【文献】
梶原 稔尚 Toshihisa KAJIWARA,高分子材料における流動・変形の可視化,可視化情報学会誌 第28巻 第111号 JOURNAL OF THE VISUALIZATION SOCIETY OF JAPAN,日本,(社)可視化情報学会,2008年10月 1日,第28巻,p.17-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記初期配置工程は、前記ロータモデルの回転軸からの外径が一定になるように、前記粘性流体モデルを、前記ロータモデルのまわりに配置する工程を含む請求項1記載の粘性流体の混練状態の解析方法。
前記初期配置工程は、前記ケーシングモデルと前記ロータモデルとの間の空間の体積が、前記充填率と等しくなるように、前記ケーシングモデルを半径方向に縮小する工程、
前記縮小されたケーシングモデルと前記ロータモデルとで挟まれる領域に、前記粘性流体モデルを配置する工程、及び
前記縮小されたケーシングモデルを元の大きさに拡大して、前記ケーシングの内周面と、前記粘性流体モデルとを離間させる工程を含む請求項1乃至3のいずれかに記載の粘性流体の混練状態の解析方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の粘性流体の混練状態の解析方法(以下、単に「解析方法」ということがある)は、混練機で練られる粘性流体の混練状態を、コンピュータを用いて解析するための方法である。
【0024】
「混練」とは、例えば、ゴム材料や樹脂材料の成形時の前処理として、原材料の薬品、粉体などと液状バインダを分散させながら互いに濡らし、それらを均質にする作用乃至操作として定義される。代表的な混練工程は、混練機(バンバリーミキサー)を用いて行われる。
図1は、混練機の部分断面図である。
【0025】
混練機1は、筒状に形成されたケーシング2と、ケーシング2内に回転可能に配置された一対のロータ3、3とを含んで構成されている。ケーシング2とロータ3との間には、粘性流体(図示省略)が混練されるチャンバー4が区画される。本実施形態のチャンバー4は、断面横向きの略8の字状に形成されている。但し、チャンバー4は、このような形状に限定して解釈されるものではない。
【0026】
各ロータ3、3には、円筒状の基部3aと、基部3aからケーシング2の内周面2iに向かってのびる少なくとも一つの翼部3bとが設けられている。このような翼部3bは、チャンバー4に配置される粘性流体(図示省略)を撹拌するのに役立つ。
【0027】
粘性流体(図示省略)としては、安定的な流動状態とみなすことができれば、特に限定されない。本実施形態の粘性流体は、架橋前のゴムや樹脂等の粘性を有する流動性材料である場合が例示される。流動状態としては、例えば、架橋前のゴムの場合、十分に練られて約80℃程度まで昇温した状態が相当する。なお、粘性流体は、可塑性を有するゴムや樹脂又はエラストマー等に限定されるものではない。
【0028】
図2は、本発明の解析方法を実行するためのコンピュータの斜視図である。コンピュータ6は、本体6a、キーボード6b、マウス6c及びディスプレイ装置6dを含んでいる。この本体6aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置6a1、6a2が設けられている。また、記憶装置には、本実施形態の解析方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
図3は、本実施形態の解析方法の一例を示すフローチャートである。
【0029】
本実施形態の解析方法では、先ず、コンピュータ6に、ケーシング2を有限個の要素(「セル」ということもある。)F(i)でモデル化したケーシングモデル12が入力される(工程S1)。
図4は、ケーシングモデル及びロータモデルを示す断面図である。
【0030】
工程S1では、ケーシング2(
図1に示す)の設計データ(例えば、CADデータ)に基づいて、ケーシング2の輪郭が、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)でモデル化(離散化)される。これにより、ケーシングモデル12が定義される。
【0031】
要素F(i)としては、例えば、3次元のソリッド要素が採用されている。ソリッド要素は、精度がよく、接触面の設定が容易な6面体が好ましいが、複雑な形状を表現するのに適した4面体要素でもよい。なお、これらの要素以外にも、ソフトウェアで使用可能な3次元ソリッド要素でもよい。各要素F(i)には、要素番号、節点(図示省略)の番号、及び、節点の座標値等の数値データが定義される。また、各要素F(i)には、外力が作用しても変形不能な剛性が定義される。このようなケーシングモデル12は、コンピュータ6に記憶される。
【0032】
次に、本実施形態の解析方法では、コンピュータ6に、ロータ3、3(
図1に示す)を有限個の要素G(i)でモデル化したロータモデル13、13が入力される(工程S2)。
【0033】
本実施形態の工程S2では、各ロータ3、3(
図1に示す)の設計データ(例えば、CADデータ等)に基づいて、基部3a及び翼部3bの輪郭が、有限個の要素G(i)でモデル化(離散化)される。これにより、基部モデル13a及び翼部モデル13bをそれぞれ含む一対のロータモデル13、13が定義される。要素G(i)には、要素F(i)と同様に、変形不能な剛性が定義される。
【0034】
各ロータモデル13は、ケーシングモデル12の内部に配置される。また、ロータモデル13、13は、その中心(回転軸)Oa、Obの周りで回転可能に定義される。これらのロータモデル13、13は、コンピュータ6に記憶される。
【0035】
次に、本実施形態の解析方法では、コンピュータ6に、チャンバー4を有限個の要素H(i)でモデル化したチャンバーモデル14が入力される(工程S3)。
図5は、チャンバーモデル14及びロータモデル13、13の斜視図である。
図6は、チャンバーモデルの断面図である。
図7は、チャンバーモデルを分解して示す断面図である。
【0036】
本実施形態の工程S3では、
図1に示したケーシング2及びロータ3、3の設計データ(例えば、輪郭等)に基づいて、ケーシング2の内周面2iと、ケーシング2の幅方向の両端を閉じる両端面(図示省略)と、一対のロータ3、3の外周面3oとで閉じられた3次元空間(輪郭)が、有限個の要素H(i)でモデル化(離散化)される。これにより、
図5及び
図6に示されるように、ケーシング2の内周面2iによって規定される外周面14oと、ケーシング2の両端面によって規定される両端面14t(
