特許第6592406号(P6592406)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 水ing株式会社の特許一覧

特許6592406晶析装置、メタン発酵設備、及びメタン発酵設備におけるスケール防止方法
<>
  • 特許6592406-晶析装置、メタン発酵設備、及びメタン発酵設備におけるスケール防止方法 図000002
  • 特許6592406-晶析装置、メタン発酵設備、及びメタン発酵設備におけるスケール防止方法 図000003
  • 特許6592406-晶析装置、メタン発酵設備、及びメタン発酵設備におけるスケール防止方法 図000004
  • 特許6592406-晶析装置、メタン発酵設備、及びメタン発酵設備におけるスケール防止方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6592406
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】晶析装置、メタン発酵設備、及びメタン発酵設備におけるスケール防止方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20191007BHJP
   C02F 3/28 20060101ALI20191007BHJP
   C02F 5/00 20060101ALI20191007BHJP
   C02F 1/20 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   C02F1/58 SZAB
   C02F3/28 A
   C02F5/00 610E
   C02F5/00 610Z
   C02F1/20 A
   C02F5/00 620B
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-116551(P2016-116551)
(22)【出願日】2016年6月10日
(65)【公開番号】特開2017-217640(P2017-217640A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2018年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西本 将明
(72)【発明者】
【氏名】萩野 隆生
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大輔
(72)【発明者】
【氏名】島村 和彰
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−122799(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/078012(WO,A1)
【文献】 特開2004−160300(JP,A)
【文献】 特開昭63−084696(JP,A)
【文献】 特開2000−271595(JP,A)
【文献】 特開平11−309464(JP,A)
【文献】 特開2000−061274(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/041009(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58
C02F 3/00− 3/34
C02F 11/00−11/20
C02F 1/20
C02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から引き抜かれたアンモニウムイオンと、マグネシウムイオンと、リン酸イオンとを含有する消化液を導入するための入口と、
種結晶及び入口から導入された消化液を収容し、該消化液中に含まれるアンモニウムイオン、マグネシウムイオン及びリン酸イオンを反応させてMAPを晶析するためのリアクタと、
該リアクタ内の消化液を脱炭酸するための曝気機構、減圧機構及び撹拌機構よりなる群から選択される一種以上の脱炭酸機構と、
晶析したMAPを消化液から分離するための分離機構と、
MAPを分離後の消化液であって、マグネシウムイオン濃度がメタン発酵槽内消化液と比べて低減された消化液をメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統へ返送するための出口と、
を備えた晶析装置。
【請求項2】
MAPを分離後、出口から排出される前に消化液に有機酸を添加するための機構を更に備えた請求項1に記載の晶析装置。
【請求項3】
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統と、
請求項1又は2に記載の晶析装置と、
該系統から消化液を引き抜いて該晶析装置に送るための第一の配管系と、
該晶析装置の出口から排出される消化液を前記系統に返送するための第二の配管系と、
を備えたメタン発酵設備。
【請求項4】
第二の配管系に接続されており、第二の配管系に有機酸を添加するための機構を更に備えた請求項3に記載のメタン発酵設備。
【請求項5】
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統がメタン発酵槽を含む請求項3又は4に記載のメタン発酵設備。
【請求項6】
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から引き抜いたアンモニウムイオンと、マグネシウムイオンと、リン酸イオンとを含有する消化液のpHを、種結晶の存在下で、曝気、減圧及び撹拌よりなる群から選択される一種以上の脱炭酸方法により上昇させ、該消化液に含まれるアンモニウムイオン、マグネシウムイオン及びリン酸イオンを反応させてMAPを晶析する工程と、
