方法として、充填層の劣化部分を削り取った後、削り取った箇所を取り囲むように型枠を配設し、型枠内にビニルエステル系樹脂などの補修材を充填して硬化させた後、型枠を撤去することで、充填層を補修するようにした補修方法(額縁補修方法ともいう)が提案されている(特許文献1)。
【0008】
また別の補修方法として、充填層の劣化部分を削り取って空隙部を形成した後、この空隙部内へ補修用袋を装填し、この状態で補修用袋へ補修用充填材を注入することで、空隙部を補修用充填材で埋め、劣化部分を補修するようにした補修方法(充填袋補修方法ともいう)が提案されている(特許文献2)。
【0009】
なお、充填袋補修方法に用いられる補修用袋は、袋体の上下の面から補修用充填材が滲み出すようになっており、これにより袋体が対向する上下の面(軌道スラブとコンクリート路盤)と接着されるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示された補修方法(額縁補修方法)は、型枠の設置と撤去が必要であり、この作業に多くの時間と労力を要し効率的ではなかった。しかも、この補修方法(額縁補修方法)では、補修材が型枠に付着しないよう、型枠の設置時に型枠と軌道スラブ側面との間に剥離シートを挟む必要もあり、剥離シートの設置や除去にも時間やコストを要するものであった。
【0012】
また特許文献2に開示された補修方法(充填袋補修方法)は、空隙部内へ装填した袋体内へ注入した補修用充填材が硬化するまで待ち、さらにその後、袋体と空隙部との間に残った空間内に、補修用充填材を再度注入して硬化させる必要があり、補修用充填材の充填作業を少なくとも2回行う必要があり、充填作業だけで多くの時間を要するものであった。
【0013】
さらに、この補修方法(充填袋補修方法)は、袋体に注入した補修用充填材が上下に滲み出した後、袋体の上面に隙間が生じやすく、その際には、再度補修が必要であった。また、袋体の上面の隙間から補修用充填材が外方に漏れ出す場合もあり、結果的に効率的ではないものであった。
【0014】
また、袋体から滲み出した補修用充填材が少ない場合には、袋体の上面と軌道スラブ、袋体の下面とコンクリート路盤の摩擦抵抗が低くなり、装填した袋体自体が空隙部内にしっかりと留まらず、空隙部内から飛び出してしまうおそれもある。
【0015】
ところで、スラブ式軌道の補修作業は、通常、車両が通らない深夜などに制約されて行われている。したがって、従来の額縁補修方法や充填袋補修方法のように、この制約された作業時間内に型枠などを作業現場まで搬入し、さらに撤去して搬出したり、さらには充填作業を少なくとも2回要したりするといった作業効率の悪さを改善した高効率な補修方法の出現が熱望されているのが実情である。
【0016】
本発明はこのような実情に鑑みなされたものであり、補修用充填材を充填して充填層の補修を行うに際し、剥離シートを用いたり型枠を撤去する必要がなく、また補修用充填材を袋体に注入して硬化させたり、再度補修用充填材を注入する必要もなく、効率的に補修作業を行うことのできるスラブ式軌道の補修構造およびスラブ式軌道の補修構造に用いられる粘着シート、ならびにスラブ式軌道の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、前述したような従来技術における課題および目的を達成するために発明
されたものであって、
本発明のスラブ式軌道の補修構造は、
少なくともコンクリート路盤と、軌道スラブとの間に、充填層が挟まれるようにして設けられ、さらに前記軌道スラブ上に軌道レールが配設されて成るスラブ式軌道の補修構造であって、
前記スラブ式軌道の補修構造は、
前記スラブ式軌道の外周縁部の少なくとも一部に、前記充填層を
覆って貼着されてなる粘着シートを備え、
さらに、前記粘着シートと充填層との間に補修用充填材が内包されてなることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のスラブ式軌道の補修方法は、
