(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
[発明の原理]
本発明は、建物の空調制御システムにおいて、居住者の空調への要望(例えば暑い、寒い、室温をXX℃上げて欲しい、XX℃下げて欲しいなど)を反映して制御する要望対応型空調制御方法および装置を対象とし、居住者が要望を空調制御システムに直接入力する申告型空調制御システムを採用している場合に限らない。すなわち、本発明は、(A)居住者からの要望を受け、設備管理者がBEMS(Building and Energy Management System)などを利用して居住者要望を空調制御に反映する場合、(B)居住者自身が空調への要望を空調制御システムに直接に申告する場合(ASP(Application Service Provider)サービスなどで遠隔で居住者要望を受信し、制御に反映する場合も含む)、のいずれも対象としている。
【0019】
本発明の説明では、居住者、申告者、要望入力者を以下のように区別して記述する。本発明では、制御対象となる空調環境に在籍する者を、居住者と呼ぶ。申告行動を起こすか否かは居住者に依存する。また、本発明では、空調への変更要望を申告(電話等による音声通知を含む)するという行動を起こす居住者を、申告者と呼ぶ。居住者が空調環境に不満を感じていても、申告行動を起こさなければ申告者とは扱わない。また、本発明では、申告者の空調への変更要望を空調制御に反映する目的で空調制御システムに入力する者を、要望入力者と呼ぶ。居住者が変更要望を空調制御システムに直接入力する申告型空調制御システムを採用している場合、申告者と要望入力者は同一となる。また、これ以外の空調制御システムでは、例えば、申告者が要望入力者である設備管理者に対して変更要望を申告(電話やメールなどで通知)し、設備管理者がこの要望を空調制御システムに入力する方式がある。
【0020】
以上のような空調制御システムにおいて、発明者は、居住者からの要望を即座に一時的要望または持続的要望と判別する方法は誤判別を起こす可能性があり、長期的な視点における判断を加えることで判別精度を向上させることができることに着目した。
【0021】
長期間経過した後に、その期間にされた要望の申告結果を集計して処理することで、過去の要望判別が傾向として正しかったのか、間違えだったのかを改めて判断することができる。すなわち、要望申告に対して一時的要望/持続的要望の判別に基づき制御設定値を変更する機能と、例えば半日や1日といった長期間で制御設定値を変更する機能とを組み合わせることで、居住者の申告回数を減らし、居住者の負担を低減すると共に、空調制御の安定性を向上できることに想到した。
【0022】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本実施の形態では、居住者からの要望申告を受け付けたときに、この要望が一時的なものか持続的なものかを判別し、判別結果に基づき空調の即時応答用の制御プランを適用する。そして、一定周期毎に、その期間に受け付けた申告内容・回数に基づき、長期的補正用の制御プランを適用する。ここで、制御プランとは、要望に応じて空調の制御設定値を変更するルールを定めたものである。
【0023】
本実施の形態では、居住者自身が自らの要望を空調制御システムに対して入力する居住者申告型空調制御システムの例で説明する。本発明は、申告者の空調への変更要望をその持続時間に着目した種類(以下、持続種類と記)で判別して空調制御に反映する点が重要なポイントである。本発明は、空調方式(例えば個別方式、中央式など)及び採用している空調機器種類、空調制御要素(温度、湿度、放射やその複合制御など)、要望入力端末種類(BEMS、PC、携帯電話、スマートフォン、専用入力端末など)等によらず、当業者の通常の技術水準により適宜設計変更が可能である。
【0024】
本実施の形態では、説明の簡単のために、対象とする1つの空調エリアに居住者1名が在席する居住者申告型空調制御システムの例(
図1)で説明する。
図1において、100は居住者、101は居住者の在席空間、102は変更要望を受ける空調制御装置(コントローラ)、103は在席空間101の室温を計測する温度センサ、104は在席空間101の湿度を計測する湿度センサ、105は室内機、106は室外機である。空調制御装置102は、温度センサ103によって計測される室温が室温設定値と一致し、湿度センサ104によって計測される湿度が湿度設定値と一致するように空調機器(室内機105および室外機106)を制御する。また、本実施の形態では、夏季冷房時の例で説明するが、言うまでもなく、本発明は中間期や冬季暖房時にも適用可能である。
