【実施例1】
【0019】
図1〜
図19を用いて、本発明の実施例1(実施の形態1)のタスク実行順序決定システムについて説明する。実施の形態1のタスク実行順序決定システムは、被験者の運動機能または認知機能を評価するために、複数の手指運動のタスクを実行させる適切な順序を生成する。このタスク実行順序とは、運動機能や認知機能の低下が重度の被験者の評価が得意なタスクから、中度の被験者の評価が得意なタスク、軽度の被験者の評価が得意なタスク、…となるように、予め与えられたタスクを並べ替えたものである。
【0020】
つまり、運動機能や認知機能の低下が重度の被験者には、1〜2個の少ないタスクで評価結果を提示する。一方で、運動機能や認知機能の低下が軽度の被験者には、多くのタスクを計測した後で評価結果が表示されることになる。このように、実施の形態1のタスク実行順序決定システムは、評価結果の精度向上、および、被験者の計測負荷軽減という二つの利点を両立することができる。
【0021】
[1−1.システム(1)]
図1は、実施の形態1のタスク実行順序決定システムを含む、手指運動評価システムの構成を示す。実施の形態1では、施設内に、手指運動評価システムを有する。手指運動価システムは、タスク実行順序決定システムを構成する生成装置1と、磁気センサ型指タップ運動評価装置である評価装置2と、を有し、それらが通信線を通じて接続されている。評価装置2は、計測装置3と端末装置4とを有し、それらが通信線を通じて接続されている。評価装置2は、施設内に複数が同様に設けられてもよい。
【0022】
評価装置2は、磁気センサ型の運動センサを用いて手指運動を計測する型の装置及びシステムである。計測装置3には運動センサが接続されている。被験者の手指にはその運動センサが装着される。計測装置3は、運動センサを通じて手指運動を計測し、時系列の波形信号を含む計測データを得る。
【0023】
端末装置4は、表示画面に、計測者による被験者の認知・運動機能の評価を支援するための各種の情報を表示し、計測者による指示入力を受け付ける。実施の形態1では、端末装置4はパーソナルコンピュータ(PC)である。
【0024】
生成装置1は、情報処理によるサービスとして、手指運動のタスクの順序を決定する機能を有する。生成装置1は、その機能として、タスク計測、認知/運動機能等の解析評価、タスク実行順序自動生成等を有する。
生成装置1は、評価装置2からの入力データとして、例えば指示入力、タスク計測データ、計測データ等を入力する。生成装置1は、評価装置2への出力データとして、例えばタスク、結果等を出力する。
【0025】
実施の形態1のタスク実行順序決定システムは、病院等の施設及びその被験者等に限らずに、広く一般的な施設や人に適用可能である。計測装置3と端末装置4が一体型の評価装置2として構成されてもよい。計測装置3と生成装置1が一体型の装置として構成されてもよい。端末装置4と生成装置1が一体型の装置として構成されてもよい。評価装置2と生成装置1が一体型の装置として構成されてもよい。
【0026】
[1−2.タスク実行順序決定システム]
図2は、実施の形態1の生成装置1の構成を示す。生成装置1は、制御部101、記憶部102、入力部103、出力部104、通信部105等を有し、それらがバスを介して接続されている。生成装置1のハードウェアには、例えばサーバ等の計算機を用いることができる。入力部103は、生成装置1の管理者等による指示入力を行う部分である。出力部104は、生成装置1の管理者等に対する画面表示等を行う部分である。通信部105は、通信インタフェースを有し、計測装置3及び端末装置4との通信処理を行う部分である。
【0027】
制御部101は、生成装置1の全体を制御し、CPU、ROM、RAM等により構成され、ソフトウェアプログラム処理に基づいて、タスク実行順序決定処理等を行うデータ処理部を実現する。制御部101のデータ処理部は、被験者情報管理部11、タスク実行順序決定部12、解析評価部13、結果出力部14を有する。制御部101は、計測装置3から計測データを入力する機能、計測データを処理して解析する機能、計測装置3や端末装置4へ制御指示を出力する機能、端末装置4へ表示用のデータを出力する機能等を実現する。
【0028】
以上のように、本実施例では計算や制御等の機能は、ROM,RAMあるいは記憶部に格納されたソフトウェアプログラムがCPUによって実行されることで、定められた処理を他のハードウェアと協働して実現される。計算機などが実行するプログラム、その機能、あるいはその機能を実現する手段を、「機能」、「手段」、「部」、「ユニット」、「モジュール」等と呼ぶ場合がある。本実施例では、便宜的にこれらの語を主語として、各処理を説明することがある。また、本実施例中、ソフトウェアで構成した機能と同等の機能は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアでも実現できる。
【0029】
被験者情報管理部11は、計測者により入力された被験者情報をDB40の被験者情報41に登録して管理する処理や、被験者がサービスの利用を開始する際に、DB40の被験者情報41を確認する処理等を行う。被験者情報41は、被験者個人毎の属性値、利用履歴情報、被験者設定情報、等を含む。属性値は、性別、年齢等がある。利用履歴情報は、本システムが提供するサービスを計測者が利用した履歴を管理する情報である。計測者設定情報は、本サービスの機能に関して計測者により設定された設定情報である。
【0030】
タスク実行順序決定部12は、タスクの実行順序を決定する処理を行う部分である。タスク実行順序決定部12は、DB40の複数タスクデータ42Aに基づいて、端末装置4の画面にタスクを出力する。また、タスク実行順序決定部12は、計測装置3で計測されたタスク計測データを取得して、タスク計測データ42BとしてDB40に格納する。
【0031】
解析評価部13は、被験者のタスク計測データ42Bに基づいて、被験者の認知機能や運動機能に関する解析及び評価処理を行う部分である。解析評価部13は、タスク計測データ42Bに基づいて運動の性質や特徴量を抽出する処理、及び、特徴量等に基づいて運動機能等の所定の指標項目の評価値を算出する処理等を行う。解析評価部13は、解析評価処理の結果である解析評価データ43をDB40に格納する。
【0032】
記憶部102のDB40に格納されるデータや情報として、被験者情報41、タスクデータ42A、タスク計測データ42B、解析評価データ43、タスク実行順序データ44、評価精度データベース45,被験者群タスクデータベース46、管理表50、等を有する。制御部101は、記憶部102に管理表50を保持し管理する。管理者は、管理表50の内容を設定可能である。管理表50は、特徴量、指標項目、タスクの種類等の情報が設定されている。
【0033】
[1−3.計測装置]
