(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記高アスペクト比構造物は、X線タルボ干渉計またはX線タルボ・ロー干渉計に用いられるX線用金属格子であることを特徴とする請求項1に記載の高アスペクト比構造物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0027】
(第1実施形態、X線用金属格子)
図1は、本発明の高アスペクト比構造物の製造方法により製造された一例であるX線用金属格子の構成を示す斜視図である。金属格子1aは、
図1に示すように、X線用金属基板13aに設けられた格子領域10aおよび枠領域12aを備えて構成される。格子領域10aは、格子11aを形成した領域であり、枠領域12aは、この格子領域10aを取り囲むようにその周辺に設けられている。
【0028】
この格子11aは、
図1に示すようにDxDyDzの直交座標系を設定した場合に、所定の厚さ(深さ)H1(格子面DxDyに垂直なDz方向(格子面DxDyの法線方向)の長さ)を有して一方向Dxに線状に延びる複数のX線吸収部111aと、前記一方向Dxに線状に延びる複数のX線透過部112aとを備え、これら複数のX線吸収部111aと複数のX線透過部112aとは、交互に平行に配設される。このため、複数のX線吸収部111aは、前記一方向Dxと直交する方向Dyに所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。言い換えれば、複数のX線吸収部111aは、前記一方向Dxと直交する方向Dyに所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。この所定の間隔(ピッチ)Pは、本実施形態では、一定とされている。すなわち、複数のX線吸収部111aは、前記一方向Dxと直交する方向Dyに等間隔Pでそれぞれ配設されている。また、本実施形態では、X線吸収部111aは、前記DxDy面に直交するDxDz面に沿った板状または層状であり、複数のX線透過部112aは、互いに隣接するX線吸収部111aに挟まれた、DxDz面に沿った板状または層状を呈する。
【0029】
これら複数のX線吸収部111aは、X線を吸収するように機能し、これらX線透過部112aは、X線を透過するように機能する。このため、このようなX線用金属格子1aは、一態様として、ピッチPがX線の波長に対し十分に長く干渉縞を生じない通常の格子、例えば、X線タルボ・ロー干渉計における第0格子として利用できる。また、このようなX線用金属格子1aは、他の一態様として、前記所定の間隔PをX線の波長に応じて適宜に設定することにより、回折格子として機能し、例えば、X線タルボ・ロー干渉計やX線タルボ干渉計における第1格子および第2格子として利用できる。X線吸収部111aは、例えば仕様に応じて充分にX線を吸収することができるように、適宜な厚さH1とされている。X線は、一般的に透過性が高いので、この結果、X線吸収部111aにおける幅Wに対する厚さH1の比(アスペクト比=厚さ/幅)は、例えば、5以上の高アスペクト比とされている。X線吸収部111aにおける幅Wは、前記一方向(長尺方向)Dxに直交する方向(幅方向)DyにおけるX線吸収部111aにおける長さであり、その厚さH1は、前記一方向Dxとこれに直交する前記方向Dyとで構成される平面DxDyの法線方向(深さ方向)DzにおけるX線吸収部111aの長さである。
【0030】
このようなX線用金属格子1aは、金属基板における少なくとも1つの主面上に、複数の穴を有する穴群を形成する穴形成工程と、前記穴形成工程終了後、前記穴群が形成された面に、レジスト層を配設した第1領域と前記レジスト層を配設していない第2領域とを形成するレジスト形成工程と、前記基板を溶解可能なエッチング液中に浸漬して前記第2領域に対応する前記基板に凹部を形成する凹部形成工程と、前記凹部に、X線吸収性材料を埋設するX線吸収性材料埋設工程とによって製造される。前記凹部は、1次元格子では、例えば、スリット溝であり、また2次元格子では、柱状穴(柱状孔)等である。以下、前記凹部がスリット溝である前記X線用金属格子1aの製造方法について、詳述する。なお、凹部が例えば柱状穴等の他の形状であっても同様である。
【0031】
図2ないし
図11は、第1実施形態におけるX線用金属格子の製造方法を説明するための図である。
図2ないし
図8において、図(A)および図(B)を1組として各製造工程を模式的に説明しており、図(A)は、図(B)の断面図であり、図(B)は、上面図である。
図9は、
図6の要部の拡大図であり、
図10(A)〜
図10(D)は、凹部を形成する際の説明図である。又、
