特許第6592891号(P6592891)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清紡ホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6592891-二次電池用電解液および二次電池 図000013
  • 特許6592891-二次電池用電解液および二次電池 図000014
  • 特許6592891-二次電池用電解液および二次電池 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6592891
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】二次電池用電解液および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20191010BHJP
   H01M 10/39 20060101ALI20191010BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20191010BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20191010BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20191010BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   H01M10/0568
   H01M10/39 D
   H01M4/131
   H01G11/62
   H01G11/60
   H01M12/06 G
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-258863(P2014-258863)
(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2016-119241(P2016-119241A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年10月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】湯山 佳菜子
(72)【発明者】
【氏名】増田 現
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/077894(WO,A1)
【文献】 特開2014−167873(JP,A)
【文献】 特開2014−157836(JP,A)
【文献】 特開2011−253677(JP,A)
【文献】 Separators for Li-ion and Li-Metal Battery Including Ionic Liquid Based Electrolytes Based on the TFSI- and FSI- Anions,International Journal of Molecular Sciences,2014年,15,14868-14890
【文献】 LiFSI-PYR1AFSI Binary Electrolyte Mixtures for Lithium Batteries,ECS Transactions,2010年,25(36),49-60
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0568
H01G 11/60
H01G 11/62
H01M 4/131
H01M 10/39
H01M 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるイオン液体と、リチウム塩とを含み、有機溶媒を含まないことを特徴とする二次電池用電解液。
【化1】
(式中、R1およびR2は、互いに独立して炭素数1〜5のアルキル基を表し、nは、2を表す。)
【請求項2】
前記R1およびR2が、互いに独立してメチル基またはエチル基を表す請求項1記載の二次電池用電解液。
【請求項3】
前記R1およびR2が、共にメチル基である請求項1または2記載の二次電池用電解液。
【請求項4】
前記式(1)で示されるイオン液体と、リチウム塩とのみからなる請求項1〜3のいずれか1項記載の二次電池用電解液。
【請求項5】
前記リチウム塩が、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムヘキサフルオロフォスフェート、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、およびリチウムビス(フルオロスルホニル)アミドから選ばれる1種または2種以上である請求項1〜4のいずれか1項記載の二次電池用電解液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の二次電池用電解液を備えることを特徴とする二次電池。
【請求項7】
正極集電体およびその表面に形成された正極活物質層を有する正極と、負極集電体およびその表面に形成された負極活物質層を有する負極と、これら各極間に介在するセパレータと、電解液とを備えて構成され、
