(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正極が、金属ナトリウムに対して4.0V以上の電位でナトリウムイオンを吸蔵および放出するファラデー反応を発現する正極活物質を含む、請求項5に記載のナトリウムイオン二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本発明に係るナトリウムイオン二次電池用電解質は、ナトリウム塩およびこれを溶解させる非水溶媒を含むことから、良好なナトリウムイオン伝導性を有する。ただし、優れた耐熱性を確保する観点から、ナトリウム塩は、ビスフルオロスルホニルアミドアニオンを含む。また、低温での良好な充放電特性を確保する観点から、非水溶媒は、プロピレンカーボネートを含む。このとき、良好なサイクル特性を確保するには、プロピレンカーボネートとナトリウム塩に由来するナトリウムイオンとのモル比:PC/Naを3.5以下とすることが重要である。なお、電解質に含まれるナトリウムイオンは全てナトリウム塩に由来するものと考える。
【0013】
(2)好ましい実施形態では、非水溶媒中のプロピレンカーボネートの含有量は、15〜70質量%である。また、(3)好ましい実施形態では、電解質におけるナトリウムイオンの濃度は、1mol/L〜3mol/Lである。これにより、レート特性とサイクル特性とのバランスを確保しやすくなる。
【0014】
(3)本発明に係るナトリウムイオン二次電池は、発電要素と、発電要素を収容する電池ケースと、を含み、発電要素は、正極と、負極と、正極および負極の間に介在するセパレータと、上記電解質とを含む。よって、ナトリウムイオン二次電池は、優れた耐熱性と、良好なサイクル特性とを有する。
【0015】
(4)ナトリウムイオン二次電池において、電池ケース、正極および負極から選ばれる少なくとも1つはアルミニウムを含んでもよい。通常、電解質がビスフルオロスルホニルアミドアニオンを含む場合、高電圧下では、金属状態のアルミニウムが腐食されやすく、高温下では、腐食の程度が大きくなる。一方、上記電解質は、モル比:PC/Naが3.5以下に制御されているため、アルミニウムの腐食は大きく抑制される。アルミニウムの腐食が抑制されるメカニズムは明確ではないが、PC/Na比を小さくすることで溶媒和していないフリーのPC量が少なくなり、アルミニウムの表面を覆う不動態膜が安定化するものと考えられる。一方、フリーのPCの存在下では、不動態膜が不安定になり、腐食が進行するものと予測される。
【0016】
(5)好ましい実施形態では、正極が、金属ナトリウムに対して4.0V以上の電位でナトリウムイオンを吸蔵および放出するファラデー反応を発現する正極活物質を含む。この場合、ナトリウムイオン二次電池を高電圧まで充電することで、大きな容量を得ることができる。通常、アルミニウムの腐食は、電池電圧が4Vを超えるときに顕著になるが、上記電解質を用いる場合には、電圧が4Vを超えるまで電池を充電しても、アルミニウムの腐食は大きく抑制される。
【0017】
[発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係るナトリウムイオン二次電池用電解質およびナトリウムイオン二次電池の具体例を、適宜図面を参照しつつ以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0018】
(ナトリウム塩)
ナトリウム塩は、非水溶媒中で解離して、ナトリウムイオンとアニオンとを生成する。ここで、アニオンは、少なくともビスフルオロスルホニルアミドアニオン((FSO
2)
2N
−)(FSAアニオン)を含む。これにより、電解質の耐熱性が大きく向上する。これに対し、例えばヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF
6−)を含む電解質は、耐熱性が低く、サイクル特性が低下しやすい。例えば60℃以上の温度では、電池の充放電を繰り返すと、PF
6−が徐々に分解するものと考えられる。
【0019】
耐熱性の向上効果を高める観点からは、FSAアニオンのナトリウム塩(NaFSA)が、ナトリウム塩の大部分もしくは100%を占めることが好ましい。ただし、電解質の製造コストを低減する観点から、NaFSA以外のナトリウム塩を併用してもよい。この場合、NaFSAがナトリウム塩の50質量%以上を占めることが望ましく、65質量%以上を占めることがより好ましく、80質量%以上を占めることが更に好ましい。
【0020】
