特許第6593044号(P6593044)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593044
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20191010BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20191010BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20191010BHJP
   B60W 20/12 20160101ALI20191010BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20191010BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20191010BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20191010BHJP
   B60W 30/182 20120101ALI20191010BHJP
【FI】
   B60W10/08 900
   B60K6/48ZHV
   B60K6/547
   B60W20/12
   B60L50/16
   B60L15/20 K
   B60W30/14
   B60W30/182
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-177290(P2015-177290)
(22)【出願日】2015年9月9日
(65)【公開番号】特開2017-52377(P2017-52377A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】松下 修
(72)【発明者】
【氏名】石黒 伸一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 義幸
(72)【発明者】
【氏名】山角 竜
(72)【発明者】
【氏名】深田 隆文
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 悟
(72)【発明者】
【氏名】小川 誠
(72)【発明者】
【氏名】浅野 雅樹
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−020580(JP,A)
【文献】 特開2001−157305(JP,A)
【文献】 特開2011−011648(JP,A)
【文献】 特開2014−054874(JP,A)
【文献】 特開2013−099994(JP,A)
【文献】 特開2001−146121(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0293994(US,A1)
【文献】 特開2002−238105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60W 10/00 − 50/16
F02D 29/00 − 29/06
B60K 31/00 − 31/18
B60T 7/12 − 8/1769
B60T 8/32 − 8/96
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
B60L 50/00 − 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンに接続されたトランスミッションと車輪を駆動するデファレンシャルとを連結するプロペラシャフトと、前記ディーゼルエンジンおよびモータージェネレーターを有するハイブリッドシステムと、前記ディーゼルエンジンから前記トランスミッションへ伝達される回転動力を断接するクラッチ装置と、車速を取得する車速取得装置と、制御装置と、を備えたハイブリッド車両において、
前記モータージェネレーターの回転軸と前記プロペラシャフトとを、前記回転軸を入力軸とし、かつ該プロペラシャフトを出力軸とする減速機構を介して接続し、
前記トランスミッションに、シフトレバーの操作に応じて変速するマニュアルトランスミッションを用い、
地図情報を取得する地図情報取得装置と、車重を取得する車重取得装置と、を備え、