図5に示す)と、一対のロータ3、3の外周面3oで規定される内周面14iとを有するチャンバーモデル14が入力される。
【0037】
要素H(i)は、例えば、オイラー要素が採用されている。従って、要素H(i)は、ラグランジェ要素とは異なり、そのメッシュが変形しない。そして、各要素H(i)には、後述する粘性流体モデル16又は気相モデル17の圧力、温度及び/又は速度等の物理量が計算される。
【0038】
本実施形態のチャンバーモデル14は、
図7に分離させて示されるように、一対の回転可能な回転部14A、14Bと、一対の回転部14A、14B間を継ぎ、かつ、一対の回転部14A、14Bが収容される外枠部14Cとが含まれる。従って、チャンバーモデル14は、3つの部分に分けて構成されている。
【0039】
回転部14A、14Bは、各々、円形の外周面14Ao、14Boと、ロータモデル13、13の外周面13o、13o(
図4に示す)に等しい内周面14iとを有している。回転部14A、14Bは、各々、外枠部14Cの内部に填め込まれる。また、回転部14A、14Bは、ロータモデル13、13とともに、中心(回転軸)Oa、Obの周りで回転可能に定義される。これにより、回転部14A、14B内の要素H(i)は、ロータ3、3(
図1に示す)の回転に伴うチャンバー4の容積形状の変化を表現することができる。
【0040】
外枠部14Cは、回転部14A、14Bを囲む筒状をなし、その軸方向両端は、前記両端面14t(
図5に示す)によって閉じられている。外枠部14Cは、各回転部14A、14Bと接触する凹円弧面14Coを有している。外枠部14Cの凹円弧面14Coと回転部14A、14Bの外周面14Ao、14Boとは、スライディングサーフェース等の境界条件が定義される。これにより、ロータモデル13、13及び各回転部14A、14Bを回転させるシミュレーション工程S6において、チャンバーモデル14の回転部14A、14B内で生じる物理的な作用(力及び熱等)が、この凹円弧面14Coを介して外枠部14Cへと伝達される。
【0041】
なお、外枠部14Cは、後述するシミュレーション工程S6において、ロータモデル13、13の回転に伴って大きなせん断力が計算される。このため、外枠部14Cは、外周面14oと回転部14A、14Bとの間の要素H(i)が、回転部14A、14Bよりも小さい要素H(i)で構成されるのが望ましい。これにより、チャンバーモデル14の外周面14o、及び、内周面14i付近の粘性流体モデル16の速度プロファイル等が、より詳細に計算される。このようなチャンバーモデル14は、コンピュータ6に記憶される。
【0042】
次に、本実施形態の解析方法では、コンピュータ6が、粘性流体をモデル化した練られる前の粘性流体モデルを、チャンバーモデル14内に配置する(初期配置工程S4)。本実施形態の初期配置工程S4では、チャンバーモデル14内に、練られる前の状態の粘性流体モデル16、及び、空気をモデル化した気相モデル17が配置される。
図8は、チャンバーモデル14内に粘性流体モデル16と気相モデル17とを混在して配置した状態を示す断面図である。なお、
図8において、粘性流体モデル16が着色して表示されている。
【0043】
粘性流体モデル16は、チャンバー4(
図1に示す)内を流動する粘性流体が、有限個の要素でモデル化されたものである。本実施形態では、0%よりも大かつ100%未満の充填率(例えば、70%)で、粘性流体モデル16がチャンバーモデル14内に配置される。
【0044】
粘性流体モデル16の配置は、粘性流体の物性が設定された要素H(i)(
図7に示す)によって定義される。粘性流体の物性は、例えば、せん断粘度、比熱、熱伝導率及び比重等が含まれる。
【0045】
せん断粘度は、例えば、解析対象となる粘性流体から粘弾性特性(G'及びG”)が複数の温度条件で測定され、Cox-Merz則などを用いてせん断粘度に変換することで得られる。このようにして得られたせん断粘度ηは、例えば下記式(1)のべき乗法則で近似される。
η=mγ'n−1 …(1)
ここで、mは係数、γ'はせん断速度、nは係数である。
【0046】
比熱は、解析対象の粘性流体から、例えば断熱型連続法(@25℃)にて測定される。さらに、熱伝導率は、解析対象の粘性流体から、例えば熱線法(@25℃)にて測定される。これらの比熱及び熱伝導率は、コンピュータ6に入力される。
図9は、初期配置工程S4の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0047】
初期配置工程S4では、先ず、重力Gr(
図24に示す)を考慮せずに、粘性流体モデル16が、ロータモデル13、13のまわりに配置される(粘性流体モデル配置工程S41)。即ち、本実施形態では、
図24に示したように、重力Grを考慮して、粘性流体モデル16が、チャンバーモデル14の下方に偏って配置された従来の解析方法(自然充填状態)とは異なる。本実施形態では、粘性流体モデル16がチャンバーモデル14の下方に偏ることなく、粘性流体モデル16がロータモデル13、13のまわり(全周に亘って)に配置される。
図10は、本実施形態の粘性流体モデル配置工程S41の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0048】
本実施形態の粘性流体モデル配置工程S41では、先ず、チャンバーモデル14内に、粘性流体モデル16が配置される領域が定義される(領域定義工程S411)。
図8に示されるように、本実施形態の領域定義工程S411では、ロータモデル13、13のまわりに、粘性流体モデル16が配置される領域(以下、単に、「粘性流体領域」ということがある。)20が定義される。粘性流体領域20の体積は、チャンバーモデル14において、粘性流体モデル16の前記充填率を満たすように設定される。粘性流体領域20は、チャンバーモデル14内の座標値によって定義される。
【0049】
本実施形態の粘性流体領域20は、ロータモデル13、13の回転軸Oa、Obからの外径D1が一定に設定された外周部分20Aが含まれる。本実施形態の外周部分20Aは、各回転部14A、14Bにそれぞれ設けられる。各外周部分20Aは、ロータモデル13、13のまわりで、周方向に連続して定義される。本実施形態では、粘性流体モデル16の充填率が100%未満であるため、外周部分20Aの外面20Aoが、チャンバーモデル14の外周面14oから半径方向内側に離間して配置されている。また、本実施形態の外周部分20Aは、チャンバーモデル14の両端面14t、14t(
図5に示す)間を、ロータモデル13、13の回転軸Oa、Obの軸芯方向に亘って連続して配置されている。