少なくともコンクリート路盤上に充填層を介して軌道スラブが設けられ、さらに前記軌道スラブ上に軌道レールを配設して成るスラブ式軌道の補修方法であって、
前記スラブ式軌道の補修方法は、
前記充填層の劣化した部分を、露出された外周縁部から内方の所定深さまで除去し、前記軌道スラブとコンクリート路盤の間に空隙部を形成する工程と、
前記軌道スラブとコンクリート路盤の間に形成された空隙部の側面開口部を
塞いで、粘着シートを貼着する工程と、
前記貼着された粘着シートよりも内方の空隙部内に、補修用充填材を注入する工程と、
前記注入された補修用充填材を硬化させる工程と、
を少なくとも有することを特徴とする。
【0019】
このような補修構造および補修方法であれば、空隙部の側面開口部を塞ぐように粘着シートを貼着してから、この空隙部内に補修用充填材を注入するだけで良く、補修用充填材を硬化した後、埋め込み型枠を外す必要がなく、効率的にスラブ式軌道の補修を行うことができる。
【0020】
また、本発明のスラブ式軌道の補修構造は、
前記粘着シートは、
前記粘着シートの貼着面において、前記貼着面の下方領域が前記コンクリート路盤に貼着され、前記貼着面の上方領域が前記軌道スラブに貼着されていることを特徴とする。
【0021】
このようにコンクリート路盤と軌道スラブとに橋渡しされるように粘着シートが貼着されていれば、コンクリート路盤と軌道スラブの間に位置する充填層と粘着シートとの間に、補修用充填材を確実に内包することができる。
【0022】
また、本発明のスラブ式軌道の補修構造は、
前記粘着シートは、長尺状であることを特徴とする。
このように長尺状であれば、スラブ式軌道の外周縁部を覆うように貼着しやすいため好ましい。
【0023】
また、本発明のスラブ式軌道の補修構造は、
前記粘着シートは、
紙,布,フィルム,発泡体,金属箔,ゴムシート,シリコーンシート,アスファルトおよび改質アスファルトから選択される少なくとも1種からなる基材層と、
ゴム,シリコーン,ウレタン系樹脂,アクリル系樹脂,エポキシ系樹脂,アスファルトおよび改質アスファルトから選択される少なくとも1種からなる粘着層と、
を有することを特徴とする。
【0024】
このように粘着シートが構成されていれば、長期間に亘って確実にスラブ式軌道の外周縁部に粘着シートを貼着させておくことができる。したがって、充填層の剥離や脱落を長期間に亘って防止することができる。
【0025】
また、本発明のスラブ式軌道の補修構造は、
前記補修用充填材が、合成樹脂を含有することを特徴とする。
このように補修用充填材が合成樹脂を含有していれば、充填性および硬化性の点からより好ましい。
【0026】
また、本発明のスラブ式軌道の補修構造は、
前記補修用充填材が、多成分型であることを特徴とする。
このように補修用充填材が多成分型であれば、例えば補修用充填材の硬化時間,粘度,充填性などを現場の状態に合わせて適宜変更することができ好ましい。
【0027】
また、本発明のスラブ式軌道の補修構造は、
前記充填層が、セメントアスファルトモルタルから成ることを特徴とする。
このようなセメントアスファルトモルタルは、スラブ式軌道を敷設した当初の材質であり、このような当初の状態から初めて補修する場合にも好適に用いることができる。
【0028】
また、本発明のスラブ式軌道の補修構造は、
前記充填層が、セメントアスファルトモルタルおよび補修材から成ることを特徴とする。
【0029】
このようなセメントアスファルトモルタルおよび補修材は、スラブ式軌道を敷設した当初の材質に加えて、例えば一度補修した際に、補修材として公知のものを用いたものであり、このような当初の状態から一度以上補修がなされた場合であっても、本発明の補修構造を好適に用いることができる。
【0030】
なお補修材は、例えば上記した特許文献1に開示されたビニルエステル系樹脂などの充填剤や、ポリウレタン系樹脂補修材料,CAモルタルなどの充填材、特許文献2に開示された補修用充填材が注入された袋体、もしくは注入された補修用充填材が周囲から滲み出してなる袋体など、公知の補修方法に用いられるものであれば如何なるものでも構わないものである。当然、補修材には、当初の充填層の材質と同様、セメントアスファルトモルタルも含まれるものである。