前記制御装置を、前記車速を予め設定された目標速度範囲に維持するオートクルーズモードが設定された場合に前記車速が減少する登坂路の有無を前記地図情報および前記車重に基づいて予測し、予測したその登坂路で前記車速が前記目標速度範囲内に設定された目標速度よりも遅くなったときに、前記モータージェネレーターで前記ディーゼルエンジンの駆動力をアシストする制御を行う構成にしたことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記制御装置を、前記オートクルーズモードが設定された場合で、前記ディーゼルエンジンの燃料噴射量が予め設定された高噴射量以上のときに、前記モータージェネレーターで前記ディーゼルエンジンの駆動力をアシストする制御を行う構成にした請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
ディーゼルエンジンに接続されたトランスミッションと車輪を駆動するデファレンシャルとを連結するプロペラシャフトと、前記ディーゼルエンジンおよびモータージェネレーターを有するハイブリッドシステムと、前記ディーゼルエンジンから前記トランスミッションへ伝達される回転動力を断接するクラッチ装置と、を備えて、前記モータージェネレーターの回転軸と前記プロペラシャフトとを、前記回転軸を入力軸とし、かつ該プロペラシャフトを出力軸とする減速機構を介して接続し、前記トランスミッションに、シフトレバーの操作に応じて変速するマニュアルトランスミッションを用いたハイブリッド車両の制御方法であって、
車速を予め設定された目標速度範囲に維持するオートクルーズモードが設定された場合には、制御装置により、前記車速が減少する登坂路の有無を地図情報および車重に基づいて予測し、予測したその登坂路で前記車速が前記目標速度範囲内に設定された目標速度よりも遅くなったときに、前記モータージェネレーターで前記ディーゼルエンジンの駆動力をアシストするアシスト走行を選択することを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両及びその制御方法に関し、より詳細には、マニュアルトランスミッションを搭載した車両において、プロペラシャフトとモータージェネレーターの回転軸とを減速機構を介して接続した場合でも、オートクルーズモードにおける燃料消費量を削減するハイブリッド車両及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費向上及び環境対策などの観点から、車両の運転状態に応じて複合的に制御されるエンジン及びモータージェネレーターを有するハイブリッドシステムを備えたハイブリッド車両(以下「HEV」という。)が注目されている。このHEVにおいては、車両の加速時や発進時には、モータージェネレーターによる駆動力のアシストが行われる一方で、慣性走行時や制動時にはモータージェネレーターによる回生発電が行われる(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
このような、いわゆるパラレル型のHEVでは、モータージェネレーターは、通常はエンジンの回転動力を変速するトランスミッションのエンジン側から車両の駆動系に、即ち、トランスミッションを介して車両の駆動系に接続される。そのため、HEVの高速走行中(例えば、50〜90km/h)に慣性走行状態になった時は、トランスミッションは高速段に変速されているので、この高速段のギアを介して動力が伝達されてモータージェネレーターにおける回生制動トルクが小さくなって発電の高効率点から外れてしまうため、回生発電の効率を向上することが困難であるという問題があった。
【0004】
また、このHEVでは、モータージェネレーターを配置するために既存の車両のパワートレインコンポーネントのレイアウトの大幅な変更等が必要となるため、既存のエンジンのみの車両をHEV化して転用することが容易ではないという問題もあった。
【0005】
このような問題を解決するために、発明者は、車両のプロペラシャフトとモータージェネレーターの回転軸とを、モータージェネレーターの回転軸を入力軸とし、かつプロペラシャフトを出力軸とする減速機構を介して接続することを考案した。
【0006】
しかしながら、特に、バスやトラックなどのマニュアルトランスミッションが搭載された既存の大型車両を、上記の減速機構を用いてHEV化して車速を予め設定した目標速度に維持するオートクルーズモードを使用すると、車重が重いことに起因する登坂路での車速の減速幅が大きいことから、登坂路でドライバーのシフトレバーによる変速操作によってマニュアルトランスミッションがダウンシフトして、エンジンが燃費効率の良い状態を維持できなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−238105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、マニュアルトランスミッションを搭載した車両において