図3は、実施の形態1の計測装置3の構成を示す。計測装置3は、運動センサ20、収容部301、計測部302、通信部303等を有する。収容部301は、運動センサ20が接続されている運動センサインタフェース部311、運動センサ20を制御する運動センサ制御部312を有する。計測部302は、運動センサ20及び収容部301を通じて、波形信号を計測し、計測データとして出力する。計測部302は、タスク計測データを得るタスク計測部321を含む。通信部303は、通信インタフェースを有し、生成装置1と通信して計測データを生成装置1へ送信する。運動センサインタフェース部311は、アナログデジタル変換回路を含み、運動センサ20により検出されたアナログ波形信号を、サンプリングによりデジタル波形信号に変換する。そのデジタル波形信号は、運動センサ制御部312に入力される。
【0034】
なお、計測装置3で各計測データを記憶手段に保持する形態としてもよいし、計測装置3では各計測データを保持せずに生成装置1のみで保持する形態としてもよい。
【0035】
[1−4.端末装置]
図4は、実施の形態1の端末装置4の構成を示す。端末装置4は、例えばPCであって、制御部401、記憶部402、通信部403、入力機器404、表示機器405を有する。制御部401は、ソフトウェアプログラム処理に基づいた制御処理として、タスク表示、結果表示、計測者指示入力受け付け等を行う。記憶部402は、生成装置1から得たタスクデータ、結果データ等を格納する。通信部403は、通信インタフェースを有し、生成装置1と通信して生成装置1から各種データを受信し、生成装置1へ計測者指示入力情報等を送信する。入力機器404にはキーボードやマウス等がある。表示機器405は、表示画面406に各種情報を表示する。なお、表示機器405をタッチパネルとしてもよい。
【0036】
[1−5.手指、運動センサ、指タッピング運動計測]
図5は、被験者の手指に運動センサ20である磁気センサが装着された状態を示す。運動センサ20は、計測装置3に接続されている信号線23を通じて、対になるコイル部である、発信コイル部21と受信コイル部22とを有する。発信コイル部21は、磁場を発生し、受信コイル部22は、その磁場を検知する。
図5の例では、被験者の右手において、親指の爪付近に発信コイル部21が装着されており、人差し指の爪付近に受信コイル部22が装着されている。装着する指は他の指に変更可能である。装着する箇所は爪付近に限らず可能である。
【0037】
図5のように、被験者の対象手指、例えば左手の親指と人差し指との二指に、運動センサ20を装着した状態とする。被験者は、その状態で、二指の開閉の繰り返しの運動である指タッピングを行う。指タッピングでは、二指を閉じた状態、即ち二指の指先が接触した状態と、二指を開いた状態、即ち二指の指先を開いた状態との間で遷移する運動が行われる。その運動に伴い、二指の指先間の距離に対応する、発信コイル部21と受信コイル部22とのコイル部間の距離が変化する。計測装置3は、運動センサ20の発信コイル部21と受信コイル部22との間の磁場変化に応じた波形信号を計測する。
【0038】
指タッピング運動は、詳しくは以下の各種類が含まれる。その運動は、例えば、片手フリーラン、片手メトロノーム、両手同時フリーラン、両手交互フリーラン、両手同時メトロノーム、両手交互メトロノーム等が挙げられる。片手フリーランは、片手の二指でできる限り素早く何回も指タップを行うことを指す。片手メトロノームは、片手の二指で一定のペースの刺激に合わせて指タップを行うことを指す。両手同時フリーランは、左手の二指と右手の二指とで同じタイミングで指タップを行うことを指す。両手交互フリーランは、左手の二指と右手の二指とで交互のタイミングで指タップを行うことを指す。上記片手フリーラン等の運動は、タスクとして設定可能である。
【0039】
[1−6.運動センサ制御部及び指タッピング計測]
図6は、計測装置3の運動センサ制御部312等の詳細構成例を示す。運動センサ20において、発信コイル部21と受信コイル部22との間の距離をDで示す。運動センサ制御部312は、交流発生回路312a、電流発生用アンプ回路312b、プリアンプ回路312c、検波回路312d、LPF回路312e、位相調整回路312f、アンプ回路312g、出力信号端子312hを有する。交流発生回路312aには、電流発生用アンプ回路312b及び位相調整回路312fが接続されている。電流発生用アンプ回路312bには、信号線23を通じて、発信コイル部21が接続されている。プリアンプ回路312cには、信号線23を通じて、受信コイル部22が接続されている。プリアンプ回路312cの後段には、順に、検波回路312d、LPF回路312e、アンプ回路312g、出力信号端子312hが接続されている。位相調整回路312fには検波回路312dが接続されている。
【0040】
交流発生回路312aは、所定の周波数の交流電圧信号を生成する。電流発生用アンプ回路312bは、交流電圧信号を所定の周波数の交流電流に変換して発信コイル部21へ出力する。発信コイル部21は、交流電流によって磁場を発生する。その磁場は、受信コイル部22に誘起起電力を発生させる。受信コイル部22は、誘起起電力によって発生した交流電流を出力する。その交流電流は、交流発生回路312aで発生した交流電圧信号の所定の周波数と同じ周波数を持つ。
【0041】
プリアンプ回路312cは、検出した交流電流を増幅する。検波回路312dは、増幅後の信号を、位相調整回路312fからの参照信号312iに基づいて検波する。位相調整回路312fは、交流発生回路312aからの所定の周波数または2倍周波数の交流電圧信号の位相を調整し、参照信号312iとして出力する。LPF回路312eは、検波後の信号を帯域制限して出力し、アンプ回路312gは、その信号を所定の電圧に増幅する。そして、出力信号端子312hからは、計測された波形信号に相当する出力信号が出力される。
【0042】
出力信号である波形信号は、二指の距離Dを表す電圧値を持つ信号となっている。距離Dと電圧値は所定の計算式に基づいて変換可能である。その計算式は、キャリブレーションにより得ることもできる。キャリブレーションでは、例えば被験者が所定長のブロックを対象手の二指で持った状態で計測される。その計測値における電圧値と距離値とのデータセットから、誤差を最小にする近似曲線として、所定の計算式が得られる。また、キャリブレーションによって被験者の手の大きさを把握し、特徴量の正規化等に用いてもよい。実施の形態1では、運動センサ20として上記磁気センサを用い、その磁気センサに対応した計測手段を用いた。これに限らず、加速度センサ、ストレインゲージ、高速度カメラ等の他の検出手段及び計測手段を適用可能である。
【0043】
[1−7.特徴量]
図7は、特徴量の波形信号の例を示す。
図7の(a)は、二指の距離Dの波形信号を示し、(b)は、二指の速度の波形信号を示し、(c)は、二指の加速度の波形信号を示す。(b)の速度は(a)の距離の波形信号の時間微分により得られる。(c)の加速度は(b)の速度の波形信号の時間微分により得られる。解析評価部13は、タスク計測データ42Bの波形信号から、微分や積分等の演算に基づいて、本例のような所定の特徴量の波形信号を得る。また、解析評価部13は、特徴量から所定の計算による値を得る。
