(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6592386
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】アンモニア含有排水の処理方法および処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20060101AFI20191007BHJP
B01D 61/36 20060101ALI20191007BHJP
B01D 19/00 20060101ALI20191007BHJP
C02F 1/20 20060101ALI20191007BHJP
C02F 5/00 20060101ALI20191007BHJP
C02F 5/10 20060101ALI20191007BHJP
C02F 5/14 20060101ALI20191007BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
C02F1/58 P
B01D61/36
B01D19/00 H
C02F1/20 B
C02F5/00 610E
C02F5/10 620A
C02F5/00 620B
C02F5/14 B
C02F5/00 610F
C02F1/44 C
C02F5/14 C
C02F5/14 A
C02F5/14 D
C02F5/10 620E
C02F5/10 620F
C02F5/10 620C
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-45531(P2016-45531)
(22)【出願日】2016年3月9日
(65)【公開番号】特開2017-159233(P2017-159233A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 臨太郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 敬介
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 裕一郎
【審査官】
小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−202475(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0315209(US,A1)
【文献】
特表2012−501833(JP,A)
【文献】
特開平8−294688(JP,A)
【文献】
特開2001−314872(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/063581(WO,A1)
【文献】
国際公開第2016/063578(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00−1/78
C02F 5/00−5/14
B01D 19/00
B01D 61/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムが共存するアンモニア含有排水において、pH10以上でのランゲリア指数を算出するランゲリア指数算出工程と、
前記pH10以上において算出したランゲリア指数が所定値未満となる場合、前記アンモニア含有排水のpHを10以上からランゲリア指数が前記所定値となるpH値未満の範囲に調整し、前記pH10以上において算出したランゲリア指数が所定値未満とならない場合、前記アンモニア含有排水にスケール防止剤を添加した後に、pHを10以上に調整するpH調整工程と、
気液分離膜により、pH調整後のアンモニア含有排水からアンモニアを除去し、除去したアンモニアと酸溶液とを接触させて、アンモニウム溶液として回収するアンモニア除去工程と、を有することを特徴とするアンモニア含有排水の処理方法。
【請求項2】
前記pH調整工程では、前記算出したランゲリア指数が1.6未満となる場合、前記アンモニア含有排水のpHを10以上からランゲリア指数が1.6となるpH値未満の範囲に調整し、前記pH10以上において算出したランゲリア指数が1.6未満とならない場合、前記アンモニア含有排水にスケール防止剤を添加した後に、pHを10以上に調整することを特徴とする請求項1に記載のアンモニア含有排水の処理方法。
【請求項3】
前記スケール防止剤は、アクリル酸系ポリマー及びホスホン酸系化合物のうち、少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のアンモニア含有排水の処理方法。
【請求項4】