【0031】
また、本発明のスラブ式軌道の補修方法は、
前記空隙部を形成する工程の後、
前記空隙部内を乾燥させる工程を有することを特徴とする。
このように空隙部内を乾燥させれば、劣化された部分が削り取られた充填層と補修用充填材との接着強度が向上し、確実にスラブ式軌道の補修を行うことができる。
【0032】
また、本発明のスラブ式軌道の補修方法は、
前記補修用充填材を注入する工程において、
前記粘着シート,分割されて成る複数の粘着シートの両シート間,粘着シートと除去されずに残った充填層との間,粘着シートと軌道スラブとの間,粘着シートとコンクリート路盤との間,軌道スラブと隣接する軌道スラブとの間,軌道スラブ,コンクリート路盤からなる群より選ばれる少なくとも1か所に設けられた注入孔を介して、前記補修用充填材が注入されることを特徴とする。
このような注入孔であれば、空隙部内へ、確実に補修用充填材を注入することができる。
【0033】
また、本発明のスラブ式軌道の補修方法は、
前記補修用充填材を注入する工程において、
前記粘着シート,分割されて成る複数の粘着シートの両シート間,粘着シートと除去されずに残った充填層との間,粘着シートと軌道スラブとの間,粘着シートとコンクリート路盤との間,軌道スラブと隣接する軌道スラブとの間,軌道スラブ,コンクリート路盤からなる群より選ばれる少なくとも1か所に、エア抜き孔を有することを特徴とする。
このようにエア抜き孔を有していれば、空隙部内のエア抜きができ、補修用充填材を隙間なく充填させることができる。
【0034】
また、本発明の粘着シートは、
上記のいずれかに記載のスラブ式軌道の補修構造に用いられることを特徴とする。
このような粘着シートであれば、空隙部の側面開口部を確実に塞いで補修用充填材を空隙部の内部に充填することができるため、補修作業の作業効率が向上し、スラブ式軌道の補修構造に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のスラブ式軌道の補修構造およびスラブ式軌道の補修構造に用いられる粘着シート、ならびにスラブ式軌道の補修方法は、劣化した充填層を削り取って空隙部を形成し、空隙部の少なくとも一部を覆うように外側から粘着シートを貼着し、粘着シートより内方の空隙部内に補修用充填材を注入し、注入された補修用充填材を硬化させることで、効率的で確実に劣化した充填層を補修することができる。さらに粘着シートは防水性、耐候性を有しており、そのまま補修構造の一部とすることで、充填層の補修部分を長期間にわたって保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の補修構造が施工されるスラブ式軌道10は、
図1に示したように、コンクリート路盤20上に充填層22を介して軌道スラブ24が設けられ、さらにこの軌道スラブ24上に一対の軌道レール30,30を配設して成るものである。
【0038】
ここでコンクリート路盤20には所定間隔毎に突起部28,28が突設されている。一方、軌道スラブ24の両端には、この突起部28,28の間隔に対し、僅かに隙間を生ずるような位置に切欠き部26,26がそれぞれ設けられており、突起部28と突起部28との間に、両端部の切欠き部26と切欠き部26とがそれぞれ合うように位置決めされて軌道スラブ24が配設されている。
【0039】
また、軌道スラブ24上には、一対の軌道レール30,30が敷設され、この軌道レール30は、それぞれ複数の締結部材(図示せず)等によって軌道スラブ24に固定されている。
【0040】
軌道スラブ24とコンクリート路盤20との間に設けられた充填層22は、軌道レール30の温度変化による伸縮応力や、列車の通過や遠心力による外力が加わり、また水分の侵入などにより劣化し、時間の経過とともに露出部分から割れ,剥離,脱落などが発生する。
【0041】