【0050】
さらに、本実施形態の粘性流体領域20は、一対の外周部分20A、20A間に配置される中間部分20Bが含まれる。本実施形態の中間部分20Bは、上下方向に長い直方体状に形成され、チャンバーモデル14の上下方向の中央部に設定されている。このような中間部分20Bも、外周部分20Aと同様に、チャンバーモデル14の外周面14oから離間して配置される。また、本実施形態の中間部分20Bは、外周部分20Aと同様に、チャンバーモデル14の両端面14t、14t(
図5に示す)間を、ロータモデル13、13の回転軸Oa、Obの軸芯方向に亘って連続して配置されている。
【0051】
次に、粘性流体モデル配置工程S41では、粘性流体領域20に、粘性流体の物性が定義される(工程S412)。工程S412では、チャンバーモデル14内に定義された粘性流体領域20内の各要素H(i)(
図7に示す)に、粘性流体の物性が定義される。粘性流体の物性については、上述したとおりである。これにより、本実施形態の粘性流体モデル配置工程S41では、チャンバーモデル14内に、粘性流体を有限個の要素H(i)でモデル化した練られる前の粘性流体モデル16が定義される。
【0052】
次に、初期配置工程S4では、コンピュータ6に、気相モデルが、チャンバーモデル14に配置される(工程S42)。工程S42では、粘性流体モデル16の物性が定義されていない要素H(i)(
図7に示す)に、空気の粘度、及び、比重といった物性が定義される。これにより、チャンバー4(
図1に示す)内の空気を、要素H(i)でモデル化した気相モデル17が定義(配置)される。本実施形態の気相モデル17は、チャンバーモデル14内において、粘性流体モデル16とチャンバーモデル14の外周面14oとの間に配置されている。
【0053】
このような本実施形態の初期配置工程S4では、粘性流体モデル16が、後述するシミュレーション工程S6の開始時(以下、単に「シミュレーション開始時」ということがある。)において、重力Grを考慮して粘性流体モデル16がチャンバーモデル14内に配置された自然充填状態(
図24に示す)よりも、ロータモデル13、13のまわりに均等に配置される。従って、本実施形態の解析方法では、ロータモデル13、13及び回転部14A、14Bを回転させるシミュレーション工程S6において、自然充填状態よりも短時間で、粘性流体モデル16を、ロータモデル13、13のまわりに万遍なく行き渡らせることができる。従って、シミュレーション工程S6での計算時間が短縮されうる。
【0054】
また、粘性流体モデル16がロータモデル13、13のまわりに均等に配置されているため、粘性流体モデル16のせん断力を、ロータモデル13、13の周方向で均等に生じさせうる。これにより、シミュレーション工程S6において、ロータモデル13、13のトルクが大きくなるのを防ぐことができ、流動計算を安定して実施することができる。
【0055】
さらに、粘性流体モデル16は、チャンバーモデル14の外周面14oから半径方向内側に離間して定義されている。また、粘性流体モデル16とチャンバーモデル14の外周面14oとの間には、気相モデル17が配置されている。このため、シミュレーション開始時において、粘性流体モデル16と外周面14oとの摩擦が大きくなるのを防ぐことができ、ロータモデル13、13のトルクが大きくなるのを効果的に防ぐことができる。
【0056】
本実施形態の外周部分20Aは、ロータモデル13、13の回転軸Oa、Obからの外径D1が一定に設定されている。これにより、シミュレーション開始時において、外周部分20Aの粘性流体モデル16のせん断力が、ロータモデル13、13の周方向で均一となり、ロータモデル13、13のトルクが大きくなるのを効果的に防ぐことができる。
【0057】
さらに、本実施形態の粘性流体モデル16は、粘性流体領域20の外周部分20Aだけでなく、中間部分20Bにも定義されている。このため、粘性流体モデル16は、例えば、中間部分20Bに粘性流体領域20が定義されない場合に比べて、外周部分20Aの外径D1を小さくすることができる。これにより、シミュレーション開始時において、外周部分20Aの粘性流体モデル16のせん断力が大きくなるのを防ぐことができる。従って、本実施形態では、ロータモデル13、13のトルクが大きくなるのを効果的に防ぐことができる。
【0058】
本実施形態の粘性流体モデル16は、外周部分20Aの外径D1が一定に設定されるものが例示されたが、ロータモデル13、13の周方向に、外径D1が変化するものでもよい。例えば、粘性流体モデル16のせん断力が相対的に大きくなりやすい部分の外径D1が、部分的に小に設定されてもよい。これにより、ロータモデル13、13のトルクが大きくなるのを効果的に防ぎうる。
【0059】
本実施形態の粘性流体モデル16は、チャンバーモデル14の両端面14t、14t(
図5に示す)間を、ロータモデル13、13の回転軸Oa、Obの軸芯方向に亘って連続して配置されるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。
図11は、本発明の他の実施形態の粘性流体モデル16の斜視図である。粘性流体モデル16は、ロータモデル13、13の回転軸Oa、Obの軸芯方向に隔設されるものでもよい。
【0060】
この実施形態の各粘性流体モデル16は、ロータモデル13、13の回転直後において、粘性流体モデル16、16間の空間18に浸入し、ロータモデル13、13のまわりに万遍なく行き渡りうる。従って、ロータモデル13、13のトルクを早期に小さくして、流動計算を安定して実施することができる。
【0061】
各粘性流体モデル16の幅W2については、適宜設定することができる。なお、各粘性流体モデル16の幅W2が大きいと、ロータモデル13、13の回転直後において、粘性流体モデル16が空間18に十分浸入できないおそれがある。逆に、各粘性流体モデル16の幅W2が小さくても、外周部分20Aの外径D1が大きくなり、ロータモデル13、13のトルクが大きくなるおそれがある。このような観点より、各粘性流体モデル16の幅W2は、好ましくは、チャンバーモデル14の両端面14t、14t間の長さL1の2%以上であり、また、好ましくは30%以下である。
【0062】
同様の観点より、粘性流体モデル16、16間の間隔D2は、好ましくは、チャンバーモデル14の両端面14t、14t間の長さL1の2%以上であり、また、好ましくは30%以下である。
【0063】