前記電解液が、請求項1〜5のいずれか1項記載の二次電池用電解液であり、前記負極活物質層が、リチウム複合酸化物を含むことを特徴とする二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電解液および二次電池に関し、さらに詳述すると、特定のイオン液体とリチウム塩とを含む二次電池用電解液およびそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ、スマートフォン、タブレット機器などの携帯電子機器の普及がめざましく、これに伴って、それらの機器の電源として用いられる、充電により繰り返し使用できる二次電池の需要が大きく伸びるとともに、その高容量化、高エネルギー密度化の要望がますます高まりつつある。
中でも、3V以上の高い電池電圧を有し、重量当たりのエネルギー密度の大きいリチウム系二次電池が特に注目され、精力的に開発が進められている。
【0003】
このリチウム系二次電池では、一般的に、非プロトン性の有機溶媒に、LiBF4,LiPF6などのイオン導電性塩を溶解させたものが電解質溶液として使用されている。
その一方、リチウム系二次電池の多くは、満充電電池電圧4.2V、放電終止電圧2.7V程度の範囲で充放電するように設計されているが、4V以上の高電圧二次電池では、使用されている有機溶媒や電極活物質が高電圧にさらされ、電気的に分解される場合があった。
【0004】
このような問題を解決する観点から、現在までリチウム系二次電池を構成する材料の改良が種々試みられており、そのような技術の1つとしてイオン液体を電解液の一成分として用いるものがある。
例えば、特許文献1には、リチウム塩、イオン液体および有機溶媒を含む電解質を用いた二次電源が開示され、具体的には、イオン液体として1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(以下、EMIBF4という)が用いられ、そのリチウム塩に対するモル比が特定範囲とされた二次電源が開示されているが、EMIBF4は、比較的粘度が低いという性質を有しているものの、耐電圧が低いため充電電圧が上げられず、高電圧領域では使用できないという問題がある。
【0005】
特許文献2には、特定のアルコキシアルキル基を窒素原子上に有する脂環式アンモニウムカチオンを含むイオン液体と、常温固体のイオン導電性塩とを含んでなる電解液が開示され、具体的には、イオン液体としてN−メトキシエチル−N−メチルピロリジニウムテトラフルオロボレート(以下、MEMPBF4という)等を含む電解液、およびそれを用いた電気二重層キャパシタが開示されているが、MEMPBF4は、リチウム塩の溶解能が不十分であるためリチウム塩濃度を高めることが難しく、また、粘度が高いためイオン液体のみを電解液として用いた場合、内部抵抗が上昇するという問題がある。
【0006】
特許文献3には、リチウム塩とイオン液体とを含み、これらリチウム塩とイオン液体とのアニオンを同一とした電解液を用いたリチウムイオンキャパシタが開示され、具体的には、イオン液体としてN−メチル−N−ブチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)アミド(以下、MBPYFSAという)等が、リチウム塩としてリチウムビス(フルオロスルホニル)アミドが用いられたキャパシタが開示されているが、MBPYFSA等は、EMIBF4と比較してイオン液体自体の粘性が高いため、リチウム塩を添加するとさらに粘性が増加し、リチウムイオン電池に組んだ際の充放電特性が低下するという問題がある。
【0007】
特許文献4には、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオンを有する種々のイオン液体およびその合成法が開示されるとともに、それらのイオン液体が二次電池等の電解質材料として用い得ることが開示され、具体的なイオン液体としてN−メトキシエチル−N−メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)アミド(以下、MEMP・FSA)が開示されているものの、それを適用した二次電池等の特性については明らかにされていない。
【0008】
また、二次電池等の蓄電デバイスは、使用環境や使用状態によっては高温下に晒される場合があるため、そのような高温下での安定性も要求されているが、上述したいずれの文献においても高温環境下での二次電池の性能に関する知見は何ら明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4617727号公報
【特許文献2】特許第5083577号公報
【特許文献3】特開2014−183161号公報
【特許文献4】中国特許出願公開第101747243号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、イオン液体とリチウム塩とを含み、特に高温環境下での性能が良好な二次電池を与える二次電池用電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、所定のピロリジニウムカチオンと、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオンとから構成されるイオン液体が、リチウム塩の溶解能に優れ、リチウム塩と混合した場合でもイオン液体の優れた特性が損なわれないことを見出すとともに、このイオン液体とリチウム塩とを含む電解液を用いて得られた二次電池が、高温環境下においても良好な電池性能を発揮することを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
