【文献】
ERIC BRYAN BOND,Fiber Spinning Behavior of a 3-Hydroxybutyrate/3-Hydroxyhexanoate Copolymer,MACROMOLECULAR SYMPOSIA,2003年 7月 1日,vol.197 no.1,pages19-31
【文献】
永山敬,他,溶融履歴がポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート]の繊維化に及ぼす,高分子学会年次大会予稿集,日本,高分子学会,2012年 5月15日,Vol.61 No.1,2018頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)における3−ヒドロキシブチレートのモノマー比率が99.5モル%〜88.5モル%であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリエステル繊維。
ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)を含有してなるポリエステル樹脂を、1,500m/分〜7,000m/分の引取り速度で紡糸するポリエステル繊維の製造方法であって、
前記ポリエステル繊維は、非晶による散乱の影響を差し引いた後の前記ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)のβ型結晶からの回折強度(Iβ)とα型結晶からの回折強度(Iα)の比Iβ/Iαが0.02以上であることを特徴とする、ポリエステル繊維の製造方法。
前記ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)における3−ヒドロキシブチレートのモノマー比率が99.5モル%〜88.5モル%であることを特徴とする、請求項6又は7に記載のポリエステル繊維の製造方法。
前記ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)を含むポリエステル樹脂を、紡糸時に145℃〜190℃の樹脂温度で紡糸ダイスから押出すことを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一項に記載のポリエステル繊維の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック廃棄物が、生態系への影響、燃焼時の有害ガス発生、大量の燃焼熱量による地球温暖化等、地球環境への大きな負荷を与える原因となっている問題を解決できるものとして、生分解性プラスチックの開発が盛んになっている。
【0003】
中でも植物由来の生分解性プラスチックを燃焼させた際に出る二酸化炭素は、もともと空気中にあったもので、大気中の二酸化炭素は増加しない。このことをカーボンニュートラルと称し、二酸化炭素削減目標値を課した京都議定書の下、重要視され、積極的な使用が望まれている。
【0004】
最近、生分解性およびカーボンニュートラルの観点から、植物由来のプラスチックとして脂肪族ポリエステル系樹脂が注目されており、特にポリヒドロキシアルカノエート(以下、PHAと称する場合がある)系樹脂、さらにはPHA系樹脂の中でもポリ(3−ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)共重合樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂(以下、P3HB3HHと称する場合がある)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)共重合樹脂およびポリ乳酸等が注目されている。
【0005】
しかしながら、前記PHA系樹脂は、結晶化速度が遅いことから、成形加工に際し、加熱溶融後、固化のための冷却時間を長くする必要があり、生産性が悪い。従い、溶融紡糸においても引取り速度を非常に遅くしなければならず、実用上に制約がある。また、強度を上げるために、引取りした後に延伸する必要がある。
【0006】
3−ヒドロキシアルカノエート重合体の溶融紡糸技術の先行事例として、P3HB3HHを、溶融押出機から吐出した直後に樹脂のガラス転移温度(Tg)以下に急冷して、フィラメントをブロッキングから開放し、次いで、Tg以上の温度で速やかに部分的な結晶化を進行させる冷延伸法が開示されている(特許文献1)。この方法によれば、P3HB3HHのような結晶化し難いポリマーの紡糸を可能とし、独特の性質を有する延伸フィラメントを作ることができる。しかし、その一方、当該方法においては、必須工程として紡糸直後にTg(約0〜4℃)以下に急冷する必要があるので消費エネルギーが多大となり、また設備が大掛かりになり、実用上、課題が残る。
【0007】
一方で、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートのような熱可塑性ポリエステルを高引取速度で溶融紡糸すると、機械的な延伸をすることなく、実用上十分な特性を有する繊維が得られることが知られており、このような高速紡糸法の先行事例が開示されているが(特許文献2〜11)、結晶性が異なる3−ヒドロキシアルカノエート重合体に関しては開示されていない。
【0008】
また、別の先行事例として、メルトフローレート値や紡糸温度を限定して生分解性脂肪族ポリエステルの中空断面糸あるいは多葉断面糸の高速紡糸に関する製造方法が開示されている(特許文献12)。3−ヒドロキシアルカノエート重合体は共重合比などの分子構造が結晶性や紡糸性および得られる繊維の強度に大きく影響するが、当該先行事例には適切な共重合比については開示も示唆もされていない。
【0009】