この実施形態の粘性流体モデル16を定義するには、領域定義工程S411において、ロータモデル13、13の回転軸Oa、Obの軸芯方向に、粘性流体領域20を隔設する工程がさらに含まれるのが望ましい。なお、各粘性流体領域20の体積の総和は、チャンバーモデル14において、粘性流体モデル16の前記充填率を満たすように設定される。そして、工程S412において、各粘性流体領域20(図示省略)内の各要素H(i)に、粘性流体の物性が定義されることにより、ロータモデル13、13の回転軸Oa、Obの軸芯方向に隔設された粘性流体モデル16が定義される。この実施形態の粘性流体モデル16は、チャンバーモデル14の両端面14t、14tに定義される態様が示されたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、チャンバーモデル14の両端面14t、14tに、空間18が定義されてもよい。
【0064】
これまでの実施形態の初期配置工程S4(粘性流体モデル配置工程S41)では、ロータモデル13、13の回転軸Oa、Obからの外径D1に基づいて設定された粘性流体領域20に基づいて、粘性流体モデル16が定義されるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、ケーシングモデル12を半径方向に縮小させて、縮小されたケーシングモデル12と、ロータモデル13、13とで挟まれる領域によって、粘性流体領域20が定義されてもよい。
図12は、本発明の他の実施形態の粘性流体モデル配置工程S41の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図13(a)〜(c)は、本発明の他の実施形態の粘性流体モデル配置工程S41を説明する断面図である。
【0065】
図13(a)に示されるように、この実施形態の粘性流体モデル配置工程S41では、先ず、ケーシングモデル12が半径方向に縮小される(工程S431)。工程S431では、ケーシングモデル12とチャンバーモデル14とのすり抜けを防ぐ接触条件が、無効に設定されている。このため、チャンバーモデル14の体積が維持されたまま、ケーシングモデル12がチャンバーモデル14をすり抜けて縮小される。なお、本実施形態のケーシングモデル12は、ロータモデル13、13の回転軸Oa、Ob(
図8に示す)の軸芯方向に収縮されていないが、回転軸Oa、Obの軸芯方向に収縮されてもよいし、回転軸Oa、Obの軸芯方向にのみ収縮されてもよい。
【0066】
工程S431では、チャンバーモデル14の全体積に対して、縮小されたケーシングモデル12とロータモデル13、13との間の空間の体積が、粘性流体の充填率と等しくなるように、ケーシングモデル12が縮小される。これにより、ケーシングモデル12とロータモデル13、13とで挟まれる領域は、粘性流体モデル16(
図13(b)に示す)が配置される粘性流体領域20として定義される。本実施形態の粘性流体領域20は、ロータモデル13、13のまわりで、周方向に連続している。
【0067】
次に、この実施形態の粘性流体モデル配置工程S41では、
図13(b)に示されるように、縮小されたケーシングモデル12とロータモデル13、13とで挟まれる領域(粘性流体領域20)に、粘性流体モデル16が配置される(工程S432)。工程S432では、粘性流体領域20内の各要素H(i)(
図7に示す)に、粘性流体の物性が定義される。これにより、チャンバーモデル14内に、粘性流体を有限個の要素H(i)でモデル化した練られる前の粘性流体モデル16が定義される。
【0068】
次に、
図13(c)に示されるように、この実施形態の粘性流体モデル配置工程S41では、縮小されたケーシングモデル12が元の大きさに拡大される(工程S433)。このケーシングモデル12の拡大により、ケーシングモデル12の内周面12i(チャンバーモデル14の外周面14o)と、粘性流体モデル16とが離間される。そして、ケーシングモデル12とチャンバーモデル14とのすり抜けを防ぐ接触条件が定義される。これにより、チャンバーモデル14内に、前記充填率を満たした粘性流体モデル16が定義される。なお、粘性流体モデル16とチャンバーモデル14の外周面14oとの間には、上述した工程S42において、気相モデル17が定義される。
【0069】
このような粘性流体モデル16は、ロータモデル13、13のまわりで周方向に連続する領域22に定義されるため、重力Grを考慮して粘性流体モデル16がチャンバーモデル14内に配置された自然充填状態(
図24に示す)よりも、ロータモデル13、13のまわりに均等に配置される。従って、この実施形態においても、シミュレーション工程S6での計算時間の短縮や、流動計算の安定性が実現されうる。粘性流体モデル16は、チャンバーモデル14の外周面14oから半径方向内側に離間して配置されているため、ロータモデル13、13のトルクが大きくなるのを効果的に防ぐことができる。
【0070】
この実施形態の粘性流体モデル16の外周面16oは、ケーシングモデル12の内周面12iに沿って形成される。従って、シミュレーション開始時において、粘性流体モデル16のせん断力は、ロータモデル13、13の周方向で均一となり、ロータモデル13、13のトルクが大きくなるのを効果的に防ぐことができる。従って、流動計算がさらに安定しうる。
【0071】
この実施形態では、ケーシングモデル12を半径方向に縮径させて、縮小されたケーシングモデル12とロータモデル13、13とで挟まれる領域に、粘性流体モデル16を配置して、縮小されたケーシングモデル12を元の大きさに拡大する態様が例示されたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、ケーシングモデル12とは別に、縮小したケーシングモデル12を新たに追加し、縮小されたケーシングモデル12とロータモデル13、13とで挟まれる領域に、粘性流体モデル16を配置して、縮小したケーシングモデル12を削除してもよい。これにより、縮小されたケーシングモデル12を元の大きさに拡大するのに要する計算時間を短縮することができる。
【0072】
次に、本実施形態の解析方法では、コンピュータ6に、流動計算のシミュレーションに必要な撹拌条件(境界条件)等、各種の条件が定義される(工程S5)。設定される撹拌条件としては、チャンバーモデル14の外周面14oでの流速境界条件及び温度境界条件が挙げられる。
【0073】