図11は、基板における第2領域に対応する部分と隣接した第1領域に対応する部分の隔壁が溶解した場合の説明図である。又、
図12は、金属基板に複数の穴を形成する陽極酸化法を説明するための図である。
図13は、一例として、陽極酸化法によって複数の穴が形成された金属基板の上面を示す図である。
【0032】
第1実施形態におけるX線用金属格子1aを製造するために、まず、板状の金属基板(基板)13aが用意される(
図2(A)および(B))。金属基板13aは、陽極酸化法又は陽極化成法によって複数の穴を形成できる金属(合金、化合物を含む)から形成される。本製造方法では、後述するように、陽極酸化工程を経た部分が格子11aのX線透過部112aとなるので、金属基板13aは、X線に対して比較的透過率の高い金属(合金を含む)が好ましい。これら陽極酸化法および高X線透過性(X線透過特性)の観点から、金属基板13aは、例えば、アルミニウム(Al)が好ましく、この例では、金属基板13aは、アルミニウムから構成されている。
【0033】
次に、金属基板13aにおける一方の主面に、
図3に示すようにレジスト層131として石英(二酸化ケイ素、SiO
2)膜が形成される。この石英膜は、例えば、公知の常套手段である化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)およびスパッタ法等の種々の成膜方法によって形成される。例えば、実施形態では、テトラエトキシシランを用いたプラズマCVDによって石英膜は、成膜される。より詳しくは、まず、有機シランの一種であるテトラエトキシシラン(TetraethoXysilane、TEOS)が加温され、キャリアガスによってバブリングされることによってTEOSガスが生成され、このTEOSガスに例えば酸素やオゾン等の酸化ガスおよび例えばヘリウム等の希釈ガスが混合されて原料ガスが生成される。そして、この原料ガスが例えばプラズマCVD装置に導入され、プラズマCVD装置内の金属基板13aの表面に所定の厚さ(この実施形態では、2μm)の石英膜131が形成される。
【0034】
なお、上述では、レジスト層131は、石英膜であったが、これに限定されるものではない。レジスト層131は、陽極酸化工程における陽極酸化法の実施の際に、該陽極酸化法で用いられる酸性液に抗して金属基板13aの保護膜として機能する保護層であるので、レジスト層131は、このような機能を有すれば良く、例えば、窒化ケイ素(SiN)等の誘電体材料や金属膜で形成されても良い。
【0035】
次に、金属基板13aにおける他方の主面に、陽極酸化法によって複数の穴を有する穴群132が形成される(陽極酸化工程、
図4(A)(B))。
【0036】
より具体的には、この陽極酸化工程では、一例では、
図12に示すように、上述のレジスト層131が形成された金属基板13aに電源21の陽極が通電可能に接続され、電源21の陰極に接続された陰極電極22および金属基板13aが、電解液24を貯留した水槽23内における前記電解液24に浸けられる。その際、陰極電極22と金属基板13aの他方の主面(レジスト層131のない面)とを対向させるように浸けられる。前記電解液24は、酸化力が強く、かつ陽極酸化法によって生成された金属酸化膜を溶解する酸性溶液、例えば、リン酸およびシュウ酸等のエッチング液が好ましい。陰極電極22は、この電解液24に対して溶解しない金属、例えば、金(Au)および白金(Pt)等で形成されることが好ましい。一例では、アルミニウムで形成された金属基板13aに対し、電解液24は、0.1M(モル濃度、mol/l)のシュウ酸液であり、陰極電極22は、白金をメッキしたチタン板である。そして、通電されると、金属基板13aの表面13eから内部に向かって延びる複数の穴13cが形成される。本実施形態では、通電されると、
図4、
図9に示すように金属基板13aの表面13eから、金属基板13aの厚さ方向(Dz方向、表面と垂直方向)に延びる複数の穴が互いに間隔を空けて形成される。一例では、約20Vの直流電圧を陰極電極22および金属基板13a間に約10時間印加することによって、直径φが約20nmであって深さH1が約80μmである複数の穴が、平均ピッチ距離pが約60nmで互いに間隔を空けて形成された。その一例の上面が
図13に示されている。
図13では、走査型電子顕微鏡(Scanning Electoron Microscope、SEM)による写真が図面として示されている。
【0037】
次に、穴群132が形成された金属基板13aの面に、ドライフィルムレジストが貼合され(
図5(A)(B))、フォトリソグラフィ技術を用いて、周期5.3um、Duty比50%のラインアンドスペースパターンのドライフィルムレジストによるレジスト層133を形成する(
