特許第6592766号(P6592766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川研ファインケミカル株式会社の特許一覧

特許6592766グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラー、その製造方法、電子材料、樹脂複合体、及び疎水化処理方法
<>
  • 特許6592766-グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラー、その製造方法、電子材料、樹脂複合体、及び疎水化処理方法 図000002
  • 特許6592766-グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラー、その製造方法、電子材料、樹脂複合体、及び疎水化処理方法 図000003
  • 特許6592766-グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラー、その製造方法、電子材料、樹脂複合体、及び疎水化処理方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6592766
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラー、その製造方法、電子材料、樹脂複合体、及び疎水化処理方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20191010BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20191010BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   C01B21/072 R
   C08L101/00
   C08K9/02
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-152856(P2015-152856)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-31005(P2017-31005A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】390003001
【氏名又は名称】川研ファインケミカル株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100087594
【弁理士】
【氏名又は名称】福村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直行
(72)【発明者】
【氏名】松井 将人
(72)【発明者】
【氏名】北村 一人
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−250281(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/102318(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0130011(US,A1)
【文献】 特開2014−043357(JP,A)
【文献】 特開2012−162442(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0243969(US,A1)
【文献】 特表2017−505751(JP,A)
【文献】 特開2012−206865(JP,A)
【文献】 特開2003−272453(JP,A)
【文献】 特開2005−146214(JP,A)
【文献】 特表2016−538236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B15/00−23/00
C01B32/00−32/991
C23C16/00−16/56
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム粒子と、その表面に2層以上10層未満であり、ラマンスペクトル測定において、Gバンド(1600cm−1)とDバンド(1350cm−1)とのG/D比が0.1〜0.8である連続したグラフェン被膜とをもつことを特徴とする電磁波シールド用のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラー。
【請求項2】
電磁波シールド用のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーを製造する方法であって、
化学気相成長法により炭化水素共存下、内部が500〜900℃に加熱された反応容器内で窒化アルミニウム粒子表面に、バインダー及び、又は触媒を用いることなく、2層以上10層未満であり、ラマンスペクトル測定において、Gバンド(1600cm−1)とDバンド(1350cm−1)とのG/D比が0.1〜0.8である連続したグラフェンを形成することを特徴とするグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラー、その製造方法、電子材料、樹脂複合体、及び疎水化処理方法に関し、さらに詳しくは、窒化アルミニウムの表面に、2層以上10層未満の連続であり、ラマンスペクトル測定において、Gバンド(1600cm−1)とDバンド(1350cm−1)とのG/D比が0.1〜10であるグラフェンを、被覆してなるグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラー、このグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの製造方法、このグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーを分散してなることにより優れた電磁波遮断性、熱伝導性及電気伝導性を有する電子材料及び樹脂複合体、並びに窒化アルミニウムフィラー表面を疎水化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、窒化アルミニウムは熱伝導性、耐腐食性、電気絶縁性、機械的な強度に優れたエンジニアリングセラミックスとして広く用いられている。特にその高い熱伝導性と絶縁性から、電子材料分野では放熱フィラーとして樹脂、オイル等との複合体としてヒートシンク等に用いられている。また、半導体製造においては、窒化アルミニウムの焼結体が耐熱性、耐腐食性、高い熱伝導率を要求されるプラズマエッチング装置やプラズマCVD装置の部材として用いられている。これ以外にも、樹脂との複合体は金属の置き換え又は軽量化を目的とした放熱樹脂として多方面で用いられている。