カルシウムが共存するアンモニア含有排水において、pH10以上でのランゲリア指数を算出するランゲリア指数算出手段と、
前記pH10以上において算出したランゲリア指数が所定値未満となる場合、前記アンモニア含有排水のpHを10以上からランゲリア指数が前記所定値となるpH値未満の範囲に調整し、前記pH10以上において算出したランゲリア指数が所定値未満とならない場合、前記アンモニア含有排水にスケール防止剤を添加した後に、pHを10以上に調整するpH調整手段と、
気液分離膜により、pH調整後のアンモニア含有排水からアンモニアを除去し、除去したアンモニアと酸溶液とを接触させて、アンモニウム溶液として回収するアンモニア除去手段と、を有することを特徴とするアンモニア含有排水の処理装置。
【請求項5】
前記pH調整手段は、前記算出したランゲリア指数が1.6未満となる場合、前記アンモニア含有排水のpHを10以上からランゲリア指数が1.6となるpH値未満の範囲に調整し、前記pH10以上において算出したランゲリア指数が1.6未満とならない場合、前記アンモニア含有排水にスケール防止剤を添加した後に、pHを10以上に調整することを特徴とする請求項4に記載のアンモニア含有排水の処理装置。
【請求項6】
前記スケール防止剤は、アクリル酸系ポリマー及びホスホン酸系化合物のうち、少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載のアンモニア含有排水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子産業工場、化学工場等から排出されるアンモニア含有排水を処理してアンモニウム溶液として回収するアンモニア含有排水の処理方法および処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体工場等の電子産業工場や化学工場、火力発電所等から排出される比較的高濃度のアンモニア含有排水は、例えば、アンモニアストリッピング法(例えば、特許文献1参照)、蒸発濃縮法(例えば、特許文献2参照)、触媒湿式酸化法(例えば、特許文献3参照)等により処理されている。また、比較的低濃度のアンモニア含有排水は、例えば、生物処理法等により処理されている。
【0003】
アンモニアストリッピング法は、アンモニア含有排水にアルカリ溶液を添加、加温後、充填物を充填した放散塔に通し、蒸気および空気に接触させることで、排水中のアンモニアをガス側に移動させる処理方法である。本方法は、比較的簡易な処理であるが、放散塔の設備が大型である課題がある。また、加温、蒸気等の熱エネルギーを用いてガス側に移動したアンモニアを、さらに高温での触媒酸化で処理する必要があり、処理コストが高いという課題がある。また、触媒酸化時にNO
x、N
2O等が発生することがある。
【0004】
蒸発濃縮法は、アンモニア含有排水を加熱、蒸発させ、生成したアンモニア含有蒸気を凝縮し、アンモニア水として回収する処理方法である。本方法は、蒸発のための加温エネルギーコスト、蒸発器の伝熱面のスケール付着等の課題がある。
【0005】
触媒湿式酸化法は、触媒存在下に100〜370℃の温度と圧力をかけてアンモニア含有排水を処理する方法である。本方法は、高温、高圧処理のため安全性、コストに課題がある。
【0006】
近年、液体を通さずアンモニアを通す疎水性多孔質の気液分離膜を用いてアンモニア含有排水からアンモニアを除去する気液分離膜法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。本方法は、アンモニア含有排水をpH10以上のアルカリ性にすることで、排水中のアンモニアをガス化し、気液分離膜の二次側を真空ポンプで吸引することで、アンモニア含有排水からアンモニアを除去する方法である。しかし、本方法では、硫安スクラバを別途設置する必要がある。
【0007】
また、気液分離膜法において、気液分離膜である疎水性中空糸膜の二次側に硫酸溶液を流して向流接触させることで硫酸アンモニウム溶液として回収する方法も提案されている(例えば、特許文献5参照)。本方法は、中空糸膜の外側にpH10以上に調整したアンモニア含有排水を流し、中空糸膜の内側にはpH2以下の硫酸溶液を対向流で流すことで、排水中のアンモニア除去、回収を行う技術である。ガス化したアンモニアは、中空糸膜の内側を流れる硫酸と接触し、硫酸アンモニウムとして回収される。
【0008】
気液分離膜を用いた方法では、設備的に簡易な処理で経済的にアンモニア含有排水を処理し、硫酸アンモニウム溶液を経て再利用が可能となる方法であるが、アンモニア含有排水に含まれるカルシウム化合物等を起因とするスケールが発生することにより気液分離膜が閉塞し、処理時間の経過と共にアンモニア除去率の低下が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3987896号公報