晶析したMAPを消化液から分離する工程と、
MAPを分離後の消化液であって、マグネシウムイオン濃度がメタン発酵槽内消化液と比べて低減された消化液を前記系統へ返送する工程と、
を含むメタン発酵設備におけるスケール防止方法。
【請求項7】
MAPを分離後の消化液を前記系統へ返送する途中で、該消化液に有機酸を添加することにより該消化液のpHを低下させる工程を含む請求項6に記載のスケール防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)の晶析装置に関する。また、本発明は有機物(典型的には有機性廃棄物)を嫌気性微生物の働きによって分解するためのメタン発酵設備に関する。更に、本発明はメタン発酵設備におけるスケール防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃棄物をメタン発酵処理する方法は、運転コストが低いこと、メタン発酵処理後の消化液が生物学的に安定していること、メタン発酵処理で得られる消化ガス(メタンガス)をエネルギーとして利用できることなど、多くのメリットがある。そのため、近年では厨芥、残飯、食品及び飲料品の製造残渣、下水汚泥、有機性の排水処理汚泥、家畜糞尿などの有機性廃棄物を対象としたメタン発酵設備の需要が増加している。
【0003】
メタン発酵設備において、メタン発酵槽内は還元雰囲気であり、アンモニウムイオン(NH4+)、リン酸イオン(PO43-)が溶液中に溶出しやすい環境にある。このため、メタン発酵槽内のマグネシウムイオン(Mg2+)の濃度が高いと、以下の化学平衡反応により、リン酸マグネシウムアンモニウム(以下、MAPという)の結晶が析出する。
Mg2++NH4++HPO42-+5H2O+OH-⇔Mg(NH4)(PO4)・6H2
上記反応式から、Mg2+、NH4+、PO43-(HPO42-+OH-⇔PO43-+H2O)の各イオンが存在し、アルカリ性が供給されると、平衡が右に移動し、MAP結晶が生成されることが分かる。
【0004】
メタン発酵設備においては、メタン発酵槽の他、メタン発酵槽内消化液が滞留又は循環する系統にMAP由来のスケールが発生する事例がしばしば見られる。スケールは、消化液の引抜ポンプの閉塞やメタン発酵槽撹拌機の故障につながるため、定期的に設備の運転を停止して除去する必要があった。スケールが著しい場合には、メタン発酵槽内の消化液を全量排出して、槽内を清掃する必要が出てくることもある。その場合、膨大な消化液の処分費用がかかる。更に消化液の排出・清掃・再立上げまで、長期にわたり設備の稼動を停止する必要がでてくる。更には、メタン発酵設備の稼働停止中は廃棄物の処理を外部に委託する必要があるため、費用面の負担も大きかった。
【0005】
MAP由来のスケール対策に関しては、過去にも幾つかの技術が提案されている。例えば特開2000−271595号公報では、下水処理設備で発生した汚泥を汚泥処理施設等に輸送する管路内に付着するMAP粒子による管路内の閉塞を未然に防止することを目的として、汚泥を輸送するための管路の上流側にエアレーション装置又はMAPリアクタを備え、このエアレーション装置又はMAPリアクタ内で予め汚泥を曝気して、その汚泥中にMAP粒子を形成させてMAP粒子形成要因成分を汚泥の間隙水中から除去し、その汚泥を上記管路内に送る方法が記載されている。当該公報の図4に示す実施形態においては、エアレーション装置又はMAPリアクタに導入する前の汚泥を嫌気性消化槽内の嫌気性微生物によって嫌気性処理することにより汚泥中のアルカリ度を上昇させておくことが有用である旨が記載されている。
【0006】
特開2003−117306号公報には、液中から特定イオンを除去する方法の一つとして晶析法が用いられてきたことが記載されている。そして、嫌気性消化汚泥の脱水ろ液など、液中にリン酸イオン、アンモニウムイオンを含有している排水では、マグネシウムを添加してMAPの結晶を析出させることが記載されている。当該公報の実施例においては、メタン発酵の処理水がリン、アンモニアを含有しており、マグネシウムとアルカリを供給することでリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)を結晶化させ、脱リン処理したことが記載されている。
【0007】
特開2001−252689号公報では、嫌気性発酵槽から排出された消化汚泥を減圧装置で減圧処理した後、MAP第1槽に送り、Mg源としてのMgCl2等を添加してMAP粒子を生成させることが記載されている。MAP粒子を分離後、消化汚泥は嫌気性発酵槽に戻される。当該公報に記載の技術によれば、汚泥は嫌気性発酵槽、減圧装置、MAP第1槽を循環することにより、発酵による分解率を高くすることができ、分解された炭素分はメタンガスに、窒素分、リン分はMAPに、それぞれ有用な形態で回収されることが記載されている。
【0008】
国際公開第2006/078012号においては、有機性廃棄物を嫌気性消化して発生した消化汚泥を配管輸送する際の配管内のスケールを防止する方法において、該消化汚泥に、マグネシウム化合物を添加することでMAPを晶析させる晶析工程と、該消化汚泥からし渣を除去するし渣の除去工程とで処理し、前記晶析工程とし渣の除去工程を経た該消化汚泥からMAPを含む微粒子を分離し、該微粒子が除去された消化汚泥を配管輸送することを特徴とする配管内のスケール防止方法が記載されている。また、このとき、曝気処理や減圧処理などを併用すると、脱炭酸してpHが上昇し、より効率的にMAPを析出させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−271595号公報
【特許文献2】特開2003−117306号公報