このため、これらの症状が発生した場合、または所定期間が経過した場合などには、この充填層22の補修が行われる。なお本明細書中における充填層22は、スラブ式軌道10を最初に敷設した際に設けられたCAモルタルのみから成る層であることはもちろんであるが、このCAモルタルが袋体内に注入されてなる層であっても良いものである。
【0042】
また、スラブ式軌道10を既に補修して成る充填層22であっても良いものである。すなわち、特許文献1に開示されたような空隙部を補修材で埋めた、CAモルタルと補修材からなる充填層22や、特許文献2に開示されたような、空隙部を袋体内に補修材を注入して埋めた、同じくCAモルタルと補修材からなる充填層22であっても良いものである。
【0043】
ここで、補修材については公知の補修材の如何なるものにも限定されず、例えばスラブ式軌道10を最初に敷設した際と同じ、CAモルタルであっても良いものである。
つまり、補修を必要としているコンクリート路盤20と軌道スラブ24の間の充填層22について、特に材質が限定されるものではないものである。
【0044】
本願発明は、このスラブ式軌道10の補修構造および補修方法において、特に充填層22の補修構造および補修方法に特徴を有するものであり、以下、このスラブ式軌道10の補修構造および補修方法ならびにこのスラブ式軌道10の補修構造に用いられる粘着シート34について説明する。
【0045】
<スラブ式軌道10の補修構造>
本発明のスラブ式軌道10の補修構造は、まず充填層22の外周縁部の少なくとも一部において、露出された外周縁部から内方の所定深さまで劣化された充填層22が除去され、除去された箇所と軌道スラブ24とコンクリート路盤20との間によって、断面略コ字状の空隙部32A,32Bを形成している(例えば
図2,
図3,
図4(A))。
【0046】
そして、この空隙部32A,32Bを覆うように外側から粘着シート34が貼着され(例えば
図2、
図4(B))、この粘着シート34の内側にある空隙部32A,32Bに補修用充填材42を充填するための準備(注入孔部品38や耐圧ホース40の設置など)を済ませ(例えば
図5(A))、粘着シート34よりも内方に位置する空隙部32A,32B内に、補修用充填材42を充填する(
図5(B))。
【0047】
そして、補修用充填材を硬化させ、充填のために準備した耐圧ホース40や注入孔部品38などを除去することで、スラブ式軌道10の補修構造を構成している(
図6(A))。
【0048】
ここで粘着シート34の粘着面において、下方領域はコンクリート路盤20に貼着され、上方領域は軌道スラブ24に貼着され、後述する空隙部32A,32Bの側面開口部が、粘着シート34によって覆われていることが好ましい。
【0049】
[粘着シート34]
粘着シート34は、コンクリート路盤20や軌道スラブ24に対する付着性が高いほど、補修用充填材42が注入時に漏れるリスクが低減されるため好ましい。また、粘着シート34は、長尺状であれば、スラブ式軌道の外周縁部を覆うように貼着しやすいため好ましい。粘着シート34のサイズは、特に限定されないものであるが、例えば、縦140〜180cm、横500〜550cm程度であれば、効率良く補修作業を行うことができる。
【0050】
なお粘着シート34は、基材層と粘着層とからなり、粘着層側をスラブ式軌道10の外周縁部に貼着させて用いられる。
ここで、基材層の材質としては、例えばクラフト紙,和紙,クレープ紙等の紙、不織布,レーヨン,綿,アセテート,ポリエチレン,ポリプロピレン等の布、セロハン,塩化ビニル,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレート,四フッ化エチレン,ポリイミド,ポリカーボネート,ポリスチレン等のフィルム、ポリウレタン,ポリエチレン,ポリプロピレン,ブチルゴム等の発泡体、アルミニウム,銅等の金属箔、天然ゴム,スチレン・ブタジエンゴム,ブチルゴム,エチレン・プロピレン・ジエンゴム,フッ素ゴム,アクリルゴム,ポリウレタンゴム,塩化ビニルゴム等のゴムシート、シリコーンゴム等のシリコーンシート、アスファルトおよびゴムやプラスティックを添加した改質アスファルト、等が挙げられる。