【0025】
図2に居住者の代謝量と空調エリアの快適性を表す温冷感指標であるPMVとの関係を示す。
図2の例では、居住者の代謝量以外のPMVの影響要因(温度、湿度、放射、風速、着衣量)は夏のオフィスを想定した固定値としている。具体的には、室温、放射温度を27℃、風速を0.1m/s、相対湿度を50%、着衣量を0.5[clo]としている。
【0026】
空調の室温設定値は省エネルギーや節電対策のために、環境省の推奨値(夏28℃、冬20℃)に基づいて室内環境が悪化する方向に緩和される傾向にある。しかしながら、快適性の影響要因は室温だけではないため、その他の影響要因が悪化するとPMV快適域である±0.5の範囲を逸脱する。
図2の例では、室温が環境省推奨値よりも1℃快適側の設定(27℃)である場合を示しているが、例えば摂食により居住者の代謝量が標準的な代謝量1.0[met]よりも10%増加して1.1[met]になると、PMVが快適域上限とされる0.5を超えてしまい、食後の要望申告の発生要因となり得ることが分かる。
【0027】
しかしながら、食事(昼食等)あるいは身体活動(出社後、帰社後、会議室移動後等)により発生する要望は、一時的な代謝量増加によるものであり、代謝量が時間経過とともに減少・安定化すれば、室内環境に変化がなくてもやがて解消の方向に向かう。具体的には、例えば外出先からの帰社直後には暑いと感じたとしても、帰社直後から時間が経過すれば、温度・湿度等の室内環境に変化がないにも拘わらず、暑いという感覚が解消するということが起こり得る。一方で、オフィスで執務を継続している居住者は代謝量が安定している状態であり、要望を引き起こしている要因は居住者側の体内環境変化ではなく、室内環境が要因であることが多い。このような場合には、居住者からの要望申告に対応して室内環境が適切に改善されなければ要望が持続する可能性が高い。
【0028】
このように、要望申告には、「暑い」、「やや暑い」、「暑くも寒くもない」、「やや寒い」、「寒い」、「XX℃上げて欲しい」、「XX℃下げて欲しい」などのように、空調変更の向き(暖める、冷やす)および強度と関連付けられる変更要望種類(以下、変更種類と記)に加え、さらに、室内環境に変化がなくてもやがて解消方向にむかう要望(以下、一時的要望と記)と、室内環境に変化がなければ持続する可能性の高い要望(以下、持続的要望と記)といった、持続性に着目した種類(以下、持続種類と記)がある。
【0029】
特に、摂食等による急激な代謝量増加によって発生する要望は一時的でかつ強要望となり易く、短時間で複数回の強要望の申告が繰り返される場合もある。しかしながら、要望の感じ方自体が時間とともに解消方向に向かうので、持続的要望と区別なく変更種類だけに着目して同じ制御を適用した場合、一時的要望の方が上述したような空調制御の不安定状態を引き起こし易い。よって、空調制御が不安定となる確率を低減するために、一時的要望を判別して、持続的要望とは異なる制御プランを適用する。
【0030】
ただし、居住者からの要望を即座に一時的要望または持続的要望と判別する方法は誤判別を起こす可能性があるため、長期的な視点における判断を加えることで判別精度を向上させる。長期間経過した後に、その期間にされた要望の申告結果を集計して処理することで、過去の要望判別が傾向として正しかったのか、間違えだったのかを改めて判断することができる。
【0031】
図3は本実施の形態の要望判別型空調制御装置の構成を示すブロック図である。要望判別型空調制御装置1は、機器制御部2と、制御プラン決定部3と、制御プラン記憶部4と、要望保持部5と、要望判別部6とを備えている。
【0032】
機器制御部2は、制御プラン決定部3が決定した制御プランに基づき空調機器7を制御する。
制御プラン決定部3は、要望の処理時点で実施されている制御プランと制御プラン記憶部4に記憶されている制御プラン情報と要望判別部6の判別結果に基づいて、空調機器7に新たに適用する制御プランを決定する。
図4は制御プラン決定部3の構成を示すブロック図である。
図4に示すように、制御プラン決定部3は、短期的な要望判別に対応する第1の制御プラン決定部30と、長期的補正処理に対応する第2の制御プラン決定部31とから構成される。
