特許第6593016号(P6593016)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593016
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】自動変速制御装置および自動変速方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20191010BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20191010BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20191010BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20191010BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   B60W10/00 102
   F02D29/00 C
   F02D45/00 310M
   F02D29/00 G
   B60W10/02
   B60W10/06
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-152225(P2015-152225)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-30529(P2017-30529A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】大島 達也
(72)【発明者】
【氏名】角田 進
(72)【発明者】
【氏名】岸本 義久
【審査官】 ▲高▼木 真顕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−094987(JP,A)
【文献】 特開平06−346958(JP,A)
【文献】 特開2004−330850(JP,A)
【文献】 特開2010−053941(JP,A)
【文献】 特開2012−031970(JP,A)
【文献】 特開2006−283819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 10/30
B60W 30/00 − 50/16
F02D 29/00 − 29/06
F16H 59/00 − 61/12
F16H 61/16 − 61/24
F16H 61/66 − 61/70
F16H 63/40 − 63/50
F16D 25/00 − 39/00
F16D 48/00 − 48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、このエンジンからの駆動力を断接するクラッチ装置と、前記エンジンに前記クラッチ装置を介して接続されるとともに駆動輪に動力を伝達する推進軸に接続された機械式自動変速機とのそれぞれに接続され、前記エンジンの出力トルクの増減、前記クラッチ装置の作動、および前記機械式自動変速機のギアの切り替えのそれぞれを制御する手段を有し、前記機械式自動変速機を車両の運転状況に応じた目標ギアに切り替え後に、一時的に切り離していた前記クラッチ装置を繋いで前記エンジンの出力トルクを前記目標ギアに応じて設定された初期トルクから運転者の要求した要求トルクにする制御を行う自動変速制御装置において、
前記目標ギアに切り替えた後に、前記クラッチ装置を半クラッチ状態に繋ぐ制御を行うとともに、前記エンジンの出力トルクを実際のエンジン回転数と目標エンジン回転数との回転数差に基づいて前記初期トルクと前記要求トルクとの間に設定された第一トルクにする制御を行い、
前記エンジンから前記クラッチ装置および前記機械式自動変速機を経由して伝達された前記第一トルクによる前記推進軸の捻じれが生じた後に、前記エンジンの出力トルクを前記第一トルクから前記要求トルクにするとともに、前記クラッチ装置を半クラッチ状態から完全に繋げる制御を行う構成にしたことを特徴とする自動変速制御装置。
【請求項2】
前記目標ギアに切り替えた後を、前記機械式自動変速機をシフトアップした後に設定した請求項1に記載の自動変速制御装置。
【請求項3】