図6(A)(B))。これにより、穴群132が形成された金属基板13aの面に、レジスト層133を配設した第1領域141と、レジスト層133を配設していない第2領域142とを形成する(レジスト形成工程)。
【0038】
次に、レジスト層133を形成した金属基板13aを、5vol%のリン酸液(エッチング液16)に浸漬し、240分間放置する。このとき、金属基板13aを浸漬した後、数秒から数分で、
図10(A)(B)(C)に示すように、上述のフォトリソグラフィーパターニングにより露出した穴群132の穴13cに、リン酸液16が浸透する。
【0039】
その後、リン酸液16が満たされた穴13c内で、残りの時間(≒240分)すべてをかけて、
図10(D)に示すように、等方的にエッチングが進行し、隣接する2つの穴13cの間の隔壁13dが溶解する。これにより、第2領域142に対応する基板13aに、凹部134が形成される(凹部形成工程、
図7)。
【0040】
その際、リン酸液16のリン酸濃度は、リン酸液16が穴13cの奥まで浸透するのに要する時間がリン酸液16が隔壁13dを溶解し終える時間より短くなるように設定されている(リン酸液16が穴13cに浸透する時間<リン酸液16が隔壁13dを溶解し終える時間)。従って、エッチング作用により、隔壁13dを両サイドから溶解していき、両サイドから20nm(隔壁厚の半分)ずつ溶解し、貫通した時点で隔壁13dがなくなるので、隔壁13dが無くなった時点では、レジスト層133により塞がれた第1領域141に対応する部分における、第2領域142に対応する部分と隣接する隔壁13dはまだ厚さの半分である20nm分残っているはずである。この状態でさらにエッチングを進めても、さらに240分と言う長い時間をかけないと、この残り20nmはなくならない。仮にエッチングを非常に過剰にしてしまい、無くなったとしても、穴13c間の平均ピッチ距離は60nmであるため、凹部134の幅が最大120nm分、広がるのだけなので、実用上は問題にならない誤差範囲とみなせる。
【0041】
又、エッチングをやりすぎても、
図11に示すように穴13cの1周期分が余分にエッチングされる程度、即ち、第1領域141に対応する隔壁13dの部分における、第2領域141に対応する部分と隣接する隔壁13dがエッチングされる程度である。
【0042】
この例では、5vol%と非常に濃度が薄いリン酸液16を用いているので240分間であったが、たとえば15vol%のリン酸液16の場合70分程度となり、濃度が高い分エッチング時間が短くなる。この場合でも、エッチング初期時に、穴13c内にエッチング液(=リン酸液16)が満たされる時間よりも十分長く、かつ、もう1周期分エッチングするにはさらに70分かかることから、制御性が著しく失われる可能性は低い。
【0043】
なお、本例では、予め一方の主面に石英膜からなるレジスト層131を形成することで、陽極酸化による穴群132が前記他方の主面にのみなされるようにしたが、酸化による面精度変化を抑えるために、一方及び他方の両方の主面に穴群132を形成しておいてもよい。この場合、両面に穴群132を形成した後、パターニングをする面ではないほうの面にたとえばTEOS−CVDなどの手法で石英をコーティングするなどの養生をしても良い。
【0044】
次に、凹部134に、X線吸収可能なX線吸収材料135を埋設する(X線吸収性材料埋設工程、
図8)。この実施形態では、凹部134の側壁が酸化アルミニウム(絶縁物)で、底部がアルミニウム(導電物)なので、底部からのボトムアップ電気めっき(電鋳法)が可能である。そのため、この実施形態ではX線吸収材料135として金が選択され、メッキにより凹部134に金が埋設された。尚、この例ではメッキ材料として金を使用したが、プラチナやロジウム・イリジウムといったX線吸収性が高く、めっき可能な金属を選択しても良い。また、金粉末などを凹部134に流し込む方法でも良い。これにより、凹部134にX線吸収材料135が埋設されてX線吸収部111aが形成される。
【0045】
また、第1実施形態におけるX線用金属格子1aの製造方法では、前記複数の穴それぞれは、金属基板13aの厚さ方向に延びている。陽極酸化法による複数の穴の形成は、例えば数百ミクロンメートル等の比較的長く形成できる。このため、第1実施形態におけるX線用金属格子1aの製造方法は、前記複数の穴を金属基板13aの厚さ方向に延ばすので、例えば5以上の高アスペクト比なX線透過部112aを形成できる。
【0046】
なお、上記実施形態では、X線吸収材料を凹部に埋設して吸収格子を製造したが、位相格子の場合は、適切な深さの凹部を形成した状態で使用できる。