【0003】
一方で、窒化アルミニウムは絶縁性であるため電子材料用途では静電気の帯電により機能の損失が発生する場合が有り、一部の用途においては用いることが困難なケースも有る。
【0004】
また、窒化アルミニウムの粉末は、加水分解により水酸化アルミニウムに分解する過程で毒性の高いアンモニアを発生することから、周辺機器の腐食や健康被害の問題が有る。
【0005】
窒化アルミニウムの絶縁性を解消することを目的に、窒化アルミニウム粉末に炭素繊維を添加した後に焼結することにより、炭素繊維由来の導電経路により電気伝導性が制御された窒化アルミニウム複合体が提案されている。
【0006】
しかし、粒子である窒化アルミニウムと炭素繊維の混合物では、複合体内部で、炭素繊維の形状を長く延伸した状態に制御することが困難であり、特に炭素繊維として繊維長が長いカーボンナノチューブを用いる場合に混合粉砕を行うとカーボンナノチューブが切断し、又は、カーボンナノチューブ自体が解れずに塊状に絡まってしまうことがあり、十分にカーボンナノチューブの性能を発揮させることが難しい。焼結を行うことなく導電性のフィラーとして用いる窒化アルミニウムと炭素繊維とを配合した複合体でも前記と同様の性能を発揮するためには、なお多数の課題を解決する必要が有る。また、前記複合体を製造する場合には、炭素繊維を窒化アルミニウムとは別に準備する工程、混合粉砕を行う工程を必要とするので、安価に複合体の提供を行うには多数の課題を解決する必要が有る(引用文献1)。
【0007】
窒化アルミニウムとグラフェンとの複合体を得る試みとしては、窒化アルミニウム基板上にニッケルや鉄等の触媒金属を介在させてから金属酸化物の層を積層し、次いで化学気相成長法により金属酸化物層上にグラフェンを生成させる手法が提案されている。
【0008】
しかし、この手法では基板上の目的とする場所に選択的に高品位のグラフェン被膜を形成することは可能であるが、窒化アルミニウム上に触媒層及び金属酸化物層を固定化する工程を必要とするのでこの手法は非常に高価である。また、この手法を採用して得られるであろうグラフェン被覆窒化アルミニウムを樹脂のフィラー等の安価な用途に用いるには、解決するべき多数の課題が有る。
【0009】
また、前記手法には、不定形な窒化アルミニウム粒子表面に連続したグラフェンを形成するには多数の課題を解決する必要が有る(引用文献2)。
【0010】
実験的にグラフェンを得る手法としては、グラフェンの積層構造を持つグラファイトをハンマー酸化により酸化処理し超音波を照射することにより水に分散可能な酸化グラフェン薄膜分散液を得、これを還元処理することにより対象物の表面にグラフェン薄膜を転写する手法が提案されている。しかし、この手法では多数の工程と時間を要することから工業的に実施するには、なお多数の課題を解決する必要が有る(非特許文献1)。
【0011】
窒化アルミニウムと炭素材料とを併用する工業的な試みとしては、グラファイトを原料にして製造され、表面を親水化処理した親水性グラフェン又は親水性カーボンナノチューブを適宜の溶媒中に分散してなる分散液に適宜の塗料乃至顔料と窒化アルミニウムとを混合することにより高効率放熱性塗料組成物を提供する手法が提案されている。
【0012】
しかし、この手法では配合されているグラフェンの形状及び分散状態が前記高効率放熱性塗料組成物内で十分に制御されておらず、しかも窒化アルミニウム粒子の表面をグラフェンで覆う特段の処理を行っているわけではないので、グラフェンが窒化アルミニウムの表面を部分的にしか被覆しておらず、したがってグラフェンとしての性能を発揮するには多量のグラフェンの添加を必要とし、窒化アルミニウムの表面を断片状に被覆するグラフェン間を他の導電性を有する素材で接合するだけではなく、別途グラフェンの親水化処理を必要とするので、安価に前記高効率放熱性塗料組成物を提供するには多数の課題を解決する必要が有る(引用文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−41765号公報
【特許文献2】WO2011/021715号公報
【特許文献3】特表2013−538259号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】H. C. Schniepp et al., J. Phys. Chem. B 110 (2006) 8535.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、各種の複合材料にフィラーとして好適に使用され、窒化アルミニウムの優れた熱伝導性を損なうことなく、優れた電気伝導性、水に対する耐久性を有するとともに有機溶媒及び複合材における分散媒に対する優れた分散安定性を有するグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラー、その製造方法、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーを分散してなる電子材料及び樹脂複合体、並びに窒化アルミニウムフィラーの表面疎水化処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するため手段は、
(1)窒化アルミニウムと、その表面に2層以上10層未満であり、ラマンスペクトル測定において、Gバンド(1600cm−1)とDバンド(1350cm−1)とのG/D比が0.1〜10である連続したグラフェン被膜とをもつことを特徴とするグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーであり、
(2)化学気相成長法により炭化水素共存下、内部が500〜1200℃に加熱された反応容器内で窒化アルミニウム表面に、バインダー及び、又は触媒を用いることなく、連続したグラフェンを形成することを特徴とする前記(1)に記載のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの製造方法であり、
(3)前記反応容器がグラフェン形成時に回転可能であることを特徴とする前記(2)に記載のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの製造方法であり、
(4)前記(1)に記載のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーを含有し、そのグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの配合率が0.5〜95質量%であることを特徴とする電子材料であり、