前記第一トルクによる前記推進軸の捻じれが生じた後で、かつ、前記回転数差が予め設定した所定範囲内になった後に、前記エンジンの出力トルクを前記第一トルクから前記要求トルクにする制御を行う構成にした請求項1または2に記載の自動変速制御装置。
【請求項4】
前記推進軸の推進軸回転数および前記目標ギアのギア比から前記目標エンジン回転数を算出し、その目標エンジン回転数と前記実際のエンジン回転数との回転数差を算出し、前記目標ギアと算出したその回転数差とに対して前記第一トルクが設定された第一トルクマップから前記第一トルクを算出する手段を有した請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動変速制御装置。
【請求項5】
機械式自動変速機を車両の運転状況に応じた目標ギアに切り替えた後に、一時的に切り離していたクラッチ装置を繋いでエンジンの出力トルクをその目標ギアに応じて設定された初期トルクから運転者の要求した要求トルクにする自動変速方法において、
前記目標ギアに切り替えた後に、前記クラッチ装置を半クラッチ状態に繋ぐステップと、
実際のエンジン回転数と目標エンジン回転数との回転数差に基づいて、前記初期トルクと前記要求トルクとの間に設定された第一トルクを算出し、前記エンジンの出力トルクを算出した前記第一トルクにするステップと、
前記クラッチ装置および前記機械式自動変速機を経由して伝達された前記第一トルクによる推進軸の捻じれが生じた後に、前記エンジンの出力トルクを前記第一トルクから前記要求トルクにするとともに、前記クラッチ装置を半クラッチ状態から完全に繋げるステップと、を含むことを特徴とする自動変速方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速制御装置および自動変速方法に関し、より詳細には、機械式自動変速機のギアを自動で切り替えるときに生じる変速ショックを抑制して、ギアの切り替え時の時間を短縮しながらドライバビリティを向上する自動変速制御装置および自動変速方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバスなどの大型車両には、クラッチ装置や機械式変速機にアクチュエータなどを付設して自動的にギアの切り替えを制御する自動変速制御装置が搭載されているものがある。
【0003】
この自動変速制御装置が自動で行う機械式自動変速機(AMT)のギアの切り替えでは、ギアの切り替えが完了した後にクラッチ装置を繋いでエンジンの出力トルクを運転者の所望するトルクにする制御が行われている。しかし、このときに変速ショックが生じることでドライバビリティが悪化するという問題があった。
【0004】
これに関して、機械式自動変速機のギアの切り替え時に、一時的に切り離されたクラッチ装置を繋ぐときにエンジンの出力トルクをそのエンジンの回転抵抗が相殺されるトルクになるように制御する自動変速制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この装置は、機械式自動変速機のギアの切り替えが完了した後で、エンジン回転数とクラッチ回転数との回転数差が所定値以内の場合に、クラッチ装置を半クラッチ状態にする制御を行う。次いで、エンジンの出力トルクをエンジンの回転抵抗が相殺されるトルクにする制御を行う。次いで、クラッチ装置を完全に繋いだ後に運転者の所望するトルクまで上昇させる制御を行う。
【0006】
これにより、ギアの切り替えが完了した後に、燃料をエンジンの回転抵抗を相殺するトルクが生じる程度に噴射することで、エンジンの回転抵抗による減速を回避することで変速ショックを発生させないようにしている。
【0007】
一方、本願発明の発明者らは、変速後にクラッチ装置が完全に繋がってから、車両の走行中に多少捻れた状態になっている推進軸にエンジンからの出力トルクが伝達されると、その推進軸が通常の状態よりも大きく捻じれ、その捻れによって推進軸に揺り戻しが生じ、その揺り戻しが変速ショックの原因であることを見出した。
【0008】