【0047】
又、上記実施形態では、金属基板13aの一方側に、X線吸収部111a及びX線透過部112aを形成していない板状部17を有するものとされたが、
図15に示すように板状部17を除去し、金属基板13aにおける板状部17と反対側にX線透過率の高い別の支持基板14を配設してもよい。
【0048】
詳しくは、例えば凹部134にX線吸収材料が埋設されてX線吸収部111aが形成された後、
図15に示すように、金属基板13aにおける板状部17と反対側の一方側に、X線に対して母材である金属基板13a(上記実施形態ではアルミニウム)よりさらに透過性の高い別の支持基板14、たとえばアクリル板などを接着剤等で接合する。又、金属基板13aにおける板状部17側を研磨して板状部17を除去する。これにより、
図14に示す金属基板13aとは別の、X線透過率の高い支持基板14を有するX線用金属格子1aとする。このようにしてX線の透過率を向上させるようにしてもよい。
【0049】
又、上記実施形態では、基板13aは、アルミニウムから構成されたが、この形態のものに限らず、化学的処理により穴群132を形成可能な材料であればよく、適宜変更できる。例えばシリコンやガリウム砒素などの半導体基板を用いても良い。
【0050】
例えばn型GaAs(001)基板を、NH
4OH中でタングステンランプで光照射しかつ磁界印加しながら、電圧12Vで陽極化成すると約250nmピッチの垂直な穴を有する穴群が得られる。このような基板を、上述したと同様にフォトリソグラフィでパターニングし、硫酸と過酸化水素水の混合溶液でウエットエッチングすることで先の例と同じように凹部134が形成できるので、このように作製した格子を位相格子として使用しても良い。
【0051】
尚、複数の穴を有する穴群を形成する場合、穴群を形成したい材料を陽極として、多くの場合酸性溶液中で通電することで穴群を形成する方法を採るが、本反応により基板が酸化しないシリコンやガリウム砒素(GaAs)などの場合を、上記のように「陽極化成」と称す。
【0052】
また、前述のように、加工最終段で基板を透過率の高い基板に置き換える場合は、陽極酸化母材として、モリブデンなどのアルミよりX線透過率がわるい材料を使用してもかまわない。なぜならば、格子の透過部は、細かい穴があいたポーラス構造になっているため、たとえ母材がX線透過率が悪くても、透過率は十分に確保できるためである。ただし、透過率の悪い母材が基板として残っている場合は、透過と非透過のコントラストが低下するおそれがあるので、母材が、X線透過率が悪い物質の場合は、前述のように、加工最終段階で基板を透過率の高い基板に置き換えることが望ましい。
【0053】
又、上記実施形態では、X線吸収材料は、金(Au)から構成されたが、この形態のものに限らず、適宜変更できる。X線吸収材料は、例えばX線透過率が低い原子量が比較的重い元素の金属や貴金属、より具体的には、例えばプラチナ(白金、Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)およびイリジウム(Ir)等から構成されてもよい。
【0054】
又、上述の第1実施形態(これらの変形形態を含む)では、X線用金属格子1aは、一次元周期構造であったが、これに限定されるものではない。X線用金属格子1aは、例えば、二次元周期構造の格子であってもよい。例えば、二次元周期構造のX線用金属は、二次元周期構造の部材となるドットが線形独立な2方向に所定の間隔を空けて等間隔に配設されて構成される。このような二次元周期構造のX線用金属格子は、平面に高アスペクト比の穴を二次元周期で空ける、あるいは、平面に高アスペクト比の円柱を二次元周期で立設させることによって形成できる。または、これら空間に、上述と同様に、金属が埋め込まれても良い。
【0055】
図16は、X線用金属格子における、X線源から放射されるX線のケラレを説明するための図である。
【0056】
図16(A)は、法線方向に沿って延びる複数の穴の部分によって形成された、前記法線方向に延びるX線透過部を持つX線用金属格子の場合を示し、
図16(B)は、前記X線の焦点に向かって収束するように延びる複数の穴の部分によって形成された、前記X線の焦点に向かって収束するように延びるX線透過部を持つX線用金属格子の場合を示す。一般に、X線源は、点波源であり、
図16に示すように、放射状にX線を放射する。このため、X線用金属格子が平板であって前記複数の穴が法線方向に沿って延びており、そして、前記X線源がX線用金属格子における中心を通る法線上に配置された場合、