(5)前記(1)に記載のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーと合成樹脂とを含有し、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーと合成樹脂との合計質量に対しそのグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの配合率が0.5〜95質量%であることを特徴とする樹脂複合体であり、
(6)化学気相成長法により500〜1200℃に加熱しながら窒化アルミニウム表面を、バインダー及び、又は触媒を用いることなく、2層以上10層未満の連続したグラフェンで、被覆することを特徴とする窒化アルミニウムフィラーの表面疎水化処理方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは、窒化アルミニウム表面に2層以上10層未満のグラフェンを積層してなり、しかもその各層を形成するグラフェンがラマンスペクトル測定において、Gバンド(1600cm−1)とDバンド(1350cm−1)とのG/D比が0.1〜10である。グラフェン層が2層以上10層未満の積層状態であることにより、本発明のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは、窒化アルミニウムの優れた熱伝導性を損なうことなく、従来の窒化アルミニウムフィラーには無い機能性フィラーとして用いることが出来る。また、ラマンスペクトル測定において、Gバンド(1600cm−1)とDバンド(1350cm−1)とのG/D比が0.1〜10の範囲内にあるように、G/D比が低いことはグラフェンの結晶性が低いことを示し、被覆したグラフェンの結晶性が低いことにより合成樹脂、グリスや溶媒との濡れ性に優れるので、本発明のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの配合率を高くした複合体を製造することが出来る。
【0018】
本発明のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは、化学気相成長法により炭化水素の共存下に、500〜1200℃で窒化アルミニウム表面に、バインダー及び、又は触媒を用いることなく、連続したグラフェンを形成する。バインダー及び、又は触媒を用いないことにより、製造工程を簡略化することで安価に製造が可能になり、化学気相成長法により窒化アルミニウム粒子の表面が連続したグラフェンで被覆されていることにより、グラフェンの形状が窒化アルミニウム粒子表面の形状に固定化され他の原料との複合体を形成した際にグラフェン自体の形状変化が起きず、2層以上10層未満のグラフェン被覆量であっても高い導電性を示すことが出来る。また、別の観点からすると、単層のグラフェンのみを粒子上に形成することは多数の工程を要し、簡便に提供することが難しいと言った不都合を生じ、また、グラフェンの層が10層以上であると、熱伝導性の低下といった不都合を生じて本発明の目的を達成することができない。
【0019】
グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは、グラフェン形成時に回転可能な反応容器を有する反応装置、例えばロータリーキルン等の回転式連続反応装置を用いて化学気相成長反応を行うことで製造することが出来る。ロータリーキルン等の回転式反応装置で反応を行うことにより、窒化アルミニウムが反応雰囲気内で効率的に撹拌されグラフェン被覆の均一性が向上し、連続的に反応を行うことにより装置の加熱に要するエネルギーを無駄に消費する必要が無くなり、安価に大量生産が可能になる。
【0020】
本発明の電子材料及び樹脂複合体は、0.5〜95質量%の配合割合でグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーを含有し、しかも、窒化アルミニウムの表面がグラフェンで被覆されていることにより、電磁波遮断、熱伝導性及び、電気伝導性電子材料として用いることが出来、従来の窒化アルミニウムを含有する複合体では得ることのできない、電子材料としての新たな機能を発揮することが出来る。
【0021】
本発明の表面疎水化処理方法によると、化学気相成長法により500〜1200℃で窒化アルミニウム表面を、バインダー及び、又は触媒を用いることなく、2層以上10層未満の連続したグラフェンで被覆することにより、窒化アルミニウムの表面を疎水性とすることが出来る。窒化アルミニウムの表面を連続したグラフェンで被覆して疎水性とすることにより、窒化アルミニウムの熱伝導性を損なうことなく水による加水分解を抑制することが出来、バインダー及び、又は触媒を用いないことにより製造工程を簡略化することで安価に製造を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は実施例1のTEM画像である。
図2図2は実施例1のラマン分光測定によるスペクトル図である。
図3図3は実施例1の電磁波吸収曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーに用いられる窒化アルミニウムは、形状に制限は無く粒子状、板状、繊維状、その他のいずれの形状でも用いることが出来、粒子の大きさについても同様に制限は無く、nmサイズの粒子から公知の手法にて焼結を行った焼結体まで目的に応じて用いることが出来る。また、窒化アルミニウムは、本発明の目的を阻害することのない範囲で、異種金属及び/又は金属酸化物を不純物としてあらかじめ含有していてもよく、また高純度の窒化アルミニウムと異種金属及び/又は金属酸化物とともに用いることもできる。
【0024】
単独で特定の形状を持つグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーを必要性とする場合には、あらかじめ窒化アルミニウム粒子を所望の形状に公知の手法により成形した後にグラフェン被覆を行うことが好ましい。窒化アルミニウムの表面にグラフェンを被覆してから得られるグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーを焼結すると、グラフェンが剥離することがあり、また、高温の酸化性雰囲気で焼結するとグラフェンが焼失してしまうことがあるからである。
【0025】
一方で、グラフェン被覆窒化アルミニウムと他の材料との複合体においては上記の制限は無く、樹脂複合体においては、一種又は複数種の樹脂とグラフェン被覆窒化アルミニウムとを混合した後にその樹脂複合体を所望の形状に公知の手法で成形することが出来、ペースト状又はグリス状の複合体においても同様に、一種又は複数種の樹脂とグラフェン被覆窒化アルミニウムとを混合した後に、得られる樹脂複合体を所望の形状に成形することが出来る。
【0026】