NaFSA以外のナトリウム塩は、特に限定されないが、アニオンとして、ヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF
6−)、テトラフルオロボレートアニオン(BF
4−)、過塩素酸アニオン(ClO
4−)、FSA以外のビススルホニルアミドアニオンなどを有する塩が挙げられる。FSA以外のビススルホニルアミドアニオンとしては、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)アミドアニオン((FSO
2)(CF
3SO
2)N
−)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミドアニオン(N(SO
2CF
3)
2−)などが挙げられる。これらのナトリウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
電解質におけるナトリウム塩(特にNaFSA)またはナトリウムイオンの濃度は、例えば、0.2mol/L〜10mol/Lの範囲から適宜選択できるが、1mol/L〜3mol/Lであることが好ましく、1.5mol/L〜3mol/Lであることがより好ましく、2mol/L〜3mol/Lであることが更に好ましい。これにより、所望のレート特性を確保することが容易となる。
【0022】
(非水溶媒)
非水溶媒は、低温で良好に作動するとともに、高温でのサイクル特性を安定化させる観点から、プロピレンカーボネート(PC)を必須成分として含む。ただし、PCとナトリウム塩とのモル比:PC/Naは、3.5以下に制御される。これにより、良好なサイクル特性を有するナトリウムイオン二次電池を得ることができる。
【0023】
モル比:PC/Naが3.5以下に制御される場合、ナトリウム塩濃度が高いほど、PCの含有量を大きくすることができる。よって、電解質の粘度が低下するため、ナトリウムイオン電池のレート特性が顕著に向上する。一方、ナトリウム塩濃度が低いほど、PCの含有量は小さくなるが、ナトリウム塩の使用量が減少するため、電解質の製造コストを低減できるメリットがある。
【0024】
モル比:PC/Naが3.5を超えると、FSAアニオンが関与する副反応が進行しやすくなり、サイクル特性が顕著に低下する。一方、PCを用いることによる効果、特にサイクル特性の向上と電解質の低粘度化の効果を十分に得る観点からは、モル比:PC/Naは、1.0以上であることが好ましく、1.3以上であることが更に好ましい。なお、副反応をより高度に抑制する観点から、モル比:PC/Naは、3.0以下であることが望ましく、2.5以下もしくは2.0以下であることが更に望ましい。
【0025】
非水溶媒中のPCの含有量は、電解質におけるナトリウム塩濃度に応じて適宜設定する必要があるが、例えば15〜70質量%であることが好ましい。PCが15質量%以上であれば、電解質を低粘度化する効果が大きく、サイクル特性を向上させる効果も大きくなる。また、PCが70質量%以下であれば、FSAアニオンが関与する副反応を抑制する効果が大きくなる。
【0026】
電解質におけるナトリウムイオン濃度が、1.5mol/L未満である場合には、非水溶媒中のPCの含有量が15質量%〜30質量%であることが好ましく、15質量%〜20質量%であることが更に好ましい。また、電解質におけるナトリウムイオン濃度が、1.5mol/L以上、2mol/L未満である場合には、非水溶媒中のPCの含有量が20質量%〜50質量%であることが好ましい。また、電解質におけるナトリウムイオン濃度が、2mol/L以上、3mol/L以下である場合には、非水溶媒中のPCの含有量が30質量%〜70質量%であることが好ましく、50質量%〜70質量%であることが更に好ましい。
【0027】
(リン酸エステル)
電解質の耐熱性を更に向上させる観点から、非水溶媒は、更に、リン酸エステルを含むことが望ましく、特にフッ化リン酸エステルを含むことが望ましい。これにより、電解質の耐熱性を飛躍的に高めることが可能であり、かつ電解質の引火点を無くすことも可能である。
【0028】
電解質の引火点は、70℃以上であることが好ましく、引火点を有さない場合が最も好ましい。引火点が70℃以上である場合、電解質は、第3石油類または第4石油類などに分類される。そのため、一般に第2石油類に分類されるリチウムイオン二次電池用電解質に比べて、高い安全性を確保することができる
【0029】
リン酸エステルとしては、トリアルキルホスフェート(特にトリC
1−6アルキルホスフェート)、トリアリールホスフェート(特にトリC
6−10アリールホスフェート)などが例示できる。リン酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
