(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車の分野では、環境保全のため、車体の軽量化による燃費の向上とともに、衝突安全性の向上が求められている。そのため、高強度鋼板を使用して薄肉化するとともに、車体構造を最適化して、車体の軽量化と衝突安全性の向上を図るために、これまで種々の取組みがなされている。
【0003】
一方、自動車等の部品の製造や車体の組立における溶接では、スポット溶接が主に使用されている。そして、スポット溶接して作製された溶接構造物のうち、足廻り等の振動を伴う環境で使用されるものに対しては、通常の静的な引張強度の他に、繰り返し作用する力に耐えるように、十分な疲労強度を具備することが要求されている。
【0004】
通常、被溶接部材に用いられる鋼板の疲労強度は、鋼板強度に比例して増加するが、溶接継手の疲労強度は、必ずしも鋼板強度が増加しても、増加しないことが知れている。これは、溶融凝固部(ナゲット)端部のノッチ形状が原因であると考えられている。すなわち、鋼板の間に存在するナゲットの部分がノッチ形状になっているため、引張せん断方向に負荷されて疲労試験を行った場合、引張強さの高い鋼板を用いても、このノッチ効果によって疲労強度が向上しないとされている。
【0005】
そして、鋼板の板厚を薄くすると疲労強度が低下することも相俟って、自動車の足廻り等の疲労特性が特に重視される部位では、高強度鋼板の適用による車体の軽量化(薄肉化)が阻害されている。
【0006】
このような状況において、高強度鋼板をスポット溶接して作製された溶接継手の疲労強度を向上させる技術として、例えば、特許文献1では、スポット溶接後に溶接部を発熱させて焼き戻しを行い、その後、冷間加圧を行う技術が報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示の技術は、高強度鋼板をスポット溶接して作製された溶接継手の疲労強度向上に対して、有効な技術ではあるが、焼き戻し及び冷間加圧において、鋼種、板厚、めっきの有無等に応じて、適切な通電条件や加圧力条件等を検討する必要があり、より簡便に疲労強度を向上させる技術が望まれていた。
【0009】
本発明では、このような実情に鑑み、簡便に金属板の重ね溶接継手の疲労強度を向上させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決する手段について鋭意検討した。
隅肉溶接により作製された溶接継手において、疲労亀裂が発生する溶接部に直接、ショットブラスト処理して溶接部に圧縮残留応力を与えて、疲労強度を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献2、参照)。
【0011】
本発明者らは、溶接継手の金属板の表面のうち、溶接電極との接触面側(金属板の非重ね合わせ面側)から、溶接箇所にショットブラスト処理をして、溶接箇所の外側に圧縮残留応力の付与を試みたところ、疲労亀裂が発生するナゲット周辺に直接ショットブラスト処理していないにも関わらず、溶接継手の疲労強度が向上することを知見した。
【0012】
更に、種々のショットブラスト処理の条件にて、溶接箇所の外側に圧縮残留応力の付与を試みたところ、ショットブラスト処理の条件によっては、金属板が変形してしまうことがあった。そこで、本発明者らは、金属板変形を抑制するとともに、疲労強度を向上させるショットブラスト処理の条件を検討した。その結果、投射距離(吹付部と処理対象との距離)に対する、エアー圧と投射材の平均直径との積が所定の範囲となるようにショットブラスト処理を行うことで、金属板変形の抑制と疲労強度の向上とを共に達成できることを見出した。
【0013】
本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)少なくとも溶接箇所が重ね合わされた複数枚の金属板にスポット溶接して、重ね溶接継手を製造する方法において、
スポット溶接した後に、前記複数の金属板の少なくとも一方の非重ね合わせ面の溶接箇所に圧縮残留応力を付与するものであり、
前記圧縮残留応力の付与は、ショットブラスト処理により行われ、
前記ショットブラスト処理は、下記(1)式のS値が0.6〜2.0となる条件により行われる
ことを特徴とする重ね溶接継手の製造方法。
S値=(√P×√D)/L ・・・(1)