【特許文献3】特開2001−252689号公報
【特許文献4】国際公開第2006/078012号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2000−271595号公報に記載の技術は汚泥処理施設へ汚泥を輸送するための管路の上流側でMAP粒子を形成させる技術であるが、更にその上流側にある嫌気性消化槽にMAP由来のスケールが発生することを予防することはできない。また、当該公報に記載のエアレーション装置又はMAPリアクタを仮に嫌気性消化槽の上流側でMAP粒子を形成させようとした場合には、発酵原料のpHが低いと汚泥を曝気するだけでは十分にpHを上昇させることができないため、膨大な量のアルカリが必要になる。
【0011】
特開2003−117306号公報に記載の技術は、メタン発酵槽から排出される処理水を脱リン処理するためにマグネシウムを添加してMAPの結晶を析出させているに過ぎず、メタン発酵槽におけるMAP由来のスケール発生を予防する技術ではない。
【0012】
特開2001−252689号公報では、嫌気性発酵槽から排出された消化汚泥を減圧装置で減圧処理した後、MAP第1槽に送ってMAP粒子を生成することが記載されているが、減圧装置とMAP第1槽の間の配管内にMAP由来のスケールが成長して配管閉塞リスクが生じる。また、嫌気性発酵槽から排出される消化汚泥にMg源を添加してMAP粒子を生成した後、MAP粒子を分離して消化汚泥を嫌気性発酵槽に戻すことが記載されているが、Mg源を添加してMAPを生成させていることから、MAPを生成・分離した後の消化汚泥を嫌気性発酵槽に返送するとしても、未反応のマグネシウム成分が嫌気性発酵槽に送り込まれることになり、嫌気性発酵槽におけるMAP由来のスケール発生リスクがかえって高まるおそれがある。
【0013】
国際公開第2006/078012号の目的は消化汚泥を配管輸送する際の配管内のスケールを防止することであり、嫌気性消化槽におけるスケールを防止することはできない。また、マグネシウム化合物を添加してMAPを晶析させるため、MAP分離後の消化汚泥中のマグネシウム濃度が高くなるおそれがあるので、これを嫌気性消化槽に返送することはスケール予防の観点から好ましくない。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、メタン発酵設備のスケール防止に有用なMAPの晶析装置を提供することを課題の一つとする。本発明はMAPの晶析装置を備えたメタン発酵設備を提供することも課題の一つとする。本発明はメタン発酵設備におけるスケール防止方法を提供することも課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究したところ、メタン発酵槽に代表されるメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統内から消化液を引き抜き、種結晶を保持したMAP晶析装置でMAPを晶析させて除去した後、消化液をメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統に返送することにより、メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統におけるMAP由来のスケール発生リスクを効果的に低減できることを見出した。
【0016】
この際、メタン発酵槽とMAP晶析装置の間にpHを上昇させるための装置を設置するのではなく、MAP晶析装置内の晶析リアクタにおいて脱炭酸によりpHを上昇させることがメタン発酵槽とMAP晶析装置の間の循環経路におけるスケール発生リスクを抑える観点で有効である。
【0017】
また、MAP晶析装置内でMg源を添加すると、返送される消化液と共にMg源がメタン発酵槽に流入してメタン発酵槽でのスケール発生リスクを上昇させる。このことから、MAP晶析装置内でMg源を添加するべきではなく、更にはメタン発酵槽とMAP晶析装置の間の循環経路においてもMg源は添加すべきではない。Mg源を添加しないことで、メタン発酵槽から排出される消化液中のMg濃度に比べて、MAP晶析装置を経てメタン発酵槽に返送される消化液中のMg濃度を低くすることができる。
【0018】
更に、MAP晶析装置から返送される消化液のpHはメタン発酵槽におけるpHよりも高くなっていることから、MAP晶析装置からメタン発酵槽に返送途中の消化液のpHを下げておくことでメタン発酵槽や返送経路でのスケール発生リスクを更に低下させることができる。
【0019】
上記の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から引き抜かれたアンモニウムイオンと、マグネシウムイオンと、リン酸イオンとを含有する消化液を導入するための入口と、
種結晶及び入口から導入された消化液を収容し、消化液中に含まれるアンモニウムイオン、マグネシウムイオン及びリン酸イオンを反応させてMAPを晶析するためのリアクタと、
該リアクタ内の消化液を脱炭酸するための曝気機構、減圧機構及び撹拌機構よりなる群から選択される一種以上の脱炭酸機構と、
晶析したMAPを消化液から分離するための分離機構と、
MAPを分離後の消化液であって、マグネシウムイオン濃度がメタン発酵槽内消化液と比べて低減された消化液をメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統へ返送するための出口と、
を備えた晶析装置である。
【0020】
本発明に係る晶析装置は一実施形態において、MAPを分離後、出口から排出される前に消化液に有機酸を添加するための機構を更に備える。
【0021】
本発明は別の一側面において、