トリC
1−6アルキルホスフェートとしては、トリメチルホスフェート(TMP:trimethyl phosphate)、トリエチルホスフェート(TEP:triethyl phosphate)などが好ましく、トリC
6−10アリールホスフェートとしては、トリフェニルホスフェート、トリトリルホスフェートなどが好ましい。
【0031】
リン酸エステルのエステル部位(アルキル基やアリール基)が嵩高くなると、Naとの溶媒和エネルギーが小さくなるため、容量の低下を抑制し易くなる。よって、サイクル特性を高める観点からは、TEP、トリアリールホスフェートなどを用いることが好ましい。
【0032】
リン酸エステルとして、難燃性が高く、かつ低粘度のフッ化リン酸エステルを用いることもできる。フッ化リン酸エステルは、例えば下記式(I)で表される構造を有する。 フッ化リン酸エステルは、リン酸エステルの50質量%以上を占めることが望ましく、80質量%以上を占めることがより好ましく、100%を占めることが更に好ましい。これにより、電解質の更なる低粘度化および難燃化が可能である。
【0033】
【化1】
(式中、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立であり、いずれもアルキル基またはフルオロアルキル基を示し、R
1、R
2およびR
3のうち少なくとも1つはフルオロアルキル基である。)
【0034】
R
1〜R
3のうち2つまたは3つが同じであってもよく、全てが異なっていてもよい。R
1〜R
3で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのC
1−6アルキル基が例示できる。フルオロアルキル基としては、これらのアルキル基に対応するフルオロアルキル基、つまり、フルオロC
1−6アルキル基が例示できる。アルキル基およびフルオロアルキル基の炭素数は、それぞれ1〜3個が好ましく、2個または3個であってもよい。
【0035】
フルオロアルキル基が有するフッ素原子の個数は、特に制限されず、フルオロアルキル基の炭素数に応じて適宜選択できる。各フルオロアルキル基が有するフッ素原子の個数は、難燃性および充放電特性などの観点からは、複数個であることが好ましく、2〜4個、もしくは2個または3個であってもよい。つまり、フッ化リン酸エステルは、ポリフルオロアルキル基を有するポリフルオロアルキルホスフェートであることが好ましい。
【0036】
フルオロアルキル基は、フルオロアルキル基を構成するいずれの炭素原子上にフッ素原子を有していてもよいが、フッ化リン酸エステルのリン原子からできるだけ遠い炭素原子上に有していることが好ましい。例えば、フルオロエチル基では、エチル基の2位の炭素原子、フルオロn−プロピル基では、n−プロピル基の3位の炭素原子上に、フッ素原子を有することが好ましい。
【0037】
フルオロアルキル基の個数は1〜3個から選択でき、難燃性および充放電特性などの観点からは、R
1、R
2およびR
3のうち、2つまたは3つがフルオロアルキル基もしくはポリフルオロアルキル基であり、残りがアルキル基であることが好ましい。ポリフルオロアルキル基としては、例えば、ジフルオロメチル基、2,2−ジフルオロエチル基などのジフルオロC
1−3アルキル基;トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などのトリフルオロC
1−3アルキル基;2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基などのテトラフルオロC
2−3アルキル基などが挙げられる。
【0038】
難燃性および充放電特性(サイクル特性、レート特性など)の観点から、フッ化リン酸エステルのうち、トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスフェート(TFEP:tris(2,2,2−trifluoroethyl) phosphate)、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチルホスフェート(TFEMP:bis(2,2,2−trifluoroethyl) methyl phosphate)およびビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチルホスフェート(TFEEP:bis(2,2,2−trifluoroethyl) ethyl phosphate)からなる群より選択される少なくとも1種が特に好ましい。レート特性をさらに高める観点からは、TFEMPおよび/またはTFEEPを用いることが特に好ましい。
