【実施例】
【0033】
実施例1:乳酸菌成分の調製
乳酸菌は、理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室から購入した。MRS培地を高圧蒸気殺菌後、乳酸菌(Lactobacillus acidophilus;JCM1021:以下、Lacと呼ぶ)をMRS培地20mlに植菌し、37℃で2〜3日間振盪培養した。次に、滅菌済みの前記培地1Lを含んだ3L振盪フラスコに植菌し、37℃で3〜4日間、振盪培養した。得られた培養液1Lから遠心分離10,000rpm、10minにより菌体を集めた。PBSに懸濁、遠心分離を3回繰り返して菌体を洗浄後、PBS(pH7.0)30mlに懸濁した。菌体懸濁液をBranson soniccator 250D超音波破砕装置(株式会社Branson)でOUTPUT 3 Duty 50%にて氷上で30分間破砕した。得られた細胞抽出液に3.42gの硫酸アンモニウム(硫安)を添加し(硫安濃度20%)、4℃で2時間冷却後、遠心分離8,000rpm、10min、4℃により菌体残渣を除いた。上清を回収後、硫酸アンモニウム8.28g追加し、一晩冷蔵庫で冷却した。サンプルを遠心分離10,000rpm、20min、4℃により硫安濃度20〜60%飽和で沈殿するタンパク質画分を沈殿させた。沈殿を0.02M Triethanolamine(TEA)緩衝液(pH7.5)5mlに溶解し(全量で7.5ml前後になる)、透析膜(Thermo slide A dialyzer pore size 20,000 MW)に入れ、一晩4℃で0.02M TEA緩衝液(pH7.5)に対して透析を行い、低分子の物質を取り除いた。次いで、透析したサンプルを回収し、100KDaの限外ろ過フィルター(Millipore)でろ過し、膜を透過しなかった濃縮サンプルを回収した。タンパク質画分を、Protein Assay Kit(Bio Rad社)を用いて定量し、「乳酸菌成分」として以下の実験に用いた。タンパク濃度は、5mg/mlであった。
【0034】
実施例2:乳酸菌成分存在下でのHDF細胞の培養
10cmシャーレでHDF細胞(Human Dermal Fibroblasts, CELL APPLICATIONS,INC. Cat No.106−05a)をFibroblast Growth Medium(CELL APLICATION INC.)で培養した。10mlのCMF(Ca
2+ Mg
2+フリーバッファー)で細胞を洗浄し、0.25%トリプシン溶液(1mM EDTA含)を1ml加えて全体にいきわたらせた。細胞を、CO
2インキュベーター(37℃)に5分間入れた後、トリプシン阻害溶液(CELL APLICATION INC.)3mlを加え懸濁し、細胞数をカウントした。あらかじめ24 well plateに1wellあたり実施例1で得られたLac由来の乳酸菌成分(20μl)を入れておき、1x10
5 のHDF細胞を加えた。細胞をそのまま34℃、5%CO
2インキュベータで培養した。
その結果、数日後には細胞塊が観察できた。結果を
図1に示す。この細胞塊形成アッセイを指標に、以下の実験で用いたカラムクロマトグラフィーにより分離された細胞塊形成能を有する画分を決定した。
【0035】
実施例3:クロマトグラフィーによる精製
実施例1で得られた濃縮乳酸菌成分(50μl、タンパク量0.25mg)をさらに陰イオン交換クロマトグラフィー(Hi Prep Q FF 16/10カラム(GEヘルスケア))で分離した。0.02M TEA緩衝液(pH7.5)で平衡化したカラム(16ml)に乳酸菌成分をチャージし、0〜1Mの塩化ナトリウムの直線濃度勾配法により溶出を行ない、各フラクションを回収した。得られたフラクションについて、実施例2と同様にして、細胞塊形成能を確認した。