また、別の先行事例として、ポリ乳酸−ポリエチレングリコール共重合体を4,000m/分以上で溶融紡糸する製造方法が開示されている(特許文献13)。当該方法であればポリ乳酸単独に比べて高速紡糸性は高まる。しかしながら、もともと加水分解され易いポリ乳酸に親水性のポリエチレングリコールブロックが共重合することでより加水分解され易くなると思われ、水分管理が厳しくなるという難点がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態の一例を具体的に説明する。
【0019】
[ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)]
本発明に用いるポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)は、例えば、アエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)等の菌体内で生産される。好ましい菌体は、アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)にアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)由来のP3HB3HH合成酵素遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32)(ブダペスト条約に基づく国際寄託、国際寄託当局:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)、原寄託日:平成8年8月12日、平成9年8月7日に移管、寄託番号FERM BP−6038(原寄託FERM P−15786より移管))(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821−4830(1997))等である。
【0020】
これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また上記以外にも、生産したいPHAに合わせて、各種PHA合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み替え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0021】
本発明で用いるP3HB3HHの重量平均分子量(以下、Mwと称する場合がある)は、15万〜150万が好ましく、18万〜120万がより好ましく、20万〜100万がさらに好ましい。Mwが15万未満では機械物性等が劣る場合があり、150万を超えると溶融紡糸が困難となる場合がある。
【0022】
前記Mwの測定方法は、ゲル浸透クロマトグラフィー(昭和電工社製「Shodex GPC−101」)を用い、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K−804」)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めることができる。この際、検量線は重量平均分子量31,400、197,000、668,000、1,920,000のポリスチレンを使用して作成する。
【0023】
前記P3HB3HHにおいて、共重合樹脂を構成する3−ヒドロキシブチレート(以下、3HBと称する場合がある)のモノマー比率は、99.5モル%〜88.5モル%が好ましく、99モル%〜90モル%がより好ましく、99モル%〜93モル%がさらに好ましい。モノマー比率が99.5モル%より大きいと成形加工温度と熱分解温度が近接するため成形加工し難い場合がある。モノマー比率が98モル%より小さいと、P3HB3HHの結晶化が遅くなるため生産性が悪化する場合がある。
【0024】
前記3HBのモノマー比率は、以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定できる。乾燥したP3HB3HH、約20mgに、2mlの硫酸/メタノール混液(15/85(重量比))と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、重合体分解物のメチルエステルを得る。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生が止まるまで放置する。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、上清中の重合体分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析することにより、モノマー比率を求められる。
【0025】
前記ガスクロマトグラフとしては、島津製作所社製「GC−17A」を用い、キャピラリーカラムにはGLサイエンス社製「NEUTRA BOND−1」(カラム長:25m、カラム内径:0.25mm、液膜厚:0.4μm)を用いる。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧を100kPaとし、サンプルは1μl注入する。温度条件は、8℃/分の速度で初発温度100℃から200℃まで昇温し、さらに200〜290℃まで30℃/分の速度で昇温する。
【0026】
[ポリエステル樹脂]
本発明のポリエステル樹脂には、145℃〜190℃で溶融加工でき、P3HB3HHと共に溶融混錬できるものでれば、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)やポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)などのポリエステル樹脂が混合されていてもよい。この場合、P3HB3HHの重量比率は70重量%以上が好ましく、80重量%以上であることがより好ましい。
【0027】
[ポリエステル繊維の製造]
本発明のポリエステル繊維は、上記P3HB3HHにポリエステル繊維の特徴を損なわない程度で、加工性を付与するために、例えば滑剤や可塑剤を配合してもよく、これらを溶融した後、1,500m/分〜7,000m/分の引取り速度で紡糸することにより得られる。
