特許第6592915号(P6592915)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6592915透明電極基板とその製造方法、電子デバイス及び有機ELデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6592915
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】透明電極基板とその製造方法、電子デバイス及び有機ELデバイス
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/28 20060101AFI20191010BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20191010BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20191010BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20191010BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20191010BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20191010BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20191010BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20191010BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20191010BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   H05B33/28
   H01B5/14 A
   H05B33/26 A
   H05B33/26 Z
   H05B33/02
   H05B33/14 A
   H05B33/10
   B32B9/00 Z
   B32B15/04 Z
   H01B13/00 503B
   C09K11/06 690
【請求項の数】12
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2015-35543(P2015-35543)
(22)【出願日】2015年2月25日
(65)【公開番号】特開2016-157639(P2016-157639A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2018年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100155620
【弁理士】
【氏名又は名称】木曽 孝
(72)【発明者】
【氏名】飯島 貴之
(72)【発明者】
【氏名】尾関 秀謙
(72)【発明者】
【氏名】中江 葉月
【審査官】 倉本 勝利
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/029635(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/157515(WO,A1)
【文献】 特開2007−076076(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0168430(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L27/32;H05B33/00−33/28;H01L51/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
金属を主成分として含む導電性層と、前記導電性層と前記基板との間に配置された中間層とを含む透明電極とを含み、
前記中間層は、一方の分子端部に芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を含み、かつ他方の分子端部に親水性基を含む化合物を含む一以上の自己組織化単分子膜であり、
前記化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である、
透明電極基板。
【化1】
(一般式(1)中、
Rは、置換又は無置換の含窒素芳香族複素環基を表し;
は、炭素原子数が2以上のアルキレン基を表し、前記アルキレン基中の炭素原子の一部が酸素原子又は硫黄原子に置き換えられてもよく;
は、炭素原子、ケイ素原子、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−を表し;
−OB、−OB及び−OBは、それぞれヒドロキシ基又はアルコキシ基を表し、かつ−OB、−OB及び−OBは、他分子又は基板表面のヒドロキシ基又はアルコキシ基と縮合していてもよく;
m及びnは、前記Aが炭素原子又はケイ素原子である場合はそれぞれ1を表し、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−の場合はそれぞれ0を表す)
【請求項2】
前記導電性層が、金、銀及び銅からなる群より選ばれる一以上を主成分として含む、請求項1に記載の透明電極基板。
【請求項3】
前記導電性層が、銀を主成分として含む、請求項1又は2に記載の透明電極基板。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明電極基板。
【化2】
(一般式(2)中、
〜Xは、それぞれ炭素原子又は窒素原子を表し、かつX〜Xの少なくとも一つは窒素原子を表し;
〜Rは、それぞれ水素原子又は置換基を表し;
は、炭素原子数が2以上のアルキレン基を表し、前記アルキレン基中の炭素原子の一部が酸素原子又は硫黄原子に置き換えられてもよく;
は、炭素原子、ケイ素原子、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−を表し;
−OB、−OB及び−OBは、それぞれヒドロキシ基又はアルコキシ基を表し、かつ−OB、−OB及び−OBは、他分子又は基板表面のヒドロキシ基又はアルコキシ基と縮合していてもよく;
m及びnは、前記Aが炭素原子又はケイ素原子である場合はそれぞれ1を表し、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−の場合はそれぞれ0を表す)
【請求項5】
前記一般式(2)中のAが、炭素原子又はケイ素原子である、請求項に記載の透明電極基板。
【請求項6】
前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(3)で表される化合物である、請求項4に記載の透明電極基板。
【化3】
(一般式(3)中、
及びRは、それぞれ置換基を表し;
は、炭素原子数が2以上のアルキレン基を表し、前記アルキレン基中の炭素原子の一部が酸素原子又は硫黄原子に置き換えられてもよく;
は、炭素原子、ケイ素原子、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−を表し;
−OB、−OB及び−OBは、それぞれヒドロキシ基又はアルコキシ基を表し、かつ−OB、−OB及び−OBは、他分子又は基板表面のヒドロキシ基又はアルコキシ基と縮合していてもよく;
m及びnは、前記Aが炭素原子又はケイ素原子である場合はそれぞれ1を表し、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−の場合はそれぞれ0を表す)
【請求項7】
前記一般式(3)中のAが、炭素原子又はケイ素原子である、請求項に記載の透明電極基板。
【請求項8】
前記一般式(3)中のLが、炭素原子数6以上の直鎖状アルキレン基である、請求項6又は7に記載の透明電極基板。
【請求項9】
前記基板が、ガラス、ポリエチレンテレフタラート又はポリメタクリル酸メチル樹脂を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の透明電極基板。
【請求項10】
基板を、一般式(4)で表される化合物を含む溶液に浸漬して、前記基板上に前記化合物の自己組織化単分子膜を含む中間層を形成する工程と、
前記中間層上に、導電性層を形成する工程と
を含む、透明電極基板の製造方法。
【化4】
(一般式(4)中、
Rは、置換又は無置換の含窒素芳香族複素環基を表し;
は、炭素原子数が2以上のアルキレン基を表し、前記アルキレン基中の炭素原子の一部が酸素原子又は硫黄原子に置き換えられてもよく;
は、炭素原子、ケイ素原子、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−を表し;
、Y及びYは、それぞれヒドロキシ基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表し;
m及びnは、前記Aが炭素原子又はケイ素原子である場合はそれぞれ1を表し、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−の場合はそれぞれ0を表す)
【請求項11】
請求項1〜のいずれか一項に記載の透明電極基板を含む、電子デバイス。
【請求項12】
陰極及び陽極の一方が設けられた基板と、前記陰極及び前記陽極の他方と、前記陰極と前記陽極との間に配置された発光層とを含み、
前記陰極及び陽極の一方が設けられた基板が、請求項1〜のいずれか一項に記載の透明電極基板である、有機ELデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明電極基板とその製造方法、電子デバイス及び有機ELデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料のエレクトロルミネッセンス(electroluminescence:以下ELと記す)を利用した有機EL素子(有機電界発光素子ともいう)は、数V〜数十V程度の低電圧で発光が可能な薄膜型の完全固体素子であり、高輝度、高発光効率、薄型、軽量といった多くの優れた特徴を有する。このため、各種ディスプレイのバックライト、看板や非常灯等の表示板、照明光源等の面発光体として近年注目されている。
【0003】
このような有機EL素子は、2枚の電極間に有機材料からなる発光層を配置した構成であり、発光層で生じた発光光は電極を透過して外部に取り出される。このため、2枚の電極のうちの少なくとも一方は、透明電極として構成される。
【0004】
透明電極としては、酸化インジウムスズ(SnO−In:Indium Tin Oxide:ITO)等の酸化物半導体系の材料が一般的に用いられているが、ITOと銀とを積層して低抵抗化を狙った検討もなされている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかしながら、ITOは、レアメタルのインジウムを使用しているため材料コストが高く、また抵抗を下げるために成膜後に300℃程度でアニール処理する必要がある。
【0005】
そこで、電気伝導率の高い銀(Ag)を導電性層として、該導電性層の下層に芳香族性に関与しない非共有電子対を有する含窒素有機化合物からなる中間層を設けることで、前記含窒素有機化合物と銀との間に強い相互作用が働いて、優れた光透過率と導電性とを両立した透明電極を作製する方法が提案されている(例えば、特許文献3及び4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−015623号公報
【特許文献2】特開2006−164961号公報
【特許文献3】国際公開第2013/105569号
【特許文献4】国際公開第2013/141097号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3及び4の透明電極は、より高い透明性と導電性とを有することが望まれている。また、特許文献3及び4の透明電極を構成する中間層は、主に乾式法(例えば蒸着法)で形成されている。乾式法は、湿式法と比べると、溶媒を用いない点では有利であるが、成膜速度が小さく、材料の利用効率が低く、装置制約の観点から大面積基板への薄膜形成が難しい点では不利であった。また、曲面を有する基板や複雑な表面形状を有する基板への薄膜形成も難しかった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、より高い透過性と導電性とを有する透明電極基板、それを含む電子デバイス及び有機ELデバイスを提供することを目的とする。好ましくは、さらに材料の利用効率や時間効率が高く、大面積化が可能であり、かつ曲面を有する基板にも形成可能な透明電極基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] 基板と、金属を主成分として含む導電性層と、前記導電性層と前記基板との間に配置された中間層とを含む透明電極とを含み、前記中間層は、一方の分子端部に芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を含み、かつ他方の分子端部に親水性基を含む化合物を含む、一以上の自己組織化単分子膜である、透明電極基板。
[2] 前記導電性層が、金、銀及び銅からなる群より選ばれる一以上を主成分として含む、[1]に記載の透明電極基板。
[3] 前記導電性層が、銀を主成分として含む、[1]又は[2]に記載の透明電極基板。
[4] 前記化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である、[1]〜[3]のいずれかに記載の透明電極基板。
【化1】
(一般式(1)中、
Rは、置換又は無置換の含窒素芳香族複素環基を表し;
は、炭素原子数が2以上のアルキレン基を表し、前記アルキレン基中の炭素原子の一部が酸素原子又は硫黄原子に置き換えられてもよく;
は、炭素原子、ケイ素原子、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−を表し;
−OB、−OB及び−OBは、それぞれヒドロキシ基又はアルコキシ基を表し、かつ−OB、−OB及び−OBは、他分子又は基板表面のヒドロキシ基又はアルコキシ基と縮合していてもよく;
m及びnは、前記Aが炭素原子又はケイ素原子である場合はそれぞれ1を表し、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−の場合はそれぞれ0を表す)
[5] 前記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である、[4]に記載の透明電極基板。
【化2】
(一般式(2)中、
〜Xは、それぞれ炭素原子又は窒素原子を表し、かつX〜Xの少なくとも一つは窒素原子を表し;
〜Rは、それぞれ水素原子又は置換基を表し;
は、炭素原子数が2以上のアルキレン基を表し、前記アルキレン基中の炭素原子の一部が酸素原子又は硫黄原子に置き換えられてもよく;
は、炭素原子、ケイ素原子、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−を表し;
−OB、−OB及び−OBは、それぞれヒドロキシ基又はアルコキシ基を表し、かつ−OB、−OB及び−OBは、他分子又は基板表面のヒドロキシ基又はアルコキシ基と縮合していてもよく;