細胞塊形成能が確認されたフラクションを、次いで、ゲルろ過クロマトグラフィー(Hi Load Superdex 200 prep grade(GEヘルスケア))にかけ(20mM TEA 0.15M NaCl)、各フラクションの細胞塊形成能を実施例2と同様にして測定し、活性があるフラクションを回収した。
得られた活性フラクションをさらに、イオン交換クロマトグラフィー(RESOURCE Q(GEヘルスケア))にて、0〜1Mの塩化ナトリウムの直線濃度勾配法により溶出を行ない、各フラクションを回収し、各フラクションの細胞塊形成能を確認した。活性が確認されたフラクションを、クロマトグラフィー精製分画とした。
【0036】
実施例4:SDS−PAGEおよびMALDI−TOF−MS分析
実施例3にて3段階のカラムクロマトグラフィー(陰イオン交換クロマトグラフィー−ゲルろ過クロマトグラフィー−イオン交換クロマトグラフィー)で得られた活性分画をSDS−PAGE(7.5%ゲル)で分離した。ゲルから10個のバンドを切り出し、ゲル内消化を行った後、MALDI−TOF−MS(Bruker REFLEX
TM MALDI−TOF MS)を用いてアミノ酸配列解析を行い、データベース検索によってタンパク質を同定した。結果を
図2に示す。
得られたタンパク質をグループ分けした結果、大きく以下の3つのグループに分けることができた。グループ1:tRNA合成に関わる遺伝子群、グループ2:タンパク質の折り込みに関わる遺伝子群、グループ3:糖代謝、解糖系に関わる遺伝子群。グループ分けの結果を
図3に示す。
【0037】
実施例5:タンパク質の過剰発現
決定したタンパク質の中から、30〜100KDa以上の分子(2量体等を含めて、100KDa限外ろ過膜を通過できない分子)であり、微生物にしか存在しないタンパク質(7番のClpEと5−2番のTrigger factor)をクローニングして、過剰発現後、His−tagを生成した。そのタンパクについて細胞塊形成能を計ったが、活性はなかった。
【0038】
実施例6:乳酸菌リボソームの調製および細胞塊形成能
実施例4における分析で見出されたグループはリボソームを精製する時によく検出される分子である。また、リボソームは、大腸菌の30Sサブユニットの場合、約900KDaあるので100KDa限外ろ過膜は通過できない。一方、リボソームタンパク質はMALDI−TOF−MS分析で検出されていなかったが、個々のリボソームタンパク質は15KDa以下なので、電気泳動ではゲルの外に流出していたと考えられる。そこで、乳酸菌(Lac)から、以下のようにしてリボソームを調製し、実施例2と同様にして、細胞塊形成能を測定した。
(材料)
TMA−I緩衝液(10mM Tris−HCl、pH7.8,30mM NH
4Cl,10mM MgCl
2,6mM 2−メルカプトエタノール)
Suc30−TMA−I(30%sucrose in TMA−I緩衝液)
(調製工程)
以下は、可能な限り4℃で行った。
1)集菌(1Lあたり2.5g〜3.0g)した菌をTMA−I緩衝液40mlに懸濁し、Sonication(GTC 1時間 output 4 duty 50%)後、顕微鏡で細胞が壊れているのを確認した。
2)8,000rpmで5分間遠心し、上清を回収した。
3)0.45μmフィルターを通した。
4)4℃にて、42,000rpmで30分間遠心し、上清を回収した。
5)4℃にて、36,000rpmで6時間遠心し、上清を廃棄した。沈殿をTMA−I緩衝液500μlで溶解した(粗精製リボソーム分画)。
6)Suc30−TMA−I 3.5mlに粗精製リボソーム溶液500μlを重層した。
7)4℃にて、36,000rpmで15時間遠心し、上清を廃棄した。
8)沈殿を2ml TMA−I緩衝液に溶解して、−70℃で保存した(精製70Sリボソーム分画)。
(結果)
上記のようにして得た、精製70Sリボソーム分画を用いて、実施例2と同様にして細胞塊形成能を測定した結果、細胞塊が形成された。結果を、
図4に示す。
【0039】
実施例7:細胞塊形成能の濃度依存性
実施例6で得た精製70Sリボソーム分画を用いて、細胞塊形成が濃度依存的に行われるかを検討した。結果を
