(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鋼板の上に、絵柄層、及び紫外線吸収剤を含む樹脂層がこの順に形成され、上記樹脂層に撥インキパターンが形成され、更に、上記撥インキパターン側の面に、塗布にて形成された保護層を有し、
上記撥インキパターンは、上記樹脂層の表面に埋入しており、
上記撥インキパターンの厚みは、上記樹脂層の厚みよりも薄いことを特徴とする化粧鋼板。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
〈化粧鋼板の製造方法〉
本実施形態の化粧鋼板の製造方法について、
図1及び
図2を参照して説明する。
(転写箔作製工程)
転写箔作製工程は、
図1に示す層構成の転写箔を作成する工程である。
すなわち、転写箔100は、離型性支持体シート1に対し、撥インキパターン2を形成し、さらに樹脂層3、絵柄層4、接着層5、を順次形成することで作製される。
撥インキパターン2を形成した後に樹脂層3を形成することで、樹脂層3の表面に撥インキパターン2が埋入した状態となる。例えば、押圧や加熱によって、樹脂層3と撥インキパターン2とが面一に近い状態になる。
【0013】
離型性支持体シート1は転写箔の支持体であり、フィルム基材11に転写を容易にするために剥離層12が設けられた構成が多く、本実施形態においても当該構成の支持体シートを用いている。そして、剥離層12の上に撥インキパターン2が形成される。
フィルム基材11は、特に限定されるものではないが、強度、耐熱性、コストなどの観点からポリエステルフィルムが好適であり、特にポリエチレンテレフタラートが好適である。
【0014】
剥離層12は、特に限定されるものではないが、耐熱性、強度、剥離性、コストなどの観点から熱硬化性樹脂が好適であり、特にアクリルメラミン系、エポキシメラミン系が好適である。
撥インキパターン2は、離型性支持体シート1の表面に、撥インキ成分と樹脂バインダとを含むインキを、予め設定したパターンとなるように印刷することで形成される。この撥インキパターン2は、後述の保護層形成工程において保護層7の塗布液を濡れ弾くことで、保護層表面に凹凸を形成するために設けられる。
【0015】
この撥インキパターン2の形成位置は、絵柄層4に同調する位置(絵柄層4の絵柄パターンと重なる位置)となるように形成することが好ましい。
撥インキ成分は、シリコーン、アルキルシランなどを用いることができ、保護層7を形成する塗液組成、樹脂層3を形成する塗液組成に応じ適宜選択したものが用いられる。
シリコーンは、特に限定されるものではなく、ジメチルシリコーン、ジフェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、フルオロアルキルシリコーンなどの非反応性シリコーンが好適に用いられる。また、アルキルシランは、特に限定されるものではなく、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルトリエトキシシランなどが好適に用いられる。これらの撥インキ成分は、単独でも複数を混合して用いても良い。
【0016】
撥インキ成分の添加量は、100質量部の樹脂バインダに対し、0.1質量部以上5質量部以下の範囲に設定するが、より好ましくは0.2質量部以上2質量部以下である。添加量が下限より小さいと、保護層の塗布形成において塗布液を濡れ弾きが弱くなって保護層7の表面に凹凸が得られないおそれがある。また上限より大きいと、撥インキパターン2を形成するインキの離型性支持体シート1に対する濡れ性が悪く、あるいはまた、樹脂層3を形成するインキの撥インキパターン2に対する濡れ性が悪く、転写箔の形成に不具合が生じる。
【0017】
樹脂バインダは、化粧鋼板200において撥インキパターン2が形成された部分の保護層7の膜厚が薄いため、紫外線による劣化を考慮する必要がある。これに対し、フッ素樹脂やシリコーン樹脂などの高耐性候性樹脂を用いても良いが、撥インキパターン2に紫外線吸収剤を含有させることで、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの汎用樹脂も選択支とすることができる。
【0018】