m及びnは、前記Aが炭素原子又はケイ素原子である場合はそれぞれ1を表し、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−の場合はそれぞれ0を表す)
[6] 前記一般式(2)中のAが、炭素原子又はケイ素原子である、[5]に記載の透明電極基板。
[7] 前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(3)で表される化合物である、[4]〜[6]のいずれかに記載の透明電極基板。
【化3】
(一般式(3)中、
及びRは、それぞれ置換基を表し;
は、炭素原子数が2以上のアルキレン基を表し、前記アルキレン基中の炭素原子の一部が酸素原子又は硫黄原子に置き換えられてもよく;
は、炭素原子、ケイ素原子、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−を表し;
−OB、−OB及び−OBは、それぞれヒドロキシ基又はアルコキシ基を表し、かつ−OB、−OB及び−OBは、他分子又は基板表面のヒドロキシ基又はアルコキシ基と縮合していてもよく;
m及びnは、前記Aが炭素原子又はケイ素原子である場合はそれぞれ1を表し、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−の場合はそれぞれ0を表す)
[8] 前記一般式(3)中のAが、炭素原子又はケイ素原子である、[7]に記載の透明電極基板。
[9] 前記一般式(3)中のLが、炭素原子数6以上の直鎖状アルキレン基である、[7]又は[8]に記載の透明電極基板。
[10] 前記基板が、ガラス、ポリエチレンテレフタラート又はポリメタクリル酸メチル樹脂を含む、[1]〜[9]のいずれかに記載の透明電極基板。
[11] 基板を、一般式(4)で表される化合物を含む溶液に浸漬して、前記基板上に前記化合物の自己組織化単分子膜を含む中間層を形成する工程と、前記中間層上に、導電性層を形成する工程とを含む、透明電極基板の製造方法。
【化4】
(一般式(4)中、
Rは、置換又は無置換の含窒素芳香族複素環基を表し;
は、炭素原子数が2以上のアルキレン基を表し、前記アルキレン基中の炭素原子の一部が酸素原子又は硫黄原子に置き換えられてもよく;
は、炭素原子、ケイ素原子、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−を表し;
、Y及びYは、それぞれヒドロキシ基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表し;
m及びnは、前記Aが炭素原子又はケイ素原子である場合はそれぞれ1を表し、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−の場合はそれぞれ0を表す)
[12] [1]〜[10]のいずれかに記載の透明電極基板を含む、電子デバイス。
[13] 陰極及び陽極の一方が設けられた基板と、前記陰極及び前記陽極の他方と、前記陰極と前記陽極との間に配置された発光層とを含み、前記陰極及び陽極の一方が設けられた基板が、[1]〜[10]のいずれかに記載の透明電極基板である、有機ELデバイス。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い透過性と導電性とを有する透明電極、それを含む電子デバイス及び有機ELデバイスを提供することができる。好ましくは、さらに材料の利用効率や時間効率が高く、大面積化が可能であり、かつ曲面を有する基板にも形成可能な透明電極基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】透明電極基板の構成の一例を示す模式図である。
図2】自己組織化単分子膜を形成する化合物の好ましい一様態を示す図である。
図3図2の化合物を含む自己組織化単分子膜の一例を示す模式図である。
図4】一層の自己組織化単分子膜で構成される中間層の一例を示す模式図である。
図5】二層以上の自己組織化単分子膜で構成される中間層の一例を示す模式図である。
図6】ディップ法による中間層の形成工程の一例を示す説明図である。
図7】本発明の透明電極基板を含む有機ELデバイスの第1例を示す概略断面図である。
図8】本発明の透明電極基板を含む有機ELデバイスの第2例を示す概略断面図である。
図9】照明装置の第1例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、基板と、中間層と、導電性層とを含む透明電極基板において、中間層を「一方の分子端部に芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を含み、かつ他方の分子端部に親水性基を含む化合物」を含む一以上の自己組織化単分子膜(Self Assembled Monolayer;SAM)とすることで、高い光透過率と高い導電性(低い抵抗値)とを両立できることを見出した。この理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
【0013】
上記自己組織化単分子膜は、上記化合物の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が導電性層と隣接し、かつ親水性基が基板と隣接するように配向した構造を有しうる。その結果、中間層上に導電性層を形成する際に、導電性層の金属成分が中間層を構成する上記化合物の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基と高効率で相互作用し、導電性層の金属成分の凝集を抑制しうる。その結果、導電性層を単分散型で成長させやすくし、高透過率・低抵抗な導電性層を形成することができる。
【0014】
また、上記自己組織化単分子膜は、上記化合物を、好ましくはディップ法(浸漬法)で形成することで得ることができる。その結果、材料の利用効率や時間効率を高めることができ、かつ大面積化も図ることができる。さらに、曲面を有する基板、複雑な形状を有する基板及び剛性の大きい基板にも、比較的容易に均一な厚みの透明電極を形成することができる。本発明は、このような知見に基づきなされたものである。
【0015】
1.透明電極基板
透明電極基板は、基板と、透明電極とを含む。透明電極は、導電性層と、該導電性層と基板との間で、かつ導電性層と隣接して配置された中間層とを含む。中間層は、一方の分子端部に芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有し、かつ他方の分子端部に親水性基を有する化合物を含む一以上の自己組織化単分子膜である。
【0016】
図1は、透明電極基板の構成の一例を示す模式図である。図1に示されるように、透明電極基板10は、基板11と、透明電極1とを含む。透明電極1は、導電性層1bと、導電性層1bと基板11との間で、かつ導電性層1bに隣接して設けられる中間層1aとを有する。
【0017】
1-1.基板11
基板11を構成する材質の例には、ガラス、プラスチック等が挙げられる。基板11は、透明であっても不透明であってもよい。透明電極基板10が、基板11側から光を取り出す電子デバイスに用いられる場合には、基板11は透明であることが好ましい。透明な基板11を構成する材質の例には、ガラス、石英、及び透明樹脂フィルムを挙げることができる。
【0018】
ガラスの例には、シリカガラス、ソーダ石灰シリカガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。
【0019】
樹脂フィルムの例には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル又はポリアリレート
類、アートン(商品名JSR社製)及びアペル(商品名三井化学社製)等のシクロオレフィン系樹脂のフィルムが挙げられる。
【0020】
基板の表面には、中間層1aとの密着性、耐久性及び平滑性を付与する観点から、必要に応じて研磨等の物理的処理が施されていてもよいし、無機物又は有機物からなる被膜や、これらの被膜を組み合わせたハイブリッド被膜が形成されていてもよい。
【0021】
このような被膜及びハイブリッド被膜は、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度90±2%)が0.01g/m・24h以下のバリアー性被膜であることが好ましい。さらには、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3ml/m・24h・atm以下、及び水蒸気透過度が1×10−5g/m・24h以下の高バリアー性被膜であることが好ましい。
【0022】
バリアー性被膜を構成する材料は、水分や酸素等の浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等でありうる。さらに、当該バリアー性被膜の脆弱性を改良するために、これら無機材料からなる層(無機層)と有機材料からなる層(有機層)の積層構造とすることがより好ましい。無機層と有機層との積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0023】
バリアー性被膜は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等で形成されてよい。中でも、特開2004−68143号公報に記載の大気圧プラズマ重合法で形成されたものが特に好ましい。一方、基板11を不透明な材料で構成する場合には、例えば、アルミニウム、ステンレス等の金属基板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等を用いることができる。
【0024】
基板は、通常、フィルム状又は板状を有しうるが、用途に応じて種々の形状を有してもよい。例えば、基板の少なくとも一部は、曲面形状や凹凸形状を有していてもよい。
【0025】
基板の厚み(厚みが均一でない基板の場合は、基板の最小厚み)は、用途にもよるが、例えば1〜10000μm程度であり、10〜1000μmであることが好ましく、10〜500μmであることがより好ましい。
【0026】
1-2.中間層1a
中間層1aは、一以上の自己組織化単分子膜で構成されている。自己組織化単分子膜は、一方の分子端部に芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有し、かつ他方の分子端部に親水性基を有する化合物を含む。
【0027】
上記化合物の芳香族炭化水素環基における芳香族炭化水素環の例には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環等が含まれる。
【0028】
上記化合物の芳香族複素環基における芳香族複素環は、導電性層に含まれる金属との高い相互作用が得られやすい点では、含窒素芳香族複素環であることが好ましい。含窒素芳香族複素環は、窒素原子を環構成原子として含む芳香族複素環であり、その例には、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、オキサゾール環、チアゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環等が含まれる。これらのうち、二以上の環は縮合していてもよい。
【0029】
芳香族炭化水素環又は芳香族複素環は、置換基をさらに有してもよい。置換又は無置換の芳香族炭化水素環基の総炭素原子数は、例えば6〜20としうる。置換又は無置換の芳香族複素環基の総炭素原子数は、例えば3〜20としうる。
【0030】
芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が有しうる置換基の例には、アリール基(例えばフェニル基)、ヘテロアリール基(例えばイミダゾリル基、ピリジニル基、ベンゾピリジニル基等)、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基)、アルコキシ基(例えばメトキシ基)、チオール基、アミノ基、ハロゲン原子(例えば塩素原子、フッ素原子)等が含まれる。
【0031】
これらの中でも、導電性層に含まれる金属との高い相互作用が得られやすい点から、置換又は無置換の含窒素芳香族複素環基が好ましく、「芳香族性に関与しない非共有電子対を有する窒素原子」を環構成原子として含む置換又は無置換の含窒素芳香族複素環基がより好ましい。
【0032】
「芳香族性に関与しない非共有電子対を有する窒素原子」とは、非共有電子対を有する窒素原子であって、当該非共有電子対が共役不飽和環構造(芳香環)上の非局在化したπ電子系に、芳香性発現のために必須のものとして関与していないものをいう。「芳香族性に関与しない非共有電子対を有する窒素原子」の詳細は、特願2014−213474の段落0057〜0079の記載された通りである。そのような窒素原子は求核性が強く、金属原子に対する配位性も高いことから、導電性層1bを構成する金属(好ましくは金、銀又は銅)との間で高い相互作用を発現しうると考えられる。
【0033】
「芳香族性に関与しない非共有電子対を有する窒素原子」を環構成原子として含む含窒素芳香族複素環の例には、前述した含窒素芳香族複素環のうち、ピロール環以外のものが含まれる。
【0034】
上記化合物の親水性基は、基板に対して親和性を有する基である。そのような親水性基の例には、−SiZ3−n(OR)、−CZ3−n(OR)、−NHC(=O)(OR)及び−C(=O)(OR)が含まれる。R及びZは、それぞれ水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表す。nは、1〜3の整数を表す。−ORは、隣接する他分子又は基板のヒドロキシ基又はアルコキシ基と縮合していてもよい。
【0035】
上記化合物の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基と親水性基とは、2価の有機基で連結されている。2価の有機基の例には、炭素原子数2以上のアルキレン基、アルケニレン基等が含まれる。
【0036】
上記化合物は、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化5】
【0037】
一般式(1)のRは、置換又は無置換の含窒素芳香族複素環基を表す。置換又は無置換の含窒素芳香族複素環基は、前述の置換又は無置換の含窒素芳香族複素環基と同義であり、それに含まれる含窒素芳香族複素環は、ピリジン環、イミダゾール環又はトリアジン環であることが好ましい。
【0038】
一般式(1)のLは、炭素原子数2以上のアルキレン基を表す。炭素原子数2以上のアルキレン基は、好ましくは炭素原子数2〜20のアルキレン基であり、より好ましくは炭素原子数6〜9のアルキレン基である。アルキレン基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよいが、密度の高い自己組織化単分子膜を形成する観点では、直鎖状であることが好ましい。炭素原子数2以上のアルキレン基の例には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が含まれる。アルキレン基中の炭素原子の一部が酸素原子又は硫黄原子に置き換えられてもよい。そのようなアルキレン基の例には、ポリオキシアルキレン基(例えばポリエチレンオキシ基等)等が含まれる。
【0039】
一般式(1)のAは、炭素原子、ケイ素原子、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−を表す。これらの中でも、基板との親和性が得られやすい点から、炭素原子及びケイ素原子が好ましい。