【特許文献2】特開2011−153043号公報
【特許文献3】特許第3272859号公報
【特許文献4】特許第3240694号公報
【特許文献5】特開2013−202475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、気液分離膜を用いるアンモニア含有排水の処理において、カルシウム化合物等を起因とするスケールが発生することにより気液分離膜が閉塞し、処理時間の経過と共に生じるアンモニア除去率の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、カルシウムが共存するアンモニア含有排水において、pH10以上でのランゲリア指数を算出するランゲリア指数算出工程と、前記pH10以上において算出したランゲリア指数が所定値未満となる場合、前記アンモニア含有排水のpHを10以上からランゲリア指数が前記所定値となるpH値未満の範囲に調整し、前記pH10以上において算出したランゲリア指数が所定値未満とならない場合、前記アンモニア含有排水にスケール防止剤を添加した後に、pHを10以上に調整するpH調整工程と、気液分離膜により、pH調整後のアンモニア含有排水からアンモニアを除去し、除去したアンモニアと酸溶液とを接触させて、アンモニウム溶液として回収するアンモニア除去工程と、を有するアンモニア含有排水の処理方法である。
【0012】
また、前記アンモニア含有排水の処理方法において、前記pH調整工程では、前記算出したランゲリア指数が1.6未満となる場合、前記アンモニア含有排水のpHを10以上からランゲリア指数が1.6となるpH値未満の範囲に調整し、前記pH10以上において算出したランゲリア指数が1.6未満とならない場合、前記アンモニア含有排水にスケール防止剤を添加した後に、pHを10以上に調整することが好ましい。
【0013】
また、前記アンモニア含有排水の処理方法において、前記スケール防止剤は、アクリル酸系ポリマー及びホスホン酸系化合物のうち、少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明は、カルシウムが共存するアンモニア含有排水において、pH10以上でのランゲリア指数を算出するランゲリア指数算出手段と、前記pH10以上において算出したランゲリア指数が所定値未満となる場合、前記アンモニア含有排水のpHを10以上からランゲリア指数が前記所定値となるpH値未満の範囲に調整し、前記pH10以上において算出したランゲリア指数が所定値未満とならない場合、前記アンモニア含有排水にスケール防止剤を添加した後に、pHを10以上に調整するpH調整手段と、気液分離膜により、pH調整後のアンモニア含有排水からアンモニアを除去し、除去したアンモニアと酸溶液とを接触させて、アンモニウム溶液として回収するアンモニア除去手段と、を有するアンモニア含有排水の処理装置である。
【0015】
また、前記アンモニア含有排水の処理装置において、前記pH調整手段は、前記算出したランゲリア指数が1.6未満となる場合、前記アンモニア含有排水のpHを10以上からランゲリア指数が1.6となるpH値未満の範囲に調整し、前記pH10以上において算出したランゲリア指数が1.6未満とならない場合、前記アンモニア含有排水にスケール防止剤を添加した後に、pHを10以上に調整することが好ましい。
【0016】
また、前記アンモニア含有排水の処理装置において、前記スケール防止剤は、アクリル酸系ポリマー及びホスホン酸系化合物のうち、少なくとも1種を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、気液分離膜を用いるアンモニア含有排水の処理において、カルシウム化合物等を起因とするスケールが発生することを防止し、気液分離膜の閉塞、アンモニア除去率の低下を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係るアンモニア含有排水の処理装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るアンモニア含有排水の処理装置の他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明の実施形態に係るアンモニア含有排水の処理装置の一例の概略を
図1に示し、その構成について説明する。
