【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年7月31日−8月2日株式会社ワーカム北海道 試験場内において開催されたデモ走行で発表、平成27年8月18日に発行されたカタログ ERGA 大型 路線バス LV ノンステップにおいて発表、平成27年8月18日自社ウェブサイトにおいて発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転軸を有して無端状物または索状物に接して回転するプーリーと、長穴に形成された軸穴を有したブラケットと、その軸穴の長手方向に移動可能で、位置決め穴を有したスライド部材とを備え、このスライド部材が、前記位置決め穴の開口部が前記軸穴の開口部の一部に重なるように前記ブラケットに積層固定されるとともに、前記回転軸が、前記軸穴および前記位置決め穴の両方に挿通した状態で前記ブラケットおよび前記スライド部材に固定されることにより、前記プーリーの前記回転軸の位置が前記軸穴の長手方向に調節可能に構成された張力調節装置において、
前記スライド部材が、前記ブラケットよりも硬い材料で構成され、
前記プーリーの前記回転軸からその径方向に突出した回り止め部が、少なくとも前記位置決め穴に挿通されており、
前記位置決め穴が、前記回転軸がその周方向に回転したときに前記回り止め部が嵌合して回り止めとなる形状に形成されたことを特徴とする張力調節装置。
前記位置決め穴が、長穴で形成されており、その長穴の長手方向が前記軸穴の長手方向に向いた状態で、その長穴の長手寸法が前記軸穴の長手寸法よりも短く、かつその幅寸法が前記軸穴の幅寸法よりも短い請求項1に記載の張力調節装置。
前記ブラケットがエンジンまたはエンジンの周辺に固定され、前記プーリーが前記エンジンのクランク軸に連結された無端状のベルトまたはチェーンに接触してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の張力調節装置。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランク軸の回転動力は、無端状のベルトやチェーンを介して補機に伝達されている。この無端状物の張力を調節する装置として、無端状のベルトやチェーンに接して回転するプーリーと、その回転軸が挿入される軸穴を有したブラケットと、を備え、プーリーの回転軸の位置を調節可能な装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。なお、この補機としては、エアポンプ、オルタネータ、および油圧ポンプなどを例示できる。
【0003】
この装置では、プーリーを片持ち状態で支持するブラケットを薄い板状に形成している。一方、この種の装置では、ブラケットを薄い板状よりも厚く形成することで、エンジンの外側などに取り付ける際の強度を補強しているものもある。このように、ブラケットを薄い板状よりも厚くすることで、一つのブラケットに複数のプーリーを取り付けることも可能になる。
【0004】
ところで、近年のエンジンは、軽量化を図ることにより燃費向上を図っている。この軽量化の対象には前述したプーリーを有した張力調節装置も含まれている。そこで、このプーリーを片持ち状態で支持するブラケットを比重の小さい金属で構成することが望まれている。この比重の小さい金属としては、アルミニウムやアルミニウム合金を例示できる。特に、薄い板状よりも厚く形成したブラケットを、比重の小さい金属で構成することで、軽量化に有利になる。
【0005】
しかしながら、このブラケットの軸穴はプーリーの回転軸の固定時における回り止めの役割も担っている。そして、比重の小さい金属は柔らかい(硬度が低い)。そのため、このブラケットをアルミニウムやアルミニウム合金などで構成すると、回り止めの際に、回転軸からブラケットへの荷重によりブラケットの軸穴が損傷するおそれがある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態からなる張力調節装置16を備えたエンジン10を例示する。
【0013】
エンジン10においては、エンジン本体11の内部での燃料の燃焼により生じた動力がクランク軸12で回転動力に変換される。そして、この回転動力が、クランク軸12に固定されたクランクプーリー13から無端状のベルト14を介して各補機15に伝達されて、各補機15を駆動する。このときに、ベルト14の張力は、張力調節装置16により調節される。補機15としては、エアポンプ、オルタネータ、および油圧ポンプなどを例示できる。