【0051】
またこれら複数を組み合わせて積層・塗布・含浸したものを用いてもよく、そのようなものとしては、例えば不織布を支持体として改質アスファルトを含浸させた改質アスファルト含浸不織布が挙げられる。
【0052】
このような基材層の中でも、改質アスファルト含浸不織布,ブチルゴム,シリコーンゴムから選択される少なくとも1種からなるものが強度,伸縮性,耐候性の観点から好ましい。
【0053】
一方、粘着層の材質としては、例えば天然ゴム,スチレン・ブタジエンゴム,ブチルゴム,エチレン・プロピレン・ジエンゴム,フッ素ゴム,アクリルゴム,ポリウレタンゴム,塩化ビニルゴム等のゴム,シリコーンゴム,シリコーンゲル,シリコーン系樹脂等のシリコーン,ウレタン系樹脂,アクリル系樹脂,エポキシ系樹脂,アスファルトおよび改質アスファルト等が挙げられる。
【0054】
このような粘着層の中でも改質アスファルト、シリコーン樹脂、シリコーンゲルおよびアクリル樹脂から選択される少なくとも1種を含むものがコンクリート路盤20や軌道スラブ24との付着性の観点から好ましい。
【0055】
また、粘着層の材質が無溶剤系である場合は、粘着層内に残存する溶剤が原因となる粘着シート34の膨れ等の異常がないため好ましい。
このような粘着シート34の具体例としては、例えば「ガムロン フォルトM」、「ガムロン フォルトB」、「ガムクールキャップEX」、「ポリマリットST」、「ポリマリットGL」(以上田島ルーフィング(株)製)、「シンエツ パッチシール HNS−200」、「イヌバシール HNS−200」(共に信越化学工業(株)製)、「スーパーブチルテープ No.4420」、「スーパーブチルテープ No.5931」、「スーパーブチルテープ No.5932」、「スーパーブチルテープ No.5933」(全て日立マクセル(株)製)、「両面テープ No.541」、「防水アルミテープブチル」(共に(株)二トムズ製)、「全天テープ No.6931」(日東電工(株)製)、「BS−01 防水ブチルテープ」(オカモト(株)製)、「ボンド防水テープ VF415R」(コニシ(株)製)、「防水気密ブチルテープ」((株)エスコ製)が挙げられる。
【0056】
[
補修用充填材42]
補修用充填材42としては公知のものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは調製してなるものであることが好ましい。調製してなる補修用充填材42としては、多成分型の補修用充填材42が挙げられ、好ましくは2成分型の補修用充填材42が挙げられる。
【0057】
補修用充填材42は充填後に硬化するものであれば良いが、合成樹脂を含有するものが充填性,硬化性の点から好ましい。合成樹脂としては、ポリウレタン樹脂に限らず、ビニルエステル樹脂,ポリエステルアクリレート樹脂などのラジカル重合型樹脂,エポキシ樹脂などでも良いものである。
【0058】
また必要に応じ、合成樹脂を硬化させるために硬化剤や硬化促進剤を適量用いればよい。さらに、補修用充填材42は、合成樹脂に体質顔料(シリカ,炭酸カルシウム等)や骨材(硅砂等)を配合させることが、補修用充填材硬化物の機械的強度、耐久性や経済性の面から好ましい。例えば、補修用充填材42中に、体質顔料(シリカ,炭酸カルシウム等)であれば10〜60重量%、骨材(硅砂等)であれば20〜80重量%の割合で含有させればよい。
【0059】
このような補修用充填材42としては、例えば2成分型のものとして、出願人が販売する商品名「CUS−RE20 A材(ポリウレタン樹脂系主剤),CUS−RE20 B材(ポリウレタン樹脂用硬化剤)」または「CUS−UB20 A材(ポリウレタン樹脂系主剤),CUS−UB B材(ポリウレタン樹脂用硬化剤)」が好適である。
【0060】
<スラブ式軌道10の補修方法>
本発明のスラブ式軌道10の補修方法について、
図1〜
図6に示した図面、および
図7に示した作業工程図を用いて説明する。なお、図面によっては