1. 式(1)で示されるイオン液体と、リチウム塩とを含むことを特徴とする二次電池用電解液、
【化1】
(式中、R1およびR2は、互いに独立して炭素数1〜5のアルキル基を表し、nは、1または2を表す。)
2. 前記R1およびR2が、互いに独立してメチル基またはエチル基を表す1の二次電池用電解液、
3. 前記R1およびR2が、共にメチル基である1または2の二次電池用電解液、
4. 有機溶媒を含まない1〜3のいずれかの二次電池用電解液、
5. 前記式(1)で示されるイオン液体と、リチウム塩とのみからなる1〜4のいずれかの二次電池用電解液、
6. 前記リチウム塩が、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムヘキサフルオロフォスフェート、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、およびリチウムビス(フルオロスルホニル)アミドから選ばれる1種または2種以上である1〜5のいずれかの二次電池用電解液、
7. 1〜6のいずれかの二次電池用電解液を備えることを特徴とする二次電池、
8. 正極集電体およびその表面に形成された正極活物質層を有する正極と、負極集電体およびその表面に形成された負極活物質層を有する負極と、これら各極間に介在するセパレータと、電解液とを備えて構成され、前記電解液が、1〜6のいずれかの二次電池用電解液であり、前記負極活物質層が、リチウム複合酸化物を含むことを特徴とする二次電池
を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イオン液体の優れた特性を損なうことなくリチウム塩を溶解することができ、高温環境下での性能が良好な二次電池を与える電解液を提供することができる。
この電解液に用いられているイオン液体は、耐電圧が高いため、電解液の電位が高電圧領域になる二次電池においても劣化が少なく、また当該電解液を用いて得られた二次電池は、高温時の内部抵抗が下がり、高温環境下で繰り返し充放電を行っても劣化が少ないという特性を有する。
さらに、本発明の電解液に用いられるイオン液体は、リチウム塩の溶解能に優れるとともに粘度が比較的低いため、有機溶媒を使用しない、あるいは使用する場合でもその量を極めて少量とすることができるため、安全性に優れた二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】合成例1で得られたMEMP・FSAの1H−NMRスペクトル図である。
図2】合成例2で得られたMMMP・FSAの1H−NMRスペクトル図である。
図3】実施例1−1,1−2および比較例1−1で調製した各電解液の電位窓測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る二次電池用電解液は、式(1)で示されるイオン液体と、リチウム塩とを含む。
【0016】
【化2】
【0017】
式中、R1およびR2は、互いに独立して炭素数1〜5のアルキル基を表し、nは、1または2を表す。
炭素数1〜5のアルキル基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、c−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、c−ブチル、n−ペンチル、c−ペンチル基等が挙げられるが、直鎖状のアルキル基が好ましく、中でもメチル基、エチル基がより好ましく、メチル基がより一層好ましい。
【0018】
本発明で用いられるイオン液体は、上記特許文献4に記載の方法等により製造することができ、例えば、定法に従って製造したN−アルコキシアルキル−N−アルキルピロリジニウムハライド(例えば、クロライド、ブロマイド等)と、アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム等)のビス(フルオロスルホニル)アミド塩とを水溶媒中でアニオン交換反応させて得ることができる。
【0019】
本発明で好適に用いることができるイオン液体のカチオン構造としては下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
【化3】
【0021】
中でもより熱安定性に優れているという点から、下記(A)のカチオン構造が好ましく、またより低粘度という点から、下記(B)のカチオン構造が好ましい。
【0022】
【化4】
【0023】
本発明の二次電池用電解液を構成する他の成分であるリチウム塩としては、従来リチウム二次電池等の二次電池で汎用されている各種リチウム塩が挙げられ、その具体例としては、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムヘキサフルオロフォスフェート、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド、過塩素酸リチウム、酢酸リチウム、トリフルオロ酢酸リチウム、安息香酸リチウム、p−トルエンスルホン酸リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられ、これらの中でも、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムヘキサフルオロフォスフェート、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミドが好ましい。