流速境界条件としては、シミュレーションの用途や精度等の解析条件に応じて、壁面ノースリップ条件、又は、壁面スリップ条件のいずれかが採用される。壁面ノースリップ条件において、粘性流体モデル16は、チャンバーモデル14の表面での流速が、常に零とされる。一方、壁面スリップ条件において、粘性流体モデル16は、チャンバーモデル14の外周面14oにおいて流速を持つ。この場合、流体モデルと混練空間モデル5との接触面のスリップ現象は、例えば、慣例に従ってNavier's Lawなどを用いてシミュレートすることができる。本実施形態では、壁面スリップ条件が採用される。
【0074】
温度境界条件としては、例えば、断熱条件(温度の計算を単純化するため、チャンバーモデル14の表面において、熱が外に逃げない条件)、又は、全てのチャンバーモデル14の表面温度が温調温度(例えば50℃)に設定される。また、チャンバーの内面境界のみ計算する場合は、固体部分の熱容量(比熱)や、熱抵抗値(熱伝導率)が設定される。なお、熱条件としては、実際の運転条件に応じて、他の条件が採用されてもよい。
【0075】
他の撹拌条件としては、
図7及び
図8に示した粘性流体モデル16の温度(初期の温度)、ロータモデル13、13(チャンバーモデル14の回転部14A、14B)の回転速度(例えば、回転数(rpm))、及び、チャンバーモデル14の外周面14oのスリップ率が挙げられる。さらに、他の条件としては、流動計算の初期状態、タイムステップ、内部処理でのイタレーションの反復回数、計算終了時刻などがある。また、シミュレーションにおいて出力されるパラメータ等が決定される。
【0076】
次に、本実施形態の解析方法では、コンピュータ6が、ロータモデル13、13を回転させて、粘性流体モデル16の流動計算を行う(シミュレーション工程S6)。
図14は、本実施形態のシミュレーション工程S6の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0077】
本実施形態のシミュレーション工程S6では、工程S5で設定された撹拌条件に基づいて、粘性流体モデル16及び気相モデル17を用いた流動計算が行われる(工程S61)。流動計算には、例えば、汎用の流体解析ソフトウェアが用いられる。この流動計算では、ロータモデル13、13及び回転部14A、14Bの回転数が予め定められた値に達するまで、ロータモデル13、13及び回転部14A、14Bを、シミュレーションの時間ステップt毎に回転させて、粘性流体モデル16及び気相モデル17の流動計算が行われる。このような流動計算を行うことにより、チャンバーモデル14の要素H(i)毎に、粘性流体の運動状態を特定する3方向(x,y,z)の速度成分、粘性流体の内部状態を特定する未知量である圧力p、及び温度Tがそれぞれ計算される。これにより、流れ場が算出される。
【0078】
上述したように、本実施形態では、
図24に示した自然充填状態よりも、粘性流体モデル16がロータモデル13、13のまわりに均等に配置されている。このため、シミュレーション工程S6では、ロータモデル13、13のまわりに、粘性流体モデル16を早期に行き渡らせることができる。また、ロータモデル13、13のトルクが大きくなるのが抑制されるため、流動計算が安定して実施されうる。
【0079】
次に、本実施形態のシミュレーション工程S6では、流動計算によって算出された時間ステップ(t=0)における流れ場が読み込まれる(工程S62)。この「流れ場」は、ある領域(この例ではチャンバーモデル14)において、任意の時刻における粘性流体の流れを特定しうる速度、圧力及び密度等の物理量が決定された場と定義される。
【0080】
次に、本実施形態のシミュレーション工程S6では、チャンバーモデル14内の所定の位置に、仮想粒子が所定の個数設置される(工程S63)。
図15は、仮想粒子の線図である。本実施形態の仮想粒子24は、数値シミュレーションにおいて、大きさ及び質量を有しない仮想の粒子として取り扱われる。この仮想粒子は、粘性流体モデル16の流動計算に影響を与えることなく、粘性流体モデル16の流れに従って移動するものである。従って、この仮想粒子24の位置が追跡されることにより、粘性流体モデル16(
図8に示す)の流動状態を調べることができる。
【0081】
チャンバーモデル14(
図8に示す)内に設置される仮想粒子24の個数は、任意に定められる。なお、仮想粒子24は、流体モデルの混練(分配)度合いを調べるために、好ましくは数百個以上、より好ましくは500個以上がチャンバーモデル14内に設置されるのが望ましい。これらの個数や配設位置は、境界条件の設定時(工程S5)に予め定められる。
【0082】
次に、本実施形態のシミュレーション工程S6は、各仮想粒子の位置における速度情報から、次の時間ステップ(t=1)での各仮想粒子24の位置が計算される(工程S64)。工程S64の計算は、
図15に示されるとおり、次のように行われる。
【0083】
図15では一つの仮想粒子24を例に挙げているが、実際には、多数設置される各仮想粒子について、以後の処理が行われる。まず、仮想粒子24は、時間ステップ(t=0)のときの位置(Xt,Yt,Zt)にある。また、時間ステップ(t=0)の流れ場において、前記位置(Xt,Yt,Zt)での流体モデルは、各x、y及びz成分の速度情報として(Vx(t),Vy(t),Vz(t))を持っている。
【0084】
コンピュータは、時間ステップt(t=1)後の仮想粒子24の位置情報(Xt+1,Yt+1,Zt+1)を、下式を用いて計算する。
Xt+1=Xt+Vx(t)×T
Yt+1=Yt+Vy(t)×T
Zt+1=Zt+Vz(t)×T
【0085】
次に、本実施形態のシミュレーション工程S6は、流れ場を参照し、計算された次の時間ステップ(t=1)での仮想粒子24の位置(Xt+1,Yt+1,Zt+1)において、粘性流体モデル16の体積分率(F値)が確認される(工程S65)。
【0086】
本実施形態のチャンバーモデル14には、粘性流体モデル16と気相モデル17とが混在している。このため、シミュレーション工程S6では、粘性流体モデル16及び気相モデル17が一度に扱われる必要がある。本実施形態では、自由界面の流れの計算で用いられるVOF(Volume of Fluid)法が用いられる。VOF法では、2つの流体の界面の移動が直接計算されるのではなく、粘性流体モデル16の充填率である体積分率(F値)が定義されて、自由界面が表現される。従って、粘性流体モデル16及び気相モデル17の2相を平均化して、一つの流体モデルとして扱われる。
【0087】
任意の要素H(i)について粘性流体モデル16の体積分率(F値)が0の場合、その要素H(i)は、全てが気相モデル17で満たされていることを意味している。逆に、任意の要素H(i)について、粘性流体モデル16の体積分率(F値)が上限の1(=100%)の場合、その要素H(i)は、全てが粘性流体モデル16で満たされていることを意味している。