図1に示したスラブ式軌道10の基本的な構造に記載の一部が開示されていないものもあるが、これは説明をより分かりやすくするために敢えて記載しなかったものであり、特に構造が限定されるものではないものである。
【0061】
[軌道スラブ24とコンクリート路盤20との間に空隙部を形成する工程]
まず、本発明のスラブ式軌道10の補修方法では、
図2,
図3,
図4(A)に示したように、充填層22の劣化した部分を、露出された外周縁部から内方の所定深さまで除去し、軌道スラブ24とコンクリート路盤20との間に空隙部32A,32Bを形成する(
図7 ステップS100)。
【0062】
基本的には、充填層22の劣化した部分を全て削り取るものであり、軌道スラブ24下の充填層22の全てを削り取っても良いものである。充填層22は、特に露出された外周から劣化が進み、特にその四隅で劣化が速い傾向にある。すなわち軌道スラブ24の上面に加わるレール荷重による軌道スラブ24の上下方向の荷重変化は四隅で特に大きくなるからである。
【0063】
したがって、本実施形態のように充填層22の四隅については、
図2または
図3に示したように、略三角形状の範囲とし、この範囲を削り取ることが好ましい。四隅の具体的な削り量(ハツリ量)、すなわち空隙部32Aの寸法としては、現場で確認した際の劣化状況に応じて適宜設定すれば良いが、例えば
図3に示したように、充填層22の四隅を始点として突起部28の形成方向(
図3では上下方向)へ向かって約0.7m、軌道レール30の敷設方向(
図3では左右方向)に向かって約0.5m、となるような略直角三角形状に削り取るのが好ましい。
【0064】
一方、充填層22の四隅以外には、
図2または
図3に示したように、充填層22の軌道レール30の敷設方向(
図3では左右方向)の側辺にも一定の深さで空隙部32Bを形成する。これにより、充填層22の外周に空隙部32A,32Bが形成されることとなる。
【0065】
なお、空隙部32A,32Bを形成した後には、この空隙部32A,32B内を清掃し乾燥することが好ましい。乾燥の手段としては特に限定されるものではないが、例えばガスバーナーを用いて乾燥すれば、作業時間を少なくでき好ましい(
図7 ステップS101)。
【0066】
また、必要に応じて、空隙部32A,32Bの内面に、プライマー、補修用充填材42、接着剤を塗布しても良い。
さらに、充填層22の再補修で、その充填層22がCAモルタルおよび補修材からなる場合は、例えば、通常、補修材が外側へ露出しているので、先に補修材を適当な工具,機械などを用いて除去した後に、その奥の劣化したCAモルタルを前記同様の方法で除去すればよい。
【0067】
[粘着シート34を貼着し、空隙部32A,32Bを塞ぐ工程]
空隙部32A,32Bを形成した後、今度は
図4(B)および
図8に示したように、空隙部32A,32Bの側面開口部を覆うように、外側から粘着シート34を貼着する(
図8では、粘着シート34と空隙部32A,32Bとの関係が分かりやすいよう、粘着シート34を貼着する直前の状態を示している)。
【0068】
粘着シート34の貼着の際には、粘着シート34を、空隙部32A,32Bを覆うようにそのまま貼着しても良いが、例えば粘着シート34の貼着面(粘着層)の下方領域および上方領域(コンクリート路盤20および軌道スラブ24との接地箇所)に対して、補修用充填材42や接着材を塗布してもよい。
【0069】
このようにして、粘着シート34は、
図4(B)および
図8に示したように、空隙部32A,32Bの側面開口部に沿って配置される(
図8 ステップS102)。
なお、粘着シート34は、適宜の長さに分割しておき、空隙部32A,32Bの側面開口部に沿って順次貼着してもよい。
【0070】
また、
図5(A)および
図9に示したように、予め補修用充填材の注入孔として、注入孔部品38と耐圧ホース40をジョイントさせたものを粘着シート34に取り付けておいてもよい。注入孔部品38としては、ホース用樹脂継手(タケノコジョイント)を用いることが好ましく、耐圧ホース40としては、テトロンブレードホースを用いることが好ましい。