【0024】
二次電池用電解液中のリチウム塩濃度は、特に限定されるものではないが、通常、0.5〜3mol/L程度であるが、0.8〜2mol/L程度が好ましく、0.9〜1.5mol/L程度がより好ましい。
【0025】
本発明の二次電池用電解液では、電解液調製に一般的に用いられる非水系有機溶媒を用いることもできるが、本発明で用いる上記イオン液体は、それ自体比較的粘度が低く、また、リチウム塩の溶解能も良好なため、非水系溶媒を用いる場合でもその使用量は電解液中に10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、0質量%(すなわち、液体成分はイオン液体のみ)であることが最適である。
【0026】
非水系有機溶媒を併用する場合、その具体例としては、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン、メチルジグライム、メチルトリグライム、メチルテトラグライム、エチルグライム、エチルジグライム、ブチルジグライム、エチルセルソルブ、エチルカルビトール、ブチルセルソルブ、ブチルカルビトール等の鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキサン等の複素環式エーテル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、3−メチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン、3−エチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン等のラクトン類;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン等のアミド類;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等のカーボネート類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリン類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類などが挙げられ、これらは単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0027】
本発明に係る二次電池は、上述した二次電池用電解液を備えるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、正極集電体およびその表面に形成された正極活物質層を有する正極と、負極集電体およびその表面に形成された負極活物質層を有する負極と、これら各極間に介在するセパレータとを備える一般的な二次電池や、正極(空気極)層と負極層、および各極間に配置された電解液層を有する空気電池において、本発明の二次電池用電解液を適用したものが挙げられる。
【0028】
上記二次電池を構成する各材料としては、従来公知のものから適宜選択して用いればよく、特に限定されるものではないが、その一例を挙げると次のとおりである。
正極集電体の具体例としては、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔等が挙げられ、これらの発泡体や不織布状などの三次元多孔質体を集電体に用いることもできる。
正極活物質の具体例としては、リチウムを可逆的に担持可能である、活性炭、カーボンナノチューブ等の炭素質材料、オリビン型の結晶構造、層状岩塩型の結晶構造、またはスピネル型の結晶構造を有するリチウム酸化物等が挙げられる。活性炭原料としては、やしがら、フェノール樹脂、石油コークス等が挙げられ、また活性炭原料の賦活方法としては水蒸気賦活法、溶融アルカリ賦活法等が挙げられる。リチウム酸化物としては、一般式LiMPO4(Mは、Fe(II)、Mn(II)、Co(II)、Ni(II)の一以上)で表される複合酸化物、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、LiNiO2、LiMnO2、Li2MnO3、LiNi0.8Co0.22等のNiCo系などが挙げられる。
【0029】
負極集電体の具体例としては、銅箔、銅合金箔、ニッケル箔、ニッケル合金箔、ステンレス箔、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔等が挙げられる。
負極活物質の具体例としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な物質であれば特に制限はないが、炭素質材料(黒鉛等)、ケイ素酸化物、ケイ素合金、錫酸化物、錫合金、リチウム単体やリチウム合金を形成することができる金属、例えば、アルミニウム、鉛、錫、インジウム、ビスマス、銀、バリウム、カルシウム、水銀、パラジウム、白金、テルル、亜鉛、ランタン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。炭素質材料またはリチウム複合酸化物が安全性の観点から好ましい。さらにTi(チタン)、Li(リチウム)またはTiおよびLiの双方を含有するもの(例えば、チタン酸リチウム等)が、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。