【0028】
上記の滑剤は特に限定されないが、例えば、ベヘン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどのアルキレン脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、酸化ポリエステルワックス、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノラウレートなどのグリセリンモノ脂肪酸エステル、コハク酸飽和脂肪酸モノグリセライドなどの有機酸モノグリセライド、ソルビタンベヘネート、ソルビタンステアレート、ソルビタンラウレートなどのソルビタン脂肪酸エステル、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンラウレート、テトラグリセリンステアレート、テトラグリセリンラウレート、デカグリセリンステアレート、デカグリセリンラウレートなどのポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアリルステアレートなどの高級アルコール脂肪酸エステルが挙げられるが、これらに限定されない。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0029】
上記滑剤の中でも、入手のし易さや効果の高さの点で、脂肪酸アミド、ポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。
【0030】
上記の可塑剤は特に限定されないが、例えば、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエートなどの変性グリセリン系化合物、ジエチルヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸エステル系化合物、ポリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジカプリレート、ポリエチレングリコールジイソステアレートなどのポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、エポキシ化大豆油、エポキシ化脂肪酸2−エチルヘキシル、セバシン酸系モノエステルが挙げられるが、これらに限定されない。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0031】
上記滑剤の中でも、入手のし易さや効果の高さの点で、変性グリセリン系化合物、ポリエーテルエステル系化合物が好ましい。
【0032】
本発明で使用する溶融押出機は、用いるP3HB3HHの分子量や溶融粘度を適度に保つことが可能であれば一般的な装置でよく、溶融部分が一定温度に恒温される圧縮押出装置や連続供給が可能なスクリュー型押出装置のどちらを用いてもよい。溶融押出の少量検討には前者が適しており、工業的な生産には後者が適した装置である。押出装置のノズル直下の温度は特に限定されないが、P3HB3HHのガラス転移点温度以上70℃以下で繊維化することが好ましい。前記の使用エネルギーの無駄や設備を軽減することができるため、ガラス転移点温度以上60℃以下で繊維化することが、より好ましい。
【0033】
また、本発明のポリエステル繊維の溶融紡糸温度は、好ましくは、145℃〜190℃であり、より好ましくは、150℃〜190℃である。紡糸温度が145℃より低いと完全に溶け切っていない成分が存在するために紡糸が不安定になる。3HBのモノマー比率が低い場合は溶けきるがそれでも145℃より低いと粘度が高すぎるので紡糸が不安定になる。190℃より高いと、樹脂の熱分解が起き易くなるので、紡糸が安定せず、得られる繊維の物性が損なわれる場合がある。
【0034】
本発明において、溶融紡糸温度とは、ポリエステル樹脂が繊維化される間に加えられる温度のうち、最も高い温度域の温度をいう。
【0035】
上記P3HB3HHを溶融し、流量を調整して吐出量を一定に保ちながら紡糸ダイスから押し出し、引き取るが、この際の紡糸ダイスの開口面積は、0.15mm
2〜3.5mm
2であることが好ましい。0.15mm
2未満であると、紡糸中に切れ易くなるので引取速度を1500m/分以上にすることができず、3.5mm
2を超えると、繊維が太くなるために固化に要する時間が長くなり成形された伸び切り鎖が緩和されてしまい、加工性や強度が改善されない場合がある。また、この場合、吐出量は、1〜20g/min/holeであることが好ましい。
【0036】
本発明の引取り速度は、1,500m/分以上であり、好ましくは2,000m/分以上である。引取り速度が1,500m/分より低いと、P3HB3HHの配向結晶が充分に形成されないので、生産が不安定になる場合があり、得られる繊維の物性が低い場合がある。引取り速度に上限値は特にないが、7,000m/分より大きいと得られる繊維の強度が変わらなくなるので、7,000m/分より高くする必要は無い。
【0037】
本発明のポリエステル繊維は、「伸びきり鎖」により形成される「β型結晶」が多く含まれるものであり、それによって溶融紡糸性が改善される。
【0038】
前記β型結晶の量は、広角X線回折によって求められる。X線回折パターンの赤道方向の回折強度分布を測定すると、その回折強度は非晶による散乱と結晶による回折により構成される(
図1)。ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)を含むポリエステル繊維において、結晶による回折はα型結晶とβ型結晶の回折が含まれ、α型結晶とβ型結晶はその構造に由来し、各々特定の位置に回折を生じ、その回折強度は結晶の量に比例する。
【0039】