、プロペラシャフトとモータージェネレーターの回転軸とを減速機構を介して接続した場合でも、オートクルーズモードにおける燃料消費量を削減することができるハイブリッド車両及びその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成する本発明のハイブリッド車両は、ディーゼルエンジンに接続されたトランスミッションと車輪を駆動するデファレンシャルとを連結するプロペラシャフトと、前記ディーゼルエンジンおよびモータージェネレーターを有するハイブリッドシステムと、前記ディーゼルエンジンから前記トランスミッションへ伝達される回転動力を断接するクラッチ装置と、車速を取得する車速取得装置と、制御装置と、を備えたハイブリッド車両において、前記モータージェネレーターの回転軸と前記プロペラシャフトとを、前記回転軸を入力軸とし、かつ該プロペラシャフトを出力軸とする減速機構を介して接続し、前記トランスミッションに、シフトレバーの操作に応じて変速するマニュアルトランスミッションを用い、地図情報を取得する地図情報取得装置と、車重を取得する車重取得装置と、を備え、前記制御装置を、前記車速を予め設定された目標速度範囲に維持するオートクルーズモードが設定された場合に前記車速が減少する登坂路の有無を前記地図情報および前記車重に基づいて予測し、予測したその登坂路で前記車速が前記目標速度範囲内に設定された目標速度よりも遅くなったときに、前記モータージェネレーターで前記ディーゼルエンジンの駆動力をアシストする制御を行う構成にしたことを特徴とするものである。
【0010】
また、上記の目的を達成する本発明のハイブリッド車両の制御方法は、ディーゼルエンジンに接続されたトランスミッションと車輪を駆動するデファレンシャルとを連結するプロペラシャフトと、前記ディーゼルエンジンおよびモータージェネレーターを有するハイブリッドシステムと、前記ディーゼルエンジンから前記トランスミッションへ伝達される回転動力を断接するクラッチ装置と、を備えて、前記モータージェネレーターの回転軸と前記プロペラシャフトとを、前記回転軸を入力軸とし、かつ該プロペラシャフトを出力軸とする減速機構を介して接続し、前記トランスミッションに、シフトレバーの操作に応じて変速するマニュアルトランスミッションを用いたハイブリッド車両の制御方法であって、車速を予め設定された目標速度範囲に維持するオートクルーズモードが設定された場合には、制御装置により、前記車速が減少する登坂路の有無を地図情報および車重に基づいて予測し、予測したその登坂路で前記車速が前記目標速度範囲内に設定された目標速度よりも遅くなったときに、前記モータージェネレーターで前記ディーゼルエンジンの駆動力をアシストするアシスト走行を選択することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のハイブリッド車両及びその制御方法によれば、モータージェネレーターの回転軸とプロペラシャフトとを減速機構を介して接続することで、従来よりも高速走行時における回生効率を向上することができる。
【0012】
また、オートクルーズモードが設定された場合の走行中に車速が目標速度よりも遅くなったら直ぐに、モータージェネレーターでディーゼルエンジンの駆動力をアシストするようにしたことで、車速が目標速度から大幅に遅くなることを回避して車速をその目標速度に対して設定された目標速度範囲に維持することができる。
【0013】
これにより、車速が目標速度から大幅に遅くなることで生じるドライバーのシフトレバーによる変速操作を防止することができるので、オートクルーズモードで走行中にマニュアルトランスミッションの変速が削減されて、ディーゼルエンジンを燃費効率の良い状態で維持でき、オートクルーズモード中の燃料消費量を削減できる。さらに、シフトレバーによる変速操作を防止することで、ドライバーの疲労を軽減できるので、オートクルーズモードの利便性をより向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態からなるハイブリッド車両の構成図である。
図2図1のモータージェネレーターの運転特性図である。
図3】本発明の実施形態からなるハイブリッド車両の制御方法を説明するフロー図である。
図4図1のディーゼルエンジンの運転特性図である。
図5】HEVが登坂路をオートクルーズモードで走行した場合の、車速、エンジントルク、モータージェネレータートルク、バッテリーの充電状態、および標高との関係を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態からなるハイブリッド車両を示す。なお、図1の一点鎖線は、車載ネットワークや制御信号線を示している。