【0071】
また、
図10(A)および
図11(A)に示したように、軌道スラブ24と隣接する軌道スラブ24の間に、予めエア抜き孔60を設けておいた粘着シート34を回り込ませて貼着させてもよい。
なお、突起部28の周囲には通常空隙はないが、空隙がある場合は粘着シート34で空隙を塞ぐように貼着すればよい。
【0072】
[補修用充填材42を注入する工程]
空隙部32A,32Bの側面開口部を、粘着シート34の貼着によって覆った後、空隙部32A,32B内に補修用充填材42を注入する(
図7 ステップS106)。補修用充填材42としては上述したものを用いることができ特に限定されるものではないが、調製された補修用充填材42を用いる場合、補修用充填材42の調製は、例えば
図9に示した充填装置44で行う。
【0073】
この充填装置44は主剤成分である第I液(
図8 ステップS103)が入った気密収容タンク46と、硬化剤成分である第II液(
図8 ステップS104)が入った気密収容タンク48と、これらの気密収容タンク46,48に空気を送って加圧する圧送機器49と、気密収容タンク46,48から送出される第I液および第II液を混合するミキサ50と、を有している。
【0074】
ここで、圧送機器49を用いず、気密収容タンク46,48内を加圧して第I液と第II液を送出してもよい。圧送機器49としては特に限定されないものであるが、例えばダイヤフラムポンプなどのポンプを用いることが好ましい。
【0075】
また、ミキサ50としては、スタティックミキサが好ましい。ミキサ50は、気密収容タンク46,48から送られる第I液と第II液とを混合(撹拌)し、混合物は注入パイプ52から吐出される(
図8 ステップS105)。このとき、第I液と第II液の混合比は、最終混合物の重量比で約100:25となるように混合することが好ましい。
【0076】
なお、ミキサ50には、注入パイプ52への混合液の流出を制御する開閉手段54が取り付けられ、補修用充填材42を注入する際には、この開閉手段54を操作して流路を開く。
【0077】
次に、注入パイプ52を、
図5(A)および
図9に示したように、粘着シート34に注入孔部品38を介して取り付けてある耐圧ホース40に差し込んでしっかりと結合させ、補修用充填材42を空隙部32A,32B内に注入する(
図7 ステップS106)。
【0078】
すなわち開閉手段54の流路を開き、補修用充填材42を注入パイプ52から耐圧ホース40、さらには注入孔部品38を通じて、空隙部32A,32B内に注入する。ここで注入孔部品38としては、ホース用樹脂継手(タケノコジョイント)を用いることが好ましく、耐圧ホース40としては、テトロンブレードホースを用いることが好ましい。
【0079】
これにより、粘着シート34によって空隙部32A,32B内に区画された、粘着シート34より内方の空間内に補修用充填材42が注入される。
ここで空隙部32A,32B内に補修用充填材42を注入する際の注入孔は、例えば本実施例のように耐圧ホース40と注入孔部品38からなる孔でも良いが、単に粘着シート34に貫通形成された注入孔であっても良いものである。
【0080】
また、粘着シート34に注入孔を設ける場合は、分割された複数の粘着シート間に、隙間を生じるようにしておき、この隙間を注入孔として利用しても良く、さらには粘着シート34と除去されずに残った充填層22との間を注入孔として利用しても良いものである。
【0081】
また、空隙部32A,32Bを塞ぐように粘着シート34を貼着した際に、粘着シート34と軌道スラブ24との間もしくは粘着シート34とコンクリート路盤20との間に、隙間を生ずるようにしておき、この隙間を注入孔としても良いものである。
【0082】
また、
図10(B),
図11(B)に示したように、軌道スラブ24と隣接する軌道スラブ24の間に、スポンジのようなバックアップ材66を隙間ができるよう設置し、その隙間を注入孔62としてもよい。
【0083】
なお、上述した充填層22に空隙部32A,32Bを形成する工程において、