図5に示す。
図5に示すように、精製70Sリボソーム分画の濃度依存的に細胞塊形成が確認された。
【0040】
実施例8:30Sリボソームと50Sリボソームの細胞塊形成能
実施例7において乳酸菌から精製した70Sリボソーム分画を、さらに、以下のようにして、30Sリボソーム分画と50Sリボソーム分画に分けて精製した。
(試薬)
TMA−II緩衝液(10mM Tris−HCl、pH7.8,30mM NH
4Cl,0.3mM MgCl
2,6mM 2−メルカプトエタノール)
Suc40−TMA−II(40% sucrose in TMA−II緩衝液)
Suc10−TMA−II(10% sucrose in TMA−II緩衝液)
(調整工程)
1)透析:TMA−II緩衝液、透析カセット(Thermo Slide−A−Lyzer dialysis cassette 20,000 MWCO 3 ml capacity)を用いて70Sサンプルを一晩透析した。
2)遠心分離
遠心チューブグラジエントを以下のようにして作製した。
ローター:スイングSW41(最大13.2ml)×6本;Rmax=15.31cm;チューブ:UCチューブ 344059(GTCで購入)。
UCチューブにSuc40−TMA−II 5mlを入れ、Suc10−TMA II 5mlをその上に重層した。パラフィルムでしっかり蓋をし、チューブを横に寝せ室温で4時間置いた。ゆっくりとチューブを立て、4℃で一晩置いた。
50% sucrose(100g sucrose/200ml Milli Q水)を当日調整した。
透析したサンプル0.3mlを前日用意したチューブに重層した。SW41ローターにサンプルをセットし、35000rpmで3時間、4℃にて、遠心した(ac9 br0)。
3)フラクションコレクターによる分取
フラコレ エッペンチューブ用をセットアップ(200μl/tube)し、遠心したチューブを固定し、上部をフラクションコレクターにつなぎ、チューブ下部に18Gニードルを刺して、ペリスタポンプで50% sucroseを入れて上部から押し出されるサンプルをフラクションコレクターで回収した。回収したサンプルのOD260/280を測定し、濃度、純度を調べた。
(結果)
結果を
図6に示す。乳酸菌由来の30Sリボソーム分画と50Sリボソーム分画が精製された。
【0041】
実施例9:精製した乳酸菌30Sリボソーム分画と50Sリボソーム分画の細胞塊形成能
精製した乳酸菌30Sリボソーム分画または50Sリボソーム分画を用いて、実験2と同様にして、HDF細胞を用いて細胞塊形成能を調べた。
結果を
図7に示す。30Sリボソーム分画、50Sリボソーム分画のいずれを用いた場合でも、細胞塊が形成された。
【0042】
実施例10:形成細胞塊からの分化誘導
HDF細胞に乳酸菌(Lac)由来の30Sリボソーム分画または50Sリボソーム分画を処理した後、2週間後に細胞塊をピックアップし、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞に分化誘導をうながす培養液(GIBCO;A10072−01,A10070−01,A10071−01)に交換し、さらに3週間(3日間おきに培養液を半分量交換)培養した。
それぞれの分化誘導培地で培養後の細胞を、それぞれの細胞マーカーで染色した。結果を
図8に示す。乳酸菌を感染させた細胞塊はOil Red O染色(脂肪)、Alizarin Red S染色(骨)、Alcian Blue染色(軟骨)により染色され、それぞれの細胞への分化誘導が確認できた。
【0043】
実施例11:細胞塊形成に対するエンドサイトーシス阻害剤の影響
以下の表に示したエンドサイトーシス阻害剤の存在下で、実施例6で調整した乳酸菌70Sリボソーム分画を用いて細胞塊形成能を調べた。96ウェルプレートに70Sリボソーム分画を入れ(0.5μg/50μl/well)、HDF細胞(20,000 cells/100μl)を加え、各々の阻害剤(50μl)を加えた。CO