【0016】
このハイブリッド車両(以下「HEV」という。)は、バスやトラックなどの大型車両であり、車両の運転状態に応じて複合的に制御されるディーゼルエンジン10及びモータージェネレーター33を有するハイブリッドシステムを備えている。また、このHEVは、制御装置80に運転者によってオートクルーズ作動スイッチ81が投入された場合に、オートクルーズモードを実行するように構成されている。
【0017】
まず、HEVのハイブリッドシステムについて説明する。ディーゼルエンジン10においては、エンジン本体11に形成された複数(この例では6個)の気筒12内における燃料の燃焼により発生した熱エネルギーにより、クランクシャフト13が回転駆動される。このクランクシャフト13の回転動力は、クラッチ装置である乾式クラッチ16を通じてトランスミッション20に伝達される。
【0018】
トランスミッション20には、ドライバーによるシフトレバー153の操作に応じて変速するマニュアルトランスミション(MT)が用いられている。このMTは、入力された回転動力を複数段(例えば、前進3段と後進2段)に変速可能な主変速機構21と、その主変速機構21から伝達された回転動力を低速段と高速段の2段に変速可能な副変速機構22とから構成されている。一般に、ドライバーによる変速操作は、クラッチペダル150の踏み込みにより乾式クラッチ16を断状態にしてから、シフトレバー153をニュートラル位置を介して目標変速段のシフト位置へ移動させた後に、クラッチペダル150を戻して乾式クラッチ16を再び接状態にすることにより行われる。
【0019】
この乾式クラッチ16の断接状態は、制御装置80に接続されたクラッチセンサ141により検出される。このクラッチセンサ141は、乾式クラッチ16を締結および解放する図示しない空気圧式のアクチュエーターの伸縮をセンシングして乾式クラッチ16の断接状態を検知している。
【0020】
トランスミッション20で変速された回転動力は、アウトプットシャフト23に連結するプロペラシャフト25を通じてデファレンシャル26に伝達され、ダブルタイヤからなる一対の駆動輪27にそれぞれ駆動力として分配される。
【0021】
モータージェネレーター33は、インバーター34を通じてバッテリー35に電気的に接続されている。
【0022】
これらのディーゼルエンジン10及びモータージェネレーター33は、制御装置80により制御される。具体的には、ディーゼルエンジン10は、回転数センサ86で検出されたエンジン回転数Neやアクセル開度センサ92で検出したアクセルペダル152の踏み込み量に基づいて気筒12への燃料の噴射量や噴射タイミングが調節される。また、モー
タージェネレーター33は、バッテリー35の充電状態(SOC)などに応じてインバーター34の周波数やバッテリー35及びモータージェネレーター33の間の電流値が調節され、HEVの発進時や加速時には、モータージェネレーター33により駆動力の少なくとも一部をアシストする一方で、慣性走行時や制動時においては、モータージェネレーター33による回生発電を行って、余剰の運動エネルギーを電力に変換してバッテリー35に充電する。
【0023】
そして、プロペラシャフト25とモータージェネレーター33の回転軸32とは、減速機構30を介して接続されている。この減速機構30は、モータージェネレーター33の回転軸32を入力軸とし、かつプロペラシャフト25を出力軸としている。つまり、減速機構30においては、モータージェネレーター33の回転数Nmに対するプロペラシャフト25の回転数Npの割合である減速比(Nm/Np)が1.0より大となる。なお、この減速比は、固定又は可変のいずれに設定されていてもよい。
【0024】
この減速機構30を設けることで、高速走行中の慣性走行時において、トランスミッション20のギア段にかかわらず、モータージェネレーター33の回生制動トルクを減速機構30により大きくすることができるため、回生効率を向上することができる。
【0025】
また、車両のプロペラシャフト25に減速機構30を新たに取り付けるだけであり、パワートレインコンポーネントのレイアウトの変更が非常に小さくて済むため、既存の車両からの転用を従来よりも容易に行うことができる。
【0026】
続いてオートクルーズモードについて説明する。このオートクルーズモードは、特に高速道路を走行する際に使用されており、制御装置80に記憶されたプログラムが、運転者によってオートクルーズ作動スイッチ81が投入された場合にHEVを自動走行させて予定通りに運行させるモードである。
【0027】