図6(B)に示したように、充填層22の劣化した部分を除去した際、その深さが、軌道スラブ24に予め設けられた充填孔56の位置まで達している場合には、この充填孔56内に装填された内容物を除去した後、この充填孔56から補修用充填材42を注入するようにしてもよい。すなわち、この場合には充填孔56が注入孔としての役目をなす。また、軌道スラブ24やコンクリート路盤20に改めて注入孔を設けてもよい。
【0084】
また、補修用充填材42の注入の際において、粘着シート34によって空隙部32A,32B内に区画された粘着シート34より内方の空間内に空気が残っていると、補修用充填材42が満充填されないおそれがある。このため、注入孔を設けてもよい箇所と同様に、粘着シート34,分割された複数の粘着シート34間,粘着シート34と軌道スラブ24との間,粘着シート34とコンクリート路盤20との間,軌道スラブ24に設けられた充填孔56,軌道スラブ24,粘着シート34と軌道スラブ24との間の少なくともいずれかには、空隙部32A,32Bを塞ぐように貼着した粘着シート34より内方の空間内に連通するエア抜き孔60を有することが好ましい。
【0085】
エア抜き孔60は、例えば
図10(A)および
図11(A)に示したように、粘着シート34を空隙部32A,32Bを塞ぐように貼着する際に、粘着シート34とともに設けることが好ましい。なお、エア抜き孔60は、空隙部32A,32B内からそれよりも高い位置に向かって空気が放出されるように設けることが好ましい。
【0086】
また、前述したように、軌道スラブ24と隣接する軌道スラブ24の間に、スポンジのようなバックアップ材66を隙間ができるよう設置する場合、その隙間をエア抜き孔64としてもよい。この場合、エア抜き孔64は、空隙部32A,32B内からそれよりも高い位置に向かって空気が放出されるように設けることが好ましい。
【0087】
補修用充填材42が満充填されたことを確認した後、注入を終了する(
図5(B))。エア抜き孔60を設けている場合には、補修用充填材42がエア抜き孔60に到達するのを確認してから注入を終了すればよい。開閉手段54によって流路を閉じ、耐圧ホース40を折り曲げてからクリップで挟み込むなどして注入パイプ52と遮断し、それから注入パイプ52を耐圧ホース40から抜き、補修用充填材42の注入を終える。
【0088】
なお、補修用充填材42の注入後は、注入孔の後処理をすることが好ましく、この後処理としては、例えば、注入孔部品38(通常、PE等のプラスチック製)は引張って取り外すか、補修用充填材42の硬化後に端部をカッター等で切り取ればよい。
【0089】
[注入された補修用充填材を硬化させる工程]
注入された補修用充填材42は、例えば、23℃で20〜30分放置させ、硬化させる(
図7 ステップS107)。なお、補修用充填材42の硬化に伴い、エア抜き孔60の液面が低下してきた場合には、エア抜き孔60から補修用充填材42を別途加えて液面を保つことが好ましい。そして、補修用充填材42が硬化した後、周囲の片付け・清掃(
図7 ステップS108)を終えれば、スラブ式軌道10の充填層22の補修が完了する。
【0090】
なお、粘着シート34は補修用充填材42が硬化した後に剥がしてもよいが、粘着シート34自体が防水性、耐候性を有しているため、そのままスラブ式軌道10の補修構造の一部とすることで、充填層22の補修部を長期間にわたって保護することができる。
【0091】
また、軌道スラブ24と軌道スラブ24の間に、バックアップ材66を設置した場合は、補修用充填材42が硬化した後に取り外してよい。
補修箇所が幾つかに分かれている場合には、この硬化させる工程の間に、他の補修箇所にも粘着シート34を貼着し補修用充填材42を注入し、同様に作業を行えば良い。
【0092】
以上、本発明のスラブ式軌道の補修構造およびスラブ式軌道の補修方法の好ましい形態について説明したが、本発明は上記の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能なものである。