【0040】
一般式(1)の−OB、−OB及び−OBは、それぞれヒドロキシ基又はアルコキシ基を表す。−OB、−OB及び−OBは、それぞれ隣接する他分子又は基板表面のヒドロキシ基又はアルコキシ基と縮合していてもよい。m及びnは、Aが炭素原子又はケイ素原子である場合はそれぞれ1を表し、−C(=O)−又は−NH−C(=O)−の場合はそれぞれ0を表す。
【0041】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【化6】
【0042】
一般式(2)のX〜Xは、それぞれ炭素原子又は窒素原子を表す。但し、X〜Xの少なくとも一つは窒素原子を表す。
【0043】
一般式(2)のR〜Rは、それぞれ水素原子又は置換基を表す。置換基は、前述の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が有しうる置換基と同義である。これらの中でも、置換基は、アリール基又はヘテロアリール基であることが好ましく、導電性層に含まれる金属との高い相互作用が得られやすい点から、ヘテロアリール基であることがより好ましく、「芳香族性に関与しない非共有電子対を有する窒素原子」を含むヘテロアリール基(例えばイミダゾリル基、ピリジニル基)であることが更に好ましい。
【0044】
一般式(2)のL、A、B、B、B、m及びnは、一般式(1)のL、A、B、B、B、m及びnとそれぞれ同義である。
【0045】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(3)で表される化合物であることがより好ましい。
【化7】
【0046】
一般式(3)のR及びRは、一般式(2)のR〜Rとそれぞれ同義である。一般式(3)のL、A、B、B、B10、m及びnは、一般式(1)のL、A、B、B、B、m及びnとそれぞれ同義である。
【0047】
一方の分子端部に芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を含み、かつ他方の分子端部に親水性基を含む化合物の例には、以下の化合物(1)〜(28)が含まれる。
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【0048】
図2は、自己組織化単分子膜を構成する化合物の好ましい一例を示す。図2で示される化合物は、一方の分子端部に基板と親和性の高い置換基(−Si(OB))を有し、他方の分子端部に導電性層と親和性の高い置換基(イミダゾール環で置換されたトリアジン環)を有し、これらの置換基が棒状の直鎖状アルキル基を介して結合した構造を有する。
【0049】
図3は、図2で示される化合物を含む自己組織化単分子膜の一例を示す模式図である。図3の−Si−Oは、基板と親和性の高い置換基である。−Si−Oの酸素原子は、化合物中のケイ素原子と共有結合している一方で、基板に由来する水素原子、炭素原子又はケイ素原子と共有結合又は非共有結合している。これらの結合は、自己組織化単分子膜を構成する化合物と基板とが相互作用(例えば化学吸着)することによって形成される。当該相互作用は、ガラス、ポリエチレンテレフタラート及びポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を主成分とする基板を用いた場合に、特に得られやすい。
【0050】
図3のイミダゾール環は、導電性層と親和性の高い置換基である。イミダゾール環の窒素原子は、導電性層の主成分である金属原子(例えば銀原子)と相互作用(例えば配位結合)している。
【0051】
このように上記化合物は、一方の分子端部に基板と相互作用する置換基を有し、かつ他方の分子端部に導電性層と相互作用する置換基を有することで、自己組織化単分子膜を形成しうる。さらに、これらの置換基同士を結合する直鎖状アルキル基も自己組織化単分子膜を形成しやすくしている。即ち、図3で示されるように、上記化合物が規則的に配列している場合、隣接するアルキル基同士の分子間力が働くことによる疎水性効果が得られやすい。それにより、横方向のパッキングも強固になり、密度の高い自己組織化単分子膜を形成しうる。
【0052】
中間層1aが自己組織化単分子膜で構成されるかどうかは、中間層1aが形成された基板の断面をTEM観察して確認することができる。具体的には、
1)中間層1aを形成した基板を、基板の厚み方向に切断して、厚み0.1μmの試料を得る。
2)得られた試料の切断面を、透過電子顕微鏡装置にて撮像して、TEM像を得る。透過電子顕微鏡装置としては、JEM−2000FX(日本電子株式会社製)を用いることができる。加速電圧を1.0kV程度とし、観察倍率を100,000倍とし;観察視野範囲を1.0μmとしうる。そのような条件で観察したときに、上記化合物の分子の大部分(例えば60%以上)が規則的に配列していることが確認できれば、自己組織化単分子膜であると判断することができる。
【0053】
中間層1aは、一層の自己組織化単分子膜で構成されてもよいし(図4参照);二層以上の自己組織化単分子膜で構成されてもよい(図5参照)。
【0054】
一層の自己組織化単分子膜で構成される中間層は、L膜(Langmuir膜)でありうる(図4参照)。この場合、自己組織化単分子膜を構成する化合物の分子の長軸方向の長さが、中間層の厚みとなることから、必要最小量の分子数で機能的な薄膜を形成することができる。従って、材料の利用効率を高めることができる点で優れる。二層以上の自己組織化単分子膜で構成される中間層は、自己組織化単分子膜が縦方向に複数積層されたLB膜(Langmuir−Blodgett膜)でありうる(図5参照)。
【0055】
中間層1aの厚みは、求められる特性にもよるが、例えば1〜30nmであることが好ましく、5〜10nmであることがより好ましい。
【0056】
中間層1aの下部、即ち中間層1aと基板11との間に、必要に応じて他の層が設けられてもよい。
【0057】
1-3.導電性層1b
導電性層1bは、中間層1a上に設けられ、金属を主成分として含む。導電性層1bを構成する金属は、金、銀又は銅或いはそれらの合金を含むことが好ましく、銀又はその合金を含むことがより好ましい。
【0058】
銀(Ag)を含む合金の例には、銀マグネシウム(AgMg)、銀銅(AgCu)、銀パラジウム(AgPd)、銀パラジウム銅(AgPdCu)、銀インジウム(AgIn)等が挙げられる。
【0059】
導電性層1bが金属を主成分として含むとは、導電性層1bを構成する成分のうち、金属の構成比率が最も高いことをいう。つまり、導電性層における金属(好ましくは銀又はその合金)の含有量は、導電性層1bを構成する成分の合計量に対して60質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることが特に好ましい。
【0060】
導電性層1bは、一層でも多層であってもよい。例えば、導電性層1bは、必要に応じて金、銀、銅又はそれらの合金を主成分として含み、かつ組成が異なる層が、複数の層に分けて積層された構成であってもよい。
【0061】
導電性層1bの厚みは、5〜20nmであることが好ましく、5〜12nmであることがより好ましい。導電性層1bの厚みが20nm以下であると、導電性層1bの吸収成分又は反射成分が少なくなり、透明電極の光透過率を十分に高めうる。導電性層1bの厚みが5nm以上であると、導電性層1bの導電性を十分に高めうる。
【0062】
導電性層1bの上部は、保護膜で覆われていてもよいし、別の導電性層がさらに積層されていてもよい。この場合、透明電極1の光透過性を損なうことのないように、保護膜及び別の導電性層が光透過性を有することが好ましい。
【0063】
1-4.透明電極1の物性
透明電極1は、高い光透過率と低い抵抗値とを有する。具体的には、透明電極1の測定光波長550nmにおける光透過率は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
【0064】
透明電極1の光透過率は、以下の手順で測定することができる。
1)透明電極基板の測定光波長550nmでの光透過率を、分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製U−3300)を用いて測定する。
2)リファレンスとして、透明電極が設けられていない基板の測定光波長550nmでの光透過率を、前述と同様にして測定する。
3)上記1)と2)で得られた光透過率の差を「透明電極の光透過率」とする。
【0065】
透明電極1のシート抵抗値は、20Ω/□以下であることが好ましく、10Ω/□以下であることがより好ましい。透明電極のシート抵抗値(Ω/□)は、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製MCP−T610)を用いて、4探針法定電流印加方式にて測定されうる。
【0066】
透明電極1の厚みは、通常、6〜50nmであり、6〜20nmであることがより好ましい。
【0067】
1-5.作用
透明電極基板10は、基板11と、透明電極1とを含み;透明電極1は、中間層1aと、導電性層1bとを含む。中間層1aは、前述の一以上の自己組織化単分子膜で構成されうる。
【0068】
それにより、中間層1a上に導電性層1bを成膜する際に、導電性層1bの主成分となる金属原子(好ましくは金原子、銀原子又は銅原子)が、中間層1aを構成する化合物中の金属原子と親和性のある置換基と相互作用する。その結果、中間層1a上での金属原子の拡散距離が短くなり、特異箇所での金属原子の凝集を抑制することができると推察される。このような相互作用は、金属原子が、金原子、銀原子銅原子を主成分とする場合、特に銀原子を主成分とする場合に特に有効に発現すると考えられる。それにより、導電性層1bの主成分となる金属原子が、中間層1a上に2次元的な核を形成し、それを中心に2次元の単結晶層を形成するという層状成長型(Frank−van der Merwe:FM型)の膜成長によって成膜されると考えられる。
【0069】
即ち、従来は、中間層1a表面において付着した金属原子が表面を拡散しながら結合して3次元的な核を形成し、3次元的な島状に成長するという島状成長型(Volumer−Weber:VW型)での膜成長により、島状に成膜されやすかったと考えられる。これに対して本発明では、中間層1aを構成する「一方の分子端部に芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を含み、かつ他方の分子端部に親水性基を含む化合物」により、島状成長が抑制され、層状成長が促進されると推察される。
【0070】
また、中間層1aが上記化合物を含むことで、強制劣化条件下においても、導電性層1bが脱離することなく、初期の含有量を維持することができる。そのため、透明電極は、強制劣化条件下においても高透過率と低抵抗値とを維持有するものと推定される。
【0071】
従って、薄くても均一な厚みの導電性層1bを得ることができる。その結果、高い光透過率を有しつつも、高い導電性を有する透明電極を得ることができると推察される。さらに、湿式法による成膜が可能となり、作製条件の幅が広がる点で有効である。
【0072】
2.透明電極基板の製造方法
本発明の透明電極基板の製造方法は、1)基板上に中間層を形成する工程と、2)中間層上に導電性層を形成する工程とを含む。
【0073】
1)の工程について
中間層の形成は、前述の自己組織化単分子膜として形成できる方法であれば、任意の方法で行うことができ、例えば塗布法、インクジェット法、スピンコート法、ディップ法等の湿式法や;蒸着法(抵抗加熱、EB法等)、スパッタ法、CVD法等の乾式法で行うことができる。これらの中でも、自己組織化単分子膜を形成しやすい点から、湿式法が好ましく、ディップ法が特に好ましい。
【0074】
図6は、ディップ法による中間層の形成工程の一例を示す説明図である。図6に示されるように、ディップ法による中間層の形成工程は、(a)「一方の分子端部に芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を含み、かつ他方の分子端部に親水性基を含む化合物」の前駆体を含む溶液を調製する工程、(b)当該溶液に基板を浸漬し、一定時間静置する工程、及び(c)基板を取り出した後、乾燥させる工程を含む。
【0075】
(a)の工程では、上記化合物の前駆体を、有機溶媒に分散又は溶解させて溶液を調製する。
【0076】
上記化合物の前駆体は、上記化合物に含まれる親水性基「−SiZ3−n(OR)、−CZ3−n(OR)、−NHC(=O)(OR)及び−C(=O)(OR)」を「−SiZ3−n、−CZ3−n、−NHC(=O)Y及び−C(=O)Y」とした化合物でありうる。R及びZは、それぞれ水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表す。nは、1〜3の整数を表し、好ましくは3である。Yは、ヒドロキシ基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表す。アルコキシ基は、炭素原子数1〜5のアルコキシ基であることが好ましく、その例には、メトキシ基、エトキシ基等が含まれる。ハロゲン原子の例には、フッ素原子、塩素原子及びヨウ原子が含まれる。そのような前駆体は、一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【化12】
【0077】
一般式(4)のR、L、A、m及びnは、それぞれ一般式(1)のR、L、A、m及びnとそれぞれ同義である。Y、Y及びYは、それぞれヒドロキシ基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表す。
【0078】
有機溶媒は、特に制限はないが、高い汎用性及び環境負荷の抑制という観点から、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、PGME(1−メトキシ−2−プロパノール)、酢酸メチル、MEK(メチルエチルケトン)及び水等であることが好ましい。
【0079】
溶液中の前駆体の含有量は、0.1〜5質量%程度としうる。
【0080】
(b)の工程では、基板を、上記調製した溶液に浸漬する。浸漬温度は、自己組織化単分子膜を形成しやすくする観点から、一定以上の温度にすることが好ましく、例えば10〜100℃であることがより好ましく、20〜80℃であることが更に好ましい。浸漬時間は、10分間〜10時間であることが好ましく、10分間〜2時間であることがより好ましい。
【0081】
(c)の工程では、浸漬後の基板を溶液から取り出して乾燥させる。乾燥方法は、特に制限されない。自然乾燥でもよいし、乾燥風を当てて乾燥してもよい。
【0082】
ディップ法は、自己組織化単分子膜を形成しやすいだけでなく、真空蒸着法やスピンコート法等と比べて材料の利用効率、時間効率及び大面積化にも優れる。また、曲面を有する基板や複雑な形状を有する基板上にも均一な厚みの透明電極を形成できる。これらの観点から、30mm×30mmの基板に、一定の材料利用量(1g程度)で中間層を形成する場合について、ディップ法と、それ以外の方法(真空蒸着法及びスピンコート法)とを対比する(表1参照)。
【表1】
【0083】