【0044】
図7の(d)は、(a)の拡大で、特徴量の例を示す。指タップの距離Dの最大値Dmaxや、タップインターバルTI等を示す。横破線は、全計測時間における距離Dの平均値Davを示す。最大値Dmaxは、全計測時間における距離Dの最大値を示す。タップインターバルTIは、1回の指タップの周期TCに対応する時間であり、特に極小点Pminから次の極小点Pminまでの時間を示す。その他、距離Dの1周期内の極大点Pmaxや極小点Pmin、後述のオープニング動作の時間T1やクロージング動作の時間T2を示す。
【0045】
以下では、更に、特徴量の詳細例について示す。実施の形態1では、上記距離、速度、加速度、及び以下の特徴量パラメータ値を含む、複数の特徴量を用いる。なお、他の実施の形態では、それらの複数の特徴量のうちのいくつかの特徴量のみを用いてもよいし、他の特徴量を用いてもよいし、特徴量の定義の詳細についても限定しない。
【0046】
図8は、管理表50における特徴量と指標項目との関連付けの設定情報のうち、特徴量[距離]の部分を示す。この関連付けの設定は一例であり、変更可能である。
図8の管理表50において、列として、特徴量分類、識別番号、特徴量パラメータ、指標項目を有する。特徴量分類は、[距離]、[速度]、[加速度]、[タップインターバル]、[位相差]、[マーカー追従]を有する。例えば、特徴量[距離]において、識別番号(1)〜(7)で識別される複数の特徴量パラメータを有する。特徴量パラメータの括弧[]内は単位を示す。各特徴量パラメータは、所定の指標項目と関連付けられている。
【0047】
(1)「距離の最大振幅」[mm]は、距離の波形(
図7の(a))における、振幅の最大値と最小値との差分である。(1)、(4)、(6)、(7)のパラメータは、指標項目F(追従性)及び指標項目H(振幅制御)と関連付けられている。(2)「総移動距離」[mm]は、1回の計測の全計測時間における、距離変化量の絶対値の総和である。このパラメータは、指標項目A(運動量)と関連付けられている。(3)「距離の極大点の平均」[mm]は、各周期の振幅の極大点の値の平均値である。このパラメータは、指標項目F(追従性)と関連付けられている。(4)「距離の極大点の標準偏差」[mm]は、上記値に関する標準偏差である。
【0048】
(5)「距離の極大点の近似曲線の傾き(減衰率)」[mm/秒]は、振幅の極大点を近似した曲線の傾きである。このパラメータは、主に計測時間中の疲労による振幅変化を表している。このパラメータは、指標項目B(持久性)と関連付けられている。(6)「距離の極大点の変動係数」は、振幅の極大点の変動係数であり、単位は無次元量([−]で示す)である。このパラメータは、標準偏差を平均値で正規化した値であり、そのため、指の長さの個人差を排除できる。(7)「距離の局所的な極大点の標準偏差」[mm]は、隣り合う三箇所の振幅の極大点についての標準偏差である。このパラメータは、局所的な短時間における振幅のばらつきの度合いを評価するためのパラメータである。
【0049】
以下、図示を省略して、各特徴量パラメータについて説明する。特徴量[速度]について、以下の識別番号(8)〜(22)で示す特徴量パラメータを有する。(8)「速度の最大振幅」[m/秒]は、速度の波形(
図7の(b))における、速度の最大値と最小値との差分である。(8)〜(10)のパラメータは、指標項目Fと関連付けられている。(9)「オープニング速度の極大点の平均」[m/秒]は、各指タップ波形のオープニング動作時の速度の最大値に関する平均値である。オープニング動作とは、二指を閉状態から最大の開状態にする動作である(
図7の(d))。(10)「クロージング速度の極大点の平均」[m/秒]は、クロージング動作時の速度の最大値に関する平均値である。クロージング動作とは、二指を最大の開状態から閉状態にする動作である。(11)「オープニング速度の極大点の標準偏差」[m/秒]は、上記オープニング動作時の速度の最大値に関する標準偏差である。(12)「クロージング速度の極大点の平均」[m/秒]は、上記クロージング動作時の速度の最大値に関する標準偏差である。(11)、(12)、(15)、(16)のパラメータは、指標項目F及び指標項目Hと関連付けられている。
【0050】
(13)「エネルギーバランス」[−]は、オープニング動作中の速度の二乗和と、クロージング動作中の速度の二乗和との比率である。(13)、(17)〜(22)のパラメータは、指標項目Gと関連付けられている。(14)「総エネルギー」[m
2/秒
2]は、全計測時間中の速度の二乗和である。このパラメータは、指標項目Aと関連付けられている。(15)「オープニング速度の極大点の変動係数」[−]は、オープニング動作時の速度の最大値に関する変動係数であり、標準偏差を平均値で正規化した値である。(16)「クロージング速度の極大点の平均」[m/秒]は、クロージング動作時の速度の最小値に関する変動係数である。
【0051】
(17)「ふるえ回数」[−]は、速度の波形の正負が変わる往復回数から、大きな開閉の指タップの回数を減算した数である。(18)「オープニング速度ピーク時の距離比率の平均」[−]は、オープニング動作中の速度の最大値の時の距離に関する、指タップの振幅を1。0とした場合の比率に関する平均値である。(19)「クロージング速度ピーク時の距離比率の平均」[−]は、クロージング動作中の速度の最小値の時の距離に関する、同様の比率に関する平均値である。(20)「速度ピーク時の距離比率の比」[−]は、(18)の値と(19)の値との比である。(21)「オープニング速度ピーク時の距離比率の標準偏差」[−]は、オープニング動作中の速度の最大値の時の距離に関する、指タップの振幅を1。0とした場合の比率に関する標準偏差である。(22)「クロージング速度ピーク時の距離比率の標準偏差」[−]は、クロージング動作中の速度の最小値の時の距離に関する、同様の比率に関する標準偏差である。
【0052】
特徴量[加速度]について、以下の識別番号(23)〜(32)で示す特徴量パラメータを有する。(23)「加速度の最大振幅」[m/秒
2]は、加速度の波形(
図7の(c))における、加速度の最大値と最小値との差分である。(23)〜(27)のパラメータは、指標項目Fと関連付けられている。(24)「オープニング加速度の極大点の平均」[m/秒
2]は、オープニング動作中の加速度の極大値の平均であり、指タップの1周期中に現れる4種類の極値のうちの第1値である。(25)「オープニング加速度の極小点の平均」[m/秒
2]は、オープニング動作中の加速度の極小値の平均であり、4種類の極値のうちの第2値である。(26)「クロージング加速度の極大点の平均」[m/秒
2]は、クロージング動作中の加速度の極大値の平均であり、4種類の極値のうちの第3値である。(27)「クロージング加速度の極小点の平均」[m/秒
2]は、クロージング動作中の加速度の極小値の平均であり、4種類の極値のうちの第4値である。
【0053】