具体的には、オートクルーズ作動スイッチ81が投入された場合に、制御装置80が、エンジン走行、アシスト走行、モータ走行、及び惰性走行を、ドライバーのシフトレバー153による変速操作で設定されたギア段、地図情報取得装置82で取得された地図情報、および車重取得装置83で推定された車重Mに基づいて適時選択して、車速取得装置として設けられた車輪速センサ84で取得された車速Vを予め設定された目標速度範囲に維持してHEVを自動走行させるモードである。
【0028】
なお、オートクルーズモード中には、アクセル開度センサ92でアクセルペダル152の踏み込みが検出されるとディーゼルエンジン10からの駆動力により加速させることもできる。また、ブレーキペダル開度センサ93でブレーキペダル151の踏み込みが検出される、あるいは、オートクルーズ作動スイッチ81の投入が解除されると、オートクルーズモードは解除される。また、このHEVはトランスミッション20としてマニュアルトランスミッションを用いていることから、クラッチペダル150によるクラッチ操作やシフトレバー153による変速操作ではオートクルーズモードは解除されない。
【0029】
目標速度範囲は、目標速度vaを基準とした上限速度vbと下限速度vcとの間の範囲のことである。これら目標速度va、上限速度vb、及び下限速度vcは、運転手が任意の値にそれぞれ設定でき、例えば、目標速度vaは70km/h以上、90km/h以下に設定され、上限速度vbは目標速度vaに対して0km/h以上、+10km/h以下の速度に設定され、下限速度vcは目標速度vaに対して−10km/h以上、0km/h以下の速度に設定される。
【0030】
但し、このHEVのように車重Mが乗用車と比較して重い大型車両にトランスミッショ
ン20としてマニュアルトランスミッションを用いた場合には、オートクルーズモードが設定されても制御装置80が変速操作やクラッチ操作を制御しないため、勾配による車速Vの変化が大きいことから、上限速度vbおよび下限速度vcは目標速度vaに近づけることが好ましい。例えば、上限速度vbは目標速度vaに対して0km/h以上、5km/h以下、下限速度vcは目標速度vaに対して−5km/h以上、0km/h以下の速度に設定されることが好ましい。
【0031】
地図情報取得装置82としては、制御装置80にそれぞれ接続された、衛星測位システム(GPS)と通信してHEVの現在位置を取得する手段と、三次元道路データが記憶されたサーバーと通信して走行路の勾配θ及び走行距離sを含む三次元道路データを取得する手段と、HEVがこれから走行する走行路の勾配θ及び走行距離sを抽出する手段とからなり、例えば、HEVの前方の1km以上、5km以下の走行路を、走行距離sを500mごとに区切り、その走行距離sごとの勾配θを取得する装置や、勾配θごとに区切りその勾配θごとの走行距離sを取得する装置を例示できる。
【0032】
また、この地図情報取得装置82としては、少なくとも走行路の勾配θ及び走行距離sが取得できる機能を有するものであればその具体的構成は特に限定されるものではなく、例えば、ドライブレコーダーに記憶された三次元道路データから走行路の勾配θ及び走行距離sを取得するものも例示できる。また、勾配θにおいては、車輪速センサ84や加速度センサ(Gセンサ)85との取得した値に基づいて算出してもよい。
【0033】
車重取得装置83としては、制御装置80に記憶されて、制御装置80により発進加速時のモータ走行が行われたときに車重Mを推定するプログラム、具体的には、駆動輪27に伝達される駆動力Fmが走行抵抗Rに等しくなるとして、発進加速時のモータ走行におけるインバーター34で取得したモータージェネレーター33の出力トルクTmと、モータージェネレーター33の回転数を取得するモータ用回転センサ36で取得した車両加速度(以下、加速度)aとに基づいて、車重Mを推定するプログラムを例示できる。
【0034】
この車重取得装置83は、HEVの車重Mが推定できる機能を有するものであればその具体的構成は特に限定されるものではないが、モータ走行による発進加速時の出力トルクTmと加速度aとに基づいて車重Mを推定する構成にすると、車速Vが低速度(30km/h以下の速度)でも車重Mを推定でき、且つ、走行抵抗のうちの転がり抵抗、空気抵抗、及び登坂抵抗のそれぞれを無効にして、変数を減らすことができるので、より高精度且つ単純に車重Mを推定できる。なお、モータ走行による発進加速時は、HEVの後退時も含む。
【0035】
このオートクルーズモードの制御方法を以下に制御装置80の機能として説明する。まず、HEVの走行中において運転者によってオートクルーズ作動スイッチ81が投入されると、制御装置80が、ドライバーのシフトレバー153による変速操作で設定されたギア段、地図情報および推定した車重Mに基づいて、車速Vが目標速度範囲に維持されるようにエンジン走行、アシスト走行、モータ走行、及び惰性走行のいずれかを適時選択する。