【0039】
リン酸エステルは、非水溶媒のうち、PC以外の成分の50質量%以上を占めることが望ましく、65質量%以上を占めることが更に望ましく、80質量%以上を占めることが特に望ましい。
【0040】
非水溶媒に含まれるリン酸エステルおよびPCの含有量の合計は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。このように、非水溶媒の組成を制御することで、耐熱性および充放電特性(サイクル特性およびレート特性)の向上効果を得やすくなる。
【0041】
なお、リン酸エステルは、ナトリウムイオン二次電池(NaB)中では、リチウムイオン二次電池(LiB)中とは異なる挙動を示す。LiBの電解質に、多量のリン酸エステルを含む非水溶媒を用いると、サイクル特性および/またはレート特性が損なわれ易く、充放電自体が困難となる場合もある。Liは、リン酸エステルとの溶媒和エネルギーが大きいため、充電時には、溶媒和された状態で負極活物質中に吸蔵(または挿入)される。その結果、電解質の分解を伴って高抵抗な固体電解質界面(SEI:Solid Electrolyte Interface)被膜が形成されるものと考えられる。このようなSEI被膜の形成は、サイクル特性を大きく低下させる。
【0042】
一方、Naは、Liよりもイオン半径が大きいため、電荷密度が小さく、リン酸エステルとの溶媒和エネルギーがLiの場合よりも小さくなる。そのため、負極へのNaの挿入をスムーズに行うことができ、電解質の分解を伴う副反応が抑制される。よって、良好なサイクル特性が得られる。
【0043】
(第3溶媒)
非水溶媒は、PCおよびリン酸エステルもしくはフッ化リン酸エステル以外の溶媒(第3溶媒)を更に含んでもよい。第3溶媒としては、ナトリウムイオン二次電池の電解質に使用される公知の有機溶媒および/またはイオン液体が例示できる。第3溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。イオン液体は、溶融状態の塩(溶融塩)と同義であり、アニオンとカチオンとで構成される液状イオン性物質である。なお、ナトリウム塩は、イオン液体に分類されることもあるが、本明細書中では、便宜上、イオン液体には含まないものとする。
【0044】
第3溶媒である有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC:ethylene carbonate)、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC:diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート、メチル2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネートなどの鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどの環状エステル;1.2−ジメトキシエタン、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテルなどの鎖状エーテルなどを用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
電解質は、必要に応じて、ナトリウム塩および非水溶媒に加え、添加剤を含んでもよい。電解質中に占めるナトリウム塩および非水溶媒の合計は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上または90質量%以上であってもよい。電解質中に占めるナトリウムイオンおよび非水溶媒の合計がこのような範囲であることで、PCおよびフッ化リン酸エステルの含有量を相対的に高めることができ、難燃性および充放電特性の向上効果が得られ易くなる。
【0046】
(ナトリウムイオン二次電池)
ナトリウムイオン二次電池は、発電要素と、発電要素を収容する電池ケースと、を含む。発電要素は、正極と、負極と、正極および負極の間に介在するセパレータと、上記電解質とを含む。ここで、電池ケース、正極および負極から選ばれる少なくとも1つはアルミニウムを含んでもよい。
以下に、電解質以外の電池の構成要素についてより詳細に説明する。
【0047】
(正極)
正極は、正極活物質を含む。正極は、正極集電体と、正極集電体に担持された正極活物質(または正極合剤)とを含んでもよい。
