(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
まず、本発明の一実施形態に係る脱酸素剤を用いるボイラ装置1について図面を参照しながら説明する。
図1は、ボイラ装置1の構成を示す模式図である。本実施形態におけるボイラ装置1は、ボイラ2と、硬水軟化装置3と、給水タンク4と、脱酸素剤添加装置5と、を備える。
また、ボイラ装置1は、給水ラインL1と、燃料供給ラインL2と、ブローラインL3と、蒸気取出ラインL4と、蒸気送出ラインL5と、降水ラインL6と、脱酸素剤添加ラインL7と、を備える。本明細書における「ライン」とは、流路、経路、管路等の流体の流通が可能なラインの総称である。
【0012】
ボイラ2は、蒸気使用設備(不図示)に供給する蒸気を生成する。ボイラ2は、ボイラ本体21と、バーナ27と、燃焼室26と、ボイラ給水供給手段としての給水ポンプ6と、気水分離器7と、を備える。ボイラ本体21は、複数の水管22、上部ヘッダ23と、下部ヘッダ24と、からなる圧力容器を形成している。
ボイラ2は、多管式貫流ボイラである。なお、ゲージ圧力1MPa以下で使用され、伝熱面積が10m
2以下のものは、小型貫流ボイラと称される(労働安全衛生法施行令第1条第4号)。
【0013】
給水ラインL1は、ボイラ給水W1をボイラ本体21に供給するラインである。給水ラインL1の上流側の端部は、ボイラ給水W1の供給源(図示しない)に接続される。給水ラインL1の下流側の端部は、ボイラ本体21の下部ヘッダ24に接続される。給水ラインL1には、供給源からボイラ2に向けて順に、硬水軟化装置3、給水タンク4、接続部J1及び給水ポンプ6が配置される。
【0014】
硬水軟化装置3は、水道水、地下水、工業用水等の原水中に含まれる硬度成分をナトリウムイオン(又はカリウムイオン)へ置換して軟水を生成する。硬水軟化装置3は、陽イオン交換樹脂床3aを有する。陽イオン交換樹脂床3aは、ボイラ本体21に供給されるボイラ給水W1の軟水化処理を行う。硬水軟化装置3は、原水W0を陽イオン交換樹脂床3aで軟水化して得られた処理水(軟水)をボイラ給水W1としてボイラ2に向けて供給する。
【0015】
給水タンク4は、硬水軟化装置3により軟水化された処理水を、ボイラ給水W1として貯留する。給水タンク4に貯留されたボイラ給水W1は、給水ポンプ6によりボイラ本体21に供給される。
給水ポンプ6は、給水タンク4からボイラ給水W1を吸入し、給水ラインL1を流通するボイラ給水W1をボイラ本体21に向けて送出する。
【0016】
接続部J1には、脱酸素剤添加ラインL7の下流側の端部が接続される。脱酸素剤添加ラインL7の上流側の端部には、脱酸素剤供給手段としての脱酸素剤添加装置5が接続されている。脱酸素剤添加装置5は、ボイラ給水W1に脱酸素剤を添加(供給)する装置である。脱酸素剤添加装置5からボイラ給水W1に添加される脱酸素剤については、後段で詳述する。
【0017】
脱酸素剤添加装置5は、制御装置(図示しない)と電気的に接続されている。脱酸素剤添加装置5から給水ラインL1の接続部J1へ薬剤を添加するタイミング及び添加量は、制御装置から送信される駆動信号により制御される。
【0018】
ボイラ本体21は、上下のヘッダ間に鉛直方向に立設された水管群より構成され、ボイラ2の外形の主要部を構成する。ボイラ本体21には、給水ラインL1により供給されたボイラ給水W1が内部にボイラ水W2として貯留される。なお、ボイラ水W2には、ボイラ本体21に一旦ボイラ水W2として溜まった後に蒸気として取り出されて、ボイラ本体21に戻ってくる水が含まれる。例えば、ボイラ水W2には、後述する気水分離器7により分離されてボイラ本体21に返送される分離水W3も含まれる。
【0019】
ボイラ本体21の内部には、ボイラ水W2が貯留される。ボイラ本体21は、複数の水管22と、上部ヘッダ23と、下部ヘッダ24と、を備える。複数の水管22は、ボイラ本体21の上下方向に延びて配置される。上部ヘッダ23は、ボイラ本体21の上部に配置される。上部ヘッダ23は、例えば、環状の容器により構成される。上部ヘッダ23には、複数の水管22の上端部が連結される。上部ヘッダ23には、後述する蒸気取出ラインL4の一方側の端部が接続される。