図16(A)に示すように、前記中心から周辺の向かうに従って、前記複数の穴を形成した部分からなるX線透過部に、斜めに入射することになり、この結果、いわゆるケラレが生じてしまう。上記X線用金属格子の製造方法は、
図16(B)に示すように、前記複数の穴それぞれを、前記X線の焦点に向かって収束するように形成するので、前記ケラレを低減できる。
【0057】
(第2および第3実施形態;タルボ干渉計およびタルボ・ロー干渉計)
上記実施形態のX線用金属格子1aは、高アスペクト比で金属部分を形成することができるので、X線用のタルボ干渉計およびタルボ・ロー干渉計に好適に用いることができる。この金属格子1aを用いたX線用タルボ干渉計およびX線用タルボ・ロー干渉計について説明する。
【0058】
図17は、第2実施形態におけるX線用タルボ干渉計の構成を示す斜視図である。
図18は、第3実施形態におけるX線用タルボ・ロー干渉計の構成を示す上面図である。
【0059】
実施形態のX線用タルボ干渉計100Aは、
図17に示すように、所定の波長のX線を放射するX線源101と、X線源101から照射されるX線を回折する位相型の第1回折格子102と、第1回折格子102により回折されたX線を回折することにより画像コントラストを形成する振幅型の第2回折格子103とを備え、第1および第2回折格子102、103がX線タルボ干渉計を構成する条件に設定される。そして、第2回折格子103により画像コントラストの生じたX線は、例えば、X線を検出するX線画像検出器105によって検出される。そして、このX線用タルボ干渉計100Aでは、第1回折格子102および第2回折格子103の少なくとも一方は、上述したX線用金属格子1aの製造方法のいずれかによって製造されたX線用金属格子1aである。
【0060】
タルボ干渉計100Aを構成する前記条件は、次の式1および式2によって表される。式2は、第1回折格子102が位相型回折格子であることを前提としている。
l=λ/(a/(L+Z1+Z2)) ・・・(式1)
Z1=(m+1/2)×(d2/λ) ・・・(式2)
ここで、lは、可干渉距離であり、λは、X線の波長(通常は中心波長)であり、aは、回折格子の回折部材にほぼ直交する方向におけるX線源101の開口径であり、Lは、X線源101から第1回折格子102までの距離であり、Z1は、第1回折格子102から第2回折格子103までの距離であり、Z2は、第2回折格子103からX線画像検出器105までの距離であり、mは、整数であり、dは、回折部材の周期(回折格子の周期、格子定数、隣接する回折部材の中心間距離、前記ピッチP)である。
【0061】
このような構成のX線用タルボ干渉計100Aでは、X線源101から第1回折格子102に向けてX線が照射される。この照射されたX線は、第1回折格子102でタルボ効果を生じ、タルボ像を形成する。このタルボ像が第2回折格子103で作用を受け、モアレ縞の画像コントラストを形成する。そして、この画像コントラストがX線画像検出器105で検出される。
【0062】
タルボ効果とは、回折格子に光が入射されると、或る距離に前記回折格子と同じ像(前記回折格子の自己像)が形成されることをいい、この或る距離をタルボ距離Lといい、この自己像をタルボ像という。タルボ距離Lは、回折格子が位相型回折格子の場合では、上記式2に表されるZ1となる(L=Z1)。タルボ像は、Lの奇数倍(=(2m+1)L、mは、整数)では、反転像が現れ、Lの偶数倍(=2mL)では、正像が現れる。
【0063】
ここで、X線源101と第1回折格子102との間に被検体Sが配置されると、前記モアレ縞は、被検体Sによって変調を受け、この変調量が被検体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。このため、モアレ縞を解析することによって被検体Sおよびその内部の構造が検出される。
【0064】
このような
図17に示す構成のタルボ干渉計100Aでは、X線源101は、単一の点光源であり、このような単一の点光源は、単一のスリット(単スリット)を形成した単スリット板をさらに備えることで構成することができ、X線源101から放射されたX線は、前記単スリット板の前記単スリットを通過して被検体Sを介して第1回折格子102に向けて放射される。前記スリットは、一方向に延びる細長い矩形の開口である。
【0065】
一方、タルボ・ロー干渉計100Bは、
図18に示すように、X線源101と、マルチスリット板104と、第1回折格子102と、第2回折格子103とを備えて構成される。すなわち、タルボ・ロー干渉計100Bは、
図17に示すタルボ干渉計100Aに加えて、X線源101のX線放射側に、複数のスリットを並列に形成したマルチスリット板104をさらに備えて構成される。
【0066】