紫外線吸収剤は、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系紫外線吸収剤から適宜選択して用いられる。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノンが挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ベンゾトリアゾールが挙げられる。また、トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチルオキシ)フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシルオキシ)フェノールが挙げられる。
【0019】
撥インキパターン2は、保護層7を完全に濡れ弾いた場合、化粧鋼板の最表面に位置するため、光安定剤を含有させても良い。光安定化剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−オクチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート等が挙げられる。
【0020】
樹脂層3は紫外線吸収剤を含み、絵柄層4の紫外線による劣化を抑制するために設けられている。なお、保護層7は紫外線吸収剤を任意に含有させることができるが、含有させた場合でも、撥インキパターン2の形成部分の保護層7は薄いため、当該部分を透過する紫外線を考慮する必要がある。
樹脂層3の樹脂成分は特に限定されるものでなく、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの各種公知材料から適宜選択して用いることができる。また、紫外線吸収剤は特に限定されるものではなく、上記紫外線吸収剤と同様に各種公知の材料から適宜選択して用いることができる。
【0021】
絵柄層4は、絵柄インキを予め設定した絵柄パターンとなるように印刷することで形成される。絵柄インキは特に限定されるものではなく、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系やセルロース系のインキなど各種公知の材料を用いることができる。
接着層5の材料は、特に限定されるものでなく、アクリル樹脂系、α−オレフィン樹脂系、ウレタン樹脂系、塩化ビニル樹脂系など各種公知の材料から適宜選択して用いることができるが、好ましくは熱可塑性を有する材料である。
【0022】
撥インキパターン2および絵柄層4の形成方法は、特に限定されるものではなく、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷など各種公知の印刷方法から選択して用いることができるが、意匠性や生産性の点でグラビア印刷方式が好ましい。
樹脂層3および接着層5の形成方法は、特に限定されるものではなく、各種グラビアコート法、ダイコート法、ロールコート法など各種公知の塗布方法を用いることができるが、生産性の観点から撥インキパターン2および絵柄層4と同方式とすること、すなわちグラビアコート法が好ましい。
【0023】
撥インキパターン2、樹脂層3、絵柄層4、接着層5は、保護層7の形成において比較的高温での熱処理がなされる場合があるため、熱劣化を抑制するため各種酸化防止剤や樹脂安定剤を添加してもよい。
酸化防止剤としては、例えば、Benzenepropanoic acid, 3,5-bis (1,1-dimethyl-ethyl) -4-hydroxyl -C7-C9 branched alkyl esters(Irganox1135)、Octadecyl-3-(3,5-di-tert. -butyl-4-hydroxyphenyl) -propionate(Irganox1076)、Pentaerythritol tetrakis(3- (3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl) propionate)(Irganox1010)(何れもBASFジャパン製)、が挙げられる。
樹脂安定剤としては、例えば、アデカスタブ465Eなどの錫系安定剤、アデカサイザーO130Pなどのエポキシ系安定剤、アデカスタブAC258などの金属石鹸系の安定剤(何れもADEKA製)、が挙げられる。
【0024】
(鋼板転写工程)
上記工程で作製した転写箔100を、鋼板6に加熱圧着した後、離型性支持体シート1を除去する。これによって、
図2に示すように、接着層5、絵柄層4、樹脂層3、撥インキパターン2が鋼板6に転写される。
鋼板6は通常、
図2に示すように、化成処理された鋼板自体61の上に、転写を容易にするために下地塗布層62が形成される。下地塗布層62としては、例えば、アクリル系、ポリエステル系、メラミン系の樹脂が用いられ、必要に応じ着色顔料が添加される。