推進軸で生じる揺り戻しは、クラッチ装置を繋いでからエンジンから大きな出力トルクが伝達されたときに推進軸が弾性変形で大きく捻じれ、その捻じれが戻ろうとする反力が増幅されることで生じる現象である。この揺り戻しが生じると、推進軸には駆動輪側からの揺り戻しによって正逆方向のトルク変化が増幅されて現れる。そして、この増幅されたトルク変化により車輪に伝達されるトルクが変動して車輪の回転が変動するために、車両に前後方向の大きな揺動が発生する。特に大型車両では、この推進軸が長くなるために弾性変形量が大きくなり揺り戻しによる振動が大きくなることから変速時に生じる変速ショックは大きなものとなっている。
【0009】
上記の装置では、この変速ショックの要因になっている推進軸に生じる揺り戻しに対しては何ら対策されていない。具体的には、クラッチ装置を完全に繋いだ後に、エンジンの出力トルクを運転者の所望するトルクまで上昇させるときに、推進軸が大きく捻じれ、推
進軸に揺り戻しが生じてしまう。そのため、この推進軸の揺り戻しによる変速ショックを抑制できないという問題がある。
【0010】
また、推進軸に揺り戻しが発生しないように、エンジンの出力トルクをゆっくりと上昇させると、運転者の所望するトルクまでに上昇する時間が掛かり、変速時間が長くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−70708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、機械式自動変速機のギアを切り替えるときの推進軸に生じる揺り戻しに起因する変速ショックを低減して、ギアの切り替え時の時間を短縮しながらドライバビリティを向上することができる自動変速制御装置および自動変速方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成する本発明の自動変速制御装置は、エンジンと、このエンジンからの駆動力を断接するクラッチ装置と、前記エンジンに前記クラッチ装置を介して接続されるとともに駆動輪に動力を伝達する推進軸に接続された機械式自動変速機とのそれぞれに接続され、前記エンジンの出力トルクの増減、前記クラッチ装置の作動、および前記機械式自動変速機のギアの切り替えのそれぞれを制御する手段を有し、前記機械式自動変速機を車両の運転状況に応じた目標ギアに切り替え後に、一時的に切り離していた前記クラッチ装置を繋いで前記エンジンの出力トルクを前記目標ギアに応じて設定された初期トルクから運転者の要求した要求トルクにする制御を行う自動変速制御装置において、前記目標ギアに切り替えた後に、前記クラッチ装置を半クラッチ状態に繋ぐ制御を行うとともに、前記エンジンの出力トルクを実際のエンジン回転数と目標エンジン回転数との回転数差に基づいて前記初期トルクと前記要求トルクとの間に設定された第一トルクにする制御を行い、前記エンジンから前記クラッチ装置および前記機械式自動変速機を経由して伝達された前記第一トルクによる前記推進軸の捻じれが生じた後に、前記エンジンの出力トルクを前記第一トルクから前記要求トルクにするとともに、前記クラッチ装置を半クラッチ状態から完全に繋げる制御を行う構成にしたことを特徴とするものである。
【0014】
また、上記の目的を達成する本発明の自動変速方法は、機械式自動変速機を車両の運転状況に応じた目標ギアに切り替えた後に、一時的に切り離していたクラッチ装置を繋いでエンジンの出力トルクをその目標ギアに応じて設定された初期トルクから運転者の要求した要求トルクにする自動変速方法において、前記目標ギアに切り替えた後に、前記クラッチ装置を半クラッチ状態に繋ぐステップと、実際のエンジン回転数と目標エンジン回転数との回転数差に基づいて、前記初期トルクと前記要求トルクとの間に設定された第一トルクを算出し、前記エンジンの出力トルクを算出した前記第一トルクにするステップと、前記クラッチ装置および前記機械式自動変速機を経由して伝達された前記第一トルクによる推進軸の捻じれが生じた後に、前記エンジンの出力トルクを前記第一トルクから前記要求トルクにするとともに、前記クラッチ装置を半クラッチ状態から完全に繋げるステップと、を含むことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の自動変速制御装置および自動変速方法によれば、機械式自動変速機を車両の運転状況に応じた目標ギアに切り替えた後に、第一段階として、クラッチ装置を半クラッチ状態に繋ぐとともにエンジンの出力トルクを最初に初期トルクから第一トルクにすることで、推進軸に予め捻じれを生じさせておく。第二段階として、推進軸に捻じれが生じた後