【0036】
エンジン走行では、ディーゼルエンジン10から乾式クラッチ16及びトランスミッション20を経由してプロペラシャフト25に伝達された駆動力FeでHEVを走行させる。アシスト走行では、ディーゼルエンジン10からの駆動力Fe及びモータージェネレーター33から減速機構30を経由してプロペラシャフト25に伝達された駆動力Fmの両方でHEVを走行させる。モータ走行では、乾式クラッチ16を切断状態にしてモータージェネレーター33からの駆動力FmでHEVを走行させる。惰性走行では、ディーゼルエンジン10及びモータージェネレーター33の駆動力をプロペラシャフト25に伝達しない状態でHEVを走行させる。
【0037】
このようなHEVにおいて、制御装置80が、車速Vを予め設定された目標速度範囲に維持するオートクルーズモードが設定された場合で、車速Vが目標速度vaよりも遅くなったときに、モータージェネレーター33でディーゼルエンジン10の駆動力をアシストする制御を行うように構成される。
【0038】
オートクルーズモードにおけるディーゼルエンジン10の燃料噴射量は、ドライバーのシフトレバー153による変速操作で設定されたギア段において、車速Vを目標速度範囲に維持できる噴射量のうちで最低となるように調節される。この燃料噴射量の調節は制御装置80が行っており、制御装置80が実験や試験により予め設定されたマップデータを参照して調節するとよく、例えば、そのマップデータは目標速度va、ドライバーのシフトレバー153による変速操作で設定されたギア段、地図情報の勾配θ、ならびに車重Mに基づいて設定される。
【0039】
車速Vが目標速度vaよりも遅くなったときのモータージェネレーター33は、最も効率の高い状態で減速機構30を介してプロペラシャフト25に伝達される駆動力を出力するように制御される。
【0040】
図2はモータージェネレーター33の運転特性を例示している。モータージェネレーター33はインバーター34により可変速制御されており、速度0から予め設定された基底速度Naまでは一定の定格トルクTaになる定トルク制御となっており、基底速度Naから定格最大速度Nbまでは一定の出力Paになる定出力制御となっている。
【0041】
モータージェネレーター33の効率が最も高くなる状態は、回転速度Nmと出力トルクTmとに基づいた出力曲線における定出力制御の区間の中途位置であり、基底速度Naと定格最大速度Nbとの略中間の速度になったときである。図2では、このモータージェネレーター33の効率が最も高くなる状態の回転速度をNc、出力トルクをTcとする。
【0042】
従って、このHEVがオートクルーズモードで車速Vが目標速度vaよりも遅くなったときのモータージェネレーター33は、制御装置80からの指示信号を受信したインバーター34により回転速度Nc、出力トルクTcに制御される。
【0043】
このように、モータージェネレーター33を定出力制御区間における回転速度Nc、出力トルクTcに制御することで、バッテリー35に充電された電力を効率良く消費して、車速Vを目標速度範囲に維持する駆動力を減速機構30を介してプロペラシャフト25に伝達できるので、燃費の向上に有利になる。
【0044】
このHEVの制御方法を、図3に示すフローチャートに基づいて制御装置80の機能として以下に説明する。なお、この制御方法は、HEVがオートクルーズモードで走行路を走行中に行われる。
【0045】
まず、ステップS10では、制御装置80が車速Vが目標速度vaよりも遅くなったか否かを判定する。このステップS10で車速Vが目標速度vaよりも遅くなったと判定した場合にはステップS20へ進む。
【0046】
次いで、ステップS20では、制御装置80がインバーター34に指示信号を送ってモータージェネレーター33を駆動し、ディーゼルエンジン10およびモータージェネレーター33の両方の駆動力をプロペラシャフト25に伝達するアシスト走行を選択する。この選択されたアシスト走行により車速Vが目標速度範囲の下限速度vc未満になることが回避され、車速Vが目標速度範囲に維持される。
【0047】
次いで、ステップS30では、制御装置80がアシスト走行している際の車速Vが目標速度vaよりも速くなったか否かを判定する。アシスト走行して車速Vが目標速度vaよりも速くなる場合としては、例えば、走行路の勾配θが緩くなる場合を例示できる。このステップS30で車速Vが目標速度va以下と判定した場合にはステップS20へ戻りアシスト走行を維持する一方、車速Vが目標速度vaよりも速くなったと判定した場合にはステップS40へ進む。
【0048】