(28)「接触時間の平均」[秒]は、二指の閉状態における接触時間の平均値である。(28)〜(32)のパラメータは、指標項目Gと関連付けられている。(29)「接触時間の標準偏差」[秒]は、上記接触時間の標準偏差である。(30)「接触時間の変動係数」[−]は、上記接触時間の変動係数である。(31)「加速度のゼロ交差数」[−]は、指タップの1周期中に加速度の正負が変わる平均回数である。この値は理想的には2回となる。(32)「すくみ回数」[−]は、指タップの1周期中に加速度の正負が変わる往復回数から、大きな開閉の指タップの回数を減算した値である。
【0054】
特徴量[タップインターバル]について、以下の識別番号(33)〜(41)で示す特徴量パラメータを有する。(33)「タップ回数」[−]は、1回の計測の全計測時間中の指タップの回数である。(33)〜(35)のパラメータは、指標項目Aと関連付けられている。(34)「タップインターバル平均」[秒]は、距離の波形における前述のタップインターバル(
図7の(d))に関する平均値である。(35)「タップ周波数」[Hz]は、距離の波形をフーリエ変換した場合に、スペクトルが最大になる周波数である。(36)「タップインターバル標準偏差」[秒]は、タップインターバルに関する標準偏差である。(36)〜(40)のパラメータは、指標項目C及び指標項目Iと関連付けられている。
【0055】
(37)「タップインターバル変動係数」[−]は、タップインターバルに関する変動係数であり、標準偏差を平均値で正規化した値である。(38)「タップインターバル変動」[mm
2]は、タップインターバルをスペクトル分析した場合の、周波数が0。2〜2。0Hzの積算値である。(39)「タップインターバル分布の歪度」[−]は、タップインターバルの頻度分布における歪度であり、頻度分布が正規分布と比較して歪んでいる程度を表す。(40)「局所的なタップインターバルの標準偏差」[秒]は、隣り合う三箇所のタップインターバルに関する標準偏差である。(41)「タップインターバルの近似曲線の傾き(減衰率)」[−]は、タップインターバルを近似した曲線の傾きである。この傾きは、主に計測時間中の疲労によるタップインターバルの変化を表す。このパラメータは、指標項目Bと関連付けられている。
【0056】
特徴量[位相差]について、以下の識別番号(42)〜(45)で示す特徴量パラメータを有する。(42)「位相差の平均」[度]は、両手の波形における、位相差の平均値である。位相差は、右手の指タップの1周期を360度とした場合に、右手に対する左手の指タップのズレを角度として表した指標値である。ズレが無い場合を0度とする。(42)や(43)の値が大きいほど、両手のズレが大きく不安定であることを表している。(42)〜(45)のパラメータは、指標項目D及び指標項目Jと関連付けられている。(43)「位相差の標準偏差」[度]は、上記位相差に関する標準偏差である。(44)「両手の類似度」[−]は、左手と右手の波形に相互相関関数を適用した場合に、時間ずれが0の場合の相関を表す値である。(45)「両手の類似度が最大となる時間ずれ」[秒]は、(44)の相関が最大となる時間ずれを表す値である。
【0057】
特徴量[マーカー追従]について、以下の識別番号(46)〜(47)で示す特徴量パラメータを有する。(46)「マーカーからの遅延時間の平均」[秒]は、周期的なマーカーで示す時間に対する指タップの遅延時間に関する平均値である。マーカーは、視覚刺激、聴覚刺激、触覚刺激等の刺激と対応している。このパラメータ値は、二指の閉状態の時点を基準とする。(46)及び(47)のパラメータは、指標項目Eと関連付けられている。(47)「マーカーからの遅延時間の標準偏差」[秒]は、上記遅延時間に関する標準偏差である。
【0058】
[1−8.処理フロー]
図9は、実施の形態1のタスク実行順序決定システムにおける主に生成装置1および評価装置2により行われる処理全体のフローを示す。
図7は、ステップS1〜S8を有する。以下、ステップの順に説明する。
【0059】
(S1) 計測者は、評価装置2を操作する。端末装置4は、表示画面に初期画面を表示する。計測者は、初期画面で所望の操作項目を選択する。例えば、手指運動の評価を行うための操作項目が選択される。端末装置4は、その選択に対応する指示入力情報を生成装置1へ送信する。また、計測者は、初期画面で、性別や年齢等の被験者情報を入力して登録することもできる。その場合、端末装置4は、入力された被験者情報を生成装置1へ送信する。生成装置1の被験者情報管理部11は、その被験者情報を被験者情報41に登録する。
【0060】
(S2) 計測者は、入力機器404から、被験者の年齢・性別・これまでの診断情報などの個人情報を入力する。
【0061】
(S3) タスク実行順序決定部12は、手指運動タスクの実行順序を示したタスク実行順序データ44を読み出して、DB40に格納する。タスク実行順序データ44の決定方法は後述する。タスク実行順序データ44は評価精度データベース45から算出され,評価精度データベース45は被験者群タスクデータベース46から算出される。被験者群タスクデータベース46がアップデートされるごとに、評価精度データベース45,および,タスク実行順序データ44も更新される。
【0062】
(S4) タスク実行順序データ44から、被験者に計測させるタスクを選択する。選択するためには、S2で得た被験者の個人情報や、DB40に格納されている過去の手指運動タスクの評価結果を用いてもよい。このタスクの選択方法は後述する。
【0063】
(S5) 生成装置1のタスク実行順序決定部12は、S1の指示入力情報及びタスクデータ42Aに基づいて、被験者に対するタスクデータを端末装置4へ送信する。そのタスクデータは、手指運動に関する1種類以上のタスクの情報を含む。端末装置4は、受信したタスクデータに基づいて、表示画面に、手指運動のタスク情報を表示する。被験者は、表示画面のタスク情報に従って手指運動のタスクを行う。計測装置3は、そのタスクを計測し、タスク計測データとして、生成装置1へ送信する。生成装置1は、そのタスク計測データをタスク計測データ42Bに格納する。
【0064】
(S6) 生成装置1の解析評価部13は、S2のタスク計測データ42Bに基づいて、被験者の運動機能等の解析評価処理を行い、被験者の解析評価データ43を作成して、DB40に格納する。解析評価部13は、解析評価処理では、被験者のタスク計測データ42Bの波形信号に基づいて、特徴量を抽出する。特徴量は、後述する距離、速度等がある。解析評価部13は、特徴量に基づいて、運動機能等を表す指標項目の評価値を算出する。指標項目は、後述する運動量や持久性等がある。例えば、解析評価部13は、指標項目毎に、その指標項目に関連付けられる特徴量を総合する所定の計算により、評価値を算出する。この計算の方式については限定しない。
【0065】
なお、簡易的な評価方式としては、所定の特徴量をそのまま評価値として使用してもよい。また、解析評価部13は、抽出した特徴量を、被験者の年齢等の属性値に基づいて補正してもよい。そして、補正後の特徴量を評価に用いてもよい。