鋼板6への上記の転写の処理は、通常の鋼板用のラミネートラインを用いることができ、転写箔100を鋼板6に80〜200℃程度の温度で加熱圧着した後に室温まで急冷する。その後、離型性支持体シート1を剥離することで転写がなされる。
【0025】
(保護層形成工程)
鋼板転写工程を経た鋼板6の撥インキパターン2が形成された面に、保護層7を塗布形成する。その際、撥インキパターン2部分の塗布液が濡れ弾くことで保護層7の表面に凹凸が形成されることで、意匠性が付与される。
保護層7の形成には、各種熱硬化樹脂、UV硬化樹脂、EB硬化樹脂などが用いられ、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などの公知の材料から適宜選択して用いることができる。
【0026】
保護層7は外部環境に晒されるため耐候性の考慮が必要である。これに対して、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂などの高耐候樹脂を用いても良いし、汎用樹脂に紫外線吸収剤および必要に応じ光安定剤を配合したものを用いても良い。紫外線吸収剤および光安定剤の具体例は前述のとおりである。
保護層7の厚みは、特に限定されるものではないが、撥インキパターン上以外の部分で、5μm以上100μm以下が好ましく、10μm以上50μm以下が特に好ましい。5μmより小さいと表面凹凸が意匠性において十分でなく、100μmを超えると保護層7の形成が困難になる。
【0027】
ここで、本構成の化粧鋼板200の製造は、上記製造に限定されるものではない。鋼板6の上に、絵柄層4、紫外線吸収剤を含む樹脂層3がこの順に形成され、樹脂層3に撥インキパターン2が形成され、更に、撥インキパターン2側の面に、塗布にて形成された保護層7を有する構成となれば、他の製造方法で化粧鋼板200の層構造を製造して良い。例えば、
図2の構成となるように、鋼板6の上に、絵柄層4を積層し、その上に紫外線吸収剤を含む樹脂層3を積層し、その樹脂層3に撥インキパターン2を形成した後に、塗布にて保護層7を形成しても良い。
但し、上述の特定構成の転写箔100を使用した製造方法を採用することで、製造が容易になる。
【0028】
(本実施形態の効果)
(1)化粧鋼板の製造方法は、離型性支持体シート1に、撥インキパターン2を形成し、さらに紫外線吸収剤を含む樹脂層3、絵柄層4を順次形成することで転写箔100を作製する工程(転写箔作製工程)、上記工程で作製した転写箔100を鋼板6に加熱圧着した後、離型性支持体シート1を除去することで、絵柄層4、樹脂層3、撥インキパターン2を鋼板6に転写する工程(鋼板転写工程)、転写がなされた鋼板6の撥インキパターン2の面側に保護層7を塗布形成する工程(保護層形成工程)、を含む。
【0029】
この製造方法で製造された化粧鋼板200の構成は「保護層7/撥インキパターン2/紫外線吸収剤を含む樹脂層3/絵柄層4/鋼板6」となる。撥インキパターン2部分は保護層7が薄いため、特に屋外使用において紫外線による変色や脆化などの劣化が懸念される。しかし、紫外線吸収剤を含む樹脂層3を設けることで、劣化が抑制される。
なお、紫外線吸収剤を絵柄層4に直接添加することは、紫外線吸収剤は絵柄の色調に影響し、特に多色刷りでは全体の色調を制御するのが困難になるため好ましくない。
【0030】
(2)撥インキパターン2は、撥インキ成分と樹脂バインダを含むインキを印刷することで形成され、撥インキ成分が、シリコーン、アルキルシランから選択される化合物の少なくとも1種を含み、上記樹脂バインダ100質量部に対する撥インキ成分の添加量が、0.1質量部以上5質量部以下である。
撥インキパターン2の形成方法としてはコストの点で印刷方法が好ましい。当該印刷におけるインキとしては、撥インキ性樹脂を含むインキ、あるいは撥インキ性のない通常の樹脂バインダと撥インキ剤を含むインキが用いられるが、材料選択の巾が広い後者が好ましい。撥インキ成分として、シリコーンないしアルキルシラン類を用い、樹脂100質量部に対する添加量を0.1〜5質量部とすることで、撥インキ性が適度に発現し、化粧鋼板の製造工程を容易にすることができる。
撥インキ性が過大だとリコート性(撥インキパターンの支持体への濡れ性、および紫外線吸収層の撥インキ層への濡れ性)が問題となる。また、撥インキ性が不足すると、保護層形成に用いる塗布液を弾くことができず表面凹凸が形成されない。
【0031】
(3)撥インキパターン2を構成する撥インキが紫外線吸収剤を含む。