【0088】
次に、本実施形態のシミュレーション工程S6は、上記体積分率が、予め指定した値以上か否かが判断される(工程S66)。この値には、例えば0.5程度が設定される。この工程S66により、仮想粒子24の次の時間ステップtでの移動先に、実質的に粘性流体モデル16が存在しているか否かを調べることができる。
【0089】
工程S66の結果がYesの場合、コンピュータは、新たに計算された仮想粒子24の位置における速度情報から、さらに次の時間ステップ(t=N+1)での各仮想粒子24の位置を計算する(工程S67)。工程S66の結果がNo、即ち、仮想粒子24の移動先の要素H(i)には、実質的に粘性流体モデルが存在していないと判断した場合、この仮想粒子24を消滅させる(工程S68)。つまり、気相モデル17に飛散したような仮想粒子24については、追跡を終了する。各仮想粒子24の位置は、コンピュータ6に記憶される。
【0090】
次に、本実施形態のシミュレーション工程S6は、上記処理(工程S65〜工程S68)が、予め定められた回数が繰り返されたか否か(予め定められた時間ステップtが経過したか否か)が判断される(工程S69)。この回数は、各仮想粒子24の追跡を開始して、十分な時間が経過したか否かを基準に設定される。工程S69の結果がYesの場合、
図2に示される評価工程S7が実施される。他方、工程S69の結果がNoの場合、工程S65〜工程S69が再度実施される。
【0091】
本実施形態のシミュレーション工程S6では、チャンバーモデル14内に配置された仮想粒子24の位置が追跡されることにより、粘性流体モデル16の流動状態(分配状態)を調べられたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、仮想粒子24を用いずに、ロータモデル13、13のトルク、及び、圧力波形が安定したか否かにより、粘性流体モデル16の流動状態(分配状態)が調べられてもよい。このような態様では、仮想粒子24が用いられないため、計算負荷を低減することができる。
【0092】
次に、本実施形態の解析方法では、コンピュータ6が、粘性流体モデル16の混練状態を評価する(評価工程S7)。粘性流体モデル16の混練状態を評価する方法としては、適宜採用することができる。例えば、上記特許文献1のように、シミュレーション工程S6で計算される粘性流体モデル16の存在位置に基づいて、理想混練状態が計算されることにより、粘性流体モデル16の混練状態が評価されるものでもよい。
【0093】
評価工程S7では、粘性流体モデル16の混練状態が良好と判断された場合(評価工程S7で、Yes)、本実施形態の解析方法の一連の処理が終了する。一方、評価工程S7では、粘性流体モデル16の混練状態が不良と判断された場合(評価工程S7で、No)、粘性流体モデル16の物性、又は、混練機1の設計因子を変更して(工程S8)、工程S1〜工程S7が再度実施される。これにより、本実施形態の解析方法では、混練状態が良好な粘性流体、又は、混練機1を確実に設計することができる。
【0094】
これまでの実施形態の解析方法では、初期配置工程S4において、重力Gr(
図24に示す)を考慮せずに、粘性流体モデル16がロータモデル13、13のまわりに配置されるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。初期配置工程S4は、上述したVOF法に基づいて、チャンバーモデル14の各要素H(i)に、粘性流体モデル16の体積分率、及び、気相モデル17の体積分率が定義されてもよい。
図16は、本発明の他の実施形態の初期配置工程S4の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0095】
この実施形態の初期配置工程S4では、先ず、チャンバーモデル14の各要素H(i)に、粘性流体モデル16の体積分率、及び、気相モデル17の体積分率が定義される(工程S441)。
図17は、粘性流体モデル16の体積分率(F値)が定義されたチャンバーモデル14の各要素H(i)を示す断面図である。粘性流体モデル16の体積分率(F値)は、粘性流体モデル16の充填率である。
図17では、粘性流体モデル16の体積分率(F値)が、例えば「0.7」である場合が例示されている。このように、チャンバーモデル14の各要素H(i)には、粘性流体モデル16と気相モデル17とが、予め定められた体積分率で均一に配置されている。なお、粘性流体モデル16及び気相モデル17は、重力Gr(
図24に示す)を考慮することなく、各要素H(i)に配置される。
【0096】
次に、初期配置工程S4では、チャンバーモデル14の各要素H(i)に、粘性流体の物性及び空気の物性が定義される(工程S442)。これにより、チャンバーモデル14の各要素H(i)には、予め定められた体積分率に基づいて、粘性流体モデル16及び気相モデル17が均一に定義される。
【0097】
このような粘性流体モデル16も、シミュレーション開始時において、重力Grを考慮して粘性流体モデル16がチャンバーモデル14内に配置された自然充填状態(
図24に示す)よりも、ロータモデル13、13のまわりに均等に配置される。従って、この実施形態の解析方法では、自然充填状態よりも短時間で、粘性流体モデル16を、ロータモデル13、13のまわりに万遍なく行き渡らせることができ、シミュレーション工程S6での計算時間が短縮されうる。
【0098】
さらに、粘性流体モデル16は、チャンバーモデル14の各要素H(i)に均一に定義されている。このため、シミュレーション開始時において、ロータモデル13、13のトルクが大きくなるのを防ぐことができ、流動計算を安定して実施することができる。
【0099】
また、この実施形態では、シミュレーション工程S6に先立ち、チャンバーモデル14の各要素H(i)に、粘性流体モデル16の体積分率、及び、気相モデル17の体積分率が定義されている。このため、シミュレーション工程S6において、粘性流体モデル16の体積分率、及び、気相モデル17の体積分率が、各要素H(i)に改めて定義されることなく、流動計算が迅速に行われる。従って、シミュレーション工程S6を簡略化することができ、計算時間を短縮することができる。
【0100】
これまでの実施形態のシミュレーション工程S6では、工程S5で設定された一つの撹拌条件に基づいて、粘性流体モデル16の流動計算が行われたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、シミュレーション工程S6では、異なる撹拌条件に基づいて行われる第1シミュレーション工程S91、及び、第2シミュレーション工程S92が含まれてもよい。