真空蒸着法は、材料を蒸着ボートに充填して蒸着機内部にセットし、他方成膜する基板をセットして、所望の真空度まで蒸着機内部の減圧を行い、所望の蒸着レートに安定するまで通電を行い、所望の厚みになるまで蒸着を行う成膜方法である。操作方法の簡易性と、一度に多数の基板に成膜できるというメリットはあるが、準備や減圧時間を考慮すると、多大な時間を要し、一度の成膜であっても2時間以上要するというデメリットもある。例えば、ラボの蒸着機を利用する場合、装置サイズの制約から、一度に基板を20個程度しかセットできない。
【0084】
スピンコート法は、スピン台にセットされた基板に、予め調整した溶液を滴下させた後、スピン台を回転させることで基板全体に均一な薄膜を作成する方法である。従って、滴下させた溶液のほとんどは飛散しており、数10nmの薄膜に形成された量はわずかである。滴下させる溶液の調製には、濃度5mg/mlで十分に機能しうる薄膜を形成できると仮定した場合、材料1gで200mlの溶液を調製できる。1度のスピンコート成膜に必要な溶液量を1mlとすると、計200個の薄膜の作成が可能であるが、200回スピンコートを利用して成膜をするためには、3時間以上もの多大な時間を要する。
【0085】
これに対してディップ法は、L膜又はLB膜を形成しやすく、かつ単分子膜で足りるため、調製する溶液の濃度は1mg/ml程度の低濃度でよい。つまり、わずか1gで1Lの溶液を調製できる。さらに、この溶液に基板を浸漬し、30分間程度静置するだけで中間層を形成できる。溶液1Lが満たされた容器内に基板を100個セットできると仮定した場合、わずか1時間で200個を作成することができる。従って、真空蒸着法やスピンコート法よりも時間効率、材料効率ともに高い成膜法であると考えられる。さらに、調製した溶液は、溶解している薄膜形成材料が全て消費されるまで繰り返し利用できる点、溶液量の増加に伴い薄膜作製の大面積化が可能になる点、曲面を有する基板に対しても均一な厚みの薄膜を形成できる点等からも、生産適性に優れた成膜法であると考えられる。
【0086】
2)の工程について
導電性層の形成は、例えば塗布法、インクジェット法、スピンコート法、ディップ法等の湿式法や;蒸着法(抵抗加熱、EB法等)、スパッタ法、CVD法等の乾式法で行うことができる。薄くて均一な厚みに形成しやすい点では、蒸着法が好ましい。
【0087】
導電性層1bが形成される基板上には、有機溶媒に対するリンス耐久性が高い中間層が設けられているため、作製コストの低減の点では、湿式法を用いてもよい。湿式法で形成した導電性層をリンスする有機溶媒は、中間層のリンスに用いられる有機溶媒と同様としうる。
【0088】
導電性層1bを湿式法にて形成する場合、金、銀又は銅を主成分とする導電性インクを用いることが好ましい。これらは、導電性層の厚みを薄くすることで、高い光透過性を実現している本構成においては、粒径の小さい10ナノメートル前後のナノ粒子からなる導電性インクや、錯体からなる導電性インクを用いることが特に好ましい。
【0089】
しかしながら、市販されている導電性インクの多くは、電気回路や光反射膜の作製等が主な用途であるため、これらを通常の使用方法で、光透過性に優れた薄膜の作製をすることは困難である。そこで、該導電性インクを溶媒で希釈する方法や、薄膜形成プロセス条件を最適化させるなどの工夫が必要となる。希釈する溶媒としては、透明電極基板の効果を阻害しない限りにおいて、有機溶媒や水系溶媒等、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。また、導電性層1bは、中間層1a上に成膜されることにより、必要に応じて、導電性層成膜後の高温アニール処理(例えば、100℃以上の加熱プロセス)等を行ってもよい。
【0090】
3.透明電極基板の用途
本発明の透明電極基板は、各種電子デバイスに用いることができる。電子デバイスの例としては、有機ELデバイス、LED(Light Emitting Diode)、液晶表示デバイス、太陽電池、タッチパネル等が挙げられる。これらの電子デバイスにおいて、本発明の透明電極基板は、光透過性を必要とされる電極部材に用いられる。本発明の透明電極基板は、有機ELデバイスの透明電極基板に用いられることが好ましい。
【0091】
即ち、有機ELデバイスは、陰極と陽極の一方が設けられた基板と、陰極と陽極の他方と、陰極と陽極との間に配置された発光層とを含む。陰極と陽極の一方が設けられた基板が、本発明の透明電極基板である。以下において、本発明の透明電極基板を含む有機ELデバイスの実施形態を説明する。
【0092】
3-1-1.有機ELデバイスの第1例
<有機ELデバイスの構成>
図7は、本発明の電子デバイスの一例として、本発明の透明電極基板を含む有機ELデバイスの第1例を示す概略断面図である。
【0093】
図7に示されるように、有機ELデバイス100は、透明基板(基板)13と、封止材17と、それらの間に配置される有機EL素子7とを含む。有機EL素子7は、透明基板13上に設けられた透明電極1と、有機機能層3と、対向電極5aとがこの順に積層された構造を有する。有機ELデバイス100において、透明電極1が設けられた透明基板13が、本発明の透明電極基板でありうる。
【0094】
このように構成された有機ELデバイス100では、透明電極1と対向電極5aで挟持された有機機能層3が発光領域となる。そして、有機ELデバイス100は、発生させた光(以下、発光光hと記す)を、少なくとも透明基板13側から取り出すように構成されている。
【0095】
有機ELデバイス100の層構造は、以下に説明する例に限定されることはなく、一般的な層構造であってもよい。有機ELデバイス100では、透明電極1がアノード(陽極)として機能し、対向電極5aがカソード(陰極)として機能する。
【0096】
有機機能層3は、少なくとも発光層3cを含む。有機機能層3は、アノードである透明電極1側から順に、正孔注入層3a/正孔輸送層3b/発光層3c/電子輸送層3d/電子注入層3eを積層して構成されうる。正孔注入層3a及び正孔輸送層3bは、正孔輸送注入層として設けられていてもよい。電子輸送層3d及び電子注入層3eは、電子輸送注入層として設けられていてもよい。有機機能層3のうち、例えば電子注入層3eは無機材料で構成されているものとしてもよい。
【0097】
有機機能層3は、必要に応じて正孔阻止層や電子阻止層等を必要な箇所に含んでいてもよい。さらに、発光層3cは、各波長領域の発光光を発生させる各色発光層を有し、これらの各色発光層を非発光性の補助層を介して積層した構造を有してもよい。補助層は、正孔阻止層、電子阻止層として機能してもよい。
【0098】
対向電極5aも、必要に応じて他の層との積層構造を有してもよい。透明電極1の低抵抗化を図ることを目的とし、透明電極1の導電性層1bに接して補助電極15が設けられていてもよい。
【0099】
有機ELデバイス100では、有機機能層3の劣化を防止することを目的として、有機EL素子7が、封止材17で封止されている。封止材17は、接着剤19を介して透明基板13側に固定されている。透明基板13上において、透明電極1の端子部分と対向電極5aの端子部分とは、有機機能層3によって互いに絶縁され、かつ封止材17から露出するように設けられている。
【0100】
以下、有機ELデバイス100を構成する主要な層の詳細を説明する。
【0101】
(透明基板13)
透明基板13は、図1の基板11に対応する部材である。そのような透明基板13としては、前述の基板11のうち、光透過性を有する透明な基板11が用いられる。
【0102】
(透明電極1(アノード))
透明電極1は、透明基板13上に設けられた中間層1aと、導電性層1bとをこの順に有する。図7では、透明電極1、特に導電性層1bは、アノードとして機能する。
【0103】
(対向電極5a(カソード))
対向電極5aは、有機機能層3に電子を供給するカソードとして機能する電極膜であり、金属、合金、有機若しくは無機の導電性化合物、又はこれらの混合物等から構成されている。具体的には、アルミニウム、銀、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属、ITO、ZnO、TiO、SnO等の酸化物半導体等が挙げられる。
【0104】
対向電極5aとしてのシート抵抗値は、数百Ω/□以下が好ましく、厚みは通常5nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲内で選ばれる。なお、この有機ELデバイス100が、対向電極5a側からも発光光hを取り出すものである場合には、上述した導電性材料のうちから選択される光透過性の良好な導電性材料により対向電極5aが構成されていればよい。
【0105】
(発光層3c)
発光層3cは、発光材料を含む。発光材料は、リン光発光ドーパント(リン光発光材料、リン光発光化合物、リン光性化合物)を含むことが好ましい。発光層3cは、複数の発光材料を含んでいてもよく、例えばリン光発光ドーパント(リン光発光性化合物)と蛍光ドーパント(蛍光発光材料、蛍光性化合物)とを含んでいてもよいし;ホスト化合物(発光ホスト)と発光材料(発光ドーパント)とを含み、発光層3cをより発光させることが好ましい。
【0106】
発光層3cは、電極又は電子輸送層3dから注入された電子と、正孔輸送層3bから注入された正孔とが再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層3cの層内であっても発光層3cと隣接する層との界面であってもよい。このような発光層3cとしては、含まれる発光材料が発光の要件を満たしていれば、その構成には特に制限はない。また、同一の発光スペクトルや発光極大波長を有する層が複数層あってもよい。この場合、各発光層3c間には非発光性の補助層(図示せず)を有していることが好ましい。
【0107】
発光層3cの厚みの総和は、好ましくは、1〜100nmであることが好ましく、より低い駆動電圧を得ることができることから1〜30nmであることがより好ましい。発光層3cの厚みの総和とは、発光層3c間に非発光性の補助層が存在する場合には、当該補助層も含む厚みである。
【0108】
発光層3cが複数の発光層で構成される場合、各発光層の厚みは、1〜50nmであることが好ましく、1〜20nmであることがより好ましい。積層された複数の発光層が、青、緑、赤のそれぞれの発光色に対応する場合、青、緑、赤の各発光層の厚みの関係については、特に制限はない。
【0109】
(ホスト化合物)
発光層3cに含有されるホスト化合物としては、室温(25℃)におけるリン光発光のリン光量子収率が0.1未満の化合物が好ましく、リン光量子収率が0.01未満の化合物がより好ましい。また、発光層3c層中のホスト化合物の体積比が50%以上であることが好ましい。
【0110】
ホスト化合物としては、公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、又は複数種用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。また、後述する発光材料を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
【0111】
ホスト化合物としては、従来公知の低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもよい。公知のホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、発光の長波長化を防ぎ、かつ高Tg(ガラス転移温度)の化合物が好ましい。ガラス転移温度とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121−2012に準拠した方法により求められる値である。
【0112】
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物を用いることもできる。例えば、特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−3632
27号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報、米国特許出願公開第2003/0175553号明細書、米国特許出願公開第2006/0280965号明細書、米国特許出願公開第2005/0112407号明細書、米国特許出願公開第2009/0017330号明細書、米国特許出願公開第2009/0030202号明細書、米国特許出願公開第2005/0238919号明細書、国際公開第2001
/039234号明細書、国際公開第2009/021126号、国際公開第2008/056746号、国際公開第2004/093207号、国際公開第2005/089025号、国際公開第2007/063796号、国際公開第2007/063754号、国際公開第2004/107822号、国際公開第2005/030900号、国際公開第2006/114966号、国際公開第2009/086028号、国際公開第2009/003898号、国際公開第2012/023947号、特開2008−074939号公報、特開2007−254297号公報、欧州特許第2034538号明細書等が挙げられる。
【0113】
(発光材料)
(1)リン光発光ドーパント
発光層3cに含有される発光材料としては、リン光発光ドーパントが挙げられる。リン光発光ドーパントとは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が25℃において0.01以上の化合物であり、好ましくはリン光量子収率は0.1以上の化合物である。
【0114】
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明においてリン光発光ドーパントを用いる場合、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
【0115】
リン光発光ドーパントの発光の原理としては2種挙げられる。
一つは、キャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーをリン光発光ドーパントに移動させることでリン光発光ドーパントからの発光を得るというエネルギー移動型である。
もう一つは、リン光発光ドーパントがキャリアトラップとなり、リン光発光ドーパント上でキャリアの再結合が起こりリン光発光ドーパントからの発光が得られるというキャリアトラップ型である。いずれの場合においても、リン光発光ドーパントの励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件となる。
【0116】
リン光発光ドーパントは、一般的な有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができるが、好ましくは元素の周期表で8〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、更に好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、又は白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0117】
少なくとも一つの発光層3cに2種以上のリン光発光ドーパントが含有されていてもよく、発光層3cにおけるリン光発光ドーパントの含有量が発光層3cの厚さ方向で変化していてもよい。リン光発光ドーパントの含有量は、好ましくは発光層3cの総量に対し0.1体積%以上30体積%未満である。
【0118】