【0033】
制御プラン記憶部4には、要望判別部6の判別結果に対して適用する制御プランが予め設定され、記憶されている。これらの制御プランは、制御プロバイダや設備管理者が予め設定する。
要望保持部5は、要望入力端末8から入力された過去の要望を保持する。
【0034】
要望判別部6には、要望判別ルールが予め設定され、記憶されている。要望判別ルールは、制御プロバイダや設備管理者、エネルギー管理者が予め設定する。
要望申告者が空調への要望を入力する要望入力端末8としては、PC、携帯電話機、スマートフォン、専用リモコン端末などがある。なお、要望判別型空調制御装置1は
図1に示した空調制御装置102の内部に設けられる。
【0035】
次に、本実施の形態の空調制御システムの動作を説明する。
図5は、要望入力端末8から居住者の要望申告を受け付けた際の要望判別型空調制御装置1の動作を説明するフローチャートである。
【0036】
要望入力端末8は、要望入力者が入力した要望の変更種類DSと申告時刻Stimeとを要望判別部6に送信し、要望判別部6は、受信した情報を申告要望V(DS,Stime)として保持する(
図5ステップS1−1)。本実施の形態では、簡単のためにユーザが選択する変更種類DSを「暑い」、「寒い」の2種類とし、「暑い」を値「1」で示し、「寒い」を値「−1」で示すものとする。
【0037】
つまり、例えば、申告時刻10時10分に居住者が「暑い」と申告した要望はV(1,10:10)として保持され、同じ時刻に「寒い」と申告した要望はV(−1,10:10)として保持される。なお、この例では要望入力端末8から変更種類DSおよび申告時刻Stimeを送信するが、申告時刻Stimeを要望入力端末8から送信せずに、要望申告を受け付けた時刻を申告時刻として、要望判別部6が申告時刻Stimeを付加してもよい。
【0038】
要望入力端末8から最新の要望V(DS,Stime)を受け付けると、要望判別部6は、予め設定された要望判別ルールに基づき、申告要望の持続種類の判別を行なう(
図5ステップS1−2)。具体的には、要望判別部6は、申告者の代謝量を変化させる行動に関する情報から予め作成された要望判別ルールを記憶し、申告者からの要望V(DS,Stime)が発生した時刻と要望判別ルールとに基づいて、申告者からの要望V(DS,Stime)が一時的要望か持続的要望かを判別する。
【0039】
申告者の代謝量を変化させる行動に関する情報としては、申告者に関連するスケジュール、申告者が所属する事業所の事業所スケジュール、申告者の個人スケジュールなどがある。
図6に事業所スケジュールの例を示す。
図6の例では、9時から17時が就業時間帯となっている。12時から13時は昼休み、15時から15時15分は休憩時間である。
【0040】
図7は要望判別部6で受信した申告要望を一時的要望とみなす時間帯の例を示す図、
図8は要望判別部6に設定されている要望判別テーブル(要望判別ルール)の例を示す図である。
図7の例では、申告要望を一時的要望とみなす3つの時間帯T1〜T3があり、時間帯T1は8時から9時30分の間、時間帯T2は12時から13時30分の間、時間帯T3は15時から15時30分の間である。この一時的要望判別時間帯T1,T2,T3には、識別のための時間帯番号Nhとして、それぞれNh=1,2,3が割り当てられている。
【0041】
図8に示すように、要望判別テーブルは、一時的要望判別時間帯番号Nhと、一時的要望判別時間帯の開始時刻Hst(Nh)と、一時的要望判別時間帯の終了時刻Hed(Nh)と、補足情報とを対応付けて記憶するものである。上記のとおり、これらの内容は、主に制御プロバイダや設備管理者、エネルギー管理者が設定する。なお、補足情報は本実施の形態の説明のための記述であり、要望判別動作には使用しない。時間帯番号Nh=1,2,3の3つの時間帯T1〜T3は、
図6に示した事業所スケジュールに基づき、
図8のテーブル例に補足情報として示した「出社」、「昼食」、「休憩」という居住者の行動に対応付けて設定されている。
【0042】
要望判別部6は、要望入力端末8から受け付けた要望V(DS,Stime)の申告時刻Stimeが、時間帯番号Nh=1,2,3の3つの時間帯T1〜T3のいずれかに含まれれば、要望V(DS,Stime)を一時的要望と判別し、申告時刻Stimeが時間帯T1〜T3の範囲外であれば、要望V(DS,Stime)を持続的要望と判別する。本実施の形態では、申告者が所属する事業所のスケジュールから要望判別ルールを作成する例で説明しているが、申告者の個人スケジュールから要望判別ルールを作成してもよい。以上のような要望判別の手法の詳細は特許文献1に開示されている。