P:エアー圧(MPa)
D:投射材の平均直径(mm)
L:投射距離(m)
(2)前記圧縮残留応力が250〜800MPaとなるようにショットブラスト処理を行うことを特徴とする前記(1)に記載の重ね溶接継手の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、投射距離に対する、エアー圧と投射材の直径との積が所定値となるように溶接部の外側にショットブラスト処理をするので、金属板変形の抑制と疲労強度の向上とを共に達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の重ね溶接継手の製造方法(以下、「本発明の製法」という)は、スポット溶接した後に、複数枚の金属板の溶接箇所の外側に圧縮残留応力を付与する方法であり、圧縮残留応力の付与をショットブラスト処理で行い、その際のショットブラスト処理の条件を下記(1)式のS値が0.6〜2.0となるように行うものである。
そして、それにより、金属板変形を抑制と疲労強度の向上とを達成することができる。
【0017】
S値=(√P×√D)/L ・・・(1)
P:エアー圧(MPa)
D:投射材の平均直径(mm)
L:投射距離(m)
【0018】
次に、本発明の製法に至った検討の経緯について説明するとともに、本発明の製法の基本構成について説明する。
【0019】
スポット溶接して作製された重ね溶接継手の疲労強度を簡便に向上させることが望まれていた。隅肉溶接継手における、疲労強度を向上させる従来技術として、疲労亀裂が発生する溶接部に、直接ショットブラスト処理して溶接部に圧縮の残留応力を与えることが知られている。
【0020】
しかしながら、スポット溶接して作製された重ね溶接継手において、疲労亀裂が発生する位置は、金属板の間に存在するナゲット周辺であるため、該位置に直接ショットブラスト処理して圧縮残留応力を付与することができない。
【0021】
そこで、上述の従来の知見とは異なるが、スポット溶接して作製された重ね溶接継手において、溶接電極の接触面側(金属板の非重ね合わせ面側)から、溶接箇所にショットブラスト処理をして、溶接箇所の外側に圧縮残留応力を付与し、疲労試験を行った。
【0022】
具体的には、次のような実験を実施した。
引張強度1500MPa、板厚1.2mmの鋼板を2枚準備し、2枚の鋼板の一部(各端部)を重ね合わせ、ナゲット直径が4.7mmとなるようにスポット溶接して、重ね溶接継手を作製した。
【0023】
そして、重ね溶接継手の溶接箇所に、溶接電極の接触面側(外側)の両側から、0.3mmスチールビーズを用いて、ショットブラスト処理を行った。その際、エアー圧を変更することで、外側の溶接箇所に付与する圧縮残留応力を変更した。表1に、ショットブラスト処理の条件を示す。
【0024】
ショットブラスト処理後の試験片に対して、鋼板の非重ね合わせ面の溶接箇所の圧縮残留応力を、X線応力測定法にて測定した。また、その試験片の疲労試験を実施し、破断寿命を求めた。疲労試験は、試験片の両端部分を把持して、荷重範囲1.75kN、荷重比(応力比)0.1として、実施した。なお、試験機の軸芯を合わせるため、重ね合わせた端部と反対側の端部に鋼板と同じ板厚のスペーサーを配置して、試験片を把持した。表1に圧縮残留応力及び破断寿命を示す。
【0026】
表1に示すように、試験片の外側にショットブラスト処理をすることで、疲労強さが向上することを知見した。一方、ナゲット周辺の残留応力をX線応力測定法にて、ショットブラスト処理前後で測定したところ、ほぼ変化していなかった。これより、溶接箇所の外側に圧縮残留応力を付与すると、疲労亀裂が発生するナゲット周辺の重ね面側の圧縮残留応力は変化しないにも関わらず、重ね溶接継手の疲労強さが向上することを知見した。
【0027】
更に、本発明者らは、スポット溶接して作製された重ね溶接継手に対して、引張り荷重を与えたときの応力分布をFEM解析(有限要素法解析)により求めた。具体的には、溶接箇所の外側に、圧縮残留応力を付与しない場合と、600MPaの圧縮残留応力を付与した場合の重ね溶接継手において、ナゲット周辺をモデル化し、1.94kNの引張り荷重を与えたときの応力分布を求めた。FEM解析では、引張強度1180MPa、板厚1.2mmの鋼板を重ね合わせ、ナゲット直径が4.7mmとなるようにスポット溶接した重ね溶接継手を対象とした。