【0020】
下部ヘッダ24は、ボイラ本体21の下部に配置される。下部ヘッダ24は、例えば、環状の容器により構成される。下部ヘッダ24には、複数の水管22の下端部が連結される。下部ヘッダ24の側壁の一方には、給水ラインL1の端部が接続される。下部ヘッダ24の側壁の他方には、降水ラインL6の端部が接続される。燃焼室26は、複数の水管22に囲まれた空間により構成される。
【0021】
バーナ27は、燃焼することによりボイラ本体21の内部を加熱する。バーナ27は、ボイラ本体21の上部側の中央部に配置される。バーナ27は、燃料噴射ノズル及び空気供給ノズル(いずれも図示せず)を含んで構成される。バーナ27は、燃料噴射ノズルから燃料をボイラ本体21の燃焼室26に向けて噴射すると共に、空気供給ノズルから空気をボイラ本体21の内部に供給して、燃料を燃焼させる。
【0022】
燃料供給ラインL2は、バーナ27により燃焼される燃料Fをバーナ27に供給するラインである。燃料供給ラインL2の上流側の端部は、燃料Fの供給源(図示せず)に接続されている。燃料供給ラインL2の下流側の端部は、バーナ27に接続されている。燃料供給ラインL2には、燃料供給弁81が配置される。燃料供給弁81は、バーナ27に供給される燃料の量を調整する弁である。
【0023】
蒸気取出ラインL4は、水管22において生成された湿り蒸気SM1を、上部ヘッダ23から取り出して、気水分離器7に導入させるラインである。蒸気取出ラインL4の上流側の端部は、ボイラ本体21の上部ヘッダ23の上面部に接続される。蒸気取出ラインL4の下流側の端部は、気水分離器7の側部の上方側に接続される。
【0024】
気水分離器7は、上部ヘッダ23から蒸気取出ラインL4を介して導入された湿り蒸気SM1を、乾き蒸気SM2と水分(以下「分離水W3」ともいう)とに分離する装置である。なお、前述のとおり、気水分離器7により分離される分離水W3は、ボイラ水W2の一部でもある。
【0025】
蒸気送出ラインL5は、気水分離器7により分離された乾き蒸気SM2を、蒸気ヘッダ(図示せず)に向けて送り出すラインである。乾き蒸気SM2は、蒸気ヘッダを介して蒸気使用設備(図示せず)に供給される。
【0026】
降水ラインL6は、気水分離器7により分離された分離水W3を、ボイラ本体21の下部ヘッダ24に向けて流下させるラインである。降水ラインL6の上流側の端部は、気水分離器7の下部に接続されている。降水ラインL6の下流側の端部は、下部ヘッダ24に接続される。また、降水ラインL6には、接続部J2が配置される。
【0027】
接続部J2には、ブローラインL3の上流側の端部が接続されている。ブローラインL3は、降水ラインL6(降水管)を流通する分離水W3(ボイラ水W2)を、接続部J2を介して、ボイラ2の外部に排出するラインである。ブローラインL3には、ブロー弁82が設けられている。ブロー弁82を開状態にすることにより、降水ラインL6(降水管)を流通する分離水W3(ボイラ水W2)を外部に排出する。
【0028】
続いて、本発明の一実施形態に係る脱酸素剤について説明する。
本実施形態に係る脱酸素剤は、アスコルビン酸化合物と、エリソルビン酸化合物と、水と、を含有する。
【0029】
アスコルビン酸化合物としては、アスコルビン酸及びアスコルビン酸の塩が挙げられる。アスコルビン酸の塩としては、アスコルビン酸ナトリウムやアスコルビン酸カリウム等のアルカリ金属塩、アスコルビン酸カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩やトリエタノールアミン塩等の有機アミン塩等を例示することができる。
本実施形態に係る脱酸素剤は、水への溶解性の観点から、アスコルビン酸化合物として、アスコルビン酸及びアスコルビン酸のアルカリ金属塩の少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0030】
アスコルビン酸化合物は、ボイラ給水中の溶存酸素と反応することで、ボイラ給水中の溶存酸素濃度を低下させ、ボイラ装置の配管の腐食を防止する。例えば、アスコルビン酸は、酸素と反応して酸化されることで、デヒドロアスコルビン酸が生成される。