本発明に係るグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは、前記窒化アルミニウムの表面に連続したグラフェンを有する。連続したグラフェンとは、別途合成を行った複数の断片状のグラフェン同士が化学的に結合することなく粒子上に積層や接触により存在している状態では無く、化学気相成長法により粒子の表面に形成され、炭素原子同士が共有結合している状態の1層のグラフェンにより覆われている状態をさし、炭素原子同士が共有結合により接合されていれば1層のグラフェンに穴や結晶化度の違いによる段差が有ってもよく、グラフェンを平面に展開した形状は特に限定されない。グラフェンは、窒化アルミニウムの表面の一部にのみ存在してもよいし表面全体に存在してもよいが、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーが導電性、耐水性、耐久性及び電磁波吸収性能の要求される用途に用いられるときには、2層以上10層未満の層数で積層されたグラフェン積層体が、その全体として窒化アルミニウムの表面全体に途切れることなく連続して存在していることが好ましい。グラフェンが「連続して存在する」ことは、窒化アルミニウムフィラーの長軸方向における一端から他端までの外表面にグラフェンの導電路が形成されることを意味する。
【0027】
窒化アルミニウムの表面全体が連続したグラフェンの積層体で覆われていることにより、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラー同士の接触点すべてが導電点となり導電性及び電磁波遮断能が向上すると共に、窒化アルミニウムが外部に露出していないことにより水への耐久性が向上する。前記窒化アルミニウムの全表面がグラフェンで覆われていない場合、使用条件によっては露出している窒化アルミニウム部位が水、酸、又はアルカリにより浸食され、加水分解反応によりアンモニアの発生と共にグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの形状の維持が困難になる場合があり、耐水性や耐久性を求められる用途においては、前記窒化アルミニウムの一部分のみがグラフェンで被覆されているのは好ましくない。
【0028】
グラフェンは、炭素原子が共有結合することにより六角格子構造を形成し、窒化アルミニウム粒子の表面を被覆するようにこの六角格子構造が窒化アルミニウムの表面に広がっている。窒化アルミニウムの粒子形状が球形、楕円体形、繊維形状、あるいはそれらとは異なる異形であっても、グラフェンは、窒化アルミニウム粒子の表面を被覆していればよい。
【0029】
グラフェン層における炭素原子は、通常六角格子構造を構成し、この六角格子構造が多数連なって平面網状の構造体を形成する。本発明のグラフェン被覆窒化アルミニウムにおけるグラフェンは、全ての炭素原子が六角格子構造を構成しておらず、グラフェンの構造に欠陥があってもよい。例えば、グラフェンの一部において、六角格子構造から炭素原子が抜け落ちて五角形等の格子構造が形成されていてもよいし、又は六角格子構造に余分な炭素原子が結合した七角形等の格子構造が含まれていてもよい。このような六角格子構造における欠陥部は、高い反応活性を有する。例えば、六角格子構造の欠陥部には、炭素原子に各種の官能基が結合しやすくなり、この官能基の有する性質によってグラフェン自体の反応活性が高まることがある。また、六角格子構造の欠陥部には、陽イオンが担持されることにより反応活性が高まることもある。グラフェンの六角格子構造に欠陥部が存在することは、グラフェンをラマン分光法によって測定し、六角格子構造に欠陥を有するグラフェンに由来する1350cm−1前後の波長におけるピークが観察されることによって、確認される。
【0030】
前記窒化アルミニウムの粒子の表面におけるグラフェンは、2層以上10層未満の層構造を有することが好ましい。平均層数が1層であるグラフェンを選択的に製造することは困難であり、平均層数が10層を超える層数となるとグラフェンとしての性能が発揮されない場合が有るので好ましくない。窒化アルミニウムの粒子の表面にグラフェン層が形成されていることは、透過型電子顕微鏡(「TEM」と称されることがある。)を用いて、粒子の表面を100万倍以上に拡大することにより観察することが出来る。前記TEMの具体例として、例えば、日本電子株式会社製のJEM-2010EXを使用することができる。具体的には、グラフェンに被覆される前の窒化アルミニウムを観察したTEM画像では、窒化アルミニウムの表面に特に何も観察されないが、グラフェンに被覆された後のTEM画像では、窒化アルミニウムの表面に数nm程度の厚みで複数層のグラフェンが形成されていることを直接観察することが出来る。
【0031】
窒化アルミニウムの表面に形成されたグラフェンの層数比率、及び不完全なグラフェンの比率等は、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーについてラマンスペクトル測定を行った際の測定結果より判定される。前記ラマンスペクトル測定に用いられる装置として、例えば、日本分光株式会社製のレーザーラマン分光装置「NRS−3300」を用いることができる。グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーのラマンスペクトル測定結果において、500〜1000cm−1の波長におけるピークが単層のグラフェンに由来し、1350cm−1前後の波長におけるピーク(「Dバンド」と称されることがある。)が六角格子構造に欠陥のあるグラフェンに由来し、1600cm−1前後の波長におけるピーク(「Gバンド」と称されることがある。)が完全な六角格子構造を有する欠陥のないグラフェンに由来し、2700cm−1前後の波長におけるピーク(「G’バンド」と称されることがある。)が10層以上のグラフェンに由来する。前記GバンドとDバンドのピーク強度の合計値によって、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーにおいて存在する全てのグラフェンの相対量が算出される。Gバンドのピーク値とDバンドのピーク値の合計値、500〜1000cm−1の波長におけるピーク値、及びG’バンドのピーク値を用いて比較することにより、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーにおけるグラフェンの層数の比率を概算することができる。具体的には、Gバンドのピーク値とDバンドのピーク値との合計に対して、G’バンド(2700cm−1)のピーク値が1割未満であると、2層以上10層未満のグラフェン層が主に形成されていると判断することができる。つまり、以下の式により計算される値が90%以上であると2層以上10層未満のグラフェン層が形成されていると判断することができる。
【0032】
[(G+D)/(G+G’+D+単)]×100≧90
ただし、GはGバンドの面積、DはDバンドの面積、G’は G’バンドの面積、「単」は単層のグラフェンに由来するピークの面積を示す。