そのため、α型結晶に基づく回折強度と、β型結晶に基づく回折強度の比を取ることで、β型結晶の量に関する指標を得ることができる。ただし、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)を含むポリエステル繊維においては、その含有量によっては結晶化度が低く、非晶の散乱に基づく強度が大きくなることもあるため、結晶中のβ型結晶の量を求めるためには、非晶の散乱に基づく強度の影響を取り除く必要がある。
図1に示すように、非晶の散乱に基づく強度は、結晶の回折に基づく強度よりもブロードなベースラインの盛り上がりとして観測されるので、結晶からの回折の影響が少ない15°と21°を結んだ線を非晶の散乱に基づく強度と見なし、その分を回折強度から差し引く。その後の回折強度分布において、15°から18°の間の最大値をα型結晶からの回折強度(I
α)とし、18°から21°の間の最大値をβ型結晶からの回折強度(I
β)とする。β型結晶の量はI
αとI
βを相対的に比較することで評価が可能であり、両者の比であるI
β/I
αが大きければβ型結晶を多く含む事を示している。
【0040】
以上の方法で算出したI
β/I
αは0.02以上であり、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.1以上である。I
β/I
αが0.02未満であるとβ型結晶が少なく紡糸性の改善効果が充分でない傾向がある。I
β/I
αの上限値は特に設定されない。
【0041】
本発明のポリエステル繊維の製造方法では、引取り時にP3HB3HHは繊維軸方向に配向結晶化されるので、紡糸後に延伸工程を行うことなく、十分な引張強度を得ることができる。しかし、必要に応じて紡糸後に延伸工程を追加してもよい。延伸工程を追加する場合、紡糸後、直ぐに延伸することが好ましい。延伸までの時間が長いとポリマー中の部分結晶化が進行し、本来得られるはずの最大延伸倍率が低下し、機械的物性も低下するからである。このため、延伸工程は繊維化と連続した設備にすることが好ましい。繊維化工程終了から延伸工程開始までの時間は120分以下であることが好ましく、より好ましくは60分以下であり、さらに好ましくは30分以下である。
【0042】
本発明のポリエステル繊維は、I
β/I
αの値が大きくなるにしたがい、引張強度を高めることができる。
【0043】
本発明のポリエステル繊維には、本発明の効果を阻害しない範囲において、各種添加剤を含有しても良い。ここで添加剤とは、たとえば、結晶核剤、加水分解抑制剤、酸化防止剤、離形剤、紫外線吸収剤、染料、顔料などの着色剤、無機充填剤等を目的に応じて使用できる。
【0044】
上記のようにして得られた本発明のポリエステル繊維の利用方法は、公知の繊維と同様に、農業、漁業、林業、衣料、非衣料繊維製品(例えばカーテン、絨毯、鞄など)、衛生品、園芸、自動車部材、建材、医療、食品産業、その他の分野においても好適に使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0046】
<製造例1>P3HB3HHの製造
培養生産にはKNK−005株(米国特許US7384766参照)を用いた。
【0047】
種母培地の組成は1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−Tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% Na
2HPO
4・12H
2O、0.15w/v% KH
2PO
4、(pH6.8)とした。
【0048】
前培養培地の組成は1.1w/v% Na
2HPO
4・12H
2O、0.19w/v% KH
2PO
4、1.29w/v% (NH
4)
2SO
4、0.1w/v% MgSO
4・7H
2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl
3・6H
2O、1w/v% CaCl
2・2H
2O、0.02w/v% CoCl
2・6H
2O、0.016w/v% CuSO
4・5H
2O、0.012w/v% NiCl
2・6H
2Oを溶かしたもの。)、とした。炭素源はパーム油を10g/Lの濃度で一括添加した。
【0049】
P3HB3HH生産培地の組成は0.385w/v% Na
2HPO
4・12H
2O、0.067w/v% KH
2PO
4、0.291w/v% (NH
4)
2SO
4、0.1w/v% MgSO
4・7H
2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N 塩酸に1.6w/v% FeCl
3・6H
2O、1w/v% CaCl
2・2H
2O、0.02w/v% CoCl
2・6H
2O、0.016w/v% CuSO
4・5H
2O、0.012w/v% NiCl
2・6H
2Oを溶かしたもの。)、0.05w/v% BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
【0050】
まず、KNK−005株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し種母培養を行なった。次に種母培養液を1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0051】
次に、前培養液を6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS−1000型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度400rpm、通気量6.0L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源としてパーム油、を使用した。培養は64時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0052】