正極集電体は、金属箔でもよく、金属多孔体でもよい。金属多孔体としては、三次元網目状の骨格(特に中空の骨格)を有する金属多孔体を使用できる。正極集電体の材質としては、正極電位での安定性の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金などが好ましい。
【0048】
正極活物質としては、ナトリウムイオンを吸蔵および放出(または挿入および脱離)する材料(すなわち、ファラデー反応により容量を発現する材料)が使用できる。このような材料としては、ナトリウムと遷移金属との複合化合物が挙げられる。複合化合物は、Alなどの典型金属元素を含んでもよい。中でも、高容量が得られる点で、金属ナトリウムに対して4.0V以上の電位でナトリウムイオンを吸蔵および放出するファラデー反応を発現する正極活物質が好ましい。
【0049】
複合化合物としては、酸化物が好ましく、例えば、亜クロム酸ナトリウム(NaCrO
2)、ニッケルマンガン酸ナトリウム、鉄コバルト酸ナトリウム、鉄マンガン酸ナトリウムなどが挙げられる。中でも、ニッケルマンガン酸ナトリウムが好ましい。ニッケルマンガン酸ナトリウムのNi、MnまたはNaの一部を他元素で置換してもよい。
【0050】
ニッケルマンガン酸ナトリウムの中でも、NiおよびMnに加え、Tiを含む複合酸化物(以下、NiMnTi酸化物)は、金属ナトリウムに対する電位が高く、電池の平均電圧を高めることができる点で好ましい。NiMnTi酸化物は、P2型またはO3型の層状の結晶構造を有することが好ましく、特にO3型結晶構造が望ましい。なお、O3型結晶構造とは、空間群R―3mに属する結晶構造である。
【0051】
層状O3型結晶構造を有する金属酸化物は、遷移金属元素(Me)と酸素とで構成されるMeO
2層の積層構造を含み、放電時には、MeO
2層の層間にナトリウムイオンが吸蔵され、充電時には、層間からナトリウムイオンが放出される。遷移金属以外の金属元素は、通常、遷移金属元素Meのサイトに置換される。
【0052】
好ましいニッケルマンガン酸ナトリウムは、例えば式:Na
aTi
bNi
cMn
dM
eO
2±α(式中、Mは、Na、Ti、NiおよびMn以外の金属元素であり、aは、Ti、Ni、MnおよびMの合計に対するNaの原子比であり、bは、Ti、Ni、MnおよびMに占めるTiの原子比であり、cは、Ti、Ni、MnおよびMに占めるNiの原子比であり、dはTi、Ni、MnおよびMに占めるMnの原子比であり、eは、Ti、Ni、MnおよびMに占めるMの原子比であり、b+c+d+e=1.0であり、αは酸素欠損量または酸素過剰量である)で表される。
【0053】
原子比aは、充放電により増減するが、放電状態では、例えば0.86<a≦1.05である。原子比bは、結晶構造を安定化させるとともに、サイクル特性を向上させる観点から、0.10≦b≦0.40であることが好ましい。原子比cは、高容量化の観点から0.40≦c≦0.55であることが好ましく、0.46≦c≦0.50であることがより好ましい。原子比dは、平均電圧を高めやすい点で、0.10≦d<0.50であることが好ましい。
【0054】
正極合剤は、正極活物質に加え、さらに導電助剤および/またはバインダを含むことができる。正極は、正極集電体に正極合剤を塗布または充填し、乾燥し、必要に応じて、乾燥物を厚み方向に圧縮(または圧延)することにより得られる。正極合剤は、通常、分散媒を含むスラリーの形態で使用される。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、および/または炭素繊維などが挙げられる。バインダとしては、例えば、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ゴム状重合体、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂(ポリアミドイミドなど)、および/またはセルロースエーテルなどが挙げられる。
【0055】
(負極)
負極は、負極活物質を含む。負極は、負極集電体と、負極集電体に担持された負極活物質(または負極合剤)とを含んでもよい。負極集電体は、正極集電体と同様に、金属箔または金属多孔体であってもよい。負極集電体の材質としては、ナトリウムと合金化せず、負極電位で安定であることから、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス鋼などが好ましい。
【0056】