図1に示すアンモニア含有排水処理装置1は、原水槽10と、pH調整手段としてのpH調整装置、アンモニア除去手段としてのアンモニア除去装置16と、循環槽18と、硫酸貯槽20と、酸洗浄手段としての酸貯槽24と、制御装置25と、を備えている。pH調整装置は、スケール防止剤供給装置12と、pH調整槽14と、pH調整剤供給装置22と、を備えている。スケール防止剤供給装置12は、例えば、スケール防止剤貯槽とポンプとを備えており、スケール防止剤を排水に供給するように構成されている。また、pH調整剤供給装置22は、例えば、pH調整剤貯槽とポンプとを備えており、pH調整剤を排水に供給するように構成されている。
【0021】
アンモニア除去装置16は、気液分離膜26、および、その気液分離膜26により区画された第1の液室25a、第2の液室25bを有する。気液分離膜26は、液体を通さずガス状のアンモニアを通す中空糸膜等の膜である。第1の液室25aは、気液分離膜26の一方の面に隣接して設けられ、第2の液室25bは、気液分離膜26の他方の面に隣接して設けられる。第1の液室25aにはアンモニア含有排水が供給され、第2の液室25bには硫酸溶液が供給されるようになっている。
【0022】
図1のアンモニア含有排水処理装置1において、原水配管30が原水槽10の入口に接続されている。原水槽10の出口とpH調整槽14の入口とが、原水供給配管32により接続されている。pH調整槽14の出口とアンモニア除去装置16の一端側に設けられた第1の液室25aの入口とがpH調整水配管36により接続され、アンモニア除去装置16の他端側に設けられた第1の液室25aの出口には、処理水配管38が接続されている。循環槽18の出口とアンモニア除去装置16の他端側に設けられた第2の液室25bの入口とが循環配管40により接続され、アンモニア除去装置16の一端側に設けられた第2の液室25bの出口と循環槽18の入口とが循環配管42により接続されている。循環槽18の回収出口には、回収硫酸アンモニウム溶液配管50が接続されている。硫酸貯槽20の出口は硫酸配管44により循環槽18と接続されている。スケール防止剤供給装置12と原水槽10とはスケール防止剤注入配管34により接続されている。pH調整剤供給装置22とpH調整槽14とはpH調整剤配管46により接続されている。酸貯槽24の出口は酸配管48によりpH調整水配管36と接続されている。
【0023】
制御装置25は、プロセッサ及びメモリを備え、機能ブロックとしてランゲリア指数算出部を備える。ランゲリア指数算出部は、処理対象となるカルシウム及びアンモニア含有排水において、pH10以上でのランゲリア指数を算出する。具体的には、上記排水中のカルシウム濃度、無機炭素濃度、溶解性物質濃度、アルカリ度、排水温度の検出値、及び設定pH(10以上)を用いて、設定pH(10以上)におけるランゲリア指数を算出する。制御装置25には、例えば、原水槽10に設置したカルシウム濃度センサ、無機炭素濃度センサ、(導電率から換算する)溶解性物質濃度測定器又は溶解性物質濃度計、アルカリ度測定器又はアルカリ度計により検出された各検出値が入力されるように構成されている。なお、作業者等が、排水中のカルシウム濃度等を測定し、それらを検出値として、制御装置25に入力してもよい。また、測定したカルシウム濃度等からランゲリア指数を算出し、当該算出値を制御装置25に入力してもよい。
【0024】
制御装置25のプロセッサは、プログラムメモリに記憶された処理プログラムに従い、ランゲリア指数を算出する処理、算出したランゲリア指数に基づいて、スケール防止剤及びpH調整剤の添加時期を設定する処理等の各処理を実行する。本実施形態では、制御装置25によりスケール防止剤及びpH調整剤の添加時期が制御されるが、作業者等が算出したランゲリア指数に基づいて、スケール防止剤及びpH調整剤の添加時期を制御してもよい。
【0025】
本実施形態に係るアンモニア含有排水の処理方法およびアンモニア含有排水処理装置1の動作について説明する。
【0026】
カルシウムが共存するアンモニア含有排水は、原水配管30を通して必要に応じて原水槽10に貯留される。以下、カルシウムが共存するアンモニア含有排水を単に原水と称する。
【0027】
原水中のカルシウム濃度、無機炭素濃度、溶解性物質濃度、アルカリ度、原水の温度が検出され、制御装置25に入力され、ランゲリア指数算出部により、下式(1)〜(5)を用いて、pH10以上での原水のランゲリア指数が算出される。
【0028】
ランゲリア指数=pH値−pHs+1.5×10
−2(T−25) (1)
式(1)中のpH値は、設定pH値であり、10以上に設定される。また、式(1)中のpHsは、下式(2)により求められた値である。式(1)中のTは、センサにより検出した原水の温度(℃)が適用される。
【0029】
pHs=8.313−log〔Ca
2+〕−log〔A〕+S (2)