【0030】
また、上記正極活物質および負極活物質は、導電助剤とともに用いてもよい。
導電助剤としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、酸化チタン、酸化ルテニウム、アルミニウム、ニッケル等が挙げられる。
【0031】
正極および負極活物質層は、以上で説明した活物質、バインダーポリマー、並びに必要に応じて導電助剤および溶媒を含む電極スラリーを、集電体上に塗布し、必要に応じて加熱下で乾燥して形成することができる。
バインダーポリマーとしては、公知の材料から適宜選択して用いることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔P(VDF−HFP)〕、フッ化ビニリデン−塩化3フッ化エチレン共重合体〔P(VDF−CTFE)〕、ポリビニルアルコール、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
溶媒としては、バインダーポリマーの種類に応じて選定されるものであるが、一般的には、N−メチル−2−ピロリドンや水が用いられる。
なお、活物質層を形成した電極は、必要に応じてプレスしてもよい。
【0032】
セパレータの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系セパレータ、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系セパレータ、ポリアミド系セパレータ、ポリイミド系セパレータ、セルロース系セパレータ、ガラス繊維系セパレータなどが挙げられる。
【0033】
本発明の二次電池は、例えば、正極と負極との間にセパレータを介在させてなる電池構造体を、積層、折畳、または捲回させ、必要に応じてコイン型等に形成し、これを電池缶またはラミネートパック等の電池容器に収容したうえで、本発明の二次電池用電解液を充填し、電池缶であれば封缶、ラミネートパックであれば熱溶着(ヒートシール)して得ることができる。
【実施例】
【0034】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で使用した分析装置は下記のとおりである。
[1]1H−NMRスペクトル
装置:日本電子(株)製 AL−400
溶媒:重ジメチルスルホキシド
[2]粘度計
装置:BROOK FIELD社製 プログラマブルレオメーター
[3]電気伝導率
装置:東亜ディーケーケー(株)製 電気伝導率計CM−30R
[4]電位窓
装置:北斗電工(株)製 スタンダードボルタンメトリツールHSV−100
[5]内部抵抗
装置:日置電気(株)製 抵抗計RM3548
【0035】
[1]イオン液体の合成
[合成例1]MEMP・FSAの合成
【化5】
【0036】
ピロリジン(和光純薬工業(株)製)1.51質量部と塩化2−メトキシエチル(関東化学(株)製)1.00質量部とを混合し、還流しながら1時間反応させた。反応後、反応液は2層に分離したが、しばらく放冷すると下層は固化した。デカンテーションにより上層のみ回収し、減圧蒸留により精製し、目的物であるN−2−メトキシエチルピロリジン(沸点76℃/蒸気圧45mmHg)0.96質量部を得た(収率70%)。
得られたN−2−メトキシエチルピロリジン1.00質量部、およびこれに対して2倍容量のトルエン(和光純薬工業(株)製)を混合し、オートクレーブ中に入れ、系内を窒素置換した。密閉系にした後、室温撹拌下で塩化メチルガス(日本特殊化学工業(株)製)約1.00質量部を加えた。塩化メチルガス導入時には温度および内圧の上昇が見られ、最高時で温度は約53℃、内圧は5.5kgf/cm2(約5.4×105Pa)まで上昇した。そのまま加熱せずに反応させ、2日後に塩化メチルガス約0.75質量部を加えた。さらに1日反応させた後、加圧を解除し、系中に生成した結晶を減圧濾過にてろ別し、真空ポンプを用いて乾燥させ、N−2−メトキシエチル−N−メチルピロリジニウムクロライド1.29質量部を得た(収率92%)。
得られたN−2−メトキシエチル−N−メチルピロリジニウムクロライド1.00質量部に当倍容量のイオン交換水を加え、撹拌して溶解させた。この溶液をカリウムビス(フルオロスルホニル)アミド(関東化学(株)製)1.29質量部を当倍容量のイオン交換水に溶かした溶液に撹拌下で加えた。室温で反応させ、3時間以上経過した後に、2層に分離した反応液を分液し、下層の有機層を2回イオン交換水で洗浄後、真空ポンプを用いて乾燥させ、目的物であるN−2−メトキシエチル−N−メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)アミド(MEMP・FSA)1.50質量部を得た(収率83%)。MEMP・FSAの1H−NMRスペクトルを図1に示す。なお25℃での粘度は、35cPであった。
【0037】
[合成例2]MMMP・FSAの合成
【化6】
【0038】