【0066】
(S7) 生成装置1の結果出力部16は、S3の解析評価結果データ43に基づいて、端末装置4の表示画面に、解析評価結果情報を出力する。計測者および被験者は、表示画面で、自身の運動機能等の状態を表す解析評価結果情報を確認できる。ステップS4を省略した形態としてもよい。結果表示方法については後述する。
【0067】
(S8) 計測者は、さらに多くの手指運動タスクを計測して高精度の評価結果を得たい場合には、端末装置4の表示画面で、評価を実行するための操作項目を選択する。端末装置4は、その選択に対応した指示入力情報を生成装置1へ送信する。ステップS5を省略して、自動的に次の手指運動タスクを計測する処理へ遷移させる形態としてもよい。S5で次の手指運動タスクを計測しない場合、フローを終了する。
【0068】
[1−9.タスク実行順序データの決定方法]
複数のタスクが予め与えられたときに、各タスクにおいて高精度に2群判別または重症度推定ができる重症度の範囲を求める。この処理には、各タスクにおいて、多数の被験者の計測データのデータベースが必要となる。
【0069】
<1−9−1.2群判別の場合>
タスクによって2群判別を行う場合を説明する。予め、片手フリーラン、片手メトロノーム、両手同時フリーラン、両手交互フリーランの4種類のタスクが与えられたとする。多数の被験者群を対象にして、各々のタスクを計測したデータベースを準備し,被験者群タスクデータベース46に格納する。また、同一の被験者群で、認知/運動機能の評価したスコアも予め求めておく。このスコアは、医師や作業療法士・理学療法士などの医療従事者が目視で評価したスコアでも良いし、他の検査機器で得られたスコアでも良い。このようなスコアを重症度スコアともいう。本実施例では、医師が認知機能を目視で評価して採点するミニメンタルステート検査(以下、MMSE)のスコアを用いる。
【0070】
MMSEのスコアは、0〜30点の範囲で整数値となる。目安として、MMSEが28点以上は健常、24〜27点は認知症と健常の間である軽度認知障害、23点未満は認知症に該当すると言われている。このようにして、被験者群タスクデータベース46には、各被験者に対応して、MMSEのスコアと、複数種のタスクから得られた計測結果や特徴量が格納される。
【0071】
MMSEの1点刻みで整数の各点を閾値Nとして、指タッピングデータを用いて、被験者群をN点未満とN点以上の2群に判別することを考える。すなわち、専門家によって与えられたMMSEのスコアをリファレンスとして、MMSEの閾値Nによって被験者群を2群に判別することができるが、この判別を、前述の指タッピングの特徴量pを用いて、自動的に精度よく行うことを考える。pとしては,前述の47個の中の一つの特徴量を選んで判別指標としても良いし、主成分分析や重回帰分析や判別分析などの統計的手法によって複数の特徴量から一つの判別指標を算出してもよい。本実施例では、ステップワイズ変数選択法による重回帰分析を用いて、複数の特徴量から一つの判別指標を算出する。この2群を判別する精度は、Area Under ROC Curve(AUC)で評価する。AUCは0〜1の値であり、1に近づくほど判別精度が高いことを表す。判別精度は、感度や特異度、正判別率など、AUC以外の指標で評価してもよい。
【0072】
図10A(a)と(b)に示すように,各タスクにおいて、1点刻みでMMSEの閾値を変えながら、N点未満とN点以上の2群を前述の判別指標(あるいは特徴量p)によって判別する。
図10A(a)と(b)は、ある一つのタスクについてのデータであって、横軸が特徴量であり、縦軸は特徴量に対するデータの頻度分布、例えば被験者のサンプル数である。
図10A(a)では,例として,MMSEの閾値N=27点として,MMSE27点未満の群と,MMSE27点以上の群を判別している。すなわち、
図10A(a)では,MMSE27点未満の群と、MMSE27点以上の群を別々の分布カーブとして概念的に示している。同じく、
図10A(b)では,例として,MMSEの閾値N=20点として,MMSE20点未満の群と,MMSE20点以上の群を判別している。
【0073】
このように,同じ特徴量であっても,閾値Nが異なると,2群の分かれ方が異なり,判別精度(AUC)が異なる可能性がある。2群が明確に分かれると判別精度は高くなり,2群が重なる部分が大きいと判別精度は低くなる。
図10A(a)では、判別精度AUCは0.9であり、
図10A(b)では、判別精度AUCは0.6である。これは、このタスクの特徴量pを用いると、被験者群をMMSE27で2群に分ける処理のほうが精度が高く、被験者群をMMSE20で2群に分ける処理のほうが精度が低いことを表す。
【0074】
図10Bにより、このように閾値N点を1点ずつずらしながら,判別精度AUCを算出して評価精度データベース45を作成する処理の一例について説明する。
【0075】
処理S101では、被験者群タスクデータベース46を参照する。
【0076】
処理S102では、被験者群タスクデータベース46に格納されている複数種類のタスクのデータうち、処理で参照すべきタスクのタスク番号(参照タスク番号)を0に設定する。この例では、被験者群タスクデータベース46には、タスクを特定するためのタスク番号(ID)が1以上の昇順の整数値で格納されているものとする。
【0077】
処理S103では、参照タスク番号を1加算する。
【0078】
処理S104では、参照タスク番号で特定されるタスクに関する、被験者のMMSEスコアと特徴量を抽出する。抽出したデータを用いると、
図10Aに示したような、あるタスクに関して、特徴量pに対する被験者の出現頻度分布を得ることができる。
【0079】
処理S105では、MMSEスコアの閾値を0に設定する。
【0080】
処理S106では、MMSEスコアの閾値を1加算する。
【0081】
処理S107では、当該タスクについて、処理S106で定められたMMSEスコアの閾値を用いて被験者の出現頻度分布を2群に分割する。そして、特徴量pの閾値を用いてその2群を判別した場合の判別精度AUCを算出する。この処理の概念については、
図10Aで説明したとおりである。なお、特徴量p(あるいは判別指標)の閾値については後述する。
【0082】
処理S108では、参照タスク番号(あるいはタスク名称またはID)とMMSEスコアの閾値とAUCの組のデータを評価精度データベース45に登録する。
【0083】
処理S109では、MMSEスコアの閾値が29かどうかを判定する。29未満であれば、処理S106へもどる。2分割の閾値として意味があるのは1〜29までの範囲であるから、MMSEスコアの閾値Nを1〜29点の範囲で1点刻みで変更し、各閾値における判別精度AUCを算出する。MMSEスコアの閾値が29であれば、当該タスクについては全ての閾値を適用済みのため、処理S110へ進む。
【0084】
処理S110では、全てのタスクについて処理が済んでいるかを確認する。済んでいなければ、処理S103へ戻り、次のタスクについての処理を行う。済んでいれば、評価精度データベース45の生成あるいは更新が完了し、処理は終了となる。