式(2)中の〔Ca
2+〕はカルシウムイオン量(me/L)で、下式(3)により求められた値である。式(2)中の〔A〕は、総アルカリ度(me/L)であり、下式(4)により求められた値である。式(2)中のSは補正値であり、下式(5)により求められた値である。
【0030】
〔Ca
2+〕=(Ca
2+)(mg/L)÷(40.1÷2) (3)
式(3)中の(Ca
2+)(mg/L)には、センサにより検出したカルシウム濃度が適用される。
【0031】
〔A〕(me/L)=(A)(mg/L)÷(100÷2) (4)
式(4)中の(A)(mg/L)には、測定器又は計器により検出した総アルカリ度が適用される。
【0032】
【数1】
式(5)中のSdは、測定器又は計器により検出した溶解性物質(mg/L)が適用される(以上、ランゲリア指数算出工程)。
【0033】
制御装置25により、pH10以上において算出したランゲリア指数が所定値未満であるか否かが判断される。所定値は、原水のスケール発生を抑える観点から設定されることが望ましく、例えば、1.6以下に設定される。以下、所定値を1.6として説明する。
【0034】
pH10以上において算出したランゲリア指数が1.6未満とならない場合には、制御装置25からスケール防止剤供給装置12へ稼働指示が送信され、スケール防止剤供給装置12からスケール防止剤注入配管34を通して、原水槽10にスケール防止剤が添加される。ランゲリア指数とpHとの関係は、pHが高くなれば、ランゲリア指数も高くなる。したがって、式(1)のpH値を例えば10、又は10〜11の範囲で設定した時のランゲリア指数が1.6を超える場合には、制御装置25は、その段階で、pH10以上において算出したランゲリア指数が1.6未満とならないと判断し、スケール防止剤の添加を指示する。
【0035】
スケール防止剤が添加された原水は、原水供給配管32を通り、pH調整槽14に供給される。この際、制御装置25からpH調整剤供給装置22へ稼働指示が送信され、pH調整剤供給装置22からpH調整剤配管46を通して、pH調整槽14にpH調整剤が添加され、原水のpHが10以上に調整される。原水にスケール防止剤を添加した場合の原水のpHは10以上であれば特に制限されるものではないが、アルカリ剤使用量抑制の観点から、pH10近傍で設定されることが好ましい。
【0036】
一方、pH10以上において算出したランゲリア指数が1.6未満となる場合には、原水は(スケール防止剤が添加されることなく)、原水供給配管32を通り、pH調整槽14に供給される。この際、制御装置25からpH調整剤供給装置22へ稼働指示が送信され、pH調整剤供給装置22からpH調整剤配管46を通して、pH調整槽14にpH調整剤が添加される。原水のpHは、10以上からランゲリア指数が1.6(所定値)となるpH値未満の範囲で調整される。例えば、pH11において算出したランゲリア指数が1.6未満であり、ランゲリア指数が1.6となるpH値が12.5である場合、原水のpHは10以上から12.5未満の範囲で調整される。ランゲリア指数が1.6となるpH値は下式(6)により求められる(以上、pH調整工程)。
pH値=1.6+pHs−1.5×10
−2(T−25) (6)
【0037】
原水のpHを10以上とすることで、原水中のアンモニウムイオンをアンモニアガスへと酸解離させて、後段の気液分離膜によるアンモニア除去速度を高めることができる。その一方で、原水のpHが10以上で且つランゲリア指数が高いと、原水中のカルシウムと炭酸との反応性が高い状態となり、短時間でスケールが発生するため、後段の気液分離膜が閉塞され易い。そこで、本実施形態では、原水のpHが10以上で且つランゲリア指数が高いときには、原水のpHを10以上に調整する前に、スケール防止剤を添加することで、スケール発生を抑え、後段の気液分離膜の閉塞を抑制している。また、原水のpHが10以上でランゲリア指数が低い場合には、原水中のカルシウムと炭酸との反応性が低く、スケール発生までに長い時間を要する。したがって、原水にスケール防止剤を添加しなくとも、pH10以上からランゲリア指数が所定値となるpH値未満の範囲に調整するのみで、処理時間の経過と共に生じるアンモニア除去率の低下が抑えられる。また、スケール防止剤は有機酸塩のため、水中に溶解すると塩濃度が上がりアンモニアの蒸気圧が下がる。このため、ランゲリア指数が低い水(例えば1.6未満の原水)、すなわち、比較的pHが低くアンモニウムイオンの割合がやや多い水にスケール防止剤を添加すると、アンモニアの揮発速度が低下し、気液分離膜によるアンモニア除去率が低下するおそれがある。このように、ランゲリア指数に基づいて、必要なときだけスケール防止剤を添加することで、アンモニア除去率の低下を抑制することが可能となる。