【0043】
要望判別部6は、要望V(DS,Stime)を一時的要望と判別した場合、要望V(DS,Stime)の持続種類を示す持続種類判別フラグFtmp(以下、判別フラグ)をFtmp=1とし、要望V(DS,Stime)を持続的要望と判別した場合、判別フラグFtmpをFtmp=0とする。
【0044】
そして、要望判別部6は、要望入力端末8から受け付けた要望V(DS,Stime)に、この要望V(DS,Stime)の処理時点で空調機器7に適用されている現在の制御設定値Tsetと判別フラグFtmpとを関連付け、これらを要望申告結果V(DS,Stime,Tset,Ftmp)として要望保持部5に記録する。例えば、10時10分に制御設定値(室温設定値)Tsetが26℃だったときに発生した「暑い」という要望が、一時的要望と判別された場合、要望保持部5に記録される要望申告結果の情報はV(1,10:10,26,1)となる。
【0045】
次に、制御プラン決定部30は、処理中の最新の要望V(DS,Stime)に対応する制御プランを決定する(
図5ステップS1−3)。制御プラン決定部30は、現時点で空調機器7に適用されている制御プラン(以下、既制御プランと記)と、制御プラン記憶部4に予め設定されている制御プランと、要望判別部6の判別結果に基づいて、空調機器7に新たに適用する制御プランを決定する。
【0046】
制御プラン記憶部4には、一時的要望および持続的要望に対応する制御プランがそれぞれ予め設定されている。持続的要望に対応する制御プラン(Ftmp=0に対応する制御プラン)としては、従来の汎用的な制御プラン(持続種類を判別せずに変更種類に応じて実施されていた従来の制御プラン)を設定すればよい。本実施の形態では、説明の簡単のため、
図9(A)に示すように要望V(DS,Stime)の処理時点での制御設定値Tset=Tbefを要望V(DS,Stime)の変更種類DSに応じて変更するという制御プランを、持続的要望に対応する制御プランとする。この制御プランによる制御設定値Tsetの変更は次式のように表すことができる。
Tset=Tbef+Tdp(DS) ・・・(1)
【0047】
制御設定値Tsetの例としては、室温設定値がある。式(1)のTdp(DS)は設定値変更幅である。この設定値変更幅Tdp(DS)は以下の式で決定される。
Tdp(DS)=S(DS)×γdp(DS) ・・・(2)
【0048】
上記のとおり、居住者が「暑い」と申告したとき、要望の変更種類DS=1となり、居住者が「寒い」と申告したとき、変更種類DS=−1となる。式(2)におけるS(DS)は変更種類DSに対応する制御設定値Tsetの増減方向を示す係数である。変更種類DS=1のとき、係数S(1)=−1となり、変更種類DS=−1のとき、係数S(−1)=1となる。つまり、居住者が「暑い」と申告したときは、係数S(DS)を−1にして制御設定値Tsetを下げ、居住者が「寒い」と申告したときは、係数S(DS)を1にして制御設定値Tsetを上げる。
【0049】
式(2)におけるγdp(DS)は変更種類DSに対応する設定値変更幅である。この設定値変更幅γdp(DS)は、変更種類DSに応じて予め制御プロバイダや設備管理者などによって決定される。ここでは、設定値変更幅γdp(DS)は、変更種類DSの値によらず一律に0.5℃とするが、変更種類DSの値に応じて異なる値としても構わないことは言うまでもない。
【0050】
一方、一時的要望に対応する制御プラン(Ftmp=1に対応する制御プラン)としては、例えば、持続的要望に対応する制御プランと同様に制御設定値Tsetを変更するが、設定値変更を維持時間taだけ維持した後、制御設定値Tsetを当該申告要望に対応する前のTset=Tbefに復帰させるという制御プランを設定すればよい(
図9(B))。制御設定値Tsetの変更は式(1)、式(2)で説明したとおりである。維持時間taは、居住者の代謝量の急激な変化が安定に向かう時間であり、対応する居住者行動に応じて、例えば20分などと設定すればよい。この維持時間taは、運用実態に応じて設備管理者などが適宜修正すればよい。制御設定値TsetのTbefへの復帰は予め定めた復帰時間で徐々にTbefに近づけるようにしてももちろん構わない。