に、エンジンの出力トルクを第一トルクから要求トルクにして、推進軸の捻じれが戻ろうとする反力を第一トルクから要求トルクへの上昇分で相殺する。そして、エンジンの出力トルクを第一トルクから要求トルクに戻すとともに、クラッチ装置を半クラッチ状態から完全に繋げて機械式自動変速機の変速を完了する。
【0016】
このような制御を行うようにしたことで、推進軸の捻じれによって推進軸に生じる揺り戻しを抑制することができる。これにより、揺り戻しを起因するキャリブレーションを回避してギアの切り替えに掛かる時間を短縮できるとともに、その揺り戻しを起因とする変速ショックを低減してドライバビリティを向上することができる。
【0017】
特に、本発明は機械式自動変速機をシフトアップするときに効果的であり、機械式自動変速機をシフトアップするときに、推進軸に生じる揺り戻しに起因する変速ショックを低減してドライバビリティを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態の自動変速制御装置を例示する構成図である。
図2】本発明の実施形態の自動変速制方法を例示するフローチャートである。
図3】アクセル開度、エンジン回転数、クラッチ回転数、出力トルク、クラッチストロークを時系列で例示した図である。
図4】第一トルクマップを例示した図である。
図5】第一トルクの算出方法を例示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態からなる自動変速制御装置20を例示している。この自動変速制御装置20は車両10に搭載されて、機械式自動変速機(以下、AMTという)15を車両10の運転状況に応じて目標ギアGxに自動で切り替える制御を行うものである。
【0020】
車両10はエンジン11がディーゼルエンジンで構成されたバスやトラックなどの大型車両である。この車両10においては、エンジン11に形成された複数(この例では4個)の気筒12内における燃料の燃焼により発生した熱エネルギーにより、クランク軸13が回転駆動される。このクランク軸13の回転動力は、乾式クラッチ装置(以下、クラッチ装置という)14を通じてAMT15に伝達される。
【0021】
AMT15は入力された回転動力を複数段に変速可能な主変速機構と、その主変速機構から伝達された回転動力を低速段と高速段の二段に変速可能な副変速機構とから構成されたものを例に説明するが、その構成は特に限定されない。
【0022】
AMT15で変速された回転動力は、推進軸16を通じて差動装置17に伝達され、駆動軸18を経由して一対の駆動輪19にそれぞれ駆動力として分配される。
【0023】
自動変速制御装置20は、エンジン11に接続されて主にエンジン11を制御するエンジン用制御装置21と、クラッチ装置14およびAMT15のそれぞれに接続されて主にクラッチ装置14およびAMT15を制御する変速用制御装置22と、それらの制御装置のデータを相互通信可能にするCANなどの車載ネットワーク23とを有して構成される。
【0024】
エンジン用制御装置21は、アクセルペダルP1の踏み込み量をアクセル開度AOとして検出するアクセル開度センサ24と、エンジン回転数Neを検出するクランク角センサ25などのセンサに接続されている。そして、それらの検出値に基づいて電子制御式イン
ジェクタ(以下、インジェクタという)26からの燃料噴射量を調節して、エンジン11の出力トルクTeの増減を制御する。
【0025】
変速用制御装置22は、クラッチ用アクチュエータ27によりクラッチ装置14の作動を制御する。このクラッチ装置14の作動制御は、図示しない圧縮空気をクラッチ用アクチュエータ27へ供給することによりそのクラッチ用アクチュエータ27でクラッチ装置14を切り離してエンジン11からの動力の伝達を切断したり、クラッチ用アクチュエータ27から圧縮空気を放出することにより切り離されていたクラッチ装置14を繋いでエンジン11からの動力をAMT15へ伝達したりする制御である。
【0026】
また、この変速用制御装置22は、推進軸16の推進軸回転数Npを検出したり、その推進軸回転数Npから車速Vを検出したりする推進軸回転数センサ28などのセンサに接続されている。そして、変速用アクチュエータ29によりAMT15の車両10の運転状況に応じた目標ギアGxへの切り替えを制御する。なお、この変速用アクチュエータ29もクラッチ用アクチュエータ27と同様に圧縮空気で動作するが、これらのアクチュエータは電磁石により動作するソレノイドアクチュエータでもよい。