公知のリン光ドーパントの具体例としては、以下の文献に記載されている化合物等が挙げられる。Nature,395,151(1998)、Appl.Phys.Lett.,78,1622(2001)、Adv.Mater.,19,739(2007)、Chem.Mater.,17,3532(2005)、Adv.Mater.,17,1059(2005)、国際公開第2009/100991号、国際公開第2008/101842号、国際公開第2003/040257号、米国特許出願公開第2006/835469号明細書、米国特許出願公開第2006/0202194号明細書、米国特許出願公開第2007/0087321号明細書、米国特許出願公開第2005/0244673号明細書、Inorg.Chem.,40,1704(2001)、Chem.Mater.,16,2480(2004)、Adv.Mater.,16,2003(2004)、Angew.Chem.lnt.Ed.,2006,45,7800、Appl.Phys.Lett.,86,153505(2005)、Chem.Lett.,34,592(2005)、Chem.Commun.,2906(2005)、Inorg.Chem.,42,1248(2003)、国際公開第2009/050290号、国際公開第2002/015645号、国際公開第2009/000673号、米国特許出願公開第2002/0034656号明細書、米国特許第7332232号明細書、米国特許出願公開第2009/0108737号明細書、米国特許出願公開第2009/0039776号明細書、米国特許第6921915号明細書、米国特許第6687266号明細書、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許出願公開第2006/0008670号明細書、米国特許出願公開第2009/0165846号明細書、米国特許出願公開第2008/0015355号明細書、米国特許第7250226号明細書、米国特許第7396598号明細書、米国特許出願公開第2006/0263635号明細書、米国特許出願公開第2003/0138657号明細書、米国特許出願公開第2003/0152802号明細書、米国特許第7090928号明細書、Angew.Chem.lnt.Ed.,47,1(2008)、Chem.Mater.,18,5119(2006)、Inorg.Chem.,46,4308(2007)、Organometallics,23,3745(2004)、Appl.Phys.Lett.,74,1361(1999)、国際公開第2002/002714号、国際公開第2006/009024号、国際公開第2006/056418号、国際公開第2005/019373号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2007/004380号、国際公開第2006/082742号、米国特許出願公開第2006/0251923号明細書、米国特許出願公開第2005/0260441号明細書、米国特許第7393599号明細書、米国特許第7534505号明細書、米国特許第7445855号明細書、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許出願公開第2008/0297033号明細書、米国特許第7338722号明細書、米国特許出願公開第2002/0134984号明細書、米国特許第7279704号明細書、米国特許出願公開第2006/098120号明細書、米国特許出願公開第2006/103874号明細書、国際公開第2005/076380号、国際公開第2010/032663号、国際公開第2008/140115号、国際公開第2007/052431号、国際公開第2011/134013号、国際公開第2011/157339号、国際公開第2010/086089号、国際公開第2009/113646号、国際公開第2012/020327号、国際公開第2011/051404号、国際公開第2011/004639号、国際公開第2011/073149号、米国特許出願公開第2012/228583号明細書、米国特許出願公開第2012/212126号明細書、特開2012−069737号公報、特開2011−181303号公報、特開2009−114086号公報、特開2003−81988号公報、特開2002−302671号公報、特開2002−363552号公報等である。
中でも、好ましいリン光ドーパントとしてはIrを中心金属に有する有機金属錯体が挙げられる。さらに好ましくは、金属−炭素結合、金属−窒素結合、金属−酸素結合、金属−硫黄結合のうち少なくとも一つの配位様式を含む錯体が好ましい。
【0119】
(2)蛍光ドーパント
発光層3cに含有される蛍光ドーパントは、励起一重項からの発光が可能な化合物であり、励起一重項からの発光が観測される化合物である限り、特に限定されない。蛍光ドーパントとしては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、又は希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。また、近年では遅延蛍光を利用した発光ドーパントも開発されており、これらを用いてもよい。
遅延蛍光を利用した発光ドーパントの具体例としては、例えば、国際公開第2011/156793号、特開2011−213643号公報、特開2010−93181号公報等に記載の化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0120】
(注入層:正孔注入層3a、電子注入層3e)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と発光層3cの間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層3aと電子注入層3eとがある。
【0121】
注入層は、必要に応じて設けることができる。正孔注入層3aであれば、アノードと発光層3c又は正孔輸送層3bとの間、電子注入層3eであれば、カソードと発光層3c又は電子輸送層3dとの間に存在させてもよい。
【0122】
正孔注入層3aは、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン層、酸化バナジウムに代表される酸化物層、アモルファスカーボン層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子層等が挙げられる。
【0123】
電子注入層3eは、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属層、フッ化カリウムに代表されるアルカリ金属ハライド層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物層、酸化モリブデンに代表される酸化物層等が挙げられる。電子注入層3eはごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその厚みは1nm〜10μmの範囲内が好ましい。
【0124】
(正孔輸送層3b)
正孔輸送層3bは、正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層3a、電子阻止層も正孔輸送層3bに含まれる。正孔輸送層3bは、単層又は複数層設けることができる。
【0125】
正孔輸送材料としては、正孔の注入又は輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また、導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0126】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル、N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD)、2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン、N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェ
ニル、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル、N,N,N−トリ(p−トリル)アミン、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン、4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン、3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン、N−フェニルカルバゾール、更には米国特許第5061569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3個スターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔
N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0127】
さらに、これらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
また、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.,Applied Physics Letters,80(2002),p.139に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料を用いることもできる。本発明においては、より高効率の発光素子が得られることから、これらの材料を用いることが好ましい。
【0128】
正孔輸送層3bの厚みについては特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmの範囲内である。この正孔輸送層3bは、上記材料の1種又は2種以上からなる1層構造であってもよい。
【0129】
また、正孔輸送層3bの材料に不純物をドープしてp性を高くすることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
このように、正孔輸送層3bのp性を高くすると、より低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0130】
(電子輸送層3d)
電子輸送層3dは、電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層3e、正孔阻止層も電子輸送層3dに含まれる。電子輸送層3dは、単層構造又は複数層の積層構造として設けることができる。
【0131】
単層構造の電子輸送層3dの電子輸送材料、及び積層構造の電子輸送層3dにおいて発光層3cに隣接する層部分を構成する電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる。)としては、カソードより注入された電子を発光層3cに伝達する機能を有していればよい。このような材料としては、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン、アントロン誘導体及びオキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も
、電子輸送層3dの材料として用いることができる。さらに、これらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0132】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq3)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送層3dの材料として用いることができる。
【0133】
その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送層3dの材料として好ましく用いることができる。また、発光層3cの材料としても用いられるジスチリルピラジン誘導体も電子輸送層3dの材料として用いることができるし、正孔注入層3a、正孔輸送層3bと同様にn型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送層3dの材料として用いることができる。
【0134】
電子輸送層3dは、上記材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層3dの厚みについては特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmの範囲内である。電子輸送層3dは、上記材料の1種又は2種以上からなる1層構造であってもよい。
【0135】
また、電子輸送層3dに不純物をドープし、n性を高くすることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、同10−270172号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。さらに、電子輸送層3dには、カリウムやカリウム化合物等を含有させることが好ましい。カリウム化合物としては、例えば、フッ化カリウム等を用いることができる。このように電子輸送層3dのn性を高くすると、より低消費電力の素子を作製することができる。
【0136】
また、電子輸送層3dの材料(電子輸送性化合物)として、上述した中間層1aを構成する材料と同様のものを用いてもよい。これは、電子注入層3eを兼ねた電子輸送層3dであっても同様である。
【0137】
(阻止層:正孔阻止層、電子阻止層)
阻止層は、上記した有機機能層3の基本構成層の他に、必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0138】
正孔阻止層とは、広い意味では、電子輸送層3dの機能を有する。正孔阻止層は、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、上記の電子輸送層3dの構成を、必要に応じて、正孔阻止層として用いることができる。正孔阻止層は、発光層3cに隣接して設けられていることが好ましい。正孔阻止層の厚みは、3〜100nmであることが好ましく、5〜30nmであることがより好ましい。
【0139】
電子阻止層とは、広い意味では、正孔輸送層3bの機能を有する。電子阻止層は、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、上記の正孔輸送層3bの構成を、必要に応じて、電子阻止層として用いることができる。
【0140】
(補助電極15)
補助電極15は、透明電極1の抵抗を下げる目的で設けられるものであって、透明電極1の導電性層1bに接して設けられる。補助電極15を形成する材料としては、金、白金、銀、銅、アルミニウム等の抵抗が低い金属が好ましい。これらの金属は光透過性が低いため、光取り出し面13aからの発光光hの取り出しの影響のない範囲でパターン形成される。補助電極15の線幅は、光を取り出す開口率の観点から50μm以下であることが好ましく、補助電極15の厚さは、導電性の観点から1μm以上であることが好ましい。
【0141】
(封止材17)
封止材17は、有機EL素子7を覆う板状又はフィルム状の封止部材である。封止材17は、接着剤19によって透明基板13側に固定されるものであってもよく、封止膜であってもよい。このような封止材17は、透明電極1及び対向電極5aの端子部分を露出させる状態で、少なくとも有機機能層3を覆う状態で設けられている。また、封止材17に電極を設け、透明電極1及び対向電極5aの端子部分と、この電極とを導通させるように構成してもよい。