【0014】
なお、実施形態の張力調節装置16は、エンジン10のベルト14の張力を調節する装置を例に説明するが、無端状物としてはベルト14の代わりにチェーンを用いてもよい。また、張力調節装置16としては、この他に、ドラムに巻き取られる索状物の張力を調節する装置を例示できる。
【0015】
図2は、張力調節装置16の平面を例示する。
図3は、
図2の矢印方向IIIで示す断
面を例示する。張力調節装置16は、プーリー20とブラケット30とスライド部材40とを備えて構成される。
【0016】
なお、以下で長穴とは長方形の穴やその長方形の角に丸みを付けた角丸長方形の穴を例示できる。この実施形態では、長穴として、その角丸長方形のなかでも二つの等しい長さの平行線と二つの半円形からなり、かつ長手方向に二つの半円形が対向する形状の穴を例に説明する。
【0017】
プーリー20は、シーブ21、軸受22、および回転軸23を有する。シーブ21は、円筒状または円板状に形成され、軸受22を介して回転軸23に回転可能に支持される。このシーブ21の径方向の面には無端状物や索状物がその面で滑ったり、回転軸23の軸方向にずれたりしないように溝や突起などを設けるとよい。
【0018】
回転軸23は、一端の雄ねじが形成された固定部24と、他端を径方向に突出させた抜け止め部25と、軸部26とを有する。固定部24の軸径は、軸部26の軸径よりも小さく、抜け止め部25の軸径は、軸部26の軸径よりも大きくするとよい。
【0019】
ブラケット30は、比重が3.0以下の金属で構成され、ウェブ31、フランジ32、スチフナ33、および取り付け穴34、35を有する。この比重が3.0以下の金属としては、アルミニウムやアルミニウム合金を例示できる。
【0020】
このように、ブラケット30が比重の小さい金属で形成されることで、ブラケット30の軽量化を図ることができる。また、ブラケット30が薄い板状のウェブ31のみではなく、そのウェブ31から垂直方向に延在するフランジ32やスチフナ33を有することで、剛性が高まり、耐久性を向上できる。この剛性の向上により、取り付け穴35に回転軸を螺合すると、別のプーリーを取り付けることも可能になる。さらに、フランジ32やスチフナ33により全体の厚みが増すことにより取り付け穴34の厚みも増す。これにより、取り付けボルトの締結力を大きくできるので、このブラケット30をエンジン10に取り付ける際の強度を補強できる。
【0021】
ウェブ31は、プーリー20の反対側の面にスライド部材40がスライドするスライド溝36と、プーリー20の回転軸23が挿通される軸穴37とが形成される。軸穴37は長穴の貫通孔である。
【0022】
スライド部材40は、軸穴37の長手方向に移動可能な本体41とその本体41を固定するボルト42とを有する。本体41は、スライド溝36に嵌る板状に形成される。また、この本体41の長手方向の一端部にその長手方向に延設された雌ねじが形成された移動用穴43と、他端部にプーリー20の回転軸23が挿入される位置決め穴44とが形成される。
【0023】
また、張力調節装置16は、回転軸23を固定するものとして、固定ナット50、カラー51、および座金52を備える。固定ナット50は、回転軸23の固定部24に螺合される。この固定ナット50としては、スライド部材40の位置決め穴44の内周よりも大きいフランジが付いたフランジナットを例示できる。固定部材としては、カラー51および座金52のどちらか一方でもよい。カラー51は、抜け止め部25と回り止め部27との間の軸部26のブラケット30側に配置される。このカラー51の径、あるいは座金52の径は、少なくともブラケット30の軸穴37の幅方向の長さよりも大きくするとよい。
【0024】
この張力調節装置16においては、ボルト42が、ブラケット30のフランジ32に形
成されたボルト穴38に外側から挿通した状態で、本体41の移動用穴43に螺合される。このボルト42と移動用穴43との螺合により、スライド部材40が、位置決め穴44の開口部が軸穴37の開口部の一部に重なるようにブラケット30に積層固定される。
【0025】
プーリー20の回転軸23は、固定部24を先頭にして、ブラケット30の軸穴37とスライド部材40の位置決め穴44との両方に挿通される。そして、その固定部24に固定ナット50が螺合される。これにより、この固定ナット50とカラー51および座金52からなる固定部材との間にブラケット30およびスライド部材40が挟持された状態で、回転軸23がブラケット30およびスライド部材40に固定される。