次いで、ステップS40では、制御装置80がインバーター34に指示信号を送ってモータージェネレーター33の駆動を停止して、エンジン走行を選択してスタートへ戻る。これにより、アシスト走行では車速Vが目標速度vaよりも速くなり目標速度範囲の上限速度vbを超えることを回避するとともに、不必要なバッテリー35の電力消費を抑制する。
【0049】
一方、ステップS10で車速Vが目標速度va以上と判定した場合にはステップS50へ進む。次いで、ステップS50では、制御装置80がエンジン走行を選択する。次いで、ステップS60では、制御装置80がエンジン走行している際の車速Vが目標速度vaよりも遅くなったか否かを判定する。エンジン走行して車速Vが目標速度vaよりも遅くなる場合としては、例えば、走行路の勾配θが険しくなる場合を例示できる。このステップS60で車速Vが目標速度va以上と判定した場合にはステップS50へ戻りエンジン走行を維持する一方、車速Vが目標速度vaよりも遅くなったと判定した場合にはステップS70へ進む。次いで、ステップS70では、制御装置80がアシスト走行を選択してスタートへ戻る。
【0050】
上記の制御方法は、ステップS10、ステップS20、およびステップS50から構成することもできるが、エンジン走行またはアシスト走行で車速Vを目標速度vaに維持できる場合(車速V=目標速度va)には、その車速Vを目標速度vaに維持できる走行を維持することが好ましい。
【0051】
このような制御を行うようにしたことで、車速Vが目標速度vaから大幅に遅くなることを回避して車速Vを目標速度範囲に維持することができる。これにより、車速Vが目標速度vaから大幅に遅くなることで生じるドライバーのシフトレバー153による変速操作を防止することができるので、オートクルーズモードで走行中にトランスミッション20の変速が削減されて、ディーゼルエンジン10を燃費効率の良い状態で維持できるので、オートクルーズモード中の燃料消費量を削減できる。さらに、シフトレバー153による変速操作を防止することで、ドライバーの疲労を軽減できるので、オートクルーズモードの利便性をより向上できる。
【0052】
上記のHEVにおいては、制御装置80が、オートクルーズモードが設定された場合に車速Vが減少する登坂路L3の有無を地図情報および車重Mに基づいて予測し、予測したその登坂路L3で車速Vが目標速度vaよりも遅くなったときにアシスト走行を選択する制御を行うように構成されることが望ましい。
【0053】
登坂路L3は上り坂であり、車体に加わる重力加速度による後進方向の力を含む走行抵抗により、ディーゼルエンジン10の駆動力のみではトランスミッション20のギア段をダウンシフトしなければ車速Vを目標速度範囲に維持できない、つまり、車速Vが減少する走行路である。このような登坂路L3としては、例えば、HEVの車重Mが25tの場合には、勾配θ3が3%以上で、走行距離s3が500m以上になる登坂路を例示できる。
【0054】
このように、アシスト走行を選択する条件を、車速Vが減少する登坂路L3を予測して、その予測した登坂路L3で車速Vが目標速度vaよりも遅くなったときにすることで、不必要なモータージェネレーター33の駆動によるバッテリー35の電力消費を抑制することで、バッテリー35の充電状態を高い状態に維持することができる。
【0055】
例えば、平坦路で車速Vが目標速度vaよりも遅くなっても、平坦路ではディーゼルエンジン10の負荷を高くするだけで車速Vを目標速度va以上に容易に維持することができる。このような場合に、バッテリー35に充電された電力でモータージェネレーター33を駆動してアシスト走行に切り替えるとバッテリー35の充電状態が低くなり、登坂路L3を走行する際にアシスト走行を選択できなくなる、あるいはアシスト走行を維持できる時間が短縮されてしまう。
【0056】
そこで、登坂路L3の走行中をアシスト走行を選択する条件とすることで、アシスト走行でなければ車速Vが減少する登坂路L3で確実にアシスト走行を選択することができ、かつそのアシスト走行を長く維持することも可能になるので、車速Vを目標速度範囲に確実に維持できるとともに、登坂路L3におけるドライバーのシフトレバー153による変速操作を回避することができる。
【0057】
さらに、上記のHEVにおいては、制御装置80が、オートクルーズモードが設定された場合で、ディーゼルエンジン10の燃料噴射量Qeが予め設定された高噴射量Qa以上のときに、アシスト走行を選択する制御を行うように構成されることが望ましい。
【0058】