2インキュベータで2日間培養し、形成された細胞塊数を測定した。阻害剤は、表中で示された濃度を基準濃度(
図9中の濃度”5”)として用いた。従って、例えば、CPの場合は、濃度”5”が10μM、濃度”10”が20μMとなる。また、MTTアッセイ(比色法による細胞死の測定)を行った。
【0044】
【表1】
結果を
図9および
図10に示す。MC存在下では濃度依存的に細胞塊の数が増加した。また、CPとNYの存在下では、細胞塊の数が減少したがこれはこれらの試薬の毒性によるものと考えられる。他の阻害剤に関しては、一概に細胞塊の数が減少したことから、細胞塊形成にはエンドサイトーシスが関わっていると考えられる。
【0045】
実施例12:非酵素系の細胞剥離液を用いた細胞塊形成
Muse細胞との違いを調べるために、非酵素系の細胞剥離液(Sigma,C1419)を用いて、製造者のプロトコールに従い細胞をシャーレから剥がし、次いで、実施例6に記載の粗精製リボソーム分画を用いて実施例2と同様の実験を行った。結果を
図11に示す。トリプシンを使わない方法で細胞を剥がしても、細胞塊が形成された。
【0046】
実施例13:トリプシン処理によるエンドサイトーシス活性
トリプシン処理によってエンドサイトーシス活性があがるという報告例は存在するが、HDFで確かめられた報告はなく、また一般的に知られているエレクトロポレーションやトランスフェクションと異なり、トリプシン処理によってエンドサイトーシス活性をあげて、細胞内に巨大分子をいれる方法は報告されていない。そこで、実際にHDFで細胞の取り込み活性があがるかをリボソームとほぼ同サイズの標識ナノラテックス粒子を用いて実験した。Fluoresbrite Carboxylate Microspheres(2.5% Solids−Latex),0.05μm YG(polysciences(株)社製)を用いた。リボソーム溶液の代わりに標識ナノラテックス粒子を1μl添加した。一晩インキュベートして細胞接着させたあと表面をPBSで洗浄して観察した。その結果、トリプシン処理を行った細胞では、Microspheresの取り込みが観察され、リボソームのサイズ(20nM)と近いサイズのものが取り込まれるようになっていたが、未処理の細胞では取り込みは僅かしか観察されなかった。これにより、トリプシン処理によりエンドサイトーシス活性があがったことが判った。
【0047】
実施例14:トランスフェクションによる処理
トリプシン処理と同じ効果がトランスフェクションにより再現できるかLipofectAMINE2000(Invitrogen)を用いて検討した。方法は実施例2と同様にして行い、LipofectAMINE2000を用いたトランスフェクションメーカーのプロトコールに従って実施した。リボソームは、Lacの精製70Sリボソーム分画を用い、1μgリボソーム/2 x10
4 cells/wellとなるように加えた。結果を
図12に示す。トランスフェクションでは、細胞塊の形成が起こらないことが判った。
【0048】
実施例15:哺乳類動物由来のリボソーム分画による細胞塊形成能
ラット小腸細胞(IEC−6)から、Angerらの報告(nature 2013, p80, vol.497)に従い粗精製リボソーム分画(濃度勾配超遠心処理前の分画)と80Sリボソーム分画を精製し、実施例2と同様にしてHDF細胞を用いて細胞塊形成能を調べた。結果を
図13に示す。哺乳類動物由来の粗精製リボソーム分画と80Sリボソーム分画により細胞塊が形成された。
【0049】
実施例16:他の生物由来のリボソーム分画の細胞塊形成能