このマルチスリット板104は、いわゆる第0格子であり、上述したX線用金属格子1の製造方法のいずれかによって製造されたX線用金属格子1であってよい。マルチスリット板104を、上述したX線用金属格子1の製造方法のいずれかによって製造することによって、X線を、スリット状のX線透過部112aによって透過させるとともにより確実にスリット状のX線吸収部111aによって遮断することができるので、X線の透過と非透過とをより明確に区別することができるから、マルチスリット板104は、X線源101から放射されたX線を、より確実にマルチ光源とすることができる。
【0067】
そして、タルボ・ロー干渉計100Bとすることによって、タルボ干渉計100Aよりも、被検体Sを介して第1回折格子102に向けて放射されるX線量が増加するので、より良好なモアレ縞が得られる。
【0068】
(第4実施形態;X線撮像装置)
前記X線用金属格子1aは、種々の光学装置に利用することができるが、高アスペクト比でX線吸収部111aを形成することができるので、例えば、X線撮像装置に好適に用いることができる。特に、X線タルボ干渉計を用いたX線撮像装置は、X線を波として扱い、被写体を通過することによって生じるX線の位相シフトを検出することによって、被写体の透過画像を得る位相コントラスト法の一つであり、被写体によるX線吸収の大小をコントラストとした画像を得る吸収コントラスト法に較べて、約1000倍の感度改善が見込まれ、それによってX線照射量が例えば1/100〜1/1000に軽減可能となるという利点がある。本実施形態では、前記X線用金属格子1aを用いたX線タルボ干渉計を備えたX線撮像装置について説明する。
【0069】
図19は、第4実施形態におけるX線撮像装置の構成を示す説明図である。尚、
図19においても、X線用金属格子のX線透過部を白抜きで示す。
図19において、X線撮像装置200は、X線撮像部201と、第2回折格子202と、第1回折格子203と、X線源204とを備え、さらに、本実施形態では、X線源204に電源を供給するX線電源部205と、X線撮像部201の撮像動作を制御するカメラ制御部206と、本X線撮像装置200の全体動作を制御する処理部207と、X線電源部205の給電動作を制御することによってX線源204におけるX線の放射動作を制御するX線制御部208とを備えて構成される。
【0070】
X線源204は、X線電源部205から給電されることによって、X線を放射し、第1回折格子203へ向けてX線を照射する装置である。X線源204は、例えば、X線電源部205から供給された高電圧が陰極と陽極との間に印加され、陰極のフィラメントから放出された電子が陽極に衝突することによってX線を放射する装置である。
【0071】
第1回折格子203は、X線源204から放射されたX線によってタルボ効果を生じる回折格子である。第1回折格子203は、例えば、上述したX線用金属格子1の製造方法のいずれかによって製造された回折格子である。第1回折格子203は、タルボ効果を生じる条件を満たすように構成されており、X線源204から放射されたX線の波長よりも充分に粗い格子、例えば、格子定数(回折格子の周期)dが当該X線の波長の約20以上である位相型回折格子である。なお、第1回折格子203は、このような振幅型回折格子であってもよい。
【0072】
第2回折格子202は、第1回折格子203から略タルボ距離L離れた位置に配置され、第1回折格子203によって回折されたX線を回折する透過型の振幅型回折格子である。この第2回折格子202も、第1回折格子203と同様に、例えば、上述したX線用金属格子1の製造方法のいずれかによって製造された回折格子である。
【0073】
これら第1および第2回折格子203、202は、上述の式1および式2によって表されるタルボ干渉計を構成する条件に設定されている。
【0074】
X線撮像部201は、第2回折格子202によって回折されたX線の像を撮像する装置である。X線撮像部201は、例えば、X線のエネルギーを吸収して蛍光を発するシンチレータを含む薄膜層が受光面上に形成された二次元イメージセンサを備えるフラットパネルディテクタ(FPD)や、入射フォトンを光電面で電子に変換し、この電子をマイクロチャネルプレートで倍増し、この倍増された電子群を蛍光体に衝突させて発光させるイメージインテンシファイア部と、イメージインテンシファイア部の出力光を撮像する二次元イメージセンサとを備えるイメージインテンシファイアカメラなどである。
【0075】
処理部207は、X線撮像装置200の各部を制御することによってX線撮像装置200全体の動作を制御する装置であり、例えば、マイクロプロセッサおよびその周辺回路を備えて構成され、機能的に、画像処理部271およびシステム制御部272を備えている。