【0038】
また、上記のように膜の閉塞を抑えることで、膜の洗浄頻度を減らすことが可能となり、膜洗浄に係る薬品、廃液処理のコストの削減も可能となる。
【0039】
pH調整された原水は、pH調整水配管36を通してアンモニア除去装置16の一端側に設けられた入口から第1の液室25aに送液される。アンモニア除去装置16において、液体を通さずアンモニアを通す気液分離膜26を用いて、原水からアンモニアが除去される。アンモニアが除去された処理水は、アンモニア除去装置16の他端側に設けられた第1の液室25aの出口から処理水配管38を通して排出される。一方、硫酸貯槽20から硫酸配管44を通して循環槽18に貯留された硫酸溶液が循環配管40を通してアンモニア除去装置16の他端側に設けられた入口から第2の液室25bに供給され、第1の液室25aのアンモニア含有排水と対向流で流される。例えば、中空糸膜の外側(第1の液室25a)にアンモニア含有排水を流し、中空糸膜の内側(第2の液室25b)に硫酸溶液を流せばよい。気液分離膜26を透過したアンモニアは、アンモニア除去装置16の第2の液室25bを流れる硫酸溶液と接触し、硫酸アンモニウムが生成される(以上、アンモニア除去工程)。
【0040】
生成した硫酸アンモニウムは、硫酸溶液に溶解されたままアンモニア除去装置16の一端側に設けられた第2の液室25bの出口から循環配管42を通して循環槽18へ送液される。硫酸溶液は、硫酸アンモニウムが所定の濃度となるまで循環槽18、循環配管40、循環配管42を通して循環される。この際、硫酸貯槽20から硫酸配管44を通して硫酸溶液が循環槽18へ供給され、循環される硫酸溶液のpHが所定の値になるように調整される。循環される硫酸溶液中の回収された硫酸アンモニウムの濃度が所定の濃度以上となったら、循環槽18から回収硫酸アンモニウム溶液配管50を通して、回収硫酸アンモニウム溶液として排出される。
【0041】
処理対象の原水(カルシウム及びアンモニア含有排水)は、例えば、半導体工場等の電子産業工場や化学工場、火力発電所等から排出される排水である。
【0042】
半導体工場等の電子産業工場から排出されるカルシウム及びアンモニア含有排水のように、原水中に過酸化水素等の酸化剤が含まれる場合には、アンモニア除去装置16の前段で、還元剤注入、もしくは活性炭処理等の酸化剤除去処理により酸化剤を除去してもよい。これにより、過酸化水素等の酸化剤に起因する、アンモニア除去工程におけるアンモニア除去率の低下や、気液分離膜の劣化を抑制することができる。
【0043】
処理対象の原水中のアンモニア濃度は、特に限定されるものではないが、回収する硫酸アンモニウム溶液中の硫酸アンモニウムの濃度を25質量%以上とし、かつ硫酸アンモニウムが析出しにくい濃度にするために、900mg/L以上2,200mg/L以下で運転することが好ましい。
【0044】
原水中のアンモニア濃度が低い場合(例えば、900mg/L未満の場合)、アンモニア除去装置16の前段で、逆浸透膜処理等によりアンモニアを濃縮してもよい。また、硫酸アンモニウムの濃縮を行うために、濃度が低いアンモニア含有排水を処理して生成された硫酸アンモニウム溶液を循環槽18から原水槽10等へ返送し、再度アンモニア処理を行ってもよい。
【0045】
原水の温度が35℃未満であると、原水中のアンモニアがガス化しにくくなり、アンモニア除去装置16におけるアンモニア除去率が低下する傾向にある。そのため、熱交換器やヒータ等の加温可能な設備により、原水の温度を例えば35〜50℃で加熱してアンモニア除去装置16へ原水を送液することが好ましい。ただし、加温することでカルシウム化合物等のスケールが生成しやすくなるため、加温設備はスケール防止剤注入後のpH調整槽14やpH調整水配管36に設けるとことが好ましい。また原水温度と膜の耐圧の関係から、原水の温度は50℃以下であることが望ましい。また、原水の保温またはアンモニア濃度調整のために処理水を原水槽10等へ循環させてもよい。
【0046】
pH調整工程で用いるスケール防止剤の添加位置は、
図1に示すアンモニア含有排水処理装置1のように原水槽10でも良いし、
図2に示すアンモニア含有排水処理装置3のように原水供給配管32でも良いし、図での説明は省略するがpH調整槽14でも良い。ただし、加温工程が行われる場合は、スケール形成を抑える点で、加温工程前に注入されるのが望ましい。スケール防止剤を原水槽10やpH調整槽14に添加する場合には、攪拌機、もしくは曝気装置等により撹拌し、原水供給配管に添加する場合にはラインミキサーなどにより撹拌できることが好ましい。
【0047】