N−メチルピロリジン(和光純薬工業(株)製)14.4質量部をテトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)200質量部に溶かした溶液を氷冷し、撹拌下、クロロメチルメチルエーテル(東京化成工業(株)製)17.1質量部を加えた。一晩反応させた後、析出した固体を、桐山ロートを用い減圧濾過した。得られた白色固体を、真空ポンプを用いて乾燥させ、中間体N−メトキシメチル−N−メチルピロリジニウムクロライド26.7質量部を得た(収率96%)。
得られたN−メトキシメチル−N−メチルピロリジニウムクロライド8.58質量部をイオン交換水10質量部に溶解させた。この溶液をカリウムビス(フルオロスルホニル)アミド(関東化学(株)製)12.5質量部をイオン交換水5質量部に溶かした溶液に撹拌下で加えた。室温で撹拌を一晩継続させた後、2層に分かれた反応液を分液し、下層の有機層をイオン交換水で4回洗浄後、真空ポンプを用いて乾燥させ、目的物であるN−メトキシメチル−N−メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)アミド(MMMP・FSA))を10.2質量部得た(収率63%)。MMMP・FSAの1H−NMRスペクトルを図2に示す。なお25℃での粘度は、20cPであった。
【0039】
[2]二次電池用電解液の調製
[実施例1−1]
合成例1で得られたMEMP・FSAに、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(Li・FSA、関東化学(株)製)を添加し、Li・FSA濃度が1mol/Lの二次電池用電解液を調製した。
【0040】
[実施例1−2]
合成例2で得られたMMMP・FSAを用いた以外は、実施例1−1と同様の方法で二次電池用電解液を調製した。
【0041】
[比較例1−1]
MEMP・FSAに代えて、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMI・BF4、関東化学(株)製)を用いた以外は、実施例1−1と同様の方法で二次電池用電解液を調製した。
【0042】
[比較例1−2]
MEMP・FSAに代えて、特許文献2記載の方法で合成した2−メトキシエチル−N−メチルピロリジニウムテトラフルオロボレート(MEMP・BF4)を用いた以外は、実施例1−1と同様の方法で二次電池用電解液を調製しようとしたが、1mol/LまでLi・FSAを溶解することができず、混濁液であった。
【0043】
[比較例1−3]
MEMP・FSAに代えて炭酸プロピレン(キシダ化学(株)製)を用いるとともに、Li・FSAに代えてリチウムテトラフルオロボレート(Li・BF4、キシダ化学(株)製)を用いた以外は、実施例1−1と同様の方法で二次電池用電解液を調製した。
【0044】
以上で作製した各電解液(比較例1−2は混濁液)について、電気伝導率を測定した。測定は電気伝導率計(CM−30R、東亜ディーケーケー(株)製)を用い、25℃の恒温槽内で計測した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
また、実施例1−1、実施例1−2および比較例1−1で調製した電解液について、電解液の電位窓を測定した。それらの結果を図3に示す。
図3に示されるように、実施例1−1および実施例1−2の電解液の電位窓は比較例1−1の電解液の電位窓よりも広いことが確認された。
【0047】
[3]二次電池の作製
[実施例2−1]リチウムイオンキャパシタ
(1)正の電極構造体の作製
活性炭マックスソーブMSP20(関西熱化学(株)製)と、導電剤(HS−100、電気化学工業(株)製)と、バインダーであるPVDF(アルドリッチ社製)とを85:8:7の質量組成になるように、塗工溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(以下NMP)中で混合し、正の電極用塗工液を調製した。
得られた塗工液を、正の集電体であるエッチドアルミ箔(30CB、日本蓄電器工業(株)製)に塗工した後、ロールプレスで圧延し、さらにNMPを乾燥除去して正の電極を形成し、正の電極構造体を得た。
(2)負の電極構造体の作製
チタン酸リチウム粉末(チタン酸リチウム スピネル、シグマ-アルドリッチ製)と導電剤(HS−100)と、バインダー(PVDF)とを83:8:9の質量組成になるように、塗工溶媒であるNMP中で混合し、負の電極用塗工液を調製した。
得られた塗工液を、正の電極構造体と同様にエッチドアルミ箔(30CB)に塗工した後、ロールプレスで圧延し、さらにNMPを乾燥除去して負の電極を形成し、負の電極構造体を得た。
【0048】
(3)二次電池の作製
上記で得られた正の電極構造体と、負の電極構造体とのそれぞれに、アルミ製の電極取り出し端子をスポット溶着し、セパレータ(TF40−35、ニッポン高度紙工業(株)製)を介してセルを組み立て、アルミラミネート(大日本印刷(株)製)からなる外装容器に挿入した。この中に、実施例1−1で調製した二次電池用電解液を所定量注入した後、25℃、10kPa以下の減圧下で12時間以上静置して電解液を含浸させた後、熱溶着にて封止し、二次電池を得た。
【0049】
[実施例2−2]
実施例1−2で調製した二次電池用電解液を用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0050】
[比較例2−1]