【0028】
図1に、溶接箇所の外側に、圧縮残留応力を付与しない場合に引張り荷重を与えたときのFEM解析の結果を示す。
図1(a)は、引張り荷重を与えたときの変形状態(変形倍率3倍)を示し、
図1(b)は、引張り荷重を与えたときの最大主応力分布を示す。また、
図2に、溶接箇所の外側に、600MPaの圧縮残留応力を付与した場合に引張り荷重を与えたときのFEM解析の結果を示す。
図2(a)は、引張り荷重を与えたときの変形状態(変形倍率3倍)を示し、
図2(b)は、引張り荷重を与えたときの最大主応力分布を示す。
【0029】
図1(a)と
図2(a)は、それぞれ、矢印で示す方向に引張り荷重(1.94kN)を与えたときの変形状態を示しており、両者を比較すると、
図2(a)の溶接箇所の外側に圧縮残留応力が付与された場合の方が、引張り荷重を与えたとき、鋼板1a、1bの間の開口を閉じる方向の力が作用していることが分かる。
【0030】
また、
図1(b)と
図2(b)は、それぞれ、
図1(a)と
図2(a)の点線で囲まれた部分の最大主応力分布を示している。両者を比較すると、
図2(a)の溶接箇所の外側に圧縮残留応力が付与された場合は、引張り荷重を与えたとき、ナゲット端部及びその周辺に応力が高くなっている箇所(
図1(b)で黒で表示されている箇所)がほぼ無く、最大主応力が低下していることが分かる。
【0031】
これより、溶接箇所の外側に圧縮残留応力が付与されると、重ね合わせ面の開口を閉じる方向の残留応力を有する重ね溶接継手となり、この溶接継手は繰り返し荷重を受けた場合でも、重ね合わせ面での引張応力が低下し、重ね合わせ面のナゲット端からの亀裂の発生、及び、伝播が抑制され、疲労強さが向上することを見出した。
【0032】
更に、本発明者らは、種々のショットブラスト処理の条件にて、上述と同様の実験を行ったところ、ショットブラスト処理の条件によっては、鋼板変形が生じることがあった。そこで、鋼板変形を抑制するとともに、疲労強さを向上させるショットブラスト処理の条件を検討した。
【0033】
その結果、投射距離L(mm)、エアー圧P(MPa)、及び、投射材の平均直径D(mm)をパラメータとする下記(1)式のS値が0.6〜2.0となる条件でショットブラスト処理を行うことで、鋼板変形の抑制及び疲労強度の向上が達成されることを見出した。
【0034】
S値=(√P×√D)/L ・・・(1)
P:エアー圧(MPa)
D:投射材の平均直径(mm)
L:投射距離(m)
【0035】
本発明は、以上のような検討過程を経て上記(1)及び(2)に記載の発明に至ったものであり、まず、そのような本発明の製法の流れについて説明するとともに、更に、必要な要件や好ましい要件について、順次説明する。
【0036】
本発明の製法では、被溶接部材として、溶接箇所を重ね合わせる複数枚の金属板を準備する。該金属板は、特に限定されるものでなく、種々の成分組成の鋼板や、鋼板以外のアルミニウムやステンレス等の金属部材を採用することができる。
【0037】
複数枚の金属板は、2枚の金属板に限定されず、接合する構造部品の形態に応じて、3枚以上の金属板とすることができる。金属板の板厚は、特に限定されるものでなく、0.5〜3.2mmが例示される。また、金属板の全体の板厚も、特に限定されるものでなく、1.0〜7.0mmとすることができる。
【0038】
また、金属板は、両面又は片面にめっき等の表面処理皮膜を形成したものとしても、表面処理皮膜を形成していないものであってもよい。金属板は、少なくとも一部に板状部を有し、当該板状部が互いに積み重ね合わされる部分を有するものであればよく、全体が板でなくともよく、例えば、形鋼等としてもよい。また、鋼板は、別々の鋼板から構成されるものに限定されず、1枚の鋼板を管状等の所定の形状に成形したものを重ね合わせたものでもよい。
このような金属板として、板厚0.5〜3.2mmの鋼板が例示される。望ましくは引張強度が590MPa以上の鋼板である。また、鋼板は、非めっき鋼板でも、GAめっき鋼板等の表面処理鋼板でもよい。
【0039】
次に、複数枚の金属板にスポット溶接を行う。このスポット溶接では、2枚の金属板を重ね合わせて、両側から2枚の金属板を挟み込むように、銅合金等からなる電極を押し付けつつ通電して、溶融金属を形成し、通電の終了後に水冷された電極による抜熱や金属板自体への熱伝導によって、溶融金属を急速に冷却して凝固させ、金属板の間に、断面楕円形状のナゲットを形成する。