撥インキパターン2部分は保護層7が薄いため、撥インキパターン2も紫外線による劣化に対する考慮が必要である。撥インキパターン2のバインダ樹脂として高耐性候樹脂を用いても良いが、撥インキパターン2に紫外線吸収剤を含有させることでバインダ樹脂の選択肢が増え、化粧鋼板200の製造方法が容易化されることが期待できる。
【0032】
(4)転写箔作製工程において絵柄層4の上にさらに接着層5を形成し、上記鋼板転写工程において、絵柄層4、樹脂層3、撥インキパターン2と同時に接着層5を転写する。
絵柄層4のバインダ樹脂は顔料の発色性の観点から使用できる材料が限られるため、転写工程においてプロセス条件に材料による制約が生じる。しかし、接着層5を設けることで制約が緩和され、化粧鋼板の製造工程が容易化される。
(5)撥インキパターン2を上記絵柄パターンと同調させる。
例えば、木目導管様の撥インキパターン2に絵柄層4の絵柄パターンを合わせることで、化粧鋼板の意匠性が向上する。
【実施例1】
【0033】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。
本実施例および比較例で使用したインキ処方を以下に示す。
・撥インキパターン2用のインキ
塩酢ビ系インキ:V351ME(東洋インキ製造) : 70質量部
溶剤:S770(東洋インキ製造) : 30質量部
変性シリコーン:KF412 : 2質量部
紫外線吸収剤:Tinuvin477(BASFジャパン): 4質量部
光安定剤:Tinuvin123(BASFジャパン) : 0.1質量部
【0034】
・樹脂層3
アクリルポリオール:6DY-204ED(大成ファインケミカル): 45質量部
塩酢ビ樹脂:ソルバインA(日信化学工業) : 5質量部
樹脂安定剤:アデカサイザーO-130P(ADEKA) : 5質量部
溶剤:S770(東洋インキ製造) : 45質量部
紫外線吸収剤:Tinuvin477(BASFジャパン) : 4質量部
・絵柄層4のインキ
塩酢ビ系インキ:V351各色(東洋インキ製造) : 70質量部
溶剤:S770(東洋インキ製造) : 30質量部
樹脂安定剤:アデカサイザーO130P(ADEKA): 5質量部
【0035】
・接着層5
アクリルポリオール:6DY-204ED(大成ファインケミカル): 20質量部
塩酢ビ樹脂:ソルバインA(日信化学工業) : 10質量部
樹脂安定剤:アデカサイザーO130P(ADEKA) : 2質量部
アンチブロック剤:サイリシア350(富士シリシア化学) : 1質量部
溶剤:S770(東洋インキ製造) : 67質量部
・保護層7
含フッ素ポリオール:GK570(ダイキン工業) : 50質量部
イソシアネート硬化剤:D−120N(三井化学) : 14質量部
溶剤:酢酸ブチル(山一化学工業) : 36質量部
【0036】
[実施例1]
(転写箔作製)
離型層付きPETフィルム(東レフィルム加工、セラピールHP2、50μm厚)に、撥インキパターン(木目1色刷り、1μm厚)、樹脂層(5μm厚)、絵柄層(木目3色刷り、総厚1〜3μm)および接着層(5μm厚)をグラビア印刷法で順次形成することで転写箔を作製した。
【0037】
(鋼板転写)
下地層としてポリエステル樹脂層が形成された鋼板を、ホットプレートで100℃に予備加熱し、ロール転写装置(ナビタス製、RH-300X)を用い、上記転写箔を熱圧着した(線圧:500kgf/m、ロール温度:120℃、200℃、ライン速度:1m/min、10m/min)。圧着後直ちに鋼板を急冷し、剥離層付きPETフィルムを剥離することで、各層および各パターンを鋼板に転写した。
(保護層形成)
転写後の鋼板に保護層インキをワイヤバーで塗布した後、220℃-1minの熱処理により保護層(20μm厚)を形成し、撥インキパターンに対応する表面凹凸を有する化粧鋼板を得た。
【0038】
[比較例1]
実施例1において樹脂層を形成しない以外は全て実施例1と同様の方法で化粧鋼板を作製した。
[比較例2]
実施例1において樹脂層と接着層を形成しない以外は全て実施例1と同様の方法で化粧鋼板を作製した。
実施例および各比較例において、各転写条件における転写の可否を調べた。また、転写可能であった試料については、耐UV性としてサンシャインウェザオメータ2000h試験前後での外観変化を目視にて調べた。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示す評価結果のとおり、実施例1は耐UV性に優れ、さらに比較例1は短時間での転写では不良となった。更に比較例2では、低速での転写が可能であったが、色相変化が明確に認められた。