【0033】
グラフェン層におけるG/D比は、前記ラマンスペクトル測定において、グラフェンにおける欠陥部分に由来するDバンドのピーク値に対する、欠陥のないグラフェンに由来するGバンドのピーク値の割合を計算することによって算出される。窒化アルミニウムの粒子表面における凹凸が多い場合にはG/D比が小さくなり、凹凸が少ない場合にはG/D比が大きくなる傾向がある。これは、グラフェンが窒化アルミニウムの粒子表面を被覆する際に、グラフェン層が粒子表面における凹凸部や粒子表面の端部で鋭角に曲がり、この鋭角に曲がった部分においてグラフェンの六角格子構造が不完全となることに由来すると考えられる。グラフェン層におけるG/D比は、0.1〜10が好ましく、0.1〜5がさらに好ましい。G/D比が0.1未満では、グラフェンとしての性能を示さない場合が有り、10を超えると樹脂等との濡れ性が低下する場合が有り好ましくない。
【0034】
グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは、優れた導電性を有する。導電性の測定は、テスター等を用いてグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの電気抵抗値を測定することにより評価することができる。具体的には、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーからなる固形の集合物にテスターの端子を接触させることにより、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの電気抵抗値が測定される。例えば、窒化アルミニウムは1014Ω以上の電気抵抗値を有する絶縁体であるのに対し、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは200Ω〜300KΩ程度にまで電気抵抗値が大きく低下しており、導電性を有することが確認される。
【0035】
本発明のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーが優れた導電性を有することは、LCRメータを用いた導電率の測定によっても確認される。不導体である窒化アルミニウムは、チャージアップによって周波数の上昇に応じて導電率が上昇していくのに対して、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは電気抵抗が低下したことによって、100〜100000Hz間の周波数に関係なく10Ω・m以下の値の低い体積抵抗率を示す。
【0036】
本発明のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは電磁波シールド効果を有している。したがって、本発明のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーを合成樹脂に配合すると得られる樹脂複合体は電磁波シールド効果を発揮する。具体的には、グラフェン被覆窒化アルミニウム80〜95質量部とポリフッ化ビニリデン(PVDFとも称することがある。)5〜20質量部とからなる樹脂複合体を厚さ1mmとして1MHzの電磁波遮断能を測定すると、20dB以上の遮断能を示す。20dB以上の遮断能は、電磁波を90%以上遮断していることを示し、一般にコンピュータ等の誤作動を防止するために求められる水準を満たすことが出来る。測定用の樹脂複合体を形成するためのPVDFとしては、一般に販売されている製品を用いることが出来、例えば、Shanghai 3F New Material Co.,LTD.製の製品(商品名 PVDF FR905)を用いることが出来る。
【0037】
電磁波シールド効果を前記KEC法により確認するには、一般社団法人KEC関西電子工業振興センターにおける試験方法に準じ、例えばテクノサイエンスジャパン製のTSES−KECを測定機器として用いることができる。
【0038】
グラフェンを形成させる際の反応温度が高くなるにつれて、形成されるグラフェンの結晶化度が上昇し、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの複合体は高周波数側で最大シールド率を示すようになる。
【0039】
グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは、グラフェンの高い熱伝導性によりグラフェン被覆前の窒化アルミニウムに対して50%以上の熱伝導率を示す。熱伝導率が50%以上であることによって、窒化アルミニウムの高い熱伝導特性を阻害することなく放熱フィラーとして用いることが出来るが、50%未満であると熱伝導が阻害され放熱フィラーとして用いることが出来ない場合が有る。
【0040】
グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーがグラフェン被覆前の窒化アルミに対して50%以上の熱伝導率を示すことは、ホットディスク法にてグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーと被覆前の窒化アルミニウムとのそれぞれの熱伝導率を測定し、比較することで確認することが出来る。前記ホットディスク法の具体例として、例えば、京都電子工業株式会社製の熱物性測定装置(熱物性測定装置 TPS2500S)を使用することが出来る。
【0041】
本発明に係るグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの原料となる、前記窒化アルミニウム粉末は、加水分解により水酸化アルミニウムとアンモニアとを発生させるが、化学気相成長法によって窒化アルミニウムの表面を連続したグラフェンで被覆することによって、窒化アルミニウムの表面が疎水化され、これによって加水分解が抑制される。グラフェン被覆により耐水性が向上したことは、水に加えると原料の窒化アルミニウムは速やかに加水分解により水酸化アルミニウムとなり白色沈殿を生じるが、グラフェン被覆後は1日経過後でも加水分解を受けずに白色沈殿が生じないことにより確認できる。
【0042】
本発明のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは、表面がグラフェンで被覆されることにより、窒化アルミニウムフィラーとほぼ同じ形状であり、色調は被覆前の窒化アルミニウムに比べて灰色〜黒色である。
【0043】
この発明の方法によると、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは、窒化アルミニウムの表面に、500〜1200℃で化学気相成長法により、グラフェンを被覆させることにより得られる。化学気相成長法の具体例について、以下に説明する。
【0044】