【0027】
加えて、この変速用制御装置22は、クラッチ装置14のクラッチ回転数Ncを検出するクラッチ回転数センサ30にも接続されている。なお、クラッチ回転数Ncは、クラッチ装置14からAMT15に入力される回転数であり、このクラッチ回転数Ncをクラッチ回転数センサ30で検出せずに、推進軸回転数NpとAMT15のギア比とから求めてもよい。
【0028】
ここで、この車両10の運転状況に応じた目標ギアGxへの切り替え制御を自動変速制御装置20の機能として以下に説明する。まず、変速用制御装置22が車速Vとアクセル開度AOとを取得する。次いで、変速用制御装置22が、車両10の運転状況を車速Vおよびアクセル開度AOから判定して目標ギアGxを選択する、より具体的には、変速用制御装置22に予め記憶されて車速Vおよびアクセル開度AOに対して目標ギアGxが設定されたシフトマップM1を参照し、そのシフトマップM1から目標ギアGxを選択する。
【0029】
次いで、変速用制御装置22がクラッチ用アクチュエータ27によりクラッチ装置14を切り離して、エンジン11とAMT15との動力の伝達を切断する。次いで、エンジン用制御装置21がインジェクタ26の燃料噴射量を調節して、エンジン11の出力トルクTeを選択した目標ギアGxに応じて設定された初期トルクTaにする。
【0030】
例えば、AMT15のシフトアップ時にはクラッチ装置14を切り離してエンジン11の出力トルクTeを初期トルクTaまで低下する。なお、このクラッチ装置14の切り離し制御とエンジン11の出力トルクTeの低下制御とは同時に行って、クラッチ装置14を徐々に切り離しながら、エンジン11の出力トルクTeを徐々に初期トルクTaにするようにしてもよい。
【0031】
初期トルクTaはAMT15の各ギアのそれぞれに予め設定されたトルクであり、ギア比に比例して大きくなるように設定される。例えば、AMT15の主変速機が六段、副変速機が二段の12段変速の場合には、その12段のそれぞれに設定される。
【0032】
次いで、変速用制御装置22が変速用アクチュエータ29によりAMT15を目標ギアGxに切り換える、より具体的には変速用アクチュエータ29により現在選択されているギアと同期係合している図示しないシンクロナイザを切り離し、目標ギアGxにシンクロナイザを同期係合する。
【0033】
次いで、変速用制御装置22がクラッチ用アクチュエータ27によりクラッチ装置14を繋ぎ、エンジン11からAMT15への動力を伝達する。次いで、エンジン用制御装置21がインジェクタ26の燃料噴射量を調節して、エンジン11の出力トルクTeを運転者の要求した要求トルクTbにする、より具体的にはアクセル開度AOに基づいて設定された要求トルクTbにして、AMT15のギアの切り替えが完了する。
【0034】
例えば、AMT15のシフトアップ時には、つまり運転者がアクセルペダルP1を踏み込んでいて車両10が加速するときには、AMT15を目標ギアGxに切り替えた後にエンジン11の出力トルクTeを要求トルクTbまで上昇して、AMT15のシフトアップが完了する。
【0035】
このように、AMT15を車両10の運転状況に応じた目標ギアGxに切り替えるときには、目標ギアGxに切り替えた後に運転者の要求する要求トルクTbまでエンジン11の出力トルクTeにする制御が行われる。しかし、エンジン11の出力を一気に要求トルクTbにして一時的に切り離していたクラッチ装置14を完全に繋ぐと、推進軸16が弾性変形で大きく捻じれて揺り戻しが生じる。
【0036】
そこで、本発明の自動変速制御装置20は、以下の制御を行うように構成される。第一段階として、車両10の運転状況に応じた目標ギアGxに切り替えた後に、クラッチ装置14を半クラッチ状態に繋ぐ制御を行うとともに、エンジン11の出力トルクTeを初期トルクTaと要求トルクTbとの間に設定された第一トルクTcにする制御を行う。第二段階として、エンジン11からクラッチ装置14およびAMT15を経由して伝達された第一トルクTcによる推進軸16の捻じれが生じた後に、エンジン11の出力トルクTeを第一トルクTcから要求トルクTbにするとともに、クラッチ装置14を半クラッチ状態から完全に繋げる制御を行う。
