特許第6592931号(P6592931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6592931
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】直噴式エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/04 20060101AFI20191010BHJP
   F02B 23/06 20060101ALI20191010BHJP
   F02F 3/26 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   F02D41/04 385F
   F02B23/06 Y
   F02B23/06 T
   F02B23/06 L
   F02F3/26 C
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-66797(P2015-66797)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-186258(P2016-186258A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2018年3月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人自動車技術会2014年秋季学術講演会前刷集No.130−14(平成26年10月22日発行)の第13−18頁に公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】荒戸 景太
【審査官】 ▲高▼木 真顕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−227650(JP,A)
【文献】 特開平04−031651(JP,A)
【文献】 特表2005−520977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 − 45/00
F02F 3/00 − 3/28
F02B 1/00 − 23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの上面に凹設された中心部に略円錐台状の凸部を有するキャビティからなる浅皿型燃焼室と、前記浅皿型燃焼室の上方に同軸で配置されたインジェクタとからなり、
前記キャビティの開口径に対する深さの比が20〜25%の範囲であるとともに、該キャビティの開口面積に対する前記凸部の上面積の比が9〜16%の範囲であり、
前記ピストンが上死点近傍にあるときに、前記インジェクタの噴射先が該凸部の周縁部となるように構成した燃焼室構造を有する直噴式エンジンの制御装置において、
前記制御装置は、前記インジェクタの燃料噴射を制御する制御装置であり、
前記制御装置は、前記エンジンの運転状態に基づいて前記インジェクタからの燃料噴射量を決定し、前記燃料噴射量を噴射するのに必要な噴射時間を求め、前記噴射時間に相当するクランク角度範囲Xを算出する一方で、
前記エンジンのエンジン回転数に基づいて前記インジェクタの噴射先が前記凸部の周縁部となるクランク角度範囲Yを算出して、
前記クランク角度範囲Xの始点から始まって20%の範囲を最小範囲とし、前記クランク角度範囲Xの始点から始まって50%の範囲を最大範囲とする範囲の全体が前記クランク角度範囲Yと重複するように、又は、前記クランク角度範囲Xの始点から始まって30%の範囲を最小範囲とし、前記クランク角度範囲Xの始点から始まって40%の範囲を最大範囲とする範囲の全体が前記クランク角度範囲Yと重複するように、前記インジェクタからの燃料噴射の開始時期を調整することを特徴とする直噴式エンジンの制御装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は直噴式エンジンの制御装置に関し、更に詳しくは、燃費を悪化させることなく、良好な燃焼状態を維持しつつ熱損失を低減することができる直噴式エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の動力源として用いられているディーゼルエンジンにおいては、地球温暖化や化石燃料の枯渇などの喫緊の課題に対応するため、より一層の燃費改善が求められている。燃費を改善するために、ディーゼルエンジンの熱効率を向上するには、熱損失を低減させることが必須である。
【0003】
この熱損失を低減する手法には様々なものがあるが(例えば、特許文献1を参照)、その1つとして、浅皿型燃焼室と広角の噴射角度を有するインジェクタとを組み合わせることで、燃焼室の壁面と火炎の高温ガスとの接触を抑制することが考えられる。
【0004】
しかしながら、通常の浅皿型燃焼室において理論熱効率の向上を図るために圧縮比を高めると、高負荷運転条件下で空気利用率が顕著に低下して、従来のリエントラント型の燃焼室の場合よりも燃焼状態が悪化してしまうとともに、熱損失の低減効果も得られなくなるため、結果として熱効率が低下してしまうという問題があった。
【0005】
上記の問題を解決するために、本発明者は、図3に示すような、直噴式エンジンの燃焼室構造20を考案した。この燃焼室構造20は、ピストン21の上面22に凹設された中心部に略円錐台状の凸部23を有するキャビティ24からなる浅皿型燃焼室25と、その浅皿型燃焼室25の上方に同軸で配置されたインジェクタ26とからなり、キャビティ24の開口径Dに対する深さHの比が20〜25%の範囲であるとともに、キャビティ24の開口面積Sに対する凸部23の上面積Aの比が9〜16%の範囲であって、かつピストン21が上死点近傍にあるときに、インジェクタ26の噴射先27が凸部23の周縁部23aとなるように構成されている。
【0006】
このような燃焼室構造20により、燃焼室中心部の空気を効果的に利用するとともに、燃料噴霧の壁面側での燃焼が抑制されるため、良好な燃焼状態を維持しつつ、熱損失の低減を図ることが可能となる。
【0007】
しかしながら、上記のような燃焼室構造20では、図4の比較評価結果に示すように、インジェクタ26から燃料噴射が開始される時期を早くすると、従来のリエントラント型燃焼室の場合よりも燃費が悪化してしまうことが明らかになった。
【0008】