【0031】
脱酸素剤は、アスコルビン酸化合物を12質量%超20質量%以下含有する。脱酸素剤がアスコルビン酸化合物を12質量%以下含有する場合、脱酸素剤のボイラ給水への必要添加量が多くなる。一方、脱酸素剤がアスコルビン酸化合物を20質量%よりも多く含有する場合、アスコルビン酸化合物が水に溶解し難いことから、脱酸素剤の液安定性が低下する。
【0032】
エリソルビン酸化合物としては、エリソルビン酸及びエリソルビン酸の塩が挙げられる。エリソルビン酸の塩としては、エリソルビン酸ナトリウムやエリソルビン酸カリウム等のアルカリ金属塩、エリソルビン酸カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩やトリエタノールアミン塩等の有機アミン塩等を例示することができる。
本実施形態に係る脱酸素剤は、水への溶解性の観点から、エリソルビン酸化合物として、エリソルビン酸及びエリソルビン酸のアルカリ金属塩の少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0033】
エリソルビン酸は、アスコルビン酸のジアステレオマーである。エリソルビン酸化合物は、アスコルビン酸化合物と同様に、ボイラ給水中の溶存酸素と反応することで、ボイラ給水中の溶存酸素濃度を低下させ、ボイラ装置の配管の腐食を防止する。例えば、エリソルビン酸は、酸素と反応して酸化されることで、デヒドロエリソルビン酸(デヒドロイソアスコルビン酸)が生成される。
【0034】
脱酸素剤は、エリソルビン酸化合物を1質量%以上8質量%以下含有する。脱酸素剤がエリソルビン酸化合物を1質量%未満含有する場合、脱酸素剤のボイラ給水への必要添加量が多くなる。一方、脱酸素剤がエリソルビン酸化合物を8質量%よりも多く含有する場合、エリソルビン酸化合物が水に溶解し難いことから、脱酸素剤の液安定性が低下する。
【0035】
脱酸素剤における、アスコルビン酸化合物及びエリソルビン酸化合物の合計含有量は、20質量%超である。脱酸素剤は、アスコルビン酸化合物及びエリソルビン酸化合物の合計含有量が20質量%超であることによって、ボイラ給水への添加量を減らすことができ、脱酸素剤注入ポンプの小容量化できる上に、脱酸素剤の運搬・補充にかかるコスト等を削減できる。なお、脱酸素剤における、アスコルビン酸化合物及びエリソルビン酸化合物の合計含有量の上限は、28質量%である。アスコルビン酸化合物及びエリソルビン酸化合物の合計含有量が、この上限値を超えると、脱酸素剤の液安定性が低下する。アスコルビン酸化合物及びエリソルビン酸化合物の合計含有量の下限は、21質量%であることが好ましい。
【0036】
なお、脱酸素剤における、アスコルビン酸化合物及びエリソルビン酸化合物の含有量は、アスコルビン酸化合物及びエリソルビン酸化合物をそれぞれアスコルビン酸及びエリソルビン酸に換算した場合の含有量である。例えば、脱酸素剤が、アスコルビン酸化合物としてアスコルビン酸ナトリウムを含有する場合、その含有量は、アスコルビン酸のナトリウム塩を遊離酸に換算して求める。
【0037】
本実施形態に係る脱酸素剤は、アスコルビン酸化合物及びエリソルビン酸化合物の他に、必要に応じてスケール防止剤やpH調整剤等を含有してもよい。スケール防止剤としては、例えば、カルボン酸系ポリマー、アクリル酸系ポリマー、ホスホン酸系キレート剤、カルボン酸系キレート剤等を挙げることができる。また、pH調整剤としては、ボイラ系内におけるpHの低下を防ぐことができる、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が挙げられる。
【0038】
なお、アスコルビン酸化合物及びエリソルビン酸化合物は、食品添加物等としても用いられる安全性の高い化合物である。従って、本実施形態に係る脱酸素剤は、人体に対する安全性が高く、取扱性にも優れている。
【0039】
続いて、本実施形態に係る脱酸素方法について説明する。本実施形態に係る脱酸素方法は、ボイラ給水1Lに対して、上記の脱酸素剤を20〜320mg添加する。より具体的には、
図1において、給水ラインL1の接続部J1をボイラ給水W1が1L流れる間に、脱酸素剤添加装置5から接続部J1へ、脱酸素剤を20〜320mg添加する。