【0085】
以上の処理によって、評価精度データベース45には、各タスクにおいて、MMSEスコアの閾値と、それに対応するAUCのデータが格納されることになる。従って、このデータから、各タスクにおいて、AUCが最大となるMMSEスコアの閾値Nmaxを求めることができる。評価精度データベース45は被験者数が多いほど妥当な内容になることが期待されるので、被験者群タスクデータベース46の更新に伴って更新されることが望ましい。
【0086】
図10Cは、
図10Bの処理によって得られる評価精度データベース45の一部分であり、片手メトロノームの評価精度を示すデータである。評価精度データベース45には、このほかにも他のタスクについてのデータが格納されるが、構成は同様なので省略する。
【0087】
評価精度データベース45では、MMSEスコアの閾値Nに対して、その閾値Nで分割された2群を判別指標で判別するための判別指標の閾値Y
th1〜Y
th29が格納されている。閾値Y
th1〜Y
th29は
図10Aに示すように、判別指標(あるいは特徴量p)で2つの群を判別する場合の閾値を、一般的な手法により定めておくものとする。例えば、
図10A(c)に示すように、縦軸を感度(MMSEN点以上の群を正しく判別した割合)とし、横軸を1−特異度(MMSEN点未満の群を正しく判別した割合)として、Receiver Operatorating Characteristic 曲線(以下,ROC曲線)を描画し,左上の点(図中の白丸.理想的な判別精度)に最も直線距離が近い点(図中の黒丸)における閾値を選ぶ方法がある。また、2つの群の頻度分布が2つの山をもつヒストグラムで現れる場合、ヒストグラムの谷の底値を閾値として選ぶ方法がある。あるいは、頻度分布をある閾値で2つの群に分割したとき、群間分散が最も大きくなる値を閾値とする方法がある。
図10Aで示したように、MMSEの異なる閾値で分割した2群を判別するための判別指標の閾値Y
thは、MMSEの閾値に応じてY
tha、Y
thbのように異なる。従って、
図10Cの閾値Y
th1〜Y
th29も、MMSEの閾値1〜29に対応するものとする。
【0088】
また、評価精度データベース45には、MMSEの異なる閾値で判別した2群を評価指標の閾値で判別した場合の判別精度AUCが格納されている。
図10Cの例では、MMSEの閾値27の場合に判別精度AUCが最大になることがわかる。判別精度は,AUC以外の指標、例えば、感度や特異度などで評価しても良い。AUCでは,閾値をヒストグラムの最小値から最大値まで動かすことで、あらゆる閾値における判別精度を総合的に評価するため上述の閾値Y
th1〜Y
th29は不要となる一方で、感度や特異度では,上述の閾値Y
th1〜Y
th29を用いて判別精度を計算することとなる。
【0089】
図10Dは、評価精度データベース45に基づいて生成される、2群判別におけるタスク実行順序データ44Aの一例であり、各タスク名(あるいはタスクID等でもよい)に対応して、AUCが最大となる閾値Nmaxを示している。ここで示した閾値Nmaxは、各タスクにおいて最も精度高く2群判別ができるMMSEである。各タスクの種類は例えば名称やIDで識別することができる。
図10Dによると、片手メトロノームは、健常と軽度認知障害のボーダーラインである27点を境とした2群判別が得意であると分かる。そして、両手交互フリーランは、軽度認知障害と認知症のボーダーラインに近い22点を境とした2群判別が得意であると分かる。両手同時フリーランと片手フリーランは、17点と15点を境とした2群判別が得意であることから、非常に重症の認知症患者とより軽い認知症患者の判別が得意であると分かる。このように,各タスクにおいて,精度高く2群判別ができる重症度スコアを,最適重症度スコアと呼ぶ。本実施例では,最適重症度スコアは,各タスクの中で最も精度が高い重症度スコアを選んだが,予め決めた所定の判別精度よりも大きい判別精度が得られた重症度スコアを選んでも良い。
【0090】
以上より、
図10Dに示す通りに、2群判別において、重症患者で2群判別を得意とするタスクから、軽症患者/健常者で2群判別を得意とするタスクまで、順にタスクを並べることができた。このリストをタスク実行順序データ44Aに格納する。タスク実行順序データ44Aには、タスクから得られる特徴量から判別指標を得るための数式や処理方法を格納する。またこのとき、後述するように、新規の被験者に2群判別を適用するときのために、判別指標で2群判別するときの閾値Y
th1A〜Y
th4Aも記録しておく。この閾値は、MMSEの閾値に対応する判別指標の閾値であり、
図10Cと
図10Dの例では、片手メトロノームのNmax=27に対応する判別指標の閾値Y
th1A=Y
th27である。
【0091】
また、閾値の正負どちら側が重症であるか分かるように、重症方向の正負も記録しておく。例えば
図10A(a)(b)の例では、判別指標の閾値の負側が重症であるが、閾値の前後でMMSEの大小が反転する場合があるため、重症方向の正負を識別する必要がある。
【0092】
なお、本実施例では、各タスクで最もAUCが大きくなる閾値Nmaxの1点を示したが、他の方法で判別精度が高い重症度の範囲を指定しても良い。例えば、AUCが所定の値以上の場合を全て挙げる場合などが考えられる。また、Nを1点刻みでずらしながら判別精度を評価したが、2点刻み等、より大きな刻みで評価してもよい。
【0093】
<1−9−2.重症度推定の場合>
タスクによって重症度スコアの推定を行う場合を説明する。2群判別と同様に複数のタスクが与えられ、多数の被験者群を対象にした各タスクを計測したデータベースを準備し,被験者群タスクデータベース46に格納する。また、同一の被験者群で、認知/運動機能を評価したスコアも予め求めておく。
【0094】
MMSEの1点刻みで重症度範囲N〜N+1において、指タッピングデータより被験者群のMMSEの値を推定することを考える。このMMSEを推定するためには、前述の指タッピングの特徴量を用いる。2群判別と同様に、前述の47個の中の一つの特徴量を選んで回帰指標としても良いし、主成分分析や重回帰分析などの統計的手法によって複数の特徴量から一つの回帰指標を算出してもよい。この回帰指標とMMSEの関係を、線形回帰分析や他の最適化手法を用いて、直線または曲線にフィッティングする。このときフィッティングするデータは、N〜N+1点の範囲のデータではなく、全データを用いる。回帰精度を評価するときのみ、N〜N+1点の範囲を対象とする。
【0095】
図11Aは、横軸にMMSEをとり、縦軸にはあるタスクにおける回帰指標をとり、ひとつ(一人)のサンプルを一つの黒丸として示したものである。
図11Aに示すように,各タスクにおいて、MMSEの1点刻みで重症度範囲N〜N+1において、指タッピングデータより被験者群のMMSEの値を推定することを考える。この図では,MMSEの値N=20点の場合は、回帰直線あるいは回帰曲線110からの黒丸のバラツキが大きく推定の誤差が大きいが,MMSEの値N=27点の場合は推定の誤差が小さい。このように,同じ特徴量であっても,重症度範囲が異なると回帰精度が異なる可能性がある。