【0051】
最後に、機器制御部2は、制御プラン決定部30が決定した新たな制御プランに基づき、空調機器7を制御する(
図5ステップS1−4)。つまり、機器制御部2は、最新の要望V(DS,Stime)の処理時点で空調機器7に適用されている現在の制御設定値Tset=Tbefと、要望V(DS,Stime)の変更種類DSと、制御プラン決定部30が決定した制御プランに基づき、空調機器7に新たに適用する制御設定値Tsetを決定する。また、機器制御部2は、空調の制御量(例えば室温)と制御設定値Tset(例えば室温設定値)とが一致するように空調機器7を制御する。制御アルゴリズムとしては例えばPIDが知られている。
居住者からの新たな要望申告が発生した場合には、この要望に対してステップS1−1〜S1−4の処理が繰り返される。
【0052】
図10は、長期的補正周期毎に繰り返される要望判別型空調制御装置1の動作を説明するフローチャートである。
まず、制御プラン決定部31は、長期的補正処理の実行タイミングになると、前回の長期的補正処理の実行タイミングから今回の実行タイミングまでの長期的補正周期の期間中に受け付けた要望申告結果V(DS,Stime,Tset,Ftmp)のデータを要望保持部5から取得する(
図10ステップS2−1)。このとき、制御プラン決定部31は、要望申告結果V(DS,Stime,Tset,Ftmp)のうち、一時的要望と判別されたことを示しているデータ(Ftmp=1のデータ)を、間違えて一時的要望と判別されてしまった可能性のあるデータとして抽出する。
【0053】
次に、制御プラン決定部31は、ステップS2−1で抽出した一時的要望の申告数に基づいて、空調機器7に新たに適用する制御プランを決定する(
図10ステップS2−2)。制御プラン記憶部4には、上記の一時的要望および持続的要望に対応する制御プランと共に、長期的補正用の制御プランが予め記憶されている。本実施の形態では、長期的補正用の制御プランとして、「暑い」という一時的要望と「寒い」という一時的要望の申告数の差分Ndifを基に制御設定値Tset(室温設定値)の変更幅Tdpを決定するという制御プランが設定されているものとする(
図11)。
【0054】
図11では、「暑い」という一時的要望の申告数と「寒い」という一時的要望の申告数の差分Ndifを横軸にとり、温度変更幅Tdpを縦軸にとっている。
図11によると、差分Ndifが差分閾値Ndif_a以上であれば、温度変更幅TdpをTdp_aとし、差分Ndifが差分閾値Ndif_b以下であれば、温度変更幅TdpをTdp_bとする。差分NdifがNdif_bより大でNdif_a未満であれば、温度変更幅Tdpは0となる(すなわち、制御プランに変更なし)。
図11から判るように、Tdp_aとNdif_bは負の値をとる。つまり、「暑い」という一時的要望の方が多ければ室温設定値を下げ、「寒い」という一時的要望の方が多ければ室温設定値を上げる。
【0055】
最後に、機器制御部2は、制御プラン決定部31が決定した新たな制御プランに基づき、空調機器7を制御する(
図10ステップS2−3)。
以上のようなステップS2−1〜S2−3の処理が長期的補正周期毎に繰り返し実行される。
【0056】
図12に、要望申告に対して空調機器7の制御設定値Tset(室温設定値)がどのように変更されるかの1例を示す。
図12のh’1,h’2,h’3は「暑い」という一時的要望、c1は「寒い」という持続的要望を表している。
【0057】
図12の時刻t1において「寒い」という持続的要望c1が発生したとき、制御プラン決定部30は、持続的要望に対応する制御プランを、空調機器7に新たに適用する制御プランとして決定する。機器制御部2は、この制御プランに基づいて、式(1)、式(2)により制御設定値TsetをTbef1に上げる。
【0058】
次に、時刻t2において「暑い」という要望h’1が発生したとき、要望判別部6は、要望判別ルールにより、要望h’1を一時的要望と判別する。制御プラン決定部30は、一時的要望に対応する制御プランを、空調機器7に新たに適用する制御プランとして決定する。機器制御部2は、この制御プランに基づいて、式(1)、式(2)により制御設定値TsetをTbef2に下げ、維持時間ta(本実施の形態では30分)後に時刻t2以前の制御設定値Tset=Tbef1に復帰させる。
【0059】
同様に、要望判別部6は、時刻t3,t4において発生した要望h’2,h’3を一時的要望と判別する。