負極活物質としては、例えば、ナトリウムイオンを可逆的に吸蔵および放出(もしくは挿入および脱離)する材料、ナトリウムと合金化する材料などが挙げられる。いずれの材料も、ファラデー反応により容量を発現する材料である。このような負極活物質としては、金属、合金、金属化合物、炭素質材料などが例示できる。負極活物質を構成する金属としては、ナトリウム、チタン、亜鉛、インジウム、スズ、ケイ素などを用いることができる。炭素質材料としては、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、および/または難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)などが例示できる。負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
負極は、例えば、正極の場合に準じて、負極集電体に、負極活物質を含む負極合剤を塗布または充填し、乾燥し、乾燥物を厚み方向に圧縮(または圧延)することにより形成できる。負極活物質には、必要に応じて、ナトリウムイオンをプレドープしてもよい。
【0058】
負極合剤は、負極活物質に加え、さらに導電助剤および/またはバインダを含むことができる。導電助剤およびバインダとしては、それぞれ、正極について例示したものから適宜選択できる。
【0059】
(セパレータ)
セパレータとしては、例えば、樹脂製の微多孔膜、不織布などが使用できる。微多孔膜または不織布を形成する繊維に含まれる樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂(芳香族ポリアミド樹脂など)、および/またはポリイミド樹脂などが例示できる。セパレータは、セラミックス粒子などの無機フィラーを含んでもよい。
【0060】
(ナトリウムイオン二次電池)
図1は、本発明の一実施形態に係るナトリウムイオン二次電池を概略的に示す縦断面図である。ナトリウムイオン二次電池は、発電要素を構成する積層型の電極群と電解質(図示せず)とを具備し、発電要素は角型の電池ケース10に収容されている。電池ケース10は、上部が開口した有底の容器本体12と、上部開口を塞ぐ蓋体13とで構成されている。電池ケース10の材質としては、軽量で加工性に優れるアルミニウムが好ましい。
【0061】
ナトリウムイオン二次電池を組み立てる際には、まず、正極2と負極3とをこれらの間にセパレータ1を介在させた状態で積層することにより電極群が構成される。電極群は、電池ケース10の容器本体12に挿入される。その後、容器本体12に電解質が注液され、セパレータ1、正極2および負極3の空隙に、電解質を含浸させる工程が行われる。
【0062】
蓋体13の中央には、電池ケース10の内圧が上昇したときに内部で発生したガスを放出するための安全弁16が設けられている。安全弁16を中央にして、蓋体13の一方側寄りには、蓋体13を貫通する外部負極端子14が設けられ、蓋体13の他方側寄りの位置には、蓋体13を貫通する外部正極端子が設けられる。
【0063】
積層型の電極群は、いずれも矩形のシート状の複数の正極2と複数の負極3と、これらの間に介在する複数のセパレータ1とで構成されている。
図1では、セパレータ1は、正極2を包囲するように袋状に形成されているが、セパレータの形態は特に限定されない。複数の正極2と複数の負極3は、電極群内で積層方向に交互に配置される。
【0064】
各正極2の一端部には、正極リード片2aが形成される。複数の正極2の正極リード片2aを束ねるとともに、電池ケース10の蓋体13に設けられた外部正極端子に接続することにより、複数の正極2が並列に接続される。同様に、各負極3の一端部には、負極リード片3aが形成される。複数の負極3の負極リード片3aを束ねるとともに、電池ケース10の蓋体13に設けられた外部負極端子14に接続することにより、複数の負極3が並列に接続される。正極リード片2aの束と負極リード片3aの束は、互いの接触を避けるように間隔を空けて配置することが望ましい。
【0065】
外部正極端子および外部負極端子14は、いずれも柱状であり、少なくとも外部に露出する部分が螺子溝を有する。各端子の螺子溝にはナット7が嵌められ、ナット7を回転することにより蓋体13に対してナット7が固定される。各端子の電池ケース10内部に収容される部分には、鍔部8が設けられており、ナット7の回転により、鍔部8が、蓋体13の内面に、O−リング状のガスケット9を介して固定される。
【0066】
電極群は、積層タイプに限らず、正極と負極とをセパレータを介して捲回することにより形成したものであってもよい。負極に金属ナトリウムが析出するのを防止する観点から、正極よりも負極の寸法を大きくしてもよい。