図14に示した細菌や細胞から、粗精製リボソーム分画と70Sリボソーム分画または80Sリボソーム分画を精製し、実施例2と同様にしてHDF細胞を用いて細胞塊形成能を調べた。原核生物からのリボソーム分画の精製は、実施例6に従って行い、また、真核生物からのリボソーム分画の精製は、Angerらの報告(上記)に記載の方法に従って行った。図中のそれぞれの略号は以下の菌または細胞を示す;Lac:Lactobacillus acidophilus JCM 1021, Lca:Lactobacillus casei JCM1134, Lre:Lactobacillus reuteri JCM 1112, Sep:Staphylococcus epidermidis JCM2414, Bsu:Bacillus subtilis subsp. 168 JCM10629, Eco:Escherichia coli JE28, Ppu:Pseudomonas putida JCM 13063, Mlo:Mesorhizobium loti JCM 21590, Sce:Saccharomyces cerevisiae BY20118, IEC−6:Rattus norvegicus IEC−6。結果を
図14に示す。調べた全ての細胞腫に由来するリボソーム分画により細胞塊が形成された。また、HDFから精製したリボソーム分画を用いて同様にして細胞塊形成能を確認したところ、同様に細胞塊の形成が確認できた。それぞれの細胞塊形成の結果を
図15に示す。
【0050】
実施例17:浮遊細胞に対するリボソーム分画の細胞塊形成能
浮遊性細胞への効果を調べるために、実施例6と同様にして、乳酸菌(Lac)から、
精製リボソーム分画を調整し、トリプシン処理を施したマウスリンパ球(WEHI、Ba/F3)を用いて細胞塊形成能を調べた。
図16に示すように、細胞塊は形成されなかった。
【0051】
実施例18:形成された細胞塊細胞における多能性マーカーの確認
乳酸菌(Lac)の70Sリボソーム分画を用いて細胞塊を形成し、3日目(A)、7日目(B)、10日目(C)にアルカリホスファターゼ染色を行った。アルカリホスファターゼは、BM purple(Roche(株)社製)を用いて、製造元のプロトコールに従って測定した。その結果、細胞塊は3日目から継続してアルカリホスファターゼ活性を示した。
次いで、乳酸菌70Sリボソーム分画を用いて実施例2と同様にして細胞塊を形成した。培養2週間後、マウス抗α−Nanog抗体(ReproCELL)、ラット抗Oct3/4抗体(R&D)、マウス抗TRA−1−60抗体(life technologies)、マウス抗SSEA4抗体(life technologies)、ラット抗Sox2抗体(life technologies)を用い、製造元のプロトコールに従って染色した。その結果、細胞塊は、Nanog、Oct3/4、TRA−1−60、SSEA4、Sox2を認識する抗体により染色された。また、培養1日目および20日目の細胞塊を用いて、TUNEL assayを行い、細胞死を調べた。結果、培養後1日、20日後の細胞塊では細胞死は観察されなかった。
【0052】
実施例19:リボソームの加熱処理の影響
精製した乳酸菌70Sリボソーム分画を、100度で10分加熱後、すぐ氷上に置いた場合と室温で10分間置いた場合のそれぞれについて、実施例2と同様にしてHDF細胞を用いて細胞塊形成能を調べた。その結果を
図17に示す。室温で10分間おいた場合には細胞塊は形成されたが、加熱後すぐ氷上に置いた場合には細胞塊形成能は減少した。これにより、RNAの高次構造が細胞塊形成能に寄与していると判った。
【0053】
実施例20:形成細胞塊細胞からの神経細胞の分化誘導
乳酸菌(Lac)から70Sリボソーム分画を調製し、実施例2と同様にして細胞塊を形成させた。培養2週間後、Human ES/iPS Neurogenesis Kit(ミリポア)を用いて神経細胞の誘導と分化を行い、マウス抗α−Tuj1抗体、ラット抗neurofilament抗体、マウス抗MAP2抗体による免疫染色法を行った。その結果、細胞塊の一部の細胞は3つの神経細胞マーカー抗体により認識された。このことから、誘導した細胞塊から神経細胞への分化が観察された。
【0054】
実施例21:形成細胞塊細胞からの心筋細胞の分化誘導