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統と、
本発明に係る晶析装置と、
該系統から消化液を引き抜いて該晶析装置に送るための第一の配管系と、
該晶析装置の出口から排出される消化液を前記系統に返送するための第二の配管系と、
を備えたメタン発酵設備である。
【0022】
本発明に係るメタン発酵設備は一実施形態において、第二の配管系に接続されており、第二の配管系に有機酸を添加するための機構を更に備える。
【0023】
本発明に係るメタン発酵設備は別の一実施形態において、メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統がメタン発酵槽を含む。
【0024】
本発明は更に別の一側面において、
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から引き抜いたアンモニウムイオンと、マグネシウムイオンと、リン酸イオンとを含有する消化液のpHを、曝気、減圧及び撹拌よりなる群から選択される一種以上の脱炭酸方法により上昇させ、種結晶の存在下で該消化液に含まれるアンモニウムイオン、マグネシウムイオン及びリン酸イオンを反応させてMAPを晶析する工程と、
晶析したMAPを消化液から分離する工程と、
MAPを分離後の消化液であって、マグネシウムイオン濃度がメタン発酵槽内消化液と比べて低減された消化液を前記系統へ返送する工程と、
を含むメタン発酵設備におけるスケール防止方法である。
【0025】
本発明に係るスケール防止方法は一実施形態において、MAPを分離後の消化液を前記系統へ返送する途中で、該消化液に有機酸を添加することにより該消化液のpHを低下させる工程を含む。
【0026】
本発明は更に別の一側面において、
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から引き抜かれたアンモニウムイオンと、マグネシウムイオンと、リン酸イオンとを含有する消化液を導入するための入口と、
種結晶及び入口から導入された消化液を収容し、該消化液中に含まれるアンモニウムイオン、マグネシウムイオン及びリン酸イオンを反応させてMAPを晶析するためのリアクタと、
該リアクタ内の消化液のpHを上昇させるための機構と、
晶析したMAPを消化液から分離するための分離機構と、
MAPを分離後、出口から排出される前に消化液に有機酸を添加するための機構と、
MAPを分離後の消化液であって、マグネシウムイオン濃度がメタン発酵槽内消化液と比べて低減された消化液をメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統へ返送するための出口と、
を備えた晶析装置である。
【0027】
本発明は更に別の一側面において、
・メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統と、
・以下の(a)〜(e)を備える晶析装置と、
(a)メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から引き抜かれたアンモニウムイオンと、マグネシウムイオンと、リン酸イオンとを含有する消化液を導入するための入口;
(b)種結晶及び入口から導入された消化液を収容し、該消化液中に含まれるアンモニウムイオン、マグネシウムイオン及びリン酸イオンを反応させてMAPを晶析するためのリアクタ;
(c)該リアクタ内の消化液のpHを上昇させるための機構;
(d)晶析したMAPを消化液から分離するための分離機構;並びに
(e)MAPを分離後の消化液であって、マグネシウムイオン濃度がメタン発酵槽内消化液と比べて低減された消化液をメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統へ返送するための出口;
・該系統から消化液を引き抜いて該晶析装置に送るための第一の配管系と、
・該晶析装置の出口から排出される消化液を前記系統に返送するための第二の配管系と、
・第二の配管系に接続されており、第二の配管系に有機酸を添加するための機構と、
を備えたメタン発酵設備である。
【0028】
本発明は更に別の一側面において、
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から引き抜かれたアンモニウムイオンと、マグネシウムイオンと、リン酸イオンとを含有する消化液のpHを上昇させ、種結晶の存在下で該消化液に含まれるアンモニウムイオン、マグネシウムイオン及びリン酸イオンを反応させてMAPを晶析する工程と、
晶析したMAPを消化液から分離する工程と、
MAPを分離後の消化液であって、マグネシウムイオン濃度がメタン発酵槽内消化液と比べて低減された消化液を前記系統へ返送する工程と、
MAPを分離後の消化液を前記系統へ返送する途中で、該消化液に有機酸を添加することにより該消化液のpHを低下させる工程と、
を含むメタン発酵設備におけるスケール防止方法である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、メタン発酵設備におけるスケール発生を効果的に予防することが可能である。本発明の好ましい実施形態によれば、定期的なスケール除去作業を行うことなく低ランニングコストで長期間にわたってメタン発酵設備の円滑な稼働を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】脱炭酸機構の具体的態様を示す図である。
図2】本発明に係るMAP晶析装置の構成例を示す図である。
図3】本発明に係るメタン発酵設備の構成例を示す図であり、実施例で採用した構成に相当する。
図4】比較例におけるメタン発酵設備の構成である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<1.晶析装置>