得られた乾燥菌体1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のP3HB3HHを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mlになるまで濃縮後、90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したP3HB3HHをろ別後、50℃で3時間真空乾燥し、P3HB3HHを得た。
【0053】
得られたP3HB3HHの3HH組成分析は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥P3HB3HH20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、P3HB3HH分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度100から200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200から290℃まで30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、3−ヒドロキシヘキサノエート(3HH)のモノマー比率が5.4モル%のP3HB3HHであった。また、3−ヒドロキシブチレート(3HB)のモノマー比率は、94.6モル%であった。GPCで測定した重量平均分子量Mwは61万であり、融点は141℃であった。
【0054】
<実施例1〜10、比較例1〜3>
(溶融紡糸)
製造例1で得られたP3HB3HH(100重量部)に対して0.5重量部のベヘン酸アミドをドライブレンドし、東芝機械社製の2軸押出機(TEM26SS)を用いて130〜160℃で溶融混錬してペレット化した。得られたペレットのMwは53万であった。ついで当該ペレットを、
図2に示すように、スクリュー径20mmの1軸押出機で溶融し、ギアポンプで流量を調整し、溶融紡糸温度160℃〜180℃で、直径が1mmの紡糸孔を4個有する紡糸ダイスから雰囲気温度25℃に1孔あたりの樹脂の吐出量=5.00g/min/holeで押し出し、25℃の巻き取りロールを介して、引取り速度=1,000〜6,000m/分にて引き取り、ポリエステル繊維を得た。
【0055】
溶融紡糸温度、引取り速度等の製造条件は表1に示す。
【0056】
得られたポリエステル繊維について、以下のとおり評価を行った。
【0057】
(紡糸性)
紡糸性は、ダイスの4つの紡糸孔から吐出され引き取りロールに巻いた後のポリエステル繊維の状態を目視評価した。結果は表1に示した。
○:繊維がロールに張り付かず、かつ個々の繊維が互着せずに1本1本分離できる。
△:繊維がロールに貼り付かないが、個々の繊維に部分的な互着が見られる。
×:繊維がロールに固着する、および/または、個々の繊維が互着した状態になる。
【0058】
(β型結晶の量)
β型結晶の量は、リガク社のX線回折装置(RINT)を用い、フィラメント電圧45kV、フィラメント電流60mAで発生させたCuKα線を、ニッケルフィルターを通して使用した。回折強度はリガク社のMercuryCCDを用いて、2次元の回折パターンを測定し、その赤道方向の強度から回折強度分布を算出した。サンプルとカメラの間隔は48.92mmとし、回折角はシリコン結晶の(111)反射を利用して校正した。
得られた回折強度分布の回折角が15°から21°の範囲において、まずは15°から21°に引いた直線を非晶の散乱に基づく強度と見なし、その分を回折強度から差し引いた。その後、15°から18°の間の最大値をI
α、18°から21°の間の最大値をI
βとし、β型結晶の量の指標となるI
β/I
αを計算した。結果は表1に示した。
【0059】
(引張強度)
得られた繊維は、島津社の引張測定装置オートグラフAG−Iを用いて、以下の条件で引張強度を測定した。すなわちサンプルの初期長を20mmとし、20mm/minの速度で測定した。結果は表1に示した。
【0060】
(複屈折量)
複屈折量は、カールツァイス・イエナ社の干渉顕微鏡インターファコを用いて、繊維学会誌Vol.66,No.1(2010)P-39に記載されている通りに測定を行った。なお、浸漬液として
は屈折率1.4813のオイルを使用した。結果は表1に示した。
【0061】
(重量平均分子量)
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(昭和電工社製「Shodex GPC−101」)を用い、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K−804」)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めた。この際、検量線は重量平均分子量31,400、197,000、668,000、1,920,000のポリスチレンを使用して作成した。結果は表1に示した。
【0062】
<実施例11〜18、比較例4〜8>
(溶融紡糸)
製造例1で得られたP3HB3HH(100重量部)に対して0.5重量部のベヘン酸アミドをドライブレンドし、東芝機械社製の2軸押出機(TEM26SS)を用いて130〜160℃で溶融混錬してペレット化した。得られたペレットのMwは53万であった。ついで当該ペレットを、スクリュー径20mmの1軸押出機で溶融し、ギアポンプで流量を調整し、溶融紡糸温度180℃で、直径が1mmの紡糸孔を4個有する紡糸ダイスから雰囲気温度25℃に1孔あたりの樹脂の吐出量=1.25〜5.00g/min/holeで押し出し、25℃の巻き取りロールを介して、引取り速度=500〜4,000m/分にて引き取り、ポリエステル繊維を得た。
【0063】
溶融紡糸温度、引取り速度等の製造条件、および得られたポリエステル繊維について、実施例1と同様に評価を行った結果も表1に示す。
【0064】
【表1】