比較例1−1で調製した二次電池用電解液を用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0051】
[比較例2−2]
比較例1−2で調製した二次電池用電解液(混濁液)を用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0052】
[比較例2−3]
比較例1−3で調製した二次電池用電解液を用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0053】
上記で作製した二次電池の初期特性を下記手法により測定した。その結果を表2に示す。
まず、一時間率の電流値で3.2Vまで定電流充電を行い、そのまま30分間、定電圧充電を行い、続いて、一時間率の電流値で3.2Vから1.8Vまで定電流放電したときの全放電エネルギー量から静電容量を算出した。測定は2サイクル実施し、2サイクル目の値を静電容量値とした。内部抵抗は抵抗計(RM3548、日置電気(株)製)にて、充放電試験後に測定を行った。各測定共に25℃の恒温槽中に2時間以上放置した後に計測を行った。
【0054】
【表2】
【0055】
続いて、得られた二次電池を60℃の恒温槽中に2時間以上放置し、初期性能測定と同様に静電容量および内部抵抗を計測した。その結果を表3に示す。
表3に示されるように、温度を上げることにより各二次電池で静電容量の増加が見られた。また実施例2−1および2−2で得られた二次電池は、60℃での内部抵抗が大幅に低下し、初期性能測定時の約1/6にまで低下した。
【0056】
【表3】
【0057】
さらに、得られた二次電池を60℃の恒温槽中で加熱し、サイクル充放電を行った。サイクル回数は、初期性能の充放電を1サイクルとし、20サイクル実施した。サイクル実施後、恒温槽を25℃に戻して2時間放置した後、初期性能測定と同様に性能測定を行った。初期に測定した静電容量および内部抵抗の測定値を100%とし、それらの変化率を算出した。その結果を表4に示す。
表4に示されるように、比較例2−1で作製した二次電池では高温でサイクルを行うことで静電容量が低下した。また、実施例2−1および2−2で作製した二次電池の内部抵抗は、60℃でサイクルを行うと低下する、ないしはほぼ維持される傾向が確認されたのに対し、その他の二次電池の内部抵抗は、60℃でサイクルを行うと上昇する傾向が確認された。
【0058】
【表4】
【0059】
[実施例2−3]リチウムイオン電池
(1)正極の作製
正極活物質(LiCoO2、本庄ケミカル(株)製)と、導電剤(アセチレンブラック、電気化学工業(株)製)と、PVDFをそれぞれ91:3:6の質量組成になるよう調整して溶解した溶液を、NMPと混合してペースト状の正極塗工液を調製した。この正極塗工液をアルミ箔上に乾燥膜厚115μmとなるようにドクターブレードにより塗布した後、80℃で2時間乾燥し、圧延してLiCoO2正電極を形成し、正の電極構造体を得た。
(2)二次電池の作製
上記で得られた正極および負極である金属リチウム箔をそれぞれ12φの大きさに切り取り、セパレータであるポリオレフィン製平膜(ハイポア、旭化成イーマテリアルズ(株)製)を、切り取った各正負極の間に挟み、実施例1−1で得られた電解液を注液・含浸させてコイン型のリチウム二次電池を作製した。
【0060】
上記で得られたリチウムイオン電池について、充電時の上限電圧を4.2V、放電時の終止電圧を3Vとし、電流密度0.025mA/cm2の電流で、充電時は定電流低電圧充電、放電時は定電流放電により充放電試験を行った。
その結果、LiCoO2当たりの放電容量は122.5mAh/gであり、リチウムイオン電池として十分な値を示した。
【0061】
[実施例2−4]空気電池
(1)正極の作製
正極活物質(MCMB、大阪ガスケミカル(株)製)とPVDFを88:22の質量組成になるよう調整し、適量のNMPを混合してペースト状の正極塗工液を調製した。この正極塗工液をアルミ箔上に乾燥膜厚75μmとなるようにドクターブレードにより塗布した後、140℃で72時間乾燥してNMPと水分を除去した後、圧延して正電極を形成し、正の電極構造体を得た。
(2)空気電池の作製
上記で得られた正極および負極である金属リチウム箔を、正極12φ、負極15φの大きさに切り取った。実施例1−1で得られた電解液を、セパレータであるポリオレフィン製平膜(ハイポア、旭化成イーマテリアルズ(株)製)に含浸させ、先に切り取った各正負極の間に挟みこみリチウム空気電池セルを作製した。このセルを、空気孔が形成された正極缶内に、正極集電体が空気孔と対向するように配置した後、負極缶をかぶせ、これらを封缶して空気電池を作製した。得られたセルをガス置換コック付きガラスデシケータ(500mL)内に収容した。ガラスデシケータ内には、酸素が導入可能であり、酸素を正極へ供給することができる構造とした。
【0062】
上記で得られた空気電池について、充電時の上限電圧を3.8V、放電時の終止電圧を2Vとし、電流密度67nA/cm2の電流で、充電時は定電流低電圧充電、放電時は定電流放電により充放電試験を行った。得られた放電容量は、3.3mAhであった。
【0063】
以上のとおり、本発明の二次電池用電解液は電位窓が広く耐電圧性に優れている。また、この電解液を用いて調製された二次電池は、高温時の内部抵抗が著しく低下するとともに、高温時に繰り返し充放電を行っても劣化が少ない、高温環境下での性能に優れたものである。
図1
図2
図3