【0067】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
《実施例1》
(1)正極の作製
NaCO
3、TiO
2、Ni(OH)
2およびMnCO
3を、NaとTiとNiとMnとの原子比が1.0:0.2:0.5:0.3となるような割合で混合した。混合物を、大気中、900℃で12時間焼成することにより、正極活物質として、NaTi
0.2Ni
0.5Mn
0.3O
2を合成した。正極活物質のXRDスペクトルを測定したところ、層状O3型結晶構造に特徴的なピークパターンが見られた。
【0069】
得られた正極活物質と、アセチレンブラック(導電助剤)と、ポリフッ化ビニリデン(バインダ)のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液とを混合することにより、正極合剤ペーストを調製した。このとき、正極活物質と、導電助剤と、バインダとの質量比を85:10:5とした。正極合剤ペーストを、厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、十分に乾燥させ、圧縮して、厚さ約52μmの正極を作製した。正極は、直径12mmのコイン型に打ち抜いた。
【0070】
(2)負極の作製
金属ナトリウムディスク(アルドリッチ社製、厚さ200μm)をニッケル集電体に圧着して、総厚700μmの負極を作製した。負極は、直径12mmのコイン型に打ち抜いた。
【0071】
(3)電解質の調製
TFEPとPCとの質量比30:70の混合溶媒(合計100質量%)に、NaFSAを3mol/Lの濃度で溶解させて電解質a1を調製した。このとき、モル比:PC/Na=2.97である。
【0072】
(4)セルの作製
浅底の円筒型のAl/SUSクラッド製容器に、コイン型の負極を載置し、その上にコイン型のガラスマイクロファイバ製のセパレータ(ワットマン社製、グレードGF/A、厚さ260μm)を介して、正極を載置し、所定量の電解質を容器内に注液した。その後、周縁に絶縁ガスケットを具備する浅底の円筒型のAl/SUSクラッド製封口板で、容器の開口を封口し、コイン型セルA1を作製した。
【0073】
《実施例2〜3》
非水溶媒のTFEPとPCとの質量比を、表1に示すように変更したこと以外、実施例1と同様に、電解質a2(実施例2)、a3(実施例3)を調製し、コイン型セルA2、A3を作製した。
【0074】
《比較例1》
PC100%の非水溶媒を用いたこと以外、実施例1と同様に、電解質b1を調製し、更にコイン型セルB1を作製した。
【0075】
《実施例4〜5》
NaFSAの濃度を2mol/Lに変更し、TFEPとPCとの質量比を表1に示すように変更したこと以外、実施例1と同様に、電解質a4(実施例4)、a5(実施例5)を調製し、コイン型セルA4、A5を作製した。
【0076】
《比較例2》
NaFSAの濃度を2mol/Lに変更したこと以外、実施例1と同様に、電解質b2を調製し、コイン型セルB2を作製した。
【0077】
《実施例6〜8》
NaFSAの濃度を1.5mol/Lに変更し、TFEPとPCとの質量比を表1に示すように変更したこと以外、実施例1と同様に、電解質a6(実施例6)、a7(実施例7)、a8(実施例8)を調製し、コイン型セルA6、A7、A8を作製した。
【0078】
《実施例9》
NaFSAの濃度を1mol/Lに変更し、TFEPとPCとの質量比を表1に示すように変更したこと以外、実施例1と同様に、電解質a9を調製し、コイン型セルA9を作製した。
【0079】
《比較例3》
NaFSAの濃度を1mol/Lに変更したこと以外、実施例1と同様に、電解質b3を調製し、コイン型セルB3を作製した。
【0080】
《比較例4》
NaFSAの濃度を1mol/Lに変更し、TFEPとPCとの質量比を表1に示すように変更したこと以外、実施例1と同様に、電解質b4を調製し、コイン型セルB4を作製した。
【0081】
《比較例5》
PCの代わりにTEPを用いたこと以外、比較例4と同様に、電解質b5を調製し、コイン型セルB5を作製した。
【0082】
《比較例6》
NaFSAの代わりにNaPF
6を用いたこと以外、比較例3と同様に、電解質b6を調製し、コイン型セルB6を作製した。
【0083】
《比較例7》
NaFSAの代わりにNaPF
6を用いたこと以外、比較例5と同様に、電解質b7を調製し、コイン型セルB7を作製した。
【0084】
《比較例8》
NaFSAの代わりにNaPF
6を用いたこと以外、実施例1と同様に、電解質b8を調製し、コイン型セルB8を作製した。