【0037】
第一トルクTcは、初期トルクTaと要求トルクTbとの間の大きさに設定されたトルクであり、エンジン11の回転抵抗を相殺するトルクよりも大きいトルクである。この第一トルクTcの大きさにより推進軸16の捻じれが戻ったときの反力の大きさが決まる。
【0038】
この第一トルクTcは、変速用制御装置22によってエンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとの回転数差ΔNec、あるいはエンジン回転数Neと推進軸回転数Npとの回転数差ΔNxに基づいて設定される。例えば、この第一トルクTcは、初期トルクTaと要求トルクTbとの差が大きいときには大きく設定されて捻じれが戻ったときの反力を大きくする一方、初期トルクTaと要求トルクTbとの差が小さいときには小さく設定されて捻じれが戻ったときの反力を小さくする。また、この第一トルクTcは、エンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとの回転数差ΔNecが大きいときには大きく設定されて捻じれが戻ったときの反力を大きくする一方、回転数差ΔNecが小さいときには小さく設定されて捻じれが戻ったときの反力を小さくする。
【0039】
つまり、推進軸16の捻じれが戻ったときの反力はこの第一トルクTcの大きさに比例する。従って、この第一トルクTcはエンジン11の出力トルクTeを要求トルクTbにした後の推進軸16を予め設定された捻れ量Qaにする値に設定することが望ましい。なお、この捻じれ量Qaは車両10の走行中の推進軸16が捻れている量であり、予め実験や試験により求めておく。
【0040】
このように第一トルクTcを設定することで、エンジン11の出力トルクTeを第一トルクTcにしてその第一トルクTcが伝達された推進軸16の捻じれが戻ったときの反力を、エンジン11の出力トルクTeを第一トルクTcから要求トルクTbにしたときの差分のトルクで相殺して、推進軸16の捻じれを走行中の捻れ量Qaにして推進軸16の揺
り戻しを抑制することができる。
【0041】
以下、図2に示すフローチャートを参照しながら、本発明の第一実施形態の自動変速方法について、自動変速制御装置20の機能として説明する。なお、以下ではAMT15のシフトアップ時を例に説明する。また、この自動変速方法は、前述した目標ギアGxへの切り替え制御における、クラッチ装置14が切り離され、かつエンジン11の出力トルクTeが目標ギアGxに応じて設定された初期トルクTaまで低下し、AMT15が目標ギアGxに切り替えられた後に開始される。
【0042】
まず、ステップS10では、変速用制御装置22がクラッチ装置14を半クラッチ状態に繋ぐ。この半クラッチ状態とはクラッチ装置14の締結状態が50%程度の状態であり、クラッチ装置14には多少の滑りが生じる場合もある。
【0043】
次いで、ステップS20では、エンジン用制御装置21がエンジン11の出力トルクTeを第一トルクTcに上昇する。このステップS20により、推進軸16にはクラッチ装置14およびAMT15を経由して第一トルクTcが伝達されて、その第一トルクTcにより推進軸16が走行中の捻れ量Qa以上に捻られる。この第一トルクTcによって推進軸16に生じた捻じれによって、推進軸16にその捻じれが戻ろうとする反力が増幅される。
【0044】
なお、ステップS10およびステップS20は、同時に行われるものとする。次いで、ステップS30では、変速用制御装置22がクラッチ用アクチュエータ27のクラッチストロークCSを、ステップS10で設定した半クラッチ状態に維持する。
【0045】
次いで、ステップS40では、変速用制御装置22がエンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとの回転数差ΔNecが予め設定した所定範囲内になったか否かを判定する。
【0046】
所定範囲は、エンジン11の出力トルクTeが初期トルクTaまで下降することにともなって推進軸16の推進軸回転数Npよりも低くなったエンジン回転数Neが、推進軸回転数Npと同等の回転数になるクラッチ回転数Ncに近づいたことを判定できる範囲に設定される。この所定範囲は、予め実験や試験により設定され、例えば、ゼロの近傍の範囲に設定されることが好ましい。この実施形態では、下限値をゼロとし、上限値をゼロの近傍の値ΔNaとした。なお、回転数差ΔNecは、負の値、すなわちエンジン回転数Neがクラッチ回転数Ncよりも高い場合も含む場合もあり、下限値を負の値に設定してもよい。