【0142】
板状(フィルム状)の封止材17の例には、ガラス基板、ポリマー基板、金属基板等が挙げられ、これらの基板材料を更に薄型のフィルム状にして用いてもよい。ガラス基板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー基板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属基板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブデン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる1種以上の金属又は合金からなるものが挙げられる。
【0143】
中でも、素子を薄膜化できるということから、封止材として薄型のフィルム状のポリマー基板や金属基板を好ましく使用することができる。フィルム状としたポリマー基板は、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3ml/m・24h・atm以下、及びJIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%)が、1×10−3g/m・24h以下のものであることが好ましい。
【0144】
これらの基板は、凹板状に加工して封止材17として用いてもよい。この場合、上記基板に対してサンドブラスト加工、化学エッチング加工等の加工が施され、凹状が形成される。
【0145】
このような板状の封止材17を透明基板13側に固定するための接着剤19は、封止材17と透明基板13との間に挟持された有機EL素子7を封止するためのシール剤として用いられる。このような接着剤19は、具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることもできる。
【0146】
なお、有機EL素子7を構成する有機材料は、熱処理により劣化する場合がある。このため、接着剤19は、室温(25℃)から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、接着剤19中に乾燥剤を分散させておいてもよい。
封止材17と透明基板13との接着部分への接着剤19の塗布は、市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0147】
また、板状の封止材17と透明基板13と接着剤19との間に隙間が形成される場合、この間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0148】
吸湿性化合物としては、例えば金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類としては、無水塩が好適に用いられる。
【0149】
一方、封止材17として封止膜を用いる場合、有機機能層3を完全に覆い、かつ透明電極1及び対向電極5aの端子部分を露出させる状態で、透明基板13上に封止膜が設けられる。このような封止膜は、無機材料や有機材料を用いて構成される。特に、水分や酸素等、有機機能層3の劣化をもたらす物質の浸入を抑制する機能を有する材料で構成されることとする。このような材料として、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等の無機材料が用いられる。さらに、封止膜の脆弱性を改良するために、これら無機材料からなる膜とともに、有機材料からなる膜を用いて積層構造としてもよい。
【0150】
これらの膜の作製方法については、特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0151】
(保護膜、保護板)
有機ELデバイスは、必要に応じて保護膜をさらに含んでもよい。即ち、保護膜と透明基板13とで、有機EL素子7と封止材17を挟むように設けられてもよい。この保護膜若しくは保護板は、有機EL素子7を機械的に保護するためのものである。特に封止材17が封止膜である場合には、有機EL素子7に対する機械的な保護が十分ではないため、このような保護膜若しくは保護板を設けることが好ましい。
【0152】
保護膜若しくは保護板としては、ガラス板、ポリマー板、これよりも薄型のポリマーフィルム、金属板、これよりも薄型の金属フィルム、又はポリマー材料膜や金属材料膜が適用される。特に、軽量かつ薄膜化ということから、ポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0153】
<有機ELデバイスの製造方法>
図7に示される有機ELデバイス100の製造方法の一例を説明する。
まず、透明基板13上に、前述の中間層1aを湿式法、好ましくはディップ法にて形成する。中間層1aの厚みは、前述の通り、1〜30nm、好ましくは1〜10nmとしうる。
【0154】
次に、中間層1a上に、銀(又は銀を含有する合金)を主成分とする導電性層1bを湿式法又は乾式法にて形成する。導電性層1bの厚みは、前述の通り、5〜20nm、好ましくは8〜12nmとする。それにより、アノードとなる透明電極1を作製する。
【0155】
中間層1aの形成後又は導電性層1bの形成後、必要に応じて補助電極15をさらに形成してもよい。補助電極15の形成は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法、インクジェット法又はエアロゾルジェット法等で行うことができる。
【0156】
次に、この上に正孔注入層3a、正孔輸送層3b、発光層3c、電子輸送層3d、電子注入層3eの順に成膜し、有機機能層3を形成する。これらの各層の成膜は、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、蒸着法、印刷法等があるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から、真空蒸着法又はスピンコート法が特に好ましい。さらに、層ごとに異なる成膜法を適用してもよい。これらの各層の成膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度1×10−6〜1×10−2Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、層の厚み0.1〜5μmで、各条件を適宜選択することが望ましい。
【0157】
以上のようにして有機機能層3を形成した後、この上部にカソードとなる対向電極5aを、蒸着法やスパッタ法等の適宜の成膜法によって形成する。この際、対向電極5aは、有機機能層3によって透明電極1に対して絶縁状態を保ちつつ、有機機能層3の上方から透明基板13の周縁に端子部分を引き出した形状にパターン形成する。これにより、有機EL素子7が得られる。その後、有機EL素子7の透明電極1及び対向電極5aの端子部分を露出させた状態で、少なくとも有機機能層3を覆う封止材17を設ける。それにより、有機ELデバイス100を得ることができる。
【0158】
このような有機ELデバイス100の作製においては、一回の真空引きで一貫して有機機能層3から対向電極5aまで作製するのが好ましい。但し、途中で真空雰囲気から透明基板13を取り出して異なる成膜法を施しても構わない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行う等の配慮が必要となる。
【0159】
このようにして得られた有機ELデバイス100に直流電圧を印加する場合には、アノードである透明電極1を+の極性とし、カソードである対向電極5aを−の極性として、電圧2〜40V程度を印加すると発光が観測できる。また、交流電圧を印加してもよい。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0160】
<有機ELデバイスの作用>
有機ELデバイス100は、高い光透過性と導電性とを有する本発明の透明電極基板10をアノード基板として含み、その上部に有機機能層3と、カソードとなる対向電極5aとを設けて構成される。このため、透明電極1と対向電極5aとの間に十分な電圧を印加して高輝度発光を実現しつつ、透明電極1側からの発光光hの取り出し効率が向上することによる高輝度化を図ることが可能である。さらに、所定輝度を得るための駆動電圧の低減による発光寿命の向上を図ることも可能になる。
【0161】
3-1-2.有機ELデバイスの第2例
<有機ELデバイスの構成>
図8は、本発明の電子デバイスの一例として、本発明の透明電極基板を含む有機ELデバイスの第2例を示す概略断面図である。図8に示される第2例の有機ELデバイス200は、透明電極基板10をカソード基板として用いた以外は図8に示される第1例の有機ELデバイス100とほぼ同様に構成される。以下、第1例と同様の構成要素についての重複する詳細な説明は省略し、第2例の有機ELデバイス200の特徴的な構成を説明する。
【0162】
図8に示されるように、有機ELデバイス200は、第1例と同様に、透明電極1が設けられた透明基板13が、前述の透明電極基板でありうる。このため有機ELデバイス200は、少なくとも透明基板13側から発光光hを取り出せるように構成されている。ただし、図8における透明電極1は、カソード(陰極)として機能し、対向電極5bはアノードとして機能している。このように構成される有機ELデバイス200の層構造は、以下に説明する例に限定されることはなく、一般的な層構造であってもよいことは、第1例と同様である。
【0163】
有機機能層3は、カソードとして機能する透明電極1の上部に、電子注入層3e/電子輸送層3d/発光層3c/正孔輸送層3b/正孔注入層3aをこの順に積層して構成されうる。
【0164】
有機機能層3は、これらの層の他にも、第1例と同様に、必要に応じて他の層をさらに含んでもよい。このような構成において、透明電極1と対向電極5bとで挟持された有機機能層3が、発光領域となることも第1例と同様である。
【0165】
アノードとして用いられる対向電極5bは、金属、合金、有機若しくは無機の導電性化合物、又はこれらの混合物等から構成されている。具体的には、金(Au)等の金属、ヨウ化銅(CuI)、ITO、ZnO、TiO、SnO等の酸化物半導体等が挙げられる。対向電極5bは、これらの導電性材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより作製することができる。
【0166】
アノードとして機能する対向電極5bのシート抵抗値は、数百Ω/□以下であることが好ましい。対向電極5bの厚みは、通常、5nm〜5μmであり、5〜200nmであることがより好ましい。なお、この有機ELデバイス200が、対向電極5b側からも発光光hを取り出せるように構成されている場合、対向電極5bを構成する材料としては、上述した導電性材料のうち光透過性の良好な導電性材料が選択されて用いられる。
【0167】
さらに、有機機能層3の劣化を防止することを目的として、第1例と同様に、少なくとも有機機能層3は、封止材17で封止されている。
【0168】
以上説明した有機ELデバイス200を構成する主要な層のうち、アノードとして用いられる対向電極5b以外の構成要素の詳細な構成は、第1例と同様である。
【0169】
<有機ELデバイスの作用>
以上説明した有機ELデバイス200は、高い光透過性と導電性とを有する本発明の透明電極基板10をカソード基板として用い、この上部に有機機能層3とアノードとなる対向電極5bとを積層して構成されうる。このため、第1例と同様に、透明電極1と対向電極5bとの間に十分な電圧を印加して高輝度発光を実現しつつ、透明電極1側からの発光光hの取り出し効率が向上することによる高輝度化を図ることが可能である。さらに、所定輝度を得るための駆動電圧の低減による発光寿命の向上を図ることも可能になる。
【0170】
3-2.有機ELデバイスの用途
本発明の有機ELデバイスは、面発光体として機能しうるため、各種の発光光源として用いることができる。発光光源の例には、家庭用照明や車内照明等の照明装置、時計や液晶用のバックライト、看板広告用照明、信号機の光源、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられる。特に、カラーフィルターと組み合わせた液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
【0171】
また、本発明の有機ELデバイスは、照明用や露光光源のような一種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。この場合、近年の照明装置及びディスプレイの大型化にともない、有機EL素子を設けた発光パネル同士を平面的に接合する、いわゆるタイリングによって発光面を大面積化してもよい。
【0172】
動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は、単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。また、異なる発光色を有する有機EL素子を2種以上使用することにより、カラー又はフルカラー表示装置を作製することが可能である。
【0173】
以下では、有機ELデバイスの用途の一例として照明装置について説明し、次にタイリングによって発光面を大面積化した照明装置について説明する。
【0174】
照明装置として用いられる本発明の有機ELデバイスは、上述した構成の各有機ELデバイスに共振器構造を持たせた設計としてもよい。共振器構造を有するように構成された有機ELデバイスの用途としては、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。また、レーザー発振をさせることにより上記用途に使用してもよい。
【0175】
なお、有機EL素子に用いられる材料は、実質的に白色の発光を生じる有機EL素子(白色有機EL素子)に適用できる。例えば、複数の発光材料により複数の発光色を同時に発光させて、混色により白色発光を得ることもできる。複数の発光色の組み合わせとしては、赤色、緑色、青色の三原色の三つの発光極大波長を含有させたものでもよいし、青色と黄色、青緑と橙色等の補色の関係を利用した二つの発光極大波長を含有したものでもよい。
【0176】
また、複数の発光色を得るための発光材料の組み合わせは、複数のリン光又は蛍光で発光する材料を複数組み合わせたもの、蛍光又はリン光で発光する発光材料と、発光材料からの光を励起光として発光する色素材料との組み合わせたもののいずれでもよいが、白色有機EL素子においては、発光ドーパントを複数組み合わせて混合したものでもよい。
【0177】
このような白色有機EL素子は、各色発光の有機EL素子をアレイ状に個別に並列配置して白色発光を得る構成と異なり、有機EL素子自体が白色を発光する。このため、素子を構成するほとんどの層の成膜にマスクを必要とせず、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で成膜することができ、生産性も向上する。
【0178】
このような白色有機EL素子の発光層に用いる発光材料としては、特に制限はなく、例えば、液晶表示素子におけるバックライトであれば、CF(カラーフィルター)特性に対応した波長範囲に適合するように、上記した金属錯体や公知の発光材料の中から任意のものを選択して組み合わせて白色化すればよい。このような白色有機EL素子を用いれば、実質的に白色の発光を生じる照明装置を作製することが可能である。