【0040】
スポット溶接の条件は、特に限定されるものでなく、例えば、電極をドームラジアス型の先端直径6〜8mmのものとし、加圧力150〜600kgf、通電時間5〜50サイクル(電源周波数50Hz)、通電電流4〜15kAとする。ナゲット直径は、最も薄い鋼板の板厚をt(mm)とすると、3.5√t〜8.0√tとする。
【0041】
次に、重ね溶接継手の金属板の非重ね合わせ面(外側表面)の溶接箇所に圧縮残留応力を付与するショットブラスト処理を行う。付与する圧縮残留応力は、疲労強さが向上すれば、特に限定されるものでなく、250〜800MPaとすることが望ましい。250〜800MPaにすると、金属板変形の抑制と疲労強度の向上とを達成し易くなる。
【0042】
図3に、ショットブラスト処理の概要を示す。ショットブラスト処理は、ショットブラスト装置の吹付部2から、金属板1aに向けて投射材3を投射して行う。このとき、吹付部2の先端中心から金属板1aまでの最短距離を投射距離L(mm)という。
【0043】
金属板1aの外側表面上の投射材3の投射範囲は、投射材3の投射方向から、溶接箇所を平面視した平面に、重ね合わせ面に形成されているナゲット4の範囲及びその周辺の範囲を投影した範囲とすることが好ましい。また、ナゲット4の周辺の範囲とは、ナゲット直径Dnの円相当の範囲からナゲット直径Dnの約1.2倍の円相当の範囲までのことである。
【0044】
また、投射材3の投射範囲を、ナゲット4の範囲及びその周辺の範囲を超えた範囲を平面に投影した範囲としてもよく、更には、金属板1a外側の全表面としてもよいが、溶接箇所を超えてショットブラスト処理をしても疲労強さ向上の効果が飽和するため経済的でない。そのため、投射材3の投射範囲を、ナゲット直径Dnの約5.0倍以下の円相当の範囲を平面に投影した範囲とすることが好ましく、約2.0倍以下とすることが更に好ましい。
【0045】
このような投射範囲に投射するには、次のようにして行うことができる。溶接電極による圧痕の輪郭に沿って円を描き、該円の中心をナゲット4の中心とする。一方、スポット溶接に先立ち、クーポン(試験片)で溶接条件を決めた際に観察されるナゲット直径Dnを求める。そして、前記円の中心からナゲット半径(0.5×Dn)の1.2倍の円相当の範囲の金属板1aの外側表面にショットブラスト処理を行う。
【0046】
ここでは、ショットブラスト処理を、一方の金属板1aの外側表面上に行うことを説明したが、両方の金属板1a、1bの外側表面上に行ってもよく、複数枚の金属板において、板厚が同じ場合は、両方の金属板の外側表面上にショットブラスト処理を行うことが好ましい。また、複数枚の金属板において、板厚が異なる場合は、少なくとも板厚が薄い金属板の外側表面上にショットブラスト処理を行うとよい。
【0047】
ショットブラスト処理は、スポット溶接後に行えば、スポット溶接直後に行う必要はない。例えば、スポット溶接後に、重ね溶接継手に熱処理やプレス加工等行った後に、ショットブラスト処理を行ってもよい。
【0048】
ショットブラスト処理においては、上記(1)式のS値が0.6〜2.0となるように、エアー圧P(MPa)、投射材の直径D(mm)及び投射距離L(m)を選択する。これにより、金属板変形の抑制及び疲労強さの向上を達成することができる。また、S値は好ましくは1.0〜1.5である。
【0049】
エアー圧P(MPa)は、0.1〜0.7MPaが好ましい。0.1MPa以上とすると、金属板の外側表面に圧縮残留応力を付与し易く、0.7MPa以下とすると、金属板変形をより抑制することができる。
投射距離L(m)は、0.17〜0.50mが好ましい。0.15m以上とすると、金属板変形をより抑制することができ、0.50m以下とすると、金属板の外側表面に圧縮残留応力を付与し易い。
【0050】
投射材の平均直径D(mm)は、0.1〜0.6mmが好ましい。0.1mm以上とすると、投射材費用を低減でき、0.6mm以下とすると、金属板変形をより抑制することができる。
【0051】
投射材の材質は、特に限定されるものでなく、金属系、セラミック系等のいずれも採用することができる。コストの観点では安価なスチールビーズでよいが、対象物によっては材質を規定することが好ましい。
【0052】