代表的な化学気相成長法では、石英管等の反応容器にセラミックボートに乗せた窒化アルミニウムを入れ、この反応容器を加熱炉中に配置し、加熱炉内が所定の反応温度となるように加熱炉内を加熱し、各種炭化水素ガスを窒化アルミニウムに接触させることによって窒化アルミニウムの表面にグラフェンを形成することができる。前記反応温度は、500℃以上1200℃未満であり、特に750℃以上1100℃未満が好ましい。反応温度が500℃未満ではグラフェンの生成速度が遅く実用には難が有り、1200℃以上では炭化水素がグラフェン生成以外の反応に消費されてしまい製造効率が著しく低下するため好ましくない。反応温度が前記数値範囲内にあることによって、原料である窒化アルミニウムの粒子の形状を維持したまま、粒子表面にグラフェンを形成させることができる。これにより、球状の窒化アルミニウムの粒子から球状のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーが得られ、多孔質体の窒化アルミニウムの粒子から多孔質体のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーが得られ、繊維状の窒化アルミニウムの粒子から繊維状のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーが得られ、球状、多孔質体、及び繊維状以外の異形の形状をした窒化アルミニウムからその窒化アルミニウムの表面にグラフェンが連続的に形成されてなるグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーが得られる。
【0045】
化学気相成長法において用いられる前記炭化水素ガスは、非加熱状態において炭化水素を有するガスのみならず、加熱炉を加熱した際の反応温度における熱分解により炭素を発生させることのできるガスであってもよく、その種類は特に制限されない。炭化水素ガスの具体例として、メタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブテン、ブタジエン、エチレン、シクロペンタン、シクロヘキサン、エチレン、プロピレン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、ナフタレン、及びアントラセン等の炭化水素、メタノール、エタノール、及びプロパノール等のアルコール類、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒド等のアルデヒド類、並びにアセトン等のケトン類等を含有するガスが挙げられる。炭化水素ガスには、これらのうち2種類以上の物質が含まれていてもよい。炭化水素ガスとしては、市販されている揮発油及び灯油等を使用することもでき、安価で入手性に優れていることから、特に、メタンガス、プロパンガス、及び天然ガスを使用することが好ましい。炭化水素ガスには、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、及び窒素よりなる群から選ばれる少なくとも1種又は複数の不活性ガスが含まれていてもよい。炭化水素ガスにおける不活性ガスの含有率が増加するにつれて反応時間が長くなるので、不活性ガスを用いる際には反応時間が長くなりすぎない程度に不活性ガスの含有率を調節することが望ましい。炭化水素ガスとしてアセチレンを含むガスを用いることにより、500℃以上の反応温度によってもグラフェン被覆を行うことが出来る。
【0046】
反応の圧力は、減圧から加圧条件まで選択することが出来るが、特段の理由のない限り常圧から微加圧条件、例えばゲージ圧で0〜10KPaで反応を行うことが、装置に特別な強度を要する構造を必要とせず経済的な優位性から好ましい。
【0047】
化学気相成長法における反応時間は、炭化水素ガスの濃度、流速、原料の大きさにもよるが、100gの窒化アルミニウム粉末を反応原料として用いる場合、750〜1100℃、常圧の条件下においてメタンガスのみを100〜1000sccmの条件で流通させることにより、概ね15分〜2時間程度の反応時間によって、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーが得られる。
【0048】
一般論として言うと、炭化水素ガスの濃度は、常温常圧下において、反応容器内に供給される全ガスの容積に対する炭化水素ガスの容積の割合として通常50〜100容積%、好ましくは80〜100容積%であり、流速としては原料100gあたり10〜10000sccmであり、好ましくは100〜1000sccmである。
【0049】
反応時間を4時間程度まで増加させても、形成されるグラフェンは、ラマンスペクトル測定において10層以上のグラフェンのピークが著しく増大しないことがあり、反応時間を2時間よりも多く設けることによる有利な効果は小さい。
【0050】
反応装置にロータリーキルン等の、原料を撹拌しながら連続して化学気相成長反応を行うことが可能な装置を用いる場合には、同量の原料を静置した状態でバッチ式で反応を行う場合に比べて、撹拌により熱交換効率が向上して粒子全体が均一に加熱されること及び、粒子表面の炭化水素ガスとの交換頻度が向上することにより、バッチ式に比べて短時間の反応時間で均一の品質のグラフェン被覆窒化アルミニウムが得られる。また、連続的に原料の供給及び製品の取出が可能なことから、バッチごとに加熱、冷却を行う操作が不要となり、工業的に多量の製造を行う場合には特に好適に使用することが出来る。ここで、ロータリーキルン等に代表される反応装置は、前記反応容器内でグラフェンを形成するときにその反応容器がその軸線を中心にして回転可能に形成されている反応装置であり、その反応容器はその中心軸線が水平に配置されていてもよく、また、その中心軸線が傾斜するように配置されていてもよい。
【0051】
次に、本発明に係るグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの用途について説明する。
【0052】
グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは、溶剤、油脂やシリコーンに代表されるグリス等に公知の手法を用いて配合することにより発熱部位と放熱部品間の熱伝導を仲介する熱伝導性電子材料及び、又は導電性を要する熱伝導性電子材料として好適に用いることが出来、特に発熱部位と放熱部材との間に介在する放熱フィラーとして好適に用いることが出来る。グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーとグリス等との複合体を形成する場合、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーのみを前記グリス等に添加しても良いし、更なる性能の付与の為に複合体を形成できる範囲において他の分散剤、安定剤、着色料、樹脂、溶剤、金属、金属酸化物、その他の成分を添加することが出来る。