【0179】
3-2-1.照明装置の第1例
図9は、有機EL素子を複数配列して発光面を大面積化した照明装置の概略断面図である。図9に示されるように、照明装置300は、透明基板13と、支持基板23(封止材)と、それらの間に複数配列(タイリング)された複数の有機EL素子7及び7とを含む。有機EL素子7及び7は、透明基板13側から、透明電極1、有機機能層3及び対向電極5bをこの順に有する。以下、第1例と同様の構成要素についての重複する詳細な説明は省略する。
【0180】
透明電極1が設けられた透明基板13は、前述の透明電極基板でありうる。
【0181】
支持基板23は、封止材17を兼ねるものであってもよい。そして、支持基板23と透明基板13との間に、有機EL素子7及び7を挟持してタイリングさせる。それにより、発光面を大面積化した構成を有する照明装置300を得ることができる。支持基板23と透明基板13との間には接着剤19を充填し、これによって有機EL素子7及び7を封止してもよい。なお、照明装置300の周囲には、アノードである透明電極1及びカソードである対向電極5aの端部を露出させておく。但し、図9では、対向電極5aの露出部分のみを図示した。
【0182】
有機EL素子7は、透明電極1と、有機機能層3と、対向電極5aとをこの順に含む。有機機能層3は、透明電極1側から、正孔注入層3a/正孔輸送層3b/発光層3c/電子輸送層3d/電子注入層3eを順次積層して構成されうる。
【0183】
このような構成の照明装置300では、各有機EL素子7の中央が発光領域Aとなり、2つの有機EL素子7及び7の間には非発光領域Bが形成される。このため、非発光領域Bからの光取り出し量を増加させるための光取り出し部材を、光取り出し面13aの非発光領域Bに設けてもよい。光取り出し部材としては、集光シートや光拡散シートを用いることができる。
【実施例】
【0184】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0185】
1.透明電極基板の作製・評価(1)
<透明電極基板101の作製>
無アルカリガラス製の基板(厚み1000μm)を市販の真空蒸着装置の基板ホルダに取り付けた。また、比較化合物(1)(比較(1)ともいう)をタンタル製の抵抗加熱ボードに入れて、真空蒸着装置の第1真空槽に取り付け、銀(Ag)をタングステン製の抵抗加熱ボードに入れて、第2真空槽内に取り付けた。
【化13】
【0186】
この状態で、まず、第1真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、比較化合物(1)が入った抵抗加熱ボードを加熱し、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で、基板上に厚み10nmの中間層を形成した。
【0187】
次に、中間層を形成した基板を第2真空槽内に移し、第2真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、銀(Ag)が入った抵抗加熱ボードを加熱し、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で、中間層上に、厚み10nm、面積5cm×5cmの導電性層を形成した。それにより、透明電極基板101を作製した。
【0188】
<透明電極基板102の作製>
比較化合物(1)をPGME(1−メトキシ−2−プロパノール)に溶解させて、濃度0.5質量%の溶液を調製した。この溶液を、無アルカリガラス製の基板上にスピンコート法により塗布した後、塗膜を100℃で1時間加熱乾燥して、厚み10nmの中間層を形成した。
得られた中間層を用いた以外は透明電極基板101の作製と同様にして、厚み10nmの透明電極基板102を作製した。
【0189】
<透明電極基板103の作製>
比較化合物(1)をPGME(1−メトキシ−2−プロパノール)に溶解させて、濃度0.5質量%の溶液を調製した。この溶液中に、無アルカリガラス製の基板を、40℃で30分間浸漬(ディップ)した後、100℃で1時間加熱乾燥させて、厚み10nmの中間層を形成した。
得られた中間層を用いた以外は透明電極基板101の作製と同様にして、厚み10nmの導電性層を形成し、透明電極基板103を作製した。
【0190】
<透明電極基板104の作製>
透明電極基板102の作製において、中間層の構成材料を化合物(1)に変更した以外は同様にして透明電極基板104を作製した。中間層の形成用溶液の調製に用いる化合物(1)の前駆体としては、化合物(1)の分子末端の−Oの全てを−OCHとした化合物を用いた。
【0191】
<透明電極基板105の作製>
化合物(1)の前駆体(化合物(1)の分子末端の−Oの全てを−OCHとした化合物)をPGME(1−メトキシ−2−プロパノール)に溶解させて、濃度0.5質量%の溶液を調製した。この溶液中に、無アルカリガラス製の基板を、40℃で30分間浸漬(ディップ)した後、100℃で1時間加熱乾燥させて、化合物(1)を含む、厚み10nmの中間層を形成した。
【0192】
中間層を形成した基板を、市販の真空蒸着装置の基板ホルダに取り付け、亜鉛(Zn)をタンタル製の抵抗加熱ボードに入れて、真空蒸着装置の第2真空槽に取り付けた。そして、第2真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、亜鉛(Zn)が入った抵抗加熱ボードを加熱し、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で、中間層上に厚み10nm、面積5cm×5cmの導電性層を形成し、透明電極基板105を作製した。
【0193】
<透明電極基板106〜107の作製>
透明電極基板105の作製において、導電性層の構成材料を表2に示されるように変更した以外は同様にして透明電極基板106〜107を作製した。
【0194】
<透明電極基板108〜115の作製>
透明電極基板107の作製において、中間層の構成材料を表2に示される化合物に変更した以外は同様にして透明電極基板108〜115を作製した。中間層の形成用溶液の調製に用いる表2に示される化合物の前駆体としては、表2に示される化合物の分子末端の−Oの全てを−OCHとした化合物を用いた。
【0195】
<透明電極基板116〜119の作製>
透明電極基板114及び115の作製において、基板の種類を表2に示されるように変更した以外はそれぞれ同様にして透明電極基板116〜119を作製した。表中のポリエチレンテレフタレートは、厚み500μmのポリエチレンテレフタレートフィルムであり;PMMAは、厚み500μmのポリメチルメタクリレートフィルムである。
【0196】
<透明電極基板120〜121の作製>
導電性層用材料として、錯体銀からなるインクジェットインク(Ink Tec(株)製、TEC−IJ−010)1.0mlを、エタノールにより10倍希釈した溶液を準備した。
この希釈溶液0.1mlを、透明電極基板114及び115の作製に用いた中間層上に、スピンコート法により塗布した後、120℃で30分間焼成し、厚み10nmの銀からなる導電性層を形成した。それにより、基板上に中間層及び導電性層が順に積層された透明電極基板120及び121を得た。
【0197】
<透明電極基板の評価>
得られた透明電極基板101〜121の光透過率、シート抵抗値、及び高温保存下でのシート抵抗値変化(耐久性)を以下の方法で測定した。これらの結果を表2に示す。
【0198】
(1)光透過率の測定
得られた透明電極基板の、測定光波長550nmにおける光透過率(%)を、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ製U−3300)を用いて測定した。各透明電極の基板をリファレンスとした。
【0199】
(2)シート抵抗値の測定
得られた透明電極基板のシート抵抗値(Ω/□)を、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製MCP−T610)を用いて、4探針法定電流印加方式で測定した。
【0200】
(3)高温保存下でのシート抵抗値変化の測定
得られた透明電極基板を、温度80℃/相対湿度90%雰囲気下で保存し、シート抵抗値変化を測定した。具体的には、試験開始前と120時間経過後のシート抵抗値を比較して、変化を評価し、結果を表2に示した。
シート抵抗値は、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製MCP−T610)を用い、四探針法定電流印加方式でシート抵抗値(Ω/□)を測定し、初期シートからの抵抗値の変化を算出した。各透明電極の高温保存下でのシート抵抗値変化は、透明電極基板108のシート抵抗値変化を100とする相対値で示しており、値が小さいほど変化が少ないことを表し、耐久性が優れている。
【0201】
さらに、透明電極基板103、104及び107については、断面TEM観察を行い、中間層が自己組織化単分子膜であるかどうかを確認した。
【0202】
(4)断面TEM観察
透明電極基板を基板の厚み方向に切断して、厚み0.1μmの試料を得た。得られた試料の切断面を、透過電子顕微鏡装置JEM−2000FX(日本電子株式会社製)を用いて、加速電圧を1.0kVとし、観察倍率を100,000倍とし、観察視野範囲を1.0μmとして観察した。
【表2】
【0203】
表2に示されるように、透明電極基板101〜104は、高い光透過率と低いシート抵抗とを両立できないのに対して;透明電極基板105〜121は、高い光透過率と低いシート抵抗とを両立できることが示される。また、透明電極基板101、103及び104の中間層は、いずれも自己組織化単分子膜ではないのに対し;透明電極基板107の中間層は、自己組織化単分子膜であることが確認された。
【0204】
透明電極基板105〜121は、高い光透過率と低いシート抵抗とを両立できるのは、透明電極基板105〜121の中間層が自己組織化単分子膜となっているためと考えられる。
【0205】
透明電極基板105〜107の対比から、導電性層が特に銀(Ag)を主成分とする場合に、光透過率が高く、かつ低抵抗であることが示される。
【0206】
透明電極基板107と108〜115との対比から、中間層の構成材料が、含窒素芳香族複素環を含むほうが、高い光透過率と低い抵抗が得られやすいことが示される。また、透明電極基板108〜115の対比から、中間層の構成材料が、含窒素芳香族複素環の中でもトリアジン環を含むと、より高い光透過率と低い抵抗が得られやすいことが示される。
【0207】
透明電極基板114〜119の対比から、無アルカリガラス基板だけでなく、PMMAやポリエチレンテレフタレートの基板を用いても、良好な高い光透過率と低い抵抗が得られることが示される。
【0208】
透明電極基板114〜115と120〜121との対比から、導電性層の形成方法がスピンコート法であっても、真空蒸着法とほぼ同等の効果が得られることが示される。
【0209】
2.透明電極基板の作製・評価(2)
<透明電極基板201の作製>
曲面を有する無アルカリガラス製の基板(最小厚み1000μm)を、市販の真空蒸着装置の基板ホルダに取り付けた。また、比較化合物(3)(比較(3)ともいう)をタンタル製の抵抗加熱ボードに入れて、真空蒸着装置の第1真空槽に取り付け、銀(Ag)をタングステン製の抵抗加熱ボードに入れて、第2真空槽内に取り付けた。
【化14】
【0210】
この状態で、まず、第1真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、比較化合物(3)が入った抵抗加熱ボードを加熱し、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で基板上に厚み10nmの中間層を形成した。
【0211】
次に、中間層を形成した基板を第2真空槽内に移し、第2真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、銀(Ag)が入った抵抗加熱ボードを加熱し、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で、中間層上に厚み10nm、面積5cm×5cmの導電性層を形成し、透明電極基板201を作製した。
【0212】
<透明電極基板202の作製>
比較化合物(3)をPGME(1−メトキシ−2−プロパノール)に溶解させて、濃度1.0質量%の溶液を調製した。この溶液を、曲面を有する無アルカリガラス基板上にスピンコート法により塗布した後、100℃で1時間加熱乾燥して、厚み10nmの中間層を形成した。
得られた中間層を用いた以外は透明電極基板201の作製と同様にして厚み10nmの導電性層を形成し、透明電極基板202を作製した。
【0213】
<透明電極基板203の作製>
比較化合物(3)をPGME(1−メトキシ−2−プロパノール)に溶解させて、濃度1.0質量%の溶液を調製した。この溶液中に、無アルカリガラス製の基板を、30℃で40分間浸漬(ディップ)した後、100℃で1時間加熱乾燥させて、厚み10nmの中間層を形成した。
得られた中間層を用いた以外は透明電極基板201の作製と同様にして厚み10nmの導電性層を形成し、透明電極基板203を作製した。
【0214】
<透明電極基板204の作製>
透明電極基板202の作製において、中間層の構成材料を化合物(3)に変更した以外は同様にして透明電極基板204を作製した。中間層の形成用溶液の調製に用いる化合物(3)の前駆体としては、化合物(3)の分子末端の−Oの全てを−OCHとした化合物を用いた。
【0215】
<透明電極基板205の作製>
化合物(3)の前駆体(化合物(3)の分子末端の−Oの全てを−OCHとした化合物)を、PGME(1−メトキシ−2−プロパノール)に溶解させて、濃度1.0質量%の浸漬溶液を調製した。この溶液中に、無アルカリガラス製の基板を、30℃で40分間浸漬(ディップ)した後、100℃で1時間加熱乾燥させて、化合物(3)を含む、厚み10nmの中間層を形成した。
得られた中間層を形成した基板を、市販の真空蒸着装置の基板ホルダに取り付け、亜鉛(Zn)をタンタル製の抵抗加熱ボードに入れて、真空蒸着装置の第2真空槽に取り付けた。そして、第2真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、亜鉛(Zn)が入った抵抗加熱ボードを加熱し、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で、中間層上に厚み10nm、面積5cm×5cmの導電性層を形成し、透明電極基板205を作製した。
【0216】
<透明電極基板206〜207の作製>
透明電極基板205の作製において、導電性層の構成材料を表3に示されるように変更した以外は同様にして透明電極基板206〜207を作製した。
【0217】
<透明電極基板208〜213の作製>
透明電極基板207の作製において、中間層の構成材料を表3に示される化合物に変更した以外は同様にして透明電極基板208〜213を作製した。中間層の形成用溶液の調製に用いる表3に示される化合物の前駆体としては、表3に示される化合物の分子末端の−Oの全てを−OCHとした化合物を用いた。
【0218】
<透明電極基板の評価>
得られた透明電極基板201〜213の光透過率、シート抵抗値及び高温保存下でのシート抵抗値変化(耐久性)を、前述と同様にして測定した。これらの結果を表3に示す。