例えば、袋構造となっている部品にショットブラスト処理を行うと、投射材がショットブラスト処理後にも袋構造の隙間に残存し、残存した投射材が腐食し、これにより、母材も腐食するおそれがある。投射材が残存することが避けられない構造を有する部品の場合には、非金属製、例えばセラミック球からなる投射材を用いることが好ましい。セラミック球からなる投射材は、部品の重ね面に残存しても錆の発生の起点にならないためである。また、セラミック球の材質としてはジルコンがより好適である。ジルコンは硬質で靭性が高く、ショット時に粉砕され難く球状を維持するためである。また、投射材の形状は、金属板に著しい傷等を付与しないために、球形状が好ましい。
【実施例】
【0053】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0054】
引張強度1180MPa、板厚1.2mmの鋼板A、引張強度1180MPa、板厚1.6mmの鋼板Bを準備した。
図4に、スポット溶接後の試験片を示す。
図4(a)に、試験片の平面図を示し、
図4(b)に、試験片の側面図を示す。このように、2枚の鋼板1a、1bの一部(各端部)を重ね合わせ、スポット溶接を行い、ナゲット4を形成して、複数枚の試験片を作製した。試験片No.1〜12は鋼板A同士の試験片、No.13は鋼板Aと鋼板Bの試験片である。なお、
図4には、試験片の寸法も併せて示す。
【0055】
スポット溶接は、ナゲット直径が4.7mmとなるように、試験片No.1〜12は直径16mm、先端6mmのドームラジアス型電極で、2枚の鋼板を挟み込み、加圧力4kNで押し付けつつ、通電時間14サイクル、通電電流6.3kAとして行った。No.13は通電電流を6.7kAとし、その他の条件はNo.1〜12と同じ条件で行った。
【0056】
そして、表2に示す、エアー圧P(MPa)、投射材の直径D(mm)及び投射距離L(m)の各組合せで、各試験片の2枚の鋼板の外側表面にショットブラスト処理を実施した。ショットブラスト処理は、スポット溶接部の中心と同一の中心をもつ略円の領域を直径(mm)で80×投射距離(m)の範囲内に実施した。また、試験片No.1〜12は試験片の両面にショットブラストを行い、試験片No.13は板厚の薄い側(鋼板A)の片面に行った。なお、投射材は、試験片No.10ではジルコン製のセラミック玉を用い、試験片No.10以外はスチールビーズを用いた。
【0057】
また、ショットブラストを行った鋼板表面にナゲット端部を投影した位置における残留応力を、X線で調査した。その結果を表2に示す。また、X線の残留応力の調査条件を以下に示す。
・X線応力測定法:sinψ法(走査法:並傾法(ψ一定(PSPC)法))
・X線応力測定装置:(株)リガクPSPC−RSF
・特性X線:CrKα
・測定回折面:α−Fe211
・入射スリット:シングルコリメータ○ 平均直径0.5[mm]
・入射角(ψ):0、15.9、22.8、28.3、33.2、37.8、42.2、46.5、50.8[deg]
・揺動:±5[deg]
・回折角決定法:半価幅法
・応力定数(K):−318[MPa/deg]
・1[deg]:=1[°]=π/180[rad]
【0058】
【表2】
【0059】
この試験片に対して、疲労試験を実施した。疲労試験は、試験片の両端部分を把持して、荷重範囲1.75kN、荷重比(応力比)0.1として、
図4に矢印で示す方向に引っ張り、実施した。なお、試験機の軸芯を合わせるため、重ね合わせた端部と反対側の端部に鋼板と同じ板厚のスペーサー5a、5bを配置して、試験片を把持した。表3に、疲労試験の結果を示す。なお、ショットブラスト処理前の疲労寿命に対して、1.5倍未満の疲労寿命の場合を「×」、1.5倍以上の疲労寿命の場合を「○」と表記している。
【0060】
また、鋼板変形を求め、表3に併せて示す。ショットブラスト処理前の試験片に対し変形量が±0.5mm超の場合を「×」、±0.5mm未満の場合を「○」と表記している。
【0061】
【表3】
【0062】
試験片No.1〜3、5〜7、9〜11及び13では、スポット溶接後のショットブラスト処理を、S値が本発明の規定の範囲内となるように行ったので、疲労寿命が向上し、かつ、鋼板変形が抑制された。
【0063】
試験片No.4、8及び12では、スポット溶接後のショットブラスト処理を、S値が本発明の規定の範囲外となるように行ったため、疲労寿命が低下、又は、鋼板変形が大きくなった。