【0040】
ボイラ給水1Lに対する脱酸素剤の添加量が、20mg未満の場合には、ボイラ給水中の溶存酸素濃度を十分に低下できない傾向にある。一方、ボイラ給水1Lに対する脱酸素剤の添加量が、320mgを超える場合には、脱酸素剤注入ポンプの大容量化や、脱酸素剤の運搬・補充にかかるコスト等が高くなる傾向にある。
【0041】
本実施形態に係る脱酸素剤及び脱酸素方法によれば、以下の効果が奏される。
(1)本実施形態では、ボイラ給水に添加する脱酸素剤が、12質量%超20質量%以下のアスコルビン酸化合物と、1質量%以上8質量%以下質量%のエリソルビン酸化合物と、水と、を含有するものとした。また、脱酸素剤における、アスコルビン酸化合物及びエリソルビン酸化合物の合計含有量を、20質量%超とした。
これにより、脱酸素成分の濃度が高いにも関わらず液安定性に優れる、ボイラ給水に添加する脱酸素剤を提供できる。
【0042】
(2)本実施形態では、脱酸素剤を添加するボイラ給水を、多管式貫流ボイラへの給水とした。
多管式貫流ボイラは、起動時や低燃焼負荷時に、下部ヘッダ24や水管22の下部が低濃縮状態(低pH状態)になりやすいため、腐食が進行しやすい。例えば、pHが11未満の低pHのボイラ水では、溶存酸素濃度が高いと腐食が加速されることから、ボイラ給水の脱酸素が重要になる。従って、本実施形態に係る脱酸素剤は、このような多管式貫流に対して、好ましく用いることができる。
【0043】
(3)本実施形態に係る脱酸素方法では、ボイラ給水1Lに対して、上記の脱酸素剤を20〜320mg添加した。
これにより、脱酸素剤の使用量を抑えつつ、ボイラ給水の溶存酸素濃度を効果的に低下させることができる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態に係る脱酸素剤及び脱酸素方法について説明したが、本発明は上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
本実施形態においては、脱酸素剤を多管式貫流ボイラへの給水に添加するものとしたが、本発明に係る脱酸素剤が添加されるボイラ給水は、多管式貫流ボイラへの給水に限定されない。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
[実施例及び比較例]
脱酸素成分としてのアスコルビン酸及び/又はエリソルビン酸を、表1に示した含有量となるように純水(25℃)に溶解させることで、実施例及び比較例の各脱酸素剤を調整した。
【0047】
[脱酸素成分の溶解性]
実施例及び比較例の各脱酸素剤について、脱酸素成分の溶解性を評価した。脱酸素成分の溶解性の評価は、脱酸素成分が純粋に加えて即座に溶解した場合には「◎」とし、脱酸素成分が純水に加えて90分経過するまでに溶解した場合には「○」とし、脱酸素成分が純水に加えて90分経過した時点で溶解していない場合には「×」とした。結果を表1に示す。
【0048】
[液安定性]
実施例及び比較例の各脱酸素剤について、液安定性を評価した。液安定性の評価は、各脱酸素剤を25℃の環境下で30日間放置することで行った。液安定性の評価は、放置後に沈殿や濁りが生じない場合には評価結果を「○」とし、放置後に沈殿や濁りが生じた場合には評価結果を「×」とした。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例1〜4と比較例3及び4との比較から、実施例1〜4の脱酸素剤の方が比較例4の脱酸素剤よりも、液安定性が高いことが分かった。これらの結果から、脱酸素剤におけるアスコルビン酸及びエリソルビン酸の含有量を、それぞれ12質量%超20質量%以下及び1質量%以上8質量%以下とすることで、脱酸素剤の液安定性を向上できることが確認された。
【0051】
なお、比較例2と比較例3との比較から明らかなように、アスコルビン酸のみを脱酸素剤に含有させる場合、アスコルビン酸の含有量の上限は20質量%程度である。これに対して、本発明に係る脱酸素剤(実施例1〜4)は、アスコルビン酸及びエリソルビン酸が混合されてそれぞれの含有量が最適化されており、脱酸素成分の濃度が従来の脱酸素剤(比較例1及び2)よりも高い。