乳酸菌(Lac)から70Sリボソーム分画を調製し、実施例2と同様にして細胞塊を形成させた。培養2週間後、Cardiomyocyte Differentiation Kit(ミリポア)を用いて心筋細胞の誘導と分化を行い、ウサギ抗α−NKX2抗体とマウス抗TNNT2抗体による免疫染色法を行った。その結果、細胞塊の一部の細胞は2つの心筋細胞マーカー抗体により認識された。このことから、心筋細胞への分化が観察された。
【0055】
実施例22:上皮間葉転換の確認
HDF細胞をウサギ抗α−Snail抗体(abcam)とマウス抗α−Twist抗体(abcam)を用いて免疫染色法を行った。
乳酸菌(Lac)から70Sリボソーム分画を調製し、実施例2と同様にして細胞塊を形成させた。培養2週間後、細胞塊をウサギ抗α−Snail抗体、マウス抗α−Twist抗体、マウス抗α−E Cadherin(abcam)抗体を用いて免疫染色した。
その結果、HDF細胞は抗α−Snail抗体と抗α−Twist抗体ではほとんど染色されないが、細胞塊を形成した細胞はこれらの抗体で認識された。また、細胞塊を形成した細胞は抗α−E Cadherin抗体では、染色されなかった。これらの結果は、形成された細胞塊が上皮間葉転換(Epithelial−Mesenchymal Transition)を起こしたことを示すものである。
【0056】
実施例23:がん細胞への適用
乳酸菌(Lac)から70Sリボソーム分画を調製し、理化学研究所バイオリソースセンターから肺がん細胞株(A549;RBRC−RCB0098)、肝がん細胞株(HepG2;RBRC−RCB1648)、および乳がん細胞株(MCF7;RBRC−RCB1904)を入手し、実施例2と同様の実験を行い、細胞塊を形成した。その後、細胞塊を2週間培養し、脂肪細胞、骨細胞に分化誘導をうながす培養液(GIBCO;A10070−01,A10072−01)に交換し、さらに2−3週間培養した。
結果を
図18に示す。図に示すように、肺がん細胞、肝がん細胞、乳がん細胞は乳酸菌由来70Sリボソーム分画を取り込むことにより再プログラミングされ、Oil Red O染色(脂肪)、Alizarin Red S染色(骨)により染色され、脂肪細胞や骨細胞へと分化したことが確認された。
【0057】
実施例24:形成細胞塊のゲノムDNA解析
乳酸菌(Lac)由来70Sリボソーム分画をHDF細胞に取り込ませて16日後の細胞塊を用いて、cytoscanによる染色体構造解析を行った。通常の多能性幹細胞ではQ−band あるいはG−band観察による核型解析が一般的であるが、この細胞は細胞増殖していないため、開いた構造の染色体を観察することができない。そのため、cytoscan(マイクロアレイの一種で、SNPマーカー等、染色体構造を見るために必要な遺伝子を網羅してあるチップに対してゲノムDNAをハイブリダイズして検出)解析を行った。
細胞塊からゲノムDNAをqiagen DNeasy blood & tissue kitでゲノムDNAを抽出・精製した。精製したゲノムDNAを徳島大学大学院 医歯薬学研究部 総合研究支援センター 先端医療研究部門に送付し、受託解析を行った。受託解析ではゲノムDNAの品質チェック後、マイクロアレイ反応および検出を行った。
その結果、染色体14と17にトリソミーが検出されたが、14のものはアルゴリズム上必ずでるので、17だけがトリソミーとして確認された。今回作製した多能性細胞は、シングルセルクローンではなく集合体なので、ポピュレーション全体でトリソミーが発生している可能性がある。染色体17のq21.31領域が3コピー存在するが、この領域は、ES細胞樹立時に比較的よく起きるトリソミーで特に問題にはならない。
【0058】
上記の記載は、本発明の目的および対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更および置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。