【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2000−271595号公報に記載の技術は汚泥処理施設へ汚泥を輸送するための管路の上流側でMAP粒子を形成させる技術であるが、更にその上流側にある嫌気性消化槽にMAP由来のスケールが発生することを予防することはできない。また、当該公報に記載のエアレーション装置又はMAPリアクタを仮に嫌気性消化槽の上流側でMAP粒子を形成させようとした場合には、発酵原料のpHが低いと汚泥を曝気するだけでは十分にpHを上昇させることができないため、膨大な量のアルカリが必要になる。
【0011】
特開2003−117306号公報に記載の技術は、メタン発酵槽から排出される処理水を脱リン処理するためにマグネシウムを添加してMAPの結晶を析出させているに過ぎず、メタン発酵槽におけるMAP由来のスケール発生を予防する技術ではない。
【0012】
特開2001−252689号公報では、嫌気性発酵槽から排出された消化汚泥を減圧装置で減圧処理した後、MAP第1槽に送ってMAP粒子を生成することが記載されているが、減圧装置とMAP第1槽の間の配管内にMAP由来のスケールが成長して配管閉塞リスクが生じる。また、嫌気性発酵槽から排出される消化汚泥にMg源を添加してMAP粒子を生成した後、MAP粒子を分離して消化汚泥を嫌気性発酵槽に戻すことが記載されているが、Mg源を添加してMAPを生成させていることから、MAPを生成・分離した後の消化汚泥を嫌気性発酵槽に返送するとしても、未反応のマグネシウム成分が嫌気性発酵槽に送り込まれることになり、嫌気性発酵槽におけるMAP由来のスケール発生リスクがかえって高まるおそれがある。
【0013】
国際公開第2006/078012号の目的は消化汚泥を配管輸送する際の配管内のスケールを防止することであり、嫌気性消化槽におけるスケールを防止することはできない。また、マグネシウム化合物を添加してMAPを晶析させるため、MAP分離後の消化汚泥中のマグネシウム濃度が高くなるおそれがあるので、これを嫌気性消化槽に返送することはスケール予防の観点から好ましくない。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、メタン発酵設備のスケール防止に有用なMAPの晶析装置を提供することを課題の一つとする。本発明はMAPの晶析装置を備えたメタン発酵設備を提供することも課題の一つとする。本発明はメタン発酵設備におけるスケール防止方法を提供することも課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究したところ、メタン発酵槽に代表されるメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統内から消化液を引き抜き、種結晶を保持したMAP晶析装置でMAPを晶析させて除去した後、消化液をメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統に返送することにより、メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統におけるMAP由来のスケール発生リスクを効果的に低減できることを見出した。
【0016】
この際、メタン発酵槽とMAP晶析装置の間にpHを上昇させるための装置を設置するのではなく、MAP晶析装置内の晶析リアクタにおいて脱炭酸によりpHを上昇させることがメタン発酵槽とMAP晶析装置の間の循環経路におけるスケール発生リスクを抑える観点で有効である。
【0017】
また、MAP晶析装置内でMg源を添加すると、返送される消化液と共にMg源がメタン発酵槽に流入してメタン発酵槽でのスケール発生リスクを上昇させる。このことから、MAP晶析装置内でMg源を添加するべきではなく、更にはメタン発酵槽とMAP晶析装置の間の循環経路においてもMg源は添加すべきではない。Mg源を添加しないことで、メタン発酵槽から排出される消化液中のMg濃度に比べて、MAP晶析装置を経てメタン発酵槽に返送される消化液中のMg濃度を低くすることができる。
【0018】
更に、MAP晶析装置から返送される消化液のpHはメタン発酵槽におけるpHよりも高くなっていることから、MAP晶析装置からメタン発酵槽に返送途中の消化液のpHを下げておくことでメタン発酵槽や返送経路でのスケール発生リスクを更に低下させることができる。
【0019】
上記の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から引き抜かれたアンモニウムイオンと、マグネシウムイオンと、リン酸イオンとを含有する消化液を導入するための入口と、
種結晶及び入口から導入された消化液を収容し、消化液中に含まれるアンモニウムイオン、マグネシウムイオン及びリン酸イオンを反応させてMAPを晶析するためのリアクタと、
該リアクタ内の消化液を脱炭酸するための曝気機構、減圧機構及び撹拌機構よりなる群から選択される一種以上の脱炭酸機構と、
晶析したMAPを消化液から分離するための分離機構と、
MAPを分離後の消化液であって、マグネシウムイオン濃度がメタン発酵槽内消化液と比べて低減された消化液をメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統へ返送するための出口と、