スケール防止剤は、カルシウム化合物に起因したスケール発生を抑えることが可能な物質であれば特に制限されるものではないが、例えば、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチルホスホン酸等のホスホン酸及びその塩類等のホスホン酸系化合物、正リン酸塩、重合リン酸塩等のリン酸系化合物、ポリマレイン酸、マレイン酸共重合物等のマレイン酸系化合物、ポリ(メタ)アクリル酸、マレイン酸/(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸/スルホン酸、(メタ)アクリル酸/ノニオン基含有モノマー等のコポリマー、(メタ)アクリル酸/スルホン酸/ノニオン基含有モノマーのターポリマー、(メタ)アクリル酸/アクリルアミド−アルキル−及び/又はアリールスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマー等のアクリル酸系ポリマー等が挙げられる。これらの中では、ホスホン酸系化合物、アクリル酸系ポリマーのうち、少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0048】
ターポリマーを構成する(メタ)アクリル酸としては、例えば、メタアクリル酸、アクリル酸及びそれらのナトリウム塩等の(メタ)アクリル酸塩等が挙げられる。ターポリマーを構成するアクリルアミド−アルキル−及び/又はアリールスルホン酸としては、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。また、ターポリマーを構成する置換(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、t−ブチルアクリルアミド、t−オクチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0049】
pH調整工程で用いられるpH調整剤は、例えば、水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ、または、塩酸等の酸である。pH調整工程における原水は、原水中のアンモニウムイオンをアンモニアガスへと酸解離させて下記アンモニア除去工程におけるアンモニア除去速度を高めるため、pH10以上に調整されればよいが、膜や配管材質等への影響を考慮すると、pH10〜13の範囲に調整されることがより好ましい。原水のpHが所定の値であれば、pH調整工程は行われない場合がある。
【0050】
気液分離膜26は、液体を通さずガス状のアンモニアを通すものであればよく、特に制限はない。気液分離膜26としては、例えば、疎水性多孔質の中空糸膜等が挙げられる。例えば、中空糸の径が300μm程度で、空孔サイズが0.03μm程度、(平均)空孔率が40〜50%程度の中空糸膜を用いればよい。このような気液分離膜26により、カルシウム及びアンモニア含有排水中に含有されるガス状のアンモニアが気液分離膜26を通過し、アンモニア含有排水中から除去される。
【0051】
硫酸溶液を通液するアンモニア除去装置16の第2の液室25bに接続された循環配管40,42には、自動バルブを備えることが好ましい。
【0052】
硫酸溶液のpHが2以下に維持されるように硫酸貯槽20から硫酸溶液を注入することが好ましい。循環される硫酸溶液のpHが2を超えると、アンモニア除去速度が低下する場合がある。
【0053】
硫酸貯槽20から添加される硫酸溶液は、できる限り高濃度であることが好ましい。取扱い等の点から硫酸貯槽20から添加される硫酸溶液の硫酸濃度は50質量%以上であることが好ましい。
【0054】
上記の通り、循環される硫酸溶液中の回収された硫酸アンモニウムの濃度が所定の濃度以上、例えば25質量%以上となったら、循環槽18から回収硫酸アンモニウム溶液配管50を通して、回収硫酸アンモニウム溶液として排出される。
【0055】
循環される硫酸溶液中の硫酸アンモニウムの濃度は、例えば比重計や濃度計等の硫酸アンモニウム濃度測定手段を用いて測定してもよい。測定した硫酸アンモニウムの濃度に基づいて、硫酸アンモニウムの濃度が所定の濃度以上、例えば25質量%以上となったら、自動的に循環槽18から回収硫酸アンモニウム溶液配管50を通して回収硫酸アンモニウム溶液として排出されてもよい。また、硫酸アンモニウムが析出しにくい濃度(例えば、40質量%以下)になるように、測定した硫酸アンモニウムの濃度に基づいて自動的に水を供給して希釈する設備を備えてもよい。
【0056】
本実施形態は、硫酸溶液に限定されるものではなく、塩酸、硝酸等の酸溶液であればよいが、工業用、商業用利用価値の高いという点で、硫酸溶液を用いて、硫酸アンモニウムとして回収することが好ましい。