本発明に係るMAP晶析装置は一実施形態において、
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から引き抜かれたアンモニウムイオン(NH4+)と、マグネシウムイオン(Mg2+)と、リン酸イオン(PO43-)とを含有する消化液を導入するための入口と、
種結晶及び入口から導入された消化液を収容し、該消化液中に含まれるアンモニウムイオン、マグネシウムイオン及びリン酸イオンを反応させてMAPを晶析するためのリアクタと、
該リアクタ内の消化液のpHを上昇させるための機構と、
晶析したMAPを消化液から分離するための分離機構と、
MAPを分離後の消化液であって、マグネシウムイオン濃度がメタン発酵槽内消化液と比べて低減された消化液をメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統へ返送するための出口と、
を備える。
【0032】
メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統としては、メタン発酵槽の他、消化液の加温装置、サンプリング装置、固液分離装置、及びこれらに接続される消化液の循環配管が挙げられる。本発明が処理対象とするメタン発酵槽内消化液にはアンモニウムイオンと、マグネシウムイオンと、リン酸イオンとが含まれている。これらのイオンの供給源は特に制限されるものではないが、例えば、厨芥、残飯、食品及び飲料品の製造残渣、下水汚泥、有機性の排水処理汚泥、家畜糞尿などの有機性廃棄物に含まれ得る。該消化液のpHは一般的に7.0〜8.0であることから、先述した反応式に従ってMAPが析出するポテンシャルを有している。メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統から連続的又は断続的に該消化液を引き抜き、晶析装置でMAPを晶析させることで該消化液が有するMAP析出ポテンシャルを低下させることができる。特に、本実施形態においては消化液中に含まれるマグネシウムイオン源以外にマグネシウムイオン供給源が存在しない。このため、MAPを分離後の消化液中のマグネシウムイオン濃度は前記系統から引き抜いたメタン発酵槽内消化液中のマグネシウムイオン濃度と比べて低減される。例えば、MAPを分離後の消化液中のマグネシウムイオン濃度は前記系統から引き抜いたメタン発酵槽内消化液中のマグネシウムイオン濃度に対して好ましくは50%以下とすることができ、より好ましくは40%以下とすることができ、より好ましくは30%以下とすることができ、更により好ましくは20%以下とすることができ、例えば10〜50%とすることができる。よって、MAP析出ポテンシャルが低下した消化液を該系統に返送したときの、該系統内でのスケール発生予防効果が高い。
【0033】
MAP晶析装置の入口から導入された消化液のpHを上昇させることでMAPの晶析反応が進行する。pHを上昇させる手段としては、曝気及び減圧よりなる群から選択される一種以上の脱炭酸方法が挙げられ、これらはそれ自体公知の曝気機構、減圧機構及び撹拌機構により実施可能である。もともと、メタン発酵槽内消化液のpHは7〜8程度であり、MAPの晶析反応を進行させるための好ましいpHは8以上、例えば8〜9であることから、pHは0.5〜1.0程度上昇させれば十分である。この他、アルカリを添加する方法も挙げられるが、メタン発酵槽内消化液中には炭酸が飽和又は飽和に近い状態で溶解していることから、曝気、減圧操作及び撹拌機構から選択される一種又は二種以上を組み合わせて実施することでヘンリーの法則により脱炭酸されて容易に消化液のpHが上昇する。このため、経済性を考えれば曝気、減圧及び撹拌から選択される一種以上の脱炭酸方法を採用することが好ましい。補助的に水酸化ナトリウム等のアルカリを添加してもよいが、その場合はメタン発酵槽に消化液を戻す前に添加したアルカリと等しい当量の酸を加えることでメタン発酵への影響を抑制することが好ましい。
【0034】
脱炭酸方法を実施するための具体的な脱炭酸機構の例について図1の(a)、(b)及び(c)に示す。何れの機構においても外部空気を積極的に導入することはないが、リアクタを完全密閉構造としないことで、リアクタ外部への送気量に相当する空気を周囲環境から取り込むことが可能である。(a)及び(b)は、リアクタ10内の気相部からガスを引き抜き、これを循環ブロア11を介してリアクタ10内の消化液に送り込む循環曝気機構である。このうち、(b)はドラフトチューブ式の曝気機構であり、少ない曝気量でリアクタ全体を曝気することが可能である。(c)は表面曝気式の曝気機構であり、攪拌機12により消化液の表面を攪拌することで消化液の表面付近が曝気される。当該方式は循環ブロワを使用しないため、動力や維持管理面で低コストであるという特徴がある。曝気により、消化液中に溶解していたメタンガス及び炭酸ガスが除去されてリアクタ10内の気相部分に入る。一部は循環ブロア11によってリアクタ10内を循環するが、残りは排気ブロア13により排出される。脱炭酸機構により、徐々にリアクタ10内の消化液が脱炭酸される。
【0035】
減圧処理は、特開平7−136406号公報に開示されているような脱気装置を使用することが望ましい。当該脱気装置を使用することにより、真空容器内で回転する有底のふるい体の遠心力により消化液を加速して消化液を該真空容器内の壁面に衝突させ、消化液中の炭酸を除去することができる。
【0036】