【0026】
そして、ブラケット30がエンジン10またはエンジン10の周辺に固定され、エンジン10のクランク軸12に連結された無端状のベルト14にプーリー20が接触する。
【0027】
なお、プーリー20のシーブ21、スライド部材40、およびブラケット30の順に並ぶように、ブラケット30およびスライド部材40が積層固定されてもよい。また、カラー51および座金52については必ず設ける必要がなく、設けなくても回転軸23がブラケット30およびスライド部材40に固定されるようであれば、省いてもよい。
【0028】
図4は、
図3のスライド部材40の位置を変えた状態を例示する。このように、この張力調節装置16においては、移動用穴43におけるボルト42の先端の位置を変えることで、スライド部材40の位置が変り、プーリー20の回転軸23の位置をブラケット30の軸穴37の長手方向に調節可能にすることができる。これにより、プーリー20の接する無端状のベルト14の張力を高精度に調節できる。
【0029】
このような張力調節装置16において、スライド部材40が、ブラケット30よりも硬い材料で構成される。このブラケット30よりも硬い材料は、ビッカース硬さで200HV以上が好ましい。そこで、このスライド部材40を構成する材料としては、炭素鋼を例示できる。
【0030】
また、プーリー20の回転軸23に、この回転軸23からその径方向に突出した回り止め部27が形成され、この回り止め部27が少なくとも位置決め穴44に挿通されて構成される。
【0031】
この回り止め部27の回転軸23の軸方向に垂直な断面形状は、その外周の少なくとも一部が回転軸23の固定部24の外周よりも外側に配置される形状で、かつ回転軸23を中心とする円、あるいはその円に収まる形状以外の形状に形成されることが好ましい。加えて、この回り止め部27の断面形状は、縦幅および横幅の一方が他方よりも長い形状が好ましい。このような断面形状としては、長方形や角丸長方形などを例示できる。
【0032】
また、この回り止め部27は、少なくとも位置決め穴44の内部に位置する部分に形成されていればよく、ブラケット30の軸穴37の内部に位置する部分には形成されなくともよい。
【0033】
そして、スライド部材40の位置決め穴44が、プーリー20の回転軸23がその周方向に回転したときに、回り止め部27が嵌合して回り止めとなる形状に形成される。
【0034】
この位置決め穴44の形状は、回り止め部27がブラケット30の軸穴37の内部に位置する部分にも形成されている場合に、回転軸23が回転したときに、回り止め部27が軸穴37と嵌合するよりも先に嵌合する形状が好ましい。つまり、位置決め穴44の少なくとも一部が軸穴37の内周よりも内側に位置して、その部分に回り止め部27が嵌合す
る形状である。この位置決め穴44の形状としては、回り止め部27の軸方向に垂直な断面形状よりも一回り以上大きい形状や、位置決め穴44の内周の少なくとも一部が回り止め部27に向って突出する形状を例示できる。
【0035】
図5は、プーリー20の回転軸23がその周方向に回転する様子を例示する。以下、この
図5に基づいて、上記の張力調節装置16の回転軸23の回り止めの動作について説明する。
【0036】
プーリー20の回転軸23は、プーリー20が回転する際に、その周方向に回転しようとし、同時に、回転軸23に形成された回り止め部27も周方向に回転しようとする。特に、この回転軸23の回転は、固定ナット50を締付けるときに顕著になる。
【0037】
このときに、回り止め部27の外周面と、スライド部材40の位置決め穴44の内周面とが接触して嵌合する。この回り止め部27と位置決め穴44との嵌合により、回転軸23の回転が止まる。
【0038】
以上のように、ブラケット30よりも硬い材料で構成されたスライド部材40に形成した位置決め穴44が、プーリー20の回転軸23がその周方向に回転したときに回り止め部27が嵌合して回り止めとなる形状に形成されたことで、ブラケット30の軸穴37と回り止め部27との干渉を回避することができる。
【0039】
これにより、ブラケット30を比重の小さい金属で構成して装置を軽量化しても、プーリー20の回転軸23に対する回り止めの役割をブラケット30の軸穴37からスライド部材40の位置決め穴44に移したので、プーリー20の回転軸23の回り止めによるブラケット30の軸穴37の損傷を防止することができるので、軽量化に伴う耐久性の低下を抑制することができる。