【0096】
このフィッティングの良し悪しを示す回帰精度を、平均二乗誤差で評価する。平均二乗誤差が小さいほど回帰精度が高いことを表す。回帰精度は、赤池情報量基準(AIC)、ベイズ情報量基準(BIC)など、平均二乗誤差以外の指標で評価してもよい。
【0097】
各タスクにおいて、1点刻みでMMSEの値を変えながら、N〜N+1点の範囲を前述の回帰指標によって推定し、そのときの回帰精度である平均二乗誤差を算出する。
【0098】
以上の処理により、被験者群タスクデータベース46から、評価精度データベース45を生成することができる。具体的な処理は、
図10Bで示した流れと同様であるが、重症度推定の場合には、処理S107が回帰精度である平均二乗誤差の算出処理に置き換わる。また、処理S108では、AUCの代わりに回帰精度を評価精度データベース45に登録する。
【0099】
図11Bは、各タスクにおいて、重症度スコア推定における平均二乗誤差が最小、つまり、回帰精度が最大となるNmaxを示した模式図である。ここで、各タスクにおいては、Nmax〜Nmax+1の範囲で最も精度高く重症度スコアの推定ができることになる。このように,各タスクにおいて,精度高く重症度スコアの推定ができる重症度スコアを,最適重症度スコアと呼ぶ。本実施例では,最適重症度スコアは,各タスクの中で最も精度が高い重症度スコアを選んだが,予め決めた所定の回帰精度よりも大きい回帰精度が得られた重症度スコアを選んでも良い。
【0100】
以上より、評価精度データベース45に基づいて、
図11Bに示すように、重症度推定において、重症患者で重症度推定を得意とするタスクから、軽症患者/健常者重症度推定を得意とするタスクまで、順にタスクを並べることができる。このリストをタスク実行順序データ44Bに格納する。本実施例では、N〜N+1点の範囲で回帰精度を評価したが、よりN〜N+2点など広い範囲で評価してもよい。また、Nを1点刻みでずらしながら回帰精度を評価したが、2点刻み等、より大きな刻みで評価してもよい。
図10Dと同様に、
図11Bのタスク実行順序データ44Bにも、タスクから得られる特徴量から回帰指標を得るための数式や処理方法を格納する。上記の処理においては、Nmaxの値を閾値としてNmax未満とNmax以上に判別する2群判別を行うこともできる。このため、2群判別の場合と同様に、判別閾値Y
th1B〜Y
th4Bを記録しておく。また、判別閾値Y
th1B〜Y
th4Bに対する重症方向の正負も記録しておく。
【0101】
[1−10.タスクの選択方法]
タスク実行順序データ44から、被験者に計測させるタスクを選択する方法を示す。タスク実行順序データとは、
図10Dおよび
図11Bのように、重症患者の評価を得意とするタスクから、軽症患者の評価を得意とするタスクを並べたリストのことである。
【0102】
[1−10−1.2群判別の場合]
図12のフローチャートを参照しながら、タスクを選択する方法を示す。
図12は、
図10Dのタスク実行順序データ44Aを用いた場合のタスクの選択方法を示している。
【0103】
まず処理S121で、全ての被験者に対して、最も重症患者の評価が得意なタスク(片手フリーラン)の計測を行う。ここで、この指タッピングの計測データの特徴量を算出し、評価精度データベース45に格納されたリストに記録された算出式に代入して、判別指標を算出する。
【0104】
当該被験者の判別指標が、評価精度データベース45に格納されたリストに記録された所定の閾値よりも大きいか小さいか確認する。判別指標が閾値よりも小さく重症方向が-1である場合、または、判別指標が閾値よりも大きく重症方向が1である場合は、本タスクでのスクリーニング検査によって重症患者であると判定されたことになる。よって、ここで検査は終了となる。一方で、判別指標が閾値よりも大きく重症方向が-1である場合、または、判別指標が閾値よりも小さく重症方向が1である場合は、本タスクでのスクリーニング検査はクリアしたことになる。よって、次のタスクに進む。
図10Dの例では、片手フリーランの重症方向は1なので、判別指標が閾値よりも大きい場合はMMSE15点未満の重症患者と判定され検査終了となり、判別指標が閾値より小さい場合MMSE15点以上として次のタスクに進む。
【0105】
処理S122の次のタスクとしては、中度の患者の評価が得意なタスク(両手同時フリーラン)の計測を行う。このタスクは、片手フリーランほどではないが、次に重症に近い患者の評価を得意とするタスクである。その後の評価は、片手フリーランと同様である。判別指標が閾値よりも小さく重症方向が-1である場合、または、判別指標が閾値よりも大きく重症方向が1である場合は、本タスクでのスクリーニング検査によって重症患者であると判定され、ここで判定は終了となる。一方で、判別指標が閾値よりも大きく重症方向が-1である場合、または、判別指標が閾値よりも小さく重症方向が1である場合は、本タスクでのスクリーニング検査はクリアしたことになる。よって、次の処理S123である両手交互フリーランに進む。
【0106】
このように、タスク実行順序データ44Aに記載されたタスクを処理S123、S124と順々に実行し、判別指標によって判定が終了するまで繰り返す。最後まで重症の側に判定されなかった場合は、健常群となる。
【0107】
[1−10−2.重症度推定の場合]
重症度推定の場合も、2群判別と同じように、重症患者は少ないタスクで判定が終了し、軽症患者や健常者はより多くのタスクで判定を行う。
【0108】
図13を参照しながら、基本的なタスクの選択方法を示す。
図13は、
図11Bのタスク実行順序データ44Bを用いた場合のタスクの選択方法を示している。まず、処理S131で、全ての被験者に対して、最も重症患者の評価が得意なタスク(片手フリーラン)の計測を行う。ここで、この指タッピングの計測データの特徴量を算出し、評価精度データベース45に格納されたリストに記録された算出式に代入して、回帰指標を算出する。
【0109】
当該被験者の回帰指標が、評価精度データベース45に格納されたリストに記録された所定の閾値よりも大きいか小さいか確認する。判別指標が閾値よりも小さく重症方向が-1である場合、または、判別指標が閾値よりも大きく重症方向が1である場合は、本タスクでのスクリーニング検査によって重症患者であると判定されたことになる。よって、ここで検査は終了となる。一方で、判別指標が閾値よりも大きく重症方向が-1である場合、または、判別指標が閾値よりも小さく重症方向が1である場合は、本タスクでのスクリーニング検査はクリアしたことになる。よって、処理S132以降のタスクに進む。
【0110】
このように、
図12の場合と同様に、タスク実行順序データ44Bに記載されたタスクを処理S132〜S134で順々に実行し、判別指標によって判定が終了するまで繰り返す。なお、重症度推定が2群判別と異なるのは、クラス分けを行ったにとどまらず、推定スコアまで算出できることである。