【0053】
さらに、公知のインクや塗料等にグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーを配合することにより、電磁波遮断能、導電性と熱伝導性を併せ持つ電子材料としての導電回路形成用導電インク、放熱塗料、電磁波遮断塗料または帯電防止塗料として好適に用いることが出来る。電子材料に用いられる用途において、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーの配合量は、目的とする性能と作業性とに応じて、グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーが配合されようとする対象物全体に対して0.5〜95質量%の範囲で任意の割合で用いることが出来、好ましくは1〜80質量%の範囲で配合することにより作業性良く用いることが可能であり、特に好ましくは5〜70質量%の範囲で配合することにより好適な作業性と複合化による効果が見られるが、配合率が0.5%未満の場合には配合による性能向上の効果が得られないことが有り、配合率が95%を超えるとグリス等や塗料等と均一に混合することが困難になって、好ましくない。
【0054】
本発明のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは、公知の手法を用いて合成樹脂に配合することにより、放熱、電磁波遮断、帯電防止及び、又は導電性に優れた樹脂複合体を形成する素材として好適に用いることが出来る。
【0055】
本発明の樹脂複合体における合成樹脂としては、カーボンブラックや活性炭等のフィラーが配合される合成樹脂と同様に、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ABS樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアルコール(PVAと称されることもある。)樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDFと称されることもある。)、及び合成ゴム等の樹脂との混和性に優れ、1種又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0056】
グラフェン被覆窒アルミニウムフィラーの配合率は、目的とする性能と作業性とに応じて、合成樹脂に対して0.5〜95質量%の範囲で任意の割合で用いることが出来、好ましくは5〜85質量%の範囲で配合することにより作業性良く用いることが可能であり、特に好ましくは5〜75質量%の範囲で配合することにより好適な作業性と複合化による効果が見られるが、配合率が0.5質量%未満の場合には配合による性能向上の効果が得られないことが有り、配合率が95質量%を超えると樹脂等と均一に混合することが困難になり好ましく無い。また、樹脂との複合体においては、所望の性能を付与する目的で複合体の形成を阻害しない範囲で他の分散剤、可塑剤、安定化剤、着色料、溶剤、金属、金属酸化物他を配合することが出来る。
【0057】
グラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーは、前記各種の樹脂のみならず、ヘキサン、アセトン、トルエン、酢酸エチル、NMP等の樹脂や塗料の溶解に一般に用いられる有機溶剤との混合性にも優れるので、あらかじめグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーを所望の溶剤と混合した後に樹脂との混合又は、樹脂と溶剤との混合物に配合を行うことができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
平均粒径10μmの窒化アルミニウム粉末(ALDRICH社製試薬)25gを石英ガラス製の幅38mm、全長200mmのボートに乗せ、同じく石英ガラス製の直径50mm、全長900mmの反応管の中央に静置した。この反応管は本発明における反応容器に相当する。反応管内を十分に窒素ガスで置換した後に、500sccmでメタンガスを供給しながら電気炉で反応管の外部から加熱を行い、900℃で1時間反応を行った。反応終了後、冷却してから反応物を取り出し、原料と同じ形状をした灰色のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーを得た。
【0059】
前記グラフェン被覆窒化アルミニウムを、走査型電子顕微鏡(FE-SEM: 日立ハイテクノロジーズ製 S-4800)によって5000倍に拡大して観察した結果、グラフェン被覆窒化アルミニウムは原料の窒化アルミニウムと同様の構造を保持していることが確認された。次に、前記グラフェン被覆窒化アルミニウムの一部を、透過型電子顕微鏡(TEM:JEOL製JEM-2010EX)によって100万倍に拡大して観察した結果、図1に示されるように、グラフェン被覆窒化アルミニウムの粒子表面が厚さ8nm程度のグラフェンで被覆されていることが確認された。図1において、上部に観察される黒色の部分が窒化アルミニウムの粒子を示し、窒化アルミニウムの粒子の表面近傍において、膜厚が略均一となるように存在する黒くて、積層された薄層部分が形成されたグラフェンを示す。また、XRD(Rigaku製MiniFlex600)によってグラフェン被覆窒化アルミニウムを測定すると、原料である窒化アルミニウムと同一パターンのピークが観測されることから、グラフェン被覆窒化アルミニウムは、原料の窒化アルミニウムと同一の結晶構造を有していることが確認された。
【0060】
次に、グラフェン被覆窒化アルミニウムについて、ラマン分光法(日本分光(株)製 レーザーラマン分光装置NRS−3300)によりラマンスペクトル測定を行った。図2に示されるように、グラフェン由来のDバンド(1350cm−1)、Gバンド(1600cm−1)にはピークが観測されたが、G‘バンド(2700cm−1)にはピークがほとんど観測されなかった。G/D比は0.8と求められ、G、Dバンドに対する単層グラフェンの比が1%であり、10層以上のグラフェンに由来するピークがほとんど観測されないことから、得られたグラフェン被覆アルミナにおけるグラフェンの大部分は、2層以上10層未満の層構造を有することが確認された。
【0061】
さらに、テスターを用いてグラフェン被覆窒化アルミニウム粉末の電気抵抗を測定したところ、200Ωであった。また、LCRメータを用いてグラフェン被覆窒化アルミニウムの体積低効率を測定したところ、周波数によらず0.25Ω・mの一定値を示した。
【0062】