を備えた晶析装置である。
【0020】
本発明に係る晶析装置は一実施形態において、MAPを分離後、出口から排出される前に消化液に有機酸を添加するための機構を更に備える。
【0021】
本発明は別の一側面において、
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統と、
本発明に係る晶析装置と、
該系統から消化液を引き抜いて該晶析装置に送るための第一の配管系と、
該晶析装置の出口から排出される消化液を前記系統に返送するための第二の配管系と、
を備えたメタン発酵設備である。
【0022】
本発明に係るメタン発酵設備は一実施形態において、第二の配管系に接続されており、第二の配管系に有機酸を添加するための機構を更に備える。
【0023】
本発明に係るメタン発酵設備は別の一実施形態において、メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統がメタン発酵槽を含む。
【0024】
本発明は更に別の一側面において、
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から引き抜いたアンモニウムイオンと、マグネシウムイオンと、リン酸イオンとを含有する消化液のpHを、曝気、減圧及び撹拌よりなる群から選択される一種以上の脱炭酸方法により上昇させ、種結晶の存在下で該消化液に含まれるアンモニウムイオン、マグネシウムイオン及びリン酸イオンを反応させてMAPを晶析する工程と、
晶析したMAPを消化液から分離する工程と、
MAPを分離後の消化液であって、マグネシウムイオン濃度がメタン発酵槽内消化液と比べて低減された消化液を前記系統へ返送する工程と、
を含むメタン発酵設備におけるスケール防止方法である。
【0025】
本発明に係るスケール防止方法は一実施形態において、MAPを分離後の消化液を前記系統へ返送する途中で、該消化液に有機酸を添加することにより該消化液のpHを低下させる工程を含む。
【0026】
本発明は更に別の一側面において、
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から引き抜かれたアンモニウムイオンと、マグネシウムイオンと、リン酸イオンとを含有する消化液を導入するための入口と、
種結晶及び入口から導入された消化液を収容し、該消化液中に含まれるアンモニウムイオン、マグネシウムイオン及びリン酸イオンを反応させてMAPを晶析するためのリアクタと、
該リアクタ内の消化液のpHを上昇させるための機構と、
晶析したMAPを消化液から分離するための分離機構と、
MAPを分離後、出口から排出される前に消化液に有機酸を添加するための機構と、
MAPを分離後の消化液であって、マグネシウムイオン濃度がメタン発酵槽内消化液と比べて低減された消化液をメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統へ返送するための出口と、
を備えた晶析装置である。
【0027】
本発明は更に別の一側面において、
・メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統と、
・以下の(a)〜(e)を備える晶析装置と、
(a)メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から引き抜かれたアンモニウムイオンと、マグネシウムイオンと、リン酸イオンとを含有する消化液を導入するための入口;
(b)種結晶及び入口から導入された消化液を収容し、該消化液中に含まれるアンモニウムイオン、マグネシウムイオン及びリン酸イオンを反応させてMAPを晶析するためのリアクタ;
(c)該リアクタ内の消化液のpHを上昇させるための機構;
(d)晶析したMAPを消化液から分離するための分離機構;並びに
(e)MAPを分離後の消化液であって、マグネシウムイオン濃度がメタン発酵槽内消化液と比べて低減された消化液をメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統へ返送するための出口;
・該系統から消化液を引き抜いて該晶析装置に送るための第一の配管系と、
・該晶析装置の出口から排出される消化液を前記系統に返送するための第二の配管系と、
・第二の配管系に接続されており、第二の配管系に有機酸を添加するための機構と、
を備えたメタン発酵設備である。
【0028】
本発明は更に別の一側面において、
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から引き抜かれたアンモニウムイオンと、マグネシウムイオンと、リン酸イオンとを含有する消化液のpHを上昇させ、種結晶の存在下で該消化液に含まれるアンモニウムイオン、マグネシウムイオン及びリン酸イオンを反応させてMAPを晶析する工程と、
晶析したMAPを消化液から分離する工程と、
MAPを分離後の消化液であって、マグネシウムイオン濃度がメタン発酵槽内消化液と比べて低減された消化液を前記系統へ返送する工程と、
MAPを分離後の消化液を前記系統へ返送する途中で、該消化液に有機酸を添加することにより該消化液のpHを低下させる工程と、
を含むメタン発酵設備におけるスケール防止方法である。