【0111】
[1−10−3.その他]
上述したのは、被験者の事前情報を使わないでタスクを選択する方法であるが、被験者の個人情報や過去の評価結果を使ってタスクを選択しても良い。
【0112】
例えば、事前に被験者の医師によって採点された重症度スコアがあった場合は、そのスコアに近い重症度の評価を得意とするタスクから始めてもよい。また、過去の手指運動タスクの評価結果がある場合も、そのスコアに近い重症度の評価を得意とするタスクから始めてもよい。このような場合は、そのタスクの出来が悪ければより重症向けのタスクに戻って計測し、出来が良ければより軽症向けのタスクを計測するというように、
図12や
図13のフローを進んだり戻ったりしながら適切なタスクを計測する。
【0113】
すなわち、例えば
図12で被験者の過去の重症度スコアがMMSE18だった場合、一番近い最適重症度スコアMMSE17をもつ両手同時フリーラン(S122)からタスクを開始する。両手同時フリーラン(S122)のタスクの結果、推定重症度スコアが両手同時フリーランの最適重症度スコアMMSE17より重症を示す場合には、より重症を示す最適重症度スコアをもつタスクである片手フリーラン(S121)を実行するか、あるいは、タスクを終了する。また逆に、両手同時フリーラン(S122)のタスクの結果、推定重症度スコアが両手同時フリーランの最適重症度スコアMMSE17より重症でないことを示す場合には、より重症でない最適重症度スコアをもつタスクである両手交互フリーラン(S123)を実行する。このようにして、被験者に最適な判定を行いうるタスクを順番に選別することができる。
【0114】
[1−11.画面表示]
[1−11−1.表示画面(1)−メニュー]
計測者が端末装置4を操作する際の表示画面について説明する。通常は、サービスの初期画面であるメニュー画面を最初に表示する。このメニュー画面では、被験者情報欄、操作メニュー欄、設定欄等を有する。
【0115】
被験者情報欄では、計測者により被験者情報を入力して登録可能である。なお、電子カルテ等に入力済みの被験者情報が存在する場合、その被験者情報と連携するようにしてもよい。入力可能な被験者情報の例として、被験者ID、氏名、生年月日または年齢、性別、利き手、疾患/症状、メモ等がある。利き手は、右手、左手、両手、不明、等から選択入力可能である。疾患/症状は、例えばリストボックスの選択肢から選択入力可能としてもよいし、任意のテキストで入力可能としてもよい。
【0116】
操作メニュー欄では、サービスが提供する機能の操作項目を表示する。操作項目は、「キャリブレーション」、「手指運動の計測(タスク)を行う」、「手指運動の練習を行う」、「評価結果をみる」、「終了する」等を有する。「キャリブレーション」の選択の場合、前述のキャリブレーション、即ち被験者の手指に対する運動センサ20等の調整に係わる処理が行われる。調整済みか否かの状態も表示される。「手指運動の計測(タスク)を行う」の選択の場合、被験者の運動機能等の状態を解析するためのタスク計測画面に遷移する。「手指運動の練習を行う」の選択の場合、タスク計測を省略して、練習画面に遷移する。「評価結果をみる」の選択の場合、既に解析評価結果がある場合にその評価結果画面に遷移する。「終了する」の選択の場合、本サービスを終了する。
【0117】
[1−11−2.表示画面(2)−タスク計測]
メニュー画面のあとには、例えば、タスク計測画面を示す。この画面では、タスク情報を表示する。例えば、左右の手それぞれについて、横軸に時間、縦軸に二指の距離をとったグラフを表示する。画面には、タスク内容を説明するための他の教示情報を出力してもよい。例えば、タスク内容を映像音声で説明するビデオの領域を設けてもよい。画面内には、「計測開始」、「計測やり直し」、「計測終了」、「保存(登録)」等の操作ボタンを有し、計測者が選択できる。計測者は、画面のタスク情報に従い、「計測開始」を選択して、タスクの運動を行う。計測装置3は、タスクの運動を計測して波形信号を得る。端末装置4は、計測中の波形信号に対応する計測波形をリアルタイムでグラフとして表示する。計測者は、運動後、「計測終了」を選択し、確定する場合には「保存(登録)」を選択する。計測装置3は、タスク計測データを生成装置1へ送信する。
【0118】
[1−11−3.表示画面(3)−評価タスク]
図14は、タスク実行中に、被験者に検査の進捗状況を示すために、実施済みの評価タスクを示す画面である。
【0119】
[1−11−4.表示画面(4)−評価結果]
図15は、他の例として、2群判別でタスクを選択した場合の評価結果画面を示す。この画面は被験者に評価結果を見せるための画面である。本画面では、タスクの解析評価結果情報が表示される。2群判別では、被験者は、各タスクで設定された閾値で区切られるグループに振り分けられるため、図に示すようにレベル別の表示となる。タスクの解析評価後、自動的に本画面が表示される。本例では、レベルI〜V別に棒グラフで表示する場合を示す。評価値は、レベル分けせずに、成績スコア(例えば100点満点)等の形式で、20点、40点、・・・等と換算して表示してもよい。評価値のグラフの他に、解析評価結果に関する評価コメント等を表示してもよい。解析評価部13はその評価コメントを作成する。例えば、「良好な結果です」「前回よりも良くなりました」等のメッセージが表示される。画面内に、「過去の結果を重ね書きする」、「終了する」等の操作ボタンを有する。生成装置1は、「終了する」が選択された場合、初期画面へ遷移させる。
【0120】
図16は、重症度スコア推定でタスクを選択した場合の評価結果画面を示す。この画面は被験者に評価結果を見せるための画面である。重症度推定では、被験者は、重症度の推定スコアも算出されるため、評価結果はMMSEと同じスケール上に表示となる。
【0121】
図17は、医療従事者や介護者などの計測者が、タスク計測の進捗状況や評価結果を確認する画面である。タスクの実施/未実施や、これまでに計測したタスクの評価結果などを示す。タスク実行順序は自動的に生成されるが、計測時間の短縮が必要な場合などは、計測者が「終了する」ボタンを押すことで強制的に終了することもできる。その場合は、それまでに計測したタスクのみを使って評価結果を示す。
【0122】
なお、本実施形態では、計測者が画面操作を行い、被験者の手指運動を計測したが、計測者と被験者が同一人物でも良い。その場合は本検査によって認知/運動機能をセルフチェックできることとなる。
【0123】
[1−12.効果等]
上記のように、実施の形態1のタスク実行順序決定システムによれば、人の認知機能や運動機能を評価するための複数の手指運動タスクの好適な実行順序を決定及び提示することで、 被験者の計測の負荷低減、かつ、評価結果の精度改善の両方を実現できる。具体的には、重症と初めから判別された被験者は、1つのタスクしか計測しないで済み、計測の負担が小さくなる。また、軽症か健常か評価が難しい被験者は、複数のタスク計測によって情報量が多くなり、正確性の高い検査が可能になる。