【0076】
システム制御部272は、X線制御部208との間で制御信号を送受信することによってX線電源部205を介してX線源204におけるX線の放射動作を制御すると共に、カメラ制御部206との間で制御信号を送受信することによってX線撮像部201の撮像動作を制御する。システム制御部272の制御によって、X線が被検体Sに向けて照射され、これによって生じた像がX線撮像部201によって撮像され、画像信号がカメラ制御部206を介して処理部207に入力される。
【0077】
画像処理部271は、X線撮像部201によって生成された画像信号を処理し、被検体Sの画像を生成する。
【0078】
次に、本実施形態のX線撮像装置の動作について説明する。被検体Sが例えばX線源204を内部(背面)に備える撮影台に載置されることによって、被検体SがX線源204と第1回折格子203との間に配置され、X線撮像装置200のユーザ(オペレータ)によって図略の操作部から被検体Sの撮像が指示されると、処理部207のシステム制御部272は、被検体Sに向けてXを照射すべくX線制御部208に制御信号を出力する。この制御信号によってX線制御部208は、X線電源部205にX線源204へ給電させ、X線源204は、X線を放射して被検体Sに向けてX線を照射する。
【0079】
照射されたX線は、被検体Sを介して第1回折格子203を通過し、第1回折格子203によって回折され、タルボ距離L(=Z1)離れた位置に第1回折格子203の自己像であるタルボ像Tが形成される。
【0080】
この形成されたX線のタルボ像Tは、第2回折格子202によって回折され、モアレを生じてモアレ縞の像が形成される。このモアレ縞の像は、システム制御部272によって例えば露光時間などが制御されたX線撮像部201によって撮像される。
【0081】
X線撮像部201は、モアレ縞の像の画像信号をカメラ制御部206を介して処理部207へ出力する。この画像信号は、処理部207の画像処理部271によって処理される。
【0082】
ここで、被検体SがX線源204と第1回折格子203との間に配置されているので、被検体Sを通過したX線には、被検体Sを通過しないX線に対し位相がずれる。このため、第1回折格子203に入射したX線には、その波面に歪みが含まれ、タルボ像Tには、それに応じた変形が生じている。このため、タルボ像Tと第2回折格子202との重ね合わせによって生じた像のモアレ縞は、被検体Sによって変調を受けており、この変調量が被検体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。したがって、モアレ縞を解析することによって被検体Sおよびその内部の構造を検出することができる。また、被検体Sを複数の角度から撮像することによってX線位相CT(Computed Tomography)により被検体Sの断層画像が形成可能である。
【0083】
そして、本実施形態の第2回折格子202では、高アスペクト比のX線吸収部111aを備える上述した実施形態におけるX線用金属格子1であるので、良好なモアレ縞が得られ、高精度な被検体Sの画像が得られる。
【0084】
なお、上述のX線撮像装置200は、X線源204、第1回折格子203および第2回折格子202によってタルボ干渉計を構成したが、X線源204のX線放射側にマルチスリットとしての上述した実施形態におけるX線用金属格子1をさらに配置することで、タルボ・ロー干渉計を構成してもよい。このようなタルボ・ロー干渉計とすることで、単スリットの場合よりも被検体Sに照射されるX線量を増加することができ、より良好なモアレ縞が得られ、より高精度な被検体Sの画像が得られる。
【0085】
また、上述のX線撮像装置200では、X線源204と第1回折格子203との間に被検体Sが配置されたが、第1回折格子203と第2回折格子202との間に被検体Sが配置されてもよい。
【0086】
また、上述のX線撮像装置200では、X線の像がX線撮像部201で撮像され、画像の電子データが得られたが、X線フィルムによって撮像されてもよい。
【0087】
以上、この実施形態のX線撮像装置は、次のように把握することができる。即ち、X線撮像装置は、X線を放射するX線源と、前記X線源から放射されたX線が照射されるタルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計と、前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計によるX線の像を撮像するX線撮像素子とを備え、前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計は、上述の高アスペクト比構造物の製造方法によって製造されたX線用金属格子を含むことを特徴とするものである。