ビーカーに作製したグラフェン被覆窒化アルミニウム12gを取り、PVDFを3g(商品名 PVDF FR905 Shanghai 3F New Material Co.,LTD.製)を加え、油浴にてPVDFが溶融するまで加熱しながら撹拌して均一化し、ポリテトラフルオロエチレン製のシャーレに流し込んで常温まで冷却し厚さ1mmの平板状のグラフェン被覆窒化アルミニウムの配合率が80%となる樹脂複合体の試料片を作成した。同様にグラフェン被覆窒化アルミニウム9.5gとPVDF0.5gを用いてグラフェン被覆窒化アルミニウムの配合率が95%となる厚さ1mmの資料片を作成した。この試料片について、KEC法((株)テクノサイエンスジャパン製 TSES−KEC)によって、125KHz〜1GHz間でグラフェン被覆窒化アルミニウムの電磁波シールド効果を測定したところ、図3に示される測定結果より、PVDF単体及び、原料の窒化アルミニウムを80%含むPVDFの複合体が電磁波シールド効果を示さないことに対して、配合率80%では600KHzで42dB、配合率95%では1MHzで44dBの電磁波シールド効果を示した。磁界については、原料の窒化アルミニウムと同様にシールド効果を持たなかった。
【0063】
得られたグラフェン被覆窒化アルミニウムと、原料として用いた窒化アルミニウムについて、ホットディスク法にて熱伝導率測定(熱物性測定装置TPS2500S 京都電子工業株式会社)を行った所、原料の窒化アルミニウムを用いたものが0.29W/mKであったのに対して、グラフェン被覆窒化アルミニウムを用いたものが0.28W/mKとなり、被覆前に対して97%の熱伝導率を示した。
【0064】
得られたグラフェン被覆窒化アルミニウムを1日水中に保存したが、性状、重量に変化は見られず水層は白濁しなかった。比較実験として、原料として用いた窒化アルミニウムを同様に水中に保存したところ、水に加えると速やかにアンモニア臭を発しながら白色沈殿を生じた。これにより、窒化アルミニウムの表面がグラフェンにより疎水化されていることが確認された。
(実施例2)
反応温度を800℃に変更した以外は実施例1と同様に操作し、グラフェン被覆窒化アルミニウムを得た。
【0065】
次に、グラフェン被覆窒化アルミニウムについて、ラマン分光法(日本分光(株)製 レーザーラマン分光装置NRS−3300)によりラマンスペクトル測定を行った。G/D比は0.1と求められ、G、Dバンドに対する単層グラフェンの比が1%であり、10層以上のグラフェンに由来するピークがほとんど観測されないことから、得られたグラフェン被覆アルミナにおけるグラフェンの大部分は、2層以上10層未満の層構造を有することが確認された。
【0066】
さらに、テスターを用いてグラフェン被覆窒化アルミニウム粉末の電気抵抗を測定したところ、200KΩであった。
(実施例3)
平均粒径10μmの窒化アルミニウム粉末(ALDRICH社製試薬)250gを、石英ガラス製反応管の直径250mm、全長2000mmのロータリーキルンへ、500sccmでメタンガスを供給しながら、1000℃を保持した状態で、装置内の滞留時間が30分となるよう回転速度を1回転/分に調整して連続的に投入及び取出をしながら反応を行い、原料と同じ形状で黒色のグラフェン被覆窒化アルミニウムフィラーを得た。
【0067】
次に、グラフェン被覆窒化アルミニウムについて、ラマン分光法(日本分光(株)製 レーザーラマン分光装置NRS−3300)によりラマンスペクトル測定を行った。G/D比は0.8と求められ、G、Dバンドに対する単層グラフェンの比率が1%であり、10層以上のグラフェンに由来するピークがほとんど観測されないことから、得られたグラフェン被覆アルミナにおけるグラフェンの大部分は、2層以上10層未満の層構造を有することが確認された。
【0068】
さらに、テスターを用いてグラフェン被覆窒化アルミニウム粉末の電気抵抗を測定したところ、200Ωであった。また、LCRメータを用いてグラフェン被覆窒化アルミニウムの導電率を測定したところ、周波数によらず0.25S/mの一定値を示した。
(実施例4)
反応時間を4時間に変更した以外は実施例1と同様に操作し、原料と同一形状で黒色のグラフェン被覆窒化アルミニウムを得た。テスターを用いてグラフェン被覆窒化アルミニウム粉末の電気抵抗を測定したところ、200Ωであった。G/D比は0.8と求められた。
(実施例5)
反応ガスをメタンガスと窒素が1:1の流量比となるよう調整し、反応時間を2時間とした以外は実施例1と同様に操作し、原料と同一形状で灰色のグラフェン被覆窒化アルミニウムを得た。テスターを用いてグラフェン被覆窒化アルミニウム粉末の電気抵抗を測定したところ、300Ωであった。G/D比は0.7と求められた。
(比較例1)
反応温度を400℃に変更した以外は実施例1と同様に操作したが、原料と同一の白色の粉末を得た。テスターを用いて電気抵抗を測定したところ∞Ωで原料と同様で変化は見られなかった。反応物に水を加えたところ、速やかにアンモニア臭を発して白色沈殿を生じ、グラフェンが形成されず窒化アルミニウムが加水分解したと判断し実験を中止した。
(比較例2)
メタンガスを窒素ガスのみに変更した以外は実施例1と同様に操作したが、原料と同一の白色の粉末を得た。テスターを用いて電気抵抗を測定したところ∞Ωであり、グラフェンが形成されておらず、原料の窒化アルミニウムを回収した。
(実施例6)
実施例1で得られたグラフェン被覆窒化アルミニウム8gに、市販のクリアラッカースプレー(Sラッカースプレー アトムサポート株式会社製)から取り出した塗料2gを加え、良く撹拌してから、ポリテトラフルオロエチレン性のバットに塗布して室温で1日乾燥を行い、均一な塗膜を作成した。作成した塗膜について、LCRメータを用いて体積低効率を測定したところ、1.25KΩ・mの一定の値であった。
(実施例7)
実施例1で得られたグラフェン被覆窒化アルミニウム8gに、市販のシリコーングリス(高真空用グリース 東レ・ダウコーニング株式会社製)2gを加熱しながら加え、良く撹拌して均一な熱伝導グリスを作成した。
(実施例8)
実施例1で得られたグラフェン被覆窒化アルミニウム0.5gに、市販のポリビニルアルコール(造粒用バインダー(PVA) アズワン株式会社製)9.5gを加熱しながら加え良く撹拌して均一なPVA樹脂複合体を作成した。
(実施例9)
実施例1で得られたグラフェン被覆窒化アルミニウム8gに、市販のABS樹脂(株式会社ダイセル製)2g及びアセトン20gを加熱しながら加え良く撹拌して均一な溶液を作成した。この溶液をテトラフルオロエチレン製のバットに流しこみ、50℃で3日間乾燥して均一なABS樹脂複合体を作成した。
(実施例10)
実施例1で得られたグラフェン被覆窒化アルミニウム8gに、市販のフェノール樹脂系ワニス(GE703S THE NILACO CORPORATION製)2g及びアセトン20gを加熱しながら加え良く撹拌して均一な溶液を作成した。この溶液をテトラフルオロエチレン製のバットに流しこみ、50℃で3日間乾燥して均一なフェノール樹脂複合体を作成した。
図1
図2
図3