【0057】
スケール等により気液分離膜26が汚染され、アンモニア除去率が低下した場合、アンモニア除去率の低下を抑制するために、所定の時期に気液分離膜26の酸洗浄を実施することが好ましい。
図1に示すように、例えば、酸貯槽24から酸溶液を酸配管48、pH調整水配管36を通してアンモニア除去装置16の第1の液室25aに送液し、気液分離膜26を洗浄する(酸洗浄工程)。
【0058】
酸洗浄工程において用いられる酸溶液としては、硫酸、塩酸、クエン酸等の酸の溶液を用いることができる。
【0059】
酸洗浄手段としては、
図1に示すアンモニア含有排水処理装置1のように酸貯槽24を別途設置してもよいし、
図2に示すアンモニア含有排水処理装置3のように、アンモニア除去装置16の第2の液室25bに送液している硫酸貯槽20からの硫酸溶液の一部を第1の液室25aに送液する硫酸配管52を設置してもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
<実施例1,2及び比較例>
以下の試験条件でアンモニア含有排水の処理を行った。
[試験条件]
・使用気液分離膜:ポリプロピレン製多孔質中空糸膜モジュール
・膜面積:1.4m
2
・通水量:0.0385m
3/h
・水温:38℃
<実験装置>
実験装置は
図1の通りとし、加温設備はpH調整槽14に設置した。
【0062】
[原水水質]
使用した原水(アンモニア含有排水)の水質を表1に示す。
【表1】
【0063】
[試験方法]
上記原水において、pH10.5でのランゲリア指数を算出したところ、1.5であった。また、上記原水において、12.2でのランゲリア指数を算出したところ3.5であった。スケール防止剤添加の有無を判断するランゲリア指数の所定値を1.6に設定し、実施例1では、原水にスケール防止剤を添加せずに、原水のpHを、10.5に調整し、気液分離膜を用いてアンモニア処理を実施した。実施例2では、原水にスケール防止剤を注入後、pHを12.2に調整し、気液分離膜を用いてアンモニア処理を実施した。比較例では、原水にスケール防止剤を添加せずに、原水のpHを12.2に調整し、気液分離膜を用いてアンモニア処理を実施した。実施例2で使用したスケール防止剤は、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/t−ブチルアクリルアミドのターポリマーと、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸とを含む。
【0064】
JIS K0102 インドフェノール青吸光光度法で処理前後のアンモニア濃度を測定し、アンモニアの除去率を算出した。
【0065】
【表2】
【0066】
比較例では処理開始直後のアンモニア除去率は53.4%であったが、通水時間経過とともに徐々に除去率が低下し、通水19時間後には44.9%となった。実施例1のアンモニア除去率は通水110時間以上経過しても53.7%と、通水開始時の53.8%とほぼ同じ値であり、除去率の低下はほとんど見られなかった。実施例2のアンモニア除去率も、通水110時間以上経過しても54.5%と、通水開始時の54.7%とほぼ同じ値であり、除去率の低下はほとんど見られなかった。すなわち、pH10以上においてランゲリア指数の低い原水に対しては、スケール防止剤を添加することなくpH調整を行い、pH10以上においてランゲリア指数の高い原水に対しては、スケール防止剤を添加した後pH調整を行うことで、気液分離膜の閉塞、アンモニア除去率の低下を抑制することができると言える。
【0067】
上記試験では、原水pH10以上におけるランゲリア指数の影響を考察するために、ランゲリア指数が1.6以上となるpHを意図的に設定している(実施例2及び比較例のpH12.2)。実際の処理では、表1に示す水質を有する原水であれば、例えば実施例1に基づく処理が行われる。そして、原水の水質が変化し、例えばpH10以上で算出したランゲリア指数が1.6未満とならない場合には、実施例2のように、スケール防止剤を添加した後、pH10以上に調整され、処理が行われる。
【符号の説明】
【0068】
1,3 アンモニア含有排水処理装置、10 原水槽、12 スケール防止剤供給装置、14 pH調整槽、16 アンモニア除去装置、18 循環槽、20 硫酸貯槽、22pH調整剤供給装置、24 酸貯槽、25 制御装置、25a 第1の液室、25b 第2の液室、26 気液分離膜、30 原水配管、32 原水供給配管、34 スケール防止剤注入配管、36 pH調整水配管、38 処理水配管、40,42 循環配管、44,52 硫酸配管、46 pH調整剤配管、48 酸配管、50 回収硫酸アンモニウム溶液配管。