【表3】
【0219】
表3に示されるように、透明電極基板205〜212は、透明電極基板201〜204よりも、曲面を有する無アルカリガラス基板に対しても均一な厚みの透明電極を形成でき、かつ高い光透過率と低いシート抵抗とを両立できることが示される。
【0220】
透明電極基板204〜206の対比から、導電性層が特に銀(Ag)を主成分とする場合に、光透過率が高く、かつ低抵抗であることが示される。
【0221】
透明電極基板207と208〜213との対比から、中間層の構成材料が、含窒素芳香族複素環を含むほうが、高い光透過率と低い抵抗が得られやすいことが示される。また、透明電極基板208〜213の対比から、中間層の構成材料が、含窒素芳香族複素環の中でもトリアジン環を含むと、より高い光透過率と低い抵抗が得られやすいことが示される。透明電極基板212と213の対比から、中間層の構成材料が、一般式(3)のLが炭素原子数6以上の(酸素原子で置換されてもよい)直鎖状アルキレン基である場合、より高い光透過率と低い抵抗が得られやすいことが示される。
【0222】
3.有機ELデバイスの作製・評価
透明電極基板をアノード基板として用いた両面発光型の有機ELデバイスを、図7を参照して作製した。
【0223】
<有機ELデバイス301の作製>
無アルカリガラス製の基板(厚み1000μm)を市販の真空蒸着装置の基板ホルダに取り付けた。また、比較化合物(2)(比較(2)ともいう)をタンタル製の抵抗加熱ボードに入れて、真空蒸着装置の第1真空槽に取り付け、銀(Ag)をタングステン製の抵抗加熱ボードに入れて、第2真空槽内に取り付けた。
【化15】
【0224】
この状態で、まず、第1真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、比較化合物(2)が入った抵抗加熱ボードを加熱し、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で基板上に厚み15nmの中間層を形成した。
次に、中間層を形成した基板を第2真空槽内に移し、第2真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、銀(Ag)が入った抵抗加熱ボードを加熱し、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で、中間層上に厚み12nm、面積5cm×5cmの導電性層を形成した。それにより、透明電極基板を作製した。
【0225】
得られた透明電極基板を、市販の真空蒸着装置の基板ホルダに取り付けて、透明電極の表面に蒸着マスクを配置した。また、真空蒸着装置内の加熱ボートの各々に、有機機能層3を構成する各材料を、それぞれの層の成膜に最適な量で充填した。加熱ボートは、タングステン製抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。次いで、真空蒸着装置の蒸着室内を真空度4×10−4Paまで減圧し、各材料が入った加熱ボートを順次通電して加熱し、以下のように各層を成膜した。
【0226】
まず、正孔注入輸送材料として、α-NPDが入った加熱ボートに通電して加熱し、正孔注入層3aと正孔輸送層3bとを兼ねた正孔注入輸送層を、透明電極1の導電性層1b上に成膜した。この際、蒸着速度0.1〜0.2nm/秒、厚み20nmとした。
【化16】
【0227】
次いで、ホスト材料mCP(N,N-ジカルバゾリル-3,5-ベンゼン)が入った加熱ボートと、リン光発光ドーパントIr(ppy)3(トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III))が入った加熱ボートをそれぞれ独立に通電し、ホスト材料mCPとリン光発光ドーパントIr(ppy)3を含有する発光層3cを、正孔注入輸送層31上に成膜した。この際、蒸着速度がホスト材料mCP:リン光発光ドーパントIr(ppy)3=100:6となるように、加熱ボートの通電量を調節した。また、厚みは30nmとした。
【0228】
次いで、電子輸送材料として、下記に示すET−6の入った加熱ボートと、フッ化カリウムの入った加熱ボートとをそれぞれ独立に通電し、ET−6とフッ化カリウムを含有する電子輸送層3dを、発光層上に成膜した。この際、蒸着速度がET−6:フッ化カリウム=75:25になるように、加熱ボートの通電量を調節した。また、厚み30nmとし
た。
【化17】
【0229】
次いで、電子注入材料として、フッ化カリウムの入った加熱ボートに通電して加熱し、フッ化カリウムよりなる電子注入層3eを、電子輸送層3d上に成膜した。この際、蒸着速度0.01〜0.02nm/秒、厚み1nmとした。
【0230】
その後、電子注入層3eまで成膜した透明基板13を、真空蒸着装置の蒸着室から、対向電極材料としてITOのターゲットが取り付けられたスパッタ装置の処理室内に、真空状態を保持したまま移送した。次いで、処理室内において、成膜速度0.3〜0.5nm/秒で、厚み150nmのITOからなる光透過性の対向電極5aをカソードとして成膜した。以上により、透明基板13上に有機EL素子7を形成した。
【0231】
その後、有機EL素子7を、厚さ300μmのガラス基板からなる封止材17で覆い、有機EL素子7を囲む状態で、封止材17と透明基板13との間に接着剤19(シール材)を充填した。接着剤19としては、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を用いた。封止材17と透明基板13との間に充填した接着剤19に対して、ガラス基板(封止材17)側からUV光を照射し、接着剤19を硬化させて有機EL素子7を封止した。
【0232】
なお、有機EL素子7の形成においては、各層の形成に蒸着マスクを使用し、5cm×5cmの透明基板13における中央の4.5cm×4.5cmを発光領域Aとし、発光領域Aの全周に幅0.25cmの非発光領域Bを設けた。また、アノードである透明電極1とカソードである対向電極5aとは、正孔輸送注入層から電子注入層3eまでの有機機能層3によって絶縁された状態で、透明基板13の周縁に端子部分を引き出された形状で形成した。
【0233】
以上のようにして、透明基板13上に有機EL素子7を設け、これを封止材17と接着剤19とで封止した有機ELデバイス301を作製した。
有機ELデバイス301においては、発光層3cで発生した各色の発光光hが、透明電極1側(透明基板13側)と、対向電極5a側(封止材17側)の両方から取り出される。
【0234】
<有機ELデバイス302の作製>
比較化合物(2)をPGME(1−メトキシ−2−プロパノール)に溶解させて、濃度1.2質量%の溶液を調製した。この溶液を、無アルカリガラス製の基板上にスピンコート法により塗布した後、100℃で1時間加熱乾燥して、厚み15nmの中間層を形成した。
得られた中間層を用いた以外は有機ELデバイス301の作製と同様にして透明電極基板、及びそれを含む有機ELデバイス302を作製した。
【0235】
<有機ELデバイス303の作製>
比較化合物(2)をPGME(1−メトキシ−2−プロパノール)に溶解させて、濃度1.2質量%の溶液を調製した。この溶液中に、無アルカリガラス製の基板を、70℃で30分間浸漬(ディップ)した後、100℃で1時間加熱乾燥させて、厚み15nmの中間層を形成した。
得られた中間層を用いた以外は有機ELデバイス301の作製と同様にして透明電極基板、及びそれを含む有機ELデバイス303を作製した。
【0236】
<有機ELデバイス304の作製>
化合物(4)の前駆体(化合物(4)の分子末端の−Oの全てを−OCHとした化合物)をPGME(1−メトキシ−2−プロパノール)に溶解させて、濃度1.2質量%の溶液を調製した。この溶液を、無アルカリガラス製の基板上にスピンコート法により塗布した後、100℃で1時間加熱乾燥し、化合物(4)を含む、厚み15nmの中間層を形成した。
得られた中間層を用いた以外は有機ELデバイス301の作製と同様にして透明電極基板、及びそれを含む有機ELデバイス304を作製した。
【0237】
<有機ELデバイス305の作製>
化合物(4)の前駆体(化合物(4)の分子末端の−Oの全てを−OCHとした化合物)をPGME(1−メトキシ−2−プロパノール)に溶解させて、濃度1.2質量%の溶液を調製した。この溶液中に、無アルカリガラス製の基板を、70℃で30分間浸漬(ディップ)した後、100℃で1時間加熱乾燥させて、化合物(4)を含む、厚み15nmの中間層を形成した。
中間層を形成した基板を、市販の真空蒸着装置の基板ホルダに取り付け、亜鉛(Zn)をタンタル製の抵抗加熱ボードに入れて、真空蒸着装置の第2真空槽に取り付けた。そして、第2真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、ニッケル(Ni)が入った抵抗加熱ボードを加熱し、蒸着速度0.1nm/秒〜0.2nm/秒で、中間層上に厚み12nm、面積5cm×5cmの導電性層を形成し、透明電極基板を作製した。
得られた透明電極基板を用いた以外は有機ELデバイス301の作製と同様にして有機ELデバイス305を作製した。
【0238】
<有機ELデバイス306及び307の作製>
有機ELデバイス305の作製において、導電性層の構成材料を表4に示されるように変更した以外は同様にして透明電極基板を作製した。
得られた透明電極基板を用いた以外は有機ELデバイス301の作製と同様にして有機ELデバイス306及び307を作製した。
【0239】
<有機ELデバイス308〜317の作製>
有機ELデバイス307の作製において、中間層の構成材料を表4に示される化合物に変更した以外は同様にして透明電極基板を作製した。中間層の形成用溶液の調製に用いる表4に示される化合物の前駆体としては、表4に示される化合物の分子末端の−Oの全てを−OCHとした化合物を用いた。
得られた透明電極基板を用いた以外は有機ELデバイス301の作製と同様にして有機ELデバイス308〜317を作製した。
【0240】
<有機ELデバイス318〜321の作製>
有機ELデバイス316及び317の作製において、基板の種類を表3に示されるようにそれぞれ変更した以外は同様にして透明電極基板を作製した。
得られた透明電極基板を用いた以外は有機ELデバイス301の作製と同様にして有機ELデバイス318〜321を作製した。
【0241】
<有機ELデバイス322〜323の作製>
導電性層用インクとして、錯体銀からなるインクジェットインク(Ink Tec(株)製、TEC−IJ−010)1.0mlを、エタノールにより10倍希釈した溶液を準備した。
この希釈溶液0.1mlを、透明電極316及び317の作製で用いた中間層上に、スピンコート法により塗布した後、120℃で30分間焼成し、厚み10nmの銀からなる導電性層を形成した。それにより、基板上に中間層及び導電性層が順に積層された透明電極基板を得た。
得られた透明電極基板を用いた以外は有機ELデバイス301の作製と同様にして有機ELデバイス322及び323を作製した。
【0242】
<有機ELデバイスの評価>
作製した有機ELデバイス301〜323の光透過率、駆動電圧及び高温保存下での外部量子効率変化(耐久性)を、以下の方法で測定した。これらの評価結果を表4に示す。
【0243】
(1)光透過率の測定
作製した各有機ELデバイスの測定光波長550nmにおける光透過率(%)を、分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製U−3300)を用いて測定した。各発光パネルの透明電極の基板をリファレンスとした。
【0244】
(2)駆動電圧の測定
上記作製した各有機ELデバイスの透明電極1側(即ち、透明基板13側)の正面輝度と、対向電極5a側(即ち、封止材17側)の正面輝度とをそれぞれ測定し、その和が1000cd/mとなるときの電圧を駆動電圧(V)として測定した。輝度の測定は、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタ社製)を用いて行った。得られた駆動電圧の数値が小さいほど、好ましい結果であることを表す。
【0245】
(3)高温保存下での外部量子効率(EQE)変化の測定
上記作製した有機ELデバイスの各有機EL素子を、75℃で、2.5mA/cmの定電流条件下で発光させ、発光開始直後の発光輝度と、開始200時間後の発光輝度を、分光放射輝度計CS−2000(コニカミノルタ社製)を用いてそれぞれ測定した。発光開始直後の発光輝度に対する開始200時間後の相対発光輝度を求め、これを外部量子効率(External Quantum Efficiency:EQE)の尺度とした。数値が小さいほど、発光輝度の変化が小さく、外部量子効率が優れていることを表す。
【表4】
【0246】
表4に示されるように、有機ELデバイス301〜304は、高い光透過率と低い駆動電圧を両立できず、多くが発光しないのに対して;有機ELデバイス305〜321は、高い光透過率と低い駆動電圧とを両立でき、高温保存下でも高い良好に発光することが示される。これは、有機ELデバイス301〜304の透明電極が、自己組織化単分子膜で形成された中間層を有することから、高い光透過率と低い抵抗とを両立できたためと考えられる。
【0247】
有機ELデバイス305〜307の対比から、導電性層が特に銀(Ag)を主成分とする場合に、特に光透過率が高く、かつ駆動電圧も低いことが示される。
【0248】
有機ELデバイス307と308〜317との対比から、透明電極の中間層の構成材料が、含窒素芳香族複素環を含むほうが、高い光透過率と低い駆動電圧が得られやすいことが示される。また、有機ELデバイス308〜317の対比から、中間層の構成材料が、含窒素芳香族複素環の中でもトリアジン環を含むと、より高い光透過率と低い駆動電圧が得られやすいことが示される。有機ELデバイス311と312の対比、及び315と316の対比から、中間層の構成材料が、一般式(2)のA又は一般式(3)のAがケイ素原子であるほうが、−C(=O)−である場合よりも、より高い光透過率と低い駆動電圧が得られやすいことが示される。
【0249】
有機ELデバイス316〜321の対比から、無アルカリガラス基板だけでなく、PMMAやポリエチレンテレフタレートの基板を用いても、良好な高い光透過率と低い駆動電圧が得られることが示される。
【0250】
有機ELデバイス316〜317と322〜323との対比から、透明電極の導電性層をスピンコート法で形成しても、真空蒸着法で形成した場合と同等の効果が得られることが示される。
【産業上の利用可能性】
【0251】
本発明によれば、より高い透過性と導電性とを有する透明電極基板、それを含む電子デバイス及び有機ELデバイスを提供することができる。さらに、材料の利用効率や時間効率が高く、大面積化が可能であり、かつ曲面を有する基板にも導電性層を形成可能な透明電極基板の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0252】
1 透明電極
1a 中間層
1b 導電性層
3 有機機能層
3a 正孔注入層
3b 正孔輸送層
3c 発光層
3d 電子輸送層
3e 電子注入層
5a、5b 対向電極
7 有機EL素子
11 基板
13 透明基板(基板)
13a 光取り出し面
15 補助電極
17 封止材
19 接着剤
23 支持基板
100、200 有機ELデバイス
300 照明装置
A 発光領域
B 非発光領域
h 発光光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9