【0040】
また、ブラケット30を比重の小さい金属で構成して、エンジン10を軽量化できるので、燃費向上に有利になる。
【0041】
図6は、固定ナット50とスライド部材40とを省いた状態を例示し、
図7は、固定ナット50のみを省いた状態を例示する。以下、
図6および
図7を参照しながら張力調節装置16について、より詳細に説明する。
【0042】
回り止め部27の回転軸23の軸方向に垂直な断面形状は、二つの等しい長さの平行線と二つの半円形からなり、かつ長手方向に二つの半円形が対向する角丸長方形で、その長手方向がブラケット30の軸穴37の長手方向に向けて形成される。従って、この回り止め部27は、長手方向に直交する方向に対向する互いに平行な外周平面を有する。この回り止め部27の長手寸法をL2、幅寸法をB2とする。軸穴37の形状は、長穴で、その長手寸法をL3、幅寸法をB3とする。位置決め穴44の形状は、長穴で、長手方向に直交する方向に対向する互いに平行な内周面を有する。この位置決め穴44の長手寸法をL4、幅寸法をL4とする。
【0043】
上記の張力調節装置16において、位置決め穴44が、長穴で形成され、その長穴の長手方向が軸穴37の長手方向に向いた状態で、その長穴の長手寸法L4が軸穴37の長手寸法L3よりも短く、かつその幅寸法B4が軸穴37の幅寸法B3よりも短くなるように形成される。また、位置決め穴44の長手寸法L4が回り止め部27の長手寸法L2よりも長く、かつその幅寸法B4が回り止め部27の幅寸法B2よりも長くなるように形成される。
【0044】
このように位置決め穴44が形成されると、
図6に示す回り止め部27と軸穴37との間の長さよりも、
図7に示す回り止め部27と位置決め穴44との間の長さが短くなる。これにより、回転軸23がその周方向に回転しようとしたときに、回り止め部27が軸穴37よりも先に位置決め穴44と嵌合して回り止めとなるので、回転軸23の回り止めによる軸穴37の破損を回避でき、耐久性の向上に有利になる。
【0045】
図8は、
図5の回り止め部27と位置決め穴44との拡大図である。このように、上記の張力調節装置16において、位置決め穴44に、軸穴37の長手方向に直交する方向に対向する内周平面44aが形成され、回り止め部27に、回転軸23がその周方向に回転したときに、内周平面44aのそれぞれに接触する複数の接触部28が形成されることが望ましい。
【0046】
位置決め穴44は、長穴であって、軸穴37の長手方向に直交する方向に対向する内周平面44aと、その長手方向に対向する内周筒面44bとが形成される。この内周平面44aは互いに平行な平面である。
【0047】
回り止め部27は、前述したように、角丸長方形であって、軸穴37の長手方向に直交する方向に対向する外周平面27aと、その長手方向に対向する外周筒面27bとが形成される。この外周平面27aは互いに平行な平面である。そして、この外周平面27aと外周筒面27bとの境に四つの接触部28が形成される。この接触部28は、外周平面27aと外周筒面27bとの角に限定されず、例えば、外周平面27aの一部を内周平面44aに向って突出させてもよい。
【0048】
このように構成すると、回転軸23が回転しようとしたときに、位置決め穴44の対向する内周平面44aのそれぞれに、回り止め部27に形成された接触部28が接触して、回り止め部27と位置決め穴44とが嵌合する。また、回転軸23が反対方向に回転しようとしたときには、別の接触部28が内周平面44aのそれぞれに接触する。
【0049】
このように、回転軸23が回転しようとしたときに、回り止め部27と位置決め穴44とが複数の箇所で接触して嵌合することで、確実に回転軸23の回転を防止できる。また、回り止め部27および位置決め穴44を複雑な形状にする必要がないために、製造工程の簡略化に有利になる。
【0050】
なお、上記の張力調節装置16において、カラー51を設ける場合には、カラー51が、ブラケット30の側に位置する角部53に丸みを付けられて構成されることが望ましい。このように、カラー51の角部53に丸みを付けると、カラー51無端状のベルト14の張力の変動により、回転軸23を傾ける力が加えられたときに、カラー51からブラケット30へ伝達される力を一点に集中することを回避できる。これにより、ブラケット30の耐久性を向上できる。また、座金52をカラー51とブラケット30との間に挟持しても同様の効果がある。