【0047】
このステップS40で、回転数差ΔNecが所定範囲外の場合には、ステップS30へ戻る一方、回転数差ΔNecが所定範囲内の場合には、ステップS50へ進む。なお、ステップS40からステップS30へ戻る場合に、回転数差ΔNecを所定範囲内にするように、エンジン回転数Neを制御するとよい。例えば、回転数差ΔNecが下限値よりも小さい場合には、エンジン11の燃料噴射量を増加し、一方、回転数差ΔNecが上限値よりも大きい場合には、エンジン11の燃料噴射量を減少するとよい。
【0048】
このように、エンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとの回転数差ΔNecを所定範囲内に収めることで、推進軸16に減速方向の捻じれが生じることを回避することができる。
【0049】
次いで、ステップS50では、エンジン用制御装置21がエンジン11の出力トルクTeを第一トルクTcから要求トルクTbまで上昇する。このとき、推進軸16の捻れが戻る反力がエンジン11の要求トルクTbまで上昇した出力トルクTeによって相殺され、
推進軸16の捻じれ状態は捻れ量Qaになる。
【0050】
次いで、ステップS60では、変速用制御装置22がクラッチ装置14を完全に繋いで、この自動変速方法は完了する。なお、ステップS50とステップS60とは同時に行われるものとする。
【0051】
図3は、AMT15を目標ギアGxに切り替えるときのアクセル開度AO、エンジン回転数Ne、クラッチ回転数Nc、エンジン11の出力トルクTe、クラッチ用アクチュエータ27のストロークCSを時系列で例示している。
【0052】
時間t1では、クラッチ装置14の切り離しが開始されるとともに、エンジン11の出力トルクTeの低下が開始される。時間t2では、クラッチ装置14の切り離しが完了するとともに、エンジン11の出力トルクTeが初期トルクTaまで低下する。
【0053】
時間t3では、時間t2から開始された目標ギアGxへの切り替えが完了するとともに、クラッチ装置14が半クラッチ状態への繋ぎが開始され、さらに、エンジン11の出力トルクTeの上昇が開始される。
【0054】
時間t4では、クラッチ装置14が半クラッチ状態で繋がれて、エンジン11の出力トルクTeが第一トルクTcまで上昇して推進軸16が捻れ量Qa以上に捻られる。時間t5では、エンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとの回転数差ΔNecが所定範囲内になり、その瞬間を狙ってエンジン11の出力トルクTeの上昇を開始する。また、同時にクラッチ装置14を半クラッチ状態から完全に繋ぐようにクラッチ用アクチュエータ27の作動を開始する。
【0055】
時間t6では、エンジン11の出力トルクTeが要求トルクTbまで上昇し、かつクラッチ装置14の締結状態が100%、つまりクラッチ装置14が完全に繋がれて、この自動変速方法が完了する。
【0056】
このように、車両10の運転状況に応じてAMT15を目標ギアGxに切り替えた後に、第一段階として、クラッチ装置14を半クラッチ状態に繋ぐとともにエンジン11の出力トルクTeを最初に初期トルクTaから第一トルクTcにすることで、推進軸16にその第一トルクTcによる捻じれを生じさせる。第二段階として、推進軸16に捻じれが生じた後に、エンジン11の出力トルクTeを第一トルクTcから要求トルクTbにして、推進軸16の捻じれが戻ろうとする反力を第一トルクTcから要求トルクTbへの上昇分のトルクΔTで相殺する。そして、エンジン11の出力トルクTeが要求トルクTbに到達するとともに、クラッチ装置14を半クラッチ状態から完全に繋げてAMT15の変速を完了する。
【0057】
このような制御を行うようにしたことで、推進軸16の捻じれが戻るときの反力をその上昇分のトルクΔTにより相殺することができる。つまり、最初に第一トルクTcにより推進軸16がちょっと捻じれ、その捻じれが戻るときにその反力が相殺するように推進軸16を捻ることで、推進軸16の捻じれに起因する揺り戻しを抑制することができる。