【0085】
[評価]
(a)アルミニウムの腐食とモル比:PC/Naとの関係
各電解質に、アルミニウム箔を浸漬して作用極とし、対極に金属Naを用い、作用極の対極に対する電位と、酸化電流との関係(CV特性)を調べた。結果を表1に示す。ただし、電解質の温度を90℃に設定し、電圧範囲0〜4.5V、掃引速度2mV/sで電圧を変化させた。
実施例1〜9および比較例1〜4の結果を表1に示す。
また、実施例1、比較例3、5のCV特性を
図2に示す。
【0087】
表1より、アルミニウムの酸化(腐食)に帰属される酸化電流は、PC/Na比に大きく依存することが理解できる。なお、判定は、酸化電流が20μA未満の場合を○、100μAを上回る場合を×とした。
【0088】
(b)正極活物質の利用率とレート特性との関係
実施例1、実施例2、比較例3の電池に関し、様々な放電電流でコイン型セルの放電を行った。充電レートは0.1Cとし、終止電圧は4.5Vまで充電した。放電レートは0.1〜6Cとし、終止電圧は1.8Vとした。結果を
図3に示す。
【0089】
図3より、PC/Na比が3.5以下で、ナトリウムイオン濃度が同じ電解質a1およびa2を比べると、PC含有量が多いほどレート特性が良好となる傾向が見られる。一方、PC/Na比が3.5より大きい電解質b3を用いた場合、PC含有量が電解質a1と同様に多い場合においても、レート特性が低下することがわかる。
【0090】
(c)充放電特性
実施例1、比較例3の電池A1、B3に関し、25℃で、充電レート0.1Cで、充電終止電圧4.5Vまで充電し、放電終止電圧1.8Vまで放電レート0.1Cで放電した。このときの充放電曲線を
図4に示す。
図4より、実施例1では、4V以上のプラトーがほとんど見られないのに対し、比較例3では、4V以上のプラトーが長く、クーロン効率が低いことがわかる。
【0091】
また、実施例1の電池A1、比較例3、5〜8の電池B3、B5〜B8に関し、25℃および60℃で、充電レート0.2Cで、充電終止電圧4.5Vまで充電し、放電終止電圧1.8Vまで放電レート0.2Cで放電するサイクルを繰り返した。25サイクルまでに容量が15%以上劣化した場合を×、ほとんど劣化しなかった場合を○とし、結果を表2に示す。
【0092】
比較例5の60℃での結果を
図5に示す。
図5より、NaFSAを用い、PCを用いない場合には、4V以上のプラトーが長くなるのに伴い、クーロン効率が低下することが理解できる。
図2、4、5および表1、2より、4V以上のプラトーは、アルミニウムの腐食による酸化電流に起因していることが理解できる。
【0093】
比較例6の60℃での結果を
図6に示す。
図6より、NaPF
6を用いる場合には、PCの使用の有無にかかわらず、60℃で容量が顕著に低下している。このことから、電池を高温で使用する場合には、NaPF
6では、耐熱性が不十分であることが理解できる。
なお、比較例5、6の電池の容量維持率とサイクル数との関係を
図7に示す。
【0095】
《比較例9》
正極活物質としてNaCrO
3を用い、充電終止電圧を3.5Vに変更したこと以外、比較例3と同様に、コイン型セルを作製し、評価した。
【0096】
《比較例10》
正極活物質としてNaCrO
3を用い、充電終止電圧を3.5Vに変更したこと以外、比較例5と同様に、コイン型セルを作製し、評価した。
【0097】
《比較例11》
正極活物質としてNaCrO
3を用い、充電終止電圧を3.5Vに変更したこと以外、実施例1と同様に、コイン型セルを作製し、評価した。
【0098】
《比較例12》
正極活物質としてNaCrO
3を用い、充電終止電圧を3.5Vに変更したこと以外、比較例6と同様に、コイン型セルを作製し、評価した。
【0099】
《比較例13》
正極活物質としてNaCrO
3を用い、充電終止電圧を3.5Vに変更したこと以外、比較例7と同様に、コイン型セルを作製し、評価した。
【0100】
《比較例14》
正極活物質としてNaCrO
3を用い、充電終止電圧を3.5Vに変更したこと以外、比較例8と同様に、コイン型セルを作製し、評価した。
結果を表3に示す。
【0102】
表2、3が示すように、高温で良好なサイクル特性を得るには、FSAアニオンとPCとを含む非水電解質を用いることが重要である。ただし、高温かつ高電圧で電池を使用する場合には、FSAアニオンとPCとを含む非水電解質を用いる場合でも、PC/Na比が3.5よりも大きくなってフリーのPCが多くなると、不動態膜の不安定化などにより、アルミニウムの腐食の問題が生じる。表2の結果は、PC/Naを3.5以下とすることで上記問題を回避できることを示している。