次に、制御プラン決定部31は、時刻t5において長期的補正処理の実行タイミングになると、前回の長期的補正処理の実行タイミングから今回の実行タイミングまでの長期的補正周期の期間中に受け付けた要望の中から一時的要望と判別されたものを抽出し、この一時的要望の申告数に基づいて、空調機器7に新たに適用する制御プランを決定する。
【0060】
ここでは、「暑い」という一時的要望が過去に3件あり、「暑い」という一時的要望の申告数と「寒い」という一時的要望の申告数の差分Ndifが差分閾値Ndif_a(本実施の形態ではNdif_a=2)以上なので、制御プラン決定部31は、制御設定値Tsetの変更幅TdpをTdp_aとする。機器制御部2は、制御プラン決定部31が決定した新たな制御プランに基づいて、制御設定値TsetをTdp_aだけ下げる。
【0061】
以上のように、本実施の形態では、短期的に要望の持続種類を判別し、持続種類の判別結果に基づいた制御プランを空調機器7に適用することで、居住者の申告回数や申告作業の手間を軽減しながら、空調制御が不安定になる可能性を低減することができる。さらに、本実施の形態では、半日や1日といった長期間の要望の申告結果に基づき制御プランを補正することにより、要望の持続種類の誤判別によって空調制御システム自体への居住者の不満感が増大することを防ぐことができる。
【0062】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態において、空調制御システムおよび要望判別型空調制御装置1の構成と処理の流れは第1の実施の形態と同様であるので、
図1、
図3、
図5の符号を用いて説明する。要望を受け付けた際の要望判別型空調制御装置1の動作は
図5で説明したとおりである。
【0063】
本実施の形態では、長期的補正処理の実行タイミングにおいて過去の一時的要望のデータを抽出する際に、ある条件でデータを抽出する。例えば、一時的と判別された要望が過去にあったとしても、その後の要望により制御設定値Tsetが変更されていた場合には、変更以前の一時的要望は無視してもよい。
【0064】
図13は本実施の形態において長期的補正周期毎に繰り返される要望判別型空調制御装置1の動作を説明するフローチャートである。
まず、制御プラン決定部31は、長期的補正処理の実行タイミングになると、前回の長期的補正処理の実行タイミングから今回の実行タイミングまでの長期的補正周期の期間中に受け付けた要望申告結果V(DS,Stime,Tset,Ftmp)のデータを要望保持部5から取得し(
図13ステップS3−1)、この要望申告結果V(DS,Stime,Tset,Ftmp)のうち、特定の条件に適合する一時的要望のデータを抽出する(
図13ステップS3−2)。
【0065】
本実施の形態では、制御プラン決定部31は、長期的補正処理の実行タイミング時点の制御設定値Tsetと同一と見なせる範囲の設定値のときに申告された一時的要望のみを抽出する。
続いて、制御プラン決定部31は、ステップS3−2で抽出した一時的要望の申告数に基づいて、空調機器7に新たに適用する制御プランを決定する(
図13ステップS3−3)。このステップS3−3の処理は、
図10のステップS2−2と同じである。
【0066】
最後に、機器制御部2は、制御プラン決定部31が決定した新たな制御プランに基づき、空調機器7を制御する(
図13ステップS3−4)。
以上のようなステップS3−1〜S3−4の処理が長期的補正周期毎に繰り返し実行される。
【0067】
図14に、要望申告に対して空調機器7の制御設定値Tset(室温設定値)がどのように変更されるかの1例を示す。
図14のh’1,h’2,h’3は「暑い」という一時的要望、h4は「暑い」という持続的要望を表している。
【0068】
一時的要望h’1,h’2,h’3に対する要望判別型空調制御装置1の動作は
図12の場合と同様なので、説明は省略する。
次に、時刻t4において「暑い」という要望h4が発生した場合、要望判別部6は、要望判別ルールにより、要望h4を持続的要望と判別する。制御プラン決定部30は、持続的要望に対応する制御プランを、空調機器7に新たに適用する制御プランとして決定する。機器制御部2は、この制御プランに基づいて、式(1)、式(2)により制御設定値Tsetを25.5℃に下げる。
【0069】