【0058】
これにより、AMT15を目標ギアGxに切り替えるときの推進軸16に生じる揺り戻しを抑制して、揺り戻しを起因とするキャリブレーションを回避して目標ギアGxの切り替えに掛かる時間t7を短縮することができる。また、その揺り戻しを起因とする変速ショックを低減することができるので、ドライバビリティを向上することができる。
【0059】
上記の自動変速制御装置20においては、AMT15をシフトアップするときに、エン
ジン11の出力トルクTeを、初期トルクTaから第一トルクTcまで上昇してから、その第一トルクTcによる推進軸16の捻れが生じた後に、要求トルクTbまで上昇するようにしたことで、特に変速ショックが大きくなるシフトアップ時のドライバビリティをより向上することができる。
【0060】
また、上記の自動変速制御装置20は、第一トルクマップM2を有して構成される。この第一トルクマップM2は、縦軸に目標ギアGxがプロットされ、横軸に目標エンジン回転数Naと実際のエンジン回転数Neとの回転数差ΔNxがプロットされたマップである。この第一トルクマップM2は、その目標ギアGxと回転数差ΔNxとに基づいた第一トルクTc(Gx、ΔNx)が設定される。この第一トルクTc(Gx、ΔNx)はエンジン11の出力トルクTeを要求トルクTbにした後の推進軸16を予め設定された捻れ量Qaにする値に設定される。
【0061】
目標エンジン回転数Naは、推進軸16の推進軸回転数Npおよび目標ギアGxのギア比により算出される。また、実際のエンジン回転数Neはクランク角センサ25で検知される。なお、この目標エンジン回転数Naは、クラッチ回転数Ncに置き換えることも可能であり、第一トルクマップM2は、目標ギアGxと回転数差ΔNecとに基づいた第一トルクTc(Gx、ΔNecx)が設定されてもよい。
【0062】
図4は第一トルクマップM2を例示している。この第一トルクマップM2は予め実験や試験により作成され、変速用制御装置22に予め記憶されたマップである。
【0063】
以下、図5に示すフローチャートを参照しながら、第一トルクTc(Gx、ΔNx)の算出方法について、自動変速制御装置20の機能として説明する。
【0064】
まず、ステップS100では、変速用制御装置22が目標ギアGxを決定する。次いで、ステップS110では、変速用制御装置22が、推進軸回転数センサ28から推進軸回転数Npを取得する。
【0065】
次いで、ステップS120では、変速用制御装置22が、推進軸16の推進軸回転数Npと目標ギアGxのギア比とから目標エンジン回転数Naを算出する。
【0066】
次いで、ステップS130では、エンジン用制御装置21がクランク角センサ25から現時点のエンジン回転数Neを取得し、そのエンジン回転数Neを変速用制御装置22が受信する。次いで、ステップS140では、変速用制御装置22が回転数差ΔNxを算出する。この回転数差ΔNxはシフトアップ時には目標エンジン回転数Naからエンジン回転数Neを減算した値になる。
【0067】
次いで、ステップS150では、変速用制御装置22が第一トルクマップM2を参照する。次いで、ステップS160では、変速用制御装置22が目標ギアGxと回転数差ΔNxとに基づいた第一トルクTc(Gx、ΔNx)を第一トルクマップM2から抽出して、この算出方法は完了する。
【0068】
このように、第一トルクマップM2から第一トルクTc(Gx、ΔNx)を算出することで、複雑な計算を行わずに、最初に推進軸16を捻る量と、その捻りが戻るときの捻る量とを容易に算出することができるので、制御の複雑化を回避できる。
【0069】
なお、上記の実施形態のステップS10とステップS20においては、ステップS20をステップS10よりも前に開始してもよい。具体的には、エンジン11の出力トルクTeを第一トルクTcに上昇するステップを開始してから、クラッチ装置14を半クラッチ
状態に繋ぐステップを開始してもよい。このようにすると、より切り替えに掛かる時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 車両
11 エンジン
14 クラッチ装置
16 推進軸
20 自動変速制御装置
Gx 目標ギア
Ta 初期トルク
Tb 要求トルク
Tc 第一トルク
図1
図2
図3
図4
図5