上記の問題について、本発明者が鋭意研究を進めたところ、燃料噴射の開始時期を早くし過ぎると、燃料室中心部の壁面に衝突する燃料量が増加して、その燃料室中心部に過濃度の燃料領域が形成されるため、燃焼外周部の空気を効果的に利用できずに燃焼が悪化することが主たる原因であることを見出した結果、本発明を完成させるに至ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2014−15845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、燃費を悪化させることなく、良好な燃焼状態を維持しつつ熱損失を低減することができる直噴式エンジンの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成する本発明の直噴式エンジンの制御装置は、ピストンの上面に凹設された中心部に略円錐台状の凸部を有するキャビティからなる浅皿型燃焼室と、前記浅皿型燃焼室の上方に同軸で配置されたインジェクタとからなり、前記キャビティの開口径に対する深さの比が20〜25%の範囲であるとともに、該キャビティの開口面積に対する前記凸部の上面積の比が9〜16%の範囲であり、前記ピストンが上死点近傍にあるときに、前記インジェクタの噴射先が該凸部の周縁部となるように構成した燃焼室構造を有する直噴式エンジンの制御装置において、前記制御装置は、前記インジェクタの燃料噴射を制御する制御装置であり、前記制御装置は、前記エンジンの運転状態に基づいて前記インジェクタからの燃料噴射量を決定し、前記燃料噴射量を噴射するのに必要な噴射時間を求め、前記噴射時間に相当するクランク角度範囲Xを算出する一方で、前記エンジンのエンジン回転数に基づいて前記インジェクタの噴射先が前記凸部の周縁部となるクランク角度範囲Yを算出して、前記クランク角度範囲Xの始点から始まって20%の範囲を最小範囲とし、前記クランク角度範囲Xの始点から始まって50%の範囲を最大範囲とする範囲の全体が前記クランク角度範囲Yと重複するように、又は、前記クランク角度範囲Xの始点から始まって30%の範囲を最小範囲とし、前記クランク角度範囲Xの始点から始まって40%の範囲を最大範囲とする範囲の全体が前記クランク角度範囲Yと重複するように、前記インジェクタからの燃料噴射の開始時期を調整することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の直噴式エンジンの制御装置によれば、燃焼時において燃焼室中心部の空気の利用が促進されるとともに、燃料噴霧の壁面側での燃焼が抑制されてガスが高温にならないことに加えて、燃焼室中心部の空気を利用する燃料量を適切に調整して、その燃焼室中心部に過濃度の燃料領域が形成されるのを防止するので、燃焼室外周部の空気を効果的に利用できるため、燃費を悪化させることなく、良好な燃焼状態を維持しつつ熱損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態からなる直噴式エンジンの燃焼室構造の半断面図である。
図2】インジェクタの燃料噴射の開始時期の設定方法を説明する模式図である。
図3】本発明者が従来考案した直噴式エンジンの浅皿型燃焼室構造の半断面図である。
図4図3に示す燃焼室構造と、従来のリエントラント型燃焼室の構造とを比較評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態からなる直噴式エンジンの燃焼室構造を示す。
【0015】
この直噴式エンジンの燃焼室構造1(以下、単に「燃焼室構造」と言う。)は、シリンダボア(図示せず)内を往復動するピストン2の上面3の中央部に凹設されたキャビティ4からなる浅皿型燃焼室5と、その浅皿型燃焼室5と同軸の上方に配置されたインジェクタ6とから構成されている。
【0016】
キャビティ4の中心部には、略円錐台状の凸部7が設けられている。キャビティ4の開口径Dに対する深さHの比(H/D)は20〜25%の範囲になっているとともに、キャビティ4の開口面積Sに対する凸部7の上面積Aの比(A/S)は9〜16%の範囲になっている。
【0017】
また、インジェクタ6の先端部には、燃料を噴射する燃料噴射口8が形成されている。この燃料噴射口8は、ピストン2が上死点近傍にあるときには、その噴射先(燃料噴射口8の延長先9)が凸部7の周縁部7aになるように設定されている。なお、ここでいう上死点近傍とは、クランク角が−10〜10°ATDCとなる範囲を指す。
【0018】
インジェクタ6は、制御手段であるECU10により、エンジン(図示せず)の運転状態に応じて、燃料噴射量、燃料噴射圧力及び燃料噴射の開始時期などが制御される。
【0019】
この燃焼室構造1において、ECU10は、燃料噴射期間中における燃料噴射量の20〜50%、より好ましくは30〜40%の燃料量が、凸部7の周縁部7aの壁面に衝突するようにインジェクタ6を制御する。
【0020】
具体的なインジェクタ6の制御内容を、図2に基づいて以下に説明する。
【0021】
ECU10は、エンジンの運転状態に基づいてインジェクタ6からの燃料噴射量F(台形の全面積に相当)を決定する。次に、インジェクタ6の燃料噴射圧力Pを考慮して、その燃料噴射量Fを噴射するのに必要な噴射時間Tを求めて、その噴射時間Tに相当するクランク角度範囲Xを算出する。
【0022】
その一方で、ECU10は、エンジン回転数と燃焼室構造1の幾何学的形状とに基づいて、インジェクタ6から噴射された燃料が、凸部7の周縁部7aの壁面に衝突している間のクランク角度範囲Yを算出する。
【0023】
そして、クランク角度範囲Yの間に、燃料噴射量Fの20〜50%(図2の例では、約30%)の噴射量P(台形の重斜線部に相当)が噴射されるように、燃料噴射の開始時期Sを調整する。つまり、クランク角度範囲Xの始点から20〜50%の部分が、クランク角度範囲Yと重複するように、燃料噴射の開始時期Sを進角又は遅角させるのである。
【0024】
このように燃焼室構造1を構成することにより、燃焼室中心部の空気を利用する燃料量が、燃料噴射期間中における燃料噴射量の20〜50%、より好ましくは30〜40%に調整されて、その燃焼室中心部に過濃度の燃料領域が形成されるのを防止するので、燃焼室外周部の空気を効果的に利用できるため、燃費の悪化を防ぐことができる。
【0025】
また、凸部7の周縁部7aの壁面に衝突しない燃料噴霧が、燃焼後半における横方向から見て反時計回りの流れの形成を促進するので、燃焼室外周部の空気を更に効果的に利用できるため、燃費の悪化をより防ぐことができる。
【符号の説明】
【0026】
1 燃焼室構造
2 ピストン
3 上面
4 キャビティ
5 浅皿型燃焼室
6 インジェクタ
7 凸部
7a 周縁部
8 燃料噴射口
9 延長先
10 ECU
図1
図2
図3
図4