図18は、この実施形態のシミュレーション工程S6の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成、及び、方法等については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0101】
この実施形態のシミュレーション工程S6では、第1シミュレーション工程S91後に、第2シミュレーション工程S92が実施される。第1シミュレーション工程S91では、後述する第1撹拌条件に基づいて、流動計算が実施される。第2シミュレーション工程S92では、工程S5で設定された撹拌条件(以下、単に「第2撹拌条件」ということがある。)に基づいて、流動計算が実施される。従って、第2シミュレーション工程S92は、
図14に示した前実施形態のシミュレーション工程S6と同一の処理手順に基づいて、流動計算が実施される。
図19は、この実施形態の第1シミュレーション工程S91の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0102】
第1シミュレーション工程S91では、先ず、コンピュータ6に、第1撹拌条件が定義される(工程S911)。第1撹拌条件は、工程S5で設定された第2撹拌条件よりも、前記粘性流体モデルの撹拌を加速させる条件である。なお、第1撹拌条件の各項目は、第2撹拌条件(即ち、工程S5で設定された撹拌条件)の各項目と同一である。
【0103】
この実施形態の第1撹拌条件は、ロータモデル13、13の回転速度が、第2撹拌条件のロータモデル13の回転速度よりも大に設定される。なお、ロータモデル13、13の少なくとも一方の回転速度が、第2撹拌条件の回転速度よりも大に設定されれば良く、ロータモデル13、13の双方の回転速度が大に設定されても良い。同様に、第1撹拌条件の回転部14A、14Bの回転速度も、第2撹拌条件の回転部14A、14Bの回転速度よりも大に設定される。これにより、第1撹拌条件に基づく第1シミュレーション工程S91は、粘性流体モデル16のせん断速度を上げることにより、粘性流体モデル16の粘度を小さくして動きやすくできるため、第2撹拌条件に基づく第2シミュレーション工程S92よりも、粘性流体モデル16を効果的に撹拌(分配)することができる。なお、第1撹拌条件の回転速度の増分については、例えば、粘性流体モデル16に設定された物性等に基づいて、可能な範囲で適宜設定される。第1撹拌条件の回転速度の一例としては、第2撹拌条件の回転速度が40rpmの場合、例えば60rpmに設定することができる。
【0104】
各ロータモデル13、13(各回転部14A、14B)の第1撹拌条件の回転速度は、第2撹拌条件の回転速度よりも大であれば、互いに異ならせてもよい(例えば、10%程度)。これにより、均一な練りを促進することができる。また、各ロータモデル13、13の第1撹拌条件の回転速度は、互いに同一に設定されてもよい。これにより、回転初期時のロータモデル13、13の位相が変形しないため、後述する第2シミュレーション工程S92にスムーズに移行することができる。
【0105】
また、第1撹拌条件は、粘性流体モデル16の温度(初期温度)が、第2撹拌条件の粘性流体モデル16の温度(初期温度)よりも大に設定されてもよい。これにより、第1撹拌条件に基づく第1シミュレーション工程S91は、第2撹拌条件に基づく第2シミュレーション工程S92よりも、粘性流体モデル16の粘度を小さくできるため、粘性流体モデル16を効果的に撹拌(分配)することができる。なお、第1撹拌条件の温度の増分については、例えば、粘性流体モデル16に設定された物性等に基づいて定義設定される。第1撹拌条件の温度の一例としては、第2撹拌条件の温度が120℃の場合、例えば160℃に設定することができる。
【0106】
さらに、工程S911では、第1シミュレーション工程S91で用いられる粘性流体モデル16のせん断粘度が、第2シミュレーション工程S92で用いられる粘性流体モデル16のせん断粘度よりも小に設定されてもよい。これにより、せん断粘度が相対的に小さい粘性流体モデル16を用いた第1シミュレーション工程S91は、せん断粘度が相対的に大きい粘性流体モデル16を用いた第2シミュレーション工程S92よりも、粘度を小さくできるため、粘性流体モデル16を効果的に撹拌(分配)することができる。第1シミュレーション工程S91で用いられる粘性流体モデル16のせん断粘度の減分については、例えば、例えば、粘性流体モデル16に設定された他の物性等に基づいて定義設定される。
【0107】
第1撹拌条件としては、ロータモデル13、13の回転速度、粘性流体モデル16の温度、又は、粘性流体モデル16のせん断粘度のいずれかについて、上記のように設定されればよい。なお、ロータモデル13、13の回転速度、粘性流体モデル16の温度、及び、粘性流体モデル16のせん断粘度の全てが、上記のように設定されることにより、粘性流体モデル16をより効果的に撹拌(分配)することができる。また、計算負荷を低減するために、粘性流体モデル16の粘度及び温度が一定として定義されてもよい。なお、第1撹拌条件の他の項目については、第2撹拌条件の他の項目と同一のものが定義される。これらの第1撹拌条件は、コンピュータ6に記憶される。
【0108】
次に、この実施形態の第1シミュレーション工程S91では、第1撹拌条件に基づいて、粘性流体モデル16及び気相モデル17を用いた流動計算が行われる(工程S912)。工程S912では、
図14に示した工程S61と同様に、汎用の流体解析ソフトウェアが用いられる。この流動計算では、ロータモデル13、13及び回転部14A、14Bの回転数が予め定められた値に達するまで、ロータモデル13、13及び回転部14A、14Bを、シミュレーションの時間ステップt毎に回転させて、粘性流体モデル16及び気相モデル17の流動計算が行われる。これにより、工程S912では、粘性流体モデル16及び気相モデル17を撹拌した状態を計算することができる。
【0109】
上述したように、この実施形態では、
図24に示した自然充填状態よりも、粘性流体モデル16がロータモデル13、13のまわりに均等に配置されている。このため、工程S912では、ロータモデル13、13のトルクが大きくなるのが抑制され、流動計算が安定して実施されうる。さらに、工程S912では、工程S911で設定された第1撹拌条件に基づいて、流動計算が実施される。従って、工程S912では、粘性流体モデル16及び気相モデル17を効果的に撹拌することができる。