リアクタ内には種結晶が収容されていることで、種結晶表面で効率的にMAPを生成させることができる。また、種結晶の表面で新たなMAPを晶析させることで、後段の分離工程でのMAPの分離が良好になる。種結晶としては、リアクタで晶析したMAP、或いは別のリアクタで晶析したMAPを用いることができ、更には、メタン発酵槽等のメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統で自然発生的に析出したMAPを用いることもできる。この他、リン鉱石やドロマイト、骨炭、活性炭、けい砂、珪酸カルシウム等の粉末或いは粒状物を用いることもできる。種結晶の粒径は任意でよいが、粒径は大きいほうが固液分離性を良好にする一方で、小さい方がリアクタ内での流動性に優れるので、両者のバランスの観点からは、平均粒径として0.05〜3.0mmが好ましく、0.1〜0.5mmがより好ましい。種結晶の平均粒径はJIS Z8815−1994に準拠して湿式ふるい分けし、粒径累積分布(質量基準)から求めたメジアン径(d50)として定義される。リアクタ内へのMAP充填量が多いほどMAPの生成効率が増加する傾向があり、リアクタ内に充填するMAP濃度は10g/L以上とすることが好ましい。
【0037】
リアクタ内で晶析したMAPは、分離機構によって消化液から分離される。分離機構としては特に制限はないが、濾過、遠心分離、重力沈殿等の固液分離が挙げられる。固液分離を実施するために濾過膜を使用してもよく、特開2003−117306号公報の図1に記載されるような反応槽の上部に重力沈殿部を形成するとともに、その内部に気液分離用の内筒を備えた固液分離構造を採用してもよい。この場合、MAPの結晶を含有する消化液を気泡と共に上方の拡大部に向かって流すと、気泡は内筒を通じて上方に排出され、残りの液分は拡大部で上昇速度が低下するので、MAPの結晶は下降する。このため、内筒の下部ではMAPの結晶が流動している状態となり、ここからMAPを回収することができる。また、遠心分離するための装置として例えば液体サイクロンを使用することができる。
【0038】
固液分離によって分離したMAPの結晶の一部をリアクタに返送してもよい。リアクタに返送されたMAPの結晶は種結晶として利用することができるため、外部から種結晶を繰り返し添加する必要がなくなる。
【0039】
MAP晶析装置内には、MAPを分離後、出口から排出される前に消化液に有機酸を添加するための機構を設けもよい。MAP晶析装置から返送される消化液のpHはメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統における消化液のpHよりも高くなっていることから、MAP晶析装置から当該系統に返送途中の消化液のpHを下げておくことで当該系統や、当該系統への返送経路でのスケール発生リスクを更に低下させることができる。消化液に有機酸を添加するための機構はMAP晶析装置の外側に設置することも可能であるが、その場合は、返送配管系でのスケール発生リスクを低くするために、可能な限りMAP晶析装置の出口近傍に設置することが好ましい。
【0040】
MAP分離後の消化液へ有機酸を添加するための機構としては特に制限はなく、有機酸供給配管をMAP分離後の消化液が流れる配管に直接接続してもよいが、混合効率を高めるため、エジェクター又はインラインミキサー等の混合装置を介して接続することが好ましい。更には有機酸混合槽を設置して、有機酸供給配管及びMAP分離後の消化液が流れる配管を当該槽に接続し、混合槽内で有機酸及び消化液を混合することも好ましい。維持管理の観点からは、閉塞のリスクが低い有機酸混合槽を設置する態様が好ましい。有機酸混合槽はMAP晶析装置の内部及び外部のどちらに設置することも可能である。
【0041】
pHを下げるだけであれば有機酸に代えて無機酸を使用してもよいが、無機酸を添加する場合にはメタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統にMAP分離後の消化液を返送したときに当該系統内のイオンバランスに影響を与えるため、有機酸を添加することが好ましい。有機酸の場合はメタン発酵槽内で有機酸自体が発酵してガス化するため、メタン発酵プロセスに予期せぬ悪影響が生じることを予防できる。有機酸としては特に制限はないが、原料に含まれる物や、酸発酵槽などで原料の分解過程で発生する物を、一種単独で又は二種以上組み合わせて添加することが予期せぬ挙動を防止する観点で好ましい。原料に含まれる物としては、酢酸、乳酸、クエン酸など、原料の分解過程で発生する物としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸などが、例として挙げられる。
【0042】
有機酸の添加量は、返送されるMAP分離後の消化液のpHがメタン発酵槽内消化液と同程度又はそれよりも少し低いpHとなるまで下げることができる量とするのが好ましい。具体的には、8以下に調整することが好ましく、7.5以下に調整することがより好ましく、例えば6〜8に調整することができる。
【0043】
有機酸の供給源としては、専用の有機酸供給ラインを敷設してもよいが、メタン発酵設備においては、メタン発酵槽の前段に酸発酵槽が設置されていることが多いため、酸発酵槽内の液を一部引き抜いて、これを有機酸供給源とすることが好都合である。
【0044】
図2に、分離機構として液体サイクロン26を採用した晶析装置20の構成例を示す。リアクタ21には、メタン発酵槽等から供給される消化液22の供給管、リアクタ21と下部が連通している返送管23、リアクタ21内の消化液やMAP粒子を引き抜く引抜管24、及び液体サイクロン26の微粒子排出管25が接続されている。また、図示しないが、リアクタ21には先述した曝気機構が設けられている。リアクタ21では、種結晶と液の混合をよくするため、また、種結晶の良好な流動状態を保つために攪拌装置31による液攪拌を行うことが好ましい。攪拌は曝気機構により兼ねることも可能である。
【0045】