次に、制御プラン決定部31は、時刻t5において長期的補正処理の実行タイミングになると、前回の長期的補正処理の実行タイミングから今回の実行タイミングまでの長期的補正周期の期間中に受け付けた要望の中から特定の条件に適合する一時的要望を抽出し、この一時的要望の申告数に基づいて、空調機器7に新たに適用する制御プランを決定する。
図14の例では、制御設定値Tset=26℃のときに申告された一時的要望h’1,h’2,h’3が3件あるが、その後に申告された持続的要望h4により制御設定値Tsetが25.5℃に変化している。
【0070】
時刻t5の制御設定値Tset=25.5℃と同一の設定値のときに申告された一時的要望がないため、「暑い」という一時的要望の申告数と「寒い」という一時的要望の申告数の差分Ndifが0となり、制御プラン決定部31は、制御設定値Tsetの変更幅Tdpを0とする。したがって、機器制御部2は、制御設定値Tsetを変更しない。
【0071】
以上のように、本実施の形態では、長期的補正処理を実行する際に特定の条件に適合する一時的要望のみを抽出して、この一時的要望の申告数に基づいて空調機器7に新たに適用する制御プランを決定することにより、要望の持続種類の判別精度を更に向上させることができ、誤判別によって空調制御システム自体への居住者の不満感が増大する可能性を更に低減することができる。
【0072】
なお、
図14の例では、時刻t5の制御設定値Tsetと同一の設定値のときに申告された一時的要望を抽出しているが、上記のとおり、同一と見なせる制御設定値Tsetの範囲に幅を持たせるようにしてもよい。例えば制御設定値Tsetが0.1℃刻みで変更される場合に、長期的補正処理の実行タイミング時点の制御設定値Tsetと同一と見なせる範囲を、この制御設定値Tsetを中心とする±0.4℃の範囲とすればよい。
【0073】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態においても、空調制御システムおよび要望判別型空調制御装置1の構成と処理の流れは第1の実施の形態と同様であるので、
図1、
図3、
図5、
図10の符号を用いて説明する。要望を受け付けた際の要望判別型空調制御装置1の動作は
図5で説明したとおりである。
【0074】
本実施の形態では、長期的補正処理の実行タイミングにおいて過去の一時的要望の申告数が一定数以下であった場合には、省エネルギーの実現可能性があるものとし、省エネルギーを実現できる方向に制御設定値Tsetを変更する。一時的要望または持続的要望に応じて制御設定値Tsetを変更することで、多くの人が快適と感じ要望申告が少なくなるのと同時に、増エネルギーとなってしまうことが懸念される。そこで、本実施の形態では、省エネルギーと快適さを両立できる、より良い制御設定値Tsetを探すための工夫を追加する。
【0075】
制御プラン決定部31のステップS2−1の動作は第1の実施の形態で説明したとおりである。次に、制御プラン決定部31は、ステップS2−1で抽出した一時的要望の申告数に基づいて空調機器7に新たに適用する制御プランを決定するが(
図10ステップS2−2)、「暑い」という一時的要望の申告数と「寒い」という一時的要望の申告数とが共に閾値N以下で、かつ前記長期的補正周期の期間中に受け付けた「暑い」という持続的要望の申告数と長期的補正周期の期間中に受け付けた「寒い」という持続的要望の申告数とが共に閾値M以下である場合には、
図11で説明した長期的補正用の制御プランを採用せずに、省エネルギーを実現できる方向に制御設定値Tsetを所定幅だけ変更するという制御プランを選択する。なお、閾値N,Mは、差分閾値Ndif_a,Ndif_bの絶対値よりも小さい値であることが好ましい。また、閾値Mについては例えば1に設定すればよい。
【0076】
機器制御部2は、制御プラン決定部31が決定した新たな制御プランに基づき、空調機器7を制御する(
図10ステップS2−3)。具体的には、機器制御部2は、冷房時は制御設定値Tsetを所定幅だけ上げる方向に変更し、暖房時は制御設定値Tsetを所定幅だけ下げる方向に変更する。
【0077】
図15に、要望申告に対して空調機器7の制御設定値Tset(室温設定値)がどのように変更されるかの1例を示す。
図15のh1は「暑い」という持続的要望を表している。持続的要望h1に対する要望判別型空調制御装置1の動作は
図12、
図14の場合と同様なので、説明は省略する。
【0078】