図20は、粘性流体モデル16及び気相モデル17が拡散された状態を示す斜視図である。
【0110】
第1シミュレーション工程S91では、粘性流体モデル16の撹拌(分配)状態の良好と判断された後に、後述の第2シミュレーション工程S92が実施されるのが望ましい。なお、粘性流体モデル16の撹拌(分配)状態の良否は、例えば、ロータモデル13、13のトルク、及び、圧力波形が安定したか否かによって判断することができる。なお、チャンバーモデル14内に配置された仮想粒子24(
図15に示す)の位置が追跡されることによって、粘性流体モデル16の撹拌(分配)状態の良否が判断されてもよい。また、粘性流体モデル16を効果的に撹拌(分配)するために、ロータモデル13、13(回転部14A、14B)の回転数は、2〜10回(本実施形態では、3回程度)に設定されるのが望ましい。
【0111】
次に、この実施形態のシミュレーション工程S6は、工程S5で設定された第2撹拌条件に基づいて、粘性流体モデル16の流動計算を行う第2シミュレーション工程S92が実施される。第2シミュレーション工程S92は、
図14に示した処理手順に従って実施される。
【0112】
第2シミュレーション工程S92では、第1シミュレーション工程S91で撹拌された粘性流体モデル16及び気相モデル17が用いられる。この実施形態では、第1シミュレーション工程S91で計算された粘性流体モデル16及び気相モデル17の体積分率の分布のみが用いられるが、必要に応じて、速度分布や圧力分布も用いられてもよい。
【0113】
上述したように、第1シミュレーション工程S91で計算された粘性流体モデル16及び気相モデル17は、第1撹拌条件に基づいて、効果的に撹拌されている。従って、第2シミュレーション工程S92の流動計算では、ロータモデル13、13のトルクが大きくなるのを効果的に抑制しつつ、ロータモデル13、13のまわりに、粘性流体モデル16を、より早期に行き渡らせることができる。従って、コンピュータ6の計算負荷を小さくすることができる。なお、第2シミュレーション工程S92では、第1シミュレーション工程S91と、粘性流体モデル16の体積が同一であれば、粘性流体モデル16に定義される物性、温度条件、及び、運転条件が異なってもよい。
【0114】
本実施形態の混練機モデル入力工程S1は、ケーシング2(
図1に示す)をモデル化したケーシングモデル12、及び、一対のロータ3、3(
図1に示す)を有限個の要素G(i)でモデル化したロータモデル13、13が入力されたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、解析対象がチャンバー4内の粘性流体である場合、チャンバーモデル14のみが入力されてもよい。この場合、ケーシングモデル12を入力する工程S1、及び、ロータモデル13、13を入力する工程S2は省略される。これにより、混練機モデル11をモデル化するのに要する時間を、短縮することができる。
【0115】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0116】
図3及び
図9に示す処理手順に従って、粘性流体モデル及び気相モデルがチャンバーモデルに配置され、練られた状態の粘性流体モデルの流動計算が実施された(実施例1〜5、及び、比較例)。
【0117】
実施例1及び実施例2の粘性流体モデル配置工程では、
図10に示す処理手順に従って、ロータモデルの回転軸からの外径が一定になるように、粘性流体モデルが、ロータモデルのまわりに配置されている。さらに、実施例1及び実施例2では、粘性流体領域の中間部分に、粘性流体モデルが定義されている。また、実施例2の粘性流体モデルは、
図11に示されるように、ロータモデルの回転軸の軸芯方向に隔設されている。
【0118】
実施例3の粘性流体モデル配置工程では、
図12に示す処理手順に従って、縮径されたケーシングモデルとロータモデルとで挟まれる領域に、粘性流体モデルが定義されている。実施例4の粘性流体モデル配置工程では、
図16に示す処理手順に従って、チャンバーモデルの各要素に、粘性流体モデルの体積分率、及び、気相モデルの体積分率が定義されることにより、粘性流体モデル及び気相モデルが定義された。比較例の粘性流体モデル配置工程では、
図24に示されるように、重力を考慮して、粘性流体モデルがチャンバーモデル内に配置された。
【0119】
実施例5では、実施例1と同一の粘性流体モデルが定義された。さらに実施例1では、
図19に示す処理手順に従って、下記の第1撹拌条件に基づいて、ロータモデルを5回転させた流動計算を行う第1シミュレーション工程が実施された。
【0120】
そして、実施例1〜5、及び、比較例の各粘性流体モデルを用いた流動計算において、ロータモデルの回転数と、ロータモデルのトルク(比較例の10回転以上で安定した領域のトルクを100とした場合の指数)との関係が求められた。なお、ロータモデルのトルク(指数)が、安定するトルクの範囲(指数90〜指数110)内に収束するまでのロータモデルの回転数が小さいほど、流動計算が早期に安定し、良好であることを示している。共通仕様は、次のとおりであり、テスト結果を、
図21〜
図23及び表1に示す。
粘性流体モデル:
配合:天然ゴム、合成ゴム、シリカ、カーボン、加硫促進剤、及び、オイルを含む配合を考慮
充填率:70%
初期温度:120℃
ロータモデルの回転速度:
一方側のロータモデル:42rpm
他方側のロータモデル:38rpm
実施例2の粘性流体モデルの幅W2/チャンバーモデルの長さL1:10%
第1撹拌条件:
一方側のロータモデル:60rpm
他方側のロータモデル:60rpm
粘性流体モデルの初期温度:160℃
【0121】
【表1】
【0122】
テストの結果、実施例1〜5では、比較例に比べて、ロータモデルのトルクを、安定するトルクの範囲内に早期に収束した。従って、実施例1〜5は、比較例に比べて、流動計算を安定して実施しうることが確認できた。実施例3は、実施例1〜2、及び、実施例4に比べて、流動計算を安定して実施された。これは、実施例3の粘性流体モデルの外周面が、ケーシングモデルの内周面に沿って形成されるため、粘性流体モデルのせん断力が、ロータモデルの周方向で均一となり、ロータモデルのトルクが早期に安定したためと考えられる。
【0123】
実施例5は、実施例1〜4に比べて、流動計算を安定して実施された。これは、実施例5が、第1撹拌条件に基づいて流動計算が予め実施されたため、粘性流体モデルが効果的に撹拌され、ロータモデルのトルクが早期に安定したためと考えられる。