リアクタ21は、底部平断面の面積が上端平断面の面積よりも小さな構造であることが好ましい。また、上端から下方の所定位置までの平断面が同じ形状で且つ同じ断面積であり、該所定位置から下方はその断面が徐々に縮小するような形状であることが好ましい。例えば、図2に示すように底部が逆円錐形の形状が好ましい。逆円錐形の角度は、水平に対して45°以上であることが好ましく、60°以上であることがより好ましい。このように角度を設けることで、リアクタ21内で沈降したMAP粒子をリアクタ底部の一点に集中させることができる。更に、粒子の引抜管24は沈降したMAP粒子が集中する付近に接続することが好ましい。これにより、堆積物による閉塞を防止することができる。
【0046】
液体サイクロン26の微粒子排出管25は、液体サイクロン26で濃縮したMAP粒子を液体サイクロン26の底部から排出してリアクタ21に返送するものである。液体サイクロン26で濃縮したMAP粒子をリアクタ21に返送することで、リアクタ内で種結晶となるMAP粒子濃度を高めることができ、その結果MAP粒子表面積を大きく維持することが可能となる。晶析反応は粒子の核化現象と成長現象からなるが、種結晶の表面積が大きいほど、核化現象よりも成長現象が優先されるので固液分離が容易となり好ましい。また、液体サイクロン26の底部又は微粒子排出管25に、濃縮されたMAP粒子を回収する回収管27を接続することができる。
【0047】
返送管23の上部には循環水槽28が設置されている。循環水槽28は循環水(MAP分離後の消化液と同じ性状)を一時的に貯留する槽であり、任意の大きさにすることができる。無論、攪拌装置を設置して均一になるように混合してもよい。循環水槽28は、液体サイクロン26の溢流上昇管33に接続されており、更にリアクタ21と返送管23を介して底部で連通している。液体サイクロン26においてMAP粒子が分離された消化液は溢流上昇管33を通って、循環水槽28に供給される。循環水槽28はリアクタ21の水面と同じ水位を保っており、返送された消化液の一部はリアクタ21に返送され、一部はオーバーフローにより、MAP分離後の消化液32として排出され、残りが液体サイクロン流入管29によって液体サイクロン26に投入される。
【0048】
MAP分離後の消化液32には晶析装置20から排出される前に有機酸34を添加することでpHを下げておくことが好ましい。図示の実施態様においては、MAP分離後の消化液32は有機酸混合槽35で有機酸と混合されてpHが下がった後に晶析装置20から排出される。混合効率を高めるために有機酸混合槽35中の液を攪拌することが好ましく、有機酸混合槽35には攪拌機構36が備わっている。攪拌機構36としては機械攪拌や曝気が挙げられる。
【0049】
リアクタ21内のMAP粒子は、引抜管24より所定の流量で引き抜き、液体サイクロン26に投入する。この際、引抜管24を液体サイクロンの流入管29に接続することが好ましい。これにより、引抜管24内のMAP粒子濃度を循環水槽28からの循環水(消化液)で希釈した後に液体サイクロン26に投入することが可能になる。液体サイクロン26へ投入するMAP粒子の濃度は、液体サイクロン26の処理性能を左右する重要な操作因子であり、MAP分離後の消化液のMAP粒子濃度の低下やサイクロンアンダ(サイクロン底部)の閉塞防止のため、MAP粒子の濃度は低いほうが好ましい。
【0050】
リアクタ21内のpHや水温が変動する場合は、pH計30や水温計(図示せず)を設置して、計測値に応じて曝気量を調整したり、pH調整剤を添加したり、加温冷却操作を行うことも可能である。
【0051】
なお、消化液22の供給管及び/又はリアクタ21の底部に接続した引抜管24にし渣除去装置を配置することができる。し渣を除去することで、液体サイクロン26を用いたMAP粒子の分離の安定性を飛躍的に向上させることができる。し渣の分離方法としては例えば、遠心沈降機、重力分離を利用した沈降分離槽などが挙げられる。
【0052】
<2.メタン発酵設備>
本発明に係るメタン発酵設備の一実施形態においては、メタン発酵槽内消化液が滞留若しくは循環する系統と、本発明に係る晶析装置と、該系統から消化液を引き抜いて該晶析装置に送るための第一の配管系と、該晶析装置の出口から排出される消化液を前記系統に返送するための第二の配管系とを備える。メタン発酵設備が晶析装置内部にMAP分離後の消化液への有機酸添加機構を備えていない場合、第二の配管系に有機酸を添加するための機構を備えていてもよい。
【0053】
図3には、本発明に係るMAP晶析装置を利用したメタン発酵設備40の機器構成例が模式的に示されている。メタン発酵設備40は酸発酵槽41、メタン発酵槽42、MAP晶析装置43、及び有機酸混合槽44を備える。発酵原料となる有機物(典型的には有機性廃棄物)51はまず酸発酵槽41に投入されて可溶化・酸発酵処理される。可溶化・酸発酵処理を受けた後の酸発酵液は、メタン発酵槽42に投入され、ここで嫌気性微生物の働きによって分解されてメタン及び炭酸ガスが発生し、バイオガス54として排出される。嫌気性微生物による酸発酵液の分解を促進する観点で、攪拌機45によってメタン発酵槽42内を攪拌することが好ましい。
【0054】
メタン発酵槽42からは消化液55が排出される一方、消化液の一部はMAP晶析装置43に移送される。MAP晶析装置43では消化液に含まれるイオンを原料にして先述したMAP晶析反応が実施される。晶析したMAP53は固液分離後にMAP晶析装置43から排出される。また、MAP晶析装置43からは脱炭酸によって発生した炭酸ガスやメタンガスを含む排ガス52が排出される。一方、MAP分離後の消化液は有機酸混合槽44に流入し、酸発酵槽41から引き抜かれた有機酸含有液と混合されてpH低下処理を受ける。酸発酵槽41では攪拌機46によって、有機酸含有液と消化液の混合が促進される。酸発酵槽41を出た消化液はメタン発酵槽42へ返送される。当該操作を連続的又は断続的に繰り返すことにより、メタン発酵槽42内におけるMAP発生ポテンシャルが低下された状態を維持可能である。本発明に係るメタン発酵設備の一実施形態によれば、スケール発生を長期間にわたって抑制することも可能であり、スケールの除去作業及びこれに伴うメタン発酵設備の稼働停止を行う必要がなくなる。本発明はメタン発酵設備の運転に伴う管理コストの大幅な低下をもたらすことができ、産業上の利用価値は極めて高い。