次に、制御プラン決定部31は、時刻t2において長期的補正処理の実行タイミングになると、前回の長期的補正処理の実行タイミングから今回の実行タイミングまでの長期的補正周期の期間中に受け付けた要望の中から一時的要望を抽出するが、
図15の例では半日や1日といった長期的補正周期の期間中に申告された一時的要望がなく、また長期的補正周期の期間中に受け付けた持続的要望はh1の1件だけである。したがって、制御プラン決定部31は、省エネルギーを実現できる方向に制御設定値Tsetを所定幅だけ変更するという制御プランを選択する。
図15は冷房時の例を示しているので、機器制御部2は、制御設定値Tsetを所定幅だけ上げる方向に変更する。
【0079】
なお、本実施の形態では、第1の実施の形態と組み合わせる例を説明しているが、これに限るものではなく、第2の実施の形態と第3の実施の形態を組み合わせてもよいことは言うまでもない。
【0080】
第1〜第3の実施の形態では、申告者を区別していないが、要望入力端末8は、申告者を特定できる情報(申告者のID(Identification)など)を要望Vに付加して要望判別型空調制御装置1に送信するようにしてもよい。この申告者特定情報により、申告者を区別できるので、要望判別部6は、同一人物が同一申告判定時間tb内に同種の要望申告を複数回行った場合には、これらを1つの要望と見なす。これにより、特定の人からの過度な要望の影響を受け難くすることができる。
【0081】
また、第1〜第3の実施の形態では、要望の変更種類を「暑い」、「寒い」の2種類としたが、変更種類を「暑い」、「やや暑い」、「暑くも寒くもない」、「やや寒い」、「寒い」の5種類などとしてもよい。この場合、「暑い」はDS=1、「やや暑い」はDS=2、「暑くも寒くもない」はDS=3、「やや寒い」はDS=4、「寒い」はDS=5とする。変更種類DS=1,2,3,4,5に対応する係数S(DS)をそれぞれ−1,−1,0,1,1とする。また、変更種類DS=1,2,3,4,5に対応する設定値変更幅γdp(DS)をそれぞれ1.0[℃],0.5[℃],0[℃],0.3[℃],0.6[℃]とする。このように変更種類DSに応じて設定値変更幅γdp(DS)が異なるようにしてもよい。
【0082】
また、第1〜第3の実施の形態において、“同種の要望“とは、要望の変更種類(変更の向きと要望の強度)が完全同一である要望のことを言う場合と、要望の変更種類が実質同一である要望のことを言う場合とがある。実質同一とは、変更の向き(暑い、寒い)が同一で、要望の強度が異なることを言う。同種の要望を、完全同一の要望とするか、実質同一の要望とするかは予め定義しておくことができる。例えば、完全同一の要望を同種の要望とすれば、「暑い」と「やや暑い」は別種の要望となり、「寒い」と「やや寒い」も別種の要望となる。
【0083】
一方、実質同一の要望を同種の要望とすれば、「暑い」と「やや暑い」は同種の要望となり、「寒い」と「やや寒い」も同種の要望となる。また、「やや暑い」、「暑くも寒くもない」、「やや寒い」を同種の要望として定義しておくこともできる。この場合は、「暑い」と「やや暑い」は別種の要望となる。同種の要望の範囲を定義するには、変更種類DSを使用すればよい。上記の例で言えば、「暑い」と「やや暑い」を同種の要望と定義する場合、DS=1とDS=2の要望を同種の要望と定義することになる。また、「やや暑い」、「暑くも寒くもない」、「やや寒い」を同種の要望と定義する場合、DS=2とDS=3とDS=4の要望を同種の要望と定義することになる。
【0084】
また、1つの要望判別型空調制御装置1が複数の空調機器7を制御している場合、要望入力端末8は、制御対象となる空調機器7を特定できる対象機器特定情報(空調機器のID、空調エリアのID、要望申告者のID、要望申告者の位置情報など制御対象となる空調機器7を特定できる情報)を要望Vに付加して要望判別型空調制御装置1に送信する。要望判別型空調制御装置1の制御プラン決定部3は、対象機器特定情報に応じて制御対象となる空調機器7の制御プランを決定し、また機器制御部2は、対象機器特定情報に基づいて制御対象となる空調機器7を特定して制御すればよい。なお、この場合、制御プランは、空調機器7毎に制御プラン記憶部4に予め設定されていてもよい。
【0085】
第1〜第3の実施の形態で説明した要望判別型空調制御装置1は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1〜第3の実施の形態で説明した処理を実行する。