図4はエンジン回転数Neと燃料噴射量Qeとに基づいたディーゼルエンジン10の運転特性を例示している。高噴射量Qaはディーゼルエンジン10の負荷を低負荷、中負荷、高負荷と区別した場合に高負荷となる領域に設定された図示しないピストンの1ストローク当たりの噴射量であり、トランスミッション20のギア段においてはギア比の低い高ギア段、例えば、12段変速であれば、8段〜12段に設定された領域である。この高噴射量Qaとしては、例えば、150mm/st以上、180mm/st以下を例示できる。
【0059】
このように、アシスト走行を選択する条件を、燃料噴射量Qeが高噴射量Qa以上とすることで、不必要なモータージェネレーター33の駆動によるバッテリー35の電力消費を抑制することで、バッテリー35の充電状態を高い状態に維持することができる。
【0060】
例えば、ディーゼルエンジン10が低負荷あるいは中負荷で駆動している場合に、車速Vが目標速度vaよりも遅くなっても、高負荷まで負荷を上昇することで車速Vを目標速度va以上に容易に維持することができる。このような場合に、バッテリー35に充電された電力でモータージェネレーター33を駆動してアシスト走行に切り替えるとバッテリー35の充電状態が低くなり、ディーゼルエンジン10が高負荷で駆動してそれ以上負荷を上昇することができないような場合にアシスト走行を選択できなくなる、あるいはアシスト走行を維持できる時間が短縮されてしまう。
【0061】
そこで、燃料噴射量Qeが高噴射量Qa以上をアシスト走行を選択する条件とすることで、アシスト走行でなければ車速Vが減少するディーゼルエンジン10が高負荷で駆動した場合で確実にアシスト走行を選択することができ、かつそのアシスト走行を長く維持することも可能になるので、車速Vを目標速度範囲に確実に維持できるとともに、ディーゼルエンジン10を高負荷で駆動した場合におけるドライバーのシフトレバー153による変速操作を回避することができる。
【0062】
図5は、オートクルーズモードにおける車速V、ディーゼルエンジン10の出力トルクTe、モータージェネレーター33の出力トルクTm、モータージェネレーター33の充電状態Ce、および標高Hの関係の一例を示している。なお、モータージェネレーター33の負になる出力トルクTmは回生トルクを示しているものとする。
【0063】
登坂路L3の手前の平坦路でのエンジン走行中に、制御装置80が、地図情報取得装置82で取得した勾配θ3および走行距離s3、ならびに車重取得装置83で推定した車重Mを取得する。次いで、制御装置80が、それらに基づいてエンジン走行させたと仮定した場合に車速Vが減少する登坂路L3を予測する。
【0064】
A地点で登坂路L3が開始すると、車速Vが減少して目標速度vaよりも遅くなる(ステップS10)。次いで、B地点で制御装置80がディーゼルエンジン10の燃料噴射量Qeが高噴射量Qa以上であると判定した後に、アシスト走行を選択してHEVにアシスト走行を開始させる(ステップS20)。これにより、車速Vが増加して車速Vを目標速度vaに維持する。
【0065】
次いで、C地点で登坂路L3の勾配θ3が緩くなると、車速Vが目標速度vaよりも速くなる(ステップS30)。次いで、D地点で制御装置80がエンジン走行を選択してHEVにエンジン走行させる(ステップS40)。これにより、車速Vが減少して車速Vを目標速度vaに維持する。
【0066】
このように、車速Vが目標速度範囲の下限速度vcよりも遅くなってからではなく、目標速度vaよりも遅くなったときにアシスト走行を選択するようしたことで、車速Vが目標速度vaから大きく乖離することを回避できる。
【0067】
これにより、ドライバーのシフトレバー153による変速操作を防止するので、トランスミッション20がダウンシフトすることを回避して、ディーゼルエンジン10の運転状態を効率の良い状態に維持し続けて、燃費を向上することができ、かつシフトレバー153による変速操作を防止することで、ドライバーの疲労を軽減できるので、オートクルーズモードの利便性をより向上でき、さらに車速Vを目標速度vaから大幅に乖離させることを回避してHEVを時間通りに運行させることができる。
【0068】
また、HEVが登坂路L3を走行中であることと、ディーゼルエンジン10の燃料噴射量Qeが高噴射量Qa以上であることとの二つの条件を満たした場合で、車速Vが目標速度vaよりも遅くなったときにアシスト走行を選択するようにしたことで、アシスト走行を乱用してバッテリー35の充電状態を不必要に低い状態にすることを回避することができる。
【符号の説明】
【0069】
10 ディーゼルエンジン
16 乾式クラッチ
20 トランスミッション(MT)
25 プロペラシャフト
26 デファレンシャル
27 駆動輪
30 減速機構
32 回転軸
33 モータージェネレーター
80 制御装置
81 オートクルーズ作動スイッチ
153 シフトレバー
va 目標速度
図1
図2
図3
図4
図5