【実施例】
【0055】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0056】
食品加工工場にて発生する廃棄物をメタン発酵処理する施設への本発明の適用事例について、以下に示す。
【0057】
(比較例)
本工場では、加工残渣や戻り製品など、1日あたり最大3.5tの生ごみが発生している。本工場において従来採用していたメタン発酵設備の構成を図4に示す。図4中の符号は図3と同様であるので省略する。発酵原料の生ごみは異物除去後に加水され、容量20m3の酸発酵槽を経て、容量200m3のメタン発酵槽に投入される。発酵原料は酸発酵槽にて固形分約12%の液に調整される。この時、酸発酵槽中の窒素分は平均4.5kg/m3、リンは0.6kg/m3、マグネシウムは0.2kg/m3程度である。酸発酵槽では、有機物の加水分解が進んで有機酸が生成し、pHは4.0以下にまで低下する。
【0058】
酸発酵槽を経た液は、メタン発酵槽に投入される。メタン発酵槽では、有機物がメタン発酵菌の作用によって、メタンと炭酸ガスに分解される。分解によって、有機酸がガスに変換されて除去されることと、有機物に含まれるたんぱく質の分解によってアンモニアが生成されることなどから、メタン発酵槽内のpHは7.0〜8.0に上昇する。
【0059】
一般的に、食品系の原料には窒素とリンは必ず含まれる。それに加えて本工場の場合は、塩分由来のマグネシウムも多く含まれるため、メタン発酵槽の内部でMAPが生成する条件が整っていた。そのため、特にメタン発酵槽内の液面付近や、消化液の引抜管周辺にスケールが発生した。スケールは、消化液の引抜ポンプの閉塞やメタン発酵槽撹拌機の故障につながるため、2〜3年に1回施設の稼動を停止し、スケールの除去を行う必要があった。スケールを除去するためには、容量200m3のメタン発酵槽を空にして、薬品洗浄などによってスケールを除去した後に、再度メタン発酵菌を立ち上げなければならず、多大な労力と数ヶ月間の施設の稼動停止が必要となっていた。また、稼動停止中は廃棄物の処理を外部に委託する必要があるため、費用面の負担も大きかった。
【0060】
(発明例)
これに対して、スケールの発生を防止するため、メタン発酵設備の構成を図3に示す構成に改良した。メタン発酵槽から消化液を1日30m3引き抜き、固液分離機構として液体サイクロンを使用した晶析装置に導入した。晶析装置では、外部から薬剤を加えること無く、装置内気相部からの循環曝気と、排気ブロワによる吸引によって、消化液中に溶存している炭酸ガスを排出し、消化液のpHを上昇させた。この結果、消化液のpHは7.4から8.2に上昇した。なお、当該操作と同等のpH上昇効果を得るためには、15kg/日程度の苛性ソーダが必要になる。
【0061】
晶析装置から排出されるガスには、炭酸ガスの他に硫化水素やアンモニアガスも含まれるため、そのまま大気放散させると臭気発生源となるため、工場内の排水処理設備の活性汚泥槽に吹き込むことで、硫化水素やアンモニアの揮散を防いだ。
【0062】
晶析装置内には、粒径1.0〜2.0mmのMAP種結晶がMAP濃度30〜50g/Lで保持される。pHが上昇した消化液は、MAPが晶析する条件が整っているため、消化液中のリン酸イオンやマグネシウムイオンは種結晶表面に晶析し、MAPとして系統外に排出できる。本工場のケースでは、晶析装置の入口でpH7.4、リン酸濃度72mg−P/L、マグネシウムイオン濃度26mg/Lであったのに対し、晶析装置の出口でpH8.2、リン酸濃度49mg−P/L、マグネシウムイオン濃度4mg/Lとなった。MAP結晶は、1日あたり平均6kg/日程度回収できた。MAPは肥料として利用可能である。
【0063】
晶析後の消化液中の微細なMAP結晶によって、メタン発酵槽への戻しの配管やメタン発酵槽内で再結晶化することを防ぐため、晶析装置の出口近傍には有機酸添加設備を設けた。有機酸源としては、酸発酵槽内の液を使用した。当該液のpHは平均3.8であった。酸発酵液1.5m3/日を加えることで、pHを6.7にまで下げることができた。なお、当該操作と同等のpH低下効果を得るためには、50kg/日程度の硫酸が必要になる。
以上の改良を行ってから5年間、定期的なスケール除去操作を実施していないにもかかわらず、メタン発酵槽の他、メタン発酵槽とMAP晶析装置の間の循環経路においてもスケールによる閉塞や機器故障は発生しなかった。本発明に係る晶析装置の導入により、メタン発酵処理施設におけるMAP由来のスケール発生の問題を低コストで解消することができた。
【符号の説明】
【0064】
10 リアクタ
11 循環ブロア
12 攪拌機
13 排気ブロア
20 晶析装置
21 リアクタ
22 処理前の消化液
23 返送管
24 引抜管
25 微粒子排出管
26 液体サイクロン
27 回収管
28 循環水槽
29 流入管
30 pH計
31 攪拌装置
32 MAP分離後の消化液
33 溢流上昇管
34 有機酸
35 有機酸混合槽
40 メタン発酵設備
41 酸発酵槽
42 メタン発酵槽
43 MAP晶析装置
44 有機酸混合槽
45 攪拌機
46 攪拌機
51 発酵原料
52 MAP晶析装置の排ガス
53 MAP
54 バイオガス
55 消化液
図1
図2
図3
図4