【0088】
このようなX線撮像装置は、タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計を構成するX線用金属格子に、より性能の高い上述の金属格子を用いるので、より鮮明なX線の像を得ることができる。
【0089】
(第5実施形態;超音波プローブの製造方法)
非破壊検査(NDT)や医療用に用いられている超音波プローブは、一般に、単一の能動素子(高周波音波の発信と受信両方を行うピエゾ素子)が使用される。これに対して、フェーズドアレイシステムは、複数(たとえば16から多い場合は256)の個別にパルス発振できるピエゾ素子から成るプローブで構成されており、これら複数のピエゾ素子から発せられる超音波の強度・位相等を個別に電気的に制御することで、超音波の伝搬方向や焦点域を任意に変えることが可能となる。
【0090】
以下に、このフェーズドアレイ用の超音波プローブを本発明による高アスペクト比構造物を用いて製造する方法を説明する。
【0091】
先の第1実施形態のX線用金属格子を製造した場合と同様に、
図20に示すようにアルミニウムからなる基板301における穴群332を有する主面に、幅L1が15um、深さH3が100umの凹部300aを、30umのピッチ間隔L2で(=周期30um)連続的に配置した1次元構造の高アスペクト比構造物である超音波プローブ製造用型300を作製する。
【0092】
次に、
図21に示すように、この超音波プローブ製造用型300の凹部300aの底部の基板301をめっき電極としてめっきを行ない、ニッケルからなるニッケル充填物を凹部300aに充填し、1mmの厚さまで堆積させた。その後、超音波プローブ製造用型300をリン酸液で溶解除去し、
図22に示すように金型用凹部350aを有する金型350を得た(金型形成工程)。
【0093】
次に、
図23に示すように、得られた金型350に樹脂材料からなる樹脂充填物を充填した。樹脂材料として、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)からなるアクリル樹脂を用いた。加熱により軟化したシロップ状のアクリル樹脂を金型350の金型用凹部350aに流し込み、室温まで冷却して硬化させた後、樹脂材料を金型350から離し、
図24に示すように樹脂型用凹部351aを有する樹脂型351を得た(樹脂型形成工程)。
【0094】
次いで、
図25に示すように樹脂型35の樹脂型用凹部351aにチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)粒子を含有するスラリーを充填した。スラリーは、水および有機バインダーを用いて、調製した。次に、乾燥により充填したスラリーを固化した。続いて酸素プラズマを用いるアッシングを行ない、樹脂型351を除去した(
図26)。次に、残ったスラリーの固化物に、500℃において仮焼成を施し、さらに1100°Cにおいて本焼成を施した。焼成により、
図26に示すように焼結体凹部(構造体凹部)352aを有する微細構造体からなる圧電材料としてのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)焼結体352が得られた(微細構造体形成工程)。
【0095】
このようにして作製したチタン酸ジルコン酸鉛焼結体352の焼結体凹部352aに、
図27に示すようにエポキシ樹脂353を充填し、その後、
図28に示すようにエポキシ樹脂353およびチタン酸ジルコン酸鉛焼結体352の台座部分を研磨によって除去して
チタン酸ジルコン酸鉛焼結体352とエポキシ樹脂353が交互に並んでアレイ化された超音波プローブ本体310を形成した(超音波プローブ本体形成工程)。その後、超音波プローブ本体310の両面に電極を形成することで超音波プローブを得た。
【0096】
以上のように、超音波プローブの製造方法に用いられた高アスペクト比構造物である超音波プローブ製造用型300は、ウェットエッチングで基板301の一方の主面に形成された複数の凹部300aそれぞれが基板301の主面に垂直な側面を有するものに形成されている。そして、超音波プローブの製造方法は、この超音波プローブ製造用型300に基いて超音波プローブ310を製造することで、チタン酸ジルコン酸鉛焼結体352とエポキシ樹脂353とを正確に交互に並んでアレイ化されたものにでき、しかも、低コストで製造できる。
【0097】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。